(検討事項)
まず、実施の形態を説明する前に、本発明者が検討した事項について説明する。
本発明者は、導体と、前記導体の周りに被覆された絶縁層とを備える電線において、ノンハロゲンであり、かつ難燃性を向上させるため、前記絶縁層がエチレン系共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体)を主体とする樹脂成分(ベースポリマ)に、金属水酸化物および窒素系難燃剤を添加した樹脂組成物からなる電線を検討した(以下、検討例の電線と称する)。
従来、樹脂組成物の難燃性を向上させるため、難燃剤である金属水酸化物およびメラミンシアヌレートを樹脂組成物に添加することが知られている。特に、これらの難燃剤を併用した場合には、その相乗効果によって、これらの難燃剤を単独で使用する場合に比べて難燃性を向上させることができるため、検討例の電線にあっては、難燃性に優れた電線を提供することができる。
しかし、本発明者は、検討例の電線において、以下のような課題を確認している。まず、1つ目は、難燃性である。前述したように、難燃性は、難燃性規格UL1581に規定される垂直難燃試験VW−1に合格することが要求される。ここで、本発明者は、電線の絶縁層に対する導体の横断面積比と垂直難燃試験VW−1の合格率との関係に着目した。表1には、電線の構成例を示しており、それぞれの構成における、導体の構成(本/mm)、導体径(mm)、電線の外径(mm)、導体の横断面積(mm2)(以下、Xとする)、絶縁層の横断面積(mm2)(以下、Yとする)、絶縁層に対する導体の横断面積比X/Yを表している。
垂直難燃試験の結果には、電線中の絶縁層の比率が大きな影響を及ぼす。電線の構成例において、仮に導体の面積が一定であると仮定した場合、絶縁層に対する導体の横断面積比X/Yが小さくなればなるほど、絶縁層の厚さが厚くなる。ここで、本発明者が検討例の電線について、X/Yを変化させて垂直難燃試験VW−1を行ったところ、X/Yが0.111(No.1)、0.222(No.3)、0.572(No.12)、0.743(No.13)のときには垂直難燃試験VW−1に合格する一方、X/Yが0.158(No.2)のときには垂直難燃試験VW−1に不合格となることを確認した。すなわち、検討例の電線では、絶縁層の厚さによって、垂直難燃試験VW−1(UL1581)に合格することができない場合がある。そのため、絶縁層の厚さによらず垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を有する電線が最も望ましいが、実用性の観点から少なくともX/Yが0.35以下で、好ましくはX/Yが0.20以下で垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を有する電線が望まれる。
そこで、検討例の電線において、難燃性を向上させるために、例えば樹脂組成物中の金属水酸化物の比率を高めるという方法が考えられる。しかし、樹脂組成物中の金属水酸化物の比率を高めると、引張強度や伸びなどの機械特性が低下するという問題が生じてしまう。従って、機械特性を低下させることなく難燃性を向上させることが望まれる。
(実施の形態1)
<電線の構成および製造方法>
図1は、本発明の一実施の形態に係る電線(絶縁電線、難燃性絶縁電線)を示す横断面図である。図1に示すように、本実施の形態に係る電線10は、導体1と、導体1の周囲に被覆される絶縁層2とを有している。
導体1としては、通常用いられる金属線、例えば銅線、銅合金線のほか、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、導体1として、金属線の周囲に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、導体1として、金属線を撚り合わせた撚り導体を用いることもできる。
絶縁層2は、以下で詳述する本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物からなる。絶縁層2の厚さ(被覆厚)は特に限定されるものではないが、0.25mm以上0.81mm以下が好ましい。
電線10の被覆外径も特に限定されるものではないが、0.5mm以上3.2mm以下が好ましい。本発明者は、絶縁層2に本実施の形態の難燃性樹脂組成物を用いた場合には、電線10の被覆外径が0.5mm以上3.2mm以下の範囲において、絶縁層2の厚さによらず、垂直難燃試験VW−1(UL1581)に合格することができることを確認している。
図1に示す本実施の形態の電線10は、例えば、以下のように製造される。まず、後述の本実施の形態の難燃性樹脂組成物の原材料を溶融混練する。その後、導体1を準備し、押出成形機により、導体1の周囲を被覆するように、本実施の形態の難燃性樹脂組成物を押出して、所定厚さの絶縁層2を形成する。こうすることで、電線10を製造することができる。
本実施の形態の難燃性樹脂組成物を製造するための混練装置は、例えば、バンバリーミキサーや加圧ニーダなどのバッチ式混練機などの公知の混練装置を採用することができる。
また、本実施の形態では、電線10を製造した後に、絶縁層2を構成する難燃性樹脂組成物を、例えば電子線架橋法により架橋する。この際、難燃性樹脂組成物を電線10の絶縁層2として成形した後に、例えば1〜30Mradの電子線を照射して架橋する。後述するように、架橋により難燃性樹脂組成物の機械特性が向上するため、このような架橋がされていることが好ましい。
<ケーブルの構成および製造方法>
図2は、本発明の一実施の形態に係るケーブル11を示す横断面図である。図2に示すように、本実施の形態に係るケーブル11は、前述の電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線と、前記二芯撚り線の周囲に設けられた介在3と、介在3の周囲に設けられたシース4とを備えている。シース4は、汎用の材料、例えば、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂またはポリエチレンなどのポリオレフィンを用いることができる。
また、シース4を本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物で構成してもよい。また、この場合、内部の電線として汎用の電線を用いてもよい。
本実施の形態のケーブル11は、例えば、以下のように製造される。まず、前述した方法により、電線10を2本製造する。その後、電線10の周囲を介在3により被覆し、その後、介在3を被覆するように、樹脂組成物を押出して、所定厚さのシース4を形成する。こうすることで、本実施の形態のケーブル11を製造することができる。
本実施の形態のケーブル11は、難燃性および機械特性を備えた電線10を含んでいるため、難燃性および機械特性に優れたノンハロゲン難燃性樹脂ケーブルとして使用することができる。
本実施の形態のケーブル11は、芯線として電線10を2本撚り合わせた二芯撚り線を有する場合を例に説明したが、芯線は単芯(1本)でもよいし、二芯以外の多芯撚り線であってもよい。また、電線10とシース4との間に、他の絶縁層(シース)が形成された、多層シース構造を採用することもできる。
<難燃性樹脂組成物の構成>
以下、本実施の形態の難燃性樹脂組成物について詳述する。本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、ベースポリマと、難燃剤とを含んでいる。ベースポリマは、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、(B)変性ポリマとにより構成されている。難燃剤は、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤(メラミンシアヌレート)と、(E)亜鉛系化合物とにより構成されている。また、本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物であることが好ましい。
