JP2016042419A - リチウム−水溶性硫黄電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のリチウム−硫黄有機電解液電池の、正極の硫黄は絶縁体であるために導電剤を混入させる必要がある、リチウム多硫化物(Li2Sn;4≦n≦8)が有機電解液に溶けて、負極側へのシャトル効果により可逆的な充放電ができなくなったり,容量が低下したりするという問題点や水溶性リチウム硫黄電気化学電池の低容量の問題点を解決し、高容量が期待できるリチウム−硫黄電池を提供する。【解決手段】リチウム含有材料を含む負極、負極用の電解液、負極側と正極側とを分離し、リチウムイオンのみを通す固体電解質体、多硫化物のリチウム塩を含む正極用の水溶性電解液、及び、正極集電極を具備するリチウム−水溶性硫黄電池であって、放電時の少なくとも一部において正極側の水溶性電解液に接する固体硫黄Sが存在することを特徴とする。【選択図】図8

Description

本発明は、高容量が期待できるリチウム−水溶性硫黄電池に関する。
現在、繰り返し充放電が可能な二次電池は、各種モバイル機器向けの小型用途だけでなく、電気自動車等の走行車両向けや定置の電力貯蔵・負荷変動調整向けなどの大型用途にも使用されてきており、より高い容量の二次電池に対する要求が益々大きくなってきている。そのため、現在幅広く使用されているリチウムイオン電池の容量を大幅に上回る二次電池に対する要望が大きくなっており、そのような高容量二次電池の研究も進められてきている。
そのような高容量が期待できる二次電池として、リチウム硫黄電池が知られている。従来のリチウム硫黄電池は、負極として金属リチウム、正極として硫黄、電解液として有機電解液が使用されているが、硫黄の理論上の容量が約1600mAh/gと大きいため、注目されている。
しかしながら、従来のリチウム硫黄有機電解液電池は、次の(1)、(2)のような問題点がある。
(1)硫黄(S)が絶縁体であるため、正極には、導電助剤(例えばカーボン)を硫黄に混入させなければならないが、カーボン等の導電助剤の混入により、実質の容量が低下する。
(2)放電の中間体である多硫化物(Polysufide)のリチウム塩(リチウム多硫化物Li2Sn;nは1〜8の整数)のうちLi2S8からLi2S4までのリチウム多硫化物(Li2Sn;4≦n≦8)が有機電解液に溶けて、負極側に移動し、負極で還元され、還元されたものの一部がまた正極に戻るというシャトル効果があるため、リチウム硫黄電池の可逆的な充放電が出来なくなったり、容量が低下したりする。
これらの問題点を解決するために、Li2S8からLi2S4までのリチウム多硫化物が有機電解液に溶ける性能に基づいて、有機電解液に溶けているLi2S8を正極の活物質として利用して、放電の生成物質をLi2S4とするリチウム‐有機電解液溶存多硫化物電池が開発された(非特許文献1参照)。しかしながら、そのサイクルに伴う正極反応は、2Li + Li2S8 ⇔ 2Li2S4であるため、その正極理論容量は約210mAh/gと低い値で高容量が期待できない。
一方、特許文献1〜3では、リチウム金属等の活物質を含む負極と、固体電子移動媒体、該固体電子移動媒体と接する水溶性電解液、及び、水溶性電解液に接する硫黄種を含む正極とを備え、負極活物質は、前記水溶性電解液に接触しないように隔離されている水溶性リチウム硫黄電気化学電池が提案されている。しかしながら、実施例として記載されたものは低い容量のものに止まっている。
米国特許公開2013-0122334号明細書 米国特許公開2013-0122344号明細書 米国特許公開2013-0141050号明細書
Y. Yang, G. Y. Zheng and Y. Cui, Energy Environ. Sci. 2013, 6, 1552-1558
本発明は、上記のような従来技術を背景とするもので、従来のリチウム−硫黄有機電解液電池における上記(1)、(2)の問題点や水溶性リチウム硫黄電気化学電池の低容量の問題点を解決し、高容量が期待できるリチウム−硫黄電池を提供することを課題とする。
本発明者は、水溶性電解液にLi2S4からLi2Sまでの多硫化物(Polysufide)のリチウム塩(Li2Sn;1≦n≦4)が全部溶けるという現象に着目して、正極側を水溶性電解液とし、該リチウム塩の負極へのシャトル効果を防止する固体電解質を設ければ、前記課題が達成されるのではないかとの本発明者独自の着想に基づいて試験研究を重ね、そのような着想が正しかったこと、負極として金属リチウム、電解液として有機電解液(負極側)/固体電解質膜/水溶性電解液(正極側)、正極の活物質として水溶性電解液に溶けているLi2Sが使われると、その場合の硫黄の理論上の容量は約1132mAh/gと大きくなること、Li2Sn(1≦n≦4)が溶けている水溶性電解液に固体状の硫黄Sを加えると、容量がさらに増えることなどを知見した。
