以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜8には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10はマウント本体11を備えており、マウント本体11は、第一の取付部材12と第二の取付部材14が、本体ゴム弾性体16によって弾性連結された構造を、有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント中心軸方向である図2中の上下方向を、前後方向とは図3中の上下方向を、左右方向とは図3中の左右方向を、それぞれ言う。
より詳細には、第一の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金、繊維補強樹脂などで形成された高剛性の部材であって、図7〜9に示すように、略有底円筒形状とされたカップ部材18の底壁下面に、ロッド状の軸部材20を溶接などの手段で固定した構造を、有している。また、カップ部材18から下方に延び出す軸部材20は、上部が略円柱形状とされていると共に、軸方向の中間部分に段差22を備えており、段差22よりも下部が板状の締結板部24とされて、後述する第一のブラケット76との重ね合わせ方向である左右方向において、軸部材20の段差22よりも上部に比して、締結板部24が薄肉とされている。換言すれば、第一の取付部材12に段差22が形成されていることにより、軸部材20の下部における後述する第一のブラケット76への重ね合わせ面と反対側には、肉抜状部が形成されており、肉抜状部が設けられることで形成された重ね合わせ部分としての締結板部24が、軸部材20の上部よりも薄肉とされている。本実施形態では、締結板部24における後述する第一のブラケット76への重ね合わせ面も平面とされており、締結板部24が重ね合わせ方向(厚さ方向である図7中の左右方向)の両側において薄肉化されている。更に、締結板部24には、厚さ方向(左右方向)に貫通する連結ボルト挿通孔26が形成されている。
第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に高剛性の部材とされて、全体として薄肉大径の略円筒形状を有しており、下端部が下方に行くに従って小径となる固着テーパ部28とされていると共に、上端部には環状のかしめ片30が一体形成されている。
そして、第一の取付部材12が、第二の取付部材14と略同一中心軸上に配されて、第二の取付部材14の下側開口部に挿通されていると共に、第一の取付部材12のカップ部材18と、第二の取付部材14の固着テーパ部28とが、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結されている。
本体ゴム弾性体16は、厚肉大径の略円錐台形状を有しており、小径側の端部が、第一の取付部材12におけるカップ部材18の外周面に加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面が、第二の取付部材14における固着テーパ部28の内周面に加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16には、大径側に開口する中央凹所32が形成されている。中央凹所32は、逆向きの皿形状乃至はすり鉢形状を有しており、中央凹所32の形成によって、本体ゴム弾性体16が外周側に向かって下傾するテーパ形状とされている。なお、中央凹所32の径方向中央部分には、第一の取付部材12の軸部材20が突出しており、軸部材20の上端部にも本体ゴム弾性体16が固着されている。
更にまた、第二の取付部材14の内周面には、シールゴム層34が被着形成されている。シールゴム層34は、本体ゴム弾性体16と一体形成されたゴム弾性体であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。このシールゴム層34によって、第二の取付部材14の内周面が、かしめ片30を外れた部分において覆われている。
また、第二の取付部材14には、可撓性膜36が取り付けられている。可撓性膜36は、略円形ドーム形状を有する薄肉のゴム膜であって、外周端部には固定部材38が加硫接着されている。固定部材38は、全体として略円環形状を有しており、下方に向かって拡径するテーパ筒状の周壁部40と、周壁部40の上端から内周側に延び出す内フランジ状の固着部42と、周壁部40の下端から外周側に突出するフランジ状のかしめ部44とを、一体で備えている。この固定部材38は、固着部42が可撓性膜36の外周端部に加硫接着されている。なお、固定部材38は、かしめ部44を除く部分の表面が、可撓性膜36と一体形成された被覆ゴム層46で覆われている。
