以下、本発明の粉末冶金用金属粉末、コンパウンド、造粒粉末および焼結体について、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
[粉末冶金用金属粉末]
まず、本発明の粉末冶金用金属粉末の実施形態について説明する。
粉末冶金では、粉末冶金用金属粉末とバインダーとを含む組成物を、所望の形状に成形した後、脱脂、焼成することにより、所望の形状の焼結体を得ることができる。このような粉末冶金技術によれば、その他の冶金技術に比べ、複雑で微細な形状の焼結体をニアネットシェイプ(最終形状に近い形状)で製造することができる。
粉末冶金に用いられる粉末冶金用金属粉末では、従来、その組成を適宜変えることにより、製造される焼結体の高密度化を図る試みがなされてきた。しかしながら、焼結体には空孔が形成され易いため、溶製材と同等の機械的特性を得るには、焼結体においてさらなる高密度化を図る必要があった。
例えば、従来、得られた焼結体に対し、さらに熱間等方加圧処理(HIP処理)等の追加処理を施すことにより、高密度化を図ることがあった。しかしながら、このような追加処理は、多くの手間やコストを伴うため、焼結体の用途を広げる際の足かせとなる。
上記のような問題に鑑み、本発明者は、追加処理を施すことなく、高密度の焼結体を得るための条件について鋭意検討を重ねた。その結果、金属粉末に含まれる各粒子の化学組成および結晶組織を最適化することにより、焼結体の高密度化が図られることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本実施形態に係る粉末冶金用金属粉末は、Coが主成分であり、Crが10質量%以上35質量%以下の割合で含まれ、Siが0.2質量%以上3質量%以下の割合で含まれ、後述する第1元素が0.01質量%以上0.5質量%以下の割合で含まれ、後述する第2元素が0.01質量%以上0.5質量%以下の割合で含まれている化学組成を有する粒子を含んでいる。また、この粒子は、互いに異なる結晶組織として、第1領域と、第1領域よりも体積が大きい第2領域と、を含んでいる。さらに、これらの第1領域および第2領域は、第1領域について取得されたEDXスペクトルのうち、5.3keV以上5.5keV以下の範囲内に含まれるCrのピークの高さを第1Cr強度とし、1.6keV以上1.8keV以下の範囲内に含まれるSiのピークの高さを第1Si強度とし、第2領域について取得されたEDXスペクトルのうち、5.3keV以上5.5keV以下の範囲内に含まれるCrのピークの高さを第2Cr強度とし、1.6keV以上1.8keV以下の範囲内に含まれるSiのピークの高さを第2Si強度としたとき、(第1Si強度/第1Cr強度)>(第2Si強度/第2Cr強度)の関係を満たす。
このような粒子を含む粉末冶金用金属粉末によれば、焼成工程において粒子同士が焼結する際に、その焼結が促進されることとなり、緻密化が進行する。その結果、追加処理を施すことなく十分に高密度の焼結体を製造することができる。
そして、このような焼結体は、機械的特性に優れたものとなる。このため、例えば機械部品や構造部品といった外力が加わる用途にも焼結体を幅広く適用することができる。
なお、第1元素とは、Ti、V、Y、Zr、Nb、HfおよびTaの7元素からなる群から選択される1種の元素であり、第2元素とは、前記7元素からなる群から選択される1種の元素であってかつ元素周期表における族が第1元素よりも大きい元素、または、前記7元素からなる群から選択される1種の元素であるとともに第1元素として選択された元素と元素周期表における族が同じ元素であってかつ元素周期表における周期が第1元素よりも大きい元素である。
以下、本実施形態に係る粉末冶金用金属粉末の構成についてさらに詳述する。なお、以下の説明では、粉末冶金用金属粉末を単に「金属粉末」ともいい、粉末冶金用金属粉末を構成する多数の粒子のそれぞれを単に「粒子」ともいう。
図1は、本発明の粉末冶金用金属粉末の実施形態に含まれる粒子の断面を模式的に示す図であり、図2は、図1に示す粒子の組織を模式的に示す図である。
図1に示す粒子1は、Co基合金で構成されている。そして、粒子1は、互いに異なる組織として、図2に示すように、第1領域11と、第2領域12と、を含んでいる。
このうち、第2領域12は、粒子1に1つ以上含まれていればよい。図2では、一例として、粒子1に4つの第2領域12が含まれている例を図示している。
また、この第2領域12は、それぞれが単結晶であり、粒子1全体では多結晶になっている。なお、第2領域12同士の境界は、線状の粒界3によって区切られている。
粒子1の断面に含まれる第2領域12の平均数は、特に限定されないが、1個以上20個以下であるのが好ましく、1個以上10個以下であるのがより好ましい。このような粒子1は、それ全体が単結晶あるいは単結晶に近い多結晶であると言え、焼成に供されたときには、単結晶を焼成に供したのと同等の振る舞いを示す。したがって、粉末冶金用金属粉末が焼成されたときには、単結晶に由来する優れた焼結速度により焼結が進行する。その結果、内在する空隙が少なく、相対密度の高い焼結体を製造することができる。
なお、粒子1の断面における第2領域12の平均数は、金属粉末に含まれる10個以上の粒子1を観察対象としてそれらの断面を電子顕微鏡で観察し、1つの粒子1の中に含まれている第2領域12の数を、観察像を目視することによって数えるとともに、その数を観察対象全体で平均した値である。第1領域11および第2領域12は、電子顕微鏡の観察像において濃淡の差を伴っているため、それに基づいて。粒子1の断面に異なる組織が存在していることがわかる。
電子顕微鏡には、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)が用いられ、明視野像にて観察したとき、粒子1の断面の大部分を占める組織として第2領域12を特定することが可能である。また、明視野像では第2領域12を明確に特定し難いときには、暗視野像に切り替えることによって特定が容易になる場合がある。
また、第2領域12の円相当径(第2領域12の断面と同じ面積を持つ円の直径)は、粒子1の円相当径(粒子1の断面と同じ面積を持つ円の直径)の1%以上100%未満であるのが好ましく、3%以上99.9%以下であるのがより好ましい。粒子1の円相当径に対する第2領域12の円相当径の割合が前記範囲内であることにより、第2領域12は、焼成に供されたときの粒子1の焼結性において支配的に振る舞うことができる。すなわち、粒子1は、あたかも単結晶粒子のように振る舞うため、焼結速度が大きくなり、焼結密度の向上に大きく寄与することになる。
また、第2領域12は、Coを主成分とする結晶である。そして、第2領域12は、粒子1の断面の大部分(面積比で90%以上)を占めている。したがって、第2領域12が粒子1(粉末冶金用金属粉末)およびこの粒子1から製造される焼結体の特性を左右する。
一方、第1領域11も、粒子1に1つ以上含まれていればよい。図3では、一例として、図2の範囲A内に1つの第1領域11が含まれている例を図示している。
図3に示す範囲Aには、第2領域12よりも体積が小さい第1領域11が存在している。このような第1領域11が存在していることにより、粒子1を含む金属粉末を用いて製造された焼結体は、相対密度が高く、かつ、機械的特性に優れたものとなる。
また、第1領域11は、第2領域12の内部に存在していてもよいが、第2領域12同士の境界、すなわち粒界3に存在しているのが好ましい。これにより、粒子1の焼結速度が第1領域11によって妨げられ難くなるため、特に相対密度の高い焼結体を製造することができる。
また、粒子1の断面における第1領域11の形状は、特に限定されず、いかなる形状であってもよいが、好ましくは円形、多角形状またはこれらに準じた形状であるのが好ましい。このような形状の第1領域11が含まれていることにより、粒子1は、より焼結性に優れたものとなり、かかる粒子1を含む金属粉末を用いて製造された焼結体は、より相対密度が高いものとなる。
また、第1領域11の形状は、換言すると、アスペクト比が小さい形状であることが好ましい。具体的には、第1領域11の長径/短径で定義されるアスペクト比の平均値が1以上3以下であるのが好ましく、1以上2以下であるのがより好ましい。このような形状の第1領域11が含まれていることにより、上記と同様、粒子1は、より焼結性に優れたものとなり、かかる粒子1を含む金属粉末を用いて製造された焼結体は、より相対密度が高いものとなる。
なお、第1領域11の長径とは、第1領域11においてとり得る最大長さのことであり、短径とは、長径に直交する方向においてとり得る最大長さのことである。
また、第1領域11については、定性分析の面分析により、その大きさや分布等を特定することもできる。具体的には、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるSiの組成像において、Siが偏析している領域を見出すことによって、第1領域11の存在を特定することができる。
1つの粒子1における第1領域11の円相当径(第1領域11の断面と同じ面積を持つ円の直径)の最大値(最大径)は、特に限定されないが、5nm以上150nm以下であるのが好ましく、10nm以上120nm以下であるのがより好ましい。第1領域11の最大径が前記範囲内であれば、第1領域11の大きさが前述したような各効果を奏するにあたって最適なものとなる。すなわち、第1領域11の最大径が前記下限値を下回ると、第1領域11の大きさが不十分なため、粒子1が焼成されたときに結晶の肥大化を抑制するという効果が十分に得られないおそれがあり、一方、第1領域11の最大径が前記上限値を上回ると、焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。
なお、第1領域11の最大径は、Siの組成像において、Siが偏析している領域の面積と同じ面積を持つ円の直径(投影面積円相当径)の最大値として求めることができる。
ところで、第1領域11および第2領域12は、それぞれEDXスペクトルが取得されたとき、後述する関係を満たしている。
まず、第1領域11について取得されたEDXスペクトルのうち、5.3keV以上5.5keV以下の範囲内に含まれるCrのピークの高さを第1Cr強度とし、1.6keV以上1.8keV以下の範囲内に含まれるSiのピークの高さを第1Si強度とする。
また、第2領域12について取得されたEDXスペクトルのうち、5.3keV以上5.5keV以下の範囲内に含まれるCrのピークの高さを第2Cr強度とし、1.6keV以上1.8keV以下の範囲内に含まれるSiのピークの高さを第2Si強度とする。
このとき、粒子1は、下記の式[1]を満足する。
第2Si強度/第2Cr強度 < 第1Si強度/第1Cr強度 [1]
また、粒子1は、好ましくは下記の式[2]を満足し、より好ましくは下記の式[3]を満足する。
第2Si強度/第2Cr強度 < 第1Si強度/第1Cr強度 <1 [2]
1.5×第2Si強度/第2Cr強度 < 第1Si強度/第1Cr強度 <0.8 [3]
上記関係を満足することにより、第1領域11は、粒子1が焼成に供されたとき、第2領域12が著しく成長するのを抑制するように作用する。その結果、焼結体中に空孔が生じ難くなるとともに、結晶粒の肥大化が抑制され、高密度でかつ機械的特性の高い焼結体が得られる。
ここで、図4(a)は、粒子1の断面のTEM像(明視野像)の一例であり、図4(b)は、図4(a)に示す粒子1の断面のTEM像(暗視野像)の一例である。
図4(a)に示すTEM像(明視野像)には、粒子1に含まれた2つの第2領域12が写っている。また、図4(a)に矢印で指し示す濃淡の差に基づく線は、2つの第2領域12同士の境界に位置する粒界3である。
また、図4(b)に示すTEM像(暗視野像)には、2つの第2領域12のうち、左方に位置している1つの第2領域12が淡色で写っている一方、右方に位置している1つの第2領域12が濃色で写っている。このように暗視野像で第2領域12を観察することにより、結晶の方位の違いに基づき、2つの第2領域12間のコントラストを強めることができる。
さらに、図5は、図4(a)に示す破線で囲まれた範囲Bの部分拡大図であって、同範囲Bを高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡で観察したときの観察像である。また、図5に矢印で指し示す濃色の部分は、それぞれ第1領域11である。なお、図5に写っている2つの第1領域11のうち、一方は第2領域12内に位置し、他方は粒界3に位置している。
また、図6は、図5に示す第1領域11について取得されたEDXスペクトルであって、図5に示す第1領域11に対応する位置(図6のPosition1)に対する点分析によって得られたスペクトルである。さらに、図7は、図5に示す第2領域12について取得されたEDXスペクトルであって、図5に示す第2領域12に対応する位置(図7のPosition2)に対する点分析によって得られたスペクトルである。
