JP2015183212A - 鉄基焼結材およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】合金成分量の少ない低合金鋼粉を用いつつも、著しく高い靱性(衝撃値)と高強度を両立し得る低コストな鉄基焼結材を提供する。
【解決手段】本発明の鉄基焼結材は、Moを含みCrを実質的に含まないベース鉄粉とCrを含む強化粉末と炭素源粉末とを少なくとも含む混合粉末を加圧成形した成形体を焼結して得られた焼結体からなる鉄基焼結材である。本発明の鉄基焼結材は、全体を100質量%としたときに、Mo:0.1〜1.5%、Cr:0.01〜2.5%、C:0.2〜1%を含み、ベイナイト相からなる基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織からなることを特徴とする。特に、原料粉末の配合組成や粒度等を制御することにより、微細なベイナイト相からなる基地中に、島状のマルテンサイト相が分散した島状複合組織からなる高靱性で高強度な鉄基焼結材が得られる。
【選択図】図22B

Description

本発明は、優れた靱性(衝撃値)と十分な強度を発揮し得る低コストな鉄基焼結材とその製造方法に関する。
製造コストを削減するために、鉄(Fe)を主成分とする原料粉末(混合粉末)の成形体を焼結させた素材または部材(以下単に「鉄基焼結材」という。)が利用される。この鉄基焼結材は最終形状に近いため、機械加工の削減や歩留りの向上等によって製造コストを低減し得る。
ところで鉄基焼結材は、通常、その特性向上を図るため、ベースとなる鉄系粉(ベース鉄粉)に、種々の合金元素を含む粉末(強化粉末)を配合した混合粉末を成形、焼結させて製造される。このような強化粉末として、例えば、強度を向上させる銅(Cu)粉、靱性を向上させるニッケル(Ni)粉等がこれまで多用されてきた。
しかし、Cuは鉄系スクラップのリサイクル性を阻害し、Niはアレルギー性元素であるため、それらの粉末の使用は抑制される方が好ましい。そこで、Cu粉やNi粉の使用を抑制しつつも、所望特性を確保するために、種々のベース鉄粉や強化粉末を用いた鉄基焼結材が提案されており、例えば、それに関連した記載が下記の特許文献にある。
特許第3853362号公報 特開2010−133016号公報 特開2010−280957号公報 特許第5114233号公報
特許文献1は、Fe−Mo粉にFe−Mn−Si粉とGr粉を配合した原料粉末(鉄基粉末)を提案している。特許文献2〜4は、Fe−Mo−Cr粉(ベース鉄粉)に種々の強化粉末を配合した原料粉末から製造した鉄基焼結合金を提案している。なお、特許文献4には、マルテンサイト相の基地中にベイナイト相が断面面積率で2〜20%存在した混合組織からなる鉄基焼結合金は高靱性である旨の記載がある。しかし、特許文献4中の表3〜表5を観ると明らかなように、各試料の衝撃値は高々20J/cm に過ぎない。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、Ni等を含有させるまでもなく、合金成分の含有量を全体的に抑制しつつ、十分な高強度と従来よりも遙かに高い靱性(高衝撃値)が得られる鉄基焼結材と、その製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、従来のようにCrを含むCr系鉄粉ではなく、Crを含まないMo系鉄粉からなるベース鉄粉に、Crを含む強化粉末を別途配合することにより、高強度であると共に非常に高いシャルピー衝撃値(単に「衝撃値」ともいう。)を発揮する鉄基焼結材が得られることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《鉄基焼結材》
(1)本発明の鉄基焼結合金は、モリブデン(Mo)を含みクロム(Cr)を実質的に含まないベース鉄粉とCrを含む強化粉末と炭素源粉末とからなる混合粉末を、加圧成形した成形体の焼結体からなる鉄基焼結材であって、前記焼結体全体を100質量%(単に「%」ともいう。)としたときに、Mo:0.1〜1.5%、Cr:0.01〜2.5%、C:0.2〜1%を含み、ベイナイト相からなる基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織からなることを特徴とする。
(2)本発明の鉄基焼結材は、ベイナイト相からなる基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織からなり、非常に優れた高強度と高靱性を発揮する。しかも本発明の鉄基焼結材では、CuやNi等を用いる必要がないことは勿論、合金元素であるCrやMo等の含有量を低く抑えることができるため、低コスト化も図られる。
ところで、本発明の鉄基焼結材がそのような優れた特性を発揮する理由は必ずしも定かではないが、現状では次のように考えられる。鉄基焼結材中に含まれるMoやCrは、その焼入性を向上させる重要な元素である。このため従来は、CrおよびMoを共に含む鉄系粉末(適宜、「Cr−Mo系鉄粉」という。)が主たる鉄源粉末(ベース鉄粉)として多用されてきた。しかし、Cr−Mo系鉄粉をベース鉄粉とした鉄基焼結材は、高強度であっても、その衝撃値は高々20J/cm程度であり、さらなる高靱性化を達成することは困難であった。特に、このような傾向は、焼結温度を一般的な温度範囲(1150℃前後)とする場合に顕著であった。
