JP2015231564A - 癒着防止材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シルクフィブロイン多孔質体を用いた癒着防止材である。
【選択図】なし
Description
また、腹腔内手術後の臓器癒着は、イレウスや疼痛、不妊などの合併症の原因となり、時には次回手術が非常に困難になるなどの問題を起こす可能性がある。その発生頻度も腹部手術では非常に高く、患者にとって慢性的な腹部痛、腸閉塞、不妊症など深刻な病状が持続することになる。
したがって、手術中の臓器を含む組織の乾燥及び酸化を抑制し、また術後の生体組織間の癒着を防止するために、癒着が発生する可能性がある組織を覆い、保護する目的で、従来から癒着防止膜が実用化されている。
一方、生体組織を物理的に分離するために、シリコン、テフロン(登録商標)、ポリウレタン、酸化セルロース等を癒着防止膜として用いる方法が行われている。しかし、これらの材料は非吸収性材料であるために、生体組織面に残存し、組織の修復を遅らせるばかりではなく、感染、炎症の発生原因となっている。
一方、天然高分子では皮膚への親和性が高いが、強度が低い等の問題があった。そのため、天然高分子では、架橋剤による架橋体や、強度補強材の使用やガーゼ等で包むことで、強度を確保する必要があった。強度補強材を使用した場合には、構造が複雑になることが多く実用的でない。
また、感染症の危険がない多糖類を使用した癒着防止材についても報告がある(特許文献3)。しかしながら、多糖類を使用した材料では強度が足りず、術後に体内に残すために縫合したい場合に、強度不足で縫合がしにくいという問題がある。また縫合できたとしても、縫合状態をある程度の期間維持することは難しい。
すなわち本発明は、
(1)シルクフィブロイン多孔質体を用いた癒着防止材、
(2)前記多孔質体が、多孔質層と該多孔質層の一方の面のみに細孔を有しないフィルム層を有する上記(1)に記載の癒着防止材、
(3)前記多孔質体が、多孔質層とその両面に細孔を有しないフィルム層を有する上記(1)に記載の癒着防止材、
(4)前記多孔質体が、多孔質層のみからなる上記(1)に記載の手術用衛生材料、及び
(5)前記多孔質体の引張り強度が1〜400kPaである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の癒着防止材、
を提供するものである。
ここで、シルクフィブロイン多孔質体とは、シルクフィブロインを含む、好ましくは、10〜300μmの平均細孔径を有する多孔質体をいう。
(保水率の算出方法)
なお、保水率は次のように測定した。多孔質体を60×30×20mmに成形し、測定試料とし、純水中に十分浸漬した試料の重さを測定する(Wc)。これを再度純水中に十分浸漬し、表面を純水で濡らしたガラス製の平板(松浪ガラス製MSAコートマイクロスライドガラス、76×52mm)を45度傾けて設置し、その上に一番広い面(60×30mm面)を下にして長尺方向を上下になるように載せ、10分間静置する。その後、試料の重さを測定する(Wd)。
保水率(%)=100−(Wc−Wd)×100/(Wc)
シルクフィブロイン多孔質体(多孔質層)に純水を100μl滴下し、吸収されるまでの時間を測定した。吸水速度は、測定した時間を用いて、下記の式より算出した値である。測定は5回行い、その平均値を吸水速度とした。
吸水速度(μl/s)=純水滴下量/吸水に要した時間
(蒸発速度の算出方法)
シルクフィブロイン多孔質体(多孔質層)を48時間純水中に浸漬し、完全に吸水させた後、温度:40℃、湿度:50%の条件に設定した恒温恒湿槽中で金網上に静置し、10分経過までは1分ごとに、10分以降は2分ごとにその重量を測定し、その変化を水の蒸発量の変化とした。蒸発速度は、静置して1分後から30分までの蒸発量の変化から下記の式より算出した値である。
蒸発速度(g/m2・s)=(蒸発量の変化)/多孔質体表面積
また、本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体は、多孔質層と、その一方の面又は両面に細孔を有しないフィルム層を有していてもよく、一方、シルクフィブロイン多孔質体が多孔質層のみからなっていてもよい。
フィルム層は表面が面積比で10%以下の細孔を有し、多孔質層は表面が面積比で50〜98%の細孔を有するものであると好ましい。また、フィルム層は、その細孔直径が0.5μm以上の細孔が20個/mm2以下(より好ましくは、10個/mm2以下)であると好ましい。ここで、表面の細孔の面積比、細孔の個数及び細孔直径は、走査型電子顕微鏡写真を画像解析ソフトImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて画像処理することで測定したものである。
