第1の実施の形態.
図1は第1の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該電力変換装置は、整流回路5と、コンデンサ3と、電力変換器2と、制御部4とを備える。
整流回路5はダイオードブリッジで構成され、三相電源6から供給される三相交流電圧Vr,Vs,Vtを全波整流して直流電圧Vdcを出力する。
コンデンサ3は直流電圧Vdcをその両端に受けるものの、ここでは必ずしも平滑機能が要求されるものではない。第1の実施の形態によれば、平滑機能が小さくて直流電圧Vdcの脈動が大きくても、これに追従した制御を行うことができる。
電力変換器2は直流電圧Vdcをスイッチングすることによって、他の交流電圧に変換してこれを出力する。電力変換器2は、より具体的には当該スイッチングは、制御部4によって制御される。ここでは電力変換器2は、三相の交流回転機1を駆動させるための三相交流電圧を出力する場合が例示されている。もちろん、出力する交流電圧が単相であってもよい。
電力変換器2のスイッチングは通常、スイッチング用キャリアの一周期毎にスイッチングを制御する信号(以下「スイッチング制御信号」とも称す)が決定される。よってスイッチング損失はスイッチング用キャリアの周波数(キャリア周波数)に依存する。より具体的にはキャリア周波数が低いほどスイッチング損失が低減する。
他方、キャリア周波数が高いほど、直流電圧Vdcの脈動に対する制御の追従性やトルクに対する制御性能を高めることができる。
図2は第1の実施の形態における位相領域を示すグラフである。具体的には三相交流電圧Vr,Vs,Vtの波形と、電圧Vgの波形とを示している。電圧Vgは三相交流電圧Vr,Vs,Vtの各々の絶対値|Vr|,|Vs|,|Vt|の中の最大値を採る。
電圧Vgの波形は正弦波に基づいており、直流電圧Vdcの波形と概ね一致することになる。よって、電圧Vgは、その電圧値が小さい領域ほど変化が大きい。具体的には電圧Vgの電源位相θを、交流電圧Vsの変化率が最も大きい位相を基準(0度)に採用すると、以下のように位相領域を把握することができる。但し、位相については360度と0度とは同様に扱う。
電圧Vgの変化率の絶対値が最も大きい位相(θは30度の偶数倍)を含む位相領域T01:
電圧Vgの変化率の絶対値が最も小さい位相(θは30度の奇数倍)を含む位相領域T02。
以上のように位相領域を区分すると、位相領域T01における電圧Vgの波形及び直流電圧Vdcの脈動は、位相領域T02における電圧Vgの波形及び直流電圧Vdcの脈動よりも顕著である、と言える。
よって位相領域T02においては、位相領域T01よりも、直流電圧Vdcのサンプリング周期を長くしても、直流電圧Vdcの脈動に対する電力変換器2の制御の追従性を損ないにくいと言える。しかも、直流電圧Vdcの電圧値が大きいときには電力変換器2に供給される電圧も大きいのであるから、位相領域T02における電力変換器2を制御する頻度を低減することは、スイッチング損失の低減をも招来する。
上述のように、直流電圧Vdcの波形は、パルス幅変調に使用するスイッチング用キャリアのトップ及び/又はボトムでサンプリングされる。よって直流電圧Vdcの波形のサンプリング周期を長くすることはキャリア周波数を低減することに相当する。
つまり、位相領域T02におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc2と、位相領域T01におけるスイッチング用キャリアの周波数Fc1とを導入して、Fc1>Fc2の関係を成立させることにより、スイッチング損失の低減を招来する。
主回路がリアクトルを含まなければ、上述のように、電圧Vgの波形は直流電圧Vdcの波形と概ね一致する。換言すれば、リアクトルが主回路に含まれて、これがコンデンサ3と協動して共振が発生し、当該共振によって直流電圧Vdcに乱れが発生しても、電圧Vgの波形はかかる乱れを排除した直流電圧Vdcの波形と概ね一致する。
よって、電圧Vgの位相に応じてキャリア周波数を変えて直流電圧Vdcの脈動に対する電力変換器2の制御の追従性を確保しつつ、共振の影響を除去して電力変換装置のキャリア周波数に依存するスイッチング損失を下げることができる。これはスイッチング素子の冷却装置などを簡素化でき、引いては電力変換装置を小型化することに資する。
