次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムを説明する。
図1は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムを示す全体構成図である。この図1に示すように、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システム1は、燃料電池モジュール2と、補機ユニット4を備えている。
燃料電池モジュール2は、ハウジング6を備え、このハウジング6内部には、断熱材7を介して金属製のケース8が内蔵されている。この密閉空間であるケース8の下方部分である発電室10には、燃料と酸化剤ガス(空気)とにより発電反応を行う燃料電池セル集合体12が配置されている。この燃料電池セル集合体12は、10個の燃料電池セルスタック14(図5参照)を備え、この燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16(図4参照)から構成されている。このように、燃料電池セル集合体12は、160本の燃料電池セルユニット16を有し、これらの燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されている。
燃料電池モジュール2のケース8の上述した発電室10の上方には、燃焼部である燃焼室18が形成され、この燃焼室18で、発電反応に使用されなかった残余の燃料と残余の酸化剤(空気)とが燃焼し、排気ガスを生成するようになっている。さらに、ケース8は断熱材7により覆われており、燃料電池モジュール2内部の熱が、外気へ発散するのを抑制している。
また、この燃焼室18の上方には、燃料を改質する改質器20が配置され、前記残余ガスの燃焼熱によって改質器20を改質反応が可能な温度となるように加熱している。さらに、この改質器20の上方には、残余ガスの燃焼ガスにより発電用の空気を加熱し、発電用の空気を予熱する熱交換器である空気用熱交換器22が配置されている。
次に、補機ユニット4は、燃料電池モジュール2からの排気中に含まれる水分を結露させた水を貯水してフィルターにより純水とする純水タンク26と、この貯水タンクから供給される水の流量を調整する水流量調整ユニット28(モータで駆動される「水ポンプ」等)を備えている。また、補機ユニット4は、都市ガス等の燃料供給源30から供給された燃料を遮断するガス遮断弁32と、燃料ガスから硫黄を除去するための脱硫器36と、燃料ガスの流量を調整する燃料流量調整ユニット38(モータで駆動される「燃料ポンプ」等)と、電源喪失時において、燃料流量調整ユニット38から流出する燃料ガスを遮断するバルブ39を備えている。さらに、補機ユニット4は、空気供給源40から供給される酸化剤ガスである空気を遮断する電磁弁42と、空気の流量を調整する改質用空気流量調整ユニット44及び発電用空気流量調整ユニット45(モータで駆動される「空気ブロア」等)と、改質器20に供給される改質用空気を加熱する第1ヒータ46と、発電室に供給される発電用空気を加熱する第2ヒータ48とを備えている。これらの第1ヒータ46と第2ヒータ48は、起動時の昇温を効率よく行うために設けられているが、省略しても良い。
次に、燃料電池モジュール2には、排気ガスが供給される温水製造装置50が接続されている。この温水製造装置50には、水供給源24から水道水が供給され、この水道水が排気ガスの熱により温水となり、図示しない外部の給湯器の貯湯タンクへ供給されるようになっている。
また、燃料電池モジュール2には、燃料ガスの供給量等を制御するための制御ボックス52が取り付けられている。
さらに、燃料電池モジュール2には、燃料電池モジュールにより発電された電力を外部に供給するための電力取出部(電力変換部)であるインバータ54が接続されている。
次に、図2及び図3により、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムの燃料電池モジュールの内部構造を説明する。図2は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムの燃料電池モジュールを示す側面断面図であり、図3は、図2のIII-III線に沿って断面図である。
図2及び図3に示すように、燃料電池モジュール2のハウジング6内のケース8には、上述したように、下方から順に、燃料電池セル集合体12、改質器20、空気用熱交換器22が配置されている。
改質器20は、その上流端側の端部側面に純水、改質される燃料ガス、及び改質用空気を導入するための改質器導入管62が取り付けられている。
