JP2016040141A - 後輪転舵制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】 車両の左右の後輪をそれぞれ独立して転舵する後輪転舵装置を制御する後輪転舵制御装置において、意図しない転舵が発生し、車両の挙動が不安定に陥ることを未然に防止することができる後輪転舵制御装置を提供する。
【解決手段】 後輪転舵制御装置130は、左右の後輪をアクチュエータ14,15によりそれぞれ独立に転舵する後輪転舵装置を制御し、アクチュエータ14の回転角を検出する回転角検出器33Lと、アクチュエータ14の絶対位置を検出する絶対位置検出器34Lと、転舵指令値に従ってアクチュエータ14を制御する電子制御装置13Lとを備える。電子制御装置13Lは、転舵指令値と、回転角または絶対位置とを監視して意図しない転舵状態を検知する異常処理部55と、意図しない転舵状態を検知したとき、アクチュエータ14に駆動電力を与える駆動電源61を遮断する動力遮断部54aとを有する。
【選択図】 図4

Description

この発明は、自動車などの車両に適用する後輪転舵制御装置に関する。
従来から、車両の安定走行性能を図る目的で、前輪転舵に加え、後輪を転舵させる後輪転舵装置が知られている。後輪転舵装置の制御装置は、マイクロコンピュータを内蔵し、車両の状態を常に監視するための各種センサ群の値から的確な転舵角やトー角の制御量を決定し、転舵のためのアクチュエータを駆動している。転舵装置は車両の走行性能を左右する重要な機能であり、その異常が発生した場合は、確実に異常を検知し、安全性能を維持することが望まれる。
後輪の左右後輪を独立に操舵制御する制御装置に関わる異常時の車両の挙動が不安定になることを回避する対策として、次の技術が提案されている。例えば、後輪操舵システムの異常時の車両走行安定性の低下を防止するために、車両挙動安定化制御システムを備えた後輪操舵車両において、後輪操舵制御の異常(トー角の変更不能、検出不能など)が発生し、特にトーアウト状態においては、その異常を検知し車両挙動安定化制御システムをオンにすることで車両挙動の安定化を図っている(特許文献1)。
他の従来技術として、後輪トー角制御装置がトーアウト状態で異常となった場合に、操舵応答性が過敏になることを低減するために、電動パワーステアリング装置のステアリングアシスト力を低減することで操舵応答性を保証している(特許文献2)。
特許第5320286号公報 特開2010−254266号公報
特許文献1,2共に、例えばトーアウト状態で異常となった場合に、車両を安定化させるための制御を実行しており、不安定な挙動を回避することができる。しかし、万一意図しない転舵状態が発生した場合は、異常な状態に陥ってから異常を検出するよりも、意図しない車輪の駆動をできるだけ早期に検知し、未然に不安定状態を防止することが望ましいが、その具体的対策については特に記載がない。
また、引用文献1では、後輪操舵装置に異常が発生し、かつ車両挙動安定化制御システムがオフ状態にある場合に限定した異常処理となっており、車両挙動安定化制御システムの搭載を前提としている。
この発明の目的は、車両の左右の後輪をそれぞれ独立して転舵する後輪転舵装置を制御する後輪転舵制御装置において、意図しない転舵が発生し、車両の挙動が不安定に陥ることを未然に防止することができる後輪転舵制御装置を提供することである。
この発明の後輪転舵制御装置130は、車両の左右の後輪10,11をアクチュエータ14,15によりそれぞれ独立に転舵する後輪転舵装置12を制御する後輪転舵制御装置であって、
前記アクチュエータ14,15の回転角を検出する回転角検出器33と、
前記アクチュエータ14,15の絶対位置を検出する絶対位置検出器34と、
上位の制御手段9から入力される転舵指令値に従って前記アクチュエータ14,15を制御する電子制御装置13L,13Rと、
を備え、
前記電子制御装置13L,13Rは、
前記上位の制御手段9から入力される後輪の転舵指令値と、前記回転角検出器33で検出される回転角または前記絶対位置検出器34で検出される絶対位置のいずれか一方または両方と、を監視して意図しない転舵状態を検知する異常処理部55と、
この異常処理部55が意図しない転舵状態を検知したとき、前記アクチュエータ14,15に駆動電力を与える駆動電源61を遮断する動力遮断部54aとを有することを特徴とする。