本実施の形態の(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、(A1)酢酸ビニル含有量(以下、VA量という)が60質量%以上のもの(第1のエチレン−酢酸ビニル共重合体)、(A2)VA量が60質量%未満のもの(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)をそれぞれ含んでいる。より好ましくは、本実施の形態の(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)は、(A21)VA量が60質量%未満40質量%以上のもの(第3のエチレン−酢酸ビニル共重合体)と(A22)VA量が40質量%未満のもの(第4のエチレン−酢酸ビニル共重合体)とをそれぞれ含んでいる。VA量の違いによる効果は、後述する。
本実施の形態の(B)変性ポリマは、ポリオレフィンに接着性や相溶性を付与するために、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性したものである。不飽和カルボン酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アコニット酸、クロトン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸または無水コハク酸などが挙げられる。特に、本実施の形態の(B)変性ポリマとしては、マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体が好ましく、マレイン酸変性エチレン−1−ブテン共重合体、マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体またはマレイン酸変性ポリエチレンが特に好ましい。マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体などのエチレン−α−オレフィン系共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合させたものである。α−オレフィンの炭素数は3〜8が好ましい。
本実施の形態の(C)金属水酸化物は、水酸化マグネシウムである。これは、金属水酸化物の熱分解反応(吸熱反応)の反応開始温度がポリマの熱分解温度と近く、ポリマの熱分解を抑制する効果が高いためである。また、本実施の形態の(C)金属水酸化物は、シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用して表面処理されているものを用いる。こうすることで、シランカップリング剤単独で表面処理された金属水酸化物を用いた場合に比べて、難燃性樹脂組成物の成形加工性が向上し、脂肪酸類単独で表面処理された金属水酸化物を用いた場合に比べて、難燃性樹脂組成物の難燃性が向上する。なお、(C)金属水酸化物には、水酸化マグネシウム以外に、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、またはニッケルが固溶したこれらの金属水酸化物などの他の金属水酸化物を併用してもよい。
本実施の形態の(D)窒素系難燃剤は、メラミンシアヌレートである。本実施の形態において、メラミンシアヌレートの表面処理の有無は問わない。また、メラミンシアヌレートの粒径は、引張特性の観点から平均粒径を5μm以下としたものが好ましく、3μm程度に制御されているものがさらに好ましい。
本実施の形態の(E)亜鉛系化合物は、(E1)スズ酸亜鉛(化学式ZnSn(OH)6、ZnSnO3)または(E2)ホウ酸亜鉛(化学式2ZnO・3B2O3・3.5H2O、4ZnO・B2O3・H2O、2ZnO・3B2O3)を用いることができる。吸熱作用による難燃性の観点から、(E1)スズ酸亜鉛はZnSn(OH)6を、(E2)ホウ酸亜鉛は2ZnO・3B2O3・3.5H2Oをそれぞれ用いることが好ましい。本実施の形態の(E)亜鉛系化合物において、平均粒径は5μm以下にコントロールされていることが好ましく、シラン、脂肪酸または無機粉体などで表面処理されているものを用いても良い。
また、本実施の形態の難燃性樹脂組成物は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(B)変性ポリマ、(C)金属水酸化物、(D)窒素系難燃剤、(E)亜鉛系化合物以外にも、必要に応じて(F)架橋助剤、(G)酸化防止剤(熱老化防止剤)、(H)銅害防止剤、(I)滑剤または(J)加工助剤などを含有していてもよい。(F)架橋助剤としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛などが挙げられる。また、(G)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤または硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。(H)銅害防止剤としては、例えばN−(2H−1,2,4−トリアゾール−5−イル)サリチルアミド、ドデカン二酸ビス[N2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]、2’,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド等が挙げられ、より好適には2’,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドなどがあげられる。(I)滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系などが挙げられる。(J)加工助剤としては、リシノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、もしくは、これらの塩またはエステル類、あるいは、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。
また、本実施の形態では、前記難燃性樹脂組成物内において、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体同士、(B)変性ポリマ同士、または、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と(B)変性ポリマとが架橋されていることが好ましい。本実施の形態にあっては、難燃性樹脂組成物中に、(C)金属水酸化物および(E)亜鉛系化合物が高い比率で混合されているため、難燃性樹脂組成物の機械特性を向上させるためには、このような架橋がされていることが好ましい。また、架橋方法としては、成形後に電子線を照射する電子線架橋法や難燃性樹脂組成物に架橋剤をあらかじめ添加しておき、成形後熱処理を行う化学架橋などを用いることができる。特に、本実施の形態にあっては、架橋剤が不要で、架橋剤による各原料の特性への影響を考慮する必要がない電子線架橋法が好ましい。また、架橋の度合いは、ゲル分率で50%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。このゲル分率は、JIS C 3005に規定された架橋度試験方法に基づいて測定される。
