本発明において使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。
ポリエステルの重合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えば、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等が挙げられる。この中でも、アンチモン化合物は安価であることから好ましく、また、チタン化合物やゲルマニウム化合物は触媒活性が高く、少量で重合を行うことが可能であり、フィルム中に残留する金属量が少ないことから、フィルムの透明性が高くなるため好ましい。さらに、ゲルマニウム化合物は高価であることから、チタン化合物を用いることがより好ましい。
チタン化合物を用いたポリエステルの場合、チタン元素含有量は、好ましくは50ppm以下、より好ましくは1〜20ppm、さらに好ましくは2〜10ppmの範囲である。チタン化合物の含有量が多すぎる場合は、ポリエステルを溶融押出する工程でポリエステルの劣化が促進され黄色味が強いフィルムとなる場合があり、また、含有量が少なすぎる場合は、重合効率が悪くコストアップや十分な強度を有するフィルムが得られない場合がある。また、チタン化合物によるポリエステルを用いる場合、溶融押出する工程での劣化抑制の目的で、チタン化合物の活性を下げるためにリン化合物を使用することが好ましい。リン化合物としては、ポリエステルの生産性や熱安定性を考慮すると正リン酸が好ましい。リン元素含有量は、溶融押出するポリエステル量に対して、好ましくは1〜300ppm、より好ましくは3〜200ppm、さらに好ましくは5〜100ppmの範囲である。リン化合物の含有量が多すぎる場合は、ゲル化や異物の原因となる可能性があり、また、含有量が少なすぎる場合は、チタン化合物の活性を十分に下げることができず、黄色味のあるフィルムとなる場合がある。
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層構成であっても多層構成であっても良い。多層構成の場合は、表層と内層、あるいは両表層や各層を目的に応じ異なるポリエステル層とすることができる。
本発明においては、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑えるために、エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造することが好ましい。エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えば、ポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、ポリエステルフィルムの最外ポリエステル層にエステル環状三量体の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層を設計することで、熱処理後のエステル環状三量体の析出量を抑える方法が好ましい。
ポリエステルフィルム中に含まれるエステル環状三量体の含有量は、一般的な製造方法では約1重量%であるが、エステル環状三量体の析出防止の観点から、エステル環状三量体の含有量が0.7重量%以下のポリエステルから形成されたポリエステル層を有することが好ましく、より好ましくは0.6重量%以下のポリエステルから形成されたポリエステル層を有するものである。エステル環状三量体の含有量を0.7重量%以下のポリエステルから形成されたポリエステル層を有する場合、フィルム表面へのエステル環状三量体析出防止効果が特に高度に発揮される。
ポリエステル層の製膜に使用するポリエステルは、エステル環状三量体の含有量が少ないポリエステル原料を使用することが好ましく、エステル環状三量体の含有量は0.7重量%以下が好ましく、より好ましくは0.6重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。ポリエステル原料中のエステル環状三量体の含有量が0.7重量%以下の場合、熱処理後のエステル環状三量体の析出量をより効果的に抑えることが可能となる。
ポリエステル層は、エステル環状三量体の含有量が0.7重量%以下のポリエステルが70重量%以上であるポリエステルから形成されたポリエステル層から構成されることが好ましく、より好ましくは80重量%以上であるポリエステルから形成されたポリエステル層から形成されるものである。ポリエステル層が0.7重量%以下のポリエステルが70重量%以上であるポリエステルから形成される場合、熱処理後のフィルム表面へのエステル環状三量体の析出防止効果を高度に発揮させることが可能となる。
ポリエステルフィルムを多層構成とする場合、ポリエステルフィルムの少なくとも一層に、特にポリエステルフィルムの最外層に、エステル環状三量体含有量0.7重量%以下のポリエステルから形成されたポリエステル層を有することが、エステル環状三量体析出防止の観点から好ましい。また、より高度にエステル環状三量体が析出することを防止すうる観点から、さらに好ましくは、全てのポリエステル層において、エステル環状三量体の含有量が0.7重量%以下のポリエステルから形成されたものであることである。
また、ポリエステルフィルムのエステル環状三量体含有量が0.7重量%以下のポリエステル層の膜厚は、厚い方がポリエステルフィルムからのエステル環状三量体の析出が効果的に抑えられる。0.7重量%以下のポリエステル層の膜厚は、好ましくは1.5μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上、特に好ましくは2.5μm以上である。0.7重量%以下のポリエステル層の膜厚が1.5μm以上の場合、長時間の熱処理や、高い張力がかかる条件下でのスパッタリング工程や、高温高湿雰囲気下での耐久性試験など、過酷な条件下での加工工程で使用される場合でも、エステル環状三量体が表面に析出しにくくなり、フィルムヘーズによる視認性の悪化や工程汚染の懸念が抑えられる。
本発明のフィルムのポリエステル層中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。粒子を配合する場合、配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。これらの中でも特に少量で効果が出やすいという点でシリカ粒子や炭酸カルシウム粒子が好ましい。
しかしながら、フィルムの透明性の観点から、粒径の大きな粒子は不適であり、平均粒径が3.0μm以上の粒子を使用するとフィルムが白っぽくなり透明性が損なわれ、検査工程等において不具合を生じる。粒子をフィルム中に含有させる場合、粒子の平均粒径は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下の範囲である。
また、ポリエステル層中の粒子含有量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下の範囲であり、粒子を含有しないことが透明性の観点から一番好ましい。粒子含有量が多い場合には、粒子による粒子感が発生し視認性が悪化する場合や、透明性に欠けることから、例えば、種々の検査時に、異物等の欠陥検査の難易度が上がってしまう等の不具合が生じる場合がある。
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定性剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、好ましくは10〜300μm、より好ましくは15〜250μm、さらに好ましくは20〜200μmの範囲である。
