JP2015165038A - 手術用機器、粉末冶金用金属粉末、および手術用機器の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐食性が高い手術用機器を提供すること、また、かかる手術用機器を容易に製造することが可能な粉末冶金用金属粉末、および手術用機器の製造方法を提供すること。【解決手段】手術用機器1は、Coが主成分であり、Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれ、金属粉末の焼結体で構成されていることを特徴とする。【選択図】図1
Description
本発明は、手術用機器、粉末冶金用金属粉末、および手術用機器の製造方法に関するものである。
金属材料は、一般的に、優れた強度と靱性を有する等の力学的な特性(機械的特性)に優れていることから、鉗子、メス、ピンセット等の多くの手術用機器を構成する材料として用いられている。
このような手術用機器は、雑菌等を除去するためにも滅菌処理される場合が多く、滅菌処理による腐食がし難いという観点から、ステンレス鋼で構成されたものが一般的に用いられている。
さらに、抗菌性を向上させるために、例えば、特許文献1には、金属製の医療機器の表面にコーティングを施した機器について記載されている。
しかしながら、このような従来の手術用機器では、耐食性が十分ではなかった。そのため、洗浄液を用いて洗浄処理したり、オートクレープ滅菌等により滅菌処理等を施すと、これらの処理によって腐食が起きやすく、手術用機器を繰り返り使用することが難しかった。そのため、外科手術や解剖等において血液が付着した手術用機器は、雑菌等による院内感染を防ぐために再使用しないことが多かった。
本発明の目的は、耐食性が高い手術用機器を提供すること、また、かかる手術用機器を容易に製造することが可能な粉末冶金用金属粉末、および手術用機器の製造方法を提供することにある。
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の手術用機器は、Coが主成分であり、
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%の割合で含まれ、
金属粉末の焼結体で構成されていることを特徴とする。
本発明の手術用機器は、Coが主成分であり、
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%の割合で含まれ、
金属粉末の焼結体で構成されていることを特徴とする。
これにより、耐食性に優れた手術用機器を提供することができる。そのため、手術用機器は、例えば外科手術や解剖等において、血液等の体液に接触したときに、金属イオンが溶出し難く、手術用機器から溶出する金属イオンによる人体への悪影響を低減することができる。また、手術用機器が血液と接触することにより腐食することを防ぐことができる。
本発明の手術用機器では、前記Siのうちの一部は酸化ケイ素として含まれており、
前記Siのうちの前記酸化ケイ素として含まれるSiの比率は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
前記Siのうちの前記酸化ケイ素として含まれるSiの比率は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
これにより、手術用機器の機械的特性をより高めることができる。また、磁化率を低下させることができ、血液に対する反応性を低下させることができる。そのため、手術用機器は、血液が付着しにくく、洗浄処理や滅菌処理を施すことによって、手術用機器に付着した血液をより的確に除去することができ、よって、繰り返し使用することが可能となる。
本発明の手術用機器では、CuKα線を用いたX線回折法により得られたX線回折パターンにおいて、
オーステナイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたとき、マルテンサイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さは、0.01以上0.5以下であることが好ましい。
オーステナイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたとき、マルテンサイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さは、0.01以上0.5以下であることが好ましい。
これにより、手術用機器の耐食性が向上するという効果を損なうことなく、手術用機器の機械的強度をさらに高めることができる。そのため、繰り返し使用によっても機械的特性が特に劣化しにくく、長期にわたってより優れた機械的特性を発揮することが可能な手術用機器を提供することができる。
本発明の手術用機器では、走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶解析(EBSD)により得られた観察像において、
マルテンサイト相で構成されている領域の面積率が、10%以上70%以下であることが好ましい。
マルテンサイト相で構成されている領域の面積率が、10%以上70%以下であることが好ましい。
これにより、手術用機器の耐食性が向上するという効果を損なうことなく、手術用機器の機械的強度をさらに高めることができる。そのため、繰り返し使用によっても機械的特性が特に劣化しにくく、長期にわたってより優れた機械的特性を発揮することが可能な手術用機器を提供することができる。
本発明の手術用機器では、さらに、Nが0.09質量%以上0.5質量%以下の割合で含まれていることが好ましい。
これにより、靱性のより高く、使用時において割れ等の破損がより生じにくい手術用機器を提供することができる。
本発明の手術用機器では、前記Siの含有率に対する前記Nの含有率の割合は、0.1以上0.8以下であることが好ましい。
これにより、Siを含有することによる血液に対する反応性をより低下させるという効果と、Nを添加したことによる靱性を高めるという効果を、それぞれ互いに相殺することなく発揮させる。このため、血液が長期にわたって接触することより不働態被膜(Cr2O3等)が敗れて腐食しやすくなることを特に低減することができるとともに、機械的強度に優れたものとなる。したがって、長期にわたって信頼性に優れた手術用機器を提供することができる。
本発明の手術用機器では、前記金属粉末の平均結晶粒径は、1μm以上50μm以下であることが好ましい。
このような粒径の金属粉末を用いることにより、高密度で耐力等の機械的特性により優れた高い手術用機器を製造することができる。
本発明の手術用機器では、磁化率が、1.0×10−6[cm3/g]以上10.0×10−6[cm3/g]以下であることが好ましい。
これにより、血液等の体液が付着することによる腐食をより効果的に防ぐことができる。また、付着した血液を、比較的容易に除去することができる。また、手術用機器は、一般的に用いられる洗浄処理や滅菌処理に対する耐久性に優れている。このため、洗浄処理や滅菌処理等を施すことにより、手術用機器は、その使用寿命が長く、衛生面においてもより優れたものとなる。
本発明の手術用機器では、主としてオーステナイト相で構成されている第1の領域と、
主としてマルテンサイト相で構成されている第2の領域と、を有することが好ましい。
主としてマルテンサイト相で構成されている第2の領域と、を有することが好ましい。
これにより、手術用機器では、例えば使用者が把持する箇所を第1の領域とし、患者に接する箇所を第2の領域とすることができる。これにより、使用者が把持する箇所は手の馴染みがより良好となり、患者に触れる箇所は硬度を高くすることができる。このように、必要に応じて、任意の箇所に必要な機械的特性を付与することができる。
本発明の粉末冶金用金属粉末は、Coが主成分であり、
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれ、
手術用機器の製造に用いられることを特徴とする。
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれ、
手術用機器の製造に用いられることを特徴とする。
これにより、ほとんど加工を施すことなく、目的とする形状の手術用機器を容易に製造可能な粉末冶金用金属粉末が得られる。また、得られた手術用機器は、耐食性に優れたものとなる。
本発明の手術用機器の製造方法は、Coが主成分であり、Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれる金属粉末を、金属粉末射出成形法により成形し、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る工程と、
を有することを特徴とする。
これにより、耐食性に優れた手術用機器を容易に製造することができる。
前記成形体を焼成し、焼結体を得る工程と、
を有することを特徴とする。
これにより、耐食性に優れた手術用機器を容易に製造することができる。
以下、本発明の手術用機器、粉末冶金用金属粉末および手術用機器の製造方法について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
[手術用機器]
まず、本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の手術用機器の第1実施形態を示す斜視図である。
図1に示す手術用機器は、本発明の手術用機器の一例である。
図1に示す手術用機器は、本発明の手術用機器の一例である。
図1には、手術用機器1として、手術用ナイフ(メス)2、使い捨て手術用ナイフ(メス)2’、医療用鉗子3、および医療用ピンセット4を図示している。このような手術用機器1は、例えば外科手術や解剖に用いられる。
手術用ナイフ2は、主として医師が患者の幹部を切開するために用いる鋭利な物である。手術用ナイフ2は、柄(把持部)21と、柄21の端部に設けられた刃22とを備えている。また、手術用ナイフ2は、刃22の刃先が湾曲しているメス、いわゆる円刃刀メスである。なお、手術用ナイフとしては、図示の形状に限定されず、先端(刃の先端)が尖った尖刃刀メスであってもよい。また、刃22は、柄21に固着されていてもよいし、柄21に対して着脱自在に固定されていてもよい。
また、図1に示すような使い捨て手術用ナイフ(メス)2’は、主として白内障や緑内障の手術のために用いられる。使い捨て手術用ナイフ2’も、手術用メス2と同様に、柄(把持部)21’と、柄21’の端部に設けられた刃22’とを備えている。なお、刃22’の形状や大きさは特に限定されない。