また、フィルム層の吸水速度は、0.1〜3.5μl/sであることが好ましく、1.5〜3.5μl/sであることがより好ましく、さらに好ましくは2〜3.5μl/sである。
さらに、フィルム層の蒸発速度は、0.03〜0.07g/m2・sであることが好ましく、0.03〜0.06g/m2・sであることがより好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.05g/m2・sである。吸水速度及び蒸発速度が上記範囲内であると、本発明の効果が良好となる。
また、フィルム層は、細孔が極めて少ないために、表面が平滑であり、細胞接着性等が低く、他の生体組織との癒着を抑えることや、フィルム層の液透過性を制御することで薬剤の放出速度を制御することが可能である。また、患部面に多孔質層があるために、患部からの滲出液を吸収することができる。
また、本発明の癒着防止材は、上述のようにその多孔質層が滲出液を保持する機能を持つが、さらに、これに薬剤を含ませることで、創傷の治癒を促進する機能を持たせることができる。例えば、殺菌剤、抗生物質、生理活性物質などを、多孔質層に含浸もしくは塗布することで、治癒を促進させることができる。
一方、本発明の癒着防止材が、多孔質層のみからなる多孔質体により構成される場合には、患部からの滲出液が該多孔質層を通過して、反対側に滲出することが想定されるが、該癒着防止材は多孔質層自体でも、十分な保水性を有するので、本発明の効果を十分に奏するものである。
また、シルクフィブロイン多孔質体は、乾燥することで、硬く、脆くなるが、体内で使用した場合には体液が存在し乾燥することがないので、この点については問題が発生しない。
本発明で用いられるシルクフィブロイン多孔質体は、シルクフィブロイン水溶液に特定の添加剤を加えて、該水溶液を凍結させ、次いで融解させることにより製造することができる。
ここで用いられるシルクフィブロインは、家蚕、野蚕、天蚕等の蚕から産生されるものであればいずれでもよく、その製造方法も問わない。本発明におけるシルクフィブロイン多孔質体の製造においては、シルクフィブロイン水溶液として用いるが、シルクフィブロインは溶解性が悪く、直接水に溶解することが困難である。シルクフィブロイン水溶液を得る方法としては、公知のいかなる手法を用いてもよいが、高濃度の臭化リチウム水溶液にシルクフィブロインを溶解後、透析による脱塩、風乾による濃縮を経る手法が簡便である。
シルクフィブロイン多孔質体の製造方法において、シルクフィブロインの濃度は、脂肪族カルボン酸を添加したシルクフィブロイン溶液中で0.1〜40質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることがより好ましく、1〜12質量%であることがさらに好ましい。この範囲内に設定することで、十分な強度を持った多孔質体を効率的に製造することができる。
なお、アミノ酸には、L型とD型の光学異性体があるが、L型とD型を用いた場合に、得られる多孔質体に違いが見られないため、どちらのアミン酸を用いてもよい。
その後に、凍結したシルクフィブロイン溶液を、融解することによってシルクフィブロイン多孔質体が得られる。融解の方法は特に制限はないが、自然融解のほか、恒温槽内に保持する方法などが挙げられる。
該シートとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂からなるシート、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)などからなる離型処理されたシートなどが好ましく挙げられる。これらのシートを用いた場合、細孔が少なく平滑なフィルム層を得ることができる。これらのシートの採用については、多孔質体の用途に応じて、適宜選択すればよい。
また、シートは、熱伝導を阻害しにくい厚さ1mm以下のものを用いることが好ましい。
実施例1
シルクフィブロイン水溶液は、フィブロイン粉末(KBセーレン社製、商品名:「フィブロインIM」)を9M臭化リチウム水溶液に溶解し、遠心分離で不溶物を除去したのち、超純水に対して透析を繰り返すことによって得た。得られたシルクフィブロイン水溶液を透析チューブ中で風乾し濃縮した。この濃縮液に蟻酸水溶液を添加し、シルクフィブロイン濃度が5質量%、蟻酸濃度が2質量%であるシルクフィブロイン溶液を調製した。
このシルクフィブロイン溶液をアルミ板で作製した型(内側サイズ;80mm×40mm×4mm)に流し込み、低温恒温槽(EYELA社製NCB−3300)に入れて凍結保存した。
