以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
本開示における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
本開示における「重合性成分」とは、主剤(B)に含まれており、必要に応じて開始剤(A)に含まれてもよい、(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマー、他の重合性のモノマー又はオリゴマー、その他これらのモノマー又はオリゴマーと反応又は重合可能な成分を意味する。「重合性成分」が質量部に関して用いられるときは、これらの成分の合計量を意味する。
本開示の一実施態様の2液型接着剤は開始剤(A)及び主剤(B)からなり、開始剤は好気性開始剤であるオルガノボランを含み、主剤は重合性成分、金属ハロゲン化物及び金属カルボン酸塩を含む。いかなる理論に拘束されるわけではないが、金属ハロゲン化物と金属カルボン酸塩を併用する本開示の2液型接着剤において、長い可使時間と速い強度増加速度が同時に達成される機構は以下のようなものと考えられている。金属ハロゲン化物のハロゲン化物イオンが、オルガノボランの活性をさらに高めることが可能な金属陽イオンに優先して、酸素との接触により活性化したオルガノボランを不活性化して、重合の進行を抑制し可使時間を長くする。金属ハロゲン化物のハロゲン化物イオンがオルガノボランとの反応により消費された後、金属ハロゲン化物と金属カルボン酸塩の両方から接着剤中に供給される金属陽イオンが、オルガノボランの活性を高めて強度増加速度を向上させる。
開始剤(A)はオルガノボランを含む。オルガノボランは、重合性を有するモノマーのフリーラジカル重合を開始して、接着剤として機能するのに必要なポリマーを生成する。オルガノボランは以下の一般式:
によって表すことができる。式中、R
1は炭素数1〜約10のアルキル基であり、R
2及びR
3は、同じでも異なってもよく、独立に炭素数1〜約10のアルキル基、及び炭素数6〜10のアリール基から選択される。好ましくは、R
1、R
2、及びR
3は独立に、1〜約5個の炭素原子を有するアルキル基から選択される。R
1、R
2、及びR
3は全て異なってもよく、R
1、R
2、及びR
3の中の2つ以上が同じであってもよい。R
1、R
2、及びR
3と、これらが結合しているホウ素原子(B)とが1つになって開始剤が形成される。具体的なオルガノボランとして、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、及びトリ−sec−ブチルボランが挙げられる。
オルガノボランは錯化剤と錯形成することにより安定化することができる。オルガノボラン錯体は以下の一般式:
で表すことができる。式中、R
1、R
2、及びR
3は前述のとおりであり、Cxは錯化剤である。
有用な錯化剤(Cx)として、例えば、アミン錯化剤、アミジン錯化剤、水酸化物錯化剤、及びアルコキシド錯化剤が挙げられる。錯体中のホウ素原子の錯化剤(Cx)に対する比率は「v」で表され、好ましくは錯化剤及びホウ素原子が効果的な比率となるように選択される。錯体中のホウ素原子と錯化剤の錯形成部位の比率は好ましくは約1:1である。ホウ素原子と錯化剤の錯形成部位の比率が1:1を超える、すなわちホウ素原子が錯化剤の錯形成部位に対して過剰量となると、自然発火性を有する傾向がある遊離のオルガノボランが生じる場合がある。
アミン錯化剤として、少なくとも1つのアミノ基を有する種々の化合物又はそれらの混合物を使用することができる。アミン錯化剤はモノアミン又はポリアミン(すなわち、2以上のアミノ基、例えば2〜4のアミノ基を有する化合物)であってもよい。ポリアミンは複数のアミノ基がそれぞれ錯形成部位として機能しうることから、ポリアミン1分子に対して2分子以上のオルガノボランが錯形成することができる。
ある実施態様では、アミン錯化剤は、第1級又は第2級のモノアミンである。そのようなモノアミンとして、例えば、アンモニア、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミン、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、及びポリオキシアルキレンモノアミン(例えば、商品名JEFFAMINE M715及びM2005、Huntsman PetroChemical Corp.、テキサス州、ヒューストンから入手可能)が挙げられる。
別の実施態様では、アミン錯化剤はポリアミンである。そのようなポリアミンとして、アルカンジアミン、例えば1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,5−ペンタジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、及び3−メチル−1,5−ペンタンジアミン;アルキルポリアミン、例えばトリエチレンテトラアミン及びジエチレントリアミン;ポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリエチレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドトリアミン、ジエチエングリコールジプロピルアミン、トリエチレングリコールジプロピルアミン、ポリテトラメチレンオキシドジアミン、ポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)ジアミン、及びポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)トリアミン;並びにこれらの異性体が挙げられる。
アミジン錯化剤として、例えば国際公開第01/32717号に記載されているものを使用することができる。そのようなアミジン錯化剤として、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが挙げられる。