医療用鉗子3は、対象物をつかんだり牽引したりするのに用いられる。医療用鉗子3は、指環を有する把持部31と、対象物は挟持する挟持部32とを備えている。
医療用ピンセット4は、対象物をつかむために用いられ、把持部41と、対象物は挟持する挟持部42とを備えている。
このような手術用機器1は、Co−Cr−Mo−Si系の合金で構成されており、金属粉末(本発明の粉末冶金用金属粉末)の焼結体で構成されている。
具体的には、手術用機器1を構成する合金は、Coが主成分であり、Crを26質量%以上35質量%以下の割合で含み、Moを5質量%以上12質量%以下の割合で含み、Siを0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含むものである。
このような構成の手術用機器1は、耐食性に優れている。そのため、手術用機器1は、例えば外科手術や解剖等において、血液等の体液に接触したときに、金属イオンが溶出し難く、手術用機器1から溶出する金属イオンによる人体に悪影響を及ぼすことを特に低減することができる。このため、手術用機器1は、生体への適合性に優れている。
また、手術用機器1は、耐食性に優れているため、血液等の体液が付着することによる腐食することをより効果的に防ぐことができる。また、手術用機器1は、一般的に用いられる洗浄処理や滅菌処理(例えば、洗浄液による洗浄処理やオートクレープ滅菌、電子線照射滅菌等による滅菌処理)に対する耐久性に優れている。このため、手術用機器1に洗浄処理や滅菌処理等を施すことにより、手術用機器1は、繰り返し使用することが可能となる。このようなことから、手術用機器1は、その使用寿命が長く、衛生面においても優れている。
以下、このような手術用機器1を構成する合金(Co−Cr−Mo−Si系の合金)について、詳細に説明する。
Co(コバルト)は、手術用機器1を構成する合金の主成分であり、手術用機器1の基本的な特性に大きな影響を及ぼす。ここで、主成分とは、合金を構成する元素の中で最も多く含まれている成分のことをいう。
手術用機器1を構成する合金中におけるCoの含有率は、合金を構成する元素の中で最も高くなるよう設定され、具体的には50質量%以上67.5質量%以下であるのが好ましく、55質量%以上67質量%以下であるのがより好ましい。
Cr(クロム)は、主に手術用機器1の耐食性を向上させるよう作用する。これは、Crを含むことによって、合金に不働態被膜(Cr2O3等)が形成され易くなり、化学的安定性が向上するためと考えられる。耐食性の向上によって、手術用機器1が血液等の体液と接触したときに、手術用機器1から金属イオンが溶出し難くなるといった効果が期待される。したがって、Crを含む合金で構成された手術用機器1は、生体への適合性により優れたものであるといえる。
また、CrがCoやMo、Siとともに用いられることで、手術用機器1の機械的特性を高めることができる。
手術用機器1を構成する合金中におけるCrの含有率は、26質量%以上35質量%以下とされる。Crの含有率が前記下限値を下回ると、手術用機器1の耐食性が低下する可能性がある。このため、手術用機器1が長期にわたって体液と接触した場合には、金属イオンの溶出が生じるおそれがある。一方、Crの含有率が前記上限値を上回ると、Co、MoやSiとのバランスが崩れて機械的特性が低下するおそれがある。
なお、Crの含有率は、好ましくは27質量%以上34質量%以下とされ、より好ましくは28質量%以上33質量%以下とされる。
Mo(モリブデン)は、主に手術用機器1の耐食性を高めるよう作用する。すなわち、Moを含むことによリ、Crの含むことによる耐食性をより強化することができる。これは、Moを添加することにより、Crの酸化物を主材料とする不働態被膜がより緻密化されるためであると考えられる。したがって、Moが添加された合金は、金属イオンがさらに溶出し難くなり、生体への適合性が特に高い手術用機器1の実現に寄与する。
手術用機器1を構成する合金中におけるMoの含有率は、5質量%以上12質量%以下とされる。Moの含有率が前記下限値を下回ると、手術用機器1の耐食性が低下するおそれがある。一方、Moの含有率が前記上限値を上回ると、Co、CrやSiに対するMoの量が相対的に多くなり過ぎて手術用機器1の機械的特性が低下するおそれがある。
なお、Moの含有率は、好ましくは5.5質量%以上11質量%以下とされ、より好ましくは6質量%以上9質量%以下とされる。
また、Si(ケイ素)は、主に手術用機器1の機械的特性(特に、引張強さ)を高めるよう作用する。
Siを含むことによって手術用機器1中には、Siの一部が酸化した酸化ケイ素が生成される。酸化ケイ素としては、SiO、SiO2等が挙げられる。手術用機器1中に酸化ケイ素を含まれることで、手術用機器1の製造時において金属結晶が成長する際に、金属結晶が著しく肥大化するのを抑制することができる。このため、Siを含む合金では、金属結晶の粒径が小さく抑えられることとなり、よって、手術用機器1の機械的特性(特に、引張強さ)をより高めることができる。
また、Siを含むことにより、血液に対する反応性をより低下させることができる。これは、Siを含むことにより、手術用機器1の磁化率を低下させることができるためであると考えられる。また、Siを含むことにで手術用機器1の磁化率を低下させることができるため、患者に対して磁気共鳴画像診断装置(MRI)を用いて手術等を行ったときに、MRI画像において手術用機器の周辺にアーチファクトと呼ばれる偽像が生じてしまい、造影が妨げられることを抑制することができる。
手術用機器1を構成する合金中におけるSiの含有率は、0.3質量%以上2.0質量%以下とされる。Siの含有率が前記下限値を下回ると、酸化ケイ素の量も少なくなるため、金属結晶が肥大化しやすく、手術用機器の機械的特性が低下する可能性がある。一方、Siの含有率が前記上限値を上回ると、手術用機器1中に存在する酸化ケイ素の量が多くなり過ぎて、酸化ケイ素が空間的に連続して分布する領域が生じ易くなる。このような酸化ケイ素が連続して分布する領域では、一定の大きさで手術用機器1の構造が不連続になっていると考えられる。このため、手術用機器1に外力が加わったときに、前記のような領域が破壊の起点となり易くなる可能性がある。その結果、手術用機器1は、脆く破損しやすくなるおそれがある。
なお、Siの含有率は、好ましくは0.55質量%以上0.95質量%以下とされ、より好ましくは0.6質量%以上0.9質量%以下とされる。
また、Siのうちの一部は、前述したように酸化ケイ素の状態で存在していることが好ましく、その存在量は、Siの全量に対して酸化ケイ素として含まれるSiの比率が20%以上80%以下であるのが好ましく、30%以上70%以下であるのがより好ましく、35%以上65%以下であるのがさらに好ましい。全Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、前述したような、金属結晶が著しく肥大化するのを抑制することによる機械的特性(特に、引張強さ)の向上することができるという効果をより顕著に発揮することができる。
また、酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、手術用機器1に含まれるCo、Cr、Moといった遷移金属元素の酸化物量を十分に抑えることができる。これは、Siが、Co、CrおよびMoよりも酸化し易く、これら遷移金属元素に結合している酸素をSiが奪うことによって還元反応を生じさせるためであると考えられる。このため、Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、手術用機器1では、上述したよう金属結晶が著しく肥大化するのを抑制することによる機械的特性(特に、機械的強度)を向上させることができるといった効果が、Co、CrまたはMoの酸化物によって阻害されることが抑制される。その結果、信頼性のより高い手術用機器1の実現が図られる。
また、Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、酸化ケイ素ではないSiが、所定量含まれていることとなる。このように酸化ケイ素ではないSiが所定量含まれていることで、手術用機器1に対して適度な硬度が与えられることとなる。これは、Co、CrおよびMoのうちの少なくとも1種と、酸化ケイ素ではないSiとが硬質の金属間化合物を生成することによると考えられる。Siを含むことにより、金属結晶の著しい成長は阻害されるので、その観点から言えば手術用機器1の硬度は低下する傾向にあるものの、一部のSiが金属間化合物を生成することにより、手術用機器1の硬度が著しく低下することが抑えられる。また、金属間化合物を生成することによって、手術用機器1の血液に対する反応性をより低下させることができる。このようなことから、手術用機器1は、適度な硬度を有するものとなる。
なお、この金属間化合物としては、特に限定されないが、一例を挙げると、CoSi2、Cr3Si、MoSi2、Mo5Si3等が挙げられる。
また、金属間化合物の析出量を考慮すると、Moの含有率に対するSiの含有率の割合(Si/Mo)は、質量比で0.05以上0.2以下であるのが好ましく、0.08以上0.15以下であるのがより好ましい。これにより、機械的強度に優れ、よって信頼性の高い手術用機器1となる。
また、酸化ケイ素は、いかなる位置に分布していてもよいが、粒界(金属結晶同士の界面)に偏析するように分布しているのが好ましい。酸化ケイ素がこのような位置に偏析していることで、金属結晶の肥大化がより確実に抑制されることとなり、機械的特性により優れた手術用機器1が得られる。
また、粒界に偏析した酸化ケイ素(酸化ケイ素の析出物)同士は、自ずと適度な距離を保つ傾向にある。このため、手術用機器1における酸化ケイ素の析出物は、手術用機器1内においてより均一に分散された状態で存在しやすいと考えられる。このように酸化ケイ素の析出物が均一に分散されることで、より均質な手術用機器1を得ることができる。
また、偏析した酸化ケイ素の析出物については、定性分析の面分析により、その大きさや分布等を特定することができる。具体的には、例えば、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるSiの組成像によって、酸化ケイ素の析出物の大きさや分布等を特定することができる。
電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるSiの組成像において、Siが偏析している領域の平均径は、0.1μm以上10μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上8μm以下であるのがより好ましい。Siが偏析している領域の平均径が前記範囲内であれば、酸化ケイ素の析出物の大きさが前述したような各効果を奏するにあたって最適なものとなる。一方、Siが偏析している領域の平均径が前記下限値を下回ると、酸化ケイ素の析出物が十分な大きさに偏析しておらず、前述したような各効果が十分に得られないおそれがある。また、Siが偏析している領域の平均径が前記上限値を上回ると、手術用機器1は、脆く破損しやすくなるおそれがある。
