以下、本発明の実施の形態によるアキシャルピストン式油圧ポンプとしての斜板式油圧ポンプを、油圧ショベルに代表される建設機械に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図8は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は斜板式の油圧ポンプで、該油圧ポンプ1は、後述のケーシング2、回転軸4、シリンダブロック5、複数のシリンダ6、ピストン7、シュー8、斜板支持体10、斜板11および弁板12を含んで構成されるものである。油圧ポンプ1は、例えば油圧ショベルの原動機(例えば、エンジンおよび/または電動機)によって回転駆動され、作動油タンク(図示せず)内から吸込んだ作動油を高圧の圧油として吐出するものである。
2は油圧ポンプ1の外殻となる筒状のケーシングで、該ケーシング2は、図1に示すように、筒状のケーシング本体2Aと、該ケーシング本体2Aの両端側を閉塞したフロントケーシング2B、リヤケーシング2Cとから構成されている。この場合、ケーシング2のケーシング本体2Aは、リヤケーシング2Cと一体に形成されている。しかし、ケーシング本体2Aは、フロントケーシング2Bと一体に形成してもよく、フロントケーシング2Bとリヤケーシング2Cとは別体に形成する構成としてもよい。
ケーシング本体2Aの一側に位置するフロントケーシング2Bには、後述の斜板支持体10が斜板11の裏面(背面)側に対向して設けられている。また、ケーシング本体2Aの他側に位置するリヤケーシング2Cには、図1中に示す如く一対の給排通路3A,3Bが設けられている。該給排通路3A,3Bのうち一方の給排通路3Aは、低圧側の吸入通路となってタンク(図示せず)に接続され、他方の給排通路3Bは、高圧側の吐出通路となって油圧シリンダおよび/または油圧モータ等の油圧アクチュエータに方向制御弁(いずれも図示せず)を介して接続されるものである。
4はケーシング2内に回転可能に設けられた回転軸で、該回転軸4は、フロントケーシング2Bとリヤケーシング2Cとにそれぞれ軸受を介して回転可能に支持されている。回転軸4の一端側は、フロントケーシング2Bから軸方向に突出する突出端4Aとなり、この突出端4Aには前記エンジンおよび/または電動機が動力伝達機構(図示せず)等を介して連結されるものである。
5は回転軸4と一体的に回転するようにケーシング2内に設けられたシリンダブロックで、該シリンダブロック5には、その周方向に離間して軸方向に延びる複数(例えば8個)のシリンダ6が設けられている。なお、シリンダブロック5に設けるシリンダ6の個数は、例えば7個でもよく、9個以上であってもよい。シリンダブロック5の各シリンダ6には、シリンダポート6Aがそれぞれ形成され、これらのシリンダポート6Aは、後述する弁板12の吸入ポート12A、吐出ポート12Bと間欠的に連通するものである。
各シリンダ6のシリンダポート6Aは、図2中に点線で示すように、楕円形、長円形または円形状のポート穴(穴径D)として形成され、その個数はシリンダ6と等しい個数となっている。各シリンダポート6Aは、シリンダブロック5が弁板12に対して矢示C方向(図2、図3参照)に回転するときに、後述の吸入ポート12A、吐出ポート12Bと間欠的に連通するようにシリンダブロック5と一体に回転するものである。
7はシリンダブロック5の各シリンダ6内にそれぞれ摺動可能に挿嵌された複数のピストンで、該各ピストン7は、シリンダブロック5の回転に伴ってシリンダ6内を往復動し、吸入行程と吐出行程とを繰返す。即ち、各ピストン7は、夫々のシリンダ6内で上死点TDC(図2参照)から下死点BDC(図2参照)へと摺動変位するときに吸入行程を行い、下死点BDCから上死点TDCへと摺動変位するときに吐出行程を行うものである。
8は各ピストン7に設けられた複数のシューで、該各シュー8は、シリンダ6から後述の斜板11側に向けて突出するピストン7の突出端側にそれぞれ揺動可能に設けられている。これらのシュー8は、後述する斜板11の平滑面11Aに対し各ピストン7からの押付力(油圧力)により押付けられる。各シュー8は、リング状をなすシュー押え9により斜板11の平滑面11Aに押付けられた状態に保持されている。シュー押え9と各シュー8とは、この状態で回転軸4、シリンダブロック5および各ピストン7と一緒に回転し、各シュー8は、後述の平滑面11A上をリング状の円軌跡を描くように摺動変位するものである。