改質器導入管62は、改質器20の一端の側壁面から延びる円管であり、90゜屈曲されて概ね鉛直方向に延び、ケース8の上端面を貫通している。なお、改質器導入管62は、改質器20に水を導入する水導入管として機能している。また、改質器導入管62の上端には、T字管62aが接続されており、このT字管62aの概ね水平方向に延びる管の両側の端部には、燃料ガス及び純水を供給するための配管が夫々接続されている。水供給用配管63aはT字管62aの一方の側端から斜め上方に向けて延びている。燃料ガス供給用配管63bはT字管62aの他方の側端から水平方向に延びた後、U字型に屈曲され、水供給用配管63aと同様の方向に、概ね水平に延びている。
一方、改質器20の内部には、上流側から順に、蒸発部20a、混合部20b、改質部20cが形成され、この改質部20cには改質触媒が充填されている。この改質器20に導入された水蒸気(純水)が混合された燃料ガス及び空気は、改質器20内に充填された改質触媒により改質される。改質触媒としては、アルミナの球体表面にニッケルを付与したものや、アルミナの球体表面にルテニウムを付与したものが適宜用いられる。
この改質器20の下流端側には、燃料ガス供給管64が接続され、この燃料ガス供給管64は、下方に延び、さらに、燃料電池セル集合体12の下方に形成されたマニホールド66内で水平に延びている。燃料ガス供給管64の水平部64aの下方面には、複数の燃料供給孔64bが形成されており、この燃料供給孔64bから、改質された燃料ガスがマニホールド66内に供給される。また、燃料ガス供給管64の鉛直部の途中には、流路が狭められた圧力変動抑制用流路抵抗部64cが設けられ、燃料ガスの供給流路の流路抵抗が調整されている。流路抵抗の調整については後述する。
このマニホールド66の上方には、上述した燃料電池セルスタック14を支持するための貫通孔を備えた下支持板68が取り付けられており、マニホールド66内の燃料ガスが、燃料電池セルユニット16内に供給される。
一方、改質器20の上方には、空気用熱交換器22が設けられている。
また、図2に示すように、燃料ガスと空気との燃焼を開始するための点火装置83が、燃焼室18に設けられている。
次に図4により燃料電池セルユニット16について説明する。図4は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムの燃料電池セルユニットを示す部分断面図である。
図4に示すように、燃料電池セルユニット16は、燃料電池セル84と、この燃料電池セル84の両端部にそれぞれ接続されたキャップである内側電極端子86とを備えている。
燃料電池セル84は、上下方向に延びる管状構造体であり、内部に燃料ガス流路88を形成する円筒形の内側電極層90と、円筒形の外側電極層92と、内側電極層90と外側電極層92との間にある電解質層94とを備えている。この内側電極層90は、燃料ガスが通過する燃料極であり、(−)極となり、一方、外側電極層92は、空気と接触する空気極であり、(+)極となっている。
燃料電池セル84の上端側と下端側に取り付けられた内側電極端子86は、同一構造であるため、ここでは、上端側に取り付けられた内側電極端子86について具体的に説明する。内側電極層90の上部90aは、電解質層94と外側電極層92に対して露出された外周面90bと上端面90cとを備えている。内側電極端子86は、導電性のシール材96を介して内側電極層90の外周面90bと接続され、さらに、内側電極層90の上端面90cとは直接接触することにより、内側電極層90と電気的に接続されている。内側電極端子86の中心部には、内側電極層90の燃料ガス流路88と連通する燃料ガス流路細管98が形成されている。
この燃料ガス流路細管98は、内側電極端子86の中心から燃料電池セル84の軸線方向に延びるように設けられた細長い細管である。このため、マニホールド66(図2)から、下側の内側電極端子86の燃料ガス流路細管98を通って燃料ガス流路88に流入する燃料ガスの流れには、所定の圧力損失が発生する。従って、下側の内側電極端子86の燃料ガス流路細管98は、流入側流路抵抗部として作用し、その流路抵抗は所定の値となるように設定されている。また、燃料ガス流路88から、上側の内側電極端子86の燃料ガス流路細管98を通って燃焼室18(図2)に流出する燃料ガスの流れにも所定の圧力損失が発生する。従って、上側の内側電極端子86の燃料ガス流路細管98は、流出側流路抵抗部として作用し、その流路抵抗は所定の値となるように設定されている。
内側電極層90は、例えば、Niと、CaやY、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニアとの混合体、Niと、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリアとの混合体、Niと、Sr、Mg、Co、Fe、Cuから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレードとの混合体、の少なくとも一種から形成される。