この理由として、次のようなことが考えられる。Cr−Mo系鉄粉は、その粒子表面に存在するCrの周囲に、不動態皮膜に類似したような強固なCr酸化物が少なくとも部分的に存在している。このようなCr酸化物は一般的な焼結温度では還元、分解等されず、焼結中も粒子表面に微細に残存して、各粉末粒子間の結合(ネック形成)を阻害したり、その後の破壊起点となったりし得る。こうして、Cr−Mo系鉄粉をベース鉄粉とした従来の鉄基焼結材では、高強度化は可能でも、高靱性化を図るには限界があった。
これに対して本発明の鉄基焼結材では、主たる原料粉末であるベース鉄粉中にCrが実質的に含まれていないため、主たる粉末粒子の表面に分解困難なCr酸化物等が存在することはない。また、その粉末粒子の表面に存在する酸化物(Mo系酸化物またはFe系酸化物)等は、一般的な焼結温度で比較的容易に分解または還元等される。その結果、本発明の鉄基焼結材では、焼結される粒子間に酸化物が残存したりせず、粒子間のネック形成が阻害されたり、ネック間に存在する酸化物が破壊起点となったりすることも殆ど無い。
また本発明の鉄基焼結材では、Crを含む強化粉末がベース鉄粉とは別に配合されているため、その強化粉末の粒子が存在する部分がCr濃化部となり、そのCr濃化部付近にマルテンサイト相が分散的に形成され得る。こうして本発明の鉄基焼結材は、基地が高靱性なベイナイト相からなり、その基地中に高硬度なマルテンサイト相が分散した複合組織となる。本発明の鉄基焼結材は、上述したような事情が相乗的に作用して、一般的な温度範囲で焼結させた場合でも、従来と同等以上の高強度を発揮すると共に、従来よりも遙かに優れた高靱性を発揮するようになったと考えられる。
《鉄基焼結材の製造方法》
本発明は、次のような鉄基焼結材の製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、Moを含みCrを実質的に含まないベース鉄粉とCrを含む強化粉末と炭素源粉末とから少なくともなる混合粉末を金型へ充填して加圧成形した成形体を得る成形工程と、該成形体を酸化防止雰囲気で焼結させた焼結体を得る焼結工程とを備え、上述した鉄基焼結材が得られることを特徴とする鉄基焼結材の製造方法でもよい。
《その他》
(1)本明細書でいう粉末の粒度は、粉末粒子の平均粒径により特定される。この「平均粒径」は、レーザー回折式粒度分布測定器による粒度分布測定により特定される。
その他、特に断らない場合は、粉末の粒度を篩い分けにより特定する。例えば、公称目開きがaμmの篩いを通過した粒子からなる粉末は、粒度を「−aμm」として表す。なお、篩いを用いた分級に関してはJIS Z 8801に準拠する。
(2)本明細書中でいう各粉末や鉄基焼結材は、適宜、Fe、C、Mo、Cr以外の改質元素や不可避不純物を含み得る。鉄基焼結材の特性改善(強度、靱性、延性、寸法安定性等の向上)に有効な改質元素として、後述するMn、Siの他、V、Co、Ti、Nb、W、P等がある。なお、このような改質元素は、通常、MoやCrに対して少量である。
なお、本発明でいうベース鉄粉が「Crを実質的に含まない」場合には、Crが不純物程度に含まれる場合の他、本発明に係る複合組織や靱性向上に悪影響を及ぼさない程度にCrが微量(ベース鉄粉全体に対して0.1%以下程度)含まれる場合も含まれる。
(3)本発明の鉄基焼結材は、その形態を問わず、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、最終製品またはそれに近い部材であっても良い。つまり本発明の鉄基焼結材には、鉄基焼結合金の他、鉄基焼結部材も含まれる。
(4)本発明の鉄基焼結材が発揮する強度や靱性等の機械的特性は、各原料粉末の組成や形態、成形圧力、焼結条件(温度、時間、雰囲気等)等により異なるため、一概に特定することは困難である。敢ていうなら、本発明の鉄基焼結材は、強度(引張強さ)が800MPa以上、900MPa以上さらには1000MPa以上であると好ましい。また、その靱性(衝撃値)は、30J/cm以上、40J/cm以上さらには45J/cm以上であると好ましい。
(5)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
引張試験片の形状を示す正面図と右側面図である。 強化粉末であるFe−Cr粉中のCr量と引張強さの関係を示す棒グラフである。 そのCr量とシャルピー衝撃値の関係を示す棒グラフである。 そのCr量が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 FeMSC粉を配合しないときにおける各Fe−Cr粉の配合量と引張強さの関係を示すグラフである。 FeMSC粉を配合するときにおける各Fe−Cr粉の配合量と引張強さの関係を示すグラフである。 FeMSC粉を配合しないときにおける各Fe−Cr粉の配合量とシャルピー衝撃値の関係を示すグラフである。 FeMSC粉を配合するときにおける各Fe−Cr粉の配合量とシャルピー衝撃値の関係を示すグラフである。 FeMSC粉を配合せずFe−13%Cr粉の配合量を変化させた各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 FeMSC粉を配合してFe−13%Cr粉の配合量を変化させた各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 ベース鉄粉であるFe−Mo粉中のMo量と引張強さの関係を示す棒グラフである。 そのMo量と衝撃値の関係を示す棒グラフである。 そのMo量が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 ベース鉄粉中におけるCrの有無と引張強さの関係を示す棒グラフである。 そのCrの有無と衝撃値の関係を示す棒グラフである。 