前記「意図しない転舵状態」とは、後輪転舵指令が無いときに転舵角の変位を検出する状態、および、後輪転舵指令があり転舵角の変位を検出するがこの検出した転舵角と実転舵角との偏差が閾値以上の状態を意味する。前記閾値は、例えば、実験やシミュレーション等の結果により定められる。前記「意図しない転舵状態」の例として、例えば、電子制御装置におけるマイクロプロセッサの入出力の異常、回転角検出器のRDコンバータの入出力の一部異常等が挙げられる。
この構成によると、異常処理部55では、前記転舵指令値、回転角、および絶対位置により定められた所定の「意図しない転舵状態」が発生したか否かを判定する。例えば、回転角検出器33Lから得られる回転角を監視する。上位の制御手段9からの転舵指令が無いにもかかわらず、回転角が一定の閾値を超えた場合、意図しない転舵状態が発生したと判定する。この異常処理部55が意図しない転舵状態を検知したとき、動力遮断部54aは、異常処理部55からの指令により駆動電源を遮断する。このように意図しない転舵状態が発生した場合、この意図しない後輪転舵を早く検知し、その駆動を遮断してしまうことで未然に不安定な挙動を回避することができる。
前記電子制御装置13Lは、前記上位の制御手段9から入力される転舵指令値に対し、前記絶対位置検出器34Lで検出される絶対位置と前記回転角検出器33Lで検出される回転角との関係が、定められた許容値を超えているとき、前記回転角検出器33Lまたは前記絶対位置検出器34Lが異常であると判定する検出系異常判定部57を有し、前記動力遮断部54aは、前記検出系異常判定部57により異常を判定すると、前記アクチュエータ14の駆動電源61を遮断しても良い。
前記定められた許容値は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
転舵状態を検出する信号は、その検出系である回転角検出器33Lまたは絶対位置検出器34Lに異常があっては正しい判定ができない。このため、この構成によると、事前に検出系異常判定部57によって、検出系の信号における異常の有無を判定する。例えば、転舵指令値に対し、絶対位置検出器34Lの出力P0と回転角検出器33Lの出力R0とは、後輪転舵装置12の所定部位の位置とその位置を変えるアクチュエータ14である転舵モータ27Lの回転位置との出力であるから、一定の関係がある。
したがって、その関係を試験やシミュレーションにより調べてテーブル等の関係設定手段59に設定しておく。検出系異常判定部57は、転舵指令値に対し、絶対位置検出器34Lの出力P0と回転角検出器33Lの出力R0の関係が、前記関係設定手段59に設定された範囲に対して許容値を超えているとき、その許容値を超えた出力系が異常であると判定する。この結果、回転角検出器33Lまたは絶対位置検出器34Lの異常を検出することが可能となる。動力遮断部54aは、検出系異常判定部57により異常を判定すると、アクチュエータ14の駆動電源61を遮断するため、未然に不安定な挙動を回避することができる。
前記アクチュエータは、前記左右の後輪10,11をそれぞれ独立に転舵する一対のアクチュエータ14,15であり、前記電子制御装置は、前記各アクチュエータ14,15をそれぞれ制御する一対の電子制御装置13L,13Rであり、前記一対の電子制御装置13L,13Rのうち一方の電子制御装置13L(13R)における前記検出系異常判定部57が異常と判定したとき、正常な他方の電子制御装置13R(13L)へ前記一方の電子制御装置13L(13R)における検出系の異常を伝達する相互監視部58を、前記各電子制御装置13L(13R)にそれぞれ設け、前記正常な他方の電子制御装置13R(13L)は、前記相互監視部58から前記検出系の異常が伝達されると、前記他方の電子制御装置13R(13L)における動力遮断部54aにより前記他方の電子制御装置13R(13L)に対応する前記アクチュエータ15(14)の駆動電源61を遮断しても良い。
この場合、左右の後輪10,11を独立して転舵可能なシステムでありながらも、一方の電子制御装置13L(13R)における検出系に異常が発生すると、一方のアクチュエータ14(15)の駆動電源61だけでなく他方のアクチュエータ15(14)の駆動電源61も遮断する。このため、高度な安定化制御システムに依存せず、車両挙動が不安定になることを未然に防止し得る。
