本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書で述べる特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法および任意の数で組み合わせて付加的な実施形態を創製し得ることが理解されるべきである。様々に説明される実施例および好ましい実施形態は、本発明を明確に説明される実施形態だけに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に説明される実施形態を、多くの開示されるおよび/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を裏付け、包含することが理解されるべきである。さらに、本出願で述べるすべての要素の任意の順序および組合せが、文脈によって特に指示されない限り、本出願の説明によって開示されるとみなされるべきである。例えば、1つの好ましい実施形態においてRNAが120ヌクレオチドから成るポリ(A)尾部を含み、および別の好ましい実施形態では前記RNA分子が5'キャップ類似体を含む場合、好ましい実施形態では、前記RNAは、120ヌクレオチドから成るポリ(A)尾部および5'キャップ類似体を含む。
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)",H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H. Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH−4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
本発明の実施は、特に指示されない限り、当該分野の文献中で説明される化学、生化学および組換えDNA技術の従来の方法を用いる(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989参照)。
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含を意味し、いかなる他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の排除を意味しないが、一部の実施形態では、そのような他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題が記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含に存することが理解される。本発明の説明に関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むと解釈されるべきである。本明細書中の数値の範囲の列挙は、単に範囲内に属する各々別々の数値を個別に言及することの簡略化した方法としての役割を果たすことが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各々個別の数値は、本明細書で個別に列挙されるがごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書で述べるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図し、本発明の範囲または特許請求される範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、特許請求されない要素が本発明の実施に必須であると指示すると解釈されるべきではない。
いくつかの資料が本明細書の本文全体にわたって引用される。上記または下記で、本明細書において引用される資料の各々は(すべての特許、特許出願、学術出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明を理由にそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
「阻止する」、「低減する」または「阻害する」などの用語は、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上のレベルの全体的な減少を生じさせる能力に関する。これらの用語はまた、完全なまたは実質的に完全な減少、すなわち、ゼロまたは実質的にゼロへの減少を含む。
「増大させる」、「増強する」または「延長させる」などの用語は、好ましくは、およそ少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%、特に少なくとも300%の増大、増強または延長に関する。これらの用語はまた、ゼロからまたは測定不能もしくは検出不能なレベルからゼロを上回るレベルまたは測定可能もしくは検出可能なレベルへの増大、増強または延長にも関し得る。
本発明に関連して「組換え」という用語は、「遺伝子工学を通して作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明に関連して組換えタンパク質などの「組換え実体」は、天然には存在せず、好ましくは天然では組み合わされないアミノ酸または核酸配列などの実体の組合せの結果である。例えば、本発明に関連して組換えタンパク質は、例えばペプチド結合によって一緒に融合された異なるタンパク質に由来するいくつかのアミノ酸配列を含み得る。
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、ある物体が自然界で見出すことができるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、天然源から単離することができ、実験室内で人の手によって意図的に改変されていないタンパク質または核酸は、天然に存在する。
核酸は、本発明によれば、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写RNA(IVT RNA)である。核酸は、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖としておよび直鎖状または共有結合閉環分子として存在し得る。核酸は、本発明によれば、単離することができる。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が、(i)インビトロで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅された、(ii)クローニングによって組換え生産された、(iii)例えば切断とゲル電気泳動による分離によって精製された、または(iv)例えば化学合成によって合成されたことを意味する。核酸は、細胞内への導入、すなわち細胞のトランスフェクションのために、特にDNA鋳型からインビトロ転写によって調製することができるRNAの形態で用いることができる。RNAは、適用の前に配列の安定化、キャッピングおよびポリアデニル化によってさらに修飾することができる。
2個以上のペプチドまたはタンパク質の発現のための核酸、特にRNAとして、異なるペプチドもしくはタンパク質が異なる核酸分子中に存在する核酸型またはペプチドもしくはタンパク質が同じ核酸分子中に存在する核酸型を使用することができる。
本発明に関連して、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基から成る分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β−D−リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的または完全に精製されたRNAなどの単離されたRNA、基本的に純粋なRNA、合成RNA、ならびに1個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変化によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAなどの組換え作製されたRNAを含む。そのような変化には、例えばRNAの末端へのまたは内部での、例えばRNAの1個以上のヌクレオチドにおける非ヌクレオチド物質の付加が含まれ得る。RNA分子中のヌクレオチドには、天然には存在しないヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの、非標準ヌクレオチドも含まれ得る。これらの変化したRNAは、類似体または天然に存在するRNAの類似体と称され得る。本発明の1つの実施形態では、RNAは化学修飾されていない。本発明の1つの実施形態では、RNAは、天然に存在するヌクレオチドなどの標準ヌクレオチドだけを含む。
本発明によれば、「RNA」という用語は、「mRNA」を包含し、好ましくは「mRNA」に関する。「mRNA」という用語は「メッセンジャーRNA」を意味し、DNA鋳型を使用することによって作製され、ペプチドまたはタンパク質をコードする「転写産物」に関する。典型的には、mRNAは、5'−UTR、タンパク質コード領域および3'−UTRを含む。mRNAは、細胞中およびインビトロで限られた半減期しか有さない。本発明に関連して、mRNAはDNA鋳型からインビトロ転写によって作製され得る。インビトロ転写の方法は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
本発明の1つの実施形態では、RNA、特に細胞中で発現されるべきRNAは、一本鎖自己複製RNAなどの自己複製RNAである。1つの実施形態では、自己複製RNAは、プラスセンスの一本鎖RNAである。1つの実施形態では、自己複製RNAは、ウイルスRNAまたはウイルスRNAに由来するRNAである。1つの実施形態では、自己複製RNAは、アルファウイルスゲノムRNAであるかまたはアルファウイルスゲノムRNAに由来する。1つの実施形態では、自己複製RNAはウイルス遺伝子発現ベクターである。1つの実施形態では、ウイルスはセムリキ森林ウイルスである。1つの実施形態では、自己複製RNAは1個以上の導入遺伝子を含み、前記導入遺伝子は、1つの実施形態では、RNAがウイルスRNAである場合、構造タンパク質をコードするウイルス配列などのウイルス配列を部分的または完全に置換し得る。1つの実施形態では、自己複製RNAは、インビトロ転写RNAの形態で細胞に導入される。
本発明によれば、RNAの安定性および翻訳効率は必要に応じて改変し得る。例えば、RNAの安定化作用を有するおよび/または翻訳効率を高める1つ以上の修飾によってRNAを安定化し、その翻訳効率を高め得る。そのような修飾は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP2006/009448号に記載されている。本発明に従って使用されるRNAの発現を増大させるために、コード領域内、すなわち発現されるペプチドまたはタンパク質をコードする配列内で、好ましくは発現されるペプチドまたはタンパク質の配列を変化させずに、GC含量を増大させてmRNAの安定性を高め、コドン最適化を実施し、したがって細胞中での翻訳を増強するようにRNAを修飾し得る。
本発明で使用されるRNAに関連して「修飾」という用語は、前記RNA中に天然では存在しないRNAの任意の修飾を包含する。
本発明の1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNAは、キャップされていない5'−三リン酸を有さない。そのようなキャップされていない5'−三リン酸の除去は、RNAをホスファターゼで処理することによって達成できる。
本発明によるRNAは、その安定性を高めるおよび/または細胞傷害性を低下させるために修飾されたリボヌクレオチドを有し得る。例えば、1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNA中で、シチジンを5−メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。あるいはまたはさらに、1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNA中で、ウリジンをプソイドウリジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換する。
1つの実施形態では、「修飾」という用語は、RNAに5'−キャップまたは5'−キャップ類似体を提供することに関する。「5'−キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に認められるキャップ構造を指し、一般に独特の5'−5'三リン酸結合によってmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドから成る。1つの実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。「従来の5'−キャップ」という用語は、天然に存在するRNAの5'−キャップ、好ましくは7−メチルグアノシンキャップ(m7G)を指す。本発明に関連して、「5'−キャップ」という用語は、RNAキャップ構造に類似し、好ましくはインビボおよび/または細胞中で、RNAに結合した場合RNAを安定化するおよび/またはRNAの翻訳を増強する能力を有するように修飾されている5'−キャップ類似体を含む。
好ましくは、RNAの5'末端は、以下の一般式:
[式中、R1およびR2は、独立してヒドロキシまたはメトキシであり、ならびにW−、X−およびY−は、独立して酸素、硫黄、セレンまたはBH3である]
を有するキャップ構造を含む。好ましい実施形態では、R1およびR2はヒドロキシであり、ならびにW−、X−およびY−は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2の一方、好ましくはR1はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、ならびにW−、X−およびY−は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2はヒドロキシであり、ならびにW−、X−およびY−の1つ、好ましくはX−は硫黄、セレンまたはBH3、好ましくは硫黄であり、その他は酸素である。さらなる好ましい実施形態では、R1およびR2の一方、好ましくはR2はヒドロキシであり、他方はメトキシであり、ならびにW−、X−およびY−の1つ、好ましくはX−は硫黄、セレンまたはBH3、好ましくは硫黄であり、その他は酸素である。
上記式中、右側のヌクレオチドは、その3'基を介してRNA鎖に結合されている。
W−、X−およびY−の少なくとも1つが硫黄である、すなわちホスホロチオエート部分を有するキャップ構造は、種々のジアステレオ異性体の形態で存在し、それらのすべては本明細書に包含される。さらに、本発明は、上記式のすべての互変異性体および立体異性体を包含する。
例えば、R1がメトキシであり、R2がヒドロキシであり、X−が硫黄であり、ならびにW−およびY−が酸素である上記構造を有するキャップ構造は、2つのジアステレオ異性体形態(RpおよびSp)で存在する。これらは逆相HPLCによって分離することができ、逆相HPLCカラムからの溶出順序に従ってD1およびD2と命名される。本発明によれば、m2 7,2'−OGppSpGのD1異性体が特に好ましい。
RNAに5'−キャップまたは5'−キャップ類似体を提供することは、前記5'−キャップまたは5'−キャップ類似体の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成でき、前記5'−キャップを作製されたRNA鎖に同時転写によって組み込むか、またはRNAを、例えばインビトロ転写によって作製し、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて5'−キャップを転写後にRNAに結合し得る。
RNAはさらなる修飾を含み得る。例えば、本発明で使用されるRNAのさらなる修飾は、天然に存在するポリ(A)尾部の伸長もしくは末端切断、または前記RNAのコード領域に関連しない非翻訳領域(UTR)の導入などの5'UTRもしくは3'UTRの変化、例えばグロビン遺伝子、例えばα2グロビン、α1グロビン、βグロビン、好ましくはβグロビン、より好ましくはヒトβグロビンに由来する3'UTRの1コピー以上、好ましくは2コピーと既存の3'UTRの交換または前記グロビン遺伝子由来の3'UTRの1コピー以上、好ましくは2コピーの挿入であり得る。
マスクされていないポリA配列を有するRNAは、マスクされたポリA配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。「ポリ(A)尾部」または「ポリA配列」という用語は、典型的にはRNA分子の3'末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、「マスクされていないポリA配列」は、RNA分子の3'末端のポリA配列がポリA配列のAで終了し、ポリA配列の3'末端側、すなわち下流に位置するA以外のヌクレオチドが後続していないことを意味する。さらに、約120塩基対の長いポリA配列は、RNAの最適な転写産物安定性および翻訳効率をもたらす。
それゆえ、本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現を増大させるために、好ましくは10〜500、より好ましくは30〜300、さらに一層好ましくは65〜200、特に100〜150個のアデノシン残基の長さを有するポリA配列と共に存在するようにRNAを修飾し得る。特に好ましい実施形態では、ポリA配列は約120個のアデノシン残基の長さを有する。本発明に従って使用されるRNAの安定性および/または発現をさらに増大させるために、ポリA配列を脱マスク化することができる。
加えて、RNA分子の3'非翻訳領域(UTR)への3'非翻訳領域の組込みは、翻訳効率の上昇をもたらすことができる。2つ以上のそのような3'非翻訳領域を組み込むことによって相乗効果を達成し得る。3'非翻訳領域は、それらが導入されるRNAに対して自己または異種であってよい。1つの特定の実施形態では、3'非翻訳領域はヒトβグロビン遺伝子に由来する。
上述した修飾、すなわちポリA配列の組込み、ポリA配列の脱マスク化および1つ以上の3'非翻訳領域の組込みの組合せは、RNAの安定性および翻訳効率の上昇に相乗的影響を及ぼす。
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量または数の半分を除去するのに必要な期間に関する。本発明に関連して、RNAの半減期は前記RNAの安定性の指標である。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続期間」に影響を及ぼし得る。長い半減期を有するRNAは長期間発現されると予測できる。
言うまでもなく、本発明によれば、RNAの安定性および/または翻訳効率を低下させることが望ましい場合、RNAの安定性および/または翻訳効率を上昇させる上述した要素の機能を妨げるようにRNAを修飾することが可能である。
「発現」という用語は、本発明によればその最も一般的な意味で使用され、例えば転写および/または翻訳による、RNAおよび/またはペプチドもしくはタンパク質の産生を含む。RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、特にペプチドまたはタンパク質の産生に関する。また、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性または安定であり得る。
本発明によれば、「RNA発現」、「RNAを発現すること」または「RNAの発現」などの用語は、RNAによってコードされるペプチドまたはタンパク質の産生に関する。好ましくは、そのような用語は、RNAによってコードされるペプチドまたはタンパク質を発現する、すなわち産生するためのRNAの翻訳に関する。
本発明に関連して、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはタンパク質へと翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、ここで「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロ合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターを転写産物の作製に適用する。これらのクローニングベクターは一般に転写ベクターと称され、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。本発明によれば、本発明で使用されるRNAは、好ましくはインビトロ転写RNA(IVT−RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって入手し得る。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼについての任意のプロモーターであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、本発明によるインビトロ転写はT7またはSP6プロモーターによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって入手し得る。cDNAはRNAの逆転写によって入手し得る。
ベクター鋳型を含むcDNAは、転写後、場合により異なるペプチドもしくはタンパク質を発現する能力を有する異なるRNA分子の集団をもたらす、異なるcDNA挿入物を担持するベクターを含み得るか、または転写後、1種のペプチドもしくはタンパク質だけを発現する能力を有する1つのRNA種だけの集団をもたらす1種だけのcDNA挿入物を担持するベクターを含み得る。したがって、単一ペプチドもしくはタンパク質だけを発現する能力を有するRNAを生成する、または2種以上のペプチドもしくはタンパク質を発現する能力を有するRNAライブラリおよび全細胞RNAなどの異なるRNAの組成物、例えばペプチドもしくはタンパク質の組成物を生成することが可能である。本発明は、すべてのそのようなRNAの細胞への導入を想定する。
本発明による「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNAの鎖が、ペプチドまたはタンパク質を作製するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指令する、細胞のリボソーム中の過程に関する。
本発明によれば、核酸と機能的に連結し得る発現制御配列または調節配列は、核酸に関して同種または異種であってよい。コード配列および調節配列は、コード配列の転写または翻訳が調節配列の制御下または影響下にあるように共に共有結合されている場合、「機能的に」連結されている。コード配列が機能性タンパク質に翻訳される場合、コード配列と調節配列の機能的連結により、調節配列の誘導は、コード配列の読み枠シフトを引き起こすことなくまたはコード配列が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳されることを不可能にすることなく、コード配列の転写をもたらす。
「発現制御配列」または「調節配列」という用語は、本発明によれば、核酸の転写または誘導されたRNAの翻訳を制御する、プロモーター、リボソーム結合配列および他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施形態では、調節配列を制御することができる。調節配列の正確な構造は、種または細胞型に応じて異なり得るが、一般に転写および翻訳の開始に関与する5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列、例えばTATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列等を含む。特に、5'非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列が含まれるプロモーター領域を含む。調節配列はまた、エンハンサー配列または上流活性化配列も含み得る。