これらのEDXスペクトルの例に示すように、第1領域11について取得されたEDXスペクトルにおける第1Si強度/第1Cr強度は、第2領域12について取得されたEDXスペクトルにおける第2Si強度/第2Cr強度よりも大きくなっている。第1領域11に高濃度で集積しているSiは、酸化ケイ素等の状態で含有されていると考えられる。このため、粒子1が焼成に供されたとき、成長しようとする結晶同士の間に第1領域11が介在することにより、それ以上結晶が成長するのを抑制することができる。その結果、焼結体中に空孔が生じ難くなるとともに、結晶粒の肥大化が抑制され、高密度でかつ機械的特性の高い焼結体が得られる。
なお、第1Si強度/第1Cr強度が第2Si強度/第2Cr強度と同等、あるいは、第2Si強度/第2Cr強度より小さい場合には、第1領域11にSiが高濃度で集積している状態にはならないので、粒子1が焼成に供されたとき、結晶の肥大化が生じるおそれがある。その結果、焼結体中に空孔が生じたり、結晶粒の肥大化を招いたりするおそれがある。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末を用いて製造された焼結体は、デンドライト相をできるだけ含んでいないのが好ましい。
ここで、デンドライト相は、樹枝状に成長した結晶組織のことであるが、このようなデンドライト相が多量に含まれると焼結体の機械的特性が低下する。したがって、デンドライト相の含有率を小さくすることは、焼結体の機械的特性を高めるにあたって有効である。具体的には、焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた観察像においてデンドライト相が占める面積率が20%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましい。このような条件を満足する焼結体は、機械的特性において特に優れたものとなる。
なお、上述した面積率は、観察像の面積に対するデンドライト相が占める面積の割合として算出され、観察像の一辺は50μm以上1000μm以下程度に設定される。
以下、粒子1の化学組成の一例についてさらに詳述する。
粒子1の全体の化学組成において、Coは最も含有率が高い元素(主成分)であり、焼結体の特性を左右する元素である。粒子1全体におけるCoの含有率は50質量%以上である。
(Cr)
Cr(クロム)は、製造される焼結体に耐食性を付与する元素であり、Crを含む金属粉末を用いることで、長期にわたって高い機械的特性を維持し得る焼結体が得られる。このため、例えば得られた焼結体が皮膚と接触した場合でも金属イオンがより溶出し難くなるため、生体への適合性をより高めた焼結体が得られる。
金属粉末におけるCrの含有率は、10質量%以上35質量%以下とされるが、好ましくは16質量%以上34質量%以下とされ、より好ましくは28質量%以上33質量%以下とされる。Crの含有率が前記下限値を下回ると、全体の組成によっては、製造される焼結体の耐食性が不十分になる。一方、Crの含有率が前記上限値を上回ると、全体の組成によっては、焼結性が低下し、焼結体の高密度化が困難になる。
(Mo)
本発明の粉末冶金用金属粉末は、必要に応じてMo(モリブデン)を含んでいてもよい。
Moは、製造される焼結体の耐食性をより高めるように作用する元素である。すなわち、Moの添加によってCrの添加による耐食性をより強化することができる。これは、Moを添加することにより、Crの酸化物を主材料とする不働態被膜をより緻密化されるためであると考えられる。したがって、Moが添加された金属粉末を用いて製造された焼結体は、さらに金属イオンが溶出し難くなり、生体への適合性をさらに高めた焼結体が得られる。
金属粉末におけるMoの含有率は、好ましくは3質量%以上12質量%以下とされ、より好ましくは4質量%以上11質量%以下とされ、さらに好ましくは5質量%以上9質量%以下とされる。Moの含有率が前記下限値を下回ると、CrやSiの含有量によっては、CrやSiに対するMoの量が相対的に多くなり過ぎて、含有元素のバランスが崩れるため、焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。
(Si)
Si(ケイ素)は、製造される焼結体の機械的特性を高めるように作用する元素である。Siの添加によって合金中には、Siの一部が酸化した酸化ケイ素が生成される。酸化ケイ素としては、SiO、SiO2等が挙げられる。このような酸化ケイ素は、金属粉末の焼結時において金属結晶が成長する際に、金属結晶が著しく肥大化するのを抑制する。このため、Siが添加された合金では、金属結晶の粒径が小さく抑えられることとなり、焼結体の機械的特性をより高めることができる。特に、Si原子が置換型元素としてCo原子を置換することにより、結晶構造がやや歪み、ヤング率が高くなる。したがって、Siを添加することにより、優れた機械的特性、特に優れたヤング率を得ることができる。その結果、より高い耐変形性を有する焼結体が得られる。
金属粉末におけるSiの含有率は、0.2質量%以上3質量%以下とされるが、0.3質量%以上2質量%以下であるのが好ましく、0.6質量%以上0.9質量%以下であるのがより好ましい。Siの含有率が前記下限値を下回ると、焼成条件によっては、酸化ケイ素の量が少なくなり過ぎるため、金属粉末の焼結時において金属結晶が肥大し易くなるおそれがある。一方、Siの含有率が前記上限値を上回ると、焼成条件によっては、酸化ケイ素の量が多くなり過ぎるため、酸化ケイ素が空間的に連続して分布する領域が生じ易くなる。この領域では、機械的特性が低下する可能性が高くなる。
また、Siのうちの一部は、前述したように酸化ケイ素の状態で存在していることが好ましいが、その存在量は、Siの全量に対して酸化ケイ素として含まれるSiの比率が10質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、20質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、30質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましく、35質量%以上65質量%以下であるのが特に好ましい。全Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、焼結体には、上述したような機械的特性の向上といった効果がもたらされる一方、酸化ケイ素が一定量存在していることにより、この焼結体の内部に含まれるCo、Cr、Moといった遷移金属元素の酸化物量を十分に抑えることができる。これはすなわち、Siが、Co、CrおよびMoよりも酸化し易く、これらの遷移金属元素に結合している酸素をSiが奪うことによって還元反応を生じさせることが可能であるから、Siの全量が酸化ケイ素でないということは、遷移金属元素に対して十分な還元反応を生じさせたことに等しいと考えられるからである。したがって、Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率が前記範囲内であることにより、焼結体では、上述したような高い機械的特性といった効果が、Co、CrまたはMoの酸化物によって阻害されることが抑制される。その結果、より信頼性の高い焼結体の実現が図られる。
加えて、一定量の酸化ケイ素は、焼結体の表面において、酸化クロムや酸化モリブデンとともに化学的に安定な被膜を形成することに寄与すると考えられる。このため、焼結体の表面には化学的安定性が付与され、焼結体の耐食性をより高めることにつながる。
また、Siのうちの酸化ケイ素として含まれるSiの比率を前記範囲内に設定することで、焼結体に対して適度な硬度が与えられることとなる。すなわち、酸化ケイ素でないSiが一定量存在することにより、Co、CrおよびMoのうちの少なくとも1種とSiとが硬質の金属間化合物を生成し、これが焼結体の硬度を高めると考えられる。焼結体の硬度が高くなることで、耐久性や耐摩耗性を高めることができる。
この金属間化合物としては、特に限定されないが、一例を挙げると、CoSi2、Cr3Si、MoSi2、Mo5Si3等が挙げられる。
なお、金属間化合物の析出量を考慮すると、Moの含有率に対するSiの含有率の割合(Si/Mo)は、質量比で0.05以上0.2以下であるのが好ましく、0.08以上0.15以下であるのがより好ましい。これにより、焼結体に対してより高い機械的特性(例えば硬度と靭性との良好なバランス)を付与することができる。
また、酸化ケイ素は、前述したように第1領域11に高濃度で含まれるが、第1領域11が粒界3に位置していると、第1領域11同士が自ずと適度な距離、すなわち第2領域12の大きさに対応する距離を保つことになる。このため、焼結体中において第1領域11に由来する組織をより均一に分散させることができる。その結果、第1領域11に由来する組織が空間的に連続して分布する確率が低下することとなり、焼結体の機械的特性の低下を避けることができる。
(N)
本発明の粉末冶金用金属粉末は、必要に応じてN(窒素)を含んでいてもよい。
Nは、製造される焼結体の機械的特性を高めるように作用する元素である。Nはオーステナイト化元素であるので、焼結体の結晶構造のオーステナイト化(面心立方格子化)を促進し、靭性を高めるように作用する。
また、Nを含むことにより、焼結体ではデンドライト相の生成が抑えられ、デンドライト相の含有率が非常に小さくなる。このような観点からも、靭性を高めることができる。
したがって、得られる焼結体は、適度な硬度を有するとともに、靭性が高く、かつ、デンドライト相の含有率が小さいものとなる。このため、かかる焼結体は、耐衝撃性等にも富んだものとなる。
金属粉末におけるNの含有率は、0.09質量%以上0.5質量%以下であるのが好ましく、0.12質量%以上0.4質量%以下であるのがより好ましく、0.14質量%以上0.25質量%以下であるのがさらに好ましく、0.15質量%以上0.22質量%以下であるのが特に好ましい。Nの含有率が前記下限値を下回ると、合金の組成によっては、焼結体の結晶構造のオーステナイト化が不十分になり、焼結体の靭性が低下し易くなるおそれがある。これは、焼結体中に過度のhcp構造(ε相)が析出するためであると考えられる。一方、Nの含有率が前記上限値を上回ると、合金の組成によっては、各種の窒化物が多量に生成されるとともに、焼結し難い組成になるおそれがある。このため、焼結体の焼結密度が低下し、耐食性や機械的特性が低下するおそれがある。生成される窒化物としては、例えばCr2N等が挙げられる。
とりわけ0.15質量%以上0.22質量%以下の範囲内では、オーステナイト相(面心立方格子相)が特に支配的となり、硬度の低下に伴って靭性の顕著な向上が認められる。このような含有率でNを含む金属粉末を用いて製造された焼結体を、CrKα線を用いたX線回折法による結晶構造解析に供すると、オーステナイト相に起因する主ピークが非常に強く認められる一方、hcp構造に起因するピークおよびその他のピークは、いずれも主ピークの高さの5%以下になっている。このことからオーステナイト相が支配的であることが分かる。
また、Siの含有率に対するNの含有率の割合(N/Si)は、質量比で0.1以上0.8以下であるのが好ましく、0.2以上0.6以下であるのがより好ましい。これにより、焼結体における高い機械的特性と高い耐食性とを両立させることができる。すなわち、Siが適量添加されることにより、適量の酸化ケイ素が生成され、Co、CrおよびMoの酸化物量が減少するため、前述したように機械的特性が高くなるとともに、表面における耐食性がより高くなる。その一方、Siの添加量が多過ぎると、酸化ケイ素の生成量が多くなり過ぎるため、焼結体の機械的特性が低下するおそれがある。そこで、前記範囲内の割合でNが添加されると、Siを添加したことによる高い耐食性と、Nを添加したことによる上述した効果を、それぞれ互いに相殺することなく発揮させることができるので、高い耐食性と高い機械的特性とを両立させることができる。これは、SiとCo等の金属元素とが置換型固溶体を生成するのに対し、NとCo等の金属元素とは侵入型固溶体を生成するため、互いに共存し得るからであると考えられる。しかも、Siが固溶したことによる結晶構造の歪みが、Nが固溶することによって抑えられることも起因していると考えられ、これによって機械的特性の低下が防止されると考えられる。
また、Siが添加されると、上述したように結晶構造に歪みが生じるが、この状態では熱膨張および熱収縮の挙動にヒステリシスが生じ易くなる。熱膨張および熱収縮の挙動に大きなヒステリシスがあると、経時的に焼結体の熱的特性が変化してしまうおそれがある。