前記相互監視部58は、前記一対の電子制御装置13L,13Rのうち一方の電子制御装置13L(13R)における前記異常処理部55が意図しない転舵状態を検知したとき、正常な他方の電子制御装置13R(13L)へ前記意図しない転舵状態を伝達する機能を有し、
前記正常な他方の電子制御装置13R(13L)は、前記相互監視部58から前記意図しない転舵状態が伝達されると、前記他方の電子制御装置13R(13L)における動力遮断部54aにより前記他方の電子制御装置13R(13L)に対応する前記アクチュエータ15(14)の駆動電源61を遮断しても良い。
この場合、左右の後輪10,11のいずれか一方が意図しない転舵状態へ移行しようとする際、それを検知し、一方のアクチュエータ14(15)の駆動電源61を遮断し、異常が発生していない他方のアクチュエータ15(14)の駆動電源61を遅滞なく遮断し得る。したがって、高度な安定化制御システムに依存せず、車両挙動が不安定になることを未然に防止し得る。
この発明の後輪転舵制御装置は、車両の左右の後輪をアクチュエータによりそれぞれ独立に転舵する後輪転舵装置を制御する後輪転舵制御装置であって、前記アクチュエータの回転角を検出する回転角検出器と、前記アクチュエータの絶対位置を検出する絶対位置検出器と、上位の制御手段から入力される転舵指令値に従って前記アクチュエータを制御する電子制御装置とを備え、前記電子制御装置は、前記上位の制御手段から入力される後輪の転舵指令値と、前記回転角検出器で検出される回転角または前記絶対位置検出器で検出される絶対位置のいずれか一方または両方と、を監視して意図しない転舵状態を検知する異常処理部と、この異常処理部が意図しない転舵状態を検知したとき、前記アクチュエータに駆動電力を与える駆動電源を遮断する動力遮断部とを有する。このため、車両の左右の後輪をそれぞれ独立して転舵する後輪転舵装置を制御する後輪転舵制御装置において、意図しない転舵が発生し、車両の挙動が不安定に陥ることを未然に防止することができる。
この発明の実施形態に係る後輪転舵制御装置を適用する後輪転舵装置を搭載した自動車の概略説明図である。 同後輪転舵装置の一例を示す破断正面図である。 図2の一部を拡大して示す断面図である。 同後輪転舵制御装置の概念構成を示すブロック図である。 同後輪転舵制御装置の異常診断フローを示すフローチャートである。
この発明の実施形態を図1ないし図5と共に説明する。
図1は、この実施形態に係る後輪転舵制御装置を適用する後輪転舵装置を搭載した自動車の概略説明図である。自動車1の左右の前輪2,3は、ステアリングホイール4の操舵角を、例えばラックアンドピニオンからなる主転舵装置である前輪転舵装置5に伝達することで左右に転舵される。ステアリングホイール4の操舵軸に対して設けた舵角センサ6、車速センサ7、およびヨーレートセンサ8の出力は、電子制御ユニット9に入力される。この電子制御ユニット9は、自動車1の全体の協調制御、統括制御等の制御を行うメインの制御手段であり、ECUまたはVCUと略称される。
左右の後輪10、11は、シャシー(車体)に固定された後輪転舵装置12により、この後輪転舵装置12と連結された各タイロッドに対応するナックルアームNa,Nbを介して転舵される。後輪転舵装置12は、左右の後輪10、11を一対の転舵モータ27L,27Rによりそれぞれ独立に転舵可能である。後輪10、11の転舵角については、舵角センサ6、車速センサ7、ヨーレートセンサ8などの、自動車1の走行情報の入力に応じて電子制御ユニット9で決定された目標転舵角を、後輪転舵制御装置130が受信し、この後輪転舵制御装置130により左右の後輪10、11がそれぞれ独立して制御される。
図2は、この後輪転舵装置12の一例を示す破断正面図である。
図1および図2に示すように、後輪転舵装置12は、前輪転舵角に対して後輪10、11を同位相、逆位相に転舵する第1及び第2のアクチュエータ14,15を有する。第1のアクチュエータ14は左側の後輪10を転舵する駆動手段であり、第2のアクチュエータ15は右側の後輪11を転舵する駆動手段である。
図2に示すように、それぞれのアクチュエータ14、15は互いに同じ機械構成とされ、後輪転舵装置12の中央線X−Xに対してほぼ対称構造とされるため、これ以降、第1アクチュエータ14を用いて構造を説明する。なお、第1のアクチュエータ14の各構成部品の符号にL、第2のアクチュエータ15の各構成部品の符号にRを付けるが、区別する必要がない場合には、R、Lを省略する(16〜44までの符号と、46の符号)。
