本発明の第1実施形態を図面を参照して説明する。以下説明は図中に矢印で示す上下、左右、前後を使用する。工作機械1の左右方向、前後方向、上下方向は、夫々、工作機械1のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向である。工具交換装置20の向きもこれに倣う。図1に示す如く、工具交換装置20は工作機械1に設置して使用する。
図1を参照し工作機械1の構造を説明する。工作機械1は、基台2、機械本体3、テーブル10、工具交換装置20等を備える。基台2は鉄製の略直方体状の土台である。機械本体3は基台2上部後方に設け、テーブル10上面に保持したワーク(図示略)を切削する。テーブル10は基台2上部中央に設け、X軸モータ(図示略)、Y軸モータ(図示略)、ガイド機構(図示略)により、X軸方向とY軸方向に移動可能である。工具交換装置20は機械本体3上部に設けたフレーム8に固定し、機械本体3の主軸9に装着した工具4を他の工具と交換する。
図1,図2を参照し機械本体3の構造を説明する。機械本体3は、コラム5、主軸ヘッド7、主軸9、制御箱6等を備える。コラム5は基台2上部後方に立設する。主軸ヘッド7はコラム5前面に沿ってZ軸方向に昇降可能であり、内部に主軸9を回転可能に支持する(図2参照)。主軸9は下端部に設けたテーパ穴18に工具ホルダ101を装着する。工具ホルダ101は工具4を保持する。主軸9は主軸ヘッド7上部に設けた主軸モータ15の駆動で高速回転する。制御箱6は数値制御装置(図示略)を格納する。数値制御装置は工作機械1の動作を制御する。
図2に示す如く、Z軸移動機構は一対のZ軸リニアガイド(図示略)、Z軸ボール螺子26、Z軸モータ(図示略)を備える。Z軸リニアガイドはZ軸方向に延び且つ主軸ヘッド7をZ軸方向に案内する。Z軸ボール螺子26は一対のZ軸リニアガイドの間に配置し、上側軸受部27と下側軸受部(図示略)により回転可能に設ける。主軸ヘッド7は背面にナット29を備える。ナット29はZ軸ボール螺子26に螺合する。Z軸モータはZ軸ボール螺子26を正逆方向に回転する。故に主軸ヘッド7はナット29と共にZ軸方向に移動する。
図2を参照し、主軸ヘッド7の内部構造を説明する。主軸ヘッド7は前方下部内側に主軸9を回転可能に支持する。主軸9は上下方向に延びる回転軸を有し、主軸モータ15の駆動軸にカップリング23を介して連結する。故に主軸9は主軸モータ15の回転駆動で回転する。主軸9はテーパ穴18とホルダ挟持部材19とドローバー69を備える。テーパ穴18は主軸9の先端部(下端部)に設ける。ホルダ挟持部材19はテーパ穴18上方に設ける。ドローバー69は主軸9の中心を通る軸穴の中に同軸上に挿入して設ける。
工具ホルダ101は一端側に工具4を保持し、他端側に、フランジ部102、テーパ装着部104、プルスタッド105を同軸上に備える。フランジ部102は、テーパ装着部104の基部よりも径方向外側に拡径する略円柱状に形成し、該外周面に周方向に延びる溝103を備える。テーパ装着部104は略円錐状である。プルスタッド105はテーパ装着部104の頂上部から軸方向に突出する。テーパ装着部104とプルスタッド105はテーパ穴18に挿入する。テーパ穴18にテーパ装着部104が装着すると、ホルダ挟持部材19はプルスタッド105を挟持する。ドローバー69がホルダ挟持部材19を下方に押圧すると、ホルダ挟持部材19はプルスタッド105の挟持を解除する。
主軸ヘッド7は後方上部の内側にクランクレバー60を備える。クランクレバー60は略L字型であり支軸61を中心に揺動自在である。支軸61は主軸ヘッド7内に固定する。クランクレバー60は縦方向レバー63と横方向レバー62を備える。縦方向レバー63は支軸61からコラム5側に対して斜め上方に延びて中間部65で上方に折曲して更に上方に延びる。横方向レバー62は支軸61からコラム5前方に略水平に延びる。横方向レバー62の先端部はドローバー69に直交して突設したピン58に上方から係合可能である。縦方向レバー63は上端部の背面に板カム体66を備える。板カム体66はコラム5側にカム面を備える。板カム体66のカム面は上側軸受部27に固定したローラフォロア67と接離可能である。ローラフォロア67は板カム体66のカム面を摺動する。引張コイルバネ(図示略)は縦方向レバー63と主軸ヘッド7の間に設ける。クランクレバー60を右側面から見た場合、引張コイルバネはクランクレバー60を時計回りに常時付勢する。故にクランクレバー60は横方向レバー62によるピン58の下方向への押圧を常時解除する。
