従来より、金、プラチナ、真鍮、アルミニウム、ステンレス鋼などの比較的塑性変形しやすい金属材料あるいはアクリルなどの樹脂材料などの被加工物の表面に点状の打刻痕を複数形成することにより、例えば、写真画像や二次元シンボルなどの所望の画像を形成する打刻装置が知られている。
なお、二次元シンボルとしては、例えば、セルと呼ばれる正方形をマトリックス状に配置した二次元コードがあり、具体的には、QRコード(登録商標)やデータマトリックスなどがある。
こうした打刻装置は、固定治具により固定した被加工物に対し、針状に形成された加工工具の先端部を当該被加工物の表面に打ち付け、当該表面上に点状の打刻痕を複数形成するものである。
こうした打刻装置によって、例えば、メスや鉗子などの医療用鋼製小物の表面に二次元シンボルを形成するには、まず、二次元シンボルを形成する対象となる医療用鋼製小物たる被加工物を固定治具に固定しながら被加工物の位置決めを行う。
その後、加工工具による被加工物の表面への打刻力や打刻により形成される画像(以下、「打刻画像」と称する。)のサイズなどの各種の設定を行う。
こうした設定が終わると、打刻装置に設けられたマイクロコンピューターなどに入力された二次元シンボルを表すデータおよび各種の設定に基づいて、被加工物200の表面へ打刻処理を行うためのデータたる打刻データを作成する。
そして、被加工物への打刻処理の指示がなされると、マイクロコンピューターにより打刻ヘッドを制御して、被加工物の表面に対して加工工具により打刻を行って、当該表面に二次元シンボルの打刻画像を形成することとなる。
なお、位置合わせを行う際には、被加工物の表面における打刻画像を形成しようとする領域の中心位置にレーザーポインタから照射された光が位置するように、固定治具あるいは被加工物の固定位置を微調整しながら被加工物の位置合わせが行われる。
しかしながら、こうした従来の技術による打刻装置においては、レーザーポインタなどを用いて被加工物の位置決めを行ったとしても、被加工物の表面の適切な位置に二次元シンボルなどの打刻画像を打刻することができず、打刻画像が適正な位置からはみ出したり、形状が歪んで形状判断ができなくなってしまうことがあった。なお、「適正な位置」とは、打刻画像を打刻する適正な位置であり、被加工物の表面において、打刻画像が欠けたり、歪むことなく形成することができる位置である。
このようにして、打刻画像を正確に打刻することができなかった場合には、被加工物における打刻画像が打刻された表面をグラインダーなどにより切削して、打刻画像を削除し、その後、再度被加工物の位置を調整して二次元シンボルなどの打刻画像を打刻する。
そして、被加工物の表面の適正な位置に打刻画像が打刻されるまで、被加工物の位置決め、打刻、打刻画像の削除といった処理を繰り返し行うこととなる。
従って、作業に習熟していない作業者が被加工物の表面に二次元シンボルなどの打刻画像を打刻する際には、被加工物の位置決め、打刻、打刻画像の削除といった処理を繰り返し行うこととなり、被加工物の表面に打刻画像を形成する作業に時間を要してしまい、作業効率が悪くなることが問題点として指摘されていた。
なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、本願明細書に記載すべき先行技術文献情報はない。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による打刻装置および打刻方法の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
図1には、本発明による打刻装置の一部を破断した概略構成斜視説明図が示されており、図2には、マイクロコンピューターの機能的構成を示すブロック構成説明図が示されている。
この図1に示す打刻装置10は、固定系のベース部材12と、ベース部材12の後方側においてベース部材12上に垂直に立設された後方部材14と、後端部において後方部材14に接続されるとともに、ベース部材12の左方側においてベース部材12上に垂直に立設された側方部材16Lと、後端部において後方部材14に接続されるとともに、ベース部材12の右方側においてベース部材12上に垂直に立設された側方部材16Rと、後方部材14および側方部材16L、16Rの上端部において、ベース部材12と対向して配設された上方部材18とを有して、筐体部20が構成されている。
そして、この筐体部20の内側においては、XYZ直交座標系におけるX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に移動する移動機構を介して打刻ヘッド38と、被加工物200を固定する固定治具24とが配設されている。
