図1は、燃料電池システム100の概略構成を例示した説明図である。図2は、燃料電池200の概略構成を例示した説明図である。燃料電池システム100(以下、単にシステムと称する)は、駆動用電源を供給するためのシステムとして、燃料電池自動車や電気自動車等に搭載されて使用される。システム100は、燃料電池200と、カソードガス供給排出部110と、アノードガス供給排出部130と、燃料電池循環冷却部140と、負荷装置150と、カソードオフガス再循環部(以下、再循環部と称する)160と、制御装置190とを備えている。
カソードガス供給排出部110は、コンプレッサ111と、加湿部112と、カソードガス供給流路113と、封止弁113s、温度センサ114と、湿度センサ115と、流量センサ116と、カソードガス排出流路117と、調圧弁118と、圧カセンサ119と、を備えている。カソードガス供給排出部110は、燃料電池200の、触媒層を含むカソード225に酸素を供給するために、コンプレッサ111から、カソードガス供給流路113を介して、燃料電池200のカソードガス流路CGCにカソードガス(酸素)を含む空気を供給する。カソードガス流路CGCに供給された空気は、カソード側拡散層237を介してカソード225に供給される。
コンプレッサ111は、取り込んだ空気を任意の圧力で燃料電池200に向けて送り出すことができる。加湿部112は、カソードガス供給流路113を介してコンプレッサ111から燃料電池200に供給される空気を加湿することができる。封止弁113sは、カソードガス供給流路113に設けられ、カソードガス供給流路113を開閉する。温度センサ114は、カソードガス供給流路113を流通する空気の温度(カソードの入口温度)Tcin[℃]を検出する。湿度センサ115は、カソードガス供給流路113を流通する空気の相対湿度(カソードの入口湿度)RHcin[%]を検出する。流量センサ116は、カソードガス供給流路113を流通する空気の流量(カソードの入口流量)Fcin[l/S]を検出する。
カソードガス供給排出部110は、燃料電池200から排出された排気ガスを、カソードガス排出流路117を介して燃料電池200の外部に排出する。調圧弁118は、カソードガス排出流路117に設けられ、カソードガス排出流路117を流れるガスの流量を調整可能に構成されている。圧カセンサ119は、カソードガス排出流路117の内部の圧力(カソードの出口圧力)Pout[Pa]を検出する。カソードガス供給排出部110は、コンプレッサ111による空気の供給流量や加湿部112による加湿量を調整することによって、カソードの内部を任意の湿度とすることができる。
再循環部160は、循環流路161と、循環ポンプ162と、調圧弁163と、を備えている。循環流路161は、カソードガス供給流路113とカソードガス排出流路117とに連通しており、カソードガス排出流路117を流れるカソードオフガスの少なくとも一部をカソードガス供給流路113に供給できる。循環流路161は、コンプレッサ111、加湿部112よりも下流側でカソードガス供給流路113に連通し、調圧弁118よりも上流側でカソードガス排出流路117に連通している。循環ポンプ162は、循環流路161に設けられ、カソードガス排出流路117から取り込んだカソードオフガスを任意の圧力でカソードガス供給流路113に向けて送り出すことができる。カソードオフガスとは、カソードガスのうち化学反応による発電に寄与せずに燃料電池200から排出されたガスである。調圧弁163は、循環流路161に設けられ、循環流路161を流れるカソードオフガスの流量を調整可能である。例えば、調圧弁118を閉じ、調圧弁163を開き、コンプレッサ111を停止させ、循環ポンプ162を駆動することにより、カソードオフガスを燃料電池200に再び供給して再循環させることができる。尚、循環流路161は、加湿部112よりも下流側でカソードガス供給流路113に連通しているがこれに限定されない。
アノードガス供給排出部130は、水素供給部131と、加湿部132と、アノードガス供給流路133と、封止弁133s、アノードガス排出流路135と、封止弁136とを備えている。アノードガス供給排出部130は、燃料電池200の、触媒層を含むアノード224に水素を供給するために、水素供給部131から、アノードガス供給流路133を介して、燃料電池200のアノードガス流路AGCに水素ガスを供給する。封止弁133sは、アノードガス供給流路133に設けられ、アノードガス供給流路133を開閉する。アノードガス流路AGCに供給された水素は、アノード側拡散層236を介してアノード224に供給される。水素供給部131は、水素タンクと、流量調整弁を含んで構成され、水素を任意の流量および圧力で燃料電池200に供給することができる。加湿部132は、アノードガス供給流路133を介して水素供給部131から燃料電池200に供給される水素ガスを加湿することができる。また、アノードガス供給排出部130は、燃料電池200のアノード224に供給された水素を含むガスを、アノードガス排出流路135を介して、燃料電池200の外部に排出する。封止弁136は、アノードガス排出流路135に設けられ、アノードガス排出流路135を開閉する。なお、アノードガス供給排出部130は、アノードガス排出流路135から排出されるガスをアノードガス供給流路133に循環させる構成としてもよい。
