本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他色々な形態が実施可能である。
図1に、本発明におけるすかし入り用紙(S)(以下、「用紙」という。)の平面図を示す。用紙(S)は、基材(1)の少なくとも一部に、すかし模様(2)を有する。すかし模様(2)は、透過光下において視認可能な透過模様である。
図2は、すかし模様(2)の詳細を示す展開図である。図2(a)に示すように、すかし模様(2)は、第1のすかし部(3)と、重畳領域(W)から成る。第1のすかし部(3)は、基材(1)より光透過性が高い透過模様である。
重畳領域(W)は、第1のすかし部(3)より光透過性が低い透過模様であり、第1のすかし部(3)の一部に、図2(c)に示す、第1のすかし部(3)と等色のセルロース微小繊維で形成された第2のすかし部(4)が積層して成る。
図3は、すかし模様(2)の視認状態を示す模式図である。すかし模様(2)は、透過光下において、第1のすかし部(3)が透過模様として視認され、第1のすかし部(3)内に、第1のすかし部(3)より光透過性の低い領域として、第2のすかし部(4)が視認される。よって、肉眼では、白すき入れ模様として第1のすかし部(3)が視認され、その中に、第2のすかし部(4)が黒すき入れ模様として視認される。
なお、透過光下においては、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)が積層して成る重畳領域(W)が、黒すき入れ模様として視認されるが、本発明においては、第2のすかし部(4)が視認されるとする。以下、すかし模様(2)を構成する各要素について説明する。
まず、基材(1)について説明する。本発明における基材(1)は、光を透過する特性、いわゆる光透過性を有する必要がある。不透明なプラスチックや金属では透過光下での効果は得られない。なお、基材(2)の色彩については、特に制約はない。基材(1)は、光透過性を有するシート状のものであれば、紙、合成繊維紙や不織布、フィルム等、特に限定はない。
さらに詳しく言えば、針葉樹、広葉樹等の木材繊維、ケナフ、バガス、麻、アバカ、木綿、みつまた、こうぞ、わら、竹等の非木材繊維から成る紙、レーヨン等の再生繊維、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリスチレン、PET、ポリオレフィン系等の合成繊維から成る合成繊維紙又は不織布を用いることが可能である。また、親水性のフィルムや、親水性処理を施したフィルムも使用できる。
特に、木材や非木材繊維から成る紙、水素結合を形成できる官能基を持つ合成繊維からなる合成繊維紙又は不織布が好ましい。詳細については後述するが、第2のすかし部(4)は、セルロース微小繊維を水に分散させた後に、その分散液であるセルロース微小繊維分散液(以下「微小繊維分散液」という。)を基材(1)上に付与することで形成される。よって、基材(1)を、木材繊維や非木材繊維等の天然繊維や水素結合を形成できる官能基を持つ合成繊維で形成することで、水に分散させたセルロース微小繊維を、水素結合により基材(1)上に強固に定着することが、可能となる。
なお、水素結合を形成できる官能基を持たない合成繊維からなる合成繊維紙や不織布、フィルム等の吸水性を有するシート状の基材(1)や、水素結合をしないプラスチック繊維やガラス繊維が入った基材(1)であっても、微小繊維分散液に少量のバインダー成分を配合して、セルロース微小繊維を基材(1)上に定着することができれば、使用することができる。ただし、この際配合するバインダーは水溶性のバインダーとし、乾燥後固化したバインダーの光沢が、反射光下で視認できない程度の量とする。
繊維状の材料から形成される基材(1)としては、針葉樹、広葉樹、ケナフ、バガス、麻、アバカ、木綿、みつまた、こうぞ、わら、竹等植物繊維から成るシート状の材料を用いることが可能である。
次に、第1のすかし部(3)について説明する。第1のすかし部(3)は、基材(1)より光透過性が高い透過模様であり、光透過性を有する基材(1)の一部を、圧縮、透かし印刷、レーザ加工、すき入れのいずれかにより加工、又はそれらの組み合わせにより加工された領域である。
前述のとおり、光透過性とは光の透過する特性(割合)であり、本発明において光透過性が異なるとは、明度差(ΔL)が5以上のことをいう。明度差(ΔL)が5以上の場合、透過光下において肉眼で観察した場合、基材(1)と第1のすかし部(3)を区分けして視認することが可能となる。