即ち、打刻装置10は、側方部材16L、16Rの近傍において、それぞれZ軸方向に延設されたガイドレール26a、26bに摺動自在に配設された昇降部材28と、昇降部材28の下方側においてY軸方向に延設されたガイドレール30a、30bに摺動自在に配設されたスライド部材32と、スライド部材32の前方側においてX軸方向に延設されたガイドレール34a、34bに摺動自在に配設されたキャリッジ36と、キャリッジ36に配設された打刻ヘッド38と、ベース部材12の上面12aの前方側において被加工物200を固定的に保持する固定治具24とを有して構成されている。
なお、昇降部材28、スライド部材32およびキャリッジ36の移動や打刻ヘッド38により被加工物200の表面200aへの打刻といった動作を含む全体の動作については、マイクロコンピューター40によって制御されている。
上方部材18の下面には、マイクロコンピューター40によりその駆動が制御されるステッピングモーター42が配設されている。
そして、このステッピングモーター42には、ネジ溝が形成されたネジ軸がZ軸方向に沿って延長する形状のZ軸方向送りネジ44が接続されている。
従って、このZ軸方向送りネジ44は、ステッピングモーター42の駆動によりそのネジ軸がZ軸方向周りに回転することとなる。
昇降部材28は、略中央部においてZ軸方向送りネジ44が貫通しており、Z軸方向送りネジ44が貫通する貫通部分において送りナット46が設けられ、当該送りナット46にZ軸方向送りネジ44がネジ結合している。
これにより、ステッピングモーター42の駆動によってZ軸方向送りネジ44が回転すると、昇降部材28がZ軸方向において上方側および下方側に移動することとなる。
また、昇降材28は、後端部においてマイクロコンピューター40によりその駆動が制御されるステッピングモーター48が配設されている。
そして、このステッピングモーター48には、ネジ溝が形成されたネジ軸がY軸方向に沿って延長するY軸方向送りネジ50が接続されている。
従って、このY軸方向送りネジ50は、ステッピングモーター48の駆動によりそのネジ軸がY軸方向周りに回転することとなる。
スライド部材32は、上方側後方においてY軸方向送りネジ50が貫通しており、Y軸方向送りネジ50が貫通する貫通部分において送りナット52が設けられ、当該送りナット52にY軸方向送りネジ50がネジ結合している。
これにより、ステッピングモーター48の駆動によってY軸方向送りネジ50が回転すると、スライド部材32がY軸方向において前方側および後方側に移動することとなる。
また、スライド部材32は、右方側前方においてマイクロコンピューター40によりその駆動が制御されるステッピングモーター54が配設されている。
そして、このステッピングモーター54には、ネジ溝が形成されたネジ軸がX軸方向に沿って延長する形状のX軸方向送りネジ56が接続されている。
従って、このX軸方向送りネジ56は、ステッピングモーター54の駆動によりそのネジ軸がX軸方向周りに回転することとなる。
キャリッジ36は、側面においてX軸方向送りネジ56が貫通しており、X軸方向送りネジ56が貫通する貫通部分において送りナット(図示せず。)が設けられ、当該送りナットにX軸方向送りネジ56がネジ結合している。
これにより、ステッピングモーター54の駆動によってX軸方向送りネジ56が回転し、キャリッジ35がX軸方向において右方側および左方側に移動することが可能となる。
従って、キャリッジ36は、マイクロコンピューター40の制御により駆動するステッピングモーター42、48、54によって、3次元方向で移動することが可能となる。
打刻ヘッド38は、加工工具58およびホルダー60により構成されており、ホルダー60に被加工物200の表面200aに所定の深さの打刻痕を形成するための加工工具58が着脱可能な構成となっており、加工工具58をZ軸方向に振動させるものである。
また、固定治具24は、ベース部材12の前方側において着脱可能に配設され、鉗子やメスなどの医療用鋼製小物などの被加工物200を確実に固定することが可能であるとともに、固定した被加工物200をX軸方向およびY軸方向において移動することが可能な構成となっている。
こうした固定治具24の具体的な構成としては、例えば、特開2013−10154号公報に開示された技術を用いることができるものであるため、その詳細な説明は省略することとする。
マイクロコンピューター40は、ステッピングモーター42、48、54を介して昇降部材28、スライド部材32およびキャリッジ36の移動による打刻位置の制御や打刻ヘッド38による被加工物200の表面200aへの打刻力の制御など、打刻装置10の各構成部材の制御を行う制御部62と、打刻力や打刻画像のサイズなどの各種の設定や打刻画像の画像データを記憶する記憶部64と、設定された各種のデータおよび記憶された画像データに基づいて、被加工物200の表面200aへの打刻を実行するためのデータたる打刻データを作成する打刻データ作成部68と、打刻ヘッド38により被加工物200の位置決めを行う際に用いる位置決めデータを、打刻データに基づいて作成する位置決めデータ作成部66とを有して構成されている。
