JP2015192662A - トリアシルグリセロールリパーゼ変異植物 - Google Patents

トリアシルグリセロールリパーゼ変異植物 Download PDF

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Abstract

【課題】植物における中性脂肪の分解進行を遅らせるためにトリアシルグリセロールリパーゼ活性が欠失した又は抑制された植物、特にイネを開発し、提供する。
【解決手段】特定な配列のアミノ酸配列からなるイネトリアシルグリセロールリパーゼ、又は、その他種オルソログ等をおいて、該トリアシルグリセロールリパーゼの活性が欠失した又は抑制された変異型トリアシルグリセロールリパーゼをコードする変異遺伝子を有するイネ科植物。
【選択図】なし

Description

本発明は、トリアシルグリセロールリパーゼ活性が欠失した又は抑制された変異植物、特にイネにおける該変異植物、その変異植物から得られる種子又は果実、並びにそれから得られる植物油に関する。
植物性脂肪を原料とする植物油は、料理や食品加工業において食用として広く利用される他、石鹸やグリセリン等の工業用やバイオディーゼルのようなバイオ燃料としても利用されている。
植物油は、植物の種子、果肉、そして米糠及び胚芽等の精製副産物を原料として、植物体の圧搾や抽出等によって製造される。このうち、米糠や米胚芽から抽出される米油は、日本での年間の生産量が約9万トンであり、うち約6万トンが国内自給されている。植物油の総供給量に占める米油の割合は、わずか3.5%に過ぎないが、油糧原料のほぼ全量を輸入に依存している日本において、米油は、原料の多くを国内自給可能な点で重要な植物油となっている。さらに、米油は、オレイン酸の比率が高く、γ-オリザノールやビタミンEを多く含むことから健康増進機能に優れている他、酸化安定性に富み、加熱による酸化を生じにくいという利点を合わせ持つ。そのため、ポテトチップスや煎餅など揚げ物加工には不可欠な植物油となっている(非特許文献1)。また、淡白な味であることからマヨネーズやドレッシングにも利用されている。
しかし、米油は、製油時の歩留まりが極めて低いという問題がある。これは、米油の原料である米糠や米胚芽中に含まれるトリアシルグリセロールリパーゼ(triacylglycerol lipase;本明細書ではしばしば「TAGリパーゼ」と表記する)の活性が、大豆等のTAGリパーゼに比べて10倍以上も高いことに起因する。
搗精処理後の米糠における脂質成分は、図1に示すように、細胞内のオイルボディ中にトリアシルグリセロール(本明細書ではしばしば「TAG」と表記する)等の中性脂質として貯蔵されている。オイルボディの膜は、リン脂質であり、細胞中のホスホリパーゼD(PLD)の活性によって崩壊する。崩壊したオイルボディから漏出した中性脂質は、米糠中に豊富に存在するTAGリパーゼによって直ちにグリセリン及び遊離脂肪酸(FFA)に分解されてしまう。その結果、オイルボディ中の貯蔵脂質は、図2に示すように急速に減少する。これが米油の歩留まりが70%程度にしか達しない原因となっている。また、中性脂質の分解によって増大する遊離脂肪酸は、デンプンと結合することにより米の食味の低下、物性の低下を引き起こす。さらに、遊離脂肪酸のうち不飽和結合を有する脂肪酸は、リポキシゲナーゼ等の働きにより脂質過酸化物に変性し、その後、揮発性の古米臭成分となって米の品質を低下させる。
TAGリパーゼの活性を抑え、中性脂肪の分解進行を遅らせるため、従来の米油生産では、搗精直後の米糠を冷却・保冷し、できる限り新鮮な時期に米糠から製油を行う必要があった。しかし、この方法では、搗精装置の他、冷却・保冷施設が必要なことや、中性脂肪の分解前に製油を行うタイミングを見極める熟練性が必要という問題があった。
また、米糠を乾式エクストルージョン(押し出し濾過)又は乾式エクストルージョンクッキングあるいは湿式エクストルージョン又は水蒸気処理に供して、さらに金属イオン処理することによって米糠中のTAGリパーゼを不活性化する方法も知られている(非特許文献2)。しかし、これらの方法も専用設備や、その購入、維持及び運転のために多大な費用を必要とする他、製油を行う前のTAGリパーゼ不活性化のための前処理工程や時間を要するという問題があった。
そのため、上記の問題を全て解決し得るTAGリパーゼ活性が欠失した又は抑制された米油原料用イネの開発が製油産業界や関連食品産業界から強く求められていた。
脂肪分解酵素であるリパーゼとエステラーゼは、いずれもエステル結合を切断する酵素であり、酵素反応上の区別はない。したがって、TAGリパーゼとは、エステラーゼ/リパーゼのうち、TAGのエステル結合を切断できるエステラーゼ/リパーゼと解することができる。ところが、これまで報告されたTAGリパーゼは、いずれもナフチル化合物とのエステルや、トリブチレン等を基質とした実験に基づくものであり(非特許文献3〜6)、トリブチレンやTAGには全く反応しない。つまり、TAGリパーゼ活性が欠失したイネ変異体を開発するにあたり、その標的となる真のイネTAGリパーゼが未だに同定されていないという大きな問題があった。それ故に前記TAGリパーゼ活性が欠失した又は抑制された米油原料用イネもこれまで報告されていない。
辻悦子, 1988, 油脂, 41: 40 Munshi et al., 1993, J Chem Technol Biotechnol. 57: 169. Kim, Y.H., 2004, Journal of Plant Biotechnology, 6: 63-67. Chuang H.H., et al., 2011, J. Agric. Food Chem., 59: 2019-2025. Vijayakumara K.R. and Gowda L.R., 2012, Plant Physiology and Biochemistry, 57: 245-253. Vijayakumar K.R. et al., 2013, Protein expression and purification 88: 67-79.
本発明の課題は、植物における中性脂肪の分解進行を遅らせるためにTAGリパーゼの活性が欠失した又は抑制された植物、特にイネを開発して、提供することである。
上記課題を解決するために、本発明者は、米糠画分から中性脂肪を分解する活性を指標にして、これまで報告がなかったイネTAGリパーゼ及びそれをコードする遺伝子を同定し、そのTAGリパーゼの活性に重要なアミノ酸に変異が生じた変異型イネを選抜することに成功した。本発明は、当該知見及び開発結果に基づくものであり、以下を提供する。
(1)(a)配列番号1に示すアミノ酸配列、(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるTAGリパーゼにおいて、該TAGリパーゼの活性が欠失した又は抑制された変異型TAGリパーゼをコードする変異遺伝子を有する植物。
(2)前記変異型TAGリパーゼが(i)前記(a)の配列番号1に示すアミノ酸配列において52位のバリン、160位のグリシン、162位のセリン、164位のグリシン、168位のアラニン、179位のグリシン及び247位のトレオニンのいずれか一以上のアミノ酸が欠失又は置換された変異、又は(ii)前記(b)若しくは(c)に示すアミノ酸配列において(i)に示す各アミノ酸に相当するアミノ酸が欠失又は置換された変異を少なくとも有する、(1)に記載の植物。
(3)前記(i)に示す164位のグリシン又は前記(ii)に示す164位のグリシンに相当するグリシンがセリンに置換されている、(2)に記載の植物。
(4)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるTAGリパーゼをコードする遺伝子が配列番号2に示す塩基配列からなる、(1)〜(3)のいずれかに記載の植物。
(5)前記変異遺伝子が配列番号2に示す塩基配列において490位のグアニンからアデニンへの置換に基づく、(4)に記載の植物。
(6)(a)配列番号1に示すアミノ酸配列、(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるTAGリパーゼをコードする遺伝子の発現が抑制された植物。
(7)前記遺伝子の発現が前記遺伝子産物を標的とするRNA干渉、アンチセンス核酸、核酸酵素又はU1アダプターによって抑制される、(6)に記載の植物。
(8)前記RNA干渉がsiRNA又はshRNAを用いる、(7)に記載の植物。
(9)前記siRNA又はshRNAをコードするDNAを発現可能な状態で包含する発現ベクターを含む、(8)に記載の植物。
(10)前記植物がイネ科植物である、(1)〜(9)のいずれかに記載の植物。
(11)前記イネ科植物がイネである、(10)に記載の植物。
(12)前記(1)〜(11)に記載の植物、その後代又はその交雑体由来の種子又は果実。
(13)前記(12)に記載の種子、果実、又はその一部から得られる植物油。
(14)植物がイネであり、米糠及び/又は胚芽から得られる、(13)に記載の植物油。
本発明のTAGリパーゼ変異植物又はTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物は、TAGリパーゼ活性の欠失又は抑制によりTAG等の中性脂質の分解が喪失又は抑制されている。それ故、本発明の植物によれば、対象植物がイネのような野生型でTAGリパーゼ活性の高い植物の場合、種子等の品質劣化を抑制でき、またその種子等から製造される植物油の歩留まりを向上することができる。