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムを製造する場合、まず先に述べたポリエステル原料を、押出機を用いてダイから溶融押し出しし、溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法や液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に、通常70〜170℃で、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍で延伸する。引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る方法が挙げられる。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
また、本発明においては積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
次に本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層の形成について説明する。塗布層に関しては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングにより形成されるものである。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルムの何れかにコーティングする。
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と塗布層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、塗布層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
また、延伸前にフィルム上に塗布層を設けることにより、塗布層を基材フィルムと共に延伸することができ、それにより塗布層を基材フィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦および横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、塗布層の造膜性が向上し、塗布層と基材フィルムをより強固に密着させることができ、さらには、強固な塗布層とすることができる。また、高温であるがゆえに、塗布層は十分に反応することができ、より高度な架橋構造を形成することができるために、ポリエステルフィルム中に存在するエステル環状三量体の析出を、より抑制することが可能となる。
本発明においては、塗布層を形成する全不揮発成分に対する割合として60重量%以上の架橋剤、および平均粒径が0.05μm以上の粒子を含有する塗布液から形成された塗布層を有することを必須の要件とするものである。
本発明における架橋剤としては、種々公知の架橋剤を使用することができ、例えば、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物、シランカップリング化合物等が挙げられる。これらの中でも特に、加熱によるフィルム表面へのエステル環状三量体の析出防止や、塗布層の耐久性や塗布性向上という観点からはメラミン化合物が好ましく、また、塗布層上に機能層を設ける用途に用いる場合、エステル環状三量体の析出を抑え、耐久密着性が向上するという観点から、オキサゾリン化合物が好ましい。
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン構造を有する化合物のことであり、例えば、アルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、およびこれらの混合物を用いることができる。エーテル化に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール等が好適に用いられる。また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために触媒を使用することも可能である。
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限なく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸およびその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等の含ハロゲンα,β−不飽和モノマー類;スチレン、α−メチルスチレン、等のα,β−不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種または2種以上のモノマーを使用することができる。
本発明における積層ポリエステルフィルムを構成する塗布層を形成する塗布液中に含有されるオキサゾリン化合物のオキサゾリン基量は、通常0.5〜10mmol/g、好ましくは3〜9mmol/g、より好ましくは5〜8mmol/gの範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上し、加熱によるフィルム表面へのエステル環状三量体の析出防止にも効果的である。
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えば、エピクロロヒドリンとエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物が挙げられ、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物、グリシジルアミン化合物等がある。ポリエポキシ化合物としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ジエポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、モノエポキシ化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。
イソシアネート系化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族イソシアネート等が例示される。また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物、カルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネートまたは脂環族イソシアネートがより好ましい。
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類、フェノール、クレゾール、エチルフェノールなどのフェノール系化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール、エタノールなどのアルコール系化合物、イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物、ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミンなどのアミン系化合物、アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
また、本発明におけるイソシアネート系化合物は単体で用いてもよいし、各種ポリマーとの混合物や結合物として用いてもよい。イソシアネート系化合物の分散性や架橋性を向上させるという意味において、ポリエステル樹脂やウレタン樹脂との混合物や結合物を使用することが好ましい。
カルボジイミド系化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、より良好な密着性等のために、分子内に2つ以上有するポリカルボジイミド系化合物がより好ましい。
カルボジイミド系化合物は従来公知の技術で合成することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
