以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態の変速機構は、車両用変速機に用いて好適のものである。また、本実施形態では、変速機構における回転軸の軸心に近い側(公転軸側)を内側とし、その反対側を外側として説明する。
〔1.構成〕
まず、本実施形態にかかる変速機構の構成について説明する。
〔1−1.変速機構の全体構成〕
本変速機構は、図1〜図3に示すように、二組の複合スプロケット5,5と、これらの複合スプロケット5,5に巻き掛けられたチェーン6とを備えている。なお、複合スプロケット5とは、詳細を後述する複数のピニオンスプロケット20及び複数のガイドロッド29が多角形(ここでは二十一角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットを意味する。
二組の複合スプロケット5,5のうち、一方は、入力側の回転軸1(入力軸)と同心に一体回転する複合スプロケット5(図1では右方に示す)であり、他方は、出力側の回転軸1(出力軸)と同心に一体回転する複合スプロケット5(図1では左方に示す)である。これらの複合スプロケット5,5はそれぞれ同様に構成されているため、下記の説明では、出力側の複合スプロケット5に着目し、その構成を説明する。なお、入力軸1は中間部に、径を小さくされた小径軸部1aを備えている。
複合スプロケット5は、回転軸1と、この回転軸1に対して径方向に可動に支持された複数(ここでは3個)のピニオンスプロケット21,22,23(以下、区別しない場合には符号20で示す)及び複数(ここでは18本)のガイドロッド29とを有している。3個のピニオンスプロケット20は、回転軸1の軸心C1を中心にした円周上において周方向に沿って等間隔に配置され、ピニオンスプロケット20の相互間に、それぞれ6本のガイドロッド29が配置されている。
図1には示さないが、複合スプロケット5は、複数のピニオンスプロケット20を移動させるスプロケット移動機構40Aと、スプロケット移動機構40Aに連動してピニオンスプロケット20のうちの自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動する機械式自転駆動機構50と、複数のガイドロッド29を移動させるロッド移動機構40Bとを備えている(図2〜図6参照)。これらについては、詳細を後述する。
この変速機構は、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29が多角形(ここでは二十一角形)の頂点をなすようにして形成された見かけ上の大スプロケットの外径、即ち、複合スプロケット5の外径を変更(拡縮径)することによって変速比を変更するものである。変速比は連続的に変更することができるため、無段変速機として構成することもできるが、段階的に変更して多段の有段変速機として構成することもできる。
複合スプロケット5の外径とは、複数のピニオンスプロケット20の何れも囲み、且つ、複数のピニオンスプロケット20の何れにも接する円(接円)の半径(以下、「接円半径」という)に対応するものである。また、複合スプロケット5にはチェーン6が巻き掛けられるため、複合スプロケット5の外径は、複数のピニオンスプロケット20とチェーン6との接触半径に対応するものともいえる。よって、接円半径或いは接触半径が最小径であるときには、複合スプロケット5の外径が最小径であり、また、接円半径或いは接触半径が最大径であるときには、複合スプロケット5の外径が最大径である。
このため、変速機構は、接円半径の変更によって変速比を変更するものといえる。
なお、図1,図3には、入力側の接円半径が最小径で、出力側の接円半径が最大径のものを実線で示し、入力側の接円半径が最大径で、出力側の接円半径が最小径のものを二点鎖線で示している。
以下、変速機構の構成要素を、複合スプロケット5及びこれに巻き掛けられるチェーン6、並びに、複合スプロケット5及びチェーン6の双方に関連する機構類を、この順に説明する。
〔1−2.複合スプロケット〕
以下の複合スプロケット5にかかる構成の説明では、まず、ピニオンスプロケット20,ガイドロッド29,固定ディスク10及び可動ディスク19,第一回転部15及び第二回転部16といった主要な構成要素をこの順に説明し、続いて、これらの構成要素を作動させるスプロケット移動機構40A,ロッド移動機構40B,機械式自転駆動機構50,連動機構60といった機構類をこの順に説明する。
なお、固定ディスク10,可動ディスク19,第一回転部15,第二回転部16は、回転軸1の軸心C1と同心に配設されており、固定ディスク10,可動ディスク19における径方向は回転軸1の径方向と一致する。
〔1−2−1.ピニオンスプロケット〕
三個のピニオンスプロケット20は、それぞれチェーン6と噛み合って動力伝達する歯車として構成され、回転軸1の軸心C1周りに公転する。ここでいう「公転」とは、各ピニオンスプロケット20が、回転軸1の軸心C1を中心に回転することを意味する。回転軸1が回転すると、この回転に連動して各ピニオンスプロケット20が公転する。つまり回転軸1の回転数とピニオンスプロケット20の回転数とは等しい。なお、図1,図3には、白抜きの矢印で時計回りの公転方向を示している。
これらのピニオンスプロケット20は、自転しない一つのピニオンスプロケット(以下、「固定ピニオンスプロケット」という)21と、この固定ピニオンスプロケット21を基準に公転の回転位相が遅角側及び進角側のそれぞれに配置され自転可能な二つの自転ピニオンスプロケット22,23とから構成されている。なお、以下の説明では、固定ピニオンスプロケット21を基準に進角側に設けられたピニオンスプロケット(進角側自転ピニオンスプロケット)を第一自転ピニオンスプロケット22と呼び、遅角側に設けられたピニオンスプロケット(遅角側自転ピニオンスプロケット)を第二自転ピニオンスプロケット23と呼んで区別する。
各ピニオンスプロケット21,22,23は、いずれも、その中心に設けられた支持軸(ピニオンスプロケット軸)21a,22a,23aに対して結合されており、ここでいう「自転」とは、各ピニオンスプロケット22,23がその支持軸22a,23aの軸心C3,C4周りに回転する(即ち、支持軸自体が回転する)ことを意味する。なお、各支持軸21a,22a,23aの軸心C2,C3,C4及び回転軸1の軸心C1は、何れも相互に平行である。
固定ピニオンスプロケット21及び自転ピニオンスプロケット22,23は、何れも支持軸21a,22a,23aに結合された本体部21b,22b,23bとこの本体部21b,22b,23bの外周部全周に突出形成された歯21c,22c,23cとを有している。
当然ながら、各ピニオンスプロケット21,22,23に形成される歯の形状寸法及びピッチは同一規格のものとなっている。
詳細は後述するが、第一自転ピニオンスプロケット22は、接円半径の拡径時に時計回りに自転し、接円半径の縮径時に反時計回りに自転する。一方、第二自転ピニオンスプロケット23は、接円半径の拡径時に反時計回りに自転し、接円半径の縮径時に時計回りに自転する。
なお、各ピニオンスプロケット21,22,23を区別しない場合には、ピニオンスプロケットは符号20で示し、ピニオンスプロケット20の支持軸は符号20aで示し、ピニオンスプロケット20の本体部は符号20bで示し、ピニオンスプロケット20の歯は符号20cで示す。
また、各ピニオンスプロケット20とその支持軸20aとの間には、いずれも、各支持軸20aに対するピニオンスプロケット20の位相ずれを一定範囲内で(即ち、微小回転だけ)許容すると共に、各ピニオンスプロケット20を、この許容される微小回転範囲の中立位置に弾性的に付勢して動力伝達を実現する位相ずれ許容動力伝達機構(微小回転許容機構とも呼ぶ)90が介装されている。これについては後述する。
本実施形態では、図2に自転ピニオンスプロケット22について例示するように、各ピニオンスプロケット21,22,23は、それぞれ軸方向に三列の歯車を備え、これらの各列の歯車に対応してチェーン6もそれぞれ別のものが巻き掛けられている。ここでは、各ピニオンスプロケット20の三列の歯車は、スペーサを介し互いに間隔をあけて設けられている。
なお、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数は、無段変速機構の伝達トルクの大きさによるが、二列又は四列以上であってもよいし一列であってもよい。
また、図2は、理解容易のため一部を展開した模式的な断面図であり、二つの複合スプロケット5,5間が大きく離隔しているが、これらの複合スプロケット5,5は実際には図1,図3に示すように接近して配置されている。
〔1−2−2.ガイドロッド〕
図1に示すように、複数のガイドロッド29は、チェーン6と回転軸1の軸心C1との距離の変動を小さくするように、つまり、回転軸1周りのチェーン6の軌道を可能な限り円軌道に近づけるように装備される。つまり、ピニオンスプロケット21,22,23の相互間に複数のガイドロッド29を装備することにより、ピニオンスプロケット21,22,23及び各ガイドロッド29はより角数の大きな多角形(略正多角形)の形状をなす。ピニオンスプロケット21,22,23と噛み合うチェーン6は、これらのガイドロッド29の外側の周面に当接することで、ガイドロッド29に案内されながら上記多角形の形状に沿って転動する。
各ガイドロッド29は、ロッド支持軸29a(図1では破線で示す)の外周に円筒状のガイド部材29bが嵌着されたものであり、ロッド支持軸29aによって支持され、ガイド部材29bの外周面でチェーン6をガイドする。
なお、ガイドロッド29の本数は、18本に限らず、これよりも多くてもよいし少なくてもよい。この場合、ガイドロッド29は、ピニオンスプロケット20の相互間にそれぞれ同数装備することが好ましく、この場合、ガイドロッド29の本数は、ピニオンスプロケット20の数(ここでは三つ)の倍数となる。また、ガイドロッド29を多く設けるほど複合スプロケット5を真円に近づけ、チェーン6と回転軸1の軸心C1との距離の変動を小さくすることができるが、パーツの増加による製造コストや重量の増加を招くことや、各部の強度や剛性の確保のためた、さらに、後述の移動機構40Bの構造上の制約のため、これらを考慮してガイドロッド29の本数を設定することが好ましい。簡素な構成とするために、ガイドロッド29を省略することも考えられる。