そのCrの有無が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 FeMSC粉の配合量と引張強さまたは衝撃値との関係を示すグラフである。 そのFeMSC粉の配合量が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 Gr粉の配合量と引張強さまたは衝撃値との関係を示すグラフである。 そのGr粉の配合量が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 Fe−Cr粉の平均粒径と引張強さの関係を示す棒グラフである。 Fe−Cr粉の平均粒径と衝撃値の関係を示す棒グラフである。 その平均粒径が異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 焼結温度と引張強さまたは衝撃値との関係を示すグラフである。 焼結温度の異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 冷却速度と引張強さまたは衝撃値との関係を示すグラフである。 冷却速度の異なる各試料の金属組織を示す顕微鏡写真である。 焼結体密度と引張強さの関係を示すグラフである。 焼結体密度と衝撃値の関係を示すグラフである。 マルテンサイト面積率と引張強さの関係を示す分散図である。 マルテンサイト面積率と衝撃値の関係を示す分散図である。
本明細書で説明する内容は、本発明の鉄基焼結材のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《鉄基焼結材》
(1)必須元素
本発明に係る鉄基焼結材は、Fe以外にMo、CrおよびCを必須元素とする。Moはベース鉄粉から主に供給され、鉄基焼結材となる焼結体全体(または混合粉末全体)を100%として0.1〜1.5%さらには0.2〜1.2%さらには0.3〜1%含まれていると好ましい。Crは強化粉末から主に供給され、焼結体全体を100%として0.01〜2.5%、0.1〜1.5%さらには0.2〜0.7%含まれていると好ましい。
MoとCrは、焼結体の焼入性を高め、鉄基焼結材の強度および靱性を向上させる元素である。これらの元素が過少または過多になると、所望する特性や複合組織が得られない。特にCrが過少では鉄基焼結材中のマルテンサイト相も過少となって、その高強度化が図れない。Crが過多になると、逆にベイナイト相が過少となりマルテンサイト相がネットワーク状に形成された金属組織となり易く、鉄基焼結材の高靱性化が図れない。
Cは炭素源粉末から主に供給され、焼結体全体を100%として0.2〜1%、0.4〜0.8%さらには0.5〜0.7%含まれていると好ましい。CがFe中に固溶したりセメンタイト(FeC)として析出することにより、鉄基焼結材中にベイナイト相とマルテンサイト相からなる金属組織が形成される。Cが過少ではマルテンサイト相も過少となり鉄基焼結材の高強度化が図れない。Cが過多になると、逆にベイナイト相が過少となりマルテンサイト相がネットワーク状に形成され易くなり、鉄基焼結材の高靱性化を図れない。
(2)強化元素
本発明に係る鉄基焼結材は、上述した必須元素以外に、例えば、Mn、Siを含有すると好ましい。なお、このような強化元素は、ベース鉄粉やCrを含む粉末とは別な粉末として主に供給されると、Mn等が均質的に分散した金属組織が得られて好ましい。
Mnは、焼結体全体を100%として0.2〜1.5%さらに0.4〜1%含まれると好ましい。Mnは、MoやCrと同様に焼入性を促進して、鉄基焼結材の強度や靱性を向上させる元素である。Mnが過少ではその効果が乏しく、Mnが過多になると鉄基焼結材の強度や靱性が低下し得る。
Siは、焼結体全体を100%として0.05〜0.5%さらに0.1〜0.3%含まれると好ましい。Siは脱酸剤として作用し、延性や靱性を向上させる元素であり、これが過少ではその効果が乏しく、過多では脆化を引き起こし強度低下を招き得る。
なお、MnやSiは、Oとの親和力が極めて高く、ベース鉄粉の粒子表面に付着した酸素を酸化物として取り込む酸素ゲッタとして機能し、粗大残留気孔が焼結体内部に形成されることを抑制し得る。さらにMnやSiは、鋼の基本元素であり比較的安価に入手可能な元素でもあり、鉄基焼結材のリサイクル性を阻害することもない。このようにMnやSiは鉄基焼結材の強化元素(または改質元素)として好適である。
(3)金属組織
本発明の鉄基焼結材は、ベイナイト相からなる基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織からなる。所望の強度および靱性が得られる限り、ベイナイト相とマルテンサイト相の存在割合、析出形態等は問わない。もっとも、その複合組織が、ベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が孤立した島状に点在している島状複合組織であると、鉄基焼結材の高強度化と共に著しい高靱性化も図れて好ましい。
本発明では、マルテンサイト相の割合は必ずしも問わないが、マルテンサイト相が過多になると、靱性が低下し得る。そこで本発明に係る複合組織は、組織全面に対するマルテンサイト相の合計面積の割合であるマルテンサイト面積率が5〜45%さらには10〜40%であると好ましい。なお、マルテンサイト面積率は、金属組織を顕微鏡で観察して得られた画像(写真)を解析して、マルテンサイト相の占有面積を算出することにより求まる。
ちなみに、マルテンサイト面積率が小さいほど島状複合組織が形成され易い。そしてマルテンサイト面積率が上記の範囲内にあると、概ね、鉄基焼結材の金属組織は島状複合組織になると考えることができる。なお、マルテンサイト相の形状や大きさは問わない。例えば、マルテンサイト相は針状、粒状または板状等でもよい。ベイナイト相もその形態を問わず、いわゆる上部ベイナイト(羽毛状ベイナイト)でも、下部ベイナイト(針状ベイナイト)でもよい。
