以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各部材等を認識可能な程度の大きさにするため、各部材等の尺度を実際とは異ならせて示している。
まず、液体噴射システム1の構成について説明する。図1は、液体噴射システム1の構成を示す外観図であり、図2は、液体噴射システム1の内部構成を示す概略図である。図1及び図2には、互いに直交するXYZ軸が描かれている。このX軸は、後述のキャリッジ8の往復動作方向に沿った軸であり、キャリッジ8の往復動に伴う印字の際の主走査方向に沿った軸である。Y軸は、机等に水平に載置された液体噴射システム1における前後方向に沿った軸であり、キャリッジ8の往復動に伴う印字の際の副走査方向に沿った軸である。Z軸は、机等に水平に載置された液体噴射システム1における上下方向に沿った軸である。図2以降に示す各図についても必要に応じてXYZ軸を付している。図1及び図2のXYZ軸は他の図のXYZ軸にも対応している。液体噴射システム1は、液体噴射装置としてのプリンター10と、液体収容容器と、を備えている。本実施形態の液体収容容器は、ポリエチレン又はポリプロピレンを含む繊維部材と液体組成物とが収容された液体収容容器であって、液体組成物は、自己分散顔料と、溶剤と、を含み、液体収容容器から排出される液体の液体組成物には、ポリオキシエチレン(POE)基含有の界面活性剤が含まれている。なお、以下、液体収容容器としてのカートリッジとして説明する。なお、本実施形態では、第1のカートリッジ4と第2のカートリッジ5との2種類のカートリッジを備えている。図2に示すように、本実施形態の液体噴射システム1では、プリンター10のカートリッジ装着部7にカートリッジ4,5が着脱可能に装着され、このカートリッジ装着部7は、インク吐出を図る吐出ヘッド8sを備えるキャリッジ8に装着され、通常、キャリッジ8と一体とされている。以下、カートリッジ4を「第1のカートリッジ4」と、カートリッジ5を「第2のカートリッジ5」と適宜称することとする。また、本実施形態の液体噴射システム1は、例えば、携帯性に優れた小型のモバイル向け液体噴射システムである。
本実施形態の第1のカートリッジ4は、単色インク、例えばブラックインクを収容する。また、本実施形態の第2のカートリッジ5は、複数の色のインクを収容するものであり、本実施形態では、内部に3つの液体収容部が区画形成されている。これにより、本実施形態の第2のカートリッジ5は、イエロー、マゼンタ、シアンの3色のインクを収容する。
ここで、カートリッジ装着部7に装着されるカートリッジの数や種類は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、4つの第1のカートリッジ4をブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色インクに対応して用意し、これら4つの第1のカートリッジ4をカートリッジ装着部7に装着しても良い。また、他の色(例えば、ライトマゼンタやライトシアン)のインクを収容するカートリッジをカートリッジ装着部7に装着しても良い。このように各色のインク毎に第1のカートリッジ4を装着する場合には、第2のカートリッジ5については装着を省略すればよい。
プリンター10は、インクジェットプリンターである。図1に示すように、プリンター10は、ハウジング14と、用紙供給部カバー16と、記録部保護カバー18と、排出部カバー20と、操作部22とを備える。また、図2に示すように、プリンター10は、装置本体12を備える。
図1に示すように、ハウジング14は、装置本体12の周囲を覆って、プリンター10の外観を構成している。また、プリンター10の上面には、用紙供給部カバー16が設けられている。用紙供給部カバー16は、ハウジング14の上面に回動可能に取り付けられている。用紙供給部カバー16は、ハウジング14に対して開いた状態(図1)と、閉じた状態(図示せず)とを取り得る。用紙供給部カバー16はハウジング14に対して閉じた状態にある場合、ハウジング14の上面とともにプリンター10の上面を構成する。
用紙供給部カバー16はハウジング14に対して開いた状態にある場合、プリンター10の背面側(−Y方向側)に傾斜した状態となる。この状態において、用紙供給部カバー16の裏面は、用紙の載置面16aとして機能する。この用紙供給部カバー16がハウジング14に対して開いた状態にある場合、装置本体12の後述する用紙供給部24の用紙開口部26は、プリンター10の上方に対して開いた状態となる。このため、用紙供給部24は、載置面16aに載置された用紙を給送経路に給送可能となる。給送経路とは、印刷を行う際の用紙の移動経路である。用紙開口部26には、一対の用紙ガイド28が設けられている。一対の用紙ガイド28は、プリンター10の幅方向(X軸方向)における間隔を調節可能に構成されている。一対の用紙ガイド28は、用紙の幅方向における両端を拘束し、幅方向における用紙の位置を規定する。
また、用紙供給部カバー16がハウジング14に対して開いた状態にある場合、プリンター10の上面において記録部保護カバー18及び操作部22が露出した状態となる。記録部保護カバー18は、ハウジング14に対して開いた状態(図示せず)と閉じた状態(図1)とを取り得る。記録部保護カバー18がハウジング14に対して開いた状態にある場合、ユーザーは装置本体12に設けられた記録部6にアクセス可能となる。
操作部22は、プリンター10を操作するための電源ボタン30の他、報知ランプ31、表示モジュール32や印刷設定ボタン等を備えている。用紙供給部カバー16がハウジング14に対して開いた状態にある場合、ユーザーが操作部22に対してアクセス可能となり、プリンター10の操作をすることができる。報知ランプ31は、制御部60の制御を受けて点滅点灯し、例えば、カートリッジ4におけるインク充填報知等を行う。表示モジュール32は、液晶表示デバイスであり、制御部60の制御を受けて各種情報、例えば、カートリッジ4のインク充填時期であるために印字に制限を加える旨や、印字を一時的に停止する旨等を表示するほか、インク充填スイッチやカートリッジ交換スイッチなどを表示する。
さらに、ハウジング14の前面には、排出部カバー20が設けられている。排出部カバー20は、ハウジング14の前面に回動可能に取り付けられている。排出部カバー20は、ハウジング14に対して開いた状態(図1)と、閉じた状態(図示せず)とを取り得る。排出部カバー20がハウジング14に対して開いた状態にある場合、排出部カバー20は、装置本体12の排出部9から記録が実行された用紙をプリンター10の前方に排出する。
図2に示すように、装置本体12は、用紙供給部24と、記録部6と、排出部9と、制御部60とを備えている。
制御部60は、用紙供給部24、記録部6及び排出部9に電気的に接続され、操作部22から入力された指示に基づいて各部の動作を制御する。また、制御部60は、キャリッジ駆動モーター(図示せず)を介してキャリッジ8の移動(X軸方向移動:主走査駆動)及びローラー駆動モーター(図示せず)を介した搬送ローラー軸(図示せず)の回転(副走査駆動)を制御している。キャリッジ8は、その底面にカートリッジ装着部7を組み込んで備える。また、制御部60は、カートリッジ4,5が備える回路基板との間で信号のやり取りを行う。
装置本体12は、キャリッジガイドレール62を備え、このキャリッジガイドレール62に沿ってキャリッジ8を移動可能とする。キャリッジガイドレール62は、X軸方向すなわち装置本体の幅方向に延びて、キャリッジ8の底面側に設けられた軸受部409(図3参照)に組み込まれ、キャリッジ8を支持する。
カートリッジ装着部7を装着済みのキャリッジ8は、キャリッジ駆動モーターやキャリッジガイドレール62で構成されるキャリッジ搬送機構により装置本体12の幅方向(X軸方向、搬送方向)に搬送可能に構成されている。キャリッジ8が装置本体12の幅方向に搬送されることで、カートリッジ装着部7は装置本体12の幅方向に移動する。すなわち、カートリッジ4,5は、プリンター10によって搬送方向(X軸方向)に搬送される。本実施形態のように、吐出ヘッド8sを移動させるキャリッジ8に設けられたカートリッジ装着部7にカートリッジ4,5が装着されるプリンター10のタイプは、「オンキャリッジタイプ」とも呼ばれる。なお、キャリッジ8とは異なる部位に、不動のカートリッジ装着部7を構成し、カートリッジ装着部7に装着されたカートリッジ4,5からのインクを、フレキシブルチューブを介してキャリッジ8の吐出ヘッドに供給しても良い。このようなプリンターのタイプは、「オフキャリッジタイプ」とも呼ばれる。このときのカートリッジ4,5は着脱可能なカートリッジに限られず、固定されたインクタンクであっても良い。このインクタンクには外部からインクが注入可能なインク注入口があるものであっても良い。
液体噴射システム1の使用状態において、キャリッジ8を往復移動させる主走査方向(左右方向)に沿った軸をX軸とし、用紙を搬送する副走査方向(前後方向)に沿った軸をY軸とし、鉛直方向(上下方向)に沿った軸をZ軸とする。また、鉛直上方向が+Z軸方向であり、鉛直下方向が−Z軸方向である。なお、液体噴射システム1の使用状態とは、水平な面に設置された液体噴射システム1の状態であり、本実施形態では、水平な面はX軸及びY軸に平行な面(XY平面)である。
図2に示すように、キャリッジ8は、キャリッジガイドレール62で形成されるX軸方向の直線状の搬送経路に沿って移動し、この搬送経路の+X軸端側の第1停止位置Piは、キャリッジ原点位置とされている。装置本体12は、この第1停止位置Piにカートリッジカバー29を備え、このカートリッジカバー29は、第1停止位置Piに停止しているキャリッジ8に装着済みのカートリッジ4,5を覆う。よって、カートリッジ4,5は、この第1停止位置Piにおいて、キャリッジ8から、詳しくはカートリッジ装着部7から取り外し不能となる。本実施形態では、この第1停止位置Piにキャリッジ8を停止させた状態で、インク充填を実行可能とする。また、キャリッジ8は、キャリッジ原点位置である第1停止位置Piと異なる位置であって、カートリッジカバー29によりカートリッジが覆われない所定の停止位置、即ち図2における第2停止位置Prに、制御部60の制御を受けて停止し、この第2停止位置Prにて、カートリッジ4,5の交換を可能とする。