電解質層94は、例えば、Y、Sc等の希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたジルコニア、希土類元素から選ばれる少なくとも一種をドープしたセリア、Sr、Mgから選ばれる少なくとも一種をドープしたランタンガレート、の少なくとも一種から形成される。
外側電極層92は、例えば、Sr、Caから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンマンガナイト、Sr、Co、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンフェライト、Sr、Fe、Ni、Cuから選ばれた少なくとも一種をドープしたランタンコバルタイト、銀、などの少なくとも一種から形成される。
次に図5により燃料電池セルスタック14について説明する。図5は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムの燃料電池セルスタックを示す斜視図である。
図5に示すように、燃料電池セルスタック14は、16本の燃料電池セルユニット16を備え、これらの燃料電池セルユニット16は、8本ずつ2列に並べて配置されている。各燃料電池セルユニット16は、下端側がセラミック製の長方形の下支持板68(図2)により支持され、上端側は、両端部の燃料電池セルユニット16が4本ずつ、概ね正方形の2枚の上支持板100により支持されている。これらの下支持板68及び上支持板100には、内側電極端子86が貫通可能な貫通穴がそれぞれ形成されている。
さらに、燃料電池セルユニット16には、集電体102及び外部端子104が取り付けられている。この集電体102は、燃料極である内側電極層90に取り付けられた内側電極端子86と電気的に接続される燃料極用接続部102aと、空気極である外側電極層92の外周面と電気的に接続される空気極用接続部102bとを接続するように一体的に形成されている。また、各燃料電池セルユニット16の外側電極層92(空気極)の外表面全体には、空気極側の電極として、銀製の薄膜が形成されている。この薄膜の表面に空気極用接続部102bが接触することにより、集電体102は空気極全体と電気的に接続される。
さらに、燃料電池セルスタック14の端(図5では左端の奥側)に位置する燃料電池セルユニット16の空気極86には、2つの外部端子104がそれぞれ接続されている。これらの外部端子104は、隣接する燃料電池セルスタック14の端にある燃料電池セルユニット16の内側電極端子86に接続され、上述したように、160本の燃料電池セルユニット16の全てが直列接続されるようになっている。
次に図6により本実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムに取り付けられたセンサ類等について説明する。図6は、本発明の一実施形態による固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムを示すブロック図である。
図6に示すように、固体酸化物型燃料電池システム1は、制御装置110を備え、この制御装置110には、使用者が操作するための「ON」や「OFF」等の操作ボタンを備えた操作装置112、発電出力値(ワット数)等の種々のデータを表示するための表示装置114、及び、異常状態のとき等に警報(ワーニング)を発する報知装置116が接続されている。また、制御装置110には、マイクロプロセッサ、メモリ、及びこれらを作動させるプログラム(以上、図示せず)が内蔵されており、これらにより、各センサからの入力信号に基づいて、補機ユニット4、インバータ54等が制御される。なお、この報知装置116は、遠隔地にある管理センタに接続され、この管理センタに異常状態を通知するようなものであっても良い。
次に、制御装置110には、以下に説明する種々のセンサからの信号が入力されるようになっている。
先ず、可燃ガス検出センサ120は、ガス漏れを検知するためのもので、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4に取り付けられている。
CO検出センサ122は、本来排気ガス通路80等を経て外部に排出される排気ガス中のCOが、燃料電池モジュール2及び補機ユニット4を覆う外部ハウジング(図示せず)へ漏れたかどうかを検知するためのものである。
貯湯状態検出センサ124は、図示しない給湯器におけるお湯の温度や水量を検知するためのものである。
電力状態検出センサ126は、インバータ54及び分電盤(図示せず)の電流及び電圧等を検知するためのものである。
発電用空気流量検出センサ128は、発電室10に供給される発電用空気の流量を検出するためのものである。