これに対し、前述した割合でNが添加されていることにより、Nが結晶構造中に侵入して固溶するため、結晶構造の歪みが抑制される。その結果、熱膨張および熱収縮の挙動におけるヒステリシスが抑えられ、焼結体の熱的特性の安定化を図ることができる。
以上のことから、SiとNとが適度に添加されることによって、焼結体の機械的特性の安定化および熱的特性の安定化をそれぞれ図ることができる。
なお、Siの含有率に対するNの含有率の割合が前記下限値を下回ると、合金の組成によっては、結晶構造の歪みを十分に抑制することができず、靭性等が低下するおそれがある。一方、前記上限値を上回ると、合金の組成によっては、焼結し難い組成になり、焼結体の焼結密度が低下し、機械的特性も低下するおそれがある。
(C)
本発明の粉末冶金用金属粉末は、必要に応じてC(炭素)を含んでいてもよい。
Cは、製造される焼結体の機械的特性を高めるように作用する元素である。Cの添加によって焼結体の硬度や引張強さがより高められる。また、このCが第1元素や第2元素と結合して炭化物を生成することによっても、焼結体の機械的特性の向上が図られる。
金属粉末におけるCの含有率は、1.5質量%以下であるのが好ましく、0.7質量%以下であるのがより好ましい。Cの含有率が前記上限値を上回ると、合金の組成によっては、焼結体の脆性が大きくなり、機械的特性が低下するおそれがある。
また、添加量の下限値は特に設定されないが、上述した効果が十分に発揮されるためには、下限値が0.05質量%程度に設定されるのが好ましい。
また、Cの含有率はSiの含有率の0.02倍以上0.5倍以下程度であるのが好ましく、0.05倍以上0.3倍以下程度であるのがより好ましい。Siに対するCの比率を前記範囲内に設定することにより、酸化ケイ素や炭化物が焼結体の硬度や機械的特性に及ぼす悪影響を最小限に抑えることができる。
さらに、Nの含有率はCの含有率の0.3倍以上10倍以下程度であるのが好ましく、2倍以上8倍以下程度であるのがより好ましい。Cに対するNの比率を前記範囲内に設定することにより、焼結体の硬度と機械的特性とのバランスを最適化することができる。
(第1元素および第2元素)
第1元素および第2元素は、成形体中のバインダーや金属粉末に含まれた酸素等と結合し、合金中に炭化物や酸化物(以下、まとめて「炭化物等」ともいう。)を析出させる。そして、この析出した炭化物等は、金属粉末が焼結するとき、結晶粒の著しい成長を阻害すると考えられる。その結果、前述したように、焼結体中に空孔が生じ難くなるとともに、結晶粒の肥大化が防止され、高密度でかつ機械的特性の高い焼結体が得られる。
加えて、詳しくは後述するが、析出した炭化物等が酸化ケイ素の集積を促進し、これにより、第1領域11の生成が促進される。その結果、結晶粒の肥大化を抑えつつ、焼結の促進と高密度化とが図られる。
ところで、第1元素および第2元素は、Ti、V、Y、Zr、Nb、HfおよびTaの7元素からなる群から選択される2種の元素であるが、長周期型元素周期表の3A族または4A族に属する元素(Ti、Y、Zr、Hf)を含むことが好ましい。第1元素および第2元素の少なくとも一方として3A族または4A族に属する元素を含むことにより、金属粉末中に酸化物として含まれている酸素を除去し、金属粉末の焼結性を特に高めることができる。
また、第1元素は、前述したように、Ti、V、Y、Zr、Nb、HfおよびTaの7元素からなる群から選択される1種の元素であればよいが、好ましくは前記7元素からなる群のうち、長周期型元素周期表の3A族または4A族に属する元素とされる。3A族または4A族に属する元素は、金属粉末中に酸化物として含まれている酸素を除去し、金属粉末の焼結性を特に高めることができる。これにより、焼結後に結晶粒内に残存する酸素濃度の低減を図ることができる。その結果、焼結体の酸素含有率の低減を図り、高密度化を図ることができる。また、これらの元素は、活性が高い元素であるため、速やかな原子拡散をもたらすと考えられる。このため、この原子拡散が駆動力となって金属粉末の粒子間距離が効率よく縮まり、粒子間にネックを形成することによって成形体の緻密化が促進される。その結果、焼結体のさらなる高密度化を図ることができる。
一方、第2元素は、前述したように、Ti、V、Y、Zr、Nb、HfおよびTaの7元素からなる群から選択される1種の元素であって、かつ、第1元素とは異なる元素であればよいが、好ましくは前記7元素からなる群のうち、長周期型元素周期表の5A族に属する元素とされる。5A族に属する元素は、特に、前述した炭化物等を効率よく析出させるため、焼結時の結晶粒の著しい成長を効率よく阻害することができる。その結果、微細な結晶粒の生成を促進させ、焼結体の高密度化と機械的特性の向上とを図ることができる。
なお、上述したような元素からなる第1元素と第2元素との組み合わせでは、それぞれの効果が互いに阻害し合うことなく発揮される。このため、このような第1元素および第2元素を含む金属粉末は、とりわけ高密度な焼結体を製造可能なものとなる。
また、より好ましくは、第1元素が4A族に属する元素であり、第2元素がNbである組み合わせが採用される。
また、さらに好ましくは、第1元素がZrまたはHfであり、第2元素がNbである組み合わせが採用される。
このような組み合わせが採用されることにより、上述した効果がより顕著になる。
また、これらの元素のうち、Zrはフェライト生成元素であるため、体心立方格子相を析出させる。この体心立方格子相は、他の結晶格子相に比べて焼結性に優れているため、焼結体の高密度化に寄与する。
金属粉末における第1元素の含有率は、0.01質量%以上0.5質量%以下とされるが、好ましくは0.03質量%以上0.2質量%以下とされ、より好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下とされる。第1元素の含有率が前記下限値を下回ると、全体の組成によっては、第1元素を添加する効果が希薄になるため、製造される焼結体の高密度化が不十分になる。一方、第1元素の含有率が前記上限値を上回ると、全体の組成によっては、第1元素が多くなり過ぎるため、前述した炭化物等の比率が多くなり過ぎて、かえって高密度化が損なわれる。
金属粉末における第2元素の含有率は、0.01質量%以上0.5質量%以下とされるが、好ましくは0.03質量%以上0.2質量%以下とされ、より好ましくは0.05質量%以上0.1質量%以下とされる。第2元素の含有率が前記下限値を下回ると、全体の組成によっては、第2元素を添加する効果が希薄になるため、製造される焼結体の高密度化が不十分になる。一方、第2元素の含有率が前記上限値を上回ると、全体の組成によっては、第2元素が多くなり過ぎるため、前述した炭化物等の比率が多くなり過ぎて、かえって高密度化が損なわれる。
また、前述したように、第1元素および第2元素は、それぞれ炭化物等を析出させるが、第1元素として前述したように3A族または4A族に属する元素を選択し、第2元素として前述したように5A族に属する元素を選択した場合、金属粉末を焼結する際に、第1元素の炭化物等が析出するタイミングと第2元素の炭化物等が析出するタイミングとが互いにずれると推測される。このように炭化物等が析出するタイミングがずれることにより、焼結が徐々に進行することになるため、空孔の生成が抑えられ、緻密な焼結体が得られるものと考えられる。すなわち、第1元素の炭化物等と第2元素の炭化物等の双方が存在していることにより、高密度化を図りつつ、結晶粒の肥大化を抑制することが可能になると考えられる。
なお、金属粉末には、前記7元素からなる群から選択される2種の元素が含まれていればよいが、この群から選択される元素であって、この2種の元素とは異なる元素がさらに含まれていてもよい。すなわち、金属粉末には、前記7元素からなる群から選択される3種以上の元素が含まれていてもよい。これにより、組み合わせ方によって多少異なるものの、前述した効果をさらに増強することができる。
また、第1元素の含有率と第2元素の含有率の比率は、第1元素として選択された元素の原子量および第2元素として選択された元素の原子量を考慮して設定されるのが好ましい。
具体的には、第1元素の含有率E1(質量%)を第1元素の原子量で除した値を指数X1とし、第2元素の含有率E2(質量%)を第2元素の原子量で除した値を指数X2としたとき、指数X2に対する指数X1の比率X1/X2は、0.3以上3以下であるのが好ましく、0.5以上2以下であるのがより好ましく、0.75以上1.3以下であるのがさらに好ましい。X1/X2を前記範囲内に設定することにより、第1元素の炭化物等の析出のタイミングと第2元素の炭化物等の析出のタイミングとのずれを最適化することができる。これにより、成形体中に残存する空孔を内側から順次掃き出すようにして排出することができるので、焼結体中に生じる空孔を最小限に抑えることができる。したがって、X1/X2を前記範囲内に設定することで、高密度で機械的特性に優れた焼結体を製造可能な金属粉末を得ることができる。また、第1元素の原子数と第2元素の原子数とのバランスが最適化されるため、第1元素によってもたらされる効果と第2元素によってもたらされる効果とが相乗的に発揮され、とりわけ高密度の焼結体を得ることができる。
ここで、第1元素および第2元素の具体的な組み合わせの例について、上述したX1/X2の範囲に基づき、第1元素の含有率E1と第2元素の含有率E2の比率E1/E2について算出する。
例えば、第1元素がZrであり、第2元素がNbである場合、Zrの原子量が91.2であり、Nbの原子量が92.9であることから、E1/E2は0.29以上2.95以下であるのが好ましく、0.49以上1.96以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がHfであり、第2元素がNbである場合、Hfの原子量が178.5であり、Nbの原子量が92.9であることから、E1/E2は0.58以上5.76以下であるのが好ましく、0.96以上3.84以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がTiであり、第2元素がNbである場合、Tiの原子量が47.9であり、Nbの原子量が92.9であることから、E1/E2は0.15以上1.55以下であるのが好ましく、0.26以上1.03以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がNbであり、第2元素がTaである場合、Nbの原子量が92.9であり、Taの原子量が180.9であることから、E1/E2は0.15以上1.54以下であるのが好ましく、0.26以上1.03以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がYであり、第2元素がNbである場合、Yの原子量が88.9であり、Nbの原子量が92.9であることから、E1/E2は0.29以上2.87以下であるのが好ましく、0.48以上1.91以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がVであり、第2元素がNbである場合、Vの原子量が50.9であり、Nbの原子量が92.9であることから、E1/E2は0.16以上1.64以下であるのが好ましく、0.27以上1.10以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がTiであり、第2元素がZrである場合、Tiの原子量が47.9であり、Zrの原子量が91.2であることから、E1/E2は0.16以上1.58以下であるのが好ましく、0.26以上1.05以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がZrであり、第2元素がTaである場合、Zrの原子量が91.2であり、Taの原子量が180.9であることから、E1/E2は0.15以上1.51以下であるのが好ましく、0.25以上1.01以下であるのがより好ましい。
また、第1元素がZrであり、第2元素がVである場合、Zrの原子量が91.2であり、Vの原子量が50.9であることから、E1/E2は0.54以上5.38以下であるのが好ましく、0.90以上3.58以下であるのがより好ましい。
なお、上述する組み合わせ以外についても、上記と同様にしてE1/E2を算出することができる。
また、第1元素の含有率E1と第2元素の含有率E2は、それぞれ前述した通りであるが、これらの合計については0.05質量%以上0.6質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以上0.48質量%以下であるのがより好ましく、0.12質量%以上0.24質量%以下であるのがさらに好ましい。第1元素の含有率と第2元素の含有率の合計を前記範囲内に設定することで、製造される焼結体の高密度化が必要かつ十分なものとなる。