本発明は、上述のような着想や知見に基づいて完成されたものであり、本件では、次のような発明が提供される。
〈1〉リチウム含有材料を含む負極、負極用の電解液、負極側と正極側とを分離し、リチウムイオンのみを通す固体電解質体、多硫化物のリチウム塩を含む正極用の水溶性電解液、及び、正極集電極を具備するリチウム−水溶性硫黄電池であって、放電時の少なくとも一部において正極側の水溶性電解液に接する固体硫黄Sが存在することを特徴とするリチウム−水溶性硫黄電池。
〈2〉固体硫黄Sが分散系微粒子硫黄S及び/又はコロイド硫黄Sを含むものであることを特徴とする〈1〉に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
〈3〉固体硫黄Sは、放電前及び/又は放電中に補給されたものであることを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
〈4〉固体硫黄Sは、充電時に析出したものであることを特徴とする〈1〉又は〈2〉に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
〈5〉正極側の水溶性電解液は、LiOHを含むものであることを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
〈6〉正極集電体は、CoSで被覆されたものであることを特徴とする〈1〉〜〈5〉のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
〈7〉リチウム含有材料が金属リチウムであり、負極用の電解液が有機電解液であることを特徴とする〈1〉〜〈6〉のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
本発明のリチウム−水溶性硫黄電池によれば、従来のリチウム−硫黄有機電解液電池における、正極の硫黄は絶縁体であるために導電剤を混入させる必要がある、リチウム多硫化物(Li2Sn;4≦n≦8)が有機電解液に溶けて、負極側へのシャトル効果により可逆的な充放電ができなくなったり,容量が低下したりする等の問題は生じず、高容量が期待できる。また、本発明のリチウム−水溶性硫黄電池は、サイクル特性も良好である。
さらに、放電時の少なくとも一部において、正極側に固体硫黄を存在させるため、容量をより高くすることができる。
本発明の基礎となった実験例のリチウム−水溶性硫黄電池を模式的に示す図面。 実験例のリチウム−水溶性硫黄電池において、正極側の0.2M LiOH水溶液がLi2S4を含まない場合と、0.01M Li2S4を含む場合のCV曲線を示す図面。灰色線はLi2S4を含まない場合を、黒線は0.01M Li2S4を含む場合をそれぞれ示す。 実験例のリチウム−水溶性硫黄電池において、正極側の水溶性電解液が0.01M Li2S4を含む0.2MのLiOH水溶液である場合に、0.2mA/cm2の電流密度での放電曲線を示す図面。 正極側の水溶性電解液が0.01M Li2S4を含む0.2MのLiOH水溶液である場合の実験例のリチウム−水溶性硫黄電池において、0.2mA/cm2の電流密度で放電と充電を行った際の図面。(a)は電解質Li2S4/Li2Sの変化を示すグラデーション(グラデーションの透明化はS2-濃度の増加を表す。)、(b)は、放電曲線と充電曲線を示す図面。(c)、(d)は、放電・充電前と放電・充電後の集電体表面のSEM写真。(e)、(f)は、放電・充電前と放電・充電後の集電体表面のXPS。 正極側の水溶性電解液が0.01M Li2S4を含む0.2MのLiOH水溶液である場合の実験例のリチウム−水溶性硫黄電池において、0.2mA/cm2の電流密度で測定した放電、充電サイクル特性曲線を示す図面。 正極側の水溶性電解液が0.2M Li2S4を含む0.2MのLiOH水溶液である場合の実験例のリチウム−水溶性硫黄電池において、電流密度を0.1から1.6mA/cm2の範囲で変化させたときの電池の電圧(V)と出力(mWcm-2)とを示す図面。 正極側に6.4mgの硫黄粉末と2.84mg 0.1MのLi2S4を混合して存在させた実施例のリチウム−水溶性硫黄電池において、0.2mA/cm2の電流密度、2.3-3.0V vs Li/Li+の電位範囲で測定した充電曲線と放電曲線を示す図面。 実施例のリチウム−水溶性硫黄電池であって、正極側に固体硫黄を存在させた場合の反応を模式的に示した図面。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本発明の基礎となった実験例のリチウム−水溶性硫黄電池の概念図を示す。実験例のリチウム−水溶性硫黄電池は、正極(図1中Cathodeと表示)、リチウム含有材料(同Lithiumと表示)を有する負極、正極側と負極側とを分離し、リチウムイオンのみを通す固体電解質膜(同Separatorと表示)、多硫化物のリチウム塩を含む正極側水溶性電解液(同Aqueousと表示)を備えることを特徴とする。