改質用空気流量センサ130は、改質器20に供給される改質用空気の流量を検出するためのものである。
燃料流量センサ132は、改質器20に供給される燃料ガスの流量を検出するためのものである。
水流量センサ134は、改質器20に供給される純水の流量を検出するためのものである。
水位センサ136は、純水タンク26の水位を検出するためのものである。
圧力センサ138は、改質器20の外部の上流側の圧力を検出するためのものである。
排気温度センサ140は、温水製造装置50に流入する排気ガスの温度を検出するためのものである。
発電室温度センサ142は、図3に示すように、燃料電池セル集合体12の近傍の前面側と背面側に設けられ、燃料電池セルスタック14の近傍の温度を検出して、燃料電池セルスタック14(即ち燃料電池セル84自体)の温度を推定するためのものである。
燃焼室温度センサ144は、燃焼室18の温度を検出するためのものである。
排気ガス室温度センサ146は、排気ガス室78の排気ガスの温度を検出するためのものである。
改質器温度センサ148は、改質器20の温度を検出するためのものであり、改質器20の入口温度と出口温度から改質器20の温度を算出する。
外気温度センサ150は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)システムが屋外に配置された場合、外気の温度を検出するためのものである。また、外気の湿度等を測定するセンサを設けるようにしても良い。
これらのセンサ類からの信号は、制御装置110に送られ、制御装置110は、これらの信号によるデータに基づき、水流量調整ユニット28、燃料流量調整ユニット38、改質用空気流量調整ユニット44、発電用空気流量調整ユニット45に、制御信号を送り、これらのユニットにおける各流量を制御するようになっている。
次に、固体酸化物型燃料電池システム1の発電運転時における燃料、発電用空気、及び排気ガスの流れを説明する。
まず、燃料が改質器20の蒸発部20aに導入されると共に、純水も蒸発部20aに導入され、蒸発部20aに導入された純水は、比較的速やかに蒸発され水蒸気となる。蒸発された水蒸気及び燃料は、混合部20b内で混合され、改質器20の改質部20cに流入する。水蒸気と共に改質部20cに導入された燃料は、ここで水蒸気改質され、水素を豊富に含む燃料ガスに改質される。改質部20cにおいて改質された燃料は、燃料ガス供給管64を通って下方に下り、分散室であるマニホールド66に流入する。
マニホールド66は、燃料電池セルスタック14の下側に配置された比較的体積の大きい直方体状の空間であり、その上面に設けられた多数の穴が燃料電池セルスタック14を構成する各燃料電池セルユニット16の内側に連通している。マニホールド66に導入された燃料は、その上面に設けられた多数の穴を通って、燃料電池セルユニット16の燃料極側、即ち、燃料電池セルユニット16の内部を通って、その上端から流出する。また、燃料である水素ガスが燃料電池セルユニット16の内部を通過する際、空気極(酸化剤ガス極)である燃料電池セルユニット16の外側を通る空気中の酸素と反応して電荷が生成される。この発電に使用されずに残った残余燃料は、各燃料電池セルユニット16の上端から流出し、燃料電池セルスタック14の上方に設けられた燃焼室18内で燃焼される。
一方、酸化剤ガスである発電用の空気は、発電用の酸化剤ガス供給装置である発電用空気流量調整ユニット45によって、発電用空気導入管74を介して燃料電池モジュール2内に送り込まれる。燃料電池モジュール2内に送り込まれた空気は、発電用空気導入管74を介して空気用熱交換器22の発電用空気流路72に導入され、予熱される。予熱された空気は、各出口ポート76a(図3)を介して各連絡流路76に流出する。各連絡流路76に流入した発電用の空気は、燃料電池モジュール2の両側面に設けられた発電用空気供給路77を通って下方に流れ、多数の吹出口77aから、燃料電池セルスタック14に向けて発電室10内に噴射される。
発電室10内に噴射された空気は、燃料電池セルスタック14の空気極側(酸化剤ガス極側)である各燃料電池セルユニット16の外側面に接触し、空気中の酸素の一部が発電に利用される。また、吹出口77aを介して発電室10の下部に噴射された空気は、発電に利用されながら発電室10内を上昇する。発電室10内を上昇した空気は、各燃料電池セルユニット16の上端から流出する燃料を燃焼させる。この燃焼による燃焼熱は、燃料電池セルスタック14の上方に配置された改質器20の蒸発部20a、混合部20b及び改質部20cを加熱する。燃料が燃焼され、生成された燃焼ガスは、上方の改質器20を加熱した後、改質器20上方の開口部21aを通って整流板21の上側に流入する。整流板21の上側に流入した燃焼ガスは、整流板21によって構成された排気通路21bを通って空気用熱交換器22の入り口である連通開口8aに導かれる。連通開口8aから空気用熱交換器22に流入した燃焼ガスは、開放された各燃焼ガス配管70の端部に流入し、各燃焼ガス配管70外側の発電用空気流路72を流れる発電用空気との間で熱交換を行い、排気ガス集約室78に集約される。排気ガス集約室78に集約された排気ガスは、排気ガス排出管82を介して燃料電池モジュール2の外部に排出される。これにより、蒸発部20aにおける水の蒸発、及び改質部20cにおける吸熱反応である水蒸気改質反応が促進されると共に、空気用熱交換器22内の発電用空気が予熱される。