そして、可撓性膜36は、第二の取付部材14に取り付けられている。即ち、可撓性膜36に固着された固定部材38のかしめ部44が、第二の取付部材14のかしめ片30によってかしめ固定されることにより、固定部材38が第二の取付部材14の上端部に固定されている。これにより、可撓性膜36が、第二の取付部材14の上開口部を流体密に覆うように配されている。なお、本実施形態では、可撓性膜36の上方が硬質のカバー部材48で覆われており、可撓性膜36が飛び石などから保護されている。
かかる可撓性膜36の第二の取付部材14への取付け状態において、本体ゴム弾性体16と可撓性膜36の上下間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された流体室50が形成されており、流体室50には非圧縮性流体が封入されている。なお、流体室50に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が、好適に用いられる。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
また、流体室50には、仕切部材52が配設されている。仕切部材52は、環状の支持部材54の中央孔56が、可動ゴム膜58で閉塞された構造を有している。支持部材54は、相互に異なる直径を有する筒状の内周壁部60と外周壁部62を備えていると共に、それら内周壁部60と外周壁部62の下端部が底壁部64で相互に一体連結された溝形断面を有している。更に、外周壁部62の上端には、外周側に突出するフランジ部66が一体形成されている。
可動ゴム膜58は、略円板形状を有するゴム弾性体で形成されており、外周面が支持部材54の内周壁部60の内周面に全周に亘って加硫接着されて、支持部材54の中央孔56を流体密に閉塞していると共に、厚さ方向の弾性変形が許容されている。また、可動ゴム膜58と一体形成されたゴム弾性体が、支持部材54における内周壁部60と外周壁部62との径方向対向面間と、支持部材54の内周壁部60の上方とに、それぞれ固着されている。
そして、仕切部材52は、支持部材54のフランジ部66が、第二の取付部材14のかしめ片30にかしめ固定されることにより、流体室50内で略軸直角方向に広がるように配設される。これにより、流体室50が仕切部材52を挟んで上下に二分されて、仕切部材52の下方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室68が形成されていると共に、仕切部材52の上方には、壁部の一部が可撓性膜36で構成されて、容積変化が許容される平衡室70が形成されている。
また、仕切部材52における支持部材54の内周壁部60と、固定部材38の周壁部40との間には、周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。このトンネル状の流路は、周方向の一部において可動ゴム膜58と一体形成された隔壁部72によって、周方向に一周弱の長さとされており、両端部が受圧室68と平衡室70の各一方に連通されて、それら受圧室68と平衡室70を相互に連通するオリフィス通路74が形成されている。本実施形態のオリフィス通路74は、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)を調節することにより、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数に設定されている。なお、支持部材54の内周壁部60が、可動ゴム膜58と一体形成されたゴム弾性体を介して、固定部材38の固着部42に軸方向で当接されることにより、オリフィス通路74が平衡室70に対して画成されている。更に、内周壁部60から上方に突出するゴム弾性体が、周上の一部で上下寸法を小さくされて、固着部42に対して部分的に下方に離隔していることで、オリフィス通路74が平衡室70に連通されている。
また、可動ゴム膜58には、下面に受圧室68の液圧が及ぼされていると共に、上面に平衡室70の液圧が及ぼされており、振動入力時の受圧室68と平衡室70の相対的な圧力変動によって、可動ゴム膜58が厚さ方向に弾性変形せしめられるようになっている。
このような構造とされたマウント本体11には、第一のブラケット76と第二のブラケット78が取り付けられている。