搗精処理後の米糠における脂質成分の分解過程を示した概念図である。 貯蔵期間と米糠中に含まれるTAGの分解及び遊離脂肪酸(FFA)の増大の関係を示す図である。 各種クロマトグラフィー等を活用したリパーゼの精製を示す図である。各分画の上段は、エステラーゼ/リパーゼ活性比率(%)を、また下段はタンパク質量(mg)を示す。TL-1、TL-1a、TL-1b、及びTL-2は、各分画名を示す。 Os02g0286200タンパク質におけるTAGリパーゼ活性を示す図である。TAGリパーゼ活性は、基質であるオリーブ油の分解によって生じる遊離脂肪酸量で測定した。 Os02g0286200タンパク質におけるTAGリパーゼ活性の経時的変化を示す図である。TAGリパーゼ活性は、図4と同様に測定した。 Os02g0286200タンパク質のアミノ酸配列における変異型TAGリパーゼのアミノ酸変異位置を示す図である。下線は生物種間で保存されたアミノ酸を示す。また二重下線はリパーゼ活性ドメインのGxSxGモチーフを示す。アミノ酸配列において特定のアミノ酸の直下に示すアミノ酸は、本実施例で分離された変異系統(TAG#)における変異部位及び変異後のアミノ酸を示している。 野生型(WT)及び変異型(MT)のOs02g0286200タンパク質におけるTAGリパーゼ活性を比較した図である。 野生型(日本晴)及び変異型(TAG#6)の糠由来タンパク質をクロマトグラフィーにより分離した際に得られた2つのピークの画分におけるTAGリパーゼ活性を比較した図である。 イネOs02g0286200 TAGリパーゼの酵素化学的特性を検証した図である。AはpHとリパーゼ活性の関係を示す図である。Bは温度とリパーゼ活性の関係を示す図である。Cはリパーゼ量とリパーゼ活性の関係を示す図である。
1.トリアシルグリセロールリパーゼ変異植物
1−1.概要
本発明の第1の態様は、トリアシルグリセロール(TAG)リパーゼ変異植物である。本態様の植物細胞内に含まれるTAGは、TAGリパーゼによる分解が喪失又は抑制されている。そのため製油時の歩留まりを高めることが可能となる。
1−2.構成
本態様のTAGリパーゼ変異植物は、変異型TAGリパーゼをコードする遺伝子を有する。当該遺伝子の変異により、この植物は、TAGリパーゼの活性が欠失しているか又は抑制されている。
本明細書において「植物」は、被子植物及び裸子植物のいずれも該当する。被子植物は、双子葉植物又は単子葉植物のどちらであってもよい。本明細書において、好適な植物は、食用油の原料となる植物である。例えば、イネ科(Poaceae)植物、ダイズ(Glycine max)、ラッカセイ(Arachis hypogaea)、ベニバナ(Carthamus tinctorius)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、アブラナ(Brassica rapa)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、ワタ(Gossypium spp)、ゴマ(Sesamum indicum)、トウゴマ(Ricinus communis)、エゴマ(Perilla frutescens var. frutescens)、オリーブ(Olea europaea)、ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)、アメリカアブラヤシ(Elaeis oleifera)、ブドウ(Vitis spp.)等が挙げられる。前記イネ科植物は、イネ(Oryza sativa)、コムギ(Triticum aestivum)、オオムギ(Hordeum vulgare)、ライムギ(Secale cereale)、キビ(Panicum miliaceum)、アワ(Setaria italica)、ヒエ(Echinochloa esculenta)、トウモロコシ(Zea mays)、ソルガム(Sorghum bicolor)を含む。TAGリパーゼ活性の高い植物、例えばイネは、本発明の由来植物として特に好ましい。
また、本明細書でいう「植物」は、植物の全体を構成する植物体に限らず、植物の細胞、組織及び器官(胚、分裂組織、シュート、根、茎、葉及び花)、種子又は果実のいずれも包含する。
本明細書において「トリアシルグリセロール」(TAG)とは、トリグリセリドとも呼ばれる中性脂肪の一つで、グリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸がエステル結合した物質をいう。脂肪酸に由来するアシル基の種類やその組み合わせにより、TAGには多数の分子種が存在する。TAGは、油脂の主成分であり、植物性脂肪や動物性脂肪に多く含まれる。
本明細書において「トリアシルグリセロールリパーゼ」(TAGリパーゼ)とは、TAG等の中性脂質を基質として、そのエステル結合を加水分解する活性を持つ酵素をいう。当該活性によってTAGからはグリセロールと3分子の脂肪酸が生成される。
本明細書におけるTAGリパーゼは、植物由来のTAGリパーゼであれば特に限定はしない。具体例として、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネ由来のTAGリパーゼ(本明細書では、しばしば「イネTAGリパーゼ」と表記する)が挙げられる。
また、本明細書におけるTAGリパーゼは、前述のイネTAGリパーゼの他種オルソログ又はTAGリパーゼの活性変異体であってもよい。これらのTAGリパーゼは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネTAGリパーゼと同等以上の加水分解活性を有する。このようなイネTAGリパーゼの他種オルソログ又はTAGリパーゼの活性変異体には、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリペプチドや配列番号1に示すアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%、95%以上、97%以上、98%以上又は99%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが該当する。本明細書において「数個」とは、例えば、2〜20個、2〜15個、2〜10個、2〜7個、2〜5個、2〜4個又は2〜3個をいう。「アミノ酸同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、配列番号1に示すタンパク質の全アミノ酸残基数に対する同一アミノ酸残基の割合(%)をいう。アミノ酸同一性は、BLASTやFASTAによるタンパク質の検索システムを用いて算出することができる(Karlin,S.et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877;Altschul,S.F.et al., 1990, J. Mol. Biol., 215: 403-410;Pearson,W.R.et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448)。
イネTAGリパーゼの他種オルソログの具体例としては、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)由来で配列番号3に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと92%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、アワ由来で配列番号4に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと98%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、トウモロコシ由来で配列番号5に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと99%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド及び配列番号7に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと94%のアミノ酸同一性を有するポリペプチド、ソルガム由来で配列番号8に示されるアミノ酸配列からなり、イネTAGリパーゼと92%のアミノ酸同一性を有するポリペプチドが挙げられる。また、TAGリパーゼの活性変異体の具体例としては、例えば、スプライス変異体やTAGリパーゼ活性に影響しない1アミノ酸置換変異体等が挙げられる。
本明細書において「変異型トリアシルグリセロールリパーゼ」とは、前記TAGリパーゼの活性が欠失した又は抑制されたTAGリパーゼの変異体である。「活性が欠失した」とは、TAGリパーゼの加水分解活性が失われ、TAGをグリセロールと3分子の脂肪酸に分解できない状態をいう。「活性が抑制された」とは、TAGリパーゼの加水分解活性が抑制され、TAGの分解速度が著しく低下する状態をいう。変異型トリアシルグリセロールリパーゼの例としては、配列番号1に示すアミノ酸配列において、オルソログ間で保存されたアミノ酸、活性ドメインや保存領域等のTAGリパーゼの機能上必須の領域に1〜数個のアミノ酸が付加、欠失、又は置換されたポリヌクレオチドが挙げられる。ここでいう「活性ドメイン」とは、TAGリパーゼの活性中心を担う領域をいう。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列において、160位(開始メチオニンを1位とする。本明細書において、他も同様とする。)のグリシンから168位のアラニンまでの9アミノ酸は、TAGリパーゼの活性に重要な活性ドメインとされている。また、配列番号1に示すアミノ酸配列において、103位〜109位のアミノ酸領域は、生物種間で保存された保存領域とされている。
