以下、本発明に係る金型冷却システムについて金型冷却方法との関係で好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態に係る金型冷却システム10は、図1に示すように、金型12を冷却するための冷却回路を構成している。金型12は、鋳造(例えば、ダイカスト鋳造等)を行う鋳造装置14において、鋳造品の成形を直に行う構造体であり、その内部に注湯された溶湯を時間経過に伴い凝固させる。
金型12は、例えば、自動車エンジンのシリンダヘッド(図示せず)を製造する鋳型に構成され、図2に示すように、型締め状態でこのシリンダヘッドを形成し得るキャビティ16を有する。なお、金型12が鋳造する鋳造品は、シリンダヘッドに限定されないことは勿論である。
金型12は、複数のブロック(固定型18、可動型20等)に分割可能であり、相互の型の分離によってキャビティ16を開放する。固定型18には、例えば、キャビティ16に連通する湯口系22(湯口、湯道等)が設けられ、金型12は、この湯口系22を介してキャビティ16内に溶湯を圧入する。シリンダヘッドを成形する場合、固定型18側のキャビティ16の構成空間は、例えばシリンダヘッドの下部(燃焼室の一部)及び外形を成形する型形状を呈する。さらに固定型18は、シリンダヘッドの吸気路及び排気路を形成するための砂中子24を、型内の所定位置にセットする構成となっている。
一方、可動型20は、上記の固定型18の上方において、図示しない変位機構に取り付けられ、固定型18に対し進退自在となっている。可動型20は、固定型18と接触することで型締めしてキャビティ16を形成すると共に、型開きにより固定型18と離間することで鋳造品を露出する。シリンダヘッドを成形する場合、可動型20のキャビティ16の構成空間は、例えばシリンダヘッドの上部側室内(ポペットバルブ及びカムシャフトの収容空間)を成形する型形状を呈する。なお、金型12を構成するブロックは、固定型18と可動型20の2つに限定されるものではない。例えば、可動型20を2以上に分割して、固定型18の上方を上下に進退するブロックの他に、固定型18の上方の周囲で側方に進退するブロックを設けて、より複雑な鋳造物を成形することができる。要するに、金型12は、鋳造品を成形するための適宜な構成(型の形状や配置、個数)を採用し得る。
金型12を構成する材料は、高温でも充分な強度を有すると共に、キャビティ16に注湯した溶湯が短時間に凝固可能な熱伝導率(例えば、30〜100W・(m・K)-1)を有するものが好ましい。この場合、熱間工具鋼を良好に適用することができる。
また、金型12に注湯される溶湯の材料は、鋳造品に応じて適切なものが選択される。シリンダヘッドを成形する場合は、アルミ合金、マグネシウム合金等を適用することが好ましい。なお、金型12は、金属材料だけでなく、製品に応じて樹脂材料、つまり樹脂成形品を成形するものであってもよい。
そして、金型12の内部には、図1及び図2に示すように、金型12を冷却するための冷却水(冷媒)を流通可能な金型冷却システム10の金型側流路26が設けられる。金型側流路26は、金型12内に複数本設けられることが好ましい。これにより、個々の金型側流路26の流入ポート付近と流出ポート付近とで温度差が大きくなることを抑制し、金型12全体を均一的に冷却することができる。例えば、複数本の金型側流路26は、湯口系22付近を回り込む経路と、キャビティ16の外側付近を回り込む経路とを含むとよい。
なお、図1中では、4本の金型側流路26を例示しているが、多気筒タイプのシリンダヘッドを成形する場合、数十本(例えば、36本)の金型側流路26が設けられる。また、図1中では、金型側流路26を固定型18に設けているが、金型側流路26の設置位置は特に限定されるものではなく、固定型18及び可動型20(又は可動型20のみ)に設けられてもよい。固定型18と可動型20に設ける場合は、金型12よりも上流側の上流側流路30において、複数に分岐した分岐路42を固定型18と可動型20に分けて接続すればよい。要するに、金型側流路26の形成状態(経路、位置又は形状等)は、金型12を効果的に冷却するために任意に設計してよい。