以下、各原材料の比率について説明する(後述の実施例および比較例を参照)。本実施の形態において、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体および(B)変性ポリマからなるベースポリマ中の(B)変性ポリマの含有率は、特に限定されるものではないが、ベースポリマ100質量部中、(B)変性ポリマが4質量部以上15質量部以下という含有率が好ましい。すなわち、ベースポリマ100質量部中、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体が85質量部以上96質量部以下という含有率が好ましい。ベースポリマ100質量部中、(B)マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体が4質量部以上であれば、ベースポリマと金属水酸化物との密着性を向上させることができ、機械特性の低下を抑制することができる。一方、ベースポリマ100質量部中、(B)変性ポリマが15質量部以下であると、その分(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の比率を低く抑えることができ、難燃性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、難燃剤である(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物の総和は、ベースポリマ100質量部に対して、265質量部以上330質量部以下である。垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を得るには少なくとも難燃剤の総和が、ベースポリマ100質量部に対して、265質量部以上である必要があり、難燃剤の総和を330質量部以下とすることで、必要な機械特性を維持でき、かつ、電線の絶縁層の押出成形時のトルクが過剰になることを抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量は、235質量部以上300質量部未満、好ましくは235質量部以上260質量部以下である。十分な難燃性を得るためにはベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量が235質量部以上である必要がある。一方、ベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量が300質量部未満とすることで、機械特性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量は25質量部以上80質量部以下であり、30質量部以上40質量部以下添加されていることが好ましい。後述の実施例に示すように、ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量を25質量部以上とすることで難燃性を発現でき、一定の機械特性を維持することができる。ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量が80質量部以下であると、他の難燃剤とのバランスが図れ、難燃性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(E)亜鉛系化合物の添加量は5質量部以上40質量部未満であり、10質量部以上20質量部以下添加されていることが好ましい。垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を維持するためには、少なくともベースポリマ100質量部に対する(E)亜鉛系化合物の添加量が5質量部以上である必要があり、(E)亜鉛系化合物の添加量を40質量部未満とすることで必要な機械特性を得ることができる。なお、後述の実施例に示すように、本実施の形態において、(E1)スズ酸亜鉛および(E2)ホウ酸亜鉛は併用しても、単独で使用してもよい。
<本実施の形態の特徴と効果>
図1に示す本実施の形態に係る電線10の特徴の一つは、導体1と、導体1の周囲に被覆される絶縁層2とを有し、絶縁層2はベースポリマと、難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物により構成されていることである。そして、ベースポリマは、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、(B)変性ポリマとにより構成されている。難燃剤は、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物とにより構成されている。さらに、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、(A1)VA量が60質量%以上のものと(A2)VA量が60質量%未満のものとをそれぞれ含んでいる。
本実施の形態では、このような構成を採用したことにより、難燃性および機械特性を備えた電線を提供することができる。以下、その理由について具体的に説明する。
本実施の形態にあっては、難燃剤に(C)金属水酸化物および(D)窒素系難燃剤に加え、(E)亜鉛系化合物を添加している。こうすることで、後述の実施例に示すように、(C)金属水酸化物および(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物との相乗効果によって、難燃性を向上させることができる。そして、その相乗効果により(E)亜鉛系化合物をわずかに(ベースポリマ100質量部に対して5質量部程度)添加するだけで(C)金属水酸化物の添加量を大幅に(ベースポリマ100質量部に対して50質量部程度)減らすことができる。その結果、難燃剤に対するベースポリマの比率を高めることができ、難燃性と機械特性とを両立することができる。
また、本実施の形態にあっては、ベースポリマに(B)変性ポリマを添加している。(B)変性ポリマは、不飽和カルボン酸由来のカルボキシル基を有している。そのため、(B)変性ポリマは、(C)金属水酸化物との間で水素結合を形成することができる。従って、(B)変性ポリマと(C)金属水酸化物との密着性は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と(C)金属水酸化物との密着性よりも高い。このような性質のため、ベースポリマに(B)変性ポリマを添加することで、ベースポリマと難燃剤中の(C)金属水酸化物との密着性を高め、生成された難燃性樹脂組成物の機械特性(特に耐寒性)を向上させることができる。
さらに、本実施の形態では、難燃性と機械特性とを両立すべく、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体として、難燃効果の高い(A1)VA量が60質量%以上のものを採用することを試みた。(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、VA量が少ないと機械特性が向上する一方、難燃性が低下する。VA量が多いと難燃性が向上する一方、ガラス転移温度が高くなり、これを含む難燃性樹脂組成物の機械特性、特に引張強度や耐寒性(低温特性)が低下する。従来、VA量の多い(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体を用いると、機械特性が得られないため、電線の絶縁層を構成する樹脂組成物に用いることは難しいと考えられていた。
この点、本発明者は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)VA量が60質量%以上のものと(A2)VA量が60質量%未満のものとを併用することによって、電線の絶縁層を構成する難燃性樹脂組成物において機械特性と難燃性との両立を可能にすることに成功した。