《原料粉末》
本発明に係る焼結体は、少なくともベース鉄粉と強化粉末と炭素源粉末を所望組成に配合した混合粉末の成形体を焼結してなる。
ベース鉄粉は、Moを含みCrを実質的に含まない限り、一種類の粉末でも複数種の粉末でもよい。例えば、ベース鉄粉は、Mo:0.1〜3%(さらには0.2〜2%)と残部:FeからなるMo系鉄粉であると好ましい。なお、ここでいう組成割合はMo系鉄粉全体を100%としたときの割合である。
このような低合金粉末を用いることにより、鉄基焼結材の高靱性化と共に低コスト化も図れる。なお、ベース鉄粉の粒度は問わないが、鉄基焼結材の高強度化または高靱性化を図る観点から、−180μm、−165μmさらには−150μmであると好ましい。
強化粉末も、Crを含む限り、一種類の粉末でも複数種の粉末でもよい。例えば、強化粉末は、Cr:0.5〜25%(さらには1〜20%)と残部:FeからなるCr系鉄粉であると好ましい。なお、ここでいう組成割合もCr系鉄粉全体を100%としたときの割合である。
このような強化粉末を、上述したベース鉄粉とは別に用いることにより、マルテンサイト相が均質的に分散した島状複合組織が得られ易くなり、ひいては鉄基焼結材の高強度化と共に著しい高靱性化が図られる。なお、強化粉末の粒度は問わないが、その粒度が過小になると靱性の低下を招き、過大になると強度の低下を招き得る。そこでCr系鉄粉は、例えば、平均粒径が5〜65μmさらには8〜20μmであると好ましい。
また鉄基焼結材がMnまたはSiを含む場合、強化粉末として、FeとMnとケイ素(Si)の合金粉(「FeMS粉」という。)またはFeとMnとSiとCの合金粉(「FeMSC粉」という。)が用いられると好ましい。FeMS粉またはFeMSC粉は、MnやSiの単体よりも、さらにOとの親和力が高く酸化物生成自由エネルギーも低い。しかも、MnやSiの単体よりも安価に入手可能である。FeMS粉またはFeMSC粉は、その全体を100%として、例えば、Mn:15〜75%、Si:15〜75%(SiとMnとの合計:35〜95%)、残部:Feであるとよい。また、それらの粉末の粒径は、例えば、10μm以下であると好ましい。なお、FeMS合金(化合物)または粉FeMSC合金(化合物)は微粉砕が容易である。
《製造方法》
(1)成形工程
成形工程は、上述した混合粉末を加圧成形して成形体を得る工程である。成形圧力は問わないが、例えば、350〜1200MPaさらには600〜900MPaの範囲とすると良い。成形工程は、冷間成形(室温成形)でも温間成形でも良い。また、混合粉末と金型との潤滑は、内部潤滑剤を混合粉末に配合して行ってもよいし、金型潤滑により行ってもよい。金型潤滑を行う場合、金型潤滑温間加圧成形法(詳細は特許3309970号公報等を参照)を用いると好ましい。
(2)焼結工程
焼結工程は、成形体を加熱して焼結体を得る工程である。焼結温度および焼結時間は、鉄基焼結材の所望特性、生産性等を考慮して適宜選択されるが、それらが過大ではエネルギーコストが増大し、それらが過小では機械的特性の確保が困難となる。焼結温度は、例えば、1050℃〜1300℃、1100〜1250℃さらには1120〜1170℃とすると好ましい。本発明の場合、ベース鉄粉にCrが含まれないため、一般的な焼結温度でも十分に高強度化と高靱性化の両立を図ることができる。焼結時間(焼結温度を保持する時間)は、例えば、0.1〜3時間さらには0.1〜1時間であると好ましい。なお、焼結工程は、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気等の酸化防止雰囲気でなされると好ましい。
(3)冷却工程(焼入工程)
本発明に係る複合組織を得るには、少なくともA変態点(さらにはA3c変態点)以上に加熱されてオーステナイト化した焼結体の冷却速度が重要となる。冷却速度が過小ではマルテンサイト相が形成されず高強度化を図れない。冷却速度が過大ではマルテンサイト相が過多となり高靱性化を図れない。そこで900℃から300℃まで加熱された焼結体を冷却する際に、その平均冷却速度を10〜80℃/分さらには40〜60℃/分とすると、高強度化と高靱性化を高次元で両立した鉄基焼結材が得られて好ましい。このような冷却工程(焼入工程)は、上述した焼結工程と独立して別途行うことも可能であるが、焼結工程の一部として行うと効率的である。つまり焼結時の加熱によりオーステナイト化している焼結体を、そのまま上記の冷却速度で冷却すると好ましい。
さらに、冷却工程後の焼結体には、適宜、170〜230℃に加熱する低温焼戻工程が施されると好ましい。これにより、冷却工程により導入された歪みが除去されると共にさらなる高靱性化が図られる。なお、本発明に係る複合組織は、上述した冷却中に形成されてもよいし、その後に施される焼戻(低温焼戻または高温焼戻)により形成されてもよい。
《鉄基焼結材》
本発明の鉄基焼結材は、その用途を問わないが、例えば、各種プーリー、変速機のシンクロハブ、エンジンのコンロッド、ハブスリーブ、スプロケット、リングギヤ、パーキングギヤ、ピニオンギヤ、サンギヤ、ドライブギヤ、ドリブンギヤ、リダクションギヤ等の素材や製品に用いることができる。なお本発明の鉄基焼結材は、要求仕様に応じて、他の熱処理(焼鈍、焼準、時効、調質、浸炭、窒化等)が適宜施されてもよい。
