JP2015147846A - 塩化ビニル樹脂組成物およびそれを用いた絶縁電線ならびに絶縁電線の製造方法 - Google Patents
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塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、化学構造中に硫酸イオンを含有しないハイドロタルサイトと、焼成クレーと、金属水酸化物と、を含有する、塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
前記金属水酸化物の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、7質量部以下である、第1の態様の塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
前記ハイドロタルサイトは、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを含む溶液に二酸化炭素および炭酸水素ナトリウムを吹き込むことにより合成された化合物である、第1の態様又は第2の態様の塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
前記金属水酸化物は、水酸化アルミニウムである、第1〜第3の態様のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
導体と、前記導体の外周上に、第1〜第4の態様のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物から形成される絶縁被覆と、を備える、絶縁電線が提供される。
前記絶縁被覆が架橋されている、第5の態様の絶縁電線が提供される。
第1〜第4の態様のいずれかの塩化ビニル樹脂組成物を導体の外周上に押出被覆して絶縁被覆を形成する工程を有する、絶縁電線の製造方法が提供される。
前記絶縁被覆を架橋する工程をさらに有する、第7の態様の絶縁電線の製造方法が提供される。
本発明の一実施形態の説明に先立ち、本発明者が得た知見について説明をする。
(1)Al2O3+H2SO4→Al2(SO4)3
(2)MgO+H2SO4→MgSO4
(3)Al2(SO4)3+MgSO4+NaOH+NaCO3→ハイドロタルサイト+7Na2SO4
式(1)および(2)に示すように、Al2O3およびMgOをそれぞれ硫酸と反応させ、それぞれの硫酸塩(Al2(SO4)3、MgSO4)を得る。そして、式(3)に示すように、得られた硫酸塩の混合溶液中に水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを添加して反応させることで、ハイドロタルサイトを合成する。この合成では、式(3)に示すように、ハイドロタルサイトと共に、不純物として硫酸ナトリウム(Na2SO4)が生成されることになる。その生成量はハイドロタルサイトの7倍となっている。この不純物としてのNa2SO4は、ハイドロタルサイトを水洗するときに除去されることになる。しかし、Na2SO4は、その生成量が多く、完全に除去することは困難である。このため、Na2SO4は、硫酸イオンとして、ハイドロタルサイトの化学構造中に残存することとなる。つまり、硫酸塩を用いて合成されたハイドロタルサイトは化学構造中に多量の硫酸イオンを含有しており、純度が低い傾向にある。このようなハイドロタルサイトを用いると、塩化ビニル樹脂組成物の熱安定性が大きく低下してしまう。
以下、本発明の一実施形態について、説明する。
本実施形態の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、化学構造中に硫酸イオンを含有しないハイドロタルサイトと、焼成クレーと、金属水酸化物と、を含有する。
塩化ビニル樹脂は、ベース樹脂である。塩化ビニル樹脂としては、特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。例えば、塩化ビニルのホモポリマーや、塩化ビニルと他の共重合可能なモノマーとの共重合体として塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などを用いることができる。また、これらの樹脂に、必要に応じてエチレン−酢酸ビニル共重合体や塩素化ポリエチレンなどを混合して用いてもよい。塩化ビニル樹脂の平均重合度は、熱安定性、耐寒性および成形加工性の観点から1300以上2500以下であることが好ましく、1500以上2000以下であることがより好ましい。
可塑剤としては、特に限定されず、従来公知の可塑剤を用いることができる。可塑剤の中でも、トリメリット酸系可塑剤が好ましく、例えばトリメリット酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリノルマルアルキル、トリメリット酸トリイソデシルなどを用いることができる。熱安定性や耐寒性の観点からは、トリメリット酸トリノルマルアルキルがより好ましい。トリメリット酸トリノルマルアルキルは、主成分として炭素数8のアルキル基を含むことが好ましく、副成分として炭素数10のアルキル基を含んでいてもよい。