〔1−2−3.固定ディスク〕
固定ディスク10は、回転軸1と一体に形成されるか、或いは、回転軸1と一体回転するように結合されている。なお、図2では、複数のピニオンスプロケット20側から軸方向外側に向けて可動ディスク19,固定ディスク10の順に配置されたもの例示する。
図4及び図6に示すように、固定ディスク10には、各ピニオンスプロケット21,22,23に対応して設けられたスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cと各ガイドロッド29に対応して設けられたロッド用固定放射状溝12(一箇所のみに符号を付す)との二種の放射状溝が形成されている。なお、図4には、白抜きの矢印で時計回りの公転方向を示している。
スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cには、ピニオンスプロケット21,22,23の支持軸21a,22a,23aが内挿されている。固定ピニオンスプロケット21に対応するスプロケット用固定放射状溝11aは、固定ピニオンスプロケット21の径方向移動を案内する溝(固定ピニオンスプロケット案内溝)といえ、同様に、第一自転ピニオンスプロケット22に対応するスプロケット用固定放射状溝11bは、第一自転ピニオンスプロケット22の径方向移動を案内する溝といえ、第二自転ピニオンスプロケット23に対応するスプロケット用固定放射状溝11cは、第二自転ピニオンスプロケット23の径方向移動を案内する溝といえる。このため、これらのスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cは、対応するピニオンスプロケット21,22,23の径方向移動経路に沿っている。
ロッド用固定放射状溝12(一箇所のみに符号を付す)には、対応するガイドロッド29のロッド支持軸29a(一箇所のみに符号を付す)が内挿されている。
これらの固定放射状溝11a,11b,11c,12の形状については、詳細を後述する。
〔1−2−4.可動ディスク〕
図2に示すように、可動ディスク19は、ピニオンスプロケット20を挟んで一側及び他側のそれぞれに設けられる。図1に示すように、各ピニオンスプロケット21,22,23の相互間にこれらと干渉しないようにそれぞれ連結シャフト1bが設けられている。両可動ディスク19は、これらの連結シャフト1bで互いに連結されている。これにより、一側の可動ディスク19と他側の可動ディスク19とが一体に回転する。
図5及び図6に示すように、可動ディスク19(図6には破線で示す)には、スプロケット用可動放射状溝19aとロッド用可動放射状溝19b(何れも一箇所のみに符号を付し、図6には破線で示す)との二種の可動放射状溝が形成されている。なお、可動ディスク19の外形は円形であり、円形である固定ディスク10の外形と一致して重合するが、図6では便宜上の可動ディスク19の外形円を縮小して示している。
スプロケット用可動放射状溝19aのそれぞれは、上記のスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cのそれぞれに交差して設けられる。スプロケット用可動放射状溝19aとスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cとが交差する第一交差箇所CP1(図6のそれぞれに一箇所のみ符号を付す)には、ピニオンスプロケット21,22,23の各支持軸21a,22a,23aが位置する。
〔1−2−5.第一回転部〕
図2に示すように、第一回転部15は、固定ディスク10と一体回転する部分、即ち、回転軸1と一体回転する部分である。ここでは、第一回転部15が回転軸1の一部に設けられている。この第一回転部15は、固定ディスク10及び可動ディスク19よりも軸方向外側に配設されている。
図2,図7及び図8に示すように、第一回転部15には、第一カム溝15aが設けられている。この第一カム溝15aは、回転軸1の軸方向に沿って凹設して設けられている。ここでは、第一カム溝15aが回転軸1の軸心C1と平行に形成されている。図7には、第一カム溝15a(一箇所のみに符号を付す)が周方向に間隔をおいて三箇所に設けられたものを例示するが、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
〔1−2−6.第二回転部〕
図2,図7に示すように、第二回転部16は、可動ディスク19と接続部17を介して接続されている。なお、図7には、白抜きの矢印で反時計回りの公転方向を示している。まず、接続部17について説明し、その後、第二回転部16について説明する。
接続部17は、可動ディスク19及び第二回転部16と一体に回転し、固定ディスク10を覆うように配設されている。この接続部17は、固定ディスク10の外周(径方向外側)を覆う軸方向接続部17aと、固定ディスク10の軸方向外側を覆う径方向接続部17bとを有する。
接続部17においては、可動ディスク19と第二回転部16との接続のうち、軸方向成分の離隔分を接続しているのが軸方向接続部17aであり、径方向の離隔分を接続しているのが径方向接続部17bである。
軸方向接続部17aは、回転軸1の軸心C1と同心に設けられるとともに軸方向に延びる円筒形状をなしている。この軸方向接続部17aは、図2に示すように、軸方向内側が可動ディスク19の外周端部(外周部)19tに結合され、軸方向外側が次に説明する径方向接続部17bに接続されている。
図2及び図7に示すように、径方向接続部17bは、径方向外側が軸方向接続部17aに接続され、径方向内側が第二回転部16に接続されている。この径方向接続部17bは、回転軸1の軸心C1と同心に設けられるとともに径方向に延在する円盤から次に説明する肉抜き部17cによって肉抜きされた形状をなしている。
図7に示すように、径方向接続部17bには、肉抜き部17cが設けられている。この肉抜き部17cは、詳細を後述する機械式自転駆動機構50のラック53,54及びピニオン51,52に対応する箇所に形成されている。図7には、三箇所に設けられた扇形の肉抜き部17cが、相互間に径方向接続部17bを挟んで等間隔に設けられたものを例示している。ただし、肉抜き部17cの形状や形成個数は、周囲の構成や要求仕様等に応じて設定すればよく、種々の形状や個数のものを採用することができる。
次に、第二回転部16について説明する。
図2及び図7に示すように、第二回転部16は、第一回転部15の外周(径方向外側)を覆うように設けられ、回転軸1の軸心C1と同心の円筒形状に形成されている。ここでは、図2に示すように、第二回転部16が、可動ディスク19の外周端部19tから内周側にシフトされて軸方向に沿って設けられている。
図2,図7及び図8に示すように、第二回転部16には、第二カム溝16aが設けられている。この第二カム溝16aは、第一カム溝15aの外周に隣接して設けられている。また、第二カム溝16aは、第一カム溝15aと交差する方向に、即ち、回転軸1の軸方向に斜めに交差する方向に形成されている。
なお、図7には、第二カム溝16a(一箇所にのみ符号を付す)が周方向に間隔をおいて四箇所に設けられたものを例示するが、第二カム溝16aの形成箇所や形成個数は、第一カム溝15aの形成箇所や形成個数に応じて設定される。
〔1−2−7.相対回転駆動機構〕
相対回転駆動機構30は、上述した第一回転部15に設けられた第一カム溝15aと第二回転部16に設けられた第二カム溝16aとに加えて、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP2に配設されたカムローラ90と、このカムローラ90を軸方向に移動させるメガネフォーク(スプロケット移動用軸方向移動部材)35と、このメガネフォーク35を軸方向に移動させるスプロケット移動用軸方向駆動機構31とを備えている。
以下、カムローラ90,メガネフォーク35,スプロケット移動用軸方向駆動機構31の順に説明する。
図2及び図7に示すように、カムローラ90は、円柱状に形成されている。このカムローラ90は、回転軸1の軸心C1に直交する方向に沿った軸心を有し、第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP2(何れも一箇所にのみ符号を付す)に挿通されている。このため、カムローラ90は、回転軸1の回転に連動して回転軸1の軸心C1を中心に回転する。なお、カムローラ90の外周には、第一カム溝15a及び第二カム溝16aのそれぞれに対応する箇所にベアリングが外嵌されている。ここでは、互いに180度の位相差を有する二組のカムローラ90,90のうちの一組は、連続した一本のものが用いられているが、これは別々に構成しても良い。
各カムローラ90の外側端部90aは、第二交差箇所CP2から径方向外側に突出されて設けられている。
なお、図示省略するが、カムローラ90は、カム溝15a,16aから脱落しないように、適宜の抜け止め加工が施されている。かかる抜け止め加工としては、例えばカムローラ90の他端部に頭部を設けることや抜け止めピンを追加し、カムローラ90が軸方向に移動可能であって径方向に移動しないようにすることが挙げられる。
メガネフォーク35は、二組の複合スプロケット5,5に跨って設けられている。このメガネフォーク35は、各複合スプロケット5,5に対応して設けられた円環状のカムローラ支持部35a(一側にのみ符号を付す)と、各カムローラ支持部35aを連結するブリッジ部35bとを有する。カムローラ支持部35aの内周側には、上記の第一回転部15及び第二回転部16が配設されている。
なお、メガネフォーク35は、プレート状の部材であって、ディスク10,19に対して平行であって、チェーン6を基準としたときのディスク10,19に対して軸方向外側に並設されている。
カムローラ支持部35aには、内周側の全周にわたって溝部35cが凹設されている。