水酸化物錯化剤及びアルコキシド錯化剤として、例えば国際公開第01/32716号に記載されているものを使用することができる。そのような水酸化物錯化剤及びアルコキシド錯化剤として、例えば一般式:Mm+(R4O−)n(式中、R4は独立に、水素又は有機基(例えば、アルキル基又はアルキレン基)から選択され、Mm+は、対陽イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラアルキルアンモニウム、又はそれらの組み合わせ)を表し、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である。)で表されるものが挙げられる。
オルガノボラン錯体は、公知の技術を使用して容易に調製することができる。一般に、錯化剤をオルガノボランと不活性雰囲気中で撹拌しながら混合する。発熱が観察されることが多いため、混合物を冷却する、及び/又はオルガノボランをゆっくりと錯化剤に添加することが望ましい。成分の蒸気圧が高い場合、約70℃〜80℃より低い反応温度に維持することが望ましい。材料を十分に混合してから錯体を室温まで冷却する。特殊な保存条件は必要としないが、冷暗所で封をした容器中に錯体を保存することが好ましい。
オルガノボランは、主剤の重合性のモノマーが所望の重合度のポリマーを生成して、接着剤硬化物が所望の特性を有するのに有効な量で使用される。オルガノボランの量が少なすぎると、重合が完全に進行せず接着剤硬化物の接着性が不十分となる場合がある。一方、オルガノボランの量が多すぎると、重合の進行が急速すぎて作業に必要な可使時間が確保できない場合があり、あるいは、得られるポリマーの重合度が低くなり、接着に必要な凝集力が得られない場合がある。
オルガノボランの使用量は、接着剤の全質量(開始剤(A)及び主剤(B)を合計した質量)から充填材、非反応性希釈剤、及びその他の非反応性材料を引いた質量を基準とし、オルガノボランをホウ素として換算したときに、一般に約0.0003質量%以上、約0.14質量%以下、好ましくは約0.0007質量%以上、約0.1質量%以下、より好ましくは約0.001質量%以上、約0.05質量%以下となる量である。本開示において、オルガノボランに対する「非反応性」とは、引き抜き可能な水素原子又は不飽和結合が存在しない材料又は成分について用いられる。接着剤中のホウ素の質量%は、次式:
により計算することができる。
開始剤(A)は、オルガノボラン錯体を溶解又は希釈するために、アジリジン化合物、アジピン酸ポリエステルなどの適当な希釈剤又はそれらの組み合わせを含んでもよい。このような希釈剤は、例えば国際公開第98/17694号に記載されている。希釈剤は、オルガノボラン又はオルガノボラン錯体に対して反応性ではなく、オルガノボラン又はオルガノボラン錯体の増量剤として機能する。
希釈剤として使用されるアジリジン化合物は、例えば、メチル、エチル又はプロピルアジリジン部分を形成するようにその炭素原子が任意に短鎖アルキル基(例えば、炭素数1〜約10の有機基、好ましくはメチル、エチル又はプロピル)によって置換されていてもよい、少なくとも1つのアジリジン環又は基を有する。いくつかの実施態様ではアジリジン化合物はポリアジリジンである。
有用な市販のポリアジリジンの例として、商品名クロスリンカーCX−100(DSM NeoResins、マサチューセッツ州、ウィルミントンより入手可能)などが挙げられる。
アジリジン化合物はオルガノボラン錯体に可溶性であることが有利であり、このようなアジリジン化合物を用いて保管性に優れた2液型接着剤を提供することができる。アジリジン化合物は主剤に含まれるモノマーに可溶性であることが有利であり、このようなアジリジン化合物を用いて均一な混合物を容易に形成することができ、接着剤の作業性を向上することができる。アジリジン化合物の使用量は、一般に、接着剤の全質量を基準として、約50質量%以下、好ましくは約25質量%以下、より好ましくは約10質量%以下である。オルガノボラン錯体は、相当量(例えば、約75質量%以上、最高で約100質量%)がアジリジン化合物に溶解していてもよい。
オルガノボラン錯体を開始剤に含む場合、主剤(B)は脱錯化剤をさらに含む。本開示において「脱錯化剤」とは例えば、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基又はアルコキシド基と反応することにより、オルガノボランを錯化剤から解離させることができる化合物を意味する。脱錯化剤によって主剤に含まれる重合性のモノマーの反応を開始することができる。
オルガノボランがアミン錯化剤と錯形成する場合、好適な脱錯化剤はアミン反応性化合物である。有用なアミン反応性化合物の一般的な種類として、酸、酸無水物、アルデヒド、及びβ−ケトン化合物が挙げられる。アミン反応性化合物として、イソシアネート、酸塩化物、塩化スルホニルなど、例えばイソホロンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及び塩化メタクリロイルなどを使用することもできる。
有用な酸として、ルイス酸(例えば、SnCl4、TiCl4など)、及びブレンステッド酸(例えば、炭素数1〜約8の直鎖若しくは分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を有する脂肪族カルボン酸、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜10の芳香環を有する芳香族カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸、及びp−メトキシ安息香酸、塩酸、硫酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸など)が挙げられる。シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸;及び1,2−エチレンビスマレエート、1,2−プロピレンビスマレエート、2,2’−ジエチレングリコールビスマレエート、2,2’−ジプロピレングリコールビスマレエート、トリメチロールプロパントリマレエートなどのカルボン酸エステルを使用することもできる。