「発現の増強」、「増強された発現」または「増大された発現」などの用語は、本発明に関連して、所与の数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の量が、同じ数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の量より高いことを意味し、ここでRNA分子の発現は、RNAの増強されたまたは増大された発現をもたらす条件、例えば細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止しないことおよび細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害しないことに対して、細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止することおよび細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害することなどの条件を除き、同じ条件下で実施される。これに関連して、「同じ条件」は、同じペプチドまたはタンパク質をコードする同じRNA配列を同じ手段によって同じ細胞に導入し、細胞を同じ条件下で(増強されたまたは増大された発現をもたらす条件を除く)培養し、ペプチドまたはタンパク質の量を同じ手段によって測定する状況を指す。ペプチドまたはタンパク質の量は、モル単位で、または重量単位、例えばグラムで、または質量によってまたはポリペプチド活性によって表してよく、例えばペプチドもしくはタンパク質が酵素である場合は触媒活性として表してよく、またはペプチドもしくはタンパク質が抗体もしくは抗原もしくは受容体である場合は結合親和性として表してよい。1つの実施形態では、「発現の増強」、「増強された発現」または「増大された発現」などの用語は、本発明に関連して、所与の数のRNA分子によって所与の期間内に発現されるペプチドまたはタンパク質の量が、同じ数のRNA分子によって同じ期間内に発現されるペプチドまたはタンパク質の量より高いことを意味する。例えば、特定の時点で所与の数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の最大値は、同じ数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の最大値より高くてよい。他の実施形態では、所与の数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の最大値は、同じ数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の最大値より高い必要はないが、所与の期間内に所与の数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の平均量は、同じ数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の平均量より高くてよい。後者の場合は、本明細書では「より高レベルの発現」または「増大したレベルの発現」と称され、発現のより高い最大値および/または発現のより高い平均値に関する。あるいはまたはさらに、「発現の増強」、「増強された発現」または「増大された発現」などの用語はまた、本発明に関連して、ペプチドまたはタンパク質がRNA分子によって発現される時間が、同じRNA分子によってペプチドまたはタンパク質が発現される時間より長くてよいことを意味する。したがって、1つの実施形態では、「発現の増強」、「増強された発現」または「増大された発現」などの用語はまた、本発明に関連して、RNAが安定に存在し、発現される期間が、同じ数のRNAが安定に存在し、発現される期間よりも長いため、所与の数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の量が、同じ数のRNA分子によって発現されるペプチドまたはタンパク質の量より高いことを意味する。これらの場合は、本明細書では「増大された発現の持続期間」とも称される。好ましくは、そのようなより長い期間は、細胞へのRNAの導入後または細胞へのRNAの最初の導入後(例えば反復トランスフェクションの場合)少なくとも48時間、好ましくは少なくとも72時間、より好ましくは少なくとも96時間、特に少なくとも120時間、またはさらにそれ以上長い発現を指す。
RNAの発現のレベルおよび/または発現の持続期間は、例えばELISA法、免疫組織化学法、定量的画像解析法、ウェスタンブロット法、質量分析法、定量的免疫組織化学法または酵素検定法を用いることにより、RNAによってコードされるペプチドもしくはタンパク質の総発現量および/もしくは所与の期間に発現された量などの量、ならびに/または発現の時間を測定することによって決定し得る。
特定の実施形態では、本発明によるRNAは、異なるRNA分子の集団、例えば場合により異なるペプチドおよび/またはタンパク質をコードする異なるRNA分子の混合物、全細胞RNA、RNAライブラリまたはその一部、例えば特定の細胞型、例えば未分化細胞、特に胚性幹細胞などの幹細胞において発現されるRNA分子のライブラリ、またはRNA分子のライブラリの画分、例えば分化した細胞に比べて未分化細胞、特に胚性幹細胞などの幹細胞における発現が強化されたRNAを含む。したがって、本発明によれば、「RNA」という用語は、細胞からのRNAの単離を含む過程によっておよび/または組換え手段、特にインビトロ転写によって入手し得る、RNA分子の混合物、全細胞RNAまたはその画分を含み得る。
好ましくは、本発明によれば、細胞中で発現されるべきRNAは、インビトロまたはインビボのいずれかで、好ましくはインビトロで前記細胞に導入される。RNAは、細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび/または細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害する前、その後および/またはそれと同時に細胞に導入し得る。好ましくは、細胞中でのRNAの発現を所望する限り、細胞外IFNのIFN受容体への結合は阻止され、細胞内IFNシグナル伝達は阻害される。本発明による方法の1つの実施形態では、細胞に導入されるべきRNAは、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られる。
本発明に従って使用されるRNAは公知の組成物を有してもよく(この実施形態では、好ましくはいずれのペプチドまたはタンパク質がRNAによって発現されているかが公知である)、またはRNAの組成物が部分的もしくは完全に未知であってもよい。あるいは、本発明に従って使用されるRNAは公知の機能を有してもよく、またはRNAの機能が部分的または完全に未知であってもよい。
本発明によれば、「発現する能力を有するRNA」および「をコードするRNA」という語は、本明細書では互換的に使用され、特定のペプチドまたはタンパク質に関して、RNAが、適切な環境中、好ましくは細胞中に存在する場合、発現されて前記ペプチドまたはタンパク質を産生できることを意味する。好ましくは、本発明によるRNAは、細胞の翻訳機構と相互作用して、RNAが発現することができるペプチドまたはタンパク質を提供することができる。
本発明によれば、RNAは、インビトロまたはインビボのいずれかで、好ましくはインビトロで細胞に導入し得る。RNAがインビトロで導入された細胞は、好ましくは本発明の方法によるインビトロでのRNAの発現後に、患者に投与し得る。
「導入する」、「導入する」または「トランスフェクトする」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、核酸、特に外因性または異種核酸、特にRNAの細胞への導入に関する。前記用語はまた、核酸、特にRNAの細胞への反復導入を含み、ここで反復とは、1回より多いこと、例えば2回以上、3回以上、4回以上、5回以上、6回以上、7回以上、8回以上を意味する。核酸の前記反復導入の時間間隔は、3日以内、2日以内、24時間以内、さらにはそれ以下であってもよい。幹細胞特性を有する細胞の提供に関する本発明のこれらの態様は、少なくとも連続3日間、少なくとも連続4日間、少なくとも連続5日間または少なくとも連続6日間の、核酸、特にRNAの細胞への反復導入を含み得る。核酸は、幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を可能にする1つ以上の因子を発現する能力を有するRNAを含み得る。しかし、核酸はまた、本明細書で開示されるタンパク質もしくはペプチドなどの、細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止する1つ以上のタンパク質もしくはペプチドをコードする核酸、特にRNA、および/または本明細書で開示されるタンパク質もしくはペプチドなどの、細胞内IFNシグナル伝達を阻害する1つ以上のタンパク質もしくはペプチドをコードする核酸、特にRNAも含み得る。したがって、核酸はまた、例えばB18RならびにE3およびK3の一方または両方をコードする核酸、特にRNAも含み得る。さらに、核酸は、幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を増強するmiRNAを含み得る。好ましくは、核酸、特にRNAの細胞への反復導入は、連続10日間、連続8日間または連続6日間を超えて実施されない。好ましくは、核酸、特にRNAの細胞への反復導入は、連続して3、4、5または6日間実施される。好ましくは、核酸、特にRNAは、1日1回、2回または3回、好ましくは1日1回細胞に導入される。
本発明によれば、細胞は、単離された細胞であり得るかまたは器官、組織および/もしくは生物の一部を形成し得る。本発明によれば、RNAを細胞に導入するのに適した任意の技術を使用し得る。好ましくは、RNAは標準的な技術によって細胞に導入される。そのような技術には、核酸のリン酸カルシウム沈殿物のトランスフェクション、DEAEと結合した核酸のトランスフェクション、対象とする核酸を担持するウイルスによるトランスフェクションまたは感染、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびマイクロインジェクションが含まれる。本発明によれば、核酸の投与は、裸の核酸としてまたは投与試薬と組み合わせて達成される。好ましくは、核酸の投与は裸の核酸の形態である。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与される。本発明はまた、長期間の持続的発現を可能にするための細胞への核酸の反復導入も想定する。
細胞は、例えばLipofectamine(商標)(Invitrogen)などのリポソームに基づく市販のトランスフェクションキットを用いてトランスフェクトすることができ、またRNAが、例えばRNAと複合体を形成するかまたはRNAが封入もしくは被包された小胞を形成することによって結合し、裸のRNAと比較してRNAの増大した安定性をもたらすことができる任意の担体を用いてトランスフェクトすることができる。本発明に従う有用な担体には、例えば脂質含有担体、例えばカチオン性脂質、リポソーム、特にカチオン性リポソーム、およびミセルが含まれる。カチオン性脂質は、負に荷電した核酸と複合体を形成し得る。任意のカチオン性脂質を本発明に従って使用し得る。
好ましくは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNAの細胞への導入は、細胞における前記ペプチドまたはタンパク質の発現をもたらす。特定の実施形態では、特定の細胞への核酸の標的化が好ましい。そのような実施形態では、細胞への核酸の投与に適用される担体(例えばレトロウイルスまたはリポソーム)は標的化分子を示す。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質に特異的な抗体または標的細胞上の受容体のリガンドなどの分子を核酸担体中に組み込み得るかまたは核酸担体に結合し得る。核酸をリポソームによって投与する場合は、標的化および/または取り込みを可能にするために、エンドサイトーシスに関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質をリポソーム製剤に組み込み得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞型に特異的なキャプシドタンパク質またはそのフラグメント、インターナライズされるタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質等を包含する。
エレクトロポレーションまたは電気透過化処理は、外部から印加された電場によって引き起こされる細胞形質膜の電気伝導率および透過性の有意な増大に関する。これは通常、分子生物学において何らかの物質を細胞に導入する方法として用いられる。エレクトロポレーションは通常、細胞溶液中に電磁場を作り出す器具であるエレクトロポレータを用いて行われる。細胞懸濁液を、側面に2つのアルミニウム電極を有するガラス製またはプラスチック製キュベットにピペットで注入する。エレクトロポレーションのために、典型的には約50マイクロリットルの細胞懸濁液を使用する。エレクトロポレーションの前に、細胞懸濁液をトランスフェクトしようとする核酸と混合する。混合物をピペットでキュベットに注入し、電圧および静電容量を設定して、キュベットをエレクトロポレータに挿入する。好ましくは、エレクトロポレーションの直後に(キュベット中またはエッペンドルフチューブ中で)液体培地を添加し、細胞の回復および場合により抗生物質耐性の発現を可能にするように、チューブを細胞の最適温度で1時間以上インキュベートする。
本発明によれば、ひとたびインビトロまたは被験体中に存在し得る細胞によって取り込まれるかまたは細胞に導入された核酸、例えばペプチドまたはタンパク質をコードするRNAは、前記ペプチドまたはタンパク質の発現をもたらすことが好ましい。細胞は、コードされるペプチドまたはタンパク質を細胞内で(例えば細胞質内および/または核内で)発現し得るか、コードされるペプチドまたはタンパク質を分泌し得るか、またはその表面に発現し得る。ペプチドまたはタンパク質(例えばB18R)が細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止すべきである場合は、ペプチドまたはタンパク質の分泌が好ましい。ペプチドまたはタンパク質(例えばE3、K3)が細胞内IFNシグナル伝達を阻害すべきである場合は、ペプチドまたはタンパク質の細胞内発現が好ましい。
本発明に従って体細胞の再プログラム化のための特定の因子を発現する能力を有するRNAが体細胞に導入される場合、RNAのこの導入は、再プログラム化過程を完了するために一定の期間にわたって前記因子の発現をもたらし、幹細胞特性を有する細胞の発生をもたらすことが好ましい。好ましくは、本明細書で開示される特定の因子を発現する能力を有するRNAの体細胞への導入は、長期間にわたる、好ましくは少なくとも10日間、好ましくは少なくとも11日間、より好ましくは少なくとも12日間にわたる前記因子の発現をもたらす。そのような長期発現を達成するには、RNAを、好ましくは定期的に(すなわち反復して)2回以上、好ましくはエレクトロポレーションを用いて細胞に導入する。好ましくは、長期間にわたる1つ以上の因子の発現を確実にするためにRNAを少なくとも2回、より好ましくは少なくとも3回、より好ましくは少なくとも4回、さらに一層好ましくは少なくとも5回から好ましくは6回まで、より好ましくは7回まで、さらには8、9または10回まで、好ましくは少なくとも10日間、好ましくは少なくとも11日間、より好ましくは12日間にわたって細胞に導入する。好ましくは、RNAの各反復導入の間に経過する期間は、24時間〜120時間、好ましくは48時間〜96時間である。1つの実施形態では、RNAの各反復導入の間に経過する期間は、72時間以下、好ましくは48時間以下または36時間以下である。1つの実施形態では、次のエレクトロポレーションの前に、細胞を先のエレクトロポレーションから回復させる。この実施形態では、RNAの各反復導入の間に経過する期間は、少なくとも72時間、好ましくは少なくとも96時間、より好ましくは少なくとも120時間である。いずれの場合も、因子が再プログラム化過程を支持する量でおよび支持する期間にわたって細胞中で発現されるように条件を選択すべきである。
各々のペプチド、タンパク質または因子について、好ましくは少なくとも1μg、好ましくは少なくとも1.25μg、より好ましくは少なくとも1.5μg、好ましくは20μgまで、より好ましくは15μgまで、より好ましくは10μgまで、より好ましくは5μgまで、好ましくは1〜10μg、さらに一層好ましくは1〜5μg、または1〜2.5μgのRNAをエレクトロポレーションごとに使用する。
好ましくは、反復エレクトロポレーションによって細胞の生存能の喪失が起こる場合、それまでにエレクトロポレーションを受けたことがない細胞を担体細胞として添加する。好ましくは、それまでにエレクトロポレーションを受けたことがない細胞を、4回目とそれ以降のエレクトロポレーション、好ましくは5回目とそれ以降のエレクトロポレーションの1つ以上の前、その間または後に、例えば4回目と6回目のエレクトロポレーションの前、その間または後に添加する。好ましくは、それまでにエレクトロポレーションを受けたことがない細胞を、4回目または5回目とそれ以降の各エレクトロポレーションの前、その間または後に添加する。好ましくは、それまでにエレクトロポレーションを受けたことがない細胞は、RNAが導入される細胞と同じ細胞である。
「細胞生存能の増強」、「増強された細胞生存能」または「増大された細胞生存能」などの用語は、本発明に関連して、特定の条件下での生存可能な細胞または生細胞の量が他の条件下での生存可能な細胞または生細胞の量よりも高いことを意味し、ここで培養は、増強されたまたは増大された細胞生存能をもたらす条件、例えば細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止しないことおよび細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害しないことに対して、細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止することおよび細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害することなどの条件を除き、同じ条件下で実施される。これに関連して、「同じ条件」は、同じ細胞を使用し、細胞を同じ条件下で(増強されたまたは増大された細胞生存能をもたらす条件を除く)培養し、細胞生存能を同じ手段によって測定する状況を指す。「同じ条件」はまた、細胞へのRNAの導入または反復導入も包含する。
ウイルス感染の間に生成される二本鎖RNA(dsRNA)は、いくつかの細胞の抗ウイルス応答を活性化する。二本鎖RNA(dsRNA)は、dsRNAウイルスの遺伝物質を構成するだけでなく、プラス鎖RNAウイルスおよび一部のDNAウイルスによって感染細胞中で生成される。最もよく特性づけられた細胞の抗ウイルス応答の中には、RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)およびオリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS)/RNアーゼL系によって媒介されるタンパク質合成の遮断がある。Toll様受容体3(TLR3)ならびにRNAヘリカーゼRIG−IおよびMDA5は、dsRNAのセンサーとしての役割を果たす;図1参照。活性化後、これらは、I型インターフェロン(IFN)の発現で終わるシグナル伝達カスケードを誘導する。I型IFNの誘導は、インターフェロン調節因子(IRF)と称される転写因子のファミリーによって主として転写レベルで制御される。
インターフェロンは、抗ウイルス、抗増殖および免疫調節活性を特徴とする重要なサイトカインである。インターフェロンは、調節される細胞の表面のインターフェロン受容体に結合することによって細胞内での遺伝子の転写を変化させ、調節して、それにより細胞内でのウイルス複製を阻止するタンパク質である。本発明によれば、「細胞外IFNのIFN受容体への結合」という語句は、IFN、特にI型IFNの、細胞表面のインターフェロン受容体への結合に関する。
インターフェロンは2つの型に分類することができる。IFN−γは唯一のII型インターフェロンである;他はすべてI型インターフェロンである。I型インターフェロンとII型インターフェロンは、遺伝子構造(II型インターフェロン遺伝子は3つのエクソンを有し、I型は1個のエクソンを有する)、染色体位置(ヒトでは、II型は12番染色体に位置し、I型インターフェロン遺伝子は9番染色体に連鎖し、その上に存在する)、およびそれらが産生される組織の種類(I型インターフェロンは遍在的に合成され、II型はリンパ球によって合成される)が異なる。I型インターフェロンは細胞受容体への結合を互いに競合的に阻害するが、II型インターフェロンは異なる受容体を有する。本発明によれば、「インターフェロン」または「IFN」という用語は、好ましくはI型インターフェロン、特にIFN−αおよびIFN−βに関する。
ヒトIFN−αは、約20個の遺伝子から成る多重遺伝子族によってコードされる;各遺伝子は単一サブタイプのヒトIFN−αをコードする。ヒトIFN−αポリペプチドは、ウイルスもしくは二本鎖RNAへの暴露後に多くのヒト細胞株およびヒト白血球細胞によって、または形質転換白血球細胞株(例えばリンパ芽球様細胞株)において産生される。IFN−αは細胞表面受容体と相互作用し、細胞遺伝子の幅広いが特異的なセットの発現を主として転写レベルで誘導する。
ヒトIFN−βは、166個のアミノ酸残基から成る22kDaの分子量を有する調節ポリペプチドである。ヒトIFN−βは、ウイルス感染または他の生物製剤への暴露に応答して体内の大部分の細胞、特に線維芽細胞によって産生され得る。ヒトIFN−βは多量体細胞表面受容体に結合し、生産的な受容体結合は、IFN−β誘導性遺伝子の発現を導く細胞内事象のカスケードをもたらし、これは次に、抗ウイルス、抗増殖または免疫調節性と分類され得る作用を生じさせる。
IFNは、ウイルス複製サイクルを妨げることができる大量の抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する。本発明によれば、「抗ウイルス性活性エフェクタータンパク質」という用語は、その転写がI型IFNによってシグナル伝達されるIFN刺激遺伝子(ISG)によってコードされるタンパク質の群に関する。これらのタンパク質は異なるウイルス成分およびウイルス生活環の異なる段階を標的とし、侵入ウイルスを排除することを目指す。「抗ウイルス性活性エフェクタータンパク質」は、個別にウイルス転写をブロックし、ウイルスRNAを分解し、翻訳を阻害し、タンパク質機能を改変してウイルス複製のすべての段階を制御する、種々のエフェクター経路に関与する。そのようなタンパク質には、2',5'−オリゴアデニル酸シンテターゼ(OAS)、特に2',5'−オリゴアデニル酸シンテターゼ1(OAS1)、RNA依存性プロテインキナーゼR(PKR)およびRNアーゼL(RNaseL)が含まれる。PKRおよびOASはどちらもdsRNAによって直接活性化される。したがって、dsRNAはこれらの抗ウイルス性活性エフェクタータンパク質の発現を誘導し、またこれらの活性化のためにも必要である。
PKRは構成的に発現され、I型IFNによって誘導される。dsRNAへの結合後、PKRは二量体化し、自己リン酸化を受けて完全な触媒活性を獲得する。ひとたび活性化すると、PKRは真核生物翻訳開始因子eIF2−αをリン酸化する。リン酸化状態で、eIF2−αはヌクレオチド交換因子eIF2−βと安定な複合体を形成し、その後、もはやGDP/GTP交換によるタンパク質翻訳の開始のために再循環されない。その結果として、PKRの活性化は感染細胞におけるタンパク質合成の全体的なブロックをもたらし、ウイルス子孫の産生を阻止することができる。このようにして、eIF2−αと組み合わせたPKRは抗ウイルス経路(PKR依存性経路)を構成する。
「RNA依存性プロテインキナーゼ」(RNA活性化プロテインキナーゼ;PKR)という用語は、ウイルスRNA配列によって形成される広範な二次構造への結合およびこの二次構造による活性化によってウイルス応答において最初に同定されたインターフェロン誘導性セリン/トレオニンプロテインキナーゼである、RNA結合タンパク質に関する。ヒトPKRは、約20kDaのN末端dsRNA結合ドメインおよびC末端プロテインキナーゼドメインを有する68kDaである。インビトロでは、PKRは、広範な二本鎖二次構造を有するRNA分子への結合によって活性化される。インビボでは、この酵素は、ウイルス二本鎖RNA(dsRNA)またはdsRNAを含むウイルス複製中間体によって活性化されると考えられる。PKRへの二本鎖RNAの結合は酵素のコンフォメーション変化を引き起こし、このコンフォメーション変化は、キナーゼドメイン中のATP結合部位を変化させ、PKR配列全体にわたる複数のセリンおよびトレオニン残基の自己リン酸化をもたらす。RNAによって刺激された自己リン酸化は、その公知の基質である真核生物開始因子2(eIF2−α)のリン酸化を含む、多くの推定上の経路を介してアポトーシス刺激およびプロ炎症性刺激に対する細胞の感受性を増大させる。
「PKR」という用語は、好ましくはヒトPKR、特に配列表の配列番号:14に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「PKR」という用語は、配列番号:13に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「PKR」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。対立遺伝子変異体は、遺伝子の通常配列の改変に関し、その意味は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定は、しばしば所与の遺伝子について数多くの対立遺伝子変異体を同定する。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列のものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。当業者は、上述したPKRのcDNA配列がPKR mRNAと等価であり、PKRに対する阻害性核酸の作製のために使用できることを理解する。