次に、図7を新たに参照して、固体酸化物型燃料電池システム1の起動工程における制御を説明する。
図7は、起動工程における燃料等の各供給量、及び各部の温度の一例を示すタイムチャートである。なお、図7の縦軸の目盛りは温度を示しており、燃料等の各供給量は、それらの増減を概略的に示したものである。
図7に示す起動工程においては、常温の状態にある燃料電池セルスタック14の温度を、発電が可能な温度まで上昇させる。
まず、図7の時刻t0において、発電用空気及び改質用空気の供給が開始される。具体的には、コントローラである制御装置110が、発電用の酸化剤ガス供給装置である発電用空気流量調整ユニット45に信号を送って、これを作動させる。上述したように、発電用空気は、発電用空気導入管74を介して燃料電池モジュール2内に導入され、空気用熱交換器22、発電用空気供給路77を経て発電室10内に流入する。また、制御装置110は、改質用の酸化剤ガス供給装置である改質用空気流量調整ユニット44に信号を送って、これを作動させる。燃料電池モジュール2内に導入された改質用空気は、改質器20、マニホールド66を経て、各燃料電池セルユニット16の内部に流入し、その上端から流出する。なお、時刻t0においては、まだ燃料が供給されていないため、改質器20内において改質反応は発生しない。本実施形態においては、図7の時刻t0において開始される発電用空気の供給量は約100L/minであり、改質用空気の供給量は約10.0L/minである。
次いで、図7の時刻t0から所定時間後の時刻t1において、燃料の供給が開始される。具体的には、制御装置110が、燃料供給装置である燃料流量調整ユニット38に信号を送って、これを作動させる。本実施形態においては、時刻t1において開始される燃料の供給量は約5.0L/minである。燃料電池モジュール2内に導入された燃料は、改質器20、マニホールド66を経て、各燃料電池セルユニット16の内部に流入し、その上端から流出する。なお、時刻t1においては、まだ改質器の温度が低温であるため、改質器20内において改質反応は発生しない。
次に、図7の時刻t1から所定時間経過した時刻t2において、供給されている燃料への点火工程が開始される。具体的には、点火工程においては、制御装置110が、点火手段である点火装置83(図2)に信号を送り、各燃料電池セルユニット16の上端から流出する燃料に点火する。点火装置83は、燃料電池セルスタック14の上端近傍で繰り返し火花を発生させ、各燃料電池セルユニット16の上端から流出する燃料に点火する。
図7の時刻t3において着火が完了すると、改質用の水の供給が開始される。具体的には、制御装置110が、水供給装置である水流量調整ユニット28(図6)に信号を送り、これを作動させる。本実施形態においては、時刻t3に開始される水の供給量は、2.0cc/minである。時刻t3においては、燃料供給量は、従前の約5.0L/minに維持される。また、発電用空気及び改質用空気の供給量も、従前の値に維持される。なお、この時刻t3において、改質用空気中の酸素O2と燃料中の炭素Cの比O2/Cは約0.32になる。
図7の時刻t3において着火された後、供給された燃料は、各燃料電池セルユニット16の上端からオフガスとして流出し、ここで燃焼される。この燃焼熱は、燃料電池セルスタック14の上方に配置された改質器20を加熱する。
なお、オフガスの燃焼開始後、或る程度の時間が経過すると、燃焼室18から空気用熱交換器22に流入する排気ガスにより、空気用熱交換器22の温度も上昇する。改質器20と空気用熱交換器22の間を断熱する蒸発室用断熱材23は、断熱材7の内側に設けられた断熱材である。
このようにして、改質器20の温度が上昇した時刻t4において、蒸発部20aを経て改質部20bに流入した燃料と改質用空気が、式(1)に示す部分酸化改質反応を起こすようになる。
CmHn+xO2 → aCO2+bCO+cH2 (1)
この部分酸化改質反応は発熱反応であるため、改質部20b内で部分酸化改質反応が発生すると、その周囲の温度が局部的に急上昇する。