第1アクチュエータ14は、台形ねじ18と、スラスト軸受機構19と、ラジアル軸受20と、減速機24と、モータ27とを有する。台形ねじ18は、ロッド16の内径部に形成された雌ねじ16aと、シャフト17の一端部に形成した雄ねじ17aとが螺合する。スラスト軸受機構19は、シャフト17を回転可能に支持すると共にスラスト方向の動きを拘束する。ラジアル軸受20は、シャフト17をラジアル方向に回転支持する。
減速機24は、シャフト17のフランジ17bを遊星歯車機構のキャリアとし、その側面にピン21で回転可能に支持した遊星歯車22と、この遊星歯車22と噛み合う内歯車23とを有する。モータ27は、減速機24の太陽歯車25aをその先端に形成した中空モータシャフト25と、ステータ26とを有する。これら台形ねじ18と減速機24とモータ27は全てロッド16と同一軸上に配置される。中空モータシャフト25の一部分にはN、Sを交互に着磁した磁石28が固定される。中空モータシャフト25は軸受49でハウジング32に支持されている。シャフト17は滑り軸受48でロッド16に支持されている。
ロッド16は、その両端を滑り軸受47で支持されるとともに、回転防止機構29で回転を拘束され、軸方向の移動のみ可能とされる。回転防止機構29は、軸受30で支持された円柱状のストッパ31の先端31aを、ロッド16に形成した長穴16bに挿入した構成である。軸受30はハウジング32に固定され、ロッド16が軸方向に移動した際にはストッパ31の先端31aは長穴16bに沿って移動し、ロッド16の回転防止と機械的リミットとして機能し、ロッド16の移動範囲を制限する。
モータ27には回転角を検出する回転角検出器33が固定される。回転角検出器33は、例えばレゾルバであり、中空モータシャフト25の一端部にレゾルバのロータ33a、このロータ33aに対峙するハウジング32にレゾルバのステータ33bが固定される。中空モータシャフト25の両端は軸受で回転支持され、この中空モータシャフト25の中空孔25bにはロッド16が挿入される。中空孔25bの内部に台形ねじ18が配置されるため、後輪転舵装置12の軸方向長さを短くすることができる。
モータ27を回転すると、減速機24で減速されてシャフト17の端部に形成した雄ねじ17aが回転し、その回転量に応じてロッド16Lが左右に移動し、ロッド16Lの先端に固定された図示外のボールジョイントを介してナックルアームNa,Nb(図1)を動かして後輪10(図1)のトー角を調整する。
後輪10(図1)の転舵角は、ロッド16の絶対位置を絶対位置検出器34で検出することで把握する。検出情報は後輪転舵制御装置130(図1)に入力される。絶対位置検出器34は、例えば、アナログ出力のホールIC35と磁石36を用いた磁気検出器である。ロッド16に固定されたホルダ37内に磁石36を固定し、磁石36に対峙するハウジング32側にホールIC35を固定している。
この絶対位置検出器34は、ホールIC35に印加される磁束変化を位置出力に変換することでロッド16の絶対位置を検出する。ホールIC35としてプログラム可能なものを用いれば、予めロッド16の位置と磁束密度の関係をプログラムすることで絶対位置精度を向上することができる。
図3を用いて、スラスト軸受機構19について説明する。
シャフト17の端面に形成した内径部17cには、連結軸38L、スラスト軸受39、軌道輪40、およびスペーサ41がそれぞれ挿入される。連結軸38Lには、スラスト力を受けるフランジ38aが形成されている。スラスト軸受39は、保持器付でありフランジ38aの両側に設けられる。軌道輪40はスラスト軸受39の転走面となる。
内径部17cに隣接した側面17dには、リング板42と押え板43が配置され、ボルト44で押え板43をシャフト17の側面17d側に押さえこみ、スラスト軸受39に予圧が与えられる。シャフト17の内部にスラスト軸受機構19を配置することで軸方向の長さを短縮することが可能となる。
