<金属の回収方法>
本発明の金属の回収方法は、前述のように、検体と金属に対するキレート剤とを含む混合液中で、前記検体中の金属と前記キレート剤との錯体を形成させる錯体形成工程と、前記混合液を濾過して前記錯体を回収することにより、前記検体中の金属を回収する金属回収工程とを含み、前記金属回収工程において、無機塩の共存下、前記混合液を濾過することを特徴とする。本発明の金属の回収方法は、前記金属回収工程において、前記無機塩の共存下で前記混合液を濾過することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。
本発明の回収方法によれば、前述のように、前記混合液を濾過する際に前記無機塩を共存させることで、前記錯体の回収漏れを抑制できる。これは、濾過に供する前記混合液に前記無機塩を共存させることで、前記錯体の凝集塊が大きくなり、その結果、濾材からの前記錯体の漏れが抑制されると推測される。また、本発明の回収方法によれば、例えば、前記錯体の凝集塊が大きくなることから、ポアサイズが相対的に大きいフィルターが使用可能となる。さらに、本発明の回収方法によれば、メカニズムは不明であるが、前記無機塩を共存させることで、例えば、前記混合液で発生する泡立ちを抑制でき、取扱性が向上するため、金属回収の自動化にも適している。
本発明の回収方法において、回収目的の金属は、特に制限されない。前記金属は、例えば、Bi(ビスマス)、Hg(水銀)、Cd(カドミウム)、Pd(パラジウム)、Zn(亜鉛)、Tl(タリウム)、Ag(銀)、Pb(鉛)等の重金属、その他にも、As(ヒ素)、Al(アルミニウム)等の金属があげられる。前記検体中の前記金属の形態は、特に制限されず、例えば、金属の単体でもよいし、金属の合金でもよいし、金属含有化合物でもよい。前記金属含有化合物は、例えば、金属を含む有機化合物でもよいし、金属を含む無機化合物でもよい。前記金属がHgの場合、例えば、有機水銀でもよいし、無機水銀でもよい。本発明の回収方法において、回収目的の金属は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上でもよい。本発明の回収方法は、例えば、前記検体から、一回の回収処理で、二種類以上の金属を同時に回収することもできる。
本発明の回収方法を適用する前記検体は、特に制限されない。前記検体は、例えば、生体由来の検体、環境由来の検体、化学物質、医薬品等があげられる。前記化学物質は、例えば、試薬、農薬または化粧品等があげられる。前記生体由来の検体は、特に制限されず、尿、血液、毛髪、臍帯等があげられる。前記血液検体は、例えば、赤血球、全血、血清、血漿等があげられる。これらの中でも、尿検体が好ましい。前記環境由来の検体は、特に制限されず、例えば、生物、食品、水、土壌、大気・空気等があげられる。前記生物検体は、特に制限されず、例えば、魚介類等の動物または植物等があげられる。前記食品検体は、特に制限されず、例えば、生鮮食品または加工食品等があげられる。前記水は、特に制限されず、例えば、飲料水、地下水、河川水、海水、生活排水等があげられる。
前記検体における金属の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜1000μg/Lの範囲であり、好ましくは0.1〜200μg/Lの範囲であり、より好ましくは0.1〜100μg/Lの範囲である。
前記検体は、例えば、取り扱いが容易であることから、液状の検体(液体検体)が好ましい。前記検体は、例えば、前記検体の未希釈液をそのまま液体検体として使用してもよいし、前記検体を媒体に、懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用してもよい。前記検体が固体の場合、例えば、前記検体を前記媒体に懸濁、分散または溶解した希釈液を液体検体として使用してもよい。前記媒体を、以下、希釈媒体という。前記希釈媒体は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液等があげられる。前記緩衝液は、特に制限されず、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、各種のグッド緩衝液等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
本発明の回収方法に使用する前記無機塩は、特に制限されず、例えば、塩化物、硫酸塩があげられる。本発明の回収方法において、前記無機塩は、例えば、一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記塩化物は、特に制限されず、例えば、金属塩化物等があげられる。前記金属塩化物における金属は、特に制限されず、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等があげられ、前記アルカリ金属は、例えば、Li(リチウム)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)、Fr(フランシウム)等、前記アルカリ土類金属は、例えば、Be(ベリリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)、Ra(ラジウム)等があげられる。前記金属塩化物の具体例は、例えば、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、塩化フランシウム、塩化ベリリウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化ラジウム等があげられる。
前記硫酸塩は、特に制限されず、例えば、金属硫酸塩、硫酸アンモニウム等があげられる。前記金属は、特に制限されず、例えば、前述の金属塩化物の金属の記載を援用できる。前記金属硫酸塩の具体例は、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸マグネシウム、硫酸ベリリウム等があげられる。
前記錯体形成工程において、前記キレート剤は、例えば、硫黄含有基を含むキレート剤であることが好ましい。前記硫黄含有基は、硫黄原子を含む官能基である。前記硫黄含有基は、例えば、チオケトン基が好ましい。前記チオケトン基は、特に制限されず、例えば、チオカルバゾン基、チオセミカルバゾン基、チオカルバジアゾン基、チオ尿素基、チオセミカルバジド基およびルベアメート基があげられる。本発明の回収方法において、前記キレート剤は、例えば、一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記キレート剤は、例えば、下記構造式(4)で表されるキレート剤が好ましい。
前記構造式(4)において、R1およびR2は、それぞれ、フェニル基を表す。すなわち、前記構造式(4)で表されるキレート剤は、チオカルバゾン基を含むキレート剤であり、1,5−ジフェニル−3−チオカルバゾン(ジチゾン)である。前記構造式(4)は、例えば、塩でもよい。
前記フェニル基は、例えば、水素が、置換されてもよい。置換される場合、前記水素は、例えば、ハロゲン、ナトリウムおよびカリウム等のアルカリ金属等に置換されてもよい。
前記錯体形成工程において、前記キレート剤は、前述のように、硫黄含有基を含むキレート剤が好ましい。前記硫黄含有基は、例えば、チオケトン基があげられ、前記チオケトン基を含むキレート剤は、例えば、チオカルバゾン基、チオセミカルバゾン基、チオカルバジアゾン基、チオ尿素基、チオセミカルバジド基およびルベアメート基からなる群から選択された少なくとも一つの基を含むキレート剤があげられる。前記キレート剤の具体例としては、例えば、以下のようなものが例示できる。本発明において、これらのキレート剤は、例示であって、本発明はこれらの記載に何ら制限されない。
(a1)チオカルバゾン基を含むキレート剤
例えば、1,5−ジ(2−ナフチル)チオカルバゾン
(a2)チオセミカルバゾン基を含むキレート剤
例えば、アセトンチオセミカルバゾン、アセトフェノンチオセミカルバゾン
(a3)チオカルバジアゾン基を含むキレート剤
例えば、ジフェニルチオカルバジアゾン
(a4)チオ尿素基を含むキレート剤
例えば、1−アセチル−2−チオ尿素、グアニルチオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジイソプロピルチオ尿素、N,N’−ジブチルチオ尿素、1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、N−アリル−N’−(2−ヒドロキシエチル)チオ尿素、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)チオ尿素、ジアセチルチオ尿素、フェニルチオ尿素、N,N’−ジフェニルチオ尿素、モノ−o−トリルチオ尿素、N,N’−ジ−o−トリルチオ尿素、ベンゾイルチオ尿素
(a5)チオセミカルバジド基を含むキレート剤
例えば、フェニルチオセミカルバジド、4−フェニルチオセミカルバジド、4−メチルチオセミカルバジド、チオセミカルバジド
(a6)ルベアメート基を含むキレート剤
例えば、ジチオオキサミド(ルベアン酸)
前記錯体形成工程において、前記混合液が、さらにマスキング剤を含んでもよい。本発明において、「マスキング」は、SH基の反応性を不活性にすることを意味し、例えば、SH基の化学修飾により行うことができる。前記マスキング剤は、特に制限されず、例えば、公知のものが使用でき、いわゆるSH阻害剤も含まれる。前記化学修飾は、特に制限されず、例えば、アルキル化、活性二重結合への付加、アリル化、ジスルフィドとの交換反応、酸化、シアン化、メルカプチド化等があげられる。
前記マスキング剤は、例えば、下記構造式(1)〜(3)からなる群から選択された少なくとも一つの構造式で表わされる化合物が使用できる。下記構造式(1)〜(3)で表わされる化合物は、例えば、いずれか一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記構造式(1)において、Rは、例えば、水素、アルキル基、フェニル基またはベンジル基を表す。前記構造式(2)において、Rは、例えば、水素、アルキル基、フェニル基またはベンジル基を表し、Xは、ハロゲンを表す。前記構造式(3)において、Rは、例えば、水素、アルキル基、フェニル基またはベンジル基を表し、Xは、ハロゲンを表す。