図3は、カートリッジの構成を示す外観図である。詳細には、カートリッジ4,5がキャリッジ8に搭載された状態を示す斜視図である。また、図4は、図3における6−6線に沿った概略断面図である。カートリッジ装着部7は、キャリッジ8の底部に装着されている都合上、図3においては図示されていない。
図3に示すように、カートリッジ4,5の両カートリッジは、それぞれ蓋401、501の上面に、蓋を貫通した貫通孔402a,402b,502a,502bと、貫通孔402a,402bの間、及び貫通孔502a,502bの間を蛇行して延びるエアー溝403,503と、注入孔402c,502cを備える。注入孔402cは、カートリッジ4の最初のインク注入に用いられる。また、カートリッジ5は、既述したようにイエロー、マゼンタ、シアンの3色のインクを収容することから、色毎に貫通孔502a,502bが設けられ、色毎に貫通孔502a,502bの間を蛇行して延びるエアー溝503を備える。色毎の注入孔502cにあっても、最初のインク注入に用いられる。そして、カートリッジ4,5の両カートリッジは、シール部材404,504を、蓋401,501の上面に接合させて、上記の貫通孔、注入孔及びエアー溝の開口を被覆する。
シール部材接合済みのカートリッジ4は、図4に示すようにキャリッジ8の底部に組み込まれたカートリッジ装着部7を介してキャリッジ8に装着され、その装着状態では、キャリッジ8の搬送方向(X軸方向)に並んで配置されている。この装着状態では、カートリッジ4が備える着脱機構部としての係合部405が、キャリッジ8のカートリッジ係合腕801に係合している。このカートリッジ係合腕801は、カートリッジ4とカートリッジ5のそれぞれについて配設されている。ユーザーは、カートリッジ係合腕801に外力を加えることで、各係合腕を回動変位させてカートリッジごとの係合部405との係合を解除する。キャリッジ8とカートリッジ4との係合が解除されることで、ユーザーはカートリッジ4をキャリッジ8から取り外すことができる。なお、こうしたカートリッジの取り外しと再装着は、図2に示した第2停止位置Prにキャリッジ8が停止している時になされる。換言すれば、制御部60によりキャリッジ8がこの第2停止位置Prに停止されたときに、図1に示す記録部保護カバー18の開動作が許可され、このカバー開動作の後に、ユーザーによりカートリッジの取り外しと再装着がなされる。なお、カートリッジ5とキャリッジ8との係合構成についても、カートリッジ4と同様の構成を備え、カートリッジ5をキャリッジ8から取り外し可能に構成されている。
キャリッジ8は、カートリッジ装着部7を備え、このカートリッジ装着部7に、ブラックインク用の液体導入部と、イエローインク用の液体導入部と、マゼンタインク用の液体導入部と、シアンインク用の液体導入部と、を備えている。
上記した各インク用の液体導入部は、カートリッジ装着部7に装着されるカートリッジ4,5の液体収容部に対応して配設されており、その大きさにおいて相違するものの、同一の構成を備える。カートリッジ4に対応する液体導入部を例に挙げ説明すると、この液体導入部は、液体導入基部703と、金属メッシュ703sと、弾性部材705とを備える。金属メッシュ703sは、ステンレス等の耐食性を備える金属から形成された多孔質体であり、液体導入基部703の上端に組み込まれて、カートリッジ4の供給孔側液体保持部材406に面接触する(図4参照)。そして、供給孔側液体保持部材406に保持されたインクは、金属メッシュ703sを通過し、キャリッジ8がその底面に備える吐出ヘッド8sに送り込まれる。
カートリッジ4は、図4に示すように、+Y軸方向の一端側に回路基板410を備え、この回路基板410を、傾斜した基板載置部411に固定して保持する。そして、カートリッジ4に備え付けられた回路基板410は、端子412を有する。キャリッジ8へのカートリッジ4の装着状態において、端子412の接触部は、キャリッジ8における電極集合体810の電極に、電気的に接触する。また、カートリッジ4は、図におけるX軸方向において基板載置部411の端部を係合部405として備え、この係合部405は、キャリッジ8へのカートリッジ4の装着状態において、キャリッジ8におけるカートリッジ係合腕801に係合する。
また、図4に示すように、カートリッジ4は、液体を吸収し保持する機能を有する供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460とを有する。供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460は接触している。カートリッジ装着部7は、その底面に備える液体導入部の液体導入基部703の環状先端に取り付けられた金属メッシュ703sを供給孔側液体保持部材406に面接触させる。供給孔側液体保持部材406は液体導入基部703により上方に持ち上げられ、液体保持部材460を押圧する。これにより、液体保持部材460に収容済みの液体、即ちブラックインクは、供給孔側液体保持部材406と、液体導入部における液体導入基部703の金属メッシュ703s及び吸引孔704を経て、キャリッジ8の吐出ヘッド8sに供給されることになる。つまり、キャリッジ8の液体導入部は、カートリッジ4から液体(ブラックインク)の導入を受け、キャリッジ8は、液体導入部に導入された液体(ブラックインク)を吐出ヘッド8sから噴出することになる。なお、カートリッジ5にあっても、カートリッジ4と同様に回路基板等を備え、既述したようにキャリッジ8に装着される。
カートリッジ4は、供給孔側液体保持部材406に覆われるインク供給孔407を備える。そして、キャリッジ8が液体導入部に備える弾性部材705は、インク供給孔407の周囲の周縁陥没部に当接し、インク供給孔407からのインク漏れを防ぐようシールする。
次に、カートリッジ4の詳細な構成について説明する。図5は、カートリッジ4の構成を示す分解図である。図示するように、カートリッジ4は、筐体420と、蓋401と、回路基板410とを備える。蓋401は筐体420に固定され、筐体420が有する凹部421(図4参照)を覆う。この他、カートリッジ4は、供給孔側液体保持部材406と、液体保持部材460と、蓋裏面シール部材436と、シール部材404とを備える。筐体420と蓋401は、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂の成型品であり、射出成型等の適宜な成型手法にて形成される。
筐体420は、底壁422と、第1端壁423と、第2端壁424と、第1側壁425と、第2側壁426とを有する。第1側壁425と第2側壁426とにおいて、外壁がリブ428にて補強されている。底壁422は、筐体420の底面をなし、その中央にインク供給孔407を備える。この底壁422は、蓋401に対向する。第1端壁423は、底壁422から立ち上がり蓋401の蓋部430に交差する。第2端壁424は、底壁422から立ち上がって蓋401の蓋部430に交差すると共に、第1端壁423に対向する。第1側壁425は、第1端壁423の一方の端部(図5における−X方向端部)と第2端壁424の一方の端部(図5における−X方向端部)の間において底壁422から立ち上がって、蓋401の蓋部430に交差する。第2側壁426は、第1端壁423の他方の端部(図5における+X方向端部)と第2端壁424の他方の端部(図5における+X方向端部)の間において底壁422から立ち上がって、蓋401の蓋部430に交差すると共に第1側壁425と対向する。
こうした壁面構成は、次のように表すこともできる。筐体420は、蓋401に対向する底壁422と、蓋401と底壁422に交差する第1端壁423と、蓋401と底壁422に交差し、第1端壁423に対向する第2端壁424と、蓋401と底壁422と第1端壁423と第2端壁424に交差する第1側壁425と、蓋401と底壁422と第1端壁423と第2端壁424に交差し、第1側壁425と対向する第2側壁426とを有する。
回路基板410は、基板表面に複数の端子412を備え、筐体420の第1端壁423に位置する。この第1端壁423には、基板載置部411が形成される(図4参照)。この基板載置部411は、第1端壁423に対して傾斜する。そして、回路基板410は、その背面を基板載置部411に固定され、第1端壁423に対して傾斜する。回路基板410において、端子412は、カートリッジ4がキャリッジ8に既述したように装着されると、図4に示すように、キャリッジ8の側の電極集合体810の各電極に電気的に接続される。
基板載置部411は、第1端壁423の外壁面側に開口413(図4参照)を備える。この開口413は、第1端壁423の外壁面に沿って第1端壁423の上端側から下端側までZ軸方向に延び、第1端壁423の上下端側で開口している。その一方、蓋401が筐体420に固定されると、開口413は、蓋401が備える外方延在部431により、第1端壁423の上端側で閉塞される。基板載置部411への回路基板410の固定には、基板載置部411から突出した凸部414が用いられる。そして、この凸部414が回路基板410から延びた状態において、凸部414が熱カシメされる。これにより、回路基板410は、基板載置部411に固定される。
蓋401は、蓋部430と、外方延在部431とを備える。蓋部430は、平板状とされ、筐体420の凹部421を覆う。外方延在部431は、端子412を有する回路基板410が位置する第1端壁423の側において、蓋部430から外方に延在した部分であり、屈曲延在部432と、傾斜延在部433とを有する。屈曲延在部432は、蓋401から筐体420に向かう第1方向(図5における−Z方向)に沿って蓋部430からほぼ90度に屈曲させて突出するよう延びている。この屈曲延在部432に続く傾斜延在部433は、蓋401から筐体420に向かう第1方向(図5における−Z方向)からの蓋401の平面視において、回路基板410の端子412に重なる位置まで延びている。そして、この外方延在部431は、蓋401が筐体420に固定されると、開口413と重なって、この開口413を第1端壁423の上端側で閉塞する。また、外方延在部431は、蓋401が筐体420に固定されると、傾斜延在部433を基板載置部411の開口413に係合させる。この他、外方延在部431は、傾斜延在部433を、第2端壁424から第1端壁423に向かう第2方向(図4及び図5における+Y方向)において、回路基板410の少なくとも下段側の端子412より外方に突出している。なお、傾斜延在部433を図示する状態からより長く延在させて、回路基板410の端子412の総てより外方に突出ようにしてもよい。
