しかし、インクの溶剤やバインダ樹脂については、例えば、インクジェットプリンタの構成や、印刷の条件によって、好ましい組成が異なる場合がある。また、例えばCMYKインクとメタリックインクとを併せて使用する場合、両者の特性を大きく異ならせることが難しい場合がある。そのため、メタリックインクについて、特定の溶剤やバインダ樹脂を使用することが難しい場合もある。また、例えばメタリックインクの顔料のアスペクト比を規定する場合、特定の形状の顔料のみを使用することが必要になるため、インクの製造コストが大きく上昇するおそれがある。
更に、メタリックインクによる印刷結果の光沢性は、メタリンクインクの特性のみではなく、その他の印刷条件の影響も受ける。また、その結果、例えばメタリックインクの組成を適正化しても、高い光沢性が得られない場合もある。そのため、従来、メタリックインク等の光沢性の色のインクを用いる場合について、より適切に光沢性が得られる構成が望まれていた。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷方法及び印刷装置を提供することを目的とする。
本願の発明者は、メタリックインク等の光沢インクを用いる場合について、印刷条件と得られる光沢性との関係等に関し、鋭意研究を行った。この場合、得られる光沢性とは、例えば、媒体上に定着したインク中の顔料が光を均一に反射することで得られる光沢感のことである。また、例えば、メタリックインクを用いる場合、この光沢感とは、例えば、メタリック感のことである。そして、この鋭意研究により、本願の発明者は、印刷条件の中で、特に、使用する媒体(メディア)の種類により、得られる光沢性に差が生じやすいことを見出した。より具体的には、例えば、様々な種類の媒体に対し、メタリックインクで印刷を行った場合、媒体の種類によっては、メタリック感が損なわれる問題が生じることを見出した。
また、本願の発明者は、その原因について、例えば、媒体への定着時の顔料の配向状態が媒体の種類によって変化するためであると考えた。より具体的に、例えば、メタリックインクを用いる場合、高い光沢性(メタリック感)を得るためには、インク中の鱗片状顔料(薄片顔料)を媒体上で平面状(ウロコ状)に配向させることが必要である。しかし、媒体の種類によっては、このような配向で顔料を定着させることが難しい場合がある。また、その結果、十分な光沢性が得られなくなる場合がある。
ここで、インクジェットプリンタ用の媒体としては、例えば、塩化ビニルの媒体(塩化ビニルシート)が広く用いられている。そこで、本願の発明者は、塩化ビニルの媒体に関し、どのような組成の媒体を用いることが好ましいかについて、更に鋭意研究を行った。そして、この鋭意研究により、高い光沢性を得るためには、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いることが好ましいことを見出した。上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、光沢性の色のインクである光沢インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドである光沢インク用ヘッドにより、媒体へインク滴を吐出し、光沢インクは、光沢性の顔料と、有機溶剤とを含むインクであり、媒体は、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体である。
このようにして印刷を行った場合、媒体に着弾した光沢インクのインク滴は、媒体上で広がり、インクのドットになる。また、この場合、光沢インク中の有機溶剤は、インク滴の着弾後、顔料が媒体に定着するまでの間に、除去される。また、この場合、インク滴の着弾直後において、インクのドットは、通常、まだ有機溶剤を含んだ状態である。そのため、インク中の顔料は、有機溶剤中で比較的自由に動くことができる。一方、ドット中の有機溶剤がなくなると、顔料は移動の自由を失う。そのため、媒体への定着時の顔料の配向性は、インクのドット中の有機溶剤が除去されるまでに決まると言える。
そして、この場合、有機溶剤が除去されるまでの時間が十分に長ければ、定着までの間に、ドット中の顔料が媒体上で平面状に配向しやすくなると考えられる。また、その結果、この場合、高い光沢性が得られると考えられる。一方、有機溶剤が除去されるまでの時間が短い場合、顔料が平面状に揃う前に、向きが乱雑(ランダム)なままの状態で顔料が定着しやすくなると考えられる。また、その結果、この場合、光沢性が低下すると考えられる。