燃料電池循環冷却部140は、ラジエータ141と、温度センサ143と、冷媒循環ポンプ144と、冷媒供給流路145と、冷媒排出流路146とを備えている。ラジエータ141は、冷媒供給流路145を介して、冷却媒体を燃料電池200に供給するとともに、冷媒排出流路146を介して、燃料電池200の冷却に供された後の冷却媒体を受け取ることにより、冷却媒体を循環させて燃料電池200を冷却させる。冷却媒体としては、水、空気等を用いることができる。温度センサ143は、冷媒排出流路146の燃料電池200との接続部付近に設けられ、燃料電池200から流出する冷媒の温度(冷媒温度)Tfout[℃]を測定する。本実施例では、冷媒温度Tfout[℃]を燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcel[℃]および、カソード225の温度であるカソード温度Tca[℃]として使用する(Tfout=Tcel=Tca)。燃料電池循環冷却部140は、冷媒循環ポンプ144による冷却媒体の流通速度を調整することによって、カソードの内部の温度を調節することができる。
負荷装置150は、燃料電池200の電気的特性を測定するための装置であり、例えば、電気化学系汎用ポテンシオガルバノスタットを含んで構成することができる。負荷装置150は、配線154、155によってアノード側セパレータ240とカソード側セパレータ250に電気的に接続されている。負荷装置150は、燃料電池200の発電時に燃料電池200を流れる電流Icel[A]と、燃料電池200の電圧(セル電圧)Ecel[V]を測定することができる。
制御装置190は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを備えるマイクロコンピュータを含んで構成されている。制御装置190は、システム100の各構成要素と電気的に接続され、各構成要素から受け取る情報に基づいて、各構成要素の動作を制御する。また、制御装置190は、ROMにシステム100を制御するための図示しない制御プログラムが格納されている。CPUは、RAMを利用しながら制御プログラムを実行することにより、相関値取得部191と、被毒診断部193と、回復処理部195として機能する。また、ROMには、後述する被毒診断処理、回復処理などに用いられるデータが格納されている。被毒診断部193は、カソード225の触媒被毒の程度を診断する被毒診断処理を実行する。回復処理部195は、触媒被毒を回復させる回復処理を実行する。「触媒被毒」とは、カソード225において触媒として使用されているPt(白金)の表面がアニオン(例えば、硫酸イオン(SO4 2−))によって覆われることで触媒活性が低下する状態をいう。この触媒被毒によって触媒は可逆的に劣化する。「回復処理」とは、燃料電池200のカソード225の触媒被毒の診断結果に応じて触媒被毒を回復させる処理である。回復処理の詳細については後述する。
燃料電池200は、カソードガス供給排出部110から供給されたカソードガス(空気に含まれる酸素)と、アノードガス供給排出部130から供給されたアノードガス(水素)との電気化学反応によって発電する。ここでは、燃料電池200は、1つの燃料電池セルであるものとして説明する。燃料電池200は、電解質膜221の各面に触媒電極層であるアノード224およびカソード225が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)220を備えている。燃料電池200は、このMEA220の両側に一対のガス拡散層(アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237)を配置した発電体230と、発電体230を挟持する一対のセパレータ(アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250)とを含んで構成されている。
