以下、実施の形態に係るメタマテリアル光学部材、及びこれを用いた光検出装置、レーザ励起光源及び計測装置ついて説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
まず、一対のメタマテリアル光学部材を備えた計測装置について説明する。
図1は、計測装置の検出部を分解して示す斜視図である。なお、以下の説明では、XYZ三次元直交座標系を設定する。
第1のメタマテリアル光学部材100は、集光光学部材1と、集光光学部材1の光出射面に設けられた反射防止膜2とを備えている。集光光学部材1は、入射光L1が入射する光入射面IN1(XZ面)と、光入射面IN1に対向し、出射光L10が出射する光出射面OUT1とを備えており、光出射面OUT1には反射防止膜2が設けられている。図1に示す集光光学部材では、光出射面OUT1は、Z軸を中心軸とする半円筒形の凹面である。なお、この凹面の中心軸回りの円弧の開角度は、180度ではなくてもよい。また、反射防止膜2は、図1では、この凹面のみに設けられているが、凹面内に加えて光出射側のXZ面の全面に設けることとしてもよい。また、光入射面IN1上に反射防止膜を設けることとしてもよい。
第2のメタマテリアル光学部材200は、光伝達部材1Aと、光伝達部材1Aの入射面に設けられた反射防止膜2Aとを備えている。光伝達部材1Aの構造は、内部の屈折率分布も含めて集光光学部材1と同一である。光伝達部材1Aは、凹面の光入射面IN2から入射した光を、光出射面OUT2に向けて拡散する機能を有する点が、集光光学部材1とは異なる。
一対のメタマテリアル光学部材100,200間には、対象物Pが配置されている。図1に示す装置が、計測装置の場合、対象物Pは媒体流路を構成するチューブである。チューブ内の様々な種類の媒体FDが流れる。第1のメタマテリアル光学部材100の光入射面IN1から入射した光L1は、集光光学部材1によって、凹面方向に集光され、光出射面OUT1から、反射防止膜2を介して、外部に出射される。この出射光L10は、対象物Pに入射し、これを透過し、光L20は、反射防止膜2Aを介して、第2のメタマテリアル光学部材200の光入射面IN2から内部に入射し、光伝達部材1A内を拡散しながら進行し、光出射面OUT2から出射光L2として外部に出射される。なお、光L20としては、透過光や散乱光、蛍光など挙げられる。
同図では、対象物P内の媒体FDは、Z軸方向に流れている。媒体FDの流れる方向は、鉛直方向に沿っている場合もあるが、水平方向に沿っている場合もある。
図2は、複数の媒体流路を備えた媒体導入系の斜視図である。
計測装置は、図2に示すような媒体導入系を備えることができる。媒体導入系は、基板300上に、測定の対象物Pとなる複数の媒体流路(チューブ)が配置されており、各チューブには、チューブ内に媒体を導入するための入力用のチューブ301,302と、不要な媒体の一部を出力する媒体出力用のチューブ303とを備えている。例えば、チューブ301には測定対象となる媒体が導入され、チューブ302には希釈液が導入される。
導入される媒体としては、超微粒子の環境ホルモン(外因性内分泌攪乱物質/外因性内分泌攪乱化学物質)、生体から採取された血液又は唾液、或いは、細菌やウイルスなどが挙げられる。検査対象となる物質の大きさや特性に応じて、特定の試薬との反応を生じさせることもできるし、蛍光ラベルなどの標識試薬を付けることもできる。この装置では、媒体を透過した光を検出することによって、媒体流路内を流れる液体に含まれるインフルエンザウイルス、O157、サルモレラ菌、ダイオキシン、ストレスマーカーなどの量の測定や有無を判定することができる。血糖値や脂質量の検査は、メタボリック・シンドロームの検査に利用することもできる。
チューブ内に導入された媒体は、希釈液や必要な液体と混合された後、試薬導入部304から導入される標識試薬や反応試薬と混合され、媒体流路内を流れ、検出部MPに至る。検出部MPでは、チューブを透過した光が検出される。試薬の種類は、複数の媒体流路毎に異ならせることができる。検出部MPを通過した媒体が流れるチューブの終端には、チューブ内を流れてきた媒体を吸引又は外部に排出するための排出部305が設けられている。なお、媒体として気体を用いた検査も可能である。
図3は、複数の検出部MPを備えた測定部の斜視図である。
個々の検出部MPの構造は、図1に示した通りであるが、1対のメタマテリアル光学部材を有しているものであれば、図1以外の構造も適用可能である。複数の検出部MPがX軸方向に沿って整列しており、各検出部MPの入力側のメタマテリアル光学部材100の光入射面には、光L1が入射し、対象物P内を透過して、出力側のメタマテリアル光学部材200の光出射面から、Y軸方向に沿って、光L2が出射する。出射光L2は、メタマテリアル光学部材200の光出射面に対向配置された光検出器Dによって検出される。光検出器Dとしては、CCDイメージセンサ又はMOS型イメージセンサからなる固体撮像素子を用いることができるが、各検出部MPから出力される光L2をそれぞれ検出する複数のフォトダイオード又は光電子増倍管を用いることも可能である。
対象物Pは、媒体流路であるため、この中を媒体FDが流れており、検出器Dからは、それぞれの媒体流路を流れる媒体FDの特性に応じた信号が出力される。なお、媒体FDが蛍光標識された血液中の特定成分であって、入射光L1が蛍光標識を発光させるものである場合には、その成分量に応じて、光L2が蛍光及び励起光を含むことになる。そのため、第2のメタマテリアル光学部材200を蛍光波長に合わせて設計することにより、第2のメタマテリアル光学部材200により、励起光をカットできるので、第2のメタマテリアル光学部材200の光出射面OUT2から出射される光L2は、蛍光成分のみとすることができる。なお、光検出器Dの表面に、蛍光成分を選択的に透過させる光学フィルタを配置することとしてもよい。
また、媒体FDが、液体中に粒子を含む場合には、透過光L2の光量が、粒子量に応じて減少するので、光検出器Dからは、それぞれの媒体流路を流れる媒体FDの特性(粒子量)に応じた信号が出力される。
図4は、計測装置のブロック図である。
上述のように、一対のメタマテリアル光学部材100,200の間には、対象物Pが配置されており、これを透過した光L2が光検出器Dに入射する。光検出器Dの出力信号は、制御装置403に入力され、その内部の記憶装置内に記憶される。制御装置403は、コンピュータであり、駆動回路401に制御信号を出力し、駆動回路401から発光素子300に駆動電流を供給させる。発光素子400からは、検出部MPのメタマテリアル光学部材100への入射光L1が出力される。発光素子400は、レーザダイオードであるが、発光ダイオード等を用いることも可能である。
図5は、入力側のメタマテリアル光学部材100における反射防止膜2の平面図である。