なお、Siが偏析している領域の平均径は、Siの組成像において、Siが偏析している領域の面積と同じ面積を持つ円の直径(投影面積円相当径)の平均値として求めることができる。
このような構成成分を含む手術用機器1は、主にCoで構成された第1相と、主にCo3Moで構成された第2相と、を含んでいる。
このうち、第2相が含まれていることにより、前述したSiを含む金属間化合物と同様に、手術用機器1に適度な硬度を付与することができるため、手術用機器1は、信頼性のより高いものとなる。一方、第2相が過剰に含まれている場合、それが偏析し易くなり、引張強さ、耐力、伸びといった機械的特性の低下を招くこととなる。
したがって、第1相と第2相は、上記の観点から適度な比率で含まれていることが好ましい。具体的には、手術用機器1について、CuKα線を用いたX線回折法による結晶構造解析を行い、Coに起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたとき、Co3Moに起因するピークのうち最も高いピークの高さは0.01以上0.5以下であるのが好ましく、0.02以上0.4以下であるのがより好ましい。
また、Coの前記ピークの高さを1としたときのCo3Moの前記ピークの高さが前記下限値を下回ると、手術用機器1中においてCoに対するCo3Moの比率が低下するので、手術用機器1の硬度が低下するおそれがある。一方、Co3Moの前記ピークの高さの比率が前記上限値を上回ると、Co3Moの存在量が過剰になり、Co3Moが偏析し易くなって、手術用機器1の引張強さおよび耐力が低下するとともに、伸びも低下するおそれがある。
なお、CuKα線は、通常、エネルギーが8.048keVの特性X線である。
なお、CuKα線は、通常、エネルギーが8.048keVの特性X線である。
また、Coに起因するピークを同定するにあたっては、ICDD(The International Centre for Diffraction Data)カードのCoのデータベースに基づいて同定される。同様に、Co3Moに起因するピークを同定するにあたっては、ICDDカードのCo3Moのデータベースに基づいて同定される。
また、手術用機器1において第2相の存在比率が0.01体積%以上10体積%以下であるのが好ましく、0.05体積%以上5体積%以下であるのがより好ましい。これにより、適度な硬度、引張強さ、耐力および伸びを有する手術用機器1が得られる。なお、これらの存在比率は、結晶構造解析の結果からCo3Moの存在比率を定量化することにより求められる。
また、手術用機器1を構成する合金は、上述したような構成成分(Co、Cr、Mo、Si)に加え、さらにN(窒素)を含んでいてもよい。Nを含むことにより、手術用機器1の機械的特性(特に靱性)を高めることができる。Nはオーステナイト化元素であるので、手術用機器1の結晶構造のオーステナイト化を促進し、手術用機器1の硬度の上昇を抑えるとともに、靭性を高めるように作用する。これにより、手術用機器1は、使用者の手により馴染み易いものとなる。
また、Nを含むことにより、金属粉末の焼結体で構成された手術用機器1は、デンドライト相の生成が抑えられ、デンドライト相の含有率が非常に小さいものとなる。このような観点からも、靭性を高めることができる。ここで、デンドライト相は、樹枝状に成長した結晶組織のことであるが、このようなデンドライト相が多量に含まれると手術用機器1の靭性が低下する。したがって、デンドライト相の含有率を小さくすることは手術用機器1の靭性を高めるにあたって有効である。
具体的には、手術用機器1を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた観察像においてデンドライト相が占める面積率が20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましい。したがって、デンドライト相の含有率が前述した範囲内のものであれば、手術用機器1の靭性を特に高めることができ、手術用機器1は、その使用時において外力が加わっても変形しにくいものとなる。なお、上述した面積率は、観察像の面積に対するデンドライト相が占める面積の割合として算出され、観察像の一辺は50μm以上1000μm以下程度に設定される。
また、手術用機器1は、前述したように、金属粉末の焼結体で構成されている。金属粉末の焼結体で構成された手術用機器1は、金属粉末が各粒子の体積が非常に小さい。このため、冷却速度が高く、冷却の均一性も高い。そのため、金属粉末の焼結体で構成された手術用機器1では、デンドライト相の生成が抑えられている。一方、鋳造等の従来法では、溶融金属を手術用機器の形状をした型に流し込むため、冷却すべき体積が非常に大きい。このため、冷却速度が低く、冷却の均一性も低い。その結果、このような方法で製造された手術用機器には、デンドライト相が多量に生成すると考えられる。したがって、鋳造等の従来法では、加工性が低下し、任意の形状の手術用機器1を得るのが難しい。
Nを含む場合には、手術用機器1を構成する合金におけるNの含有率は、特に限定されないが、0.09質量%以上0.5質量%以下であるのが好ましく、0.12質量%以上0.4質量%以下であるのがより好ましく、0.15質量%以上0.22質量%であるのがさらに好ましい。Nの含有率が前記下限値を下回ると手術用機器1の硬度が非常に高くなり、靭性も低下する。これは、手術用機器1の結晶構造のオーステナイト化が不十分になり、手術用機器1中にオーステナイト相の他に、hcp構造を有するマルテンサイト相が多く析出するためであると考えられる。一方、Nの含有率が前記上限値を上回ると、各種の窒化物が多量に生成されるとともに、焼結し難い組成になる。このため、手術用機器1の焼結密度が低下し、機械的特性が低下する。生成される窒化物としては、例えばCr2N等が挙げられる。このような窒化物が析出すると、硬度も高くなるため、やはり靭性が低下することとなる。
また、Siの含有率に対するNの含有率の割合(N/Si)は、質量比で0.1以上0.8以下であるのが好ましく、0.2以上0.6以下であるのがより好ましい。これにより、高い機械的特性を発揮することができる。また、前記範囲内の割合でNが含まれていると、Siを含有することによる血液に対する反応性をより低下させるという効果と、Nを添加したことによる靱性を高めるという効果を、それぞれ互いに相殺することなく発揮させる。このようなことから、手術用機器1は、血液が長期にわたって接触することより不働態被膜(Cr2O3等)が敗れて腐食しやすくなることを特に低減することができるとともに、機械的強度に優れたものとなる。したがって、手術用機器1は、長期にわたって信頼性に優れたものとなる。これは、Siと、Co等の金属元素とが置換型固溶体を生成するのに対し、Nと、Co等の金属元素とは侵入型固溶体を生成するため、互いに共存し得るからであると考えられる。しかも、Siが固溶したことによる結晶構造の歪みが、Nが固溶することによって抑えられると考えられる。
また、Siが一定量含まれると、上述したように結晶構造に歪みが生じるが、この状態では熱膨張および熱収縮の挙動に大きなヒステリシスが生じ易くなる。熱膨張および熱収縮の挙動に大きなヒステリシスがあると、経時的に手術用機器1の熱的特性が変化してしまうおそれがある。これに対し、前述した割合でNが含まれることにより、Nが結晶構造中に侵入して固溶することにより、結晶構造の歪みが抑制される。その結果、熱膨張および熱収縮の挙動におけるヒステリシスが抑えられ、手術用機器1の熱的特性の安定化を図ることができる。
このようなことから、SiとNとが適度に含まれていると、手術用機器1の機械的特性の安定化および熱的特性の安定化をより効果的に図ることができる。
なお、Siの含有率に対するNの含有率の割合が前記下限値を下回ると、結晶構造の歪みを十分に抑制することができず、靭性等が低下するおそれがある。一方、前記上限値を上回ると、焼結し難い組成になり、手術用機器1の焼結密度が低下し、機械的特性も低下するおそれがある。
また、手術用機器1を構成する合金は、上述したような各成分以外に、C(炭素)を含んでいてもよい。Cを含むことによって、手術用機器1の硬度や引張強さをより高めることができる。
Cを含む場合には、手術用機器1を構成する合金におけるCの含有率は、特に限定されないが、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.7質量%以下であるのがより好ましい。Cの含有率が前記上限値を上回ると、手術用機器1の脆性が大きくなるおそれがある。
また、Cの含有率の下限値は特に設定されないが、上述した効果が十分に発揮されるためには、0.05質量%以下に設定されるのが好ましい。
また、Cの含有率はSiの含有率の0.02倍以上0.5倍以下程度であるのが好ましく、0.05倍以上0.3倍以下程度であるのがより好ましい。Siに対するCの比率を前記範囲内に設定することにより、手術用機器1は、使用時において割れ等の破損がより生じ難いものとなる。
その他、手術用機器1を構成する合金には、上述したような各成分以外に、製造時において不可避的に生じる不純物の混入も許容される。その場合、不純物の含有率は好ましくは1質量%以下とされ、より好ましくは0.5質量%以下とされ、さらに好ましくは0.2質量%以下とされる。このような不純物成分としては、例えば、B、N、O、Na、Mg、Al、P、S、Mn等が挙げられる。
なお、手術用機器1を構成する合金は、実質的にNi(ニッケル)を含んでいないのが好ましい。ここで、従来の手術用機器においては、Niは、塑性加工性を確保するために一定量含まれていることが多かった。しかしながら、Niは、金属アレルギーの原因物質として扱われていることもあり、生体への影響が懸念されている元素でもある。このようなことから、手術用機器1を構成する合金には、製造時に不可避的に混入してしまうNiを除いて、構成元素としてのNiが添加されていないことが好ましい。このため、手術用機器1は、金属アレルギーを発生させ難く、生体への適合性が特に高いものとなる。
また、不可避的に混入する場合(例えば、手術用機器1の製造時に意図せず混入する場合)も考慮すると、Niの含有率は0.05質量%以下であるのが好ましく、0.03質量%以下であるのがより好ましい。