第一のブラケット76は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、図10〜12に示されているように、中間部分で屈曲して延びる厚肉の長手板状とされている。また、第一のブラケット76の長さ方向一端部分には取付部80が設けられており、取付部80が防振連結される一方の部材である車両ボデー側に固定されるようになっている。取付部80には、複数のボデー取付用ボルト孔82が貫通形成されていると共に、下方に向かって突出するスタッドボルト84が植設されている。
さらに、第一のブラケット76の長さ方向他端部分には、第一の取付部材12に連結される連結部86が設けられている。この連結部86には、長さ方向端面と上面とに開口する切欠部88が形成されており、第一のブラケット76の長さ方向内側に位置する切欠部88の壁内面が、第一の取付部材12に重ね合わされる締結面90とされている。この締結面90には、内周面にねじ山を形成されたねじ穴92が開口している。
更にまた、第一のブラケット76において、切欠部88の底壁部が第一の当接突部94とされて、締結面90に対して長さ方向他端側に突出していると共に、切欠部88の側壁部が第二の当接突部96とされて、締結面90に対して長さ方向他端側に突出している。本実施形態では、切欠部88が第一のブラケット76の幅方向(図11中、左右方向)の中央部分に形成されており、幅方向の両側壁がそれぞれ第二の当接突部96とされて、それら第二の当接突部96,96が幅方向で互いに対向して配置されている。また、第二の当接突部96の上端部分には、長さ方向他端側により大きく突出する突出部98が一体形成されている。なお、第一の当接突部94の下面と、第二の当接突部96,96の下面が、後述する第一のストッパ方向に対して略直交する同一平面上で広がっている。
また、第一のブラケット76には、緩衝ゴム100が取り付けられている。緩衝ゴム100は、略横転矩形筒状を呈するゴム弾性体であって、第一のブラケット76の連結部86に外嵌されている。このような緩衝ゴム100の第一のブラケット76への装着状態において、第一の当接突部94の下面の全体が緩衝ゴム100で覆われていると共に、第二の当接突部96の前後および上下の各面が緩衝ゴム100で覆われている。また、緩衝ゴム100の外周面には、緩衝ゴム100の軸方向(図7中、左右方向)に延びる凹溝102が、周上で複数形成されており、外周表面の柔軟性が高められている。更に、緩衝ゴム100は、上壁の中央部分を上下に貫通する貫通孔104が形成されており、貫通孔104に第一の取付部材12の軸部材20が挿通されている。更にまた、緩衝ゴム100の前後両壁部は、上下方向の中央に向かって次第に厚肉となっている。
一方、第二のブラケット78は、第一のブラケット76と同様に高剛性の部材とされており、第二の取付部材14に外嵌される嵌着筒部材106を備えている。嵌着筒部材106は、大径の略円筒形状を有していると共に、その下端部には、内周側に延び出す略円環板形状のストッパ当接部108が、内フランジ状に一体形成されている。
さらに、嵌着筒部材106には、当接部材110が取り付けられている。当接部材110は、上方に開口して左右に延びる溝形乃至は逆向き門形の部材であって、前後に延びる略平板形状の当接底部112と、当接底部112の前後両端部から上方に延び出す一対の当接側部114,114とを、一体で備えている。そして、当接部材110は、一対の当接側部114,114の上部が、嵌着筒部材106の下部外周面に重ね合わされて、嵌着筒部材106に対して溶接などの手段で固定されている。これにより、嵌着筒部材106のストッパ当接部108と、当接部材110の当接底部112とが、上下に所定の距離を隔てて対向配置されている。
更にまた、当接部材110には、一組の取付脚部116a,116bが取り付けられている。取付脚部116は、上下に延びる板状の固定板部118と、固定板部118の下端から前後外方に広がる取付板部120とを、一体で備えており、本実施形態では、取付板部120の長さが相互に異なる取付脚部116aと取付脚部116bが採用されている。また、取付脚部116の左右両端部には、固定板部118および取付板部120と略直交して広がる補強部122が一体形成されており、取付脚部116の変形剛性が高められている。更に、取付板部120には、パワーユニット取付用ボルト孔124が貫通形成されている。そして、固定板部118が当接部材110の当接側部114の前後外面に重ね合わされて、溶接などの手段で固定されることにより、取付脚部116aと取付脚部116bが、一対の当接側部114,114の各一方に取り付けられている。