反射防止膜2は、XY平面内においては、円弧形状を有しており、全体としては、Z軸を中心軸とする半円筒形状を有している。反射防止膜2の内側の凹面は、半円筒面を構成しているが、XY平面内の円弧の開き角は180度でなくてもよい。この円弧の中心軸はZ軸であり、XY平面内においては、中心軸の位置を原点Oとする。原点Oから円弧の径方向に沿って距離rを規定すると、原点Oからの距離rに沿った屈折率分布は、図6に示すようになる。
図6は、距離rと実効屈折率neffとの関係を示すグラフである。
反射防止膜2は、図5に示すように、内側から屈折率n1、n2、n3、n4、n5の層を積層してなる。なお、便宜上、各層n1〜n5の符号は屈折率と同一符号を用いることとする。図6に示すように、外部の気体(本例では空気)の屈折率をn0とすると、距離rが大きくなるに従って、反射防止膜2内の屈折率は、段階的に増加する(n0<n1<n2<n3<n4<n5)。なお、本例の反射防止膜2は、5段階の屈折率分布を有することとしたが、これは多段階に変化する屈折率分布を有するものであれば、5段階に限定されるものではない。
なお、図6では、距離r1の位置が反射防止膜2の内面の位置を示しており、距離r2が反射防止膜2の外面の位置を示している。距離r1の位置を0とし、距離r1から距離r2に向かう方向を正として、この反射防止膜2の厚み方向の位置L(μm)に沿って、屈折率は多段階に変化することができる。
図7は、反射防止膜2における厚み方向の位置L(μm)と、実効屈折率neffとの関係を示すグラフである。
同図では、L=0〜1μmの間において、実効屈折率が変化している様子が示されている。この屈折率変化は、段階的に変化してもよいし、同図の曲線で示すように、滑らかに連続的に変化することとしてもよい。
なお、上述の反射防止膜2の屈折率分布は、上述のように進行方向に向かって階段状或いは連続的に徐々に低下するものであるが、メタマテリアル光学部材100の光出射面OUT1からの距離tにおける屈折率nは、例えば、以下の式:n=n0+(ns−n0)(10t3−15t4+6t5)に従って設計することもできる。但し、n0は外側の媒質(空気)の屈折率、nsは光出射面OUT1におけるメタマテリアル光学部材100の屈折率である。メタマテリアル光学部材100及び反射防止膜2における屈折率は、いずれも0〜40を用いることができる。
次に、所望の屈折率を有する部材を形成する手法について説明する。
例えば、図5に示した反射防止膜2の一番内側の層の領域Aの部分は、n1の屈折率を有している。屈折率n1を有する層は、領域Aを反射防止膜の厚み方向に垂直な方向に並べたものである。同様に、任意の屈折率を有する層は、所望の屈折率を有する領域を、厚み方向に垂直な方向に並べることにより、構成することができる。
任意の屈折率を有する領域は、次のようにして構成することができる。
図8は、反射防止膜2における特定の層を構成する部分領域の積層構造を示す斜視図であるが、説明の便宜上、この部分領域は、上述の領域Aが代表して示しているものとする。図5の領域Aにおいては、層n1の厚み方向をY軸とし、これに垂直な方向をZ軸及びX軸としており、概ねY軸方向に入射光が進行することが可能である。
領域Aに入射光L1が入射して、出射光L10が出力されるとする。この積層構造は、異なる材料からなる層を交互に積層してなる。本例では、金属層(Ag)と半導体層(Ge)とを交互に積層してなる。1つの金属層Mの厚みは4nm、1つの半導体層Sの厚みは6nmである。これらの材料からなる積層構造の実効屈折率は、方向(Z軸、Y軸)方の寸法に依存するが、実効的な屈折率は各座標方向の平均値neff=(nx 2+ny 2+nz 2)1/2になる。すなわち、領域Aに形成する構造体の縦横の寸法を変更することにより、屈折率を調整することができる。
なお、同図では、積層構造を有する領域Aと同一の構造を有する領域A’が、領域Aに隣接して並んでいる状態を示している。
図9は、図8の積層構造における長さ方向(Z軸方向)の寸法LZと実効屈折率neffとの関係を示すグラフである。なお、本例では、高さ方向(Y軸方向)の寸法LY=LZであるとする。すなわち、光入射面の形状は正方形である。例えば、LZ=LY=30nmの場合、実効屈折率neff=35.7とすることができる。このような屈折率及び誘電率の設計手法は、例えば、「J.Opt.Soc.Am.B, Vol.29, No.9, 2559(2012))」に記載されている。
図10は、積層構造において銀とゲルマニウムの体積比が0.4:0.6の場合に、有効媒質理論から求めた誘電率テンソルの主値の波長分散値を示すグラフであり、積層構造に入射する光の波長λ(nm)と実効誘電率εeffとの関係を示している。AgとGeの体積比率を4:6とした場合、波長λ=1μm(=1000nm)の場合においては、Z方向及びX方向の実効誘電率εZ、εXの実部は共に−9.8、Y方向の実効誘電率εYの実部は34.2を得ることとができる。なお、LZ=LY=100nmとする。
次に、反射防止膜2の効果について、説明する。
まず、集光光学部材1に、反射防止膜2を設けない場合について説明する。
図11は、反射防止膜2が無い場合における入射光の波長λと反射率Rp(%)との関係を示すグラフである。同図では、入射光の入射角は0度、15度、30度とし、入射するレーザ光に含まれるp偏光成分とs偏光成分の反射率を示す。このグラフは、集光光学部材の光出射面における屈折率を35とし、外部の気体を空気(屈折率=1)とした場合におけるこれらの界面における反射率を示している。構成媒質は均質で、屈折率の波長分散はないものとする。入射角が0度においては、反射率は約89%となり、p偏光においても、少なくとも87%以上の光が反射される。
次に、集光光学部材1に、反射防止膜2を設けた場合について説明する。
図12は、反射防止膜が有る場合における入射光の波長λと反射率Rp(%)との関係を示すグラフである。同図では、入射光の入射角は0度、15度、30度とし、入射するレーザ光に含まれるp偏光成分とs偏光成分の反射率を示す。集光光学部材の光出射面における屈折率は35であり、外部の気体は空気(屈折率=1)である。このグラフの計算手法は、上記と同様である。
入射角が0度においては、反射率は偏光状態に拘らず、波長λが少なくとも925nm〜1075nmの範囲内において、1%以下であり、好適には0.5%以下となる。なお、この反射防止膜は6層の構造からなり、第1層の屈折率=1.29(厚み:162nm)、第2層の屈折率=4.52(厚み:53.0nm)、第3層の屈折率=14.8(厚み:116nm)、第4層の屈折率=21.2(厚み:58.4nm)、第5層の屈折率=27.0(厚み:18.3nm)、第6層の屈折率=29.5(厚み:8.45nm)とした場合を示している。
図13は、メタマテリアル光学部材100の平面図である。XY平面内において、光入射面IN1から、光出射面OUT1に近づくに従って、屈折率が高くなるように設定されている。すなわち、反射防止膜2の設けられた凹部D1の周囲には、高屈折率の領域n50が存在しており、その周囲に領域n40、これらを囲むように領域n30、n20、n10が内側から順番に位置している。なお、屈折率は、n50>n40>n30>n20>n10の関係を満たしている、また、これらの屈折率は、各領域内の平均屈折率を示しており、それぞれの領域内において、凹部D1に近づくほど高く設定されている。