上述したような手術用機器1を構成する合金の各構成成分および組成比は、例えば、JIS G 1257に規定された原子吸光法、JIS G 1258に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253に規定されたスパーク発光分析法、JIS G 1256に規定された蛍光X線分析法、JIS G 1211〜G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等により特定することができる。具体的には、SPECTRO社製固体発光分析装置(スパーク発光分析装置)、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aが挙げられる。
また、C(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、特に、JIS G 1211に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)−赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200が挙げられる。
さらに、N(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、特に、JIS G 1228に規定された鉄および鋼の窒素定量方法、JIS Z 2613に規定された金属材料の酸素定量方法も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC−300/EF−300が挙げられる。
また、手術用機器1の結晶組織は、主としてオーステナイト相で構成されていることが好ましい。これにより、手術用機器1の耐食性や、靱性や伸びといった機械的特性をより高めることができる。
具体的には、手術用機器1を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた観察像におけるオーステナイト相の占める面積率が、50%以上95%以下であるのが好ましく、55%以上90%以下であるのがより好ましい。これにより、手術用機器1の耐食性をより高めることができ、手術用機器1に血液が長期間接触することにより不働態被膜(Cr2O3等)が敗れて腐食しやすくなることを特に低減することができる。そのため、手術用機器1に雑菌等が繁殖することをより効果的に防ぐことができる。
また、オーステナイト相の占める面積率が前記範囲内のものであると、洗浄液を用いた洗浄処理や、オートクレープ滅菌等による滅菌処理に対する耐久性(耐食性)をより高めることができる。そのため、洗浄液によって手術用機器1が腐食してしまうことをより効果的に防ぐことができる。また、オートクレープ処理等、高い圧力が加えられることによっても手術用機器1の劣化をより効果的に防ぐことができる。このようなことから、手術用機器1は、洗浄・滅菌処理することにより繰り返して使用することが可能となる。
また、手術用機器1の結晶組織が主としてオーステナイト相で構成されていることで、手術用機器1の靱性や伸びをより高めることができる。これにより、使用者が手術用機器1を使用するとき、使用者の手に特に馴染み易いものとなる。
なお、上述した面積率は、走査型電子顕微鏡による観察像の面積に対するオーステナイト相が占める面積の割合として算出され、観察像の一辺は10μm以上100μm以下程度に設定される。
また、手術用機器1の結晶組織は、マルテンサイト相を含んでいることが好ましい。これにより、手術用機器1の機械的強度をより高めることができ、手術用機器1は、割れ等の破損がより生じ難いものとなる。
具体的には、手術用機器1を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、得られた観察像におけるマルテンサイト相の占める面積率が、10%以上70%以下であるのが好ましく、30%以上70%以下であるのがより好ましい。
マルテンサイト相の占める面積率を前記範囲内に設置することにより、手術用機器1の耐食性が向上するという効果を損なうことなく、手術用機器1の機械的強度をさらに高めることができる。そのため、手術用機器1は、繰り返し使用しても機械的特性が特に劣化しにくく、長期にわたってより優れた機械的特性を発揮することができる。
なお、上述した面積率は、走査型電子顕微鏡による観察像の面積に対するマルテンサイト相が占める面積の割合として算出され、観察像の一辺は10μm以上100μm以下程度に設定される。
また、手術用機器1は、CuKα線を用いたX線回折法による結晶構造解析を行い、オーステナイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたとき、マルテンサイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さの比率が0.01以上0.5以下であるのが好ましく、0.02以上0.4以下であるのがより好ましい。このような手術用機器1は、洗浄処理や滅菌処理による耐食性により優れるとともに、機械的強度により優れたものとなる。このため、手術用機器1は、繰り返し使用しても機械的特性が特に劣化しにくく、長期にわたってより優れた機械的特性を発揮することができる。
なお、CuKα線は、通常、エネルギーが8.048keVの特性X線である。
なお、CuKα線は、通常、エネルギーが8.048keVの特性X線である。
また、オーステナイト相に起因するピークを同定するにあたっては、オーステナイト系の格子定数と波長に基づいて同定される。同様に、マルテンサイト相に起因するピークを同定するにあたっては、マルテンサイト系の格子定数と波長に基づいて同定される。
また、上述したような構成成分を含む手術用機器1は、磁化率が比較的低いものである。このため、血液等の体液や、雑菌等が付着するのを低減することができる。
このような手術用機器1の磁化率は、具体的には、1.0×10−6[cm3/g]以上10.0×10−6[cm3/g]以下であるのが好ましく、1.0×10−6[cm3/g]以上7.0×10−6[cm3/g]]以下であるのがより好ましい。
磁化率が前記範囲内に設定することにより、血液等の体液が付着することにより手術用機器1が腐食することをより効果的に防ぐことができる。また、手術用機器1に付着した血液を、比較的容易に除去することができる。また、このような手術用機器1は、一般的に用いられる洗浄処理や滅菌処理に対する耐久性に優れている。このようなことから、手術用機器1に洗浄処理や滅菌処理等を施すことにより、手術用機器1を繰り返し使用することができる。そして、手術用機器1は、その使用寿命が特に長く、衛生面においても特に優れたものとなる。
また、磁化率が前記範囲内の手術用機器1であると、アーチファクトのさらなる抑制が可能である。
また、アーチファクトの程度は、磁気共鳴画像診断の際の撮像設定に応じて若干異なるものの、磁化率が前記範囲内の手術用機器1であれば、MRI画像において手術用機器1周辺に発生するアーチファクトの大きさは、相対的にはTi製の手術用機器に比べて70%以下程度に小さくすることができる。
また、手術用機器1は、そのビッカース硬度が200以上480以下であるのが好ましく、240以上380以下であるのがより好ましい。ビッカース硬度が前記下限値を下回ると、受ける外力の強さ等によっては、手術用機器1が不本意に変形してしまうおそれがある。一方、ビッカース硬度が前記上限値を上回ると、手術用機器1を構成する合金の組成によっては、靭性が低下し、耐衝撃性が低下するおそれがある。
なお、手術用機器1のビッカース硬度は、JIS Z 2244に規定された試験方法に準拠して測定される。
また、手術用機器1の引張強さは、520MPa以上であるのが好ましく、600MPa以上1500MPa以下であるのがより好ましい。このような引張強さの手術用機器1は、使用時において不本意に変形が生じ難くく、長期にわたる耐変形性に優れたている。また、手術用機器1の0.2%耐力は、450MPa以上であるのが好ましく、500MPa以上1200MPa以下であるのがより好ましい。このような0.2%耐力の手術用機器1は、長期にわたる耐変形性に優れている。
これらの引張強さおよび0.2%耐力は、JIS Z 2241に規定された試験方法に準拠して測定される。
また、手術用機器1の伸びは、2%以上50%以下であるのが好ましく、10%以上45%以下であるのがより好ましい。このような伸びを有する手術用機器1は、欠損や割れ等が生じ難く、加工性に優れたものとなる。
手術用機器1の伸び(破断伸び)は、JIS Z 2241に規定された試験方法に準拠して測定される。
また、手術用機器1のヤング率は、150GPa以上であるのが好ましい。このようなヤング率を有する手術用機器1は、使用時において不本意に変形が生じ難くいものとなる。
また、手術用機器1の疲労強度は、250MPa以上であるのが好ましく、350MPa以上であるのがより好ましく、500MPa以上1000MPa以下であるのがさらに好ましい。このような疲労強度を有する手術用機器1は、繰り返し使用されたとしても、疲労クラック等の発生が抑制され、長期にわたって機械的特性を発揮することが可能なものとなる。
なお、手術用機器1の疲労強度は、JIS T 0309に規定された試験方法に準拠して測定される。なお、繰り返し応力に相当する荷重の印加波形は正弦波とし、応力比(最小応力/最大応力)は0.1とする。また、繰り返し周波数は30Hzとし、繰り返し数を1×107回とする。
上述したような構成の手術用機器1は、金属粉末(本発明の粉末冶金用金属粉末)の焼結体で構成されたもの、すなわち粉末冶金法で製造されたものである。
このよう手術用機器1は、例えば鋳造法で製造されたものに比べて、硬度、引張強さ、耐力、伸びといった機械的特性に優れたものとなる。これは、粉末冶金法で製造された手術用機器は、急冷して得られた金属粉末を用いて製造されたものである(体積が小さいため、急冷され易い)ため、鋳造法等に比べて金属結晶の著しい粒成長が生じ難く、そのため、肥大化した金属結晶が生成され難いからであると考えられる。また、粉末冶金法によれば、組成が均質になり易いため、Siや酸化ケイ素の分布も均一になり易い。
手術用機器1の製造に用いられる金属粉末の平均粒径としては、3μm以上100μm以下であるのが好ましく、4μm以上80μm以下であるのがより好ましく、5μm以上60μm以下であるのがさらに好ましい。このような粒径の金属粉末を用いることにより、高密度で耐力等の機械的特性により優れた高い手術用機器1を製造することができる。
なお、平均粒径は、レーザー回折法により、質量基準で累積量が50%になるときの粒径として求められる。