電解質膜221は、フッ素系樹脂材料あるいは炭化水素系樹脂材料で形成された固体高分子膜であり、湿潤状態において良好なプロトン導電性を有する。アノード224、およぴ、カソード225は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(ここではPt)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えぱフッ素系樹脂)を含んで構成されている。以下では、アノード224とカソード225をまとめて、単に触媒層とも呼ぶ。アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパなどの多孔質カーボン製部材により形成される。アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237は、MEA220と接触する面に撥水層を備えていてもよい。
アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成されている。アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250は、表面にガスや液体が流通する流路を形成するための凹凸形状を有している。アノード側セパレータ240は、アノード側拡散層236との間に、ガスや液体が流通可能なアノードガス流路AGCを形成している。カソード側セパレータ250は、カソード側拡散層237との間に、ガスや液体が流通可能なカソードガス流路CGCを形成している。
図3、4は、被毒診断回復制御を例示したフローチャートである。制御装置190は、被毒診断処理を実行するタイミングとして予め設定されている条件(診断開始条件)を満たしているか否かを判定する(ステップS1)。診断開始条件としては、例えば、燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcelが閥値Th1以上(Tcel≧Th1)となった状態が所定時間以上(例えば、1時間以上)継続したときである。この状態が継続した場合には、後述するカソード225のPt触媒の被毒が進行しているものと考えられるからである。尚、診断開始条件はこれに限定されない。例えば、燃料電池200の運転開始時又は運転停止時から一定期間経過したときや、前回の被毒診断回復処理から一定期間経過したときに、診断開始条件を満たすと判定してもよい。
制御装置190は、診断開始条件を満たしていない場合(ステップS1でNo)、イグニッションオフ信号を検出後(ステップS2)、被毒診断処理を実行せずに、燃料電池200の運転を停止する(ステップS26)。この場合、後述する回復処理は実行されない。ここで「燃料電池200の運転を停止し」とは、燃料電池200が要求に応じた電力の出力を停止している状態を意味する。
制御装置190は、診断開始条件を満たす場合(ステップS1でYes)、イグニッションオフ信号を検出後(ステップS3)、被毒診断処理を実施後に燃料電池200の運転を停止する(ステップS4)。被毒診断処理では、被毒診断部193によって、カソード225に生じている触媒被毒の程度が回復処理を必要とする程度か否かが診断される。
被毒診断処理が開始されると、まず、制御装置190の相関値取得部191は、カソード湿度相関値Cvhを取得する。「カソード湿度相関値Cvh」とは、カソード225の湿度と相関するパラメータであり、ここでは、その一例として、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaから推定されるカソード湿度RHca[%]を使用する。湿度センサ115から取得される入口湿度RHcinは、カソード225に流入する水の量ΔWinに相関している。負荷装置150から取得される燃料電池200の電流Icelは、燃料電池200の内部で生じる生成水の量ΔWgeに相関している。また、温度センサ114から取得されるカソード温度Tcaは、カソード225付近の飽和水蒸気圧Pswと相関している。よって、流入水量ΔWinと、生成水量ΔWgeと、カソードから排出される水の量としての設定値である排出水量ΔWlosから、カソード225の内部の水の増加量(ΔWin+ΔWge−ΔWlos)を推定し、推定した水の量とカソード225付近の飽和水蒸気圧と既知のカソード225の流路体積からカソード225の湿度を推定することができる。本実施例では、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaと、カソード湿度RHcaとの対応関係を示したマップが定義されており、このマップを使用することによって、被毒診断部193は、入口湿度RHcinと、電流Icelと、カソード温度Tcaから、カソード湿度RHcaを推定する。