カルボジイミド系化合物に含有されるカルボジイミド基の含有量は、カルボジイミド当量(カルボジイミド基1molを与えるためのカルボジイミド化合物の重さ[g])で、通常100〜1000、好ましくは250〜700、より好ましくは300〜500の範囲である。上記範囲で使用することで、塗膜の耐久性が向上する。
さらに本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド系化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
これらの架橋剤は単独でも2種類以上の併用でもあってもよいが、2種類以上組合せることにより、両立が困難であった加熱後のエステル環状三量体の析出防止性と機能層との密着性を向上させることを見出した。その中でも、特に加熱後のエステル環状三量体の析出防止性が良好なメラミン化合物と、機能層との密着性を向上させられるオキサゾリン化合物との組合せが最適であり好ましい。
また、機能層との密着性をより向上させるためには3種類の架橋剤を組み合わせることが有効であることを、本発明者らは見いだした。3種類以上の架橋剤の組合せとしては、架橋剤の1つとしてはメラミン化合物を選択することが最適であり、メラミン化合物との組合せとしては、オキサゾリン化合物とエポキシ化合物、オキサゾリン化合物とイソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物とエポキシ化合物が好ましく、オキサゾリン化合物とエポキシ化合物が特に好ましい。
なお、これら架橋剤は、乾燥過程や、製膜過程において、反応させて塗布層の性能を向上させる設計で用いている。できあがった塗布層中には、これら架橋剤の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
かかる架橋成分を含有する場合、同時に架橋を促進するための成分、例えば架橋触媒などを併用することができる。架橋促進により、エステル環状三量体の析出を効果的に抑えられる場合もあり、架橋触媒の併用は好ましい形態である。
本発明における平均粒径が0.05μm以上の粒子は、主としてフィルムの取扱い性、滑り性や傷付き防止性を付与するために使用するものである。本発明においては、高透明なフィルムを提供することが目的であり、そのためにポリエステルフィルム中には平均粒径が3.0μm以上の粒子を含有させることはできず、また、平均粒径が小さい粒子を含有させるとしても、その量はあまり多くすることは好ましくない。そのため、フィルムの取扱い性、滑り性や傷付き防止性が高透明化と相反して悪化してしまう。それら問題を解決するために、塗布層中には平均粒径が0.05μm以上の粒子を含有させることが必須となる。
塗布層中に使用する粒子の平均粒径は、塗布層の厚みにも依存するので一概には言えないが、0.05μm以上が必須であり、好ましくは0.06μm以上、より好ましくは0.07μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上であり、上限は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.25μm以下の範囲である。平均粒径が0.05μm未満の場合は、十分なフィルムの取扱い性、滑り性や傷付き防止性を付与することができない場合がある。またフィルムの透明性を考慮すると、平均粒径が1μm以下の範囲が好ましい。
塗布層中に含有させる粒子としては、従来公知の各種の粒子を使用することができ、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等が挙げられる。その中でも、硬さを付与できるという点において無機粒子が好ましく、塗布液の状態での安定性も考慮するとシリカ粒子がより好ましい。
塗布層中に含有させる粒子は1種類でも良いが、2種類以上を併用しても良い。例えば、粒径が異なる粒子を2種類以上併用することで、フィルムの透明性を落とすことなく、フィルムの滑り性をより向上させることができる。
また、本発明のフィルムの塗布層の形成には、塗布外観の向上や塗布層上に機能層が形成されたときの密着性の向上等のために架橋剤以外のポリマーを併用することも可能である。ただし、架橋剤以外のポリマーの含有量が多くなると、加熱後のエステル環状三量体の析出防止性が悪化する場合があるので注意が必要である。
加熱後のエステル環状三量体の析出防止性を特に重視する用途においては、架橋剤以外のポリマーは、塗布層を形成する全不揮発成分に対する割合として、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、特に好ましくは含有しないことである。
上記ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル(ポリビニルアルコール等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でも、種々の機能層との密着性向上の観点からは、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましく、加熱後のエステル環状三量体の析出防止性の観点からは、アクリル樹脂が好ましい。
さらに、例えば、タッチパネルに使用されるポリエステルフィルムでは、使用する用途によっては、ITO膜を介して、フォトレジストを積層し、パターニングを施した後、フォトレジストを除去するための洗浄工程が必要となり、フィルム上の残水が問題になる場合がある。そのため、生産効率の向上を目的とし、洗浄後におけるフィルム上の残水を抑制できるフィルムが求められる場合がある。当該問題を克服するために、適度な撥水性を付与するという観点から、離型剤を併用することも可能である。
塗布層の形成に離型剤を使用する場合、離型剤はフィルムの撥水性を向上させるために用いるもので、特に制限はなく、従来公知の離型剤を使用することが可能であり、例えば、長鎖アルキル化合物、フッ素化合物、ワックス、シリコーン化合物等が挙げられる。これらの中でも少量でも効果的に撥水性が得られるという観点から長鎖アルキル化合物やフッ素化合物が好ましく、特に塗布層の外観という点から長鎖アルキル化合物がより好ましい。これらの離型剤は単独で用いてもよいし、複数種使用してもよい。ただし、含有量が多くなると、粘着剤層等の機能層との密着性が悪化する場合がある。
長鎖アルキル化合物とは、炭素数が6以上、好ましくは8以上、さらに好ましくは12以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する化合物のことである。アルキル基としては、例えば、オクチル基、デシル基、ラウリル基、オクタデシル基、ベヘニル基等が挙げられる。アルキル基を有する化合物とは、例えば、各種の長鎖アルキル基含有高分子化合物、長鎖アルキル基含有アミン化合物、長鎖アルキル基含有エーテル化合物、長鎖アルキル基含有四級アンモニウム塩等が挙げられる。耐熱性、汚染性を考慮すると高分子化合物であることが好ましい。また、少ない含有量で効果的に適度な撥水性を得ることが出来るという観点から、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物であることがより好ましい。
長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物とは、反応性基を有する高分子と、当該反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とを反応させて得ることができる。上記反応性基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物等が挙げられる。
これらの反応性基を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンアミン、反応性基含有ポリエステル樹脂、反応性基含有ポリ(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮するとポリビニルアルコールであることが好ましい。
