以下に、図面を参照して本発明に係る光操作装置およびその制御方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。さらに、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、図中、3軸(x軸、y軸、z軸)の直交座標系であるxyz座標系を適宜用いて方向を説明する。
(実施の形態1)
図1、2は、本発明の実施の形態1に係る光スイッチ装置の模式的な構成図である。図この光スイッチ装置1000は、波長選択光スイッチ装置であって、光の経路をスイッチング操作する光操作装置である。図1は、光スイッチ装置1000を、x軸の負の側から見た図である。図2は、光スイッチ装置1000を、y軸の正の側から見た図である。
光スイッチ装置1000は、光入出力ポート10と、コリメータレンズアレイ20と、アナモルフィックプリズム31、32からなるアナモルフィック光学系であるアナモルフィックプリズムペア30と、アナモルフィックプリズム31、32の間に配置されたウォーラストンプリズム40と、光分散素子である回折格子50と、集光レンズ系である集光レンズ60と、1/2波長板70と、光操作素子である光スイッチ素子80とがこの順番に配置されて構成されている。また、光スイッチ装置1000は、光スイッチ素子80を制御する制御部90を備える。
なお、実際には回折格子50において光路は曲げられるので、アナモルフィックプリズムペア30から光スイッチ素子80までの各素子は回折格子50の前後で角度を持って配置される。また、アナモルフィックプリズムペア30において光路がy軸方向にシフトすることがある。ただし、図1、2においては、説明の簡略化のために、z軸方向に平行な集光レンズ60の光軸60aに沿って各素子を直列に配置して示している。
光入出力ポート10は、光ファイバからなる光ファイバポート11、12、13、14、15を備えている。光ファイバポート11〜15は、所定の配列方向(x軸に沿った光スイッチ方向である方向D2)に沿って、略等間隔でアレイ状に配列されている。光ファイバポート11〜15は、外部から光が入力される、または外部に光を出力するものである。なお、本明細書では光ファイバポートが方向D2に沿ったアレイ状の構成で説明するが、本発明は、光ファイバポートが方向D1にも配列する2次元アレイ状光ファイバポートにも拡張することができる。また、光スイッチ装置1000に入力または出力される光は特に限定されないが、たとえば波長1520〜1620nmの光通信用の信号光である。
コリメータレンズアレイ20は、複数のコリメータレンズからなる。コリメータレンズアレイ20を構成する各コリメータレンズは、光入出力ポート10を構成する各光ファイバポート11〜15に対応して設けられている。コリメータレンズアレイ20は、各光ファイバポート11〜15から出力した光を平行光にする、または、入力された平行光を各光ファイバポート11〜15に集光して結合させる機能を有する。
光スイッチ素子80は、たとえばSLM(Spatial Light Modulator)である。SLMは、1次元もしく2次元的に配列された複数の微小光操作素子である位相変調素子の画素から構成され、その各画素の位相を制御することで光を操作する空間位相変調素子である。本実施の形態1では、光スイッチ素子80は、SLMの一種であり、位相変調素子である液晶の画素が2次元配列されたLCOSであるとする。ただし、光スイッチ素子80はLCOSに限られず、たとえばDMD(Digital Micromirror Device)でもよい。DMDは入力された光の角度を変化させて出力することができる微小な画素(微小光操作素子)が2次元的に配列した素子である。
光スイッチ素子80は、光入出力ポート10のいずれかの光ファイバポートから入力した光を反射(回折)して光路を切り換え、光入出力ポート10の他のいずれかの光ファイバポートに向けて出力する機能を有する。
単レンズである集光レンズ60は、点対称レンズであって、光入出力ポート10と光スイッチ素子80との間に配置されている。この集光レンズ60は、光入出力ポート10と光スイッチ素子80とを光学的に結合するものである。
回折格子50は、コリメータレンズアレイ20と集光レンズ60との間に配置され、光入出力ポート10のいずれかの光ファイバポートから入力した光を光分散方向(y軸に沿った方向D1)で分光する。なお、回折格子50および光スイッチ素子80はそれぞれ集光レンズ60の前側と後側の凡そ焦点位置に配置されている。このように、光スイッチ装置1000では、集光レンズ60により2f光学系が形成されている。以下、焦点位置とは、レンズまたはレンズ系の主面から焦点距離だけ離れた位置とする。