ここで、インクジェットプリンタにおいて、インクのドットから有機溶剤を除去することが必要な場合、通常、媒体を加熱するヒータ等が用いられる。また、これにより、インクのドット中の有機溶剤は、揮発除去される。しかし、顔料の配向性との関係で考えた場合、揮発除去の影響のみではなく、媒体中に浸透することでインクのドットから有機溶剤が除去される影響も重要である。
また、塩化ビニルの媒体としては、従来、例えば、フタル酸エステル系可塑剤を含む塩化ビニルの媒体が広く用いられている。この場合、フタル酸エステル系可塑剤を含むとは、例えば、主成分がフタル酸エステル系の物質である可塑剤を含むことである。しかし、本願の発明者は、フタル酸エステル系可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いる場合について、顔料の配向性との関係で考えた場合、有機溶剤の媒体への浸透の影響が大きいことを見出した。より具体的には、例えば、フタル酸エステル系可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いる場合、媒体への浸透により、有機溶剤が除去されるまでの時間が短くなり、光沢性が低下する場合があることを見出した。
また、更なる鋭意研究により、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いることで、有機溶剤の浸透の影響を適切に抑え、光沢インク中の顔料をより適切に配向させ得ることを見出した。そのため、このように構成すれば、例えば、光沢インクを用いて印刷を行う場合において、高い光沢性を適切に得ることができる。
尚、この媒体としては、例えば、高分子可塑剤を含み、かつ、フタル酸エステル系可塑剤を含まない塩化ビニルの媒体を用いることがより好ましい。このように構成すれば、例えば、高い光沢性をより適切に得ることができる。また、光沢インクとは、例えば、光を反射する鱗片状の顔料(薄片顔料)を含むインクである。光沢インクは、例えばメタリック色又はパール色等のインクであってよい。
また、光沢インクに含まれる有機溶剤は、例えば揮発性有機溶剤であってよい。この有機溶剤は、例えば、インクの主成分となる溶媒であってよい。より具体的に、光沢インクは、例えば、グリコールエーテル系溶剤を主成分とするインクであってよい。また、光沢インクは、例えば、バインダ樹脂等を更に含んでよい。より具体的に、光沢インクとしては、例えば、ソルベントインクを用いることが好ましい。また、例えば、光沢インクとして、ソルベントUVインクを用いること等も考えられる。
また、この印刷方法は、例えば、印刷物を製造する印刷物の製造方法と考えることもできる。また、この印刷方法においては、例えば、カラー印刷用のインクジェットヘッドであるカラー印刷用ヘッドを更に用いて、カラー印刷を更に行ってもよい。この場合、カラー印刷用ヘッドとは、例えば、CMYKの各色用のインクジェットヘッドである。
また、この場合、カラー印刷用ヘッドで用いるインクとして、光沢インクと同じ有機溶剤を主成分とするインクを用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、光沢インクによる印刷とカラー印刷とを、同じ条件で適切に行うことができる。また、この場合、有機溶剤としては、媒体への着弾後に速やかに揮発除去できるように、揮発性有機溶剤を用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、印刷の解像度が高い場合にも、色間滲み等を適切に抑え、カラー印刷を適切に行うことができる。また、光沢インクによる印刷についても、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いることで、高い光沢性を適切に得ることができる。
(構成2)光沢性の顔料は、鱗片状の顔料である。このように構成すれば、例えば、高い光沢性を適切に得ることができる。
(構成3)光沢インクは、メタリック色のインクである。このメタリック色のインクは、例えば、銀色のインク等の金属性の光沢を有するインク(メタリックインク)である。また、光沢インクが銀色のインクである場合、この銀色のインクは、例えば、アルミニウム等の金属の顔料を含むインクであってよい。この金属の顔料は、例えば鱗片状の顔料であっってよい。
光沢インクとして、メタリックインクを用いる場合、例えば、より均一な光沢を得ることが望まれる。そのため、この場合、定着時に顔料をより適切に配向させることが望まれる。これに対し、このように構成すれば、例えば、媒体上で光沢インクの顔料が定着するまでの時間を適切に確保することができる。また、これにより、メタリックインクについて、高い光沢性を適切に得ることができる。