前記アルキル基は、特に制限されず、例えば、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基、または芳香族アルキル基があげられる。前記アルキル基の炭素数は、例えば、1〜7であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは2である。前記直鎖状または分枝状のアルキル基は、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ぺンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル等があげられる。前記アルキル基は、例えば、水素が、置換されてもよいし、未置換でもよい。
前記フェニル基、ベンジル基は、例えば、水素が、置換されてもよいし、未置換でもよい。前記ハロゲンは、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等があげられる。
前記構造式(1)で表わされるマスキング剤は、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、マレイミドプロピオン酸等があげられ、好ましくはN−エチルマレイミドである。前記構造式(1)で表わされる化合物は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記構造式(2)で表わされるマスキング剤は、例えば、ヨードアセトアミド等のハロゲンアセトアミド等があげられ、好ましくはヨードアセトアミドである。前記構造式(2)で表わされる化合物は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記構造式(3)で表わされるマスキング剤は、例えば、ヨード酢酸等のハロゲン酢酸等があげられ、好ましくはヨード酢酸である。前記構造式(3)で表わされる化合物は、例えば、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
前記錯体形成工程において、前記検体および前記キレート剤の添加順序は、特に制限されない。本発明の回収方法において、前記無機塩は、例えば、前記錯体形成工程において、予め前記混合液に混合してもよいし、前記錯体形成工程の後、前記混合液の濾過に先だって、前記混合液に混合してもよい。前者の場合、前記検体、前記キレート剤および前記無機塩の添加順序は、特に制限されず、具体例として、例えば、前記検体と前記キレート剤とを混合した後、さらに前記無機塩を混合してもよいし、前記検体と前記無機塩とを混合した後、さらに前記キレート剤を混合してもよいし、前記検体と前記キレート剤と前記無機塩とを同時に混合してもよい。後者の場合、前記検体と前記キレート剤とを混合して、前記混合液中で錯体を形成した後、さらに、前記無機塩を混合して、前記金属回収工程に、前記混合液を供してもよい。
前記錯体形成工程において、前記マスキング剤の添加順序は、特に制限されない。具体的には、前記検体と前記キレート剤とを混合する前または後に、前記マスキング剤を混合してもよいし、前記検体と前記キレート剤とを混合する時に、前記マスキング剤を同時に混合してもよい。
前記錯体形成工程において、前記混合液の組成比は、特に制限されない。前記混合液における前記検体の割合(v/v%)は、特に制限されず、例えば、50%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。前記混合液において、未希釈の検体の割合が、前記範囲であることが好ましい。
前記混合液における前記無機塩の濃度は、特に制限されず、例えば、0mol/Lを超え、8mol/L以下の範囲であり、好ましくは1mol/L以上、8mol/L以下の範囲、2mol/L以上、8mol/L以下の範囲であり、より好ましくは3mol/L以上、8mol/L以下の範囲である。前記無機塩の濃度は、一種類の無機塩の濃度でもよいし、二種類上の無機塩の濃度の合計の濃度でもよい。
前記混合液において、前記無機塩と前記検体との混合割合は、特に制限されず、前記検体1mLに対して、前記無機塩は、例えば、0mmolを超え、8mmol以下の範囲であり、好ましくは1mmol以上、8mmol以下の範囲、2mmol以上、8mmol以下の範囲であり、より好ましくは3mmol以上、8mmol以下の範囲である。
前記混合液における前記キレート剤の濃度は、特に制限されず、例えば、0.0025〜0.3mg/mLの範囲であり、好ましくは0.005〜0.3mg/mLの範囲であり、より好ましくは0.005〜0.1mg/mLの範囲である。前記キレート剤の濃度は、一種類のキレート剤の濃度でもよいし、二種類上のキレート剤の濃度の合計の濃度でもよい。
前記混合液において、前記キレート剤と前記検体との混合割合は、特に制限されず、例えば、前記検体1mLに対して、前記キレート剤は、0.0025〜0.3mgの範囲であり、好ましくは0.005〜0.3mgの範囲であり、より好ましくは0.005〜0.1mgの範囲である。
前記混合液における前記マスキング剤の濃度は、特に制限されず、例えば、0.5〜30mg/mLの範囲であり、好ましくは0.5〜20mg/mLの範囲であり、より好ましくは0.5〜10mg/mLの範囲である。前記マスキング剤の濃度は、一種類のマスキング剤の濃度でもよいし、二種類上のマスキング剤の濃度の合計の濃度でもよい。
前記混合液において、前記マスキング剤と前記検体との混合割合は、特に制限されず、例えば、前記検体1mLに対して、前記マスキング剤は、0.5〜30mgの範囲であり、好ましくは0.5〜20mgの範囲であり、より好ましくは0.5〜10mgの範囲である。
本発明においては、例えば、前記金属回収工程において回収した前記錯体を、金属としてもよいし、回収した前記錯体からさらに前記キレート剤を除去して、前記金属を単離してもよい。後者の場合、前記金属回収工程は、前記混合液を濾過して前記錯体を回収する錯体回収工程と、前記錯体から前記金属を単離する金属単離工程とを含んでもよい。
前記金属回収工程において、前記濾過に用いる濾材は、特に制限されず、例えば、空隙を有する濾材であり、好ましくはフィルターである。前記フィルターの種類は、特に制限されず、例えば、濾紙、織布、不織布、多孔質体、メッシュ等があげられる。前記フィルターの材質は、特に制限されず、例えば、ガラス、ポリマー、セルロース等があげられる。前記フィルターは、例えば、ガラス繊維濾紙等のガラス製フィルター、ポリマー性多孔質体等のポリマー性フィルター、セルロース等の濾紙等があげられる。前記ガラス製フィルターは、特に制限されず、例えば、Standard14(GEヘルスケアジャパン社製)、GF/D(GEヘルスケアジャパン社製)、GF/B(GEヘルスケアジャパン社製)等があげられる。前記ポリマー製フィルターは、特に制限されず、例えば、FC−1006(日本バイリーン社製)、OR−125(日本バイリーン社製)等があげられる。
前記金属回収工程において、前記濾過に使用する前記濾材の種類および数は、特に制限されない。前記濾材の種類は、例えば、一種類を使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記濾材の数は、例えば、一枚を使用してもよいし、二枚以上を併用してもよい。
前記濾材の空隙の大きさは、特に制限されない。前記空隙は、例えば、前記濾材の種類に応じて、ポアサイズ、粒子保持能、目開き、目付等ということもできる。前記ポアサイズは、特に制限されず、例えば、1〜90μmの範囲であり、好ましくは1〜50μmの範囲であり、より好ましくは1〜30μmの範囲である。前記粒子保持能は、フィルターを通過しようとする全粒子のうち98%を保持できる粒子サイズのことを意味し、例えば、1〜90μmの範囲であり、好ましくは1〜50μmの範囲であり、より好ましくは1〜30μmの範囲である。前記目開きの大きさは、特に制限されず、例えば、0.001〜0.09mmであり、好ましくは0.001〜0.05mmであり、より好ましくは0.001〜0.03mmである。
例えば、前記無機塩非存在下の濾過において、1〜90μmの空隙の濾材を使用することで、前記錯体の漏れが生じる検体であっても、本発明によれば、前記範囲の空隙の濾材であっても、前記錯体の漏れを防止できる。また、この範囲の空隙の濾材であれば、例えば、この範囲よりも小さい空隙の濾材を使用する場合と比較して、目詰まりをさらに防止できる。
前記濾材の空隙の大きさの測定方法は、特に制限されず、例えば、前記濾材の種類に応じた公知の測定方法が採用でき、例えば、バブルポイント測定法により測定できる。
以下に、本発明の回収方法について、例をあげて説明するが、本発明は、これらの実施形態には制限されない。
(1)第1実施形態
第1実施形態の回収方法は、前記キレート剤として前記構造式(4)で表わされるキレート剤を使用し、前記無機塩の存在下、前記混合液を濾過して、前記錯体を回収することにより、前記金属を回収する例である。
本実施形態の回収方法は、前記錯体形成工程が、下記(1A)工程を含み、前記金属回収工程が、下記(1B)工程、ならびに任意で(1C)工程および(1D)工程を含む。
(1A)前記キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記検体と前記キレート剤との混合液を調製し、前記混合液中で、前記検体中の金属と前記キレート剤との錯体を形成する錯体形成工程
(1B)前記無機塩の存在下、前記混合液から濾過により前記錯体を回収する錯体回収工程
(1C)アルカリ性条件下で、回収した前記錯体を水性媒体に溶解する錯体溶解工程
(1D)前記錯体から前記金属を単離する金属単離工程
本実施形態によれば、前述のように、前記錯体の回収漏れを抑制できるだけでなく、pH条件の違いによる、水性媒体に対する前記キレート剤の溶解性の差異を利用することにより、実質的に有機媒体を使用することなく、簡便に金属を回収できる。
(1A)錯体形成工程
