以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
最初に、図1及び図2を用いて本発明が適用される内燃機関の制御システムの構成について説明する。ここで、図1に示す実施例は所謂MPI方式(マルチポイント式燃料噴射)の直列4気筒内燃機関を示している。
内燃機関27に吸入される空気は、エアクリーナ10を通過し、ホットワイヤ式エアフローセンサ11に導かれる。このホットワイヤ式エアフローセンサ11には白金を使用した熱線が使用されている。このホットワイヤ式エアフローセンサ11から吸入空気量に相当する信号が出力されるとともに、サーミスタを用いた吸気温センサ(図示せず)で計測される吸気温度信号が出力される。次に、吸入空気はエアクリーナ10に接続されたダクト12、空気流量を制御する絞り弁13を通り、コレクタ14に進入する。また、絞り弁13はECU15からの制御信号で駆動される絞り弁駆動モータ16により制御される。
コレクタ14に入った空気は内燃機関27と直結する各吸気管17に分配され、燃焼室18内に吸入される。バルブ駆動系にはバルブタイミング可変機構19が設けられ、目標位相角度に向けフィードバック制御する。また、シリンダブロックに取り付けられたクランク角センサ20からは、所定のクランク角毎にパルスが出力され、この出力はコントロールユニット15に入力されている。燃料は燃料タンク21から燃料ポンプ22で吸引、加圧され、プレッシャレギュレータ23により一定圧力に調圧され、吸気管に設けられたインジェクタ24から吸気管17内に噴射される。
絞り弁13には絞り弁開度を検出するスロットルセンサ25が取り付けられており、このセンサ信号はコントロールユニット15に入力され、絞り弁13の開度のフィードバック制御や、全閉位置の検出及び加速の検出等を行う。尚、フィードバックによる目標開度は、アクセル開度センサ26で求まるドライバーのアクセル踏み込み量とアイドル回転数制御、すなわちISC制御分とから求まるものである。
内燃機関27には冷却水温を検出するための水温センサ28が取り付けられており、このセンサ信号はコントロールユニット15に入力され、内燃機関27の暖機状態を検出し、燃料噴射量の増量や点火時期の補正及びラジエータファン29のON/OFF制御やアイドル時の目標回転数の設定を行う。また、アイドル時の目標回転数や、負荷補正量の算出するために、エアコンクラッチの状態をモニターするエアコンスイッチ30、駆動系の状態をモニターするトランスミッションに内蔵されたニュートラルスイッチ31等が取り付けられている。
排気管32の触媒33の上流には空燃比センサ34が装着されており、排気ガスの酸素濃度に応じた信号を出力するものである。この信号はコントロールユニット15に入力され、運転状況に応じて求められる目標空燃比になるように、燃料噴射パルス幅を調整する。
点火コイル35にはイグナイタ36が一体的に設けられており、コントロールユニット15からの点火制御信号が送られている。コントロールユニット15にて演算された点火時期に基づいた点火制御信号が入力され、点火プラグ37の火花放電の発生が実行される。また、コントロールユニット15や他の電気的機器にはバッテリ38から直流電圧が印加されている。
また、本実施例では通常のイグナイタ36の他に、重ね放電を行う重ね放電ユニット39が付加的に接続される。そして、コントロールユニット15から出力される重ね要求信号を検出し、点火制御信号から点火時期を検出すると昇圧回路から所定(例えば500V)以上の高圧電流を点火コイル35の放電電流に付加する機能を備えている。この重ね放電ユニット39に関する説明は、他の実施例として別途説明する。
図2はコントロールユニット15に入力される信号と出力される信号を示している。コントロールユニット15には電源IC40からバッテリ電圧を降圧した電圧が印加されている。そして、コントロールユニット15のCPUの入力回路には、イグニッションスイッチ41、エアフローセンサ11、吸気温センサ42、水温センサ28、油温センサ43、クランクセンサ20、カムセンサ44、アクセル開度センサ26、スロットルセンサ25、空燃比センサ34、ニュートラルスイッチ30、エアコンスイッチ30、負荷補機スイッチ45、二次電流検出回路46等の信号が入力されている。また、コントロールユニット15のCPUの出力回路からは、インジェクタ24、イグナイタ36、重ね放電ユニット39、絞り弁駆動モータ16、バルブタイミング可変機構19、フューエルポンプ22等に信号が出力されている。