なお、図示は省略するが、本発明者は、走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)像により、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のうち、VA量に差がある(その差が約70質量%以上の)2種類のものを組み合わせた場合には、相構造が海島構造になることを確認した。一方、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のうち、VA量が互いに近い(その差が約40質量%以下の)2種類以上のものを組み合わせた場合には、相構造がスピノーダル構造になることを確認した。
この結果から、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体を(A21)VA量が60質量%未満40質量%以上のものと(A22)VA量が40質量%未満のものとにより構成した場合には、VA量の異なる3種類のエチレン−酢酸ビニル共重合体の、それぞれの相溶性が高くなり、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させることができることがわかった。
本実施の形態の電線は、ハロゲンフリーであり、かつ、細径であっても優れた難燃性および引張特性、熱老化特性、耐寒性を併せ持つため、各種家電製品やOA機器などにおける機器内配線用および自動車内の配線用電線として有用である。
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例および比較例の概要>
以下、実施例1〜実施例12の電線および比較例1〜比較例5の電線について説明する。実施例1〜実施例12の電線は、図1に示す電線10に対応する。すなわち、電線10の絶縁層2は、本実施の形態の難燃性樹脂組成物からなる。また、比較例1〜比較例5の電線の形状は、図1に示す電線10と同様であるが、この絶縁層2は本実施の形態の難燃性樹脂組成物とは異なる組成の樹脂組成物からなる。実施例1〜実施例12の難燃性樹脂組成物の組成を表3に示している。また、比較例1〜比較例5の樹脂組成物の組成を表4に示している。
実施例および比較例で作製した電線の構成(導体および絶縁層)は、表1に示すNo.1,2,3,12,13の計5種類(表1中※で示した)とした。すなわち、実施例1〜12および比較例1〜5の各組成に対して、それぞれ5種類の電線を作製した。なお、電線を構成する導体として、スズメッキ撚り導体(芯数26、素線直径0.16mm)を用いた。
実施例1〜実施例12の電線の製造方法は次の通りである。まず、後述する表3に示す実施例1〜実施例12の各原材料を室温にてドライブレンドし、混合した原材料を加圧ニーダにより取出温度150℃にて溶融混練し、難燃性樹脂組成物を生成した。その後、電線製造用の40mm単軸押出機を用いて、導体の周囲に難燃性樹脂組成物からなる絶縁層を50m/分で形成することにより、電線を作製した。この電線に電子線架橋処理(5Mrad)を行うことで、絶縁層を構成する難燃性樹脂組成物の架橋を行い、実施例1〜実施例12の電線を作製した。比較例1〜比較例5の電線の製造方法は、実施例1〜実施例12の電線と同様であるため省略する。
<実施例および比較例の材料>
実施例1〜実施例12および比較例1〜比較例5で用いた材料を表2に示す。
なお、後述の表3および表4には、(B)変性ポリマとして、マレイン酸変性エチレン−1−ブテン共重合体を使用した実施例および比較例を示しているが、いずれも表2に示したマレイン酸変性エチレン−1−ブテン共重合体以外の変性ポリマを使用した場合も同様の結果が得られているため、表3および表4ではその実施例および比較例を省略している。
<実施例および比較例の評価方法>
実施例および比較例は、(1)難燃性、(2)引張特性、(3)耐熱性および(4)耐寒性の4つの特性について評価した。実施例1〜12および比較例1〜5の各組成を有する5種類の電線(前述の表1に示すNo.1,2,3,12,13)に対して評価を行った。なお、各特性の評価については、5種類の電線全てが合格した場合にその評価を「○」とし、5種類の電線のうち1種類でも不合格となった場合は、その評価を「×」とした。
(1)難燃性
難燃性は、UL1581に準拠した試験によって評価した。具体的には、作製した電線(長さ約500mm)に対して、UL1581に規定される垂直難燃試験VW−1を3回行い、3回とも基準を満たしたものを「合格」とし、1回でも基準を満たさなかったものを「不合格」とした。
(2)引張特性
引張特性は、UL1581に準拠した試験によって評価した。具体的には、作製した電線から導体を引き抜いて絶縁層のみのサンプル(長さ約100mm)とし、このサンプルの引張強度(MPa)および伸び(%)を、標線間25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。引張強度の要求特性は10.3MPa以上および伸びの要求特性は150%以上として、これらの要求特性をいずれも満たすものを「合格」とし、いずれかを満たさないもの、または、いずれも満たさないものを「不合格」とした。
(3)耐熱性
耐熱性は、UL1581に準拠した試験によって評価した。具体的には、作製した電線から導体を引き抜いて絶縁層のみのサンプル(長さ約100mm)とし、このサンプルを136℃のギアオーブンに168時間暴露し、初期の引張強度および伸びと、暴露後の引張強度および伸びとを比較した。具体的には、次に示す式により引張強度残率(%)および伸び残率(%)を計算し、引張強度残率70%以上かつ伸び残率が45%以上となるものを「合格」とし、これらのいずれかを満たさないもの、または、これらのいずれも満たさないものを「不合格」とした。
引張強度残率(%)=100×(上記暴露後の引張強度)/(初期の引張強度)
伸び残率(%)=100×(上記暴露後の伸び)/(初期の伸び)
(4)耐寒性
耐寒性(低温特性)は、UL1581に準拠した低温巻き付け試験によって評価した。具体的には、作製した電線を−10℃で4時間冷却し、その後−10℃で冷却した電線の被覆外径の2倍径を有する金属マンドレルに巻き付けた。巻き付け後に、絶縁層にクラックが観察されなかったものを「合格」とし、クラックが観察されたものを「不合格」とした。
<実施例1〜実施例12の詳細および評価結果>
表3に実施例1〜実施例12の組成および評価結果を示す。
表3に示すように、実施例1〜実施例12の電線の絶縁層を構成する難燃性樹脂組成物は、その原材料として少なくとも(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)変性ポリマと、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物とを含んでいる。
実施例1〜実施例5は、(D)窒素系難燃剤と(E)亜鉛系化合物との比率、および、(E)亜鉛系化合物の種類を変更したものである。
実施例6は、ベースポリマ中の(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(具体的には(A22)VA量が40質量%未満のもの)と(B)変性ポリマとの比率を変更したものである。
実施例7〜実施例9は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体中のVA量の異なるものの種類および比率を変更したものである。
実施例10および実施例11は、主に難燃剤の総和を変更したものである。
実施例12の難燃性樹脂組成物は、実施例1の難燃性樹脂組成物にさらに(J)加工助剤を添加したものである。