原料粉末の種類(組成、粒度等)、配合組成、成形条件、焼結条件、熱処理条件(冷却速度等)等を種々変更した多数の試料(鉄基焼結材)を製作すると共に、各試料の測定、組織観察および評価を行った。こうして得られた多くの知見に基づいて、以下、本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
(1)原料粉末
原料粉末として、ベース鉄粉と、炭素源粉末である黒鉛(Gr)粉(日本黒鉛社製天然黒鉛J−CPB/平均粒径:5μm)と、強化粉末であるCr系鉄粉およびFeMSC粉とを用意した。
ベース鉄粉には、表1に示すように、純鉄粉と、Mo量の異なる4種のFe−Mo粉(Mo系鉄粉)と、CrとMoを含有したFe−Cr−Mo粉とを用意した。各ベース鉄粉は、いずれも、目開き150μmの篩いを用いて粒度:150μm以下(適宜「−150μm」と表す。)に分級して用いた。
Cr系鉄粉には、表2に示すように、Cr量または平均粒径の異なる7種のFe−Cr粉(Cr系鉄粉)を用意した。FeMSC粉には、Fe−69%Mn−20%Si−1.1%Cの合金(化合物)を粉砕して分級したもの(平均粒径:1μm)を用意した。なお、本明細書では、特に断らない限り、組成に関する「%」は質量%を意味し、平均粒径は上述したようにして求めた。
(2)混合粉末
表3Aと表3B(適宜、両者を併せて「表3」という。)に示す割合(配合量)で各原料粉末を秤量し、それをボールミルで30分間回転混合して均一な混合粉末を調製した(混合工程)。
(3)成形工程
キャビティ形状の異なる3種の金型を用意して、前述した金型潤滑温間加圧成形法により各混合粉末を加圧成形した。この際、金型はバンドヒータにより150℃(成形温度)に加熱した。この加熱した金型の内周面には、水に分散させた1%の溶液ステアリン酸リチウム(LiSt)溶液(高級脂肪酸系潤滑剤)を塗布した。成形圧力は表3に示すように392〜980MPaの範囲で調整した。その他、金型潤滑温間加圧成形法に関しては、特許3309970号公報等の記載を参照にした。
こうして、円柱状の計測用試験片(φ23×10mm)、図1に示す平板状の引張試験片(概形55×20×3mm)および角柱状のシャルピー衝撃試験片(10×10×55mm、ノッチ無し)となる3種の成形体を得た。
(4)焼結工程
バッチ式焼結炉(島津メクテム株式会社製PVSGgr20/20)を用いて、100%窒素ガス雰囲気中で各成形体を焼結した。焼結温度は表3に示すように1100〜1250℃の範囲で調整した。その焼結温度を保持する均熱保持時間は30分間とした。
この焼結に続けて加熱状態の焼結体を、炉冷による徐冷または冷却ファンを用いた強制冷却により急冷した。表3に示す焼結後の900℃から300℃までの平均冷却速度は、炉冷が5℃/分(0.083℃/秒)、急冷が50℃/分(0.83℃/秒)または100℃/分(1.66℃/秒)であった(冷却工程)。
(5)焼戻工程
冷却後の各焼結体を、再度、大気雰囲気中で200℃×60分間加熱して、低温焼戻しを行った。
《測定・観察》
(1)密度、密度変化、寸法変化、
各試料に係る計測用試験片を用いて、焼結前後の寸法および重量を測定し、成形体の密度(G.D.)、焼結体の(嵩)密度(S.D.)、焼結前後の密度変化率(Δρ)、焼結前後の寸法変化率(ΔD)を算出した。なお、変化率は、焼結後の数値から焼結前の数値値を引いた差分を、焼結前の数値で除して求めた。こうして得られた結果を表4Aと表4B(適宜、両者を併せて「表4」という。)にまとめて示した。
(2)引張強さ、破断伸び、硬さおよび衝撃値
各試料に係る焼結後の引張試験片を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所)で引張試験を行い、各試験片が破断するまでの強度(引張強さ)と伸びを測定した。このときの試験速度は1.2mm/minとした。また、各引張試験片のチャック部のビッカース硬さを30kgfで測定した。さらに、各試料に係る焼結後のシャルピー衝撃試験片を用いて、シャルピー衝撃試験機(30kg・m)により各試験片の衝撃値を測定した。こうして得られた結果を表4にまとめて示した。
(3)組織観察
各試料の金属組織を、光学顕微鏡を用いて400倍で観察した。各金属組織中にあるマルテンサイト相の割合(マルテンサイト面積率)は,画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング株式会社製A像君)を用いて算出した。得られた結果を表4に併せて示した。なお、各試料の金属組織の観察には、上述した衝撃試験片から採取した切断片を樹脂に埋め込み、その表面を鏡面研磨後、3%ナイタールで数十秒間腐食させて得られた標本を用いた。
《評価》
表3および表4に示すように、各試料の製造条件と特性を試料群1〜9に分類して整理した。これら各試料群ごとに、各試料の特徴を以下に説明する。
[試料群1](Fe−Cr粉の影響)
(1)Cr量の影響
原料粉末の配合組成を、Cr量の異なるFe−Cr粉:2%または0%(無配合)、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉(ベース鉄粉)とした各試料について、引張強さとシャルピー衝撃値(単に「衝撃値」ともいう。)をそれぞれ図2Aと図2Bに示した。
先ず図2Aからわかるように、引張強さは、Fe−Cr粉中のCr量が3%から13%へ変化するとき(鉄基焼結材全体(単に「試料全体」という。)ではCr量が0.06%から0.26%へ変化するとき)に大きく増加して1000MPaを超えている。次に図2Bからわかるように、衝撃値はあまり変化せず、いずれの試料でも50J/cm超という著しく高くなった。