第1のアクチュエータ14側の連結軸38Lの一端面に、雌ねじ38Lbが形成されている。第2のアクチュエータ15側の一端部に、雄ねじ38Raが形成されている。これら雌ねじ38Lbと雄ねじ38Raとが、ハウジング45の中央壁45aに開けた孔45bを介して螺合され、それぞれの連結軸38L、38Rはハウジング45に固定される。なお、シャフト17のラジアル方向振れを抑えるため、ハウジング45とシャフト17の円筒外径部17eとの間にラジアル軸受46が挿入される。ラジアル軸受46としては、例えば、外輪付きの針状ころ軸受を用いる。
ハウジング32(L)、32(R)とハウジング45は連結されて1つのハウジングとされ、その中に第1および第2のアクチュエータ14,15が組み込まれる。
図2に示すように、第1のアクチュエータ14のロッド16Lを左右に移動すると、ロッド16Lと連結される左の後輪10(図1)が転舵され、トー角が調整される。また、第2のアクチュエータ15のロッド16Rを移動すると、ロッド16Rと連結される右の後輪11(図1)が転舵され、トー角が調整される。後輪転舵装置12がシャシー(車体)に固定される方式でありながら、左右の後輪10、11(図1)を左右独立に転舵することができる。
図3に示すように、第1のアクチュエータ14の連結軸38Lと、第2のアクチュエータ15の連結軸38Rとがハウジング45の中央壁45aを介して螺合されているため、第1のアクチュエータ14のシャフト16L(図2)と第2のアクチュエータ15のシャフト16R(図2)に加わる負荷がハウジング45の中央壁45aに均等に印加されるため、左右後輪10、11(図1)のバランスを確保できる。
なお、ここではハウジング32L、32R、45は3つに分割されているが、これらをねじ締結して一体化したものを1つのハウジングとして呼ぶ。
図4は、前記構成の後輪転舵装置12(図1)を制御する後輪転舵制御装置130の概念構成のブロック図である。
後輪転舵制御装置130は、それぞれ左右の後輪10、11(図1)の転舵を行う第1,第2のアクチュエータ14、15を独立して制御する一対の電子制御装置13L、13Rを有し、これら電子制御装置13L、13Rは互いに同じ制御構成となっている。また、第1のアクチュエータ14の構成部品であるモータ27L、回転角検出器33L、絶対位置検出器34Lは、第2のアクチュエータ15についても同一の構成部品を有する。
したがって、第1のアクチュエータ14およびその電子制御装置13Lについて、それぞれ構成部品に符号を付して説明し、第2のアクチュエータ15およびその電子制御装置13Rの各構成部品については、図示を省略する。これ以降、後輪転舵制御装置130の説明のために、原則、電子制御装置13Lと第1のアクチュエータ14を用いる。
第1のアクチュエータ14の電子制御装置13Lは、マイクロプロセッサ50、上位の制御手段である電子制御ユニット9から得られる指令側の入力信号の入力インターフェース部51、第1のアクチュエータ14から得られる検出側の入力信号の入力インターフェース部52、出力インターフェース部53、およびモータ駆動部54を有する。なお指令側および検出側の入力インターフェース部51、52は、互いに別の電子素子であっても、一つの電子素子の一部ずつであっても良い。
電子制御ユニット9で決定された後輪転舵角の目標値は、指令側の入力インターフェース部51を介してマイクロプロセッサ50に送信され、さらにマイクロプロセッサ50内で後述の異常処理部55を介してモータ制御目標値演算部56へ送信される。
マイクロプロセッサ50では、転舵モータ27Lの制御を実行するため、モータ制御目標値演算部56で演算された結果(この実施形態では、転舵角から算出されたモータ27Lの回転数)に基づくモータ駆動指令が、出力インターフェース部53を経由してモータ駆動部54へ送信される。
転舵モータ27Lとして、例えばブラシレスモータを使用した場合、制御の基本は、トルク(電流)、速度、位置の制御となり、本システムの制御対象は位置(舵角)であるため、マイクロプロセッサ50に実装される図示外の制御系は、電流制御系の上位に速度制御系と位置制御系を構成する複合制御系となる。よって、モータ駆動指令値は、電子制御ユニット9からの指令によって算出された演算結果の他、モータ電流検出値や回転角検出値などのフィードバック値に基づき目標舵角に到達するよう制御される。
絶対位置検出器34Lは、第1のアクチュエータ14の絶対位置を監視する。絶対位置は、電源投入時、例えば、車両のイグニッション(図示せず)がオンの時点で検知され、その後の制御は、検出された絶対位置を基準に回転角検出器33Lから得られる回転角で位置制御を実施する。これらの制御系は例えばソフトウエアの演算によって制御を行うようにマイクロプロセッサ50に実装される。