プロテインキナーゼ自己リン酸化を含むプロテインキナーゼ活性は、当業者に公知の様々な技術によって測定することができる。1つの方法は、例えばリンタンパク質をトリクロロ酢酸によってセルロースストリップ上に沈殿させ、次いで洗浄するか、またはリンタンパク質をホスホセルロースストリップ上に吸着させることによってリン酸化キナーゼ基質から未反応のATPを分離することを含む。例えば、デホスホPKRはポリ[I:C]とのインキュベーションによって活性化することができ、[γ−32P]ATPの存在下で自己リン酸化を進行させることができる。このRNA誘導性PKR自己リン酸化をブロックする化合物の能力を試験することができる。別の方法は、ホスホPKRまたは完全長PKRに特異的な抗体を用いたウェスタンブロット法によって同じ細胞溶解物中のPKRの総量に対してホスホPKRを検出し、定量することを含む。別の方法は、PKRのリン酸化基質、例えばホスホeIF2−αまたは完全長eIF2−αに特異的な抗体を用いたウェスタンブロット法によって同じ細胞溶解物中のeIF2−αの総量に対してホスホeIF2−αを検出し、定量することを含む。
「eIF2−α」という用語は、好ましくはヒトeIF2−α、特に配列表の配列番号:16に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「eIF2−α」という用語は、配列番号:15に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「eIF2−α」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
OASは、低い構成的レベルで発現され、I型IFNによって誘導される。このタンパク質は不活性単量体として細胞質中に蓄積する。ウイルスdsRNAによる活性化後、この酵素はオリゴマー化し(OAS1の場合)、独特の2',5'−ホスホジエステル結合によってATP分子を縮合することができる四量体を形成して、2',5'−オリゴアデニル酸を合成し、これが次に、構成的に発現されている不活性RNアーゼLを活性化する。2',5'−オリゴアデニル酸のRNアーゼLへの結合は、それらのキナーゼ様ドメインを介して、酵素単量体の二量体化を引き起こし、次に細胞(およびウイルス)RNAを切断する。結果として、ウイルスタンパク質の合成が阻害され、ウイルスRNAゲノムが直接破壊される。このようにして、RNアーゼLと組み合わせたOASは抗ウイルスRNA崩壊経路(OAS−RNアーゼL抗ウイルス経路またはOAS依存性経路)を構成する。
OAS1、OAS2、OAS3およびOASL(OAS様)と称される、ヒトにおいて同定された4つのOAS遺伝子は、12番染色体(マウスでは5番染色体)にマッピングされている。OAS1は、40kDaと46kDaの2つのタンパク質を産生する、ヒトでは2つ(マウスでは8)のスプライス形態を有し、これら2つのタンパク質は、それぞれそれらのC末端の18アミノ酸と54アミノ酸によって異なる。OAS2は、69kDaと71kDaの2つのタンパク質をコードする4つの選択的にスプライシングされた転写産物を産生する。OAS3は、100kDaタンパク質を産生する単一転写産物をコードする。これらのタンパク質は互いにかなりの相同性を有し、OAS1、OAS2およびOAS3はそれぞれ1、2および3個の「OAS」ドメインをコードする。最も特徴的なOASタンパク質はOASLである。2つのOASL転写産物が発現され、30kDaと59kDaの2つのタンパク質を産生する。より高い分子量のOASLはそのC末端に推定上の核小体局在化シグナルを含み、これがおそらく細胞におけるその特有の(その他のOASアイソフォームと異なる)分布の原因である。OASLタンパク質もOASドメインを有するが、鍵となる残基の突然変異がこのヒトタンパク質の触媒機能を無効にしている。興味深いことに、2つのマウスホモログの1つはその2',5'−ポリメラーゼ活性を保持する。OASドメインに加えて、OASLは、ISG15に相同なユビキチン様ドメインをコードする特有の160アミノ酸のC末端を有する。したがって、OASLはI型IFNでの細胞の処理後に細胞タンパク質に結合(ISG化)する。各々の形態のヒトOASタンパク質の分別発現および誘導があると思われる。また、3つの機能的OASタンパク質の各々が特有の生物学的機能を有する。OAS1およびOAS2のOASドメイン内のトリペプチドモチーフ(CFK)はオリゴマー化を媒介し、そのためこれらの酵素の触媒活性形態は、OAS1およびOAS2についてそれぞれ四量体および二量体である。このトリペプチドモチーフはOAS3およびOASLのOASドメインでは保存されておらず、それゆえこれらのタンパク質は単量体として機能する。OAS単量体の重合はそれらのプロセシング性に影響を及ぼし、OAS3は2',5'−結合オリゴマーの二量体分子を合成し、OAS1およびOAS2は三量体および四量体オリゴマーを合成することができる。二量体2',5'−結合オリゴマーはRNアーゼLの効率的な活性化因子ではなく、その結果として、別の過程を調節すると思われ、1つの報告は、DNAトポイソメラーゼIを調節することによる遺伝子発現における役割を示唆している。本発明によれば、「2',5'−オリゴアデニル酸シンテターゼ」または「OAS」という用語は、好ましくはRNアーゼL、好ましくはOAS1およびOAS2の活性化因子である分子に関する。
「OAS」という用語は、好ましくはヒトOAS、特に配列表の配列番号:18もしくは20に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「OAS」という用語は、配列番号:17または19に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「OAS」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
2',5'−依存性RNアーゼLは、2つのキナーゼ様ドメイン(PUGおよびSTYKc)ならびに8つのアンキリンリピートを有する80kDaタンパク質として発現される。この酵素は不活性単量体として構成的に発現される。この酵素の自己阻害は、アンキリンリピートへの2',5'−オリゴマー(OASタンパク質によって生成される)の結合、およびその後のホモ二量体化後に解除される。次に活性な二量体酵素がssRNAを分解する。
「RNアーゼL(RNaseL)」という用語は、好ましくはヒトRNアーゼL、特に配列表の配列番号:22に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「RNアーゼL」という用語は、配列番号:21に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「RNアーゼL」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
本発明によれば、「細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止する」という用語は、IFN、特にI型IFNの、それらの特異的受容体との相互作用の阻害、すなわちブロックまたは低減に関し、したがってIFN機能を阻害するまたは低減することに関する。細胞外IFNのIFN受容体への結合は、例えば細胞外IFNに対する結合物質を提供することによって阻止され得る。細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するうえで1つ以上のタンパク質またはペプチド、例えば本明細書で開示されるタンパク質またはペプチド、例えば細胞外IFNに対する1つ以上の結合物質を含む、本発明のこれらの態様は、これらの1つ以上のタンパク質またはペプチドをコードする核酸、特にRNAを、例えば核酸を細胞に導入することによって、細胞に提供することを含み得る。
例えば、B18Rタンパク質は、強力な中和活性を備えるマウス、ヒト、ウサギ、ブタ、ラットおよびウシI型インターフェロンに対して特異性を有するワクシニアウイルスI型インターフェロン受容体である。B18Rタンパク質はウェスタンリザーブワクシニアウイルス株のB18R遺伝子によってコードされる。この60〜65kDの糖タンパク質はインターロイキン1受容体に関連し、他のI型IFN受容体と異なり、クラスIIサイトカイン受容体ファミリーに属する免疫グロブリンスーパーファミリーの成員である。B18Rタンパク質はヒトIFNαに高い親和性(KD、174pM)を有する。ウイルス宿主応答修飾因子の中で、B18Rタンパク質は、可溶性細胞外ならびに細胞表面タンパク質として存在し、オートクリンおよびパラクリンの両方のIFN機能の遮断を可能にするという点で独特である。B18Rタンパク質は、ヒト細胞上のIFN−α1、IFN−α2、IFN−α8/1/8およびIFN−ωの抗ウイルス力を阻害することが示されている。可溶性B18Rタンパク質は、IFN−α、β、δ、κを含むI型インターフェロンを中和するのに極めて強力である。
「B18R」という用語は、好ましくは配列表の配列番号:24に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「B18R」という用語は、配列番号:23に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「B18R」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
細胞外IFNのIFN受容体への結合は、例えばIFN、特に細胞外IFNのレベルを低下させることによってさらに阻止し得る。1つの実施形態では、細胞外IFNのIFN受容体への結合は、IFN遺伝子発現を妨げることによって阻止される。例えば、C型肝炎ウイルスセリンプロテアーゼNS3/4Aタンパク質複合体は、IFNプロモーター活性を妨げ、低減することができ、IFN遺伝子発現の特異的阻害剤である。「NS3/4A」という用語は、好ましくは配列表の配列番号:29に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。「NS3/4A」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
本発明によれば、「細胞内IFNシグナル伝達」という用語は、IFNがそれらの特異的受容体と相互作用することによって活性化される細胞内シグナル伝達事象およびエフェクター機能、特に抗ウイルス機能に関し、IFNによって誘導されるタンパク質、特に抗ウイルス性活性エフェクタータンパク質の機能を含む。特に、「細胞内IFNシグナル伝達」という用語は、PKR依存性経路の一部であるタンパク質、特にPKRおよびeIF2−α、ならびに/またはOAS依存性経路の一部であるタンパク質、特にOASおよびRNアーゼLを介したシグナル伝播および前記タンパク質によって及ぼされるエフェクター機能、特に抗ウイルス機能を含む。
「細胞内IFNシグナル伝達を阻害する」という用語は、細胞内IFNシグナル伝達の阻害または低減に関し、細胞内IFNシグナル伝達に関与するタンパク質、特にPKR依存性経路および/またはOAS依存性経路の一部であるタンパク質の発現、活性または活性化を阻害することによって達成され得る。例えば、多くのウイルスはPKRおよびOAS/RNアーゼL経路に対応するための進化した機構を有する。これらの機構は、細胞内IFNシグナル伝達を阻害するために本発明に従って使用し得る。細胞内IFNシグナル伝達を阻害するうえで1つ以上のタンパク質またはペプチド、例えば本明細書で開示されるタンパク質またはペプチド、例えばPKR依存性経路および/またはOAS依存性経路を阻害する1つ以上のタンパク質またはペプチドを含む、本発明のこれらの態様は、これらの1つ以上のタンパク質またはペプチドをコードする核酸、特にRNAを、例えば核酸を細胞に導入することによって、細胞に提供することを含み得る。
本発明によれば、PKR依存性経路は、PKRの活性もしくは活性化を阻害するもしくは低減する物質によって、またはeIF2−αを脱リン酸化するかもしくはそのリン酸化を阻止し、それによりPKR誘導性シグナルを終結させる物質によって阻害され得る。例えば、細胞内IFNシグナル伝達は、PKRシグナル伝達カスケードに対するウイルスの防御機構のいずれかを利用することにより、本発明に従って阻害され得る。これに関して、本発明は、デコイdsRNA(例えばアデノウイルスVAI RNA;エプスタイン‐バーウイルスEBER;HIV TAR)、PKR分解を生じさせる化合物(例えばポリオウイルス2Apro)、例えばウイルスdsRNAを隠すことを介して、PKRの活性化を阻害する化合物(例えばワクシニアウイルスE3/E3L;レオウイルスσ3;インフルエンザウイルスNS1、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)US11)、二量体化をブロックする化合物(例えばインフルエンザウイルスp58IPK;C型肝炎ウイルスNS5A)、偽基質(例えばワクシニアウイルスK3/K3L;HIV Tat)または基質の脱リン酸化(例えば単純ヘルペスウイルスICP34.5)の使用を含み得る。ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合し、隔離して、PKRおよびOASの活性化を阻止する25kDaのdsRNA結合タンパク質(E3L遺伝子によってコードされる)である。E3はPKRに直接結合することができ、その活性を阻害して、eIF2−αのリン酸化の低減をもたらす。ワクシニアウイルス遺伝子K3Lは、PKRのリン酸化不能な偽基質として働き、eIF2−αのリン酸化を競合的に阻害するeIF2−αサブユニットの10.5kDaホモログをコードする。ワクシニアウイルスC7/C7LはeIF2−αのリン酸化を阻害する。HSV−1由来のICP34.5タンパク質は、細胞PP1ホスファターゼの調節サブユニットとして機能し、eIF2−αを脱リン酸化するように指令して、それによりPKR誘導性シグナルを終結させる。マウスサイトメガロウイルス(MCMV)タンパク質m142およびm143は、PKRの活性化、翻訳開始因子eIF2のリン酸化、およびその後のタンパク質合成の遮断を阻害するdsRNA結合タンパク質として特性づけられている。
デコイRNAは、酵素を本物の基質ではなく偽基質に結合させるために、酵素のRNA基質と類似の構造を有し、したがって酵素の活性をブロックする、偽基質RNAである。
「E3」という用語は、好ましくは配列表の配列番号:26に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「E3」という用語は、配列番号:25に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「E3」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
「K3」という用語は、好ましくは配列表の配列番号:28に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。1つの実施形態では、「K3」という用語は、配列番号:27に従う核酸配列によってコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。「K3」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
「ICP34.5」という用語は、好ましくは配列表の配列番号:30に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。「ICP34.5」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。
本発明によれば、「RNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)の活性を低減する」という用語は、PKRの活性が人の手によって低減されない/低減されていない通常の状況、特に細胞における通常の状況と比較して、PKRのより低い度合いのホモ二量体化、PKRのより低い度合いの自己リン酸化および/またはeIF2−αなどのPKRのキナーゼ基質である標的のより低い度合いのリン酸化をもたらす手段に関する。好ましくは、前記用語には、PKRのより低い度合いの自己リン酸化および/またはPKRのキナーゼ基質である標的のより低い度合いのリン酸化をもたらすすべての手段が含まれる。
1つの実施形態では、細胞中のRNA依存性プロテインキナーゼ(PKR)の活性を低減することは、PKRの発現および/または活性の阻害剤で細胞を処理することを含む。本発明によれば、「発現および/または活性を阻害する」という語句は、発現および/または活性の完全なまたは基本的に完全な阻害ならびに発現および/または活性の低減を含む。
1つの実施形態では、前記PKR阻害剤はPKRタンパク質を対象とし、好ましくはPKRに特異的である。PKRは様々な方法で、例えばPKRの自己リン酸化および/または二量体化を阻害すること、PKR偽活性化因子を提供すること、またはPKR偽基質を提供することを介して阻害することができる。PKR阻害剤は、上記で論じたウイルスの防御機構に関与する物質であり得る。例えば、ワクシニアウイルスE3Lは、ウイルス感染細胞において、おそらくdsRNA活性化因子を隔離することによってPKRを阻害するdsRNA結合タンパク質をコードする。同じくワクシニアウイルスによってコードされるK3は、PKRに結合することによって偽基質阻害剤として機能する。したがって、ワクシニアウイルスE3Lを提供することはPKRの阻害をもたらし得る。アデノウイルスVAI RNA、HIV Tatまたはエプスタイン‐バーウイルスEBER1 RNAを提供することは、PKRの偽活性化をもたらし得る。したがって、例えば本明細書で述べるようなPKR活性をブロックするすべてのウイルス因子、すなわちウイルス由来阻害剤は、PKRの活性を低減するために使用し得る。
1つの実施形態では、PKR阻害剤は化学的阻害剤である。好ましくは、PKR阻害剤は、RNA誘導性PKR自己リン酸化の阻害剤である。好ましくは、PKR阻害剤は、PKRのATP結合部位指向性阻害剤である。
1つの実施形態では、PKR阻害剤は、6,8−ジヒドロ−8−(1H−イミダゾール−5−イルメチレン)−7H−ピロロ[2,3−g]ベンゾチアゾール−7−オンである。1つの実施形態では、PKR阻害剤は以下の式を有する。
1つの実施形態では、PKR阻害剤は2−アミノプリンである。1つの実施形態では、PKR阻害剤は以下の式を有する。
好ましくは、上記で開示される阻害剤は、少なくとも0.5μM以上、少なくとも1μM以上または少なくとも2μM以上の濃度で、好ましくは5μMまで、4μMまで、3μMまでまたは2μMまでの濃度で使用される。
さらなる実施形態では、PKRの活性の阻害剤は、PKRに特異的に結合する抗体である。PKRへの抗体の結合は、例えば結合活性または触媒活性を阻害することによって、PKRの機能を妨げることができる。
1つの実施形態では、ワクシニアウイルスE3および/またはK3などの1つ以上のウイルス由来阻害剤で細胞を処理すること、ならびに6,8−ジヒドロ−8−(1H−イミダゾール−5−イルメチレン)−7H−ピロロ[2,3−g]ベンゾチアゾール−7−オンおよび/または2−アミノプリンなどの1つ以上の化学的PKR阻害剤で細胞を処理することによって細胞中のPKRの活性を低減することを想定する。
本発明によれば、OAS依存性経路は、OASおよび/またはRNアーゼLの活性または活性化を阻害するまたは低減する物質によって阻害され得る。例えば、ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合し、隔離して、OASの活性化を阻止する25kDaのdsRNA結合タンパク質(E3L遺伝子によってコードされる)である。
本発明によれば、「OASの活性を低減する」という用語は、好ましくは2',5'−オリゴアデニル酸のより低い度合いの産生、したがってRNアーゼLのより低い度合いの活性化をもたらす手段に関する。
1つの実施形態では、細胞中のOASおよび/またはRNアーゼLの活性を低減することは、OASおよび/またはRNアーゼLの発現および/または活性の阻害剤で細胞を処理することを含む。本発明によれば、「発現および/または活性を阻害する」という語句は、発現および/または活性の完全なまたは基本的に完全な阻害ならびに発現および/または活性の低減を含む。
1つの実施形態では、以下では「標的タンパク質」と称される、PKR、OASまたはRNアーゼLの発現の阻害は、標的タンパク質をコードする転写産物、すなわちmRNAの産生を阻害するもしくはレベルを低減することによって、例えば転写を阻害するもしくは転写産物の分解を誘導することによって、および/または標的タンパク質の産生を阻害することによって、例えば標的タンパク質をコードする転写産物の翻訳を阻害することによって起こり得る。1つの実施形態では、前記阻害剤は標的タンパク質をコードする核酸に特異的である。特定の実施形態では、標的タンパク質の発現の阻害剤は、標的タンパク質をコードする核酸に選択的にハイブリダイズし、前記核酸に特異的であって、それにより前記核酸の転写および/または翻訳を阻害する(例えば低減する)阻害性核酸(例えばアンチセンス分子、リボザイム、iRNA、siRNAまたはこれらをコードするDNA)である。
本発明の阻害性核酸は、標的核酸に対してアンチセンス方向の配列を有するオリゴヌクレオチドを含む。適切な阻害性オリゴヌクレオチドは、典型的には5から数百ヌクレオチドまでの長さ、より典型的には約20〜70ヌクレオチド長以下、さらに一層典型的には約10〜30ヌクレオチド長にわたる。これらの阻害性オリゴヌクレオチドは、インビトロまたはインビボのいずれかで、遊離(裸の)核酸としてまたは保護された形態で、例えばリポソーム中に被包して適用し得る。リポソームまたは他の保護された形態の使用は、インビボでの安定性を増強し、したがって標的部位への送達を促進し得るので、好都合であり得る。
また、標的核酸は、細胞中の対応するmRNAの切断を標的とするリボザイムを設計するために使用し得る。同様に、これらのリボザイムは、遊離(裸の)形態でまたは安定性および/もしくは標的化を増強する送達システム、例えばリポソームを使用して投与し得る。
また、標的核酸は、核酸の発現を阻害する(例えば低減する)ことができるsiRNAを設計するために使用し得る。siRNAは、遊離(裸の)形態でまたは安定性および/もしくは標的化を増強する送達システム、例えばリポソームを使用して投与し得る。これらは、これらの前駆体またはこれらをコードするDNAの形態でも投与し得る。
siRNAは、好ましくはセンスRNA鎖およびアンチセンスRNA鎖を含み、ここでセンスRNA鎖とアンチセンスRNA鎖はRNA二本鎖を形成し、センスRNA鎖は、標的核酸、好ましくはPKRをコードするmRNA中の約19〜約25個の連続するヌクレオチドの標的配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を含む。
本発明によれば、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび(ii)細胞内IFNシグナル伝達を阻害するための上述したペプチドまたはタンパク質の代わりに、前記ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を提供できることが理解されるべきである。本明細書で使用される「核酸の形態で提供される」という語句はこの可能性を説明する。例えば、細胞を、ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸、特にRNAでトランスフェクトしてもよく、核酸は、ペプチドまたはタンパク質を産生するように細胞中で発現され得る。
1つの実施形態では、細胞を、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび/または(ii)細胞内IFNシグナル伝達を阻害するように、発現されるべきペプチドもしくはタンパク質、例えば幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を可能にする1つ以上の因子をコードするRNAの導入、またはRNAの最初の導入(反復トランスフェクションの場合)の前に、それと同時におよび/またはその後に処理する。1つの実施形態では、細胞を、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび/または(ii)細胞内IFNシグナル伝達を阻害するように、RNAの導入またはRNAの最初の導入(反復トランスフェクションの場合)の後に、好ましくは直後に処理する。
1つの実施形態では、細胞を、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび/または(ii)細胞内IFNシグナル伝達を阻害するように、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、少なくとも96時間、少なくとも120時間またはそれ以上にわたって処理する。最も好ましくは、細胞を、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止するおよび/または(ii)細胞内IFNシグナル伝達を阻害するように、場合によりRNAの反復トランスフェクションによって、RNAの発現を所望する期間全体にわたって、例えば永続的に処理する。
本発明によれば、インビトロまたはインビボで、好ましくはインビトロで、(i)細胞外IFNのIFN受容体への結合を阻止することおよび(ii)細胞における細胞内IFNシグナル伝達を阻害することを想定する。したがって、本発明によれば、細胞は、単離された細胞であり得るかまたは器官、組織および/もしくは生物の一部を形成し得る。