溝部35cは、カムローラ90の突出長さに対応する深さを有し、カムローラ90の一端部90aを収容している。すなわち、溝部35cは、径方向長さがカムローラ90の突出長さの円環状空間を有するものといえる。
この溝部35cには、カムローラ90と転がり接触しうる転動体37(一箇所にのみ符号を付す)が設けられている。この転動体37は、回転軸1の軸心C1を中心に回転するカムローラ90が溝部35cの側壁に接触したときにカムローラ90が軸心周りに回転することを抑制するために設けられ、溝部35cの側壁を形成するカムローラ支持部35aに、転動体37が配設されている。ここでは、複数の転動体37が溝部35cの全周にわたって配設されている。なお、図2及び図7には、転動体37としてニードルベアリングを例示するが、これに替えて、ボールベアリングを用いてもよい。
スプロケット移動用軸方向駆動機構31は、メガネフォーク35を軸方向に移動するために、モータ32と、モータ32の出力軸32aの回転運動を直線運動に切り替える運動変換機構33と、メガネフォーク35を支持するとともに運動変換機構33によって直線運動されるフォーク支持部34とを備えている。なお、モータ32としては、ステッピングモータを用いることができる。また、メガネフォーク35には軸方向に延びたガイドピン36が貫通しており、メガネフォーク35の軸方向移動時には、ガイドピン36が移動をガイドし、メガネフォーク35が移動に伴って傾斜しないように姿勢が保持されるようになっている。
以下、図2及び図7を参照して、軸方向駆動機構31について、フォーク支持部34,運動変換機構33の順に説明する。
フォーク支持部34は、モータ32の出力軸32aと同心の筒軸を有する円筒状に形成されている。このフォーク支持部34には、モータ32の出力軸32aが内挿されている。
また、フォーク支持部34は、内周にモータ32の出力軸32aに形成された雄ネジ部32bに螺合する雌ネジ部34aが螺設され、外周にメガネフォーク35のブリッジ部35bと係合するフォーク溝34bが凹設されている。
フォーク溝34bは、メガネフォーク35のブリッジ部35bの厚み(軸方向長さ)に対応する幅(軸方向長さ)に形成されている。このフォーク溝34bにはブリッジ部35bの中間部(二つの複合スプロケット5,5の間)が嵌入され、フォーク支持部34とメガネフォーク35のブリッジ部35bとが一体に結合される。
運動変換機構33は、出力軸32aの雄ネジ部32bと、フォーク支持部34の雌ネジ部34aとを有する。出力軸32aが回転すると、雄ネジ部32bと雌ネジ部34aとの螺合によって、雌ネジ部34aが形成されたフォーク支持部34が軸方向に移動される。すなわち、軸方向駆動機構31は、モータ31の回転運動を運動変換機構33によって直線運動に変換し、この直線運動でフォーク支持部34を軸方向に直線運動させる。
上記のメガネフォーク35,スプロケット移動用軸方向駆動機構31を含む相対回転駆動機構30は、ピニオンスプロケット21,22,23から軸方向にシフトして設けられており、互いに干渉しない。
以下、相対回転駆動機構30による可動ディスク19の固定ディスク10に対する相対回転駆動について説明する。
軸方向駆動機構31によってフォーク支持部34が軸方向に直線運動されると、フォーク支持部34に結合されたメガネフォーク35が一体に軸方向に移動し、この移動にともなって、メガネフォーク35を介して二つの複合スプロケット5,5の各カムローラ90も軸方向に移動する。
第一カム溝15aと第二カム溝16aとが交差する第二交差箇所CP2に配設されるカムローラ90が軸方向に移動されると、第二交差箇所CP2も軸方向に移動する。第一カム溝15aが設けられた第一回転部15は回転軸1及び固定ディスク10と一体回転するため、第二交差箇所CP2が軸方向に移動すると、第一回転部15に対して第二カム溝16aが設けられた第二回転部16が相対的に回転する。
第二回転部16は可動ディスク19と一体回転し、第一回転部10は固定ディスク10と一体回転するので、第一回転部15に対して第二回転部16が相対回転されると、固定ディスク10に対して可動ディスク19が相対的に回転される。
固定ディスク10に対して可動ディスク19が相対回転駆動されると、移動機構40A及び40Bにかかる説明で後述するように、固定ディスク10に設けられたスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cと可動ディスク19に設けられたスプロケット用可動放射状溝19aとが交差する第一交差箇所CP1が径方向に移動される。
このように、相対回転駆動機構30は、スプロケット移動用軸方向駆動機構31によって可動ディスク19を固定ディスク10に対して相対回転駆動して、第一交差箇所CP1を径方向に移動させる。また、相対回転駆動機構30は、メガネフォーク35を介して二つの複合スプロケット5,5の各可動ディスク19を固定ディスク10に対して相対回転駆動するため、入出力双方の複合スプロケット5,5において、各第一交差箇所CP1を径方向に移動させる。
もちろん、両複合スプロケット5,5の連動は、例えば、入力側の複合スプロケット5が拡径するときには出力側の複合スプロケット5が縮径し、逆に、入力側の複合スプロケット5が縮径するときには出力側の複合スプロケット5が拡径するように構成される。
〔1−2−8.スプロケット移動機構及びロッド移動機構〕
次に、図2及び図6を参照して、スプロケット移動機構40A及びロッド移動機構40Bを説明する。
スプロケット移動機構40Aは、複数のピニオンスプロケット20を移動対象とし、また、ロッド移動機構40Bは、複数のガイドロッド29を移動対象としている。
これらの移動機構40A,40Bは、各移動対象(複数のピニオンスプロケット20,複数のガイドロッド29)を回転軸1の軸心C1から等距離を維持させながら径方向に同期して移動させるものである。
スプロケット移動機構40Aは、ピニオンスプロケット21,22,23のそれぞれに設けられた支持軸21a,22a,23aが内挿されるスプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cが形成された固定ディスク10と、スプロケット用可動放射状溝19aが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30(図2及び図7参照)とから構成されている。
また、ロッド移動機構40Bは、ロッド支持軸29aが内挿されるロッド用固定放射状溝12が形成された固定ディスク10と、ロッド用可動放射状溝19bが形成された可動ディスク19と、相対回転駆動機構30とから構成されている。
このように、それぞれの移動機構40A,40Bの構成は、各移動対象の支持軸が異なるだけで、その他の構成は同様である。
次に、図6(a)〜図6(c)を参照して、移動機構40A及び40Bによる移動を説明する。
図6(a)は、放射状溝11a,11b,11c,19aにおけるピニオンスプロケット21,22,23(図1及び図2等参照)の支持軸21a,22a,23aと放射状溝12,19bにおけるロッド支持軸29aとが回転軸1の軸心C1から最も近い位置に位置するものを示す。
この場合、相対回転駆動機構30(図2参照)により可動ディスク19の回転位相を固定ディスク10に対して変更すると、図6(b),図6(c)の順に、スプロケット用固定放射状溝11a,11b,11cとスプロケット用可動放射状溝19aとが交差する第一交差箇所CP1と、ロッド用固定放射状溝12とロッド用可動放射状溝19bとの交差箇所とが、回転軸1の軸心C1から遠ざかる。すなわち、これらの交差箇所に支持軸21a,22a,23a,29aを支持されたピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は、回転軸1の軸心C1から等距離を維持しながら径方向に同期して移動される。
一方、相対回転駆動機構30によって可動ディスク19の回転位相の変更方向を上記の方向と反対にすれば、ピニオンスプロケット20及びガイドロッド29は回転軸1の軸心C1に近づく。
スプロケット移動機構40Aによりピニオンスプロケット20が移動されると、ピニオンスプロケット20の相互間の距離が変わることにより、チェーン6に対してピニオンスプロケット20の位相ズレが発生してしまう。そこで、かかる位相ズレを解消するために、機械式自転駆動機構50が装備されている。
〔1−2−9.機械式自転駆動機構〕
次に、図2,図3及び図7を参照して、機械式自転駆動機構50を説明する。ここでは、機械式自転駆動機構50がピニオンスプロケット20を挟んで対称に構成されるため、一側(図2の上方側)の構成に着目して説明する。
機械式自転駆動機構50は、上記したように、自転ピニオンスプロケット22,23を回転させ、チェーン6に対するピニオンスプロケット20間の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して機械的に自転駆動するものである。言い換えれば、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aによる複数のピニオンスプロケット20の径方向移動に伴って、チェーン6に対する複数のピニオンスプロケット20の位相ズレを解消するように自転ピニオンスプロケット22,23をスプロケット移動機構40Aと連動して自転駆動するものである。
ただし、機械式自転駆動機構50は、径方向移動時の固定ピニオンスプロケット21を自転させない構成も有している。
まず、機械式自転駆動機構50について、固定ピニオンスプロケット21(図1参照)を自転させないための構成を説明する。
図3,図7に示すように、固定ピニオンスプロケット21の支持軸21aは、固定ディスク10のスプロケット用固定放射状溝11aに挿通されている。この支持軸21aには、案内部材59が一体的に結合されている。なお、図3に示す案内部材59は、図2の下方側の固定ディスク10のスプロケット用固定放射状溝11aに挿通されるものである。