表3に示すように、実施例1〜実施例12において、前述の原材料の違いにかかわらず(1)引張特性、(2)難燃性、(3)耐熱性および(4)耐寒性はいずれも良好であった。特に、実施例12では、成形加工性を高めるために可燃物である(J)加工助剤を加えているが、難燃性に合格した。
<比較例1〜比較例5の詳細および評価結果>
表4に比較例1〜比較例5の組成および評価結果を示す。
表4に示す比較例1〜比較例5は、実施例1および実施例2で用いた原材料の種類や各原材料の配合比率を変更したものである。
比較例1の樹脂組成物は、(D)窒素系難燃剤および(E)亜鉛系化合物が添加されておらず、その分(C)金属水酸化物が多く添加されている点で実施例1と相違している。
比較例2の樹脂組成物は、(D)窒素系難燃剤が添加されておらず、その分(E)亜鉛系化合物が多く添加されている点で実施例2(実施例3)と相違している。
比較例3の樹脂組成物は、(E)亜鉛系化合物が添加されておらず、(D)窒素系難燃剤が多く添加されている点で実施例1と相違している。
比較例4の樹脂組成物は、(D)窒素系難燃剤の添加量を減らし、その分(E)亜鉛系化合物が多く添加されている点で実施例2(実施例3)と相違している。
比較例5の樹脂組成物は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のうち、(A1)VA量が60質量%以上のものが添加されておらず、その分(A2)VA量が60質量%未満のもの、具体的には(A21)VA量が60質量%未満40質量%以上のものが多く添加されている点で実施例10と相違している。
表4に示すように、比較例1、比較例2および比較例4において、(3)耐熱性は良好である一方、(1)難燃性、(2)引張特性および(4)耐寒性が不良となった。比較例1の樹脂組成物は、(D)窒素系難燃剤および(E)亜鉛系化合物を含んでいないため、比較例2の樹脂組成物は、(D)窒素系難燃剤を含んでいないため、また比較例4の樹脂組成物は、ベースポリマに対する(D)窒素系難燃剤の比率が低いため、それぞれ(1)難燃性が不合格になったと考えられる。
また、比較例1はベースポリマに対する(C)金属水酸化物の比率が高いため、また比較例2および比較例4はベースポリマに対する(E)亜鉛系化合物の比率が高いため、(2)引張特性などの機械特性が不合格になったと考えられる。
また、比較例3および比較例5において、(2)引張特性、(3)耐熱性および(4)耐寒性は良好である一方、(1)難燃性が不良となった。比較例3の樹脂組成物は、(E)亜鉛系化合物を含んでいないため、比較例5の樹脂組成物は、(A1)VA量が60質量%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体を含んでいないため、それぞれ(1)難燃性が不合格になったと考えられる。
(実施の形態2)
<電線の構成および製造方法>
本実施の形態の電線(絶縁電線、難燃性絶縁電線)の構成および製造方法は、実施の形態1と同様であるためその説明を省略する(図1)。
<ケーブルの構成および製造方法>
本実施の形態のケーブルの構成および製造方法は、実施の形態1と同様であるためその説明を省略する(図2)。
<難燃性樹脂組成物の構成>
以下、本実施の形態の難燃性樹脂組成物について詳述する。本実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、ベースポリマと、難燃剤とを含んでいる。ベースポリマは、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、(B)変性ポリマとにより構成されている。難燃剤は、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤(メラミンシアヌレート)と、(E)亜鉛系化合物とにより構成されている。また、本発明の一実施の形態に係る難燃性樹脂組成物は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物であることが好ましい。
本実施の形態の(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、(A1)酢酸ビニル含有量(以下、VA量という)が60質量%以上のもの(第1のエチレン−酢酸ビニル共重合体)、(A2)VA量が60質量%未満のもの(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)をそれぞれ含んでいる。より好ましくは、本実施の形態の(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)は、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のもの(第3のエチレン−酢酸ビニル共重合体)と(A22)VA量が20質量%未満のもの(第4のエチレン−酢酸ビニル共重合体)とをそれぞれ含んでいる。VA量の違いによる効果は、後述する。
本実施の形態の(B)変性ポリマは、ポリオレフィンに接着性や相溶性を付与するために、ポリオレフィンを不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性したものである。不飽和カルボン酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アコニット酸、クロトン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸または無水コハク酸などが挙げられる。特に、本実施の形態の(B)変性ポリマとしては、マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体が好ましく、マレイン酸変性エチレン−1−ブテン共重合体、マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体またはマレイン酸変性ポリエチレンが特に好ましい。マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体は、エチレン−プロピレン共重合体などのエチレン−α−オレフィン系共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合させたものである。α−オレフィンの炭素数は3〜8が好ましい。
本実施の形態の(C)金属水酸化物は、水酸化マグネシウムである。これは、金属水酸化物の熱分解反応(吸熱反応)の反応開始温度がポリマの熱分解温度と近く、ポリマの熱分解を抑制する効果が高いためである。
また、本実施の形態の(C)金属水酸化物は、表面処理されているものを用いる。表面処理としては、シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用した表面処理や、シランカップリング剤単独での表面処理がある。
シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用した表面処理を施した金属水酸化物について、これを単独で用いてもよく、他の表面処理を施した金属水酸化物と混合して用いてもよい。具体的には、シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用した表面処理を施した金属水酸化物(第1の水酸化マグネシウム)であって、第1粒径の金属水酸化物と、シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用した表面処理を施した金属水酸化物(第1の水酸化マグネシウム)であって、第2粒径の金属水酸化物との混合物を用いてもよい。また、シランカップリング剤と、ステアリン酸などの脂肪酸類とを併用した表面処理を施した金属水酸化物(第1の水酸化マグネシウム)と、シランカップリング剤単独で表面処理を施した金属水酸化物(第2の水酸化マグネシウム)との混合物を用いてもよい。第1粒径(平均粒径)は、0.9μm〜1.1μm程度であり、第2粒径(平均粒径)は、0.6μm〜0.8μm程度である。