図2を参照し、主軸9のテーパ穴18に対する工具ホルダ101の脱着動作を簡単に説明する。主軸9のテーパ穴18に、工具ホルダ101のテーパ装着部104が装着した状態で、主軸ヘッド7はテーブル10(図1参照)上のワーク加工位置から上昇する。クランクレバー60に設けた板カム体66はローラフォロア67に接触して摺動する。後述するグリップアーム30の把持部32は工具ホルダ101を把持する。板カム体66のカム形状に沿ってローラフォロア67は摺動する。クランクレバー60は右側面から見た場合に支軸61を中心に反時計回りに回転する。横方向レバー62はピン58に上方から係合してドローバー69を下方に押圧する。ドローバー69はホルダ挟持部材19を下方に付勢する。ホルダ挟持部材19はプルスタッド105の挟持を解除する。主軸ヘッド7はATC原点まで更に上昇し、主軸9のテーパ穴18から工具ホルダ101が抜ける。故に工具ホルダ101は主軸9のテーパ穴18から抜ける。
主軸ヘッド7がATC原点に到達すると、数値制御装置の制御指令に基づき、工具マガジン21は回転し、NCプログラムの制御コマンドが指定する工具4を工具交換位置に割り出す。工具交換位置は工具マガジン21の最下方位置で且つ主軸9に近接して対向する位置である。工具交換位置に割り出した工具4は、ATC原点に移動した主軸ヘッド7の下方に位置する。
次いで、主軸ヘッド7はATC原点から下降し、主軸9のテーパ穴18に対し、工具4を保持する工具ホルダ101のテーパ装着部104が挿入する。テーパ穴18に工具ホルダ101のテーパ装着部104が挿入した状態で、主軸ヘッド7は更に下降する。クランクレバー60に設けた板カム体66はローラフォロア67に摺動する。板カム体66のカム形状に沿ってローラフォロア67は摺動する。クランクレバー60は右側面から見た場合に支軸61を中心に時計回りに回転する。故に横方向レバー62はピン58から離れ、ドローバー69の下方への押圧を解除する。ドローバー69はホルダ挟持部材19の下方への付勢を解除し、ホルダ挟持部材19はプルスタッド105を挟持する。主軸9は工具ホルダ101を装着する。
図1,図2を参照し、工具交換装置20の構造を説明する。工具交換装置20はタレット式の工具マガジン21を備える。工具マガジン21は円盤状のマガジン本体71と複数のグリップアーム30を備える。複数のグリップアーム30はマガジン本体71の外周に沿って所定間隔毎に配置し、工具マガジン21の前後方向に揺動可能に設ける。マガジン支持台95はフレーム8に固定する。マガジン支持台95は支軸75を回転可能に支持する。支軸75は工作機械1の前方に対して斜め下方に延びる。支軸75はマガジン本体71を回転可能に支持する。マガジン本体71は工作機械1の前方に正面を向けて配置する。
マガジン本体71の構造を説明する。マガジン本体71はボス部73と鍔部72を備える。ボス部73は筒状である。支軸75はボス部73内に挿入する。鍔部72はボス部73の外周面の前端側に軸方向に直交して設ける。ボス部73は後端部に割出円板77を固定する。割出円板77は支軸75を中心とし、背面側(主軸ヘッド7に対向する面)に複数のカムフォロア(図示外)を備える。複数のカムフォロアは複数のグリップアーム30の各位置に夫々対応して配置する。
減速機96はマガジン支持台95上部に固定し、複数のギヤとカム(図示略)を有する。マガジンモータ97は減速機96上部に固定する。マガジンモータ97の回転軸は減速機96と連結する。割出円板77の複数のカムフォロアは減速機96のカムに形成したカム溝(図示外)に夫々嵌合する。故に割出円板77は複数のグリップアーム30の中の一つを割り出し、マガジン本体71の最下方位置に移動できる。