変異型TAGリパーゼには、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列において52位のバリン、活性ドメインとされる前記9アミノ酸のうち生物種間で保存性の高い160位のグリシン、162位のセリン、164位のグリシン、168位のアラニン、179位のグリシン及び179位のグリシン、及び247位のトレオニンのいずれか一以上のアミノ酸が欠失又は置換された変異を有するイネTAGリパーゼが挙げられる。具体的には、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列において52位のバリンがイソロイシンに置換されたイネTAGリパーゼ、164位のグリシンがセリンに置換されたイネTAGリパーゼ、及び247位のトレオニンがアラニンに置換されたイネTAGリパーゼが該当する。また、変異型TAGリパーゼには、イネTAGリパーゼの他種オルソログ又はTAGリパーゼの活性変異体において、前記配列番号1に示すイネTAGリパーゼにおける52位のバリン、160位のグリシン、162位のセリン、164位のグリシン、168位のアラニン、179位のグリシン及び247位のトレオニンの各アミノ酸に相当するアミノ酸が欠失又は置換された変異を有するTAGリパーゼも挙げられる。具体的には、イネTAGリパーゼの他種オルソログ又はTAGリパーゼの活性変異体において、配列番号1に示すイネTAGリパーゼの52位のバリンに相当するバリンがイソロイシンに置換されたTAGリパーゼ、164位のグリシンに相当するグリシンがセリンに置換されたTAGリパーゼ、及び247位のトレオニンに相当するトレオニンがアラニンに置換されたTAGリパーゼが該当する。
本明細書において「TAGリパーゼをコードする遺伝子」(本明細書では、しばしば「TAGリパーゼ遺伝子」と表記する)とは、前記配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネTAGリパーゼ、イネTAGリパーゼの他種オルソログ又はTAGリパーゼの活性変異体のいずれかをコードする遺伝子をいう。例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネTAGリパーゼをコードする配列番号2に示す塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。
本明細書において「変異型TAGリパーゼをコードする遺伝子」(本明細書では、しばしば「変異型TAGリパーゼ遺伝子」と表記する)とは、TAGリパーゼ活性が欠失した又は抑制された前記変異型TAGリパーゼをコードするTAGリパーゼ遺伝子である。具体的には、例えば、配列番号2に示す塩基配列からなる野生型イネTAGリパーゼ遺伝子において490位のグアニンがアデニンに置換したポリヌクレオチドが挙げられる。この塩基置換により、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネTAGリパーゼにおいて164位のグリシンがセリンに置換される。なお、この変異型は、制限酵素BsrIを用いたCAPS法により選抜が可能である。配列番号2において486〜491位に位置するBsrIサイト(ACTGGN;配列番号2ではACTGGG)が、前記490位の塩基置換によって失われるからである。同様に、配列番号2に示す塩基配列における739位のアデニンがグアニンに置換したポリヌクレオチドは、制限酵素AciIを用いたCAPS法により選抜が可能である。配列番号2において前記739位の塩基置換によって739〜742位の位置に新たにAciIサイト(CCGC)が生じるからである。その他、配列番号2に示す塩基配列からなる野生型イネTAGリパーゼ遺伝子において739位のアデニンがグアニンに置換したポリヌクレオチドが挙げられる。この塩基置換により、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるイネTAGリパーゼにおいて247位のトレオニンがアラニンに置換される。
変異型TAGリパーゼ遺伝子は、劣性遺伝子又は優性遺伝子を問わない。本明細書において「劣性遺伝子」とは、個体においてホモ接合体となったときにその遺伝子に基づく形質が表現型として顕在化する遺伝子をいう。例えば、機能喪失型変異(loss of function mutation)遺伝子が挙げられる。機能喪失型変異は、遺伝子が形質発現能を完全に失ったアモルフ変異(amorph mutation)及び遺伝子の形質発現能の低下をもたらすハイポモルフ変異(hypomorph mutation)が挙げられる。後述の本実施例に挙げるTAG#5系統、TAG #6系統及びTAG#15系統は、劣性の変異遺伝子である。本明細書において「優性変異遺伝子」とは、個体において対立遺伝子の少なくとも一方に存在する場合、その遺伝子に基づく形質が表現型として顕在化する遺伝子をいう。例えば、機能獲得型変異(gain of function mutation)遺伝子又は機能喪失型変異(loss of function mutation)遺伝子のいずれであってもよい。機能獲得型変異遺伝子には、過剰発現(overexpression)のような変異型タンパク質の量的上昇、又は構成的活性化(constitutive active)又は機能亢進(hyper active)の変異型タンパク質のような活性上昇をもたらすハイパーモルフ変異(hypermorph mutation)、新規機能活性を示す形質をもたらすネオモルフ変異(neomorph mutation)、及び野生型遺伝子由来のタンパク質と拮抗又はそれを抑制し、野生型遺伝子の形質発現を抑制するアンチモルフ変異(antimorph mutation: dominant negative)が含まれる。
本態様のTAGリパーゼ変異植物は、変異型TAGリパーゼ遺伝子を有する。TAGリパーゼ変異植物において、変異型TAGリパーゼ遺伝子は、内因性遺伝子又は外因性遺伝子のいずれであってもよい。本明細書において「内因性遺伝子」とは、植物のゲノム上に先天的に存在するその植物由来の遺伝子をいう。また「外因性遺伝子」とは、人為的操作等を介して後天的に獲得された外来性の遺伝子で、野生型植物のゲノムには存在しない遺伝子をいう。したがって、TAGリパーゼ変異植物には、内因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子をゲノム内に有し、外因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子を持たない植物、内因性のTAGリパーゼ遺伝子は野生型TAGリパーゼ遺伝子で、外因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子を有する植物、及び内因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子をゲノム内に有し、かつ外因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子も有する植物が含まれる。好ましくは、内因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子をゲノム内に有し、外因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子を持たない植物、又は内因性のTAGリパーゼ遺伝子は野生型TAGリパーゼ遺伝子で、外因性の変異型TAGリパーゼ遺伝子を有する植物である。なお、「野生型TAGリパーゼ遺伝子」とは、自然界に存在するTAGリパーゼ遺伝子の対立遺伝子群において、通常、最も多く存在する対立遺伝子で、その遺伝子がコードするTAGが加水分解活性を有する遺伝子をいう。
変異型TAGリパーゼ遺伝子が外因性遺伝子の場合、変異型TAGリパーゼ遺伝子は、後述する発現ベクター内に発現可能な状態で含まれていることが好ましい。発現ベクターについては第2態様で詳述するので、ここでは第2態様の発現ベクターの構成の違いのみを挙げ、重複する部分については説明を省略する。第2態様の発現ベクターは、発現目的の核酸分子として遺伝子発現抑制分子を含むのに対して、本態様の発現ベクターは、変異型TAGリパーゼ遺伝子を含む点において異なる。また、本態様の発現ベクターは、包含する変異型TAGリパーゼ遺伝子を内因性のTAGリパーゼ遺伝子の発現量の2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上又は20倍以上、過剰発現する性質を有することが好ましい。
TAGリパーゼ変異植物は、変異型TAGリパーゼ遺伝子を有する限りにおいて、TAGリパーゼ変異植物の植物体全体、植物体の一部(例えば葉、花弁、茎、根、シュート、花粉等)、植物培養細胞(例えば、カルス、プロトプラスト等)、組織及び器官(胚、分裂組織)のいずれも包含する。また、TAGリパーゼ変異植物の自家受粉により得られる後代、TAGリパーゼ変異植物と野生型植物との交配又は細胞融合により得られる交雑体も変異型TAGリパーゼ遺伝子を有する限りにおいて包含される。
1−3.作出方法
(1)TAGリパーゼ遺伝子への変異導入
野生型TAGリパーゼ遺伝子への変異の導入は、当該分野で公知の遺伝子変異導入技術を用いることができる。例えば、TAGリパーゼ遺伝子の活性ドメインや保存領域に1〜数個の塩基の欠失、付加及び/又は置換を導入する場合には、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)(Cermak T, et al., 2011, Nucleic Acids Res 39: e82)、ZFN(Zinc Finger Nuclease)(Kim, Y.-G., et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1156-1160.)、又はCRISPR/Cas9システム(Cong, L. et al., 2013, Science, 339, 819-823.)のようなゲノム編集技術を用いればよい。これらの技術は、目的とする植物ゲノム上の所望の配列を切断して変異を導入することができる。例えば、イネに対してTALENを用いる場合であれば、配列番号2に示す塩基配列からなるイネTAGリパーゼ遺伝子において480位から504位までの塩基(活性ドメインをコードする塩基に相当する)を標的とするDNA塩基配列認識部位(リピート部位)を構築し、TALEN発現ベクター内に挿入する。続いて、調製したTALEN発現ベクターからin vitro転写法によってTALEN mRNAを合成した後、イネに常法を用いて導入すればよい。