蓋401は、既述した貫通孔402a,402bと注入孔402cとエアー溝403を備えるほか、大気連通孔434と、複数のシール部材受け座437とを備える。シール部材受け座437は、貫通孔402a,402bの周壁やエアー溝403の周壁と同じ高さで蓋401の上面から突出し、シール部材404の接合受け座となる。
大気連通孔434は、蓋部430の一部がY軸方向に延びた蓋部外縁に形成され、この蓋部外縁において蓋401を貫通する。そして、この大気連通孔434は、蓋401の裏面側において貫通孔402bと図示しないエアー溝で繋げられる。当該エアー溝と大気連通孔434の蓋裏面側開口及び貫通孔402bの蓋裏面側開口は、蓋裏面シール部材436にてシールされる。これにより、蓋401で塞がれた筐体420の凹部421を、貫通孔402aとエアー溝403と貫通孔402bを介して、大気連通孔434にて大気開放することができる。この大気開放を、液体保持部材460と関連付けて説明する。
液体保持部材460は、第1保持部材461を、その左右の第2保持部材462a、462bで挟持した一体品とされ、供給孔側液体保持部材406と共に、筐体420の凹部421に収納される。筐体420の底壁422は、インク供給孔407の周囲に段差状の半円状突起427を備え、この半円状突起427の段差部に、供給孔側液体保持部材406が載置される(図4及び図5参照)。これにより、インク供給孔407は、供給孔側液体保持部材406にて覆われる。また、底壁422は、各コーナー部位の周辺に、平面視で開放弧状の弧状突起429を備える。液体保持部材460は、各コーナーの弧状突起429及び半円状突起427の上面で支えられるようにして、筐体420に収納される。このように液体保持部材460が収納されると、蓋裏面シール部材436やシール部材404が接合済みの蓋401が筐体420に溶着固定され、図4等に示すカートリッジ4が得られる。
供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bは、繊維状にして束にした繊維部材(詳細な構成は後述する)から構成されている。供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460とは、液体を保持するための特性が異なる。供給孔側液体保持部材406は、細孔の形成密度を示す細孔密度が液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bのいずれの保持部材よりも大きくされている。第1保持部材461は、その細孔密度が左右の第2保持部材462a,462bよりも大きくされている。第1保持部材461の左右の第2保持部材462a,462bは、略等しい細孔密度とされている。
上記の細孔密度の大小関係より、供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bは、毛管力について以下に述べる大小関係を有する。すなわち、供給孔側液体保持部材406の毛管力は、第1保持部材461の毛管力よりも大きい。第1保持部材461の毛管力は、その左右の第2保持部材462a,462bの毛管力よりも大きい。また、第2保持部材462a,462bの毛管力は、略等しい。
供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bが毛管力について上記の大小関係を有することで、液体保持部材460に収容済みのインクは以下に述べる順で流通する。すなわち、毛管力の小さい部材から毛管力の大きい部材へとインクが流れる。図4に示すように、供給孔側液体保持部材406に収容済みのインクが液体導入部を介して吸引されて消費されると、供給孔側液体保持部材406の上面に重なっている第1保持部材461に収容済みのインクが供給孔側液体保持部材406に移動する。こうしたインク移動の駆動力は、主に供給孔側液体保持部材406の毛管力である。そして、貫通孔402aとこれに繋がるエアー溝403及び大気連通孔434からの大気連通により、上記したインク移動に支障は起きない。
第1保持部材461に収容済みのインクが供給孔側液体保持部材406に移動することで、第1保持部材461のインクが消費されると、その左右の第2保持部材462a,462bに収容済みインクが第1保持部材461に移動する。こうしたインク移動の駆動力は、主に第1保持部材461の毛管力である。そして、貫通孔402aとこれに繋がるエアー溝403及び大気連通孔434からの大気連通により、上記したインク移動に支障は起きない。
上記のように、筐体420の凹部421に特性の異なる供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bが収容されると共に、液体導入基部703に近い順に毛管力の大きい液体保持部材が配置されることで、液体保持部材460に収容されているインクを効率良く消費できる。すなわち、液体保持部材460における未使用インクの残量を低減できる。また、カートリッジ4は、凹部421への供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460との上記した収納により、液体保持部材460から、詳しくは第1保持部材461から供給孔側液体保持部材406を介してキャリッジ8の液体導入部にインクを移動させ、この液体導入部にインクを導入する。
なお、供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bの毛管力が、液体導入基部703から離れるに従って小さくなる構成であれば、上記の各液体保持部材の細孔密度の大小関係は本実施形態に限定されるものではない。例えば、供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bの細孔密度が等しい場合でも、各液体保持部材に撥水処理や浸水処理を行うことで上記毛管力の大小関係を有するようにしてもよい。
また、供給孔側液体保持部材406と液体保持部材460の第1保持部材461及びその左右の第2保持部材462a,462bの細孔密度の大小関係は、次のように規定することもできる。これら各液体保持部材の細孔を蓋401から底壁422に向かう−Z軸方向(図5参照)と直交するXY平面で断面視した場合、上記の各液体保持部材の細孔密度は、それぞれの細孔のXY平面断面視相当の平均直径の大小で規定可能である。そして、細孔密度が大きければ、XY平面断面視相当の細孔平均直径は小さくなる。よって、供給孔側液体保持部材406は、第1保持部材461に比して細孔密度が大きいので、この第1保持部材461よりXY平面断面視相当の細孔平均直径は小さい。同様に、第1保持部材461は、その左右の第2保持部材462a,462bに比して細孔密度が大きいので、第2保持部材462a,462bよりXY平面断面視相当の細孔平均直径は小さい。
次に、カートリッジ4,5に収容される液体保持部材460の構成について説明する。本実施形態にかかる液体保持部材460は繊維を束にした繊維部材から構成される。当該繊維部材を構成する繊維は、芯材と鞘材の2重構造からなり、メルトブロー法によって得られるものである。この2重構造繊維の鞘成分は、プロピレン系重合体で形成されている。プロピレン系重合体としては、一般的にポリプロピレンが使用される。ポリプロピレン以外としては、数重量%のエチレン又はその他の単量体をプロピレンに共重合させたものを用いることもできる。
2重構造繊維の芯成分としては、鞘成分であるプロピレン系重合体の融点よりも低い融点を持つ熱可塑性重合体が用いられる。融点差は、所望に応じて任意に決定しうる事項であるが、好ましくは5℃〜60℃程度が良い。
熱可塑性重合体としては、一般的には、ポリエチレンが使用される。即ち、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が使用される。ポリエチレン以外としては、エチレンとプロピレンとを共重合させたエチレン−プロピレン共重合体、ブテン−1とプロピレンとを共重合させたブテン−1−プロピレン共重合体、エチレンと酢酸ビニルを共重合させたエチレン−酢酸ビニル共重合体、共重合ポリエステル、共重合ポリアミド等を使用することができる。更に、ポリプロピレンに代表されるプロピレン系重合体と、ポリエチレンに代表されるエチレン系重合体との混合物も、熱可塑性重合体として使用することができる。
本発明で使用する2重構造繊維における、鞘成分と芯成分の複合比は、鞘成分:芯成分=20〜80:80〜20(質量比)であるのが、好ましい。鞘成分がこの範囲を超えて少なくなると、芯成分を完全に囲繞及び被覆しにくくなる傾向が生じる。逆に、芯成分がこの範囲を超えて少なくなると、繊維に対する、芯成分の柔軟性及び高耐久が低下する傾向が生じる。
本発明で使用する繊維部材の繊維の断面積(径)は、10μm以上50μm以下が好ましく、20μm以上40μm以下がより好ましい。繊維の断面積(径)が50μmを超えると、繊維の直径が太くなって、繊維自体の柔軟性が低下し、カートリッジ4,5に対する柔軟性や収納性が低下する。また、繊維の断面積(径)が20μm未満であると、液体組成物の吸収及び維持効率が低下する傾向にある。
本発明で使用する2重構造繊維は、繊維率が5%以上30%以下であることが好ましく、10%以上25%以下がより好ましい。ここで繊維率とは、繊維成形体の単位体積中に占める繊維の割合である。なお、空隙率を用いて,繊維率=(100%−空隙率)と表すこともできる。そして、この範囲であれば、液体の供給効率が良い。
