JP2015209605A - 炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

炭素繊維束の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2015209605A
JP2015209605A JP2014090285A JP2014090285A JP2015209605A JP 2015209605 A JP2015209605 A JP 2015209605A JP 2014090285 A JP2014090285 A JP 2014090285A JP 2014090285 A JP2014090285 A JP 2014090285A JP 2015209605 A JP2015209605 A JP 2015209605A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
fiber bundle
carbon fiber
treatment
electrode
treatment tank
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2014090285A
Other languages
English (en)
Inventor
陽輔 中村
Yousuke Nakamura
陽輔 中村
大輔 能登
Daisuke Noto
大輔 能登
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Teijin Ltd
Original Assignee
Toho Tenax Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toho Tenax Co Ltd filed Critical Toho Tenax Co Ltd
Priority to JP2014090285A priority Critical patent/JP2015209605A/ja
Publication of JP2015209605A publication Critical patent/JP2015209605A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Chemical Or Physical Treatment Of Fibers (AREA)

Abstract

【課題】生産性を低下させることなく炭素繊維束内外の処理ムラを解消し、複合体に適した炭素繊維束を提供することにある。
【解決手段】本発明の炭素繊維束の製造方法は、電解液中に電極が存在する複数の処理槽を用いて電解処理する方法であって、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置する方法である。さらには、電極の中心が2%以上50%以下の範囲で偏芯して位置していることや、繊維進行方向における電極長さが処理槽の進行方向長さの30%以上95%以下の範囲であること、処理前の炭素繊維束の含水率が10%以上300%以下の範囲であることが好ましい。また処理槽において、電極の上流側開口部面積/下流側開口部面積の値が1.5〜20であることが好ましい。
【選択図】図3

Description

本発明は、炭素繊維束の製造方法、さらに詳しくは炭素繊維表面の電解処理方法に関する。
炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れ、軽量であるため、熱硬化性及び熱可塑性樹脂の強化繊維として、従来のスポーツ・一般産業用途だけでなく、航空・宇宙用途、自動車用途など、幅広い用途に利用されるようになってきている。そして利用用途が拡大されるにつれ、炭素繊維強化樹脂複合材料(以下コンポジットと称する)には、さらに高い性能が求められている。
コンポジットの性能は、使用する炭素繊維とマトリクス樹脂の力学的特性の違いだけでなく、炭素繊維と樹脂の接着性など界面特性の違いによって、大きく異なってくることが知られている。そこで炭素繊維・樹脂間の界面特性の向上を目的とし、炭素繊維の表面状態を改質する表面処理が広く行われている。そしてこの表面処理としては、水溶液中の電解酸化によって行われる方法が一般的である。
ところでこの炭素繊維の製造工程における表面処理では、炭素繊維束内部の単繊維一本一本に対し、均一な表面電解処理を行うことが必要である。しかし表面電解処理工程では、電解液が炭素繊維束内部に十分に浸透することが困難であり、炭素繊維束の中心部の繊維は、その炭素繊維束の表面側に位置する繊維と比較して、表面電解処理を受けにくくなっているという問題がある。そして炭素繊維束内部において、このような各単繊維の処理ムラが存在すると、優れたコンポジット特性を得ることができない。