前記錯体形成工程は、前記キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記検体と前記キレート剤との混合液を調製し、前記混合液中で、前記検体中の金属と前記キレート剤との錯体を形成する。以下、「前記キレート剤が水性媒体に不溶化可能な前記pH条件」を、「不溶化pH条件」ともいう。
前記キレート剤は、前記不溶化pH条件下において、前記混合液に非溶解の状態を維持できる。このため、前記検体中に金属が存在する場合、前記混合液において、前記キレート剤と前記検体中の前記金属とが錯体を形成する。前記キレート剤は、前記混合液において、例えば、全てが溶解していない状態であることが好ましいが、一部の前記キレート剤が溶解した状態でもよい。後者の場合、例えば、一部のキレート剤が溶解しても、前記金属と錯体を形成可能な量のキレート剤が、溶解しない状態で前記混合液中に存在していればよい。
前記錯体形成工程において、前記不溶化pH条件は、特に制限されない。前記不溶化pH条件は、例えば、酸性条件(pH5以下)、中性条件(pH6〜7)、アルカリ性条件(pH7を超え8以下)があげられる。前記不溶化pH条件は、その上限が、例えば、pH8であり、好ましくはpH6.8、より好ましくはpH4、さらに好ましくはpH3、特に好ましくはpH2である。前記不溶化pH条件の下限は、特に制限されず、例えば、pH1が好ましい。前記不溶化pH条件は、例えば、使用する前記キレート剤の種類に応じて適宜設定できる。
前記検体と前記キレート剤とを含む前記混合液は、実質的に水性媒体であればよい。前記水性媒体は、非有機媒体であり、いわゆる水性の液体を意味する。「実質的に水性媒体である」は、例えば、完全な水性媒体の他に、微量の有機媒体(いわゆる、有機溶媒)を含む水性媒体でもよいことを意味する。
前記検体と混合する際、前記キレート剤の形状は、特に制限されず、例えば、乾燥状態(または固体状態ともいう)でもよいし、液体状態でもよい。後者の場合、前記キレート剤は、前記キレート剤が溶解しない非有機媒体に分散されている、前記キレート剤の分散液であることが好ましい。以下、前記キレート剤を分散させる前記非有機媒体を、「分散媒」という。前記分散媒は、例えば、前記不溶化pH条件の非有機媒体(水性媒体)である。前記不溶化pH条件が酸性条件の場合、前記分散媒は、例えば、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液があげられる。前記不溶化pH条件がアルカリ性条件の場合、前記分散媒は、例えば、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液があげられる。前記不溶化pH条件が中性条件の場合、前記分散媒は、例えば、水、中性の水溶液、前記中性条件の緩衝液、その他に、前述した、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液等があげられる。
前記酸は、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、ホウ酸、リン酸、クエン酸等があげられる。前記酸の水溶液は、例えば、酸を水または緩衝液で希釈したものがあげられる。酸の希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述のような一般的な緩衝液が使用できる。前記酸の水溶液において、前記酸の濃度は、特に制限されず、例えば、0Nを越え1N以下であり、好ましくは0.01〜0.1Nである。前記酸性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
前記中性の水溶液は、特に制限されず、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等があげられる。前記中性条件の緩衝液は、特に制限されない。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
前記アルカリは、特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。前記アルカリ性の水溶液は、例えば、アルカリを水または緩衝液で希釈したものがあげられる。前記アルカリの希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述の一般的な緩衝液が使用できる。前記アルカリ性の水溶液において、前記アルカリの濃度は、特に制限されず、例えば、0を超え7×10−3N以下である。前記アルカリ性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、Tris−NaOH、Tris−HCl、炭酸バッファー、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
前記検体と前記キレート剤の混合方法は、特に制限されない。前記検体と前記キレート剤は、例えば、下記(x)〜(z)等の混合方法が例示できる。
(x)予め前記不溶化pH条件に調節した前記検体と、前記キレート剤とを混合
(y)予め前記不溶化pH条件に調節した前記キレート剤と、前記検体とを混合
(z)前記不溶化pH条件の非有機媒体と、前記キレート剤および前記検体とを混合
前記(x)では、例えば、前記不溶化pH条件に調節した前記検体と、前記キレート剤とを混合することによって、前記不溶化pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記錯体を形成できる。この際、例えば、前記キレート剤との混合により調製される前記混合液が、前記不溶化pH条件となるように、前記検体のpHを調節する。
前記不溶化pH条件が酸性条件の場合、例えば、前記検体を前記酸性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記調節は、例えば、前記検体に、酸性試薬を添加することにより行える。前記酸性試薬は、例えば、酸およびその水溶液、前記酸性条件の緩衝液等があげられる。前記酸は、特に制限されず、例えば、塩酸、硫酸、クエン酸、ホウ酸、リン酸、酢酸等があげられる。前記酸の水溶液は、例えば、酸を水または緩衝液で希釈したものがあげられる。酸の希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述のような一般的な緩衝液が使用できる。前記酸の水溶液において、前記酸の濃度は、特に制限されず、例えば、0.01〜5Nである。前記酸性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
前記不溶化pH条件がアルカリ性条件の場合、例えば、前記検体を前記アルカリ性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記調節は、例えば、前記検体に、アルカリ性試薬を添加することにより行える。前記アルカリ性試薬は、例えば、前述したような、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液等があげられる。
前記不溶化pH条件が中性条件の場合、例えば、前記検体を前記中性条件に調節する方法は、特に制限されない。前記検体の本来のpH条件に応じて、例えば、前記酸性試薬、アルカリ性試薬、または、中性試薬を添加することにより行える。前記中性試薬は、例えば、前述したような、水、中性の水溶液、前記中性条件の緩衝液があげられる。
前記(y)では、例えば、前記検体と、前記不溶化pH条件に調節した前記キレート剤とを混合することによって、前記不溶化pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記錯体を形成できる。この際、例えば、前記検体との混合により調製される前記混合液が、前記不溶化pH条件となるように、前記キレート剤のpHを調節する。
前記キレート剤を前記不溶化pH条件に調節する方法は、特に制限されない。具体例としては、乾燥状態の前記キレート剤を、前記キレート剤が溶解しない非有機媒体に分散することで、前記不溶化pH条件に調節された、前記キレート剤の分散液が得られる。前記キレート剤を分散させる前記非有機媒体は、例えば、前述した分散媒が使用でき、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等と同様である。
前記乾燥状態の前記キレート剤は、例えば、非有機媒体への分散性に優れることから、凍結乾燥品または減圧乾燥品が好ましい。これらの乾燥品の製造方法は、特に制限されず、例えば、前記キレート剤を有機媒体に混合した後、凍結乾燥または減圧乾燥することによって得られる。前記有機媒体は、特に制限されず、例えば、t−ブチルアルコール、2−プロパノール等が使用できる。
前記(z)では、例えば、前記不溶化pH条件の非有機媒体と、前記キレート剤および前記検体とを混合することによって、前記不溶化pH条件の前記混合液が調製でき、前記混合液において、前記錯体を形成できる。この際、例えば、前記キレート剤および前記検体との混合により調製される前記混合液が前記不溶化pH条件となるように、前記非有機媒体のpHを調節する。
前記不溶化pH条件の非有機媒体は、例えば、前述した前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬または前記中性試薬等が使用できる。
前記キレート剤および前記検体の混合方法は、特に制限されず、例えば、転倒混和、振動、超音波等の従来の方法があげられる。
本実施形態において、前記混合液は、前記キレート剤および前記検体の他に、マスキング剤を含んでもよい。前記マスキング剤は、例えば、予め前記検体に混合してもよいし、予め前記キレート剤に混合してもよいし、予め前記非有機媒体と混合してもよいし、予め前記無機塩に混合してもよい。前記マスキング剤は、例えば、前記不溶化pH条件に調節前の前記検体および前記キレート剤のいずれかに混合してもよいし、前記不溶化pH条件に調節後の前記検体および前記キレート剤のいずれかに混合してもよいし、これらに前記無機塩を混合した後に混合してもよい。