また、TAGリパーゼ遺伝子における活性ドメインや保存領域に特定の変異を導入する場合、例えば、配列番号2に示す塩基配列からなる野生型イネTAGリパーゼ遺伝子において490位のグアニンをアデニンに置換した変異を導入する場合には、一本鎖DNAをドナーとする相同組換え法が利用できる(Chen, F., et al., 2011 Nat. Methods 9:753-755.)。この方法は、TALEN mRNA及びTALENによる切断部位近傍配列のそれぞれに相同性を有する数十塩基の一本鎖DNAを宿主植物に同時に導入することによって、その一本鎖DNAをゲノムの目的の位置に挿入する方法である。
その他、TAGリパーゼ遺伝子への変異は、Kunkel法、又はGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した市販の変異導入用キット、例えば、Mutan-K(タカラバイオ)、LA PCR in vitro mutagenesis kit(タカラバイオ)等を用いて導入することもできる。
(2)変異型TAGリパーゼ遺伝子の植物細胞内導入方法
変異型TAGリパーゼ遺伝子を植物細胞内に導入する方法、すなわち植物細胞の形質転換方法は、当該分野で公知の任意の適当な方法を用いればよい。好適な形質転換方法として、変異型TAGリパーゼ遺伝子が発現ベクターに包含されている場合、プロトプラスト法、パーティクルガン法又はアグロバクテリウム法等を用いることができる。
プロトプラスト法は、セルラーゼ等の酵素的処理によって細胞壁を除去した植物細胞(プロトプラスト)を用いて、目的の遺伝子を植物細胞中に導入する方法である。この方法は、遺伝子導入の方法により、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法又はポリエチレングリコール法等に、さらに分類することができる。エレクトロポレーション法は、プロトプラストと目的遺伝子の混合液に電気パルスを与えてプロトプラスト内に遺伝子を導入する方法である。また、マイクロインジェクション法は、微針を用いて顕微鏡下でプロトプラスト中に目的の遺伝子を直接導入する方法である。そして、ポリエチレングリコール法は、ポリエチレングリコールを作用させてプロトプラストに目的の遺伝子を導入する方法である。
パーティクルガン法は、金又はタングステン等の微粒子に目的の遺伝子を付着させて、それを高圧ガスにより植物組織細胞内に打ち込み、目的の遺伝子を細胞内に導入する方法である。適用対象植物細胞のゲノムDNA中に目的の遺伝子が取り込まれた形質転換細胞を得ることができる。形質転換した細胞は、通常、核酸発現システム中のマーカー遺伝子産物に基づいて選択される。
アグロバクテリウム法は、形質転換因子としてアグロバクテリウム属の菌(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、アグロバクテリウム・リゾゲネス(A.rhizogenes)等)及びそれに由来するTiプラスミドを用いる植物細胞の形質転換方法であって、目的の遺伝子を適用対象植物細胞のゲノムDNA中に導入することができる。
上記の方法は、いずれも当該分野においては公知の方法であり、詳細については植物代謝工学ハンドブック(2002年、NTS社)又は新版モデル植物の実験プロトコル:遺伝学的手法からゲノム解析まで(2001年秀潤社)等の適当なプロトコルを参照すればよい。
また、核酸発現システムがウイルス発現ベクターの場合(例えば、前述のCaMV、BGMV、TMV等の場合)には、活性ペプチドをコードする核酸を組み込んだウイルス発現ベクターを目的の植物細胞に感染させることによって、形質転換細胞を得ることができる。このようなウイルスベクターを用いた遺伝子導入方法の詳細については、Hohnらの方法(Molecular Biology of Plant Tumors(Academic Press、New York)1982、pp549)等を参照すればよい。
形質転換の対象とする植物材料としては、茎、葉、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、
花粉等の植物器官・植物組織、これらの切片、未分化のカルス、これを酵素処理して細胞
壁を除いたプロトプラスト等の植物培養細胞のいずれであってもよい。また、in planta
法の場合、吸水種子や植物体全体を利用できる。
変異型TAGリパーゼ遺伝子の植物ゲノムへの組み込みの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、後述のTILLING法等によって行うことができる。又は、種々のレポーター遺伝子、例えばベータグルクロニダーゼ(GUS)、ルシフェラーゼ(LUC)、Green fluorescent protein(GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ベータガラクトシダーゼ(LacZ)等の遺伝子を目的遺伝子に連結したベクターを作製し、該ベクターで植物を形質転換させ、前記レポーター遺伝子の発現を測定することによって確認することもできる。
変異型TAGリパーゼ遺伝子がゲノムに組み込まれた形質転換体を選抜後、植物体に育成するにあたり、形質転換の対象を植物培養細胞をとした場合には、当該分野で公知の組織培養法を用いて形質転換細胞から形質転換体を再生すればよい。例えば、植物材料として植物組織又はプロトプラストを用いた場合、これらを無機栄養素、ビタミン、炭素源、エネルギー源としての糖類、植物生長調節物質(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド等の植物ホルモン)等を加えて滅菌したカルス形成用培地中で培養し、不定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる(以下「カルス誘導」という)。形成されたカルスをオーキシン等の植物生長調節物質を含む新しい培地に移し替えてさらに増殖(継代培養)させる。続いて、継代培養により増殖したカルスを適当な条件下で培養することにより器官の再分化を誘導し(以下、「再分化誘導」という)、最終的に完全な植物体を再生させることができる。再分化誘導は、培地におけるオーキシン等の植物生長調節物質、炭素源等の各種成分の種類や量、光、温度等を適切に設定することにより達成できる。再分化誘導により、不定胚、不定根、不定芽、不定茎葉等が形成され、さらに完全な植物体へと育成すればよい。あるいは、完全な植物体になる前の状態(例えば、カプセル化された人工種子、乾燥胚、凍結乾燥細胞及び組織等)で貯蔵してもよい。
(3)変異型TAGリパーゼ遺伝子ホモ接合型個体の作出
(1)及び(2)で変異型TAGリパーゼ遺伝子を導入した植物では、変異型TAGリパーゼ遺伝子がヘテロ接合型となっている。当該変異型TAGリパーゼ遺伝子が劣性遺伝子の場合、変異遺伝子に基づく形質を表現型として顕在化させるため、必要に応じて、変異型TAGリパーゼ遺伝子のホモ接合型個体を得てもよい。ホモ接合型個体は、同系交配(自家受粉)を行い、M1又はM2世代をTAGリパーゼ遺伝子の変異に基づいて選抜して得ることができる。例えば、M1個体の種子を得た後、それを播種して、株別に育苗し、M1個体の一部(例えば、葉の一部)を採取して、ゲノムを調製し、TAGリパーゼ遺伝子の変異を導入した領域をサイクルシークエンス法等で検証すればよい。上述したように、TAGリパーゼ遺伝子上の特定の位置における塩基置換については、CAPS法により検証することも可能である。
1−4.効果
本態様のTAGリパーゼ変異植物は、野生型植物と比較して植物体におけるトリアシルグリセロールリパーゼの活性が欠失しているか、又は抑制されている。植物細胞内のオイルボディ等に貯蔵されるTAGは、TAGリパーゼによる加水分解を受けることなく、保持され得る。
2.TAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物
2−1.概要
本発明の第2の態様は、TAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物である。本態様の植物では、内因性のTAGリパーゼ遺伝子の発現が抑制されている。そのため、植物細胞内に含まれるTAGは、加水分解が著しく抑制され、分解産物である遊離脂肪酸の発生が抑制される。その結果、本態様の植物を原料とした製油時の歩留まりを高めることが可能となる。
2−2.構成
本態様の植物は、遺伝子発現抑制分子によってTAGリパーゼをコードする遺伝子の発現が抑制されている。
2−2−1.遺伝子発現抑制分子
「遺伝子発現抑制分子」とは、標的遺伝子の転写後、その遺伝子転写産物であるmRNA(以下、「標的mRNA」とする)が翻訳されるまでの間に、その標的遺伝子の発現を抑制することのできる分子をいう。ここでいう「標的遺伝子」とは、第1態様で詳述した各植物の野生型TAGリパーゼ遺伝子である。