(構成4)高分子可塑剤は、25℃の環境での状態が固体の物質である。高分子可塑剤は、室温で固体の物質であることが好ましい。
塩化ビニルの媒体としては、上記のように、フタル酸エステル可塑剤を含む媒体が広く用いられている。しかし、この場合、光沢インク中の有機溶剤が媒体に浸透しやすく、高い光沢性が得られない場合がある。また、この場合において、有機溶剤が媒体に浸透しやすい理由としては、フタル酸エステル可塑剤が常温で液体の物質であるためと考えられる。
これに対し、上記のような高分子可塑剤を用いた場合、塩化ビニルの媒体について、有機溶剤が浸透しにくい構成を適切に実現できる。また、これにより、光沢インクの顔料をより適切に配向させることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、高い光沢性をより適切に得ることができる。
(構成5)高分子可塑剤は、ポリエステルである。このように構成すれば、例えば、光沢インク中の有機溶剤が媒体へ浸透することをより適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、高い光沢性をより適切に得ることができる。
(構成6)媒体は、キャスト製法で製造されたフィルム状の媒体である。このように構成すれば、例えば、光沢インク中の有機溶剤が媒体へ浸透することをより適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、高い光沢性をより適切に得ることができる。
(構成7)媒体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、光沢性の色のインクである光沢インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドである光沢インク用ヘッドにより、媒体へインク滴を吐出し、光沢インクは、光沢性の顔料と、有機溶剤とを含むインクであり、媒体は、キャスト製法で製造された塩化ビニルの媒体である。
塩化ビニルの媒体としては、例えば、キャスト製法で製造された媒体や、カレンダー製法で製造された媒体が知られている。これに対し、本願の発明者は、各種実験等により、例えば、キャスト製法で製造された媒体について、カレンダー製法で製造された媒体と比べ、インク中の有機溶剤が媒体へ浸透することをより適切に抑えることができることを見出した。
そのため、このように構成した場合、例えば、塩化ビニルの媒体について、有機溶剤が浸透しにくい構成を適切に実現できる。また、これにより、光沢インクの顔料をより適切に配向させることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、高い光沢性を適切に得ることができる。
(構成8)インクジェット方式で印刷を行う印刷装置であって、構成1から7のいずれかに記載に印刷方法を用いて印刷を行う。このように構成すれば、例えば、構成1から7と同様の効果を得ることができる。
本発明によれば、例えば、光沢インクを用いて印刷を行う場合において、高い光沢性を適切に得ることができる。
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷方法を実行する印刷装置10の一例を示す。図1(a)、(b)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す正面図及び上面図である。尚、以下に説明をする点以外について、印刷装置10は、公知のインクジェットプリンタと同一又は同様の構成を有してよい。また、本例において用いる媒体50については、後に詳しく説明をする。
印刷装置10は、媒体50に対してインクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタである。また、本例において、印刷装置10は、例えばインクジェットヘッドに主走査動作を行わせるシリアル方式で印刷を行うインクジェットプリンタであり、ヘッド部12、主走査駆動部14、副走査駆動部16、プラテン18、駆動信号出力部20、及び制御部22を備える。
ヘッド部12は、媒体50に対して印刷を行う部分であり、制御部22の指示に応じて、印刷する画像の各画素に対応するインクのドットを媒体50上に形成する。また、本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドを有する。ヘッド部12のより具体的な構成については、後に更に詳しく説明をする。