また本発明の繊維成形体の製造方法は、2重構造繊維の不織布を長尺状に裁断した複数のスリット片を長手方向に沿って互いに揃えて配置し、その配置した集合体を加熱成形して板状の繊維成形体とするものである。この板状の繊維成形体を複数重ねて加熱圧着させることで、カートリッジ4,5に適した繊維成形体を得ることができる。
次に、カートリッジ4,5に収容される液体組成物等について説明する。カートリッジ4,5から排出されるインクには、ポリオキシエチレン(POE)基含有の界面活性剤が含まれる。そして、ポリオキシエチレン基含有の界面活性剤は、ヘッドから吐出されたインク中に0.5質量%以上5.0質量%以下で含有している。また、上記界面活性剤は、ポリオキシエチレン基含有エーテル型又はポリオキシエチレン基含有エステル型である。さらに、当該界面活性剤は、炭素数が9〜20のアルキル基を含有している。また、界面活性剤は、オクタン酸エステル型、デカン酸エステル型、ドデカン酸エステル型の何れかであってもよい。また、液体組成物の溶剤として、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオールから選ばれる1種以上を含む。そして、上記溶剤が、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと1,2ヘキサンジオールとを含む場合には、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと1,2ヘキサンジオールとの比率が1〜4:1〜2で設定される。さらに、液体組成物には、トリメチルグリシンが5質量%以上10質量%以下であり、アセチレン系界面活性剤が0.1質量%以上1.0質量%以下で含まれている。なお、上記界面活性剤や溶剤は、あらかじめカートリッジ内の繊維成形体に含浸もしくは残留していてもよく、ヘッドから吐出されるインクとして含有されていればよい。以下、具体的に説明する。
まず、ブラックインクにおける液体組成物(ブラックインク組成物)について説明する。本発明に用いることができるブラックインクの液体組成物の顔料は、自己分散型顔料である。
自己分散型顔料とは、分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、水性媒体中に安定に存在している状態をいう。
前記自己分散型顔料を着色剤として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために、前述のような分散剤を含有させる必要が無い。そのため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く、吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる、等取り扱いが容易である。
本発明のブラックインク組成物は、その顔料表面に親水基を有する自己分散型顔料であり、その親水基は、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO3M2、−SO2NHCOR、−NH3、および−NR3(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す)からなる群から選択される一以上の親水基であることが好ましい。
また、ブラックインク組成物の前記自己分散型顔料の原料となる顔料としては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。本発明で好ましいカーボンブラックの具体例としては、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B(以上三菱化学(株)製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250(以上デグサ社製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700(以上コロンビアカーボン社製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12(キャボット社製)等が挙げられる。これらのカーボンブラックは1種又は2種以上の混合物として用いても良い。
ブラックインク組成物の前記自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記親水基を顔料の表面に結合(グラフト)させることにより製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により酸化する湿式酸化法等が例示できる。
本発明においては、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、または過硫酸および/または過硫酸塩による酸化処理により表面処理されたブラック自己分散型顔料が、高発色という点で好ましい。また、ブラックインク組成物の前記自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、好ましい例としてはマイクロジェットCW1(オリヱント化学工業株式会社製)等が挙げられる。
ブラックインク組成物中の前記自己分散型顔料は、好ましくは、3質量%以上含まれる。ブラックインク組成物中の顔料濃度が3質量%以上である場合には、その記録物は高発色となる。
また、前記自己分散型顔料は、顔料の沈降の低減等の観点から、動的光散乱法で測定した体積基準粒径分布の最大粒子径が200nm以下である。さらに、動的光散乱法で測定した顔料粒子の粒径分布の平均粒子径(D50)が、50nm<D50<150nmである。前記顔料の粒子径が比較的小さくなり、また、粒子径のばらつきが小さくなり顔料の沈降が低減される。さらには、前記顔料の粒子径が、60nm<D50<80nmであることが好ましい。さらに、顔料の沈降を抑制することができる。
ここで、D50とは、メジアン径と定義される。メジアン径とは、粉体の粒子径毎の分布(累積分布)において、ある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側の累積頻度が等量となる径のことである。具体的には、マイクロトラック(レーザー回折法)により体積基準で粒子径を測定した場合の累積分布から求められ、例えば、日機装UPA−EXで測定ができる。
本発明のブラックインク組成物はいずれも、80〜10質量%の水と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤とを少なくとも含むことが好ましい。
インク組成物に含まれる水の含有量を上記の範囲に規定することにより、塗工紙中のセルロースに吸収される水分量が従来のインク組成物よりも少なくなる結果、コックリングやカールの原因と考えられているセルロースの膨潤を抑制することができる。従って、本実施形態のインク組成物は、普通紙や印刷用塗工紙(印刷本紙)など、インク吸収性の乏しい紙支持体の吸収層を有する記録媒体に対しても有用である。
本発明のブラックインク組成物に含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に、紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。
本発明においては上記水溶性有機化合物として、例えば、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテンー1,4−ジオール、2−エチルー1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等の多価アルコール類、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、尿素類等のいわゆる固体湿潤剤、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの一種または二種以上を用いることができ、これらの水溶性有機溶剤は、ブラックインク組成物の適正な物性値(粘度等)の確保、印刷品質、信頼性の確保という観点で、ブラックインク組成物中に10〜90重量%含まれることが好ましい。本発明のブラックインク組成物に、これらの水溶性有機溶剤を含むことにより、高固形分であっても、保存安定性および吐出安定性は良好である。
さらに、本発明においては、水溶性有機溶剤として、少なくとも多価アルコール類とグリコールのブチルエーテル類とピロリドン類とを併用することにより、印刷品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性に優れるブラックインク組成物を提供できる。これは、多価アルコール類が保水性(保湿性)と普通紙等の記録メディアへのブラックインク組成物の浸透性の制御に好適であり、グリコールのブチルエーテル類が吐出安定性と記録メディアへのインク組成物の浸透性の制御に好適であり、ピロリドン類が吐出安定性、インク組成物の保存安定性と発色性への寄与度が大きいことがわかり、多価アルコール類とグリコールのブチルエーテル類とピロリドン類とを併用することにより、さらに印刷品質、吐出安定性、目詰まり回復性等の信頼性の高いブラックインク組成物を提供できる。
さらに、本実施形態においては、水溶性有機溶剤として、多価アルコールモノアルキルエーテル及び/または含窒素環状化合物を5質量%以上含み、且つ、多価アルコール類を含むことが好ましい。かかる水溶性有機溶剤を用いることで、コックリングやカールを抑制できるとともに、滲み、ムラ等の低減された印刷品質を確保することができる。
ここで、多価アルコールモノアルキルエーテルとしては、上記グリコールエーテル類のうち、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレンプリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、含窒素環状化合物としては、例えば、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等が挙げられる。
また、ここで多価アルコール類は、上記多価アルコール類のいずれであっても用いることができるが、特に、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール等の1,2−アルカンジオールを含むことが好ましい。