これら各試料の金属組織を図3に示した。いずれの金属組織も、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織を示すことがわかった。このような金属組織が、各試料の高靱性化に大きく寄与していると考えられる。なお、図3および表4に示したマルテンサイト面積率からわかるように、Fe−Cr粉中のCr量が3%から13%へ変化するとき、ベイナイト相が減少してマルテンサイト相が大幅に増加している。このような金属組織の変化が、強度向上に影響していると考えられる。
(2)FeMSC粉とFe−Cr粉の相関
FeMSC粉を無配合または1%配合とし、Fe−Cr粉の種類と配合量を変化させた各試料について、引張強さを図4A(FeMSC粉:0%)および図4B(FeMSC粉:1%)に、衝撃値を図5A(FeMSC粉:0%)および図5B(FeMSC粉:1%)にそれぞれ示した。なお、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉(ベース鉄粉)は前述した場合と同様である。
先ず、図4Aおよび図4Bから、いずれのFe−Cr粉を用いても、その配合量の増加と共に引張強さも増加する傾向を示すことがわかった。但し、FeMSC粉を1%含む場合、図4Bからわかるように、Fe−13%Cr粉またはFe−18%Cr粉の配合量が4〜6%(試料全体ではいうとCr:0.5%〜1.1%)となるとき、引張強さはピークを示した。
次に、図5Aおよび図5Bから、FeMSC粉の配合の有無やFe−Cr粉の組成に拘わらず、Fe−Cr粉を1〜2%配合した試料(試料全体でいうとCr:0.03%〜0.4%の試料)で衝撃値はピークを示した。なお、強化粉末としてFe−3%Cr粉を用いた場合、配合量の増加と共に引張強さは直線的に増加して高強度化し、衝撃値は殆ど低下せずに高靱性を維持した状態となることがわかった。特にFeMSC粉が配合されると、高強度化と高靱性化が高次元で両立されることがわかる。
さらに、FeMSC粉を無配合または1%配合したときに、Fe−13%Cr粉の配合量を変化させた各試料の金属組織を、図6A(FeMSC粉:0%)および図6B(FeMSC粉:1%)にそれぞれ示した。FeMSC粉が無配合の場合、Fe−13%Cr粉の配合量が0%であると(つまり強化粉末が無配合のとき)、金属組織はベイナイト単相となり、マルテンサイト相は認められなかった。但し、Fe−13%Cr粉の配合量の増加と共に、ベイナイト相(基地)の微細化とマルテンサイト相の増加が進行する傾向が観られた。
逆にFeMSC粉を1%配合したとき、Fe−13%Cr粉の配合量が0%でも、島状複合組織が観察された。この島状複合組織は、Fe−13%Cr粉の配合量の増加と共に、微細なベイナイト相が減少してマルテンサイト相が増加する傾向となった。なお、Fe−13%Cr粉の配合量が5%(試料全体でいうとCr:0.65%)以上になると、ベイナイト相が島状化し、マルテンサイト相がネットワーク化したネットワーク状複合組織が生じた。
[試料群2](ベース鉄粉中のMo量の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:ベース鉄粉とした各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ図7Aと図7Bに示した。
先ず図7Aからわかるように、引張強さは、ベース鉄粉中のMo量が増加するほど大きくなり、Fe−0.85%Mo粉を用いたとき(試料全体でいうとMo:0.8%となるとき)に引張強さが1000MPa超となった。次に図7Bからわかるように、衝撃値は、Fe−0.5%Mo粉またはFe−0.85%Mo粉をベース鉄粉としたときにピークとなった。具体的にいうと、それらのとき、純鉄粉をベース鉄粉としたときと同様に衝撃値が50J/cm超となり靱性が著しく高くなった。
これら各試料の金属組織を図8に示した。ベース鉄粉が純鉄粉のとき(Moを含まないとき)、微細パーライトと少量のフェライトからなる複合組織となった。Mo量の増加と共にベイナイト相(基地)の微細化とマルテンサイト相の増加が進行する傾向が観られた。そしてベース鉄粉中のMo量が0.85%までのときは微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織が観察された。しかし、ベース鉄粉中のMo量が1.5%になると、逆にベイナイト相が島状化し、マルテンサイト相がネットワーク化したネットワーク状複合組織が観察されるようになった。図7Bからわかるように、Fe−1.5%Mo粉をベース鉄粉としたときに衝撃値が急減しているのは、このような組織変化が生じたためと考えられる。
[試料群3](ベース鉄粉中のCr量の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:0%(無配合)または2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉またはFe−1.5%Cr−0.2%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ図9Aと図9Bに示した。
図9AからCrを含有したベース鉄粉を用いることにより引張強さが向上する一方、図9BからCrを含有したベース鉄粉を用いることにより衝撃値が30J/cm 以下に急減することがわかる。なお、両図から、それらの傾向はFe−Cr粉の配合の有無とはあまり関係がないこともわかる。