次に点火制御装置の構成について、図3、図4に基づき説明する。図3においてコントロールユニット15には点火制御手段47が設けられており、点火制御手段47から各イグナイタ36に点火順序にしたがって点火制御信号が供給される。点火制御手段47はソフトウエアによって実行される点火制御アプリケーションであり、これはCPUでの演算によって点火機能が実行されるものである。点火制御手段47からの点火制御信号は信号線48を介して各イグナイタ36に供給される。図4に示すように点火制御信号はイグナイタ36のスイッチング素子36Aのベースに与えられ、これによって点火コイル35の一次コイルに流れる電流が制御される。これらの構成はすでに周知であるのでこれ以上の説明は省略する。
図3に戻って、点火コイル35の二次コイルの二次電流は信号線49を介して二次電流検出回路46に供給され、この二次電流検出回路46の出力は点火手段47に入力される構成となっている。これによって、点火コイル35の二次コイルに流れる二次電流を検出でき、二次電流の大きさとその継続時間が判断できるようになる。
この点火制御手段47による点火の挙動を図5に示している。点火制御信号がイグナイタ36に与えられると、時刻t1で点火コイル35の一次コイルに一次電流が流れ、その後所定の通電角の時間だけ電流が流れた後に時刻t2で一次電流が遮断される。したがって、点火コイル35の二次コイルにはこれと同期して放電エネルギが蓄積され、時刻t2で高電圧が発生して点火プラグ37で火花放電が開始される。また、二次コイルには二次電流が期間Δtaだけ流れることになる。
次に、本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。このような点火制御装置において、上述したように内燃機関においては燃焼室内にあるカーボンなどが火種となったりして、結果的に点火プラグによる点火よりも早く混合気が燃焼を起こしてしまうプレイグニッション現象を発生する。このプレイグニッションが発生すると正常な点火であっても点火コイルからの二次電流の電流値が低くなり、更にその継続時間が短くなる。このため、プレイグニッションが発生した時の二次電流の変化の挙動と、不要な放電が行われて放電エネルギが消耗する異常状態の二次電流の挙動とが類似する状態がある。このため、これらを区別して判別しないと点火制御装置の正確な異常判別を行うことができないという課題がある。
そこで、本実施例においては、プレイグニッションが発生しやすいプレイグニッション運転領域を設定し、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わず、プレイグニッション運転領域以外の運転領域で放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行うようにした。本実施例によれば、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わないので、放電エネルギの減少を生じる異常点火状態とプレイグニッション状態での点火を区別して正確な異常検出ができる、という効果を奏することができる。
図6はプレイグニッションが発生しやすいプレイグニッション運転領域Aと、プレイグニッションが発生しづらい非プレイグニッション運転領域Bを設定したマップである。このマップは回転数の値を横軸にとり、負荷の値を縦軸にとっている。負荷は吸入空気量を回転数で除した値である。そして、プレイグニッションは経験的に回転数が低く負荷が大きい領域で発生することが知られている。このため、本実施例では非プレイグニッション運転領域Bで放電エネルギの減少を生じる異常状態を判別して誤検出を防止するものである。
図7は同じくプレイグニッションが発生しやすいプレイグニッション運転領域とプレイグニッションが発生しづらい非プレイグニッション運転領域を設定したマップの他の実施例を示している。非プレイグニッション運転領域としては排気ガスの還流量が多いEGR大領域Cを使用し、プレイグニッション運転領域としては排気ガスの還流量が少ないEGR少領域Dを使用している。このマップも回転数の値を横軸にとり、負荷の値を縦軸にとっている。そして、EGR大領域は不活性ガスである排気ガス量が多いため燃焼室内の温度が高くならずプレイグニッションが発生しづらい領域である。このため、EGR大領域で放電エネルギの減少を生じる異常状態を判別して誤検出を防止するものである。尚、図6及び図7に示すそれぞれの領域は内燃機関の仕様によって適切な領域があるので、これにしたがってそれぞれの領域を決めることが必要である。この領域の設定は、マッチング(適合)手法や、計算によるシミュレーション手法によって決めることが可能である。