本発明のブラックインク組成物に含有される界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、およびノニオン性界面活性剤を含有することができる。発泡・起泡の少ないインク組成物を得るという観点からノニオン性界面活性剤が特に好ましい。
ノニオン性界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン界面活性剤は、1種または2種以上を併用して用いることもできる。
上記ノニオン性界面活性剤の中でも、特にアセチレングリコール系界面活性剤および/またはポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤が発泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤の更なる具体例としては、ビッグケミー・ジャパン社のBYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、UV3530などを挙げることができる。これらはインク組成物中に複数種類用いてもよく、表面張力20〜40mN/mに調整されることが好ましく、インク組成物中に0.1〜3.0質量%含まれる。
上記ノニオン系界面活性剤の中でも、ポリエキシエチレン(POE)基含有の界面活性剤が含まれていることが、インクの充填性の観点で好ましく、ポリオキシエチレン基含有エーテル型又はポリオキシエチレン基含有エステル型で好ましい。さらに、当該界面活性剤は、炭素数が9〜20のアルキル基を含有していることが好ましく、オクタン酸エステル型、デカン酸エステル型、ドデカン酸エステル型の何れかを含むことが好ましい。具体的には、ポリエチレンオキシドオクタン酸エステル、ポリエチレンオキシドデカン酸エステル、ポリエチレンオキシドデシルエーテル、ポリエチレンオキシドドデカン酸エステル、ポリエチレンオキシドヘキサデカン酸エステル、等が挙げられる。これらは、吐出されたインク組成物中に、0.5〜5.0質量%含まれることが好ましく、0.5〜3質量%含まれることがより好ましい。
本発明のブラックインク組成物には、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化アルカリおよび/またはアンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン等を用いることができる。特に、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミンから選択される少なくとも1種類のpH調整剤を含み、pH6〜10に調整されることが好ましい。pHがこの範囲を外れると、インクジェットプリンターを構成する材料等に悪影響を与え、目詰まり回復性が劣化する。
また、必要に応じて、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等をpH緩衝剤として用いることができる。
さらに、ブラックインク組成物には、必要に応じて、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することができる。
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
防腐剤・防カビ剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)等が挙げられる。
次に、カラーインクの液体組成物(カラーインク組成物)について説明する。本発明に用いることができるカラーインク組成物の顔料は、ブラックインク組成物の顔料と同様、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料、分散樹脂で被覆された樹脂被覆型顔料、水不溶性ポリマー被覆型顔料が用いられる。
本発明のカラーインク組成物に含まれる自己分散顔料は、その顔料表面にフェニル基を介して親水基を有する自己分散型顔料である場合、その親水基は、ブラックインク組成物の場合と同様、−OM、−COOM、−CO−、−SO3M、−SO2M、−SO2NH2、−RSO2M、−PO3HM、−PO3M2、−SO2NHCOR、−NH3、および−NR3(式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す)からなる群から選択される一以上の親水基であることが好ましい。
本発明のカラーインク組成物に含まれる着色剤としての顔料が、分散樹脂で被覆された樹脂被覆型顔料である場合、その分散樹脂は、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーと、前記ポリマー鎖Aの片末端と前記ポリマー鎖Bの片末端が結合したブロックコポリマーの少なくともいずれかであり、前記ポリマー鎖Aが、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含むとともに、その数平均分子量が1,000〜10,000であり、前記ポリマー鎖Bが、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、芳香環を有するビニル系モノマー又は(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくともいずれかを含み、前記ポリマー鎖Aと前記ポリマー鎖Bの質量比が、A:B=30〜70:70〜30であり、前記グラフトコポリマー及び前記ブロックコポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000であることを特徴とする。
前記分散樹脂は、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーと、ポリマー鎖Aの片末端とポリマー鎖Bの片末端が結合したブロックコポリマーの少なくともいずれかである。グラフトコポリマーは、主鎖であるポリマー鎖Bに対して、1本以上のポリマー鎖Aが結合(分岐)している。なお、一のポリマー鎖Bに対するポリマー鎖Aの結合本数は限定されない。ポリマー鎖Aは、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含む。(メタ)アクリル酸に由来する構成単位に含まれるカルボキシル基は、アルカリで中和されることによってイオン化する。このため、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を含むポリマー鎖Aは、水に溶解する性質を有するポリマー鎖である。
ポリマー鎖Bは、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位、及び芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位の少なくともいずれかと、必要に応じて用いられるその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位とを含む。このポリマー鎖Bは、水に不溶なポリマー鎖であり、疎水性相互作用で顔料に吸着し、堆積して顔料を被覆(カプセル化)する。このような異なる性質を有するポリマー鎖Aとポリマー鎖Bを有する顔料分散剤を用いることによって、良好な状態で顔料を分散させることができる。なお、ポリマー鎖Aを構成する第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートと、ポリマー鎖Bを構成する第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートは、同一であっても異なっていてもよい。以下、単に「シクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」というときは、「第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」と「第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」のいずれをも意味する。
ポリマー鎖Bが粒子を形成するとともに、ポリマー鎖Aでインク中の水性媒体に溶解して安定化する。このため、この顔料分散剤は高い安定性を有する粒子を形成して低粘度化するので、顔料の分散安定性やインクの吐出性を阻害しない。さらに、ポリマー鎖A中のカルボキシル基の量が適切に制御されているので、この顔料分散剤は水への溶解性が高い。このため、インクヘッドで乾燥した場合であっても、例えばクリーニング液等の他の水性媒体で容易に再溶解及び再分散しうる。
(ポリマー鎖A)
ポリマー鎖Aにはシクロアルキル基が含まれる。シクロアルキル基を有するポリマー鎖Aを含む顔料分散剤を用いることにより、高発色、高彩度、及び高グロスな印字物を記録可能な水性顔料インクを調製可能となる。第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシロキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。なかでも、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。また、シクロアルキル基の炭素数は6〜9個であることが好ましい。炭素数6〜9個のシクロアルキル基であれば、多く導入した場合であっても水溶解性があまり阻害されないとともに、入手も容易だからである。
ポリマー鎖Aに含まれる第一のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合が20質量%未満であると、効果が発揮しない。一方、60質量%超であると、水溶解性が顕著に低下してしまう場合がある。なお、ポリマー鎖Aに含まれる第一のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜50質量%であることが好ましい。
