図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成図である。図1の超音波診断装置は、生体内における流体の流れを示す流線を形成する機能を備えており、血管内またはその他の臓器内に流れる血流等の流線を形成することができる。診断対象としては、特に心臓内における血流が好適である。そこで、以下の説明においては、生体内における流体の好適な一例である心臓内の血流を診断対象とする。
プローブ10は、生体内の心臓を含む領域に超音波を送受波する超音波探触子である。プローブ10は、複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が電子的に走査制御されて、心臓を含む空間内で超音波ビームが走査される。プローブ10は、例えば、医師等のユーザ(検査者)に把持されて被検者の体表面上に当接して用いられる。なお、プローブ10は、被検者の体腔内に挿入して用いられるものであってもよいし、電子的な走査と機械的な走査とを組み合わせた探触子であってもよい。
送受信部12は、送信ビームフォーマーおよび受信ビームフォーマーとしての機能を備えている。つまり、送受信部12は、プローブ10が備える複数の振動素子の各々に対して送信信号を出力することにより送信ビームを形成し、さらに、複数の振動素子から得られる複数の受波信号に対して整相加算処理などを施して受信ビームを形成する。これにより、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)が走査面内において走査され、超音波ビームに沿って受信信号が形成される。なお、超音波の受信信号を得るにあたって、超音波ビームが三次空間内で立体的に走査されてもよいし、送信開口合成等の技術が利用されてもよい。
画像形成処理部20は、走査面内から得られる超音波の受信信号に基づいて、超音波画像用のデータ(画像データ)を形成する。画像形成処理部20は、例えば、超音波の受信信号に対して、検波処理やフィルタ処理やAD変換処理等を施すことにより、Bモード画像用のフレームデータを形成する。もちろん、Bモード画像以外の公知の超音波画像に係る画像データが形成されてもよい。
画像形成処理部20は、超音波の走査に対応した走査座標系、例えばビームの深さ方向に対応したr方向とビームの走査方向に対応したθ方向によるrθ座標系において画像データを形成する。走査座標系(例えばrθ座標系)において得られた画像データは、例えばデジタルスキャンコンバータにより座標変換処理等を施され、表示座標系(例えばxy直交座標系)の画像データに変換される。デジタルスキャンコンバータの機能は、例えば画像形成処理部20または表示処理部60が備える。
ドプラ処理部30は、超音波ビームに沿って得られる受信信号に含まれるドプラシフト量を計測する。ドプラ処理部30は、例えば公知のドプラ処理により、血流によって超音波の受信信号内に生じるドプラシフト量(ドプラシフト周波数)を計測し、血流についての超音波ビーム方向の速度情報を得る。
速度ベクトル演算部40は、血流についての超音波ビーム方向の速度情報から、走査面内における2次元の速度ベクトルの分布を形成する。速度ベクトル演算部40は、例えば特許文献1(特開2013−192643号公報)に説明されるように、血流についての超音波ビーム方向の速度情報と、心臓壁の運動情報を利用して、走査面内の各位置における血流の2次元速度ベクトルを得る。
なお、超音波ビーム方向に沿った1次元の速度情報から、走査面内における2次元の速度ベクトルの分布を形成するにあたっては、公知の様々な手法を利用することができる。もちろん、互いに方向が異なる2本の超音波ビームを形成して、2本の超音波ビームの各々から速度情報を得て、2次元の速度ベクトルを形成するようにしてもよい。
速度ベクトル演算部40は、超音波の走査に対応した走査座標系(例えばrθ座標系)において、複数のサンプル点について各サンプル点ごとに速度ベクトルを得て2次元の速度ベクトルの分布を形成する。また、速度ベクトル演算部40は、走査座標系(例えばrθ座標系)において得られた2次元の速度ベクトルの分布から、座標変換処理や補間処理により、表示座標系(例えばxy直交座標系)における2次元の速度ベクトルの分布を得る。なお、2次元の速度ベクトルの分布に関する座標変換処理や補間処理は、流線形成部50で行われてもよい。
流線形成部50は、速度ベクトル演算部40において得られる2次元の速度ベクトルの分布に基づいて、流体の具体例である心臓内の血流の流れを示す流線を形成する。流線形成部50における具体的な処理については後に詳述する。