所望の屈折率は、上述の図8に示したメタマテリアル構造を用いて実現することができるが、他の構造を採用することも可能である。なお、図13に示した屈折率分布をフックの屈折率分布と呼ぶこととする。
図14は、図13に示した入力側のメタマテリアル光学部材100内を進行する光の経路を示す図であり、メタマテリアル光学部材の位置にグラフを重ねて示している。同図は、光の入射角度が45°である場合の光の伝播経路を示している。なお、縦軸と横軸には寸法が表示されており、寸法の単位は、例えば、ミリメートルである。ただし、寸法単位は、ミリメートルに限らず、センチメートル、マイクロメートルなどであってもよい。なお、反射防止膜の表示は省略してある。
入射光は、図面の右方向に進行した後、左側に屈曲しながら集光され、最も屈折率の高い領域n50を通って、凹部D1の内面に集光する。集光位置には図示しない反射防止膜が設けられるので、集光した光は、界面で反射されることなく、外部に出力される。
図15は、出力側のメタマテリアル光学部材200の平面図である。
出力側のメタマテリアル光学部材200の構造は、入力側のメタマテリアル光学部材100の構造と同一であるが、図1に示した対象物Pの軸に対して、対称な位置に配置される。したがって、メタマテリアル光学部材200は、凹部D1の周囲の屈折率が高いが、最も高い屈折率の領域は、図面の左側に位置することになる。また、凹部D1の内面となる光入射面IN2には、反射防止膜2Aが設けられている。
図16は、計測装置の検出部MPを通過する光の経路を説明するための図である。
入射光L1は、第1のメタマテリアル光学部材100を介して、対象物Pに入射し、これを透過した光は、第2のメタマテリアル光学部材200を介して、出射光L2として、外部に出力される。同図では、第1のメタマテリアル光学部材100と第2のメタマテリアル光学部材200との間に僅かな隙間が設けられているが、これらは接触していてもよい。この場合には、外部からの光が対象物Pに入射しにくくなる。
図17は、入力側のメタマテリアル光学部材100(改良例)の平面図である。
このメタマテリアル光学部材100は、光入射面IN1上にも反射防止膜3を形成している点のみが、図13に示したものと異なる。この場合、メタマテリアル光学部材100への入射光の光入射面における界面反射を抑制することができる。
なお、上述の反射防止膜3は、大きな屈折率変化が生じない箇所に設けられるものであるため、通常の反射防止膜の材料でもよい。例えば、反射防止膜3の構造としては、酸化シリコン膜、酸化チタン膜、酸化タンタル膜、酸化ニオブ膜、酸化ハフニウム膜、酸化アルミニウム膜、又は、フッ化マグネシウム膜等から選択されるいずれか2種を交互に形成した積層構造などを採用することができる。
図18は、入力側のメタマテリアル光学部材100(変形例)の平面図である。
このメタマテリアル光学部材100は、凹部D1の内面に、更に、小さな曲率半径の凹部D2を形成した点のみが、図13に示したものと異なる。凹部D2は、Z軸を中心軸とする半円筒面を有しており、XY平面内における円弧の開き角は180度であるが、開き角は180度に限定されるものではない。
図19は、図18の構造の場合における光の進行を説明するための図である。
なお、反射防止膜の記載は省略してある。光入射面IN1から集光光学部材1の内部に入射した光は、凹部D1の方向に向かって集光される。特に、凹部D1の内面に位置する凹部D2に向けて集光される。集光位置よりも僅かに手前の領域まで、集光光学部材1の凹部D1の一部を除去して、凹部D2を作製することができる。凹部D1の凹面は、XY平面内においては、円の一部を構成する円弧であるが、凹部D2の凹面も、XY平面内においては、円の一部を構成する円弧である。集光された光は、凹部D2を介して、出射光L10として、凹部D1内に出射される。反射防止膜は、少なくとも光出射に関わる凹部D2の内面に形成されていればよいが、凹部D1の内面や光入射面IN1に対向する面全体に形成されていてもよい。
以上のように、光出射面OUT1は、凹部D1を構成する凹面の一部に連続し、この凹面の開口サイズよりも、小さな開口サイズを有する凹部D2の凹面(第2の凹面)を含んでいる。開口サイズは、XY平面内においては、円弧の両端を結ぶ線分の長さで規定される。
集光位置が、凹部D1の凹面よりも集光光学部材1の深部に位置する場合、集光位置が内部に位置する第2の凹面を部分的に設けているが、第2の凹面は、開口サイズが小さいので、集光光学部材1の多くの部分を加工しなくても、これを形成することができる。
次に、集光光学部材1に採用可能なその他のメタマテリアル構造をについて説明する。なお、反射防止膜2においても以下のメタマテリアル構造は採用することが可能である。
図20は、共振型のメタマテリアル構造の平面図であり、集光光学部材1の一部の領域の様子を示す。
光がY軸方向に進行しているものとし、光の進行方向を波数ベクトルkで示すと、これに垂直な方向に、電場と磁場が発生しているものとする。電場ベクトルEと磁場ベクトルHは互いに直交しており、いずれも波数ベクトルkに対して垂直である。なお、光の進行に伴って、これらのベクトルの向きは変わるので、集光光学部材1は、その点を考慮して、屈折率の設計を行う。なお、同図では、波数ベクトルkがY軸に一致し、磁場ベクトルHがZ軸に一致し、電場ベクトルEがX軸と平行な場合を示している。
集光光学部材1は、XY平面に平行な絶縁層からなる絶縁体1Xと、絶縁体1X上に形成されたリングM1,M2とを有している。絶縁体1Xは、SiO2やSiNx等の無機絶縁体から構成することもできるが、樹脂などの有機材料を用いることもできる。リングM1,M2は導電体からなり、好適には金属からなる。同図では、一対のリングM1,M2は一部分が切れており、切れた部分に、ギャップG1,G2が形成されている。磁場ベクトルHがZ軸方向の正方向を向いている場合、この磁場を打ち消す向き(Z軸の負方向)に反抗磁場H*が発生する(レンツの法則)。導電体からなるリングM1,M2には、それぞれ電流J1、J2が流れて、各リングM1,M2の両端には、それぞれ正負の電荷が蓄積し、それぞれのギャップG1,G2にキャパシタが形成される。また、外側と内側のリングM1,M2間にもキャパシタは構成されている。
図21は、共振型のメタマテリアル構造の等価回路図である。
図20に示したメタマテリアル構造は、図21の透過回路によって表現することができる。容量がC0/2のキャパシタが2つと、インダクタンスLのコイル、抵抗値RのコイルからなるLC共振回路が構成されている。コイルは、リングM1.M2によって構成されておいる。