なお、カソード湿度相関値Cvhとしては、カソード湿度RHcaのほかに、カソードガス排出流路117の内部の相対湿度(出口湿度)RHcout[%]や、カソードストイキ比RST[−]、燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcel[℃]、カソードガス供給流路113の内部の露点温度(入口露点温度)DTcin[℃]等であってもよい。「出口湿度RHcout」は入口湿度RHcinと、電流Icelと、セル温度Tcel(=Tca)から算出することができる。また、出口湿度RHcoutは、カソードガス排出流路117に湿度センサが備えられていれば、このセンサの検出値としてもよい。「カソードストイキ比RST」とは、カソードガスとしての酸素のストイキ比であり、燃料電池200が必要とする酸素の理論値に対する、実際の酸素の供給量の比率である。空気に含まれる酸素の量は一定なので、カソードストイキ比RSTは、カソードガス供給流路113を流通する空気の流量(入口流量)Fcin[1/S]と、燃料電池200を流れる電流Icel[A]から算出することができる。通常の運転では、カソードストイキ比RSTは、1.3から1.5程度に設定される。「入口露点温度DTcin」は、カソードガス供給流路113の内部の水蒸気圧を飽和水蒸気圧としたときの温度であり、入口湿度RHcin[%]と入口温度Tcin[℃]から算出することができる。
被毒診断部193は、カソード湿度RHcaを低下(乾燥)させたときの出力電圧相関値CVvの低下量ΔCVvから回復処理が必要か否かを判定する(ステップS5)。「出力電圧相関値CVv」とは、燃料電池200の電圧(セル電圧)Ecel[V]と相関するパラメータであり、セル電圧Ecel[V]のほか、セル抵抗Rcel等を例示することができる。本実施例では、出力電圧相関値CVvとして、負荷装置150によって検出されるセル電圧Ecelを使用する。この出力電圧相関値CVvとしてのセル電圧Ecelは、相関値取得部191によって取得される。制御装置190は、カソード湿度相関値Cvhを変更可能に構成されている。ここでは、制御装置190は、加湿部112の制御による入口湿度RHcinの増減、水素供給部131およびコンプレッサ111の制御による電流Icelの増減、燃料電池循環冷却部140の制御によるカソード温度Tcaの増減の少なくとも1つを実行することによってカソード温度Tcaを変更可能に構成されている。
次に、被毒診断処理の第1例について具体的に説明する。図5は、触媒被毒の程度の異なる2つの燃料電池のカソード湿度RHcaとセル電圧Ecelとの関係を例示した説明図である。図5の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、燃料電池のセル電圧Ecel[V]である。図5には、カソード225の触媒被毒の程度が相対的に小さい燃料電池のカソード湿度RHcaとセル電圧Ecelとの関係(RHca-Ecel特性)を○(白丸)で示し、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池のRHca-Ecel特性を△(三角)で示している。図5からわかるように、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることがわかる。そのため、本実施例の被毒診断部193は、以下の方法によって、燃料電池の触媒被毒の程度を判定する。
まず、相関値取得部191は、カソード湿度RHca[%]が第1の値RHca1[%](例えば、80[%])となっているときのセル電圧Ecel1[V]と、第1の値よりもカソード湿度が低い第2の値RHca2[%](例えば、20[%]、RHca1>RHca2)となっているときのセル電圧Ecel2[V]をそれぞれ検出する。被毒診断部193は、検出したセル電圧Ecel1[V]とセル電圧Ecel2[V]との差であるセル電圧差分値ΔEcel(ΔEcel=Ecel1−Ecel2)を算出する。セル電圧差分値ΔEcelは、カソード湿度RHcaの低下(乾燥)による発電性能の低下量を示している。被毒診断部193は、このセル電圧差分値ΔEcelが予め設定されている閥値Th2以上のとき(ΔEcel>Th2)に、触媒被毒の程度が回復処理の必要な程度であると診断する。
本実施例では、カソード湿度RHcaの第1の値として、RHca1=80[%]が設定され、第2の値として、RHca2=20[%]が設定されているが、第1の値RHca1と第2の値RHca2は、上記に限定されず任意の値とすることができる。なお、第1の値RHca1と第2の値RHca2は、具体的に特定する必要がなく、カソード湿度RHcaが一定量増減すればよいため、カソード湿度RHca以外のカソード湿度相関値CVhを使用して第1の値と第2の値を設定してもよい。また同様に、セル電圧差分値ΔEcelは、具体的に値を特定する必要がなく、相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係がわかればよいため、セル電圧Ecel[V]以外の出力電圧相関値CVvを測定し、その低下量ΔCVvから相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係を推定してもよい。