アナモルフィックプリズムペア30は、光入出力ポート10と回折格子50との間に配置されている。アナモルフィックプリズムペア30は二つのアナモルフィックプリズム31、32が直列に配列されて構成されている。アナモルフィックプリズムペア30は、光入出力ポート10側から入力された光のビーム形状を方向D1に拡大する機能を有する。また、アナモルフィックプリズムペア30は、光相反性を有するため、光スイッチ素子80側から入力された光のビーム形状を方向D1に縮小する機能を有する。なお、アナモルフィックプリズムペア30は、たとえばシリンドリカルレンズ系などの他のアナモルフィック光学系に置き換えてもよい。また、本実施の形態1ではビーム径を拡大する方法としてアナモルフィックプリズムペアとしたが、本発明はこれに限らず、アナモルフィックプリズムを用いても良い。
ウォーラストンプリズム40は、アナモルフィックプリズム31、32の間に配置されている。ウォーラストンプリズム40は、光入出力ポート側10から入力された光に含まれる互いに直交する偏波状態を有する二つの光を、入力された光の入射方向に対して互いに逆向きの角度を成すように光路を屈曲させて出力する。なお、本実施の形態1では、ウォーラストンプリズム40は、二つの光が方向D2に平行な面内で互いに逆向きの角度を成すように出力されるように配置される。また、ウォーラストンプリズム40は、光相反性を有する。したがって、ウォーラストンプリズム40は、互いに逆向きの角度を成すような光路で集光レンズ60側から入力された、互いに直交する偏波状態を有する二つの光を結合して出力する機能を有する。
1/2波長板70は、光スイッチ素子80の集光レンズ60側に配置される。1/2波長板70は、後述するように、ウォーラストンプリズム40で分離された一方の偏波状態の光の光路上に配置される。そして、1/2波長板70は当該一方の偏波状態の光の直線偏光に対し遅相軸を45度に配置される。
制御部90は、光スイッチ素子80の各位相変調素子の画素に電圧信号を印加し、その画素が光に与える位相を制御する。制御部90は、たとえば電圧信号発生部と、演算部と、記憶部とを備えている。電圧信号発生部は、光スイッチ素子80に印加する電圧信号を発生する。演算部は、電圧信号発生部の制御のための各種演算処理を行うものであり、たとえばCPU(Central Processing Unit)で構成される。記憶部は、演算部が演算処理を行うために使用する各種プログラムやデータ等が格納される、たとえばROM(Read Only Memory)で構成される部分と、演算部が演算処理を行う際の作業スペースや演算部の演算処理の結果等を記憶する等のために使用される、たとえばRAM(Random Access Memory)で構成される部分とを備えている。
この光スイッチ装置1000では、光ファイバポート11〜15のうちいずれか一つが、外部から光が入力される共通の光ファイバポート(Comポート)として機能し、その他の四つの光ファイバポートが、外部に光を出力する光ファイバポートとして設定されている。すなわち、この光スイッチ装置1000は1×4の光スイッチとして機能する。
つぎに、図1、2を参照して、この光スイッチ装置1000の動作について説明する。以下では、まず光スイッチ装置1000の波長選択光スイッチとしての動作を説明し、その後に光スイッチ装置1000におけるビーム形状の変形およびこれに対応する光スイッチ素子80の具体的な制御について説明する。
まず、光ファイバポート13に、外部から或る信号光L1が入力される。信号光L1はWDM信号光であり、互いに異なる波長を有する信号光L1a、L1b、L1cを含むとする。信号光L1a、L1b、L1cの波長については、信号光L1cが最も長波長であり、信号光L1bが最も短波長であり、信号光L1aがその間の波長であるとする。
光ファイバポート13は、入力された信号光L1をコリメータレンズアレイ20のうちの対応するコリメータレンズへ出力する。このコリメータレンズは、信号光L1を、ビーム形状が略円形の略平行光にする。
アナモルフィックプリズムペア30のアナモルフィックプリズム31は、コリメータレンズから出力された信号光L1のビーム形状を方向D1の方向に拡大し、楕円形にする。