鍔部72は裏面外周に沿って所定間隔毎に複数の支点台78を固定する。支点台78はグリップアーム30の後述する支軸33Aを軸支する。鍔部72は更に、複数のグリップアーム30の夫々に対応する各位置に、板状の案内部材80を夫々固定する。案内部材80は案内面83を備える。グリップアーム30の後述する後端部34から突出する鋼球35は案内面83を摺動する。故にグリップアーム30は支点台78を中心に工具マガジン21の前後方向に安定して揺動できる。尚、板状の案内部材80は環状に一体形成してもよい。
図3,図4を参照し、グリップアーム30の構造を説明する。尚、グリップアーム30の構造の説明は、図3,図4中に矢印で示す上下、左右、前後を使用する。グリップアーム30は、軸部33、アーム本体31、把持部32、後端部34、ローラ支持部36,38、ローラ37,39等を備える。軸部33は略水平方向に延びる略円柱状であり、軸方向両端面中心から支軸33Aを夫々延出する。支点台78は支軸33Aを回転可能に軸支する。アーム本体31は軸部33から軸部33の軸線方向に直交する方向に延び且つ前端側が緩やかに湾曲する腕状である。把持部32はアーム本体31の延出方向前端部に設け、工具ホルダ101を着脱可能に把持する。後端部34は有底筒状に形成し、その内側に圧縮コイルバネ(図示略)と鋼球35を収納する。圧縮コイルバネは鋼球35を弾性保持し、鋼球35の一部は後端部34の開口端から外部付勢に応じて出退する。
ローラ支持部36は軸部33の外周面右側に設け、ローラ37を前側斜め上方に軸支する。ローラ支持部38はアーム本体31の前側上方且つ左側の軸部33近傍に設け、ローラ39を前側斜め上方に軸支する。図2に示す如く、工具交換装置20の工具交換位置(工具マガジン21の最下端位置)に割り出したグリップアーム30において、ローラ37は主軸ヘッド7前面の左右方向中央部に固定した浮動カム12のカム面に対向し、ローラ39は主軸ヘッド7の前面の右端部に沿って固定した揺動カム11のカム面に対向する。
図2に示す如く、揺動カム11のカム面は、上部から下方に向けて直線状に延び、途中から斜め後方に緩やかに傾斜する形状である。該揺動カム11のカム面をローラ39が摺動することで、グリップアーム30は揺動する。浮動カム12のカム面は、上部から中央部にかけて前方に緩やかに傾斜し該中央部から下部にかけて後方に緩やかに傾斜する形状である。浮動カム12は圧縮コイルバネ(図示略)を内蔵するので、ローラ39が揺動カム11を摺動する際、ローラ39と揺動カム11が離れないようにグリップアーム30の動きを規制する。故に該緩やかな傾斜はグリップアーム30が揺動する時のローラ37の移動軌跡と一致するので、ローラ37が浮動カム12のカム面を摺動することで、グリップアーム30は安定して揺動できる。
図3〜図5を参照し、把持部32の構造を説明する。把持部32は、二股部41、右側支持機構45、左側支持機構46等を備える。二股部41はアーム本体31の延出方向前端部にて平面視二股状に形成し、前端は開口している。二股部41は平面視半円弧状に湾曲する内周面を備え、該内周面の中央部には一対の係合リブ42等を備える。一対の係合リブ42は二股部41の内側に向けて夫々突出する。二股部41の内側に工具ホルダ101が進入した際、一対の係合リブ42は工具ホルダ101のフランジ部102に設けた溝103(図2,図5参照)と係合する。
右側支持機構45は、二股部41の右前方に延びる一端部に直交して設け、支持ピン90を二股部41の内側に向けて出退可能に弾性支持する。左側支持機構46は、二股部41の左前方に延びる他端部に直交して設け、支持ピン90を二股部41の内側に向けて出退可能に弾性支持する。故に右側支持機構45が支持する支持ピン90と左側支持機構46が支持する支持ピン90は、互いに対向し、工具ホルダ101のフランジ部102を支持できる。
図6を参照し、右側支持機構45の構造を具体的に説明する。尚、左側支持機構46は右側支持機構45と同じ構造であるので説明を省略する。右側支持機構45は、外筒部47、内筒部51、筒状体52、圧縮コイルバネ59、支持ピン90、ウレタンワッシャ85等を備える。
外筒部47は二股部41の右前方に延びる一端部に一体して設け、該一端部に対して直交する方向に延びる略円筒状に形成する。尚、以下説明では、外筒部47の二股部41の内側に対向する一端側を外筒部47の先端側、その反対側の他端側を後端側とする。その他の部品の向きもこれに倣うものとする。