10はケーシング2のフロントケーシング2Bに設けられた斜板支持体で、該斜板支持体10は、図1に示す如く、回転軸4の周囲に位置して斜板11の背面(裏面)側に配置され、ケーシング2のフロントケーシング2Bに固定されている。固定容量型の斜板式油圧ポンプの場合に、斜板支持体10は斜板11を背面側から固定的に支持している。一方、可変容量型の斜板式油圧ポンプの場合は、斜板11が斜板支持体10により傾転可能に支持されるものである。
11はケーシング2内に斜板支持体10を介して設けられた斜板で、該斜板11の表面側は、図1に示すように、各シュー8を摺動可能に案内する平滑面11Aとなっている。また、斜板11には、その板厚方向に貫通して延びる貫通穴11Bが設けられ、該貫通穴11B内には、回転軸4が隙間をもって挿通されている。
12はケーシング2内に位置してリヤケーシング2Cとシリンダブロック5との間に設けられた弁板である。この弁板12は、シリンダブロック5を挟んで斜板11とは軸方向の反対側となる位置に配置され、リヤケーシング2Cに固定されている。ここで、リヤケーシング2Cと一緒に弁板12は、回転軸4と一体に回転するシリンダブロック5を回転可能に支持し、この状態で弁板12はシリンダブロック5の端面に摺接している。
図2、図3に示すように、弁板12には、一対の眉形状をなす給排ポート(即ち、吸入ポート12Aと吐出ポート12B)が一対の切換ランド12C,12Dを挟んで形成されている。ここで、吸入ポート12Aは、リヤケーシング2Cの給排通路3A,3Bのうち低圧側となる給排通路3Aに常時連通し、吐出ポート12Bは、高圧側となる給排通路3Bと常時連通している。
弁板12の吸入ポート12Aと吐出ポート12Bは、シリンダブロック5の回転時に各シリンダ6のシリンダポート6Aと間欠的に連通する。このとき、各シリンダ6内を往復するピストン7は、その吸入行程で低圧側の給排通路3Aから吸入ポート12Aを介して各シリンダ6内に作動油を吸込みつつ、吐出行程では各シリンダ6内で高圧状態となった圧油を吐出ポート12Bを介して高圧側の給排通路3Bに向けて吐出させる。
弁板12に形成した一対の切換ランド12C,12Dのうち一方の切換ランド12Cは、ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる位置(即ち、上死点TDC側の位置)に配置されている。他方の切換ランド12Dは、ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わる位置(即ち、下死点BDC側の位置)に配置されている。また、弁板12には、吐出ポート12Bの始端側にノッチ12Eが設けられ、該ノッチ12Eは、吐出ポート12Bの始端から切換ランド12D側に向けて三角形状に延びる切欠きとして形成されている。
図2中に示す角度θ1は、シリンダ6内でピストン7により予膨張が行われる予膨張区間を表している。即ち、シリンダブロック5が弁板12に対して矢示C方向に回転しているときに、吐出行程を終えて吐出ポート12Bの終端から遮断された状態のシリンダポート6Aが吸入ポート12Aの始端に連通し始めるまでの間、当該シリンダポート6Aに連通するシリンダ6内では、ピストン7が僅かに摺動変位して所謂予膨張が行われる。この予膨張は、シリンダポート6Aが吸入ポート12Aの始端に連通し始めるまで続けられる。
換言すると、角度θ1の予膨張区間は、吐出ポート12Bの終端からシリンダポート6Aの穴径Dに相当する距離だけ離れた部位と、吸入ポート12Aの始端との間に位置する区間である。角度θ1の予膨張区間では、ピストン7がシリンダ6内で上死点TDC側から下死点BDC側へと僅かに摺動変位しても、シリンダポート6Aからシリンダ6内に油液が吸込まれることはない。
図2中に示す角度θ2は、シリンダ6内でピストン7により予圧縮が行われる予圧縮区間を表している。即ち、シリンダブロック5が弁板12に対して矢示C方向に回転しているときに、吸入行程を終えて吸入ポート12Aの終端から遮断された状態のシリンダポート6Aが吐出ポート12Bの始端に連通するまでの間にわたって、当該シリンダポート6Aに連通するシリンダ6内では、ピストン7が僅かに摺動変位して所謂予圧縮が行われる。この予圧縮は、シリンダポート6Aが吐出ポート12Bに連通するまで続けられる。
換言すると、角度θ2の予圧縮区間は、吸入ポート12Aの終端からシリンダポート6Aの穴径Dに相当する距離だけ離れた部位と、吐出ポート12Bの始端との間に位置する区間である。角度θ2の予圧縮区間では、ピストン7がシリンダ6内で下死点BDC側から上死点TDC側へと僅かに摺動変位することにより、シリンダポート6Aが吐出ポート12B(正確にはノッチ12E)に連通するまでシリンダ6内の油液が予圧縮される。