案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aに内挿されて径方向に案内される。この案内部材59は、径方向の所定長さにわたってスプロケット用固定放射状溝11aに接触するように対応する形状に形成されている。このため、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力が作用したときには、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aに対して回転力を伝達するとともに、この回転力の反作用(抗力)で固定ピニオンスプロケット21を固定するものといえる。すなわち、案内部材59は、スプロケット用固定放射状溝11aにおいて径方向に摺動可能であって回り止め機能を有する形状に形成されている。なお、ここでいう所定長さとは、固定ピニオンスプロケット21を自転させるような回転力の抗力が確保可能な長さである。
図4,図6では、スプロケット用固定放射状溝11aが径方向に長手方向を有して形成されており、矩形状に形成された案内部材59の側壁面がスプロケット用固定放射状溝11aの対向する壁面を摺動する例を示している。
また、スプロケット用固定放射状溝11aの内壁に接する案内部材59の側壁、特に案内部材59の四隅に、ベアリングを装着すれば、案内部材59のよりスムーズな摺動を確保することができる。
次に、機械式自転駆動機構50について、自転ピニオンスプロケット22,23を自転駆動するための構成について説明する。
機械式自転駆動機構50は、自転ピニオンスプロケット22,23の支持軸22a,23aのそれぞれと一体回転するように固設されたピニオン51,52と、ピニオン51,52のそれぞれに対応して噛合するように設けられたラック53,54と、を有する。
ピニオン51,52は、自転ピニオンスプロケット22,23の各支持軸22a,23aにおける軸方向端部にそれぞれ設けられている。かかるピニオン51,52にそれぞれ対応するラック53,54は、スプロケット用固定放射状溝11b,11cの延在方向に沿って固設されている。
なお、以下の説明では、第一自転ピニオンスプロケット22のピニオン(進角側ピニオン)51を第一ピニオン51と呼び、この第一ピニオン51と噛合するラック(進角側ラック)53を第一ラック53と呼んで区別する。同様に、第二ピニオンスプロケット23のピニオン(遅角側ピニオン)52を第二ピニオン52と呼び、この第二ピニオン52と噛合するラック(遅角側ラック)54を第二ラック54と呼ぶ。
図7に示すように、第一ラック53は、第一ピニオン51に対して公転方向基準で遅角側に配置される。逆に、第二ラック54は、第二ピニオン52に対して公転方向基準で進角側に配置される。このため、ピニオン51,52及びラック53,54は、ピニオン51,52が拡径方向又は縮径方向に移動されると、ピニオン51,52はこれに噛合するラック53,54によって互いに逆方向に回転されるように配設されている。
すなわち、機械式自転駆動機構50は、スプロケット移動機構40Aにより移動されたピニオンスプロケット20の径方向位置に応じて、自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相を設定するものである。つまり、機械式自転駆動機構50によって、ピニオンスプロケット20の径方向位置と自転ピニオンスプロケット22,23の自転にかかる回転位相とは一対一の対応関係となる。
このように、機械式自転駆動機構50は、固定ピニオンスプロケット21が自転しないように案内し、自転ピニオンスプロケット22,23が自転するように案内する。
なお、ピニオン51,52に対するラック53,54の位置関係が異なる点を除いては、第一ピニオン51と第二ピニオン52とは同様に構成され、また、第一ラック53と第二ラック54とは同様に構成されている。
〔1−3.チェーン〕
次に、チェーン6について説明する。
図13(a)に示すように、ガイドロッド29にガイドされるチェーン6は、各ピニオンスプロケット21,22,23の歯車の列数(ここでは三列)に対応する本数が設けられている。ここでは、第一チェーン6A,第二チェーン6B及び第三チェーン6Cの三本が設けられている。
これらのチェーン6A,6B,6Cは、動力伝達方向に位相をずらすように互いにピッチをずらしてピニオンオンスプロケット20に巻き掛けられている。ここでは、1/3ピッチだけ互いのピッチをずらしている。これに対応して、各チェーン6A,6B,6Cに噛合するピニオンスプロケット20の各歯21c,22c,23c(以下、これらを区別せずに示すときには「歯20c」という)の位相もずらして配置されている。
なお、チェーン6A,6B,6Cは、配設ピッチ以外は同様に構成される。
また、変速機構の伝達トルクによっては二本以下又は四本以上のチェーン6が用いられるが、この場合には「1/チェーンの本数」ピッチだけ各チェーンのピッチをずらして設けられるのが好ましい。
ここで、サイレントチェーンを用いた各チェーン6A,6B,6Cについてさらに説明する。各チェーン6A,6B,6Cは、それぞれ多数のリンクプレート(駆動リンク)61が動力伝達方向に直列に配列されたリンクプレート列61Sが、リンクプレート61の厚み方向に複数並列されて、連結ピン62により連結されて構成される。
本実施形態では、図13(a),(c)に示すように、各チェーン6A,6B,6Cの厚み方向の両端部のそれぞれに、多数の補助リンクプレート63が動力伝達方向に直列に配列された補助リンクプレート列63Sが装備されている。この補助リンクプレート列63Sは、補助リンクプレート63の内周側に形成されたガイド面63aによってガイドロッド29により案内されるものである。
ただし、本実施形態では、チェーン6A,6B,6Cの少なくとも1つ(ここでは、チェーン6A)は、図13(b)に示すように、チェーン6の外側にも歯63aが形成されている(図13(a)では歯63aは省略する。)。つまり、図13(b)に示すように、チェーン6の各リンクプレート61の内周側には、相互間にリンク溝61cを形成する一対の歯61aが形成されているが、これに加えて、補助リンクプレート63の外周側に一対の歯63aが形成され、一対の歯63aの相互間が外側リンク溝63bになっている。
〔1−4.軌道ガイド付き事前歯合わせ機構〕
次に、本無段変速機構において特徴的な軌道ガイド付き事前歯合わせ機構を説明する。
ピニオンスプロケット20は、回転軸1に対して公転するので、チェーン6と噛み合う状態とチェーン6から離隔する状態とを繰り返し、しかも、変速比を変更する際には、ピニオンスプロケット20の歯20cとチェーン6のリンク溝61cとの位相がずれるため、ピニオンスプロケット20がチェーン6との噛み合いを開始する際に、ピニオンスプロケット20の歯20cがチェーン6のリンク溝61cに対し位相ずれして歯飛びするおそれがある。
そこで、各複合スプロケット5には、ピニオンスプロケット20の歯20cとチェーン6のリンク溝61cとの噛み合いを開始する噛合点の付近に、噛合点の直前でピニオンスプロケット20の歯20cの位相合わせをする事前歯合わせ機構70が装備されている。
この事前歯合わせ機構170は、図1,図10,図11,図12に示すように、チェーン6と係合して位相同期して回転する第1同期回転部材171と、第1同期回転部材171と位相同期して回転すると共に噛合点直前でピニオンスプロケット20と係合して同ピニオンスプロケット20の位相を調整する第2同期回転部材172とを備えている。
第1同期回転部材171は、チェーン6の外側リンク溝63bに歯173aが常時噛み合う入力側同期用スプロケット173を備えている。
また、第2同期回転部材172は、ピニオンスプロケット20と一体回転する出力側同期用スプロケット176と、出力側同期用スプロケット176と噛み合う同期用チェーン(同期用回転体)175とを備えている。
なお、入力側同期用スプロケット173は、ピニオンスプロケット20とほぼ同様な歯173aを有し、スペース上の制約からピニオンスプロケット20よりも小径のものが用いられるが、滑らかな作動性を確保するには可能な限り径の大きいものが好ましい。
出力側同期用スプロケット176は、ピニオンスプロケット20と同径のものが適用される。
同期用チェーン175は、第1同期回転部材171の軸171aに、入力側同期用スプロケット173と共に一体回転するように装備される。この同期用チェーン175は、チェーン6のリンクプレート61を模した疑似リンク175aが連結ピン175bで連結されてなるチェーンである。同期用チェーン175の外周には、リンク溝61cを模した疑似リンク溝175cが形成される。この疑似リンク溝175cは、ピニオンスプロケット20が噛合点の直前に到達したときに、この疑似リンク溝175cが出力側同期用スプロケット176の歯176aと噛み合う。
これらの同期用チェーン175及び出力側同期用スプロケット176は、一端側のチェーン6Aよりも軸方向外側に配置され、同期用チェーン175がチェーン6A〜6Cの何れにも干渉しないようになっている。なお、同期用チェーン175は、チェーン6A〜6Cを模した回転体であり、疑似リンク溝175cに相当する歯を有するスプロケットとも呼ぶことができる。
この実施形態では、図12に示すように、同期用チェーン175はサイレントチェーンを模しており、この同期用チェーン175は比較的小径であるため、疑似リンク175aの数が少なくなり、疑似リンク175a同士の連結角度も大きくなる。このため、疑似リンク175aの疑似リンク溝175cを比較的広角に形成しても、疑似リンク溝175cの角度は十分に大きくなる。そこで、隣接する疑似リンク175aは疑似リンク溝175cを形成する歯を完全に重合させずにややずらせた角度にして、実質的な疑似リンク溝175cの開口角度を抑えている。ただし、これでも、実質的な疑似リンク溝175cの角度は十分に大きく、出力側同期用スプロケット176は疑似リンク溝175cに容易に噛み合うようになっている。
図1に示すように、事前歯合わせ機構170は、各複合スプロケット5に設けられるが、入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175の軸171aは、図10に示すように、支持部材180に支持され、入力側同期用スプロケット173はチェーン6に弾性的に圧接されている。特に、このチェーン6に弾性的に圧接される入力側同期用スプロケット173は、チェーン6に外周側から当接しチェーン6の軌道を外側から膨らまないようにガイドする軌道ガイドとして機能する。
