検出アプリケーション(例えば、ラマン検出方法)により分析されるサンプルは、非常に複雑な場合があり、種々の分子は、対象となるものからバックグラウンドとなるものにまで及ぶ。バックグラウンドの分子は、対象となる分子の信号を上回る場合があり、それにより、対象となる分子を検出できる可能性が低下することがわかっている。一例として、乳サンプルは、乳タンパク質と、脂肪酸と、該サンプルを支配しセンサの表面を占有する可能性のある他の大きな分子種を含む。これらの大きな種により、メラミン等の他の種の検出が困難となり、該他の種が低濃度の範囲(例えば1mM未満)にある場合にその検出が不可能となることがある。
本明細書に開示する分子検出装置(molecular sensing device)の例によれば、サンプルを、信号増幅構造体(signal amplifying structure)を有する検出装置内のウェルに導入する直前にろ過することができる。インライン型のろ過は、ウェルとの関係で動作可能なようにかつ取外し可能なように配置されている分子選択装置(molecular selective device)によりなされる。分子選択装置は、バックグラウンド分子をろ過によって取り除きつつ、対象となる分子がウェルに向かって通過できるように選ばれる。これにより、有利なこととして、サンプル溶液が単純化され、低い濃度レベルにある分子の高精度の検出が可能となる。ろ過が完了した後、分子選択装置を取り外して、後続の分子検出にあたりウェルの中身を露出させることができる。分子選択装置を分子検出装置に取外し可能なように組み込むことにより、サンプルのスクリーニング及び検出を単一の装置で行うことができる。
本明細書では、分子選択装置の2つの例を開示する。幾つかの例において、分子選択装置は、ある分子量の閾値を有する膜である。これらの例は、少なくとも図1Aと図1Bと図2とに関連して説明する。他の例においては、分子選択装置は固体抽出カラム(solid extraction column)である。これらの例は、少なくとも図3A及び図3Bに関連して説明する。
図1Aと図1Bと図2と図3Aと図3Bとに示す例を参照する。分子検出装置10、10’、10’’の3つの例がそれぞれ示されている。装置10、10’、10’’に共通する要素は合わせて説明し、その後、装置10、10’、10’’において異なる分子選択装置に関して説明が続くことを理解されたい。
分子検出装置10、10’、10’’の各々は、基板12を備えている。図1A、図1B、図3A、図3Bに示す分子検出装置10及び10’’は、基板12の表面S12に形成されたウェル14を備えている。図2に示す分子検出装置10’は、基板12の表面S12に配置されている材料16の表面S16に形成されたウェル14’を備えている。
図1A、図1B、図2、図3A及び図3Bに示すいずれの例においても、基板12は、検出システム(例えば図5に示すシステム100)において使用する場合の分子検出装置10、10’、10’’の位置に応じて、透明性を有するか又は反射性を有するものとすることができる。例えば、センサが、ウェル14又は14’が形成されている表面S12又はS16の向かい側に配置される場合、基板12を、反射性材料及び/又は非反射性材料から選ぶことができる。この例での適切な基板の例としては、ゲルマニウムと、シリコンと、例えば、ガラス、石英、窒化物、アルミナ、サファイア、インジウムスズ酸化物(indium tin oxide)、透明ポリマ(例えば、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル等)、これらの組合せ及び/又はこれらの層といった透明基板とが挙げられる。一例では、透明基板は、基板12の背面BS12に反射性ミラーを備えている。しかし、センサが背面BS12(すなわち、ウェル14又は14’が形成されている表面S12又はS16と対向する面)の向かい側に配置される場合は、いかなる発生信号(例えば散乱光)であっても基板12を通じてセンサに伝わることができるように、基板12は透明な材料から選ばれる。適切な透明基板の例としては、ガラスと、石英と、窒化物と、アルミナと、サファイアと、インジウムスズ酸化物と、透明ポリマ(例えば、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル等)と、これらの組合せ又はこれらの層とが挙げられる。基板12にウェル14が形成される場合、基板12を、(例えば、エッチング、インプリント又は別の適切な方法により)ウェル14を形成することが可能な材料から選ぶことができる点も理解されるべきである。
いずれの例においても、基板12は、任意の望ましい寸法を有するものとすることができる。一例では、基板12は、サンプル溶液を収容する容器(例えばビーカ)内に挿入することができる試験用ストリップ(test strip)の寸法を有している。図1A及び図3Aに示す例では、基板12は、該基板12に単一のウェル14を作ることができる程度に十分小さくすることができるか、又は基板12に複数のウェル14を作ることができる程度に十分大きくすることができる。図1A及び図3Aに示す基板12の厚さは、該基板12に形成されるウェル14の深さが約1μmとなるように、厚さ1μmを超えるものとすることができる。図2に示す例では、基板12は、該基板12に配置される材料16に単一のウェル14’を作ることができる程度に十分小さくすることができるか、又は基板12に配置される材料16に複数のウェル14’を作ることができる程度に十分大きくすることができる。図2に示す基板12は、該基板12に配置された材料16を支える任意の望ましい厚さを有するものとすることができる。