なお、明度差(ΔL)は、用紙(S)を測色計により透過光下における明度(L)の値を測定する、又はスキャナ等で透過画像として取り込んだのち用紙(S)の透過画像を画像処理ソフトにより、明度(L)の値を測定した際、基材(1)と第1のすかし部(3)の明度差(ΔL)を演算することで算出することが可能である。
図4は、基材(1)を圧縮する第1のすかし部(3)の形成方法の一例を示す模式図である。基材(1)を圧縮して形成するとは、一定の厚みを有する基材(1)を加圧することで、厚みを薄くし、その加圧箇所の繊維密度を、加圧前よりも高くすることである。
具体的には、二つの金属ロール(R)の一方に、第1のすかし部(3)の形状と同一形状のシート状の模様型(P)を設置した後、二つの金属ロール(R)の間に基材(1)を通すことで、模様型(P)に基材(1)が加圧されることで、加圧箇所が、非加圧箇所と比べて繊維密度が高くなる。
一般の用紙において、紙層を形成する繊維間には空隙が多く存在する。用紙に入射される光は繊維間の空隙で散乱する。そのため用紙を光源にかざしても、光は散乱しないため不透明となる。
一方、基材(1)を加圧した場合、紙層を形成する繊維間の空隙がほとんどなくなり、繊維密度が高くなる。よって、用紙を光源にかざした場合、空隙間での光の散乱が少なく加圧箇所を透過するため、加圧箇所以外の非加圧箇所と比べ、明るく(白く)視認される。よって、同じ材料の基材(1)では、密度が高い箇所の方が、透過光量が高くなることから、透過光下で観察した場合、模様型(P)の形状のすかし模様が視認される。
なお、二つの金属ロール(R)は、基材(1)の作製中における抄紙機上に設置しても良い。例えば、抄紙機の光沢部におけるカレンダーロール、プレス部のプレスロールに置き換えることも、可能である。また、完成後の用紙に対して、別途プレス装置やカレンダー装置を用いて形成することも、可能である。
次に、第1のすかし部(3)を、レーザ加工により形成する方法について説明する。
レーザ加工による形成方法とは、公知のレーザ加工装置を用いて基材(2)の一部を除去することで、第1のすかし部(3)を形成する。基材(2)に対して、形成したい第1のすかし部(3)と同一形状の領域をレーザ加工により除去することで、この除去した領域は、基材(2)より薄く(凹形状)なる。よって、透過光下で観察した場合、基材(2)よりも薄い第1のすかし部(3)の透過光量が高くなることから、透過模様として第1のすかし部(3)が視認される。
次に、第1のすかし部(3)を、すき入れにより形成する方法について説明する。
まず、抄紙機のワイヤー部において、あらかじめワイヤー上に樹脂等で、形成したい第1のすかし部(3)と同一形状の凸模様を形成しておく、又はワイヤー自体をエンボス加工して第1のすかし部(3)と同一形状の凸模様を形成しておく。
ワイヤー部に供給された紙料懸濁液が湿紙に形成される過程で、ワイヤーの凸模様部上では繊維量が少なくなり、白すき入れによる模様(本発明の第1のすかし部に該当)が形成される。模様が形成された湿紙が、抄紙機のプレス部、乾燥部、光沢部を通り、リールに巻かれることで、透過光量が高くて明るく(白く)視認される第1のすかし部(3)を付与した用紙となる。
ただし、抄紙機による方法では、ワイヤー上の凸模様で形成した第1のすかし部(3)の透過光量にバラツキがあり、平滑性がやや低くなることから、セルロース微小繊維の転移性が悪くなり、第2のすかし部(4)が視認し難くなる傾向にある。第1のすかし部(3)の透過光量のバラツキが少なく、平滑性が高いすかし部が容易に形成できる、加圧による形成方法の方が好ましい。
次に、第1のすかし部(3)を、基材(1)に透かし印刷で形成する方法について説明する。
基材(1)に透かし印刷で形成するとは、形成したい第1のすかし部(3)と同一形状の版面を用いて、基材(1)に透かしインキを印刷することである。基材(1)に透かしインキを印刷することで、基材(1)である紙層を形成する繊維間に存在する空隙内に、透かしインキが浸透する。
それにより、紙層を形成する繊維間の空隙がほとんどなくなり、繊維密度が高くなることで、透過光下で観察した際には、空隙において、光が散乱することなく印刷箇所を透過するため、印刷箇所以外の非印刷箇所と比べ、明るく(白く)視認される。よって、同じ材料の基材(1)では、透かしインキを印刷した箇所の方が、透過光量が高くなることから、透過光下で観察した場合、すかし模様が視認される。