負極を構成するリチウム含有材料としては、リチウム金属の他、リチウムを豊富に含む化合物である、リチウムカーボン、リチウムシリコン、リチウム錫、窒化リチウム等が挙げられる。この中でも大容量、サイクル安定性の点からみて、金属リチウムとリチウムシリコンが好ましく使用される。
負極側の電解液(同Organicと表示)は特に制限はないが、負極として金属リチウムを用いた場合には、電解液として有機電解液を用いる必要がある。
電解液に含有させる電解質としては、電解液中でリチウムイオンを形成するものであれば特に限定されない。例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiSbF6等が挙げられる。これら電解質は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
電解液の有機溶媒としては、この種の有機溶媒として公知のものがすべて使用できる。例えば、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、ジエチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC) 6等が挙げられる。これら有機溶媒は、単独でもよいが、組み合わせて使用してもよい。
負極側と正極側とを分離し、リチウムイオンのみを通す固体電解質体は、リチウムイオンのみを通す固体電解質からなるもので、好ましくはシート状又は膜状である。そのような固体電解質としては、例えば、Li3N、Garnet-Type型リチウムイオン伝導体、NASICON型リチウムイオン伝導体、β-Fe2(SO4)型リチウムイオン伝導体、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体、チオLISICON型リチウムイオン伝導体、高分子型リチウムイオン伝導体などが挙げられる。
正極側の電解液は、上述のとおり、水溶性のものであり、リチウム多硫化物(Li2Sn;1≦n≦4)単独の水溶液でも良いが、後述するように、水素発生電位を高めるため、例えばLiOH、KOH、NaOH等とリチウム多硫化物との混合物の水溶液とすることもできる。該リチウム多硫化物(Li2Sn;1≦n≦4)は、電解質としてだけでなく、正極側活物質としても機能する。
正極側の活物質や電解液を構成するリチウム多硫化物は、リチウムイオンのみを透過する固体電解質体により正極側においてだけ存在が許容され、負極側へは移動できないので、正負極間のシャトル効果は防止される。
正極は、活物質を含まず、集電体として前述のような正極側活物質としてのリチウム多硫化物(Li2Sn;1≦n≦4)の反応を仲介する。正極乃至正極集電体としては、限定するものではないが、CoS膜で被覆された黄銅メッシュとすることができる。
実験例のリチウム−水溶性硫黄電池においては、放電時には、負極側では、金属リチウム等のリチウム含有材料の表面でLi => Li+ + e-の溶解反応が、正極側の集電極では、S4 2- + 6e- => 4S2-の還元反応が進行する。
一方、充電時には、負極側では、リチウム含有材料の表面で Li+ + e- => Liの析出反応が、正極側の集電極では、4S2- => S4 2- + 6e-の酸化反応が進行する。
その結果、本発明のリチウム−水溶性硫黄電池は、次の(1)式の反応により充電、放電される。
6Li + S4 2- ⇔ 6Li+ + 4S2- ・・・(1)
S4 2-/S2-対のレドックス電位は約2.53V vs Li/Li+であり、水素発生電位に近い。Li2S4正極電解質の水素発生電位を高め、水の電気分解を防止するため、Li2S4正極電解質に適当量(例えば、0.05〜0.5M、好ましくは0.1〜0.3M)のLiOHを添加することができる。それに加え、正極の集電体を被覆するCoS膜は、多硫化物の酸化や還元の際の電気化学触媒として機能するだけでなく、集電体の水素過電圧を増加させ、水の水素発生電位を2.08Vに下げる。それ故、リチウム−水溶性多硫化物電池は、放電電位を、水素発生反応が防止できる2.3Vで終了させることができる。