金型冷却システム10は、上記の金型側流路26を冷却回路内に含み、冷却水を、金型12内を通りつつ循環させる循環回路として構成される。なお、冷却回路を循環する冷媒の材料は、水(冷却水)に限定されるものではなく、例えば所定の成分からなる水溶液やオイル等の液体、或いは気体を適用してもよい。金型冷却システム10は、冷媒の種類に応じて回路を略閉じた系とする適宜な環境に形成されることが好ましい。
金型冷却システム10は、金型側流路26の一端側(流入ポート)に連通し金型12に冷却水を供給する上流側流路30と、金型側流路26の他端側(流出ポート)に連通し金型12から冷却水を排出する下流側流路32とを有する。上流側流路30及び下流側流路32は、例えば、金属パイプや樹脂パイプにより構成され、冷却水を安定的に流動させ得る流路断面積を有している。
金型冷却システム10の上流側流路30は、その上流端が冷却水の供給源である第1タンク34に接続され、下流端に接続されている金型12までの冷却水の流路を構成している。第1タンク34から金型12までの上流側流路30の途中位置には、第1ポンプ36(上流側ポンプ)及び第1バルブ38が設けられる。
第1タンク34は、冷却水を一時的に貯留する容器であり、第1ポンプ36の駆動作用下に上流側流路30に冷却水を流出させる。この第1タンク34の開口には、後述する第2タンク44から冷却水(循環した冷却水を含む)を受け入れる還元流路54の一端が配置されている。
また、第1タンク34は、冷却回路の外部からタンク内に冷却水を供給するための供給管34aと、タンク内から冷却回路の外部に冷却水を排出するための排出管34bとを備える。すなわち、第1タンク34は、基本的には第2タンク44から冷却水が還元される構成であるものの、金型冷却システム10の実施中には、冷却水が偏在して流通不良に陥る可能性がある。このため、第1タンク34は、冷却水の貯留量が上限貯留値を越えた場合に排出管34bを介して越えた分の冷却水を外部に排出する一方、冷却水の貯留量が下限貯留値を下回った場合に供給管34aを介して必要な量の冷却水が外部から供給される構成としている。
第1タンク34の下流側に設けられる第1ポンプ36は、第1タンク34から金型12に向けて冷却水を圧送する圧送ポンプとして機能する。この第1ポンプ36は、金型冷却システム10の制御部40に接続されており、制御部40の制御下に、冷却水の流量や供給タイミング等を制御して上流側流路30内を流動させる。第1ポンプ36として用いられるポンプの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、遠心ポンプや軸流ポンプ等が挙げられる。或いは、金型冷却システム10は、第1タンク34と第1ポンプ36を一体化した構造(リザーバを有するポンプ)を適用してもよい。
第1ポンプ36の下流側に設けられる第1バルブ38は、上流側流路30を開放又は遮断するための電磁弁である。この第1バルブ38も、制御部40に接続されており、制御部40の制御下に、第1バルブ38内(すなわち、上流側流路30)の開放又は遮断を切り換える。
第1バルブ38の内部では、金型12の複数の金型側流路26に対応して上流側流路30を分割している。このため、上流側流路30は、第1バルブ38の排出側から金型12にかけて複数の分岐路42に分かれ、各分岐路42は所定の金型側流路26にそれぞれ接続される。第1バルブ38は、分岐路42毎に開閉可能な構成であり、分岐路42毎の冷却水の流通又は流通停止を制御する。これにより第1バルブ38は、例えば、金型12中で局所的に温度が高くなる箇所の金型側流路26に対し、他の金型側流路26よりも冷却水を長時間流通させる等の詳細な冷却管理を行うことができ、金型12をより均一的に冷却することができる。
また、第1バルブ38は、上流側流路30を流動する冷却水の流量又は流速を測定する流量計の機能を有している。第1バルブ38は、上流側流路30の開放又は遮断状態の情報の他に、測定した冷却水の流量値や流速値を制御部40に送信する。これにより、制御部40は、金型12に圧送する冷却水の流動状態を認識し、第1ポンプ36又は後述する第2ポンプ52の流量制御に反映する。
一方、金型冷却システム10の下流側流路32は、その下流端が冷却水の排出先である第2タンク44に接続され、上流端に接続されている金型12から第2タンク44までの冷却水の流路を構成している。金型12から第2タンク44までの下流側流路32の途中位置には、第2バルブ46及び負圧発生部48(負圧の付与源)が設けられている。また、下流側流路32には、第2タンク44から負圧発生部48に冷却水を流通するための負圧用流路50が接続される。この負圧用流路50には、負圧発生部48に冷却水を流動させる第2ポンプ52(下流側ポンプ)が設けられている。