本実施形態において、前記混合液は、さらに、その他の成分を含んでもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、酸化剤、還元剤等があげられる。前記酸化剤は、例えば、前記キレート剤と前記金属との錯体形成反応の反応性の向上に使用できる。前記還元剤は、例えば、前記混合液中に過剰量の酸化剤が含まれている場合に、前記過剰量の酸化剤の消去に使用できる。
前記錯体形成の処理条件は、特に制限されず、処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、その下限が、例えば、30秒以上であり、その上限が、例えば、60分以下であり、好ましくは30分以下であり、その範囲が、例えば、30秒〜60分であり、好ましくは30秒〜30分である。
前記混合液は、前述のように、例えば、予め前記無機塩を含んでもよいし、前記錯体形成の処理後、次工程の錯体回収工程に先だって、前記無機塩が混合されてもよい。
前者の場合、例えば、前記(x)〜(z)において、前記無機塩は、予め前記検体と混合してもよいし、予め前記キレート剤と混合してもよいし、予め前記非有機媒体と混合してもよい。前記無機塩は、例えば、前記不溶化pH条件に調節前の前記検体および前記キレート剤のいずれかに混合してもよいし、前記不溶化pH条件に調節後の前記検体および前記キレート剤のいずれかに混合してもよい。後者の場合、例えば、前記錯体形成後の混合液と無機塩とを混合してもよい。
前記無機塩の形状は、特に制限されず、例えば、乾燥状態(または固体状態ともいう)でもよいし、液体状態でもよい。後者の場合、前記無機塩の溶媒は、特に制限されず、例えば、前記非有機媒体があげられる。
(1B)錯体回収工程
前記錯体回収工程は、前記無機塩の存在下、前記混合液から濾過により前記錯体を回収する工程である。前記無機塩は、濾過の際に、前記混合液に共存していればよく、前記混合液に対する混合の条件は、例えば、前述の通りである。
前述のように、前記不溶化pH条件下において、前記キレート剤は、非溶解の状態を維持できる。このため、前記キレート剤と前記金属との錯体も、非溶解の状態で、前記混合液に存在する。そこで、この錯体回収工程において、前記混合液に存在する非溶解の前記錯体を濾過により回収する。
前記濾過の方法は、特に制限されず、例えば、濾材を用いた濾過であればよく、前記濾過後、前記濾材上の残滓を、前記錯体として回収できる。前記濾過方法は、例えば、前記濾材を用いた自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等があげられる。前記濾過に使用する濾材は、特に制限されず、例えば、前述のフィルター等があげられる。前記濾過処理の条件は、特に制限されず、例えば、前記濾材の種類等において適宜設定できる。
本実施形態においては、前述のように、前記錯体回収工程において回収した前記錯体を、金属としてもよいし、さらに、後述する任意の前記錯体溶解工程において前記錯体を溶解した錯体溶液を、前記金属としてもよいし、また、後述する任意の前記金属単離工程において、前記錯体から前記キレート剤を除去して、前記金属を単離してもよい。
(1C)錯体溶解工程
前記錯体溶解工程は、アルカリ性条件下で、前記回収した錯体を水性媒体に溶解する工程である。
前記キレート剤は、前記アルカリ性条件下において溶解する。このため、アルカリ性条件下で、前記回収した錯体を水性媒体に混合することによって、前記キレート剤を、前記錯体の状態で前記水性媒体に溶解できる。前記錯体が溶解された前記水性媒体を、錯体水溶液ともいう。前記錯体は、前記水性媒体において、例えば、全てが溶解していることが好ましいが、一部の前記錯体が非溶解の状態で残存してもよい。前記非溶解の錯体は、例えば、検出限界以下であることが好ましい。
前記錯体溶解工程において、前記アルカリ性条件は、特に制限されない。前記アルカリ性条件の下限は、例えば、pH9が好ましく、より好ましくはpH11である。前記アルカリ性条件の上限は、特に制限されず、例えば、pH12が好ましい。前記アルカリ性条件は、例えば、使用する前記キレート剤の種類によって適宜設定できる。なお、前記錯体形成工程の不溶化pH条件がアルカリ性条件の場合、前記錯体溶解工程における前記アルカリ性条件は、前者よりも高いpHであることが好ましい。
前記錯体の溶解方法は、特に制限されない。例えば、予め前記アルカリ性条件に調節した前記水性媒体を前記錯体に添加して、前記錯体を溶解させてもよいし、前記水性媒体に前記錯体を添加した後、前記混合液を前記アルカリ性条件に調節して、前記錯体を溶解させてもよい。
前記アルカリ性条件の調節方法は、特に制限されない。前記調節は、例えば、アルカリ性試薬が使用できる。前記アルカリ性試薬は、例えば、アルカリおよびその水溶液、前記アルカリ性条件の緩衝液等があげられる。前記アルカリは、特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等があげられる。前記アルカリの水溶液は、例えば、アルカリを水または緩衝液で希釈したものがあげられる。前記アルカリの希釈に使用する前記緩衝液は、特に制限されず、前述の一般的な緩衝液が使用できる。前記アルカリの水溶液において、前記アルカリの濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜1Nである。前記アルカリ性条件の緩衝液は、特に制限されず、例えば、Tris−NaOH、Tris−HCl、炭酸バッファー、グッドバッファー等があげられる。前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lである。
前記錯体および前記水性媒体の混合方法は、特に制限されず、例えば、転倒混和、振動、超音波等の従来の方法があげられる。
前記錯体に対する前記水性媒体の添加量は、特に制限されない。前記水性媒体の添加量は、例えば、回収された前記錯体を溶解できる量を添加することが好ましい。また、前記水性媒体の添加量は、例えば、前記検体の液量より少量であることが好ましい。これによって、例えば、使用した前記検体よりも高い濃度の金属含有液を得ることができる。すなわち、前記検体よりも金属が濃縮された金属含有液を得ることができる。前記水性媒体の添加量は、前記検体の液量に対して、例えば、1/2〜1/100の範囲であり、好ましくは1/10〜1/50の範囲であり、より好ましくは1/50である。
(1D)金属単離工程
前記金属単離工程は、前記錯体から前記金属を単離する工程である。前記金属単離工程は、例えば、前記(1B)工程において回収した前記錯体に対して行ってもよいし、前記(1C)工程において前記水性媒体に溶解した前記錯体に対して行ってもよい。
前記金属単離工程は、前記錯体における前記キレート剤を分解することにより、前記錯体から前記金属を単体で回収できる。前記キレート剤の分解方法は、特に制限されず、例えば、灰化等の公知の方法があげられる。前記灰化は、例えば、湿式灰化または乾式灰化があげられる。前記湿式灰化は、例えば、水銀分析マニュアル(環境省、平成16年3月)に従って行える。
以下に、本実施形態について、前記不溶化pH条件を酸性条件とし、前記キレート剤として前記ジチゾンを使用し、前記検体として尿検体を使用し、金属である水銀と前記ジチゾンとの錯体の回収を、前記無機塩存在下でのフィルター濾過によって行う方法を、例にあげて説明する。これらは一例であり、本発明を制限するものではない。
まず、前記尿検体を準備する。前記検体の量は、特に制限されず、例えば、1〜100mLの範囲であり、好ましくは1〜20mLの範囲であり、より好ましくは5〜10mLの範囲である。
つぎに、前記検体のpHを、前記酸性試薬の添加により、前記酸性条件に調節する。前記酸性試薬の添加量は、特に制限されず、前記検体1mLあたり、例えば、1〜10μLの範囲である。前記酸性試薬は、例えば、塩酸水溶液が好ましく、その規定は、例えば、1〜8Nの範囲である。
チューブに、凍結乾燥品のジチゾンを添加し、さらに、前記pH調節後の前記検体を添加する。前記ジチゾンは、前記検体1mLあたり、例えば、0.1〜0.3mgであり、好ましくは0.3mgである。この際、前記ジチゾンを添加した前記混合液のpHは、例えば、1〜4であり、好ましくは1〜2である。
調製した前記混合液を所定時間放置して、前記ジチゾンと前記尿検体中の水銀との錯体を形成させる。前記処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、その下限が、例えば、30秒以上であり、その上限が、例えば、60分以下であり、好ましくは30分以下であり、その範囲が、例えば、30秒〜60分であり、好ましくは30秒〜30分である。
前記錯体形成後の検体に、前記無機塩を混合し、所定時間静置する。前記無機塩を混合した混合液における前記無機塩の濃度は、前述の通りである。前記処理温度は、例えば、24℃であり、処理時間は、例えば、1〜10分である。なお、前述のように、前記無機塩は、前記錯体形成前に前記混合液に混合してもよい。
つぎに、前記混合液を、前記無機塩の存在下、フィルターを用いて濾過し、前記フィルター上の残渣を前記錯体として回収する。前記フィルターは、例えば、前述の通りである。
前記フィルターは、例えば、カラム等の筒状体の内部に配置して使用することが好ましい。この場合、前記筒状体の軸方向の上側から前記フィルターの上面に前記混合液を添加することで、前記混合液を濾過できる。前記濾過の方法は、特に制限されず、前述の通りであり、例えば、自然濾過が好ましい。前記フィルターおよび前記カラムの大きさは、特に制限されず、例えば、濾過に供する前記混合液の量等に応じて適宜決定できる。本実施形態の場合、前記濾材は、例えば、空隙が1〜90μmの範囲のフィルターが好ましく、具体的には、例えば、前記空隙のガラス繊維製濾紙があげられる。
このようにして、前記金属を前記錯体として回収できる。また、本実施形態では、前述のように、回収した前記錯体から、さらに前記金属を単離してもよい。
回収した前記錯体から前記金属を単離する場合、回収した前記錯体にアルカリ性試薬を添加し、前記錯体を前記アルカリ性試薬に溶解させる。
前記アルカリ性試薬の添加量は、特に制限されず、前記尿検体1mLあたり、例えば、10〜200μLの範囲であり、好ましくは20〜100μLの範囲であり、より好ましくは20μLである。前記アルカリ性試薬のpHは、例えば、9〜12であり、好ましくは11〜12である。前記アルカリ性試薬は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液が好ましく、その規定は、例えば、0.1〜1Nの範囲であり、好ましくは0.4Nである。