次に、具体的な異常検出方法について説明するが、本実施例では二次電流の継続時間を用いて飛び火による異常状態の検出を行う例を図8に示すフローチャートに基づき説明する。このフローチャートは気筒毎に行われるものであるが、以下では代表して第1気筒について説明する。尚、この図8に示すフローチャートが異常検出手段の一実施形態に相当するものである。
まず、ステップS10において回転数と負荷を検出する。負荷は上述したように吸入空気量を回転数で除して求められ、この負荷は燃料噴射量を計算するときの基本燃料量に対応している。次に、ステップS11で図6あるいは図7に示すマップを読み出すが、以下の本実施例の説明では図6に示すマップを用いる場合を説明する。
次に、ステップS10で検出された現在の回転数と負荷が、ステップ11で読み出されたマップに対してどのような領域にあるかをステップS12で判断する。現在の回転数と負荷が、図6に示すマップのプレイグニッション運転領域Aにある場合はプレイグニッションが発生しやすい領域と判断してステップS13に移行する。つまり、プレイグニッション運転領域では二次電流の継続時間が短くなるので、プレイグニッションが発生した時の二次電流の変化の挙動と、不要な放電が行われて放電エネルギが消耗する異常状態の二次電流の挙動とが類似する恐れが多い。このため、これらを区別して判別するため、プレイグニッションが発生しやすい領域での診断を実行しないようにしている。したがって、ステップS13では異常診断の実行を中止してエンドに進むものである。
ステップS12で現在の回転数と負荷が、図6に示すマップの非プレイグニッション運転領域Bにある場合は異常診断が可能としてステップS14に移行する。ステップS14では、図5に示す点火コイル35の二次電流の立ち上がり時点TISを検出する。この場合は二次電流の立ち上がり時点TISに同期して図示しないタイマを起動してカウントアップするようにしている。
次に、ステップS15に進み点火コイル35の二次電流の立ち下がり時点TIEを検出する。この場合は二次電流の立ち下がり時点に同期してタイマのカウントアップを停止するようにしている。したがって、ステップS16で二次電流の立ち上がり時点TISのカウント値と二次電流の立ち下がり時点TIEのカウント値から、TING=TIS-TIEの演算を行って、二次電流が流れている期間Δta(=TING)を求める。このように、タイマによって計測された経過時間が点火コイル35の二次コイルに二次電流が流れている期間Δtaとなる。
次にステップS17に進んで計測された二次電流が流れている期間Δta(=TING)とあらかじめ定めた判定期間Iとを比較する。判定期間Iは飛び火によって放電エネルギが消耗された場合の二次コイルに二次電流が流れている平均的な期間が用いられている。ただし、判定期間Iは調整可能であり、内燃機関の負荷、回転数、水温、油温、吸気温等の少なくとも1つ以上に基づいて調整することが望ましい。また、電源電圧の変動による誤判定を防止するために、電源電圧に基づいて調整することも可能である。このように、このステップS17で飛び火が生じている異常な点火状態なのか、あるいは正常な点火状態なのかが区別できる。ステップS17で正常と判定されるとステップS19に進み、飛び火が発生している異常状態と判定されるとステップS18に進むことになる。
ステップS17で正常と判定されるとステップS19では、異常判定フラグIを「0」にセットしてエンドに進む。また、ステップS17で飛び火が発生している異常状態と判定されるとステップS18では、異常判定フラグFIGNNGを「1」にセットしてエンドに進むことになる。
したがって、この異常判定フラグFIGNNGを参照することによって、飛び火が発生している異常状態かどうかの判別が可能となるものである。仮に異常状態と判定されると、図示しないバックアップメモリにエラーコードが書き込まれて点検の際に参考情報として活用されることになる。更には、この異常判定フラグFIGNNGを参照することによって、バックアップ制御を行うようにしても良いものである。
ここで、上述した実施例では立ち上がり時点TISと立ち下がり時点TIEを測定して二次電流の継続期間Δtaを測定しているが、図5にあるように所定の第1の電流値Issを上回った時点をTISとし、所定の第2の電流値Iseを下回った時点をTIESとしても良いものである。尚、これらの電流値は時系列に判断すれば同じ値でもよいが、望ましくは第1の電流値Iss>第2の電流値Iseの関係に設定されているのが良い。