第2タンク44は、第1タンク34と同様に、冷却水を一時的に貯留する容器であり、供給管44a及び排出管44bを備える。第1タンク34と第2タンク44の間には還元流路54が設けられている。第2タンク44に貯留された冷却水は、基本的に第1タンク34の冷却水の貯留状態に応じて第1タンク34に戻される。なお、金型冷却システム10は、第1タンク34と第2タンク44をまとめて1つのタンクとし、冷却水を流出及び流入する構成としてよい。
還元流路54には、金型12により温度上昇した冷却水を放熱する図示しない熱交換器が設けられていてもよい。これにより第1タンク34には、比較的低温になった冷却水が貯留される。なお、熱交換器の設置位置は特に限定されるものではなく、例えば、下流側流路32の途中位置に設けられてもよい。
また、第2タンク44は、還元流路54とは別に負圧用流路50が接続されていることで、第2タンク44に貯留されている冷却水の一部を負圧発生部48に供給する。負圧用流路50上で第2タンク44の下流側に設けられる第2ポンプ52は、負圧用流路50を介して負圧発生部48に冷却水を圧送する機能を有する。第2ポンプ52は、制御部40に接続され、制御部40の制御下に、冷却水の流量や供給タイミング等を制御して下流側に流動させる。この第2ポンプ52に用いられるポンプの種類も、特に限定されるものではなく、第1ポンプ36で挙げたものを好適に用いることができる。
負圧発生部48は、負圧用流路50の下流端に接続されると共に、下流側流路32の途中位置に接続されている。これにより負圧発生部48は、下流側流路32を、上流側の第1下流側流路56と下流側の第2下流側流路58との2つに分割している。この負圧発生部48は、液体ジェットポンプを内部に有する3ポートコネクタとして構成される。第1ポート48aは、第1下流側流路56の下流端に接続し、第2ポート48bは、第2下流側流路58の上流端に接続し、第3ポート48cは、負圧用流路50の下流端と接続している。この場合、第2ポート48bと第3ポート48cは略直線状に連なる筒状体49aに形成される一方、第1ポート48aは第2及び第3ポート48b、48cの筒状体49aに対し直交方向に交わる突出筒49bに形成される。
第3ポート48cの内部には、負圧用流路50から供給された冷却水の流速を速めるため、その流路断面積が徐々に小さくなる図示しないテーパ部が設けられている。突出筒49bは、テーパ部の出力部付近に向かって直交方向に交差するように接続される。このように形成された負圧発生部48は、負圧用流路50から第3ポート48cに冷却水が供給される。そして、第3ポート48cから第2ポート48bに向かって冷却水が流動する際に、テーパ部により流速が速められて、テーパ部の出力部から冷却水が勢いよく吐出する。これにより負圧発生部48は、出力部付近を臨む第1ポート48aに負圧をかけ、第1下流側流路56に存在する冷却水を吸引する。第1ポート48a及び第3ポート48cから流入した冷却水は、第2ポート48bを介して負圧発生部48から排出され、第2下流側流路58を流動していく。
従って、負圧発生部48は、負圧用流路50の冷却水の流動に応じて、第1ポート48aから冷却水を適宜吸引することができる。すなわち、制御部40は、第2ポンプ52において冷却水の流動(圧送)を制御することで、冷却回路にかける負圧を調整することができる。なお、負圧を付与する構成は、上記の負圧発生部48、負圧用流路50及び第2ポンプ52に限定されず、種々の構成を適用することができ、例えば、下流側流路32に吸引ポンプを単に設けた構成でもよい。
一方、下流側流路32(第1下流側流路56)に設けられる第2バルブ46は、下流側流路32を開放又は遮断する電磁弁として構成される。この第2バルブ46は、制御部40に接続され、制御部40の制御下に、下流側流路32の開放又は遮断の切換を行う。例えば、第2バルブ46としては、電磁ボールバルブを適用することができる。
第2バルブ46は、負圧発生部48よりも上流側に設けられることで、冷却水の吸引のオン/オフ操作を行う。つまり、第2バルブ46は、金型冷却システム10の冷却回路、特に第2バルブ46よりも上流側の第1下流側流路56及び金型側流路26、並びに複数の分岐路42からなる領域(以下、吸引領域60という)に、負圧を付与するか否かを切り換える機能を有する。具体的には、第2バルブ46の閉塞状態で冷却水の吸引を停止し、第2バルブ46の開放状態で負圧発生部48による冷却水の吸引を実施させる。