カソード225の触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときの性能低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなる理由のーつとして以下の理由が考えられる。Ptの触媒表面に対するH2OとSO4 2−の吸着特性に関して、カソードが低電位のときには、H2Oの吸着がSO4 2−の吸着よりも優勢となり、SO4 2−の吸着が抑制されることが知られている。このことから、カソード内の水の活量が増加すると、Pt触媒表面に対するSO4 2−の吸着量が減少すると考えられる。一方、カソード湿度RHcaが低下して乾燥状態に近づくと、カソード内の水の活量が減少し、Pt触媒表面に対するSO4 2−の吸着量が増加するため、性能低下量が相対的に大きくなると考えられる。
図3、4に戻り、被毒診断部193によって触媒被毒の程度が回復処理が必要な程度ではないと診断されると(ステップS5でNo)、制御装置190は回復処理を実行せずに燃料電池200の運転を停止する(ステップS26)。被毒診断部193によって触媒被毒の程度が、回復処理が必要な程度であると診断されると(ステップS5でYes)、被毒診断部193は、カソードの電位が0.6V以下であるか否かを判定する(ステップS21)。ここで、回復処理部195は、カソードオフガスをカソード225に再循環させない回復処理(以下、通常回復処理と称する)と、再循環部160によりカソードオフガスをカソード225に再循環させる回復処理(以下、再循環回復処理と称する)とを選択的に実行できる。カソードの電位が0.6V以下の場合には(ステップS21でYes)、回復処理部195は通常回復処を実行し(ステップS22)、カソードの電位が0.6Vを超えている場合には(ステップS21でNo)、回復処理部195は再循環回復処理を実行する(ステップS24)。
カソード電位が0.6V以下の場合に通常回復処理を実行する理由は、カソード225が既に低電位のときにはPt触媒の表面からのSO4 2−、HSO4−の脱離が促進されるからである。これに対して、カソード電位が0.6Vを超えている場合に再循環回復処理を実行する理由は、酸素濃度が低いカソードオフガスをカソード225へ再循環させることにより、燃料電池200の発電が抑制されてカソード電位を早期に低下させることができるからである。これにより、早期にPt触媒の表面からのSO4 2−、HSO4−の脱離を促進できる。尚、カソードオフガスは湿度が高いため、再循環回復処理により、カソード225内の湿度を早期に高くすることもできる。これによりカソード225内の液水の量を確保でき、SO4 2−、HSO4−を外部へと排出できる。
通常回復処理では、カソード225を低電位(例えば、0.6V以下)に維持しつつ、カソード225内の湿度が高くなるような処理が実行される。例えば以下の何れかの処理が実行される。
(1)アノードに水素ガス、カソードに加湿した窒素ガスを流す処理のように、カソード225が低電位となり、カソード225内の液水が多くなるような処理を実行する。
(2)カソードストイキ比RSTを1.2以下とした低効率発電のように、カソードが低電位となり、カソード225内の液水の排出が抑制されるような発電を行う。
(3)カソード225内の液水が多くなるような発電を行う。例えば、(a)セル温度Tcel[℃]を低下させる、(b)カソードストイキ比RSTを低下させる、(c)カソード225の背圧を上昇させる、(d)入口露点温度DTcinを上昇させる、(e)カソード225に供給する空気の温度を低下させる、の少なくとも1つ以上を実行することによってカソード225内の液水の量を増加させることができる。尚、セル温度Tcel[℃]の低下は、例えば冷媒循環ポンプ144による冷却媒体の流通速度を調整することにより可能である。カソードストイキ比RSTの低下は、コンプレッサ111による空気の流量を調整することによって可能である。カソード225の背圧の上昇は、調圧弁118の開度を調整することよって可能である。入口露点温度DTcinの上昇は、加湿部112によってカソード225に供給される空気の湿度を上昇させることにより可能である。カソード225への空気の温度の低下は、例えばカソードガス供給流路113にインタークーラを設けることにより可能である。