13は弁板12の一方の切換ランド12Cに設けられた小径の排出穴で、該排出穴13は、シリンダブロック5の回転に伴って各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる途中で、該当するシリンダ6内に残った油液の圧力をシリンダポート6A側から後述の補給路18に向けて排出(流出)させる機能を有している。ここで、シリンダブロック5が弁板12に対して矢示C方向に回転する場合に、排出穴13は、切換ランド12Cのうち上死点TDCよりも回転方向(矢示C方向)で僅かに後側となる位置に配置されている。
即ち、排出穴13は、前記吐出行程の最後でシリンダ6内に残った圧力を当該シリンダ6の外部にシリンダポート6Aを介して排出するため、吐出行程を終えて吐出ポート12Bから遮断された状態のシリンダポート6A(シリンダ6)と連通する位置に配置されている。換言すると、排出穴13は、切換ランド12Cのうち前述した角度θ1の予膨張区間の始端寄りとなる位置に配置されている。このため、穴径Dのシリンダポート6Aが吐出ポート12Bから遮断されるまでは、シリンダポート6Aが排出穴13に連通することはなく、排出穴13に連通したシリンダポート6Aは、角度θ1分だけ切換ランド12C上を回転して吸入ポート12Aの始端と連通することになる。
14は弁板12の切換ランド12Dに設けられた小径の予圧導入穴で、該予圧導入穴14は、シリンダブロック5の回転に伴って各ピストン7が吸入行程を終えて吸入ポート12Aの終端から遮断された状態のシリンダ6(即ち、シリンダポート6A)と連通する位置に配置されている。シリンダブロック5が弁板12に対して矢示C方向に回転する場合に、予圧導入穴14は、切換ランド12Dのうち下死点BDCよりも回転方向(矢示C方向)で予め決められた寸法分だけ後側となる位置に配置されている。
換言すると、予圧導入穴14は、切換ランド12Dのうち前述した角度θ2の予圧縮区間の始端寄りとなる位置に配置されている。ここで、予圧導入穴14は、後述する圧力バランス装置の第1油室と補給路18とから導かれた圧力を、角度θ2の予圧縮区間にあるシリンダポート6A(即ち、シリンダ6)内に予圧として導入し、圧力脈動の発生を抑えるものである。
15は吐出ポート12Bと予圧導入穴14との間で両者間の圧力バランスをとる圧力バランス装置で、該圧力バランス装置15は、図2に示すように、その外殻を構成するバランスシリンダ15Aと、該バランスシリンダ15A内に軸方向に摺動可能に挿嵌されたフリーピストンからなるバランスピストン15Bと、該バランスピストン15Bによりバランスシリンダ15A内に画成された第1油室15C,第2油室15Dとを含んで構成されている。
圧力バランス装置15は、予圧導入穴14と吐出ポート12Bとの間に第1油路16,第2油路17を介して設けられ、このうち第1油路16は、バランスピストン15Bの軸方向一側に位置する第1油室15Cを予圧導入穴14に常時連通させる通路である。一方、第2油路17は、バランスピストン15Bの軸方向他側に位置する第2油室15Dを吐出ポート12Bに常時連通させる通路となっている。
圧力バランス装置15のバランスピストン15Bは、第1油室15Cと第2油室15Dとの圧力差に従ってバランスシリンダ15A内を軸方向に摺動変位し、第1油室15C(即ち、予圧導入穴14)内の圧力を、第2油室15D(即ち、吐出ポート12B)側の圧力に応じて増減させるように、第1,第2油室15C,15D間の圧力バランスをとるものである。
18は排出穴13と予圧導入穴14との間を接続する補給路で、該補給路18は、弁板12の吸入ポート12A、吐出ポート12Bおよび圧力バランス装置15等を迂回して排出穴13を予圧導入穴14に連通させる通路を構成している。補給路18は、弁板12の排出穴13から排出された油液の圧力(即ち、ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる途中で該当するシリンダ6内に残った油液の圧力)を後述のチェック弁19を介して予圧導入穴14へと補給(供給)するものである。
19は補給路18の途中に設けられたチェック弁で、該チェック弁19は、排出穴13と予圧導入穴14との間に補給路18を介して設けられた弁装置を構成している。チェック弁19は、排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力以上となったときに両者間を連通させ、排出穴13からの圧力が予圧導入穴14に導かれるのを許し、逆に排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力よりも低いときには両者間を遮断する。即ち、チェック弁19は、排出穴13から補給路18を介して予圧導入穴14側に油液が流通するのを許し、逆向きの流れを阻止するものである。