また、金属粉末の平均粒径が前記下限値を下回った場合、金属粉末のかさ密度が低下して粉末冶金における成形性が低下するため、手術用機器1の密度が低下し、機械的特性が低下するおそれがある。一方、金属粉末の平均粒径が前記上限値を上回った場合、粉末冶金において金属粉末の充填性が低下するため、やはり手術用機器1の密度が低下し、機械的特性が低下するおそれがある。また、組成の均一性が損なわれるおそれがある。
また、金属粉末の粒度分布は、できるだけ狭いのが好ましい。具体的には、金属粉末の平均粒径が前記範囲内であれば、最大粒径が200μm以下であるのが好ましく、150μm以下であるのがより好ましい。金属粉末の最大粒径を前記範囲内に制御することにより、金属粉末の粒度分布をより狭くすることができ、手術用機器1の機械的特性のさらなる向上を図ることができる。
なお、上記の最大粒径とは、質量基準で累積量が99.9%となるときの粒径のことをいう。
また、金属粉末の粒子の短径をPS[μm]とし、長径をPL[μm]としたときPS/PLで定義されるアスペクト比の平均値は、0.4以上1以下程度であるのが好ましく、0.7以上1以下程度であるのがより好ましい。このようなアスペクト比の金属粉末は、その形状が比較的球形に近くなるので、圧粉成形された際の充填率が高められる。その結果、機械的特性の高い手術用機器1を得ることができる。
なお、前記長径とは、粒子の投影像においてとりうる最大長さであり、前記短径とは、その最大長さに直交する方向の最大長さである。また、アスペクト比の平均値は、金属粉末の粒子100個以上についての測定値の平均値として求められる。
一方、手術用機器1の断面において、結晶組織の長径をCLとし、短径をCSとしたとき、CS/CLで定義されるアスペクト比の平均値は、0.4以上1以下程度であるのが好ましく、0.5以上1以下程度であるのがより好ましい。このようなアスペクト比の結晶組織は、異方性の小さいものとなるので、加わる力の方向によらず優れた耐力等の機械的特性を示す手術用機器1の実現に寄与する。
なお、前記長径とは、手術用機器1の断面の観察像において1つの結晶組織がとりうる最大長さであり、前記短径とは、その最大長さに直交する方向の最大長さである。また、アスペクト比の平均値は、結晶組織100個以上についての測定値の平均値として求められる。
また、上述したような手術用機器1は、金属粉末(本発明の粉末冶金用金属粉末)の焼結体である。
この手術用機器1の製造に用いられる金属粉末としては、例えば、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法により製造されたものが挙げられる。
このうち、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく用いられ、水アトマイズ法または高速回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましく用いられる。アトマイズ法は、溶融金属(溶湯)を、高速で噴射された流体(液体または気体)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。金属粉末をこのようなアトマイズ法によって製造することにより、極めて微小な粉末を効率よく製造することができる。また、得られる粉末の粒子形状が表面張力の作用により球形状に近くなる。このため、粉末冶金法において金属粉末を成形したとき充填率の高い成形体が得られる。その結果、機械的特性に優れた手術用機器1が得られる。
なお、アトマイズ法として、水アトマイズ法を用いた場合、溶融金属に向けて噴射される水(以下、「アトマイズ水」という。)の圧力は、特に限定されないが、好ましくは75MPa以上120MPa以下(750kgf/cm2以上1200kgf/cm2以下)程度とされ、より好ましくは、90MPa以上120MPa以下(900kgf/cm2以上1200kgf/cm2以下)程度とされる。
また、アトマイズ水の水温も、特に限定されないが、好ましくは1℃以上20℃以下程度とされる。
さらに、アトマイズ水は、溶湯の落下経路上に頂点を有し、外径が下方に向かって漸減するような円錐状に噴射される場合が多い。この場合、アトマイズ水が形成する円錐の頂角θは、10°以上40°以下程度であるのが好ましく、15°以上35°以下程度であるのがより好ましい。これにより、前述したような組成の金属粉末を、確実に製造することができる。
また、水アトマイズ法(特に高速回転水流アトマイズ法)によれば、とりわけ速く溶湯を冷却することができる。このため、機械的特性および被削性に優れ、かつ均質な手術用機器1が得られる。
また、アトマイズ法において溶湯を冷却する際の冷却速度は、1×104℃/s以上であるのが好ましく、1×105℃/s以上であるのがより好ましい。このような急速な冷却により、金属結晶の粒径がとりわけ小さな金属粉末が得られる。
[手術用機器の製造方法]
次に、本発明の手術用機器の製造方法の実施形態について説明する。
次に、本発明の手術用機器の製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態に係る手術用機器の製造方法は、前述した金属粉末(本発明の粉末冶金用金属粉末)を成形し、成形体を得る工程と、この成形体を焼成し、焼結体を得る工程と、を有する。以下、各工程について順次詳述する。
[1]
[1−1]混練工程
まず、金属粉末を有機バインダーとともに混練し、混練物を得る。
[1−1]混練工程
まず、金属粉末を有機バインダーとともに混練し、混練物を得る。
混練物中の有機バインダーの含有率は、成形条件や成形する形状等に応じて適宜設定されるが、混練物全体の2質量%以上20質量%以下程度であるのが好ましく、5質量%以上10質量%以下程度であるのがより好ましい。有機バインダーの含有率を前記範囲内に設定することにより、混練物は良好な流動性を有するものとなる。これにより、成形の際の混練物の充填性が向上し、最終的に目的とする形状により近い形状(ニアネットシェイプ)の手術用機器1が得られる。
有機バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
また、混練物中には、必要に応じて、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物中には、粉末冶金用金属粉末、有機バインダー、可塑剤の他に、例えば、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じて添加することができる。
なお、混練条件は、用いる粉末冶金用金属粉末の金属組成や粒径、有機バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度50℃以上200℃以下程度、混練時間15分以上210分以下程度とすることができる。
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、混練物に代えて、造粒粉末を製造するようにしてもよい。
なお、混練物に代えて、造粒粉末を製造するようにしてもよい。
[1−2]成形工程
次に、混練物を成形して、手術用機器1と同形状の成形体を製造する。
次に、混練物を成形して、手術用機器1と同形状の成形体を製造する。
成形方法としては、特に限定されず、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種成形法を用いることができる。このうち、金属粉末射出成形法が好ましく用いられる。金属粉末射出成形法を用いることで、最終的に、機械的特性に特に優れた手術用機器1を得ることができる。
また、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いる粉末冶金用金属粉末の組成や粒径、有機バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200MPa以上1000MPa以下(2t/cm2以上10t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、金属粉末射出成形法の場合の成形条件は、やはり諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、射出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、やはり諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、押出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
このようにして得られた成形体は、金属粉末の粒子同士の間隙に、有機バインダーが一様に分布した状態となる。
なお、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分を見込んで決定される。
また、必要に応じて、成形体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。成形体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、成形体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高い手術用機器1をより容易に得ることができる。
[2]
[2−1]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
[2−1]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、有機バインダーを分解することにより、成形体中から有機バインダーの少なくとも一部を除去して、脱脂処理がなされる。
この脱脂処理は、例えば、成形体を加熱する方法、バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、有機バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度100℃以上750℃以下×0.1時間以上20時間以下程度であるのが好ましく、150℃以上600℃以下×0.5時間以上15時間以下程度であるのがより好ましい。これにより、成形体を焼結させることなく、成形体の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。その結果、脱脂体の内部に有機バインダー成分が多量に残留してしまうのを確実に防止することができる。
また、成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、大気のような酸化性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