「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」は、核酸の発現を調節する、特に低減するために使用し得る。「アンチセンス分子」または「アンチセンス核酸」という用語は、本発明によれば、オリゴリボヌクレオチド、オリゴデオキシリボヌクレオチド、修飾オリゴリボヌクレオチドまたは修飾オリゴデオキシリボヌクレオチドであって、特定の遺伝子を含むDNAまたは前記遺伝子のmRNAに生理的条件下でハイブリダイズし、それにより前記遺伝子の転写および/または前記mRNAの翻訳を阻害するオリゴヌクレオチドを指す。本発明によれば、「アンチセンス分子」はまた、核酸またはその一部をその天然のプロモーターに対して逆方向に含む構築物も包含する。核酸またはその一部のアンチセンス転写産物は、天然に存在するmRNAと二本鎖を形成することができ、したがってmRNAの蓄積または翻訳を阻害し得る。別の可能性は、核酸を不活性化するためのリボザイムの使用である。
好ましい実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、N末端または5'上流部位、例えば翻訳開始部位、転写開始部位またはプロモーター部位とハイブリダイズする。さらなる実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、3'非翻訳領域またはmRNAスプライシング部位とハイブリダイズする。
本明細書で使用される「低分子干渉RNA」または「siRNA」とは、分解されるべき標的遺伝子またはmRNAを同定するために使用される、好ましくは10ヌクレオチド長より大きい、より好ましくは15ヌクレオチド長より大きい、最も好ましくは18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長のRNA分子を意味する。19〜25ヌクレオチドの範囲がsiRNAについての最も好ましい大きさである。
siRNAの一方または両方の鎖は、3'突出部も含み得る。本明細書で使用される場合、「3'突出部」は、RNA鎖の3'末端から伸びる少なくとも1つの非対合ヌクレオチドを指す。したがって1つの実施形態では、siRNAは、1〜約6ヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドを含む)長、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長の少なくとも1つの3'突出部を含む。siRNA分子の両方の鎖が3'突出部を含む実施形態では、突出部の長さは各鎖について同じであってもよくまたは異なっていてもよい。最も好ましい実施形態では、3'突出部はsiRNAの両方の鎖上に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば、本発明のsiRNAの各々の鎖は、ジデオキシチミジル酸(「TT」)またはジウリジル酸(「uu」)の3'突出部を含み得る。
siRNAの安定性を増強するために、3'突出部を分解に対して安定化することもできる。1つの実施形態では、アデノシンヌクレオチドまたはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含めることによって突出部を安定化する。あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば3'突出部中のウリジンヌクレオチドの2'−デオキシチミジンによる置換は許容され、RNAi分解の効率に影響を及ぼさない。特に、2'−デオキシチミジン中に2'−ヒドロキシルが存在しないことにより、組織培養培地中での3'突出部のヌクレアーゼ耐性が有意に増強される。
siRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、2つの相補的な一本鎖RNA分子を含み得るか、または2つの相補的な部分が塩基対合し、一本鎖「ヘアピン」領域によって共有結合で連結されている単一分子を含み得る。すなわち、センス領域とアンチセンス領域はリンカー分子によって共有結合で連結され得る。リンカー分子はポリヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカーであり得る。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、後者のタイプのsiRNA分子のヘアピン領域は、「ダイサー」タンパク質(またはその等価物)によって細胞内で切断され、2つの個別の塩基対合したRNA分子のsiRNAを形成すると考えられる。
本明細書で使用される場合、「標的mRNA」は、下方調節のための標的であるRNA分子を指す。
pol IIIプロモーターからのRNAの発現は、最初に転写されるヌクレオチドがプリンである場合にのみ効率的であると考えられるので、標的部位を変化させずにpol III発現ベクターからsiRNAを発現させることができる。
本発明によるsiRNAは、標的mRNA配列のいずれかにおいて約19〜25個の連続するヌクレオチドの任意のストレッチ(「標的配列」)を標的とすることができる。siRNAについての標的配列を選択するための技術は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2002年10月11日に改訂された、Tuschl T.et al.,"The siRNA User Guide"に記載されている。"The siRNA User Guide"は、Dr.Thomas Tuschl,Laboratory of RNA Molecular Biology,Rockefeller University,New York,USAによって運営されているウェブサイトにおいてワールドワイドウェブ上で入手可能であり、the Rockefeller Universityのウェブサイトにアクセスし、「siRNA」というキーワードで検索することによって見出すことができる。したがって、本発明のsiRNAのセンス鎖は、標的mRNA中の約19〜約25ヌクレオチドの任意の連続するストレッチと実質的に同一のヌクレオチド配列を含む。
一般に、標的mRNA上の標的配列は、好ましくは開始コドンから50〜100ヌクレオチド下流(すなわち3'方向)から始まる、標的mRNAに対応する所与のcDNA配列から選択することができる。標的配列は、しかし、5'もしくは3'非翻訳領域または開始コドンの近傍の領域にも位置し得る。
siRNAは、当業者に公知の多くの技術を用いて入手することができる。例えば、siRNAは、化学合成するかまたは当分野で公知の方法を用いて、例えばその開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、Tuschl et al.の米国特許出願公開第2002/0086356号に記載されているショウジョウバエ(Drosophila)インビトロ系を用いて組換え生産することができる。
好ましくは、siRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホルアミダイトおよび従来のDNA/RNA合成装置を用いて化学合成される。siRNAは、2つの別々の相補的なRNA分子として、または2つの相補的な領域を有する単一RNA分子として合成することができる。
あるいは、siRNAはまた、任意の適切なプロモーターを使用して組換え環状または線状DNAプラスミドから発現させることもできる。プラスミドから本発明のsiRNAを発現させるための適切なプロモーターには、例えばU6またはH1 RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターが含まれる。
他の適切なプロモーターの選択は当分野の技術範囲内である。本発明の組換えプラスミドは、特定の組織または特定の細胞内環境におけるsiRNAの発現のための誘導的プロモーターまたは調節可能なプロモーターも含み得る。
組換えプラスミドから発現されたsiRNAは、標準的な技術によって培養細胞発現系から単離することができるか、または細胞内で発現させることができる。siRNAをインビボで細胞に送達するための組換えプラスミドの使用は当分野の技術範囲内である。siRNAは、2つの別々の相補的なRNA分子として、または2つの相補的な領域を有する単一RNA分子として組換えプラスミドから発現させることができる。
siRNAを発現させるのに適したプラスミドの選択、siRNAを発現させるための核酸配列をプラスミドに挿入するための方法、および対象とする細胞に組換えプラスミドを送達する方法は、当分野の技術範囲内である。
「細胞」または「宿主細胞」という用語は、好ましくは無傷の細胞、すなわち酵素、細胞小器官または遺伝物質などのその正常な細胞内成分が放出されていない無傷の膜を有する細胞に関する。無傷の細胞は、好ましくは生存可能な細胞、すなわちその正常な代謝機能を実行する能力を有する生細胞である。好ましくは、前記用語は、本発明によれば、外因性核酸で形質転換またはトランスフェクトすることができる任意の細胞に関する。「細胞」という用語は、本発明によれば、原核細胞(例えば大腸菌(E.coli))または真核細胞を包含する。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギおよび霊長動物由来の細胞などの哺乳動物細胞が特に好ましい。1つの実施形態では、細胞は、本明細書で述べる体細胞である。1つの実施形態では、細胞は、バリア機能を有する細胞である。好ましくは、細胞は、線維芽細胞、例えば本明細書で述べる線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、または内皮細胞、例えば心臓の内皮細胞、肺の内皮細胞もしくは臍静脈内皮細胞である。好ましくは、細胞はヒト細胞である。
線維芽細胞は、細胞外マトリックスおよびコラーゲンを合成し、創傷治癒において重要な役割を果たす細胞の種類である。線維芽細胞の主な機能は、細胞外マトリックスの前駆体を継続的に分泌することによって結合組織の構造的完全性を維持することである。線維芽細胞は、動物における結合組織の最も一般的な細胞である。線維芽細胞は形態学的に不均一であり、その位置および活性に依存して多様な外観を有する。
ケラチノサイトは、ヒト皮膚の最外層である表皮において支配的な細胞型である。ケラチノサイトの主要な機能は、皮膚およびその下にある組織を熱、紫外線および水分喪失などの環境被害から保護するケラチン層の形成である。
上皮は、身体全体の構造の腔および表面を裏打ちする細胞から成る組織である。多くの腺も上皮組織から形成されている。上皮は結合組織の上に存在し、2つの層は基底膜によって分離されている。ヒトでは、上皮は一次体組織として分類され、その他には結合組織、筋組織および神経組織がある。上皮細胞の機能は、分泌、選択的吸収、保護、経細胞輸送および感覚の検出を含む。
内皮は、血管の内表面を裏打ちし、管腔内の循環血液と血管壁の残りの部分との間の境界面を形成する細胞の薄層である。これらの細胞は内皮細胞と呼ばれる。内皮細胞は、心臓から最小の毛細管までの循環系全体を裏打ちしている。内皮組織は特殊な型の上皮組織である。
本発明によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合で連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、および好ましくは8、10、20、30、40または50個、特に100個までのアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大きなペプチド、好ましくは100個を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」と「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では互換的に使用される。
本発明はまた、本明細書で述べるペプチド、タンパク質またはアミノ酸配列の「変異体」も包含する。
本発明に関して、アミノ酸配列の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列における1個または2個以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1個以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列中の特定の部位に挿入されるが、生じる産物の適切なスクリーニングを伴うランダム挿入も可能である。
アミノ酸付加変異体は、1個以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30または50個またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30または50個またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失はタンパク質のいずれの位置においてでもよい。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。
アミノ酸置換変異体は、配列内の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。修飾が、相同なタンパク質またはペプチドの間で保存されていないアミノ酸配列内の位置に存在することおよび/またはアミノ酸を類似の性質を有する他のアミノ酸で置換することが好ましい。好ましくは、タンパク質変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち同様に荷電したまたは荷電していないアミノ酸による置換である。保存的アミノ酸変化は、側鎖が関連しているアミノ酸のファミリーの1つによる置換を含む。天然に存在するアミノ酸は一般に4つのファミリー:酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸に分けられる。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは、時に芳香族アミノ酸として一緒に分類されることがある。
好ましくは、所与のアミノ酸配列と、前記所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%である。類似性または同一性の程度は、好ましくは参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%であるアミノ酸領域に関して与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸から成る場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180または約200個のアミノ酸、好ましくは連続するアミノ酸に関して与えられる。好ましい実施形態では、類似性または同一性の程度は参照アミノ酸配列の全長に関して与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、当分野で公知のツールを用いて、好ましくは最良の配列アラインメントを用いて、例えばAlignを用いて、標準的な設定で、好ましくはEMBOSS::ニードル、マトリックス:Blosum62、ギャップオープン10.0、ギャップ伸長0.5で実施することができる。
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換を示すアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、それらの配列の間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドのパーセンテージを示す。
「同一性パーセンテージ」という用語は、最良のアラインメント後に得られた、比較しようとする2つの配列の間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを表すことが意図されており、このパーセンテージは純粋に統計的であって、2つの配列の間の相違は無作為におよびそれらの長さ全体にわたって分布する。2つのアミノ酸配列間の配列比較は、従来これらの配列を最適に整列した後に比較することによって実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するためにセグメントごとにまたは「比較ウインドウ」ごとに実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手作業による以外に、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを用いるコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成され得る。
同一性パーセンテージは、比較する2つの配列の間の同一位置の数を決定し、これら2つの配列の間の同一性パーセンテージを得るためにこの数を比較する位置の数で除して、得られた結果に100を乗じることによって計算される。
相同なアミノ酸配列は、本発明によれば、アミノ酸残基の少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を示す。
本明細書で述べるアミノ酸配列変異体は、当業者によって、例えば組換えDNA操作によって容易に調製され得る。置換、付加、挿入または欠失を有するペプチドまたはタンパク質を調製するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al.(1989)に詳述されている。さらに、本明細書で述べるペプチドおよびアミノ酸変異体は、公知のペプチド合成技術、例えば固相合成および同様の方法によって容易に調製され得る。
本発明は、本明細書で述べるペプチドまたはタンパク質の誘導体を包含し、それらは「ペプチド」および「タンパク質」という用語に含まれる。本発明によれば、タンパク質およびペプチドの「誘導体」は、タンパク質およびペプチドの修飾形態である。そのような修飾は、任意の化学修飾を包含し、炭水化物、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどの、タンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の単一または複数の置換、欠失および/または付加を含む。1つの実施形態では、タンパク質またはペプチドの「誘導体」には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質分解切断または抗体もしくは別の細胞リガンドへの結合から生じる修飾類似体が含まれる。「誘導体」という用語はまた、前記タンパク質およびペプチドのすべての機能的な化学的等価物にも及ぶ。好ましくは、修飾ペプチドは、増大した安定性および/または増大した免疫原性を有する。
本発明によれば、ペプチドまたはタンパク質の変異体は、好ましくはそれが由来するペプチドまたはタンパク質の機能的特性を有する。そのような機能的特性を、本明細書ではOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、KLF4およびc−MYCについてそれぞれ説明する。好ましくは、ペプチドまたはタンパク質の変異体は、動物の分化細胞を再プログラム化するうえで、それが由来するペプチドまたはタンパク質と同じ特性を有する。好ましくは、変異体は動物分化細胞の再プログラム化を誘導または増強する。
1つの実施形態では、RNAによってコードされるペプチドまたはタンパク質は、幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を可能にする因子である。1つの実施形態では、ペプチドまたはタンパク質は、1つ以上の抗原および/または1つ以上の抗原ペプチドを含む。好ましくは、前記RNAは、特に細胞に導入された場合、前記ペプチドまたはタンパク質を発現する能力を有する。
「幹細胞」は、自己複製する能力、未分化状態に留まる能力、および分化状態になる能力を有する細胞である。幹細胞は、少なくとも動物が天然に存在する生存期間中は、際限なく分裂することができる。幹細胞は最終分化していない;幹細胞は分化経路の最終段階にはない。幹細胞が分裂する場合、各々の娘細胞は、幹細胞のままであり得るかまたは最終分化を導く経路を開始することができる。
全能性幹細胞は、全能分化特性を有し、完全な生物へと発生する能力を有する細胞である。この特性は、精子による卵母細胞の受精後、8細胞期までの細胞が有する。これらの細胞を単離し、子宮内に移植した場合、それらは完全な生物に発生することができる。
多能性幹細胞は、外胚葉層、中胚葉層および内胚葉層から誘導される様々な細胞および組織に発生する能力を有する細胞である。受精の4〜5日後に生成される、胚盤胞の内部に位置する内部細胞塊に由来する多能性幹細胞は「胚性幹細胞」と呼ばれ、様々な他の組織細胞に分化することができるが、新しい生存生物を形成することはできない。
複能性幹細胞は、通常はそれらの起源である組織および器官に特異的な細胞型だけに分化する幹細胞である。複能性幹細胞は、胎児期、新生児期および成体期における様々な組織および器官の成長および発生に関与するだけでなく、成体組織ホメオスタシスの維持および組織損傷時の再生を誘導する機能にも関与する。組織特異的複能性細胞は「成体幹細胞」と総称される。
「胚性幹細胞」または「ESC」は、胚に存在するまたは胚から単離された幹細胞である。これは、生物中に存在するありとあらゆる細胞に分化する能力を有する、多能性であり得るか、2つ以上の細胞型に分化する能力を有する、複能性であり得る。
本明細書で使用される場合、「胚」は、その発生の初期段階にある動物を指す。これらの段階は、3つの胚葉が規定され、確立される着床および原腸形成、ならびにそれぞれの器官および器官系への胚葉の分化を特徴とする。3つの胚葉は、内胚葉、外胚葉および中胚葉である。
「胚盤胞」は、受精卵子が卵割を経て、液体で満たされた腔を取り囲む球状の細胞層が形成されつつあるまたは形成され終えた、発生の初期段階の胚である。この球状の細胞層は栄養外胚葉である。栄養外胚葉の内側には、内部細胞塊(ICM)と称される細胞のクラスターがある。栄養外胚葉は胎盤の前駆体であり、ICMは胚の前駆体である。
体性幹細胞とも呼ばれる成体幹細胞は、成体において認められる幹細胞である。成体幹細胞は分化した組織中で認められ、自己複製することができ、多少の制限を伴うが、分化してその起源組織の特殊な細胞型を生じることができる。その例には、間葉系幹細胞、造血幹細胞および神経幹細胞が含まれる。
「分化細胞」は、より特殊化した形態または機能へと漸進的な発生変化を起こした成熟細胞である。細胞分化は、細胞が、明らかに特殊化した細胞型へと成熟するときに経る過程である。分化細胞は独特の特性を有し、特定の機能を果たし、対応するより分化されていない細胞よりも分裂する可能性が低い。
「未分化」細胞、例えば未成熟細胞、胚性細胞または原始細胞は、典型的には非特異的な外観を有し、複数の非特異的な活動を実施し得るが、分化細胞が典型的に果たす機能は、全くではないにせよ、わずかしか果たすことができない。
「体細胞」は、ありとあらゆる分化細胞を指し、幹細胞、生殖細胞または配偶子を含まない。好ましくは、本明細書で使用される「体細胞」は、最終分化細胞を指す。
本明細書で使用される場合、「拘束された」は、特定の機能に永続的に拘束されているとみなされる細胞を指す。拘束された細胞は「最終分化細胞」とも称される。
本明細書で使用される場合、「分化」は、特定の形態または機能への細胞の適応を指す。細胞において、分化は、より拘束された細胞をもたらす。
本明細書で使用される場合、「脱分化」は、形態または機能の特殊化の喪失を指す。細胞において、脱分化は、より拘束されていない細胞をもたらす。
本明細書で使用される場合、「再プログラム化」は、細胞の遺伝的プログラムのリセットを指す。再プログラム化された細胞は、好ましくは多能性を示す。
「脱分化された」および「再プログラム化された」という用語または類似の用語は、本明細書では、幹細胞特性を有する体細胞由来細胞を表すために互換的に使用される。しかし、前記用語は、機械論的または機能的考察によって本明細書で開示される主題を限定することを意図しない。
「幹細胞特性の発生を誘導するRNA」または「幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を可能にする1つ以上の因子を発現する能力を有するRNA」という用語は、体細胞中に導入された場合、脱分化するように細胞を誘導するRNAを指す。
本明細書で使用される場合、「生殖細胞」は、精母細胞もしくは卵母細胞などの性細胞、または性細胞へと発生する細胞を指す。
本明細書で使用される場合、「多能性」は、胎盤の細胞または子宮の他の支持細胞を除く任意の細胞型を生じることができる細胞を指す。
「幹細胞特性を有する細胞」、「幹細胞の性質を有する細胞」または「幹様細胞」などの用語は、本明細書では、分化した体性非幹細胞に由来するが、幹細胞、特に胚性幹細胞に典型的な1つ以上の特徴を示す細胞を指示するために使用される。そのような特徴には、緻密なコロニー、高い核対細胞質比および顕著な核小体などの胚性幹細胞形態、正常な核型、テロメラーゼ活性の発現、胚性幹細胞に特有の細胞表面マーカーの発現、ならびに/または胚性幹細胞に特有の遺伝子の発現が含まれる。胚性幹細胞に特有の細胞表面マーカーは、例えばステージ特異的胚抗原3(SSEA−3)、SSEA−4、腫瘍関連抗原1−60(TRA−1−60)、TRA−1−81およびTRA−2−49/6Eから成る群より選択される。胚性幹細胞に特有の遺伝子は、例えば内因性OCT4、内因性NANOG、増殖分化因子3(GDF3)、発現抑制1(REX1)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)、胚細胞特異的遺伝子1(ESG1)、発生多能性関連2(DPPA2)、DPPA4およびテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)から成る群より選択される。1つの実施形態では、幹細胞に典型的な1つ以上の特徴には、多能性が含まれる。