第1の実施の形態による斜板式の油圧ポンプ1は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、油圧ショベルの運転室に搭乗したオペレータが、前記原動機(エンジンおよび/または電動機)を始動して回転させると、油圧ポンプ1の回転軸4がシリンダブロック5と一緒に回転駆動される。このとき、油圧ポンプ1の各ピストン7は、シリンダブロック5が図2中の矢示C方向に回転するに伴って夫々のシリンダ6内を往復動し、吸入行程と吐出行程とを繰返す。
そして、シリンダブロック5の回転時には、各シリンダ6のシリンダポート6Aが弁板12の吸入ポート12Aと吐出ポート12Bとに間欠的に連通する。このとき、各シリンダ6内を往復するピストン7は、その吸入行程で低圧側の給排通路3Aから吸入ポート12Aを介して各シリンダ6内に作動油を吸込みつつ、吐出行程では各シリンダ6内で高圧状態となった圧油を吐出ポート12Bを介して高圧側の給排通路3Bに向けて吐出させる。
ここで、高圧側の給排通路3Bは、高圧側の吐出通路となって前記油圧アクチュエータ(即ち、油圧シリンダおよび/または油圧モータ等)に前記方向制御弁を介して接続されている。このため、給排通路3Bに連通する吐出ポート12B内の圧力は、前記油圧アクチュエータの負荷圧(即ち、システム圧)に従って増減されるようになり、システム圧が相対的に低い圧力状態のときには、吐出ポート12Bから吐出される圧油の圧力も同様に低い圧力となる。
一方、例えば油圧アクチュエータ側のリリーフ弁(図示せず)が開弁されるような高負荷状態(即ち、システム圧が最高圧まで上昇した高い圧力状態)では、吐出ポート12Bから吐出される圧油の圧力も同様に高い圧力となる。また、油圧アクチュエータの負荷圧(システム圧)が中間の圧力状態になったときには、吐出ポート12Bから吐出される圧油の圧力も同様に中間の圧力となる。
〔システム圧が低圧PL の場合〕
図3は、吐出ポート12Bがシステム圧により低圧PL となった状態での吸入ポート12A、吐出ポート12Bに対する各シリンダポート6Aの位置関係とバランスピストン15Bのストローク位置とを、それぞれ時系列(a)〜(e)として示している。また、図4は、同じくシステム圧(吐出ポート12B)が低圧PL となった状態でのバランスピストン15Bのストローク特性(即ち、BPストローク)を特性線20で示し、予圧導入穴14における圧力Paの特性を特性線21で示し、排出穴13における圧力Pcの特性を特性線22で示している。
図4の横軸(時間)に沿った時刻位置(a)〜(e)は、図3の時系列(a)〜(e)における位置と対応している。油圧ポンプ1のシリンダブロック5(即ち、各シリンダポート6A)の回転位置は、時系列(e)の後には時系列(a)に戻ることにより、これらが繰返される。
図3の時系列(a)〜(b)の状態で、上死点TDC側のシリンダポート6Aは、吸入ポート12Aに連通する直前の位置から吸入ポート12Aに連通する位置へと移動する。このため、図4中の特性線22に示すように、排出穴13の圧力Pcは、時刻位置(a)の直後(即ち、シリンダポート6Aが吸入ポート12Aと排出穴13との両方に連通したとき)に、吸入ポート12Aの圧力Ps(通常はタンク圧)まで低下する。
一方、チェック弁19は、排出穴13から補給路18を介して予圧導入穴14側に油液が流通するのを許すが、逆向きの流れを阻止するため、排出穴13の圧力Pcが低いときにチェック弁19は閉弁し続ける。これにより、予圧導入穴14の圧力Paは、排出穴13の圧力Pcが下がっても、チェック弁19の閉弁によって圧力Pcの影響を受けることはない。しかし、下死点BDC側のシリンダポート6Aは、図3の時系列(a)〜(b)の状態で予圧縮区間(図2に示す角度θ2)にあるため、予圧導入穴14の圧力Paは、特性線21のように漸次昇圧される。
そして、シリンダポート6A(シリンダ6)内の圧力がシステム圧の低圧PL に達し、これ以上に上昇しようとすると、圧力バランス装置15は、第1油室15Cと第2油室15Dとの圧力差に従ってバランスピストン15Bをバランスシリンダ15A内で摺動変位させることにより、予圧導入穴14の圧力Paがこれ以上に上昇するのを抑えるように、油室15C,15D間の圧力バランスをとる動作を行う。