打刻データ作成部68は、設定された各種のデータおよび打刻画像の画像データに基づいて、当該打刻画像を打刻するための打刻データを作成する。
位置決めデータ作成部66は、打刻データ作成部68において作成された打刻データに基づいて、打刻データに基づいて打刻がなされる領域の最外側に、複数の打刻痕を形成する位置決めデータを作成するものである。
この位置決めデータ作成部66で作成された位置決めデータは、記憶部64に出力されて記憶される。
以上の構成において、本発明による打刻装置10により医療用鋼製小物などの被加工物200の表面200aに対して矩形形状の二次元シンボルの打刻画像を形成するには、まず、作業者が、加工工具58により被加工物200の表面200aへの打刻力や打刻画像のサイズなどの各種の設定および矩形形状の二次元シンボルの画像データの入力を行う。
その後、マイクロコンピューター40の打刻データ作成部68において、記憶部64に記憶された二次元シンボルの画像データおよび設定された打刻力や打刻画像のサイズなどに基づいて、矩形形状の二次元シンボルの打刻画像を形成するための打刻データを作成する。
さらに、位置決めデータ作成部66において、作成された打刻データに基づいて、位置決めデータを作成する。
即ち、位置決めデータ作成部66においては、打刻データ作成部68において作成された、矩形形状の二次元シンボルの打刻画像を形成するための打刻データに基づいて、位置決めデータを作成することとなる。
具体的には、打刻データの最外側の打刻ライン上の、4つの角領域に、角部を中心として7つの打刻痕を形成するようにしたデータを作成する(図3(a)を参照する。)。
なお、打刻データの最外側の打刻ラインとは、打刻データに基づいて打刻がなされる領域(つまり、矩形形状の二次元シンボルの打刻画像を形成するための打刻データでは、この打刻がなされる領域は矩形形状となる。)における最外側に形成される打刻痕によって、打刻がなされる領域の各辺に沿って形成されるラインである(図3(b)を参照する。)。
即ち、位置決めデータ作成部66においては、打刻データに基づいて打刻がなされる領域の4つの角領域において、打刻データの最外側の打刻ライン上に角部を中心として7つの打刻痕(つまり、合計28個の打刻痕である。)を形成するようにしたデータが位置決めデータとして作成される。
次に、作業者により、表面200aに打刻画像を形成する被加工物200を、固定治具24に固定する。
このとき、被加工物200の表面200aにおける打刻画像を形成する領域(以下、「打刻領域」と称する。)を含む所定の領域には、保護シート210が貼り付けられている。なお、この打刻領域については、例えば、保護シート210にその範囲が明記されているようにしてもよいし、その範囲を明記しないようにしてもよい。明記しない場合には、作業者が、保護シート210が貼り付けられた所定の領域を確認して、打刻画像を適正な状態で形成することができる領域にあるか否かを判断することとなる。
この保護シート210は、例えば、合成樹脂製の透明な粘着テープであって、その厚さは、例えば、0.05〜0.3mmであることが好ましい。
そして、レーザーポインタ150から照射された光が、表面200aの打刻領域の中心位置に位置するように、被加工物200の固定位置を調整する。
その後、作業者により、図示しない操作子などによって被加工物200の位置決めのための打刻の指示がなされると、マイクロコンピューター40において、記憶部64に記憶された位置決めデータが制御部62に出力され、制御部62により当該位置決めデータに基づいて、昇降部材28、スライド部材32、キャリッジ36や打刻ヘッド38を制御して被加工物200の表面200aに貼り付けられた保護シート210上に位置決めデータに基づく画像の打刻を行う。
このとき、位置決めデータに基づく画像は、保護シート210上に形成されることとなり、被加工物200の表面200aまで達することはなく、被加工物200の表面200aには、位置決めデータに基づく画像が形成されることはない。
そして、作業者は、この保護シート210上に形成された位置決めデータに基づく画像を目視にて確認し、当該画像が打刻領域からはみ出している場合には、固定治具24における被加工物200の位置を調整し、その後、保護シート210を剥がし、新たな保護シートを貼り付けて、再度、保護シート210上に位置決めデータに基づく画像の打刻を行い、当該画像が打刻領域内に位置するまで、こうした処理を繰り返し実行する。
また、当該画像が打刻領域からはみ出すことなく、打刻領域内に位置している場合には、作業者により、被加工物200の表面200aから保護シート210が剥がされ、その後、図示しない操作子などによって打刻画像の作成の指示がなされる。
こうして、作業者により打刻画像の作成の指示がなされると、マイクロコンピューター40において、記憶部64に記憶された打刻データが制御部62に出力され、制御部62により当該打刻データに基づいて、昇降部材28、スライド部材32、キャリッジ36および打刻ヘッド38を制御して、被加工物200の表面200aにおける適正な位置に二次元シンボルの画像を形成する。