凍結は、予め低温恒温槽を−5℃に冷却しておいて低温恒温槽中にシルクフィブロイン溶液を入れた型を投入して2時間保持し、その後−20℃に冷却後5時間保持した。凍結した試料を自然解凍で室温に戻してから、型から取り出し、超純水に浸漬し、超純水を1日2回、3日間交換することによって、使用した蟻酸を除去した。さらに、型の側面に接していた4面のフィルム層を切削して取り除き、多孔質層の部分で切断して、多孔質層の一方の面のみにフィルム層を有するシルクフィブロイン多孔質体を得た。
得られたシルクフィブロイン多孔質体の力学的特性を、INSTRON社マイクロテスター5548型を用いて評価した。作製したシルクフィブロイン多孔質体から40mm×4mm×4mmの試験片を切り出し、この試験片を2mm/minの条件で引っ張った際の最大破断強度(引っ張り強度)と最大ひずみ(伸び)を測定した。また、強度とひずみをグラフ化した時の傾きから弾性率を求めた。その結果を表1に示す。なお、測定結果は、作製した多孔質体から5点の試験片を作製し、さらに異なる日に作製した多孔質体から5点の試験片を切り出し、それら10点について測定を行った平均値を示している。
実施例1において、蟻酸に代えて、それぞれ表1〜3に記載する添加剤を用いたこと以外は実施例1同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を得た。その力学的特性、保水率、吸水速度及び蒸発速度の評価結果を表1〜3に示す。また、得られた多孔質体の断面の走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ図2〜18に示す。
尚、保水率、吸水速度及び蒸発速度は、前述のようにして測定した。
実施例1において、それぞれ表2に記載する材質の型を用いたこと以外は実施例1同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を得た。その吸水速度の測定結果を表2に示す。
市販のポリウレタンスポンジ(住友スリーエム社製)を用い、測定用サンプル(60mm×30mm×20mm)に切り出し、保水率を測定し、その結果を表1に示す。
A:アルミニウム板(テフロン(登録商標)シートあり)
B:鏡面仕上げアクリル板(テフロン(登録商標)シートなし)
C:鏡面仕上げポリスチレン板(テフロン(登録商標)シートなし)
また、実施例2、5、6及び11で作製したシルクフィブロイン多孔質体の保水率は、98%〜99%の範囲にあることが分かった。
アルミ板で作製した型のサイズを130mm×80mm×12mm(内側サイズ)としたこと以外、実施例6と同様にして、シルクフィブロイン多孔質体を製造した。
本発明のシルクフィブロイン多孔質体の安全性に関する非臨床試験の一環として、皮内反応試験、皮膚一次刺激性試験及び皮膚感作性試験を行った。なお、本試験は、「申請資料の信頼性の基準」(薬事法施行規則第43号)を基準として、「医療用具の製造(輸入)承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」(2003年2月13日付医薬審発第0213001号)と、「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」(2003年3月19日付医療機器審査No.36)に従い行った。
実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体を5mm×5mm×5mmのサイズに切り出して試験片とした(多孔質層のみからなるフィブロイン多孔質体)。
次に、シルクフィブロイン多孔質体シートの生理食塩液抽出液及びゴマ油抽出物をウサギ3匹の背部に皮内投与し、局所刺激性(組織障害性および炎症誘起性)の有無について検討した。具体的には、実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体から切り出された上記試験片に生理食塩液又はゴマ抽を加え、オートクレーブ内で120℃、1時間の条件で抽出し、各試験液とした。また、抽出溶媒(生理食塩液又はゴマ油液)のみを同様な条件で処理し、対象液とした。ウサギ1匹につき、試験液及び対照液をそれぞれ0.2mLずつ背部の5ヶ所に皮内投与した。生理食塩液抽出による試験液では、全例で皮内反応は認められず、「刺激性無し」と判断された。一方、ゴマ油抽出による試験液では、3例中2例に投与後24時間からごく軽微な紅斑が認められた。この紅斑は対照液であるゴマ油でも見られ、対照液と同等であった。一次刺激係数は0.0以下を示し、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
上記皮内反応試験で用いられた各試験液及び対象液を用いて、局所刺激性(組織障害及び炎症誘起性)の有無について検討した。投与は、1溶媒あたり雄ウサギ6匹を用い、1匹につき、試験液及び対象液をそれぞれ背部の無傷皮膚、擦過傷皮膚に0.5mLずつ投与した。