図2に示す例では、材料16は、少なくとも、該材料16に形成されるウェル14’に対して望ましい厚さとなるように、基板12の上に置かれる(そして、場合によっては硬化される)。例えば、材料16の厚さは、該材料16に形成されるウェル14’の深さが約1μmとなるように、厚さ1μmを超えるものとすることができる。一例では、材料16を、(例えば、エッチング、インプリント又は別の適切な方法により)ウェル14’を形成することが可能な任意の透明材料とすることができる。基板12が透明である場合、透明な材料16が望ましい場合がある。適切な透明材料の例としては、ガラス、石英、窒化物、アルミナ、シリカ、サファイア、透明ポリマ又はそれらの組合せが挙げられる。基板12が透明でない場合は、材料16は、透明材料とすることもできるし、透明材料としないこともできる。他の適切な材料16の例としては、シリコン、ゲルマニウム、チタン、これらの材料の酸化物(例えば酸化ケイ素)又は窒化物が挙げられる。ウェル14’をインプリント法(後述)により材料16に形成する場合は、材料16を、紫外線硬化性レジスト又は熱硬化性レジストとすることができる。幾つかの適切なレジストは、ニュージャージー州モンマウスジャンクション所在のNanonex社(例えば、NXR−2000シリーズ及びNXR−1000シリーズ)と、カリフォルニア州サンマルコス所在のNanoLithoSolution社(例えばAR−UV−01)とから市販されている。
上述したように、分子検出装置10、10’及び10’’は、基板12の表面S12又は材料16の表面S16に形成されたウェル14又は14’を備えている。図1A、図1B、図3A及び図3Bに示す例では、ウェル14は、基板12の表面S12から基板12の望ましい深さにまで延びているキャビティである。この深さは基板12の厚さよりも浅い。図2に示す例では、ウェル14’は、材料16の表面S16から材料16の望ましい深さにまで延びているキャビティである。この深さは材料の16の厚さより浅いか又はそれと等しい。したがって、一例では、ウェル14は、基板表面S12が露出するように材料16の厚さ全体にわたって延びており、別の例では、ウェル14’は、基板表面S12が露出しないように材料16の全体の厚さ未満に延びている。
ウェル14、14’を、(例えば、ウェル14、14’を上から見たときに)任意の望ましい形状となるように形成することができ、そして、任意の望ましい寸法(例えば、長さ、幅、直径等)とすることができる。これらの各々は、少なくとも部分的には、ウェル14、14’に形成される信号増幅構造体(signal amplifying structure)18のタイプ及び数と、形成されるウェル14、14’の数と、基板12のサイズと、場合によっては材料16のサイズとに依存する。例としての上面形状には、正方形、矩形、円形、三角形、長円形、楕円等が挙げられる。図1A、図1B及び図2に示す例は、ウェル14、14’の深さ全体に続いている正方形状を有している。図3A及び図3Bに示す例は、ウェル14、14’の深さ全体に続いている矩形状を有している。あるいは、ウェル14、14’の壁を、ウェル14、14’の寸法が表面S12又はS16に向かって増加するものとなるように次第に小さくすることができる。
図1A、図1B、図2、図3A及び図3Bの各々には、1つのウェル14、14’を示しているが、単一の基板12又は単一の材料16に任意の数のウェル14、14’を形成することもできることが理解されるべきである。使用される基板12のサイズによって必然的に定まる場合を除き、形成することができるウェル14、14’の数に関して制限はない。複数のウェル14、14’が形成される場合、ウェル14、14’が流動性の観点で互いに分離されるように、かつ望ましい場合には一つのウェル14、14’内で検出を行うことができるように、各ウェル14、14’を、隣接するウェル14、14’から十分に間隔を置いて離して配置することができる。一例として、並べられたウェル14、14’を、少なくとも約1μm離すことができ、これは、場合によってはレーザのスポットサイズのほぼ限界である。
図1A、図1B、図2、図3A及び図3Bに示す分子検出装置10、10’及び10’’は、ウェル14、14’に配置された上述の(複数の)信号増幅構造体18をも示している。使用する信号増幅構造体18のタイプ及び数は、少なくとも部分的には、分子検出装置10、10’、10’’を用いて行われる検出のタイプによって決めることができる。例えば、分子検出装置10、10’、10’’が表面増強ラマン分光法(SERS)のために使用される場合は、(複数の)信号増幅構造体18をナノ構造体とすることができ、これは、約0.1nmから約100nmの範囲の少なくとも1つの寸法を有し、ナノ構造体が形成されるウェル14、14’の深さよりも小さい高さを有している。一例として、ウェル14、14’は、深さが約1μmであり、(複数の)信号増幅構造体18は、高さが約500nmである。
ナノ構造体の例としては、アンテナ、柱状物(pillar)又はナノワイヤ、ポール、可撓性の柱状構造体又は指状構造体、円錐状の構造体、多面構造体等が挙げられる。(複数の)SERS信号増幅構造体18は、レーザ照射に晒されると分子(すなわち、検体、対象となる種、所定の種)からのラマン散乱を増幅させる、金属又は金属皮膜のプラズモンナノ構造体とすることができる。金属又は金属皮膜は、信号増強材料、又は特定の検出処理中に生成される信号を増強させることができる材料である。一例では、信号増強材料は、分子(又は他の対象となる種)が(複数の)信号増幅構造体18に近接して位置し、かつ分子及び材料が光又は電磁放射を受けた場合に、ラマン散乱光子の数を増加させるラマン信号増強材料である。ラマン信号増強材料としては、例えば銀、金及び銅が挙げられる。