金型冷却システム10は、冷却回路内において負圧を付与することにより、金型12の冷却を効率的に行うことができる。すなわち、金型冷却システム10は、金型12の下流側で負圧をかけて冷却水を流動させることで、金型側流路26の絶対圧力を低くする。これにより、金型12内での冷却水の流動が円滑になり、金型12に多少のクラックがあっても冷却水の漏出を防止することができる。
また、第1バルブ38の閉塞状態で、下流側流路32において負圧発生部48が負圧を付与することで、吸引領域60に冷却水が供給されないまま冷却水が吸引されるため、吸引領域60(特に金型側流路26)が減圧される。この減圧に伴い冷却水の沸点が下がるため、冷却水の相転移が容易に行われるようになり、相転移に基づく吸熱が促進され、金型12を良好に冷却することが可能となる。
ここで、下流側流路32の第2バルブ46よりも上流側には、計測用分流路62が分岐接続されている。この計測用分流路62の端部には圧力を計測する圧力計64が接続される。圧力計64は、制御部40に電気的に接続されており、計測用分流路62(すなわち、吸引領域60)の圧力を計測し、その圧力値を制御部40に定期的に(又は制御部40の指示に応じて)送信する。制御部40は、圧力値に基づき、第2ポンプ52による冷却水の流動量を調整、又は第2バルブ46の開閉を制御する。
そして、本実施形態に係る金型冷却システム10は、第1バルブ38の開閉と、第2バルブ46の開閉とを制御部40により個別に制御することで、金型12の温度を調整している。制御部40は、図示しない演算処理部、記憶部、入出力部等を有するコンピュータを適用することができる。なお、金型冷却システム10の制御部40は、金型12の動作を含む鋳造装置14全体を制御する構成であることが好ましい。これにより、鋳造品の製造工程を統括的に管理し、作業効率の向上等を図ることができる。
金型12の温度をモニタリングするため、金型12内の所定箇所には、金型12の温度を検出する温度検出センサ66が設けられる。温度検出センサ66は、設置箇所周辺の温度を検出して、この温度検出値を定期的(又は制御部40の指示毎)に制御部40に出力する。温度検出センサ66は、金型12内に複数(例えば、金型側流路26に対応して)設けられていてもよい。
制御部40は、記憶部に記憶されている図示しない制御プログラムを演算処理部が実行することで、図3に示すように、温度判別処理部68と、圧力判別処理部70と、ポンプ駆動処理部72とを機能的に構築する。
温度判別処理部68は、温度検出センサ66から温度検出値を取得し、第1又は第2バルブ38、46の開閉を判別する。具体的には、温度判別処理部68は、金型12の温度範囲を設定した温度閾値Tを記憶している。この温度閾値Tは、金型12の型締め開始前における金型12の下限温度であり、型締め前の金型12の温度が温度閾値T以上の場合には、第1バルブ38を閉塞し、且つ第2バルブ46を開放する弱冷処理(金型温度調整工程)を行う。逆に、型締め前の金型12の温度が温度閾値Tを下回る場合には、第1バルブ38を閉塞し且つ第2バルブ46を閉塞する不冷却処理を行う。
ここで、鋳造品の鋳造実施時には、図4に示すように、型締め前に作業員が身体動作で行う各種の工程(以下、ハンドワーク工程という)が営まれる。一方、型締めの開始段階になると、鋳造装置14により定まった時間毎に鋳造作業を行う各種の工程(以下、マシンコントロール工程という)が営まれる。このため、ハンドワーク工程では、作業者の熟練度や作業状況等に応じて作業時間が異なることになり、金型12の温度が型締め前に安定化しない原因をつくる。
例えば、ハンドワーク工程にかかる期間が短い場合には、型締め開始時に金型12の温度があまり低下せず高いままとなる。このように金型12の温度が高いと溶湯の凝固に時間がかかることになり、作業効率の観点から望ましくない。また、凝固に時間がかかることにより、鋳造品質を悪化させる恐れがある。そこで、制御部40は、金型12の温度を低下させるために、上記の弱冷処理を実施する。つまり、金型12の温度が温度閾値T以上であることに基づき、型締め時に金型12の冷却を実施する。逆に、ハンドワーク工程にかかる期間が長い場合には、金型12の温度が低いことから金型12の冷却を行わない不冷却処理を行うことになる。