生理食塩液抽出による試験液では、6例中3例で投与後1時間からごく軽度または軽微な紅斑が認められた。この紅斑は対象液である生理食塩液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.3であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
ゴマ油液による抽出液では、6例中4例で投与後1時間からごく軽度な紅斑が認められた。この紅斑は対象液であるゴマ油液でもみられ、対象液と同等であった。なお、一次刺激性指数は0.1であり、「無視できる程度の刺激性」と判断された。
Maximization Test法により、実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体のメタノール抽出液について、雄性モルモット10匹を用いて、モルモット皮膚に対する感作性の有無を検討した。
皮膚感作性試験前に、適切な抽出溶媒を決めるために、アセトンとメタノールを用いて抽出率を算出した。その結果、アセトンよりもメタノールの方が高い抽出率を示したために、皮膚感作性試験に用いる抽出溶媒をメタノールとした。
実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体から切り出された上記試験片に、メタノール10mLを加え、室温で恒温浸とう培養機を用いて抽出した。抽出は24時間以上行った。対照群として、オリーブ油で感作する陰性対照群、及び1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンで感作する陽性対照群を設けた。各対照群の動物数はそれぞれ5匹とした。
試験液投与群及び陰性対照群とも、抽出液の6.25、12.5、25、50、100%液並びにアセトンで惹起した結果、惹起後24、48及び72時間のいずれの観察時期においても皮膚反応は見られなかった。
一方、陽性対照群では、0.1%1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンの惹起により、5例全例で惹起後、24,48及び72時間後に明らかな陽性反応が認められた。
この試験結果から、実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体には、皮膚感作性を示す物質は存在しないと判断された。
このように、実施例21により製造されたシルクフィブロイン多孔質体は、「無視できる程度の皮膚刺激性」と「皮膚感作性を示す物質は存在しない」ことにより、安全性が高く、本発明の癒着防止材として好適に使用できることが確認された。
シルクフィブロイン多孔質体の細胞に対する有害性の無いことを確認するために、あらかじめ平面培養していた線維芽細胞培養ディッシュにシルクフィブロイン多孔質体を静置した。シルクフィブロイン多孔質体自身またはシルクフィブロイン多孔質体から溶出する成分が細胞に対して毒性がある場合、シルクフィブロイン多孔質体を中心とした線維芽細胞の脱離、もしくは培養された細胞全体の脱落が生じるはずである。
しかしながら、図19に示したように、シルクフィブロイン多孔質体の表面自身に細胞毒性を持つことが無く、静置されたシルクフィブロイン多孔質体の周囲にまで細胞が遊走・接近し、阻止円を作る様な現象は認められなかった。なお、図中上部(濃色部分)がシルクフィブロイン多孔質体側である。
一方、シルクフィブロイン多孔質体は細胞毒性が無く、同時に組織親和性に富んでいるにも拘らず細胞接着性に乏しいために、周囲組織との相互作用を持つこと無く損傷部位の組織修復に伴った周囲健常組織との相互作用(癒着)を防止できる。このことは、シルクフィブロイン多孔質体が優れた創傷癒着防止材としての機能を果たすメカニズムである。なお、ゼラチンフィルムと称される癒着防止フィルムが市販されているが、該ゼラチンフィルムも細胞接着性が高く、ゼラチンフィルム自身が介在して両側組織を癒着に導く。
Claims (5)
- シルクフィブロイン多孔質体を用いた癒着防止材。
- 前記多孔質体が、多孔質層と該多孔質層の一方の面のみに細孔を有しないフィルム層を有する請求項1に記載の癒着防止材。
- 前記多孔質体が、多孔質層とその両面に細孔を有しないフィルム層を有する請求項1に記載の癒着防止材。
- 前記多孔質体が、多孔質層のみからなる請求項1に記載の手術用衛生材料。
- 前記多孔質体の引張り強度が1〜400kPaである請求項1〜4のいずれか1項に記載の癒着防止材。
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