遺伝子発現抑制分子の例としては、核内において標的遺伝子の転写後に標的mRNAのmRNAスプライシングを阻害又は抑制する分子、標的mRNAの核外輸送を阻害又は抑制する分子、遺伝子サイレンシングのように核外において標的mRNAを分解する分子又は標的mRNAの翻訳を阻害する分子が挙げられる。このうち、標的mRNAを分解する物質や標的mRNAの翻訳を阻害する分子としては、例えば、標的遺伝子のRNA干渉剤、アンチセンス核酸、核酸酵素、又はU1アダプターが該当する。以下、遺伝子発現抑制分子としてのRNA干渉剤、アンチセンス核酸、核酸酵素、及びU1アダプターについて具体的に説明をする。
(1)RNA干渉剤
「RNA干渉剤」とは、生体内においてRNA干渉(RNA inteference:RNAi)を誘導する物質をいう。RNA干渉とは、標的とする遺伝子転写産物の分解を介してその遺伝子の発現を抑制する配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングである。本明細書におけるRNA干渉剤は、TAGリパーゼ遺伝子の転写産物に対して特異的なRNA干渉を誘導することのできるRNA分子をいう。例えば、siRNA、又はshRNAが挙げられる。RNA干渉については、例えば、Bass B.L., 2000, Cell, 101, 235-238;Sharp P.A., 2001, Genes Dev., 15 ,485-490;Zamore P.D., 2002, Science, 296, 1265-1269;Dernburg ,A.F. & Karpen, G.H., 2002, Cell, 111,159-162に詳述されている。以下、各RNA干渉剤について詳細に説明をする。
(i)siRNA
「siRNA」(短分子干渉RNA:small interference RNA)とは、標的遺伝子の塩基配列の一部に相当する塩基配列で構成されるセンス鎖(パッセンジャー鎖)、及びそのアンチセンス鎖(ガイド鎖)からなる小分子二本鎖RNAである。siRNAは、真核細胞に導入することによってRNA干渉を誘導することができる(Fire A. et al.,1998,Nature,391, 806-811)。
本態様の遺伝子発現抑制分子としてのsiRNAは、標的遺伝子であるTAGリパーゼ遺伝子の塩基配列に基づいて公知の方法により設計すればよい。例えば、Ui-Teiらの方法(Nucleic Acids Res., 2004, 32:936-948)、Reynoldsらの方法(Nat. Biotechnol., 2004, 22:326-330)、Amarzguiouiらの方法(Biochem. Biophys. Res. Commun.,2004, 316: 1050-1058)の方法に基づいて、設計することができる。
siRNA設計の具体例を挙げると、イネTAGリパーゼ-siRNAを設計する場合には、配列番号2に示す塩基配列からなるイネTAGリパーゼ遺伝子からセンス鎖の塩基配列として、15塩基以上35塩基以下、好ましくは15塩基以上30塩基以下、又は18塩基以上25塩基以下の連続した塩基配列を選択領域として選択する。アンチセンス鎖の塩基配列は、選択した前記センス鎖の塩基配列に相補的な塩基配列とする。なお、siRNAの調製に際しては、センス鎖及びアンチセンス鎖共に選択領域内のT(チミン)塩基をU(ウラシル)塩基に変換しておく。
前記センス鎖の選択領域は、標的遺伝子であるに特異的な配列であれば特に限定はしない。好ましくは開始コドンから少なくとも50塩基、より好ましくは70塩基〜100塩基よりも下流の領域である。さらに、RNAセンス鎖の候補領域内においてAA(アデニン‐アデニン)を5’側に有する塩基配列領域を選択することが好ましい。選択した領域内のGC(グアニン‐シトシン)含有量は、好ましくは20〜80%、より好ましくは30〜70%又は40〜60%である。siRNAの設計は、ウェブサイト上でも多数公開されており、標的遺伝子の塩基配列を入力すれば、有効かつ適切なsiRNAをウェブ上で設計することができる。代表的なsiRNA設計ウェブサイトとしては、siDirect(http://design.RNAi.jp/)、siDESIGN Center(http://www.dharmacon.com/designcenter/designcenterpage.aspx)、siRNA Selection Server(http://jura.wi.mit.edu/bioc/siRNAext/)等が挙げられる。
siRNAの一方の末端又は両末端には、標的遺伝子の塩基配列又はそれに相補的な塩基配列とは関連しない一以上のDNA、RNA、及び/又は核酸類似体からなる塩基配列が存在していてもよい。このようなsiRNAの末端に存在する塩基数は、特に限定はしないが、1〜20個の範囲内であることが好ましい。具体的には、例えば、siRNAのセンス鎖側及びsiRNAアンチセンス鎖側の3’末端側にTT(チミン‐チミン)又はUU(ウラシル‐ウラシル)等を付加する場合が挙げられる(Tuschl T et al., 1999, Genes Dev, 13(24):3191-7)。
(ii)shRNA
「shRNA」(short hairpin RNA)とは、前記siRNAを構成する二本鎖RNAの各一末端がスペーサ配列で連結されて一本鎖となったRNA分子をいう。したがって、shRNAは、分子内でセンス領域とアンチセンス領域が互いに塩基対合してステム構造を形成し、さらにスペーサ配列がループ構造をとることによって、分子全体としてヘアピン型のステム−ループ構造を有する。shRNAが細胞内に導入されると、ループ構造部分が切断されて二本鎖RNA分子、すなわちsiRNAが生成される。生じたsiRNAは、前項で述べたsiRNAと同様のRNA干渉機構によって標的遺伝子の発現を抑制することができる。
shRNAの設計は、例えば、前記siRNAにおけるセンス領域の3’末端と前記アンチセンス鎖の5’末端(又はアンチセンス領域の3’末端とセンス鎖の5’末端)とをスペーサ配列で連結する。例えば、イネTAGリパーゼ-shRNAを設計する場合には、前述のイネTAGリパーゼ-siRNAのセンス鎖の3’末端とアンチセンス領域の5’末端とを適当なスペーサ配列で連結すればよい。スペーサ配列は、通常3〜24塩基、好ましくは、4〜15塩基あればよい。スペーサ配列については、siRNAが塩基対合することができる配列であれば、特に制限はない。
(2)アンチセンス核酸
「アンチセンス核酸」とは、標的遺伝子の転写産物であるmRNAを標的とし、その塩基配列の全部又は一部に対して相補的な塩基配列を有し、標的mRNAにハイブリダイズしてその翻訳を阻害する核酸分子である。核酸は、主としてDNAで構成されるが、例えば、PNAやLNAのような核酸類似体やRNAも含むことができる。本態様における遺伝子発現抑制分子としてのアンチセンス核酸は、TAGリパーゼmRNAに相補的な塩基配列を有する。アンチセンス核酸の塩基長は、特に限定はしないが、通常は15〜40塩基、好ましくは17〜25塩基の長さで足りる。
アンチセンス核酸は、当該分野における公知の核酸合成技術を用いて作製することができる。例えば、前述のGreen, M.R. and Sambrook, J.(2012)を参照されたい。
(3)核酸酵素
「核酸酵素」とは、触媒活性を有する核酸分子であって、標的遺伝子の転写産物であるmRNAを基質として、その特定部位を切断する触媒機能を有する。核酸酵素には、DNAで構成されるデオキシリボザイム、及びリボ酵素とも呼ばれRNAで構成されるリボザイムが知られているが、本明細書における核酸酵素は、いずれであってもよい。デオキシリボザイム及びリボザイムは、いずれも構成塩基に化学修飾核酸、人工核酸及び/又は核酸類似体を一部に含むことができる。
(4)U1アダプター
「U1アダプター」とは、標的遺伝子のmRNA前駆体における3'末エクソンに相補的な5'側の「標的ドメイン」と、U1 snRNAの5’領域に相補的な配列を有する3'側の「U1ドメイン」を含む二機能性の約25塩基からなる一本鎖核酸である(Goraczniak R. et al., 2009, Nat Biotechnol., Vol 27, p257-263,)。生体内にU1アダプターを導入すると、U1 snRNAを含むU1核内低分子リボ核蛋白質(U1 snRNP)が標的遺伝子のmRNA前駆体におけるポリAシグナル周辺に結合し、該mRNAのポリアデニル化を特異的に阻害する。その結果、標的遺伝子のmRNA前駆体が不安定化し、その後、核内で分解されることによって、遺伝子のサイレンシングが生じる。
2−2−2.発現ベクター
本態様の植物は、前記遺伝子発現抑制分子をコードするDNAを発現可能な状態で包含する発現ベクターを含むことができる。遺伝子発現抑制分子をコードするDNAを含む発現ベクターの種類は、特に限定はしないが、植物用プラスミド又は植物用ウイルスが好ましい。例えば、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができるpBI系(例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3、pBIG2113)若しくはpRI系等のバイナリーベクターの植物プラスミドやカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等のウイルスを利用することができる。さらに、pUC18系、pUC19系、pUC9系等の大腸菌と植物のシャトルベクターであってもよい。これらの発現ベクターは、各ライフサイエンスメーカーから市販されており、それらを利用することもできる。「発現可能な状態で包含する」とは、発現ベクターに含まれる遺伝子発現抑制分子が植物細胞内で発現可能なように、プロモーターとターミネーターの制御下に配置されていることをいう。