またマトリックス樹脂と炭素繊維との接着性を単純に高める観点からは、炭素繊維束により強い表面電解処理を施す各種の検討がなされてきた。しかしそのような強い表面処理は、各単繊維間の処理ムラをさらに助長するという問題があった。さらにこのような処理では、炭素繊維束の表面側に位置する単繊維は、繊維束の内部の単繊維と比べて強い表面電解処理を受けるために酸化が進みすぎ、繊維強度の低下も招いていた。
そして近年では、ラージトウ等の太物炭素繊維束が低コスト化の目的から求められてきたため、上記のような問題点はさらに拡大しており、コンポジット特性の向上のためには、表面電解処理工程での炭素繊維束の処理ムラを解消させることが、重要な課題であると認識されている。
従来は、例えば下記のような炭素繊維束の電解処理方法が提案されている。
特許文献1では、電解処理槽中にて複数本のロールを用いて繊維束を掛けまわし、あるいは電気量、処理時間、繊維束のトウ幅、張力の条件などを適正化する方法が開示されている。他方、特許文献2では、電解処理槽の前工程にて、電解処理に使用する電解液で満たされた浴に、ローラーなどを介して炭素繊維を浸漬処理し、その後に電解処理する方法が開示されている。しかし特許文献1や特許文献2などのようにローラーを多用する方法では、ローラーによって炭素繊維束が損傷し、どうしても処理斑が発生し、品位が低下するという問題があった。
一方特許文献3では、複数の陰極が1つの陽極を共有する装置を用いる、非接触の電解処理方法が提案されている。しかしこの方法では、複数の陰極に対し一つの陽極が対応しており、高い電圧が印加されやすく、脆弱層の除去や効率的な製造方法としては効果的であるものの、均一処理としては不満足なものであった。
さらに上記のいずれの方法を採用したとしても電解槽設備の大幅な変更を伴うために、新たな設備の導入による設備費の増大や、さらには生産性の低下といった問題もあった。
特開2002−38368号公報 特開2003−64577号公報 特開2012−102439号公報
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、生産性を低下させることなく炭素繊維束内外の処理ムラを解消し、複合体に適した炭素繊維束を提供することにある。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、電解液中に電極が存在する複数の処理槽を用いて電解処理する炭素繊維束の製造方法であって、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置することを特徴とする。
さらには、処理槽中の電極の中心が処理槽の中心から2%以上50%以下の範囲で偏芯して位置していることや、繊維進行方向における電極長さが処理槽の進行方向長さの30%以上95%以下の範囲であること、処理前の炭素繊維束の含水率が10%以上300%以下の範囲であることが好ましい。
また、処理槽が電解液を連続的に注入し上部から電解液をオーバーフローさせるものであり、繊維束がその処理槽の表面を通過していることや、処理槽において、繊維の進行方向における上流側と下流側の各槽壁と電極の端部との間に存在する、上流側開口部面積/下流側開口部面積の値が1.5〜20であることが好ましい。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、生産性を低下させることなく炭素繊維束内外の処理ムラを解消し、複合体に適した炭素繊維束を提供する。
本発明で使用する表面処理方法の一例を示す図である。 従来の表面処理方法の一例を示す図である。 本発明で使用する表面処理方法の処理槽部分の拡大図である。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、電解液中に電極が存在する複数の処理槽を用いて電解処理する炭素繊維束の製造方法であって、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置する製造方法である。
本発明の製造方法にて用いる炭素繊維束としては、PAN系、ピッチ系など、公知の炭素繊維が集合した繊維束を用いることができる。さらには、本発明で用いる炭素繊維としては、得られるコンポジットの物性を確保する面から、PAN系の炭素繊維を用いることが最も好ましい。
このような本発明に好ましく用いられるPAN系の炭素繊維は、具体的には、例えば以下の方法により製造することができるものである。
炭素繊維に焼成する前の前駆体繊維としては、アクリロニトリルを95質量%以上含有する単量体を重合して得られる紡糸溶液を紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られるPAN繊維前駆体繊維であることが好ましい。この時、前駆体繊維を紡糸する際のフィラメント数としては、炭素繊維の品位や製造効率の面から1000〜150000フィラメントが一般的であり、3000〜100000がより好ましい。