一方、バインダーを分解するガスとしては、例えば、オゾンガス等が挙げられる。
一方、バインダーを分解するガスとしては、例えば、オゾンガス等が挙げられる。
なお、このような脱脂工程は、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うことにより、成形体中の有機バインダーをより速やかに、そして、成形体に残存させないように分解・除去することができる。
また、必要に応じて、脱脂体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。脱脂体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、脱脂体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高い手術用機器1をより容易に得ることができる。
[2−2]焼成工程
前記工程で得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。すなわち、粉末冶金用金属粉末の粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。その結果、焼結体が得られる。
前記工程で得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。すなわち、粉末冶金用金属粉末の粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。その結果、焼結体が得られる。
焼成温度は、粉末冶金用金属粉末の組成や粒径等によって異なるが、一例として900℃以上1400℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1300℃以下程度とされる。
また、焼成時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上6時間以下程度とされる。
なお、焼成工程においては、途中で焼結温度や後述する焼成雰囲気を変化させるようにしてもよい。
また、焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、金属粉末の著しい酸化を防止することを考慮した場合、水素のような還元性ガス雰囲気、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が好ましく用いられる。
また、このようにして得られた焼結体に対し、さらにHIP処理(熱間等方加圧処理)等を施すようにしてもよい。これにより、焼結体のさらなる高密度化を図り、より機械的特性に優れた手術用機器1を得ることができる。
HIP処理の条件としては、例えば、温度が850℃以上1200℃以下、時間が1時間以上10時間以下程度とされる。
また、加圧力は、50MPa以上であるのが好ましく、100MPa以上であるのがより好ましい。
このようにして手術用機器1が得られる。
このようにして手術用機器1が得られる。
なお、必要に応じて、得られた手術用機器1に研磨処理を施すようにしてもよい。研磨処理としては、例えば、バレル研磨、サンドブラスト等が挙げられる。
また、上記では、手術用機器1と同形状の成形体を製造し、その成型体を脱脂、焼成することにより、手術用機器1を得ることについて説明したが、手術用機器1は、例えば、任意の形状(例えば、板状等)の成型体を得て、その成型体を脱脂、焼成することにより得られた焼結体に、機械加工を施すことにより、手術用機器1を得るようにしてもよい。機械加工としては、例えば切削、研削のような機械加工、レーザー加工、電子線加工、ウォータージェット加工、放電加工、プレス加工、押出加工、圧延加工、鍛造加工、曲げ加工、絞り加工、引き抜き加工、転造加工、せん断加工等の加工等が挙げられる。
<第2実施形態>
次に本発明の手術用機器の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の手術用機器の第2実施形態を示す斜視図である。
次に本発明の手術用機器の第2実施形態について説明する。
図2は、本発明の手術用機器の第2実施形態を示す斜視図である。
以下、本発明の手術用機器の第2実施形態について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
第2実施形態は、手術用機器1Aの各部において金属組成が異なること以外は、前記第1実施形態と同様である。
図2に示す手術用機器1Aの一例である手術用ナイフ(メス)2Aは、第1実施形態同様に、柄(把持部)21Aと、柄21Aの端部に設けられた刃22Aとを備えている。
手術用ナイフ(メス)2Aは、柄(把持部)21Aの結晶構造が主としてオーステナイト相で構成されており、刃22Aの結晶構造が主としてマルテンサイト相で構成されている。
具体的には、走査型電子顕微鏡により得られた観察像において、柄21Aでは、オーステナイト相の占める面積率が、50%超となっており、刃22Aでは、マルテンサイト相の占める面積率が、50%超となっている。
なお、図2では、結晶組織が主としてオーステナイト相で構成されている領域(第1の領域)と、結晶組織が主としてマルテンサイト相で構成されている領域(第2の領域)との境界を解り易いよう破線で示す。
前述したように、柄21Aでは、オーステナイト相が支配的であるため、第1実施形態同様に、優れた耐食性を有するとともに、優れた靱性を有する靱性ものとなる。そのため、手術用ナイフ2Aの使用者の手の馴染みがより良好となる。
一方、刃22Aでは、マルテンサイト相が支配的であるため、刃22Aは、柄21よりも硬度が高くなっている。そのため、手術用ナイフ(メス)2Aは、刃22Aの切れ味が特に優れている。また、洗浄処理や滅菌処理を施すことによって繰り返し使用される場合であっても、刃22Aの切れ味の低下を低減することができる。
このように、必要に応じて、手術用機器1Aの任意の箇所を主としてマルテンサイト相で構成された領域とすることで、手術用機器1Aの任意の箇所の硬度をさらに高めることができる。
また、主としてオーステナイト相で構成されている領域では、オーステナイト相の占める面積率が、60%超100%以下であるのが好ましく、80%以上100%以下であるのがより好ましい。これにより、耐食性をさらに高めることができるとともに、靱性に優れたものとなる。
また、主としてマルテンサイト相で構成されている領域では、マルテンサイト相の占める面積率が、10%超70%以下であるのが好ましく、30%以上70%以下であるのがより好ましい。これにより、硬度をより高くすることができ、刃22Aの切れ味をさらに高めることができる。
このように、1つの手術用ナイフ2A内において、結晶組織が主としてオーステナイト相で構成されている領域(第1の領域)と、結晶組織が主としてマルテンサイト相で構成されている領域(第2の領域)とのように、異なる結晶組織を備えることも可能である。
このような手術用ナイフ2Aは、以下のようにして製造することができる。
このような手術用ナイフ2Aは、以下のようにして製造することができる。
まず、全体が、主としてオーステナイト相で構成された手術用ナイフ2Aを製造する。その後、刃22Aの部分にのみ、例えば、ショットブラスト加工等の圧力をかける機械加工を行う。これにより、刃22Aのみが主としてマルテンサイト相で構成された手術用ナイフ2Aを得ることができる。
以上、本発明の手術用機器、粉末冶金用金属粉末および手術用機器の製造方法について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の手術用機器は、前述した手術用ナイフ(メス)、医療用鉗子、医療用ピンセット以外に適用することが可能である。本発明の手術用機器は、手術用薬事法に例示された手術用機器として適用することが可能である。例えば、医療用刀、医療用はさみ、医療用匙、医療用鈎、医療用のこぎり、医療用のみ、医療用剥離子、医療用つち、医療用やすり、医療用てこ、医療用絞断器等に適用することが可能である。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.テストピースの製造
(サンプルNo.1)
[1]まず、表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、水アトマイズ法により粉末化して金属粉末を得た。次いで、目開き150μmの標準ふるいを用いて分級した。なお、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分析装置(スパーク発光分析装置)、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。また、C(炭素)の定量分析には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200を用いた。
1.テストピースの製造
(サンプルNo.1)
[1]まず、表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、水アトマイズ法により粉末化して金属粉末を得た。次いで、目開き150μmの標準ふるいを用いて分級した。なお、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分析装置(スパーク発光分析装置)、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。また、C(炭素)の定量分析には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200を用いた。
[2]次に、金属粉末と、ポリプロピレンおよびワックスの混合物(有機バインダー)とを、質量比で9:1となるように秤量して混合し、混合原料を得た。
[3]次に、この混合原料を混練機で混練し、混練物を得た。
[3]次に、この混合原料を混練機で混練し、混練物を得た。
[4]次に、この混練物を、以下に示す成形条件で、射出成形機で成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
[5]次に、この成形体を以下の脱脂条件で脱脂し、脱脂体を得た。
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
[5]次に、この成形体を以下の脱脂条件で脱脂し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・加熱温度 :470℃
・加熱時間 :1時間