以上述べた通り、本実施例によればプレイグニッションが発生しやすいプレイグニッション運転領域を設定し、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わず、プレイグニッション運転領域以外の運転領域で放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行うようにした。これによれば、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わないので、放電エネルギの減少を生じる異常点火状態とプレイグニッション状態での点火を区別して正確な異常検出ができるようになる。
次に、本発明の第2の実施形態について説明するが、本実施例は図1に示す重ね放電ユニット39を備えたものを対象としている。
近年では内燃機関の燃費を低減させることが重要な課題となっており、排気ガスの導入よってポンピングロスが低減されることを利用して、軽負荷の運転領域では多くの排気ガスを導入して燃費を向上させる制御方法が増えてきている。しかしながら、このような制御方法では排気ガスのような不活性ガスが増大するため、内燃機関の燃焼室内に導入される新気(空気)の割合が減少することになる。
このため、点火プラグ37の周りに適正な混合気が存在する割合が減ることにより、点火プラグ37の単時間の放電では確実に混合気に着火させて安定した燃焼を得ることが難しくなり、結果的に不正燃焼による回転の不安定化や、排気ガスの有害成分の増加といった新たな課題が発生する。
したがって、混合気への着火性を向上させて安定した燃焼を行なえるようにすることが内燃機関の燃費や排気ガス性能を向上させるうえで重要である。このような要請から、最近では重ね放電機能を備えた点火制御装置が提案されている。この点火制御装置は、点火プラグ37近傍の混合気の状態にばらつきが存在して、排気ガス等の不活性ガスが混合されている状態において、単時間の放電では混合気の着火性が安定しないという現象を回避するため、点火コイル35の二次コイルに昇圧回路からの高圧電流を印加して着火性の向上と安定した燃焼を行なうようにしたものである。
すなわち、点火コイルの一次電流を遮断することでその二次コイルに発生する数KVの高圧電圧により点火プラグの放電間隙に放電破壊を起こし、点火コイル35の二次コイルに放電電流が流れ始めた後に、この放電状態を維持し得る放電維持電圧値以上の直流電圧(通常は500V程度以上)をDC−DCコンバータによって保ちながら、DC−DCコンバータからの出力電流を点火コイル放電電流に加算的に重畳するものである。このような点火制御方法によると、点火プラグに比較的長い時間に亘り大きな放電エネルギを与えることができるため、混合気の着火性を向上することができるようになる。
図9に重ね放電ユニット39を備えた点火制御装置を示しているが、実施例1と同じ参照番号は同一の構成部品、あるいは類似の機能を備えた構成部品であるので詳細な説明は省略する。
図9において、コントロールユニット15の点火制御手段47からは、信号線48を介して気筒分の点火制御信号が出力され、また、信号線48Aを介して重ね要求信号が出力されている。重ね放電ユニット39はコントロールユニット15とは別にエンジンルームに設けられており、昇圧回路50と各点火コイルの二次コイルとが高圧線51によって結線されており、約500Vの高電圧が二次コイルに印加されるようになっている。
各点火コイル35に設けられたイグナイタ36のスイッチングで、点火対象となる気筒に対して通常の点火タイミングで放電が開始されると、高圧線51を介して放電状態を維持するのに必要な高圧電流を二次コイルに供給する。燃焼室内では、点火プラグ37を火花放電させて混合気に着火させると共に、この通常の放電に続く、いわゆる重ね放電が実行される。
重ね放電ユニット39は、重ね要求信号からの情報により重ね時間を制御する重ね時間制御回路52と、各気筒の点火タイミングを判断する気筒切換え回路53と、昇圧回路50とで構成されている。そして、気筒毎の点火制御信号と重ね要求信号の入力信号に合わせて、重ね放電に必要な高圧電流が気筒毎に対応する点火コイル35の二次コイルに供給されることで重ね放電を行うことができる。また、重ね放電ユニット39には点火コイルの二次コイルに流れる二次電流を検知するための二次電流検出回路46を設けており、各点火コイルの二次コイルで発生する二次電流を検出してコントロールユニット15の点火制御手段47に出力している。
次に図10、図11に基づき重ね放電を実行する場合の動作について説明する。尚、図11は燃焼室内で圧縮された混合気に着火する場合の点火コイルの一次電流、二次電圧、二次電流の挙動をそれぞれ示したものある。