ここで、本課題とその対策について説明する。
本課題は、上位制御手段である電子制御ユニット50から転舵指令が無い場合、あるいはモータ制御目標値からモータ制御指令がモータ駆動部54へ送信されていないにもかかわらず、万一意図しない転舵が発生した場合、少なからず車両の挙動に影響を及ぼす可能性がある。
意図しない転舵状態の例を示す。
例えば、回転角検出器33Lにレゾルバを使用し、モータ27Lの位置制御に使う位置情報をレゾルバのRDコンバータ(図示せず)から出力される二相パルス信号をマイクロプロセッサ50内でアップダウンカウントすることで位置検出する方式の場合、マイクロプロセッサ50の入出力の異常、前記RDコンバータの入出力の一部異常などが発生すると、レゾルバ信号がマイクロプロセッサ50の二相パルス信号入力部へ正しく入力されず、また、その他の機器は正常な状態においてモータ27Lに異常が生じる可能性がある。
次に、その対策について説明する。
マイクロプロセッサ50は、本課題の解決のため、異常処理部55、検出系異常判定部57、および相互監視部58を備える。以降それぞれの役割を説明する。
<異常処理部55について>
異常処理部55では、意図しない転舵状態が発生した場合、即座にモータ27Lの駆動を停止するため、異常の検知と検知時の処理を実施する。
意図しない転舵の検出は、電子制御ユニット9からの転舵指令の有無、および転舵(実測値)の有無によって判定を実施する。このため、異常処理部55は、電子制御ユニット9からの転舵指令θinと、転舵の駆動量を把握することができる回転角検出器33Lから得られる回転角情報R0、または絶対位置検出器34Lから得られる絶対位置情報P0の少なくともいずれか一方の信号とに基づき、意図しない転舵状態が発生したか否かの診断を実施する。
具体的には、異常処理部55は、例えば、(1)電子制御ユニット9から転舵指令が無いにもかかわらず、回転角検出器33Lから得られる回転角信号が一定の閾値を超えた場合、(2)電子制御ユニット9から転舵指令が無いにもかかわらず、絶対位置検出器34Lから得られる絶対位置信号が一定の閾値を超えた場合、または(3)電子制御ユニット9から転舵指令があり回転角検出器33Lから回転角信号である転舵角の変位を検出するが、この検出した転舵角と実転舵角との偏差が閾値以上のとき、意図しない転舵状態が発生したと判定する。
<検出系異常判定部57について>
回転角検出器33Lまたは絶対位置検出器34Lで転舵の有無を検出するため、その検出系自体に異常があると判定が不可能となる。そこで検出系異常判定部57は、検出系の異常判定を実施する。このため、検出系異常判定部57は、電子制御ユニット9からの転舵指令θinと、回転角検出器33Lから得られる回転角情報R0、絶対位置検出器34Lから得られる絶対位置情報P0の三つの信号の比較結果に基づき、検出系の異常判定を実施する。
転舵指令値θinに対し、絶対位置検出器34Lの出力である絶対位置情報P0と、回転角検出器33Lの出力である回転角情報R0とは、後輪転舵装置12(図1)の所定部分の位置とその位置を変える駆動源である転舵モータ27Lの回転位置との出力であるから、一定の関係がある。したがって、その関係を試験やシミュレーション等により調べてテーブル等の関係設定手段59に設定しておく。
検出系異常判定部57は、転舵指令値θinに対し、絶対位置検出器34Lの絶対位置情報P0と回転角検出器33Lの回転角情報R0の関係が、前記関係設定手段59に設定された範囲に対して許容値を超えるまで外れていると、その許容値を超えた出力系が異常であると判定する。この結果、回転角検出器33Lまたは絶対位置検出器34Lの異常を検出し得る。
なお、この実施形態では、絶対位置検出系は1系統のみの出力を有する検出器を例に挙げたが、検出の信頼性を高めるために絶対位置検出器34Lの出力P0を正逆反転させた冗長出力を設けても良い。この場合、絶対位置検出器34Lの2出力のうちのいずれか一方の出力に異常が検出されたとしても、他方は正常であるため、絶対位置信号は電源ON時に絶対位置を検出する目的に限定して使用される場合は、当面の制御を続行させることができる。この目的のために、別の例として絶対位置検出器34Lを2つ搭載して二重化することも可能である。