アミン反応性化合物として鎖状又は環状の酸無水物を使用することもできる。酸無水物にフリーラジカル重合性基、例えばエチレン性不飽和基が存在すると、主剤に含まれる重合性のモノマーとの共重合が可能な場合がある。有用な酸無水物として、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられる。
有用なアルデヒドとして、例えば、ベンズアルデヒド、o−、m−、及びp−ニトロベンズアルデヒド、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、p−トリルアルデヒド、3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。アセタールなどでブロックされたアルデヒドも使用することができる。
有用なβ−ケトン化合物として、例えば国際公開第2003/057743号に記載されたものを使用することができる。このようなβ−ケトン化合物として、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸2−メタクリロイルオキシエチル、ジエチレングリコールビス(アセトアセテート)、ポリカプロラクトントリス(アセトアセテート)、プロピレングリコールビス(アセトアセテート)、ポリ(スチレン−co−アリルアセトアセテート)、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルアセトアセトアミド、アセトアセトアニリド、エチレンビス(アセトアセトアミド)、プロピレングリコールビス(アセトアセトアミド)、アセトアセトアミド、アセトアセトニトリルなどを使用することができる。
脱錯化剤は、有効量、すなわち錯化剤からオルガノボランを解離させて重合を促進するために有効であるが、接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えない量で使用される。当業者には理解できるように、脱錯化剤の使用量が多すぎると、重合の進行が急速すぎて作業に必要な可使時間が確保できない場合があり、あるいは、得られるポリマーの重合度が低くなり、接着に必要な凝集力が得られない場合がある。一方、脱錯化剤の使用量が少なすぎると、重合が完全に進行せず接着剤硬化物の接着性が不十分となる場合がある。脱錯化剤は、一般に、脱錯化剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、又はアルコキシド反応性基と、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基、又はアルコキシド基とのモル比率が0.1:1.0〜10.0:1.0の範囲となる量で使用され、好ましくは脱錯化剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、又はアルコキシド反応性基と、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基、又はアルコキシド基とのモル比率が0.2:1.0〜4.0:1.0の範囲、又は約1.0:1.0となる量で使用される。
主剤(B)は、重合性成分として少なくとも1種類の重合性モノマー又はオリゴマーを含む。重合性モノマー又はオリゴマーとして、一般にフリーラジカル重合可能な少なくとも1種類のエチレン性不飽和モノマー又はオリゴマーが挙げられる。主剤(B)は少なくとも1種類の(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーを含むことが有利であり、少なくとも1種類のメタクリルモノマー又はオリゴマーを含むことが低表面エネルギープラスチック基材の接着において特に有利である。
そのような(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーとして、例えば、アルキル部位の炭素数が1〜約12、1〜約8、又は1〜約4の直鎖、分岐又は環状アルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート;水酸基以外にヘテロ原子をさらに有する一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、例えばテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート;多価アルコールと(メタ)アクリル酸との部分又は完全エステル、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エトキシル化若しくはプロポキシル化ジフェニロールプロパン、又はヒドロキシ末端ポリウレタンの(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
他の重合性モノマー又はオリゴマーとして、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−(アクリロイル)モルホリン、N−(アクリロイル)ピペリジンなどの窒素含有重合性モノマー;塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニルなどのハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン、クロトン酸エステル、マレイン酸エステル、スチレン化不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
ある実施態様において、主剤(B)は(1)イソボルニルメタクリレートと、(2)フェノキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の単環式メタクリレートとを含む。重合性成分として、アクリレートよりも重合反応性の低い成分(1)及び(2)のメタクリレートを使用して重合速度を制御することにより、ポリマーの重合度を上げて接着剤硬化物に必要な凝集力を付与することができる。