こうすることで、シランカップリング剤単独で表面処理された金属水酸化物のみを用いた場合に比べて、難燃性樹脂組成物の成形加工性が向上し、脂肪酸類単独で表面処理された金属水酸化物のみを用いた場合に比べて、難燃性樹脂組成物の難燃性が向上する。なお、(C)金属水酸化物には、水酸化マグネシウム以外に、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、またはニッケルが固溶したこれらの金属水酸化物などの他の金属水酸化物を併用してもよい。
本実施の形態の(D)窒素系難燃剤は、メラミンシアヌレートである。本実施の形態において、メラミンシアヌレートの表面処理の有無は問わない。また、メラミンシアヌレートの粒径は、引張特性の観点から平均粒径を5μm以下としたものが好ましく、3μm程度に制御されているものがさらに好ましい。
本実施の形態の(E)亜鉛系化合物は、(E1)スズ酸亜鉛(化学式ZnSn(OH)6、ZnSnO3)または(E2)ホウ酸亜鉛(化学式2ZnO・3B2O3・3.5H2O、4ZnO・B2O3・H2O、2ZnO・3B2O3)を用いることができる。吸熱作用による難燃性の観点から、(E1)スズ酸亜鉛はZnSn(OH)6を、(E2)ホウ酸亜鉛は2ZnO・3B2O3・3.5H2Oをそれぞれ用いることが好ましい。本実施の形態の(E)亜鉛系化合物において、平均粒径は5μm以下にコントロールされていることが好ましく、シラン、脂肪酸または無機粉体などで表面処理されているものを用いても良い。
また、難燃剤として、上記(C)、(D)、(E)の他、(E’)シリコーンゴムを添加してもよい。(E’)シリコーンゴムを添加することで、垂直難燃試験VW−1時の残炎に対する窒息効果が向上し、難燃性が向上する。(E’)シリコーンゴムの添加量は、ベースポリマ100質量部に対して、1質量部以上2質量部以下であることが好ましい。
また、本実施の形態の難燃性樹脂組成物は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体、(B)変性ポリマ、(C)金属水酸化物、(D)窒素系難燃剤、(E)亜鉛系化合物以外にも、必要に応じて(F)架橋助剤、(G)酸化防止剤(熱老化防止剤)、(H)銅害防止剤、(I)滑剤または(J)加工助剤などを含有していてもよい。(F)架橋助剤としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’−メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛またはメタクリル酸亜鉛などが挙げられる。また、(G)酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤または硫黄系酸化防止剤などが挙げられる。(H)銅害防止剤としては、例えばN-(2H-1,2,4-トリアゾール-5-イル)サリチルアミド、ドデカン二酸ビス[N2-(2-ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジド]、2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジド等が挙げられ、より好適には2’,3-ビス[[3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドなどがあげられる。(I)滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系などが挙げられる。(J)加工助剤としては、リシノール酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、もしくは、これらの塩またはエステル類、あるいは、ポリメチルメタクリレートなどが挙げられる。
また、本実施の形態では、前記難燃性樹脂組成物内において、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体同士、(B)変性ポリマ同士、または、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と(B)変性ポリマとが架橋されていることが好ましい。本実施の形態にあっては、難燃性樹脂組成物中に、(C)金属水酸化物および(E)亜鉛系化合物が高い比率で混合されているため、難燃性樹脂組成物の機械特性を向上させるためには、このような架橋がされていることが好ましい。また、架橋方法としては、成形後に電子線を照射する電子線架橋法や難燃性樹脂組成物に架橋剤をあらかじめ添加しておき、成形後熱処理を行う化学架橋などを用いることができる。特に、本実施の形態にあっては、架橋剤が不要で、架橋剤による各原料の特性への影響を考慮する必要がない電子線架橋法が好ましい。また、架橋の度合いは、ゲル分率で50%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。このゲル分率は、JIS C 3005に規定された架橋度試験方法に基づいて測定される。
以下、各原材料の比率について説明する(後述の実施例および比較例を参照)。本実施の形態において、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体および(B)変性ポリマからなるベースポリマ中の(B)変性ポリマの含有率は、特に限定されるものではないが、ベースポリマ100質量部中、(B)変性ポリマが4質量部以上15質量部以下という含有率が好ましい。すなわち、ベースポリマ100質量部中、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体が85質量部以上96質量部以下という含有率が好ましい。ベースポリマ100質量部中、(B)マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン系共重合体が4質量部以上であれば、ベースポリマと金属水酸化物との密着性を向上させることができ、機械特性の低下を抑制することができる。一方、ベースポリマ100質量部中、(B)変性ポリマが15質量部以下であると、その分(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体の比率を低く押させることができ、難燃性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、難燃剤である(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物と、(E’)シリコーンゴムとの総和は、ベースポリマ100質量部に対して、265質量部以上330質量部以下である。垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を得るには少なくとも難燃剤の総和が、ベースポリマ100質量部に対して、265質量部以上である必要があり、難燃剤の総和を330質量部以下とすることで、必要な機械特性を維持でき、かつ、電線の絶縁層の押出成形時のトルクが過剰になることを抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量は、235質量部以上300質量部以下、好ましくは235質量部以上260質量部以下である。十分な難燃性を得るためにはベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量が235質量部以上である必要がある。一方、ベースポリマ100質量部に対する(C)金属水酸化物の添加量が300質量部未満とすることで、機械特性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量は25質量部以上80質量部以下であり、30質量部以上40質量部以下添加されていることが好ましい。後述の実施例に示すように、ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量を25質量部以上とすることで機械特性の低下を抑制することができる。ベースポリマ100質量部に対する(D)窒素系難燃剤の添加量が80質量部以下であると、他の難燃剤とのバランスが図れ、難燃性の低下を抑制することができる。