内筒部51は筒部51Aとフランジ部51Bを備える。筒部51Aは外筒部47よりも径の小さい略円筒状に形成し、外筒部47の先端側から内側に挿入固定する。筒部51Aの後端は外筒部47の後端と面一である。フランジ部51Bは筒部51Aの先端部から径方向外側に延出して設け、外筒部47の先端側の開口端に密着して固定する。内筒部51は外筒部47の内周面と筒状体52との摺動性を良好にする為に用いる。
筒状体52は筒部52Aとフランジ部52Bを有する。筒部52Aは内筒部51よりも径が小さく、内筒部51よりも軸方向長さの長い略円筒状に形成する。筒部52Aは開口部44、ピン支持孔53、段部54、底板74を備える。各筒部52Aは中心軸線が同一軸線上となる位置に配置する。各筒部52Aは互いに対向する部分に開口部44を有し、支持ピン90は開口部44から突出する。ピン支持孔53は筒部52Aの軸方向に沿って貫通する。段部54はピン支持孔53を形成する内周面の軸方向中央部よりも開口部44側にずれた位置に設け、径方向内側に縮径して形成する。底板74は環状に形成し、筒部52Aの後端側に設けることで、ピン支持孔53の底部となる。尚、ピン支持孔53における段部54から開口部44に、円筒状のカラー64を装着する。カラー64は開口部44と後述する支持ピン90との隙間を閉塞するのに加えて開口部44の内周面と支持ピン90との摺動性を良好にする為に用いる。
環状のフランジ部52Bは筒部52Aの先端部から後端側に少し離間した位置に、径方向外側に延出して設ける。フランジ部52Bの直径は内筒部51のフランジ部51Bの直径よりも短い。後述するウレタンワッシャ85はフランジ部52Bと内筒部51のフランジ部51Bの間に配置する。故に筒状体52は内筒部51の内側から二股部41の外側に向けて抜けることがない。
上記構造からなる筒状体52は、筒部52Aを内筒部51の先端側から内側に摺動自在に挿入するので、外筒部47に対して移動自在となる。筒部52Aの後端側は、外筒部47の後端側の開口端から外側に突出する。該突出した部分は外周面に係合溝55を備える。係合溝55は筒部52Aの外周面の周方向に延びる。C軸止め輪56は係合溝55に外方から係合する。係合溝55に係止したC軸止め輪56は内筒部51の後端部に係止する。故に筒状体52は内筒部51の内側から二股部41の内側に向けて抜けることがない。
支持ピン90は棒状に形成する。支持ピン90の工具ホルダ101と当接する先端部はテーパ状に形成する。支持ピン90は後端部92側の外周面にフランジ部91を備える。フランジ部91は径方向外側に延出する。後端部92はフランジ部91の中心から同軸上に後方に突出する。支持ピン90のフランジ部91から後端部92までの部分は、ピン支持孔53における段部54と底板74の間に収納する。フランジ部91は、段部54に対して筒部52Aの後端側から係止する。故に支持ピン90は筒部52Aの開口部44から二股部41の内側に向けて抜けることがない。支持ピン90の先端側は開口部44から突出する。
圧縮コイルバネ59は筒部52Aのピン支持孔53に収納する。圧縮コイルバネ59の一端部は支持ピン90のフランジ部91に後方から係止する。支持ピン90の後端部92は圧縮コイルバネ59の一端部の内側に配置する。圧縮コイルバネ59の他端部はピン支持孔53内面に形成した係合溝に内側から係合するC軸止め輪57に固定した底板74と当接する。故に圧縮コイルバネ59は支持ピン90を開口部44に向けて常時付勢できる。圧縮コイルバネ59の外部付勢による圧縮量は支持ピン90の移動量となる。
ウレタンワッシャ85は環状に形成したウレタン製のワッシャであり、筒状体52の筒部52Aの外周面に装着する。ウレタンワッシャ85は内筒部51のフランジ部51Bと筒状体52のフランジ部52Bの間に配置する。ウレタンワッシャ85の直径は内筒部51のフランジ部51Bの直径と同じであり、筒状体52のフランジ部52Bの直径よりも大きい。故に部品の寸法誤差又は組み付け誤差等で、内筒部51に対して筒状体52の位置がずれた時でも、筒状体52のフランジ部52Bはウレタンワッシャ85に確実に当接できる。ウレタンワッシャ85の弾性力は、少なくとも圧縮コイルバネ59の弾性力よりも大きく、好ましくは圧縮コイルバネ59の10倍以上にするとよい。例えば、圧縮コイルバネ59の弾性力が6N/mmである時、ウレタンワッシャ85の弾性力は95N/mmに調節するとよい。