透かしインキは、基材(1)を形成するセルロースの屈折率に近い樹脂やワックス、動植物油を含有したインキ(T&K TOKA社製「商品名:ベストワン透かしインキ」、(東洋インキ社製「商品名:SMX透かしインキ」)等、肉眼において、透過光下で観察した際に、後述する重畳領域(W)との光透過性が異なって視認可能となるインキを用いる。
第1のすかし部(3)を、透かしインキにより形成する場合、インキが浸透しづらい基材(1)を用いることは、好ましくない。前述のとおり、透かしインキが、基材(1)である紙層を形成する繊維間に存在する空隙内に浸透することで、第1のすかし部(3)が形成される。よって、インキが浸透し難い基材(1)は、第1のすかし部(3)と重畳領域(W)の光透過性に差が小さくなり、鮮明な透かしを形成することができず、好ましくない。
また、透かしインキの転移量によっては、第2のすかし部(4)を形成するセルロース微小繊維の転移性が悪くなり、第2のすかし部(4)の視認性が悪くなることがある。これは、透かしインキは親油性であり、親水性の微小繊維懸濁液の転移を阻害するためである。この場合、先にセルロース微小繊維の印刷により第2のすかし部(4)の形成を行い、その後に、透かしインキによる第1のすかし部を形成することで、第2のすかし部(4)の視認性も良好な本発明の用紙(S)を作製することができる。
図5は、第1のすかし部(3)の形状の一例を示す平面図である。第1のすかし部(3)の形状は、図2に示すような長方形状等の図柄形状に限らず、図5(a)に示す、星型のように、所望の模様形状や、図5(b)、図5(c)及び図5(d)に示すように、万線から成る形状でも良い。また、図5(e)に示すように、複数の網点から成る形状としてもよく、特に形状の制限はない。
また、第1のすかし部(3)は、図2では光透過性が一様な模様であるが、光透過性が互いに異なる複数の領域から成る模様としても良い。
図6は、第1のすかし部(3)が階調を有する場合の一例を示す平面図である。第1のすかし部(3)は、図6(a)から図6(c)に示すように、第1のすかし部(3)を、互いに異なる光透過性の複数のすかし領域(3a)で形成することで、階調を有する透過模様とすることも、可能である。
階調を有する第1のすかし部(3)は、例えば図4において、模様型(P)の厚みを一部異ならせることで、厚い箇所及び薄い箇所で、圧縮時に基材(1)の圧縮性が異なり、光透過性が異なることで形成することが、可能である。なお、圧縮により階調を付与したが、透過性を異ならせることが可能なものであれば、形成方法は限定しない。
また、各すかし領域(3a)を、異なる加工方法により形成することも可能である。例えば、図6(c)において、第1のすかし部(3)は二つのすかし領域(3a)から成るが、一方のすかし領域(3a)を、基材(1)を圧縮することで形成し、他方のすかし領域(3a)を、すかし印刷により形成することも可能である。
さらには、第1のすかし部(3)を、前述した圧縮、すかし印刷、すき入れ又はレーザ加工という異なる加工方法の組み合わせにより加工されて成ることも可能である。例えば、図6(a)が、五つのすかし領域(3a)から成るが、そのうち三つのすかし領域(3a)をすき入れにより形成したのち、五つのすかし領域(3a)全てに対し、すかし印刷を行うことで第1のすかし部(3)を形成した場合、すき入れとすかし印刷により形成したすかし領域(3a)と、すかし印刷のみで形成したすかし領域(3a)では透過性が異なることから、より階調が豊かな第1のすかし部(3)を形成することが可能となる。
次に、重畳領域(W)について説明する。重畳領域(W)は、第1のすかし部(3)より光透過性が低い領域であり、第1のすかし部(3)の一部に、第1のすかし部(3)と等色のセルロース微小繊維で形成された第2のすかし部(4)が積層して成る。なお、セルロース微小繊維の形成方法については後述する。
前述のとおり、本発明において光透過性が異なるとは、明度差(ΔL)が5以上のことである。光透過性が低いとは、二つの領域(例えば、A及びB)を比較した際に、Aの領域の明度が、Bの領域の明度より高く、かつ、明度差(ΔL)が5以上の場合、領域Bは領域Aより光透過性が低いという。
二つの領域(例えば、A及びB)を比較した際に、Aの領域の明度が、Bの領域の明度より高く、かつ、明度差(ΔL)が5以上の場合、透過光下において肉眼で観察した場合、白すき入れ模様として第1のすかし部(3)が視認され、その中に、重畳領域(W)が黒すき入れ模様として視認される。なお、明度差(ΔL)の測定方法は、前述した基材(1)と第1のすかし部(3)の明度差(ΔL)の算出方法と同様であることから説明を省略する。