表示処理部60は、画像形成処理部20で形成される超音波画像の画像データと、速度ベクトル演算部40において得られる速度ベクトルの分布と、流線形成部50において形成される流線に基づいて、表示画像を形成する。表示処理部60において形成された表示画像は表示部62に表示される。
制御部70は、図1に示す超音波診断装置内を全体的に制御する。なお、図1の超音波診断装置は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル、ジョイスティック等の操作デバイスを備えていることが望ましい。そして、制御部70による全体的な制御には、操作デバイス等を介してユーザから受け付けた指示も反映される。
図1に示す構成(符号を付した各部)のうち、送受信部12,画像形成処理部20,ドプラ処理部30,速度ベクトル演算部40,流線形成部50,表示処理部60の各部は、例えば電気電子回路やプロセッサ等のハードウェアを利用して実現することができ、その実現において必要に応じてメモリ等のデバイスが利用されてもよい。また、上記各部に対応した機能が、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現されてもよい。表示部62の好適な具体例は液晶ディスプレイ等である。制御部70は、例えば、CPUやプロセッサやメモリ等のハードウェアと、CPUやプロセッサの動作を規定するソフトウェア(プログラム)との協働により実現することができる。
図1の超音波診断装置の概要は以上のとおりである。次に、図1の超音波診断装置により実現される機能の具体例について詳述する。なお、図1に示した構成(符号を付した各部)については、以下の説明において図1の符号を利用する。
図2は、流体の流れを追跡する処理の具体例を説明するための図である。流線形成部50は、血流に係る2次元の速度ベクトルの分布が得られた平面内において、血流の流れを追跡する。流線形成部50は、複数の開始点SPについて、各開始点SPごとに、その開始点SP(後に説明する適正開始点が望ましい)を起点として、2次元の速度ベクトルの分布に従って流体の流れを追跡する。図2には、代表例として1つの開始点SPのみが図示されている。
流線形成部50は、開始点SPから、その開始点SPの位置における速度ベクトル(図2における矢印)の方向に進んで追跡点TPを探索する。追跡点TPは、例えば、破線で示す格子状の演算グリッド上において探索される。演算グリッド上の追跡点TPが探索されると、その追跡点TPの位置における速度ベクトルが参照され、その速度ベクトルの方向に進んで次の追跡点TPが探索される。
なお、追跡点TPの位置に速度ベクトルが無い場合には、例えば、その追跡点TPの近傍において既に算出されている複数の速度ベクトルに基づいて、例えば補間処理等により得られる補間ベクトルが、その追跡点TPにおける速度ベクトルとされる。
こうして、図2に示すように、1つの開始点SPを起点として速度ベクトルの分布に従って次々に追跡点TPが探索され、血流の流れが追跡される。流線形成部50は、例えば心臓の心腔に対して設定された関心領域内において、追跡の結果が関心領域の境界に到達するまで追跡処理を実行する。なお、流線形成部50は、追跡の過程において、速度ベクトルが下限基準値以下となった時点において追跡を終了してもよいし、追跡の長さ(距離)が上限値に達した時点において追跡を終了させてもよい。
追跡が終了すると、流線形成部50は、各開始点SPとその開始点SPから得られる複数の追跡点TPについて、互いに隣り合う点同士を直線または曲線で結ぶことにより、折れ線状または曲線状の流線を形成する。
各開始点SPを起点として、速度ベクトルの方向への追跡(フォワードトレース)のみにより流線を形成すると、その開始点SP(後に説明する初期開始点)から下流側に流線が形成されるものの、その開始点SPから上流側に流線が形成されない。そのため、その開始点SPにおいて流線が途切れているように表示されてしまう。例えば、心腔内において流線の上流側が形成されていないと、不連続で不自然な流線が形成されてしまう。
そこで、流線形成部50は、当初の開始点SP(初期開始点)の上流側において適正な開始点SP(適正開始点)を探索し、適正な開始点SPを起点とする流線を形成する。適正な開始点SPを探索するにあたり、流線形成部50は、血流の流れを逆追跡(バックトレース)する。