ウォーラストンプリズム40は、アナモルフィックプリズム31側から入力された信号光L1を、信号光L1に含まれる互いに直交する偏波状態を有する二つの信号光L11、L12に分離し、xz平面において信号光L1の入射方向に対して互いに逆向きの角度を成すように光路を屈曲させて出力する。本実施の形態1では、信号光L11が偏波方向P1を有し、信号光L12が偏波方向P2を有する。
アナモルフィックプリズム32は、信号光L11、L12のビーム形状を方向D1の方向にさらに拡大し、さらに扁平率が大きい楕円形にする。このときの信号光L11またはL12のビーム形状を図1にビームB1として示す。
回折格子50は、楕円形にされた信号光L11、L12をその波長に応じた所定の回折角で回折する。その結果、図1に示すように、信号光L11、L12は、それぞれ信号光L1a、L1b、L1cに分光される。なお、信号光L11、L12から分光した信号光L1a、L1b、L1cはそれぞれ2つずつあるが、図面の簡略化のため、図1ではそれぞれ1つずつのみ図示している。また、図2では、分光された後の信号光も信号光L11、L12として図示している。
集光レンズ60は、回折された信号光L1a、L1b、L1cを光スイッチ素子80のそれぞれ別の領域に集光させる。ここで、図2に示すように、信号光L11については、その光路上に配置された1/2波長板70によって、その偏波方向が90度回転されてから光スイッチ素子80に入射する。その結果、信号光L11、L12は、偏波方向がいずれも偏波方向P2に揃えられた状態で、光スイッチ素子80に入射する。ここで、光スイッチ素子80は、その位相変化量が偏波依存性を有するが、本実施の形態1では、光スイッチ素子80は偏波方向P2に対して位相変化量を制御できるように配置されているので、信号光L11、L12の間の偏波状態の相違による回折角の違いは解消される。また、信号光L11、L12のいずれも、光スイッチ素子80の表面にほぼ垂直に入射する。
光スイッチ素子80では、信号光L1a、L1b、L1cが集光される領域に、入力領域が形成されている。この入力領域では、制御部90により、入力領域に含まれる複数の画素の位相が制御されて、各信号光L1b、L1a、L1cを、各信号光の波長に応じた所定の角度で反射(回折)させる。
以下、反射された信号光のうち、信号光L1aの反射光を代表して信号光L11A、L12Aとして説明する。なお、信号光L11Aは、1/2波長板70によって、その偏波方向が再度90度回転される。その後、信号光L11A、L12Aは、集光レンズ60、回折格子50を順次通過し、光相反性によって反射前とは逆の屈折または回折を受ける。
アナモルフィックプリズムペア30は、光相反性によって、信号光L11A、L12Aのビーム形状を方向D1の方向に縮小して略円形に戻す。同様に、ウォーラストンプリズム40は、光相反性によって、互いに直交する偏波状態を有する信号光L11A、L12Aを結合し、信号光L1Aとする。その後、信号光L1Aは光ファイバポート12に対応するコリメータレンズに入力する。このコリメータレンズは、信号光L1Aを集光し、光ファイバポート12に結合させる。光ファイバポート12は結合された信号光L1Aを外部に出力する。以上のようにして、この光スイッチ装置1000は、Comポートである光ファイバポート13から入力された信号光L1に含まれる信号光L1aの経路を光ファイバポート12に切り換えることができる。
また、信号光L1に含まれる他の波長の信号光L1b、L1cについても同様に、その経路が、光ファイバポート12以外の光ファイバポート、たとえば光ファイバポート11、14にそれぞれ切り換られる。これによって、信号光の波長毎の所望の経路の切り換えを実現することができる。
つぎに、光スイッチ装置1000におけるビーム形状の変形およびこれに対応する光スイッチ素子80の具体的な制御について説明する。まず、図1に示すように、アナモルフィックプリズムペア30は、信号光L1(L11、L12)のビーム形状を方向D1に拡大し、ビームB1で示されるような、方向D1(y軸方向)に長軸を有し、x軸方向に短軸を有する楕円形状とする。その後、分光され、集光レンズ60により光スイッチ素子80に集光された信号光L1a、L1b、L1cは、ビームB1a、B1b、B1cで示されるような、x軸方向に長軸を有し、y軸方向に短軸を有する楕円形状となると考えられていた。
ところが、本発明者らの精査によれば、信号光L1(L11、L12)のビームウエストの位置が回折格子50の位置とは異なる場合や、信号光L1が回折格子50の回折面の法線に対して傾斜して入力する場合は、ビームB1a、B1b、B1cは楕円形状とならず、三日月形状に変形することを発見した。