上述のように、電圧Vgは三相交流電圧Vr,Vs,Vtの各々の絶対値|Vr|,|Vs|,|Vt|の中の最大値であるから、位相領域T01,T02は、電圧Vgの電圧値から決定することができる。
図3は第1の実施の形態の動作を説明するグラフであり、電源位相θが0〜60度を採るときの、理想的な直流電圧Vdcの波形(これは電圧Vgの波形と一致する)と、キャリア周波数fcの波形を示している。直流電圧Vdcの電源位相θに対する対称性から、電源位相θが30×2k〜30×2(k+1)度(但しkは整数)を採るときの直流電圧Vdcの波形は図2に示されるように図3と同様に現れる。
図3において位相領域T01は電源位相θが0度から値θ1(図3においてほぼ10度)の範囲及び値θ2(図3においてほぼ50度)から60度の範囲として把握される。上述のように、直流電圧Vdcの波形は60°を周期として繰り返されるので、位相領域T01を示す矢印について、電源位相θが0°、60°の位置には矢頭を付記していない。
位相領域T02は電源位相θが値θ1〜θ2の範囲として把握される。電源位相θが値θ1、値θ2のいずれかを採る場合、当該電源位相θは、位相領域T01,T02の境界にあるので、位相領域T01,T02のいずれにあると把握しても差し支えない。
図3においてキャリア周波数fcは位相領域T01,T02においてそれぞれ6kHz,3kHzを採っている。つまり図3ではFc1=6kHz、Fc2=3kHzの場合が例示されている。
図4は、本発明の第1の実施の形態の動作を説明するグラフである。図4は、(a)電圧Vgと、(b)キャリア周波数fcとの関係を示している。電圧Vgは上述の電圧値を採るので、電源周波数の6倍で脈動する。
期間T1,T2は、それぞれ上述の位相領域T01,T02に相当する。但し、上述のθ1,θ2とは異なる位相で区分され得ることを明確にすべく、異なる記号を用いた。
期間T1,T2同士の境界で、異なる周波数のスイッチング用キャリアが時間的に隣接する。それぞれのスイッチング用キャリアの波形の最大値(あるいはその近傍)同士が隣接するか、もしくは最小値(あるいはその近傍)同士が時間的に隣接することが望ましい。
このようにしてスイッチング用キャリアを切り替えることにより、それぞれのスイッチング用キャリアの最大値同士(あるいは最小値同士)の間の一周期は損なわれることがない。通常、スイッチング用キャリアと比較される指令値は、スイッチング用キャリアの最大値同士(あるいは最小値同士)の間の一周期において維持されるので、スイッチングによって出力される交流電圧は、指令値に応じたものとなる。
もちろん、指令値はスイッチング用キャリアの振幅に対応して設定されるので、切り替えられる複数のスイッチング用キャリアは、いずれもその最大値同士が等しく、かつ最小値同士が等しいことが望ましい。
図5はスイッチング用キャリアが切り替わる様子を示すグラフである。ここでは期間T2から期間T1への切り替わりが例示されている。ここでは周波数Fc2を有するスイッチング用キャリアC2から、周波数Fc1を有するスイッチング用キャリアC1への切り替わりが例示されており、それぞれの最大値同士が一致する時点で切り替わっている。
周波数Fc2が周波数Fc1の整数分の一(当該整数は2以上)であれば、スイッチング用キャリアC1,C2同士の切り替わりにおいて、それぞれの最大値同士あるいは最小値同士を一致させることができる。
但し、スイッチング用キャリアが切り替わるタイミングを、厳密に期間T1,T2の境界に一致させることは必ずしも容易ではない。例えば上述のように周波数Fc1で直流電圧Vdcをサンプリングする場合、特に期間T2から期間T1に移行するときの両者の境界は、必ずしもスイッチング用キャリアC2の最小値、あるいは最大値と一致するとは限らないからである。この点に鑑みた、スイッチング用キャリアの切り替えについては後述する。
図1に戻り、制御部4は、電圧Vg生成手段8、第1のキャリア周波数生成手段9、第2のキャリア周波数生成手段10、切替手段11、出力電圧指令演算手段12、PWM手段13を有している。
第1のキャリア周波数生成手段9、第2のキャリア周波数生成手段10は、それぞれ周波数Fc1,Fc2を出力する。ここでFc1=k×Fc2(k=2、3、4…)の関係がある。
図6は、電圧Vg生成手段8の構成を例示するブロック図である。電圧Vg生成手段8は検出手段83、絶対値取得手段82、最大値取得手段81を有している。