・加熱雰囲気:窒素雰囲気
・加熱温度 :470℃
・加熱時間 :1時間
・加熱雰囲気:窒素雰囲気
[6]次に、得られた脱脂体を、以下の焼成条件で焼成し、焼結体を得た。
<焼成条件>
・加熱温度 :1300℃
・加熱時間 :3時間
・加熱雰囲気:アルゴン雰囲気
<焼成条件>
・加熱温度 :1300℃
・加熱時間 :3時間
・加熱雰囲気:アルゴン雰囲気
[7]次に、得られた焼結体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
(サンプルNo.2〜13)
製造条件を表1に示す条件に変更した以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
製造条件を表1に示す条件に変更した以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
(サンプルNo.14、15)
表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
(サンプルNo.16〜18)
製造条件を表1に示す条件に変更した以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
製造条件を表1に示す条件に変更した以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
(サンプルNo.19〜21)
表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
表1に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
(サンプルNo.22)
[1]まず、表2に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、水アトマイズ法により粉末化して金属粉末を得た。次いで、目開き150μmの標準ふるいを用いて分級した。なお、Nは、Crに結合させた状態(窒化クロムの状態)で原材料に含ませた。また、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分析装置(スパーク発光分析装置)、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。また、C(炭素)の定量分析には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200を用いた。さらに、N(窒素)の定量分析には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC−300/EF−300を用いた。
[1]まず、表2に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融するとともに、水アトマイズ法により粉末化して金属粉末を得た。次いで、目開き150μmの標準ふるいを用いて分級した。なお、Nは、Crに結合させた状態(窒化クロムの状態)で原材料に含ませた。また、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分析装置(スパーク発光分析装置)、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。また、C(炭素)の定量分析には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200を用いた。さらに、N(窒素)の定量分析には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC−300/EF−300を用いた。
[2]次に、金属粉末と、ポリプロピレンおよびワックスの混合物(有機バインダー)とを、質量比で9:1となるように秤量して混合し、混合原料を得た。
[3]次に、この混合原料を混練機で混練し、混練物を得た。
[4]次に、この混練物を、以下に示す成形条件で、射出成形機で成形し、成形体を作製した。
[4]次に、この混練物を、以下に示す成形条件で、射出成形機で成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
[5]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・脱脂温度 :470℃
・脱脂時間 :1時間
・脱脂雰囲気:窒素雰囲気
・脱脂温度 :470℃
・脱脂時間 :1時間
・脱脂雰囲気:窒素雰囲気
[6]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、焼結体を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1300℃
・焼成時間 :3時間
・焼成雰囲気:アルゴン雰囲気
・焼成温度 :1300℃
・焼成時間 :3時間
・焼成雰囲気:アルゴン雰囲気
[7]次に、得られた焼結体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
(サンプルNo.23〜35)
製造条件を表2に示す条件にした以外は、それぞれサンプルNo.22と同様にしてテストピースを得た。
製造条件を表2に示す条件にした以外は、それぞれサンプルNo.22と同様にしてテストピースを得た。
(サンプルNo.36〜39)
原材料を高周波誘導炉で溶融する際、溶融金属中に窒素ガスを注入した。この際、注入時間を適宜変更することにより、Nの含有率を変えるようにした。
原材料を高周波誘導炉で溶融する際、溶融金属中に窒素ガスを注入した。この際、注入時間を適宜変更することにより、Nの含有率を変えるようにした。
そして、それ以外の製造条件を表2に示すようにした以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
(サンプルNo.40〜43)
まず、Nを含まない原材料を用いて、それぞれサンプルNo.1と同様にして金属粉末を得た。
まず、Nを含まない原材料を用いて、それぞれサンプルNo.1と同様にして金属粉末を得た。
次に、この金属粉末を用いるとともに、焼成条件の加熱雰囲気をアルゴン50体積%と窒素50体積%の混合ガス雰囲気に替えるようにした以外は、それぞれサンプルNo.1と同様に焼結体を得た。この際、窒素ガスの分圧を適宜変更することにより、金属粉末中に含まれるNの含有率を変えるようにした。
そして、それ以外の製造条件を表1に示すようにした以外は、それぞれサンプルNo.1と同様にしてテストピースを得た。
(サンプルNo.44〜46)
表2に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
表2に示す合金組成の原材料を高周波誘導炉で溶融した後、鋳型に溶融金属を流し込み、それぞれ鋳造体を得た。次いで、得られた鋳造体に対し、バレル研磨処理を施した。これにより、テストピースを得た。
また、各表においては、各サンプルNo.のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」と示した。
2.テストピースの評価
2.1 全Si量および酸化ケイ素として含まれるSiの含有率の測定
各サンプルNo.のテストピースについて、重量法およびICP発光分法により、全Si量および酸化ケイ素として含まれるSiの含有率を測定した。測定結果を表3、4に示す。
2.1 全Si量および酸化ケイ素として含まれるSiの含有率の測定
各サンプルNo.のテストピースについて、重量法およびICP発光分法により、全Si量および酸化ケイ素として含まれるSiの含有率を測定した。測定結果を表3、4に示す。
2.2 X線回折法による結晶構造の評価
各サンプルNo.のテストピースについて、X線回折法による結晶構造解析に供した。そして、得られたX線回折パターンに含まれていた各ピークの高さや位置を、ICDDカードに掲載されたデータベースと照合することにより、テストピースに含まれる結晶構造の同定を行った。その上で、Coに起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたときの、Co3Moに起因するピークのうち最も高いピークの高さの比率を算出した。算出結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースについて、X線回折法による結晶構造解析に供した。そして、得られたX線回折パターンに含まれていた各ピークの高さや位置を、ICDDカードに掲載されたデータベースと照合することにより、テストピースに含まれる結晶構造の同定を行った。その上で、Coに起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたときの、Co3Moに起因するピークのうち最も高いピークの高さの比率を算出した。算出結果を表3、4に示す。
2.3 デンドライト相および結晶組織のアスペクト比の評価
各サンプルNo.のテストピースを切断し、その切断面を研磨した。次いで、得られた研磨面を走査型電子顕微鏡で観察して観察像上において樹枝状組織がどの程度存在しているかどうかを確認することにより、デンドライト相の存在の程度を以下の評価基準にしたがって評価した。
各サンプルNo.のテストピースを切断し、その切断面を研磨した。次いで、得られた研磨面を走査型電子顕微鏡で観察して観察像上において樹枝状組織がどの程度存在しているかどうかを確認することにより、デンドライト相の存在の程度を以下の評価基準にしたがって評価した。
<デンドライト相の評価基準>
◎:デンドライト相がほとんど存在しない
○:デンドライト相がわずかに存在する(面積率10%以下)
△:デンドライト相がやや多く存在する(面積率10%超20%以下)
×:デンドライト相が非常に多く存在する(面積率20%超)
◎:デンドライト相がほとんど存在しない
○:デンドライト相がわずかに存在する(面積率10%以下)
△:デンドライト相がやや多く存在する(面積率10%超20%以下)
×:デンドライト相が非常に多く存在する(面積率20%超)
また、得られた研磨面を走査型電子顕微鏡で観察し、観察像上において結晶組織のアスペクト比の平均値を算出した。
以上の評価結果を表3、4に示す。
以上の評価結果を表3、4に示す。
2.4 ビッカース硬度の測定
各サンプルNo.のテストピースの表面について、ビッカース硬度を測定した。測定した結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースの表面について、ビッカース硬度を測定した。測定した結果を表3、4に示す。
2.5 耐食性の評価