ポリマー鎖Aには、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位が含まれる。この構成単位中のカルボキシル基が中和されてイオン化し、ポリマー鎖Aが水に溶解されることになる。ポリマー鎖Aに含まれる(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の割合が10質量%未満であると、ポリマー鎖Aが水に溶解しなくなる場合がある。一方、35質量%超であると、ポリマー鎖Aの親水性が高くなりすぎてしまい、得られる印字物の耐水性が顕著に低下する場合がある。ポリマー鎖Aに含まれる(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の割合は、15〜25質量%であることが好ましい。
ポリマー鎖Aには、「その他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位」が含まれる。その他の(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族アルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートなどのエーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。なお、その他の(メタ)アクリレート一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリマー鎖Aの数平均分子量は1,000〜10,000であり、好ましくは2,000〜7,000である。ポリマー鎖Aの数平均分子量が1,000未満であると、ポリマーとしての性能が発揮されない。一方、ポリマー鎖Aの数平均分子量が10,000超であると、顔料分散剤に占める親水性鎖の割合が大きすぎてしまい、顔料からのポリマー鎖Bの脱着を促され、顔料の分散安定性が低下する場合がある。なお、本明細書におけるポリマー鎖やポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」とも記す)によるポリスチレン換算の分子量である。
(ポリマー鎖B)
ポリマー鎖Bは水に不溶のポリマー鎖であり、顔料に対する吸着性を有する。このため、ポリマー鎖Bは顔料に吸着し、表面上に堆積して顔料を被覆(カプセル化)する。第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、前述の第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例として列挙したものと同様のものを挙げることができる。ポリマー鎖Bに含まれる第二のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
芳香環を有するビニル系モノマーの具体例としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどを挙げることができる。また、芳香環を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ナフトキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。ポリマー鎖Bに含まれる、芳香環を有するビニル系モノマー又は(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
なお、ポリマー鎖Bには、ポリマー鎖Bを軟質化させたり、水酸基などの官能基を導入したりするため、前述の「その他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位」が含まれていることが好ましい。
顔料分散剤として用いられるグラフトコポリマー及びブロックコポリマーの数平均分子量は、いずれも2,000〜20,000であり、5,000〜15,000であることが好ましく、7,000〜12,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が2,000未満であると、顔料分散剤として機能が低下して分散安定性が保持されない。一方、数平均分子量が20,000超であると、水性顔料分散液の粘度が高くなったり、一分子鎖が複数の顔料粒子に吸着して分散が進まなかったりする場合がある。
グラフトコポリマーやブロックコポリマーに含まれる親水性鎖であるポリマー鎖Aの割合が少なすぎると、顔料分散剤が水に不溶となったり、析出したりする。一方、ポリマー鎖Aの割合が多すぎると、記録される印字物の耐水性が低下したり、顔料に対する吸着性が低下したりする。また、グラフトコポリマーやブロックコポリマーに含まれる疎水性鎖であるポリマー鎖Bの割合が少なすぎると、顔料分散剤が安定して顔料に吸着しない。一方、ポリマー鎖Bの割合が多すぎると、顔料分散剤が水に不溶となったり、分離したりする。したがって、ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bの質量比は、A:B=30〜70:70〜30であり、好ましくは40〜60:60〜40、さらに好ましくは40〜50:50〜40である。
また、本発明のカラーインク組成物には水不溶性ポリマーに被覆された顔料を用いることができる。
前記水不溶性ポリマーは、少なくとも重合性不飽和単量体と、重合開始剤とを用いて溶液重合法により重合によって得られるポリマーであり、水不溶性ポリマーとは、中和後に25℃の水100gに対する溶解度が1g未満であるポリマーをいう。
重合性不飽和単量体としては、ビニル芳香族炭化水素、メタアクリル酸エステル類、メタアクリルアミド、アルキル置換メタアクリルアミド、無水マレイン酸、ビニルシアン化合物類、メチルビニルケトン、酢酸ビニルなどが挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
さらに、前記水不溶性ポリマーは印刷画像の光沢性を付与するために、親水性基を有するモノマーと、塩生成基を有するモノマーとを含むことが好ましい。
親水性基を有するモノマーとしては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール・プロピレングリコールモノメタクリレートなどがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。特に、ポリエチレングリコール(2〜30)モノメタクリレート、ポリエチレングリコール(1〜15)・プロピレングリコール(1〜15)モノメタクリレート、ポリプロピレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリエチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(2〜30)メタクリレート、メトキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合体)(1〜30)メタクリレートなどの分岐鎖を構成するモノマー成分を用いることによって、印刷画像の光沢性がさらに向上する。
塩生成基を有するモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸などがあり、それぞれ単独あるいは2種類以上を混合して用いることもできる。
さらに、片末端に重合成官能基を有するスチレン系マクロモノマー、シリコーン系マクロモノマーなどのマクロモノマーやその他のモノマーを併用することもできる。
水不溶性ポリマーによって被覆される有機顔料は、転相乳化法により得られるものである。すなわち、上記の水不溶性ポリマーをメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルエーテルなどの有機溶媒に溶解させ、得られた溶液に有機顔料を添加し、次いで中和剤及び水を添加して混練、分散処理を行うことにより水中油滴型の分散体を調整し、得られた分散体から有機溶媒を除去することによって、水分散体として得ることができる。混練、分散処理は、例えば、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、高速攪拌型分散機などを用いることができる。
また、被覆する水不溶性ポリマーとしては、重量平均分子量が10000〜150000程度のものが、着色剤、特に顔料を安定的に分散させる点で好ましい。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量分析方法により測定することができる。
カラーインク組成物の前記自己分散型顔料の原料、樹脂被覆型顔料、水不溶性ポリマー被覆型となる顔料として、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料が挙げられ、具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,24,34,35,37,42,53,55,74,81,83,95,97,98,100,101,104,108,109,110,117,120,128,138,150,153,155,174,180,198、C.I.ピグメントレッド1,3,5,8,9,16,17,19,22,38,57:1,90,112,122,123,127、146,184、C.I.ピグメントバイオレッド1,3,5:1,16,19,23,38、C.I.ピグメントブルー1,2,15,15:1,15:2,15:3,15:4,16が挙げられる。特に、イエローインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、147、150、155、180、および188からなる群から選択される少なくとも1種を含み、マゼンタインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、およびC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される少なくとも1種を含み、シアンインク組成物に含まれる有機顔料が、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:2、15:3、15:4、および16からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