主剤(B)の成分(1)として用いることができるイソボルニルメタクリレートは、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が高いことから、接着剤硬化物に凝集力を付与する。また、いかなる理論に拘束されるわけではないが、イソボルニルメタクリレートは重合反応性が比較的低いためオレフィン系エラストマー基材中に吸着された酸素の影響を受けにくく、その結果、このような基材表面近傍の接着剤が浸透した領域において、ポリマーの重合度を上げて接着剤硬化物の界面接着力を向上させることに寄与すると考えられている。
いくつかの実施態様において、主剤(B)は、重合性成分を基準としてイソボルニルメタクリレートを約25質量%以上、約30質量%以上又は約33質量%以上、約70質量%以下、約60質量%以下又は約50質量%以下含む。イソボルニルメタクリレートの含有量を上記範囲とすることにより、接着剤硬化物により優れた接着力を付与することができる。
主剤(B)の成分(2)として用いることができる単環式メタクリレートは、それらのホモポリマーが、環構造に由来して比較的高く、しかしイソボルニルメタクリレートのホモポリマーと比べて低いTgを有することから、接着剤硬化物の凝集力を顕著に低下させずに接着剤硬化物の脆性の改善に寄与する。単環式メタクリレートは、フェノキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種である。これらの単環式メタクリレートは沸点が高いことから作業時の臭気発生を防止又は抑制することができ、比較的高温で硬化したときに、揮発による接着剤の組成変化を起こしにくい。これらの単環式メタクリレートの中でも、イソボルニルメタクリレートと組み合わせたときに、接着剤硬化物に高い凝集力及び界面接着力を付与できることから、フェノキシエチルメタクリレートを有利に使用することができる。
ある実施態様において、成分(2)の単環式メタクリレートは、成分(1)のイソボルニルメタクリレート100質量部に対して約40質量部以上、約200質量部以下使用する。いくつかの実施態様では、イソボルニルメタクリレート100質量部に対して、単環式メタクリレートを約50質量部以上、又は約60質量部以上、約190質量部以下、又は約180質量部以下使用する。
いくつかの実施態様では、主剤(B)は、重合性成分を基準として、成分(1)のイソボルニルメタクリレート及び成分(2)の単環式メタクリレートを合計して約80質量%以上、約85質量%以上又は約90質量%以上含む。ある実施態様では、重合性成分は、成分(1)のイソボルニルメタクリレート及び成分(2)の単環式メタクリレートからなる。
主剤(B)が、必須の重合性成分として成分(1)のイソボルニルメタクリレートと成分(2)の単環式メタクリレートとを含む実施態様において、成分(1)及び成分(2)以外の(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーを使用する場合、重合性成分を基準として、例えば、約0.1質量%以上、約1質量%以上、又は約2質量%以上、約20質量%以下、約10質量%以下又は約5質量%以下の量で使用される。炭素数の多い直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートは、それらのホモポリマーの低Tgに起因して、接着剤硬化物の凝集力及び界面接着力を低下させる場合があることから、いくつかの実施態様では、主剤は炭素数5以上の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートを含まない。
主剤(B)は、金属ハロゲン化物と金属カルボン酸塩を組み合わせて含む。この組み合わせにより、接着剤の硬化動力学を調整して、単独の材料では得られにくい、可使時間及び強度増加速度の好適なバランスを提供することができる。
金属ハロゲン化物及び金属カルボン酸塩に含まれる好適な金属陽イオンは、少なくとも2つの化学的に利用可能な酸化状態を有する。用語「化学的に利用可能な酸化状態」は当業者にはよく知られている。種々の元素の化学的に利用可能な酸化状態は、例えば、N.N.Greenwood and A.Earnshaw,”Chemistry of the Elements”,Pergamon Press,Oxford,pp.24−37(1984)に記載されている。金属陽イオンは、電荷の差が1のみ離れた少なくとも2つの化学的に利用可能な酸化状態を有することが有利である。金属陽イオンは、少なくとも2つの化学的に利用可能な酸化状態より低い酸化状態又はより高い酸化状態であってもよい。好適な金属陽イオンとして、例えば少なくとも2つの化学的に利用可能な酸化状態を有する遷移金属の陽イオン(ランタニド及びアクチニドの金属陽イオンを含む)が挙げられる。
金属陽イオンとして、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、アンチモン、白金、及びセリウムの陽イオンが挙げられ、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、パラジウム、及びアンチモンの陽イオンが好ましく、低コスト、高活性及び良好な加水分解安定性の観点から、マンガン、鉄、コバルト、銅及び亜鉛の陽イオンがより好ましく、金属ハロゲン化物については銅及びマンガンの陽イオンが最も好ましく、金属カルボン酸塩については銅及び亜鉛の陽イオンが最も好ましい。
金属陽イオンは、水、アンモニア、アミンなどのσ電子供与性配位子、又はカルボニル(一酸化炭素)、イソニトリル類、ホスフィン類、ホスフィト類、アルシン類、ニトロシル(酸化窒素)、エチレンなどのπ電子供与性配位子を有していてもよい。
金属ハロゲン化物の陰イオンとして、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンが挙げられる。オルガノボランの活性抑制効果が高いことから、陰イオンとして臭化物イオンを含む金属ハロゲン化物が有利に使用される。