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 6118に規定された貴金属材料の耐食性の試験方法に準拠して溶出金属イオン量を測定した。
そして、測定した結果を、以下の評価基準に基づいて評価した。
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 6118に規定された貴金属材料の耐食性の試験方法に準拠して溶出金属イオン量を測定した。
そして、測定した結果を、以下の評価基準に基づいて評価した。
<耐食性の評価基準>
◎:耐食性が非常に大きい(溶出金属イオン量が非常に少ない)
○:耐食性が大きい(溶出金属イオン量が少ない)
△:耐食性が小さい(溶出金属イオン量が多い)
×:耐食性が非常に小さい(溶出金属イオン量が非常に多い)
以上の評価結果を表3、4に示す。
◎:耐食性が非常に大きい(溶出金属イオン量が非常に少ない)
○:耐食性が大きい(溶出金属イオン量が少ない)
△:耐食性が小さい(溶出金属イオン量が多い)
×:耐食性が非常に小さい(溶出金属イオン量が非常に多い)
以上の評価結果を表3、4に示す。
2.6 0.2%耐力、伸びおよびヤング率の測定
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 6118に規定された貴金属材料の機械的性質の試験方法に準拠して0.2%耐力および伸びを測定した。
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 6118に規定された貴金属材料の機械的性質の試験方法に準拠して0.2%耐力および伸びを測定した。
また、JIS T 6004に規定された金属材料の試験方法に準拠してヤング率を求めた。
測定した結果を表3、4に示す。
測定した結果を表3、4に示す。
2.7 疲労強度の測定
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 0309に規定された試験方法に準拠した疲労強度を測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースについて、JIS T 0309に規定された試験方法に準拠した疲労強度を測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
2.8 表面粗さの測定
各サンプルNo.のテストピースについて、触針式の表面粗さ計により表面の算術平均粗さRaを測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースについて、触針式の表面粗さ計により表面の算術平均粗さRaを測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
2.9 マルテンサイト相の評価
2.9.1 X線回折によるマルテンサイト相の評価
各サンプルNo.のテストピースについて、X線回折法による結晶構造解析に供した。そして、得られたX線回折パターンに含まれていた各ピークの高さや位置を、ICDDカードに掲載されたデータベースと照合することにより、テストピースに含まれる結晶構造の同定を行った。その上で、オーステナイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたときの、マルテンサイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さの比率を算出した。算出結果を表3、4に示す。
2.9.1 X線回折によるマルテンサイト相の評価
各サンプルNo.のテストピースについて、X線回折法による結晶構造解析に供した。そして、得られたX線回折パターンに含まれていた各ピークの高さや位置を、ICDDカードに掲載されたデータベースと照合することにより、テストピースに含まれる結晶構造の同定を行った。その上で、オーステナイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたときの、マルテンサイト相に起因するピークのうち最も高いピークの高さの比率を算出した。算出結果を表3、4に示す。
2.9.2 走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶解析(EBSD)のによるマルテンサイト相の評価
各サンプルNo.のテストピースについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶解析(EBSD)に供し、得られた観察像上におけるマルテンサイト相の面積率[%]を算出した。算出結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースについて、走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶解析(EBSD)に供し、得られた観察像上におけるマルテンサイト相の面積率[%]を算出した。算出結果を表3、4に示す。
2.10 磁化率の測定
各サンプルNo.のテストピースについて、磁化率[cm3/g]を測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
各サンプルNo.のテストピースについて、磁化率[cm3/g]を測定した。
測定した結果を表3、4に示す。
表3、4から明らかなように、各実施例に相当するテストピースは、0.2%耐力が高くかつ耐食性に優れていることが認められた。また、疲労強度やヤング率等も、比較的大きいことが認められた。したがって、各実施例の相当するテストピースは、耐力等の機械的特性および耐食性に優れているといえる。このようなことから、各実施例の相当するテストピースは、繰り返し使用によっても機械的特性が特に劣化しにくく、長期にわたってより優れた機械的特性を発揮することができると考えられる。
一方、各比較例に相当するテストピースは、耐食性および機械的特性が低いことが認められた。
3.N濃度と硬度との関係の評価
まず、表5に示す合金組成を有する各サンプルNo.47〜53のテストピースを製造した。
まず、表5に示す合金組成を有する各サンプルNo.47〜53のテストピースを製造した。
次いで、前述した「2.4 ビッカース硬度の測定」の要領で、各サンプルNo.47〜53のテストピースのビッカース硬度を測定した。測定結果を表5および図3に示す。
表5および図3から明らかなように、テストピース中のN濃度とビッカース硬度との間には、特定のN濃度で硬度が極小となる関係性が認められた。硬度が適度に小さくなるとき、テストピースの靭性が高くなり、引張強さや耐力等の向上が見られる。硬度が極小値近傍では、硬度と耐力とのバランスが良好な手術用機器を得ることができる。
1、1A……手術用機器
2、2A……手術用ナイフ(メス)
21、21’、21A……柄(把持部)
22、22’、22A……刃
2……使い捨て手術用ナイフ(メス)
3……医療用鉗子
31……把持部
32……挟持部
4……医療用ピンセット
41……把持部
42……挟持部
2、2A……手術用ナイフ(メス)
21、21’、21A……柄(把持部)
22、22’、22A……刃
2……使い捨て手術用ナイフ(メス)
3……医療用鉗子
31……把持部
32……挟持部
4……医療用ピンセット
41……把持部
42……挟持部
Claims (11)
- Coが主成分であり、
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれ、
金属粉末の焼結体で構成されていることを特徴とする手術用機器。 - 前記Siのうちの一部は酸化ケイ素として含まれており、
前記Siのうちの前記酸化ケイ素として含まれるSiの比率は、20質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の手術用機器。 - CuKα線を用いたX線回折法により得られたX線回折パターンにおいて、
オーステナイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さを1としたとき、マルテンサイト相の起因するピークのうち最も高いピークの高さは、0.01以上0.5以下である請求項1または2に記載の手術用機器。 - 走査型電子顕微鏡(SEM)による結晶解析(EBSD)により得られた観察像において、
マルテンサイト相で構成されている領域の面積率が、10%以上70%以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の手術用機器。 - さらに、Nが0.09質量%以上0.5質量%以下の割合で含まれている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の手術用機器。
- 前記Siの含有率に対する前記Nの含有率の割合は、0.1以上0.8以下である請求項5に記載の手術用機器。
- 前記金属粉末の平均結晶粒径は、1μm以上50μm以下である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の手術用機器。
- 磁化率が、1.0×10−6[cm3/g]以上10.0×10−6[cm3/g]以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の手術用機器。
- 主としてオーステナイト相で構成されている第1の領域と、
主としてマルテンサイト相で構成されている第2の領域と、を有する請求項1ないし8のいずれか1項に記載の手術用機器。 - Coが主成分であり、
Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、
Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、
Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれ、
手術用機器の製造に用いられることを特徴とする粉末冶金用金属粉末。 - Coが主成分であり、Crが26質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、Moが5質量%以上12質量%以下の割合で含まれ、Siが0.3質量%以上2.0質量%以下の割合で含まれる金属粉末を、金属粉末射出成形法により成形し、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成し、焼結体を得る工程と、
を有することを特徴とする手術用機器の製造方法。
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