ハイドロタルサイトは、例えば、組成式Mg6Al2(OH)16CO3・4H2Oで表わされ、マグネシウムおよびアルミニウムを含む層状構造を有し、層間に炭酸イオン(CO3 2−)を含む化合物である。ハイドロタルサイトは、酸性域において陰イオン交換性を有するため、塩化ビニル樹脂組成物の難燃性および熱安定性を向上させることができる。この点につき、以下、具体的に説明する。
この合成においては、不純物として炭酸ナトリウム(Na2CO3)が生成されることになる。しかし、上記合成の場合、硫酸塩を用いてハイドロタルサイトを合成する場合と比較して、合成の際に生成される不純物の生成量が少ない。具体的には、硫酸塩を用いて合成する場合、不純物(硫酸ナトリウム)の生成量は、化学量論量で、ハイドロタルサイトの7倍量であるのに対して、上記のように合成する場合、不純物(炭酸ナトリウム)の生成量は、化学量論量で、ハイドロタルサイトの1.5倍程度である。このため、上記のように合成されたハイドロタルサイトでは、水洗により不純物が除去されて、化学構造中に不純物が残存しにくい。つまり、上記ハイドロタルサイトは、不純物の残存が少なく、高い純度を有する。
焼成クレーは、塩化ビニル樹脂組成物に電気特性および難燃性を付与するものである。焼成クレーは、例えば、カオリンクレーの1種であり、湿式カオリン(化学式:Al2O3・2SiO2・2H2O)を焼成したものである。焼成クレーでは、焼成により結晶水が放出し、もとの結晶構造が崩壊している。この構造を有することにより、焼成クレーは、他のカオリン(湿式カオリンや乾式カオリンなど)と比較して活性が高く、遊離イオンを吸着固定しやすい。このため、焼成クレーによれば、塩化ビニル樹脂の電気特性(電気絶縁性)をより向上させることができる。また、焼成クレーは、多孔質な構造を有するので、低分子の有機成分を取り込み、塩化ビニル樹脂の難燃性にも寄与する。
金属水酸化物は、塩化ビニル樹脂組成物に難燃性を付与するものである。具体的には、金属水酸化物は、加熱により脱水して水分を放出し、その水分により塩化ビニル樹脂組成物の温度を低下させる(吸熱反応する)。これにより、塩化ビニル樹脂組成物の燃焼を抑制し、その難燃性を向上させる。
本実施形態の塩化ビニル樹脂組成物は、必要に応じて、安定剤をさらに含有してもよい。安定剤としては、鉛または鉛系の物質を含有しない非鉛系安定剤であれば限定されず、従来公知のものを用いることができる。
次に、本発明の一実施形態にかかる絶縁電線について図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁電線の断面図を示す。
上述の絶縁電線1は、従来公知の方法により製造することができる。絶縁電線1の製造方法は、例えば、上述の塩化ビニル樹脂組成物を導体10の外周上に押出被覆して絶縁被覆11を形成する工程と、絶縁被覆11を架橋する工程とを有する。具体的には、所定の線速(例えば、400m/min)で導体10を走行させ、その外周上に塩化ビニル樹脂組成物を押出被覆することにより絶縁被覆11を形成する。その後、絶縁被覆11に電子線などを照射することにより、絶縁被覆11を架橋する。これにより、本実施形態の絶縁電線1を得る。本実施形態では、金属水酸化物の含有量が少なく、成形加工性に優れる塩化ビニル樹脂組成物を用いるため、せん断発熱による樹脂の発泡やダイスカスの発生を抑制することができ、高速押出が可能である。つまり、導体10を走行させる線速を高速化することで、絶縁電線1の生産効率を向上させることができる。
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
まず、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムとからなる懸濁液を用いて、硫酸塩に由来せず、化学構造中に硫酸イオンを含有しないハイドロタルサイト(A)を合成した。合成により得られたハイドロタルサイト(A)は、BET表面積が10mg/g、平均粒子径が0.6μm、105℃での水分値が0.2%であった。なお、本実施例において、平均粒子径は、島津製作所のSALD−2000Aを用いて2回測定を行い、得られた50%累積の2次粒子径の算術平均とした。
実施例および比較例において用いた材料は次の通りである。
上記材料を用いて、実施例1〜4、および比較例1,2の塩化ビニル樹脂組成物を調製した。調製条件を以下の表1に示す。
次に、上記で調製した塩化ビニル樹脂組成物を用いて、絶縁電線を製造した。
具体的には、導体として、外径0.16mmの錫メッキ軟銅線を26本撚り合わせた撚り導体(外径0.94mm)の外周上に、調製した塩化ビニル樹脂組成物を溶融押出法により被覆厚0.5mmで押出被覆し、絶縁被覆を形成した。その後、絶縁被覆に、線量3.5Mradで電子線を照射し、電子線架橋することにより、絶縁電線を製造した。