また、Siの含有率に対する第1元素の含有率と第2元素の含有率の合計の比率を(E1+E2)/Siとしたとき、(E1+E2)/Siは質量比で0.1以上0.7以下であるのが好ましく、0.15以上0.6以下であるのがより好ましく、0.2以上0.5以下であるのがさらに好ましい。(E1+E2)/Siを前記範囲内に設定することで、Siを添加した場合の靭性の低下等が、第1元素および第2元素の添加によって十分に補われる。その結果、高密度であるにもかかわらず、靭性といった機械的特性に優れ、かつ、Siに由来する耐食性にも優れた焼結体を製造可能な金属粉末が得られる。
加えて、第1元素および第2元素が適量添加されることにより、焼結体中の結晶粒界において、第1元素の炭化物等および第2元素の炭化物等が「核」となり、酸化ケイ素の集積が起こると考えられる。酸化ケイ素が集積することにより、それ以外の部位における酸化物濃度が低下するため、焼結の促進が図られる。その結果、焼結体の高密度化がさらに促進されるものと考えられる。
さらには、集積した酸化ケイ素は、金属粉末が焼成される過程において結晶粒界の三重点に移動し易いので、この点での結晶成長が抑制される(ピン留め効果)。その結果、結晶粒の著しい成長が抑制され、より微細な結晶を有する焼結体が得られる。このような焼結体は、機械的特性が特に高いものとなる。
また、集積した酸化ケイ素は、前述したように結晶粒界の三重点に位置し易く、そのため、粒状に成形される傾向にある。したがって、焼結体には、このような粒状をなし、酸化ケイ素の含有率が相対的に高い第1領域11と、第1領域11よりも酸化ケイ素の含有率が相対的に低い第2領域12と、が形成され易くなる。第1領域11が存在することで、前述したような、結晶内部の酸化物濃度の低下と、結晶粒の著しい成長の抑制とが図られる。
さらには、Cの含有率に対する第1元素の含有率と第2元素の含有率の合計の比率を(E1+E2)/Cとしたとき、(E1+E2)/Cは1以上16以下であるのが好ましく、2以上13以下であるのがより好ましく、3以上10以下であるのがさらに好ましい。(E1+E2)/Cを前記範囲内に設定することで、Cを添加した場合の硬度の上昇および靭性の低下と、第1元素および第2元素の添加によってもたらされる高密度化とを両立させることができる。その結果、引張強さや靭性といった機械的特性に優れた焼結体を製造可能な金属粉末が得られる。
(その他の元素)
粒子1は、上述した元素の他、必要に応じてFe、Ni、Mn、WおよびSのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。なお、これらの元素は、不可避的に含まれる場合もある。
Feは、製造される焼結体に高い機械的特性を付与する元素である。
金属粉末におけるFeの含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上25質量%以下であるのが好ましく、0.03質量%以上5質量%以下であるのがより好ましい。Feの含有率を前記範囲内に設定することで、高密度で機械的特性に優れた焼結体が得られる。
Niは、製造される焼結体に高い靭性を付与する元素である。
金属粉末におけるNiの含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、0.02質量%以上37質量%以下であるのがより好ましい。Niの含有率を前記範囲内に設定することで、高密度で靭性に優れた焼結体が得られる。
Mnは、Siと同様、製造される焼結体に耐食性および高い機械的特性を付与する元素である。
金属粉末におけるMnの含有率は、特に限定されないが、0.05質量%以上1.5質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下であるのがより好ましい。Mnの含有率を前記範囲内に設定することで、高密度で機械的特性に優れた焼結体が得られる。また、伸びの低減を抑えつつ、機械的強度を高めることができる。さらに、高温時(赤熱時)の脆性の増大を抑制することができる。
なお、Mnの含有率が前記下限値を下回ると、全体の組成によっては、製造される焼結体の耐食性や機械的特性を十分に高められないおそれがあり、一方、Mnの含有率が前記上限値を上回ると、かえって耐食性や機械的特性が低下するおそれがある。
Wは、製造される焼結体の耐熱性を強化する元素である。
金属粉末におけるWの含有率は、特に限定されないが、1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上16質量%以下であるのがより好ましい。Wの含有率を前記範囲内に設定することで、製造される焼結体の密度の大幅な低下を招くことなく、焼結体の耐熱性をより強化することができる。
Sは、製造される焼結体の被削性を高める元素である。
金属粉末におけるSの含有率は、特に限定されないが、0.5質量%以下であるのが好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下であるのがより好ましい。Sの含有率を前記範囲内に設定することで、製造される焼結体の密度の大幅な低下を招くことなく、製造される焼結体の被削性をより高めることができる。
この他、粒子1には、B、Se、Te、Pd等が添加されていてもよい。その場合、これらの元素の含有率は、特に限定されないが、それぞれ0.1質量%未満であるのが好ましく、合計でも0.2質量%未満であるのが好ましい。なお、これらの元素は、不可避的に含まれる場合もある。
さらに、粒子1には、不純物が含まれていてもよい。不純物としては、上述した元素以外の全ての元素が挙げられ、具体的には、例えば、Li、Be、Na、Mg、P、K、Ca、Sc、Zn、Ga、Ge、Ag、In、Sn、Sb、Os、Ir、Pt、Au、Bi等が挙げられる。これらの不純物の混入量は、各々の元素がCo、Cr、Si、第1元素および第2元素の各含有量よりも少なくなるように設定されているのが好ましい。また、これらの不純物の混入量は、各々の元素が0.03質量%未満となるように設定されるのが好ましく、0.02質量%未満となるように設定されるのがより好ましい。また、合計でも0.3質量%未満とされるのが好ましく、0.2質量%未満とされるのがより好ましい。なお、これらの元素は、その含有率が前記範囲内であれば、前述したような効果が阻害されないので、意図的に添加されていてもよい。
一方、O(酸素)も、意図的に添加されたり不可避的に混入したりしてもよいが、その量は0.8質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以下程度であるのがより好ましい。粒子1中の酸素量をこの程度に収めることで、焼結性が高くなり、高密度で機械的特性に優れた焼結体が得られる。なお、下限値は特に設定されないが、量産容易性等の観点から0.03質量%以上であるのが好ましい。
Coは、本発明の粉末冶金用金属粉末を構成する合金のうち含有率が最も高い成分(主成分)であり、焼結体の特性に大きな影響を及ぼす。Coの含有率は、特に限定されないが、50質量%以上であるのが好ましく、55質量%以上67.5質量%以下であるのがより好ましい。
また、粒子1の組成比は、例えば、JIS G 1257(2000)に規定された鉄及び鋼−原子吸光分析法、JIS G 1258(2007)に規定された鉄及び鋼−ICP発光分光分析法、JIS G 1253(2002)に規定された鉄及び鋼−スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256(1997)に規定された鉄及び鋼−蛍光X線分析法、JIS G 1211〜G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等により特定することができる。具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置(スパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08A)や、(株)リガク製ICP装置(CIROS120型)が挙げられる。
なお、JIS G 1211〜G 1237は、下記の通りである。
JIS G 1211(2011) 鉄及び鋼−炭素定量方法
JIS G 1212(1997) 鉄及び鋼−けい素定量方法
JIS G 1213(2001) 鉄及び鋼中のマンガン定量方法
JIS G 1214(1998) 鉄及び鋼−りん定量方法
JIS G 1215(2010) 鉄及び鋼−硫黄定量方法
JIS G 1216(1997) 鉄及び鋼−ニッケル定量方法
JIS G 1217(2005) 鉄及び鋼−クロム定量方法
JIS G 1218(1999) 鉄及び鋼−モリブデン定量方法
JIS G 1219(1997) 鉄及び鋼−銅定量方法
JIS G 1220(1994) 鉄及び鋼−タングステン定量方法
JIS G 1221(1998) 鉄及び鋼−バナジウム定量方法
JIS G 1222(1999) 鉄及び鋼−コバルト定量方法
JIS G 1223(1997) 鉄及び鋼−チタン定量方法
JIS G 1224(2001) 鉄及び鋼中のアルミニウム定量方法
JIS G 1225(2006) 鉄及び鋼−ひ素定量方法
JIS G 1226(1994) 鉄及び鋼−すず定量方法
JIS G 1227(1999) 鉄及び鋼中のほう素定量方法
JIS G 1228(2006) 鉄及び鋼−窒素定量方法
JIS G 1229(1994) 鋼−鉛定量方法
JIS G 1232(1980) 鋼中のジルコニウム定量方法
JIS G 1233(1994) 鋼−セレン定量方法
JIS G 1234(1981) 鋼中のテルル定量方法
JIS G 1235(1981) 鉄及び鋼中のアンチモン定量方法
JIS G 1236(1992) 鋼中のタンタル定量方法
JIS G 1237(1997) 鉄及び鋼−ニオブ定量方法
また、C(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、特に、JIS G 1211(2011)に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)−赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS−200が挙げられる。
さらに、N(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、特に、JIS G 1228(2006)に規定された鉄および鋼の窒素定量方法、JIS Z 2613(2006)に規定された金属材料の酸素定量方法も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC−300/EF−300が挙げられる。
なお、上述したような粒子1は、粉末冶金用金属粉末中にできるだけ多く含まれているのが好ましい。具体的には、粒子1は、粉末冶金用金属粉末中に個数比で50%以上含まれているのが好ましく、60%以上含まれているのがより好ましい。このような粉末冶金用金属粉末によれば、上述したような効果がより確実に発揮され、高密度でかつ機械的特性に優れた焼結体をより確実に製造することができる。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末の平均粒径は、0.5μm以上30μm以下であるのが好ましく、1μm以上20μm以下であるのがより好ましく、2μm以上10μm以下であるのがさらに好ましい。このような粒径の粉末冶金用金属粉末を用いることにより、焼結体中に残存する空孔が極めて少なくなるため、特に高密度で機械的特性に優れた焼結体を製造することができる。
なお、平均粒径は、レーザー回折法により得られた質量基準での累積粒度分布において、累積量が小径側から50%になるときの粒径として求められる。
また、粉末冶金用金属粉末の平均粒径が前記下限値を下回った場合、成形し難い形状の場合、成形性が低下し、焼結密度が低下するおそれがあり、前記上限値を上回った場合、成形時に粒子間の隙間が大きくなるので、やはり焼結密度が低下するおそれがある。
また、粉末冶金用金属粉末の粒度分布は、できるだけ狭いのが好ましい。具体的には、粉末冶金用金属粉末の平均粒径が前記範囲内であれば、最大粒径が200μm以下であるのが好ましく、150μm以下であるのがより好ましい。粉末冶金用金属粉末の最大粒径を前記範囲内に制御することにより、粉末冶金用金属粉末の粒度分布をより狭くすることができ、焼結体のさらなる高密度化を図ることができる。
なお、上記の最大粒径とは、レーザー回折法により得られた質量基準での累積粒度分布において、累積量が小径側から99.9%となるときの粒径のことをいう。