図5,図6を参照し、右側支持機構45と左側支持機構46の通常のピンの動作を説明する。工具交換装置20が把持部32に工具ホルダ101を装着する時、工具ホルダ101は二股部41の前方から内側に向けて進入する。工具ホルダ101のフランジ部102は右側支持機構45が支持する支持ピン90の先端部と、左側支持機構46が支持する支持ピン90の先端部に夫々当接する。工具ホルダ101が二股部41の内側に更に進入するに連れ、フランジ部102は二本の支持ピン90を二股部41の外側に押し出す。ウレタンワッシャ85の弾性力は圧縮コイルバネ59の弾性力よりも大きいので、ウレタンワッシャ85は圧縮せずに、圧縮コイルバネ59が圧縮する。故に支持ピン90のみが筒状体52の開口部44から後退し、筒状体52の位置は変わらない。故に工具ホルダ101は二股部41の内側の奥まで進入できる。
工具ホルダ101が二股部41の内側の奥まで移動すると、フランジ部102の溝103は、二股部41の係合リブ42に係止する。各支持ピン90は工具ホルダ101のフランジ部102に対して両側から挟み込むようにして当接する。故に把持部32は工具ホルダ101を安定して保持できる。
尚、把持部32から工具ホルダ101を抜く時、右側支持機構45と左側支持機構46は装着時と同様にピンが動作する。故に工具交換装置20は工具ホルダ101を把持部32から外側に正常に抜くことができる。
図7,図8を参照し、ピンが動作しない時の右側支持機構45と左側支持機構46の動作を説明する。例えば、工作機械1のワーク加工中、筒状体52の開口部44にて支持ピン90とカラー64の間に切粉が詰まった場合、支持ピン90と切粉との摩擦によって、支持ピン90は後退できず、ピンは動作不能となる。該状態で工具交換装置20が把持部32に工具ホルダ101を装着する時、上記と同様に、工具ホルダ101は二股部41の前方から内側に向けて進入する。工具ホルダ101のフランジ部102は、右側支持機構45が支持する支持ピン90の先端部と、左側支持機構46が支持する支持ピン90の先端部とに夫々当接する。
工具ホルダ101が二股部41の内側に更に進入するに連れ、フランジ部102は各支持ピン90を二股部41の外側に押し出そうとするが、支持ピン90が後退しないので、支持ピン90と筒状体52を介してウレタンワッシャ85に所定以上の圧力がかかる。筒状体52のフランジ部52Bはウレタンワッシャ85を内筒部51のフランジ部51Bに向けて圧縮するので、支持ピン90を支持する筒状体52全体が工具ホルダ101に対して後退する退避動作を行う。
退避動作では、工具ホルダ101の二股部41への進入距離に応じて、ウレタンワッシャ85は圧縮する。ウレタンワッシャ85の圧縮前の厚さP(図6参照)と、圧縮後の厚さQ(図8参照)の差分は、ウレタンワッシャ85の圧縮量であり、支持ピン90の移動量となる。退避動作時のウレタンワッシャ85の圧縮量は圧縮コイルバネ59の圧縮量と同一となるように予め調整する。故に支持ピン90の移動量と、退避動作時の支持ピン90の移動量は同一となるので、退避動作時でも通常時と同じように、支持ピン90が動作するので、把持部32は工具ホルダ101を安定して保持できる。
退避動作は二股部41とアーム本体31等に過剰な負荷をかけないので、グリップアーム30が破損するのを確実に回避できる。工具ホルダ101が二股部41の奥まで移動すると、フランジ部102の溝103は二股部41の内側に設けた係合リブ42に係止する。各支持ピン90は工具ホルダ101のフランジ部102に対して両側から挟み込むようにして当接する。故に工具交換装置20はピンが動作しなくても、工具ホルダ101を把持部32に対して確実に装着できる。
尚、把持部32から工具ホルダ101を抜く時も、右側支持機構45と左側支持機構46はピンが動作しなければ、装着時と同様に退避動作を行うことができる。故に工具交換装置20は工具ホルダ101を把持部32から外側に正常に抜くことができる。