即ち、圧力バランス装置15は、第1油室15Cの圧力(即ち、予圧導入穴14の圧力Pa)が第2油室15Dの圧力(即ち、吐出ポート12Bのシステム圧である低圧PL )よりも高くなると、バランスピストン15Bが第1油室15C側から第2油室15D側に向けて右方に変位し始め、第1油室15Cの圧力を相対的に下げる。これにより、予圧導入穴14の圧力Paは、これ以上に上昇するのが抑えられる。このとき、バランスピストン15Bは、図4中の特性線20に示すように、BPストロークの最小(min)位置から最大(max)位置に向け摺動変位している。
図3の時系列(b)〜(c)の区間では、下死点BDC側のシリンダポート6Aが吐出ポート12Bのノッチ12Eと連通する直前の位置から吐出ポート12Bに連通する位置へと移動する。このため、シリンダポート6A(シリンダ6)がノッチ12Eと連通した後も、図4中の特性線21に示すように、予圧導入穴14の圧力Pa(即ち、第1油室15Cの圧力)は、前述した予圧縮の効果によって第2油室15Dの圧力(即ち、システム圧である低圧PL )よりも僅かに高い圧力状態となり、バランスピストン15Bは第1,第2油室15C,15D間の圧力バランスを保つように右方へと変位する。
即ち、バランスピストン15Bは、図4中の特性線20に示す如く、BPストロークの最大(max)位置に向けて摺動変位し続ける。そして、シリンダポート6Aが吐出ポート12Bに連通する面積(即ち、シリンダポート6Aの開口面積)が大きくなり、シリンダ6内の圧力(即ち、吐出ポート12Bのシステム圧である低圧PL )と予圧導入穴14の圧力Paが同じになったときに、バランスピストン15Bは、BPストロークが最大(max)となって変位が止まる。
次に、図3の時系列(c)〜(d)の区間では、シリンダポート6Aが排出穴13に連通しておらず、予圧導入穴14にもシリンダポート6Aは連通していない。このため、排出穴13の圧力Pcは、これまでの圧力状態に保持され、予圧導入穴14の圧力Pa(即ち、第1油室15Cの圧力)も同様に時刻位置(c)以前の圧力に保持される。そして、バランスピストン15Bも、BPストロークが最大(max)となって変位が止った状態に保たれる。
次に、図3の時系列(d)〜(e)では、上死点TDC側のシリンダポート6Aが排出穴13と連通し始めるので、排出穴13の圧力Pcは、吐出行程の最後でシリンダ6内に残った圧力を当該シリンダ6の外部にシリンダポート6Aを介して排出するように昇圧される。さらに、ピストン7はシリンダ6内で上死点TDCの位置まで摺動変位を続けるため、図3の時系列(e)においても、排出穴13の圧力Pcは昇圧が継続される。
一方、下死点BDC側では、図3の時系列(e)の直後にシリンダポート6Aが予圧導入穴14に連通するので、吸入ポート12Aの圧力Psまで低下したシリンダ6内の圧力は、予圧導入穴14から補給される予圧の圧力によって昇圧される。これと同時に、予圧導入穴14の圧力Paは、シリンダ6内の圧力に近付くように低下する。
そして、シリンダ6内の圧力と予圧導入穴14の圧力Paと排出穴13の圧力Pcが同じ圧力となった状態で、次の位置(a)に戻る。このとき、バランスピストン15Bは、第2油室15D側で吐出ポート12Bからのシステム圧である低圧PL を受圧しているので、図4中の特性線20に示す如く、BPストロークが最小(min)となる位置に戻されている。
このように、吐出ポート12Bの圧力がシステム圧により低圧PL となった場合には、図3の時系列(a)〜(b)の状態で下死点BDC側のシリンダポート6Aが予圧縮区間(図2に示す角度θ2)にあるときに、圧力バランス装置15のバランスピストン15Bが変位しつつ、予圧導入穴14の圧力Paがシステム圧PL 以上に上昇するのを抑えるように動作する。このため、下死点BDC側のシリンダポート6Aが吐出ポート12Bに連通するときに、該当するシリンダ6内が過昇圧されるのを防止でき、圧力脈動を低減することができる。
〔システム圧が中間圧Pmの場合〕
図5の時系列(a)〜(e)は、吐出ポート12Bがシステム圧により中間圧Pmとなった状態での吸入ポート12A、吐出ポート12Bに対する各シリンダポート6Aの位置関係とバランスピストン15Bのストローク位置とをそれぞれ示している。また、図6は、同じく吐出ポート12Bが中間圧Pmとなった状態でのバランスピストン15BのBPストロークを特性線23で示し、予圧導入穴14における圧力Paの特性を特性線24で示し、排出穴13における圧力Pcの特性を特性線25で示している。