図22は、共振型のメタマテリアル構造における入射光の角周波数ωと実効透磁率μeffの関係を示す。光速c、角周波数ωとすると、光の波長λ=2πc/ωであるから、波長λ或いは角周波数ωに応じて、実効透磁率μeffが変化する。換言すれば、特定の帯域の波長λの光が入射した場合には、共振が生じて、透磁率が大きく変化する。実線は、ある角周波数ωの場合の透磁率の実数部μRe(ω)を示しており、点線は透磁率の虚数部μIm(ω)を示している。共振角周波数ω0において、透磁率μの虚部は最大になり、実部は0となる。光の角周波数が、共振角周波数ω0よりも高く、ωmpよりも小さい場合には、透磁率の実部は負、虚部は正となり、全体の透磁率μ<0となる。光の角周波数が、共振角周波数ω0よりも小さいか、又は、ωmpよりも大きい場合には、透磁率の実部は正、虚部も正となり、全体の透磁率μ>0となる。
本発明では、正の透磁率(正の屈折率)を用いるため、光の角周波数ωは、共振角周波数ω0よりも小さい領域で使用し、共振角周波数ω0を与える波長よりも長い波長の入射光を用いることが好ましい。共振角周波数ω0は、LC共振回路におけるインダクタンスLとキャパシタの容量を小さくすると、高くなる。逆に言えば、共振周波数ω0を制御することにより、同一の波長λの光に対して、異なる透磁率(屈折率∝透磁率の平方根)の材料として機能することができる。以上のようにして、所望の屈折率を有するメタマテリアル構造を作製することが可能となる。
なお、メタマテリアル構造の導電体を構成する材料としては、Au、Pt、Ag、Cu、Ti、又はAlなどの金属や、TiN,TaN,HfN,ZrNなどの窒化物、またはITO、ZnO:Al、ZnO:Gaなどの透明導電膜を好適に用いることができる。
図20に示したメタマテリアル構造は、スプリットリング型の共振器を構成していたが、その他、ロッドペアアレイを含むメタマテリアル構造も採用することができる。
図23は、ロッドペアアレイを含むメタマテリアル構造の斜視図であり、集光光学部材1の一部の領域の様子を示す。
この構造は、集光光学部材1内において、上述のスプリットリング型のリング形状を、対向する一対のロッドM11,M12に変更し、ロッドペアを複数配置したものである。各ロッドM11、M12は導電体からなり、その形状は板状であるが、円柱や多角柱の形状であってもよい。ロッドM11、M12は絶縁体1X内に埋め込まれている。
入射光L1の進行方向をY軸として、波数ベクトルkに沿って光が進行し、磁場ベクトルHと電場ベクトルEは、光の進行方向に直交している。光の進行に伴って、これらのベクトルの向きは変わるので、集光光学部材1は、その点を考慮して、屈折率の設計を行う。なお、同図では、波数ベクトルkがY軸に一致し、磁場ベクトルHがZ軸に一致し、電場ベクトルEがX軸と平行な場合を示している。
各ロッドM11、M12は、X軸方向(電場ベクトルE方向)に沿って延びており、XZ平面内において、ロッドペアは二次元状に配置されている。また、Y軸方向に沿ってもロッドペアは並んでいるが、図示は省略している。入射光L1は、ロッドペアによって屈折され、出射光L10として出射する。
図24は、ロッドペアアレイにおいて発生する電流を示す図である。
ロッドM11とロッドM12との間には、絶縁体1Xが介在している。光が波数ベクトルkに沿って進行する場合、これに垂直な方向に電場ベクトルEと磁場ベクトルHが発生している。磁場ベクトルHの方向の磁場を打ち消すように反抗磁場が発生し、矢印の向きに変位電流Jが流れる。この構造の等価回路は、LC共振器を構成することができるため、スプリットリング型の共振器と同様に、屈折率を制御することが可能となる。
図25は、網目状のメタマテリアル構造の斜視図である。
このメタマテリアル構造は、図24に示したロッドペアアレイをZ方向(H方向に対応)へ伸ばし縦方向に伸びたロッドペアアレイ(ロッドM31,M32)に加えて、X方向(E方向に対応)に伸ばし横方向にも伸びるロッドペアアレイ(ロッドM21.M22)が存在する形状とみることもできる。横方向に伸びた一対のロッドM21,M22間、及び、縦方向に伸びた一対のロッドM31,M32間には、絶縁体1Xが介在している。なお、図25においては、ロッドM21とM31、或いは、ロッドM22とM32は、説明の便宜上、別部材として記載しているが、これらは一体化されていてもよい。この場合、網目状の導電体間に絶縁体1Xが配置されている。
縦方向に伸びたロッドペアアレイは、前述のスプリットリング型共振器のようにLC共振器を構成する事ができるため、磁界に応答する構造であり、よって透磁率を制御できる。また、横方向に伸びたロッドペアアレイは、前述の図8のように電界に応答する構造であり、誘電率を制御できる。よって、図25は、電界と磁界の両方に応答する構造といえる。図25の構造を1つの「単位セル」ととらえると、これを縦横に並べることにより広い領域(面積)で動作する構造体を作製できる。この構造は、その形状からフィッシュネット構造として知られている(Nature, vol.455,p376(2008))。これらの構造体は、単位セルが入射波長の約1/6以下の非常に小さいサイズで構成されているため、入射光に対して、原子や分子として働く。そのため光を透過し、屈折させることが出来る。光の進行方向は、波数ベクトルkで表され、電場ベクトルE及び磁場ベクトルHの双方に垂直である。
次に、出力側のメタマテリアル光学部材を有しないタイプの装置について説明する。
出力側のメタマテリアル光学部材を用いない装置は、対象物Pに集光した光が入射することで、光学的な役割が終了する。対象物Pとして光検出器を用いた場合には、入力側のメタマテリアル光学部材を通過した光を検出するための光検出装置として機能させることができる。対象物Pとしてレーザ媒質を用いた場合には、入力側のメタマテリアル光学部材を通過した励起光を集光してレーザ媒質を励起させ、レーザ発光させるレーザ励起光源として機能させることができる。なお、レーザ媒質の両端にはミラー及びハーフミラーを設置して共振器を構成することができる。
図26は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
対象物Pは、上述の凹部内に配置可能な柱状の形状を有している。この装置は、対象物Pが光検出器である場合は光検出装置として機能し、レーザ媒質である場合にはレーザ励起光源として機能する。メタマテリアル光学部材100への入射光L1は、最初は右斜め45度方向に進行するが、途中から左側に向きを変えて進行し、集光されて凹部内を脱出して対象物Pに到達する。
上記と同様に、入射光L1が光検出器に入射した場合には、入射光量に応じた電気信号が光検出器から出力され、レーザ媒質である場合には、入射したレーザ光によりレーザ媒質が励起される。
図27は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この構造は、図26に示した実施装置において、メタマテリアル光学部材100を2つZ軸方向に沿って積み重ねたものである。この構造の場合、対象物PのZ軸方向の寸法が大きくなった場合にも、入射光L1を対象物Pに入射させることができる。この装置の作用は、図26に示したものと同一である。メタマテリアル光学部材100が縦方向に並んでいるので、光検出器としてはラインセンサを用いることができ、レーザ媒質として複数種類の要素を積み上げて、多波長励起光源としても用いることができる。