図3は、光のビーム形状の変形を説明する図である。まず、図3(a)に示すように回折格子50は信号光L1(L11、L12)が入力されると、光分散面(yz平面に平行な面)において信号光L1a、L1b、L1cに分光する。このとき、図3(b)に示すように、信号光L1(L11、L12)の光波の等位相波面を考えると、ビームウエストBW1の位置では等位相波面は光の伝搬方向に対して垂直な面と平行になるが、回折格子50の面では等位相波面は光の伝播方向側に凸となるような形状となる。その結果、図3(c)に示すように、複数の位相変調素子80aを有する光スイッチ素子80上ではビームB1aはx軸に対して線対称ではない三日月形状となる。ビームB1b、B1cについても同様である。なお、符号80bは、位相変調素子80aがx方向に沿って1次元的に配列する位相変調素子列を示している。この場合、ビームB1aに対する入力領域として、通常のように分散方向(y軸方向)に平行な短辺とスイッチ方向(x軸方向)に平行な長辺を有する長方形状の入力領域AAを割り当てても、ビームB1aが入力領域AAからはみ出る場合がある。そのため、波長選択光スイッチ装置のスペクトル形状が劣化する場合がある。このような変形は、特にビームウエストの位置が分散方向(y軸方向)に垂直な方向(とスイッチ方向であるx軸方向)において回折格子50の位置とは異なる場合に発生する。
これに対して、本実施の形態1では、制御部90は、入力領域を形成するように光スイッチ素子80を制御する際に、入力領域を、該入力領域の分散方向における外縁が、スイッチ方向に対して非平行でありかつ光スイッチ素子80上での信号光のビーム形状に沿うような外縁となる形状に形成する。
図4は、入力領域の形状を説明する図である。図4に示すように、制御部90は、信号光L1a、L1b、L1c(それぞれビームB1a、B1b、B1cで表される)が光スイッチ素子80に入力する各領域に対応させて入力領域81a、81b、81cを形成するように光スイッチ素子80を制御する。このとき、制御部90は、入力領域81a、81b、81cを、入力領域81a、81b、81cのy軸方向における外縁81aa、81ba、81caが、x軸方向に対して非平行でありかつ光スイッチ素子80上でのビームB1a、B1b、B1cのビーム形状に沿うような外縁となる形状に形成する。具体的には、入力領域81a、81b、81cは、ビームウエストBW1(図3参照)の位置が回折格子50の位置とは異なる位置にあることに伴うビームB1a、B1b、B1cのビーム形状の変形に合わせた形状に形成されている。ここで、信号光L1a、L1b、L1cの中心波長をそれぞれλn、λn−1、λn+1とすると、信号光L1a、L1b、L1c波長間隔は周波数間隔で表して50GHzであるので、入力領域81aの光分散方向(y軸方向)における幅も50GHzに相当する幅としている。
これにより、信号光L1a、L1b、L1cのビームB1a、B1b、B1cが入力領域81a、81b、81cからはみ出ないようにすることができるので、光スイッチ装置1000のスペクトル形状の劣化は抑制される。さらに、このようにビームB1a、B1b、B1cのビーム形状に沿うような外縁81aa、81ba、81caとすることで、たとえば入力領域の形状を長方形としてその幅をビームが変形してもはみ出ないようにするような幅まで広げる場合と比較して、光スイッチ素子80における位相変調素子の利用効率を高くすることができる。さらには、波長スペクトル上で隣接する信号光L1a、L1b、L1cのビームB1a、B1b、B1cはほぼ同じように変形するので、隣接する入力領域81a、81b、81cの隣接する外縁同士を同じ形状にすることで、入力領域81a、81b、81cのいずれにも割り当てられない位相変調素子が外縁の間に生じることが防止できるので、光スイッチ素子80における位相変調素子の利用効率をさらに高くすることができる。
また、本発明者らが得た知見によれば、ビームB1a、B1b、B1cのビーム形状は、長波長光分散側が欠けている三日月形状に変形する。したがって、外縁81aa、81ba、81caについては、光スイッチ方向(x軸方向)において、中心部Cよりも両端部Eの方が、光分散方向(y軸方向)における長波長光分散側に位置する形状を有するようにすることが好ましい。これにより、三日月形状の変形に対して入力領域81a、81b、81bの形状を適用させることができる。このような外縁81aa、81ba、81caの形状として、たとえばxy平面においてy=a(x−b)2+cで表される放物線形状を適用できる。ここで、a、b、cは、三日月形状の変形の程度に応じて適宜設定できる定数である。このとき、たとえば入力領域81bの外縁81baは、図4に幅W1で示されるように、光分散方向(y軸方向)において、位相変調素子2つ分以上の幅で変化する形状を有することができる。入力領域81a、81cの外縁81aa、81caも同様である。