温度判別処理部68は、弱冷処理を行った場合に、温度検出センサ66の温度検出値を監視し続けて温度閾値Tを下回ると弱冷処理を停止する。つまり、開放していた第2バルブ46を閉塞し、冷却水の吸引に伴う流動を停止する。これにより、金型12の温度低下が抑制される。
図3に戻り、制御部40の圧力判別処理部70は、第1バルブ38を閉塞し、第2バルブ46を開放した場合における、吸引領域60内の圧力状態を検出して負圧を管理することで、冷却水の沸点を調整する。例えば、圧力判別処理部70は、予め圧力閾値を記憶しており、弱冷処理における吸引領域60の圧力が圧力閾値以下になった場合に、第2バルブ46を閉塞する処理を行う。これにより吸引領域60の減圧状態が安定化し、金型12の温度を緩やかに冷却することができる。
また、制御部40のポンプ駆動処理部72は、第1バルブ38の開閉状態に応じて第1ポンプ36の駆動を制御すると共に、第2バルブ46の開閉状態に応じて第2ポンプ52の駆動を制御する。例えば、ポンプ駆動処理部72は、第1バルブ38の開放と共に第1ポンプ36を駆動することで冷却水を円滑に流通させ、第1バルブ38の閉塞と共に第1ポンプ36の駆動を停止することで上流側流路30内の圧力を安定化させる。同様に、ポンプ駆動処理部72は、第2バルブ46の開放と共に第2ポンプ52を駆動することで冷却水を円滑に流通させ、第2バルブ46の閉塞と共に第2ポンプ52の駆動を停止することで下流側流路32内の圧力を安定化させる。なお、第1及び第2バルブ38、46の開閉と第1及び第2ポンプ36、52の駆動/駆動停止は、その実施タイミングを同時にするだけでなく、実施タイミングを適宜前後にずらすことで、冷却水をより良好に流動させることもできる。
本実施形態に係る金型冷却システム10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用効果について鋳造作業の流れと共に説明する。
鋳造装置14によるシリンダヘッドの鋳造では、上述したようにハンドワーク工程と、マシンコントロール工程が行われる。ハンドワーク工程では、例えば図4に示すように、型内確認工程、金網セット工程、エアブロー工程及び中子セット工程が作業員の手作業によって順次実施される。
型内確認工程では、作業員の目視等により、金型12の状態を確認する作業が行われる。金網セット工程では、作業員の手により、溶湯の不純物を除去するための金網が金型12の所定位置(湯口系22等)にセットされる。エアブロー工程では、作業員がエアブロー器具を用いてエアを吹き掛け、キャビティ16や湯口系22に付着している溶湯の凝固物を除去する作業が行われる。中子セット工程では、作業員の手により金型12の所定位置に砂中子24をセットして、溶湯の注湯によりシリンダヘッドを鋳造可能な状態とする。なお、ハンドワーク工程の各工程において、金型冷却システム10の制御部40は、第1及び第2バルブ38、46を閉塞状態としており、すなわち冷却回路内での冷却水の流動を停止させている。このため、金型12の温度は、前回の鋳造による高温状態から自然放熱により緩やかに低下していく。
以上の各工程を実施すると、シリンダヘッドを鋳造するハンドワーク工程が終了し、その後はマシンコントロール工程が行われる。マシンコントロール工程では、型締め工程、注湯・凝固工程、型開き工程及び離型・取り出し工程が鋳造装置14の機械制御に基づき順次実施される。
型締め工程では、鋳造装置14が可動型20を移動して固定型18に接触させることで、キャビティ16を形成する。また、鋳造装置14は、この型締め工程時に、湯口系22を介して溶湯を供給可能な状態とする(湯口系22の供給源に溶湯の注湯を行う)。さらに、金型冷却システム10は、型締め工程時に、金型12の温度を調整する温度調整判別処理を実施する。この温度調整判別処理については後述する。
注湯・凝固工程では、鋳造装置14が湯口系22を介してキャビティ16内に溶湯を圧入していき、さらに所定時間経過させてキャビティ16内に充填した溶湯を凝固させることで、鋳造品を成形する。この際、金型冷却システム10は、冷却水を循環させる処理を行う。