通常、かかる前駆体繊維は、加熱空気中200〜300℃で10〜100分間耐炎化処理することで耐炎化繊維が得られる。この耐炎化処理では、前駆体繊維を延伸倍率0.90〜1.20の範囲で延伸することが好ましい。
さらに得られた耐炎化繊維を、300℃〜1000℃で低温炭素化した後、1000〜2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化工程を経て、緻密な内部構造をもつ炭素繊維が得られる。より高い弾性率が求められる場合は、さらに2000〜3000℃の高温で黒鉛化処理を行ってもよい。
本発明の炭素繊維束の製造方法は、例えば上記のような方法にて得られた炭素繊維束を、電極が存在する複数の処理槽を用いて電解処理する炭素繊維束の製造方法である。処理する炭素繊維束の単繊維の本数は、特に限定されるものではないが、単繊維本数がより多い方が、繊維束内部への電解液の含浸が難しくなるため、本発明の効果をより発揮しやすい。好ましくは3K(3000本)〜1000K(1000000本)であることが、特には12K(12000本)〜500K(500000本)の範囲であることが好ましい。
また本発明の製造方法では、上記の炭素繊維束の製造工程においては、水分を含んだ炭素繊維束を表面処理工程に投入することが好ましい。炭素化工程後、水分を付与することにより、洗浄や工程通過性を高めることが可能となる。より具体的には、表面処理工程前の炭素繊維束の水分の含浸率は10〜300%の範囲であることが好ましい。さらには20〜250%、特には30〜200%の範囲であることが好ましい。本発明の製造方法を採用することで、このように水分を含浸した炭素繊維束も均一に処理することができるのである。ただしあまり高い含水率の繊維が表面処理工程に投入した場合には、電解液の濃度管理が困難になる傾向にある。
ここで本発明の製造方法に用いられる処理槽は、槽内に電解液が存在し、その電解液中に電極を有している処理槽である。そして電解液が処理槽中に連続的に注入され、上部からオーバーフローする処理槽であることが好ましい。この場合、処理される炭素繊維束は直接電極には触れずに電解液のみに接して処理される、いわゆる非接触方式の電解酸化処理法となる。
そして本発明の製造方法は、複数の処理槽を用いて表面電解処理する炭素繊維束の製造方法であって、該処理槽が電解液中に電極が存在する処理槽であり、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置する炭素繊維束の製造方法である。そしてこのような表面電解処理を施すことで、繊維束内外の処理斑のすくない表面酸化処理が行われた炭素繊維束を得ることが可能となったのである。
ちなみにこの本発明の炭素繊維束の製造方法では、2以上の複数の処理槽が存在し、各処理槽にそれぞれ存在する陽極と陰極の間で、電解溶液槽の電解液および炭素繊維を介して電流が流れるように電流回路を形成している間接通電方式であることが好ましい。(以降、このように一対の陽極と陰極で形成する1つの電流回路の単位を、ユニットと言うこととする。)本発明ではこのようなユニットが複数セット存在することが好ましい。
そして本発明では、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置することが重要である。このように、処理槽中の電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置する装置を用いることで、繊維が処理槽に侵入した後、電極上部に達するまでの間に、電解液の置換を十分に行うことができ、繊維束の内外での処理斑を効率的に減少させた炭素繊維束を得ることができるのである。その観点からはもっとも最初の処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置することが好ましい。
ちなみに従来方法のように、電解槽中の電極の位置が槽の中央に配置されている場合、電解槽に投入された繊維束は電極の上部で最も電解酸化処理されるのであるが、槽の中央に電極があるために、電解槽に投入された繊維束は電解液の置換が十分でないまま処理が開始され、繊維束内外での処理斑が発生していた。
また従来は、電解液の流れを整流するために電極は処理槽の中央に置く必要があると考えられていた。電解液の流れを整流することにより、繊維束の内側まで均一に処理することを意図したものである。しかし実際には、繊維束の均一処理の目的には、電解処理が始まる前に、繊維束に十分に電解液が含浸されていることの寄与の方が重要であることが判明した。本発明においては、電極を処理槽の繊維束進行方向の下流側に配置することで、電解処理が始まる前に繊維束に電解液が充分に含浸され、均一処理が達成できたのである。
このように本発明においては、電極を処理槽の後方に配置しているので、電解処理が始まる前に繊維束に対して十分な流速の電解液が供給される。そのため、電解液の流れの面からも、繊維束の均一処理に対して、より高い効果が得られた。なお、さらに電解液の流れを整流する目的では、後に述べるように、電極の周辺に整流板を配置する方法が好ましく適用される。