つぎに、入力領域を長方形とする場合とビーム形状に沿った外径とする場合とでの、スペクトル形状の違いについて説明する。
図5は、入力領域の形状の違いによる透過スペクトルの違いを説明する図である。図5(a)は、或る信号光の三日月形状に変形したビームBAに対して光スイッチ素子80において割り当てる入力領域AAを、50GHzの周波数に相当する幅の長方形状にした場合を示している。なお、ビームBAは或るスペクトル幅を有しており、ビームBAは、そのスペクトル幅内で少しずつ中心波長が異なる複数の三日月形状のビームの集合として表すことができる。なお、ビームBBは、波長スペクトル上でビームBAと50GHzだけ離れて隣接する信号光のビームである。一方、図5(b)は、ビームBAに対して光スイッチ素子80において割り当てる入力領域ABを、50GHzの周波数に相当する幅であり、かつビームBAのビーム形状に沿うような外縁となる形状にした場合を示している。
図5(c)は、図5(a)、(b)の場合における光スイッチ装置1000の透過スペクトルの一例を示している。透過スペクトルは、光入出力ポート10のいずれかの光ファイバポートから入力した信号光を光入出力ポート10の他のいずれかの光ファイバポートに向けて出力するように入力領域AA、ABを制御した場合の、当該光ファイバポート間の透過スペクトルである。図5(c)では、図5(a)の場合を補正無し、図5(b)の場合を補正有りとしている。補正無しの場合は、図5(a)でも示されるように短波長側に隣接する信号光のビームBBが存在するとその一部が入力領域AAに重なってしまうため、透過スペクトルが短波長側に裾を引く形状となる。さらには、ビームBAの一部が入力領域AAから長波長側にはみ出してしまうため、長波長側の光損失が大きくなり、透過スペクトルは長波長側で透過率が落ち込む形状となる。これに対して、補正有りの場合は、透過スペクトルにおいて短波長側の裾や長波長側の透過率の落ち込みが解消され、スペクトル形状の劣化が抑制されている。
つぎに、光のビーム形状のシミュレーション計算結果につい説明する。本シミュレーション計算では、光スイッチ装置1000において、信号光L1は1.55μm帯の波長を有するガウシアンビームであり、光スイッチ方向における信号光L1のビームウエストの位置がコリメータレンズアレイ20とアナモルフィックプリズム31との間の位置にあり、ビームウエストの位置から回折格子50までの光路の長さが75mmであり、集光レンズ60の焦点距離が100mmであり、集光レンズ60から回折格子50および光スイッチ素子80のそれぞれまでの光路の長さが約100mmであるとし、かつウォーラストンプリズム40を削除して信号光L1が集光レンズ60の光軸60aを通過するようにして、ビーム形状の計算を行った。
図6は、光のビーム形状のシミュレーション計算結果を説明する図である。図6(a)は回折格子50の位置でのビーム形状を示しており、分散方向を長軸として光スイッチ方向を短軸とする楕円形状であった。一方、図6(b)は光スイッチ素子80の位置でのビーム形状を示しており、光スイッチ方向に延伸し、分散方向において長波長光分散側が欠けた三日月形状であった。
なお、光スイッチ装置1000において回折格子50を削除した光学構成で同様にシミュレーション計算を行ったところ、光スイッチ素子80の位置で三日月形状への変形は発生せず、分散方向を短軸として光スイッチ方向を長軸とする楕円形状であった。また、光スイッチ装置1000において光スイッチ方向における信号光L1のビームウエストの位置を回折格子50の位置として同様にシミュレーション計算を行ったところ、光スイッチ素子80の位置で三日月形状への変形は発生せず、分散方向を短軸として光スイッチ方向を長軸とする楕円形状であった。
ところで、本発明者らは、回折格子50を削除した光学構成でウォーラストンプリズム40を追加した場合の光のビーム形状について精査したところ、光スイッチ素子80の位置でのビーム形状が、光スイッチ方向(x軸方向)に対して傾斜することを見出した。
図7は、光のビーム形状の変形を説明する図である。上述したように、ウォーラストンプリズム40により分離した信号光L11、L12は、xz平面においてz軸方向に対して互いに逆向きの角度を成すように光路が屈曲して出力する。これにより、信号光L11、L12の、集光レンズ60への入射方向は、図7(a)に示すように、光スイッチ方向(x軸方向)において集光レンズ60の光軸60aと非平行になる。