図1A、図1B、図2、図3A及び図3Bでは、ラマン信号増強材料(Raman signal-enhancing material)は、符号20として示されており、(複数の)信号増幅構造体18の基部22の先端に存在する材料である。(複数の)信号増幅構造体18が、ラマン信号増強材料20により部分的に又は完全にコーティングされる場合、(複数の)信号増幅構造体18の基部22を、基板12の材料、材料16などの任意の他の適切な材料から形成することができる。
信号増幅構造体18を、増強蛍光(例えば、金属増強蛍光又は表面増強蛍光(surface enhanced fluorescence, SEF))又は増強化学発光等の手法において使用できるように構成することもできる。一例として、金属増強蛍光の用途に関して、信号増幅構造体18の基部22を銀ナノ粒子でコーティングすることができる。別の例としては、増強蛍光の用途に関して、局在型表面プラズモンと伝搬型表面プラズモンとをカップリング(couple)できるように信号増幅構造体18を構成することができる。
少なくとも部分的に、ウェル14、14’の寸法と、(複数の)信号増幅構造体18のサイズと、行われる検出のタイプとに応じて、ウェル14、14’に任意の数の(複数の)信号増幅構造体18が存在するものとすることができる。例として、単一ウェル14、14’に単一の信号増幅構造体18が存在する場合があり、又は、単一のウェル14、14’が、例えばダイマ(dimer)(すなわち、2つの構造体18)、トリマ(trimer)(すなわち、3つの構造体18)、テトラマ(tetramer)(すなわち、4つの構造体18)、ペンタマ(pentamer)(すなわち、5つの構造体18)等、多重構造のアセンブリを備えていてもよい。
図1A、図1B、図2、図3A及び図3Bに示す分子検出装置10、10’、10’’を、複数の方法により形成することができる。特に、ウェル14、14’は、任意の適切な方法により形成することができる。この任意の適切な方法は、少なくとも部分的に、使用される基板12又は材料16のタイプと、(複数の)ウェル14、14’及び(複数の)信号増幅構造体18を逐次的に形成することが望ましいか又は同時に形成することが望ましいかとによって決まる。
幾つかの方法の例では、(複数の)信号増幅構造体18及び(複数の)ウェル14、14’は、逐次的に形成される。1つの方法例では、2ステップのマスキング及びエッチングプロセスを使用することができる。(複数の)ウェル14を基板12に形成することが望ましい場合、この方法の例は、まず、基板12に(複数の)信号増幅構造体18を形成することと、次いで基板12に(複数の)ウェル14を形成することとを含む。例えば、(複数の)信号増幅構造体18に関する所望のパターンを提供するマスクを基板12の上に配置し、基板の厚さより小さく、かつ(複数の)ウェル14の所望の厚さより小さいか又はそれに等しい所望の深さまでエッチングを行うことができる。使用するエッチング液は、使用する基板材料によって決まるが、このステップは、概して等方性(ウェット又はドライ)エッチングプロセスを伴う。(複数の)信号増幅構造体18が形成された後、マスクが除去される。
既に形成された(複数の)信号増幅構造体18を保護しつつ、(複数の)ウェル14に対して所望のパターンを提供する別のマスクを基板12の上に配置することができる。その後、エッチングが行われる。このエッチングステップを、基板12の厚さより小さく、かつ既に形成された(複数の)信号増幅構造体18の高さより小さいか又はそれに等しい所望の深さまで行うことができる。使用されるエッチング液は、この場合も、使用されている基板材料によって決まるが、このステップは、等方性又は異方性の(ウェット又はドライ)エッチングプロセスを伴うことができる。
この同じ逐次的プロセスを、(複数の)ウェル14’が材料16に作成され、(複数の)ウェル14’に(複数の)信号増幅構造体18が形成されるように、材料16において行うこともできる。基板12又は材料16は2つの層を有することもできる。その場合、上層の材料及び厚さは、(上述した第1のマスキング/エッチングステップを使用して)(複数の)信号増幅構造体18を形成するのに適しており、下層の材料及び厚さは、(上述した第2のマスキング/エッチングステップを使用して)下層の材料に(複数の)ウェル14、14’が形成されるのに適している、ということが理解されるべきである。
別の方法例では、(複数の)信号増幅構造体18及びウェル14、14’は、同時に形成される。これを、(複数の)信号増幅構造体18とウェル14又は14’との両方に対するパターンを含む型を用いて行うことができる。型は、単結晶シリコン、ポリマ材料(アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane, PDMS)、ポリイミド等)、金属(アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、合金等)、石英、セラミック、サファイア、窒化ケイ素又はガラスから形成することができる。
型のパターンは、1以上の信号増幅構造体18を有する単一ウェル14、14’、又は、1以上の信号増幅構造体18を各々が有する複数のウェル14、14’を形成するためのものとすることができる。このパターンは、所望の(複数の)信号増幅構造体18及びウェル14、14’のネガティブレプリカであり、形成される(複数の)信号増幅構造体18の少なくとも(複数の)基部22の形状及びウェル14、14’の形状を定めるものである。2以上の信号増幅構造体18が求められる場合、信号増幅構造体18のパターンは全て同じ(例えば全て柱状)とすることもできるし、全て異なったもの(例えば、1つは柱状、1つはポール、1つは指状構造体である等)とすることもできるし、幾つかの信号増幅構造体18のパターンが、信号増幅構造体18のうちの他の1以上とは異なったもの(例えば、1つは支柱、2つはポール、2つは錐体である等)とすることもできる。さらに、2以上の信号増幅構造体18が求められる場合、信号増幅構造体18のパターンは、寸法を同じとすることも異なったものとすることもできる。さらに、同じ型を用いて複数のウェル14、14’を形成する場合、ウェル14、14’のパターンは、ウェル14、14’のうちの少なくとも1つについて同じとすることもできれば異なったものとすることもでき、信号増幅構造体18のパターンは、ウェル14、14’のうちの少なくとも1つについて同じとすることもできれば異なったものとすることもできる。