点火制御信号からの出力がONする時刻t1で、イグナイタ36のスイッチングにより点火コイルに一次電流が流れる。そして、その後の時刻t2で点火コイル35の一次電流を遮断すると二次コイル側に高電圧が発生し、点火プラグで放電が開始される。また、重ね要求信号の入力情報を受けて重ね時間制御回路52が重ね放電を実行する時間を判断する。更に、対象気筒の点火タイミングを判断する気筒切換え回路53が点火性御信号によって昇圧回路50で昇圧を実行する対象気筒を判断する。そして、一次電流を遮断する時刻t2の前の時刻t3に連動して重ね放電に必要な高圧電流を対象となる気筒の点火コイル35の二次コイルに流し、イグナイタ36の制御回路54と協働して重ね放電を発生させることができる。更に、時刻t4で高圧電流の供給が停止される。このときの放電電流の流れは図10の実線矢印で示す流れで放電される。重ね時間制御回路52が重ね放電を終了する時刻t4で昇圧回路50からの高圧電流の流れを遮断して重ね放電を終了する。
図11に示すように二次電流、及び二次電圧は重ね放電時間(tw)の間だけ延長されることで、放電エネルギがこれに対応して供給され続けて燃焼室内の混合気への着火性能を向上することができる。また、重ね要求信号は太い実線で示すように、点火制御信号の立ち下り時刻t2に対して、td時間だけ早いタイミングで立ち上がるように制御される。
これは重ね要求信号の演算タイミングが必ずしも点火タイミングで演算されている訳ではなく、例えば10ms毎といった所定のマイコン演算タイミングで演算される場合があること、点火制御手段47が重ね要求信号を出力した時に、最も早いタイミングで重ね時間制御回路52が重ね要求信号と重ね時間の情報を判断できるようにするためである。少なくともtd時間は点火制御信号が立ち下がる時刻t2と同時か、或いはそれより前の時刻であることが望ましい。
本実施例では、点火制御信号が立ち下がる時刻毎に重ね時間(tw)の情報を重ね要求信号に同期させて出力するようにしている。また、別の方法としては、重ね時間の制御を、重ね時間制御回路52側で独自(例えば固定時間)に制御するような場合では、重ね要求信号は破線で示すような単純にON信号、すなわち重ね放電実行/非実行の情報のみで出力することもできる。尚、重ね放電非実行の場合は常時OFFを表す情報を出力するようにしても良い。
このような重ね放電ユニット39を備えた点火制御装置であっても実施例1と同様に、内燃機関においては燃焼室内にあるカーボンなどが火種となったりして、結果的に点火プラグによる点火よりも早く混合気が燃焼を起こしてしまうプレイグニッション現象を発生する。このプレイグニッションが発生すると正常な点火であっても点火コイルからの二次電流の電流値が低くなり、更にその継続時間が短くなる。このため、プレイグニッションが発生した時の二次電流の変化の挙動と、不要な放電が行われて放電エネルギが消耗する異常状態の二次電流の挙動とが類似する状態がある。このため、これらを区別して判別しないと点火制御装置の正確な異常判別を行うことができないという課題がある。
このため、本実施例においても、排気ガスが多く還流されるEGR大領域ではプレイグニッションが発生しづらいことから、重ね放電が実行されるEGR大領域付近で放電ネルギの減少を生じる異常状態を判断するようにしている。
図12は燃費向上を目的に排気ガスを還流する場合に、回転数と機関負荷に応じたEGR率(100%×排気ガス流量/新規空気流量)を設定するに当り、EGR率と重ね放電領域との関係を示したものである。ここで、燃焼の安定性から判断して、重ね放電を必要とするEGR大領域E(例えばEGR率が20%を超える領域)と、重ね放電を必要としないEGR少領域Fとに区別されている。更に加えて、重ね放電の実行領域はEGR大領域Eと同じとしても良いのであるが、EGR大領域Eを含むように回転数及び負荷方向に拡大した重ね放電実行領域Gを設定している。
この理由は、運転状態がEGR少領域FからEGR大領域Eへ短時間に移行する場合、EGR大領域Eで設定されたEGR率の排気ガスが重ね放電の実行より先に燃焼室内に導入され、燃焼が悪化して性能の低下を招くことを避けるものである。実施例1と同様に、重ね放電実行領域Gは予めコントロールユニット15内のCPUのメモリに予め設定されており、現在の運転状態から運重ね放電実行領域Gか否かが判断される。
次に重ね放電ユニット39を備えた点火制御装置における放電エネルギの減少を生じる異常診断のやり方について、図13乃至図17に示すフローチャートに基づき説明するが、本実施例でも二次電流の継続時間を用いて飛び火による異常状態の検出を行う例について説明する。以下に示すフローチャートは、コントロールユニット15のCPUにプログラミングされ、あらかじめ定められた周期で繰り返し実行されるものである。