図6の横軸(時間)に沿った時刻位置(a)〜(e)は、図5の時系列(a)〜(e)における位置と対応しており、油圧ポンプ1のシリンダブロック5(即ち、各シリンダポート6A)の回転位置は、時系列(e)の後は時系列(a)に戻ることにより、これらが繰返される。
吐出ポート12Bがシステム圧によって中間圧Pmとなった場合には、前述した低圧PL の場合よりも吐出ポート12Bの吐出圧が高く(Pm>PL )なっている。このために、バランスピストン15Bは、第2油室15D側で吐出ポート12Bからシステム圧(中間圧Pm)を受圧することにより、図6中の特性線23に示す如く、BPストロークが図4中の特性線20に比較して小さくなっている。
また、吐出ポート12Bの吐出圧が高く(Pm>PL )なっているため、シリンダ6内の圧力が吐出圧(中間圧Pm)に達するまでに時間が必要となり、シリンダ6と連通状態の予圧導入穴14(第1油室15C)の圧力Paが中間圧Pmに昇圧するまで時間を要する。これ以外の点では、図3および図4に示すシステム圧が低圧PL の場合とほぼ同様である。
しかし、下死点BDC側のシリンダポート6Aは、図5の時系列(a)〜(b)の状態で、予圧縮区間(図2に示す角度θ2)における予圧縮の効果により、シリンダ6内の油液は圧力が昇圧されつつ、図5の時系列(b)〜(c)の状態で、シリンダ6内の昇圧後にバランスピストン15Bが変位する。この場合、予圧縮区間(図2に示す角度θ2)における予圧縮量は、シリンダブロック5の回転により下死点BDC側を通過するシリンダ6内が、中間圧Pm(中間のシステム圧)に相当する圧力まで予圧縮区間で昇圧されるように予め設計している。
これにより、シリンダ6内の圧力と予圧導入穴14の圧力Paが過昇圧となるのを防止することができる。この結果、下死点BDC側を通過した後のシリンダポート6Aがノッチ12Eに連通したときに、吐出ポート12B側からシリンダポート6Aを介してシリンダ6内に圧油が逆流するのを抑えることができ、逆流の発生量を減らすことができる。
〔システム圧が高圧Phの場合〕
図7の時系列(a)〜(e)は、吐出ポート12Bがシステム圧により高圧Phとなった状態での吸入ポート12A、吐出ポート12Bに対する各シリンダポート6Aの位置関係とバランスピストン15Bのストローク位置とをそれぞれ示している。また、図8は、同じく吐出ポート12Bが高圧Phとなった状態でのバランスピストン15BのBPストロークを特性線26で示し、予圧導入穴14における圧力Paの特性を特性線27で示し、排出穴13における圧力Pcの特性を特性線28で示している。
図8の横軸(時間)に沿った時刻位置(a)〜(e)は、図7の時系列(a)〜(e)における位置と対応しており、油圧ポンプ1のシリンダブロック5(即ち、各シリンダポート6A)の回転位置は、時系列(e)の後は時系列(a)に戻ることにより、これらが繰返される。
図7の時系列(a)〜(b)の状態で、下死点BDC側のシリンダポート6Aは、予圧縮区間(図2に示す角度θ2)における予圧縮の効果により、シリンダ6内の油液は昇圧される。しかし、吐出ポート12Bがシステム圧によって高圧Phとなった場合には、前述した中間圧Pmよりも吐出ポート12Bの吐出圧が高く(Ph>Pm)なっている。このため、シリンダ6内の圧力を吐出圧(システム圧の高圧Ph)までは昇圧できない状態で、図7の時系列(b)を過ぎてシリンダポート6Aはノッチ12Eと連通する。
そして、図7の時系列(a)〜(e)に示すように、圧力バランス装置15のバランスピストン15Bは、第2油室15D側で吐出ポート12Bからのシステム圧(高圧Ph)を受圧して第1油室15C側に変位し続け、図8中の特性線26に示す如く、BPストロークが最小(min)となる位置に戻されている。
即ち、シリンダポート6Aが予圧縮区間を過ぎる図7の時系列(b)の直後にも、バランスピストン15Bは、BPストロークが最小(min)となる位置で変位しないまま、シリンダポート6Aがノッチ12Eと連通し、吐出ポート12Bからノッチ12E、シリンダポート6Aを介してシリンダ6内へと圧油が逆流するように供給される。その結果、シリンダ6内へと逆流した圧油量の分だけ、吐出ポート12Bからの吐出流量が瞬間的に減少する可能性がある。このとき、シリンダポート6Aは、吸入ポート12Aの終端から遮断されて予圧縮の後に、ノッチ12Eに連通することになる。