再循環回復処理では、カソード225を低電位(例えば、0.6V以下)に維持しつつ、カソード225内の湿度が高くなるような処理が実行される。例えば以下の何れかの処理が実行される。例えば、(a)セル温度Tcel[℃]を低下させる、(b)カソード225の背圧を上昇させる、(c)カソードオフガスの流量を低下させる、(d)カソードオフガスの温度を低下させる、の少なくとも1つ以上を実行することによってカソード225内の液水の量を増加させることができる。尚、カソード225の背圧の上昇やカソードオフガスの流量の低下、調圧弁163の開度を調整することによって可能である。尚、封止弁113aが開度を調整可能である場合には、調圧弁163と共に封止弁113aの開度をも調整することにより、カソードオフガスの流量の低下させることができる。カソードオフガスの流量を低下させることにより、燃料電池200から排出される液水の流量を抑制して、カソード225内での液水の滞留時間を長くできる。
以上のようにカソード電位が高い場合には、再循環回復処理を実行することにより、カソード225を早期に低下させてカソード225内の湿度を高い状態にしてカソード225内の液水の量を増加させる。これにより、カソード225の触媒被毒を早期に回復させることができる。また、カソードオフガスを再循環させるので、カソード電位を大きく低下させるためやカソード225内での液水を増加させるために燃料電池200を所定値以上の負荷で運転させる必要はない。このため、回復処理の実行による燃料電池200の無駄な発電を抑制でき、エネルギ効率の低下を抑制できる。尚、このような発電によって生じる余剰電力を補機で消費させるための制御や二次電池に充電するための制御も不要となるが、本発明はこのような余剰電力を補機で消費させたり又は充電する構成を排除するものではない。
図5に戻り、回復処理部195は、通常回復処理又は再循環回復処理を継続して、所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS23、S25)。所定時間が経過していない場合には(ステップS23、S25でNo)、回復処理部195は通常回復処理又は再循環回復処理を継続する。所定時間が経過すると(ステップS23、S25でYes)、アニオンによる触媒被毒は回復したとして、回復処理部195は通常回復処理又は再循環回復処理を停止して燃料電池200の運転を停止する(ステップS26)。尚、所定時間とは、例えばアニオンによる触媒被毒の回復に要する時間である。尚、通常回復処理が継続される所定時間と、再循環回復処理が継続される所定時間とは異なっていてもよい。例えば、再循環回復処理では湿度の高いカソードオフガスがカソード225に供給されるので、通常回復処理よりもカソード225内の液水が増加すると考えられる。従って、通常回復処理よりも再循環回復処理の方が短時間で触媒被毒を回復させることができる場合がある。従って、再循環回復処理が継続される時間は、通常回復処理が継続される時間よりも短くてもよい。
また、本実施例では、カソード湿度RHcaが低下して乾燥状態に近づくとPt触媒表面に対するアニオンの吸着量が増加してセル電圧が低下するという性質に基づいて被毒診断処理が行われる。このため、本実施例の被毒診断処理では、アニオンによる触媒被毒を容易に検出することができる。
ここで、触媒劣化の他の要因として例えばPt触媒に付着した酸化被膜がある。Pt酸化被膜は、カソード電位が低電位となるような発電をすることで除去できるが、アニオンによる触媒被毒は、低湿度条件でカソード電位が低電位となるような発電をおこなっても回復させることはできず、液水の多い発電をする必要がある。本実施例の被毒診断処理では、アニオンによる触媒被毒を他の要因とは区別して診断でき、アニオンによる触媒被毒を回復するのに適した回復処理を実行することができる。これにより、燃料電池200の発電性能を効果的に回復させることができる。
また、上記実施例では、触媒被毒を診断するための特別な装置を付加する必要がないため、燃料電池システムの大型化や複雑化を抑制することができる。
次に、被毒診断処理の第2例について説明する。上述した被毒診断処理の第1例では、カソード湿度相関値CVhとしてのカソード湿度RHcaを第1の値RHca1から第2の値RHca2に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(セル電圧差分値ΔEcel)を用いて回復処理が必要か否かを診断した。しかし、被毒診断処理は、上記の方法に限定されない。例えば、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることを利用して触媒被毒の程度を推定する種々の方法によって実現することができる。その一例として、被毒診断処理の第2例では、カソード湿度相関値CVhを瞬時に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(傾き)から回復処理が必要か否かを診断する。ここでは、カソード湿度相関値CVhとしてカソードストイキ比RSTを使用する。