検出手段83は周波数Fc1を入力し、当該周波数をサンプリング周波数として電圧Vs,Vr,Vtをサンプリングする。これにより、周期(1/Fc1)で電圧Vs,Vr,Vtを(時間上で)離散的にサンプリングした値が得られる。
当該サンプリングは、例えばキャリアC1の波形がトップを採るタイミング、あるいはボトムを採るタイミング、あるいはその両方のタイミングで行う。キャリアC1の波形がトップを採るタイミング及びボトムを採るタイミングの両方でサンプリングを行う場合には、サンプリング周波数は実質的に2・Fc1となる。
絶対値取得手段82は、サンプリングされた電圧Vs,Vr,Vtの、それぞれの絶対値を求める。換言すれば、絶対値取得手段82は、絶対値|Vs|,|Vr|,|Vt|をキャリアC1に基づいてサンプリングした時間的な離散値を出力する、と把握することができる。
最大値取得手段81は、サンプリングされた絶対値|Vs|,|Vr|,|Vt|のうちの最大値を、電圧Vg1として求める。電圧Vg1は電圧VgをキャリアC1に基づいてサンプリングした時間的な離散値である、と把握することができる。
電圧Vg1は電圧Vgとはサンプリングの有無で相違するが、簡単のため、電圧Vg1を求める構成要素の名称として、電圧Vg生成手段8と表現した。
図7は切替手段11の構成を例示するブロック図である。切替手段11は、選択部111、大小判断器112、スイッチングコントローラ113を有している。
大小判断器112は、電圧Vg1と閾値電圧Vthとを入力し、比較結果信号Dを出力する。比較結果信号Dは、電圧Vg1が閾値電圧Vthよりも大きければ活性化し、閾値電圧Vth以下であれば非活性となる。
選択部111は、第1のキャリア周波数Fc1(ここでは端子Aに入力)と第2のキャリア周波数Fc2(ここでは端子Bに入力)のいずれかを選択して、スイッチング用キャリアの周波数Fcとして選択して出力する(ここでは端子Cから出力)。
おおまかには、比較結果信号Dが活性であれば電圧Vg1の変動は緩やかであって、上述の共振の影響を排除した直流電圧Vdcの変動も緩やかであると想定される。よって端子Bを端子Cに接続して周波数Fcとして周波数Fc1よりも低い周波数Fc2を採用する。比較結果信号Dが非活性であれば端子Aを端子Cに接続する。しかしより具体的には、スイッチングコントローラ113が選択部111における選択動作を決定する。
上述の通り、スイッチング用キャリアの切替は、当該キャリアの最大値が一致するタイミングあるいは最小値が一致するタイミングで行うことが望ましい。そのため、期間T1,T2と対応する比較結果信号Dの活性/非活性のみで選択部111の動作を制御することは望ましくない。
そこで、スイッチングコントローラ113は、比較結果信号Dの活性/非活性が切り替わった後、キャリアC2に基づいて、選択部111に選択の切替を行わせる。後述するように、キャリアC2はPWM手段13から得られる。
図8はスイッチングコントローラ113の動作を説明するグラフである。但しここではキャリアC2として三種のキャリアC2-1,C2-2,C2-3を例示した。
キャリアC2-1,C2-2はキャリアC1の周波数Fc1の偶数分の一の周波数Fc2を有しており、ここではFc2=Fc1/2の場合が例示されている。キャリアC2-1は、その最大値を採るタイミングが、キャリアC1が最大値を採るタイミングから選択されるように同期する。キャリアC2-2は、その最小値を採るタイミングが、キャリアC1が最小値を採るタイミングから選択されるように同期する。
キャリアC2-3はキャリアC1の周波数Fc1の奇数分の一(当該奇数は3以上)の周波数Fc2を有しており、ここではFc2=Fc1/3の場合が例示されている。キャリアC2-3が最大値を採るときにはキャリアC1も最大値を採り、キャリアC2-3が最小値を採るときにはキャリアC1も最小値を採る。
このように、周波数が低い方のキャリアC2の最大値/最小値を検出し、そのタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることが望ましい。
具体的には、キャリアC2としてキャリアC2-1が採用される場合には、C2-1が最大値を採るタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてキャリアC1,C2はいずれも最大値を採る。