しかし、本実施の形態では、油圧ポンプ1のシリンダブロック5の各シリンダポート6Aが図7の時系列(e)で排出穴13に連通し、このときに、排出穴13は、吐出行程の最後でシリンダ6内に残った圧力を当該シリンダ6の外部にシリンダポート6A、補給路18を介してチェック弁19側に排出する。即ち、図8に示す特性線28のように、排出穴13の圧力Pcは、時刻位置(e)の後に予圧導入穴14の圧力Paと同等な圧力となるので、排出穴13から補給路18に排出された圧油は、チェック弁19を介して予圧導入穴14へと導かれる。
そして、下死点BDC側のシリンダポート6Aが図7の時系列(a)で予圧導入穴14に連通するときに、前記排出穴13からの圧油を吐出ポート12Bに連通する前のシリンダ6に予圧導入穴14、シリンダポート6Aを介して供給(補給)することができる。このため、シリンダポート6Aが予圧縮区間を過ぎる図7の時系列(b)の直後に、シリンダポート6Aがノッチ12Eに連通するときには、吐出ポート12Bからノッチ12E、シリンダポート6Aを介してシリンダ6内へと逆流する圧油の量を、前記排出穴13から補給される圧油の分だけ減らすことができ、圧力脈動の低減化を図ることができる。
かくして、第1の実施の形態によれば、弁板12に形成した一対の切換ランド12C,12Dのうち各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる一方の切換ランド12Cには、吐出行程の最後でシリンダ6内に残った油液の圧力を当該シリンダ6の外部に排出するための排出穴13を設け、各ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わる他方の切換ランド12Dには、吸入行程を終えて吸入ポート12Aから遮断されたシリンダ6のシリンダポート6Aと連通する位置に当該シリンダ6に予圧を導入するための予圧導入穴14を設けている。
この上で、弁板12の吐出ポート12Bと予圧導入穴14との間には圧力バランス装置15を設け、該圧力バランス装置15は、バランスシリンダ15A内を摺動変位するバランスピストン15B(フリーピストン)により、予圧導入穴14に第1油路16を介して連通する第1油室15Cと、吐出ポート12Bに第2油路17を介して連通する第2油室15Dとをバランスシリンダ15A内に画成する構成としている。
そして、排出穴13と予圧導入穴14との間には、排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力以上のときに両者間を連通して排出穴13からの圧力が予圧導入穴14に導かれるのを許し、排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力よりも低いときには両者間を遮断する弁装置としてのチェック弁19を設ける構成としている。
これにより、シリンダブロック5の回転により各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる途中(即ち、上死点TDC側の切換ランド12C)において、該当するシリンダ6内に残った圧力を排出穴13からチェック弁19を介して予圧導入穴14へと供給(補給)することができ、下死点BDC側の切換ランド12Dにおいて各シリンダ6が吐出ポート12Bに連通し始めるときの圧力脈動を圧力バランス装置15と協働して抑えることができる。
即ち、図2に示す角度θ2の予圧縮区間においてシリンダポート6Aがノッチ12Eに連通するときには、吐出ポート12Bからノッチ12E、シリンダポート6Aを介してシリンダ6内へと逆流する圧油の量を、前記排出穴13から補給される圧油の分だけ減らすことができる。これにより、圧力脈動の発生を抑えることができ、油圧ポンプ1の駆動時における騒音および振動を低減することができる。
換言すると、油圧ポンプ1は無負荷運転の状態でない限り、予圧導入穴14には排出穴13および/または圧力バランス装置15から常に圧力が供給されるので、シリンダポート6Aが予圧導入穴14に連通したときに、予圧導入穴14に連通するシリンダ6内の圧力Paは吸入ポート12Aの圧力Ps(吸込圧)よりも十分に高い圧力となる。このため、シリンダ6内の圧力が吐出ポート12B内の吐出圧(即ち、システム圧)まで昇圧するために必要な流量、つまり、吐出ポート12Bからシリンダ6内へ逆流する圧油の流量を減らし、逆流の発生を抑えることができる。
また、圧力バランス装置15は、システム圧が低圧PL のときに、図4に示す特性線20の如く、バランスピストン15Bを最大(max)となる位置まで変位させることによって、シリンダ6内の圧力が過昇圧されるのを抑えることができる。これにより、シリンダポート6Aがノッチ12Eと連通するときに、サージ流量の発生を抑えることができ、油圧ポンプ1の圧力脈動を低減することができる。