パターンは、例えば深堀り反応性イオンエッチング(deep reactive ion etching)及びパッシベーションにより、型に一体的に形成することができる。より具体的には、ボッシュ法を使用することができ、このプロセスは、(例えばSF6プラズマ及びO2プラズマを使用する)エッチング及び(例えばC4F8プラズマを使用する)パッシベーションの一連の交互のサイクルを含む。結果として生じるパターンの形態は、プロセスの条件(例えば、真空圧、高周波出力、総処理時間、個々のエッチングサイクル時間、個々のパッシベーションサイクル時間及びガス流量)を制御することにより制御することができる。一例では、エッチャーを15ミリトルの圧力で動作させることができ、エッチャーのコイル及びプラテンの出力は、それぞれ800W及び10Wであり、(SF6及びO2による)各エッチングサイクルは6秒間であり、(C4F8による)各パッシベーションサイクルは5秒間であり、SF6、O2及びC4F8に対する流量は、それぞれ100sccm、13sccm及び100sccmである。より一般的には、流量を、最大約100sccmの任意の流量とすることができる。
(複数の)信号増幅構造体18を形成するパターンの部分は、信号増幅構造体の形状の規則的又は不規則なアレイを含むものとすることができる。上述したエッチング及びパッシベーションプロセスにより、不規則なアレイとなることが多い。規則的なアレイを生成するために、集束イオンビーム、電子ビームリソグラフィ又は光リソグラフィ等の製造方法を使用することができることが理解されるべきである。(複数の)信号増幅構造体18を形成するパターンの部分を、結果として生じる(複数の)信号増幅構造体18がラマンスペクトルの対象範囲に対して反応する(例えば、特定の波長のより強力な信号を生成することができる)ように、所定の方法で設計することができると考えられる。
型は、基板12又は材料16内に押し込まれる。あるいは、基板12又は材料16を型の上に置くことができる。型が基板12又は材料16内に押し込まれる(又は他の方法で接触する)際、基板12又は材料16を部分的に又は完全に硬化させるために、その構造体を紫外線光又は熱に晒すことができる。紫外線又は熱に晒す際、使用される紫外線ランプの出力、熱の温度及び他の同様の硬化パラメータは、少なくとも部分的に、使用される基板12又は材料16によって決まることが理解されるべきである。硬化が完了すると型を除去することができ、結果として生じる構造体は、ウェル14、14’と、(複数の)信号増幅構造体18の(複数の)基部22とを形成するようにパターンニングされた基板12又は材料16を有する。別の例では、型が基板12又は材料16に押し込まれる(又は他の方法で接触する)際、部分的な硬化を行うことができる。部分的硬化は、基板12又は材料16の全てではなく一部を硬化させる。部分的硬化の後、型を除去することができる。型が除去されると、基板12又は材料16が完全に硬化するまで、硬化を続けることができる。
この方法例では、その後、信号増強材料20を、(複数の)信号増幅構造体18の基部22の少なくとも表面に置くことができる。信号増強材料20を、任意の適切な堆積法又は他のコーティング方法により設けることができる。幾つかの例では、材料20が基板又は材料16の全ての露出部分の上に設けられるように、ブランケット堆積法を使用することができる。他の例では、材料20が例えば基部22の先端上のみに設けられるように、選択的堆積法を使用することができる。例として、材料20を、電子ビーム(eビーム)蒸着又はスパッタリングにより堆積させることができる。更に他の例では、信号増強材料20は、基板12又は材料16の上にコーティングされる予め形成された(例えば、銀、金、銅等の)ナノ粒子とすることができる。こうしたナノ粒子は、平均直径を約1nmから約10nmの範囲とすることができる。基部22の頂点における(材料20の連続的なコーティングではない)材料20のナノ粒子の存在により、例えばSERS実行中の電場が更に増強されると考えられる。材料20自体は、堆積プロセス中に同時に発生する表面粗さを有するものとすることもできる。この表面粗さは、追加の光アンテナとして作用し、各信号増幅構造体18にわたるSERS活性場所を増やすことができる。
更に別の方法例では、マスキング及びエッチングあるいはインプリントにより、基板12又は材料16にウェル14、14’を形成することができるとともに、マスキング及びエッチングあるいはインプリントにより、別個のウェブ又はウェハ上に信号増幅構造体18を形成することができる。そして、ウェル14、14’内に信号増幅構造体18を配置することができる。この例では、信号増幅構造体18を、適切な接着剤によりウェル14、14’に固定することができる。