図10に示すように、支持部材180は、入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175を回転自在に支持する軸受部181と、先端に軸受部181を固設され、入力側同期用スプロケット173をチェーン6Aに圧接する圧接方向に延びた軸状のアーム部182とを備えている。アーム部182は後述の追従軌道に沿ってスライドするスライド部材183に摺動自在に支持され、支持部材180は、前記圧接方向に向けて可動であると共に追従軌道に沿って移動できるようになっている。
つまり、アーム部182の中間部は、スライド部材183のアーム係合部183bの穴部に挿入されており、アーム部182はこの穴部に案内されて入力側同期用スプロケット173をチェーン6Aに圧接する圧接方向に向けて可動になっている。
そして、アーム部182とスライド部材183のアーム係合部183bとの間に、軸受部181を圧接方向に付勢し、入力側同期用スプロケット(追従ガイド)173をチェーン6Aに弾性的に圧接させるコイルスプリング(ばね部材)186が装備されている。なお、アーム部182の基端には、アーム部182がアーム係合部183bから離脱しないように、ストッパ182aが装備されている。
また、各複合スプロケット5の接円半径の変更によってチェーン6の軌道が変更し、これに伴って噛合点も移動する。事前歯合わせ機構170が事前歯合わせ及びチェーン6の軌道を外側からガイドするためには、事前歯合わせ機構170の入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175がこのチェーン6の軌道変更に伴う噛合点の移動に追従する軌道(追従軌道)FO(図1参照)に沿って移動することが必要である。
このため、事前歯合わせ機構170の要部を支持する支持部材180はスライド部材183を通じて追従軌道FOに沿って移動できるようになっており、更に、支持部材180をチェーン6の軌道変更に伴って追従軌道FOに沿って移動させるチェーン追従移動機構80が装備されている。チェーン追従移動機構80については後述する。
スライド部材183は、外周が滑らかなガイドレール184に摺動可能に支持されている。ガイドレール184は、変速機構のケーシング等の壁部185にブラケット185a等を介して固設され、ここでは互い平行な2本のガイドレール184が装備される。この例では、各ガイドレール184は円柱状であり、追従軌道FOに沿って、つまり、追従軌道FOと平行又は略平行に配設される。スライド部材183には2つの摺動穴部183aが設けられ2本のガイドレール184が各摺動穴部183aに挿入されており、スライド部材183は各ガイドレール184に沿って、即ち、追従軌道FOに沿ってスライド可能になっている。
〔1−5.チェーン追従移動機構〕
図9,図10に示すように、チェーン追従移動機構80は、ガイドレール184と、スライド部材183と、スライド部材183をガイドレール184に沿って移動させる追従駆動機構200とを備えている。
また、追従駆動機構200は、支持部材180のアーム部182の基端部に装備されたカムローラ182bと、回転軸1の軸方向に対して傾斜した方向に延びカムローラ182bが係合する追従用カム溝188を有し軸方向に移動するチェーン追従移動用軸方向移動部材187と、このチェーン追従移動用軸方向移動部材187を軸方向に駆動するチェーン追従移動用軸方向駆動機構と、を備えている。
チェーン追従移動用軸方向移動部材187が、図9に矢印A1で示すように移動すると、追従用カム溝188が移動するため、カムローラ182bは図9に矢印A2で示すように移動する。例えば、図9において、チェーン追従移動用軸方向移動部材187が下降すれば左方向に移動する。
カムローラ182bは支持部材180に装備され、支持部材180は、ガイドレール184及びスライド部材183を通じて追従軌道FOに沿ってスライド可能なため、支持部材180及び支持部材180に支持された入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175は、カムローラ182bと共に、追従軌道FOに沿ってスライドする。
また、チェーン追従移動用軸方向駆動機構は、変速比の変更時のピニオンスプロケット20が径方向移動による各複合スプロケット5の接円半径の変更によって変化するチェーン6の走行軌道に追従するように力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175を移動させるために、本実施形態では、スプロケット移動用軸方向駆動機構31が兼用されている。
つまり、図7に示すように、メガネフォーク35に各複合スプロケット5毎に結合用アーム部35dを設け、各結合用アーム部35dに、それぞれチェーン追従移動用軸方向移動部材187を結合している。これにより、変速比の変更のためにメガネフォーク35が軸方向に移動すると同時にチェーン追従移動用軸方向移動部材187も軸方向移動するようになっている。
メガネフォーク35の軸方向位置は、変速比に対応するのでチェーン追従移動用軸方向移動部材187も変速比に対応する。また、噛合点の位置やチェーン6の軌道も変速比に対応する。したがって、メガネフォーク35にチェーン追従移動用軸方向移動部材187を結合してスプロケット移動用軸方向駆動機構31を作動させることで、可動ディスク19の移動と共にチェーン追従移動用軸方向移動部材187を移動させて入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175を、噛合点の位置やチェーン6の軌道の変化に沿って移動させることができる。
〔1−6.位相ずれ許容動力伝達機構〕
ところで、事前歯合わせ機構170によって、ピニオンスプロケット20の歯20cの位相合わせをするのは、ピニオンスプロケット20の歯20cが位相合わせ方向即ち回転方向に可動でなくては実現させることができない。しかし、ピニオンスプロケット20の歯20cを回転方向に単に可動にしたのでは、ピニオンスプロケット20とチェーン6との間での動力伝達に支障を来す。
つまり、入力側の複合スプロケット5では、回転軸1の回転によりピニオンスプロケット20が回転軸1の軸心C1周りを公転し、この公転と共にチェーン6を回動させる。このとき、ピニオンスプロケット20からチェーン6に動力が伝達されるためには、ピニオンスプロケット20の自転が規制されていることが条件になる。公転時にピニオンスプロケット20が自由に自転してしまうと、ピニオンスプロケット20からチェーン6に動力は伝達されない。
そこで、ピニオンスプロケット20と、ピニオンスプロケット20を支持する軸20aとが別体に形成され、軸20aに対するピニオンスプロケット20の微小回転を許容すると共に、ピニオンスプロケット20を軸20aに対して回転方向の中立位置に付勢し微小回転を弾性的に規制する位相ずれ許容動力伝達機構(ここでは、微小回転許容機構とも言う)190が装備されている。なお、軸20aに対してピニオンスプロケット20の微小回転を許容する機能をフローティング機能とも言う。
本実施形態にかかる位相ずれ許容動力伝達機構190は、図11,図14に示すように、ピニオンスプロケット20の軸20aの外周側に一体回転するように装備されたキー部材191と、ピニオンスプロケット20の内周側及び出力側同期用スプロケット176の内周側に形成されてキー部材191が回転方向に一定範囲の遊びをもって係合するキー溝20dとからなる回転許容機構190A、及び、キー部材191がキー溝20dの回転方向の中立位置に位置するように、キー部材191を回転方向の正転と逆転方向との双方から基準の位相位置(センタリング位置)へ付勢する付勢部材193を有する付勢機構190Bと、を備えている。
なお、前述のように、各チェーン6A,6B,6Cと対応して3つのピニオンスプロケット20が直列に配置され、各チェーン6A,6B,6Cのピッチが互いに1/3ピッチだけずらされているので、直列に配置された各ピニオンスプロケット20の歯20cも、これに対応して1/3ピッチずつずらした状態で配置されている。また、出力側同期用スプロケット176も、これらの各ピニオンスプロケット20に対して所定の位相に合わせて、直列のピニオンスプロケット20の一端に配置される。
つまり、軸20aの外周壁(外周面)20aw、及び、各ピニオンスプロケット20及び出力側同期用スプロケット176において軸20aが貫通する穴(貫通穴)の内周壁(内周面)20w(出力側同期用スプロケット176の穴の内周壁は図示しないが、この内周壁も含めて、内周壁20wとする)には、それぞれ、キー溝192,20dが形成されている。
キー部材191は、キー溝192,20dのうち、何れか一方のキー溝内には、回転方向(周方向)に隙間なく嵌合するよう配置され、他方のキー溝内には、回転方向(周方向)に移動可能に隙間を有して配置されていればよく、本実施形態では、キー部材191は、軸20aのキー溝192内には隙間なく嵌合し、軸20aの貫通穴のキー溝20d内には回転方向(周方向)に移動可能に隙間を有して配置されている。
キー部材191がキー溝20d内の周方向中央に位置する中立状態において、キー溝20dの内壁面とキー部材191の対向面とはそれぞれ隙間d分だけ離隔しており、キー部材191はキー溝20dに対して中立状態から回転方向(周方向)前後に隙間d分だけ相対移動可能になっている。この隙間dは、ピニオンスプロケット20の歯20cの半歯分(0.5歯分)に対応して設定されている。したがって、キー部材191及びキー部材191を通じて一体回転する出力側同期用スプロケット176及び各ピニオンスプロケット20は、軸20aに対して歯20cの半歯分だけ回転可能になっている。
ただし、ピニオンスプロケット20等の穴の内周壁20wと、軸20aの外周壁20awとの間には、キー部材191をキー溝20dに対して周方向中立位置に付勢する付勢部材193が設けられ、外力が加わらない限りキー部材191はキー溝192内の周方向中立位置に保持される。この付勢部材193は、鋼材等の弾性材料が用いられ、環状の一部が破断されたC型リング状で厚みが一定の平板(以下、C型弾性部材又はC型リングとも呼ぶ)で形成されている。本実施形態では、複数(図示では3個)のC型弾性部材193を厚み方向に重ねて使用されている。