このようにして、錯体の状態で水性媒体に溶解した水銀を回収できる。また、前記錯体に、例えば、湿式灰化等を施すことによって、前記錯体における前記ジチゾンを分解させ、水銀を単体として回収することもできる。
(2)第2実施形態
第2実施形態の回収方法は、前記キレート剤として前記構造式(4)で表わされるキレート剤および下記構造式(5)で表わされるキレート剤を使用し、前記無機塩の存在下、前記混合液を濾過して、前記構造式(4)で表わされるキレート剤と前記金属との第1錯体を回収し、前記第1錯体由来の前記金属を、前記構造式(5)で表わされるキレート剤を含む水性媒体により回収する例である。本実施形態は、特に示さない限り、前記第1実施形態の記載を援用できる。
本実施形態において、前記構造式(4)で表わされるキレート剤を、第1キレート剤、下記構造式(5)で表わされるキレート剤を、第2キレート剤という。
前記構造式(5)で表わされる第2キレート剤は、メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)である。以下、前記第2キレート剤を、DMSAともいう。
本実施形態の回収方法は、前記錯体形成工程が、下記(2A)工程を含み、前記金属回収工程が、下記(2B)、ならびに任意で下記(2C)工程、下記(2D)工程および下記(2E)工程を含む。
(2A)前記キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で、前記検体と前記第1キレート剤との混合液を調製し、前記混合液中で、前記検体中の金属と前記第1キレート剤との第1錯体を形成させる第1錯体形成工程
(2B)前記無機塩の存在下、前記混合液から濾過により前記第1錯体を回収する第1錯体回収工程
(2C)前記第2キレート剤の水溶液が、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件下で、前記第1錯体と、前記第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成させる第2錯体形成工程
(2D)前記混合液から、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する第2錯体回収工程
(2E)前記第2錯体から前記金属を単離する金属単離工程
(2A)第1錯体形成工程
前記第1錯体形成工程は、前記第1キレート剤と検体との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1キレート剤と前記検体中の金属との第1錯体を形成する工程である。前記第1錯体形成工程において、前記混合液は、前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能なpH条件下で調製する。以下、「前記第1キレート剤が水性媒体に不溶化可能な前記pH条件」を、「第1pH条件」ともいう。前記第1pH条件は、前記第1実施形態における「不溶化pH条件」であり、本実施形態において、前記第1実施形態の記載を援用できる。
前記第1錯体形成工程(2A)は、前記第1実施形態における前記(1A)工程であり、本実施形態において、前記第1実施形態の記載を援用できる。
(2B)第1錯体回収工程
前記第1錯体回収工程は、前記無機塩の存在下、前記第1錯体形成工程における前記混合液から濾過により、前記第1錯体を回収する工程である。
前記第1錯体形成工程(2B)は、前記第1実施形態における前記(1B)工程であり、本実施形態において、前記第1実施形態の記載を援用できる。
前述のように、このように、前記第1錯体回収工程において回収した前記第1錯体を金属としてもよい。また、後述する任意の前記第2錯体形成工程において調製した第1錯体と第2キレート剤水溶液との混合液を金属としてもよいし、後述する任意の第2錯体回収工程において前記第2錯体が溶解した液体画分を金属としてもよい。また、前記第2錯体形成工程において調製した前記混合液中から前記第1キレート剤および前記第2キレート剤を除去して、前記金属を単離してもよいし、前記第2錯体回収工程における前記液体画分中から、前記第2錯体における前記第2キレート剤を除去して、前記金属を単離してもよい。
(2C)第2錯体形成工程
前記第2錯体形成工程は、前記第1錯体と、前記第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成する工程である。前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤の水溶液は、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件である。以下、「前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件」を、「第2pH条件」ともいう。
前記混合液において、前記第2キレート剤は、溶解した状態であり、前記第1錯体は、非溶解の状態を維持できる。そして、前記混合液において、前記第1錯体と前記第2キレート剤とが存在すると、メカニズムは不明であるが、前記第1錯体を形成する前記金属の全部または一部が、前記第1錯体から解離して、前記第2キレート剤と結合し、前記第2キレート剤と前記金属との前記第2錯体が形成される。
前記第2pH条件は、例えば、水性媒体に対して、前記第2キレート剤が可溶化可能であり、且つ、前記第1キレート剤が不溶化可能なpH条件である。前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤水溶液のpH条件と、前記水溶液と前記第1錯体との混合液のpH条件は、ともに、前記第2pH条件であることが好ましい。
前記第2pH条件は、例えば、非アルカリ性条件があげられ、具体的には、酸性条件(pH2〜3)、弱酸性条件(pH4〜5)、中性条件(pH6〜7)があげられる。前記第2pH条件の上限は、特に制限されず、例えば、pH6.8であり、好ましくはpH6であり、より好ましくはpH4である。前記第2pH条件の下限は、特に制限されず、例えば、pH2であり、好ましくはpH3であり、より好ましくはpH4である。前記第2pH条件は、例えば、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤の種類等により適宜設定できる。
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体に前記第2キレート剤が溶解していればよい。前記第2キレート剤は、前記水溶液において、例えば、全てが溶解している状態であることが好ましいが、一部が溶解した状態でもよい。後者の場合、前記第2キレート剤は、例えば、前記第1錯体由来の前記金属と錯体を形成可能な量が、前記水溶液に存在していればよい。
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体を前記第2pH条件に調整した後、前記第2キレート剤を溶解して調製してもよいし、水性媒体に前記第2キレート剤を添加した後、この混合液のpHを前記第2pH条件に調整して、前記第2キレート剤を溶解して調製してもよい。
前者の場合、前記第2キレート剤であるDMSAは、強酸性であることから、前記第2キレート剤を溶解する前記水性媒体は、例えば、前記アルカリ性試薬が好ましい。前記アルカリ性試薬に前記第2キレート剤を溶解することで、前記第2pH条件、好ましくは前記非アルカリ性条件の前記水溶液を調製できる。前記アルカリ性試薬のpHは、特に制限されず、下限が、例えば、8であり、好ましくは9であり、より好ましくは10であり、上限が、例えば、12であり、好ましくは11である。前記アルカリ性試薬は、特に制限されず、例えば、前記アルカリ性水溶液が好ましく、より好ましくはアルカリ性緩衝液である。前記アルカリ性水溶液は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液等があげられる。前記アルカリ性緩衝液は、例えば、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッドバッファー等があげられる。前記水溶液および前記緩衝液の濃度は、特に制限されず、例えば、10〜100mmol/Lであり、好ましくは100mmol/Lである。
後者の場合、前記水性媒体は、特に制限されず、例えば、水、水溶液、緩衝液等が使用できる。そして、例えば、前記水性媒体と前記第2キレート剤とを混合した後、前記第2pH条件に調整すればよい。前記調整方法は、特に制限されず、例えば、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等を適宜使用できる。
前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度は、特に制限されず、例えば、5〜20mg/mLであり、好ましくは10〜20mg/mLである。
前記第1錯体および前記第2キレート剤水溶液の混合方法は、特に制限されず、例えば、転倒混和、振動、超音波等の従来の方法があげられる。
前記混合液において、前記第2キレート剤水溶液の添加量は、特に制限されない。前記第1錯体形成工程で使用した前記検体1mLあたり、例えば、10〜200μLであり、好ましくは20〜100μLであり、より好ましくは20μLである。また、前記混合液において、前記第1錯体と前記第2キレート剤との添加割合は、特に制限されない。前記第1錯体形成工程で使用する前記第1キレート剤と、前記第2錯体形成工程で使用する前記第2キレート剤との割合(重量比)が、例えば、1:0.3〜1:40であり、好ましくは1:7〜1:40であり、より好ましくは1:10〜1:40である。
前記第1錯体に対する前記第2キレート剤水溶液の添加量は、特に制限されない。前記第2キレート剤水溶液の添加量は、例えば、使用した前記検体の液量より少量であることが好ましい。これによって、例えば、使用した前記検体よりも高い濃度の金属含有液を得ることができる。すなわち、前記検体よりも金属が濃縮された金属含有液を得ることができる。前記第2キレート剤水溶液の添加量は、前記検体の液量に対して、例えば、1/2〜1/100の範囲であり、好ましくは1/10〜1/50の範囲であり、より好ましくは1/50である。