カラーインク組成物の前記自己分散型顔料は、顔料表面にフェニル基を介して親水基を結合させることにより製造される。親水基である上記官能基あるいはその塩を顔料表面にフェニル基を介して、結合させる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができ、スルファニル酸、p−アミノ安息香酸、4−アミノサリチル酸等を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介して親水基を結合させる方法等が例示できる。
また、カラーインク組成物の前記自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、CAB−O−JET250C、CAB−O−JET260M、CAB−O−JET270Y(以上キャボット社製)等が挙げられる。
一方、カラーインク組成物の前記樹脂被覆型顔料は、例えば特開2013−166867号公報に記載されている製法によって得られ、また、前記水不溶性ポリマー被覆型顔料及び自己分散顔料は、例えば特開2011−178916号公報に記載されている製法によって得られた材料を利用できる。
なお、前記樹脂被覆型顔料および水不溶性ポリマー型顔料は、カプセル型顔料とも呼ばれるが、顔料表面の全体を被覆している場合と、表面の少なくとも一部を覆っている場合も含まれる。
カラーインク組成物中の前記自己分散型顔料、樹脂被覆型顔料または水不溶性ポリマー被覆顔料は、ブラックインク組成物の場合と同様に、好ましくは、3質量%以上含まれる。顔料濃度が3質量%以上である場合には、その記録物は高発色となる。
また、カラーインク組成物中の前記自己分散型顔料、樹脂被覆型顔料、水不溶性ポリマー被覆型顔料は、ブラックインク組成物の場合と同様に、顔料の沈降の低減等の観点から、顔料の動的光散乱法で測定した顔料粒径分布の最大粒子径が200nm以下である。さらに、動的光散乱法で測定した顔料粒子の粒径分布の体積平均粒子径(D50)が、50nm<D50<150nmである。顔料の粒子径が比較的小さくなり、また、粒子径のばらつきが小さくなり顔料の沈降が低減される。さらには、前記顔料の粒子径が、60nm<D50<80nmであることが好ましい。さらに、顔料の沈降を抑制することができる。
なお、本発明では樹脂被覆型顔料もしくは水不溶性ポリマー被覆顔料のように、顔料に樹脂が被覆されている場合であっても、上記動的散乱法によるD50の測定値をそのまま適用できる。
また、本発明によるカラーインク組成物は、ブラックインク組成物の場合と同様に、少なくとも、80〜10質量%の水と、水溶性有機溶剤と、界面活性剤とを含んでなるのが好ましい。これらの具体例およびその添加量は、ブラックインク組成物の場合と同様であってよい。
さらに、本発明によるカラーインク組成物には、ブラックインク組成物の場合と同様、必要に応じて、pH調整剤、pH緩衝剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することができる。これらの具体例は、ブラックインク組成物の場合と同様であってよい。
次に、樹脂エマルジョンについて説明する。樹脂エマルジョンは、インクの乾燥に伴い、樹脂粒子同士及び樹脂粒子と着色成分とが互いに融着して着色剤を記録媒体に固着させるため、記録物の画像部分の定着性を向上させる作用を持つ。
これらの樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されても良い。
本発明においては樹脂粒子として単粒子構造のものを利用することができる。一方、本発明においてはコア部とそれを囲むシェル部とからなるコア・シェル構造を有する樹脂粒子を利用することも可能である。本発明において「コア・シェル構造」とは、「組成の異なる2種以上のポリマーが粒子中に相分離して存在する形態」を意味する。従って、シェル部がコア部を完全に被覆している形態のみならず、コア部の一部を被覆しているものであっても良い。また、シェル部ポリマーの一部がコア粒子内にドメインなどを形成しているものであっても良い。さらに、コア部とシェル部の中間にさらにもう1層以上、組成の異なる層を含む3層以上の多層構造を持つものであっても良い。
本発明において用いられる樹脂粒子は、公知の乳化重合によって得ることができる。すなわち、不飽和ビニル単量体(不飽和ビニルモノマー)を重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
不飽和ビニル単量体としては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。
さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;および酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミドおよびN,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、および2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類が挙げられる。
また、本発明にあっては、上記モノマー由来の分子として、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体によって架橋された構造を有するものを使用することができる。重合可能な二重結合を二以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンが挙げられ、これらを単独または2種以上を混合して使用することができる。
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用することができる。
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、前述の如く、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物が挙げられ、これらを単独または2種以上混合して使用することができる。
樹脂粒子を乳化重合で製造する場合、特にアニオン性の樹脂粒子から構成されるポリマーエマルジョンを乳化重合で製造する場合においては、樹脂粒子表面にはカルボキシル基やスルホン酸基のような負の極性基が存在するためpHが酸性側に傾き、粘度上昇や凝集が起こりやすい。そこで通常は塩基性物質による中和が行われる。この塩基性物質としては、アンモニア、有機アミン類、無機水酸化物等を用いることができる。ポリマーエマルジョンおよび水性インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、この中でも特に一価の無機水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム)が好ましい。上記中和剤の添加量は、ポリマーエマルジョンのpHが7.5〜9.5の範囲、好ましくは7.5〜8.5の範囲となるように適宜決定される。
インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂粒子の粒子径は5nm〜400nmの範囲であり、より好ましくは50nm〜200nmの範囲である。
また、これら樹脂エマルジョンの添加量は定着性等を考慮して適宜決定してよいが、各インク組成物中に固形分で2質量%以上を含むことが好ましい。
次に、液体組成物の注入方法について説明する。本実施形態の液体組成物の注入方法は、液体収容容器から排出される液体の液体組成物に、ポリオキシエチレン(POE)基含有の界面活性剤が含まれる液体収容容器に液体組成物を注入する液体組成物注入方法であって、液体収容容器内にポリエチレン又はポリプロピレンを含む繊維部材を収納し、液体組成物注入ノズルを繊維部材内に突き刺した状態で、自己分散顔料と溶剤とを含む液体組成物を液体組成物注入ノズルを介して繊維部材内に注入するものである。以下、具体的に説明する。
図6は、液体組成物の注入方法を説明する説明図である。図6に示すように、カートリッジ4を構成する筐体420の凹部421に液体保持部材460(繊維部材)を収納する。そして、筐体420の開口部を蓋401で覆う。そして、蓋401に設けられた注入孔402cから筐体420内に向けて液体組成物注入ノズル900を挿入する。さらに、液体組成物注入ノズル900を液体保持部材460に突き刺す。このとき、液体組成物注入ノズル900の液体保持部材460内の突き刺した状態における液体組成物注入ノズル900の先端の位置(Z方向における液体保持部材460に突き刺した長さLa)が、カートリッジ4に収納された液体保持部材460の第1方向(−Z軸方向)における長さLに対して、カートリッジ4の注入孔402c側を基準として、1/7L以上3/7L以下となるように設定する。そして、この状態で液体組成物注入ノズル900を介して液体組成物を注入する。
以上、上記実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
液体組成物と界面活性剤とが適正に規定されるため、カートリッジ4,5における液体組成物の充填性を向上させることができる。また、カートリッジ4,5に液体組成物を容易に充填させることができる。
[実施例]
次に、本発明にかかる具体的な実施例について説明する。
1.試料等の用意
まず、ポリエチレンを含む繊維部材と、液体組成物(表1参照)と、これら繊維部材と液体組成物とを収容する筐体等を準備する。
(自己分散型顔料分散液の調製)