次に、第2のすかし部(4)について説明する。第2のすかし部(4)は、セルロース微小繊維から成る。本発明におけるセルロース微小繊維とは、主としてセルロースからなる繊維であり、特に植物由来の天然セルロースを原料として用いたものが好ましく、繊維幅2nm〜10μm未満の微小なセルロース繊維に解繊されたものをいう。
ここでいう解繊とは、セルロース系の繊維をミクロ又はナノフィブリル数本単位まで解きほぐすことである。通常、植物から得られるセルロース系の繊維は、セルロース分子30〜50本から成り、繊維幅が約2〜5nmのセルロースナノフィブリルの集合体である。セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により強固に結合されているが、物理的又は化学的な処理を施すことで、繊維状のままセルロースミクロ又はナノフィブリル数本単位に解きほぐすことが可能である。
セルロース繊維の繊維幅が10μm以上になると、一般的なパルプ繊維の繊維幅である10〜30μmと同じオーダーとなり、微小繊維特有の特性を得られない。よって、ここでいう微小繊維とは、セルロースナノフィブリル単位の約2nmから10μm未満の繊維をいい、特に2nm〜1μm未満の繊維の使用が好ましく、更に好ましくは2nm〜100nm未満の繊維である。
また、繊維とは、アスペクト比(繊維長さ/繊維幅)が通常100〜1000以上の細長い個体を意味するが、本発明におけるセルロース微小繊維も、基本的にはアスペクト比がこの範囲に入る繊維である。特に、繊維幅が100nm未満の微小繊維では、アスペクト比が10000以上になることも有り得る。
繊維長さに関しては、このアスペクト比に含まれる長さであることが望ましいが、印刷方式により最大限界長さは異なり、アスペクト比が100以下であっても、少なくとも繊維長さが繊維幅よりも大きければよい。
ただし、アスペクト比が1以下では粒子形状となり、球形や多角形の顔料粒子等と特性が近くなり、繊維による印刷の特徴が得られない。このことから、セルロース微小繊維の繊維長さは、後述する着色剤の粒子径よりも大きい必要がある。
セルロース微小繊維は、主としてセルロースの繊維から成るが、そのセルロースからなる繊維については、特に限定されるものではなく、各種木材を原料とするKP、SP等の化学パルプ、GP、TMP、CTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用でき、それらを粉砕した粉末状セルロース、化学処理により精製した微結晶化セルロース等も使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、アバカ、木綿、ミツマタ、竹等の非木材を使用することもできる。
セルロース微小繊維は、白色や黄白色(原材料のパルプの色)であり、これと異なる色の第1のすかし部(3)に印刷する場合には、第1のすかし部(3)と等色に着色したセルロース微小繊維を用いる。また、等色の基材(1)に印刷する場合には、そのままを使用する。
本発明においては、セルロース微小繊維を、第1のすかし部(3)と等色とする。等色とすることで、透過光下で観察した際に、第1のすかし部(3)上において、セルロース微小繊維を付与した箇所は光透過性が異なることで、すかし模様として第2のすかし部(4)が視認される。よって、すかし模様である第1のすかし部(3)内に、異なる光透過性を有する第2のすかし部(4)が視認可能となることから、すかし模様(2)は、階調を有するすかしとして視認される。
着色したセルロース微小繊維を用いる際には、セルロース微小繊維を作製してから着色剤で着色するか、原材料の繊維を着色剤で着色してから解繊し、セルロース微小繊維を作製する。ただし、セルロース微小繊維を作製後に着色した方が、着色ムラが少ない。
着色剤は、セルロース繊維によく染まる直接染料、反応染料の使用が好ましいが、セルロース繊維に着色できれば、他の染料や顔料を用いてもよい。着色時には着色方法や着色剤の種類に応じて、適宜、定着剤等の助剤を使用する。
着色する方法として、染料による着色は、水中で加熱し染料を繊維に吸着させ、水洗、乾燥させる浸染染色方法等がある。また、顔料による着色は、ミル機等を用いて顔料と分散剤を湿式分散して着色剤を作り、この着色剤を着色する方法等がある。これらの方法は、すべて公知の手法であり、本発明における着色繊維を作製するために行う着色も、公知の手法で行うこととする。
無着色又は着色したセルロース微小繊維を水に分散させ、微小繊維分散液を調製する。これに、分散剤や水溶性高分子、セルロース微小繊維の分散状態を阻害しない水溶性液体、有機溶媒、あるいは粉末や微粒子等を加えることが可能である。