かくの如き構造とされた第二のブラケット78は、嵌着筒部材106が第二の取付部材14に外嵌されることにより、第二の取付部材14に取り付けられている。かかる第二のブラケット78の第二の取付部材14への装着状態において、第一の取付部材12の軸部材20が、第二のブラケット78におけるストッパ当接部108の内周側に挿通されていると共に、第二のブラケット78の当接部材110が、軸部材20の下部の前後および下方を囲むように配されている。これにより、第一の取付部材12の締結板部24が、第二のブラケット78の当接底部112に対して、第一のストッパ方向である軸方向に所定の距離を隔てて対向配置されており、当接底部112と対向する第一の取付部材12の下端面が、第一の対向面126とされている。更に、第一の取付部材12の締結板部24が、第二のブラケット78の一対の当接側部114,114に対して、第二のストッパ方向である前後方向に所定の距離を隔てて対向配置されており、当接側部114,114と対向する締結板部24の前後両面が、第二の対向面128,128とされている。なお、第二の取付部材14の下端が、嵌着筒部材106のストッパ当接部108に、軸方向で当接すると共に、第二の取付部材14のかしめ片30が、嵌着筒部材106の上端に、軸方向で当接することにより、第二の取付部材14と第二のブラケット78が軸方向で相互に位置決めされている。
また、第一のブラケット76は、第一の取付部材12の軸部材20に取り付けられる。即ち、第一の取付部材12の下端部を構成する締結板部24が、第一のブラケット76の切欠部88に差し入れられて、図7に示すように、締結板部24の厚さ方向一方の面(図7中の右側面)が、切欠部88の締結面90に重ね合わされる。これにより、第一の取付部材12の締結板部24を貫通する連結ボルト挿通孔26が、第一のブラケット76の締結面90に開口するねじ穴92と位置決めされて、連結ボルト挿通孔26に挿通される連結ボルト130がねじ穴92に螺着されることで、第一の取付部材12と第一のブラケット76が相互に連結されている。このように、第一のブラケット76が第一の取付部材12の側面に重ね合わされて、相互にボルト固定されるようになっていることから、第二のブラケット78を第二の取付部材14に取り付けた後でも、第一のブラケット76を第二のブラケット78の当接部材110の開口から差し入れて、第一の取付部材12に取り付けることが可能とされている。なお、連結ボルト130の頭部が段差22の下方に位置せしめられることで、連結ボルト130の頭部が、第一の取付部材12に対して、側方に大きく突出するのが回避されている。
また、第一のブラケット76の連結部86は、第二のブラケット78における嵌着筒部材106のストッパ当接部108と、当接部材110の当接底部112との、上下対向面間に配置されている。更に、第一のブラケット76の連結部86は、当接部材110の一対の当接側部114,114の前後対向面間に配置されており、連結部86の前後表面を覆う緩衝ゴム100が、それら一対の当接側部114,114に対して、前後内方に所定の距離を隔てて対向している。
かくの如き構造とされたエンジンマウント10は、車両に装着されて、パワーユニットと車両ボデーを相互に防振連結するようになっている。即ち、第一のブラケット76は、スタッドボルト84とボデー取付用ボルト孔82に挿通される図示しない取付ボルトとによって、取付部80が図示しない車両ボデーにボルト固定されることにより、車両ボデーに取り付けられるようになっている。一方、第二のブラケット78は、取付脚部116a,116bのパワーユニット取付用ボルト孔124,124に挿通される取付ボルトによって、図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっている。これらにより、エンジンマウント10が車両ボデーとパワーユニットの間に介装されて、パワーユニットがエンジンマウント10を介して車両ボデーに防振連結されるようになっている。
なお、エンジンマウント10の車両装着状態において、パワーユニットの分担支持荷重が、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に上下方向で入力されて、第一のブラケット76の連結部86が、第二のブラケット78のストッパ当接部108に接近すると共に、当接部材110の当接底部112から離隔する。これにより、第一のブラケット76の連結部86が、第二のブラケット78のストッパ当接部108と当接底部112の両方に対して、上下に所定の距離だけ離隔して配されて、連結部86を覆う緩衝ゴム100の上下表面が、ストッパ当接部108と当接底部112の両方から離れて位置せしめられる。