このとき、光スイッチ素子80上での信号光L11、L12のビームB11、B12のビーム形状は楕円形状であるが、長軸が光スイッチ方向(x軸方向)に対して傾斜する。このように長軸が傾斜する理由は、集光レンズ60の光軸60aに対して信号光L11、L12が斜めに入射すると、集光レンズ60の収差の影響を受けたり、信号光L11、L12の光波の等位相波面が光分散方向で集光レンズ60に異なるタイミングで入射したりするためであると考えられる。
そこで、このように光スイッチ素子80上でのビーム形状が楕円形状であるが、長軸が光スイッチ方向(x軸方向)に対して傾斜する場合は、制御部90は以下のような制御を行うことが好ましい。すなわち、図8に示すように、制御部90は、ビームB11に対応した入力領域81dを形成するように光スイッチ素子80を制御する際に、入力領域81dを、入力領域81dの分散方向(y軸方向)における外縁81daが、スイッチ方向(x軸方向)に対して非平行でありかつ光スイッチ素子80上でのビームB11のビーム形状に沿うような直線形状の外縁となる形状に形成する。このとき、外縁81daをビームB11の長軸方向に平行にすることが好ましい。これにより、信号光L11のビームB11が入力領域81dからはみ出ないようにすることができるので、光スイッチ装置1000のスペクトル形状の劣化は抑制され、かつ光スイッチ素子80における位相変調素子の利用効率を高くすることができる。
また、三日月形状のビームに沿った外縁とする場合と同様に、波長スペクトル上で隣接する信号光に対応する、隣接する入力領域の隣接する外縁同士を同じ形状にすることで、入力領域のいずれにも割り当てられない位相変調素子が外縁の間に生じることが防止できるので、光スイッチ素子80における位相変調素子の利用効率をさらに高くすることができる。このとき、たとえば入力領域81dの外縁81daは、図8に幅W2で示されるように、光分散方向(y軸方向)において、位相変調素子2つ分以上の幅で変化する形状を有することができる。
図9は、光のビーム形状のシミュレーション計算結果を説明する図である。図9は、図6の場合の光学構成にウォーラストンプリズム40を追加した場合を示している。なお、信号光L11、L12の集光レンズ60の光軸60aと成す角はそれぞれ2°である。このとき、ビーム形状は三日月形状であり、かつその延伸する方向での軸BLがx軸方向からθだけ傾斜していた。なお、例えば、光スイッチ素子80で画素が10μmピッチに配列し、光スイッチ素子80上での光スイッチ方向(x軸方向)のビーム半径が1000μm(画素100個分に相当)の場合を考える。この場合、θが0.6度だとしても、ビームの長軸は、ビームの中心とビーム半径の位置では光分散方向(y軸方向)に約1画素ずれることになる。つまり、ビームの長軸は、光スイッチ方向(x軸方向)の両端のビーム半径位置ではy軸方向に2画素ずれることになり、スペクトル形状の劣化につながる。したがって、この場合は、図4および図8に示す入力領域の形状を組み合わせた形状に入力領域を制御することがより好ましい。
(実施の形態2)
図10、11は、本発明の実施の形態2に係る光スイッチ装置の模式的な構成図である。この光スイッチ装置1100は、波長選択光スイッチ装置であって、実施の形態1に係る光スイッチ装置1000において、ウォーラストンプリズム40をアナモルフィックプリズムペア30とコリメータレンズアレイ20との間に移動し、さらにコリメータレンズアレイ20とウォーラストンプリズム40との間に複屈折素子100を配置した構成を有する。
複屈折素子100は、光入出力ポート10側から入力された光に含まれる互いに直交する偏波状態を有する二つの光のうち、異常光の光路を変位させて、二つの偏波状態の光を、入力された光の入射方向に対してほぼ平行な方向に出力する。なお、本実施の形態2では、複屈折素子100は、異常光の光路を変位させる方向が方向D1となるように配置される。また、複屈折素子100は、光相反性を有する。したがって、複屈折素子100は、所定距離だけ離隔させて互いに平行な光路で集光レンズ60側から入力された、互いに直交する偏波状態を有する二つの光を結合して出力する機能を有する。複屈折素子100は、たとえばルチル、カルサイト、YVO4等の複屈折性材料からなる。
この光スイッチ装置1100では、一例として、光ファイバポート14に、外部から或る信号光L2が入力される。信号光L2はWDM信号光であり、互いに異なる波長を有する信号光L2a、L2b、L2cを含むとする。