上記の反応性基と反応可能なアルキル基を有する化合物とは、例えば、オクチルイソシアネート、デシルイソシアネート、ラウリルイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、ベヘニルイソシアネート等の長鎖アルキル基含有イソシアネート、オクチルクロライド、デシルクロライド、ラウリルクロライド、オクタデシルクロライド、ベヘニルクロライド等の長鎖アルキル基含有酸クロライド、長鎖アルキル基含有アミン、長鎖アルキル基含有アルコール等が挙げられる。これらの中でも離型性や取り扱い易さを考慮すると長鎖アルキル基含有イソシアネートが好ましく、オクタデシルイソシアネートが特に好ましい。
また、長鎖アルキル基を側鎖に持つ高分子化合物は、長鎖アルキル(メタ)アクリレートの重合物や長鎖アルキル(メタ)アクリレートと他のビニル基含有モノマーとの共重合によって得ることもできる。長鎖アルキル(メタ)アクリレートとは、例えば、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
フッ素化合物としては、化合物中にフッ素原子を含有している化合物である。インラインコーティングによる塗布外観の点で有機系フッ素化合物が好適に用いられ、例えば、パーフルオロアルキル基含有化合物、フッ素原子を含有するオレフィン化合物の重合体、フルオロベンゼン等の芳香族フッ素化合物等が挙げられる。少ない含有量で適度な撥水性を得ることが出来るという観点からパーフルオロアルキル基を有する化合物であることが好ましい。さらにフッ素化合物には後述するような長鎖アルキル化合物を含有している化合物も使用することができる。
パーフルオロアルキル基を有する化合物とは、例えば、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロアルキルプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロアルキル−1−メチルプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロアルキル−2−プロペニル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートやその重合物、パーフルオロアルキルメチルビニルエーテル、2−パーフルオロアルキルエチルビニルエーテル、3−パーフルオロプロピルビニルエーテル、3−パーフルオロアルキル−1−メチルプロピルビニルエーテル、3−パーフルオロアルキル−2−プロペニルビニルエーテル等のパーフルオロアルキル基含有ビニルエーテルやその重合物などが挙げられる。耐熱性、汚染性を考慮すると重合物であることが好ましい。重合物は単一化合物のみでも複数化合物の重合物でも良い。また、少ない含有量でフィルム上の残水が抑制出来るという観点からパーフルオロアルキル基は炭素原子数が3〜11であることが好ましい。さらに後述するような長鎖アルキル化合物を含有している化合物との重合物であっても良い。また、基材との密着性の観点から、塩化ビニルとの重合物であることがより好ましい。
ワックスとは、天然ワックス、合成ワックス、それらの配合したワックスの中から選ばれたワックスである。
天然ワックスとは、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油ワックスである。植物系ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油が挙げられる。動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ロウが挙げられる。鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス、オゾケライト、セレシンが挙げられる。石油ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムが挙げられる。
合成ワックスとしては、合成炭化水素、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸、酸アミド、アミン、イミド、エステル、ケトンが挙げられる。合成炭化水素としては、フィッシャー・トロプシュワックス(別名サゾワールワックス)、ポリエチレンワックスが有名であるが、このほかに低分子量の高分子(具体的には粘度数平均分子量500から20000の高分子)である以下のポリマーも含まれる。
すなわち、ポリプロピレン、エチレン・アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのブロックまたはグラフト結合体がある。変性ワックスとしてはモンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体が挙げられる。ここでの誘導体とは、精製、酸化、エステル化、ケン化のいずれかの処理、またはそれらの組み合わせによって得られる化合物である。水素化ワックスとしては硬化ひまし油、および硬化ひまし油誘導体が挙げられる。これらのワックスの中でも性能が安定する、入手が容易であるという観点から合成炭化水素系が好ましく、酸化ポリエチレンワックスや酸化ポリプロピレンワックスがより好ましい。
シリコーン化合物とは、分子内にシリコーン構造を有する化合物のことであり、シリコーンエマルション、アクリルグラフトシリコーン、シリコーングラフトアクリル、アミノ変性シリコーン、パーフルオロアルキル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン等が挙げられる。耐熱性、汚染性を考慮し、硬化型シリコーン樹脂を含有することが好ましい。
硬化型シリコーン樹脂の種類としては、付加型、縮合型、紫外線硬化型、電子線硬化型等いずれの硬化反応タイプでも用いることができる。
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、塗布層の形成には必要に応じて消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等を併用することも可能である。
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、架橋剤の割合は、60重量%以上であることが必須であり、好ましくは70〜99.5重量%、より好ましくは80〜99重量%、さらに好ましくは88〜98重量%の範囲である。割合が60重量%未満の場合、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができない。
塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、平均粒径が0.05μm以上の粒子の割合は、通常0.01〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは2〜12重量%の範囲である。割合が0.01重量%未満の場合は、取扱い性や滑り性が十分でない場合があり、30重量%を超える場合は、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができない場合がある。
加熱後のエステル環状三量体の析出防止の観点から、架橋剤の一つにメラミン化合物を選択する場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、メラミン化合物の割合は、好ましくは5〜95重量%の範囲、より好ましくは10〜90重量%の範囲、さらに好ましくは30〜85重量%の範囲である。割合が上記範囲内の場合、加熱後のエステル環状三量体の析出を効果的に抑えることができる。