本発明のリチウム−水溶性硫黄電池は、前記実験例のリチウム−水溶性硫黄電池を基礎とし、放電時の少なくとも一部において正極側に固体硫黄Sを存在させるものである。このように構成することにより、実験例よりも放電容量や充電容量を増加させることができる。固体硫黄Sの存在時期は、放電時の一部に限定されず、放電の全期間において存在していても良いし、充電時に存在していても良い。
固体硫黄Sは、通常、水中には溶解しないが、放電時の3S4 2- + 2e- => 4S3 2-の還元反応により生じるS3 2-が存在する水溶液中で、S3 2- + S => S4 2-の反応により溶解する。そして、これらの反応は、放電を停止しない限り固体硫黄が溶解してしまうまで繰り返される。
固体硫黄は、粉体、微粒子状、及び/又は、コロイド状として正極電解液中に存在させておいても良いし、粒状その他の各種形状の固体として正極側電解液容器の底壁等の壁面に存在させても良い。また、放電が必要な時に正極側に補給することもできる。放電終了時やその後の充電池にも正極側に固体硫黄Sを存在させておいても良い。充電時には、前述とは逆の反応が繰り返され、固体硫黄Sの存在量が増加する。
以下、本発明を実験例や実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではない。
<リチウム−水溶性硫黄電池の作製>
負極として、リチウム金属を、負極側の有機電解液として、1MのLiClO4を溶解した有機電解液(EC/DMC, 体積比1:1)1.5mlを、固体電解質として、リチウムイオン固体電解質(NASICON型リチウムイオン伝導体LISICON):0.15mm、イオン伝導率2×10-4 S/cm2)を、正極側電解液として、1MのLiOH水溶液と1MのLi2S4を混合、希釈して、0.01Mから0.2MまでのLi2S4と0.2MのLiOH水溶液1mlを、正極の集電体として、黄銅のメッシュの表面に触媒であるCoSを被覆したものを、それぞれ用いて、図1に示されるリチウム−水溶性硫黄電池を作製し、実験例1から実験例6まで充放電試験を行った。
<実験例1、比較例1>
正極側の0.2MのLiOH水溶液にLi2S4を含まない比較例1と0.01M Li2S4を含む実験例1について、0.005mV/Sの走査速度で2.3-2.8V vs Li/Li+の範囲内でサイクリックボルタンメトリ曲線(CV曲線)を測定した。その結果のCV曲線を図2に示す。灰色線はLi2S4を含まない比較例1を、黒線は0.01M Li2S4を含む実験例1を示す。比較例1では、酸化、還元反応の生起を示す電流変化がほとんど観察されなかったが、実験例1では、2.53V vs Li/Li+でLi2S4からLi2Sへの還元反応に対応する明確な正極ピークが、2.72V vs Li/Li+でLi2SとLi2S4との間の酸化反応に対応する明確な負極ピークがそれぞれ存在し、可逆的な充電、放電がなされていることが明確に示されている。
<実験例2>
正極側の水溶性電解液が0.01M Li2S4を含む0.2MのLiOH水溶液である場合について、0.2mA/cm2の電流密度で放電を行った。その際の放電曲線を図3に示す。2.55V近辺の放電は、リチウム−水溶性硫黄電池における6Li + S4 2- => 6Li+ + 4S2-の反応によるものである。2.08Vのところは水の水素発生電位である。
<実験例3>
正極側の水溶性電解液が0.1M Li2S4を含む場合について、0.2mA/cm2の電流密度で放電と充電を行った。
その際の水溶性電解液の色変化を図4(a)に示す。水溶性電解液は、S2-濃度の低いときの黄色とS2-濃度の高いときの透明との間で色変化が観察された。
放電曲線と充電曲線を図4(b)に示す。約2.67Vの開路電圧の電池は、最初に2.30Vまで放電され、その後、2.80Vまで充電された。放電と充電において、それぞれ1つのプラトー(電圧がほぼ一定の平坦部)が観察された。それらのプラトーは、S4 2-とS2-との間の還元、酸化反応に対応している。電池は、放電容量1129mAhg-1(理論容量の約99.7%)と、充電容量1130mAhg-1という高い容量を示した。
最初の放電・充電前と、該放電・充電後に、前記集電体の表面を撮影した走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4(c)、(d)に示す。充電・放電の前後において、CoS表面での形態変化や沈着層は観察されなかった。