C型弾性部材193の破断部分である合口193a,193bは、互いに平行又は略平行な平面状に形成される。この対向する合口193a,193bの相互間には、少なくとも中立状態ではキー部材191が隙間なく嵌合する。また、C型弾性部材193は、この中立状態では、何れの合口193a,193bも、キー部材191の対向する面(回転方向前面又は後面)に圧接して、弾性力を加えている。
C型弾性部材193は、その合口193a,193bの形成された箇所の逆側、即ち、各合口193a,193bから等しい中心角を有する中間部(180度反対側)193cの外周に、半円筒状の凹所(第2凹所)195bが形成されている。ピニオンスプロケット20及び出力側同期用スプロケット176の穴の周面におけるキー溝20dの形成された箇所とは逆側(180度反対側)にも、半円筒状の凹所(第1凹所)195aが形成されている。
このC型弾性部材193は、ピニオンスプロケット20等の内周壁20wと軸20Aの外周壁20awとの間に形成される隙間195sに介装される。キー溝20dの径方向反対側において、ピニオンスプロケット20等の内周壁20wに形成された凹所195a,195bは互いに対向して配置され、これらの凹所195a,195bによって円筒状の収容空間195が形成されている。この円筒状の収容空間195内にはピン状の係止部材(以下、ピンとも言う)194が介装される。このピン194は、凹所195a,195bと嵌合すると共にピニオンスプロケット20等の内周壁20wと軸20Aの外周壁20Awとの間にC型弾性部材193をピニオンスプロケット軸20aの外周壁20awの側に圧接するようにして係止する。
したがって、C型弾性部材193は、中間部193cにおいてピン194に支持されながら合口193a,193bをキー部材191の対向面191a,191bに当接させて、外力が加わらなければ図15(a1)に示すようにキー部材191をキー溝20d内の周方向中立位置に保持する。そして、ピニオンスプロケット20を自転させるような外力が加われば、付勢部材193が弾性変形しながら、図15(a3)あるいは図15(a4)に示すようにピニオンスプロケット20の自転を許容すると共に、付勢部材193の合口193a,193bの何れかがキー部材191の対向面191a,191bに当接して、キー部材191がキー溝192内の周方向中立位置となる方向へ弾性力をピニオンスプロケット20に加える。
そして、ピニオンスプロケット20と軸20aとの間で伝達されようとする回転トルクがこの付勢力に抗するように作用し且つ付勢力を上回れば、ピニオンスプロケット20と軸20aとの間で動力が伝達される。つまり、ピニオンスプロケット20による動力伝達を続行しながらピニオンスプロケット20を必要な回転位相に調整することができる。
〔1−6−1.C型弾性部材の構造〕
ここで、この位相ずれ許容動力伝達機構のC型弾性部材193について、その特徴的な構成を説明する。C型弾性部材193は、前記のように厚みが一定の平板であって、図14に示すように、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に半径方向幅Wが大きくなるように形成されている。したがって、厚み一定のC型弾性部材193は、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に径方向の剛性が高くなるように形成されている。
C型弾性部材の最もシンプルな形状としては、図15(b1)に示すC型弾性部材293のように、C型弾性部材293の周方向全域にわたって半径方向幅Wを均一にすることが考えられる。しかし、このように半径方向幅Wを均一にすると、中間部293cの付近は、第2凹所295bが形成されているためこの部分のみが半径方向幅Wが小さくなる。このため、C型弾性部材293が中立位置から弾性変形すると、中間部293cの付近に応力が集中して疲労損傷を招き易い。
もちろん、中間部293cの付近でも半径方向幅Wを十分に確保すれば、中間部293cの付近の応力集中による疲労を軽減できるが、そのためには、内周壁20wと外周壁20Awとの間に形成される隙間295sを大きくする必要があり、内周壁20wの内径ピ(ピニオンスプロケット20の穴の内径)を大きくするか、あるいは、軸20aの外周面の外径を小さくする必要がある。
ピニオンスプロケット20の穴の内径を大きくした場合、ピニオンスプロケット20の径方向の厚みを最低限確保するために、ピニオンスプロケット20の外径をも拡径しなくてはならない。ピニオンスプロケット20が大径になると、ピニオンスプロケット20で形成される複合スプロケットの小径化の妨げになるので、変速機構のレシカバ(レシオカバレッジ)を十分に確保することができなくなる。また、軸20aの外径を小さくすると、軸20aの剛性や強度の不足を招くため、軸20aの外径を小さくするにも限度がある。
一方、本C型弾性部材193のように、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって、次第に半径方向幅Wが大きくなるように且つ次第に剛性が高くなるように形成すると、逆に見れば、C型弾性部材は、ピン194の部分から合口193a,193bに接近するにしたがって、次第に半径方向幅Wが小さくなり且つ次第に剛性が低くなるように形成されることになる。
このように構成すると、C型弾性部材193が中立位置から弾性変形する際には、C型弾性部材193は、比較的剛性が低い合口193a,193bの付近で大きく変形し、中間部193cに近づくにしたがって変形量も小さくなるため、中間部193cの付近の応力集中が緩和される。これによって、隙間195sを大きくすることなく、したがって、ピニオンスプロケット20の外径を大きくすることなく、中間部193cの疲労強度を確保できるようになる。
また、ピニオンスプロケット20等の内周壁20wと軸20Aの外周壁20Awは、同一軸心上に位置する径の異なる円筒面であり、内周壁20wと外周壁20Awとの間に形成される隙間195sは、径方向の幅が一定の環状の空間である。これに対して、C型弾性部材193は、中立状態では、その内周面193iwは、ピン194と係合する中間部193cの付近では軸20Aの外周壁20Awと接触し、中間部193cの付近から合口193a,193bに接近するにしたがって軸20Aの外周壁20Awから微小に離隔するように配置される。また、C型弾性部材193は、中立状態では、その外周面193owは、中間部193cの付近ではピニオンスプロケット20等の内周壁20wと僅かに離隔し、中間部193cの付近から合口193a,193bに接近するにしたがってピニオンスプロケット20等の内周壁20wから次第に大きく離隔するように配置される。
これにより、ピニオンスプロケット20等の内周壁20wとC型弾性部材193の外周面193owとの間に形成される隙間195sは、C型弾性部材193の合口193a,193bの部分に近づくほど大きくなって径方向幅が大きい幅広隙間195s1,195s2が形成される。この幅広隙間195s1,195s2は、C型弾性部材193が図15(a1)に示す中立状態から図15(a3),図15(a4)に示すように弾性変形する際に、合口193a,193bの付近の大きな変形を許容する。
例えば図15(a3)に示すように、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転して、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から合口193aの側に相対変位すると、C型弾性部材193の合口193aはキー部材191に押圧されて内周壁20wに接近するように幅広隙間195s1内で周外方向への弾性変形が許容される。また、例えば図15(a4)に示すように、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転して、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から合口193bの側に相対変位すると、C型弾性部材193の合口193bはキー部材191に押圧されて内周壁20wに接近するように幅広隙間195s2内で周外方向への弾性変形が許容される。このようにして、フローティング機能が確保されている。
なお、図14(a)に示すように、第1凹所195aの曲率半径は、ピン194の外径(外周の半径)と略同径に形成され、ピン194は第1凹所195aに隙間なく或いは略隙間なく圧接するのに対して、第2凹所195bの曲率半径は第1凹所195aの曲率半径やピン194の外径よりも僅かに大きく設定されている。ただし、図14(a)では第2凹所195bの曲率半径を便宜上誇張して大きく示している。これにより、C型弾性部材193が中立状態にあると、ピン194の外周面は第2凹所195bの両側部(中間部193cから離れた部分)193dで第2凹所195bの壁面から僅かに離隔している。
図15(a3)或いは図15(a4)に示すように、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転して、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から相対変位した場合には、C型弾性部材193が弾性変形するため、その第2凹所195bの一側がピン194の外周面により強く圧接して応力集中が生じやすい。しかし、離隔分が、C型弾性部材193の弾性変形を許容するため、第2凹所195bの一側がピン194の外周面に過剰に強く圧接することもなく、応力集中が回避または抑制されるようになっている。
〔1−6−2.ピン状の係止部材(ピン)の構造〕
次に、位相ずれ許容動力伝達機構のピン(即ち、ピン状の係止部材)194について、その特徴的な構成を説明する。図16に示すように、ピン194には、スプリングピンが用いられている。このスプリングピン194は、中空部194aを有する中空状に形成され、且つ、弾性的に径を拡縮可能にするスリット194bを有している。