塗布外観や密着性の観点から、架橋剤の一つにオキサゾリン化合物を選択する場合、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、オキサゾリン化合物の割合は、好ましくは5〜95重量%の範囲、より好ましくは10〜80重量%の範囲、さらに好ましくは20〜70重量%の範囲である。割合が上記範囲内の場合、塗布外観や各種の機能層との密着性に優れる。
洗浄工程を必要とするような場合等で、撥水性を付与したい用途においては、塗布層を形成する塗布液中の全不揮発成分に対する割合として、離型剤の割合は、好ましくは0.01〜25重量%、より好ましくは0.1〜15重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%の範囲である。割合が上記範囲内の場合、相反する特性と考えられる、適度な撥水性と粘着剤層等の各種の機能層との密着性が良好なものとなる。
本発明の塗布層上に機能層を設ける場合、塗布層にはイオン性の強い化合物を含有しないことが、機能層の形成のしやすさにおいて好ましい。一般的には機能層はアニオン系やノニオン系が多いことから、カチオン系の材料を避けることが好ましく、カチオン系の化合物は、塗布層を形成する全不揮発成分に対する割合として、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、特に好ましくは含有しないことである。化合物のイオン性を考慮した場合、ノニオン性の化合物が多いことが好ましく、ノニオン系の化合物は、塗布層を形成する全不揮発成分に対する割合として、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上の範囲である。これらも考慮の上、架橋剤を選定することが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムにおいて、上述した塗布層を設けた面と反対側の面にも各種の用途に応じた塗布層を設けることも可能である。反対側の面に形成する塗布層の成分としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等のポリマー、メラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、イソシアネート系化合物、カルボジイミド系化合物等の架橋剤等が挙げられ、これらの材料を単独で用いてもよいし、複数種を併用して用いてもよい。また、上述してきた塗布層を両面に設ける(両面同一の塗布層)ことも可能である。
本発明の塗布層は、熱処理後もエステル環状三量体の析出が少なく、かつ、各種の機能層に対して優れた密着性を有するという複合的な機能を有することから、ポリエステルフィルムの両面に設け、一方の面はエステル環状三量体の析出を抑える用途、もう一方の面は粘着剤層等の機能層との密着性を必要とする用途に使用することができ、効果的に使用することができる。例えば、フィルムの配向の違いを気にする用途において、面を反転して使用して問題を回避することも可能となり都合が良い。
塗布層中の成分の分析は、例えば、TOF−SIMS、ESCA等の分析によって行うことができる。
塗布層の形成に関して、上述の一連の化合物を溶液または溶媒の分散体として、固形分濃度が0.1〜80重量%程度を目安に調整した塗布液をポリエステルフィルム上に塗布する要領にて積層ポリエステルフィルムを製造するのが好ましい。特にインラインコーティングによって塗布層を設ける場合は、水溶液または水分散体であることがより好ましいが、水への分散性改良、造膜性改良等を目的として、塗布液中には少量の有機溶剤を含有していてもよい。また、有機溶剤は1種類のみでもよく、適宜、2種類以上を使用してもよい。
また、塗布層の厚さは、最終的に得られるフィルム上の塗布層の厚さとして、通常0.003μm〜1μmの範囲であり、好ましくは0.005μm〜0.6μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.4μmの範囲である。厚さが0.003μmより薄い場合には、フィルムから析出するエステル環状三量体量が十分に少なくならないことがある。また1μmより厚い場合には、塗布層の外観の悪化や、ブロッキングしやすくなるなどの問題が生じることがある。
本発明のフィルムにおいて、塗布層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の乾燥および硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、オフラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、80〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
一方、インラインコーティングにより塗布層を設ける場合、通常、70〜270℃で3〜200秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本発明における積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
本発明における積層ポリエステルフィルムのヘーズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下、特に好ましくは1%以下の範囲である。上記範囲の場合、透明性に優れ、各種の検査において不具合が生じにくい。
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、例えば、タッチパネル用等、長時間の熱処理後であっても、高度な透明性が要求される場合がある。かかる観点より、高度な透明性に対応するためには、熱処理(180℃、30分間)におけるフィルムヘーズ上昇値は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。ヘーズ上昇値が1.0%を超える場合には、エステル環状三量体の析出によるフィルムヘーズ上昇に伴い、視認性が低下し、例えば、タッチパネル用等、高度な視認性が必要とされる用途に適切ではない場合がある。
また、エステル環状三量体の析出量の観点では、本発明における積層ポリエステルフィルムを熱処理(180℃、30分間)により、フィルム表面からジメチルホルムアミドにより抽出されるエステル環状三量体量は、好ましくは1.3mg/m2以下であり、より好ましくは0.8mg/m2以下、さらに好ましくは0.6mg/m2以下である。1.3mg/m2を超える場合、後工程において、例えば、180℃、30分間等、高温雰囲気下で長時間の加熱処理に伴い、エステル環状三量体の析出量が多くなり、フィルムの透明性が低下する場合や、工程の汚染の懸念がある。
本発明における積層ポリエステルフィルムに関して、例えば、タッチパネル用では、フォトレジストを積層し、ITO層にパターニングを施した後、フォトレジストを除去するための洗浄工程でのフィルム上の残水を抑制することが良い場合がある。このような用途に使用する場合、適度な撥水性能を有することが好ましく、その指標として、水滴接触角は、好ましくは55度以上、より好ましくは65度以上、さらに好ましくは70度以上である。上記範囲である場合、適度な撥水性能を有する。
本発明では、上述のようにして得られたフィルムの塗布層上に、各種の機能層を設けることも可能である。例えば、タッチパネル用途に用いる場合には、粘着剤層を設ける場合がある。粘着剤層の設け方としては特に制限はないが、離型性の基材の上に設けた粘着剤層を、本発明の塗布層に貼りあわせる方法や、粘着剤層成分を含有する塗布液を直接に塗布する方法等がある。
離型性の基材から貼りあわせる方法では、貼りあわせる際に気泡やシワが入る懸念があるが、粘着剤層を形成する過程において、熱などの工程が加わらないという利点がある。直接に塗布する方法は、粘着剤層を設ける際に乾燥や硬化のためにフィルムに熱がかかり、シワやたるみがフィルムに入る懸念があるが、得られる粘着剤層が均一になるといった利点がある。一般的には、最終製品の構成や目的に応じ、適宜選択することが可能である。