本実施の形態において、ベースポリマ100質量部に対する(E)亜鉛系化合物の添加量は5質量部以上40質量部未満であり、10質量部以上20質量部以下添加されていることが好ましい。垂直難燃試験VW−1に合格する難燃性を維持するためには、少なくともベースポリマ100質量部に対する(E)亜鉛系化合物の添加量が5質量部以上である必要があり、(E)亜鉛系化合物の添加量を40質量部未満とすることで必要な機械特性を得ることができる。なお、後述の実施例に示すように、本実施の形態において、(E1)スズ酸亜鉛および(E2)ホウ酸亜鉛は併用しても、単独で使用してもよい。
<本実施の形態の特徴と効果>
図1に示す本実施の形態に係る電線10の特徴の一つは、導体1と、導体1の周囲に被覆される絶縁層2とを有し、絶縁層2はベースポリマと、難燃剤とを含む難燃性樹脂組成物により構成されていることである。そして、ベースポリマは、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、(B)変性ポリマとにより構成されている。難燃剤は、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物とにより構成されている。さらに、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体は、(A1)VA量が60質量%以上のものと(A2)VA量が60質量%未満のものとをそれぞれ含んでいる。
本実施の形態では、このような構成を採用したことにより、難燃性および機械特性を備えた電線を提供することができる。以下、その理由について具体的に説明する。
本実施の形態にあっては、難燃剤に(C)金属水酸化物および(D)窒素系難燃剤に加え、(E)亜鉛系化合物を添加している。こうすることで、後述の実施例に示すように、(C)金属水酸化物および(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物との相乗効果によって、難燃性を向上させることができる。そして、その相乗効果により(E)亜鉛系化合物をわずかに(ベースポリマ100質量部に対して5質量部程度)添加するだけで(C)金属水酸化物の添加量を大幅に(ベースポリマ100質量部に対して50質量部程度)減らすことができる。その結果、難燃剤に対するベースポリマの比率を高めることができ、難燃性と機械特性とを両立することができる。
また、本実施の形態にあっては、ベースポリマに(B)変性ポリマを添加している。(B)変性ポリマは、不飽和カルボン酸由来のカルボキシル基を有している。そのため、(B)変性ポリマは、(C)金属水酸化物との間で水素結合を形成することができる。従って、(B)変性ポリマと(C)金属水酸化物との密着性は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と(C)金属水酸化物との密着性よりも高い。このような性質のため、ベースポリマに(B)変性ポリマを添加することで、ベースポリマと難燃剤中の(C)金属水酸化物との密着性を高め、生成された難燃性樹脂組成物の機械特性(特に耐寒性)を向上させることができる。
さらに、本実施の形態では、難燃性と機械特性とを両立すべく、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体として、難燃効果の高い(A1)VA量が60質量%以上のものを採用することを試みた。(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体において、VA量が少ないと機械特性が向上する一方、難燃性が低下する。VA量が多いと難燃性が向上する一方、ガラス転移温度が高くなり、これを含む難燃性樹脂組成物の機械特性、特に引張強度や耐寒性(低温特性)が低下する。従来、VA量の多い(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体を用いると、機械特性が得られないため、電線の絶縁層を構成する樹脂組成物に用いることは難しいと考えられていた。
この点、本発明者は、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体(A1)VA量が60質量%以上のものと(A2)VA量が60質量%未満のものとを併用することによって、電線の絶縁層を構成する難燃性樹脂組成物において機械特性と難燃性との両立を可能にすることに成功した。
なお、前述したとおり、本発明者は、走査電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)像により、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のうち、VA量に差がある(その差が約70質量%以上の)2種類のものを組み合わせた場合には、相構造が海島構造になることを確認した。一方、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体のうち、VA量が互いに近い(その差が約40質量%以下の)2種類以上のものを組み合わせた場合には、相構造がスピノーダル構造になることを確認した。
さらに、後述する実施例から、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体として、実施の形態1で説明した(A21)VA量が60質量%未満40質量%以上のものから、VA量が60質量%未満20質量%以上のものに拡張した場合においても、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させることができることがわかった。
具体的には、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体として、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のものと、(A22)VA量が20質量%未満のものとにより構成した場合には、VA量の異なる3種類のエチレン−酢酸ビニル共重合体の、それぞれの相溶性が高くなり、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させることができることがわかった。また、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体として、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のものを用い、(A22)VA量が20質量%未満のものを添加しなかった場合においても、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させる配合が存在することがわかった。