さて、本発明の製造方法では、少なくとも一つの処理槽において電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置するのであるが、その電極の偏芯の程度としては、処理槽中の電極の中心が、処理槽の中心から2%〜50%の範囲で、下流側に偏芯して位置していることが好ましい。ここでこの偏芯の程度は次の式で定義される偏芯率で表すことができる。なおここでの「距離」や「長さ」は、繊維の進行方向(繊維と平行な方向)における距離及び長さである。
偏芯率=(((繊維の進行方向の上流側における、電極の上流側端部と処理槽の槽壁との距離)+(電極長さ/2)−(処理槽長さ/2))/処理槽長さ)×100
処理槽中の電極の中心の偏芯率は、2〜50%であることが好ましく、より好ましくは5〜40%、特には10〜35%の範囲であることが好ましい。偏芯率が低すぎると炭素繊維中への電解液の更新が十分に行われない傾向にあり、本発明の処理斑を低減する効果が低下する。
なおこの電極の偏芯は一つの処理槽で実施されるだけでも効果的であり、他の処理槽では通常通り中心部に電極を配置しても良いが、本発明では、一番最初に位置する処理槽にて、電極を下流側に偏芯しているものであることが好ましい。さらには、1つの処理ユニットにおいて、上流側の処理槽中の電極の中心は下流側に、下流側の処理槽中の電極の中心を上流側に配置するのも良い方法である。このように電極を配置することで、電極を処理槽中央に配置した時に比べ、使用電圧を低下でき、より効率的かつ安全に電解処理を行うことができる。
また本発明の製造方法において、繊維進行方向の処理槽の長さに対する、電極長さの比(電極長さ/処理槽長さ)は、20〜95%の範囲にあることが好ましい。より好ましくは25〜90%、さらに好ましくは30〜85%である。電極の長さが短すぎると、電極の面積が十分に得られず、効率的な電解酸化を行うことができない。他方、電極の長さが長すぎると、電解液の更新が困難になるため、好ましくない。
また電極は処理槽の内部の処理液中に存在するのであるが、その電極の処理槽中の深さとしては、炭素繊維束と電極間の距離が、繊維進行方向に直交する処理槽の幅に対して(炭素繊維束・電極間の距離/処理槽の幅)、0.01〜2の範囲にあることが好ましい。さらに好ましくは0.05〜1.5の範囲である。この値が小さすぎると、電極と繊維の距離が近くなりすぎ、繊維が電極に触れショートするといった問題が起こりやすい傾向にある。他方、この値が大きすぎると、電極と繊維の距離が遠すぎるために電流値が低下し、電解効率が低下する傾向にある。
また電極が偏芯している本発明の処理槽において、繊維の進行方向における上流側と下流側の各槽壁と電極の端部(電極の上流側端部または下流側端部)との間に存在する、上流側開口部面積/下流側開口部面積の値は、1.5〜20の範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜18、特に好ましくは2.5〜15の範囲であることが好ましい。この値が適度であることにより、電極〜繊維間での電解液の更新が十分に行われ、好ましい。
なお、本発明の製造方法では、上記のように上流側開口部面積/下流側開口部面積の値を適切にするためにも、電解槽中に1つ以上の整流板を設置し、電解液を整流することが好ましい。整流板を設置する場所はとくに限定しないが、電極の下や電極〜繊維間に設けることが整流の観点からは特に効果的である。整流板としては孔のあいた多孔板(パンチングプレート)等を好ましく用いることができ、多孔板の開口率としては2〜50%の範囲であることが好ましい。なお、先の電極の上流側開口部面積や、下流側開口部面積の値は電極の端部と処理槽の槽壁との面積に、この多孔板の開口率を掛け合わせて計算したものを用いる。また整流板は電極と槽壁の全面を覆う必要は無く、一部を覆う形態であることも、より整流を細かく制御することができ、好ましい。
また、本発明の製造方法では、先に述べたように処理槽に電解液を連続的に注入し、上部からオーバーフローさせることが好ましい。この時、電解液の注入量としては、次の式で定義される電解液置換時間が1〜20秒の範囲であることが好ましい。より好ましくは2〜18秒、特には2.5〜15秒の範囲であることが好ましい。この電解液置換時間が短すぎると、オーバーフローする流量が多くなり、漏電等の危険性が高くなる傾向にある。他方、電解液置換時間が長すぎると、炭素繊維束に対し十分な電解液の供給が行いにくくなるとともに、電解処理によって電解槽中に発生した気体の除去等が非効率になる傾向にある。
電解液置換時間(秒)=処理槽の内槽体積(m)/電解液の循環量(m/秒)