このスプリングピン194は、バネ鋼等の弾性材で構成された公知のものであり、自然の状態の外径よりも僅かに小さい内径のピン穴或いは収容空間に内挿すると、スリット194bを縮小しながら弾性的に縮径変形するため、拡径しようとする復元力によって、スプリングピン194の外周面がピン穴或いは収容空間の内壁に圧接する。本実施形態では、図15及び図18(a)に示すように、凹所195a,195bによって形成された円筒状の収容空間195内に、スプリングピン194が弾性的に縮径変形した状態で収容されている。
このスプリングピンを、ピン(即ち、係止部材)194に用いているのは、色々な部品公差に起因して位相ずれ許容動力伝達機構にガタが発生するのを防止するためである。つまり、ピン194はC型弾性部材193を係止するもので、C型弾性部材193と同様に、隙間195sに装備するものである。
前記のように、隙間195sの大きさは、ピニオンスプロケット20の穴の内径と軸20aの外径とにより規定されるが、前記のように、隙間195sの大きさは極力抑えたい。しかも、ピン194を収容する収容空間195のための凹所195bが形成されるC型弾性部材193の中間部193c付近は、前記のように、凹所195bによって半径方向幅Wが縮小され応力集中を招くので、中間部193c付近の半径方向幅Wの縮小は抑えたい。このため、ピン194の外径の大きさは極力抑えなくてはならない。
ピン194の外径を小さくすると、当然ながら収容空間195の内径も小さくすることになり、各部の部品公差が僅かであってもピン194の機能への影響は大きい。しかも、実際には、色々な部品公差が集積されてピン194に影響するうえ、位相ずれ許容動力伝達機構の経時劣化も加わるため、ピン194の構造を工夫しない限り、ピン194はC型弾性部材193を適正に係止することができなくなる。
例えば、図15(b1)は中実の丸棒で形成されたピン294を係止部材に適用した比較例を示すものであり、この比較例によると、装着時には、ピン294がC型弾性部材193を適正に係止していたとしても、歯20c(ピニオンスプロケット20)が軸20aに対して相対回転して、C型弾性部材193にヒネリ力が加わると、このヒネリ力がC型弾性部材193の凹所295b及びピニオンスプロケット20等の凹所295aとピン294との間に作用し、C型弾性部材293にズレが生じて位相ずれ許容動力伝達機構にガタが発生する。
例えば図15(b2)に示すように、中立状態であってもC型弾性部材293がピン294から離隔してしまったり、また、図15(b3),図15(b4)に示すように、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転して、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から合口293a,293bの側に相対変位すると、合口293a,293bを通じてキー部材191から受けるヒネリ力によって、C型弾性部材293が周方向にずれてしまったりして、位相ずれ許容動力伝達機構にガタが発生する。
これに対して、スプリングピンを適用したピン194は、自ら縮径しながら各部の部品公差を吸収するため、C型弾性部材193がヒネリ力を受けてもC型弾性部材193にズレが生じ難くなり、例えば図15(a2)に示す中立状態では、C型弾性部材193がピン194から離隔することなく適正な位置を保持してキー部材191に合口193a,193bを圧接させ、また、図15(a3),図15(a4)に示すように、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転した場合にも、C型弾性部材193がピン194から離隔することなく適正な位置を保持してキー部材191に付勢力を付与する。
なお、ピン194の取付姿勢としては、例えば図17に示すものが考えられる。この取付姿勢は、図17(a)に示すように、ピン194のスリット194bを第2凹所195bの中央部に向けて配置したものである。スリット194bを第2凹所195bの中央部に向けると、スリット194bを挟んだピン194の2つの半部(左半部194L及び右半部194R)で分担するようにして、図17(b)に示すように、高い支持剛性でC型弾性部材193を支持することができる。この場合、スリット194bを第1凹所195aの中央部に向けても同様の効果を得られる。
また、ピン194の取付姿勢としては、例えば図18に示すものも考えられる。この取付姿勢は、図18(a)に示すように、ピン194のスリット194bを第1凹所195aと第2凹所195bとが離隔する隙間に向けて配置したものである。スリット194bを第1凹所195aと第2凹所195bとが離隔する隙間に向けると、C型弾性部材193の支持剛性は低下するが、ピン194の外周面と第1凹所195a及び第2凹所195bとの接触面積を確保しやすく、柔軟にかつ確実にC型弾性部材193を支持することができる。
ところで、スリット194bの幅は、弾性変形量を確保する上で必要ではあるが、ピン194の外周面と第1凹所195a及び第2凹所195bとの接触面積(特に、周方向の接触領域)を確保して確実にC型弾性部材193を支持するためには、スリット194bの幅が過剰にならないように抑えたい。しかし、スプリングピン194のスリット194bの幅を狭くするには加工技術上の限度があり、スプリングピン194の外径を小さくすると、相対的にスリット194bの幅が大きくなる。本実施形態で適用しようとするスプリングピン194は外径が例えば1〜2mm程度の極めて小径のものであるため、相対的にスリット194bの幅が大きくなってしまう。
一方、図16に示すスプリングピン194は、スリット194bが互いに対向する直線状(平面状)の壁面間に形成された直線状スリットとなっているストレート形スプリングピンであるが、スプリングピンの種類としては、図19(a)に示すように、スプリングピン194と同様に中空部194a´を有し、スリット194b´が互いに対向する波形状(曲面状)の壁面間に形成された波形スリットのもの(波形スプリングピン)194´もある。このような波形スプリングピン194´の場合、図19(b)に示すように、スリット194b´の幅d1に対して、スリット194b´の壁面の波形凸部間の距離d2は小さくなり、スプリングピン194´の外周面がその周方向の広い領域にわたって第1凹所195a及び第2凹所195bと接触する。このため、波形スプリングピン194´を適用すれば実質的な接触面積を確保しやすく、確実にC型弾性部材193を支持することができる。
〔2.作用及び効果〕
本発明の一実施形態にかかる変速機構は、上述のように構成されるため、以下のような作用及び効果を得ることができる。
〔2−1.軌道ガイド付き事前歯合わせ機構による作用及び効果〕
ピニオンスプロケット20が回転軸1に対して公転してチェーン6との噛み合いを開始する際に、事前歯合わせ機構170が噛合点の直前でピニオンスプロケット20の歯20cの位相合わせをする。
つまり、入力側同期用スプロケット173の歯173aが、チェーン6の外側の歯63aに常時噛み合っているため、入力側同期用スプロケット173と共に軸171aに支持された同期用チェーン175も常にチェーン6と歯合わせされた同位相状態で回転している。
そして、ピニオンスプロケット20が噛合点の直前に達すると、出力側同期用スプロケット176が同期用チェーン175の疑似リンク溝175cと噛み合う。なお、出力側同期用スプロケット176の歯176aはピニオンスプロケット20の歯20cよりも刃先が先鋭に形成され、半歯分の位相ずれがあっても疑似リンク溝175c内に出力側同期用スプロケット176の歯176aが容易に噛みこむ。
同期用チェーン175は、チェーン6と同位相状態で回転しているので、出力側同期用スプロケット176も同期用チェーン175と噛み合うとチェーン6と位相が同期する。ただし、この出力側同期用スプロケット176も同期用チェーン175と微小の位相差を含んで噛み合うので、その分だけ出力側同期用スプロケット176とチェーン6との間に位相差が生じるが、この位相差は僅かである。
したがって、出力側同期用スプロケット176と常に対応した位相関係(一定の位相差)を有するピニオンスプロケット20の歯20cも、チェーン6のリンク溝61cと僅かな位相差内に位相調整され、噛合点では、ピニオンスプロケット20の歯20cはチェーン6のリンク溝61cに確実に噛み合う。これにより、ピニオンスプロケット20の歯20cがチェーン6のリンクプレート61に当たって歯飛びするおそれが解消され、無段変速機構が円滑に作動する。
しかも、入力側同期用スプロケット173は、噛合点の近傍でチェーン6に外周側から圧接しチェーン6の軌道を外側からガイドする軌道ガイドとして機能するので、チェーン6の軌道を内側に僅かにシフトさせるだけでチェーン6の暴れや離脱を抑制することができ、動力伝達効率の低下を抑制しながらチェーン6の軌道をガイドすることができる。さらに、チェーンの張力が限度近辺になり、ピニオンスプロケット20がチェーン6から外れる方向の力が発生する噛合点の直前で、ピニオンスプロケット20のチェーン6との歯合わせを行ないつつチェーンの軌道をガイドすることができ、極めて効果的である。
〔2−2.チェーン追従移動機構による作用及び効果〕
また、変速比の変更時にピニオンスプロケット20が径方向に移動して複合スプロケット5の径が変更されると、チェーン6の走行軌道が変化して上記の噛合点の位置も変化するが、チェーン追従移動機構80によって、事前歯合わせ機構170の入力側同期用スプロケット173及び同期用チェーン175も、チェーン6の走行軌道の変化に追従するように移動するので、変速比の変更時や変更後にも事前歯合わせを支障なく実施することができる。
また、変速比の変更時には、チェーン6の軌道も変化するが、追従ガイドとして入力側同期用スプロケット173も、この変化に追従して追従軌道FOに沿って移動するため、変速比の変更時や変更後にも、入力側同期用スプロケット173が噛合点の近傍でチェーン6に外周側から圧接しチェーン6の軌道を外側からガイドし、チェーン6の暴れや離脱を効果的に抑制することができる。