具体的な金属ハロゲン化物として、例えば臭化銅(II)、塩化銅(II)、臭化鉄(III)、臭化バナジウム(III)、臭化クロム(III)、臭化ルテニウム(III)、臭化銅(I)、臭化鉄(II)、臭化マンガン(II)、臭化コバルト(II)、臭化ニッケル(II)、臭化アンチモン(III)、臭化亜鉛(II)及び臭化パラジウム(II)が挙げられ、臭化銅(II)、塩化銅(II)、臭化鉄(III)、臭化銅(I)、臭化鉄(II)、臭化マンガン(II)、臭化コバルト(II)、及び臭化亜鉛(II)が好ましく、臭化銅(II)、塩化銅(II)及び臭化銅(I)がより好ましく、臭化銅(II)及び臭化銅(I)が最も好ましく使用される。
金属ハロゲン化物は有効量、すなわち接着剤の硬化動力学には影響を与えるが、接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えない量で使用される。金属ハロゲン化物のハロゲン元素のモル当量比率は、オルガノボランのホウ素のモル当量を基準として、約0.01以上、約10以下であることが好ましく、約0.1以上、約1以下、さらには、約0.15以上、約0.3以下とすることができる。オルガノボランのホウ素のモル当量に対する金属ハロゲン化物のハロゲン元素のモル当量比率を上記範囲とすることにより、接着剤硬化の初期段階において、より効果的にオルガノボランの活性を抑制して長い可使時間を実現することができる。金属ハロゲン化物は主剤(B)に対して溶解性である、あるいは使用中の接着剤に対して少なくとも部分的に溶解することが有利である。
金属カルボン酸塩は、一般に電荷−m(mは1〜3の整数である)を有する少なくとも1つのカルボン酸イオンを含む。カルボン酸イオンとして、炭素数2〜20のカルボン酸イオン、例えば酢酸イオン、プロパン酸イオン、ブタン酸イオン、ヘキサン酸イオン、オクタン酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン(オクチル酸イオン)、ステアリン酸イオン、ナフテン酸イオン、アジピン酸イオン、及び1,2,3−プロパントリカルボン酸が挙げられる。金属カルボン酸塩の溶解性を高めて、より多量の金属イオンを接着剤中に供給できることから、炭素数6以上、又は8以上のモノカルボン酸イオンを含む金属カルボン酸塩、例えばヘキサン酸塩、オクタン酸塩、2−エチルヘキサン酸塩(オクチル酸塩)、ステアリン酸塩、及びナフテン酸塩、好ましくはオクタン酸塩、2−エチルヘキサン酸塩(オクチル酸塩)、ステアリン酸塩、及びナフテン酸塩が有利に使用される。
具体的な金属カルボン酸塩として、例えば酢酸銅(II)、酢酸鉄(III)、酢酸バナジウム(III)、酢酸クロム(III)、酢酸ルテニウム(III)、酢酸銅(I)、酢酸鉄(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸コバルト(II)、酢酸ニッケル(II)、酢酸アンチモン(III)、酢酸亜鉛(II)及び酢酸パラジウム(II)などの酢酸塩;ブタン酸銅(II)、ブタン酸鉄(III)、ブタン酸バナジウム(III)、ブタン酸クロム(III)、ブタン酸ルテニウム(III)、ブタン酸銅(I)、ブタン酸鉄(II)、ブタン酸マンガン(II)、ブタン酸コバルト(II)、ブタン酸ニッケル(II)、ブタン酸アンチモン(III)、ブタン酸亜鉛(II)及びブタン酸パラジウム(II)などのブタン酸塩;ヘキサン酸銅(II)、ヘキサン酸鉄(III)、ヘキサン酸バナジウム(III)、ヘキサン酸クロム(III)、ヘキサン酸ルテニウム(III)、ヘキサン酸銅(I)、ヘキサン酸鉄(II)、ヘキサン酸マンガン(II)、ヘキサン酸コバルト(II)、ヘキサン酸ニッケル(II)、ヘキサン酸アンチモン(III)、ヘキサン酸亜鉛(II)及びヘキサン酸パラジウム(II)などのヘキサン酸塩;オクタン酸銅(II)、オクタン酸鉄(III)、オクタン酸バナジウム(III)、オクタン酸クロム(III)、オクタン酸ルテニウム(III)、オクタン酸銅(I)、オクタン酸鉄(II)、オクタン酸マンガン(II)、オクタン酸コバルト(II)、オクタン酸ニッケル(II)、オクタン酸アンチモン(III)、オクタン酸亜鉛(II)及びオクタン酸パラジウム(II)などのオクタン酸塩;2−エチルヘキサン酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(III)、2−エチルヘキサン酸バナジウム(III)、2−エチルヘキサン酸クロム(III)、2−エチルヘキサン酸ルテニウム(III)、2−エチルヘキサン酸銅(I)、2−エチルヘキサン酸鉄(II)、2−エチルヘキサン酸マンガン(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、2−エチルヘキサン酸ニッケル(II)、2−エチルヘキサン酸アンチモン(III)、2−エチルヘキサン酸亜鉛(II)及び2−エチルヘキサン酸パラジウム(II)などの2−エチルヘキサン酸塩;ステアリン酸銅(II)、ステアリン酸鉄(III)、ステアリン酸バナジウム(III)、ステアリン酸クロム(III)、ステアリン酸ルテニウム(III)、ステアリン酸銅(I)、ステアリン酸鉄(II)、ステアリン酸マンガン(II)、ステアリン酸コバルト(II)、ステアリン酸ニッケル(II)、ステアリン酸アンチモン(III)、ステアリン酸亜鉛(II)及びステアリン酸パラジウム(II)などのステアリン酸塩;ナフテン酸銅(II)、ナフテン酸鉄(III)、ナフテン酸バナジウム(III)、ナフテン酸クロム(III)、ナフテン酸ルテニウム(III)、ナフテン酸銅(I)、ナフテン酸鉄(II)、ナフテン酸マンガン(II)、ナフテン酸コバルト(II)、ナフテン酸ニッケル(II)、ナフテン酸アンチモン(III)、ナフテン酸亜鉛(II)及びナフテン酸パラジウム(II)などのナフテン酸塩が挙げられ、オクタン酸銅(II)、オクタン酸鉄(III)、オクタン酸銅(I)、オクタン酸鉄(II)、