電解処理槽出側の電解液の流速は、1mm/秒以上、1000mm/秒以下であることが望ましい。より好ましくは3mm/秒〜800mm/秒、さらに好ましくは5mm/秒〜500mm/秒である。電解液の流速が低すぎると、炭素繊維束へ十分な電解液の供給ができなくなるとともに、電解処理によって繊維表面近傍に発生した気体の除去等が効率的に行うことができなくなる。電解液の流速が逆に早すぎると、電解液の流れによって繊維が毛羽だってしまい、巻き付き等のトラブルの原因になり、また、炭素繊維の品位が低下してしまう。
本発明で用いる処理槽の電解液には、無機酸または無機塩基及び無機塩類の水溶液を用いることが好ましい。電解質として、例えば、硫酸、硝酸などの強酸を用いると表面処理の効率がよく好ましい。また、電解質として、例えば、硫酸アンモニウム(硫安)や炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類を用いると、無機酸や無機塩基を用いる場合と比較して、電解液の危険性が低いため好ましい。
電解液の電解質濃度は0.5%以上が好ましく、1〜20%の範囲がより好ましい。電解質濃度が低すぎると、電気伝導度が低いために、電解に適さない傾向があり、一方で、電解質濃度が高すぎる場合は、電解質が析出し、濃度の安定性が低くなる傾向がある。
電解液の温度は、高いほど電気伝導性を向上させるため、処理を促進させることができる。一方で、電解液の温度が高すぎると、水分の蒸発による濃度の変動等により、時間変動なく均一な条件を提供するのが難しくなるため、15〜50℃の間が好ましい。好ましい範囲の条件を提供することで、発明の効果は特に良く発揮されるが、それ以外でも、上記方法を用いることで発明の効果は得られる。
さらに本発明の表面処理を図を用いて以下に説明する。
図1.は、本発明で使用する表面処理装置の一例を示す図である。
ここで図1中、1.が陽極電解槽、2.が陰極電解槽である。ここでは陽極電解槽が前方浴、陰極電解槽が後方浴の1ユニットを構成している。それぞれの浴中には3.の陽極と、4.の陰極が、図1では繊維の進行方向の後方に配置されている。また、3.と4.には5.の直流電流が繋がれている。6.は電解液供給路であり、電解処理槽の下部から投入され、上部からオーバーフローする。その電解液に接するように7.の炭素繊維束が図の左から右へ移送される。1.陽極電解槽と、2.陰極電解槽との処理槽間を炭素繊維束が移送される際に、炭素繊維束自身が電気回路の一部として作用することで電流が流れるが、その際に各処理槽中で電極反応によって、繊維束表面で電子の授受が行われ炭素繊維側の表面処理が行われる。
本発明では少なくとも一つの処理槽中に存在する電極が繊維束の進行方向後方に位置しているのであるが、電解酸化によって炭素繊維側が最も処理させる電極上に、炭素繊維が移送されるまでに、炭素繊維束内に電解液を含浸できるため、電解酸化を均一に行うことができる。
ちなみに図2.は、従来の非接触式の表面処理装置の一例を示す図である。ここで、図2.の従来装置では本発明と異なり、3.の陽極と4.の陰極が、処理槽中の中央に位置している。
本発明の炭素繊維束の製造方法により得られた炭素繊維束における表面処理の処理斑は、サイクリックボルタンメトリー法(CV法)によるIpaの値を用いて評価することができる。すなわち具体的には、表面処理を施した炭素繊維束を2本に分繊し、それぞれの束について長さ方向に連続した5点から合計して10点の繊維束サンプル採取し、測定値からIpaのバラツキとして、その標準偏差の平均値に対する割合、すなわちCV値により評価した。値が少ないほど均一に処理されていることになる。
得られた炭素繊維束の表面における表面官能基の形成量は、X線光電子分光器により測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度(O/C)で評価できる。O/C値としては5〜50%の範囲にあることが好ましく、10〜35%のものがより好ましい。O/C値が低すぎる場合は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が劣り、コンポジット物性低下の原因になる。一方、O/C値が高すぎる場合は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が強すぎるため、かえって応力集中が生じ、耐衝撃性などのコンポジット物性が低下するため好ましくない。また、繊維表面の、官能基の均一性は、ストランドの長手方向のばらつきによっても評価できる。
本発明の炭素繊維束の製造方法においては、上記の表面処理を行った後、さらに必要に応じてサイジング処理を施すことも好ましい。サイジング方法としては、従来公知の方法で行うことができ、サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更して使用しることができる。サイジング剤を炭素繊維束に付着させた後には、引き続き乾燥させることが好ましい。サイジング剤の繊維束に対する重量付着量は0.1〜3.0%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.5%であることが好ましい。サイジング剤の付着量が多すぎると、炭素繊維束の開繊性が低下し、マトリクス樹脂の繊維束内部への含浸不良を引き起こす傾向にある。