微小繊維分散液は、解繊された微小繊維同士が、すぐに水素結合で再結合しない程度の濃度である必要があり、固形分濃度1〜3%程度での使用が望ましい。ただし、微小繊維分散液を強撹拌又は分散剤を添加することで、微小繊維同士を再分離させることができれば、3〜35%程度でも問題はない。
これは、固形分濃度が35%以上の高濃度になると、撹拌又は分散剤を加えるのみでは、微小繊維同士の再結合を抑止できず、再解繊処理が必要となる可能性があるためであり、逆に、固形分濃度が1%以下の低濃度では、用紙への付与及び乾燥段階において、水分過多による用紙の膨潤等を促進する可能性があるためである。ただし、それらの問題が他の手段で回避できれば特に制限はない。
微小繊維分散液を付与する量は、付与する方式によって異なるが、乾燥後のセルロース微小繊維の固形分量が、30g/m2以上と成るように調製する必要がある。
固形分量が30g/m2未満であると、可視光による透過光下において、微小繊維分散液の付与部が肉眼で視認しづらくなり、好ましくない。
また、付与方式によっては、一回での付与限界量が当該量以下の場合もあるが、この場合は数回付与を繰り返し、目標の固形分量を得ればよい。
セルロース微小繊維の長さは、木材や非木材パルプの繊維長さが通常0.5〜20mm程度であることから、最小限界長さはこれ以下の長さとなるが、最大限界長さは付与方式により異なる。例えば、スクリーン印刷方式ではスクリーンの網目を通過できる長さ以下、フレキソ印刷方式ではロールのセルに転写されうる長さ以下、インクジェット印刷方式では噴射口から噴射され得る長さ以下である必要がある。
第2のすかし部(4)は、セルロース微小繊維を水に分散することで、形成した微小繊維分散液を、第1のすかし部(3)の上に印刷した後、乾燥させることにより、本発明における階調を有するすかし模様(2)が作製される。
前述のとおり、本発明のすかし模様(2)は、セルロース微小繊維が水素結合により第1のすかし部(3)上に定着することで形成される。よって、セルロース微小繊維を、第1のすかし部(3)上に、より強固に定着するためには、含水率の高い紙や不織布から成る基材(1)に印刷することが好ましい。
木材や非木材パルプから成る紙や、水素結合を形成できる官能基を有する合成繊維から成り湿式で作製される不織布は、繊維間の水素結合によって繊維が結合してシート状になっている。水素結合は、セルロース繊維の水酸基同士のみの結合が最も強固であり、水酸基の結合間に水分子が入ることで、水素結合の力は低下する。
よって、含水率の高い紙や不織布から成る基材(1)を用いた場合には、繊維間に多くの水分子が介在するため緩い水素結合となり、新たに付与されたセルロース微小繊維と用紙の繊維が新たな水素結合を形成しやすくなり、セルロース微小繊維と基材(1)との水素結合がより強固となる。以下、含水率の高い紙や不織布から成る基材(1)については「湿紙」といい、抄紙機の乾燥工程を経て完成した基材(1)については「乾紙」という。
印刷については、湿紙、乾紙のいずれに対しても、微小繊維分散液を用紙に転移させて、有意情報を形成する印刷手段と、印刷手段に微小繊維分散液を供給する供給手段から構成された、前述の印刷方式を行うことが可能な印刷装置を用いて行う。例えば、スクリーン印刷機、フレキソ印刷機、グラビア印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、凸版印刷機、凹版印刷機等の印刷装置を用いて行う。
印刷手段は、有意情報の形をした印刷版面やインクジェット印刷機における噴出口であり、用いる印刷装置に合わせて、適宜選択する。また、供給手段は、印刷手段に、微小繊維分散液を供給する手段であり、印刷装置におけるインキ供給部やインキタンクのことである。なお、これ以外の印刷方式でも、微小繊維が用紙上に印刷でき、模様が形成できれば、特に限定しない。
各々の印刷方式において、印刷装置の通常インキを供給する箇所(本発明では「供給手段」という。)に微小繊維分散液を供給し、印刷を行う。印刷方式により、微小繊維分散液の粘度を上げる必要がある場合には、適宜、増粘剤として水溶性高分子等を加えても良い。また、印刷方式により、微小繊維分散液の版面転移性や乾燥性を改良する必要がある場合には、適宜、エーテル類やアルコール類等の有機溶媒を加えたり、水と置換したりしても良い。
微小繊維分散液を印刷する量は、乾燥後のセルロース微小繊維の膜厚が、2〜60μm程度と成るようにする必要がある。好ましくは、10〜60μm程度とする。