複屈折素子100は、光入出力ポート10側から入力された信号光L2を、信号光L2に含まれる互いに直交する偏波状態を有する二つの信号光L21、L22に分離して出力する。本実施の形態2では、信号光L21が方向D2に平行な偏波方向P1を有する異常光であり、信号光L12が方向D1に垂直な偏波方向P2を有する常光であるように、複屈折素子100が配置されている。したがって、信号光L21の光路は方向D2の方向に変位する。そして、複屈折素子100は、信号光L21、L22を、信号光L2の入射方向に対してほぼ平行な方向に出力する。
ウォーラストンプリズム40は、入力された信号光L21、L22を、信号光L21、L22の入射方向に対して互いに逆向きの角度を成すように光路を屈曲させて出力する。このとき、図11に示すように、信号光L21、L22の光路は互いに近づく方向に屈曲する。その結果、信号光L11、L22は、アナモルフィックプリズムペア30を通過後、集光レンズ60の光入出力ポート側の焦点位置、すなわち回折格子50の配置位置で交差する。
信号光L21、L22は、その後回折格子50により図10に示すように信号光L2a、L2b、L2cに分光される。なお、信号光L21、L22から分光した信号光L2a、L2b、L2cはそれぞれ2つずつあるが、図面の簡略化のため、図10ではそれぞれ1つずつのみ図示している。また、図11では、分光された後の信号光も信号光L21、L22として図示している。
信号光L21、L22は、集光レンズ60の光入出力ポート側の焦点位置で交差するので、集光レンズ60を通過した後には、互いにほぼ平行、かつ集光レンズ60の光軸60aにほぼ平行な光路を進行する。その後、信号光L21、L22は、光スイッチ素子80の表面にほぼ垂直に入射する。なお、信号光L21については、その光路上に配置された1/2波長板70によって、その偏波方向が90度回転されてから光スイッチ素子80に入射する。
光スイッチ素子80では、信号光L2a、L2b、L2cが集光される領域に、入力領域が形成されている。この入力領域では、制御部90により、入力領域に含まれる複数の画素の位相が制御されて、各信号光L2b、L2a、L2cを、各信号光の波長に応じた所定の角度で反射(回折)させる。
以下、反射された信号光のうち、信号光L2aの反射光を代表して信号光L21A、L22Aとして説明する。信号光L21Aは、1/2波長板70によって、その偏波方向が再度90度回転される。信号光L21A、L22Aは、集光レンズ60、回折格子50、アナモルフィックプリズムペア30を順次通過する。ウォーラストンプリズム40および複屈折素子100は、信号光L21A、L22Aを結合して信号光L2Aとし、コリメータレンズを介して光ファイバポート13に出力する。
なお、信号光L2b、L2cに対応する互いに直交する偏波状態の信号光は、光スイッチ素子80による反射角度が異なる以外は上記信号光L21、L22と同様にして、光ファイバポート13以外の所定の光ファイバポートに出力される。
本実施の形態2に係る光スイッチ装置1100においても、本実施の形態1に係る光スイッチ装置1000と同様に、制御部90は、信号光L2a、L2b、L2cの入力領域を形成するように光スイッチ素子80を制御する際に、たとえば図4、8に示すように、入力領域を、該入力領域の分散方向における外縁が、スイッチ方向に対して非平行でありかつ光スイッチ素子80上での信号光のビーム形状に沿うような外縁となる形状に形成する。これにより、光スイッチ装置1100のスペクトル形状の劣化は抑制される。
なお、本発明は、上記実施の形態のようにビーム形状が三日月形状や長軸が傾斜するように変形する場合に限らず適用できる。他の形状に変形する場合でも、光操作素子における入力領域の分散方向における外縁が、該分散方向に垂直な方向に対して非平行でありかつ光操作素子上でのビーム形状に沿うような外縁となる形状に形成することで、本発明の効果を得ることができる。
また、上記実施の形態では、集光レンズ系である集光レンズ60は単レンズで構成されているが、本発明はこれに限らず、複数のレンズで構成されている集光レンズ系を用いても良い。また、集光レンズ系として、シリンドリカルレンズを用いてもよい。また、上記実施の形態では、集光レンズ60により2f光学系が形成されているが、本発明は集光レンズ系により4f光学系が形成されている光操作装置にも適用できる。
また、上記実施の形態では回折格子50を透過型としたが、本発明はこれに限らず、反射型の回折格子を用いても良い。また、回折格子の代わりにたとえば分散プリズムなどの他の光分散素子を用いても良い。