キャリアC2としてキャリアC2-2が採用される場合には、C2-2が最小値を採るタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてキャリアC1,C2はいずれも最小値を採る。
キャリアC2としてキャリアC2-3が採用される場合には、C2-3が最大値を採るタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてキャリアC1,C2はいずれも最大値を採る。またC2-3が最小値を採るタイミングで選択部111に選択の切替を行わせることにより、その切り替わりのタイミングにおいてキャリアC1,C2はいずれも最小値を採る。
かかる切替の観点からは、周波数Fc2が周波数Fc1の奇数分の一であることが望ましい。キャリアが最大値を採るタイミングで周波数を切り替える場合にも、最小値を採るタイミングで周波数を切り替える場合にも、適用できるからである。
図1に戻り、出力電圧指令演算手段12は、電力変換器2から出力される(「他の」)交流電圧についての指令値たる電圧指令V*を生成する。電圧指令V*を求める方法については、一般的なV/f制御や交流回転機の制御方式であるベクトル制御などを採用することができる。かかる技術は公知であるので、詳細な説明は省略する。
PWM手段13は、パルス幅変調(Pulse Width Modulation)に基づいてスイッチング制御信号Gを電力変換器2に与える変調信号生成部として機能する。具体的には、PWM手段13では、周波数Fc1を有するキャリアC1と、周波数Fc2を有するキャリアC2とを同期して生成している。そして切替手段11から出力された周波数Fcが周波数Fc1,Fc2のいずれであるかに対応して、それぞれキャリアC1、C2をスイッチング用キャリアとして採用して、スイッチング制御信号Gを生成する。
電力変換器2が有するスイッチング素子(図示省略)は、スイッチング制御信号Gに基づいてスイッチングし、交流回転機1に三相交流電圧を出力する。電力変換器2の構造自体は公知であるので、その詳細な説明は割愛する。
スイッチング制御信号Gは、スイッチング用キャリアと、出力電圧指令演算手段12から得られる電圧指令V*との比較により、また更に直流電圧Vdcを考慮して生成される。かかる生成自体は公知の技術であるので、詳細な説明は割愛する。
切替手段11は、交流電圧Vs,Vr,Vtの電圧値に基づいて、スイッチング用キャリアの周波数の値を設定する、周波数設定部であると把握できる。
直流電圧Vdcは、例えばコンデンサ3の両端電圧を測定する直流電圧検出手段7によって得られる。その他の公知の手法を用いて直流電圧Vdcを得ても良い。
但しPWM手段13は、直流電圧Vdcの脈動を考慮するために直流電圧Vdcをサンプリングする。このサンプリングについては本実施の形態に特有であるので、以下に説明する。但し、簡単のため、以下では直流電圧Vdcの波形にはリアクトルに由来する共振の影響を省略した。本発明では直流電圧Vdcの、共振の影響による脈動それ自体を考慮したサンプリングを行うのではなく、直流電圧Vdcをサンプリングする位相が共振の影響を受けないようにすることを目的の一つとするからである。
図9〜図18は、電源周波数が50Hz、電圧実効値200Vの三相交流を全波整流した場合の、直流電圧Vdcのサンプリングについて示すグラフである。
図9は直流電圧Vdcと、サンプリング周波数を10kHzとして直流電圧Vdcをサンプリングして離散化した直流電圧Vdc1とを示すグラフである。図10は上記サンプリングをした場合の偏差Er1(=Vdc−Vdc1)を示すグラフである。(離散化した)直流電圧Vdc1は直流電圧Vdcによく追従しており、直流電圧Vdcの変動が大きいタイミングでも、偏差Er1の絶対値は5V未満に収まっていることが分かる。よって検出手段83において採用されるサンプリング周波数は10kHzを採用することが望ましい。
図11は直流電圧Vdcと、サンプリング周波数を5kHzとして直流電圧Vdcをサンプリングして離散化した直流電圧Vdc2とを示すグラフである。図12は上記サンプリングをした場合の偏差Er2(=Vdc−Vdc2)を示すグラフである。直流電圧Vdcの変動が大きいタイミングでも、偏差Er2の絶対値は10V未満に収まっていることが分かる。