図3は、流体の流れを逆追跡する処理の具体例を説明するための図である。流線形成部50は、診断対象となる関心領域内、例えば心臓の心腔内の全域に亘って、複数の初期開始点SPを離散的に配置し、配置された各初期開始点SPごとに、その初期開始点SPを起点として、2次元の速度ベクトルの分布に従って流体の流れを逆追跡する。図3には、代表例として1つの初期開始点SPのみが図示されている。
流線形成部50は、初期開始点SPから、その初期開始点SPの位置における速度ベクトル(実線矢印)の逆方向(破線矢印)に進んで追跡点TPを探索する。追跡点TPは、例えば、格子状の演算グリッド上において探索される。演算グリッド上の追跡点TPが探索されると、その追跡点TPの位置における速度ベクトルが参照され、その速度ベクトルの逆方向(破線矢印)に進んで次の追跡点TPが探索される。
なお、追跡点TPの位置に速度ベクトルが無い場合には、例えば、その追跡点TPの近傍において既に算出されている複数の速度ベクトルに基づいて、例えば補間処理等により得られる補間ベクトルが、その追跡点TPにおける速度ベクトルとされ、その速度ベクトルの逆方向が利用される。
こうして、図3に示すように、1つの初期開始点SPを起点として速度ベクトルの逆方向に位置する追跡点TPが次々に探索され、複数の追跡点TPを次々に辿って流体の流れが逆追跡される。そして、流線形成部50は、逆追跡の終了条件を満たした時点における追跡点TPを適正な開始点(適正開始点)とする。
流線形成部50は、例えば、心臓の心腔に対して設定された関心領域内において逆追跡の処理を実行し、逆追跡の結果が関心領域の境界に到達した時点における追跡点TPを適正開始点とする。なお、流線形成部50は、逆追跡の過程において、速度ベクトルが下限基準値以下となった時点における追跡点TPを適正開始点としてもよいし、逆追跡の長さ(距離)が上限値に達した時点における追跡点TPを適正開始点としてもよい。さらに、複数の終了条件を組み合わせた複合的な終了条件により適正開始点が決定されてもよい。
流線形成部50は、診断対象となる関心領域内、例えば心臓の心腔内の全域に亘って、例えば格子状の演算グリッドの交点に複数の初期開始点SPを配置し、各初期開始点SPごとに逆追跡により各適正開始点を探索する。
図4は、逆追跡により追跡点を決定する具体例を説明するための図である。流線形成部50は、初期開始点SPから運動ベクトル(速度ベクトル)の逆方向に位置する追跡点TPを次々に辿って流体の流れを逆追跡するが、その逆追跡において、反転方式(A)と選択方式(B)を利用することができる。
反転方式(A)では、初期開始点SP(または既に得られた追跡点TP)における速度ベクトル(実線矢印)が参照されて、その初期開始点SP(または追跡点TP)から速度ベクトルの反転ベクトル(破線矢印)の方向に進んで、例えば格子状の演算グリッド上において、追跡点TPが探索される。流線形成部50は、反転方式(A)に代えて又は反転方式(A)と組み合わせて、選択方式(B)を利用してもよい。
選択方式(B)では、例えば、初期開始点SP(または既に得られた追跡点TP)の近傍において、演算グリッド上における複数の速度ベクトル(実線矢印)が参照され、それら複数の速度ベクトルのうち初期開始点SP(または既に得られた最後の追跡点TP)に向かう1つの速度ベクトルが選択され、その速度ベクトルの起点(演算グリッド上の点)が追跡点TPとされる。
流線形成部50は、逆追跡により適正開始点を探索すると、適正開始点から伸長された流線を形成する。
図5は、適正開始点から伸長された流線の具体例を示す図である。流線形成部50は初期開始点を仮想開始点とし、仮想開始点から、バックトレース演算により、つまり図3を利用して説明した逆追跡の処理により、適正な開始点(適正開始点)を探索する。
適正な開始点(適正開始点)が探索されると、流線形成部50は、本来のベクトル成分を用いたフォワードトレース演算により、つまり図2を利用して説明した追跡の処理により、適正な開始点から複数の追跡点を次々に追跡し、適正な開始点と複数の追跡点について互いに隣り合う点同士を直線または曲線で結ぶことにより、折れ線状または曲線状の流線を形成する。
なお、流線形成部50は、初期開始点(仮想開始点)から、本来のベクトル成分を用いたフォワードトレース演算により複数の追跡点を追跡し、初期開始点と複数の追跡点について、互いに隣り合う点同士を直線または曲線で結ぶことにより、初期開始点から下流側の流線を形成し、さらに、初期開始点から逆追跡により得られる複数の追跡点と適正開始点について、互いに隣り合う点同士を直線または曲線で結ぶことにより、初期開始点から適正開始点までの上流側の流線を形成し、上流側の流線と下流側の流線とを接続することにより、適正開始点から初期開始点を通り下流側に向かって伸長される流線を形成してもよい。