膜厚が10μm未満であると、透過光下において、セルロース微小繊維による第2のすかし部(4)が肉眼で視認し難くなり、さらに、膜厚が2μm未満であると、ほぼ視認できなくなるため、好ましくない。
また、膜厚が60μmを超えると、反射光下でも第2のすかし部(4)が明確に視認できるようになり、好ましくない。
印刷方式によっては、一回での付与限界量が当該量以下の場合もあるが、この場合は数回印刷を繰り返し、目標の膜厚を得ればよい。
印刷装置により用紙上にセルロース微小繊維を印刷する工程は、抄紙機上に設置した印刷装置を用いて印刷する工程と、通常のインキを用いた印刷と同様に、印刷機を用いて印刷する工程の二通りがある。
まず、抄紙機上に設置した印刷装置を用いて印刷する工程について説明する。印刷装置である、スクリーン印刷装置、フレキソ印刷装置、インクジェット印刷装置、グラビア印刷装置、オフセット印刷装置及び凸版印刷装置等のいずれかを、抄紙機上の紙料懸濁液をシート状に形成するワイヤー部と乾燥部の間に設置した後、各印刷装置の供給手段に微小繊維分散液を供給する。
次に、供給手段から、微小繊維分散液を印刷手段に供給する。最後に、印刷手段から、含水率9〜85%未満まで脱水した抄紙機上の用紙に、微小繊維分散液を印刷する。
含水率85%以上では、抄紙機上において紙料懸濁液がシート状になっておらず、印刷された微小繊維分散液と紙料懸濁液が混ざり合い、有意情報を印刷することができない。
抄紙機上のプレス部に設置した、版面、アニロックスロール、インキパン等からなる印刷装置を用いて、インキパン内のインキ(本発明においては微小繊維分散液)を、抄紙機上の湿紙に付与する印刷方法の詳細は、本出願人が先に出願している特許第2740765号「湿紙印刷物及びその製造方法と湿紙印刷装置」に記載されているので省略する。
次に、通常のインキを用いた印刷と同様に印刷機を用いて印刷する工程について説明する。乾紙に対して行う場合には、抄紙機の乾燥工程を経て完成した、紙、合成繊維紙、不織布、フィルム等含水率9%未満の用紙に、各種方式の印刷装置である、スクリーン印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、グラビア印刷機、オフセット印刷機、凸版印刷機及び凹版印刷機を用いて、セルロース微小繊維を印刷する。
湿紙に対して行う方法には、抄紙機上で行う方法と、乾紙を濡らして行う方法の二通りがあり、抄紙機上で行う方法とは、抄紙機上の乾燥工程後等用紙の含水率が9%未満となる箇所に、前述した各種方式の印刷装置を設けて、微小繊維分散液を印刷する方法である。
また、乾紙を濡らして行う方法とは、抄紙機の乾燥工程を経て完成した、紙、合成繊維紙、不織布等の用紙(含水率9%未満)に対して、水を含浸させたり吹き付けたりすることで、含水率を9〜85%未満とした後、前述した各種方式の印刷装置を用いて微小繊維分散液を印刷する方法である。
微小繊維分散液は、各種印刷方式により、用紙に転移させた後乾燥する。乾燥時に水分が蒸発する段階で、セルロース微小繊維と用紙の繊維間の水素結合により、セルロース微小繊維は用紙上に定着し、模様を形成する。通常のインキのようにバインダー成分を加える必要はなく、強固な結合を形成する。
印刷された微小繊維分散液の乾燥は、微小繊維分散液中の水分の蒸発及び用紙への浸透による蒸発浸透型の乾燥であるため、例えば、加熱乾燥を行う。加熱乾燥は、熱風乾燥等の非接触式の乾燥方式が好ましい。ただし、シリンダ等による接触式の乾燥方式でも、シリンダ表面にセルロース微小繊維が転移することを回避できれば問題はない。加熱乾燥を行わないと、水分の蒸発よりも用紙への浸透が過剰となり、用紙のカール等変形を引き起こしやすい。なお、乾燥方式については、加熱乾燥に限定される必要はなく、印刷された微小繊維分散液が乾燥できる方式であればよい。
例えば、スクリーン印刷方式によってセルロース微小繊維を印刷する方法の一例を図7に示す。図7(a)に示すように、スクリーン印刷機のインキ供給箇所(5)に微小繊維分散液を供給し、スキージ(6)又は版面(7)を動作させることで、微小繊維分散液がスクリーン版面の模様状のオープニング部(8)を通過し、第1のすかし部(3)の上に転移して模様を形成する。
その後、図7(b)に示すように、乾燥機(9)を使用して加熱乾燥を行い、微小繊維分散液中の水分を蒸発させて乾燥する。セルロース微小繊維と基材(1)の繊維間の水素結合により、セルロース微小繊維は用紙上に定着し、第2のすかし部(4)が作製される。
なお、第2のすかし部(4)の形状は、図2に示すような二重円形状等の図柄形状に限らず、前述した第1のすかし部(3)と同様に、特に形状の制限はない。