前記発現ベクターは、植物細胞で動作可能なプロモーター、エンハンサー、若しくはターミネーターのような調節領域、及び/又は選抜マーカー遺伝子のような標識領域を含み得る。植物細胞で動作可能なプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモータ、イネ由来のアクチンプロモータ、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。なお、異なる二つの発現ベクターのそれぞれにRNAiセンス鎖領域及びRNAiアンチセンス鎖領域をコードするDNA断片を挿入する場合、各RNA鎖が同程度の量で発現するように、プロモーターは、同一のプロモーター又は同程度の発現活性を有する異なるプロモーターを用いることが好ましい。
前記発現ベクターは、siRNAのような二本鎖分子の場合、RNAiセンス鎖領域及びRNAiアンチセンス鎖領域のそれぞれをコードするDNA断片を、異なる二つの発現用ベクターに挿入していてもよく、また一つの発現用ベクター内で発現制御されるDNA断片として挿入していてもよい。一方、shRNAのような一本鎖分子の場合、当該一本鎖RNA分子をコードするDNA断片が発現用ベクター内の所定の位置に挿入されていればよい。目的の核酸の発現ベクター内への挿入には、発現ベクター内の適当な制限酵素部位、特にマルチクローニングサイト等を利用することができる。
発現ベクターの植物細胞内への導入方法は、前記「1−3.作出方法(2)変異型TAGリパーゼ遺伝子の植物細胞内導入方法」に記載の方法に準じて行えばよい。
前記発現ベクターを細胞内に有する本態様のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物は、TAGリパーゼ遺伝子発現抑制分子、例えば、TAGリパーゼ‐shRNAを継続的に発現することができる。それによって内因性の野生型TAGリパーゼ遺伝子の発現を抑制し、細胞内のTAGリパーゼ量を著しく低減することが可能となる。
TAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物は、TAGリパーゼ遺伝子発現抑制分子を有する限りにおいて、TAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物の自家受粉により得られる後代、TAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物と野生型植物との交配又は細胞融合により得られる交雑体も含まれる。
3.種子、果実又はその一部
3−1.概要
本発明の第3の態様は、第1態様に記載のTAGリパーゼ変異植物及び第2態様に記載のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物、その後代又はその交雑体に由来する種子、果実又はその一部(以下、しばしば「種子等」と表記する)である。本発明の種子等は、TAGリパーゼの不活性化処理、あるいはTAGリパーゼ阻害剤を添加することなく、TAGリパーゼの活性を欠失又は抑制することができる。
3−2.構成
本態様の種子、果実又はその一部は、第1態様に記載のTAGリパーゼ変異植物又は第2態様に記載のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物、その後代又はその交雑体に由来する。
本明細書において「種子」は、胚芽及び胚乳を含む種子の形状を残すものをいう。例えば、穀物種子(玄米、コムギ、オオムギ、トウモロコシを含む)、ゴマ種子、ダイズ種子、ラッカセイ種子、綿実、菜種、ヒマワリ種子等が挙げられる。発芽能力は問わない。種子は、加熱処理したものであってもよい。例えば、米飯のように加熱処理をしたものが該当する。
本明細書において「果実」は、生果、干果、液浸果を問わず、概ね果実全体の形状を残すものをいう。果実は、前記種子を含んでいてもよい。
本態様において「その一部」とは、種子及び/又は果実の一部をいう。例えば、果皮、種皮、胚芽、胚乳(白米を含む)、及び/又は果肉等が挙げられる。形状は問わない。例えば、粒状、顆粒状、粉末状、切片状、それらを練った塊状、又は搾汁液のような液状のいずれであってもよい。具体例として、穀物粉(米粉、小麦粉、トウモロコシ粉)、糠が挙げられる。本発明においては、野生型でTAGリパーゼ活性の高いイネの糠(米糠)や胚芽(米胚芽)は、特に好ましい。
3−3.効果
本態様の種子等は、第1態様に記載のTAGリパーゼ変異植物又は第2態様に記載のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物に由来するため、植物細胞内のTAGリパーゼが欠失しているか又は抑制されている。それ故、本態様の種子等は、植物細胞内の中性脂肪の加水分解を抑制することができる。
第1態様又は第2態様の対象植物が、例えばイネであった場合、米の品質劣化を抑制でき、古米化の進行が遅延することができる。その結果、貯蔵性の向上と貯蔵に要するエネルギーやコストの低減が可能となる。
米油の生産において従来の米糠を原料に用いた場合、米糠に含まれる中性脂質がTAGリパーゼにより分解され、その後、酸化されることで、夏期で約15〜20%、冬期で約5〜10%の損失が生じる。本発明の米糠から搾油すれば、米油の歩留まりを向上することもできる他、従来活用されなかった搗精後、時間が経過した米糠も原料として活用することができる。さらに、脂質酸化や異臭発生が生じにくい米粉、玄米全粒粉、米油等の製造が可能になる。
4.植物油
4−1.概要
本発明の第4の態様は、植物油である。本発明の植物油は、第3態様に記載の種子、果実、又はその一部から得られる。本発明の植物油は、原料の種子等におけるTAGリパーゼ活性の欠失又は抑制により、脂質酸化や異臭発生が生じにくい。
4−2.構成
植物油は、第3態様に記載の種子等、すなわち第1態様に記載のTAGリパーゼ変異植物又は第2態様に記載のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物に由来する種子等を原料とする。
本態様で好ましい植物油は、イネの米糠及び/又は米胚芽を原料とし、主として抽出法によって製油される米油である。
種子等から植物油を製造する方法は、当該分野で公知の方法を用いることができる。例えば、圧搾法、抽出法、圧抽法等が挙げられる。
圧搾法は、菜種等の油成分を多く含む種子等に圧力を加えて、物理的に植物油を搾油する方法をいう。抽出法は、米糠や米胚芽、ダイズ等の油成分の少ない種子等から植物油を得る方法で、原材料である種子等をヘキサン等の揮発性溶剤に混合して、油成分を溶剤中に抽出した後、蒸留装置で分留によって油成分を分離する方法である。圧抽法は、圧搾法と抽出法を併用した方法で、圧搾法によって生じた残渣から圧搾法では搾油しきれなかった油成分を抽出法で分離する方法である。
上記方法で得られた植物油は、不純物を含む原油(植物原油)の状態である。植物原油は、必要に応じて精製する、すなわち精油することもできる。精油には、脱漏、脱ガム、脱酸、脱色等の工程を含み得る。「脱漏」は、ウインタリングとも呼ばれ、蝋成分の多い植物原油から蝋成分を除去する方法で、具体的には、蝋成分が低温で固形化する性質を利用して、植物原油を冷却し、固形化した蝋成分をろ過によって除去する方法である。「脱ガム」は、植物原油からリン脂質を除去する方法で、具体的には、植物原油に水(温水)を加えて、植物原油中のリン脂質を水和し、その後、遠心分離によって油成分と水和したリン脂質とを分離、除去する方法である。「脱酸」は、植物原油から遊離脂肪酸を除去する方法で、具体的には、植物原油に水酸化ナトリウムを加えて、植物原油中の遊離脂肪酸をけん化し、その後、遠心分離によって油成分と石鹸とを分離する方法である。「脱色」とは、植物原油の色、特に、クロロフィルやカロチノイド等を脱色又は減色する方法で、具体的には植物原油に活性白土を添加し後、遠心分離によって油成分と色素を吸着した活性白土とを分離する方法である。これらはいずれも当該分野で公知の技術であり、例えば、油脂・油糧ハンドブック、阿部芳郎監修、幸書房、1988年版を参照すればよい。
4−3.効果
本態様の植物油は、すなわち第1態様に記載のTAGリパーゼ変異植物又は第2態様に記載のTAGリパーゼ遺伝子発現抑制植物に由来する種子等を原料とするので、脂質酸化を生じにくく、また異臭も発生しにくい。
<実施例1:TAGリパーゼ遺伝子変異イネの作出>
(目的)
本発明のTAGリパーゼ遺伝子変異植物を作出するために、イネを用いてこれまでに報告のない真のTAGリパーゼ遺伝子を単離、同定し、その遺伝子に変異を生じた結果、TAGリパーゼ活性が欠失した本発明の変異体TAGリパーゼ遺伝子変異イネを選抜する。
(方法及び結果)
(1)リパーゼ/エステラーゼ酵素群の分離及び精製
TAGリパーゼは、エステル結合を切断するリパーゼ/エステラーゼ酵素群に属する。そこで、米油又はオリーブ油を基質として中性脂肪を分解する活性を指標に、日本晴の米糠画分に含まれるリパーゼ/エステラーゼ酵素を硫安沈殿した後、複数のカラムクロマトグラフィーを用いて分離、精製した。まず、日本晴の米糠1160gを、3倍量のヘキサンで3回脱脂した。脱脂した米糠に5倍量の緩衝液(25mM Tris-HCl, pH 7.6, 0.1mM EDTA, 0.1mM モノヨード酢酸, 0.1mM PMSF)を加え、ポリトロン粉砕機で磨砕した。磨砕液は、ガーゼでろ過した後に、10000rpmで20分間遠心をした。得られた上清に、20%飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、20分間静置した後に、再度遠心をした。得られた上清を、充填剤にブチルセファロースを用いた疎水性相互作用クロマトグラフィーにかけた。カラムは、直径5.2cm×長さ23cmのものを用いた。溶出は、25mM Tris-HCl(pH7.6)(20% 飽和硫安)、25mM Tris-HCl(pH7.6)(10% 飽和硫安)、25mM Tris-HCl(pH7.6)(5% 飽和硫安)、25mM Tris-HCl(pH7.6)(2% 飽和硫安)、25mM Tris-HCl(pH7.6)で行った。活性画分は、2つに分かれたので、溶出順にTL-1とTL-2とした。各々の活性画分を脱塩、濃縮後に充填剤にQセファロースを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。カラムは、直径2.5cm×長さ10cmのものを用いた。溶出は、25mM Tris-HCl(pH8.0)、塩化ナトリウムの0.0〜1.0Mの濃度勾配溶出を行った。その結果、リパーゼ/エステラーゼ活性は、図3に示す3画分(TL-1a、TL-1b、TL-2)に分離された。TL-1aは総活性の20%、TL-1bは総活性の30%、TL-2は総活性の50%であった。