以上説明の如く、第1実施形態の工具交換装置20は、マガジン本体71の外周に複数のグリップアーム30を備える。グリップアーム30の把持部32は二股部41を備え、該二股部41の左右両側の各先端部には、右側支持機構45と左側支持機構46を夫々備える。右側支持機構45と左側支持機構46は、二股部41の内側に向けて棒状の支持ピンを出退可能に支持する機構である。右側支持機構45と左側支持機構46は、外筒部47、筒状体52、支持ピン90、圧縮コイルバネ59、ウレタンワッシャ85を少なくとも備える。外筒部47は二股部41の左右両側の各先端部に直交して一体して設ける。筒状体52は、外筒部47の内側に内筒部51を介して移動可能に設ける。筒状体52は、二股部41の内側に対向する先端側に設けた開口部44から支持ピン90を出退可能に支持する。圧縮コイルバネ59は、筒状体52の内側に収納し、支持ピン90を開口部44に向けて付勢する。ウレタンワッシャ85は、筒状体52の外周面に装着し、内筒部51のフランジ部51Bと、筒状体52のフランジ部52Bの間に配置する。
右側支持機構45と左側支持機構46の通常のピンの動作では、工具ホルダ101が二股部41の前方から内側に向けて進入すると、右側支持機構45が支持する支持ピン90の先端部と、左側支持機構46が支持する支持ピン90の先端部とが工具ホルダ101のフランジ部102に夫々当接する。工具ホルダ101が二股部41の内側に更に進入すると、フランジ部102は各支持ピン90を二股部41の外側に押し出すので、圧縮コイルバネ59が圧縮する。支持ピン90は筒状体52の開口部44から後退する。工具ホルダ101が二股部41の奥まで移動すると、フランジ部102の溝103が、二股部41の内側に設けた係合リブ42に係止する。各支持ピン90は工具ホルダ101のフランジ部102を両側から挟み込むようにして当接する。故に工具交換装置20は工具ホルダ101を把持部32に対して確実に装着できる。
工作機械1によるワーク加工中、例えば、右側支持機構45において、筒状体52の開口部44と支持ピン90の間の隙間に切粉等が詰まり、支持ピン90が出退不能に陥った場合、二股部41に工具ホルダ101が進入すると、工具ホルダ101は支持ピン90を介して筒状体52を外方に押圧する。支持ピン90の動作不良により圧縮コイルバネ59は圧縮しないので、別箇所に配置したウレタンワッシャ85が圧縮する。故に支持ピン90を支持する筒状体52全体が工具ホルダ101から後退し、工具交換装置20は工具ホルダ101を正常に保持でき、且つグリップアーム30の破損を回避できる。
第1実施形態では更に、ウレタンワッシャ85の弾性力は、圧縮コイルバネ59の弾性力よりも大きい。故に支持ピン90の出退が不能になった後で、ウレタンワッシャ85が圧縮し、筒状体52は二股部41の外側に向かって後退できる。即ち、支持ピン90が正常に動作している状態では、筒状体52は動かない。更に、支持ピン90が開口部44において正常に出退している際中においても、筒状体52は動かない。つまり、圧縮コイルバネ59とウレタンワッシャ85は同時に圧縮せず、何れか一方のみが圧縮するので、支持ピン90が必要以上に後退するのを防止できる。
第1実施形態では更に、ウレタンワッシャ85は弾性力を効果的に付与できる。ウレタンワッシャ85はウレタン製で自身に隙間が無いので、切粉等が付着しても良好な弾性力を保持できる。
第1実施形態は更に、退避動作時におけるウレタンワッシャ85の圧縮量を、通常のピン動作時における圧縮コイルバネ59の圧縮量と同一になるように調整する。故に工具交換装置20は、支持ピン90が出退不能に陥った場合でも、支持ピン90の移動量を確実に確保できる。