また、粉末冶金用金属粉末の粒子の短径をS[μm]とし、長径をL[μm]としたとき、S/Lで定義されるアスペクト比の平均値は、0.4以上1以下程度であるのが好ましく、0.7以上1以下程度であるのがより好ましい。このようなアスペクト比の粉末冶金用金属粉末は、その形状が比較的球形に近くなるので、成形された際の充填率が高められる。その結果、焼結体のさらなる高密度化を図ることができる。
なお、前記長径とは、粒子の投影像においてとりうる最大長さであり、前記短径とは、長径に直交する方向においてとりうる最大長さである。また、アスペクト比の平均値は、100個以上の粒子について測定されたアスペクト比の値の平均値として求められる。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末のタップ密度は、3.5g/cm3以上であるのが好ましく、4g/cm3以上であるのがより好ましい。このようにタップ密度が大きい粉末冶金用金属粉末であれば、成形体を得る際に、粒子間の充填性が特に高くなる。このため、最終的に、特に緻密な焼結体を得ることができる。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末の比表面積は、特に限定されないが、0.1m2/g以上であるのが好ましく、0.2m2/g以上であるのがより好ましい。このように比表面積の広い粉末冶金用金属粉末であれば、表面の活性(表面エネルギー)が高くなるため、より少ないエネルギーの付与でも容易に焼結することができる。したがって、成形体を焼結する際に、成形体の内側と外側とで焼結速度の差が生じ難くなり、内側に空孔が残存して焼結密度が低下するのを抑制することができる。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末は、例えば、JIS T 6115(2013)に規定されているコバルトクロム合金の化学成分を含んでいるのが好ましい。
なお、上記「化学成分」とは、JIS T 6115(2013)に規定されている化学成分のことを指す。具体的には、例えば、JIS T 6115(2013)の4.3に規定された含有量(単位:質量%)で含まれた元素の組み合わせのことを指す。
[焼結体の製造方法]
次に、このような本発明の粉末冶金用金属粉末を用いて焼結体を製造する方法について説明する。
焼結体を製造する方法は、[A]焼結体製造用の組成物を用意する組成物調製工程と、[B]成形体を製造する成形工程と、[C]脱脂処理を施す脱脂工程と、[D]焼成を行う焼成工程と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
[A]組成物調製工程
まず、本発明の粉末冶金用金属粉末と、バインダーとを用意し、これらを混練機により混練し、混練物(組成物)を得る。
この混練物(本発明のコンパウンドの実施形態)中では、粉末冶金用金属粉末が均一に分散している。
本発明の粉末冶金用金属粉末は、例えば、アトマイズ法(例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、高速回転水流アトマイズ法等)、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法により製造される。
このうち、本発明の粉末冶金用金属粉末は、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく、水アトマイズ法または高速回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましい。アトマイズ法は、溶融金属(溶湯)を、高速で噴射された流体(液体または気体)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。粉末冶金用金属粉末をこのようなアトマイズ法によって製造することにより、極めて微小な粉末を効率よく製造することができる。また、得られる粉末の粒子形状が表面張力の作用により球形状に近くなる。このため、成形した際に充填率の高いものが得られる。すなわち、高密度な焼結体を製造可能な粉末を得ることができる。さらに、溶湯の冷却速度が非常に速くなることから、第2領域12の大きさが揃った粒子1を得ることができる。
なお、アトマイズ法として、水アトマイズ法を用いた場合、溶融金属に向けて噴射される水(以下、「アトマイズ水」という。)の圧力は、特に限定されないが、好ましくは75MPa以上120MPa以下(750kgf/cm2以上1200kgf/cm2以下)程度とされ、より好ましくは、90MPa以上120MPa以下(900kgf/cm2以上1200kgf/cm2以下)程度とされる。
また、アトマイズ水の水温も、特に限定されないが、好ましくは1℃以上20℃以下程度とされる。
さらに、アトマイズ水は、溶湯の落下経路上に頂点を有し、外径が下方に向かって漸減するような円錐状に噴射される場合が多い。この場合、アトマイズ水が形成する円錐の頂角θは、10°以上40°以下程度であるのが好ましく、15°以上35°以下程度であるのがより好ましい。これにより、前述したような組成の粉末冶金用金属粉末を、確実に製造することができる。
また、水アトマイズ法(特に高速回転水流アトマイズ法)によれば、とりわけ速く溶湯を冷却することができる。このため、広い合金組成において高品質な粉末が得られる。
また、アトマイズ法において溶湯を冷却する際の冷却速度は、1×104℃/s以上であるのが好ましく、1×105℃/s以上であるのがより好ましい。このような急速な冷却により、均質な粉末冶金用金属粉末が得られる。その結果、高品質な焼結体を得ることができる。
なお、このようにして得られた粉末冶金用金属粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
一方、バインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
また、バインダーの含有率は、混練物全体の2質量%以上20質量%以下程度であるのが好ましく、5質量%以上10質量%以下程度であるのがより好ましい。バインダーの含有率が前記範囲内であることにより、成形性よく成形体を形成することができるとともに、密度を高め、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、これにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を最適化して、最終的に得られる焼結体の寸法精度の低下を防止することができる。すなわち、高密度でかつ寸法精度の高い焼結体を得ることができる。
また、混練物中には、必要に応じて、可塑剤が添加されていてもよい。この可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル(例:DOP、DEP、DBP)、アジピン酸エステル、トリメリット酸エステル、セバシン酸エステル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
さらに、混練物中には、粉末冶金用金属粉末、バインダー、可塑剤の他に、例えば、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物を必要に応じ添加することができる。
なお、混練条件は、用いる粉末冶金用金属粉末の金属組成や粒径、バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件により異なるが、その一例を挙げれば、混練温度:50℃以上200℃以下程度、混練時間:15分以上210分以下程度とすることができる。
また、混練物は、必要に応じ、ペレット(小塊)化される。ペレットの粒径は、例えば、1mm以上15mm以下程度とされる。
なお、後述する成形方法によっては、混練物に代えて、造粒粉末を製造するようにしてもよい。これらの混練物および造粒粉末等が、後述する成形工程に供される組成物の一例である。
本発明の造粒粉末の実施形態は、本発明の粉末冶金用金属粉末に造粒処理を施すことにより、複数個の金属粒子同士をバインダーで結着してなるものである。
造粒粉末の製造に用いられるバインダーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはこれらの共重合体等の各種樹脂や、各種ワックス、パラフィン、高級脂肪酸(例:ステアリン酸)、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等の各種有機バインダーが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。
このうち、バインダーとしては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンを含むものが好ましい。これらのバインダー成分は、結着性が高いため、比較的少量であっても効率よく造粒粉末を形成することができる。また、熱分解性も高いことから、脱脂および焼成の際に、短時間で確実に分解、除去することが可能になる。
また、バインダーの含有率は、造粒粉末全体の0.2質量%以上10質量%以下程度であるのが好ましく、0.3質量%以上5質量%以下程度であるのがより好ましく、0.3質量%以上2質量%以下であるのがさらに好ましい。バインダーの含有率が前記範囲内であることにより、著しく大きな粒子が造粒されたり、造粒されていない金属粒子が大量に残存してしまうのを抑制しつつ、造粒粉末を効率よく形成することができる。また、成形性が向上するため、成形体の形状の安定性等を特に優れたものとすることができる。また、バインダーの含有率を前記範囲内としたことにより、成形体と脱脂体との大きさの差、いわゆる収縮率を最適化して、最終的に得られる焼結体の寸法精度の低下を防止することができる。
さらに、造粒粉末中には、必要に応じて、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、脱脂促進剤、界面活性剤等の各種添加物が添加されていてもよい。
一方、造粒処理としては、例えば、スプレードライ(噴霧乾燥)法、転動造粒法、流動層造粒法、転動流動造粒法等が挙げられる。
なお、造粒処理では、必要に応じて、バインダーを溶解する溶媒が用いられる。かかる溶媒としては、例えば、水、四塩化炭素のような無機溶媒や、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、セロソルブ系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、芳香族複素環化合物系溶媒、アミド系溶媒、ハロゲン化合物系溶媒、エステル系溶媒、アミン系溶媒、ニトリル系溶媒、ニトロ系溶媒、アルデヒド系溶媒のような有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の混合物が用いられる。
造粒粉末の平均粒径は、特に限定されないが、10μm以上200μm以下程度であるのが好ましく、20μm以上100μm以下程度であるのがより好ましく、25μm以上60μm以下程度であるのがより好ましい。このような粒径の造粒粉末は、良好な流動性を有し、成形型の形状をより忠実に反映させ得るものとなる。
なお、平均粒径は、レーザー回折法により得られた質量基準での累積粒度分布において、累積量が小径側から50%になるときの粒径として求められる。
[B]成形工程
次に、混練物または造粒粉末を成形して、目的の焼結体と同形状の成形体を製造する。
成形体の製造方法(成形方法)としては、特に限定されず、例えば、圧粉成形(圧縮成形)法、金属粉末射出成形(MIM:Metal Injection Molding)法、押出成形法等の各種成形法を用いることができる。
このうち、圧粉成形法の場合の成形条件は、用いる粉末冶金用金属粉末の組成や粒径、バインダーの組成、およびこれらの配合量等の諸条件によって異なるが、成形圧力が200MPa以上1000MPa以下(2t/cm2以上10t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、金属粉末射出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、射出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
また、押出成形法の場合の成形条件は、諸条件によって異なるものの、材料温度が80℃以上210℃以下程度、押出圧力が50MPa以上500MPa以下(0.5t/cm2以上5t/cm2以下)程度であるのが好ましい。
このようにして得られた成形体は、金属粉末の複数の粒子の間隙に、バインダーが一様に分布した状態となる。