主走査駆動部14は、ヘッド部12におけるインクジェットヘッドに主走査動作を行わせる構成である。この場合、主走査動作とは、例えば、予め設定された主走査方向(図中のY方向)へ移動しつつ媒体50へインク滴を吐出する動作である。また、本例において、主走査駆動部14は、キャリッジ102及びガイドレール104を有する。キャリッジ102は、インクジェットヘッドのノズル列と媒体50と対向させた状態でヘッド部12を保持する。ガイドレール104は、主走査方向へのキャリッジ102の移動をガイドするレールであり、制御部22の指示に応じて、主走査方向へキャリッジ102を移動させる。
副走査駆動部16は、主走査方向と直交する副走査方向へ媒体50に対して相対的に移動する副走査動作をヘッド部12におけるインクジェットヘッドに行わせる構成である。本例において、副走査駆動部16は、媒体50を搬送するローラであり、主走査動作の合間に媒体50を搬送することにより、インクジェットヘッドに副走査動作を行わせる。
尚、印刷装置10の構成としては、例えば、媒体50の搬送を行わずに、位置を固定した媒体50に対してインクジェットヘッドの側を動かすことで副走査動作を行う構成(例えば、X−Yテーブル型機)を用いることも考えられる。この場合、副走査駆動部16としては、例えば、ガイドレール104を副走査方向へ移動させることでインクジェットヘッドを移動させる駆動部等を用いることができる。
プラテン18は、媒体50を載置する台状部材であり、ヘッド部12のインクジェットヘッドにおいてノズルが形成されているノズル面と対向させて媒体50を支持する。また、本例において、プラテン18は、例えばヘッド部12と対向する位置に、媒体50を加熱するヒータを有する。このヒータは、媒体50上のインクを媒体50に定着させるための加熱手段であり、媒体50を加熱することにより、媒体50上のインクに含まれる有機溶剤を揮発除去する。プラテン18は、複数のヒータを有してもよい。例えば、ヒータとして、インク滴が着弾する前の位置で媒体50を加熱するヒータ(プレヒータ)と、ヘッド部12と対向する位置で媒体50を加熱するヒータ(プリントヒータ)とを有してよい。また、例えば媒体50の搬送方向においてヘッド部12よりも下流側で媒体50を加熱するヒータ(アフターヒータ)等を更に有してもよい。
駆動信号出力部20は、ヘッド部12における複数のインクジェットヘッドへ駆動信号を出力する信号出力部である。この場合、駆動信号とは、例えば、インクジェットヘッドにおいてノズルの位置に配設された駆動素子(例えば、ピエゾ素子)の動作を制御する信号である。また、駆動信号出力部20は、主走査動作時において、駆動素子の動作を制御することにより、インクジェットヘッドのノズルから、インク滴を吐出させる。
制御部22は、例えば印刷装置10のCPUであり、例えばホストPCの指示に応じて、印刷装置10の各部の動作を制御する。以上の構成により、印刷装置10は、媒体50に対し、印刷を行う。続いて、ヘッド部12のより具体的な構成については、詳しく説明をする。
図2は、ヘッド部12のより詳細な構成の一例を示す。図2(a)は、ヘッド部12の構成の一例を示す。本例において、ヘッド部12は、複数のインクジェットヘッドとして、複数のカラーインク用ヘッド202と、メタリックインク用ヘッド204とを有する。また、図示は省略したが、複数のカラーインク用ヘッド202及びメタリックインク用ヘッド204のそれぞれは、複数のノズルが副走査方向(X方向)へ並ぶノズル列を有する。
複数のカラーインク用ヘッド202のそれぞれは、カラー印刷用のインクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドである。カラー印刷用のインクとは、例えば、CMYKインクの各色のインクである。この場合、複数のカラーインク用ヘッド202のそれぞれは、例えば、CMYKインクの各色のインクのインク滴を吐出する。また、本例において、複数のカラーインク用ヘッド202は、例えば図2(a)に示すように、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。これにより、各回の主走査動作において、複数のカラーインク用ヘッド202は、同じ領域へインク滴を吐出する。