ここで具体的に図1A、図1B及び図2を参照すると、完全な信号増幅構造体18が形成された後、不活性流体(inert fluid)24を、ウェル14、14’内にデポジット(deposit)するか又は他の方法により導入することができる。例えば、(複数の)信号増幅構造体18を包囲し、場合によってはウェル14、14’を満たす量の不活性流体24をデポジット又はディスペンス(dispense)することができる任意のディスペンサを使用して、不活性流体24をデポジット又はディスペンスすることができる。不活性流体24を、例えばチップ又はピペットにより手作業でディスペンスすることができる。さらに又は代替的には、不活性流体24を、例えばジェットディスペンサ(例えば、サーマルジェットディスペンサ、圧電ジェットディスペンサ、圧電毛細管ジェットディスペンサ)又は音響ディスペンサ(例えば、ラボサイト社のエコー(Labcyte Echo)音響ディスペンサ)により、自動的にディスペンスすることができる。ガスを使用する場合は、構造体そのものを、所望のガスが充填される箱又は容器内に配置することができる。
不活性流体24は、(複数の)信号増幅構造体18に有害な影響を与えること(例えば、劣化させる、形態を変化させる等)のない任意の適切な液体又は気体とすることができる。適切な不活性流体の例としては、ネオンガス、アルゴンガス、窒素系不活性ガス、乾燥空気、脱イオン水等が挙げられる。不活性流体24を使用して、試験対象のサンプルを導入する前に、(複数の)信号増幅構造体18が周囲の環境から望ましくない種を吸収しないようにすることができる。信号増幅構造体18として複数の指状構造体が使用され、これらの複数の指状構造体が同じウェル14、14’に含まれる場合は、不活性流体24により、指状信号増幅構造体18が(例えば、微小毛細管力(micro-capillary force)等の外力により)互いに、早期かつ不可逆的に壊れることが防止できることも考えられる。したがって、不活性流体24はまた、装置10、10’又は10’’が保管されている間に、信号増幅構造体18に対して安定性を提供することもできる。
本明細書に開示する、例としての装置10、10’、10’’の全てが分子選択装置26を備えている。分子選択装置26は、サンプル内の対象となる(複数の)分子を、対象となる(複数の)分子の検出を妨げる可能性のあるサンプル内の他の(複数の)分子から分離するように動作する。
図1A、図1B及び図2に示す装置10、10’の例は、分子選択装置26として膜28を備えている。膜28は、(原子質量単位(atomic mass units, amu)の)分子量閾値又はカットオフを有し、分子量が閾値又はカットオフを超える分子は、膜28を通って移動することができない。分子量が閾値若しくはカットオフ以下の分子は、膜28を通って移動することができる。膜28の例としては、厚さが100μm以下であるセルロース膜又は多孔質無機膜が挙げられる。一例では、多孔質無機膜の厚さは、50μm以下である。ガラス又はセラミック材料から適切な多孔質無機膜を形成することができる。
図1A、図1B及び図2に示すように、膜28は、ウェル14、14’の上方に配置されている。これらの例では、膜28は、ウェル14、14’の開口部全体と、ウェル14、14’を包囲する基板12又は材料16の表面S12又はS16の少なくとも一部とを覆っている。サンプルをウェル14、14’内に導入することが望まれる場合、膜28をウェル14、14’の上方の適切な位置に配置することができるか、又は、膜28を、ウェル14、14’に隣接する基板12又は材料16の領域に取外し可能なように取り付けることができる。取外し可能なように取り付けられる場合、基板12又は材料16と膜28との間に、適切な接着剤を使用することができる。選ばれる接着剤は、サンプルが導入された後に、かつ検出が行われる前に、膜28を基板12又は材料16から剥離することが可能な接着剤とすることができる。膜28を密封することのできる種々のエポキシ樹脂は、マサチューセッツ州ビレリカ所在のEpoxy Technology社から入手可能である。幾つかの接着剤によって、膜28と基板12との間に強固な接着が生じ、これらの場合、膜28は剥離可能ではない。このような場合は、機械的器具(例えば、鋭利な先端、かみそりの刃等)を使用して、膜28を突き通して1つの増幅構造体18を露出させることができる。
膜28を利用する場合、複数の分子を含んだサンプルのうちの選択された分子を、種々の異なる方法で膜28によりウェル14、14’内に導入することができる。一例では、(膜28が固定されている)装置10、10’を、サンプル内に浸すことができ、膜28の閾値以下の分子は、膜28を通ってウェル14、14’内に拡散する。別の例では、膜28の閾値以下の分子が膜28を通ってウェル14、14’内に拡散するように、サンプルを膜28の表面に注ぐか、ディスペンスするか、又は他の方法で導入することができる。
図3A及び図3Bに示す装置10’’の例は、分子選択装置26として固体抽出カラム(solid extraction column)30を備えている。固体抽出カラム30は、ハウジング32と、ハウジング32内に入れられた分子抽出材料34と、対向する2つの端部E1、E2のうちの1つにおいてハウジング32に取り付けられた多孔質膜36とを備えている。
ハウジング32は、ポリマ材料(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート等)、ガラス材料又は金属材料(例えばアルミニウム)から形成することができる1以上の壁33を有している。(複数の)ハウジング壁33は、ハウジング32の外周を形成しており、外周内側の空間35は中空である。ハウジング32は、カラム30がウェル14、14’との関係で動作可能な位置にある場合、(複数の)ハウジング壁33がウェル14、14’を包囲するような形状である。ハウジング32は、(上から見て)ウェル14、14’と同じ形状とすることができ、又は図3Aに示すように、ウェル14、14’とは異なった形状とすることができる。(複数の)壁33は、対向する2つの開口端を有する中空円柱、対向する2つの開口端を有する中空立方体、対向する2つの開口端を有する中空矩形角柱、又は対向する2つの開口端を有する中空構造を定めることができる他の任意の形状を形成するものとすることができる。