また、第2のすかし部(4)は、図5において、光透過性が一様な模様であるが、前述した第1のすかし部(3)と同様に、第2のすかし部(4)内では、光透過性が異なる複数の領域を有していても良い。第2のすかし部(4)を、光透過性が異なる複数の領域から形成することで、すかし模様(2)における重畳領域(W)が光透過性の異なる複数の領域から成る。
以上のように、第1のすかし部(3)の上に第2のすかし部(4)を形成することによって、本発明のすかし模様(2)が形成される。
本発明の実施例1について、図8を用いて説明する。図8(a)は、本発明における階調を有するすかし模様(2)を付与した用紙(S2)の平面図を示す。
すかし模様(2)は、第1のすかし部(3)と重畳領域(W)から成り、重畳領域(W)は、図8(b)に示す第1のすかし部(3)の上に、図8(c)に示す第2のすかし部(4)を印刷することで形成した。
基材(1)としては、上質紙(日本製紙製「ニューNPi上質(坪量81.4(g/m2)」)を用いた。
また、第1のすかし部(3)は、抄紙機上の光沢部に設置したカレンダーロールに、図4に示した長方形状の模様型(P)を設置した後、基材(1)を圧縮することで形成した。なお、第1のすかし部(3)は、長方形状の透過光量が一様な領域として形成した。
また、第2のすかし部(4)は、微小繊維分散液を印刷することで形成した。
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュKY100G」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。フラットベット型スクリーン印刷機(MF−250、RANAS製)を用いて、スクリーン印刷方式によりセルロース微小繊維の印刷を行い、文字形状「OK」の第2のすかし部(4)を形成した。スクリーン版面は、80メッシュのラッカ―版面(オープニング247μm、線径71μm、版厚119μm、日本特殊織物株式会社製)を使用した。第2のすかし部(4)の膜厚は、約15μmであった。
このようにして作製された用紙(S2)の真偽判別を行う。用紙(S2)を透過光で観察すると、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)が視認できた。また、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)は光透過性の差により、階調を有するすかし模様として視認された。それにより、用紙(S2)が真正品であると判断された。
本発明の実施例2について、図9を用いて説明する。図9(a)は、本発明における階調を有するすかし模様(2)を付与した用紙(S3)の平面図を示す。
すかし模様(2)は、階調を有する第1のすかし部(3)と重畳領域(W)から成り、重畳領域(W)は、図9(b)に示す階調を有する第1のすかし部(3)の上に、図9(c)に示す第2のすかし部(4)を印刷することで形成した。
基材(1)としては、上質紙(日本製紙株式会社製「ニューNPi上質(坪量81.4(g/m2)」)を用いた。
また、第1のすかし部(3)は、抄紙機上の光沢部に設置したカレンダーロールに、中心円と周囲円で厚みが異なる二重円状の模様型(P)を設置した後、基材(1)を圧縮することで形成した。なお、第1のすかし部(3)は、模様型状に透過光量が異なり、階調を有する二重円状の領域として形成した。
第2のすかし部(4)は、微小繊維分散液を印刷することで形成した。
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュKY100G」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。フレキソ印刷適性試験機(FLEXIPROOF100、RK Print Coat Instruments製)を用いて、フレキソ印刷方式によりセルロース微小繊維の印刷を行い、文字形状「OK」の第2のすかし部(4)を形成した。アニロックスロールは、線数40線/cm、セル容積28cm3/m2のものを、版面は感光性樹脂版を使用した。第2のすかし部(4)の膜厚は、50〜60μmであった。
このようにして作製された用紙(S3)の真偽判別を行う。用紙(S3)を透過光で観察すると、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)が視認できた。また、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)は光透過性の差により、階調を有するすかし模様として視認された。それにより、用紙(S3)が真正品であると判断された。