本発明の方法の1つの実施形態では、幹細胞特性は胚性幹細胞形態を含み、ここで前記胚性幹細胞形態は、好ましくは緻密なコロニー、高い核対細胞質比および顕著な核小体から成る群より選択される形態学的基準を含む。特定の実施形態では、幹細胞特性を有する細胞は、正常な核型を有し、テロメラーゼ活性を発現し、胚性幹細胞に特有の細胞表面マーカーを発現し、および/または胚性幹細胞に特有の遺伝子を発現する。胚性幹細胞に特有の細胞表面マーカーは、ステージ特異的胚抗原3(SSEA−3)、SSEA−4、腫瘍関連抗原1−60(TRA−1−60)、TRA−1−81およびTRA−2−49/6Eから成る群より選択され得、胚性幹細胞に特有の遺伝子は、内因性OCT4、内因性NANOG、増殖分化因子3(GDF3)、発現抑制1(REX1)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)、胚細胞特異的遺伝子1(ESG1)、発生多能性関連2(DPPA2)、DPPA4およびテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)から成る群より選択され得る。
好ましくは、幹細胞特性を有する細胞は、脱分化されたおよび/または再プログラム化された体細胞である。好ましくは、幹細胞特性を有する細胞は、多能性状態などの胚性幹細胞の基本的特性を示す。好ましくは、幹細胞特性を有する細胞は、3つの一次胚葉すべての高度な誘導体へと分化する発生能を有する。1つの実施形態では、一次胚葉は内胚葉であり、高度な誘導体は腸管様上皮組織である。さらなる実施形態では、一次胚葉は中胚葉であり、高度な誘導体は横紋筋および/または軟骨である。なおさらなる実施形態では、一次胚葉は外胚葉であり、高度な誘導体は神経組織および/または表皮組織である。1つの好ましい実施形態では、幹細胞特性を有する細胞は、ニューロン細胞および/または心臓細胞へと分化する発生能を有する。
1つの実施形態では、体細胞は、間葉表現型を有する胚性幹細胞由来の体細胞である。好ましい実施形態では、体細胞は、線維芽細胞、例えば胎児線維芽細胞もしくは出生後線維芽細胞、またはケラチノサイト、好ましくは毛包由来ケラチノサイトである。さらなる実施形態では、線維芽細胞は、肺線維芽細胞、包皮線維芽細胞または皮膚線維芽細胞である。特定の実施形態では、線維芽細胞は、American Type Culture Collection(ATCC)にカタログ番号CCL−186の下で寄託されている線維芽細胞、American Type Culture Collection(ATCC)にカタログ番号CRL−2097の下で寄託されている線維芽細胞、またはAmerican Type Culture Collection(ATCC)にカタログ番号CRL−2522の下で寄託されている線維芽細胞、またはSystem Biosciencesによってカタログ番号PC501A−HFFの下で配給されている線維芽細胞である。1つの実施形態では、線維芽細胞は成体ヒト皮膚線維芽細胞である。好ましくは、体細胞はヒト細胞である。本発明によれば、体細胞は遺伝子改変されていてもよい。
本発明に従う「因子」という用語は、RNAによるその発現に関連して使用される場合、タンパク質およびペプチドならびにその誘導体および変異体を包含する。例えば、「因子」という用語は、OCT4、SOX2、NANOG、LIN28、KLF4およびc−MYCを含む。
因子は、任意の動物種、例えば哺乳動物およびげっ歯動物の因子であり得る。哺乳動物の例には、ヒトおよび非ヒト霊長動物が含まれるが、これらに限定されない。霊長動物には、ヒト、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザルおよび他の任意の新世界ザルまたは旧世界ザルが含まれるが、これらに限定されない。げっ歯動物には、マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミが含まれるが、これらに限定されない。
本発明によれば、幹細胞特性を有する細胞への体細胞の再プログラム化を可能にする能力を有する1つ以上の因子は、(i)OCT4およびSOX2、(ii)OCT4、SOX2ならびにNANOGおよびLIN28の一方または両方、(iii)OCT4、SOX2ならびにKLF4およびc−MYCの一方または両方から成る群より選択される因子の集合を含む。1つの実施形態では、RNAによって発現され得る前記1つ以上の因子は、OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28を含むか、またはOCT4、SOX2、KLF4およびc−MYCを含む。好ましくは、RNAは、エレクトロポレーションまたはマイクロインジェクションによって前記動物分化体細胞に導入される。好ましくは、本発明の方法は、例えば胚性幹細胞培養条件下、好ましくは多能性幹細胞を未分化状態に維持するのに適した条件下で体細胞を培養することにより、幹細胞特性を有する細胞の発生を可能にすることをさらに含む。
OCT4は、真核POU転写因子類の転写因子であり、胚性幹細胞の多能性の指標である。これは、母性発現されるオクトマー結合タンパク質である。OCT4は、卵母細胞、未分化胚芽細胞の内部細胞塊およびまた始原生殖細胞中に存在することが認められている。遺伝子POU5F1はOCT4タンパク質をコードする。この遺伝子名の別称には、OCT3、OCT4、OTF3およびMGC22487が含まれる。胚性幹細胞が未分化状態に留まるには、特定の濃度のOCT4の存在が必要である。
好ましくは、「OCT4タンパク質」または単に「OCT4」は、ヒトOCT4に関し、好ましくは配列番号:1に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:2に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したOCT4のcDNA配列がOCT4 mRNAと等価であり、OCT4を発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
Sox2は、単一のHMG DNA結合ドメインを有する転写因子をコードするSox(SRY関連HMGボックス)遺伝子ファミリーの成員である。SOX2は、神経前駆細胞を、それらが分化する能力を阻害することによって制御することが認められている。この因子の抑制は脳室帯からの剥離をもたらし、それに続いて細胞周期からの離脱が起こる。これらの細胞はまた、前駆細胞マーカーおよび初期ニューロン分化マーカーの喪失を通してその前駆細胞特性も喪失し始める。
好ましくは、「SOX2タンパク質」または単に「SOX2」は、ヒトSOX2に関し、好ましくは配列番号:3に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:4に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したSOX2のcDNA配列がSOX2 mRNAと等価であり、SOX2を発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
NANOGはNK−2型ホメオドメイン遺伝子であり、おそらく胚性幹細胞の複製および分化に不可欠な遺伝子の発現を調節することによって、幹細胞多能性を維持するうえで重要な役割を果たすと提案されている。NANOGは、そのC末端に埋込まれた2つの並はずれて強力な活性化ドメインを有する転写活性化因子として挙動する。NANOG発現の低減は胚性幹細胞の分化を誘導する。
好ましくは、「NANOGタンパク質」または単に「NANOG」は、ヒトNANOGに関し、好ましくは配列番号:5に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:6に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したNANOGのcDNA配列がNANOG mRNAと等価であり、NANOGを発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
LIN28は、RNA結合モチーフの独特の対合、すなわち低温ショックドメインと一対のレトロウイルス型CCHCジンクフィンガーとを有する保存された細胞質タンパク質である。哺乳動物では、LIN28は多様な型の未分化細胞中に豊富に存在する。多能性哺乳動物細胞では、LIN28は、ポリ(A)結合タンパク質とのRNアーゼ感受性複合体中およびスクロース勾配のポリソーム画分中で認められ、これがmRNAの翻訳に関連することを示唆する。
好ましくは、「LIN28タンパク質」または単に「LIN28」は、ヒトLIN28に関し、好ましくは配列番号:7に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:8に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したLIN28のcDNA配列がLIN28 mRNAと等価であり、LIN28を発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
クルッペル様因子(KLF4)は、種々の組織、例えば結腸、胃および皮膚の分裂終了上皮細胞において強く発現されるジンクフィンガー転写因子である。KLF4はこれらの細胞の最終分化に必須であり、細胞周期調節に関与する。
好ましくは、「KLF4タンパク質」または単に「KLF4」は、ヒトKLF4に関し、好ましくは配列番号:9に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:10に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したKLF4のcDNA配列がKLF4 mRNAと等価であり、KLF4を発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
MYC(cMYC)は、広範囲のヒト癌において過剰発現される癌原遺伝子である。これは、特異的に突然変異されるかまたは過剰発現された場合、細胞増殖を増大させ、癌遺伝子として機能する。MYC遺伝子は、エンハンサーボックス配列(Eボックス)への結合およびヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の動員を介して全遺伝子の15%の発現を調節する転写因子をコードする。MYCは転写因子のMYCファミリーに属し、このファミリーにはN−MYCおよびL−MYC遺伝子も含まれる。MYCファミリー転写因子は、bHLH/LZ(塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスロイシンジッパー)ドメインを含む。
好ましくは、「cMYCタンパク質」または単に「cMYC」は、ヒトcMYCに関し、好ましくは配列番号:11に従う核酸によってコードされるアミノ酸配列、好ましくは配列番号:12に従うアミノ酸配列を含む。当業者は、上述したcMYCのcDNA配列がcMYC mRNAと等価であり、cMYCを発現する能力を有するRNAの作製に使用できることを理解する。
本明細書における特定の因子、例えばOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、KLF4もしくはc−MYCへの言及、またはその特定の配列への言及は、本明細書で述べるこれらの特定の因子またはその特定の配列のすべての変異体も包含すると理解されるべきである。特に、細胞によって天然に発現されるこれらの特定の因子/配列のすべてのスプライス変異体、翻訳後修飾変異体、コンフォメーション変異体、アイソフォーム変異体および種ホモログも包含すると理解されるべきである。
「miRNA」(マイクロRNA)という用語は、標的mRNAの分解を誘導するおよび/または翻訳を阻止することにより、ESCの自己複製/分化および細胞周期進行に関連する機能を含む多数の細胞機能を調節する、真核細胞において認められる21〜23ヌクレオチド長の非コードRNAに関する。miRNAは、標的メッセンジャーRNA転写産物(mRNA)上の相補的配列に結合し、通常は翻訳抑制または標的分解および遺伝子サイレンシングをもたらす、転写後調節因子である。正しい組合せのmiRNAは、インビトロで幹細胞特性を有する細胞への体細胞の直接細胞再プログラム化を誘導する能力を有することが認められている。例えば、miRNAクラスター302〜367は体細胞の再プログラム化を増強することが観察されている。
好ましくは、本明細書で述べる幹細胞特性を有する細胞を提供するための方法において使用される幹細胞特性を有する細胞の発生を可能にする工程は、胚性幹細胞培養条件下、好ましくは多能性幹細胞を未分化状態に維持するのに適した条件下で体細胞を培養することを含む。
好ましくは、幹細胞特性を有する細胞の発生を可能にするために、1つ以上のDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤および/または1つ以上のヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下で細胞を培養する。好ましい化合物は、5'−アザシチジン(5'−azaC)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、デキサメタゾン、トリコスタチンA(TSA)、酪酸ナトリウム(NaBu)、スクリプタイドおよびバルプロ酸(VPA)から成る群より選択される。好ましくは、細胞を、好ましくは0.5〜10mM、より好ましくは1〜5mM、最も好ましくは約2mMの濃度のバルプロ酸(VPA)の存在下で培養する。
本発明の方法を用いて、任意の型の体細胞の脱分化を達成することができる。使用し得る細胞には、本発明の方法によって脱分化され得るまたは再プログラム化され得る細胞、特に完全にまたは部分的に分化した細胞、より好ましくは最終分化した細胞が含まれる。好ましくは、体細胞は、前胚、胚、胎児および出生後多細胞生物に由来する二倍体細胞である。使用し得る細胞の例には、線維芽細胞、例えば胎児および新生児線維芽細胞または成体線維芽細胞、ケラチノサイト、特に一次ケラチノサイト、より好ましくは毛に由来するケラチノサイト、脂肪細胞、上皮細胞、表皮細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経細胞、グリア細胞、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋細胞、メラノサイト、造血細胞、骨細胞、マクロファージ、単球および単核細胞が含まれるが、これらに限定されない。
本発明の方法を使用できる細胞は、任意の動物種、例えば哺乳動物およびげっ歯動物の細胞であり得る。本発明によって脱分化および再分化させることができる哺乳動物細胞の例には、ヒトおよび非ヒト霊長動物が含まれるが、これらに限定されない。本発明を実施し得る霊長動物細胞には、ヒト、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザルおよび他の任意の新世界ザルまたは旧世界ザルの細胞が含まれるが、これらに限定されない。本発明を実施し得るげっ歯動物細胞には、マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミ細胞が含まれるが、これらに限定されない。
本発明に従って調製される脱分化細胞は、多能性幹細胞と同じ要求性の多くを示すと予想され、胚性幹細胞に使用される条件下で、例えばES細胞培地または胚細胞の成長を支持する任意の培地で増殖させ、維持することができる。胚性幹細胞は、培養中の不活化胎児線維芽細胞上で、例えば照射マウス胚性線維芽細胞またはヒト線維芽細胞(例えばヒト包皮線維芽細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、ヒト子宮内膜線維芽細胞、ヒト卵管線維芽細胞)上で維持された場合、インビトロでその多能性を保持する。1つの実施形態では、ヒトフィーダー細胞は、直接分化によって同じ再プログラム化細胞の培養物から誘導された自己フィーダー細胞であり得る。
さらに、ヒト胚性幹細胞は、マウス胎仔線維芽細胞によって順化された培地中のマトリゲル上でも成功裏に増殖させることができる。ヒト幹細胞は、長期間にわたって培養中で成長させることができ、特定の培養条件下では未分化状態に留まることができる。
特定の実施形態では、細胞培養条件は、細胞を、細胞の分化を阻害するまたはさもなければ細胞の脱分化を促進することができる因子、例えば非ES細胞、栄養外胚葉または他の細胞型への細胞の分化を阻止することができる因子と接触させることを含み得る。
本発明に従って調製される脱分化細胞は、細胞の表現型の変化を観測することならびにそれらの遺伝子発現およびタンパク質発現を特性づけることを含む方法によって評価することができる。遺伝子発現はRT−PCRによって決定することができ、翻訳産物は免疫細胞化学およびウェスタンブロット法によって決定することができる。特に、脱分化細胞を、トランスクリプトミクスを含む当分野で周知の技術を用いて特性づけ、遺伝子発現のパターンおよび再プログラム化された細胞が胚性幹細胞などの未分化多能性対照細胞の予想される発現パターンと類似の遺伝子発現パターンを示すかどうかを決定することができる。
脱分化細胞の以下の遺伝子の発現をこれに関して評価することができる:OCT4、NANOG、増殖分化因子3(GDF3)、発現抑制1(REX1)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)、胚細胞特異的遺伝子1(ESG1)、発生多能性関連2(DPPA2)、DPPA4、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、胚抗原3(SSEA−3)、SSEA−4、腫瘍関連抗原1−60(TRA−1−60)、TRA−1−81およびTRA−2−49/6E。
再プログラム化細胞を比較し得る未分化細胞または胚性幹細胞は、分化体細胞と同じ種由来であり得る。あるいは、再プログラム化細胞を比較し得る未分化細胞または胚性幹細胞は、分化体細胞とは異なる種由来であり得る。
一部の実施形態では、未分化細胞において特異的に発現される特定の遺伝子が再プログラム化細胞でも発現される場合、再プログラム化細胞と未分化細胞、例えば胚性幹細胞との間には遺伝子発現パターンの類似性が存在する。例えば、典型的には分化体細胞では検出できない特定の遺伝子、例えばテロメラーゼを使用して、再プログラム化の程度を観測し得る。同様に、特定の遺伝子に関しては、発現が存在しないことを用いて再プログラム化の程度を評価し得る。
テロメラーゼ活性の誘導によって示される自己複製能は、脱分化細胞において観測することができる、幹細胞の別の特性である。
核型分析は、有糸分裂細胞からの染色体スプレッド、スペクトル核型分析、テロメア長のアッセイ、全ゲノムハイブリダイゼーション、または当分野で周知の他の技術を用いて実施し得る。
本発明を用いて、適切な因子をコードするRNAを、例えばエレクトロポレーションによって、1つ以上の体細胞中に組み込む。組込み後、細胞を、好ましくは脱分化細胞の維持を支持する条件(すなわち幹細胞培養条件)を用いて培養する。次に脱分化細胞を増殖させ、細胞療法のために必要な異なる型の体細胞に再分化するように誘導することができる。本発明に従って得られる脱分化細胞は、インビトロまたはインビボで1つ以上の所望体細胞型に分化するように誘導することができる。
好ましくは、本発明に従って得られる脱分化細胞は、3つの胚葉、すなわち内胚葉、中胚葉および外胚葉のいずれかに由来する細胞を生じさせ得る。例えば、脱分化細胞は、骨格筋、骨格、皮膚の真皮、結合組織、泌尿生殖器系、心臓、血液(リンパ細胞)および脾臓(中胚葉);胃、結腸、肝臓、膵臓、膀胱;尿道の内層、気管の上皮部分、肺、咽頭、甲状腺、副甲状腺、腸(内胚葉);または中枢神経系、網膜および水晶体、頭蓋および知覚神経節ならびに脳および感覚神経、色素細胞、頭部結合組織、表皮、毛、乳腺(外胚葉)に分化し得る。本発明に従って得られる脱分化細胞は、当分野で公知の技術を用いてインビトロまたはインビボで再分化させることができる。
本発明の1つの実施形態では、本発明の方法から生じる再プログラム化された細胞を使用して、分化した子孫を生成する。したがって、1つの態様では、本発明は、(i)本発明の方法を用いて再プログラム化細胞を得ること;および(ii)再プログラム化細胞の分化を誘導して、分化細胞を生成することを含む、分化細胞を生成するための方法を提供する。工程(ii)はインビボまたはインビトロで実施することができる。さらに、分化は、例えば再プログラム化細胞が導入された身体、器官または組織に、添加することができるかまたはインサイチュで存在する適切な分化因子の存在を介して誘導することができる。分化細胞を使用して、細胞、組織および/または器官移植の領域で好都合に使用される細胞、組織および/または器官を誘導することができる。所望する場合は、再プログラム化に先だって遺伝子改変を、例えば体細胞に導入することができる。本発明の分化細胞は、好ましくは胚性幹細胞または胚性生殖細胞の多能性を有さず、基本的に、組織特異的な部分的または完全に分化した細胞である。
本発明の方法の1つの利点は、本発明によって得られる再プログラム化細胞が、事前に選択または精製または細胞株の樹立を行わずに分化させ得ることである。したがって特定の実施形態では、再プログラム化細胞を含む不均一な細胞集団を所望の細胞型に分化させる。1つの実施形態では、本発明の方法から得られた細胞の混合物をインビトロで1つ以上の分化因子に暴露し、培養する。
本明細書で開示される方法によって得られる再プログラム化細胞を分化させる方法は、再プログラム化細胞を透過処理する工程を含み得る。例えば、本明細書で述べる再プログラム化技術によって生成された細胞、あるいは再プログラム化細胞を含む不均一な細胞混合物を、1つ以上の分化因子または分化因子を含む細胞抽出物もしくは他の調製物に暴露する前に透過処理し得る。
例えば、分化細胞は、少なくとも1つの分化因子の存在下で未分化再プログラム化細胞を培養し、培養物から分化細胞を選択することによって入手し得る。分化細胞の選択は、分化細胞上に存在する特定の細胞マーカーの発現などの表現型に基づき得るか、または機能アッセイ(例えば特定の分化細胞型の1つ以上の機能を果たす能力)によって実施し得る。
別の実施形態では、本発明に従って再プログラム化された細胞を、そのDNA配列の付加、欠失または修飾を介して遺伝子改変する。
本発明に従って調製された再プログラム化細胞もしくは脱分化細胞または再プログラム化細胞もしくは脱分化細胞に由来する細胞は、研究および治療において有用である。再プログラムされた多能性細胞は、限定されることなく、皮膚、軟骨、骨、骨格筋、心筋、腎、肝、血液および造血、血管前駆体および血管内皮、膵β、ニューロン、グリア、網膜、神経、腸、肺および肝細胞を含む身体の細胞のいずれかに分化させ得る。
再プログラム化細胞は、再生/修復療法に有用であり、それを必要とする患者に移植し得る。1つの実施形態では、細胞は患者にとって自家である。
本発明に従って提供される再プログラム化細胞は、例えば心臓、神経、内分泌、血管、網膜、皮膚、筋骨格障害および他の疾患の処置における治療戦略に使用し得る。
例えば、限定を意図しないが、本発明の再プログラム化細胞は、年齢または癌放射線療法および化学療法などのアブレーション療法に起因して天然の細胞が激減している動物において細胞を補充するために使用することができる。別の非限定的な例では、本発明の再プログラム化細胞は、器官再生および組織修復において有用である。本発明の1つの実施形態では、再プログラム化細胞を、損傷した筋組織、例えばジストロフィー筋および心筋梗塞などの虚血事象によって損傷した筋を再活性化するために使用することができる。本発明の別の実施形態では、本明細書で開示される再プログラム化細胞を、外傷または手術後の、ヒトを含む動物における瘢痕化を改善するために使用することができる。この実施形態では、本発明の再プログラム化細胞は、全身投与、例えば静脈内投与され、損傷した細胞によって分泌される循環サイトカインによって動員されて、新たに損傷を受けた組織の部位へと移動する。本発明の別の実施形態では、再プログラム化細胞を、修復または再生を必要とする治療部位に局所投与することができる。
さらなる実施形態では、本発明で使用されるRNAは、治療的価値のあるペプチドまたはタンパク質をコードする。前記RNAを含む細胞は、本発明の方法を用いて、例えばインビトロでこのRNAを、したがってペプチドまたはタンパク質を発現するように操作することができる。ペプチドまたはタンパク質を発現する細胞を、その後患者に導入することができる。
特に好ましい実施形態では、本発明で使用されるRNAは、免疫原、抗原または抗原ペプチドを含むペプチドまたはタンパク質をコードする。1つの実施形態では、前記ペプチドまたはタンパク質は、発現後に前記免疫原、抗原または抗原ペプチドを提供するようにプロセシングされる。別の実施形態では、ペプチドまたはタンパク質自体が免疫原、抗原または抗原ペプチドである。免疫原、抗原または抗原ペプチドを含むそのようなペプチドまたはタンパク質を発現する細胞は、例えば患者において免疫原、抗原または抗原ペプチドに対する免疫応答を惹起するために免疫療法において使用することができる。