ハウジング32の空間35内には、分子抽出材料34が入れられている。分子抽出材料34により、特性の異なる分子が、異なった速度で固体抽出カラム30を通過することができる。より詳細には、抽出材料34との結合係数(binding coefficient)が相対的に小さい分子が、抽出材料34との結合係数が相対的に大きい分子より先にカラムを通過する。結合係数が相対的に大きい分子の少なくとも一部はカラム30全体を通過しない。なぜなら、これらの分子は分子抽出材料34の(複数の)表面に付着するためである。分子抽出材料34の例としては、架橋ポリマ球(cross-linked polymer sphere)、シリカ球、ガラス球、アルミナ球、ポリスチレン球、機能性球(functionalized sphere)又はそれらの組合せが挙げられる。架橋ポリマ球の一例は、架橋デキストランである。他の架橋ポリマを同様に使用することができると考えられる。機能性球は、結合係数が相対的に大きい分子の特定の結合を強化する配位子(ligand)又は別のアンカー種(例えば、アミン、チオール、カルボキシル、エチレングリコール、シラノール、DNA、タンパク質等)を有する上述した球(例えば、シリカ、アルミナ、ポリスチレン等)のうちのいずれかである。
使用される分子抽出材料34の量は、ハウジング32により定まる空間35のサイズによって決まる。幾つかの例では、ハウジング32内の抽出材料34を、約2mm長から約数十cm長の範囲のマクロスケールカラムとすることができる。他の例では、ハウジング32内の抽出材料34を、マイクロスケールカラムとすることができる。これらの例では、非常に少量の抽出材料34のビード(bead)又は球を、マイクロ流体オンチップ型プラットフォーム(microfluid-on-a-chip)の(幅及び/又は深さが約10μmから900μmの範囲であり、長さが約1mmから約1cmの範囲である)マイクロ流体チャネル内に入れることができる。
ハウジング壁33は、ハウジング32の対向する2つの端部E1、E2を定めている。これらの端部E1、E2のうちの1つ(例えば、図3A及び図3Bにおける端部E2)に、多孔質膜36が取り付けられている。カラム30がウェル14、14’との関係で動作可能な位置にある場合、多孔質膜36は、ハウジング32と基板の表面S12又は材料の表面S16との間に、かつウェル14、14’と分子抽出材料34との間に配置される。多孔質膜36は、ハウジング32を通り分子抽出材料34を通り過ぎた分子がウェル14、14’へと移動することができるようにしつつ、分子抽出材料34をハウジング32内に保持するものである。多孔質膜36は、カラム30からウェル14、14’への所望の分子の移動を可能とする任意の多孔質材料から形成することができる。多孔質膜36の例としては、厚さが100μm以下である有機材料(例えば、再生セルロース、セルロースエステル、樹脂等)又は無機材料(例えば、焼結ガラス、セラミックス等)が挙げられる。
図3A及び図3Bに示すように、固体抽出カラム30は、分子抽出材料34がウェル14、14’の上に重なるように位置決めされる。これらの例では、固体抽出カラム30は、ウェル14、14’の開口部全体と、ウェル14、14’を包囲する基板12の表面S12又は材料16の表面S16の少なくとも一部とを覆っている。ウェル14、14’内にサンプルを導入することが望ましい場合は、固体抽出カラム30を、ウェル14、14’の上方の適切な位置に配置することができるか、又は、固体抽出カラム30を、ウェル14、14’に隣接する基板12又は材料16の領域に対し取外し可能なように取り付けることができる。取外し可能なように取り付けられる場合、基板12又は材料16と多孔質膜36との間に適切な接着剤を用いることができる。選ばれる接着剤は、サンプルが導入された後に、かつ検出が行われる前に、固体抽出カラム30を基板12又は材料16から取り外すことが可能なものとすることができる。
固体抽出カラム30を用いる場合、サンプルは、端部E1にある空間35の開口部を通してカラム30内に導入される。サンプルの導入は、注入、ピペット操作、ディスペンス又は他の何らかの適切な手法により行うことができる。サンプル内の分子は、分子抽出材料34を通過し、多孔質膜36を通ってウェル14、14’内に入るか、又は分子抽出材料34の表面に付着する(したがって、ウェル14、14’には入らない)。
図4は、分子検出装置10’’’の別の例を示している。この装置10’’’はウェル14、14’のアレイを備えており、そのうちの各々が各分子選択装置26に関連付けられている。図4では、各分子選択装置26は膜28及び28’である。2つの膜28、28’が示されているが、アレイ状の分子選択装置26を、各々、固体抽出カラム30とすることができるか、又はアレイ状の分子選択装置26のうちの幾つかを膜28とすることができ、同じアレイの他の分子選択装置26を固体抽出カラム30とすることができることが理解されるべきである。
この例では、膜28、28’は、基板12から別々に取り外すことができるように、基板12のそれぞれの領域に別個に取り付けられている。一例では、1つの膜28又は28’及び対応するウェル14を同時に使用することができる。この例では、サンプルを、膜28のうちの1つを介して対応するウェル14内にろ過することができる一方で、別の膜28’及びウェル14は未使用のままである。別の例では、膜28、28’の各々及び対応するウェル14を同時に使用して、分子を各ウェル14内に導入し、ウェル14の各々を用いて検出を同時に行うことができる。単一の膜28が両ウェル14を覆っていてもよい。