なお、作製される成形体の形状寸法は、以降の脱脂工程および焼成工程における成形体の収縮分を見込んで決定される。
[C]脱脂工程
次に、得られた成形体に脱脂処理(脱バインダー処理)を施し、脱脂体を得る。
具体的には、成形体を加熱して、バインダーを分解することにより、成形体中からバインダーを除去して、脱脂処理がなされる。
この脱脂処理は、例えば、成形体を加熱する方法、バインダーを分解するガスに成形体を曝す方法等が挙げられる。
成形体を加熱する方法を用いる場合、成形体の加熱条件は、バインダーの組成や配合量によって若干異なるものの、温度100℃以上750℃以下×0.1時間以上20時間以下程度であるのが好ましく、150℃以上600℃以下×0.5時間以上15時間以下程度であるのがより好ましい。これにより、成形体を焼結させることなく、成形体の脱脂を必要かつ十分に行うことができる。その結果、脱脂体の内部にバインダー成分が多量に残留してしまうのを確実に防止することができる。
また、成形体を加熱する際の雰囲気は、特に限定されず、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、大気のような酸化性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が挙げられる。
一方、バインダーを分解するガスとしては、例えば、オゾンガス等が挙げられる。
なお、このような脱脂工程は、脱脂条件の異なる複数の過程(ステップ)に分けて行うことにより、成形体中のバインダーをより速やかに、そして、成形体に残存させないように分解・除去することができる。
また、必要に応じて、脱脂体に対して切削、研磨、切断等の機械加工を施すようにしてもよい。脱脂体は、硬度が比較的低く、かつ比較的可塑性に富んでいるため、脱脂体の形状が崩れるのを防止しつつ、容易に機械加工を施すことができる。このような機械加工によれば、最終的に寸法精度の高い焼結体を容易に得ることができる。
[D]焼成工程
前記工程[C]で得られた脱脂体を、焼成炉で焼成して焼結体を得る。
この焼結により、粉末冶金用金属粉末は、粒子同士の界面で拡散が生じ、焼結に至る。この際、前述したようなメカニズムによって、脱脂体が速やかに焼結される。その結果、全体的に緻密な高密度の焼結体が得られる。
焼成温度は、成形体および脱脂体の製造に用いた粉末冶金用金属粉末の組成や粒径等によって異なるが、一例として980℃以上1450℃以下程度とされる。また、好ましくは1050℃以上1350℃以下程度とされる。
また、焼成時間は、0.2時間以上7時間以下とされるが、好ましくは1時間以上6時間以下程度とされる。
なお、焼成工程においては、途中で焼結温度や後述する焼成雰囲気を変化させるようにしてもよい。
焼成条件をこのような範囲に設定することにより、焼結が進み過ぎて過焼結となり結晶組織が肥大化するのを防止しつつ、脱脂体全体を十分に焼結させることができる。その結果、高密度であり、かつ特に機械的特性に優れた焼結体を得ることができる。
また、焼成温度が比較的低温であることから、焼成炉による加熱温度を一定に制御し易く、したがって、脱脂体の温度も一定になり易い。その結果、より均質な焼結体を製造することができる。
さらには、前述したような焼成温度は、一般的な焼成炉で十分に実現可能な焼成温度であるため、安価な焼成炉が利用可能であるとともに、ランニングコストも抑えることができる。換言すれば、前記焼成温度を超える場合には、特殊な耐熱材料を用いた高価な焼成炉を利用する必要があり、しかもランニングコストも高くなるおそれがある。
また、焼成の際の雰囲気は、特に限定されないが、金属粉末の著しい酸化を防止することを考慮した場合、水素のような還元性ガス雰囲気、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧雰囲気等が好ましく用いられる。
このようにして得られた焼結体は、高密度で機械的特性に優れたものとなる。すなわち、本発明の粉末冶金用金属粉末とバインダーとを含む組成物を、成形した後、脱脂・焼結して製造された焼結体は、従来の金属粉末を焼結してなる焼結体に比べて相対密度が高くなる。よって、本発明であれば、HIP処理のような追加処理を施さなければ到達し得なかった高密度の焼結体を、追加処理なしに実現することができる。
具体的には、本発明によれば、粉末冶金用金属粉末の組成によって若干異なるものの、一例として従来よりも2%以上の相対密度の向上が期待できる。
その結果、得られた焼結体の相対密度は、一例として97%以上になることが期待できる(好ましくは98%以上、より好ましくは98.5%以上)。このような範囲の相対密度を有する焼結体は、粉末冶金技術を利用することで目的とする形状に限りなく近い形状を有するものであるにもかかわらず、溶製材に匹敵する優れた機械的特性を有するものとなるため、ほとんど後加工を施すことなく各種の機械部品や構造部品等に適用可能なものとなる。
また、本発明の粉末冶金用金属粉末とバインダーとを含む組成物を、成形した後、脱脂・焼結して製造された焼結体は、その引張強さや0.2%耐力が、従来の金属粉末を用いて同様に焼結してなる焼結体の引張強さや0.2%耐力よりも大きくなる。これは、合金組成や粒子の結晶組織を最適化したことにより、金属粉末の焼結性を高め、これにより製造される焼結体の機械的特性が向上したためと考えられる。
また、上述したようにして製造された焼結体は、その表面が高硬度のものとなる。具体的には、粉末冶金用金属粉末の組成によって若干異なるものの、一例として表面のビッカース硬度が300以上780以下になることが期待される。また、好ましくは340以上600以下になることが期待される。このような硬度を有する焼結体は、耐摩耗性と耐衝撃性とを併せ持つものとなるので、特に高い耐久性を有するものとなる。
また、追加処理を施さなくても、焼結体は十分に高い密度と機械的特性とを有しているが、さらなる高密度化および機械的特性の向上を図るために、各種の追加処理を施すようにしてもよい。
この追加処理としては、例えば、前述したHIP処理のような高密度化を図る追加処理であってもよく、各種焼き入れ処理、各種サブゼロ処理、各種焼き戻し処理、各種焼き鈍し処理等であってもよい。これらの追加処理は単独で行われてもよく、複数が組み合わされて行われてもよい。
なお、上述した焼成工程や各種追加処理においては、金属粉末中(焼結体中)の軽元素が揮発し、最終的に得られる焼結体の組成は、金属粉末中の組成から若干変化している場合もある。
例えば、Cについては、工程条件や処理条件に応じて異なるものの、最終的な焼結体における含有率が、粉末冶金用金属粉末における含有率の5%以上100%以下の範囲内(好ましくは30%以上100%以下の範囲内)で変化する可能性がある。
また、Oについても、工程条件や処理条件に応じて異なるものの、最終的な焼結体における含有率が、粉末冶金用金属粉末における含有率の1%以上50%以下の範囲内(好ましくは3%以上50%以下の範囲内)で変化する可能性がある。
一方、前述したように、製造された焼結体は、必要に応じて行われる追加処理の一環でHIP処理に供されてもよいが、HIP処理を行っても十分な効果が発揮されない場合も多い。HIP処理では、焼結体のさらなる高密度化を図ることができるが、そもそも本発明で得られる焼結体は、焼成工程の終了時点ですでに十分な高密度化が図られている。このため、さらにHIP処理を施したとしても、それ以上の高密度化は進み難い。
加えて、HIP処理では、圧力媒体を介して被処理物を加圧する必要があるため、被処理物が汚染されたり、汚染に伴って被処理物の組成や物性が意図しない変化を生じたり、汚染に伴って被処理物が変色したりするおそれがある。また、加圧されることにより被処理物内において残留応力が発生あるいは増加し、これが経時的に解放されるのに伴って変形や寸法精度の低下といった不具合の発生を招くおそれがある。
これに対し、本発明によれば、このようなHIP処理を施すことなく、十分に密度の高い焼結体を製造可能であるため、HIP処理を施した場合と同様の高密度化および高強度化が図られた焼結体を得ることができる。そして、このような焼結体は、汚染や変色、意図しない組成や物性の変化等が少なく、変形や寸法精度の低下といった不具合の発生も少ないものとなる。よって、本発明によれば、機械的強度および寸法精度が高く、耐久性に優れた焼結体を効率よく製造することができる。
また、本発明で製造された焼結体は、機械的特性を向上させる目的の追加処理をほとんど必要としないため、組成や結晶組織が焼結体全体で均一になり易い。このため、構造的な等方性が高く、形状によらず全方位からの荷重に対する耐久性に優れたものとなる。
なお、このようにして製造された焼結体では、その表面近傍における空孔率が内部における空孔率よりも相対的に小さくなることが多いことが認められる。このようになる理由は明確ではないが、第1元素および第2元素が添加されることにより、成形体の内部よりも表面近傍において、焼結反応がより進み易くなっているということが挙げられる。
具体的には、焼結体の表面近傍の空孔率をA1とし、焼結体の内部の空孔率をA2としたとき、A2−A1は0.1%以上3%以下であるのが好ましく、0.2%以上2%以下であるのがより好ましい。A2−A1がこのような範囲にある焼結体は、必要かつ十分な機械的強度を有する一方、表面を容易に平坦化することを可能にする。すなわち、かかる焼結体の表面を研磨することにより、鏡面性の高い表面を得ることができる。
このような鏡面性の高い焼結体は、機械的強度が高くなるだけでなく、審美性に優れたものとなる。このため、かかる焼結体は、優れた美的外観が要求される用途にも好適に用いられる。
なお、焼結体の表面近傍の空孔率A1とは、焼結体の断面のうち、表面から50μmの深さの位置を中心に半径25μmの範囲内の空孔率のことをいう。また、焼結体の内部の空孔率A2とは、焼結体の断面のうち、表面から300μmの深さの位置を中心に半径25μmの範囲内の空孔率のことをいう。これらの空孔率は、焼結体の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、前記範囲内に存在する空孔の面積を前記範囲の面積で除して得られた値である。
以上、本発明の粉末冶金用金属粉末、コンパウンド、造粒粉末および焼結体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、本発明の焼結体は、例えば、自動車用部品、自転車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品、宇宙輸送機(例えばロケット等)用部品のような輸送機器用部品、パソコン用部品、携帯電話端末用部品のような電子機器用部品、冷蔵庫、洗濯機、冷暖房機のような電気機器用部品、工作機械、半導体製造装置のような機械用部品、原子力発電所、火力発電所、水力発電所、製油所、化学コンビナートのようなプラント用部品、時計用部品、金属食器、宝飾品、眼鏡フレームのような装飾品、手術用器具、人工骨、人工歯、人工歯根、歯列矯正用部品のような医療機器の他、あらゆる構造部品に用いられる。
次に、本発明の実施例について説明する。
1.焼結体(Zr−Nb系)の製造
(サンプルNo.1)
[1]まず、水アトマイズ法により製造された表1に示す組成の金属粉末を用意した。
また、表1に示す粉末の組成は、誘導結合高周波プラズマ発光分析法(ICP分析法)により同定、定量した。なお、ICP分析には、(株)リガク製、ICP装置(CIROS120型)を用いた。また、Cの同定、定量には、LECO社製炭素・硫黄分析装置(CS−200)を用いた。さらに、Oの同定、定量には、LECO社製酸素・窒素分析装置(TC−300/EF−300)を用いた。
[2]次に、金属粉末と、ポリプロピレンおよびワックスの混合物(有機バインダー)とを、質量比で9:1となるよう秤量して混合し、混合原料を得た。
[3]次に、この混合原料を混練機で混練し、コンパウンドを得た。
[4]次に、このコンパウンドを、以下に示す成形条件で、射出成形機にて成形し、成形体を作製した。
<成形条件>
・材料温度:150℃
・射出圧力:11MPa(110kgf/cm2)
[5]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・脱脂温度 :500℃
・脱脂時間 :1時間(脱脂温度での保持時間)
・脱脂雰囲気:窒素雰囲気
[6]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、焼結体を得た。なお、焼結体の形状は、直径10mm、厚さ5mmの円筒形状とした。
<焼成条件>
・焼成温度 :1300℃
・焼成時間 :3時間(焼成温度での保持時間)
・焼成雰囲気:アルゴン雰囲気