尚、複数のカラーインク用ヘッド202のそれぞれにおいて、カラー印刷用のインクとしては、例えば、公知の各種インクを用いることができる。例えば、本例において、複数のカラーインク用ヘッド202のそれぞれは、例えば、CMYKの各色のソルベントインクのインク滴を吐出する。この場合、ソルベントインクとは、例えば、顔料と有機溶剤とを含むインクである。この有機溶剤は、揮発性有機溶剤であってよい。また、複数のカラーインク用ヘッド202で用いるソルベントインクは、例えば公知のソルベントインクであってよい。また、カラー印刷用のインクとしては、例えば、ソルベントUVインク等を用いることも考えられる。この場合、ソルベントUVインクとは、例えば、紫外線硬化型のモノマー又はオリゴマーと、溶媒である有機溶剤とを含むインクである。また、ソルベントUVインクは、紫外線硬化型インクを有機溶剤で希釈したインクであってよい。
メタリックインク用ヘッド204は、光沢インク用ヘッドの一例であり、光沢インクの一例であるメタリック色のインク(メタリックインク)のインク滴を吐出する。この場合、光沢インク用ヘッドとは、例えば、光沢インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドである。また、光沢インクとは、例えば、光沢性の色のインクである。光沢インクは、例えば、光沢性の顔料と、有機溶剤とを含むインクであってよい。また、光沢インクとは、例えば、光を反射する鱗片状の顔料を含むインクであってよい。また、光沢インクとしては、例えばパール色等のインク等を用いることも考えられる。この場合、ヘッド部12は、例えば、光沢インク用ヘッドとして、パール色のインク用のインクジェットヘッドを有する。尚、本例において用いるメタリックインクの特徴については、後に更に詳しく説明をする。
また、本例において、メタリックインク用ヘッド204は、例えば図2(a)に示すように、複数のカラーインク用ヘッド202に対し、副走査方向における位置を揃えて、主走査方向へ並べて配設される。これにより、各回の主走査動作において、メタリックインク用ヘッド204は、例えば、複数のカラーインク用ヘッド202と同じ領域へインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、カラー印刷用インク及びメタリックインクによる印刷を適切に行うことができる。
また、上記及び以下において説明をする点を除き印刷装置10(図1参照)は、複数のカラーインク用ヘッド202及びメタリックインク用ヘッド204により、公知の方法と同一又は同様にして、印刷を行ってよい。また、印刷装置10は、例えば、マルチパス方式で印刷を行ってもよい。この場合、マルチパス方式とは、例えば、媒体50(図1参照)の各位置に対して複数の印刷パス分の複数回の主走査動作を行う方式である。
また、複数のカラーインク用ヘッド202及びメタリックインク用ヘッド204のそれぞれは、例えば、複数のインクジェットヘッドにより構成される複合ヘッドであってもよい。例えば、複数のカラーインク用ヘッド202及びメタリックインク用ヘッド204のそれぞれは、複数のインクジェットヘッドをスタガ配置で並べたスタガヘッドであってもよい。
また、ヘッド部12における複数のカラーインク用ヘッド202とメタリックインク用ヘッド204との配置については、例えば、図1(a)に示した構成以外の構成を用いることも考えられる。図2(b)は、ヘッド部12の構成の他の例を示す。尚、以下に説明をする点を除き、図2(b)において、図2(a)と同じ符号を付した構成は、図2(a)における構成と、同一又は同様の特徴を有する。
図2(b)に示した構成において、メタリックインク用ヘッド204は、複数のカラーインク用ヘッド202と副走査方向における位置をずらして配設される。この場合、各回の主走査動作において、メタリックインク用ヘッド204は、カラーインク用ヘッド202と同時に主走査方向へ移動しつつ、カラーインク用ヘッド202とは異なる領域へインク滴を吐出する。このように構成した場合も、カラー印刷用インク及びメタリックインクによる印刷を適切に行うことができる。
続いて、本例において用いるメタリックインク及び媒体50について、更に詳しく説明をする。本例のメタリックインク用ヘッド204において、メタリックインクとしては、例えば、公知のメタリックインクを用いることができる。例えば、本例において、メタリックインク用ヘッド204は、メタリック色のソルベントインクのインク滴を吐出する。この場合、メタリック色のソルベントインクとは、例えば、メタリック色用の鱗片状の顔料と、有機溶剤とを含むインクである。この有機溶剤は、揮発性有機溶剤であってよい。また、この有機溶剤は、例えば、メタリックインクの主成分となる溶媒である。この場合、インクの主成分とは、例えば、重量比で50%以上含む成分のことである。また、この有機溶剤としては、例えばグリコールエーテル系溶剤等を好適に用いることができる。また、メタリックインクは、例えば、バインダ樹脂等を更に含んでよい。また、より具体的に、本例において用いるメタリックインクは、例えば銀色のインクであってよい。この場合、メタリックインクは、例えば、アルミニウム等の金属の顔料を含む。また、メタリックインクとして、例えば、ソルベントUVインクを用いること等も考えられる。