オクタン酸マンガン(II)、オクタン酸コバルト(II)、及びオクタン酸亜鉛(II);2−エチルヘキサン酸銅(II)、2−エチルヘキサン酸鉄(III)、2−エチルヘキサン酸銅(I)、2−エチルヘキサン酸鉄(II)、2−エチルヘキサン酸マンガン(II)、2−エチルヘキサン酸コバルト(II)、及び2−エチルヘキサン酸亜鉛(II);ステアリン酸銅(II)、ステアリン酸鉄(III)、ステアリン酸銅(I)、ステアリン酸鉄(II)、ステアリン酸マンガン(II)、ステアリン酸コバルト(II)、及びステアリン酸亜鉛(II);並びにナフテン酸銅(II)、ナフテン酸鉄(III)、ナフテン酸銅(I)、ナフテン酸鉄(II)、ナフテン酸マンガン(II)、ナフテン酸コバルト(II)、及びナフテン酸亜鉛(II)が好ましく、オクタン酸銅(II)及びオクタン酸銅(I);2−エチルヘキサン酸銅(II)及び2−エチルヘキサン酸銅(I);ステアリン酸銅(II)及びステアリン酸銅(I);並びにナフテン酸銅(II)及びナフテン酸銅(I)がより好ましく使用される。
金属カルボン酸塩は有効量、すなわち接着剤の硬化動力学には影響を与えるが、接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えない量で使用される。金属カルボン酸塩の金属元素のモル当量比率は、オルガノボランのホウ素のモル当量を基準として、約0.01以上、約20以下であることが好ましく、約0.05以上、約2以下、さらには約0.08以上、約1.6以下とすることができる。オルガノボランのホウ素のモル当量に対する金属カルボン酸塩の金属元素のモル当量比率を上記範囲とすることにより、金属ハロゲン化物のみを使用したときと比べて接着剤中の金属イオンをより高濃度とすることができ、その結果、可使時間を顕著に短縮することなく、可使時間の経過後に速やかに重合反応を進行させる、すなわち強度増加速度を高めることができる。金属カルボン酸塩は主剤(B)に対して溶解性である、あるいは使用中の接着剤に対して少なくとも部分的に溶解することが有利である。
金属ハロゲン化物のハロゲン元素と金属カルボン酸塩の金属元素のモル当量比は、所望する可使時間及び強度増加速度に応じて適宜決定することができる。金属ハロゲン化物のハロゲン元素と金属カルボン酸塩の金属元素のモル当量比率は、一般に約0.01:1〜約1:10、又は約0.1:1〜約1:1とすることができる。
本開示の2液型接着剤は、さらに任意の添加剤を含んでもよい。このような添加剤は一般に主剤(B)に加えられるが、開始剤の機能を損なわない限り開始剤(A)に加えることもできる。
有用な添加剤の1つは、分子量約10,000〜約40,000のポリブチルメタクリレートなどの増粘剤である。増粘剤を用いることにより、接着剤の粘度をより塗布性に優れた粘性のシロップのような稠度に増大させることができる。このような増粘剤は接着剤の全質量に対して一般に約50質量%以下の量で使用することができる。
他の有用な添加剤はエラストマー材料である。エラストマー材料は接着剤硬化物の破壊靭性を改善することができる。例えば、剛性の高降伏強度材料(例えば、可撓性の高分子基材などの他の材料ほど容易にエネルギーを機械的に吸収しない金属基材)を接着するときに有益な場合がある。このような添加剤は接着剤の全質量に対して一般に約50質量%以下の量で使用することができる。
コアシェルポリマーを用いて、接着剤の塗布性及び流動特性を改良することもできる。改良された塗布性及び流動特性は、接着剤がシリンジタイプの塗布機から分配されるときに残る望ましくない糸引き(ストリング)又は接着剤が垂直面に適用された後の垂れ(サグ)の低減によって確認できる。コアシェルポリマーは、接着剤の全質量に対して、一般に約5質量%以上、約10質量%以上、又は約20質量%以上、約50質量%以下、約40質量%以下、又は約30質量%以下の量で加えることができる。
反応性希釈剤を開始剤(A)及び/又は主剤(B)に添加してもよい。好適な反応性希釈剤として、米国特許第6,252,023号明細書に記載されているような1,4−ジオキソ−2−ブテン官能性化合物、及び米国特許第5,935,711号明細書に記載されているようなアジリジン化合物が挙げられる。
国際公開第01/68783号に記載されたようなビニル芳香族化合物を開始剤(A)及び/又は主剤(B)に添加して、重合速度、硬化時間及び接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えずに接着剤の可使時間を長くすることもできる。
有用なビニル芳香族化合物として、例えば、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(Cytec Industries,Inc.、ニュージャージー州、ウッドランドパークから商品名「TMI」として入手可能)を、単官能性又は多官能性の反応性水素化合物、好ましくは、単官能性又は多官能性のアミン、アルコール、又はそれらの組み合わせと反応させることにより調製したα−メチルスチレン基含有オリゴマーが挙げられる。特に好ましい単官能性又は多官能性のアミンとして、Huntsman PetroChemical Corp.、テキサス州、ヒューストンから入手可能な、商品名JEFFAMINEとして市販されているアミン末端ポリエーテル、例えばJEFFAMINE ED600(名目分子量600のジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE D400(名目分子量400のジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE D2000(名目分子量2000を有するジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE T3000(名目分子量3000のトリアミン末端ポリエーテル)、及びJEFFAMINE M2005(名目分子量2000のモノアミン末端ポリエーテル)が挙げられる。好適なアルコール含有化合物として、例えばポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトントリオール、及びジエチレングリコールが挙げられる。ビニル芳香族化合物は、接着剤の全質量に対して、一般に約1質量%以上、約2質量%以上、又は約5質量%以上、約30質量%以下、約20質量%以下、又は約10質量%以下の量で加えることができる。