図9〜図11を参照し、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態の工具交換装置は、第1実施形態のグリップアーム30(図3参照)の代わりに、図9に示すグリップアーム130を備える。グリップアーム130の把持部132は、右側支持機構145と左側支持機構146を備える。第1実施形態の右側支持機構45と左側支持機構46は、本発明の弾性体の一例として、ウレタンワッシャ85を備えるが、第2実施形態の右側支持機構145と左側支持機構146は、ウレタンワッシャ85の代わりに、板バネの一種である波ワッシャ185を備える。波ワッシャ185を備えること以外の構造は第1実施形態と共通する。故に第1実施形態と共通する部分は同符号を付して説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
図10,図11に示す如く、波ワッシャ185は、筒状体52の筒部52Aの外周面に装着し、内筒部51のフランジ部51Bと、筒状体52のフランジ部52Bとの間に配置する。波ワッシャ185は、ばね鋼製の平座金を波型に曲げたものであり、潰されることによりバネの働きをする周知のものである。波ワッシャ185の弾性力は、第1実施形態のウレタンワッシャ85と同様に、少なくとも圧縮コイルバネ59の弾性力よりも大きく、好ましくは圧縮コイルバネ59の10倍以上にするとよい。更に、退避動作時における波ワッシャ185の圧縮量は、第1実施形態と同様に、通常のピンの動作時における圧縮コイルバネ59の圧縮量と同一になるように調整するとよい。波ワッシャ185は、筒状体52に対して強い弾性力を容易且つ効果的に付与できるので、第1実施形態と同様に、ピンの動作ができない時の退避動作を行うことができる。
図12,図13を参照し、本発明の第3実施形態を説明する。第1実施形態の右側支持機構45と左側支持機構46は、ウレタンワッシャ85を外筒部47の先端側に配置(図6参照)する。第3実施形態の右側支持機構(図示略)と左側支持機構246は、ウレタンワッシャ285(図13参照)を二股部41の内側とは反対側である外筒部247の後端側に配置し、且つ外筒部247の内側に収納する点に特徴がある。左側支持機構246は、第1実施形態の左側支持機構46と一部構造が共通するので、共通する部分は同符号を付して説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
図13を参照し、左側支持機構246の構造を具体的に説明する。尚、右側支持機構は左側支持機構246と同一構造であるので、説明を省略する。左側支持機構246は、外筒部247、内筒部251、筒状体252、圧縮コイルバネ59、支持ピン90、カラー64、ウレタンワッシャ285等を備える。圧縮コイルバネ59と支持ピン90、カラー64は第1実施形態と同形状である。
外筒部247は二股部41の左前方に延びる一端部に一体して設け、該一端部に対して直交する方向に延びる略円筒状に形成する。尚、以下説明では、外筒部247の二股部41の内側に対向する一端側を外筒部247の先端側、その反対側の他端側を後端側とする。その他の部品の向きもこれに倣うものとする。外筒部247は後端側の開口端の内周縁部に断面L字状の切欠き部247Aを設ける。内筒部251は外筒部247よりも直径の小さい略円筒状であり、外筒部247の先端側から内側に挿入固定する。
筒状体252は筒部252Aとフランジ部252Bを有する。筒部252Aは内筒部251よりも直径が小さく、且つ内筒部251よりも軸方向長さが長い略円筒状に形成する。筒部252Aは、第1実施形態と同一の開口部44、ピン支持孔53、段部54、底板74、C軸止め輪57、カラー64等を備える。フランジ部252Bは筒部252Aの外周面において後端部から先端側に少し離間した位置に、径方向外側に延出して設ける。フランジ部252Bは、外筒部247の後端側に設けた切欠き部247Aの内側の端面(軸方向に直交する方向に平行な面)と内筒部251の後端部とに係止する。故に筒状体252は内筒部251から二股部41の内側に向けて抜けることがない。筒状体252は、筒部252Aを内筒部251の後端側から内側に摺動自在に挿入するので、外筒部247に対して軸方向に移動自在となる。筒部252Aの後端側は、外筒部247の後端側の開口端から外側に突出する。