(サンプルNo.2〜29)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表1に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。なお、サンプルNo.29の焼結体については、焼成後、下記の条件でHIP処理を施した。また、サンプルNo.14〜16の焼結体は、それぞれガスアトマイズ法により製造された金属粉末を用いて得られたものである。なお、表1には、備考欄に「ガス」と表記している。
<HIP処理条件>
・加熱温度 :1100℃
・加熱時間 :2時間
・加圧力 :100MPa
なお、表1では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表1への記載は省略した。
(サンプルNo.30)
[1]まず、表2に示す組成の金属粉末を、サンプルNo.1の場合と同様、水アトマイズ法により製造した。
[2]次に、スプレードライ法により、金属粉末を造粒した。このとき使用したバインダーはポリビニルアルコールであり、金属粉末100質量部に対して1質量部になる量を使用した。また、ポリビニルアルコール1質量部に対して50質量部の溶媒(イオン交換水)を使用した。これにより、平均粒径50μmの造粒粉末を得た。
[3]次に、この造粒粉末を、以下に示す成形条件で圧粉成形した。なお、この成形には、プレス成形機を使用した。また、作製する成形体の形状は、20mm角の立方体形状とした。
<成形条件>
・材料温度:90℃
・成形圧力:600MPa(6t/cm2)
[4]次に、得られた成形体に対して、以下に示す脱脂条件で熱処理(脱脂処理)を施し、脱脂体を得た。
<脱脂条件>
・脱脂温度 :450℃
・脱脂時間 :2時間(脱脂温度での保持時間)
・脱脂雰囲気:窒素雰囲気
[5]次に、得られた脱脂体を、以下に示す焼成条件で焼成した。これにより、焼結体を得た。
<焼成条件>
・焼成温度 :1200℃
・焼成時間 :3時間(焼成温度での保持時間)
・焼成雰囲気:アルゴン雰囲気
[6]次に、得られた焼結体に対し、以下に示す条件で固溶化熱処理と析出硬化熱処理とを順次施した。
<固溶化熱処理条件>
・加熱温度 :1050℃
・加熱時間 :10分
・冷却方法 :水冷
<析出硬化熱処理条件>
・加熱温度 :480℃
・加熱時間 :60分
・冷却方法 :空冷
(サンプルNo.31〜40)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表2に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.30の場合と同様にして焼結体を得た。なお、サンプルNo.40の焼結体については、焼成後、下記の条件でHIP処理を施した。
<HIP処理条件>
・加熱温度 :1100℃
・加熱時間 :2時間
・加圧力 :100MPa
なお、表2においては、各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末および焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表2への記載は省略した。
2.金属粉末(Zr−Nb系)の評価
次いで、表1、2に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも粒子内に異なる2種類の領域、すなわち、第1領域および第2領域の存在が認められた。また、これらの領域についてEDXスペクトルを取得し、「第1Si強度/第1Cr強度」および「第2Si強度/第2Cr強度」を算出した。
算出結果を表3、4に示す。
表3、4から明らかなように、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末は、それぞれ「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしていることが認められた。
また、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも、第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
なお、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、上記のような特徴を有する粒子が、個数比で50%以上含まれていた。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末の中には、「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たす粒子が含まれている粉末があったものの、その粒子の存在比は10%以下であった。
また、その粒子に含まれていた第1領域は、最大径が200nm以上500nm以下であり、非常に大きかった。なお、この理由は、明確ではないものの、第1元素および第2元素の双方が含まれないために、酸化ケイ素が集積するための核になるものが存在せず、このため、何らかの結晶の転位等が生じた際に、それが核となって酸化ケイ素の集積を促し、第1領域が肥大化したと考えられる。
さらに、その粒子に含まれていた第2領域の平均数は、20個以上であり、微結晶に近い多結晶であった。
3.焼結体(Zr−Nb系)の評価
3.1 相対密度の評価
表1、2に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表3、4に示す。
3.2 硬度の評価
表1、2に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の試験方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、以下の評価基準にしたがって評価した。
<ビッカース硬さの評価基準>
A:ビッカース硬さが300以上である
F:ビッカース硬さが300未満である
評価結果を表3、4に示す。
3.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表1、2に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定したこれらの物性値について、以下の評価基準にしたがって評価した。
<引張強さの評価基準>
A:焼結体の引張強さが695MPa以上である
B:焼結体の引張強さが685MPa以上695MPa未満である
C:焼結体の引張強さが675MPa以上685MPa未満である
D:焼結体の引張強さが665MPa以上675MPa未満である
E:焼結体の引張強さが655MPa以上665MPa未満である
F:焼結体の引張強さが655MPa未満である
<0.2%耐力の評価基準>
A:焼結体の0.2%耐力が490MPa以上である
B:焼結体の0.2%耐力が480MPa以上490MPa未満である
C:焼結体の0.2%耐力が470MPa以上480MPa未満である
D:焼結体の0.2%耐力が460MPa以上470MPa未満である
E:焼結体の0.2%耐力が450MPa以上460MPa未満である
F:焼結体の0.2%耐力が450MPa未満である
<伸びの評価基準>
A:焼結体の伸びが16%以上である
B:焼結体の伸びが14%以上16%未満である
C:焼結体の伸びが12%以上14%未満である
D:焼結体の伸びが10%以上12%未満である
E:焼結体の伸びが8%以上10%未満である
F:焼結体の伸びが8%未満である
以上の評価結果を表3、4に示す。
3.4 疲労強度の評価
表1、2に示す各サンプルNo.の焼結体について、疲労強度を測定した。
なお、疲労強度は、JIS Z 2273(1978)に規定された試験方法に準じて測定した。また、繰り返し応力に相当する荷重の印加波形は両振りの正弦波とし、最小最大応力比(最小応力/最大応力)は0.1とした。また、繰り返し周波数は30Hzとし、繰り返し数を1×107回とした。
そして、測定した疲労強度について、以下の評価基準にしたがって評価した。
<疲労強度の評価基準>
A:焼結体の疲労強度が430MPa以上である
B:焼結体の疲労強度が410MPa以上430MPa未満である
C:焼結体の疲労強度が390MPa以上410MPa未満である
D:焼結体の疲労強度が370MPa以上390MPa未満である
E:焼結体の疲労強度が350MPa以上370MPa未満である
F:焼結体の疲労強度が350MPa未満である
以上の評価結果を表3、4に示す。
表3、4から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体(HIP処理を施した焼結体を除く。)に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
一方、実施例に相当する焼結体と、HIP処理を施した焼結体との間で、各物性値を比較したところ、いずれも同程度であることが認められた。
4.焼結体(Hf−Nb系)の製造
(サンプルNo.41〜69)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表5に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表5では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表5への記載は省略した。
5.金属粉末(Hf−Nb系)の評価
次いで、表5に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
6.焼結体(Hf−Nb系)の評価
6.1 相対密度の評価
表5に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表6に示す。
6.2 硬度の評価
表5に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表6に示す。
6.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表5に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表6に示す。
6.4 疲労強度の評価
表5に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表6に示す。
表6から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
一方、実施例に相当する焼結体と、HIP処理を施した焼結体との間で、各物性値を比較したところ、いずれも同程度であることが認められた。
7.焼結体(Ti−Nb系)の製造
(サンプルNo.70〜79)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表7に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
(サンプルNo.80)
金属粉末と、平均粒径40μmのTi粉末と、平均粒径25μmのNb粉末と、を混合し、混合粉を調製した。なお、混合粉の調製にあたっては、混合粉の組成が表7に示す組成になるように、金属粉末、Ti粉末およびNb粉末の各混合量を調整した。
次いで、この混合粉を用い、サンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表7では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表7への記載は省略した。
8.金属粉末(Ti−Nb系)の評価
次いで、表7に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
9.焼結体(Ti−Nb系)の評価
9.1 相対密度の評価
表7に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表8に示す。
9.2 硬度の評価
表7に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表8に示す。
9.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表7に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表8に示す。
9.4 疲労強度の評価
表7に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表8に示す。
表8から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
10.焼結体(Nb−Ta系)の製造