図13は直流電圧Vdcと、サンプリング周波数を2.5kHzとして直流電圧Vdcをサンプリングして離散化した直流電圧Vdc3とを示すグラフである。図14は上記サンプリングをした場合の偏差Er3(=Vdc−Vdc3)を示すグラフである。(離散化した)直流電圧Vdc3は、直流電圧Vdcが270Vから245Vに減少する時と245Vから270Vに上昇する脈動成分を十分に反映していない。
図15は直流電圧Vdcと、サンプリング周波数を1kHzとして直流電圧Vdcをサンプリングして離散化した直流電圧Vdc4とを示すグラフである。図16は上記サンプリングをした場合の偏差Er4(=Vdc−Vdc4)を示すグラフである。(離散化した)直流電圧Vdc4は、直流電圧Vdcの変動が緩やかな283Vから270Vに減少する時や、270Vから283Vに上昇するタイミングですら、脈動成分を十分に反映していない。
以上のことから、直流電圧Vdcの最小電圧付近では、サンプリング周波数は10kHz程度必要であり、直流電圧Vdcの最大電圧付近では、サンプリング周波数は2.5kHz程度あれば十分であると考えられる。よって電源周波数が50Hzかつ三相交流を全波整流する場合には、周波数Fc1,Fc2として、それぞれ10kHz,2.5kHzを採用することができる。当然ながら、周波数Fc1,Fc2として適切な値は、電源周波数に比例する。
図17は、直流電圧Vdcと、(共振による影響を受けない場合の)直流電圧Vdcの平均値から最小電圧の間でサンプリング周波数を10kHzとし、直流電圧Vdcの平均値から最大電圧の間でサンプリング周波数を2.5kHzとして、直流電圧Vdcをサンプリングして離散化した直流電圧Vdc0とを示すグラフである。つまりここでは閾値電圧Vth(図7参照)として(共振による影響を受けない場合の)直流電圧Vdcの平均値を採用する。
図17において黒三角はサンプリング周波数が周波数Fc2から周波数Fc1に切り替わるタイミングであり、白三角はサンプリング周波数が周波数Fc1から周波数Fc2に切り替わるタイミングである。
直流電圧Vdcのサンプリングは、スイッチング用キャリアがトップ及び/又はボトムを採るタイミングで行われる。よって、直流電圧Vdcのサンプリング周波数の切り替わりは、スイッチング用キャリアの切り替わりと同期することが望ましい。そして上述のようにスイッチング用キャリアが切り替わる際にはその波形の最大値同士、あるいは最小値同士が一致することが望ましい。よって直流電圧Vdcのサンプリング周波数の切り替わりは、スイッチング用キャリアの切り替わりと同様に、必ずしも直流電圧Vdcがその閾値電圧Vth(ここでは直流電圧Vdcの平均値)を採るタイミングでは発生しない。
(離散化した)直流電圧Vdc0は、直流電圧Vdcをスイッチング用キャリア(以下、「キャリアC0」とも称す)でサンプリングして得られた値であり、キャリアC0は周波数Fc1を有するキャリアC1と、周波数Fc2を有するキャリアC2とが、上記黒三角、白三角で切り替わって得られる、と把握することができる。
図18は上記サンプリングを行った場合の偏差Er0(=Vdc−Vdc0)を示すグラフである。偏差Er0の絶対値は10V未満に収まっており、(離散化した)直流電圧Vdc0は直流電圧Vdcの変化が大きいタイミングでも、変化が小さいタイミングでも、追従性が良好なことが分かる。
このように、直流電圧Vdcのサンプリングにも用いられるスイッチング用キャリアの周波数を切り替えてサンプリングすることにより、制御の追従性を確保しつつ、キャリア周波数に依存した電力変換器2のスイッチング損失を抑制することができる。
しかもキャリア周波数の切り替えは、リアクトルに由来する共振の影響を受ける可能性がある直流電圧Vdcに基づかずに三相交流電圧Vr,Vs,Vtに由来する電圧Vgに基づくので、当該共振の影響を受けない。整流回路5三相電源6から供給される三相交流電圧Vr,Vs,Vtを全波整流して直流電圧Vdcを出力する。
なお、PWM手段13はスイッチング用キャリアC1を生成し、図9及び図10を用いて説明したように、検出手段83において採用されるサンプリング周波数は10kHzを採用することが望ましい。よって電圧Vg生成手段8は、第1のキャリア周波数生成手段9から周波数Fc1を受ける代わりに、PWM手段13からスイッチング用キャリアC1を受け取ってもよい。
第2の実施の形態.