粘着剤層の厚さは特に制限はないが、好ましくは3〜100μm、より好ましくは5〜40μmの範囲である。上記範囲で使用することで、粘着剤層の形成はしやすく、粘着力も十分なものとなる。
粘着剤としては通常知られている、アクリル系、シリコーン系、ゴム系、合成ゴム系等の粘着剤を使用できる。特に、優れた透明性や耐熱性を持ち、剥離力の調整が容易な点で、アクリル系粘着剤が好ましい。
アクリル系粘着剤のベースポリマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が好適である。アルキル基としては、例えば、平均炭素数が1〜12のものが挙げられ、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が例示できる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用しても良い。特に炭素数1〜9のアルキル基を有するものが好ましい。
さらにベースポリマーには、密着性や耐熱性の改善を目的に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル以外の1種類以上の各種のモノマーが導入された共重合体が好ましい。そのような共重合モノマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルや(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどの水酸基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー;アクリル酸のカプロラクトン付加物;スチレンスルホン酸やアリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどの燐酸基含有モノマーなどが挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミドやN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミドなどの(N−置換)アミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミドやN−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミド、N−アクリロイルモルホリンなどのスクシンイミド系モノマーなども改質目的のモノマー例として挙げられ、さらに、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N−ビニルカルボン酸アミド類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートや2−メトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル系モノマーなども使用することができる。上記の中でも、基材となるポリエステルフィルムへの密着性や耐熱性の観点から、水酸基やカルボキシル基含有モノマーを使用することが好ましい。
特に、アクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーが好ましく用いられる。アクリル系ポリマー中のカルボキシル基含有モノマーの割合は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは2〜8重量%の範囲である。上記範囲で使用することで、良好な粘着力を有する粘着剤層とすることが可能となる。
また、アクリル系ポリマー中に水酸基含有モノマーを併用することが好ましい。アクリル系ポリマー中の水酸基含有モノマーの割合は、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.05〜3重量%の範囲である。上記範囲で使用することで、良好な粘着力を有する粘着剤層とすることが可能となる。
また、粘着剤層の形成には、架橋剤を併用することが好ましい。架橋剤を併用することで粘着剤層の強度を高くすることができる。架橋剤としては、従来公知の架橋剤を使用することができ、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ架橋剤、イミン架橋剤等の有機系架橋剤、多官能性金属キレート等の無機系架橋剤が挙げられる。これらの中でも、架橋反応性および粘着力の観点からイソシアネート系架橋剤が好ましく、特に反応の相手方である粘着剤のベースポリマー中にカルボキシル基や水酸基を含有する場合は最適である。
粘着剤層の全不揮発成分に対する架橋剤の割合は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。上記範囲で使用することで、良好な粘着力と粘着剤層の耐久性を得ることが可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例における評価方法は下記のとおりである。
(1)ポリエステルの極限粘度の測定方法
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
(2)ポリエステル原料に含有されるエステル環状三量体(エチレンテレフタレート環状三量体)量の測定方法
ポリエステル原料を200mg秤量し、クロロホルム/HFIP(ヘキサフルオロ−2−イソプロパノル)の比率3:2の混合溶媒2mlに溶解させる。溶解後、クロロホルム20mlを追加した後、メタノール10mlを少しずつ加える。沈殿物を濾過により除去し、さらに、沈殿物をクロロホルム/メタノールの比率2:1の混合溶媒で洗浄し、濾液・洗浄液を回収し、エバポレーターにより濃縮、その後、乾固させる。乾固物をDMF(ジメチルホルムアミド)25mlに溶解後、この溶液を液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC−7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱化学株式会社製 MCI GEL ODS 1HU、カラム温度:40℃、流速:1ml/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値をクロロホルム/HFIP混合溶媒に溶解させたポリエステル原料量で割って、含有エステル環状三量体量(重量%)とする。DMF中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。なお、標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。
(3)平均粒径の測定方法
TEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 H−7650、加速電圧100V)を使用して塗布層を観察し、粒子10個の粒径の平均値を平均粒径とした。
(4)塗布層厚さ
包埋樹脂でフィルムを固定し断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して試料を調整した。得られた試料を、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM2010)で観察し、塗布層の厚みを測定した。フィルムの計15箇所を測定し、数値の大きい方から3点と、小さい方から3点を除いた9点の平均を塗布層厚みとする。
(5)ヘーズの測定方法
株式会社村上色彩技術研究所製ヘーズメーター HM−150を使用して、JIS K 7136で測定した。
(6)熱処理によるフィルムヘーズ上昇値の測定方法