そして、エンジンマウント10の車両装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室68と平衡室70の相対的な圧力変動によって、それら両室68,70間でオリフィス通路74を通じた流体流動が生ぜしめられて、流体の共振作用などの流動作用に基づく防振効果(高減衰効果)が発揮される。また、アイドリング振動や走行こもり音に相当する中乃至高周波小振幅振動の入力時には、オリフィス通路74が反共振によって実質的に閉塞されるが、可動ゴム膜58の微小変形によって液圧吸収作用が発揮されて、低動ばね化による防振効果(振動絶縁効果)が発揮される。
また、上下方向の大荷重が、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に入力されると、第一のブラケット76の連結部86が、第二のブラケット78におけるストッパ当接部108と当接底部112の何れかに、マウント中心軸方向(上下方向)で当接するようになっている。これにより、第一のブラケット76の連結部86と、第二のブラケット78のストッパ当接部108との当接によって、第一の取付部材12の第二の取付部材14に対する上方への相対変位量を制限する、リバウンドストッパが構成される。一方、第一のブラケット76の連結部86と、第二のブラケット78の当接底部112との当接によって、第一の取付部材12の第二の取付部材14に対する下方への相対変位量を制限する、第一のストッパとしてのバウンドストッパが構成される。
なお、本実施形態において、第一のブラケット76の連結部86には、緩衝ゴム100が取り付けられており、リバウンドストッパおよびバウンドストッパにおいて、第一のブラケット76と第二のブラケット78が、緩衝ゴム100を介して当接するようになっている。また、上記の説明からも明らかなように、本実施形態では、連結ボルト130の中心軸方向とは異なる第一のストッパ方向が、マウント中心軸方向である図8中の上下方向とされており、ストッパ荷重が、第一の取付部材12と第一のブラケット76の重ね合わせ面に上下のずれを生ずる方向で、作用するようになっている。
さらに、第一の取付部材12の下端面である第一の対向面126と、第二のブラケット78の当接底部112との対向面間には、第一の取付部材12への重ね合わせ側に向かって突出する第一のブラケット76の第一の当接突部94が、差し入れられている。これにより、第一の取付部材12の第一の対向面126が、第一のブラケット76の第一の当接突部94によって覆われており、バウンドストッパにおいて、第一の取付部材12が、第二のブラケット78に直接当接することなく、第一のブラケット76を介して第二のブラケット78に当接するようになっている。その結果、バウンドストッパにおいて当接時に入力されるストッパ荷重が、第一の取付部材12と第一のブラケット76を連結する連結ボルト130に対して、剪断方向(中心軸と直交する方向)で作用するのを防いで、連結ボルト130において曲げ変形などの損傷が防止される。上記の説明からも明らかなように、バウンドストッパにおける第一のブラケット76側の当接面は、第一の当接突部94の下面を含んで構成されている。
しかも、第一の取付部材12の第一の対向面126は、第一のブラケット76の切欠部88の下壁内面に軸方向で当接しており、第一の対向面126と第一の当接突部94が、軸方向で相互に当接して重ね合わされている。これにより、第一の取付部材12と第一のブラケット76の上下方向へのずれが、より有利に防止されて、連結ボルト130に対する剪断力の作用が効果的に回避される。なお、第一の対向面126は、全体が切欠部88の下壁内面に当接していても良いし、前後両端部が部分的に当接して、前後中央部分が、切欠部88の下壁内面に対して、上方に離れていても良い。
さらに、本実施形態では、第一の当接突部94が、第一の取付部材12の第一の対向面126を越えて側方(図7中、左方)に突出しており、第一の当接突部94の突出方向での長さが、第一の対向面126の同方向での長さよりも大きくされている。それ故、バウンドストッパにおける第一のブラケット76と第二のブラケット78の当接面積が、大きく確保されており、バウンドストッパの当接面に作用する圧力が低減されて、バウンドストッパの当接面間に挟み込まれる緩衝ゴム100の耐久性の向上が図られる。なお、バウンドストッパの当接面は、第一のブラケット76側が、第一の当接突部94を含む連結部86の下面、換言すれば切欠部88の下壁部外面によって構成されていると共に、第二のブラケット78側が、当接底部112の上面とによって構成されている。