次に、図9は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、第2の実施の形態の特徴は、圧力バランス装置15の第1油室15Cと予圧導入穴14との間で、例えば第1油路16の途中に絞り31を設ける構成としたことにある。
ここで、絞り31は、圧力バランス装置15のバランスシリンダ15A内でバランスピストン15Bが軸方向に摺動変位するときの速度を遅くするため、圧力バランス装置15の第1油室15Cと予圧導入穴14の間に設けられた固定絞りである。
ところで、前述した図2に示す第1の実施形態では、吐出ポート12Bからシリンダポート6A(シリンダ6)内に向けた圧油の逆流は、圧力バランス装置15の第2油室15D側から第1油室15C側に向けてバランスピストン15Bが戻る時にも発生する虞れがある。即ち、吐出ポート12Bからの圧油は、ノッチ12Eを経由して直接シリンダポート6Aへ流れるのではなく、バランスピストン15Bが第2油室15D側から第1油室15C側へ変位するときにも、バランスピストン15Bの変位分の流量が吐出ポート12Bから第2油路17を介して第2油室15Dに流れ、これによっても、吐出流量の脈動を発生させることがある。
そこで、第2の実施の形態では、圧力バランス装置15の第1油室15Cと予圧導入穴14の間に位置して、例えば第1油路16の途中部位に絞り31を設けることにより、バランスピストン15Bの変位速度を遅くすることができる。この結果、吐出流量脈動の振幅を低下させることができ、脈動の低減化を図ることができる。
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、図2に示す角度θ2の予圧縮区間において吐出ポート12Bからノッチ12E、シリンダポート6Aを介してシリンダ6内へと逆流する圧油の量を、排出穴13から補給される圧油の分だけ減らすことができ、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる上に、絞り31でバランスピストン15Bの変位速度を遅くすることにより、吐出流量脈動の振幅を低下させて脈動を低減することができる。
次に、図10は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、第3の実施の形態の特徴は、弁板12の吐出ポート12Bと圧力バランス装置15の第2油室15Dとの間で、例えば第2油路17の途中に絞り41を設ける構成としたことにある。
ここで、絞り41は、圧力バランス装置15のバランスシリンダ15A内でバランスピストン15Bが軸方向に摺動変位するときの速度を遅くするため、圧力バランス装置15の第2油室15Dと吐出ポート12Bとの間に設けられた固定絞りである。
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、圧力バランス装置15のバランスピストン15Bが第2油室15D側から第1油室15C側へ変位するときの変位速度を、絞り41によって遅くすることができ、前記第2の実施の形態と同様な効果を得ることができる。
なお、前記各実施の形態では、排出穴13と予圧導入穴14とを接続する補給路18の途中に弁装置としてのチェック弁19を設ける場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前,後圧をパイロット圧とする油圧パイロット式切換弁等からなる弁装置を、排出穴13と予圧導入穴14とを接続する補給路等の通路途中に設ける構成としてもよい。即ち、このような弁装置は、排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力以上となったときに両者間を連通して排出穴13からの圧力が予圧導入穴14に導かれるのを許し、排出穴13側の圧力が予圧導入穴14側の圧力よりも低いときには両者間を遮断する構成とすればよい。
また、前記各実施の形態では、アキシャルピストン式油圧ポンプとして斜板式の油圧ポンプ1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば斜軸式の油圧ポンプによりアキシャルピストン式油圧ポンプを構成してもよい。
さらに、前記各実施の形態では、油圧ポンプ1を油圧ショベルの油圧源に用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば油圧クレーン、ホイールローダ等の建設機械に油圧源として用いてもよく、建設機械以外の油圧機器に油圧源として用いる構成としてもよいものである。