また、このようなメタリックインクを用いて印刷を行う場合、高い光沢性が得られる状態で適切に印刷を行うためには、例えば、定着時の顔料の配向性における乱雑性(ランダム性)をより小さくすることが望まれる。より具体的には、例えば、鱗片状の顔料について、媒体50上でウロコ状(平面状)に配向するように媒体50に定着させることが望まれる。
また、このようにして印刷を行う場合、媒体50に着弾したメタリックインクのインク滴は、媒体50上で広がり、インクのドットになる。また、この場合、メタリックインク中の溶媒である有機溶剤は、インク滴の着弾後、顔料が媒体に定着するまでの間に、除去される。そして、この場合、有機溶剤が除去されるまでの時間が十分に長ければ、定着までの間に、ドット中の顔料が媒体上で平面状に配向しやすくなると考えられる。また、その結果、高い光沢性が適切に得られると考えられる。
そして、本例において、インクのドットからの有機溶剤の除去は、主に、プラテン18(図1参照)に配設されたヒータによる加熱等で、有機溶剤を揮発除去することで行う。しかし、有機溶剤の除去に関し、顔料の配向性との関係で考えた場合、揮発除去のみではなく、媒体50中に浸透することでインクのドットから有機溶剤が除去される影響も重要である。
そこで、本例において、媒体50としては、例えば、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体を用いる。塩化ビニルの媒体が含む可塑剤とは、例えば、塩化ビニルの柔軟性を高めるための添加剤のことである。また、高分子可塑剤とは、例えば、高分子有機化合物(ポリマー)を主成分とする可塑剤である。また、塩化ビニルの媒体が含む可塑剤とは、例えば、塩化ビニルシートの製造工程において、固体の塩化ビニル樹脂に柔軟性を付与する目的で、固体の塩化ビニル樹脂に添加される物質である。
また、本例の媒体50が含む高分子可塑剤は、例えば、25℃の環境での状態が固体の物質である。高分子可塑剤は、室温で固体の物質であることが好ましい。この場合、室温とは、例えば、5〜30℃の範囲の温度のことである。また、室温とは、印刷を行う環境の温度であってよい。また、より具体的に、高分子可塑剤としては、例えばポリエステルを好適に用いることができる。
ここで、塩化ビニルの媒体としては、従来、フタル酸エステル可塑剤を含む媒体が広く用いられている。この場合、フタル酸エステル系可塑剤を含むとは、例えば、主成分がフタル酸エステル系の物質である可塑剤を含むことである。しかし、この場合、光沢インク中の有機溶剤が媒体に浸透しやすく、高い光沢性が得られない場合がある。また、この場合において、有機溶剤が媒体に浸透しやすい理由としては、フタル酸エステル可塑剤が常温で液体の物質であるためと考えられる。
これに対し、本例においては、上記のように、高分子可塑剤を含む媒体50を用いることで、例えばフタル酸エステル可塑剤を含む媒体を用いる場合と比べ、メタリックインク中の有機溶剤が浸透しにくい構成を適切に実現できる。また、これにより、例えば、インク中の有機溶剤が媒体50に浸透する影響を適切に抑え、メタリックインク中の顔料を平面上(ウロコ状)に適切に配向させることができる。そのため、本例によれば、例えば、メタリックインクを用いて印刷を行う場合において、高い光沢性を適切に得ることができる。
尚、高分子可塑剤を用いる場合、媒体50の組成は、例えば、フタル酸エステル系の物質を含まない構成にすることが好ましい。但し、上記においても説明をしたように、塩化ビニルの媒体について、フタル酸エステル可塑剤を含むとは、主成分がフタル酸エステル系の物質である可塑剤を含むことである。そのため、例えば高分子可塑剤を用いる場合においても、例えば少量の添加物等としてならば、フタル酸エステル系の物質を更に用いることも考えられる。この場合も、高分子可塑剤を用いることにより、高い光沢性を適切に得ることができる。