図4の装置10’’’は、少なくとも部分的に、ウェル14が基板12内に形成されることによって、図1A及び図1Bに示した装置10に類似している。しかし、基板12上に存在する材料16にウェル14’を形成することにより、図2に示した装置10’と同様にして装置10’’’を作製することができる。
図4に示す例としての装置10’’’では、2つのウェル14内の信号増幅構造体18は異なっている。ウェル14のうちの一方(図の左側)は、4つの指状信号増幅構造体18を有しており、ウェル14のうちの他方(図の右側)は、3つの円錐状信号増幅構造体18を有している。単一の型を用いてこのようなウェル14及び構造体18を作製することができることが理解されるべきである。
図5は、分子検出システム100の一例を示している。システム100は、装置10、10’、10’’又は10’’’の一例を備えている。図示しているように、サンプルの分子(Aと表記)が分子選択装置26を通じてウェル14、14’内へとろ過された後であり、かつ分子選択装置26が取り外された後の装置10’が示されている。この例では、信号増幅構造体18はSERS信号増幅構造体であり、SERS信号増幅構造体の各々は、柱状又は指状の基部22と、基部22の先端部又は頂部に堆積したラマン信号増強材料20とを有している。
図5に示すシステム100は、ラマン分光計又は読取装置を備えたSERSシステムである。ラマン読取装置は、レーザ源38及び光検出器40を備えている。
レーザ源32は、狭スペクトル線幅を有しかつ可視範囲内又は近赤外範囲内の単色光ビームLを放出するものとして選ばれた光源とすることができる。レーザ源32は、定常状態レーザ又はパルスレーザから選ぶことができる。レーザ源32は、光Lを分子検出装置10’に照射できるように位置決めされている。レンズ(図示せず)及び/又は他の光学機器(例えば光学顕微鏡)を使用して、所望のやり方でレーザ光Lの方向付けを行う(例えば屈曲させる)ことができる。一例では、レーザ源32はチップに組み込まれる。また、レーザ源32は、電源(不図示)に動作可能なように接続することができる。
システム100の動作中、サンプルは、分子選択装置26に導入され、所望の時間、分子選択装置26によってろ過することが可能である。ろ過時間(exposure time)は、1秒間から10分間までの任意の時間とすることができる。ろ過時間は、使用されるサンプル、使用される装置26等に応じて長いか又は短い可能性がある。ウェル14、14’内に分子Aが入った後、分子選択装置26は取り外される。ウェル14、14’内に存在するいかなる不活性流体24も、分子Aの導入前に取り除くことができるか、又は分子Aが導入されるときにウェル14、14’内に残っている可能性があることが理解されるべきである。(例えば分子選択装置26を配置する前に)不活性流体24を(複数の)ウェル14、14’から注ぎ出すか、(例えば、分子選択装置26を配置する前に)流体24を(複数の)ウェル14、14’からピペットで取り除くか若しくは吸引するか、(複数の)ウェル14、14’にガスを流すか、(複数の)ウェル14、14’から流体24を蒸発させるか、又は他の任意の適切な技法により、不活性流体24の除去を行うことができる。
分子選択装置26によりろ過される分子Aは、重力と微小毛細管力と化学的な力との少なくとも1つにより、SERS信号増幅構造体18の表面に沈降することができる。
そして、レーザ源32が操作され、信号増幅構造体18に向かって光Lが放出される。アレイを使用する場合、ウェル14、14’のアレイ(及びその中の構造体18)全体を、同時に露光することができるか、又は1以上の個々のウェル14、14’(及びその中の構造体18)を、特定の時点で露光することができることが理解されるべきである。したがって、同時の検出又は並行した検出を行うことができる。分子検出装置10’のSERS信号増幅構造体18又はその付近に集中した検体分子Aは、光又は電磁放射線Lと相互作用し、光又は電磁放射線Lを散乱させる(散乱した光又は電磁放射線は符号Rとして表されていることに留意されたい)。分子Aと、SERS信号増幅構造体18のSERS信号増強材料20との相互作用により、ラマン散乱放射線Rの強度が増加する。ラマン散乱放射線Rは、光検出器40に向かって方向が変化させられる。光検出器40は、いかなる反射成分及び/又はレイリー成分も光学的にフィルタリングで除去し、その後、入射波長に近い各波長についてラマン散乱放射線Rの強度を検出することができる。
レーザ源38及び光検出器40の両方にプロセッサ46を動作可能なように接続し、これらの要素38、40の両方を制御することができる。プロセッサ46はまた、光検出器40から読取値を受け取ることにより、ラマンスペクトル測定値を生成することもでき、その値の山及び谷は、その後、検体分子Aを分析するために用いられる。図示していないが、ラマン読取装置は、上述した電源(例えば、バッテリ、プラグ等)及びデータI/O(入出力)ディスプレイを備えていてもよい。
システム100は、分子検出装置10’と光検出器40との間に配置された光フィルタリング素子42も備えていてもよい。この光フィルタリング素子42を使用して、いかなるレイリー成分及び/又は所望の領域ではないラマン散乱放射線Rのあらゆるものをも光学的フィルタリングで除去することができる。システム100は、分子検出装置10’と光検出器40との間に配置された光分散素子(light dispersion element)44を備えていてもよい。この光分散素子44により、ラマン散乱放射線Rを種々の角度で分散させることができる。素子42及び44は、同じ装置(例えばラマン読取装置)の一部とすることができるか、又は別個の装置とすることができる。