このような本発明の炭素繊維束の製造方法により得られた炭素繊維束は、さらにマトリックス樹脂と組み合わせて、物性に優れた複合材料を得ることができる。その成形方法としては、例えばオートクレーブ成形、プレス成形、樹脂トランスファー成形、フィラメントワインディング成形など、公知の手段・方法を用いて、複合材料を得ることが可能である。
複合材料に本発明で得られた炭素繊維束を用いる場合には、炭素繊維束を一旦シート状の強化繊維材料として用いることが好ましい。そのようなシート状の材料としては、繊維材料を一方向にシート状に引き揃えたもの、繊維材料を織編物や不織布等の布帛に成形したもの、多軸織物等を好適に挙げることができる。
複合材料とするために炭素繊維束と用いるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性マトリックス樹脂の具体例として、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
複合材料中に占める樹脂組成物の含有率は、10〜90重量%の範囲であることが好ましい。さらには20〜60重量%、特には25〜45重量%の範囲であることが好ましい。
このような本発明方法の製造方法にて得られた炭素繊維束は、樹脂との接着性や濡れ性に優れる。特に上記のような複合材料とした場合には、物性発現率に優れたものになり、圧力容器や自動車の構造材などの様々な工業用途に好適に使用することができる。
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。また、各実施例及び比較例
における繊維の物性についての評価方法は以下の方法により実施した。
(1) 表面処理の処理斑の評価
本発明での炭素繊維の処理斑の評価方法には、サイクリックボルタンメトリー法(CV法)によるIpa(アノードピーク電流)の値を用いた。まず、燐酸を用いて電気伝導度90ms/cmの燐酸水溶液を作製した。参照電極としてAg/AgCl電極、対極として十分な表面積を有する白金電極、作動電極として炭素繊維束を使用した。電位操作範囲は−0.2V〜0.8Vとし、電位操作速度は、5mV/secとした。3回以上掃引させ、電位―電流曲線を描いた。電位―電流曲線が安定した段階で、Ag/AgCl電極に対して、+0.4Vでの電位を標準にとって電流値を読み取った。次式に従い、炭素繊維表面特性Ipaを算出した。
Ipa[μA/cm]=電流値[μA]/{試料長[cm]×(4π・繊維束の重量[g/cm]・フィラメント数/繊維の密度[g/cm])1/2
さらに、本発明におけるIpaのバラツキを求めるため、先ず、表面処理を施した炭素繊維束を2本に分繊し、それぞれの束について長さ方向に連続した5点から繊維束サンプル採取し、合計して10点で、Ipaを測定した。この測定値からIpaのバラツキとして、その標準偏差の平均値に対する割合、すなわちCV値を求めた。
(2) 表面処理強度の評価
<表面官能基量O/C>
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めることができる。測定には、JEOL社製ESCA JPS−9000MXを使用した。炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた後、光電子脱出角度を90度に設定し、X線源としてMgKαを用い、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせる。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比で計算して求めた。
[実施例1]
前駆体繊維であるPAN繊維ストランド(単繊維繊度1.0dtex、フィラメント数24000、延伸倍率1.0倍)を、空気中250℃、70分で、繊維比重1.36になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度600℃、2分で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1300℃、2分で高温炭素化させて製造した炭素化焼成糸に、洗浄の目的で水分を付与した繊維を表面処理工程に投入した。表面処理させる前の繊維の水分率を測定したところ、100%であった。
表面処理工程として、処理槽中の電極の中心が、処理槽の中心から16%下流側に偏芯した陽極を有する前方処理槽と、電極の偏芯率が0%の処理槽の中央に陰極を有する後方処理槽を1ユニットとし、それを2ユニット有する装置を用いた。処理槽中の電極の深さ、すなわち処理される繊維束と電極との垂直方向の距離は30mmであった。なお、整流板として開口率が40%の多孔板を、前方処理槽では処理槽の後方に2mmの間隙ができるように、後方処理槽では多孔板の前後で間隙が生じないように、電極に接して設置した。処理槽の上流側開口部面積/下流側開口面積比は、前方浴で3.6、後方浴で1.0であった。炭素繊維束の処理速度は85m/時であった。表面処理の条件を表1および表2にまとめて記した。