前記混合液には、前記第1錯体および前記第2キレート剤水溶液の他に、その他の成分が含まれてもよい。前記他の成分は、特に制限されず、例えば、前述のような、酸化剤、還元剤等があげられる。
前記第2錯体形成の処理条件は、特に制限されず、処理温度は、例えば、室温であり、処理時間は、例えば、30秒〜10分である。
(2D)第2錯体回収工程
前記第2錯体回収工程は、前記混合液から、前記第2錯体形成工程において形成された第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、金属を回収する工程である。
前述のように、前記第2pH条件下において、前記第2キレート剤は、前記混合液に溶解した状態であるため、前記第2キレート剤と前記金属との第2錯体も、溶解した状態で前記混合液に存在する。他方、前記第1キレート剤は、前記混合液に不溶化可能な状態であるため、非溶解状態で前記混合液に存在する。そこで、この第2錯体回収工程において、前記第2錯体が溶解した液体画分を回収することで、前記金属を回収する。前記第2錯体は、前記混合液において、全てが溶解していることが好ましいが、一部の前記第2錯体が非溶解の状態でもよい。前記非溶解の第2錯体は、例えば、検出限界以下であることが好ましい。
前記錯体の回収方法は、特に制限されず、例えば、固体と液体とを分離する公知の方法が採用できる。前記回収方法は、例えば、遠心分離処理、濾過、沈殿処理、膜分離処理、吸着処理、凍結乾燥処理等の処理方法があげられる。前記回収の処理条件は、特に制限されず、例えば、回収方法、錯体の種類や量に応じて適宜設定できる。例えば、前記濾材を用いた濾過の場合、前記濾過後、前記濾材を通過した画分を、前記液体画分として回収できる。
本実施形態において、前記金属回収工程が、前記液体画分を回収した後、さらに、前記第2錯体における前記第2キレート剤を分解するキレート分解工程を含んでもよい。このように前記第2キレート剤を分解することにより、前記第2錯体から前記金属を単体で回収できる。前記第2キレート剤の分解方法は、特に制限されず、例えば、灰化等の公知の方法があげられ、前記第1実施形態の記載を援用できる。
以下に、本実施形態について、前記第1pH条件を酸性条件とし、前記第2pH条件を弱酸性〜中性条件とし、前記第1キレート剤として前記ジチゾン、前記第2キレート剤として前記DMSA、前記検体として尿検体を使用し、金属である水銀と前記ジチゾンとの第1錯体の回収を、前記無機塩存在下でのフィルター濾過によって行う方法を、例にあげて説明する。これらは一例であり、本発明を制限するものではない。
前記第1実施形態と同様にして、前記尿検体のpH調節、前記pH調節後の検体へのジチゾンの添加、ジチゾンと検体中の水銀との錯体の形成を行う。
そして、前記第1実施形態と同様にして、前記無機塩の存在下、前記混合液をフィルターを用いて濾過し、前記フィルター上の残渣を前記第1錯体として回収する。
つぎに、回収した前記第1錯体と前記DMSA水溶液とを混合する。これによって、前記第1錯体と前記DMSA水溶液との混合液において、前記第2錯体を形成させる。
前記DMSA水溶液は、例えば、前記DMSAを、アルカリ性水溶液に溶解して調製できる。前記アルカリ性水溶液は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液が好ましく、濃度は、例えば、10〜100mmol/Lであり、pHは、例えば、9〜12である。前記DMSA水溶液において、前記DMSA濃度は、例えば、5〜20mg/mLである。前記DMSA溶液のpHは、例えば、2〜6の範囲であり、好ましくは4〜6の範囲であり、より好ましくは4である。
前記第1錯体に対する前記DMSA水溶液の添加量は、特に制限されず、前記尿検体1mLあたり、例えば、10〜200μLの範囲であり、好ましくは20〜100μLの範囲であり、より好ましくは20μLである。前記第1錯体と前記DMSA溶液との混合液のpHは、例えば、2〜6の範囲であり、好ましくは4〜6の範囲であり、より好ましくは4である。
つぎに、前記混合液を遠心分離に供し、前記第2錯体が溶解した上清と沈殿とに分離し、前記上清を回収する。
このようにして、前記第2錯体の状態で液体画分に溶解した水銀を回収できる。また、前記第2錯体に、例えば、湿式灰化等を施すことによって、前記第2錯体における前記DMSAを分解させ、水銀のみを回収することもできる。なお、一例として、水銀の回収を記載したが、本発明は、これには限定されない。
(3)第3実施形態
第3実施形態は、第2キレート剤として、下記構造式(6)で表わされるキレート剤を使用し、水性媒体により金属を回収する例である。本実施形態は、特に示さない限り、前記第2実施形態の記載を援用できる。
前記構造式(6)において、
R3は、炭素数1または2のアルキル基またはアミノアルキル基を表し、または、R3を有さず、
Yは、
を表わす。
前記第2キレート剤は、例えば、下記構造式(6−1)で表わされるチオプロニン(N−(2−メルカプトプロピオニル)グリシン)、下記構造式(6−2)で表わされるDMPS(2,3−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム)、下記構造式(6−3)で表わされるシステイン(2−アミノ−3−スルファニルプロピオン酸)等があげられる。前記第2キレート剤は、例えば、前記構造式(6)を有する化合物の水和物でもよい。また、前記第2キレート剤は、その互変異性体または立体異性体でもよい。前記異性体は、例えば、幾何異性体、配座異性体等があげられる。前記第2キレート剤は、例えば、市販品を用いてもよい。前記チオプロニンは、例えば、関東化学(株)、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)等、前記DMPSは、例えば、和光純薬工業(株)等、前記システインは、例えば、ナカライテスク(株)をはじめ複数社から入手できる。前記第2キレート剤は、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
本実施形態の回収方法は、前記構造式(6)で表わす第2キレート剤を使用する以外、特に示さない限り、前記第2実施形態の記載を援用でき、具体的には、前記(2A)〜(2E)工程と同様にして行うことができる。
前記(2C)工程の第2錯体形成工程において、前記第1錯体と、前記第2キレート剤の水溶液との混合液を調製し、前記混合液中で、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤との第2錯体を形成する。
前記(2C)工程において、第2pH条件は、例えば、水性媒体に対して、前記第2キレート剤が可溶化可能であり、且つ、前記第1錯体が不溶化可能なpH条件である。前記第2錯体形成工程において、前記第2キレート剤水溶液のpH条件と、前記水溶液と前記第1錯体との混合液のpH条件は、ともに、前記第2pH条件であることが好ましい。前記混合液は、前記第1キレート剤が溶解しなければ、いかなるpHであってもよい。
前記第2pH条件は、例えば、非アルカリ性条件があげられ、具体的には、酸性条件(pH1〜3)、弱酸性条件(pH4〜5)、中性条件(pH6〜7)があげられる。前記第2pH条件の上限は、特に制限されず、例えば、pH6.8であり、好ましくはpH6であり、より好ましくはpH4である。前記第2pH条件の下限は、特に制限されず、例えば、pH4であり、好ましくはpH3であり、より好ましくはpH2であり、さらに好ましくはpH1である。前記第2pH条件は、例えば、前記第1キレート剤および前記第2キレート剤の種類等により適宜設定できる。
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体に前記第2キレート剤が溶解していればよい。前記第2キレート剤は、前記水溶液において、例えば、全てが溶解している状態であることが好ましいが、一部が溶解した状態でもよい。後者の場合、前記第2キレート剤は、例えば、前記第1錯体由来の前記金属と錯体を形成可能な量が、溶解した状態で、前記水溶液に存在していればよい。
前記第2キレート剤水溶液は、例えば、水性媒体を前記第2pH条件に調整した後、前記第2キレート剤を溶解して調製してもよいし、水性媒体に前記第2キレート剤を添加した後、この混合液のpHを前記第2pH条件に調整して、前記第2キレート剤を溶解して調製してもよい。
前者の場合、前記第2キレート剤を溶解する前記水性媒体は、特に制限されず、例えば、水、水溶液、緩衝液等が使用できる。そして、例えば、前記水性媒体を前記第2pH条件に調整した後、前記第2キレート剤を溶解すればよい。前記調整方法は、特に制限されず、例えば、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等を適宜使用できる。
後者の場合、前記水性媒体は、特に制限されず、例えば、水、水溶液、緩衝液等が使用できる。そして、例えば、前記水性媒体と前記第2キレート剤とを混合した後、前記第2pH条件に調整すればよい。前記調整方法は、特に制限されず、例えば、前記酸性試薬、前記アルカリ性試薬、前記中性試薬等を適宜使用できる。
前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度は、特に制限されず、例えば、15〜300mg/mLであり、好ましくは75〜150mg/mLである。本実施形態において、前記第2キレート剤は、特に溶解性に優れることから、前記チオプロニン、前記DMPS、前記システインが好ましい。例えば、前記第2キレート剤水溶液における前記第2キレート剤の濃度が高い程、前記第1錯体由来の金属と前記第2キレート剤とでより多くの第2錯体を形成でき、金属の回収率を向上できる。
以下に、本実施形態について、前記第1pH条件を酸性条件とし、前記第2pH条件を弱酸性〜中性条件とし、前記第1キレート剤として前記ジチゾン、前記第2キレート剤として前記DMPS、前記検体として尿検体を使用し、金属である水銀と前記ジチゾンとの第1錯体の回収を、前記無機塩存在下でのフィルター濾過によって行う方法を、例にあげて説明する。これらは一例であり、本発明を制限するものではない。