図28は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この構造は、図26に示した実施装置において、メタマテリアル光学部材100を2つX軸方向に沿って並べたものである。この構造の場合、対象物Pの数が2つの場合においても、入射光L1をそれぞれの対象物Pに入射させることができる。この装置の作用は、図26に示したものと同一である。複数の対象物Pとして、複数のラインセンサなどを用いることもできる。
図29は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この構造は、図26に示した実施装置において、メタマテリアル光学部材100を2つY軸方向に沿って並べ、これらで対象物Pを挟み、対象物P内に異なる方向から入射光L1を入射させる構成としたものである。この構造の場合、より高密度の入射光L1を対象物Pに入力することができる。この装置の作用は、図26に示したものと同一である。
図30は、光出射面が平坦なタイプのメタマテリアル光学部材の平面図である。
このメタマテリアル光学部材100と図13に示したものとの相違点は、メタマテリアル光学部材100に凹部が設けられておらず、光出射面OUT1が平坦面である点と、反射防止膜2が、光出射面OUT1を含む面に設けられている点であり、残りの構成は同一である。光出射面に平坦面を用いたので、図13において凹部の存在していた領域に、高屈折率の領域n6が設けられている。領域n6は、領域n5の内側に位置しており、その屈折率はn5<n6を満たしている。なお、説明の便宜上、各領域と屈折率は同じ符号を用いている。
領域n6は、メタマテリアル光学部材100の中においては、最も屈折率が高いので、光入射面IN1から入射した光は、メタマテリアル光学部材100内部を通って、領域n6の光出射面OUTに光が集光される。光出射面OUT1に集光された光は、Y軸方向の正方向に沿って徐々に屈折率が小さくなる反射防止膜を通過して、外部に出射する。外部には、気体(空気)が存在している。なお、領域n6は、一定の高屈折率の領域であってもよいが、集光方向に向けて徐々に屈折率が高くなる屈折率分布を有していてもよい。
なお、光出射面OUT1の構造であっても、凹部を有する構造の場合と同様の組み合わせを採用することができる。すなわち、光入射面側にも反射防止膜を設けたり、各種の装置に適用したり、複数のメタマテリアル光学部材100を組み合わせることができる。
図31は、メタマテリアル光学部材と対象物との関係を示す図である。
メタマテリアル光学部材100の光入射面IN1から入射した光L1は、内部を通過して光出射面OUTから出射し、メタマテリアル光学部材100を透過した光L10は、対象物Pに至る。メタマテリアル光学部材100と対象物とは、密着していてもよいが、離間していてもよい。対象物Pの形状としては、上述の凹部内に配置可能な柱状のものの他、平坦面に容易に対向できる板状のものを用いることができる。対象物Pは、物理的に一体の固体であってもよいし、分離された複数の素子であってもよい。
対象物Pが板状の光検出器である場合、光検出器としてはCCDイメージセンサやMOS型のイメージセンサなどの固体撮像素子を用いることができる。固体撮像素子として、二次元イメージセンサの他、ラインセンサを用いてもよい。
図32は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
対象物Pは、板状の形状を有しており、メタマテリアル光学部材100の光出射面OUT1が平坦面である場合には、メタマテリアル光学部材100に対して対象物Pを容易に配置することができる。この装置は、対象物Pが光検出器である場合は光検出装置として機能し、レーザ媒質である場合にはレーザ励起光源として機能する。メタマテリアル光学部材100への入射光L1は、最初は右斜め45度方向に進行するが、途中から左側に向きを変えて進行し、集光されて凹部内を脱出して対象物Pに到達する。
上記と同様に、入射光L1が光検出器に入射した場合には、入射光量に応じた電気信号が光検出器から出力され、レーザ媒質である場合には、入射したレーザ光によりレーザ媒質が励起される。
図33は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この構造は、図32に示した実施装置において、メタマテリアル光学部材100を2つZ軸方向に沿って積み重ねたものである。この構造の場合、対象物PのZ軸方向の寸法が大きくなった場合にも、入射光L1を対象物Pに入射させることができる。この装置の作用は、図32に示したものと同一である。メタマテリアル光学部材100が縦方向に並んでいるので、光検出器としてはラインセンサを用いることができ、レーザ媒質として複数種類の要素を積み上げて、多波長励起光源としても用いることができる。
図34は、実施装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この構造は、図32に示した実施装置において、メタマテリアル光学部材100を2つX軸方向に沿って並べたものである。この構造の場合、対象物PのX軸方向の寸法が大きくなったり、数が2以上に増加した場合においても、入射光L1を対象物Pに入射させることができる。この装置の作用は、図32に示したものと同一である。対象物PとしてはX軸方向に延びたラインセンサなどを用いることが好適である。
図35は、実施装置の斜視図である。
この構造は、図32に示した実施装置において、複数のメタマテリアル光学部材100をX軸方向に沿って並べ、また、対象物PのY軸方向の両端を挟むように並べ、対象物P内に異なる方向から入射光L1を入射させる構成としたものである。この構造の場合、より高密度の入射光L1を対象物Pに入力することができる。この装置の作用は、図32に示したものと同一である。対象物Pがレーザ媒質である場合、レーザ媒質の形状は、X軸方向に延びた直方体であり、対向する2つのXZ面に近接して、メタマテリアル光学部材100が配置されている。この構造からなるレーザ励起光源を、レーザ核融合用のドライバとして用いることもできる。この場合、入射光L1として励起用レーザ(波長804nm)を用い、レーザ媒質としてHAP4(Nd添加リン酸ガラス)を用いることができる。
図36は、光検出装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この光検出装置では、複数のメタマテリアル光学部材100が、対象物Pに対向させて一列に並べられている。本例では、対象物Pはラインセンサである。この場合、個々のメタマテリアル光学部材100に入射した光L1の光量に応じて、集光された光L10がメタマテリアル光学部材100から出射し、ラインセンサに入射する。ラインセンサからは、一次元に分布した光像の信号が出力される。
図37は、光検出装置において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