流線形成部50において流線が形成されると、表示処理部60は、流線の表示画像を形成する。
図6は、流線の表示画像の具体例を示す図である。表示処理部60は、画像形成処理部20で形成される超音波画像の画像データと流線形成部50において形成される流線に基づいて、例えば心臓内腔を映し出したBモード画像内に複数の流線を示した表示画像を形成する。
図6の比較例は、複数の初期開始点から伸長された複数の流線を示した表示画像の具体例である。つまり、比較例では、適正開始点が探索されておらず、初期開始点から上流側の流線が形成されていない。そのため、関心領域内において、つまり心臓内腔の内部に設定された初期開始点から伸長された流線が存在し、初期開始点において流線が途切れており、初期開始点において流線が湧き出ているようにも見える。また、下流側ほど流線の数が増えており、下流側ほど流線の密度が増加してしまう。
これに対し、図6の表示例は、複数の適正開始点から伸長された複数の流線を示した表示画像の具体例である。図6の表示例では、例えば、心臓内腔に対して設定された関心領域の境界に到達することを終了条件として複数の適正開始点が探索されており、複数の適正開始点から伸長された複数の流線が形成されている。そのため、関心領域内において、つまり心臓内腔の内部において、流線が途切れてしまうことが殆どなく(望ましくは完全になく)、さらに、下流側ほど流線の密度が増加してしまう現象も殆どなく(望ましくは完全になく)、連続的で自然な流線を形成することが可能になる。
また、表示処理部60は、流線形成部50で形成された流線に対して、その流線上における流れの方向に応じた表示処理を施して流線の表示画像を形成してもよい。その表示処理としては、流れの方向を示した図形(三角形等)や記号(矢印等)が好適である。
図7は、流れの方向に応じた表示処理の具体例を示す図である。具体例(A)は流線上において互いに隣り合う2つの追跡点から三角形を形成する具体例である。例えば互いに隣り合う2つの追跡点を通る直線に沿って、上流側の追跡点から下流側の追跡点に向かう方向に伸長された二等辺三角形が形成される。もちろん、上流側の追跡点から下流側の追跡点に向かう矢印等が形成されてもよい。これにより、互いに隣り合う2つの追跡点間における局所的な流れの方向を表示することが可能になる。
一方、具体例(B)は、流線上において、二等辺三角形の先端となる追跡点から、上流側に向かっていくつかの追跡点を遡り、数点離れた追跡点の位置を底辺とする二等辺三角形の具体例である。これにより、互いに離れた2つの追跡点間における平均的な流れの方向を表示することが可能になる。もちろん、底辺に対応した追跡点から先端となる追跡点に向かう矢印等が形成されてもよい。
表示処理部60は、例えば具体例(A)または具体例(B)により、各流線上の複数箇所において流れの方向に応じた表示を形成する。もちろん、医師等のユーザが具体例(A)または具体例(B)を選択できる構成としてもよい。
図8は、流線上における流れの方向を示した表示画像の具体例を示す図である。表示処理部60は、複数の流線について、各流線上の複数箇所において流れの方向に応じた三角形(又は矢印)を形成する。例えば、各流線上において一定間隔ごとに三角形(又は矢印)が形成されてもよいし、流れの方向が大きく変化した箇所において三角形(又は矢印)が形成されてもよい。もちろん、医師等のユーザが指定した箇所において三角形等が形成されてもよい。
また、表示処理部60は、各流線に対して、その流線上における流速に応じた表示処理を施して流線の表示画像を形成してもよい。例えば、各流線上の複数箇所において、各箇所における速度ベクトルの大きさに応じた色づけ処理を施して、流速に応じて部分的に色が異なる流線の表示画像を形成してもよい。
さらに、表示処理部60は、流線と共に又は流線に代えて、各速度ベクトルを矢印等で示すことにより、速度ベクトルの分布画像を表示してもよい。
以上、本発明の実施において好適な超音波診断装置について説明したが、例えば、図1に示した速度ベクトル演算部40と流線形成部50と表示処理部60のうちの少なくとも一つをコンピュータにより実現し、そのコンピュータを流体情報処理装置として機能させてもよい。
なお、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。