本発明による「抗原」は、免疫応答を惹起する任意の物質を含む。特に、「抗原」は、抗体またはTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によれば、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を包含する。好ましくは、本発明に関連して抗原は、場合によりプロセシング後に、好ましくは抗原に特異的な免疫反応を誘導する分子である。本発明によれば、免疫反応の候補物である任意の適切な抗原を使用してよく、ここで免疫反応は、体液性ならびに細胞性免疫反応の両方であり得る。本発明の実施形態に関連して、抗原は、好ましくはMHC分子に関連して細胞によって、好ましくは抗原提示細胞によって提示され、これは抗原に対する免疫反応をもたらす。抗原は、好ましくは天然に存在する抗原に対応するまたはそれに由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物および他の感染因子ならびに病原体を含み得るかもしくはこれらに由来してよく、または抗原は腫瘍抗原であってもよい。本発明によれば、抗原は天然に存在する生成物、例えばウイルスタンパク質またはその一部に対応し得る。
好ましい実施形態では、抗原は、腫瘍抗原、すなわち細胞質、細胞表面または細胞核に由来し得る腫瘍細胞の一部、特に主として腫瘍細胞の細胞内にまたは表面抗原として存在するものである。例えば、腫瘍抗原には、癌胎児性抗原、α1−フェトプロテイン、イソフェリチンおよび胎児性スルホグリコプロテイン、α2−H−鉄タンパク質およびγ−フェトプロテイン、ならびに様々なウイルス腫瘍抗原が含まれる。本発明によれば、腫瘍抗原は、好ましくは型および/または発現レベルに関して腫瘍または癌に特有のならびに腫瘍細胞または癌細胞に特有の任意の抗原を含む。別の実施形態では、抗原は、ウイルスリボヌクレオタンパク質またはコートタンパク質などのウイルス抗原である。特に、抗原は、特にT細胞受容体の活性の調節によって、免疫系の細胞、好ましくはCD4+およびCD8+リンパ球の調節、特に活性化をもたらすMHC分子によって提示されるべきである。
好ましい実施形態では、抗原は腫瘍抗原であり、本発明は、そのような腫瘍抗原を発現する、好ましくはMHCクラスIと共にそのような腫瘍抗原を提示する腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を含む。
「免疫原性」という用語は、免疫反応を誘導する抗原の相対的有効性に関する。
「病原体」という用語は病原微生物に関し、ウイルス、細菌、真菌、単細胞生物および寄生生物を含む。病原性ウイルスの例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス(HSV)、A型肝炎ウイルス(HAV)、HBV、HCV、パピローマウイルスおよびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)である。単細胞生物は、プラスモディウム、トリパノソーマ、アメーバ等を含む。
本発明で使用し得る抗原の例は、p53、ART−4、BAGE、ss−カテニン/m、Bcr−abL CAMEL、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン−12、c−MYC、CT、Cyp−B、DAM、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE、GnT−V、Gap100、HAGE、HER−2/neu、HPV−E7、HPV−E6、HAST−2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE−A、好ましくはMAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11またはMAGE−A12、MAGE−B、MAGE−C、MART−1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM−1、MUM−2、MUM−3、NA88−A、NF1、NY−ESO−1、NY−BR−1、p190マイナーBCR−abL、Plac−1、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART−1またはSART−3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP−1、TRP−2、TRP−2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT−1である。
本発明による「抗原の一部もしくはフラグメント」または「抗原ペプチド」は、好ましくは不完全な形態の抗原であり、抗原に対する免疫応答を惹起する能力を有する。
これに関連して、本発明はまた、本明細書では「抗原ペプチド」とも称される、抗原に由来するアミノ酸配列を含むペプチドを使用する。「抗原ペプチド」または「抗原に由来する抗原ペプチド」とは、抗原のフラグメントまたはペプチドのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含むオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。抗原ペプチドは任意の長さであってよい。
好ましくは、抗原ペプチドは、抗原または抗原の発現、好ましくは抗原の提示を特徴とする細胞に対する免疫応答、好ましくは細胞性応答を刺激する能力を有する。好ましくは、抗原ペプチドは、MHCクラスIと共に抗原を提示することを特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激する能力を有し、好ましくは抗原応答性CTLを刺激する能力を有する。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、MHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドであるか、またはMHCクラスIおよび/もしくはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされ得る。好ましくは、抗原ペプチドは、抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗原の前記フラグメントは、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドである。好ましくは、本発明による抗原ペプチドは、そのようなフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含み、そのようなフラグメント、すなわち抗原由来のMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成するようにプロセシングされる。
抗原ペプチドが直接、すなわちプロセシングされずに、特に切断されずに提示される場合、その抗原ペプチドは、MHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示される抗原ペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来し、すなわちその配列は抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。
抗原ペプチドがプロセシング後に、特に切断後に提示される場合、プロセシングによって生成されるペプチドは、MHC分子、特にMHCクラスI分子に結合するのに適した長さを有し、好ましくは7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示されるペプチドの配列は抗原のアミノ酸配列に由来し、すなわちその配列は抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。したがって、本発明による抗原ペプチドは、1つの実施形態では、抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である、7〜20アミノ酸長、より好ましくは7〜12アミノ酸長、より好ましくは8〜11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長の配列を含み、抗原ペプチドのプロセシング後に、提示されるペプチドを形成する。しかし、抗原ペプチドはまた、上記で述べた配列よりもさらに一層長い抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である配列も含み得る。1つの実施形態では、抗原ペプチドは抗原の配列全体を含み得る。
MHCクラスIによって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、MHCクラスIによって提示されるペプチドのTCR認識のためまたはMHCへのペプチド結合のために必須ではない1つ以上の残基において異なっていてもよい。そのような実質的に対応するペプチドはまた、抗原応答性CTLを刺激する能力を有する。TCR認識には影響を及ぼさないが、MHCへの結合の安定性を改善する残基において提示ペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善することができ、本明細書では「最適化ペプチド」と称され得る。これらの残基のいずれが、MHCまたはTCRのどちらかへの結合に影響を及ぼす可能性がより高いと考えられるかについての既存の知識を利用して、実質的に対応するペプチドの設計への合理的なアプローチを使用し得る。生じる機能性のペプチドは抗原ペプチドとして企図される。
「抗原プロセシング」は、抗原のフラグメントへの分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)および「抗原提示細胞」による特異的T細胞への提示のためのこれらのフラグメントの1つ以上とMHC分子との会合(例えば結合による)を指す。
「抗原提示細胞」(APC)は、その細胞表面にMHC分子と共同してタンパク質抗原のペプチドフラグメントを提示する細胞である。一部のAPCは抗原特異的T細胞を活性化し得る。
「免疫療法」という用語は、特異的免疫反応の活性化を含む治療に関する。
「インビボ」という用語は、被験体における状況に関する。
「被験体」および「個体」という用語は互換的に使用され、哺乳動物に関する。例えば、本発明に関連して哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、家畜、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ等、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット等、ならびに動物園の動物などの捕えられている動物である。本明細書で使用される「動物」は、ヒトも包含する。「被験体」という用語は、患者、すなわち動物、好ましくは疾患を有するヒトも包含し得る。
本発明によれば、被験体への投与を所望する場合、投与のための組成物は、一般に医薬的に適合性の量および医薬的に適合性の調製物中で投与される。「医薬的に適合性」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない非毒性の物質を指す。この種の調製物は、通常、塩、緩衝物質、防腐剤、賦形剤および担体を含んでよく、当業者に公知の方法で投与される。
本発明を以下の図面および実施例によって詳細に説明するが、これらは説明のためにのみ使用され、限定を意図されない。説明および実施例により、同様に本発明に包含されるさらなる実施形態が当業者にアクセス可能である。
(実施例1)IVT−RNAの反復導入(再プログラム化TF)
誘導性多能性幹細胞(iPS)への体細胞の再プログラム化は、再プログラム化転写因子(rTF)の持続的な発現を必要とする。rTFをウイルスによって細胞に送達する場合に生じるゲノム組込みの危険性を回避するため、rTFをmRNAとして、宿主ゲノムの付随する改変を伴わずに、エレクトロポレーションまたはリポフェクションによって効率的に送達することができる。但し、この送達は、rTFの一定の発現を確保するために、繰り返し実行しなければならない。
CCD1079Sk線維芽細胞を、図2Aの横のパネルに示されているように転写因子OCT4(O)、SOX2(S)、KLF4(K)およびcMYC(M)をコードする各々のインビトロ転写(IVT)−RNA 15μgまたは5μgのいずれかでエレクトロポレートし、ヒト胚性幹(ES)細胞培地中で培養した。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて4mmギャップのキュベット中で実施した。指示されている時点で、細胞の10%をその後のエレクトロポレーションの前に培養物から取り出し、全RNAを単離して、ヒトESマーカー遺伝子OCT4(内因性)、TERT、GDF3およびDPPA4のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。4つのrTF(OCT4、SOX2、KLF4およびcMYC)をコードするIVT−RNAの反復エレクトロポレーションは、GFD3、DPPA4およびTERTなどの一部の多能性マーカーの速やかな誘導をもたらす。内因性OCT4などの他のマーカーは、全くまたはわずかしか誘導されなかった。
CCD1079Sk線維芽細胞を、図2Bの横のパネルに示されているように転写因子OSKMをコードする各々のIVT−RNA 15μgでエレクトロポレートし、ヒトES細胞培地中で培養した。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて4mmギャップのキュベット中で実施した。指示されている時点で、残存する細胞を計数し、出発細胞に対する生存率を算定した。反復IVT−RNA導入は大量の細胞死を伴い、それゆえ再プログラム化の成功は達成不可能である。
CCD1079Sk線維芽細胞を、ホタルルシフェラーゼ(Luc)をコードするIVT RNA 1μgおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするIVT RNA 5μgでエレクトロポレートした。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて2mmギャップのキュベット中で実施した。エレクトロポレーションの24時間後、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、インターフェロン(IFN)αおよびβのmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。IVT−RNAのエレクトロポレーションは、その24時間後にIFNαおよびβの誘導を伴うことが観察された:図2C参照。
CCD1079Sk線維芽細胞を、再プログラム化混合物をコードするIVT RNA 33,4μg(rTF(OSKM NANOG(N) LIN28(L)(1:1:1:1:1:1))29,5μg、SV40ラージT抗原(lgT)1,3μg、HTLV E6 1,3μgおよびGFP 1.25μg)でエレクトロポレートした。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて4mmギャップのキュベット中で実施した。エレクトロポレーションの48時間後、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、IFN応答遺伝子OAS1、OAS2、MX1、IFITM1およびIRF9のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。検討した5つのIFN応答遺伝子すべてがIVT−RNAのエレクトロポレーションの48時間後に誘導される;図2D参照。IFN応答は、もともとウイルス感染に対する宿主の先天性免疫応答の一部として進化してきた。ウイルス核酸はセンサー分子によって効率的に認識され、これが、アポトーシス、細胞骨格リモデリング、RNA分解およびタンパク質翻訳の停止を含む抗ウイルス活性をもたらす。これらの機構は、RNAに基づく遺伝子導入を明らかに妨げる。
CCD1079Sk線維芽細胞を、図2Eに示されているレポーター遺伝子Luc、GFPまたはプロテインキナーゼR(PKR)野生型をコードするIVT−RNAの量で1回エレクトロポレーションした。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて4mmギャップのキュベット中で実施した。細胞をエレクトロポレーションの24時間後に溶解し、PKR標的真核生物開始因子2α(eIF2α)の発現およびリン酸化状態を、特異抗体を用いてウェスタンブロット法によって観測した。IFN応答において主要な役割を果たす因子の1つはPKRであり、これは、活性化後にその標的であるeIF2αをリン酸化し、翻訳の阻害をもたらす。本発明者らは、IVT−RNAのエレクトロポレーションの24時間後にeIF2αがリン酸化されることを示すことができ、PKRの活性化をRNAに基づく再プログラム化の顕著な障害の1つとして同定した。
RNAに基づく反復遺伝子導入はIFN応答の誘導を伴い、これはrTFの持続的な発現を妨げ、それゆえRNAに基づく再プログラム化の成功を妨げる。
(実施例2)
RNAに基づく遺伝子導入におけるE3、K3およびB18Rの使用
概念実証として、ウイルスエスケープタンパク質E3、K3およびB18R(ワクシニアウイルス)をコードする非修飾IVT−RNAを非修飾IVT−RNAの混合物(ルシフェラーゼ/GFP)に添加し、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)にリポフェクトして、レポーター遺伝子GFPの翻訳およびRNAに対するIFN応答を分析した。さらに、反復リポフェクション後の細胞の生存をCell Proliferation Kit II(Roche)によって評価した。
CCD1079Sk線維芽細胞を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、その翌日RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT 1.4μgを用いてリポフェクトした。IVT−RNA混合物は、それによりGFP 0.8μgとそれぞれB18R、E3またはK3 0.2μg(図3A、Bに示されているように)から成った。LucをコードするIVT−RNAを使用して、混合物を合計1.4μgにした。リポフェクションを製造者の指示に従って実施し、細胞をトランスフェクションの48時間後に採取した。細胞の20%をFACSによるGFP発現の分析のために使用し(図3B)、残りの細胞をペレット化して、全RNAを単離し、IFNβおよびOAS1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した(図3A)。図3Aに示すように、IFNβおよびIFN応答遺伝子OAS1は、明らかにIVT−RNA(Luc/GFP)のリポフェクションによって誘導される。この誘導は、IFNβの場合はE3/K3単独によって低減され得るが、3つのウイルスエスケープタンパク質すべての組合せだけが、リポフェクションの48時間後にIVT−RNAによるIFNβおよびOAS1誘導の両方を有意に低減することができる。図3Bに示すように、レポーター遺伝子GFPの発現はE3およびK3の添加によって増強される。B18RはGFPの翻訳に影響を及ぼさない。
CCD1079Sk線維芽細胞を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、次の連続4日間、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT 1.4μgを用いてリポフェクトした。IVT−RNA混合物は、それによりGFP 0.8μgとそれぞれB18R、E3またはK3 0.2μg(指示されているように)から成った。LucをコードするIVT−RNAを使用して、混合物を合計で全IVT−RNA 1.4μgになるようにした。対照として、Luc(0.6μg)およびGFP(0.8μg)をコードする修飾(mod.)IVT−RNA 1.4μgを使用した。これらのRNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%プソイドウリジン(psi)および100%5−メチルシチジン(5mC)から成った。リポフェクションを製造者の指示に従って実施した。最後のリポフェクションの24時間後、Cell Proliferation Kit II(Roche)を用いて細胞生存能を検定し、モックトランスフェクト細胞に標準化した。図3Cに示すように、非修飾IVT−RNAの連日リポフェクション(Luc/GFP、4回)は細胞生存能の大きな喪失を伴う。3つのウイルスエスケープタンパク質すべての組合せはこの障害を克服することができ、修飾IVT−RNA(100%psiおよび5mC)の使用よりもさらに一層細胞の生存を増強する。
IVT−RNAによってコードされるE3、K3およびB18Rの組合せを添加した場合、RNAに基づく反復遺伝子導入が可能であると結論される。概念実証が達成された。
(実施例3)
再プログラム化のためのRNAに基づく遺伝子導入におけるE3、K3およびB18Rの使用
E3、K3およびB18RをコードするIVT−RNAの添加がRNAに基づく反復遺伝子導入を可能にするという概念の実証に至った後、本発明者らは、これが再プログラム化混合物の導入についてもあてはまるかどうかを検討した。この目的のために、6つのrTF(OCT4、SOX2、KLF4、cMYC、NANOG、LIN28;略記:OSKMNL)を1:1:1:1:1:1のモル比で混合し、リポフェクションによってHFFに導入した。再び、4回の連日反復リポフェクション後に細胞の生存およびIFN応答の誘導を分析した。
CCD1079Sk線維芽細胞を6ウェルに塗布し(80,000細胞/ウェル)、次の連続4日間、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT 1.4μgを用いてリポフェクトした。IVT−RNA混合物は、それにより非修飾GFP 0.8μgまたは非修飾もしくは修飾OSKMNL(1:1:1:1:1:1)0.8μgと、それぞれ非修飾または修飾B18R、E3およびK3 0.2μgから成った。必要に応じて、LucをコードするIVT−RNAを使用して、混合物を合計で全IVT−RNA 1.4μgになるようにした。修飾RNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%psiおよび100%5mCから成った。リポフェクションを製造者の指示に従って実施した。最後のリポフェクションの24時間後、Cell Proliferation Kit II(Roche)とモックトランスフェクト細胞への標準化を用いて(図4A)、および顕微鏡によって(図4B)、細胞生存能を検定した。その後、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、IFNβおよびOAS1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した(図4C)。予想されたように、E3/K3/B18R(EKB)が存在しない場合、非修飾IVT−RNA(Luc/GFPまたはOSKMNL)でトランスフェクトした細胞の生存能は失われる。このセットの実験において、EKBが存在する場合、生存能はモックトランスフェクト細胞と同等である。レポーター遺伝子IVT−RNAで見られるように(図3参照)、生存率は修飾IVT−RNA単独よりもEKBの存在下ではさらに高い。図4Aで認められた作用を、顕微鏡で撮影した代表的写真によって図4Bで視覚化する。非修飾IVT−RNAでトランスフェクトした細胞は、このセットの実験において4回の連日反復リポフェクション後に生き残れなかったので、IFN応答は、残存する試料においてしかqRT−PCRによって分析することができなかった。図4Cに見られるように、IFNβおよびOAS1の誘導によって測定したIFN応答は、EKBが存在する試料ではほとんど減少する。IFN応答の低減は、修飾IVT−RNAを使用した場合よりもさらに一層少ない。
IVT−RNAによってコードされるE3、K3およびB18Rの組合せを添加した場合、再プログラム化rTFを用いたRNAに基づく反復遺伝子導入が可能であると結論される。細胞の生存およびIFN応答の低減は、修飾IVT−RNAの場合よりもさらに一層顕著である。
(実施例4)
E3、K3およびB18Rの存在下での反復リポフェクション後のrTFの翻訳
細胞の生存およびIFN応答の低減に加えて、E3、K3およびB18Rの存在下での3回の連日リポフェクション後にrTFがどのように翻訳されるかも検討した。導入したrTF、OCT4、SOX2およびNANOGの発現レベルを細胞内FACS染色によって分析した。
CCD1079Sk線維芽細胞を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、次の連続3日間、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT 1.4μgを用いてリポフェクトした。IVT−RNA混合物は、それによりGFP 0.2μgと、非修飾または修飾OCT4またはSOX2またはNANOG 0.6μgならびにそれぞれ非修飾または修飾B18R、E3およびK3(EKB)0.2μgから成った。修飾RNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%psiおよび100%5mCから成った。リポフェクションを製造者の指示に従って実施した。最後のリポフェクションの24時間後、OSNの細胞内発現を、ヒト多能性幹細胞転写因子分析キット(BD 560589)を用いてFACS分析によって観測した。NANOG、OCT4およびSOX2の発現レベルは、非修飾で適用した場合EKBの存在下でより高かった;図5参照