PWM手段13において採用されるスイッチング用キャリアの周波数は、第1の実施の形態のように二者択一ではなく、更に三つ以上の周波数を切り替えて選択しても良い。
図19は、本発明の第2の実施の形態の動作を説明するグラフである。第1の実施の形態と同様にして、電圧Vg及びサンプリング周波数Fcは図19(a)(b)に、それぞれ示されている。
第1の実施の形態と類似して、電圧Vgが電圧閾値Vth1以上(あるいは電圧閾値Vth1より大)の期間T2が設定される。また電圧Vgが電圧閾値Vth1未満(あるいは電圧閾値Vth1以下)かつ電圧閾値Vth2以上(あるいは電圧閾値Vth2より大)の期間T3が設定される。そしてまた電圧Vgが電圧閾値Vth2未満(あるいは電圧閾値Vth2以下)の期間T3が設定される。但し、Vth1>Vth2である。
期間T2よりも期間T3の方が、そして期間T3よりも期間T1の方が、いずれも直流電圧Vdcの変化は大きい。よって期間T1,T2,T3においてそれぞれスイッチング用キャリアの周波数Fc1,Fc2,Fc3が採用され、Fc1>Fc3>Fc2の関係にある。
例えばVth1=Vthとすれば、電圧Vgが電圧閾値Vth1未満(あるいは電圧閾値Vth1以下)におけるキャリア周波数の平均値を第1の実施の形態で採用された周波数Fc1よりも小さくし、よって期間T1,T2,T3に亘るキャリア周波数の平均値を更に低下させることができる。
以下、最も高い周波数Fc1を有するキャリアC1をスイッチング用キャリアの主キャリアとも称し、それよりも低い周波数Fc2,Fc3を有するキャリアC2,C3をスイッチング用キャリアの副キャリアとも称する。
なお、副キャリアが一つの場合は、第1の実施の形態において主キャリアはキャリアC1が、副キャリアはキャリアC2が、それぞれ対応する。
副キャリアが一つの場合には、電圧Vgの閾値は一つ(第1の実施の形態の例では電圧閾値Vth)で足りる。主キャリアと副キャリアと切り替えるための閾値を主閾値として把握すれば、副キャリアが複数の場合に副キャリアを切り替えるための閾値を副閾値として把握することができる。上述の例では副閾値は電圧閾値Vth2であり、副キャリアの周波数Fc2,Fc3が切り替わるための、電圧Vgについての基準となる。
図20は第2の実施の形態にかかる電力変換装置の構成を例示する回路図である。当該構成は、第1の実施の形態で示された電力変換装置の制御部4を制御部14に置換した構成を有している。但し、PWM手段13は周波数Fc3のスイッチング用キャリアC3も、スイッチング用キャリアC1,C2と同期して生成する。
制御部14は、制御部4に対して切替手段11を切替手段16と置換し、かつ第3のキャリア周波数生成手段15を追加した構成を有している。第3のキャリア周波数生成手段15は、周波数Fc3を出力する。ここでFc3=m×Fc1,Fc2=n×Fc3(m,n=2、3、4…)の関係がある。これは第1の実施の形態で図5や図8を用いて説明したのと同様に、スイッチング用キャリア同士の切り替わりにおいて、それぞれの最大値同士あるいは最小値同士を一致させるためである。第1の実施の形態の動作と、第2の実施の形態の動作との相違は、係数mが1であるか2以上であるかの相違と把握することもできる。
図21は切替手段16の構成を例示するブロック図である。切替手段16は、切替手段11が有する選択部111、大小判断器112、スイッチングコントローラ113に加え、更に選択部161,大小判断器162を有している。
大小判断器162は、電圧Vg1と電圧閾値Vthとを入力し、比較結果信号Eを出力する。比較結果信号Eは、電圧Vg1が電圧閾値Vth以上であれば活性化し、電圧閾値Vth未満であれば非活性する。
選択部161は、第1のキャリア周波数Fc1(ここでは端子Aに入力)と第3のキャリア周波数Fc3(ここでは端子Bに入力)のいずれかを選択して、端子Cから出力する。