次に、得られた絶縁電線について、難燃性、電気特性、熱安定性、耐寒性および成形加工性を評価した。以下、評価方法について説明する。
難燃性としては、UL1581に規定されるVW−1試験に準拠して、垂直難燃試験を行った。本実施例では、5本の絶縁電線に対して試験を行い、5本とも合格した場合を「○」、1本でも不合格であった場合を「×」とした。
電気特性としては、初期状態の絶縁電線、および136℃の環境下に168時間放置した熱劣化後の絶縁電線について、UL758を基準に以下の2つの試験を行い、いずれの試験にも合格した場合を「○」、そうでなかった場合を「×」とした。
(1)初期状態および熱劣化後のそれぞれの絶縁電線を直径5mmのマンドレルに6回巻き付け、水中で所定電圧をかけ、絶縁破壊するまでの破壊電圧を測定した。そして、初期状態の絶縁電線の破壊電圧をA、熱劣化後の絶縁電線の破壊電圧をBとして、Aが15kV以上、かつB/Aが0.9以上となる場合を合格とした。
(2)初期状態および熱劣化後のそれぞれの絶縁電線に金属箔を巻き、定格条件105℃/2000Vで1分間、課電した。初期状態および熱劣化後の絶縁電線について、いずれも短絡しない場合を合格とした。
熱安定性としては、以下の2つの試験を行い、いずれの試験にも合格した場合を「○」、そうでなかった場合を「×」とした。
(1)絶縁電線を150℃で熱劣化させ、熱劣化後の絶縁被覆の引張伸びの絶対値が50%となる時間を測定し、その時間が500時間以上である場合を合格、500時間未満である場合を不合格とした。
(2)CSA試験で指定されたワニスを絶縁電線に塗布し、105℃で30分乾燥させ、その後、150℃で20時間、ワニスを硬化させた。これを直径1mmのマンドレルに6回巻き付け、絶縁被覆にクラックが生じない場合を合格とした。
耐寒性としては、絶縁電線を−35℃の環境下に1時間放置し、これを直径1mmのマンドレルに6回巻き付け、絶縁被覆にクラックが生じない場合を「○」、クラックが生じた場合を「×」とした。
成形加工性としては、以下の2つの試験を行い、いずれの試験にも合格した場合を「○」、そうでなかった場合を「×」とした。
(1)40mmの押出機を用いて、線速400m/minで塩化ビニル樹脂組成物を押出被覆し、塩化ビニル樹脂組成物に由来するスパーク抜け、もしくはコブ・ダイスカスの発生による外径エラーが生じない場合を合格、生じた場合を不合格とした。
(2)押出初期のサンプルと、押出被覆を1時間行った後のサンプルとを採取し、絶縁被覆の外観に荒れが確認されず、また光学顕微鏡による倍率100倍での観察にて絶縁被覆に発泡が確認されない場合を合格とした。
実施例1〜4では、表1に示すように、難燃性、電気特性、熱安定性、耐寒性および成形加工性に優れていることが確認された。
一方、比較例1では、硫酸塩に由来するハイドロタルサイト(B)を用いたため、熱安定性に劣ることが確認された。このことから、残存する多量の硫酸イオンが熱安定性を低下させていると考えられる。また、比較例2では、金属水酸化物を15質量部と多量に添加したため、難燃性を除く諸特性が低下することが確認された。
10 導体
11 絶縁被覆
Claims (8)
- 塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、化学構造中に硫酸イオンを含有しないハイドロタルサイトと、焼成クレーと、金属水酸化物と、を含有する、塩化ビニル樹脂組成物。
- 前記金属水酸化物の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して、7質量部以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
- 前記ハイドロタルサイトは、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとを含む溶液に二酸化炭素および炭酸水素ナトリウムを吹き込むことにより合成された化合物である、請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
- 前記金属水酸化物は、水酸化アルミニウムである、請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
- 導体と、前記導体の外周上に、請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物から形成される絶縁被覆と、を備える、絶縁電線。
- 前記絶縁被覆が架橋されている、請求項5に記載の絶縁電線。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を導体の外周上に押出被覆して絶縁被覆を形成する工程を有する、絶縁電線の製造方法。
- 前記絶縁被覆を架橋する工程をさらに有する、請求項7に記載の絶縁電線の製造方法。
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