ヒドロキノンモノメチルエーテル、トリス(N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩などの阻害剤を主剤(B)に少量添加して、例えば貯蔵中の重合性モノマーの劣化を防止又は低減することができる。阻害剤は、モノマーの重合速度又は接着剤硬化物の所望の特性を本質的に低下させない量で添加することができる。阻害剤は、重合性成分を基準として、一般に約100ppm以上、約10,000ppm以下の量で使用することができる。
他の任意の添加剤として、非反応性希釈剤又は溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N−メチルカプロラクタムなど)、非反応性着色剤、充填剤(例えば、カーボンブラック、空洞ガラス/セラミックスビーズ、シリカ、二酸化チタン、中実ガラス/セラミック微小球、シリカアルミナセラミック微小球、導電性及び/又は熱伝導性粒子、帯電防止化合物、チョークなど)などが挙げられる。様々な任意の添加剤は、モノマーの重合速度又は接着剤硬化物の所望の特性を本質的に低下させない量で添加することができる。
本開示の2液型接着剤は、火炎処理、イトロ処理、コロナ放電、プライマー処理などの複雑な表面処理技術を使用せずに、難接着性材料である低表面エネルギープラスチック又はポリマー基材を接着する場合に特に有用である。本開示における「低表面エネルギー」とは、表面エネルギーが45mJ/m2未満、より典型的には40mJ/m2未満又は35mJ/m2未満である材料に関して用いられる。このような材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系材料、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、及び表面エネルギーが20mJ/m2未満であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素化ポリマー、並びにこれらの材料のエラストマー変性体、及びこれらの材料とエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのエラストマーとのポリマーブレンドが挙げられる。本開示の2液型接着剤を実用的に用いることのできる、比較的高い表面エネルギーの他のポリマーとして、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及びポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられる。本開示の2液型接着剤は、酸素を吸着しやすいエラストマー変性体及びエラストマーのポリマーブレンドを含む基材に有利に使用することができる。好適なエラストマー変性体及びエラストマーのポリマーブレンドを含む基材として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンのエラストマー変性体、又はエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのエラストマーとポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリマーブレンドを含む、オレフィン系エラストマー基材、特に、ポリプロピレンのエラストマー変性体及びエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのエラストマーとポリプロピレンのポリマーブレンドを含むポリプロピレン系エラストマー基材が挙げられる。
本開示の2液型接着剤の開始剤(A)及び主剤(B)は、このような材料を扱う場合に通常実施されるように混合される。本開示の2液型接着剤は、接着剤を基材に適用する前に一部又は全部が混合される。
2液型接着剤が商業的及び工業的環境で使用される場合、開始剤(A)及び主剤(B)が混合される比率は簡便な整数であることが、従来の市販の供給装置を使用した接着剤の適用が容易になるため有利である。このような供給装置として、米国特許第4,538,920号明細書及び第5,082,147号明細書に記載されたようなダブルシリンジ型アプリケーター、例えば商品名「ミックスパック」(MIXPAC)(ConProTec,Inc.、ニューハンプシャー州、セーレムより入手可能)を使用することができる。
通常、供給装置は、並んで配置された1組の管状容器を備え、接着剤の主剤及び開始剤の一方をそれぞれの管が受け入れるように設計されている。各管で1つずつの2つのプランジャーを同時に移動し(例えば手で動かすか又は手動のギア機構を用いて)、管の内容物が共通の細長い混合室に送り込まれる。混合室は2液の混合を促進するためのスタティックミキサーを備えていてもよい。混合された接着剤は、混合室から基材上に供給される。管が空になると、新しい管と取り替えて適用工程を続けることができる。
接着剤の主剤及び開始剤が混合される比率は、管の直径によって調節することができる。このとき、各プランジャーは一定の直径の管の内部に適合した寸法を有し、プランジャーは同じ速度で管内を移動する。供給装置は種々の異なる2液型接着剤の使用を意図している場合が多く、プランジャーは、好適な混合比で接着剤の主剤及び開始剤を供給するような寸法を有する。いくつかの実施態様において、主剤と開始剤の混合比は一般に1:1、2:1、4:1、及び10:1である。