環状のウレタンワッシャ285は外筒部247の後端部に設けた切欠き部247Aの内側に配置する。ウレタンワッシャ285は自身の内側の孔に、筒状体252の筒部252Aの後端側を移動可能に挿入し、且つフランジ部252Bの後端側の面と密着する。環状の押さえワッシャ256は外筒部247の後端部に挿入固定する。固定方法は例えば加締め等を採用できる。筒部252Aの後端側は、押さえワッシャ256の内側の孔を移動可能に挿入する。筒状体252は、フランジ部252Bがウレタンワッシャ285を介して押さえワッシャ256に当接するので、内筒部251の内側から二股部41の外側に向けて抜けることがない。押さえワッシャ256は切欠き部247Aの内側に収納するウレタンワッシャ285を筒状体252の後端側から押える。故にウレタンワッシャ285は外筒部247から脱落しない。尚、支持ピン90、圧縮コイルバネ59、カラー64の配置箇所は第1実施形態と同じである。ウレタンワッシャ285の弾性力と圧縮量についても、第1実施形態と同様である。
左側支持機構246において、筒状体252の開口部44と支持ピン90の間の隙間に切粉等が詰まり、支持ピン90が出退不能になった場合、二股部41に工具ホルダ(図示略)が進入すると、工具ホルダは支持ピン90を介して筒状体252を外方に押圧する。圧縮コイルバネ59は圧縮できないので、ウレタンワッシャ285に負荷がかかってウレタンワッシャ285は圧縮する。故に支持ピン90を支持する筒状体252全体が工具ホルダから後退する。故に第3実施形態の工具交換装置も、第1,第2実施形態と同様に、グリップアームの破損を回避できる。
更に、左側支持機構246は、第1,第2実施形態と同様の作用効果を得られることに加え、ウレタンワッシャ285を二股部41の内側とは反対側である外筒部247の後端側に配置し、且つ外筒部247の内側に収納する(図12参照)ので、ウレタンワッシャ285に切粉又は切削液が付着するのを防止できる。故に第3実施形態はウレタンワッシャ285が切粉又は切削液が付着することによって生ずるウレタンワッシャ285の損傷又は劣化を防止できる。
上記説明にて、第1実施形態の右側支持機構45と左側支持機構46、第2実施形態の右側支持機構145と左側支持機構146、第3実施形態の右側支持機構と左側支持機構246は、本発明の支持機構に相当する。第1,第2実施形態の外筒部47、第3実施形態の外筒部247は、本発明の筒状体支持部に相当する。圧縮コイルバネ59は本発明のバネに相当する。
尚、本発明は上記実施形態に限らず種々の変更が可能である。上記第1実施形態では、右側支持機構45(及び左側支持機構46)の退避動作時に圧縮する弾性体として、ウレタンワッシャ85を用いているが、弾性力を有する材質であればよく、ウレタンには限定しない。更に、複数の材料で形成する樹脂材料であってもよい。更に弾性体はワッシャ形状でなくてもよく、例えば、図6において、一つ又は複数の弾性体の小片を内筒部51のフランジ部51Bと筒状体52のフランジ部52Bとの間に配置してもよい。
また、上記第1実施形態の右側支持機構45(及び左側支持機構46)は、内筒部51とカラー64は省略してもよい。第2,第3実施形態についても同様である。
また、上記第2実施形態では、右側支持機構145(及び左側支持機構146)の退避動作時に圧縮する弾性体として、波ワッシャ185を用いているが、板バネであれば他のワッシャ形状であってもよい。例えば、少なくとも一カ所以上で屈曲する板バネを、内筒部51のフランジ部51Bと筒状体52のフランジ部52Bとの間に一つ又は複数配置してもよい。更に、波ワッシャ185の山数は、圧縮コイルバネ59との関係で波ワッシャ185に必要な弾性力に応じて変更すればよい。
また、上記第3実施形態では、ウレタンワッシャ285を二股部41の内側とは反対側である外筒部247の後端側に配置するが、弾性力を有する材質であればよく、例えば、波ワッシャのような板バネを配置してもよい。また、波ワッシャを外筒部247の後端側に配置した場合、第2実施形態と比較して、波ワッシャに付着する切粉量を少なくできるので、波ワッシャの伸縮動作を良好に保持できる。さらに、ウレタンワッシャ285は外側に露出していてもよい。
また、上記第1〜3実施形態では、グリップアームの把持部は、工具ホルダ101を把持するものであるが、工具と工具ホルダが一体形状となった工具を把持してもよい。