また、従来、塩化ビニルの媒体としては、例えば、キャスト製法で製造された媒体や、カレンダー製法で製造された媒体が広く用いられている。これに対し、本願の発明者は、各種実験等により、例えば、キャスト製法で製造された媒体50について、カレンダー製法で製造された媒体50と比べ、メタリックインクの有機溶剤が媒体50へ浸透することをより適切に抑えることができることを見出した。
そのため、本例において、塩化ビニルの媒体50としては、例えば、キャスト製法で製造されたフィルム状の媒体を用いることが特に好ましい。この場合、キャスト製法とは、塩化ビニルの媒体50の製造方法として広く用いられている製造方法の一つであり、例えば、媒体50の材料を液状(流動状)にしたものを薄く延ばし、乾燥させることで媒体50を製造する方法である。このように構成すれば、例えば、メタリックインクの有機溶剤が媒体50へ浸透することをより適切に抑えることができる。また、これにより、例えば、高い光沢性をより適切に得ることができる。
また、上記のように、本例においては、メタリックインク用ヘッド204のみではなく、カラーインク用ヘッド202を更に用いて印刷を行う。この場合、カラーインク用ヘッド202で用いるインクとして、メタリックインクと同じ有機溶剤を主成分とするインクを用いることが好ましい。このように構成すれば、例えば、メタリックインクによる印刷とカラー印刷とを、同じ条件で適切に行うことができる。また、この場合、インクの溶媒としては、媒体への着弾後に速やかに揮発除去できる有機溶剤(例えば、揮発性有機溶剤)を用いることが特に好ましい。このように構成すれば、例えば、印刷の解像度が高い場合にも、色間滲み等を適切に抑え、カラー印刷を適切に行うことができる。また、メタリックインクによる印刷についても、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体50を用いることで、高い光沢性を適切に得ることができる。
以上のように、本例によれば、例えば、メタリックインクを用いて、例えば、光沢性の高い印刷を適切に行うことができる。また、カラー印刷用のインクにより、例えば、解像度の高い印刷を適切に行うことができる。また、これにより、例えば、高品質の印刷を適切に行うことができる。尚、カラー印刷用のインクによる印刷は、例えば、メタリックインクで描かれた画像に重ねて行うことも考えられる。このように構成すれば、例えば、多様な色のメタリック調印刷物を印刷することができる。
続いて、上記において説明をした構成により実際に印刷を行った実験の結果について、説明をする。図3は、本例の構成により印刷を行った実験の結果を示す。
この実験においては、高分子可塑剤を含む塩化ビニルの媒体として、以下において実施例1、2として示す2種類の媒体を用いた。また、より具体的に、実施例1に係る媒体として、ミマキエンジニアリング社製のSPC−0706型の塩化ビニルシートを用いた。この塩化ビニルシートは、高分子可塑剤を含有し、かつ、フタル酸系の可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤等)を含有しない塩化ビニルの媒体である。また、この塩化ビニルシートは、グロスタイプ(グロス印刷用)の塩化ビニルの媒体である。また、実施例2に係る媒体50として、ミマキエンジニアリング社製のSPC−0707型の塩化ビニルシートを用いた。この塩化ビニルシートも、高分子可塑剤を含有し、かつ、フタル酸系の可塑剤を含有しない塩化ビニルの媒体である。また、この塩化ビニルシートは、マットタイプ(マット印刷用)の塩化ビニルの媒体である。
更に、この実験では、実施例1、2に係る媒体の他に、以下において参考例1、2として示す2種類の媒体を用いた。また、より具体的に、参考例1に係る媒体として、ミマキエンジニアリング社製のPWS−G型の塩化ビニルシートを用いた。また、参考例2に係る媒体として、ミマキエンジニアリング社製のPWS−M型の塩化ビニルシートを用いた。これらの塩化ビニルシートは、フタル酸エステル系可塑剤を含有する塩化ビニルの媒体である。また、参考例1に係る媒体は、グロスタイプの塩化ビニルの媒体である。参考例2に係る媒体は、マットタイプの塩化ビニルの媒体である。
そして、これらの4種類の媒体に対し、メタリックインクを用いて、インクジェットプリンタで印刷を行った。また、インクジェットプリンタとしては、ソルベントインク用の公知のインクジェットプリンタを用いた。このソルベントインクジェットプリンタは、インクを乾燥させるためのヒータとして、プレヒータ(Pre)、プリントヒータ(Print)、及び、アフターヒータ(After)を搭載している。また、この実験において、それぞれのヒータの設定温度は、Pre/Print/After=35/40/50℃とした。また、メタリックインクとしては、グリコールエーテル系溶剤、有機バインダインク樹脂、及び鱗片状顔料を含むメタリック色のソルベントインクを用いた。