<相互監視部58について>
一対の電子制御装置13L、13Rは、自己診断機能や、例えば、それぞれの制御目標を相互演算しその比較結果の一致/不一致でマイクロプロセッサ50の異常な状態やソフトウェアの暴走などを互いに監視し、いずれか一方の電子制御装置13L(13R)で異常が発生した場合は、相互監視部58および通信手段60を経由して他方の電子制御装置13R(13L)へ、その情報を送信する。
相互監視部58では、加えて、異常処理部55で検知された意図しない転舵状態や、検出系異常判定部57で判定された検出系の異常も監視し、万一異常が検出された場合、相互監視部58および通信手段60を経由して、他方の電子制御装置13R(13L)へその情報を送信する。
<動力遮断部54aについて>
動力遮断部54aは、異常処理部55が意図しない転舵状態を検知したとき、または、検出系異常判定部57により検出系の異常を判定すると、第1のアクチュエータ14に駆動電力を与える駆動電源61を強制的に遮断する。この動力遮断部54aはモータ駆動部54に設けられる。動力の遮断は、機械的なリレーやMOS-FETなどの電子スイッチを利用することが可能である。
また一対の電子制御装置13L、13Rのいずれか一方13L(13R)において、意図しない転舵状態を検知するかまたは検出系の異常を判定すると、その情報は相互監視部58および通信手段60を経由して、正常な他方の電子制御装置13R(13L)に通知される。通知を受けた正常な他方の電子制御装置13R(13L)は、この電子制御装置13R(13L)における異常処理部55から動力遮断部54aへの情報伝達により、第2のアクチュエータ15に駆動電力を与える駆動電源61を強制的に遮断する。
図5は、この後輪転舵制御装置の異常診断フローを示すフローチャートである。以後、図1、図4も適宜参照しつつ説明する。例えば、車両のイグニッションをオンにする条件で本処理が開始する(ステップS100)。本処理開始後、マイクロプロセッサ50は最初に転舵角検出系の異常の有無を判断する(ステップS101)。
<転舵角検出系異常無しの場合>
ステップS101において転舵角検出系に異常が無ければ(ステップS101:Yes)、マイクロプロセッサ50は転舵角の変位を確認する(ステップS102)。ここでは、例えば、回転角検出器33Lの信号R0を参照するが、絶対位置検出器34Lの出力P0を使用しても良い。
ここで転舵角の変位を検出しなければ(ステップS102:No)、診断を終了する(ステップS106)。転舵角の変位を検出した場合(ステップS102:Yes)、異常処理部55は、上位の電子制御ユニット9からの転舵指令の有無を確認する(ステップS103)。ここで万一転舵指令が無ければ(ステップS103:Yes)、異常処理部55は意図しない転舵状態と判定し、動力遮断部54aがアクチュエータ14の駆動電源61を遮断する(ステップS104)。転舵指令が有れば(ステップS103:No)、転舵角の偏差の異常有りか否かを判定し(ステップS105)、転舵角の偏差の異常有りとの判定で(ステップS105:Yes)、動力遮断部54aがアクチュエータ14の駆動電源61を遮断する(ステップS104)。転舵角の偏差の異常無しとの判定で(ステップS105:No)、診断を終了する(ステップS106)。
<転舵角検出系異常有りの場合>
ステップS101で転舵角検出系に異常が有り、と判断した場合、マイクロプロセッサ50の検出系異常判定部57は、回転角検出系の異常か、絶対位置検出系の異常かを判定する(ステップS107)。回転角検出系に異常が有れば(ステップS107:No)、ステップS110に移行し、動力遮断部54aがアクチュエータ14の駆動電源61を遮断する(ステップS104)。回転角検出系に異常が無ければ(ステップS107:Yes)、絶対位置検出系に異常があると判断し、ステップS108へ進むが、例えば、絶対位置検出系が冗長信号を持つようにすれば、2系統のうちのいずれか正常な信号によって、当面の制御を続行することが可能となり、バックアップモードでの制御に切り替える(ステップS109)。前記バックアップモードとは、例えば、制御は続行するが、警告表示などで運転者に異常を知らせ速やかに修理工場等までの当面の制御の続行を明示するモードを示す。