EKBの存在下で、非修飾IVT−RNAは、より効率的な再プログラム化をもたらし得るrTFのより高い発現を導くと結論される。
(実施例5)
EKBの存在下でのrTFおよびマイクロRNAを用いたHFFの再プログラム化
rTF混合物の反復リポフェクションは、再プログラム化混合物へのEKBの添加によって達成され、連日リポフェクション後により良好な生存率およびIFN応答のより大きな低減をもたらした。さらに、EKBの存在下でrTFのより高い発現レベルが達成された。その次の実験では、これらの混合物を、HFFの再プログラム化を達成するための長期リポフェクションに使用した。再プログラム化をさらに増強するため、クラスター302/367のマイクロRNAも再プログラム化混合物に添加した。これらのmiRNAは、主として細胞の自己複製および多能性の維持に関与すると考えられ、レンチウイルスベクターによって発現された場合再プログラム化を導くことができた(Anokye−Danso et al.,2011)。
HFF線維芽細胞(System Bioscience)を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、週に5回(月曜日から金曜日まで)2週間にわたって、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT−RNA 1.4μgを用いてリポフェクトした(図6A)。IVT−RNA混合物は、それにより非修飾GFP 0.8μgまたは非修飾もしくは修飾OSKMNL(1:1:1:1:1:1)0.8μgと、それぞれ非修飾または修飾B18R、E3およびK3(EKB)0.2μgならびにmiRNA 302a−dおよび367[各々0.4μM]から成るmiRNA混合物0.4μgで構成された。修飾RNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%psiおよび100%5mCから成った。幹細胞培地(Nutristem media,Stemgent)中でのリポフェクションを製造者の指示に従って実施した。6日目および13日目に、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、ヒトESマーカーTERT、DPPA4、GDF3、LIN28(内因性)およびREX1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。コロニー増殖を顕微鏡によって観察し、さらなる分析のために、StainAlive TRA−1−60抗体(Stemgent)を製造者の指示に従って使用してコロニーをES表面マーカーTRA−1−60について染色した。
図6Bに示すように、いくつかの多能性マーカーの発現レベルの分析は、非修飾OSMNL、非修飾EKBおよびmiRNA混合物を含む試料において、分析したすべての多能性マーカーが、修飾OSKMNL、修飾EKBおよびmiRNA混合物または非修飾EKB単独とmiRNA混合物の場合に比べて高発現されることを明らかにした。非修飾IVT−RNAは、それにより5mCおよびPsiでの修飾を凌駕する。10日目から、非修飾OSKMNL、非修飾EKBおよびmiRNA混合物を含む試料でコロニー形成が観察された;図6C参照。miRNA単独などの他の試料では、コロニー形成は観察されなかった。修飾OSKMNLと修飾EKBおよびmiRNA混合物の組合せでは、1〜3個のコロニーが出現したが、EKBの存在下での非修飾OSMNLとmiRNA混合物の組合せをかなり下回った。図6Dに示すように、非修飾OSKMNL、非修飾EKBおよびmiRNA混合物での反復トランスフェクションによって達成されたRibo−iPSは、ヒト胚性幹細胞の表面マーカーであるTRA−1−60について陽性に染色することができた。
非修飾EKBおよびクラスター302/367からの成熟miRNAのmiRNA混合物と組み合わせた非修飾IVT−RNAによってコードされるrTFでのRNAに基づく反復遺伝子導入は、多能性マーカーおよび幹細胞表面マーカーの高発現を特徴とするRibo−iPS細胞の極めて効率的で堅固な作製をもたらすと結論される。非修飾IVT−RNAの使用は、それにより修飾IVT−RNAの使用を凌駕する。
(実施例6)
EKBの存在下でのrTFおよびマイクロRNAを用いたHFFの再プログラム化(分割1:8)
非修飾IVT−RNAによってコードされるrTF、EKBおよびmiRNA混合物302/367を用いた再プログラム化のための最初のセットの実験では、細胞を1:4に分割した。その次の実験では、細胞の高密度な増殖を避けるため細胞を1:8に分割した。
HFF線維芽細胞(System Bioscience)を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、週に5回(月曜日から金曜日まで)2週間にわたって、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT−RNA 1.4μgを用いてリポフェクトした(図7A)。IVT−RNA混合物は、それにより非修飾または修飾OSKMNL(1:1:1:1:1:1)0.8μgと、それぞれ非修飾または修飾B18R、E3およびK3(EKB)0.2μgならびにmiRNA 302a−dおよび367[各々0.4μM]から成るmiRNA混合物0.4μgで構成された。修飾RNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%psiおよび100%5mCから成った。幹細胞培地(Nutristem media,Stemgent)中でのリポフェクションを製造者の指示に従って実施した。5日目および12日目に、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、ヒトESマーカーTERT、DPPA4、GDF3、LIN28(内因性)およびREX1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。コロニー増殖を顕微鏡によって観察し、さらなる分析のために、コロニーを、製造者の指示に従ってStainAlive TRA−1−60抗体(Stemgent)を使用してES表面マーカーTRA−1−60について、またはアルカリホスファターゼの活性(Vector Red染色キット)について染色した。
図7Bに示すように、いくつかの多能性マーカーの発現レベルの分析は、非修飾OSKMNL、非修飾EKBおよびmiRNA混合物を含む試料では、分析したすべての多能性マーカーが、修飾OSKNL、修飾EKBおよびmiRNA混合物の場合に比べて高発現されることを明らかにした。やはり、非修飾IVT−RNAは5mCおよびPsiでの修飾を凌駕する。また、10日目から両方の試料(非修飾または修飾OSKMNL)でコロニー形成が観察された。これらのコロニーは、ヒト胚性幹細胞の表面マーカーであるTRA−1−60について陽性に染色することができた;図7C参照。図7Dに示すように、コロニーはまた、もう1つの幹細胞マーカーであるアルカリホスファターゼの高活性も示した。修飾OSKMNLに比べて非修飾OSKMNLの明らかに高い効率は、図7Dの上のパネルにおいて明瞭に認めることができる。
非修飾EKBおよびクラスター302/367からの成熟miRNAのmiRNA混合物と組み合わせた非修飾IVT−RNAによってコードされる再プログラム化rTFでのRNAに基づく反復遺伝子導入は、多能性マーカーおよび幹細胞表面マーカーの高発現を特徴とするRibo−iPS細胞の極めて効率的で堅固な作製をもたらすと結論される。非修飾IVT−RNAの使用は、それにより修飾IVT−RNAの使用を凌駕する。
(実施例7)
EKBの力価測定
再プログラム化の効率をさらに高める1つの可能性は、より多くのrTF−IVT−RNAまたはIVT−RNAによってコードされる他の増強因子の添加である。リポフェクションプロトコルは一定量のIVT−RNAに限定されるので、本発明者らは、再プログラム化カクテルに添加した場合にEKBの量を低減することができるかどうかを検討した。そのためHFFを、それぞれ0.0001μg〜0.2μg(再プログラム化実験で使用される量)にわたる種々の量のEKBと組み合わせた6つのrTFおよびmiRNAでリポフェクトした。4回の連日反復リポフェクション後に細胞の生存およびIFN応答の誘導を分析した。
HFF線維芽細胞(System Bioscience)を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、次の連続4日間、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT 1.4μgを用いてリポフェクトした。IVT−RNA混合物は、それにより非修飾OSKMNL(1:1:1:1:1:1)0.8μgと、指示されているように可変量の非修飾B18R、E3およびK3から成った。LucをコードするIVT−RNAを使用して、混合物を合計で全IVT−RNA 1.4μgになるようにした。再プログラム化実験に従って、miRNA 302a−dおよび367[各々0.4μM]から成るmiRNA混合物0.4μgを試料に添加した。対照として、Luc(0.6μg)およびOSKMNL(0.8μg、1:1:1:1:1:1)をコードする修飾(mod.)IVT−RNA 1.4μgを使用した。これらのRNAは、より低い免疫刺激特性を示すウリジンおよびシチジンの代わりに100%psiおよび100%5mCから成った。リポフェクションを製造者の指示に従って実施した。最後のリポフェクションの24時間後、Cell Proliferation Kit II(Roche)を用いて細胞生存能を検定した。その後、細胞をペレット化し、全RNAを単離して、IFNβおよびOAS1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した。
図8Aに示すように、反復リポフェクション後のHFFの生存能は、EKBを各因子のIVT−RNA 0.025μgに低減するまで維持された。IFNβおよびOAS1の発現レベルを測定することによるIFN応答の分析は、やはりIVT−RNAに対するIFN応答がEKBの0.025μgの量まで明白に低減されることを明らかにした;図8B参照。それにもかかわらず、残存するIFN応答の誘導により、本発明者らは0.05μgのEKBの使用を推奨する。
EKBの量は、各々のIVT−RNAの0.025〜0.05μgまで低減することができると結論される。
(実施例8)
E3およびK3単独の作用
これまでは、E3とK3の組合せだけを使用した。このセットの実験では、レポーター遺伝子Lucの翻訳およびIFN応答へのE3およびK3単独の作用を分析した。
CCD1079Sk線維芽細胞を、指示されているようにLucをコードするIVT RNA(1μg)、GFPをコードするIVT RNA(5μg)およびE3またはK3またはその両方をコードするIVT RNA 3μgでエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションは、CCD1079Sk線維芽細胞に関する最適化パラメータを用いて2mmギャップのキュベット中で実施した。10000細胞/ウェルを96ウェルプレートに2組塗布した。Bright Glo Luciferase Assay System(Promega)を用いてエレクトロポレーション後の図9Aに示されている時点でルシフェラーゼ活性を測定した。2組の平均値を示す。さらに、300000細胞/ウェルを6ウェルプレートに塗布し、エレクトロポレーションの24時間後、細胞をペレット化して、全RNAを単離し、OAS1およびIFN−βのmRNA発現をRT−PCRによって分析して、IFN−βの場合はQuanti Tect SYBR Green PCR Kitを用いて定量した。
図9Aに示すように、Lucの翻訳は、E3またはK3単独により、これらの両方を一緒に用いた場合と同程度に増強された。IVT−RNAのリポフェクションに関して見られるように、IFNβおよびIFN応答遺伝子OAS1は、IVT−RNA(Luc/GFP)のエレクトロポレーションによって明らかに誘導される。これらの誘導は、エレクトロポレーションの24時間後にE3またはK3によってまたは両方の組合せのいずれによっても低減することができない;図9B参照。
これらの実験は、IVT−RNAによってコードされる1つの細胞内ウイルスエスケープタンパク質(E3またはK3)が、EKBの組合せで認められるようにRNAに基づく反復遺伝子導入を可能にするのに十分であり得ることを指示する。
(実施例9)
自己複製するRNAの発現を増強するためのウイルスインターフェロン阻害剤の使用
アルファウイルスのゲノムは、大きなポリタンパク質についての2つのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードするプラスセンスの一本鎖RNA(ssRNA(+))である。ゲノムの5'末端のORFは非構造タンパク質nsP1〜nsP4(nsP1〜4)をコードし、これらは翻訳され、RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)へとプロセシングされる;3'末端のORFは、構造タンパク質−キャプシドおよび糖タンパク質をコードする。どちらのORFも、構造ORFの転写を支配する、いわゆるサブゲノムプロモーター(SGP)によって分離されている(Strauss and Strauss,1994,Microbiol.Rev.58,491−562)。遺伝子ベクターとして利用される場合は、SGPの後の構造タンパク質が導入遺伝子に置き換えられる。そのようなベクターをウイルス粒子にパッケージングするために、構造タンパク質がヘルパー構築物からトランスで発現されなければならない(Smerdou and Liljestrom,1999,J.Virol.73,1092−1098;Ehrengruber and Lundstrom,2007,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 96,7041−7046)。
アルファウイルスは、もっぱらRNAレベルで感染細胞の細胞質中で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,2009,Future.Microbiol.4,837−856)。感染後、ssRNA(+)ゲノムはnsP1234ポリタンパク質前駆体の翻訳のためのmRNAとして働き、前記前駆体は、自己タンパク質分解によってフラグメントnsP123およびnsP4へとプロセシングされるウイルス生活環の初期段階にある。フラグメントnsP123およびnsP4は、ゲノムRNA鋳型から(−)鎖RNAを転写する(−)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。後期段階で、nsP1234ポリタンパク質は完全に単一タンパク質へと切断され(Shirako and Strauss,1994,J.Virol.68,1874−1885)、これらが、新たな(+)鎖ゲノムを合成する(+)鎖レプリカーゼ複合体、ならびに構造タンパク質または導入遺伝子をコードするサブゲノム転写産物へと集合する(Kim et al.,2004,Virology 323,153−163;Vasiljeva et al.,2003,J.Biol.Chem.278,41636−41645)。サブゲノムRNAならびに新たなゲノムRNAは、キャップされ(Cross and Gomatos,1981,Virology 114,542−554;Pettersson et al.,1980,Eur.J.Biochem.105,435−443)、ポリアデニル化されており(Sawicki and Gomatos,1976,J.Virol.20,446−464)、したがって標的細胞の感染後にmRNAとして認識される。新しいゲノムRNAだけが、出芽ビリオンへのゲノムRNAの独占的なパッケージングを確実にするパッケージングシグナルを含む。
ベクター学のためのアルファウイルスレプリコンの利点は、キャップされ、ポリアデニル化されたRNAゲノムの正方向に基づく。翻訳可能なレプリコンRNAはインビトロで容易に合成することができ、キャップ類似体をインビトロ転写反応に加えることによってキャッピングが達成され、ポリA尾部はプラスミド鋳型上にポリTトラックとしてコードされる(Ehrengruber and Lundstrom,2007,Curr.Protoc.Neurosci.Chapter 4,Unit)。インビトロ転写された(IVT)レプリコンを従来のトランスフェクション技術によってトランスフェクトし、低い量の出発IVTレプリコンでも速やかに増殖する。導入後数時間以内に(Bruton and Kennedy,1975,J.Gen.Virol.28,111−127)、SGPの下流に位置づけられた導入遺伝子が、細胞当たり約40.000〜200.000コピーという非常に高いコピー数のサブゲノムRNAに転写され(Tuomi et al.,1975,Nucleic Acids Res.2,555−565)、したがって組換えタンパク質が強く発現されることは驚くには当たらない。
特定の目的に応じて、IVTレプリコンを標的細胞に直接トランスフェクトし得るか、または構造遺伝子をトランスで提供するヘルパーベクターを用いてアルファウイルス粒子にパッケージングし得る(Smerdou and Liljestrom,1999,J.Virol.73,1092−1098;Berglund et al.,1993,Biotechnology(N.Y.)11,916−920)。皮膚または筋への導入は、体液性および細胞性免疫応答の強力な誘導と並行して、高く持続的な局所発現をもたらす(Johansson et al.,2012,PLoS.One.7,e29732;Geall et al.,2012,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 109,14604−14609)。合わせて考慮すると、インビトロでのレプリコンの作製および導入の容易さ、レプリコンによる高い発現レベルと免疫応答は、感染症または癌に対するワクチン接種のために理想的である(最近、Ulmer et al.,2012,Vaccine 30,4414−4418によって論じられた)。
これらの全体的な肯定的態様にもかかわらず、レプリコンに基づく遺伝子導入は、細胞死を生じさせる、宿主細胞における翻訳の有効なブロックによって課せられる制限に直面する。翻訳のブロックは2つの機構によって引き起こされる:第一に、レプリカーゼタンパク質nsP2が、RNAポリメラーゼIIを分解することによって宿主の翻訳を積極的に停止させ(Akhrymuk et al.,2012,J.Virol.86,7180−7191)、第二に、インターフェロン(IFN)応答がプロテインキナーゼR(PKR)の活性化による翻訳の停止を媒介する(Gorchakov et al.,2004,J.Virol.78,8455−8467)。nsP2に関連する細胞傷害性は、細胞における持続的な複製および遺伝子発現の能力を有する非細胞傷害性突然変異体を選択することによって克服された(Casales et al.,2008,Virology 376,242−251;Lundstrom et al.,2003,Mol.Ther.7,202−209)。しかし、これらの研究の大部分は、おそらくIFN応答の欠損に関連する可能性が高い、レプリコン発現に対して高度に許容性であるBHK21細胞において実施された(Chinsangaram et al.,1999,J.Virol.73,9891−9898)。IFNコンピテント細胞では、PKR活性化およびIFN応答がまだ予想でき、これが非細胞傷害性ベクターの安定な発現を制限する。
翻訳を阻害することに加えて、IFN応答はアルファウイルス複製にとっても障害である(Deuber and Pavlovic,2007,J.Gen.Virol.88,1952−1959)。特に、dsRNAによって活性化されるPKRは複製をブロックする(Barry et al.,2009,J.Gen.Virol.90,1382−1391)。活性化PKRは真核生物開始因子2α(eIF2α)をリン酸化し、この因子はその後、もはやキャップされたmRNAの翻訳を開始させることができない(Pindel and Sadler,2011,J.Interferon Cytokine Res.31,59−70)。それにより、細胞は多くのウイルスのタンパク質発現を阻害し、ウイルス−宿主共進化の結果として、多くのウイルスが引き換えにPKR阻害性タンパク質を発現する(Garcia et al.,2006,Microbiol.Mol.Biol.Rev.70,1032−1060)。アルファウイルスはPKRを強力に活性化するが、しかし、PKRを阻害することなくその生活環を達成する。そのサブゲノム転写産物は、活性化PKRの存在下で構造タンパク質へと効率よく翻訳され、これは翻訳エンハンサー(TE)と呼ばれる5'末端のサブゲノムRNAモチーフに依存する(Gorchakov et al.,2004,J.Virol.78,8455−8467)。TEを欠く突然変異ウイルスの複製は大きく損なわれるが、ワクシニアウイルス(VacV)由来のPKR阻害剤、E3Lの発現によってトランスで救済され得る(Domingo−Gil et al.,2011,PLoS.One.6,e16711)。
TEはキャプシドのコード領域へと伸びており、そのため構造タンパク質が導入遺伝子で置き換えられた場合は除去されるので、レプリコンベクターは通常TEを有さない。したがって、導入遺伝子発現はPKR活性化によって抑制される。ドミナントネガティブPKRの共発現は、上述したE3LによるTE欠損ウイルス複製の救済と同様に、発現を抑制解除し得る(Gorchakov et al.,2004,J.Virol.78,8455−8467)。他方で、導入遺伝子ORFのN末端部分へのTE配列の融合は導入遺伝子の発現を可能にするが、機能的TEはサブゲノムUTRだけでなく、キャプシドタンパク質のN末端アミノ酸(SFV中の34アミノ酸)も含むという難点を伴う(Sjoberg et al.,1994,Biotechnology(N.Y.)12,1127−1131)。キャプシド−導入遺伝子融合が許容される限り、そのようなベクター設計が使用でき、さもなければTEが、例えば2ヘルパーRNA系のpSFV−ヘルパー−Sにおいて実現される、2A自己切断に先行すべきである(Smerdou and Liljestrom,1999,J.Virol.73,1092−1098)。
ここで本発明者らは、TEを欠く発現レプリコンが、トランスフェクト細胞のインターフェロン(IFN)応答を阻害することによって改善され得ることを実証する。本発明者らは、ワクシニアウイルス(VacV)由来のタンパク質、すなわちE3L、B18RおよびK3L(EKB)を共発現させることによってレプリコン発現を改善した。本発明者らは、EBKが合成mRNA上にコードされ得ることおよび簡単な同時トランスフェクションによってレプリコン発現をトランスで増強できることを初めて示す。本発明者らは、同時トランスフェクトしたVacVタンパク質がIFN応答を阻害し、PKR活性化を阻止して、それによりレプリコンがコードするタンパク質の翻訳を増大させることを認めた。発現は、ヒトおよびマウス由来の種々の細胞型において増大したが、全体として、増大はマウス細胞におけるよりもヒトにおいてより著明であった。本発明者らは、筋および脾臓への送達後にインビボでEBK RNAによる発現増大を確認した。種々の単一タンパク質の寄与を評価した場合、E3が発現の主たるエンハンサーとしての役割を果たし、B18RはIFN応答を完全にブロックするために不可欠であることを認めた。
本発明者らは、IFN阻害剤の同時導入が、治療的遺伝子送達またはワクチン接種のためのレプリコンに基づくベクターの効果を増強する有望なツールであると結論する。それにより、患者を治療するのに必要なRNAの全体的な量を低減することができ、これはRNAワクチンの有効性と利益性を増大させる。
9.1 実験材料および方法:
ベクターおよびRNAのインビトロ転写:セムリキ森林ウイルスレプリコンベクター(pSFV−gen−GFP)および非細胞傷害性突然変異ベクター(pSFV4(PD))は、K.Lundstrom(Lundstrom et al.,2001,Histochem.Cell Biol.115,83−91;Ehrengruber et al.,1999,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A 96,7041−7046)の好意により提供された。pSFVにコードされるポリA尾部を、もとのベクター中の62アデノシン残基から120アデノシン残基に伸長させ、SapI制限部位をポリAのすぐ下流に位置づけた。このポリA設計は最適化合成mRNAベクターからコピーされ、翻訳を増強すると記述されている(Holtkamp et al.,2006,Blood 108,4009−4017)。本発明者らは、レポーター遺伝子ルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)をサブゲノムプロモーターの3'側にクローニングした。赤外蛍光タンパク質(iRFP)、ルシフェラーゼ、E3L、B18RまたはK3L(EBK)をコードするpST1ベクターをクローニングした。pST1ベクターのインビトロ転写およびRNAの精製は以前に記述されている(Holtkamp et al.,2006,Blood 108,4009−4017;Kuhn et al.,2010,Gene Ther.17,961−971)。pSFVベクターを、SP6 RNAポリメラーゼ(Megascript Kit,Ambion)を使用してインビトロ転写した。精製RNAの品質を分光測光法および2100 BioAnalyzer(Agilent,Santa Clara,USA)での分析によって評価した。