図6は、触媒被毒の程度の異なる2つの燃料電池のカソードストイキ比RSTを瞬時に変化させたときのセル電圧Ecelの変化を例示した説明図である。図6の横軸は、時間t[min]であり、縦軸は、燃料電池200のセル電圧Ecel[V]およびカソードストイキ比RSTである。図6には、触媒被毒の程度が相対的に小さい燃料電池のセル電圧Ecelの時間的変化を実線で示し、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池のセル電圧Ecelの時間的変化を破線で示している。また、この2つの燃料電池のカソードストイキ比RSTの時間的変化を2点鎖線で示している。図6からわかるように、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソードストイキ比RSTを瞬時に変化させた後(t0以降)のセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることがわかる。そのため、被毒診断処理の第2例においては、被毒診断部193は以下の方法によって燃料電池の触媒被毒の程度を診断する。
まず、制御装置190は、基準時間t0(ここでは、t0=5[min])にカソードストイキ比RSTを瞬間的に変化(ここでは、RST=2→4)させる。カソードストイキ比の制御は、コンプレッサ111の駆動量や調圧弁118の開度などを制御することにより行われる。ここでの「瞬間的に」とは、例えば5秒程度を例示することができるが、変化に要する時間が毎回の診断ごとに変化しなければ、特に時間の長さについては限定されない。相関値取得部191は、基準時間t0から所定の時間経った後の第1の時間t1(例えば、t1=6[min])におけるセル電圧Ecel1[V]と、第1の時間からさらに所定の時間経った後の第2の時間t2(例えば、t2=8[min])におけるセル電圧Ecel2[V]をそれぞれ検出する。被毒診断部193は、検出したセル電圧Ecel1[V]とセル電圧Ecel2[V]との差であるセル電圧差分値ΔEcel(ΔEcel=Ecel1−Ecel2)を算出し、算出したセル電圧差分値ΔEcelが予め設定されている閥値Th3以上のとき(ΔEcel>Th3)に、触媒被毒の程度が回復処理の必要な程度であると診断する。
例えば、第1の時間t1として、基準時間t0から1[min]後の時間が設定され、第2の時間t2として、第1の時間から2[min]後の時間が設定されているが、第1の時間t1と第2の時間t2は、上記に限定されず任意のタイミングとすることができる。尚、基準時間t0におけるカソードストイキ比RSTの変化量は、具体的に特定する必要がなく、カソード湿度RHcaが一定量増減すればよいため、カソードストイキ比RST以外のカソード湿度相関値CVhを瞬時に変化させてもよい。例えば、基準時間t0に入口湿度RHcinや入口露点温度DTcinを瞬時に変化させてもよい。また同様に、セル電圧差分値ΔEcelは、具体的に値を特定する必要がなく、相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係がわかればよいため、セル電圧Ecel[V]以外の出力電圧相関値CVvを測定し、その低下量ΔCVvから相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係を推定してもよい。
このように、被毒診断処理は、カソード湿度相関値CVhを第1の値から第2の値に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(セル電圧差分値ΔEcelを用いて触媒被毒の程度を推定する方法に限定されない。被毒診断処理は、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることを利用して触媒被毒の程度を推定する種々の方法によって実現することができる。
本実施例では、カソード湿度RHcaの推定は、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaを用いるものとして説明した。しかし、カソード湿度RHcaの推定方法はこれに限定されない。例えば、カソードガス排出流路117に湿度センサが備えられていれば、この湿度センサによって検出される湿度をカソード湿度RHcaとして使用してもよい。また、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaのほか、カソードガス排出流路117の湿度を使用してカソード湿度RHcaを推定してもよい。