選択部161の端子Aには、第1の実施の形態とは異なり、選択部161の端子Cが接続される。よって、おおまかには、比較結果信号Dが活性であれば(直流電圧Vdcの変動は緩やかであるので)端子Bを端子Cに接続して周波数Fcとして周波数Fc2を採用する。比較結果信号Dが非活性であれば端子Aを端子Cに接続する。比較結果信号Dが非活性であっても、つまり電圧Vg1が電圧閾値Vth2以下であっても、選択部161の機能によって、周波数Fcとして周波数Fc1,Fc3のいずれかが周波数Fcとして採用される。
第1の実施の形態において図6を用いて説明されたように、周波数Fcを切り替えるタイミングは、周波数が低い方のスイッチング用キャリアと同期することが望ましい。よって第2の実施の形態でもスイッチングコントローラ113にはスイッチング用キャリアC2が入力する。
第1の実施の形態では、三相交流を全波整流した場合、周波数Fc1として電源周波数の200倍(=10kHz/50Hz)を、周波数Fc2として電源周波数の50倍(=10kHz/50Hz)を、それぞれ選定した。つまりFc2=Fc1/4となる場合を例示した。第2の実施の形態でも、Fc2=Fc1/4としつつ、Fc3=Fc1/2に設定することができる。これは上述の係数m,nがいずれも値2を採ることに相当する。
PWM手段13では、切替手段16から出力された周波数Fcが周波数Fc1,Fc2,Fc3のいずれであるかに対応して、それぞれキャリアC1、C2,C3をスイッチング用キャリアとして採用して、スイッチング制御信号Gを生成する。またスイッチング用キャリアを用いて直流電圧Vdcをサンプリングする。
図19を用いて説明したように、スイッチング用キャリアの周波数を、電圧Vgの波形の変化に応じて切り替えるので、リアクトルに由来する共振の影響を受けず、制御の追従性を確保しつつ、当該周波数の平均値を低減することができ、スイッチング損失を抑制することができる。
変形.
PWM手段13はスイッチング用キャリアC1を生成し、図9及び図10を用いて説明したように、検出手段83において採用されるサンプリング周波数は10kHzを採用することが望ましい。よって第1の実施の形態や第2の実施の形態において、電圧Vg生成手段8は、第1のキャリア周波数生成手段9から周波数Fc1を受ける代わりに、PWM手段13からスイッチング用キャリアC1を受け取ってもよい。
図22及び図23は第1の実施の形態の変形を、図24及び図25は第2の実施の形態の変形を、それぞれ示すブロック図である。
図22は制御部4の変形である制御部4Aの構成を、図24は制御部14の変形である制御部14Aの構成を、それぞれ示している。これらの構成では、第1のキャリア周波数生成手段9,第2のキャリア周波数生成手段10,第3のキャリア周波数生成手段15が、それぞれキャリアC1を生成する第1のキャリア生成手段9A,キャリアC2を生成する第2のキャリア生成手段10A,キャリアC3を生成する第3のキャリア生成手段15Aと置換されている。これらのキャリアを生成する手段9A,10A,15Aは、キャリア同士で最大値や最小値を採るタイミングが一致するように同期して動作することが望ましい(図8参照)。
この場合、PWM手段13は周波数Fcに替えてこれらのキャリアのいずれかをキャリアC0として受けるので、その内部でキャリアを生成する必要はない。よって図22及び図24ではキャリアを生成する必要がないPWM手段13Aで、制御部4,14中のPWM手段13(図1、図20参照)を置換した。
この場合、図23に示されるように切替手段11には周波数Fc1,Fc2に替えてキャリアC1,C2が、図25に示されるように切替手段16には周波数Fc1,Fc2,Fc3に替えてキャリアC1,C2,C3が、それぞれ与えられる。そして電圧Vg1に基づいて、キャリアC1,C2から選択されたいずれかがキャリアC0として、切替手段11から出力される。あるいは、電圧Vg1に基づいて、キャリアC1,C2,C3から選択されたいずれかがキャリアC0として、切替手段16から出力される。