その後、十分に水洗したのち、分析を実施した。表面官能基の量を表すO/Cは20と十分に表面処理されているにもかかわらず、処理斑を表すIpaのCV値も、0.036と十分に低く、均一に処理されているものであった。得られた物性値を表3に記した。
この得られた炭素繊維束と、マトリックス樹脂を用いて複合材料を作成したところ、物性に優れたものが得られた。
[実施例2]
処理槽の後方浴に前方浴と同じものを用いた以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。表面処理の条件を表1および表2に、得られた物性値を表3に合わせて記した。
[実施例3、4]
後方処理槽の電極及び整流板を、処理槽の後方では無く、前方に2mmの間隙ができるように、電極に接して設置した以外は実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。
さらに炭素繊維束の処理速度を実施例1と同じ85m/時としたものを実施例3に、処理速度を速めて150m/時としたものを実施例4とした。処理電圧を実施例3では10V/ユニット、実施例4は16V/ユニットに変更し、得られる炭素繊維束の表面処理状態を揃えた。
表面処理の条件を表1および表2に、得られた物性値を表3に合わせて記した。実施例4のように、処理電圧を大きくし、処理速度を大きくした条件でも、O/Cは同等のものが得られるようにした。そのような悪条件下でも実施例4はIpaのCV値が、0.079と、比較例より優れた炭素繊維束が得られた。
[実施例5]
処理槽の整流板を用いなかった以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。
表面処理の条件を表1および表2に、得られた物性値を表3に合わせて記した。
[比較例1]
処理槽の前方浴、後方浴が共に、電極の偏芯率が0%の処理槽の中央に電極を有する処理槽を用い、かつ整流板の前後に間隙無く設置した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維束を得た。
表面処理の条件を表1および表2に、得られた物性値を表3に合わせて記した。
この比較例1の表面処理方法で得られた炭素繊維束のIpaのCV値は0.081と高く、処理斑が生じていた。
Figure 2015209605
Figure 2015209605
Figure 2015209605
1. 陽極電解槽
2. 陰極電解槽
3. 陽極
4. 陰極
5. 直流電源
6. 電解液供給路
7. 炭素繊維束
8. 整流板
9. 前方間隙 繊維の進行方向の上流側における、電極の上流側端部と処理槽の槽壁との距離(電極−槽壁距離)
10.後方間隙 繊維の進行方向の下流側における、電極の下流側端部と処理槽の槽壁との距離(電極−槽壁距離)
11.電極長さ
12.処理槽長さ
13.繊維束−電極間距離
14.前方間隙 整流板−槽壁距離
15.後方間隙 整流板−槽壁距離

Claims (6)

  1. 電解液中に電極が存在する複数の処理槽を用いて電解処理する炭素繊維束の製造方法であって、少なくとも一つの処理槽において、電極の中心が処理槽の繊維束進行方向の下流側に位置することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
  2. 処理槽中の電極の中心が、処理槽の中心から2%以上50%以下の範囲で偏芯して位置している請求項1記載の炭素繊維束の製造方法。
  3. 処理槽が、電解液を連続的に注入し上部から電解液をオーバーフローさせるものであり、繊維束がその処理槽の表面を通過している請求項1または2記載の炭素繊維束の製造方法。
  4. 繊維進行方向における電極長さが、処理槽の進行方向長さの20%以上95%以下の範囲である請求項1〜3のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
  5. 処理槽において、繊維の進行方向における上流側と下流側の各槽壁と電極の端部との間に存在する、上流側開口部面積/下流側開口部面積の値が1.5〜20である請求項1〜4のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
  6. 処理前の炭素繊維束の含水率が10%以上300%以下の範囲である請求項1〜5のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