最初の放電・充電前と、該放電・充電後に、前記集電体の表面について測定したX線光電子分光(XPS)スペクトルを図4(e)、(f)に示す。S 2p2/3とS 2p1/3の一対のピークが観察されたが、161.2eVのS 2p2/3ピークは、集電体表面のCoSのSに由来するもので、固体硫黄ピーク(163.7eV)は観察されなかった。このことから、充電による不溶性硫黄や放電生成物の沈着は無視し得ることが分かった。
<実験例4>
正極側の水溶性電解液が0.2M Li2S4を含む場合について、0.4mA/cm2の電流密度で放電と充電のサイクルを繰り返した。その際の放電・充電サイクル特性曲線を図5に示す。
第1回目のサイクルにおいて、754mAhg-1の放電容量と740mAhg-1の充電容量(98.1%のクーロン効率)を示した。また、第5回目のサイクルでも720mAhg-1の可逆容量と95.5%の容量維持率を示した。サイクル性能は再現性が高く、放電量維持率(あるサイクルでの放電容量/前回のサイクルでの放電容量)がサイクルごとに99%超であった。
<実験例5>
正極側の水溶性電解液が0.2M Li2S4を含む場合について、電流密度を0.16mA/cm2から1.6mA/cm2の範囲で変化させて放電を行った。その際の電池の電圧と出力を図6に示す。
電池の出力は、放電電位が2.33V vs Li/Li+のときに電流密度が0.16mA/cm2で最終的に4mWcm-2に近づいた。
<実施例>
6.4mgの硫黄粉末と2.84mg 0.1MのLi2S4を混合(=18.4%硫黄+81.6%Li2S4)して正極側に存在させ、0.2mA/cm2の電流密度、2.3-3.0V vs Li/Li+の電位範囲で、充電と放電を行った。その際の充電曲線と放電曲線を図7に示す。
放電容量は1202mAh/gに達した。この放電容量がLi2S4のみの理論値1132mAh/gを超えていることは、まず、次式(2)で示される還元反応があり、
3S4 2- + 2e- => 4S3 2-・・・(2)
次に、次式(3)のように固体硫黄Sが溶解反応し、
S3 2- + S => S4 2- ・・・(3)
これらの反応が図8に示しているように繰り返えされて固体硫黄Sが最終的に全部溶解し、放電反応に関わっていることを証明している。溶けたものは、
S4 2- + 6e- => 4S2- ・・・(4)
(4)式に沿って全部放電反応すると、その容量も18.4%硫黄と81.6% Li2S4全体の理論容量1232mAh/gに近づいている。なお、充電では、(4)式と逆の反応が生起すると考えられる。更に一部が充電反応、
S4 2- => 4S + 2e- ・・・・(5)
により固体硫黄Sまで戻る。
本発明のリチウム−水溶性硫黄電池は、高容量や良好なサイクル特性が期待できるので、各種モバイル機器向けの小型用途だけでなく、電気自動車、ハイブリッド自動車のような走行車両向け、各家庭や工場等における定置の電力貯蔵向け、太陽光発電、風力発電等の負荷変動調整向けなどの大型用途にも幅広く使用することが想定される。

Claims (7)

  1. リチウム含有材料を含む負極、負極用の電解液、負極側と正極側とを分離し、リチウムイオンのみを通す固体電解質体、多硫化物のリチウム塩を含む正極用の水溶性電解液、及び、正極集電極を具備するリチウム−水溶性硫黄電池であって、放電時の少なくとも一部において正極側の水溶性電解液に接する固体硫黄Sが存在することを特徴とするリチウム−水溶性硫黄電池。
  2. 固体硫黄Sが分散系微粒子硫黄S及び/又はコロイド硫黄Sを含むものであることを特徴とする請求項1に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
  3. 固体硫黄Sは、放電前及び/又は放電中に補給されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
  4. 固体硫黄Sは、充電時に析出したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
  5. 正極側の水溶性電解液は、LiOHを含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
  6. 正極集電体は、CoSで被覆されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
  7. リチウム含有材料が金属リチウムであり、負極用の電解液が有機電解液であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウム−水溶性硫黄電池。
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