それら各試料の金属組織を図10に示した。いずれの金属組織も、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織を示した。図9Bと図10の比較から、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分散した島状複合組織が得られる場合でも、ベース鉄粉の化学成分(特にCr含有の有無)によって,鉄基焼結材の靱性(衝撃値)が大きく変化することがわかる。この理由として、ベース鉄粉にCrが含有されている場合、1150℃程度の焼結温度では、その粉末粒子表面に存在する酸化膜等が焼結時に十分に還元等されず、粒子間に酸化物として残存し、各粒子間の焼結ネックの形成が不十分となったか、またはその酸化物が破壊起点となったことが考えられる。
[試料群4](FeMSC粉の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:x%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値を図11に示した。また、それら各試料の金属組織を図12に示した。
図11から、引張強さは、FeMSC粉の配合量が1.5%(試料全体でいうとMn:1.1%、Si:0.3%)付近でピークとなり、それ以降は横ばい傾向となることがわかった。また衝撃値は、FeMSC粉の配合量が0.5%(試料全体でいうとMn:0.3%、Si:0.1%)付近でピークとなり、それ以降は急激に低下した。
図12から、FeMSC粉が無配合(0%)の場合、金属組織はベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が極少量点在する島状複合組織となることがわかった。またFeMSC粉の配合量が増加するほど、そのベイナイト相が微細化されると共にマルテンサイト相が増加した島状複合組織となることがわかった。
これらの結果から、FeMSC粉の配合量は0.5〜1.5%(試料全体でいうと、Mn:0.3〜1.1%またはSi:0.1〜0.3%)とすると、強度と靱性を高次元で両立し得ることがわかった。
[試料群5](Gr粉の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:x%、残部:Fe−0.85%Mo粉とした各試料について、引張強さと衝撃値を図13に示した。また、それら各試料の金属組織を図14に示した。
図13から、引張強さは、Gr粉の配合量が0.7%(試料全体でもほぼ同様)付近でピークとなり、それ以降は横ばい傾向となることがわかった。また衝撃値は、Gr粉の配合量の増加と共に単調減少した。但し、Gr粉を0.8%配合した試料でも、衝撃値は40J/cm程度もあった。
図14から、Gr粉が0.4%の場合、金属組織はベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が少量点在する島状複合組織となることがわかった。またGr粉の配合量が増加するほど、そのベイナイト相が微細化されると共にマルテンサイト相が増加した島状複合組織となることがわかった。
これらの結果から、特に、Gr粉の配合量を0.5〜0.7%(試料全体でも同様)とすると、強度と靱性を高次元で両立し得ることがわかる。
[試料群6](Fe−Cr粉の粒度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、そのFe−13%Cr粉の粒度(平均粒径)を種々変更した各試料について、引張強さと衝撃値をそれぞれ図15Aと図15Bに示した。また、それら各試料の金属組織を図16に示した。
図15Aから、引張強さは、Fe−Cr粉の粒度が大きくなるほど緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。図15Bから、衝撃値は、Fe−Cr粉の平均粒径が10μm付近であるときにピークとなり、それ以降は緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。但し、いずれの試料でも、引張強さは1000MPa以上で、衝撃値も45J/cm 以上であり、強度と靱性が十分に高次元で両立されているといえる。
図16から、いずれの試料の金属組織も、ベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織となることがわかった。但し、Fe−Cr粉の平均粒径が4μmの試料は、他の試料よりもマルテンサイト面積率が遙かに大きく、マルテンサイト相がネットワーク状に分布した金属組織となることがわかった。もっとも、Fe−Cr粉の平均粒径が10μm以上になると、微細なベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が島状に分布した島状複合組織となることもわかった。そして、Fe−Cr粉の平均粒径が大きくなるほど、島状のマルテンサイト相の大きさも大きくなる傾向にあった。
[試料群7](焼結温度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、焼結温度を種々変更した各試料の引張強さと衝撃値を図17に示した。また、それら各試料の金属組織を図18に示した。
図17からわかるように、引張強さは、焼結温度が1100℃のときに最大となり、焼結温度が大きくなるほど低下した。また衝撃値は、焼結温度が1150℃のときにピークとなり、焼結温度が大きくなると緩やかに低下する傾向を示した。
図18からわかるように、焼結温度を1100℃とした試料の金属組織は、マルテンサイト相中に微細なベイナイト相が分散した複合組織となった。しかし、焼結温度が上昇すると、マルテンサイト相が減少して、逆に、微細なベイナイト相の基地中に島状のマルテンサイト相が分散した島状複合組織となることがわかった。