この光検出装置では、複数のメタマテリアル光学部材100が、複数の対象物Pにそれぞれ対向させて一列に並べられている。本例では、個々の対象物Pは、フォトダイオード又は光電子増倍管である。この場合、個々のメタマテリアル光学部材100に入射した光L1の光量に応じて、集光された光L10がメタマテリアル光学部材100から出射し、ラインセンサに入射する。ラインセンサからは、一次元に分布した光像の信号が出力される。
図38は、レーザ励起光源において対象物に入射する光の経路を説明するための図である。
本例では、対象物Pの横からではなく、長手方向の一端から光を入射させる構成としてある。入射光L1は、光入射面IN1を介してメタマテリアル光学部材100内に入射し、内部で集光されて出射光L10として光出射面OUT1から出射され、対象物Pの端面に入射する。対象物Pは、レーザ媒質であり、光ファイバなどの光導波路でもある。ここで、光ファイバに光を集中させるために、光入射面IN1に対して多方向から励起光用のレーザ光を入射させることができる。メタマテリアル光学部材100は、複数の方向から入射した光を、概ね同一の位置に集光させることができ、1つの光ファイバへの複数励起光の結合器として機能させることができる。
なお、上述の実施形態では、メタマテリアル光学部材の光入射面に、入射角45度で光が入射した例について説明したが、光の入射角度は、これに限られるものではなく、様々な方向法から入射することができる。
図39は、入力側のメタマテリアル光学部材内を進行する光の経路を示す図であり、メタマテリアル光学部材の位置にグラフを重ねて示している。なお、縦軸と横軸には寸法が表示されており、寸法の単位は例えば、ミリメートルである。
入射光が0度で光入射面に入射した状態を示している。光入射面に入射した光は、凹部D1に向けて集光している。集光位置には図示しない反射防止膜が設けられるので、集光した光は、界面で反射されることなく、外部に出力される。
図40は、入力側のメタマテリアル光学部材内を進行する光の経路を示す図であり、メタマテリアル光学部材の位置にグラフを重ねて示している。なお、縦軸と横軸には寸法が表示されており、寸法の単位は例えば、ミリメートルである。
入射光が図14の場合とは逆方向の45度で、光入射面に入射した状態を示している。光入射面に入射した光は、凹部D1に向けて集光している。入射光は、図面の左方向に進行した後、右側に屈曲しながら集光され、領域n40を通って、凹部D1の内面に集光する。集光位置には図示しない反射防止膜が設けられるので、集光した光は、界面で反射されることなく、外部に出力される。
なお、上述の図14、図39、図40は、メタマテリアル光学部材の内部の屈折率が、フックの屈折率分布に起因する場合について説明したが、これは他の分布であってよい。
図41は、メタマテリアル光学部材の屈折率分布が、ケプラーの屈折率分布に起因する場合における光の経路を示す図であり、メタマテリアル光学部材の位置にグラフを重ねて示している。図41(a)は入射角度が0度の場合、図41(b)は入射角度が45度の場合、図41(c)は入射角度が−45度の場合を示している。いずれの方向から入射した場合においても、入射光は、図41の凹部D1に向けて集光される。図41の凹部D1は、上述の図13等に示した凹部D1(点線で示す位置)の代わりに、この凹部に隣接する位置に存在し、この凹部よりも小さな半径を有している。凹部D1の内面は光出射面であり、この内面(半円筒状の凹面)の表面には図示しない反射防止膜2が設けられている。反射防止膜2を通過した入射光は凹部の内面から外部に向けて出射される。XY平面内において、凹部D1の内面を構成する円弧の開き角は180度であるが、これ以外の角度であってもよい。
なお、図41(d)、図41(e)、図41(f)は、それぞれ入射角度が0度の場合、45度の場合、−45度において、上記凹部を設けることなく、光出射面を平坦面とし、この平坦面上に反射防止膜2を形成したものである。平坦面から出射された光は、反射防止膜2を介して外部に向けて出射される。反射防止膜2の構造は、図30に示したものと同じである。
次に、メタマテリアル光学部材における光線経路の設計手法について説明する。上述のメタマテリアル光学部材では、入射光の向きに拘らず、入射光を特定の領域に集光している。特定の領域に光が入射出来ないようにするデバイスとしては、クローキングデバイス(透明マント)が知られている。本発明では、クローキングデバイスにおけるクローキング領域の近傍に反射防止膜を配置して、外部(クローキング領域の外側)から光(電磁波)に取り出している。1つの例では、クローキング領域の近傍に凹部を設けて凹部内に反射防止膜を配置し、別の例ではクローキング領域の近傍が平坦面となるようにして反射防止膜を配置した例について説明した。
したがって、メタマテリアル光学部材における集光用の光線経路は、クローキングデバイス(透明マント)の光線分布の一部を採用することができる。メタマテリアル光学部材における透明マントの光線経路が設計できれば、その通りに光線を導くように屈折率分布を設計すればよい。なお、屈折率勾配がある場合の光線経路の計算手法として、例えば、「New.J.Phys, vol.8, 118(2006)」が知られている。
光線経路の設計においては、光学的等角写像法と座標変換法が知られている(例えば、「Science, vol.312, 1777(2006)」と「Science,vol.312, 1780(2006)」)。等角写像法は、波動方程式を複素平面中のヘルムホルツ方程式で近似的に解くことにより光線軌跡を求める手法である。これは、現実の空間を物理空間(z平面)とし、設計を容易にするために使用する仮の空間を仮想空間(w平面)とすることで、その両空間を等角写像によって結合する方法である。等角写像の方法としては、例えば、ジューコフスキー変換を用いることができる。ジューコフスキー変換は、物理空間における設計を容易に行うために、仮想空間において設計を行う際に利用する。ジューコフスキー変換は、物理空間(z平面)を、仮想空間(w平面)に変換する等角写像である。光学的等角写像法を用いた設計は、等方性媒質を用いたメタマテリアル光学部材の設計を行う場合に有用であり、異方性媒質を用いたメタマテリアル光学部材の設計には座標変換法を用いる場合に有用である。
図42は、ジューコフスキー変換について説明するための図である。
図42(a)は、物理空間(z平面:z=x+jy)を示しており、図42(b)、(c)は、物理空間をジューコフスキー変換した後の仮想空間(w平面:w=w=u+jv)を示している(jは虚数単位)。これらの平面は、複素平面であるため、横軸には実軸、縦軸は虚軸に設定されている。
図42は(a)には、z平面内において半径aの円zBが描かれているが、ジューコフスキー変換(w=z+a2/z)により、円zBは図42(b)又は図42(c)の線分wBに変換される。なお、図42(b)又は図42(c)の線分wBは、逆変換(z=(w±(w2−4a2)1/2)/2により、ほぼ円zBに変換される。