まずポリエステルフィルムの、測定したい塗布層が設けられた面とは反対側の面に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80重量部、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート20重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュア184、チバスペシャルティケミカルズ株式会社製)5重量部、メチルエチルケトン200重量部の混合塗液を乾燥膜厚が3μmになるように塗布し、紫外線を照射して硬化させハードコート層を形成した。ハードコート層を形成したフィルムのヘーズを(4)の方法で測定した。次いで、フィルムのハードコート層と反対の面である測定面がむき出しとなる状態でケント紙と重ねて固定し、窒素雰囲気下で、180℃で30分間放置して熱処理を行い、(4)の方法でヘーズを測定した。熱処理後のヘーズと熱処理前のヘーズの差を計算し、ヘーズ上昇値とした。
(7)塗布層表面に析出するエステル環状三量体(エチレンテレフタレート環状三量体)析出量の測定方法
ポリエステルフィルムを空気中、180℃で30分間加熱する。その後、熱処理をした当該フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmになるように、測定面(塗布層)を内面として箱形の形状を作成する。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収し、液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製:LC−7A 移動相A:アセトニトリル、移動相B:2%酢酸水溶液、カラム:三菱化学株式会社製 MCI GEL ODS 1HU、カラム温度:40℃、流速:1ml/分、検出波長:254nm)に供給して、DMF中のエステル環状三量体量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面エステル環状三量体量(mg/m2)とした。DMF中のエステル環状三量体量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。なお、標準試料の作成は、予め分取したエステル環状三量体を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。
(8)水滴接触角の測定方法
協和界面科学株式会社製 接触角計CA−D・A型を用いて、液滴法によって接触角を求めた。使用した水は日本ミリポア株式会社製 MILLI−Q REAGENT−WATER−SYSTEM装置にて精製した純水を用いた。液滴を滴下してから測定までの時間は30秒とし、6回測定の平均値を採用した。
(9)透明性の評価方法
フィルムを3波長光域型蛍光灯下で目視にて観察したときに、粒子感(フィルム中の粒子に起因する点々)が観察されずクリア感がある場合を○、粒子感があり、白っぽさが観察される場合を×とした。
(10)滑り性の評価方法
ポリエステルフィルムを重ね、指で滑らせたときに、容易に滑る場合を○、滑り性が悪く、滑りにくい場合あるいは滑らない場合を×とした。
(11)粘着剤層との密着性の評価方法
ポリエステルフィルムの塗布層上に、ブチルアクリレート/アクリル酸/2−ヒドロキシエチルアクリレートが重量比で100/6/0.1の共重合体からなる重量平均分子量200万のアクリル系ポリマーの溶液に対して、イソシアネート系架橋剤である日本ポリウレタン工業株式会社製コロネートL、シランカップリング剤である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、酢酸エチルを加え、固形分濃度が10%の粘着剤溶液を調製した粘着剤溶液を(溶液中の固形分重量比換算で、アクリル共重合ポリマー/コロネートL/3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン=100/3/0.6とした)、三菱樹脂株式会社製の離型フィルムMRF38上に、乾燥後の厚さが25μmになるように塗布、乾燥して形成した粘着剤層付きの離型フィルムの粘着剤層側の面と塗布層が接するように貼り合わせて粘着剤層を設けた。得られた粘着剤層を有するフィルムに対して、粘着剤層上に辺の長さが20mmになるよう、正方形の切り傷を付けた。次いで、正方形の中央部をフィルムとは垂直方向から指で押さえた状態で、指を45度回転させた後、粘着剤層の外観を観察した。観察した外観から、以下の基準で密着性の評価を行った。
○:粘着剤層に変化がなく、密着性は良好である。
△:正方形の四つの角の内、1つ剥がれている
×:正方形の四つの角の内、2つ以上剥がれており、密着性は弱いものである。
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エチルアシッドフォスフェートを生成ポリエステルに対して30ppm、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して100ppmを窒素雰囲気下、260℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、テトラブチルチタネートを生成ポリエステルに対して50ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.3kPaまで減圧し、さらに80分、溶融重縮合させ、極限粘度0.63、エステル環状三量体の含有量が1.02重量%のポリエステル(A)を得た。
<ポリエステル(B)の製造方法>
ポリエステル(A)を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度210℃の窒素雰囲気下で固相重合し、極限粘度0.72、エステル環状三量体の含有量が0.50重量%のポリエステル(B)を得た。
<ポリエステル(C)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、触媒として酢酸マグネシウム・四水和物を生成ポリエステルに対して900ppmを窒素雰囲気下、225℃でエステル化反応をさせた。引き続いて、正リン酸を生成ポリエステルに対して3500ppm、二酸化ゲルマニウムを生成ポリエステルに対して70ppm添加し、2時間30分かけて280℃まで昇温すると共に、絶対圧力0.4kPaまで減圧し、さらに85分、溶融重縮合させ、極限粘度0.64、エステル環状三量体の含有量が0.98重量%のポリエステル(C)を得た。
<ポリエステル(D)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、溶融重合前に平均粒径0.1μmのシリカ粒子を生成ポリエステルに対して0.5重量%添加する以外はポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(D)を得た。
<ポリエステル(E)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、溶融重合前に平均粒径3.2μmのシリカ粒子を生成ポリエステルに対して0.5重量%添加する以外はポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いてポリエステル(E)を得た。
塗布層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・メラミン化合物:(IA)ヘキサメトキシメチロールメラミン
・オキサゾリン化合物:(IB)
オキサゾリン基を有するアクリルポリマー エポクロス (オキサゾリン基量=7.7mmol/g、株式会社日本触媒製)
・オキサゾリン化合物:(IC)
オキサゾリン基及びポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリルポリマー エポクロス(オキサゾリン基量=4.5mmol/g、株式会社日本触媒製)