切替手段11,16においてスイッチングコントローラ113はPWM手段13からではなく、キャリアC2を第2のキャリア生成手段10Aから入力する。また、電圧Vg生成手段8には周波数Fc1の代わりにキャリアC1が入力される。電圧Vg生成手段8はキャリアC1に基づいてサンプリングを行ってもよいし、キャリアC1から周波数Fc1を検出して、当該周波数Fc1をサンプリング周波数としてサンプリングを行ってもよい。
第2の実施の形態ではスイッチング用キャリアの周波数として3種類が採用される場合を示したが、更に多くの種類を採用し、当該周波数の切替を細かく行ってもよい。
スイッチング用キャリアの切り替わりが、それぞれの最大値同士、若しくは最小値同士が一致するタイミングで行われるには、それぞれのキャリアの一周期が保たれるためには、下記の関係があることが望ましい。
(i)図5を参照して、主キャリアC1の最大値と全ての副キャリアC2,C3,…の最大値とは等しく、主キャリアC1の最小値と全ての副キャリアC2,C3,…の最小値とは等しい。
(ii)図8を参照して、全ての副キャリアの周波数Fc2,Fc3,…は、主キャリアの周波数Fc1の整数分の一(当該整数は2以上)である。
(iii-a)全ての副キャリアのうち最も周波数が低いもの(第2実施の形態に即していえば、キャリアC2)が最大値を採るタイミングでは、他の副キャリアの全て(第2実施の形態に即していえば、キャリアC3)及び主キャリアC1が最大値を採って同期する。この場合、スイッチング用キャリアの切替は、それらが最大値近傍を採るタイミングで行われる。
図26は上記(i)(ii)(iii-a)の条件を満足するキャリアC1,C2,C3を例示するグラフである。ここで副キャリアC3の周波数Fc3は主キャリアC1の1/2であり、副キャリアC2の周波数Fc2は副キャリアC3の1/2であって、即ち主キャリアC1の1/4である。上述の係数m,nについてみれば、m=n=2の場合が例示されている。スイッチング用キャリアの切替は、図中、矢印で示されたタイミングで行われる。
上記条件(iii-a)に替えて下記条件(iii-b)が満足されても良い。
(iii-b)全ての副キャリアのうち最も周波数が低いものが最小値を採るタイミングでは、他の副キャリアの全て及び主キャリアC1が最小値を採って同期する。この場合、スイッチング用キャリアの切替は、それらが最小値近傍を採るタイミングで行われる。
図27は上記(i)(ii)(iii-b)の条件を満足するキャリアC1,C2,C3を例示するグラフである。ここでも図24に例示された場合と同様にして、Fc2=Fc3/2=Fc1/4(m=n=2)の場合が例示されている。スイッチング用キャリアの切替は、図中、矢印で示されたタイミングで行われる。
このように副キャリアが二つある場合には、一つ副キャリアC3の周波数Fc3は、他の副キャリアC2の周波数Fc2の整数倍であることが望ましい。勿論、副キャリアが3つ以上設定される場合でも、かかる条件を満足する副キャリアが存在することが望ましい。これにより、複数の副キャリア同士を切り替えてスイッチング用キャリアを採用する場合も、スイッチングによって電力変換器2から得られる交流電圧は、電圧指令V*に応じたものとなる。
上記の実施の形態では、整流回路5が三相電源6から供給される三相交流電圧Vr,Vs,Vtを全波整流して直流電圧Vdcを出力する場合を説明した。しかし。整流回路5が単相交流電圧を全波整流して直流電圧Vdcを出力する場合にも、本発明を適用できる。
単相交流を全波整流する場合には直流電圧Vdcが電源周波数の二倍で変動する。よって、周波数Fc1,Fc2として適切な値は、電源周波数が同じであれば、三相交流を全波整流する場合と比較して1/3となる。
勿論、第1の実施の形態で説明したのと同様に、単相交流を全波整流した場合には適切な周波数Fc1,Fc2,Fc3は、三相交流を全波整流した場合の1/3の値となるし、電源周波数に比例もする。