以上において説明したように、本発明による打刻装置10は、二次元シンボルなどの打刻画像に基づく打刻データから、被加工物200の位置を決定するための位置決めデータを作成するようにしたものである。
そして、表面200aの打刻領域を含む所定の領域に保護シート210を貼り付けた被加工物200を固定治具24に固定して、保護シート210上に位置決めデータに基づく打刻を行って、保護シート210上に位置決めデータに基づく画像を作成するようにしたものである。
その後、保護シート210上に形成された位置決めデータに基づく画像が、打刻領域からはみ出した場合には、被加工物200の位置調整を行い、被加工物200に新たな保護シート210を貼り付けた後に、再度保護シート210上に位置決めデータに基づく打刻を行うようにし、保護シート210上に形成された位置決めデータに基づく画像が、打刻領域内に位置する場合には、保護シート210を剥がした状態の被加工物200の表面200aに対して、打刻データに基づく打刻画像を形成するようにしたものである。
これにより、本発明による打刻装置10においては、位置決めデータに基づく画像が保護シート210上に形成されるため、被加工物200の位置が打刻領域からはみ出した場合であっても、従来の技術による打刻装置のように、被加工物200の表面200aに形成された打刻画像をグラインダーなどにより削除するような処理を必要とせず、単に保護シート210を剥がすだけでよい。
従って、本発明による打刻装置10においては、従来の技術による打刻装置と比較して、作業に習熟していない作業者であっても、より短時間で、容易に被加工物200の適正な位置に打刻画像を形成することができるようになる。
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形するようにしてもよい。
(1)上記した実施の形態においては、位置決めデータとして、打刻データに基づいて打刻がなされる領域(つまり、打刻領域である。)の4つの角領域において、7つの打刻痕を形成するようにしたデータを作成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、4つの角領域においてそれぞれ、1つの打刻痕を形成するようにしてもよいし、角部を中心として3個、5個あるいは9個以上の奇数個の打刻痕を形成するようにしてもよい。また、角領域に2個、4個、6個などの偶数個の打刻痕を形成するようにしてもよい。
(2)上記した実施の形態においては、打刻画像として矩形形状の二次元シンボルを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、円形、三角形などの各種形状の打刻画像の位置決めデータを作成するようにしてもよい。
この場合、位置決めデータに形成される打刻痕は、例えば、打刻画像の打刻データの最外側の打刻ライン上に形成されるとともに、複数の位置に複数個形成するようにする。つまり、作業者が、位置決めデータに基づいて打刻された画像に基づいて、その打刻される領域が明確になるように複数の位置に複数個の打刻痕を形成する。
(3)上記した実施の形態においては、位置決めデータに基づいて保護シート210上に打刻した画像が、打刻領域からはみ出していた場合には、作業者が、固定治具24における被加工物200の位置を調整して、被加工物200の位置決めを行うようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
即ち、位置決めデータに基づいて保護シート210上に打刻した画像が、打刻領域からはみ出していた場合には、作業者が、マイクロコンピューター40における制御部62のスライド部材32やキャリッジ36の移動量を調整して、被加工物200の表面200aにおける打刻領域内に、位置決めデータに基づいて打刻される画像を位置させるようにしてもよい。
(4)上記した実施の形態においては、マイクロコンピューター50において、打刻画像の画像データなどに基づいて、当該打刻画像を打刻するための打刻データを作成するとともに、打刻データに基づいて、被加工物200の位置決めを行う際に用いる位置決めデータを作成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
即ち、別途用意されたパーソナルコンピューターにおいて、打刻データおよび位置決めデータを作成し、作成した打刻データおよび位置決めデータを、有線または無線による通信回線によりマイクロコンピューター50に入力するようにしてもよいし、記録媒体を介してマイクロコンピューター50に入力するようにしてもよい。
(5)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(4)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。