すなわち、金型冷却システム10の制御部40は、注湯・凝固工程の開始に伴い第1バルブ38を開放状態にすると共に、第2バルブ46を開放状態にする。また、第1及び第2ポンプ36、52を駆動して金型側流路26に冷却水を流通させることで金型12を冷却する。これにより、金型12の温度上昇が抑えられ、且つ鋳造品の凝固が促進される。
注湯・凝固工程の終了後、型開き工程では、鋳造装置14が可動型20を駆動して固定型18から引き離すことで、鋳造品を露出させる。この際、金型冷却システム10は、第1及び第2バルブ38、46を開放状態から閉塞状態に切り換えて、冷却水の流動を停止する。これにより金型12の急速な冷却が防止され、金型12を緩やかに放熱させていく。
型開き工程の終了後、離型・取り出し工程では、図示しない搬送装置により、固定型18から露出されている鋳造品を取り出して以降の工程に搬送する。この際も、第1及び第2バルブ38、46は閉塞状態であり、冷却水の流動は停止されている。鋳造装置14は、以上の工程を行うことにより、1つのシリンダヘッドを鋳造することができ、以下同じ工程を繰り返す。
次に、型締め工程時における金型冷却システム10の温度調整判別処理について説明する。金型冷却システム10は、上述したように、ハンドワーク工程の実施時に、第1及び第2バルブ38、46を閉塞状態にすることで、冷却水の流動を停止させている。このため、金型12は、徐々に放熱を行い、ハンドワーク工程の実施期間において略比例した温度低下を見せる。その結果、ハンドワーク工程の実施期間に応じて、溶湯の注湯開始時(注湯・凝固工程の初期時)の温度にバラツキが生じる。
例えば、金型12の温度が緩やかに下降したとしても、ハンドワーク工程に時間を費やした場合等は、図5Aに示すように、型締めの初期時に温度閾値Tを下回ることになる。この場合、制御部40の温度判別処理部68は、第1バルブ38を閉塞し、且つ第2バルブ46を閉塞した不冷却処理を行う。つまり、冷却水の流動停止状態が継続され、金型12の温度は緩やかに低下する。その結果、注湯・凝固工程の開始時には、鋳造品を精度よく製造し得る所定の温度範囲(品質安定温度範囲)内に金型12の温度が含まれるようになる。
また、ハンドワーク工程の実施期間が短いと、図5Bに示すように、金型12の温度は、型締めの初期時に温度閾値T以上となる。この場合、温度判別処理部68は、第1バルブ38を閉塞し、且つ第2バルブ46を開放する弱冷処理(金型温度調整工程)を行う。この弱冷処理では、金型12の上流側からの冷却水の流動が第1バルブ38により遮断され、逆に金型12の下流側から冷却水を吸引する動作が行われる。その結果、吸引領域60内の圧力が減圧されることになり、吸引領域60内に元々存在し温度が高まっていた冷却水でも気化が促されることになる。つまり、冷却水が気化することで熱を吸収するように作用する。また、冷却水は、負圧と気化(相転移)の相乗作用により金型側流路26内での運動が促されて乱流を増大させる。その結果、金型12の温度低下がさらに促進する。
この吸引(負圧の付与)に伴う冷却は、冷却回路内を冷却水が循環することによる通常冷却よりも温度の低下を調整し易い。ここで、金型12の温度制御は、注湯・凝固工程の開始時に、金型12の温度が品質安定温度範囲内にあることを目的としている。例えば、制御部40は、第1バルブ38を開放し、且つ第2バルブ46を開放することで冷却水を循環して通常冷却することも考えられる。しかしながら、新たな冷却水を金型12に導入して金型12を温度変化させると、注湯・凝固工程の開始時に品質安定温度範囲に金型12の温度をもっていく制御が複雑になる。
これに対し、金型冷却システム10は、弱冷処理により、型締めの実施期間中に金型12に存在する冷却水の吸引により金型12を弱く冷却することができる。このため、金型12の温度調整を容易に行うことができ、鋳造品の品質を安定化させることができる。
なお、金型冷却システム10は、金型12の温度調整を行う処理の他の実施形態として、図6A及び図6Bに示すように、弱冷処理及び不冷却処理の他に、金型12を一層冷却する通常冷却処理を実施する制御を行ってもよい。具体的には、通常冷却処理は、第1及び第2バルブ38、46を共に開放して、金型側流路26に冷却水を循環させる動作を行う。これにより、金型12の温度は、急速に低下する。