本実施例の制御装置190は、カソード温度Tcaをカソード湿度相関値Cvhとして使用しているため、加湿部112、水素供給部131およびコンプレッサ111、燃料電池循環冷却部140の少なくとも1つを制御することによってカソード温度Tcaを変更可能であると説明した。しかし、制御装置190が制御可能なパラメータはカソード温度Tcaに限定されない。例えば、制御装置190は、出口湿度RHcoutをカソード湿度相関値Cvhとして使用する場合には、加湿部112、水素供給部131、コンプレッサ111、封止弁113s、調圧弁118、燃料電池循環冷却部140を制御することによって、出口湿度RHcoutを変更してもよい。また、制御装置190は、カソードストイキ比RSTをカソード湿度相関値Cvhとして使用する場合には、コンプレッサ111を制御することによってカソードストイキ比RSTの値を変更してもよい。また、制御装置190は、セル温度Tcelをカソード湿度相関値Cvhとして使用する場合には、燃料電池循環冷却部140を制御することによってセル温度Tcelの値を変更してもよい。また、制御装置190は、入口露点温度DTcinをカソード湿度相関値Cvhとして使用する場合には、加湿部112を制御することによって入口露点温度DTcinの値を変更してもよい。
本実施例の被毒診断部193は、回復処理が必要か否かを診断する構成として説明したが、被毒診断部193は、推定した触媒の被毒量に基づいて回復処理が必要か否かを判定してもよい。例えば、被毒診断部193は、セル電圧差分値ΔEcelと触媒の被毒量との対応関係が示されたテーブルを備えている場合には、セル電圧差分値ΔEcelから触媒の被毒量を推定できる。この場合には、被毒診断部193は、被毒量から回復処理が必要か否かを判定できる。
上記実施例では、イグニッションオフ信号の受信後に被毒診断処理が実行されるがこれに限定されない。燃料電池200が運転中であれば、任意のタイミングで被毒診断処理を行ってもよい。
上記実施例では、カソード電位に応じて通常回復処理と再循環回復処理とが選択的に実行されるがこれに限定されない。再循環回復処理のみを実行してもよい。
上記実施例での被毒診断処理は、セル電圧Ecelの低下量に基づいて触媒の被毒程度が回復処理な程度か否かを判定したが、被毒診断処理はこれに限定されない。例えば被毒診断処理では、前回の回復処理が実行されてからの燃料電池200の累積運転時間が所定時間以上となった場合に、回復処理が必要であると診断してもよい。また、被毒診断処理は、前回の回復処理が実行されてからの車両の累積走行距離が所定距離以上となった場合に、回復処理が必要であると診断してもよい。燃料電池200の運転時間や車両の走行距離が長いほど、燃料電池200の触媒被毒の程度が大きいと考えられるからである。この場合も再循環回復処理を実行する。この場合の再循環回復処理の実行のタイミングは、例えば燃料電池200のアイドリング運転中であってもよいし、イグニッションオフ信号を検出後で燃料電池200の停止前であってもよい。また、カソード電位が0.6V以下となる範囲で燃料電池200を発電させてもよい。燃料電池200の発電により、カソード225内の液水は増加するからである。再循環回復処理の継続期間は、例えば車両の累積走行距離又は累積運転時間と回復処理の継続期間との関係を規定したテーブルに基づいて設定される。このようなテーブルは実験データに基づいて算出され、制御装置190のROMに予め記憶されている。
図7は、変形例に係るシステム100aの一部分を示した説明図である。尚、システム100aについて、システム100と同一の部分には同一の符号を付することにより重複する説明は省略する。再循環部160aは、循環流路161aと、循環流路161a上に設けられた調圧弁163とを備えている。循環流路161aは、コンプレッサ111よりも上流側でカソードガス供給流路113に連通し、調圧弁118よりも上流側でカソードガス排出流路117に連通している。循環流路161aには、循環ポンプは設けられていない。調圧弁118、163の開度を調整することにより、コンプレッサ111の吸引力によりカソードガス排出流路117内のカソードオフガスの少なくとも一部を、循環流路161aを介してカソードガス供給流路113に供給して、カソードオフガスを燃料電池200へ再循環させることができる。このようなシステム100aによっても、無駄な発電を抑制しつつ回復処理を行うことができる。尚、再循環回復処理を実行する際には、加湿部112によりカソードオフガスの湿度を更に上昇させてもよい。これによりカソード225内の液水の量を更に増加させることができる。
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。