本発明の実施例3について、図10を用いて説明する。図10(a)は、本発明における階調を有するすかし模様(2)を付与した用紙(S4)の平面図を示す。
すかし模様(2)は、第1のすかし部(3)と重畳領域(W)から成り、重畳領域(W)は、図10(b)に示す第1のすかし部(3)の上に、図10(c)に示す第2のすかし部(4)を印刷することで形成した。本実施例における用紙(S4)は、基材(1)及び第1のすかし部(3)を、抄紙機において抄紙及びすき入れを施すことにより作製した。
あらかじめ、抄紙機のワイヤー上に、樹脂で長方形状の凸模様を形成しておいた。アバカ繊維懸濁液をワイヤー部に供給し、湿紙に形成される過程で、ワイヤーの凸模様部上では繊維量が少なくなり、白すき入れによる長方形状の模様部を形成した。
模様が形成された湿紙は、抄紙機のプレス部、乾燥部、光沢部を通り、リールに巻かれて、アバカ紙に長方形状の第1のすかし部(3)を形成した用紙を作製した。
第2のすかし部(4)は、微小繊維分散液を印刷することで形成した。
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュKY100G」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。フレキソ印刷適性試験機(FLEXIPROOF100、RK Print Coat Instruments製)を用いて、フレキソ印刷方式によりセルロース微小繊維の印刷を行い、「鳳凰」模様の第2のすかし部(4)を形成した。アニロックスロールは、線数40線/cm、セル容積28cm3/m2のものを、版面は感光性樹脂版を使用した。第2のすかし部(4)の膜厚は、20〜30μmであった。
このようにして作製された用紙(S4)の真偽判別を行う。用紙(S4)を透過光で観察すると、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)が視認できた。また、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)は光透過性の差により、階調を有するすかし模様として視認された。それにより、用紙(S4)が真正品であると判断された。
本発明の実施例4について、図11を用いて説明する。図11(a)は、本発明における階調を有するすかし模様(2)を付与した用紙(S5)の平面図を示す。
すかし模様(2)は、第1のすかし部(3)と重畳領域(W)から成り、重畳領域(W)は、図11(b)に示す第1のすかし部(3)の上に、図11(c)に示す第2のすかし部(4)を印刷することで形成した。本実施例における用紙(S5)は、第1のすかし部(3)を透かしインキの印刷により作製した。
基材(1)としては、上質紙(日本製紙株式会社製「ニューNPi上質(坪量81.4(g/m2)」)を用いた。
まず、基材(1)に微小繊維分散液を印刷することで、先に第2のすかし部(4)を形成した。
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュKY100G」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%の微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。フレキソ印刷適性試験機(FLEXIPROOF100、RK Print Coat Instruments製)を用いて、フレキソ印刷方式によりセルロース微小繊維の印刷を行い、「鳳凰」模様の第2のすかし部(4)を形成した。アニロックスロールは、線数40線/cm、セル容積28cm3/m2のものを、版面は感光性樹脂版を使用した。第2のすかし部(4)の膜厚は、50〜60μmであった。
第2のすかし部(4)に重なるように、透かしインキ(T&K TOKA社製「ベストワン透かしインキ」)を、オフセット印刷方式により印刷して、楕円状の第1のすかし部(3)を形成した。
このようにして作製された用紙(S5)の真偽判別を行う。用紙(S)を透過光で観察すると、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)が視認できた。また、第1のすかし部(3)と第2のすかし部(4)は光透過性の差により、階調を有するすかし模様として視認された。それにより、用紙(S5)が真正品であると判断された。