また、上記実施の形態ではアナモルフィックプリズムペア30を備えているが、本発明はアナモルフィック光学系を備えていない光操作装置にも適用できる。さらに、本発明は、入力される光が波長多重光でなく、単一波長の光である光操作装置にも適用できる。単一波長の光である場合は光操作素子に形成される入力領域は一つでもよい。
また、上記実施の形態では、各光スイッチ装置は1×4光スイッチであるが、本発明では光が入出力するポートの数は特に限定されず、N×M光スイッチ(N、Mは任意の整数)であればよい。また、たとえば光スイッチ装置1000の構成において、光ファイバポート12、13、14、15のいずれかから信号光を入力させて、Comポートとしての光ファイバポート11から出力させるように光スイッチ装置1000を動作させてもよい。これによって、光スイッチ装置1000を4×1光スイッチとして使用することができる。
また、本発明は、上記実施の形態に係る構成の光スイッチ装置に限られず、たとえば非特許文献1に開示される光の偏波制御による光スイッチ装置の構成にも適用できる。この場合、SLMは、光の偏波を制御できる液晶画素(微小光操作素子)が2次元的に配列した素子である。SLMにより、入力された信号光について、2つの直交した直線偏波のいずれかに偏波を制御する。そして、PBS(Polarization beam splitter)もしくは複屈折材の各偏波に応じた経路を通過させることで、スイッチすることができる。このSLMを本発明に従い制御することで、光スイッチ装置のスペクトル形状の劣化を抑制することができる。
また、上記実施の形態では、光操作装置を光スイッチ装置として説明してきたが、光操作素子としての光スイッチ素子を他の光操作機能を有する光操作素子に置き換えることで、例えば光フィルタや分散補償器等の光操作装置としても利用することができる。
光フィルタは、入力されたWDM信号光に含まれる特定の信号光の強度を減衰させたり、入力されたWDM信号光に含まれる信号光毎に異なる量の光減衰を与えて出力する光操作装置である。光フィルタは、たとえば光スイッチ装置1000の光スイッチ素子80を、光操作素子を有する光減衰部に置き換えることで実現できる。光減衰部はたとえばSLMで構成できる。したがって、光フィルタは、光入力ポートと光出力ポートと、コリメータレンズアレイと、アナモルフィックプリズムペアと、回折格子と、集光レンズ系と、光減衰部とをこの順番に配置して構成することができる。光フィルタの機能は、光入力ポートから入力されたWDM信号光が回折格子によって分光され、光減衰部に入力された信号光のうち、強度を減衰した信号光を光出力ポートに、強度が減衰するような入射角度で入射するようにスイッチするように制御することで実現される。上記光入力ポートと光出力ポートは必ずしも、別のポートである必要はなく、1つの光入出力ポートで光入力ポートと光出力ポートを兼ねてもよい。その場合は、図12に示すように、光フィルタ1200の1つの光入出力ポート1210の手前に光サーキュレータ1220を配置する構成とすることが好ましい。この構成によって、光サーキュレータ1220を介して、信号光L1を光フィルタ1200の1つの光入出力ポート1210に入力して、強度を減衰させた信号光L1aを取り出すことができる。
分散補償器は、入力された光の各波長成分の遅延時間を制御することで各波長成分の波長分散を補償する機能を持つ光操作装置である。分散補償器は、たとえば光スイッチ装置1000の光スイッチ素子80を、光操作素子を有する分散補償部に置き換えることで実現できる。分散補償部はたとえば光操作素子としてのSLMで構成できる。したがって、分散補償部は、光入力ポートと光出力ポートと、コリメータレンズアレイと、アナモルフィックプリズムペアと、回折格子と、集光レンズ系と、分散補償部とをこの順番に配置して構成することができる。分散補償部の機能は、光入力ポートから入力された光が回折格子によって分光され、分散補償部に入力された各波長成分に、異なる遅延時間を与えるように制御することで実現される。分散補償器の場合も、光フィルタと同様に、上記光入力ポートと光出力ポートは必ずしも、別のポートである必要はなく、1つの光入出力ポートで光入力ポートと光出力ポートを兼ねてもよい。その場合は、図12と同様に、光入出力ポートの手前に光サーキュレータを配置することで出力光を取り出すことができる。
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。