しかも、このチェーン追従移動機構80は、相対回転駆動機構30の一部、即ち、メガネフォーク35やスプロケット移動用軸方向移動機構31を兼用して構成されるので、部品増及びこれによるコスト増や構造の複雑化を抑制しながら、しかも、チェーン6の軌道の変化に確実に追従しながら、事前歯合わせやチェーン6軌道の外側からのガイドをすることができる。
〔2−3.位相ずれ許容動力伝達機構による作用及び効果〕
また、事前歯合わせ機構170によってピニオンスプロケット20の歯20cの位相合わせをするには、ピニオンスプロケット20の歯20cが回転方向に可動でなくてはならないが、単に可動にしたのでは、ピニオンスプロケット20とチェーン6との間での動力伝達に支障を来すが、ピニオンスプロケット20の軸20aに対する微小回転を許容すると共に、ピニオンスプロケット20を軸20aに対して回転方向の中立位置に付勢し微小回転を弾性的に規制する位相ずれ許容動力伝達機構190が装備されているので、ピニオンスプロケット20とチェーン6との間での動力伝達を実現しながら、ピニオンスプロケット20を回転方向に可動とし、歯合わせを実現することができる。また、付勢機構190Bの付勢部材193がキー部材191のキー溝20dに対する相対回転を弾性的に規制するので、ピニオンスプロケット20の歯20cがチェーン6に噛み合う際の衝撃も吸収され、噛み合いショックを生じることなく円滑に噛み合う。
特に、C型弾性部材193は、全体が厚みを一定に形成された板状であり、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に半径方向幅Wが大きくなるように形成されているので、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって径方向の剛性が高くなり、逆に、ピン194の部分から合口193a,193bに接近するにしたがって径方向の剛性が低くなる。
このため、C型弾性部材193が図15(a1)に示す中立状態から図15(a3),図15(a4)に示すように弾性変形する際には、比較的剛性に低い合口193a,193bの付近で大きく変形し、中間部193cに近づくにしたがって変形量も小さくなるため、中間部193cの付近の応力集中が緩和される。これによって、ピニオンスプロケット20の外径を大きくすることなく、中間部193cの疲労強度を確保できる。
また、ピニオンスプロケット20等の内周壁20wとC型弾性部材193の外周面193owとの間には、C型弾性部材193の合口193a,193bの部分に近づくほど大きくなる隙間195s1,195s2が確保される。この隙間195s1,195s2は、C型弾性部材193が中立状態から弾性変形する際に、合口193a,193bの付近の大きな変形を許容し、フローティング機構を円滑に作動させることができる。
そして、回転許容機構190Aでは、キー部材191及びキー部材191を通じて一体回転する出力側同期用スプロケット176及び各ピニオンスプロケット20が、軸20aに対して歯20cの半歯分だけ回転可能になっているので、極力回転可能な遊びを抑えながら、歯合わせを実現することができる。
また、係止部材のピン194は極めて小径であり、色々な部品公差が集積されてピン194の機能に影響するため、ピン194によりC型弾性部材193を適正に係止することができなくなるおそれがあるが、ピン194には、弾性的に径を拡縮可能にするスリットを有するスプリングピンが用いられているので、スプリングピン194が自ら縮径しながら各部の部品公差を吸収する。このため、C型弾性部材193がヒネリ力を受けてもC型弾性部材193にズレが生じ難くなり、C型弾性部材193がピン194から離脱することなく適正な位置を保持してキー部材191に付勢力を付与することができ、フローティング機能が適正に発揮される。
また、第2凹所195bの曲率半径は第1凹所195aの曲率半径やピン194の外径よりも僅かに大きく設定され、C型弾性部材193が中立状態にあると、ピン194の外周面は第2凹所195bの両側部193dで第2凹所195bの壁面から僅かに離隔している。これにより、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転し、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から合口193bの側に相対変位して、C型弾性部材193が弾性変形する際に、離隔分が、C型弾性部材193の弾性変形を許容するため、第2凹所195bの一側がピン194の外周面に過剰に強く圧接することもなく、応力集中が回避または抑制される。
〔3.その他〕
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した一実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせてもよい。
例えば、上記実施形態では、チェーン追従移動用軸方向移動部材187をメガネフォーク(スプロケット移動用軸方向移動部材)35と一体に設け、チェーン追従移動用軸方向駆動機構にスプロケット移動用軸方向駆動機構31を兼用し、チェーン追従移動機構80は、相対回転駆動機構30の一部を用いているが、入力側同期用スプロケット173を追従ガイドとして機能させる点に着目すれば、チェーン追従移動機構80を、相対回転駆動機構30から独立させ、相対回転駆動機構30とは別個に設けても良い。この場合、チェーン追従移動用軸方向移動部材187をメガネフォーク35から独立させて、スプロケット移動用軸方向駆動機構31とは別の駆動機構で移動させることになる。
さらに、チェーン追従移動機構80は、事前歯合わせ機構170、特に、その第1同期回転部材171をチェーン6の軌道変更に追従して移動させるものであればよく、上記実施形態のように、追従用カム溝188内にカムローラ182bが挿入されるカム構造に限定されるものではない。この場合、事前歯合わせ機構170をチェーン6の軌道変更にメカ的に追従移動させるものでもよく、コントローラの制御によって事前歯合わせ機構170をチェーン6の軌道変更にメカ的に追従移動させるものでもよい。
また、チェーン追従移動用軸方向移動部材187はメガネフォーク(スプロケット移動用軸方向移動部材)35と一体に設け、チェーン追従移動用軸方向駆動機構にスプロケット移動用軸方向駆動機構31を兼用している点に着目すれば、追従ガイド機構を、事前歯合わせ機構170(第1同期回転部材171の入力側同期用スプロケット173)とは別個に設けても良い。この場合、追従ガイド機構は、チェーン6の軌道を外側からガイドするものであればよく、噛合点とは異なる箇所でチェーン6の軌道をガイドすることになるが、噛合点に近ければ、より効率よく、即ち、チェーン6を僅かに押圧するだけでチェーン6の軌道をガイドすることができる。
さらに、位相ずれ許容動力伝達機構については、上記実施形態にかかる変速機構のみならず、他の変速機構や、変速機構にに限らず、歯車の歯車軸に対する位相ずれを許容しつつ動力伝達を実現したい動力伝達経路に広く適用しうるものである。
また、上記実施形態では、C型弾性部材193を厚さ一定の平板で形成し、複数枚のC型弾性部材193を重ねて使用しているおり、平板で形成する点は加工性がよく、必要に応じた枚数を使用するため汎用性も高いが、これらを一体にして1つの部品で形成しても良い。また、合口の部分からピンに接近するにしたがって次第に径方向の剛性が高くなるように形成されていればよく、厚さ一定でなくても良い。
例えば、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に厚さを大きくし、次第に径方向の剛性が高くなるように形成しても、C型弾性部材193の中間部193c付近の疲労強度を確保する上で有効である。このように構成すれば、例えば半径方向幅を一定にしても、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に径方向の剛性が大きくなる。このため、疲労強度を確保するという観点からは、C型弾性部材193を、合口193a,193bの部分からピン194に接近するにしたがって次第に半径方向幅が大きくなるように形成することは必須ではないが、このように次第に半径方向幅が大きくなるように形成することにより、C型弾性部材193の合口193a,193bの付近の大きな変形代を確保することができ好ましい。
さらに、上記実施形態では、ピン194等のピン状の係止部材を収容するための収容空間195を形成する半円筒状の第1凹所195aが、ピニオンスプロケット(歯車)20の内周壁20wに形成された例を説明したが、この第1凹所をピニオンスプロケット軸(歯車軸)20aの外周壁20awの対応する箇所に形成しても良い。この場合、半円筒状の第2凹所をC型弾性部材193の中間部193cの内周に形成することになる。そして、ピン状の係止部材はC型弾性部材193をピニオンスプロケット20の内周壁20wの側にに圧接するようにして係止することになる。
このように構成した場合にも、第2凹所の曲率半径を第1凹所の曲率半径やピン194の外径よりも僅かに大きく設定すれば、C型弾性部材193が中立状態にあると、ピン194の外周面は第2凹所の両側部で第2凹所の壁面から僅かに離隔していることが好ましい。これにより、ピニオンスプロケット20が軸20aに対して相対回転し、キー部材191がキー溝20d内の中立位置から合口193a又は193bの側に相対変位して、C型弾性部材193が弾性変形する際に、この離隔分が、C型弾性部材193の中間部193c付近の弾性変形を許容するため、第2凹所の一側がピン194の外周面に過剰に強く圧接することもなく、応力集中が回避または抑制される。
また、C型弾性部材193の弾性変形が、C型弾性部材193の中間部193c付近で大きく生じてC型弾性部材193の中間部193c付近の弾性変形量が無視できるような弾性分布とすれば、ピン194の収容空間195を区画する第2凹所195bも、曲率半径を、第1凹所195aと同様にピン194に合わせるように構成することもできる。
また、ピン194に使用するスプリングピンは、弾性的に径を拡縮可能にするスリットを有するものであればよく、上記実施形態のものに限定されない。