さらに、第一の当接突部94の前後両側には、一対の第二の当接突部96,96の下端部が一体で配されており、第一の当接突部94の下面と一対の第二の当接突部96,96の下面とが協働して、バウンドストッパにおける第一のブラケット76側の当接面を構成している。それ故、第一のブラケット76の重量の増加などを防ぎながら、バウンドストッパにおける第一のブラケット76側の当接面を大きく得ることができる。
加えて、バウンドストッパの当接面を構成する連結部86の下面と当接底部112の上面とが、何れも平坦な面とされて、相互に略平行に広がっていることにより、ストッパ荷重が当接面の全体に略均一に分散して及ぼされる。それ故、バウンドストッパの当接面において、局所的に面圧の高い部分ができるのを防いで、当接面の変形や、当接面間に挟まれる緩衝ゴム100の損傷などを、防止することができる。
また、前後方向の大荷重が、第一の取付部材12と第二の取付部材14の間に入力されると、第一のブラケット76の連結部86が、第二のブラケット78における当接部材110の何れかの当接側部114に、前後方向で当接することにより、第一の取付部材12と第二の取付部材14の相対変位量が制限されるようになっている。これにより、第一のブラケット76の連結部86と、第二のブラケット78の一対の当接側部114,114との当接によって、第一の取付部材12の第二の取付部材14に対する前後両側への相対変位量を制限する、第二のストッパとしての前後ストッパが構成される。なお、前後ストッパにおいても、リバウンドストッパおよびバウンドストッパと同様に、当接面間に緩衝ゴム100が介在している。また、本実施形態では、連結ボルト130の中心軸方向および第一のストッパ方向とは異なる第二のストッパ方向が、マウント中心軸と略直交する前後方向である図8中の左右方向とされており、前後ストッパのストッパ荷重が、第一の取付部材12と第一のブラケット76の重ね合わせ面に対して、前後のずれを生ずる方向で作用するようになっている。
さらに、第一の取付部材12の前後端面である第二の対向面128,128と、第二のブラケット78の一対の当接側部114,114との各対向面間には、第一の取付部材12への重ね合わせ側に向かって突出する第一のブラケット76の第二の当接突部96,96の各一方が、差し入れられている。これにより、第一の取付部材12の第二の対向面128,128が、第二の当接突部96,96によって覆われており、前後ストッパにおいて、第一の取付部材12が、第二のブラケット78に直接当接することなく、第一のブラケット76を介して第二のブラケット78に当接するようになっている。その結果、前後ストッパにおいて当接時に入力されるストッパ荷重が、第一の取付部材12と第一のブラケット76を連結する連結ボルト130に対して剪断方向で作用するのを防いで、連結ボルト130の損傷が防止される。
しかも、第二の当接突部96は、第一の取付部材12の第二の対向面128を越えて、より側方(図7中、左方)まで突出しており、第二の当接突部96の突出方向での長さが、第二の対向面128の同方向での長さよりも、大きくされている。それ故、前後ストッパにおける第一のブラケット76と第二のブラケット78の当接面積が、大きく確保されており、前後ストッパの当接面に作用する圧力が低減されて、前後ストッパの当接面間に介在する緩衝ゴム100の耐久性が向上する。なお、前後ストッパの当接面は、第一のブラケット76側が、第二の当接突部96,96を含む連結部86の前後面、換言すれば切欠部88の前後壁部外面によって構成されていると共に、第二のブラケット78側が、当接側部114,114の各対向内面によって構成されている。
加えて、前後ストッパの当接面を構成する連結部86の前後面と当接側部114,114の対向内面とが、相互に略平行に広がる平坦な面とされており、ストッパ荷重が当接面の全体に略均一に分散して及ぼされる。それ故、前後ストッパの当接面における局所的な高い面圧の作用が防止されて、当接面の変形や当接面間に挟まれる緩衝ゴム100の損傷などが防止される。
また、本実施形態では、第一のブラケット76における第一の当接突部94と第二の当接突部96,96が、切欠部88の壁部によって一体形成されており、図8に示すように、第一の取付部材12における締結板部24の下方および前後を囲むように連続している。このような形状を採用することによって、第一の当接突部94と第二の当接突部96,96の変形剛性が大きくされており、ストッパ荷重に対する耐荷重性の向上が図られる。