ステップS107において、検出系異常判定部57により回転角検出系が異常であると判断した場合(ステップS107:No)、モータ27Lの制御を続行することができないため、ステップS104に進み、駆動系の動力遮断を実行し、後輪転舵制御を中止する。
以上説明した後輪転舵制御装置130によれば、異常処理部55が意図しない転舵状態を検知したとき、または、検出系異常判定部57により検出系の異常を判定すると、動力遮断部54aは駆動電源61を遮断する。このように意図しない転舵状態が発生したり、検出系に異常有りと判定すると、動力遮断部54aが駆動系の動力遮断を実行し、後輪転舵制御を中止するため、未然に不安定な挙動を回避することができる。
この後輪転舵制御装置130では、左右の後輪10,11を独立して転舵可能なシステムでありながらも、一方の電子制御装置13L(13R)における検出系に異常が発生したり、意図しない転舵状態が発生すると、一方のアクチュエータ14(15)の駆動電源61だけでなく他方のアクチュエータ15(14)の駆動電源61も遮断する。このため、高度な安定化制御システムに依存せず、車両挙動が不安定になることを未然に防止し得る。
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
9…電子制御ユニット(上位の制御手段)
10,11…後輪
12…後輪転舵装置
13L,13R…電子制御装置
14,15…アクチュエータ
33L…回転角検出器
34L…絶対位置検出器
54a…動力遮断部
55…異常処理部
57…検出系異常判定部
58…相互監視部
130…後輪転舵制御装置

Claims (4)

  1. 車両の左右の後輪をアクチュエータによりそれぞれ独立に転舵する後輪転舵装置を制御する後輪転舵制御装置であって、
    前記アクチュエータの回転角を検出する回転角検出器と、
    前記アクチュエータの絶対位置を検出する絶対位置検出器と、
    上位の制御手段から入力される転舵指令値に従って前記アクチュエータを制御する電子制御装置と、
    を備え、
    前記電子制御装置は、
    前記上位の制御手段から入力される後輪の転舵指令値と、前記回転角検出器で検出される回転角または前記絶対位置検出器で検出される絶対位置のいずれか一方または両方と、を監視して意図しない転舵状態を検知する異常処理部と、
    この異常処理部が意図しない転舵状態を検知したとき、前記アクチュエータに駆動電力を与える駆動電源を遮断する動力遮断部と、
    を有することを特徴とする後輪転舵制御装置。
  2. 請求項1記載の後輪転舵制御装置において、前記電子制御装置は、前記上位の制御手段から入力される転舵指令値に対し、前記絶対位置検出器で検出される絶対位置と前記回転角検出器で検出される回転角との関係が、定められた許容値を超えているとき、前記回転角検出器または前記絶対位置検出器が異常であると判定する検出系異常判定部を有し、前記動力遮断部は、前記検出系異常判定部により異常を判定すると、前記アクチュエータの駆動電源を遮断する後輪転舵制御装置。
  3. 請求項2記載の後輪転舵制御装置において、前記アクチュエータは、前記左右の後輪をそれぞれ独立に転舵する一対のアクチュエータであり、前記電子制御装置は、前記各アクチュエータをそれぞれ制御する一対の電子制御装置であり、前記一対の電子制御装置のうち一方の電子制御装置における前記検出系異常判定部が異常と判定したとき、正常な他方の電子制御装置へ前記一方の電子制御装置における検出系の異常を伝達する相互監視部を、前記各電子制御装置にそれぞれ設け、前記正常な他方の電子制御装置は、前記相互監視部から前記検出系の異常が伝達されると、前記他方の電子制御装置における動力遮断部により前記他方の電子制御装置に対応する前記アクチュエータの駆動電源を遮断する後輪転舵制御装置。
  4. 請求項3記載の後輪転舵制御装置において、前記相互監視部は、前記一対の電子制御装置のうち一方の電子制御装置における前記異常処理部が意図しない転舵状態を検知したとき、正常な他方の電子制御装置へ前記意図しない転舵状態を伝達する機能を有し、
    前記正常な他方の電子制御装置は、前記相互監視部から前記意図しない転舵状態が伝達されると、前記他方の電子制御装置における動力遮断部により前記他方の電子制御装置に対応する前記アクチュエータの駆動電源を遮断する後輪転舵制御装置。
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