この場合、金型冷却システム10の制御部40は、例えば、第1温度閾値T1と第2温度閾値T2を予め記憶しておくことで、通常冷却処理、弱冷処理及び不冷却処理を選択的に実施するとよい。例えば、型締め開始時の金型12の温度が第1温度閾値T1以上の場合には、通常冷却処理を実施する。また、金型12の温度が第1温度閾値T1を下回り第2温度閾値T2以上の場合には、弱冷処理を実施する。さらに、金型12の温度が第2温度閾値T2を下回る場合には、不冷却処理を実施する。これにより、金型冷却システム10は、金型12の温度管理をより詳細に行うことが可能となり、注湯・凝固開始時の温度をより安定させることができる。
以上のように、本実施形態に係る金型冷却システム10及び金型冷却方法によれば、第1バルブ38を閉塞状態とし且つ第2バルブ46を開放状態とする。これにより、第1バルブ38よりも下流側を減圧して金型12を冷却する弱冷処理を行い、金型12の温度のバラツキを抑えることができる。すなわち、第1バルブ38よりも下流側で第2バルブ46よりも上流側にある金型12に負圧を付与して吸引領域60内を減圧することで、冷却水の相転移を促進して金型12の吸熱を進行させることができる。よって、溶湯の注湯前に金型12の温度が所定以上の場合、弱冷処理の実施により金型12の温度を下げることが可能となり、溶湯の注湯時には温度のバラツキが抑えられる。その結果、金型12内での溶湯の凝固状態を略一様とし、鋳造品の品質を安定化させることができる。
また、制御部40は、型締め直前の金型12の温度に基づき弱冷処理の実施の可否を判別する構成となっている。これより、ハンドワーク工程の実施期間の変動によりハンドワーク工程後の金型12の温度が変動したとしても、型締め中に金型12の温度を良好に調整することができる。そして、溶湯の注湯時には、金型12の温度のバラツキが少ない状態で、溶湯を注湯及び凝固させていくことができる。
さらに、金型冷却システム10は、第1バルブ38よりも上流側に冷却水を圧送する第1ポンプ36を備えることで、金型12を冷却する冷却水の供給を一層スムーズに行うことができる。
なお、金型冷却システム10は、金型側流路26に対し負圧を付与可能であればよく、冷却水を圧送する第1ポンプ36を備えていなくてもよい。この場合、第2バルブ46の開放により、負圧発生部48が金型冷却システム10の循環回路全体に負圧をかけて冷却水を流動させる。そして、第1バルブ38を閉じれば、上記弱冷処理を実施することができる。一方、第2バルブ46の閉塞により、負圧発生部48の負圧を遮断することができ、冷却水の流動を停止することができる。
また、金型冷却システム10の制御として、制御部40が第2ポンプ52の出力を変えて負圧の大きさを適宜設定し、金型12の冷却を制御してもよい。例えば、制御部40は、弱冷処理時や通常冷却処理時は第2ポンプ52を設定出力で動作させ負圧発生部48に所定の吸引力(負圧)をかけて金型12を冷却する。さらに、金型12の冷却を強力に行う強冷処理として、制御部40は設定出力よりも大きな出力で第2ポンプ52を動作させ負圧発生部48に大きな吸引力を生じさせる。これにより金型12の温度調整を一層効率的に行うことができる。
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。例えば、金型冷却システム10は、弱冷処理(金型温度調整工程)を、注湯・凝固工程の途中や型開き工程等に行う構成としてもよい。これにより、金型12の温度を緩やかに冷却することが可能となり、例えば鋳造品を取り出す際に鋳造品の温度を適切に設定して、容易に取り出させることができる。要するに、鋳造品の製造工程において、金型温度調整工程を実施するタイミングは、特に限定されず、制御内容に応じて行うことが可能である。
また、金型冷却システム10は、金型冷却方法において、型締め工程後の注湯・凝固工程の開始を金型12の温度に基づき実施してもよい。すなわち、制御部40は、金型12の検出温度を監視して、所定温度になるまで弱冷処理を行い、この間は型締め工程が完了しても注湯・凝固工程の実施を待機する。これにより、注湯・凝固工程の開始時の温度を一層近づけることができ、鋳造品の品質を高めることができる。
さらに、金型冷却システム10の制御部40は、金型12の検出温度値の変化に応じて、吸引領域60の圧力状態をリアルタイムに変更して、金型12の温度調整を一層詳細に行ってもよい。この場合、制御部40は、温度検出センサ66の検出温度値と、圧力計64の検出圧力値をマップとして管理することで、金型12の温度を精度よく調整することができる。