また、本実施形態では、第一の取付部材12を貫通させるために当接面積が小さくなり易いリバウンドストッパにおいても、当接面積が大きく確保されている。即ち、リバウンドストッパの当接面が、第二の当接突部96の上面を利用して構成されていると共に、第二の当接突部96の上端部には突出部98が一体形成されており、リバウンドストッパの当接面が突出部98の上面を含んで構成されている。これにより、リバウンドストッパにおいて、第二の当接突部96,96に加えて突出部98,98もストッパ当接部108に当接することから、リバウンドストッパの当接面積が大きく確保されている。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、第一のストッパとしてのバウンドストッパだけでなく、第二のストッパとしての前後ストッパに加えて、リバウンドストッパも設けられた構造が例示されているが、これはあくまでも例示であって、前記実施形態の構造に限定されるものではない。即ち、例えば、第一のストッパだけを備えて、第二のストッパやリバウンドストッパが省略された構造も採用可能であるし、第一,第二のストッパとリバウンドストッパに加えて、第一の取付部材と第二の取付部材の相対変位量を左右方向で制限する左右ストッパを備えた構造も、採用され得る。
また、前記実施形態では、第一のストッパ方向が略マウント中心軸方向とされていたが、第一のストッパ方向が略マウント中心軸方向とされる場合にも、第一のストッパ方向とマウント中心軸方向は、厳密に一致する必要はなく、相対的に傾斜していても良い。このことは、第二のストッパ方向についても同様であり、第二のストッパ方向が前後方向とされる場合にも、第二のストッパ方向は前後方向に対して多少の傾斜をもって設定され得る。
また、第一の当接突部94は、第一の取付部材12の第一の対向面126を越えて側方に延び出していることが望ましいが、第一の対向面126の全体を覆って且つ第一の対向面126を越えない長さで形成されていても良いし、第一の対向面126を部分的に覆う長さで形成されていても良い。要するに、第一の当接突部94の突出方向において、第一の対向面126の長さが、第一の当接突部94の長さに対して小さいことは必須ではなく、第一の当接突部94の長さと同じでも良いし、より大きくても良い。このことは、第二の当接突部96と第二の対向面128についても、同様である。
さらに、前記実施形態では、第一の当接突部94と第二の当接突部96,96が、切欠部88の壁部によって形成されており、第一の当接突部94の前後両端と第二の当接突部96,96の下端部とが、一体で連続して形成されていたが、例えば、第一の当接突部94の前後両端と第二の当接突部96,96の下端部は、連続することなく互いに離れていても良い。
更にまた、第二の当接突部96,96は必ずしも一対が設けられるものではなく、例えば、第二のストッパを要するほどの大荷重の入力方向が、他のエンジンマウントのストッパ手段などによって、予め前後一方向に特定されている場合などには、何れか一方の第二の当接突部96だけが設けられて、前後片側において第二のストッパが構成され得る。
また、マウント本体11の構造は、あくまでも例示であって、各種公知の構造が採用され得る。具体的には、例えば、流体が封入されないソリッドタイプの防振装置や、入力振動に応じて防振特性が受動的乃至は能動的に切り替えられる切替型の流体封入式防振装置、入力振動に応じた加振力を能動的に及ぼして振動を相殺する能動型の流体封入式防振装置などが、何れも採用され得る。更に、本発明は、特許第3940090号公報に示されているような、第一の取付部材の上方に第一のブラケットが配置される構造の防振装置にも、適用可能である。また、第一のブラケット76および第二のブラケット78の具体的な構造も例示であって、本発明の主旨に沿う範囲であれば適宜に変更され得る。特に、第二のブラケット78は、第二の取付部材14側に設けられていれば、必ずしも第二の取付部材14に直接的に取り付けられているものに限定されず、例えば、パワーユニットに設けられていても良い。
また、前記実施形態では、本発明に係る防振装置をエンジンマウントに適用した例を示したが、本発明は、ボデーマウントやメンバマウント等にも適用可能である。更に、本発明に係る防振装置は、自動車用のみならず、例えば、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などにも適用され得る。