3画分のうち活性が高かったTl-1b及びTl-2画分について、さらに精製を進めた。TL-2については、まず、バッファーを5mMのリン酸緩衝液(pH7.0)に置換した後に、ヒドロキシアパタイトを充填したBio-Gelハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー(1.5cm×21cm)を用いて、5〜100mMのリン酸で濃度勾配溶出を行った。活性画分は濃縮後に5mMリン酸緩衝液(pH7.0)に置換し、充填剤にヘパリンセファロースを用いたアフィニティクロマトグラフィー(1.5cm×21cm)を用いて、0〜1.5Mの塩化ナトリウムによる濃度勾配溶出を行い、精製した。
TL-2の次に活性が高かったTl-1b画分についても、さらに精製を進めた。まず5mMのリン酸緩衝液、pH7.0に置換した後に、充填剤にヒドロキシアパタイトを用いたBio-Gelハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー(1.5cm×21cm)を用いて、5〜100mMのリン酸濃度勾配溶出を行った。活性画分は濃縮後に5mMリン酸緩衝液(pH7.0)に置換し、充填剤にヘパリンセファロースを用いたアフィニティクロマトグラフィー(1.5cm×21cm)を用いて、0〜1.5Mの塩化ナトリウムによる濃度勾配溶出を行い、精製した。活性画分は濃縮後に5mMリン酸緩衝液(pH7.0)に置換し、再度、充填剤にヘパリンセファロースを用いたアフィニティクロマトグラフィー(1.5cm×21cm)を用いて、0〜0.15Mの塩化ナトリウムによる濃度勾配溶出を行い、精製した。活性画分は濃縮後に25mMリン酸緩衝液(pH7.0)に置換し、充填剤にAffi-Gelを用いたアフィニティクロマトグラフィー(1.5×13cm)を用いて、0〜0.5Mの塩化ナトリウムによる濃度勾配溶出を行って精製した。
(2)TAGリパーゼ候補遺伝子の同定
前記(1)においてへパリンクロマトグラフィーで精製したTL-1b及びTL-2画分中の精製したタンパク質をそれぞれ非変成ゲルの複数レーンに積載し、電気泳動で分離した。分離後に同一タンパク質を泳動した複数レーンのうち1レーンのゲルをCBB染色してタンパク質の位置を確認した後、染色レーンのゲルバンドと同一位置にある非染色レーンのゲルを切り出した。続いて、4メチルウンベリフェリルオレート(4MUO)を基質としてゲル中のタンパク質による分解活性を評価した。
その後、活性のあるゲルバンドを切り出してトリプシン消化した。消化産物のペプチドにおける内部アミノ酸配列をMALDI-TOF-MSによるペプチドマスフィンガープリンティング(PMF)解析によって同定した。その結果、TAGリパーゼ候補として、TL-1b画分及びTL-2画分のそれぞれで3つずつに絞り込むことができた。これらの画分に含まれるTAGリパーゼ候補をコードする遺伝子を、便宜的にTL-1b-A〜C画分遺伝子及びTL-2-A〜C画分遺伝子と表記する。
(3)遺伝子発現プロファイルによるTAGリパーゼ候補遺伝子の検証
目的のTAGリパーゼ遺伝子は、種子及び胚で発現している。そこで、前記各候補遺伝子が種子や胚で発現しているか否かを、「遺伝子の発現プロファイル;The Ric e Expression Profile Database (RiceXPro)」により調査した(http://ricexpro.dna.affrc.go.jp/index.html)。その結果、TAGリパーゼ候補遺伝子のうち、TL-1b-C画分遺伝子は、胚では発現しておらず、また、TL-2-C画分遺伝子は、日本型イネに対応する遺伝子がないことが、それぞれ明らかになった。したがって、これら2つの遺伝子をTAGリパーゼ候補遺伝子から除外した。これにより、TL-1b画分ではTL-1b-A画分遺伝子及びTL-1b-B画分遺伝子が、TL-2画分ではTL-2-A画分遺伝子及びTL-2-B画分遺伝子が、TAGリパーゼ候補遺伝子として絞り込まれた。アミノ酸配列から推定される機能として、TL-1b-A画分及びTL-1b-B画分に含まれるタンパク質は、いずれもGDSLモチーフを有するリパーゼ/エステラーゼであり、TL-2-A画分に含まれるタンパク質は核酸代謝に関係するSimilar to mRNA-associated proteinであり、TL-2-B画分に含まれるタンパク質はclass3ファミリーに属するリパーゼである。このうちTL-2-A画分に含まれるタンパク質は、リパーゼやエステラーゼ又は加水分解酵素に特有なドメインを有さないことからTAGリパーゼの候補から除外した。
(4)リパーゼ候補遺伝子の酵母によるタンパク質発現とTAGリパーゼ活性評価
TAGリパーゼ候補遺伝子として絞り込んだTL-1b-A画分遺伝子、TL-1b-B画分遺伝子及びTL-2-B画分遺伝子の何れがイネTAGリパーゼ遺伝子であるかを明らかにするために、各画分の候補遺伝子の酵母発現系を作製し、TAGリパーゼ活性を評価した。
まず、前記3種類のTAGリパーゼ候補遺伝子の全長をゲノミックDNAのPCR増幅反応によって調製した。次に、シャトルベクターpPICZaA (Life Technologies)のBamHI-XhoI部位に調製した全長の候補遺伝子を挿入し、TAGリパーゼ候補遺伝子発現ベクターを調製した。続いて、10μgの各TAGリパーゼ候補遺伝子発現ベクターを用いて、酵母(Pichia pastoris)ゲノム内に組み込んだ。これらは、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法に準じて行った。
各形質転換酵母の炭素欠乏培養液にメタノールを添加してTAGリパーゼ候補タンパク質を大量に発現誘導させた。その後、形質転換酵母の粗抽出画分から、TAGリパーゼ候補タンパク質のC末部分に人工的に付加されているHis-Tag構造へのアフィニティカラムの親和性を利用してTAGリパーゼ候補タンパク質を抽出及び精製した。基質に6%のオリーブ油又は米油を用いて、10μgの各TAGリパーゼ候補タンパク質又は100℃で5分間熱処理したタンパク質を加えて、30℃で12時間反応させた。その後、WAKO non-esterified fatty acids (NEFA) C-Test kitを用いて遊離脂肪酸量を測定し、得られた測定値に基づいてTAGリパーゼ活性を評価した。活性が認められたTL-2-B画分のTAGリパーゼ活性と当該活性の経時的変化の結果をそれぞれ図4及び図5に示す。これらの解析結果より、TL-2-B画分遺伝子、すなわち、Os02g0286200遺伝子をイネTAGリパーゼ遺伝子として同定した。
(5)TAGリパーゼ変異イネのスクリーニング
Os02g0286200遺伝子として単離、同定されたイネTAGリパーゼ遺伝子は、配列番号2で示す塩基配列からなり、また、この遺伝子にコードされるイネTAGリパーゼは、349アミノ酸からなる。
前記Os02g0286200遺伝子に塩基置換を有するTAGリパーゼ遺伝子の変異体を、九州大学で作製された2300系統からなるMNU(N-メチルニトロソウレア)変異体ライブラリーからTILLING法を用いて選抜した。その結果、Os02g0286200イネTAGリパーゼ遺伝子に塩基置換が生じている20系統を選抜した。各系統のOs02g0286200イネTAGリパーゼ遺伝子におけるゲノム塩基配列の解析を常法に従って行い、表1に示す3系統を選抜した。
Figure 2015192662
表1の塩基置換及びアミノ酸置換における数値は、それぞれ配列番号2に示す塩基配列における位置及び配列番号1に示すアミノ酸配列における位置を示し、また各数値の前にあるアルファベットは、置換前の塩基又はアミノ酸(1文字表記)を、各数値の後にあるアルファベットは、置換後の塩基又はアミノ酸を示す。
上記系統の中でTAG#6は、TAGリパーゼの活性ドメインとして知られるGxSxGモチーフ(xは任意のアミノ酸)において、164番目のアミノ酸「Gly(G)」が「Ser(S)」に置換した系統である。
(6)TAGリパーゼ変異イネにおける変異型TAGリパーゼの活性評価(I)
(5)で選抜したTAGリパーゼ変異イネ系統でTAGリパーゼ活性が欠失しているか又は抑制されているかをTAG#6系統を用いて酵母発現系により検証した。
基本的な手順は上記(4)に準じて行った。すなわち、490位のグアニンがアデニンに置換した変異型TAGリパーゼ遺伝子を、ゲノミックDNAを用いたPCR反応によって調製し、シャトルベクターpPICZaAのBamHI-XhoI部位に挿入して、変異型TAGリパーゼ遺伝子発現ベクターを調製した。このベクターで酵母(Pichia pastoris)を形質転換して酵母のゲノム内に組み込んだ。形質転換酵母から変異型TAGリパーゼを抽出及び精製し、オリーブ油又は米油を基質として30℃で12時間反応させた。リパーゼ活性は、WAKO non-esterified fatty acids (NEFA) C-Test kitを用いて測定した遊離脂肪酸量を定量して評価した。陽性対照として野生型TAGリパーゼを、また陰性対照として100℃で5分間熱処理した野生型TAGリパーゼを用いた。結果を図7に示す。TAG#6系統の変異型TAGリパーゼは、熱処理によって失活した野生型TAGリパーゼと同程度のTAGリパーゼ活性しか認められなかった。この結果から、本発明で分離、同定されたOs02g0286200タンパク質がイネTAGリパーゼであり、TAG#6系統の変異型TAGリパーゼではその活性が欠失していることが立証された。