(サンプルNo.81〜90)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表9に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表9では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表9への記載は省略した。
11.金属粉末(Nb−Ta系)の評価
次いで、表9に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
12.焼結体(Nb−Ta系)の評価
12.1 相対密度の評価
表9に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表10に示す。
12.2 硬度の評価
表9に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表10に示す。
12.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表9に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表10に示す。
12.4 疲労強度の評価
表9に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表10に示す。
表10から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
13.焼結体(Y−Nb系)の製造
(サンプルNo.91〜100)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表11に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表11では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表11への記載は省略した。
14.金属粉末(Y−Nb系)の評価
次いで、表11に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
15.焼結体(Y−Nb系)の評価
15.1 相対密度の評価
表11に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表12に示す。
15.2 硬度の評価
表11に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表12に示す。
15.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表11に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表12に示す。
15.4 疲労強度の評価
表11に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表12に示す。
表12から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
16.焼結体(V−Nb系)の製造
(サンプルNo.101〜110)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表13に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表13では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表13への記載は省略した。
17.金属粉末(V−Nb系)の評価
次いで、表13に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
18.焼結体(V−Nb系)の評価
18.1 相対密度の評価
表13に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表14に示す。
18.2 硬度の評価
表13に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表14に示す。
18.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表13に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表14に示す。
18.4 疲労強度の評価
表13に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表14に示す。
表14から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
19.焼結体(Ti−Zr系)の製造
(サンプルNo.111〜120)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表15に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表15では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表15への記載は省略した。
20.金属粉末(Ti−Zr系)の評価
次いで、表15に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
21.焼結体(Ti−Zr系)の評価
21.1 相対密度の評価
表15に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表16に示す。
21.2 硬度の評価
表15に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表16に示す。
21.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表15に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表16に示す。
21.4 疲労強度の評価
表15に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表16に示す。
表16から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
22.焼結体(Zr−Ta系)の製造
(サンプルNo.121〜130)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表17に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表17では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表17への記載は省略した。
23.金属粉末(Zr−Ta系)の評価
次いで、表17に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
24.焼結体(Zr−Ta系)の評価
24.1 相対密度の評価
表17に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表18に示す。
24.2 硬度の評価
表17に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表18に示す。
24.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表17に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表18に示す。
24.4 疲労強度の評価
表17に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表18に示す。
表18から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
25.焼結体(Zr−V系)の製造
(サンプルNo.131〜140)
粉末冶金用金属粉末の組成等を表19に示すように変更した以外は、それぞれサンプルNo.1の焼結体の製造方法と同様にして焼結体を得た。
なお、表19では、各サンプルNo.の焼結体のうち、本発明に相当するものを「実施例」とし、本発明に相当しないものを「比較例」としている。
また、各焼結体には、微量の不純物が含まれていたが、表19への記載は省略した。
26.金属粉末(Zr−V系)の評価
次いで、表19に示す各サンプルNo.の粉末冶金用金属粉末の粒子の断面について、TEMにより結晶組織を評価した。
その結果、実施例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子を50%以上の個数比で含んでいることが認められた。また、粒子における第1領域の最大径が5nm以上150nm以下であり、かつ、第2領域の円相当径が粒子の円相当径の3%以上100%未満であった。さらに、粒子1つあたりの第2領域の平均数は、1個以上20個以下であった。
一方、比較例に対応する粉末冶金用金属粉末では、いずれも「第2Si強度/第2Cr強度<第1Si強度/第1Cr強度」の関係を満たしている粒子の存在比が10%以下であり、また、粒子における第1領域の最大径は、200nm以上500nm以下であった。
27.焼結体(Zr−V系)の評価
27.1 相対密度の評価
表19に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2501(2000)に規定された焼結金属材料の密度を測定する方法に準じて、焼結密度を測定するとともに、各焼結体を製造するのに用いた粉末冶金用金属粉末の真密度を参照して、各焼結体の相対密度を算出した。
算出結果を表20に示す。
27.2 硬度の評価
表19に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2244(2009)に規定されたビッカース硬さ試験の方法に準じて、ビッカース硬さを測定した。
そして、測定した硬さについて、3.2に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表20に示す。
27.3 引張強さ、0.2%耐力および伸びの評価
表19に示す各サンプルNo.の焼結体について、JIS Z 2241(2011)に規定された金属材料引張試験方法に準じて、引張強さ、0.2%耐力および伸びを測定した。
そして、測定した物性値について、3.3に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表20に示す。
27.4 疲労強度の評価
表19に示す各サンプルNo.の焼結体について、3.4と同様にして疲労強度を測定した。
そして、測定した疲労強度について、3.4に記載した評価基準にしたがって評価した。
評価結果を表20に示す。
表20から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、相対密度が高いことが認められた。また、引張強さ、0.2%耐力および伸びといった特性についても、有意差があることが認められた。
28.焼結体の鏡面性の評価
28.1 表面近傍と内部の空孔率の評価
まず、表21に示すサンプルNo.の焼結体を切断し、断面を研磨した。
次いで、表面近傍の空孔率A1と、内部の空孔率A2とを算出するとともに、A2−A1を算出した。
以上の算出結果を表21に示す。
28.2 鏡面光沢度の評価
まず、表21に示すサンプルNo.の焼結体について、バレル研磨処理を施した。
次いで、JIS Z 8741(1997)に規定された鏡面光沢度の測定方法に準拠して焼結体の鏡面光沢度を測定した。なお、焼結体表面に対する光の入射角は60°とし、鏡面光沢度を算出するための基準面には、鏡面光沢度90、屈折率1.500のガラスを用いた。そして、測定された鏡面光沢度を、以下の評価基準にしたがって評価した。
<鏡面光沢度の評価基準>
A:表面の鏡面性が非常に高い(鏡面光沢度が200以上)
B:表面の鏡面性が高い(鏡面光沢度が150以上200未満)
C:表面の鏡面性がやや高い(鏡面光沢度が100以上150未満)
D:表面の鏡面性がやや低い(鏡面光沢度が60以上100未満)
E:表面の鏡面性が低い(鏡面光沢度が30以上60未満)
F:表面の鏡面性が非常に低い(鏡面光沢度が30未満)
以上の評価結果を表21に示す。
表21から明らかなように、実施例に相当する焼結体は、比較例に相当する焼結体に比べて、鏡面光沢度が高いことが認められた。これは、焼結体の表面近傍における空孔率が特に小さいことにより、光の散乱が抑制される一方、正反射の割合が多くなっていることに起因するものと考えられる。