RNA導入:RNAを、方形波エレクトロポレーション装置(BTX ECM 830,Harvard Apparatus,Holliston,MA,USA)により、以下の設定を用いて室温で種々の標的細胞にエレクトロポレートした:ヒト線維芽細胞CCD1079SK(550 V/cm;12ミリ秒の3パルス);ヒト包皮線維芽細胞(HFF;625V/cm、24ミリ秒の1パルス);BJ線維芽細胞(550V/cm、12ミリ秒の3パルス);RT101(750V/cm、12ミリ秒の1パルス);C2C12(600V/cm、5ミリ秒の5パルス);BHK21(750V/cm、16ミリ秒の1パルス);3T3−L1(625V/cm;5ミリ秒の5パルス);ヒト骨格筋細胞(hSKMC;700V/cm、10ミリ秒の1パルス)。エレクトロポレーションのために、RNAを62,5μl/mmキュベットギャップサイズの最終容量で再懸濁した。連続するパルスの間隔はすべての設定において400ミリ秒であった。Lipofectamine RNAiMAXを製造者の指示に従って使用して(Life Technologies,Darmstadt,Germany)RNAリポフェクションを実施した。細胞を約20000細胞/cm2の増殖面積で塗布し、総量260ng/cm2のRNAおよび1μl/cm2のRNAiMAXでトランスフェクトした。異なるRNA種の混合物をRNアーゼ不含エッペンドルフチューブ中で調製し(表2および表3に列挙する)、トランスフェクションまで氷上で保存した。3T3−L1細胞を除き、トランスフェクションの24時間後にトランスフェクト細胞を採取して、トランスフェクション効率(iRFP発現によって示す)およびレプリコンまたは合成mRNA発現(GFPによって示す)をFACSによって測定した。3T3−L1細胞は、エレクトロポレーション後レプリコン発現によって急速に死滅し、そのためリポフェクションの24時間後ではなく、エレクトロポレーションの8時間後に採取した。
インビボRNA導入:ルシフェラーゼをコードするレプリコンをPBSに再懸濁し、マウスの前脛骨筋に注入した。EBKをコードするIVT RNAを図の脚注に示すように同時導入した。インビボルシフェラーゼ発現を記述されているように(Kuhn et al., 2010,Gene Ther.17,961−971)測定した。
フローサイトメトリ:iRFPまたはGFPをコードするIVT RNAの発現を、FACS Canto IIフローサイトメータ(BD Bioscience,Heidelberg,Germany)を用いてフローサイトメトリによって測定し、取得したデータを対応するDivaソフトウェアまたはFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.,Ashland,OR,USA)によって解析した。
ルシフェラーゼアッセイ:ホタルルシフェラーゼの発現を評価するため、1E4エレクトロポレーション細胞を96ウェル白色マイクロプレート(Nunc,Langenselbold,Germany)に塗布した。細胞の直接溶解およびルシフェラーゼ検出を、Bright−Glo Luciferase Assay System(Promega,Madison,WI,USA)を用いて製造者の指示に従って実施した。マイクロプレート発光リーダーInfinite M200(Tecan Group,Mannedorf,Switzerland)を用いて生物発光を測定した。データは相対ルシフェラーゼ単位[RLU]で表し、ルシフェラーゼ陰性細胞を使用してバックグラウンドシグナルを差し引いた。
ウェスタンブロット法:PKR発現およびリン酸化を細胞溶解物のウェスタンブロットによって検出した。使用した抗体:ホスホPKR(ab32036;Abcam,Cambridge,UK)、PKR(ab45427;Abcam,Cambridge,UK)。ヤギ抗ウサギ二次抗体(sc−2004;Santa Cruz,Dallas,TX,USA)。
9.2 レプリコン発現の効率は細胞株依存性である
BHK21、RT101およびCCD1079Sk細胞を、GFPをコードするレプリコンRNAの段階希釈(図10に示すように2μg〜0,02μg)でリポフェクトした。リポフェクションの成功を観測するため、iRFPをコードする固定量のIVT RNA 0,5μgを同時トランスフェクトした。すべての試料中の総RNA量を2,5μgに調整するため、ルシフェラーゼをコードする可変量のRNAを同時トランスフェクトした。
BHK21細胞およびRT101細胞は高度に許容性であり、広範囲のトランスフェクトレプリコンRNA量にわたって高いレプリコン発現レベルを示すが、ヒト線維芽細胞(CCD1079SK)ではレプリコン発現が大きく低下する;図10参照。
9.3 同時トランスフェクトしたIVT−RNAの発現は非許容性細胞において低下する
図11に示されている、図10と同じ実験は、レプリコン段階希釈からの選択した試料におけるiRFP発現レベルである。
BHK21およびRT101細胞におけるiRFPの共発現は、レプリコンの量と逆相関で増大する。これに対し、CCD1079Sk細胞ではレプリコンの量と無関係にiRFP発現が低下し、非常に低い量のレプリコンでもPKRを強力に活性化することを示す。
9.4 分泌IFNはIVT−RNAおよびレプリコン発現をブロックし、B18Rはこのブロックを解除する
ヒト包皮線維芽細胞(HFF)を以下のようにエレクトロポレーション(EP)した:RNAなし;40μg/mlのルシフェラーゼをコードするレプリコンRNAまたは40μg/mlのGFPをコードするレプリコンRNAおよび40μg/μlの可溶性ワクシニアウイルス(VacV)IFNデコイ受容体B18RをコードするIVT RNA。エレクトロポレーション後、細胞を3,3E04細胞/cm2で塗布し、120μl/cm2培地を添加した。その翌日、細胞の上清(SN)を採集し、前日に96ウェルプレートに塗布した(5000細胞/ウェル)HFF細胞に導入した。レプリコンをエレクトロポレーションした細胞からの上清には、200ng/mlの組換えB18R(rec.B18R)をさらに添加した。細胞を上清と共に6時間インキュベートした。その後細胞を、各ウェル当たりRNAiMAX 1μlと共に製剤した、各ウェル当たり(A)IVT RNA 0,25μgまたは(B)ルシフェラーゼをコードするレプリコンRNA 0,25μgでリポフェクトした。リポフェクションの前には培地を交換しなかった。その翌日ルシフェラーゼ発現を測定した;図12参照。
レプリコンでトランスフェクトした細胞の上清は、ルシフェラーゼをコードするIVT−RNAおよびレプリコンの発現を阻害した。組換えB18Rならびに同時エレクトロポレーションの際に分泌されたB18Rはこの阻害に拮抗し、IFNが上清中の阻害因子であることを証明する。
9.5 IVT−RNAのエレクトロポレーションはその後に導入されたレプリコンRNAの発現をブロックする。VacVタンパク質は発現のブロックを解除する
ヒト包皮線維芽細胞(CCD1079SK)を以下のようにエレクトロポレーション(EP)した:RNAなし(EP1);80μg/mlのルシフェラーゼをコードするIVT RNA(EP2)または80μg/mlのワクシニアウイルス(VacV)タンパク質E3、K3、B18R(EBK)をコードするIVT RNA(EP3)。エレクトロポレーション後、細胞を6ウェルプレートに各ウェル当たり2E05細胞で塗布した。その翌日、細胞を総RNA量2,5μgでリポフェクトした;GFPをコードするレプリコンRNA 0,75μgを、指示されているようにルシフェラーゼをコードするRNAまたはEBKをコードするRNAのいずれか1,25μgと同時トランスフェクトした。24時間後にGFP発現をFACSによって測定した;図13参照。
RNAなしでエレクトロポレーションした細胞では、レプリコン発現の低い基線レベルが同時リポフェクトしたEBKによって増大された。ルシフェラーゼをコードするIVT−RNAでエレクトロポレーションした細胞はレプリコン発現をブロックし、同時リポフェクトしたEBKはこのブロックを解除することができなかった。EBKをコードするIVT−RNAでエレクトロポレーションした細胞では、レプリコン発現は阻害されなかった。
これらのデータは、レプリコンRNAがトランスフェクトされる前に活性な抗ウイルス状態にある細胞ではレプリコン発現が低下することを示す。
9.6 IVT−RNA上にコードされるVacVタンパク質はRNAに対するIFN応答を阻止するが、確立されたIFN応答には限られた作用しか及ぼさない
ヒト包皮線維芽細胞(CCD1079SK)を最初にエレクトロポレートし、次に図13におけるようにリポフェクトした。RNAをこれらの細胞から単離し、IFN応答マーカーに関してqRT−PCRによって分析した;図14参照。パネル(A)および(C)は、リポフェクションの直前を意味する、エレクトロポレーションの翌日のOAS1およびIFNβ転写産物の誘導を示す。パネル(B)および(D)は、エレクトロポレーションおよびその後のリポフェクション後のOAS1およびIFNβ誘導を示す。
(A)リポフェクションの時点では、ルシフェラーゼをコードするRNAでエレクトロポレートした細胞においてのみOAS1が誘導される。(B)同時リポフェクトしたEBKは、事前にエレクトロポレーションされていない細胞ではレプリコンが誘導するOAS1の上方調節を阻害する(3本の柱の1番目の群)。しかし、EBK同時リポフェクションは、ルシフェラーゼをコードするIVT−RNAの事前のエレクトロポレーションによるOAS1誘導を逆転させない(3本の柱の2番目の群)。レプリコンおよびEBKでエレクトロポレートした細胞は、リポフェクションによるIFN応答の誘導に対して抵抗性である。全体として、OAS1転写産物の上方調節はレプリコン発現のブロックと良好に相関する。(C)IFNβ転写産物は両方のRNAエレクトロポレーション試料において上方調節されるが、B18Rは誘導のレベルを低下させた。(D)リポフェクトしなかった細胞は、エレクトロポレーションからのIFNβ転写産物を喪失した(4番目の柱)。RNAなしでエレクトロポレーションしたIFNナイーブ細胞は、RNAがEBKをコードしない限り、RNAでリポフェクトした場合にIFNβ転写産物を上方調節する。EBKリポフェクションは事前のエレクトロポレーションのIFNβ転写産物の誘導を逆転させない(6番目の柱)。これに対し、EBKエレクトロポレーションは、おそらく分泌されたB18Rのおかげで、リポフェクションによるIFNβの上方調節を阻止する。
9.7 VacVタンパク質はヒト細胞においてIVT−RNAおよびレプリコンに対するIFN応答を低減する
ヒト包皮線維芽細胞(HFF)およびCCD1079SK線維芽細胞(CCD)を、iRFPをコードするIVT−RNA 0,5μgと共に、(A)IVT RNA 0,75μgまたは(B)GFPをコードするレプリコンRNA 0,75μgでトランスフェクトした。VacVタンパク質をコードするIVT RNA 1,25μgを指示されているように(表2参照)同時トランスフェクトし、VacVタンパク質の混合物は1:1比であった。ルシフェラーゼをコードするIVT RNA(Luc)をIFN応答誘導についての陽性対照として用い、データを標準化するために使用した;図15参照。
IVT RNAに応答したIFNβ誘導は、EKBの組合せならびにE3LとK3Lの組合せによって阻害されたが、B18R単独によっては阻害されなかった。レプリコンRNAに応答したIFNβはすべてのVacVタンパク質によって阻害されたが、3つすべての組合せが最良であった。IVT RNAならびにレプリコンRNAに応答したOAS1およびOAS2誘導はEKBによって排除された。B18R単独では、レプリコンRNAに応答したOAS1/2誘導を阻害したが、IVT RNAに応答したOAS1/2誘導は阻害しなかった。K3LおよびE3Lはより有効でなかった。
B18RはIFN応答を完全に排除するのに不可欠である。EBKの組合せだけがすべてのIFN応答遺伝子を有効にブロックした。
9.8 VacVタンパク質はマウスおよびヒト細胞株においてエレクトロポレーションされたIVT RNAおよびレプリコンRNAの発現を増強する
マウス3T3−L1線維芽細胞、ヒトCCD1079SK細胞、マウスC2C12筋芽細胞およびヒト一次HUVEC細胞を、指示されているようにVacVタンパク質をコードするIVT RNAと共に、(A)IVT RNAまたは(B)GFPをコードするレプリコンRNAでエレクトロポレートした。エレクトロポレーションの成功を観測するためにiRFPをコードするIVT RNAをすべての試料に同時トランスフェクトした(トランスフェクション混合物の詳細については表2参照);図16参照。
(A)本発明者らは、EKBまたはE3および/もしくはK3により、マウスおよびヒト線維芽細胞においてIVT RNAに基づくGFP発現の中等度の増大を認めたが、マウス筋細胞およびヒトHUVECでは影響がなかった。
(B)レプリコン発現は、試験した4つの細胞すべてにおいてIVT RNAより高い度合いで増大した。VacVタンパク質の同時導入は、特にヒト線維芽細胞においてレプリコン発現の増大をもたらし、本発明者らは、マウス線維芽細胞におけるよりも約3倍強力な増大を認めた。E3はヒト線維芽細胞において主要な役割を果たし、K3はより弱く発現を増大させる。
9.9 VacVタンパク質はマウスおよびヒト細胞にリポフェクトしたIVT RNAおよびレプリコンRNAの発現を増強する
マウス(3T3−L1)およびヒト(CCD1079SK)線維芽細胞ならびにマウス(C2C12)およびヒト(hSkMC)筋芽細胞を、指示されているようにVacVタンパク質をコードするIVT RNAと共に、(A)IVT RNAまたは(B)GFPをコードするレプリコンRNAでリポフェクトした(詳細については表3参照)。リポフェクションの成功を観測するためにiRFPをコードするIVT RNAをすべての試料に同時トランスフェクトした(トランスフェクション混合物の詳細については表3参照);図17参照。
(A)IVT RNA発現の増大がすべての細胞で検出され、GFPは、同時トランスフェクトしたE3L単独またはK3Lと組み合わせたE3LおよびB18Rの存在下で5倍まで増大した。K3L単独は、ヒトCCD1079Sk細胞ではより有効でなかったが、それでもまだIVT RNA発現を2倍以上増大させた。B18R単独では影響を及ぼさなかった。
(B)レプリコン発現は、E3 IVT RNAによってヒト線維芽細胞およびヒト筋細胞において増大したが、K3Lはほとんど影響を及ぼさなかった。マウス細胞では、発現は同じく増大したが、その度合いはヒト細胞におけるよりもはるかに低かった。CCD1079SK細胞で得られた結果は他のヒト線維芽細胞(HFFおよびBJ細胞)でも確認された。
全体として、図16および17からの結果は、VacVタンパク質がマウスとヒト細胞間の種障壁を乗り越えるのに役立ち得ることを示す。
9.10 VacVタンパク質はマウス筋管におけるレプリコン発現を増強する
マウスC2C12由来筋管を、GFPをコードするレプリコンでリポフェクトした。iRFPまたはVacVタンパク質をコードするIVT RNAを指示されているように同時トランスフェクトした(詳細については表3参照);図18参照。
GFPレプリコン単独と比較して、VacVタンパク質は、成熟筋管におけるB18Rを除き、GFP発現を増大させた。
9.11 過剰のVacV IVT RNAはレプリコン発現をさらに増強しない
マウスC2C12筋芽細胞を、ルシフェラーゼをコードするレプリコンRNA 3μgでエレクトロポレートした。VacVタンパク質をコードするIVT RNAを、指示されている種々の重量比で同時エレクトロポレーションした;図19参照。試料の1番目の群ではE3、B18RおよびK3(EBK)を1:1:1で混合し、2番目の群では1番目の群と同じ量のE3を同時エレクトロポレーションしたが、K3とB18Rを除いた。エレクトロポレーションの6時間後にルシフェラーゼ発現を測定し、VacVタンパク質なしで得られた発現(1番目の柱;「1:0」)に標準化した。
EBKの混合物およびE3単独はルシフェラーゼレプリコン発現を増大させたが、高度に過剰のEBKまたはE3 RNAを使用することの利益はなかった。
9.12 VacVタンパク質はレプリコンRNA導入時のPKRの自己リン酸化および基質リン酸化を低減する
ヒトCCD1079SK線維芽細胞を、iRFPおよび指示されているVacVタンパク質をコードするIVT RNAと共に、GFPをコードするレプリコンRNAで同時エレクトロポレーションした(表2参照);図20参照。モックエレクトロポレーション細胞を陰性対照として用いた。IVT RNAのみおよびEBK RNAと同時エレクトロポレーションしたIVT RNAを、IVT RNAが媒介するPKR活性化をレプリコン媒介性PKR活性化と比較するための参照試料として使用した。キャップされていないレプリコンを、PKR活性化への複製の寄与を示すための対照として用いた。
レプリコンによって引き起こされるPKRリン酸化は、IVT RNAによるものよりもはるかに強力である。キャップされていないレプリコンRNAは、非複製IVT RNAと類似の強さのPKR自己リン酸化をもたらす。E3およびK3はPKR自己リン酸化を低減し、B18RはPKRリン酸化に影響を及ぼさない。
9.13 VacVタンパク質は非細胞傷害性突然変異レプリコンの効率的な複製を可能にする
親および非細胞傷害性PDベクター(Lundstrom et al.,2003,Histochem.Cell Biol.115,83−91)を、E3、B18RおよびK3(EBK)をコードするまたはコードしないIVT NAと共にヒト線維芽細胞にエレクトロポレートした;図21参照。(A)ルシフェラーゼ発現を指示されている時点で測定し、(B)XTT生存能染色を用いてエレクトロポレーションの24時間後に細胞の生存能を評価した。生存能を非トランスフェクト試料に標準化した。
(A)EBKを添加しなければ、ヒト線維芽細胞における非細胞傷害性PDベクターの発現は低下する。EBKの添加はPDベクター発現の緩やかな増大を誘導し、72時間後に、24時間後の親ベクターの発現と同等のレベルに達する。(B)EBKの存在下では、トランスフェクト細胞は非常に高い生存能スコアを示した。
9.14 VacVタンパク質はインビボでレプリコン発現を増強する
ルシフェラーゼをコードするレプリコンRNA 2μgを、E3、B18RおよびK3(EBK)をコードするIVT RNAと共に、指示されている種々の重量比で(レプリコンRNAの1〜6倍のEKB)Balb/Cマウスの前脛骨筋に同時注入した;図22参照。RNAはPBSに再懸濁した。
3倍および6倍過剰のEBK RNAは、インビボで用量依存的にレプリコン発現を増大させる。
9.15 VacVタンパク質は脾臓におけるIVT RNAの発現を増大させる
ルシフェラーゼをコードするIVT RNA 10μgをGFP RNA 30μgまたはEBK RNA 30μgと共に、脾臓を標的とするリポソームに同時パッケージングした。ルシフェラーゼ発現を4日間にわたって観測した;図23参照。
EBKは時間経過全体にわたって発現を増強した。
(実施例10)
NS34AおよびICP34.5はレプリコン発現を増強する
本発明者らは、ワクシニアウイルスタンパク質E3、B18RおよびK3(EBK)がレプリコン発現、特にサブゲノム転写産物の翻訳を増大させることを示した。本発明者らはさらなるIFN阻害剤:RIG−IおよびMDA5の活性化に拮抗するC型肝炎ウイルスNS34A、eIF2αを積極的に脱リン酸化する単純ヘルペスウイルスICP34.5を試験した。
ヒト線維芽細胞を、ルシフェラーゼ−GFP融合物をコードするレプリコンRNA 1,5μgおよびインターフェロン阻害剤をコードするmRNAまたは対照としてiRFPをコードするmRNA 1μgで同時トランスフェクトした。その翌日、導入遺伝子発現をFACSによって測定した;図24参照。
(A)GFP発現によって決定したトランスフェクト細胞のパーセンテージ。NS34AはEBKと同程度にトランスフェクション率を上昇させるが、ICP34.5はより強力にトランスフェクション率を上昇させた。(B)阻害剤なしの試料と比較してトランスフェクション率の倍数増加として表した、Aと同じデータ。(C)平均蛍光強度(MFI)として表した、GFP翻訳の変化。NS34Aは翻訳を増大させないが、ICP34.4は翻訳を増大させる。これはおそらく、NS34AがPKRを阻害しないという事実に起因すると考えられる。
(実施例11)
NS34Aは合成mRNAに対するIFN応答を阻害し、ICP34.5は低減する
本発明者らは、ワクシニアウイルスタンパク質E3、B18RおよびK3(EBK)が、混合物として使用した場合、IFN応答を完全に阻害することを示した。E3は単独でIFN応答を低減することができた。IFNβ標的遺伝子(OAS1/2)の誘導に関しては、B18Rが必要であること、およびE3またはK3は上方調節を部分的にのみ阻止できることを認めた。ここで、本発明者らはさらなるIFN阻害剤:RIG−IおよびMDA5の活性化に拮抗するC型肝炎ウイルスNS34A、eIF2αを積極的に脱リン酸化する単純ヘルペスウイルスICP34.5を試験した。
ヒト線維芽細胞を、IFN応答を誘導するまたは阻止するための合成mRNA混合物5μgでトランスフェクトした。すべての混合物は、赤外蛍光タンパク質(iRFP)をコードする合成mRNA 2μgおよびIFN阻害剤(図25に指示されているように)または対照としてルシフェラーゼのいずれかをコードする合成mRNA 3μgを含んだ。その翌日、細胞を採取し、溶解して、qRT−PCRのためにRNAを抽出した。IFNβおよびOAS1/2の誘導を非トランスフェクト細胞における基線発現に標準化した;図25参照。
(A)IFNβの転写誘導。本発明者らが以前に観察したように、ワクシニアウイルスタンパク質EKBはIFNβを排除し、E3はIFNβ誘導を低減した。NS34AもEBKと同様にIFNβ誘導を排除し、ICP34.5はE3と同様にIFNβ誘導を低減した。(B、C)IFNβ標的遺伝子OAS1/2の転写誘導。EBKはOAS1/2誘導をブロックしたが、E3単独ではOAS1/2の上方調節を部分的にしか阻止することができなかった。これは以前に観察されている。E3と同様に、ICP34.5はOAS1/2誘導を阻止することができないが、NS34Aは両方のマーカーの誘導を大きく低減した。
したがって、合成mRNA上にコードされる場合、NS34Aは強力なIFN阻害剤であり、ICP34.5は強力なPKR阻害剤である。どちらも、レプリコンまたは合成mRNA遺伝子導入および発現を増強することができる。
(実施例12)
Ribo−iPSの作製のために必要な最小リポフェクション
非修飾EKBおよびクラスター302/367からの成熟miRNAのmiRNA混合物と組み合わせた非修飾IVT−RNAを用いた再プログラム化プロトコルの高い効率から、再プログラム化の成功のためには連日リポフェクションが最小限何回必要かという疑問が生じる。
HFF線維芽細胞(System Bioscience)を6ウェルに塗布し(100,000細胞/ウェル)、RNAiMAX(Invitrogen)6μlおよびIVT−RNA 1.4μgを用いてスキームに示すように1〜6回リポフェクトした;図26参照(A)。IVT−RNA混合物は、それにより非修飾OSKMNL(1:1:1:1:1:1)0.8μgと、それぞれB18R、E3およびK3(EKB)0.2μgならびにmiRNA 302a−dおよび367[各々0.4μM]から成るmiRNA混合物0.4μgで構成された。幹細胞培地(Nutristem media,Stemgent)中でのリポフェクションを製造者の指示に従って実施した。9日目から、コロニー形成が観察され、11日目に顕微鏡によって代表的な写真を撮影した(B)。さらなる分析のために、StainAlive TRA−1−60抗体(Stemgent)を使用してコロニーをES表面マーカーTRA−1−60について染色し(C)、その後細胞をペレット化して、全RNAを単離し、ヒトESマーカーOCT4(内因性)、NANOG(内因性)、LIN28(内因性)、TERTおよびREX1のmRNA発現をqRT−PCRによって定量した(D)。
(B)3回の連日トランスフェクションが数個のコロニーを得るために必要であるが、4回の連日トランスフェクションはコロニー形成の堅固な誘導に十分であることが明らかになった。コロニーは9日目から可視になり、11日目には十分に増殖して、TRA−1−60について陽性に染色することができた(C)。いくつかの多能性マーカーの発現レベルの分析は、コロニー形成と一致して、ESマーカー遺伝子の誘導が3回以上のリポフェクションで達成できることを明らかにした。それにもかかわらず、ESマーカー発現の堅固な誘導は4回以上のリポフェクションで達成された。ESマーカー遺伝子の発現は4回を超えるリポフェクションによってさらに増強されなかったことに言及しておかねばならない(D)。
非修飾EKBおよびクラスター302/367からの成熟miRNAのmiRNA混合物と組み合わせた非修飾IVT−RNAを用いた再プログラム化プロトコルは、4回の連日リポフェクションに短縮して、ヒトESマーカー遺伝子およびES表面マーカーTRA−1−60の高い誘導を伴うRibo−iPS作製の堅固な誘導をもたらすことができる。Ribo−iPSコロニーの形成のために必要な連日リポフェクションの最小数は3と決定することができた。