(7)TAGリパーゼ変異イネにおける変異型TAGリパーゼの活性評価(II)
イネ野生型Os02g0286200及びその変異型TAG#6系統を用いてTAGリパーゼ活性が低下していることを検証した。
イネ野生型Os02g0286200及びその変異型TAG#6系統の玄米を搗精し、糠を得た。前記(1)に記載の方法に準じて糠を脱脂した後に、タンパク質を抽出した。その後、硫安を添加して20%飽和として、試料をブチルセファロースカラムにかけた。次に、段階的に硫安飽和度を低下させてタンパク質を溶出した。Os02g0286200遺伝子に関して野生型(日本晴)と変異型(TAG#6)のタンパク質をクロマトグラフィーにより分離し、溶出した画分のリパーゼ活性を検証した。
図8に結果を示す。ピークA及びピークBの2つの画分が得られた。ピークAについては野生型と変異型で差が認められなかったが、ピークBでは、野生型と比較して変異型ではリパーゼ活性が低下していることが明らかになった。この結果から、ピークBにOs02g0286200 TAGリパーゼが含まれており、変異型TAG#6系統では、確かにその活性がイネ野生型と比較して低下していることが立証された。
<実施例2:イネOs02g0286200 TAGリパーゼの基質特異性>
(目的)
実施例1で得られたイネOs02g0286200 TAGリパーゼの基質特異性について検証する。
(方法)
2〜10μgのイネ野生型及び変異型Os02g0286200 TAGリパーゼ、並びにコムギ野生型胚芽リパーゼを基質(4MUO、α−ナフチル酢酸、トリブチレン及び米油)と反応させ、その分解活性を検証した。
4MUO測定:4MUO(4メチルウンベリフェリルオレート:4-methylumbelliferyl oleate)は、オレイン酸と4メチルウンベリフェリル(4-MU)がエステル結合したもので、一般にリパーゼ活性を評価する簡易基質として用いられる。そこで、1mM 4MUOを基質として、各リパーゼを30℃で1時間反応させた。HClとクエン酸ナトリウムを加えて反応停止後、蛍光光度計を用いて4-MU量を励起波長345nm、測定波長375nmで測定し、定量・評価した。
α−ナフチル酢酸測定:α−ナフチル酢酸(α-Naphthyl acetate)は、いわゆるエステラーゼ活性を測定するための基質である。1mM α−ナフチル酢酸を基質として、各リパーゼを30℃で1時間反応させた後、反応停止液(1M酢酸バッファー、0.05% Fast Garnet GBC、10% Tween 20)を加えて反応停止後、分光光度計を用いて(525nm)分解されたエステルの値を測定した。
トリブチレン測定:トリブチレンは、グリセロールに酪酸がエステル結合で3つ結合した基質である。5%トリブチレンを基質として、30℃で1時間反応させた。遊離脂肪酸測定用キット(WAKO トリグリセライドテストキット;和光純薬)を用いて反応停止と呈色反応後、分光光度計を用いて540nmにて遊離脂肪酸値を測定した。
米油測定:6%の米油を基質として、30℃で1時間反応させた。WAKO NEFA C-テストキットを用いて反応停止と呈色反応後、分光光度計を用いて550nmにて遊離脂肪酸値を測定した。対照用リパーゼとしてコムギ胚芽由来の野生型リパーゼ(SIGMA TypeI)を用いた。
(結果)
表2に結果を示す。この表では、イネ野生型Os02g0286200 TAGリパーゼの単位量当たりの酵素活性を1としたときの各リパーゼにおける比活性を示している。イネ野生型Os02g0286200は、米油を分解するTAGリパーゼ活性を有するのに対して、実施例1で得られたイネ変異型Os02g0286200 TAGリパーゼであるTAG#6系統及びコムギ野生型胚芽リパーゼには、TAGリパーゼ活性がほとんど認められなかった。
一方、α−ナフチル酢酸を分解するエステラーゼ活性は、コムギ野生型胚芽リパーゼでは高かったのに対して、イネ野生型Os02g0286200及びその変異型TAG#6系統では、ほとんど認められず、小麦野生型胚芽リパーゼの活性の1.5%程度であった。この結果から、実施例1で分離したイネOs02g0286200は、エステラーゼではなく、TAGリパーゼであることが再確認された。
また、トリブチレンを分解する活性に関しては、イネ野生型Os02g0286200の活性と比較し、その変異型TAG#6系統の活性は1.5倍程度であった。変異型酵素においては、脂肪酸鎖が短い場合はエステル結合を切断すると考えられるが、炭素数が16や18のように脂肪酸鎖が長い場合は切断しないと考えられる。
Figure 2015192662
<実施例3:イネOs02g0286200 TAGリパーゼの酵素化学的特性>
(目的)
実施例1で得られたイネOs02g0286200 TAGリパーゼの酵素化学的特性について検証する。
(方法)
米油又は6%トリオレインに1.5%アラビアガムを加えて超音波処理をしたエマルジョンを基質に実施例1で得られたイネOs02g0286200 TAGリパーゼ画分を加えて混合した反応溶液をインキュベート後に、米油から遊離脂肪酸を生成する酵素反応活性(リパーゼ活性)を、非エステル結合型脂肪酸キットNEFA C-テスト ワコー(WAKO)を用いて計測した。
至適pHについては、MES緩衝液とTris緩衝液を用いて、所定のpHの干渉液を調製し、各pH条件での酵素反応活性を測定した。
至適温度については、20、25、30、40及び50℃の各温度下で20分間インキュベートした後に、酵素反応活性を測定した。
タンパク質量とリパーゼ活性は、活性反応系でイネOs02g0286200 TAGリパーゼを0〜2.0mg/mLの量で添加した時の酵素反応活性を測定した。
(結果)
図9に結果を示す。Aは至適pHを、Bは至適温度を、そしてCはタンパク質量とリパーゼ活性を示している。
Aより、至適pHは、7.5で、酸性(<pH6.0)又はアルカリ性(>pH9.0)で急激に酵素活性が失われることが明らかになった。
Bより、至適温度は、20〜30℃の範囲であり、それ以上の温度では失活することが明らかになった。
Cより、TAGリパーゼ量を増やすと、それに対応して遊離脂肪酸量が増大することが明らかになった。すなわち、TAGリパーゼの量依存的効果が認められた。

Claims (14)

  1. (a)配列番号1に示すアミノ酸配列、
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
    (c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
    からなるトリアシルグリセロールリパーゼにおいて、該トリアシルグリセロールリパーゼの活性が欠失した又は抑制された変異型トリアシルグリセロールリパーゼをコードする変異遺伝子を有する植物。
  2. 前記変異型トリアシルグリセロールリパーゼが
    (i)前記(a)の配列番号1に示すアミノ酸配列において52位のバリン、160位のグリシン、162位のセリン、164位のグリシン、168位のアラニン、179位のグリシン及び247位のトレオニンのいずれか一以上のアミノ酸が欠失又は置換された変異、又は
    (ii)前記(b)若しくは(c)に示すアミノ酸配列において(i)に示すアミノ酸に相当するアミノ酸が欠失又は置換された変異
    を少なくとも有する、請求項1に記載の植物。
  3. 前記(i)に示す164位のグリシン、又は
    前記(ii)に示す164位のグリシンに相当するグリシン
    がセリンに置換されている、請求項2に記載の植物。
  4. 配列番号1に示すアミノ酸配列からなるトリアシルグリセロールリパーゼをコードする遺伝子が配列番号2に示す塩基配列からなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の植物。
  5. 前記変異遺伝子が配列番号2に示す塩基配列において490位のグアニンからアデニンへの置換に基づく、請求項4に記載の植物。
  6. (a)配列番号1に示すアミノ酸配列、
    (b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、又は
    (c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
    からなるトリアシルグリセロールリパーゼをコードする遺伝子の発現が抑制された植物。
  7. 前記遺伝子の発現が前記遺伝子産物を標的とするRNA干渉、アンチセンス核酸、核酸酵素又はU1アダプターによって抑制される、請求項6に記載の植物。
  8. 前記RNA干渉がsiRNA又はshRNAを用いる、請求項7に記載の植物。
  9. 前記siRNA又はshRNAをコードするDNAを発現可能な状態で包含する発現ベクターを含む、請求項8に記載の植物。
  10. 前記植物がイネ科植物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の植物。
  11. 前記イネ科植物がイネである、請求項10に記載の植物。
  12. 請求項1〜11に記載の植物、その後代又はその交雑体由来の種子又は果実。
  13. 請求項12に記載の種子、果実、又はその一部から得られる植物油。
  14. 植物がイネであり、米糠及び/又は胚芽から得られる、請求項13に記載の植物油。
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