図13において、ステップS20は重ね放電の要求判定演算を実行するものであり、重ね放電の実行の有無を演算している。ステップS21は重ね放電出力の演算を実行するものであり、ステップS20の演算結果から重ね要求信号を生成する演算を行っている。
次に、ステップS22は点火コイル35の二次コイルの二次電流信号の読み込みを実行しており、重ね放電ユニット39から出力される二次電流信号を読み込み、読み込み値をCPUのRAMの所定アドレスに格納している。ステップS23は気筒判別の演算を実行しており、クランク角センサやカム角センサからの角度信号から点火するべき気筒を判別する演算を行っている。
次に、ステップS24は点火コイルの診断を行う演算であり、ステップS22で演算した二次電流信号とステップS23で演算した気筒判別結果から、気筒毎に飛び火による異常を検知する。また、ステップS25は重ね放電ユニット39の診断を行う演算であり、ステップS24の診断結果を用いて重ね放電ユニット39の異常を判断する。例えば、全ての点火コイルの二次電流の異常を検知した場合は、重ね放電ユニット39自体に異常が発生していると判断することができる。
次に、上述した各ステップのうちで主なステップの詳細な制御を説明する。図14はステップS20の重ね要求判定演算の詳細を示し、図15はステップS21の重ね出力演算の詳細を示し、図16はステップS24の点火コイル診断演算の詳細を示し、図17は図16に示す気筒診断処理演算の詳細を示している。
図14において、ステップS26では重ね運転領域の検索を行い、現在の運転状態である回転数と負荷から現在の運転領域が検索される。次に、ステップS27では検出された運転領域が図12に示す重ね放電実行領域Gか否かの判断を行う。ステップS27では重ね放電による点火と通常点火の判断(すなわち重ね放電を実行する/しない)が行なわれる。
ステップS27で重ね放電実行領域Gでないと判定されれば、ステップS28に進み、重ね要求と実行フラグ(FWIGP、FWIGD)を「0」としてクリアされる。そして、ステップS29に進んで重ね要求信号の出力形態として重ね停止情報であるOFF設定が行なわれエンドに抜ける。したがって、この場合は、図12のEGR少領域Fと判断されるので通常の点火が行われることになる。
一方、ステップS27で重ね放電実行領域Gと判定されればステップS30へ進み、上述した重ね時間(tw)の情報を運転領域によって予め設定されている情報から検索する。次に、ステップS31では重ね放電の実行のために重ね時間(tw)と、重ね要求信号のONタイミングとOFFタイミングが設定され、ステップS32では重ね要求フラグ(FWIGP)に「1」がセットされてエンドに抜ける。したがって、この場合は、図12のEGR大領域E付近(=重ね放電実行領域G)と判断されるので重ね放電による点火が行われることになる。そして、本実施例ではEGR大領域E付近と判断される重ね放電実行領域Gで飛び火の異常判断が実行されることになる。
次に、図15に基づき重ね出力演算の詳細を説明する。図15は重ね要求信号を出力する制御フローを示したもので、例えばクランク角度に同期した所定角度あるいは角度に換算した時間タイマによる割込み処理として実行される。具体的には図11に示すようなタイミングで、重ね要求信号のON、OFFを出力するものである。
ステップS33は図14のステップS33で求めた重ね要求フラグFWIGPが「1」か否かの判断を行っており、重ね要求フラグFWIGPに「1」がセットされていなければステップS38へ進み常時要求信号OFFを出力してエンドに抜ける。つまり、図12のEGR少領域Fと判断されるので通常の点火が行われることになる。
一方、重ね要求フラグFWIGPに「1」がセットされている場合はステップS34へ進み、点火制御手段47からの情報による点火の開始タイミングであるかどうかを判定する。点火開始のタイミングでなければステップS38に進み、点火開始タイミングであればステップS35へ進む。次に、ステップS35重ね要求信号のONタイミングであるかどうかを判定する。ONタイミングでなければステップS38へ進み重ね要求信号OFFを出力する。一方、ONタイミングであればステップS36に進み重ね要求信号をONにする。
次に、ステップS36で重ね要求信号がONされると,ステップS37で重ね時間が経過しているかを判定する。重ね時間を経過していなければON状態を継続してエンドに抜ける。一方、重ね時間を経過した場合はステップS38へ進み、重ね要求信号出力をOFFにセットしてエンドに抜ける。