・エポキシ化合物:(ID)ポリグリセロールポリグリシジルエーテル
・イソシアネート系化合物:(IE)
ヘキサメチレンジイソシアネート1000部を60℃で攪拌し、触媒としてテトラメチルアンモニウム・カプリエート0.1部を加えた。4時間後、リン酸0.2部を添加して反応を停止させ、イソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物を得た。得られたイソシアヌレート型ポリイソシアネート組成物100部、数平均分子量400のメトキシポリエチレングリコール42.3部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート29.5部を仕込み、80℃で7時間保持した。その後反応液温度を60℃に保持し、イソブタノイル酢酸メチル35.8部、マロン酸ジエチル32.2部、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液0.88部を添加し、4時間保持した。n−ブタノール58.9部を添加し、反応液温度80℃で2時間保持し、その後、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート0.86部を添加して得られたブロックポリイソシアネート。
・カルボジイミド系化合物:(IF)
ポリカルボジイミド系化合物 カルボジライト(カルボジイミド当量340、日清紡ケミカル株式会社製)
・シリカ粒子:(IIA)平均粒径0.07μmのシリカ粒子
・シリカ粒子:(IIB)平均粒径0.15μmのシリカ粒子
・シリカ粒子:(IIC)平均粒径0.20μmのシリカ粒子
・離型剤(長鎖アルキル化合物):(IIIA)
4つ口フラスコにキシレン200部、オクタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕して得た。
・離型剤(フッ素化合物):(IIIB)
下記組成で重合したフッ素化合物の水分散体
オクタデシルアクリレート/パーフルオロヘキシルエチルメタクリレート/塩化ビニル=66/17/17(重量%)
・アクリル樹脂:(IVA)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N−メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(重量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
・ウレタン樹脂:(IVB)
イソホロンジイソシアネート:テレフタル酸:イソフタル酸:エチレングリコール:ジエチレングリコール:ジメチロールプロパン酸=12:19:18:21:25:5(mol%)から形成されるポリエステル系ウレタン樹脂の水分散体
・メラミン架橋触媒:(V)2−アミノ−2−メチルプロパノールハイドロクロライド
実施例1:
ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=2.5:45:2.5の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの両面に、下記表1に示す塗布液1を塗布層の膜厚(乾燥後)が0.04μmになるように塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、熱処理によるフィルムヘーズ上昇値は小さく、エステル環状三量体の析出量も少なく良好であった。また、透明性、滑り性や密着性も良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
実施例2〜21:
実施例1において、塗布剤組成を表1および表2に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは表2に示すとおり、熱処理によるフィルムヘーズ上昇値は小さく、熱処理によるエステル環状三量体の析出量は少なく、透明性、滑り性や密着性も良好であった。
実施例22、23:
実施例1において、塗布剤組成を表1および表2に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは表2に示すとおり、熱処理によるエステル環状三量体の析出量は少なく、透明性、滑り性や密着性も良好であった。また、水滴接触角も高く、洗浄工程を必要とするような場合等で、撥水性が求められる用途に好適なフィルムであった。
実施例24:
ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(B)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=2.5:45:2.5の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの両面に、下記表1に示す塗布液13を塗布層の膜厚(乾燥後)が0.04μmになるように塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、熱処理によるフィルムヘーズ上昇は見られず、エステル環状三量体の析出量も非常に少なく、非常に良好であった。また、透明性、滑り性や密着性も良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
実施例25:
ポリエステル(B)、(C)、(D)をそれぞれ96%、3%、1%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=2.5:45:2.5の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの両面に、下記表1に示す塗布液4を塗布層の膜厚(乾燥後)が0.04μmになるように塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、熱処理によるフィルムヘーズ上昇値は小さく、エステル環状三量体の析出量も少なく良好であった。また、透明性、滑り性や密着性も良好であった。このフィルムの特性を下記表2に示す。
比較例1:
実施例1において、塗布層を設けないこと以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、熱処理によるフィルムヘーズ上昇値は大きく、エステル環状三量体の析出量も多いものであり、工程の汚染や、加熱後の白化による視認性の悪化が懸念されるものであった。また、滑り性や密着性も乏しいものであった。
比較例2〜5:
実施例1において、塗布剤組成を表1に示す塗布剤組成に変更する以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムを得た。でき上がった積層ポリエステルフィルムを評価したところ、表2に示すとおり、熱処理によるフィルムヘーズ上昇値が大きい場合、エステル環状三量体の析出量が多い場合、滑り性が悪い場合が見られた。
比較例6:
ポリエステル(B)、(C)、(E)をそれぞれ92%、3%、5%の割合で混合した混合原料を最外層(表層)の原料とし、ポリエステル(A)、(C)をそれぞれ97%、3%の割合で混合した混合原料を中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=2.5:45:2.5の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、この縦延伸フィルムの両面に、下記表1に示す塗布液4を塗布層の膜厚(乾燥後)が0.04μmになるように塗布し、テンターに導き、横方向に110℃で4.0倍延伸し、230℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。
得られたポリエステルフィルムを評価したところ、ポリエステルフィルム中の粒子による粒子感があり、白っぽさが観察され、透明性に劣るものであった。このフィルムの特性を下記表2に示す。