JP2014090285A 2014-04-24 2014-04-24 炭素繊維束の製造方法 Pending JP2015209605A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014090285A JP2015209605A (ja) 2014-04-24 2014-04-24 炭素繊維束の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014090285A JP2015209605A (ja) 2014-04-24 2014-04-24 炭素繊維束の製造方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2015209605A true JP2015209605A (ja) 2015-11-24

Family

ID=54612046

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014090285A Pending JP2015209605A (ja) 2014-04-24 2014-04-24 炭素繊維束の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2015209605A (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2019107276A1 (ja) 2017-12-01 2019-06-06 帝人株式会社 炭素繊維束、プリプレグ、繊維強化複合材料

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2019107276A1 (ja) 2017-12-01 2019-06-06 帝人株式会社 炭素繊維束、プリプレグ、繊維強化複合材料
US11560646B2 (en) 2017-12-01 2023-01-24 Teijin Limited Carbon fiber bundle, prepreg, and fiber-reinforced composite material
US11746445B2 (en) 2017-12-01 2023-09-05 Teijin Limited Carbon fiber bundle, prepreg, and fiber-reinforced composite material

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP3216682U (ja) 繊維予備酸化設備
KR102041989B1 (ko) 섬유 강화 복합 재료 및 섬유 강화 복합 재료의 제조 방법
US4234398A (en) Carbon fiber surface treatment
US20170335507A1 (en) Surface-treated carbon fiber, surface-treated carbon fiber strand, and manufacturing method therefor
CN106367952A (zh) 氧化石墨烯量子点为涂层的碳纤维表面处理法及复合材料
JP2021059834A (ja) 炭素繊維前駆体アクリル繊維、炭素繊維およびそれらの製造方法
JP2009114557A (ja) 均一表面処理された炭素繊維とその製造方法
JP7294311B2 (ja) 親水性多孔質炭素電極及びその製造方法、並びにレドックスフロー電池
JP2012102439A (ja) 炭素繊維の表面処理方法
JP2015209605A (ja) 炭素繊維束の製造方法
JP5873358B2 (ja) 耐炎化繊維ストランド、その製造方法、及び炭素繊維ストランドの製造方法
JP2014118659A (ja) 炭素繊維束の表面処理装置及び炭素繊維束の表面処理方法
JP6846868B2 (ja) 炭素繊維、およびサイジング剤付着炭素繊維の製造方法
JP2010047865A (ja) 複合材料用炭素繊維とそれを用いた複合材料
JP5226238B2 (ja) 炭素繊維及びそれを用いた複合材料
JP2012021238A (ja) 炭素繊維束の製造方法
JP2008248424A (ja) 炭素繊維の多段表面電解処理方法
JP7494889B2 (ja) 炭素繊維前駆体アクリル繊維、炭素繊維およびそれらの製造方法
US5078840A (en) Process for the surface treatment of carbon fiber strands
JP5455408B2 (ja) ポリアクリロニトリル系炭素繊維及びその製造方法
CN114775274B (zh) 一种连续表面金属化碳纤维的方法和装置
JPS62149964A (ja) 超高強度炭素繊維の製造方法
JP2013194345A (ja) 炭素繊維束の表面処理方法およびそれを用いて得られる炭素繊維束
JPH0433907B2 (ja)
KR20190084187A (ko) 탄소섬유 표면처리 장치 및 방법