図42(a)における半径aの円zBの外側の領域Cは、変換後に、図42(b)における線分wBの周囲を埋める領域Cとなる(図42(b))。図42(a)における半径aの円zBの内側の上部領域Bは、変換後に、図42(c)における線分zBの下部領域Bになる。図42(a)における半径aの円zBの内側の下部領域Aは、変換後に、図42(c)における線分zBの上部領域Aになる。
w平面上の1点に対応する点は、z平面上には2点存在するので、仮想空間の関数は多価関数であり、これは、線分wBを共有した仮想空間のw面(図42(b)、図42(c))を重ねて、リーマン面として表示することもできる。
なお、物理空間を示す図42(a)における原点位置は、変換後の仮想空間では無限大に発散するので、仮想空間における限られた空間内において、光が進行する状態というのは、実際の物理空間においては、原点を通らない光線となる。
また、上述の例では、フック屈折率分布(フックの調和振動プロファイル法による屈折率分布)とケプラー屈折率分布(ケプラーのプロファイル法による屈折率分布)を仮想空間中で示したが、フック屈折率分布とは、以下の式に従う屈折率分布である。半径r0の領域を、上述の中空領域である円z1に対応させることができる。
n’2=1−|w−w1|/r0
但し、n’は仮想空間中の下側のリーマンシート中の屈折率、r0はクローキング領域を規定する際に使用する半径の値、wは仮想空間中の下側のリーマンシート上の1点、w1は仮想空間中の分岐点の値である。
なお、ケプラー屈折率分布は、以下の式に従う屈折率分布である。
n’2=r0/|w−w1|−1
但し、n’は仮想空間中の下側のリーマンシート中の屈折率、r0はクローキング領域を規定する際に使用する半径の値、wは仮想空間中の下側のリーマンシート上の1点、w1は仮想空間中の分岐点の値である。
図43は、変換前後の光線群(フック屈折率分布)について説明する図である。
図43(a)は、物理空間におけるクローキングデバイス中の光線軌跡群と、本発明を設計するために必要な線群を示す図であり、縦軸と横軸に目盛が降ってある。縦軸の単位と横軸の単位は例えば、ミリメートルである。図面の下側から入射角45度でメタマテリアル光学材に光が入射した場合、これがクローキングデバイスであれば、原点近傍の円z1の内側には光が入射せず、円z1近傍において光が屈曲して、出射光線として外部に出力される。円z1の僅かに外側には、点線で円z2が描かれており、円z1の中心を通る水平線H1に沿ってメタマテリアル光学部材を切断して上部を除去し、更に、円z2の位置まで除去する加工を行えば、入射光は、円z1近傍において屈曲される前に、集光位置近傍で外部に露出する。円z2の近傍の光線経路の拡大図を図44に示す。この集光位置に反射防止膜を設けることにより、集光した光を外部に取り出すことができる。なお、図43(a)においては、上述の半径aの円zBが示されている。
図43(b)は、仮想空間における光線経路を示す図であり、縦軸と横軸に目盛が降ってある。縦軸の単位と横軸の単位は例えば、ミリメートルである。図43(a)の円zBは、ジューコフスキー変換によって、図43(b)の線分wBに変換される。円zBの内側に位置する円z1、z2は、それぞれ、仮想空間における円w1,w2に変換される。物理空間における円zBの外側の光線経路z4、内側の光線経路z3は、それぞれ、仮想空間においては、平行光線群w4、環状光線群w3に変換される。
図45は、変換前後の光線群(ケプラー屈折率分布)について説明する図である。
図45(a)は、物理空間における光線経路を示す図であり、縦軸と横軸に目盛が降ってある。縦軸の単位と横軸の単位は例えば、ミリメートルである。図面の下側から入射角45度でメタマテリアル光学材に光が入射した場合、これがクローキングデバイスであれば、原点近傍の円z1の内側には光が入射せず、円z1近傍において光が屈曲して、出射光線として外部に出力される。円z1を横切る水平線H1上の特定位置近傍において入射光が集光している。この円z1の中心を通る水平線H1に沿ってメタマテリアル光学部材を切断し、上部を除去する加工を行えば、入射光は、円z1近傍において屈曲される前に、集光位置近傍で外部に露出する。円z1の近傍の光線経路の拡大図を図46に示す。この集光位置に反射防止膜を設けることにより、集光した光を外部に取り出すことができる。なお、図46に示すように、集光位置近傍を含む領域を囲む円z2の領域を除去する加工を行い、除去された位置に反射防止膜を設けることもできる。また、なお、図45(a)においては、上述の半径aの円zBが示されている。
図45(b)は、仮想空間における光線経路を示す図であり、縦軸と横軸に目盛が降ってある。縦軸の単位と横軸の単位は例えば、ミリメートルである。円zBは、ジューコフスキー変換によって、図45(b)の線分wBに変換される。円zBの内側に位置する円z1と、円z2(図45(a)には示さず、図46に図示)は、仮想空間における円w1と、w2にそれぞれ変換される。物理空間における円zBの外側の光線経路z4、内側の光線経路z3は、それぞれ、仮想空間においては、平行光線群w4、環状光線群w3に変換される。
なお、上述の光線経路は、入射角が45度の場合を示したが、図47は、入射角が30度(図47(a))と、入射角が0度(図47(b))の場合における円z1の近傍の光線経路を示す(ケプラー屈折率分布)。上記と同様に、円z1によって光線z3は反射されるので、円を通る水平線で上部領域を切断するか、又は、更に円z2で示される領域を除去する加工を行い、露出した集光位置近傍に反射防止膜を設けることにより、集光した光を外部に取り出すことができる。
以上の原理のもと、本実施形態においては、メタマテリアル光学部材における光線経路は、物理空間と仮想空間との間のジューコフスキー変換と、逆変換を用いて設計する。すなわち、光学的等角写像法を用いたクローキングデバイスの光線軌跡群の中から、必要な部分を得るために、クローキング領域を逐次計算により修正したものである。
以上、説明したように、上述の実施形態に係るメタマテリアル光学部材とこれを用いた装置は、以下の構成と特徴を有している。
上述の実施形態に係る第1のメタマテリアル光学部材100は、光入射面IN1と光出射面OUT1とを有し集光機能を有する集光光学部材1と、集光光学部材1の光出射面OUT1に設けられた反射防止膜2とを備え、反射防止膜2は、光進行方向に沿って徐々に屈折率が低くなる(図6、図7参照)第1メタマテリアル構造を有している。集光光学部材1によって光が集められる領域の屈折率は、その周辺領域よりも高く設定される。したがって、集光光学部材1の光出射面OUT1に集光された光が、光出射面OUT1で反射されずに、外部に取り出させるように、第1メタマテリアル構造の反射防止膜2を設けた。メタマテリアル構造を用いることにより、自然界には存在しない高屈折率から低屈折率までの屈折率変化を形成することができるため、従来では外部に取り出せなかった光を外部に取り出すことができる。