前記第1実施形態と同様にして、前記尿検体へのマスキング剤の添加、得られた検体混合液のpH調節、前記pH調節後の検体混合液へのジチゾンの添加、ジチゾンと検体中の水銀との錯体の形成を行う。
そして、前記第1実施形態と同様にして、前記無機塩の存在下、前記混合液をフィルターを用いて濾過し、前記フィルター上の残渣を前記第1錯体として回収する。
つぎに、回収した前記第1錯体と前記DMPS水溶液とを混合する。これによって、前記第1錯体と前記DMPS水溶液との混合液において、前記第2錯体を形成させる。
前記DMPS水溶液は、例えば、前記DMPSを、媒体に溶解して調製できる。前記媒体は、例えば、リン酸3ナトリウム水溶液、硝酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等があげられる。前記媒体の濃度は、例えば、10〜100mmol/Lである。前記媒体のpHは、特に制限されず、ジチゾンが溶解しない範囲であればよい。前記DMPS水溶液において、前記DMPS濃度は、例えば、5〜20mg/mLである。前記DMPS溶液のpHは、例えば、2〜6の範囲であり、好ましくは4〜6の範囲であり、より好ましくは4である。
前記第1錯体に対する前記DMPS水溶液の添加量は、特に制限されず、前記尿検体1mLあたり、例えば、10〜200μLの範囲であり、好ましくは20〜100μLの範囲であり、より好ましくは20μLである。前記第1錯体と前記DMPS水溶液との混合液のpHは、例えば、1〜6の範囲であり、好ましくは1〜3の範囲であり、より好ましくは1である。
つぎに、前記混合液を遠心分離に供し、前記第2錯体が溶解した上清と沈殿とに分離し、前記上清を回収する。
このようにして、前記第2錯体の状態で液体画分に溶解した水銀を回収できる。また、前記第2錯体に、例えば、湿式灰化等を施すことによって、前記第2錯体における前記DMPSを分解させ、水銀のみを回収することもできる。なお、一例として、水銀の回収を記載したが、本発明は、これには限定されない。また、本例では、前記第2キレート剤として前記DMPSを用いた場合を例にとったが、例えば、前記第2キレート剤として前記チオプロニン、システイン等を用いた場合にも、本例と同様にして金属を回収できる。
(4)その他の実施形態
本発明の回収方法において、任意の前記金属単離工程は、例えば、前記実施形態における水性媒体を用いた回収の他、前記錯体を、有機媒体で抽出する方法であってもよい。この場合、例えば、前記金属単離工程は、日本工業規格(JIS)K0101およびK0102等で指定されているジチゾン法(比色法)および原子吸光法に準じて行ってもよい。
<金属の分析方法>
本発明の金属の分析方法は、前述のように、本発明の金属の回収方法により、検体から金属を回収する金属回収工程、および、前記金属を分析する分析工程を含むことを特徴とする。本発明の金属の分析方法は、本発明の金属の回収方法により、検体から金属を回収する金属回収工程を含むことを特徴とし、その他の工程および条件は何ら制限されない。前記金属回収工程は、本発明の金属の回収方法を援用できる。
前記分析工程は、特に制限されず、例えば、分析目的の金属の種類等に応じて、適宜選択できる。前記金属分析は、例えば、光学的測定、GC−ECD(ガスクロマトグラフ−電子捕獲型検出器)、電気化学的測定(例えば、ストリッピングボルタンメトリ等)等により行える。前記光学的測定による分析は、例えば、光学分析機器等を用いて、吸光度、透過率、反射率等を測定することにより行える。前記光学分析機器は、例えば、原子吸光光度計、可視光吸光度計等があげられる。前記金属の分析は、例えば、定性でもよいし、定量でもよい。
本発明の分析方法は、例えば、さらに、測定値の補正工程を含んでもよい。前記補正工程は、例えば、分析結果の測定値を、測定値と検体中の金属濃度との相関関係により、補正できる。前記相関関係は、例えば、金属濃度が既知である標準検体について、前記本発明の回収方法により検体を回収し、前記検体の測定値と、前記標準検体の金属濃度とをプロットすることにより求めることができる。前記標準検体は、金属の希釈系列が好ましい。このように補正を行うことによって、より信頼性の高い定量が可能となる。
前記金属の分析は、例えば、前述のような錯体として分析してもよいし、前記錯体から前記金属を単離して、前記金属単体として分析してもよい。後者の場合、前記金属回収工程は、前述のように、前記錯体における前記キレート剤を分解する工程、すなわち、前記錯体から前記金属を単離する工程を含むことが好ましい。
<金属の回収試薬>
本発明の金属の回収試薬は、前述のように、本発明の金属の回収方法に使用する試薬であって、前述のように、金属に対するキレート剤および無機塩を含むことを特徴とする。本発明の金属の回収用試薬は、前記キレート剤と前記無機塩とを含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。前記キレート剤および前記無機塩は、例えば、本発明の回収方法の例示を援用できる。
本発明の金属の回収試薬において、前記キレート剤および前記無機塩は、例えば、それぞれ別個の容器に収容されてもよいし、同一の容器に混合または未混同で収容されてもよい。前記キレート剤と前記無機塩とが別個の容器に収容されている場合、本発明の金属の回収試薬は、金属の回収キットということもできる。
本発明の金属の回収試薬は、前記キレート剤および前記無機塩の他に、前記マスキング剤およびその他の試薬の少なくとも一方を含んでもよい。前記その他の試薬は、特に制限されず、例えば、前述した、酸化剤、還元剤等があげられる。前記マスキング剤、前記酸化剤および前記還元剤は、特に制限されず、例えば、本発明の回収方法の例示を援用できる。前記その他の試薬は、例えば、前記キレート剤または前記無機塩と、別個の容器に収容されてもよいし、いずれかと同一の容器に混合または未混同で収容されてもよい。
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により制限されない。
(実施例1)
各種無機塩の添加により、ジチゾンと金属との錯体の回収率が向上することを確認した。
(1−1)濾液の目視観察による錯体の回収漏れの確認
尿検体1mLに、N−メチルマレイミドを12.5mol/Lとなるように添加し、24℃で15分静置した。前記静置後の検体に、1mol/Lクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)を0.1mL添加し、前記検体のpHを酸性に調整した。つぎに、前記pH調製後の検体に、4mmol/Lジチゾンを含む0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(以下、ジチゾン試薬という。)を10μL添加して混合液を調製し、前記混合液をシェーカーを用いて24℃で20分振盪し、錯体を形成させた。さらに、前記錯体形成後の前記混合液に、下記表2に示す濃度となるように、前記無機塩を添加し、これを24℃で5分静置した。
前記静置後の混合液を、フィルターを配置した直径7.5cmのカラムを用いて、300×gで5分間遠心濾過した。前記フィルターは、ガラス繊維濾紙として、下記表1の3種を使用し、F1、F2、F3、F4の4層を、前記カラムの軸方向に配置した。前記フィルターは、前記カラムにおける前記混合液の導入側から導出側に向かって、すなわち、前記カラムの上から下方向に向かって、空隙(ポアサイズ)が大きいものから順に配置されることとなる。
そして、得られた濾液を15,000rpmで5分遠心し、前記錯体を含む沈殿と上清とに分離した。前記沈殿を目視観察し、ジチゾン由来の青色の呈色を確認した。前記沈殿について、青色呈色が確認された場合、前記錯体が前記フィルターを通過することによる前記錯体の回収漏れが生じている(+)と判断し、青色呈色が確認されなかった場合、前記錯体がいずれかの前記フィルターに捕獲され、前記錯体の回収漏れが生じていない(−)と判断した。コントロールは、前記無機塩を無添加とした以外は、同様にして目視観察を行った。
これらの結果を表2に示す。表2に示すように、コントロール(無機塩無添加)では、前記錯体の回収漏れが生じたのに対し、KCl、Na2SO4またはMgCl2・6H2Oの無機塩を添加した場合、いずれの無機塩および濃度によっても、前記錯体の回収漏れは確認されなかった。このことから、前記金属と前記キレート剤との前記混合液中に前記無機塩を共存させることで、前記錯体が前記フィルターを通過することによる回収漏れを防止できることが分かった。
(1−2)フィルターの目視観察による錯体回収の確認
前記(1−1)で使用したカラムから、前記フィルターを回収した。そして、前記各フィルターにおける前記混合液の導入側の表面を目視観察し、いずれのフィルターで前記錯体を捕獲しているかを確認した。なお、前記フィルターは、前述のように、4層に重ねて使用しているため、いずれかのフィルターで全ての錯体が捕獲された場合、前記フィルターより前記混合液の導出側に配置されたフィルターは、捕獲する錯体が存在しないため白色となる。