接着剤の主剤及び開始剤が端数の混合比(例えば100:3.5)で混合される場合、使用者は接着剤の2つの液を手で秤量することになる。そのため、接着剤の2つの液は、10:1以下、より好ましくは4:1、3:1、2:1、又は1:1などの一般的な整数混合比で混合可能であることが、接着剤の商業的及び工業的有用性を高め、現在利用可能な供給装置の使用を容易にするために有利である。接着剤の2液の混合比を整数混合比(例えば10:1、4:1、3:1、2:1、又は1:1)に調整する目的で、開始剤に既に説明したビニル芳香族化合物を有利に添加することができる。
2つの液が混合された後、接着剤は、接着剤の可使時間以内に使用されることが好ましい。接着剤は一方又は両方の基材に適用され、次に基材に圧力を加えて基材を互いに接合し、ボンドラインから過剰の接着剤が押し出される。このようにすると、空気中に露出しており硬化が進行しすぎる可能性のある接着剤を除去することもできる。一般に、接着は接着剤が基材に適用された後に短時間で行われ、接着剤の可使時間以内で行われることが好ましい。接着層の厚さは一般に約0.01mm以上、約0.3mm以下であるが、基材間の間隙の充填が必要とされる場合には1.0mmを超えてもよい。接着工程は室温で容易に実施することができ、必要に応じて高温中で接着剤を後硬化することもできる。
本開示の2液型接着剤を用いた実施態様として、例えば、図1に示すような、第1のオレフィン系エラストマー基材12と、第2のオレフィン系エラストマー基材16と、第1のオレフィン系エラストマー基材12と第2のオレフィン系エラストマー基材16との間に介在し、第1のオレフィン系エラストマー基材12と第2のオレフィン系エラストマー基材16とを接合する2液型接着剤の硬化物14とを有する構造体10が提供される。
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
本実施例において使用した材料を表1に示す。
<接着剤試験方法>
(1)35℃での可使時間(オープンタイム)(OP35C)
35℃にて、1枚の表面未処理の試験片(PPGF)に混合した2液型接着剤を直接塗布する。所定の時間(0、3、5分間)放置した後、もう1枚の試験片(TSOP−6B)で接着剤を挟み、接着剤の塗布面積が1cm×2.5cm、厚さが1mmになるように位置を調整しながら、クリップで2枚の試験片を挟んで固定する。
クリップで固定した試験片を35℃で5分間養生した後、60℃で40分間さらに養生してからクリップを取り外す。このようにして接着した試験片は、引張試験機RTC−1325A(株式会社エーアンドディー)を用いて、23℃で5cm/分にてせん断方向に引っ張り、最大せん断強度を単位MPaで測定し、破壊後の試験片を目視観察して破壊モードを確認する。
(2)60℃でのせん断強度の立ち上がり速度(ROSB60C)
25℃にて、1枚の表面未処理の試験片(TSOP−6B)に接着剤を直接塗布した後、すぐにもう1枚の試験片(TSOP−6B)で接着剤を挟み、接着剤の塗布面積が1cm×2.5cm、厚さが1mmになるように位置を調整しながら、クリップで2枚の試験片を挟んで固定する。
クリップで固定した試験片を25℃で5分間養生した後、60℃で所定の時間(10、15、20、30、40分間)養生した後、すぐにクリップを取り外し、引張試験機RTC−1325A(株式会社エーアンドディー)を用いて、23℃で5cm/分にてせん断方向に引っ張り、最大せん断強度を単位MPaで測定する。
<例1〜11及び比較例C1〜C8>
<開始剤(A)>
表2に例1〜11及び比較例C1〜C8で使用した開始剤の組成を示す。開始剤の全質量が100gになるように各成分を200mLのガラス瓶に秤量し、「あわとり練太郎」ARE−500(自転公転ミキサー、株式会社シンキー)を用いて2000rpmにて2分間撹拌して開始剤を得た。
<主剤(B)>
表2に例1〜11及び比較例C1〜C8で使用した主剤の組成を示す。主剤の全質量が100gになるように各成分を200mLのガラス瓶に秤量し、「あわとり練太郎」ARE−500(自転公転ミキサー、株式会社シンキー)を用いて2000rpmにて2分間撹拌した後、70℃中で20分間放置し、さらに2000rpmにて2分間撹拌して主剤を得た。
<接着剤塗布>
体積比10:1のデュアルシリンジアプリケーター(ミックスパック CD050−10−PP、エーディーワイ株式会社)の体積比1側に開始剤(A)を、体積比10側に主剤(B)を充填した後、10cmの長さの17ステージのスタティックミックスノズル(MX5.4−17−S、エーディーワイ株式会社)を装着し、主剤及び開始剤を同時に押し出すことにより、スタティックミックスノズル中で混合した接着剤の塗布を行った。35℃での可使時間(OP35C)及び60℃でのせん断強度の立ち上がり速度(ROSB60C)による接着剤の評価結果を表3及び表4にそれぞれ示す。例1〜例3並びに比較例C1及び比較例C4の60℃でのせん断強度の立ち上がり速度(ROSB60C)を図2にグラフで示す。さらに、これらの評価結果を、十分に硬化させたときに3MPa以上のせん断強度及び界面破壊ではない接着を得ることができる35℃での可使時間、及び1MPa以上のせん断強度を得ることができる60℃での硬化時間として表5にまとめて示す。
表3及び表5に示すように、例1〜11では放置時間を5分間とした場合でも3MPa以上のせん断強度が得られ、破壊モードも界面破壊ではなく、材料破壊又は凝集破壊であった。表4及び表5に示すように、実施例1〜11では60℃の養生時間を30分間と短くした場合でも1MPa以上のせん断強度が得られた。
比較例C4〜C5が示すとおり、ハロゲン化金属塩を含まない接着剤では、35℃で5分以上といった十分な可使時間が得られない。また、比較例C1〜C3が示すとおり、ハロゲン化金属塩のみ含む接着剤では、十分長い可使時間が得られるが、60℃、30分以下で十分なせん断強度の立ち上がり速度は得られない。さらに、比較例C6〜C8が示すとおり、TEB/HDMA/CX−100(アミンで安定化された有機ボラン開始剤)又はSA(安定化アミンを引き抜き、有機ボランを解放する酸無水物)を増やすと、せん断強度の立ち上がり速度は速くなるが、代償として可使時間が短くなるため、ハロゲン化金属塩のみでは十分長い可使時間と十分速いせん断強度の立ち上がり速度を同時に得ることはできない。