本実施の形態の電線は、ハロゲンフリーであり、かつ、細径であっても優れた難燃性および引張特性、熱老化特性、耐寒性を併せ持つため、各種家電製品やOA機器などにおける機器内配線用および自動車内の配線用電線として有用である。
(実施例)
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例および比較例の概要>
以下、実施例13〜実施例20の電線および比較例6の電線について説明する。実施例13〜実施例20は、図1に示す電線10に対応する。すなわち、電線10の絶縁層2は、本実施の形態の難燃性樹脂組成物からなる。また、比較例6の電線の形状は、図1に示す電線10と同様であるが、この絶縁層2は本実施の形態の難燃性樹脂組成物とは異なる組成の樹脂組成物からなる。実施例13〜実施例20の電線および比較例6の難燃性樹脂組成物の組成を表6に示している。
実施例および比較例で作製した電線の構成(導体および絶縁層)は、表1に示すNo.1,2,3,12,13の計5種類(表1中※で示した)とした。すなわち、実施例13〜実施例20の電線および比較例6の各組成に対して、それぞれ5種類の電線を作製した。なお、電線を構成する導体として、スズメッキ撚り導体(芯数26、素線直径0.16mm)を用いた。
実施例13〜実施例20の電線および比較例6の電線の製造方法は実施例1〜実施例12の電線の製造方法と同様であるため省略する。
<実施例および比較例の材料>
実施例13〜実施例20の電線および比較例6で用いた材料を表5に示す。表5において、※※で示す材料は、実施の形態1の場合(表2)から追加された材料である。
<実施例および比較例の評価方法>
実施例および比較例は、(1)難燃性、(2)引張特性、(3)耐熱性および(4)耐寒性の4つの特性について評価し、評価方法は、実施例1〜12および比較例1〜5の場合と同様であるため省略する。
<実施例13〜実施例20の詳細および評価結果>
表6に実施例13〜実施例20の組成および評価結果を示す。
表6に示すように、実施例13〜実施例20の電線の絶縁層を構成する難燃性樹脂組成物は、その原材料として少なくとも(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体と、(B)変性ポリマと、(C)金属水酸化物と、(D)窒素系難燃剤と、(E)亜鉛系化合物とを含んでいる。
実施例13、実施例14は、(A2)VA量が60質量%未満のもの(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)として、VA量が20質量%以上60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いたものである。
実施例15、実施例16は、(C)金属水酸化物として、(C1)シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウム(第1の水酸化マグネシウム)と、シランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウム(第2の水酸化マグネシウム)とを併用したものである。
実施例17は、(A2)VA量が60質量%未満のもの(第2のエチレン−酢酸ビニル共重合体)として、VA量が20質量%以上60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体と、VA量が20質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体とを併用したものである。そして、(C)金属水酸化物として、(C1)シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウム(第1の水酸化マグネシウム)と、シランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウム(第2の水酸化マグネシウム)とを併用したものである。
実施例18は、(C)金属水酸化物として、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウム(第1の水酸化マグネシウム)を2種((C1)、(C2))用いたものである。これらの金属水酸化物は、粒径(平均粒径)が異なる。(C1)は、平均粒径(d50)が1.0μmであり、(C2)は、平均粒径が0.7μmである。
実施例19、実施例20は、(C)金属水酸化物として、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウム(第1の水酸化マグネシウム)を2種((C1)、(C2))用いたものである。そして、ベーポリマとして、(B’)その他のポリマであるエチレン−1−ブテン共重合体を添加したものである。
なお、実施例13〜実施例20においては、(E’)シリコーンゴムを1〜2質量部添加している。
比較例6の樹脂組成物は、(C)金属水酸化物として、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウムが添加されておらず、シランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウムのみが添加されている。
表6に示すように、実施例13〜実施例20において、前述の原材料の違いにかかわらず(1)引張特性、(2)難燃性、(3)耐熱性および(4)耐寒性はいずれも良好であった。特に、実施の形態1(実施例1〜実施例12)と比較し、(A21)VA量が60質量%未満40質量%以上のものから、VA量が60質量%未満20質量%以上のものに拡張した場合においても、難燃性樹脂組成物としての機械特性をさらに向上させることができることがわかった。例えば、実施例17において、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体として、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のものと、(A22)VA量が20質量%未満のものとにより構成した実施例17においては、(1)引張特性、(2)難燃性、(3)耐熱性および(4)耐寒性はいずれも良好であった。また、(A2)VA量が60質量%未満のエチレン−酢酸ビニル共重合体として、(A21)VA量が60質量%未満20質量%以上のものを用い、(A22)VA量が20質量%未満のものを添加しなかった実施例13〜20(実施例17を除く)においても、(1)引張特性、(2)難燃性、(3)耐熱性および(4)耐寒性はいずれも良好であった。
また、(C)金属水酸化物として、(C1)シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された水酸化マグネシウムと、シランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウムとを併用することが有用であることが判明した(実施例15〜実施例17)。また、(C)金属水酸化物として、シランカップリング剤と脂肪酸類とにより表面処理された粒径の異なる水酸化マグネシウムを2種((C1)、(C2))用いることが有用であることが判明した(実施例18〜実施例20)。これに関連して、シランカップリング剤により表面処理された水酸化マグネシウムのみを用いた比較例6において、(2)引張特性、(3)耐熱性および(4)耐寒性は良好であるが、(1)難燃性が不良となった。
また、上記実施例から、ベースポリマとして、(A)エチレン−酢酸ビニル共重合体および(B)変性ポリマの他、(B’)その他のポリマを添加してもよいことが判明した。また、(E’)シリコーンゴムを添加してもよいことが判明した。
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。