[試料群8](冷却速度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、焼結後の冷却速度を種々変更した各試料の引張強さと衝撃値を図19に示した。また、それら各試料の金属組織を図20に示した。
図19からわかるように、冷却速度が大きくなるほど、引張強さは増大し、逆に衝撃値は減少する傾向となった。また図20からわかるように、冷却速度が5℃/分の試料の金属組織は、ベイナイト相の基地中にマルテンサイト相が僅かに分散した島状複合組織となった。しかし、冷却速度の増加と共にマルテンサイト面積率も増加し、冷却速度が100℃/分の試料の金属組織では、ベイナイト相の微細化とマルテンサイト相のネットワーク化が進行した複合組織となることがわかった。
[試料群9](成形圧力(成形体密度)・焼結体密度の影響)
原料粉末の配合組成をFe−13%Cr粉:0%(無配合)または2%、FeMSC粉:1%、Gr粉:0.6%、残部:Fe−0.85%Mo粉とし、成形圧力を変更して種々の焼結体密度からなる各試料の引張強さと衝撃値をそれぞれ図21Aと図21Bに示した。
これらからわかるように、高密度成形して焼結体密度が高い試料ほど、引張強さおよび衝撃値は大きくなることが確認された。また、Fe−13%Cr粉を含む試料の方が、全体的に引張強さおよび衝撃値が高くなることも確認された。
[マルテンサイト面積率の影響]
表4に示した各試料の特性に基づいて、マルテンサイト面積率と、引張強さまたは衝撃値との関係を、それぞれ図22Aと図22Bにまとめて示した。なお、成形圧力が784MPaでない試料と、ベース鉄粉がFe−1.5%Cr−0.2%Mo粉の試料については、図22Aおよび図22Bにプロットしなかった。同系統のベース鉄粉(Mo系鉄粉)を用いており密度も同レベルである試料について、マルテンサイト面積率と引張強さまたは衝撃値との関係を表すためである。
図22Aからわかるように、引張強さは、マルテンサイト面積率が40〜60%となる付近でピークとなり、それ以降は緩やかに低下する傾向を示すことがわかった。また図22Bからわかるように、衝撃値は、マルテンサイト面積率の増加と共に減少する傾向を示すことがわかった。但し、マルテンサイト面積率が50%以内さらには40%以内であると、その減少傾向が緩やかになることもわかった。これらから、マルテンサイト面積率を5〜50%さらには10〜40%とすると、強度と靱性を著しく高い次元で両立できることが明らかとなった。

Claims (13)

  1. モリブデン(Mo)を含みクロム(Cr)を実質的に含まないベース鉄粉とCrを含む強化粉末と炭素源粉末とからなる混合粉末を加圧成形した成形体の焼結体からなる鉄基焼結材であって、
    前記焼結体全体を100質量%(単に「%」ともいう。)としたときに、Mo:0.1〜1.5%、Cr:0.01〜2.5%、C:0.2〜1%を含み、
    ベイナイト相からなる基地中にマルテンサイト相が分散した複合組織からなることを特徴とする鉄基焼結材。
  2. 前記複合組織は、前記ベイナイト相の基地中に前記マルテンサイト相が孤立した島状に点在している島状複合組織である請求項1に記載の鉄基焼結材。
  3. 前記複合組織は、組織全面に対する前記マルテンサイト相の合計面積の割合であるマルテンサイト面積率が5〜45%である請求項1または2に記載の鉄基焼結材。
  4. 前記強化粉末は、さらにマンガン(Mn)を含み、
    前記焼結体全体を100%としたときに、Mn:0.2〜1.5%である請求項1〜3のいずれかに記載の鉄基焼結材。
  5. Moを含みCrを実質的に含まないベース鉄粉とCrを含む強化粉末と炭素源粉末とからなる混合粉末を金型へ充填して加圧成形した成形体を得る成形工程と、
    該成形体を酸化防止雰囲気で焼結させた焼結体を得る焼結工程とを備え、
    請求項1〜4のいずれかに記載の鉄基焼結材が得られることを特徴とする鉄基焼結材の製造方法。
  6. 前記ベース鉄粉の少なくとも一種は、Mo:0.1〜3%と残部:FeからなるMo系鉄粉である請求項5に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  7. 前記強化粉末の少なくとも一種は、Cr:0.5〜25%と残部:FeからなるCr系鉄粉である請求項5に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  8. 前記Cr系鉄粉は、平均粒径が5〜65μmである請求項7に記載の鉄基焼結材。
  9. 前記強化粉末の少なくとも一種は、FeとMnとケイ素(Si)の合金粉(「FeMS粉」という。)またはFeとMnとSiとCの合金粉(「FeMSC粉」という。)である請求項5に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  10. 前記焼結工程は、焼結温度を1120〜1170℃とする工程である請求項5に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  11. 前記焼結工程は、前記焼結温度を保持する時間である焼結時間を0.1〜1時間とする工程である請求項10に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  12. 前記焼結工程は、900℃から300℃まで10〜80℃/分の平均冷却速度で前記焼結体を冷却する冷却工程を含む請求項5または10に記載の鉄基焼結材の製造方法。
  13. さらに、前記焼結体を170〜230℃に加熱する低温焼戻工程を備える請求項5または12に記載の鉄基焼結材の製造方法。
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