次に、図16を用いて異常診断の詳細を説明する。図16は気筒別の診断を行う制御フローを示したもので、例えばクランク角度に同期した所定角度あるいは角度に換算した時間タイマによる割込み処理として実行される。
ステップS39は1番気筒が点火しているか否かの判断を行うものであり、図13のステップS23の気筒判別演算の結果から判定される。1番気筒であればステップS40に進んで1番気筒診断処理が実行され、1番気筒でなければステップS41に進んで2番気筒の点火か否かが判断される。
ステップS41で2番気筒であればステップS42に進んで2番気筒診断処理が実行され、2番気筒でなければステップS43に進んで3番気筒の点火か否かが判断される。ステップS43で3番気筒であればステップS44に進んで3番気筒診断処理が実行され、3番気筒でなければステップS45に進んで4番気筒診断処理が実行される。尚、本実施例では4気筒内燃機関で説明しているが、4気筒未満または5気筒以上の内燃機関でもよく、内燃機関の気筒毎に診断処理を設けることができるものである。
次に図17に基づいて図16の気筒診断処理の詳細を説明する。図17では1番気筒の異常診断を行う例を示しているが、他の気筒においても同じ処理が行われるものである。尚、この図17に示すフローチャートが異常検出手段の他の実施形態に相当するものである。ここで、ステップS14〜ステップS19は実施例1と実質的に同様の処理内容である。
図17に示す制御フローは重ね放電を実行する重ね放電実行領域Gで実行されるので、排気ガスの還流が多くプレイグニッションの発生は少ない領域である。そして、図17のフローチャートにおいて、ステップS14では点火コイル35の二次電流の立ち上がり時点TISを検出する。この場合は二次電流の立ち上がり時点TISに同期して、図示しないタイマを起動してカウントアップするようにしている。
次に、ステップS15に進み点火コイル35の二次電流の立ち下がり時点TIEを検出する。この場合は二次電流の立ち下がり時点に同期して、タイマのカウントアップを停止するようにしている。したがって、ステップS16で二次電流の立ち上がり時点TISのカウント値と二次電流の立ち下がり時点TIEのカウント値から、TING=TIS−TIEの演算を行って、二次電流が流れている期間TINGを求める。このように、タイマによって計測された経過時間が点火コイル35の二次コイルに二次電流が流れている期間となる。
次にステップS17に進んで計測された二次電流が流れている期間TINGと予め定めた判定期間Iとを比較する。ここで、判定期間Iは、重ね放電時間(tw)に基づき設定されており、重ね放電時間(tw)が長くなるにつれ判定期間Iを長く設定することが望ましい。また、内燃機関の負荷、回転数、水温、油温、吸気温等に基づいて調整することが望ましい。また、電源電圧の変動による誤判定を防止するために、電源電圧に基づいて調整することも可能である。
そして、このステップS17で飛び火が生じている異常な点火状態なのか、あるいは正常な点火状態なのかが区別できる。ステップS17で正常と判定されるとステップS19に進み、飛び火が発生している異常状態と判定されるとステップS18に進むことになる。
ステップS17で正常と判定されるとステップS19では、1番気筒の異常判定フラグFIGNNG1を「0」にセットしてステップS46に進む。また、ステップS17で飛び火が発生している異常状態と判定されるとステップS18では、異常判定フラグFIGNNG1を「1」にセットしてステップS46に進むことになる。
したがって、ステップS46で異常判定フラグFIGNNG1を参照することによって、飛び火が発生している異常状態かどうかの判別が可能となるものである。ステップS46では、1番気筒点火コイル異常判定フラグFIGNNG1が1か否かを判断し、異常判定フラグFIGNNG1が「1」でなければエンドに抜け、1番気筒点火コイル異常判定フラグFIGNNG1が「1」であればステップS47へ進む。
以上の制御ステップで飛び火による異常診断が実行されたことになる。したがって、この異常判定フラグFIGNNG1を参照することによって、飛び火が発生している異常状態かどうかの判別が可能となるものである。仮に異常状態と判定されると、図示しないバックアップメモリにエラーコードが書き込まれて点検の際に参考情報として活用されることになる。
また、この異常判定フラグFIGNNG1を参照することによって、バックアップ制御を行うようにしても良いものである。本実施例ではステップS46で異常が発生していると判断されるとステップS47に進んで重ね要求信号の停止処理を実行する。これによって、通常の点火が実行されることになる。