本開示内容を更に例示するために、本明細書にて例を与える。これらの例は、例示のために提供されるものであって、本開示内容の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことが理解されるべきである。
[例1]
分子検出装置の例を、再生セルロースから作られた分子サイズ選択膜を分子選択装置として備えた試験用ストリップの形態で作る。試験用ストリップのウェル内のSERS構造体は、金のナノ指状構造体のペンタマである。試験用ストリップを、メラミン濃度の異なるいくつかの乳サンプルに浸す。乳サンプル1(図6の符号62)には100ppmのメラミンを加え、乳サンプル2(図6の符号63)には10ppmのメラミンを加え、乳サンプル3(図6の符号64)には1ppmのメラミンを加え、乳サンプル4(符号65)にはメラミンを全く加えていない。相対的に小さな分子(例えばメラミン)が膜を通って分子検出装置のウェル内に拡散するようにすべく、約10分間、各ストリップを各サンプル内に置く。その時間の経過後、ストリップを各サンプルから取り出し、膜を取り外す。ウェル内の分子についての表面増強ラマン分光法を行う。
比較例として、分子選択装置を有していない分子検出装置も試験した。この比較例では、水(図6の符号60)及び生乳(図6の符号61。100ppmのメラミンを含む。)を、ウェル内にそれぞれ入れ、表面増強ラマン分光法を行う。
図6に、比較のための水のサンプル(符号60)と、比較のための生乳のサンプル(符号61)と、ろ過された乳サンプル(符号62〜65)とのSERSスペクトルを示している。メラミンのピークは約710cm−1にある。図示しているように、比較のための生乳サンプル(符号61)に存在していた他の成分が、分子検出装置のウェル内のSERS増幅構造体を覆い、メラミンが検出されていない。メラミンが0ppmのサンプル(符号65)を除く、分子サイズ選択膜を有する試験用ストリップを使用してろ過されたサンプル(符号62〜64)の各々においてメラミンの信号が検出されている。10ppmのサンプル(符号63)及び1ppmのサンプル(符号64)の信号強度は、図6の目盛りによりそれほど顕著なものではない。乳に加えられたメラミンの濃度が増加するにつれて、メラミンピークのSERS強度が大きくなっている。本例の分子サイズ選択膜を用いてのメラミンの検出限界は、乳サンプルの1ppmであった。
[例2]
分子検出装置の例を、固体抽出カラムを分子選択装置として有する試験用ストリップの形態で作る。試験用ストリップのウェル内のSERS構造体は、金のナノ指状構造体のペンタマである。固体抽出カラムは、ゲルろ過クロマトグラフィに基づく。より具体的には、このカラムは、メラミンをろ過するために望ましい細孔サイズを有する架橋デキストラン系材料が入れられたポリエチレンハウジングを有する。
メラミン濃度の異なるいくつかの乳児用調製乳(infant formula)サンプルを、カラム内に入れる。乳児用調製乳サンプル1(図7の符号72)に1ppmのメラミンを加え、乳児用調製乳サンプル2(図7の符号73)に0.5ppmのメラミンを加え、乳児用調製乳サンプル3(図7の符号74)に0.1ppmのメラミンを加え、乳児用調製乳サンプル4(図7の符号75)にはメラミンを加えていない。相対的に小さな分子(例えばメラミン)がカラムを通過して分子検出装置のウェル内に入るようにするために、各サンプルを有するカラムを、約1分間、各ウェルの上方の適切な場所に置く。その時間の経過後、カラムを取り外す。ウェル内の分子についての表面増強ラマン分光法を行う。
例1の分子検出装置を再び使用して、乳児用調製乳の1ppmメラミンサンプルを試験する。このサンプルは、図7において符号71として示している。
比較例として、分子選択装置を備えていない分子検出装置も試験した。比較例では、水をウェル内に入れ、表面増強ラマン分光法を行う。この比較サンプルは、図7において符号70として示している。
図7に、比較のための水サンプル(符号70)と、膜によりろ過された乳児用調製乳サンプル(符号71)と、カラムによりろ過された乳児用調製乳サンプル(符号72〜75)とのSERSスペクトルを示している。メラミンピークは約710cm−1にある。図示しているように、膜によりろ過された乳児用調製乳(符号71)に存在していた他の成分が、メラミンSERS信号の検証を幾分か困難なものとしている。しかし、メラミンが0ppmのサンプル(符号75)を除く、分子抽出カラムを有する試験用ストリップを使用してろ過されたサンプル(符号72〜74)の各々において、メラミン信号が検出されている。乳児用調製乳に加えられたメラミンの濃度が増加するにつれて、メラミンピークのSERS強度が大きくなっている。カラムを使用してのメラミンの検出限界は、調製乳サンプルにおいて0.1ppmであった。
本明細書において述べた範囲は、提示された範囲と、提示された範囲内の任意の値又は部分的な範囲とを含むものであることが理解されるべきである。例えば、約0.1nmから約100nmという範囲は、約0.1nmから約100nmの明示的に言及された範囲のみならず、0.2nm、0.7nm、15nm等の個々の値と、約0.5nmから約50nm、約20nmから約40nm等の部分的な範囲とをも含むものとして解釈されるべきである。さらに、値を記述する際に「約」を用いている場合、これは、提示された値からの僅かな変化(最大±10%)も含むという意味である。
本明細書に開示する例の説明及び権利主張をする場合においては、別途、文脈によって明示的に示されていない限り、「a」、「an」、「the」といった単数形は複数の指示対象を含むものである。
幾つかの例を詳細に説明したが、当業者には、開示した例を変更することができることが明らかであろう。したがって、これまでの説明は、非限定的なものとしてみなされるべきである。