また、以上の条件により、印刷の濃度(画像濃度)を30%以上にして印刷を行ったところ、実施例1、2に係る媒体を用いた場合、高いメタリック感を有するメタリック調の印刷画像を得ることができた。より具体的に、例えば、実施例1に係る媒体を用いた場合、写り込み像が判別できるレベルの高い光沢性(メタリック感)が得られた。また、実施例2に係る媒体を用いた場合、写り込みは無いものの艶消しのメタリック状となる高い光沢性(メタリック感)が得られた。
一方、参考例1、2に係る媒体を用いた場合、実施例1、2と比べてメタリック感が低下し、高い光沢性を適切に得ることはできなかった。より具体的に、参考例1、2に係る媒体を用いた場合、メタリック感の低下により、グレーに近い色に見える状態になった。
ここで、上記のように、参考例1、2に係る媒体は、フタル酸エステル系可塑剤を含有する塩化ビニルの媒体である。そして、フタル酸エステル系化合物は、常温で液状になる物質である。そのため、フタル酸エステル系可塑剤を含有する塩化ビニルの媒体は、液状物質で膨潤した塩化ビニル樹脂により構成されていると考えられる。
そして、この場合、この実験で用いたメタリックインクのような、有機溶剤を主成分とするインクジェットインクを吐出すると、すでに液状物質で膨潤した塩化ビニル樹脂にインクの溶剤成分が急速に吸収されると考えられる。また、その結果、メタリックインク中の顔料がウロコ状に配向するまでの時間が確保できず、顔料がランダムに配向することになると考えられる。そして、顔料がランダムに配向することにより、メタリック感が適切に得られない結果になると考えられる。また、実際、図3において拡大写真で示すように、参考例1、2に係る媒体を用いた場合、顔料の配向は確認できなかった。
一方、実施例1、2に係る媒体のように、高分子可塑剤を含有する塩化ビニルの媒体を用いる場合、インク中の有機溶剤は、媒体中の高分子を溶解・膨潤しながら浸透することになる。そのため、この場合、インク中の溶剤成分を媒体が吸収するまでに、より長い時間を要すると考えられる。また、その結果、メタリックインク中の顔料がウロコ状に配向するまでの時間が適切に確保できることになると考えられる。そして、この場合、顔料が適切に配向することにより、高いメタリック感が得られる結果になると考えられる。また、実際、図3において拡大写真で示すように、実施例1、2に係る媒体を用いた場合、顔料が適切に配向していることが確認できた。
ここで、上記のように、実施例1、2に係る媒体を用いる場合、印刷の濃度を30%以上にすることで、高いメタリック感を適切に得ることができた。しかし、濃度を30%以下にした場合、濃度低下に伴いメタリック感が低下し、グレーに近づく状態となった。
これは、例えば、印刷の濃度が低い場合、媒体へ吐出するインクの量が少なくなるため、有機溶剤の量も少なくなるためであると考えられる。この場合、有機溶剤の量が少なくなることで、実施例1、2に係る媒体を用いたとしても、インク中の溶剤成分が短時間で媒体に吸収されやすくなり、顔料の配向が不十分になると考えられる。また、印刷の濃度が低い場合、顔料の量も少なくなるため、その点でも、メタリック感が得にくくなると考えられる。そのため、高分子可塑剤を含有する媒体を用いる場合においても、例えば使用するインクと媒体との性質に応じて、ある程度以上の濃度で印刷を行うことが好ましい。このように構成すれば、高いメタリック感をより適切に得ることができる。
尚、図示は省略したが、本願の発明者は、上記の4種類以外にも、様々な媒体を用い、同じ条件での印刷を行った。また、これにより、上記の実験に関連して説明をした事項の他に、例えば、キャスト製法で製造された媒体について、カレンダー製法で製造された媒体と比べ、メタリックインクの有機溶剤が媒体へ浸透することをより適切に抑えることができること等も確認した。
より具体的に、例えば、キャスト製法で製造された媒体である3M社製のIJ180−10 Cv3型の塩化ビニルシート(グロスタイプ)等を用い、実施例1等と同じ条件で、メタリックインクを用いて印刷を行った。また、これにより、実施例1と同様の高いメタリック感が得られることを確認した。そのため、キャスト製法で製造された媒体を用いることにより、高いメタリック感をより適切に得ることができると考えられる。
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。