更に、ステップS48に進んでEGR率を減少する処理を実行する。EGR率が低下するので、可燃混合気が点火プラグの電極間に進入しやすくなり、飛び火によって放電エネルギが減少していても容易に着火することが可能となり、バックアップ制御を実行できるようになる。尚、このEGR率を減少する処理は別の周期で起動されるプログラムで実行することも可能である。
ここで、ステップS14では二次電流の立ち上がり時点の時刻TISを検出し、ステップS15では二次電流の立下り時点の時刻TIEを検出しているが、二次電流の立ち上がりと立下りは、実施例1と同様に所定の第1の電流値Issを上回った時点をTISとし、所定の第2の電流値Iseを下回った時点をTIESとしても良いものである。これによれば、点火コイルの異常による二次電流の立ち上がり不能や二次電流の早期立下りを除外することができ、比較的高い電流値(例えば40mA)を異常判定閾値として設定することが望ましい。
また、本実施例では二次電流の立ち上り時刻から立ち下り時刻までの時間を計測し、計測した時間と判定時間Iを比較することとしているが、二次電流の積算値を算出し、この積算値と積算判定閾値を比較して積算判定閾値より小さいときに異常と判定しても良い。なお、積算判定閾値は内燃機関の負荷、回転数、水温、油温、吸気温等に基づいて調整することが望ましい。また、電源電圧の変動による誤判定を防止するために、電源電圧に基づいて調整することも可能である。このように積算値を用いると誤判定の危険性を少なくすることができる。例えば、瞬間的なノイズにより二次電流の継続時間を短く判定する可能性があるが、二次電流の積算値を用いることによってこの怖れを少なくすることができる。
また、二次電流の最大値を算出し、この最大値が所定閾値より小さい場合に異常と判定しても良い。なお、所定閾値は誤判定を防止するために電源電圧、水温、油温に基づいて調整することが可能である。
本実施例によれば、プレイグニッション発生時の誤診断を防止し、飛び火による異常を点火コイル毎に判別すること可能となる。また、全ての気筒の点火コイルが異常の場合は重ね放電ユニットの故障と判断することで、重ね放電ユニット自体の異常を判断することが可能となる。
ところで、このような重ね放電機能を備えた点火制御装置においては、点火プラグに長い時間に渡り大きな放電エネルギを供給する必要があり、そのために別に設けた昇圧回路から所定(例えば500V)以上の高圧電流を点火コイルの放電電流に付加しなければならないため、多気筒の内燃機関においては気筒数分をまかなう昇圧回路の構成が大きくなる。また、昇圧による発熱も発生することから冷却効果の高い場所に設置し、更に放熱手段が必要である。このため、実装上はコントロールユニットや点火コイルとは別体として構成している。
また、重ね放電ユニットを別体とする場合において、内燃機関の全運転領域で重ね放電を実施すると消費電流が過大となり、バッテリの劣化等の不具合を招く恐れがあるため、重ね放電する領域を限定する目的で、重ね要求信号情報をコントロールユニット側から与える構成として、昇圧回路の動作を制限するようにしている。
更に、コントロールユニットと放電ユニットと点火コイルの何れかの部位が故障した場合、点火制御装置全体を故障として判断されて点火制御装置を全て交換される可能性がある。これに対して、市場におけるディーラーサービス性は可能な限り故障部位を個別に判断することが望ましく、このため重ね放電ユニットを別体としている。
尚、上述した実施例では飛び火によって放電エネルギが消耗される異常状態を説明したが、これ以外にも放電エネルギが減少してプレイグニッションと区別できない異常状態、例えば二次コイルのグランドショートや電源電圧の低下等、があるので、本発明が対象とする異常状態は飛び火による異常状態に限定されないものである。
以上説明した通り、本発明によればプレイグニッションが発生しやすいプレイグニッション運転領域を設定し、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わず、プレイグニッション運転領域以外の運転領域で放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行うようにした。
これによれば、プレイグニッション運転領域では放電エネルギの減少を生じる異常状態の判別を行わないので、放電エネルギの減少を生じる異常点火状態とプレイグニッション状態での点火を区別して正確な異常検出ができるという効果を奏することができる。