上述の実施形態に係る第2のメタマテリアル光学部材100においては、集光光学部材1は、光入射面IN1から光出射面OUT1に向かうに従って徐々に屈折率が高くなる(図13参照)第2メタマテリアル構造を有している。この場合、集光光学部材1が、第2メタマテリアル構造を有しているため、自然界には存在しない屈折率変化を形成することができるため、従来では実現できなかった形状や径を有する集光を行うことができる。このような特殊な状態の集光を行っても、第1メタマテリアル構造の反射防止膜2を有しているため、光出射面OUT1に集光された光を外部に取り出すことができる。
上述の実施形態に係る第3のメタマテリアル光学部材100においては、光出射面OUT1は、凹面(凹部D1)を含む(図1)。この場合、集光光学部材1による集光位置が、凹面の内側に位置するように設定することにより、集光した光を凹部D1の内側空間内において利用することができる。
上述の実施形態に係る第4のメタマテリアル光学部材100においては、光出射面OUT1は、凹面の一部に連続し、凹面の開口サイズよりも、小さな開口サイズを有する第2の凹面(凹部D2)を含む(図18)。集光位置が、凹部D1の凹面よりも集光光学部材の深部に位置する場合、集光位置が内部に位置する第2の凹面を部分的に設ける。第2の凹面は、開口サイズが小さいので、集光光学部材1の多くの部分を加工しなくても、これを形成することができる。
上述の実施形態に係る第5のメタマテリアル光学部材100においては、光出射面OUT1は、平坦面を含んでいる(図30)。この場合、光出射面OUT1に凹面を形成する加工をする必要がないという利点がある。
上述の実施形態に係るメタマテリアル光学部材を用いた第1の光検出装置は、上述の凹面を有する第3又は第4のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材の凹面の内部に配置された光検出器とを備えている。被検出光が、集光光学部材1の光入射面IN1に入射すると、集光され、反射防止膜2を介して、凹面の内部に配置された光検出器に入射する。したがって、光検出器によって、被検出光を検出することができる。光検出器としては、光電子増倍管、フォトダイオード或いは固体撮像素子等を用いることができる。
上述の実施形態に係る第1のレーザ励起光源は、上述の凹面を有する第3又は第4のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材100の凹面の内部に配置されたレーザ媒質とを備えている。レーザ媒質の励起光が、集光光学部材1の光入射面IN1に入射すると、集光され、反射防止膜2を介して、凹面の内部に配置されたレーザ媒質に入射する。したがって、励起光によって、レーザ媒質を励起することができる。レーザ媒質としては、Er、Yb又はNd等の希土類元素を添加した光ファイバ等を用いることができる。
上述の実施形態に係る第1の計測装置は、上述の凹面を有する第3又は第4のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材100の凹面の内部に配置された媒体流路と、媒体流路からの光を検出する光検出器とを備えている(図1)。媒体流路内には、様々な被検査対象の物質を流すことができる。例えば、特定の波長の光を吸収すると、蛍光を発生する標識物質を媒体流路内に流した場合には、当該物質から発生した光を光検出器が検出することができ、検出した光に基づいて、物質の分析等を行うことができる。また、媒体として不透明な液体を流した場合には、媒体の透過光の光量を検出することにより、媒体の透明度を検査することも可能である。
上述の実施形態に係る第2の光検出装置は、上述の平坦面を有する第5のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材100の平坦面に対向配置された光検出器とを備えている。被検出光が、集光光学部材1の光入射面IN1に入射すると、集光され、平坦面に設けられた反射防止膜2を介して、光検出器に入射する。したがって、光検出器によって、被検出光を検出することができる。光検出器としては、光電子増倍管、フォトダイオード或いは固体撮像素子等を用いることができる。特に、平坦面の平坦性を利用すると、固体撮像素子が対向配置しやすいという利点がある。
上述の実施形態に係る第2のレーザ励起光源は、上述の平坦面を有する第5のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材100の平坦面に対向配置されたレーザ媒質とを備えている。レーザ媒質の励起光が、集光光学部材1の光入射面IN1に入射すると、集光され、平坦面に設けられた反射防止膜2を介して、これに対向配置されたレーザ媒質に入射する。したがって、励起光によって、レーザ媒質を励起することができる。レーザ媒質としては、Er、Yb又はNd等の希土類元素を添加した光ファイバの他、対向面が平坦なプレート形状のものを用いることができる。
上述の実施形態に係る第2の計測装置は、第5のメタマテリアル光学部材100と、メタマテリアル光学部材100の平坦面に対向配置された媒体流路と、媒体流路からの光を検出する光検出器とを備えている。媒体流路内には、上述の被検査対象の物質を流すことができる。媒体流路内の物質から発生した光を光検出器が検出することができ、検出した光に基づいて、物質の分析等を行うことができる。また、媒体として不透明な液体を流した場合には、媒体の透過光の光量を検出することにより、媒体の透明度を検査することも可能である。
レーザ媒質や媒体流路などからの発光を検出する場合には、第1のメタマテリアル光学部材100と組み合わせて用いられる第2のメタマテリアル光学部材200を用いることができる(図1)。このような光を受ける側の第2のメタマテリアル光学部材200は、光入射面IN2と光出射面OUT2とを有する光伝達部材1Aと、光伝達部材1Aの光入射面IN2に設けられた反射防止膜2Aとを備え、光伝達部材1Aは、光入射面IN2から光出射面OUT2に向かうに従って徐々に屈折率が低くなる。光入射面IN2側の領域は、屈折率が高いため、外部から容易に光が入射することができる。外部から光伝達部材1Aの光入射面IN2へ光を入射させる場合には、反射防止膜2Aが機能して、光の伝達損失が抑制される。メタマテリアル構造は、自然界に存在しない屈折率を形成することができるため、第2のメタマテリアル光学部材200は、第1のメタマテリアル光学部材100と対称な光の伝達を行うこともでき、したがって、屈折率分布の設計を共通化するなど、設計が簡略化される。
このように、受光タイプのメタマテリアル光学部材200の場合、光入射面IN2は、凹面を含み、凹面内に配置される媒体流路又はレーザ媒質からの光を受光し、光伝達部材1Aが、入射光を伝達して、光出射面から出力することができる。なお、メタマテリアル光学部材200は、凹部内に配置された対象物Pからの光を光出射面OUT2に向けて伝達することができるが、メタマテリアル光学部材100は、様々な方向から光入射面IN1を介して内部に入射した光を、凹部の内部に向けて集光することができる。