市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置付きの3L容のガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8質量%のオゾン含有ガスを500mL/分で導入した。その際、オゾン発生器はペルメレック電極社(PERMELEC ELECTRODE LTD.)製の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(アドバンテック東洋社(ADVANTEC MFS,INC.)製商品名)で濾過し、さらに固形分濃度が20質量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、自己分散型のブラック顔料分散液を得た。
(水不溶性ポリマー被覆型顔料分散液の調製)
有機溶媒(メチルエチルケトン)20質量部、重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、重合開始剤、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(プロピレンオキサイド=9)15質量部、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノメタクリレート(プロピレンオキサイド基=7、エチレンオキサイド基=5)15質量部、メタクリル酸12質量部、スチレンモノマー50質量部、スチレンマクロマー10質量部、ベンジルメタクリレート10部を用い、窒素ガス置換を十分に行った反応容器内に入れて75℃攪拌下で重合し、モノマー成分100質量部に対してメチルエチルケトン40質量部に溶解した2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル0.9質量部を加え、80℃で1時間熟成させ、ポリマー溶液を得た。
メチルエチルケトン45質量部に上記で得られた水不溶性ポリマーを7.5質量部溶解させて、その中に20%の水酸化ナトリウム水溶液(中和剤)を所定量加えて塩生成基を中和し、さらに顔料としてC.I.ピグメントイエロー74を20質量部加えてビーズミルで2時間混練した。このようにして得られた混練物にイオン交換水120質量部を加えて攪拌した後、減圧下、6℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、固形分濃度が20質%のイエロー顔料分散液1を得た。
(樹脂エマルジョンの調整)
攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900g及びラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予めイオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3gにアクリルアミド20g、スチレン365g、ブチルアクリレート545g、及びメタクリル酸30gを攪拌下に加えて作製した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した。滴下終了後3時間の熟成を行った。得られた樹脂エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して固形分40質量%、pH8に調整した。得られた水性エマルジョンにおける樹脂粒子のガラス転移温度は−6℃であった。
(樹脂被覆型顔料分散液の調整)
反応容器に、BTG100部、及びマクロモノマーMM−1の溶液600部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にスチレン(以下、「St」と記す)200部、ブチルアクリレート(以下、「BA」と記す)100部、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(以下、「PBO」と記す)5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを2.5部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。水酸化カリウム(KOH)32.3部、及び水467.7部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−1のMnは15,900であり、Mwは38,500であり、PDIは2.42であった。なお、マクロモノマー由来の分子量のピークは見られなかった。また、UV検出器を使用して分子量を測定したところ、Mnは15,600、Mw39,100、PDIは2.51であった。これは、ポリマー鎖Bを構成するモノマー成分が芳香環を有するものであり、大きな吸収が観測されたためであると考えられる。なお、マクロモノマーMM−1がポリマー鎖Bを構成するモノマー成分と重合して分子量が増大し、グラフトコポリマーが得られたと考えられる。以下の合成例においても、同様の測定を行って得られたコポリマー1がグラフトコポリマーとなっていることを確認した。また、固形分濃度を測定した結果に基づき、得られたポリマー溶液にイオン交換水を加え、固形分濃度を30%に調整した。
上記で得たコポリマーを含有するポリマー溶液233.3部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル70部、及び水311.7部を混合して若干濁りのある半透明の溶液を得た。この溶液にアゾ系黄色顔料PY−74(商品名「セイカファストイエロー2016G」)350部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ 径0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理し、ミルベース中に顔料を十分に分散させた。その後、水316部を添加して顔料濃度を18%とした。分散機から取り出したミルベースを遠心分離処理(7500回転、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度14%のインクジェット用の樹脂被覆型顔料分散液を得た。
1.液体組成物の調整
表1における表1Aの組成に従い各成分を混合し、10μmのメンブランフィルターでろ過することにより、各インク組成物を調製した。この組成物に表1における表1Bの界面活性剤(ポリエチレンオキシドオクタン酸エステル)を含んだ液体組成物の状態で繊維部材とともに液体収容容器に収容した。なお、表1BのPOE界面活性剤の質量%は、液体収容容器から排出されるインク中の質量を示す。
(顔料粒径測定方法)
メスフラスコを用いて、液体組成物を水で希釈し、最大吸収ABSが1に近似するように濃度を調整した。希釈率としては、シアン、マゼンタが2000倍、イエローが4000倍、ブラックが5000倍を目安とした。また濃度は、0.2〜0.5g/1とした。この希釈液を、ナノトラック(Nanotrac)粒度分析計[UPA−EX]の測定部に入れ、n=3回自動測定を行い、その平均値を測定データとして取得した。測定条件は、溶媒を水(屈折率1.31)、粒子屈折率は1.51とし、感度及びフィルターは標準(standard)とした。
2.評価
次いで、実施例及び比較例において、充填性、分散性(保存性)及びミスト発生の評価を行う。各評価方法は、下記の通りである。
(A)充填性の評価方法について(図6参照)
カートリッジを構成する筐体の開口部から筐体内に繊維部材を収納し、筐体の開口部を注入孔を有する蓋で塞ぐ。そして、注入孔から筐体内に向けて液体組成物注入ノズルを挿入し、さらに、液体組成物注入ノズルを繊維部材に突き刺す。この状態で液体組成物注入ノズルを介して液体組成物を注入する。このとき、繊維部材から液体組成物が溢れるか否かを評価する。例えば、液体組成物の注入時において繊維部材から液体組成物が溢れない場合には、液体組成物が繊維部材内に円滑に注入(充填)される。一方、液体組成物の注入時において繊維部材から液体組成物が溢れた場合には、充填性が劣ると判断できる。本評価では、液体組成物の注入時において繊維部材から液体組成物が溢れなかった場合は、評価Aまたは評価Bとなる。なお、評価Aは、評価Bに対してより良い評価結果を示す。一方、液体組成物の注入時において繊維部材から液体組成物が溢れた場合には、評価Cとなる。
(B)分散性(保存性)の評価方法について
繊維部材と液体組成物とが収容されたカートリッジにおいて、液体組成物中の顔料の凝集があるか否かを判断する。顔料の凝集が無い場合には、分散性が良く、保存性に優れる。一方、顔料の凝集が有る場合には、分散性が阻害され、保存性に劣ると判断できる。本評価では、顔料の凝集がほとんど無い場合は、評価Aまたは評価Bとなる。なお、評価Aは、評価Bに対してより良い評価結果を示す。一方、顔料の凝集が有る場合は、評価Cとなる。
(C)ミスト発生の評価方法について
カートリッジを搭載したインク吐出装置を用いて、液体組成物が収納されたカートリッジからインクを吐出させ、吐出されたインクの尾引き状態を観察する。このとき、微小滴(ミスト)が発生するか否かを判断する。微小滴が無い場合には、ミストによる画像の汚れ等が低減される。一方、微小滴が有る場合には、ミストの付着により画像品質の低下となる。本評価では、微小滴がほとんど発生しない場合は、評価Aまたは評価Bとなる。なお、評価Aは、評価Bに対してより良い評価結果を示す。一方、微小滴が発生する場合は、評価Cとなる。
3.評価結果
上記の実施例及び比較例において、充填性、分散性(保存性)及びミスト発生を評価した。評価結果は、表1の通りである。
表1に示すように、本発明にかかる実施例では、充填性、分散性(保存性)及びミスト発生の全ての評価に対して優れていた。一方、比較例1から比較例3では、満足のいく結果が得られなかった。比較例1では、ポリオキシエチレン(POE)の含有量が少ないため、繊維部材に対する濡れ性が低下する。このため、液体組成物の充填性が低下した。比較例2では、ポリオキシエチレン(POE)の含有量が多いため、顔料の分散性が低下する。この場合、顔料の凝集が起こりやすくなる。比較例3では、1,2−ヘキサンジオール(1,2−HD)の含有量が多いため、ミストが発生しやすくなる。これに対し、実施例1及び実施例2は、ポリオキシエチレン(POE)の含有量と液体組成物の溶剤の含有量とが規定内に設定されているため、充填性、分散性(保存性)及びミスト発生の全ての評価において満足させることができる。