この結果を図1に示す。図1は、各フィルターにおける前記混合液の導入側の表面を写した写真である。図1において、写真の左側は、無機塩の種類および濃度を示し、写真の上側は、各フィルターの種類を示す。図1は、写真の左側から右側に向かって、前記混合液の導入側から導出側の順にフィルターを並べている。図1に示すように、コントロールは、ポアサイズが大きいF1およびF2(同じ種類のフィルター)では着色が確認できず、ポアサイズがより小さいF3で若干の着色およびさらに小さいF4で濃い着色が確認され、前記(1−1)で示したように、前記濾液中に着色が確認された。これらの結果から、コントロールでは、F1およびF2では前記錯体を捕獲できず、F3で少量の前記錯体およびF4で多量の前記錯体が捕獲できたものの、前記錯体の一部は、これら全てのフィルターを通過し、回収漏れが生じたことがわかった。これに対し、Na2SO4を2mol/Lとなるよう混合した混合液は、ポアサイズが大きいF1とF2およびポアサイズのより小さいF3で着色が確認され、さらに小さいF4では着色が確認されず、前記(1−1)で示したように、前記濾液中に着色は確認されなかった。これらの結果から、F4で多量の前記錯体が捕獲されたコントロールと比較して、回収漏れが生じることなく、より大きなポアサイズのフィルターF1、F2およびF3で全ての前記錯体を捕獲できたことがわかった。さらに、Na2SO4を3mol/Lとなるよう混合した混合液は、前記混合液の導入側の一層目であるF1のみで着色が確認され、その他のフィルターでは着色が確認されず、前記(1−1)で示したように、前記濾液中に着色は確認されなかった。これらの結果から、F4で多量の前記錯体が捕獲されたコントロールと比較して、回収漏れが生じることなく、より大きなポアサイズのフィルターF1のみで全ての前記錯体を捕獲できたことがわかった。これらの結果から、前記金属と前記キレート剤との混合液中に前記無機塩が共存することで、より大きいポアサイズのフィルターで前記錯体を捕獲できることが分かった。これは、前記無機塩の共存により、前記錯体の凝集塊が大きくなっていることに起因すると考えられるが、この推定は、本発明を何ら制限しない。
(実施例2)
無機塩であるNa2SO4の添加により、尿検体とジチゾンとを含む混合液の泡立ちが抑制されることを確認した。
5人から採取した尿検体A〜Eに、Na2SO4を2mol/Lとなるように添加した以外は、実施例1と同様にして、前記混合液を調製し、振盪により錯体を形成させた。そして、前記混合液を24℃で5分静置した後、前記混合液の泡立ちを目視観察した。コントロールは、前記無機塩を無添加とした以外は、同様にして、泡立ちを目視観察した。
そして、前記混合液の液面からの泡立ちの高さ(H)を、下記基準に基づいて評価した。これらの評価を表3に示す。
(泡立ちの評価)
+ 60mm<H
− 40mm≦H≦60mm
−− H<40mm
泡立ちの評価を表3に示す。表3に示すように、検体A〜Eのいずれにおいても、Na2SO4を2mol/Lとなるように混合した混合液は、コントロールに対して泡立ちの程度が低かった。このことから、前記無機塩の混合により、尿検体とジチゾンとを含む前記混合液の泡立ちが抑制できることが分かった。
(実施例3)
各種無機塩の添加により、検体間におけるジチゾンと金属との錯体の回収率の差を抑制できることを確認した。
7人から採取した尿検体について、前記無機塩無添加の条件下、前記フィルター濾過による前記錯体の回収を行い、前記錯体の回収率を確認した。具体的には、前記無機塩を無添加とした以外は、前記(1−1)と同様にして、前記フィルターを用いて前記混合液の遠心濾過を行った。そして前記濾過前の混合液および前記濾過により得られた濾液について、還元気化原子吸光光度計(MERCURY ANALYZER、日本インスツルメンツ(株)社製)を用いて、錯体に含まれる水銀量を測定した。つぎに、前記フィルターによる錯体の回収率を、下記式1に基づき算出した。
錯体の回収率(%)=100×(M−F)/M ・・・(1)
M:混合液の水銀量
F:濾液の水銀量
また、前記各検体の前記濾液を遠心し、前記(1−1)と同様にして目視観察により前記錯体の漏れの有無を検討した。
その結果、7種類の検体について、目視により漏れが観察されなかった検体と、目視により漏れが観察された検体とが存在することがわかった。そこで、前者の3検体(F〜H)を、回収漏れが生じない検体群、後者の4検体(I〜L)を、回収漏れが生じる検体群に、それぞれ分類した。
つぎに、前記回収漏れが生じない検体群(F〜H)と前記回収漏れが生じる検体群(I〜L)とについて、前記無機塩を添加した前記混合液について、フィルター濾過を行い、前記錯体の回収率を確認した。前記無機塩として、Na2SO4または(NH4)2SO4を使用した。具体的には、前記混合液中で錯体を形成させた後、前記無機塩を2.0mol/Lまたは1.9mol/Lとなるように添加し、静置した以外は、同様にして錯体の回収率の算出および目視観察を行った。
これらの結果を、前記無機塩無添加の結果とあわせて、図2および表4に示す。図2は、錯体の回収率を示すグラフであり、横軸は、検体名を示し、縦軸は、錯体の回収率を示し、黒いバーが、無機塩無添加、グレーのバーが、Na2SO4添加、白いバーが、(NH4)2SO4添加の結果を示す。表4は、目視観察による前記錯体の回収漏れの有無を示す。図2および表4に示すように、前記回収漏れの生じる検体群(I〜L)は、前記無機塩未添加の結果と比較して、前記無機塩添加とすることで、前記回収漏れが防止され、回収率が著しく向上した。また、前記錯体の回収漏れの生じない検体群(F〜H)は、前記無機塩添加によっても前記錯体の漏れおよび回収率に影響はなく、無機塩無添加の結果と同様に、前記錯体の回収漏れは生じず、回収率は低下しなかった。このことから、前記無機塩の共存下で、前記錯体を含む前記混合液の濾過を行うことで、前記回収漏れが生じない検体群に対しては、前記錯体の回収漏れおよび回収率に影響を与えること無く、且つ、前記回収漏れが生じる検体群に対しては、前記錯体の回収漏れを防いで回収率を向上できることが分かった。この結果から、前記無機塩存在下で前記混合液を濾過することにより、検体間における前記錯体の回収率の差を抑制できることが分かった。
(実施例4)
無機塩である(NH4)2SO4の添加により、ジチゾンと金属との錯体を、相対的に大きいポアサイズのフィルターで回収できることを確認した。
前記無機塩として(NH4)2SO4を2、3または5mol/Lとなるように、前記混合液に混合した以外は、前記(1−2)と同様にして前記フィルターを目視観察した。コントロールは、前記無機塩を無添加とした以外は、同様にして目視観察した。
この結果を図3に示す。図3は、各フィルターにおける前記混合液の導入側の表面を写した写真である。図3において、写真の左側は、無機塩の種類および濃度を示し、写真の上側は、各フィルターの種類を示す。図3は、写真の左側から右側に向かって、混合液の導入側から導出側の順にフィルターを並べている。図3に示すように、コントロールは、ポアサイズが大きいF1およびF2(同じフィルター)では着色が確認できなかった。これらの結果から、コントロールでは、F1およびF2では前記錯体を捕獲できないことがわかった。これに対し、(NH4)2SO4を添加した混合液は、ポアサイズの大きいF1とF2で着色が確認された。これらの結果から、前記混合液に前記無機塩を共存させることで、前記無機塩非共存下で前記錯体を捕獲できたフィルターよりも、相対的に大きいポアサイズのフィルターを用いて、前記錯体を捕獲できることが分かった。
(実施例5)
無機塩であるNa2SO4の添加により、ジチゾンと金属との錯体の回収率が向上することを確認した。
前記実施例3と同様の方法により、尿検体を、前記無機塩非存在下のフィルター濾過において、回収漏れが生じる検体と回収漏れが生じない検体とに分類した。そして、回収漏れが生じる検体(n=1)と回収漏れが生じない検体(n=1)について、前記無機塩添加または前記無機塩無添加の条件下、前記混合液のフィルター濾過を行い、前記実施例3と同様にして、前記錯体の回収率を算出した。前記無機塩として、Na2SO4を使用し、前記混合液中の濃度を、所定濃度(0、1、2または3mol/L)とした。
これらの結果を図4に示す。図4は、錯体の回収率を示すグラフであり、横軸は、無機塩の濃度を示し、縦軸は、錯体の回収率を示し、ひし形のプロットが、回収漏れが生じない検体、四角のプロットが、回収漏れが生じる検体を示す。図4に示すように、前記回収漏れが生じる検体は、Na2SO4添加により、前記錯体の回収率が濃度依存的に上昇し、2mol/L以上で回収率100%に達した。また、前記回収漏れを生じない検体は、Na2SO4添加によっても影響を受けず、回収率100%を維持できた。これらの結果から、前記無機塩存在下でのフィルター濾過により、前記錯体の回収率を向上できることが分かった。
(実施例6)
無機塩であるNa2SO4の添加により、ジチゾンと複数の金属との錯体を形成し、回収した。そして、回収した前記錯体から、複数の金属が回収できることを確認した。
尿検体3mLに、1mol/L水酸化リチウム水溶液を0.3mL添加し、前記尿検体のpHをアルカリ性に調整した。前記pH調整後の尿検体に、ジチゾンを0.1mg添加し、前記混合液をシェーカーを用いて24℃で5分振盪し、錯体を形成させた。つぎに、1mol/Lクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.0)を、前記混合液のpHが5.0となるように添加することで前記錯体を不溶化した。さらに、前記pH調整後の検体に1.9mol/Lとなるように前記無機塩を添加し、シェーカーを用いて24℃で10分振盪後、これを5分静置した。前記無機塩として、Na2SO4を使用した。
さらに、前記無機塩を添加した混合液についてフィルターろ過を行い、前記錯体をフィルター上に回収した。さらに、回収した前記錯体に2mol/L水酸化リチウム水溶液を0.1mL添加し、フィルター全体に水酸化リチウム水溶液が行き渡るように吸排攪拌することで、前記錯体を水酸化リチウム水溶液に溶解した。さらに、フィルターを加圧して前記溶解液を回収した。
つぎに、未処理の尿検体および前記溶解液中の水銀量および鉛量を測定した。水銀量は、前記還元気化原子吸光光度計を用いて測定した。また、鉛量は、フレームレス原子吸光光度計(iCE3400、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて測定した。そして、前記水銀の回収率および前記鉛の回収率を、下記式2に基づき算出した。その結果、前記水銀の回収率は、74.0%であり、前記鉛の回収率は、68.6%であった。これらの結果から、本発明の回収方法により、高い回収率で複数の金属を回収できることがわかった。
回収率(%)=100×(M/B) ・・・(2)
M:溶解液中の水銀または鉛量
B:未処理の尿検体中の水銀または鉛量
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をできる。
この出願は、2014年2月28日に出願された日本出願特願2014−039592を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。