一方、本実施形態においては、着火が確認された直後の時刻t3から改質用の水の供給が開始されており、また、蒸発部20aの温度が急速に上昇するように構成されているため、時刻t4においては、既に蒸発部20a内で水蒸気が生成され、改質部20bに供給されている。即ち、オフガスに着火された後、改質部20bの温度が部分酸化改質反応が発生する温度に到達する所定時間前から水の供給が開始され、部分酸化改質反応が発生する温度に到達した時点においては、蒸発部20aに所定量の水が貯留され、水蒸気が生成されている。このため、部分酸化改質反応の発生により温度が急上昇すると、改質部20bに供給されている改質用の水蒸気と燃料が反応する水蒸気改質反応が発生する。この水蒸気改質反応は、式(2)に示す吸熱反応であり、部分酸化改質反応よりも高い温度で発生する。
CmHn+xH2O → aCO2+bCO+cH2 (2)
このように、図7の時刻t4に到達すると、改質部20b内では部分酸化改質反応が発生するようになり、また、部分酸化改質反応が発生することによる温度上昇で、水蒸気改質反応も同時に発生するようになる。従って、時刻t4以降に改質部20b内で発生する改質反応は、部分酸化改質反応と水蒸気改質反応が混在した式(3)に示すオートサーマル改質反応(ATR)となる。即ち、時刻t4においてATR1工程が開始される。
CmHn+xO2+yH2O → aCO2+bCO+cH2 (3)
このように、本発明の実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1では、起動工程の全期間において水が供給されており、部分酸化改質反応(POX)が単独で発生することはない。なお、図7に示すタイムチャートでは、時刻t4における改質器温度は約200℃である。この改質器温度は部分酸化改質反応が発生する温度よりも低いが、改質器温度センサ148(図6)により検出されている温度は改質部20bの平均的な温度である。実際には、時刻t4においても、改質部20bは部分的には部分酸化改質反応が発生する温度に到達しており、発生した部分酸化改質反応の反応熱により、水蒸気改質反応をも誘発される。このように、本実施形態においては、着火された後、改質部20bが部分酸化改質が発生する温度に到達する前から、水の供給が開始されており、部分酸化改質反応が単独で発生することがない。
次に、改質器温度センサ148による検出温度が約500℃以上に到達すると、図7の時刻t5において、ATR1工程からATR2工程に移行される。時刻t5において、水供給量が2.0cc/minから3.0cc/minに変更される。また、燃料供給量、改質用空気供給量及び発電用空気供給量は従前の値が維持される。これにより、ATR2工程における水蒸気と炭素の比S/Cは0.64に増加される一方、改質用空気と炭素の比O2/Cは0.32に維持される。このように、改質用空気と炭素の比O2/Cを一定に維持しながら、水蒸気と炭素の比S/Cを増加させることにより、部分酸化改質可能な燃料の量を低下させずに、水蒸気改質可能な燃料の量が増加される。これにより、改質部20bにおける炭素析出のリスクを確実に回避しながら、改質部20bの温度上昇と共に、水蒸気改質される燃料の量を増加させることができる。
さらに、図7の時刻t6本実施形態において、発電室温度センサ142による検出温度が約400℃以上に到達すると、ATR2工程からATR3工程に移行される。これに伴い、燃料供給量が5.0L/minから4.0L/minに変更され、改質用空気供給量が9.0L/minから6.5L/minに変更される。また、水供給量及び発電用空気供給量は従前の値が維持される。これにより、ATR3工程における水蒸気と炭素の比S/Cは0.80に増加される一方、改質用空気と炭素の比O2/Cは0.29に減少される。
さらに、図7の時刻t7において、発電室温度センサ142による検出温度が約550℃以上に到達すると、SR1工程に移行される。これに伴い、燃料供給量が4.0L/minから3.0L/minに変更され、水供給量が3.0cc/minから7.0cc/minに変更される。また、改質用空気の供給は停止され、発電用空気供給量は従前の値が維持される。これにより、SR1工程では、改質部20b内で専ら水蒸気改質が発生するようになり、水蒸気と炭素の比S/Cは、供給された燃料の全量を水蒸気改質するために適切な2.49に設定される。図7の時刻t7においては、改質器20、燃料電池セルスタック14とも、十分に温度が上昇しているので、改質部20bにおいて部分酸化改質反応が発生していなくとも、水蒸気改質反応を安定して発生させることができる。
次に、図7の時刻t8において、発電室温度センサ142による検出温度が約600℃以上に到達すると、SR2工程に移行される。これに伴い、燃料供給量が3.0L/minから2.5L/minに変更され、水供給量が7.0cc/minから6.0cc/minに変更される。また、発電用空気供給量は従前の値が維持される。これにより、SR2工程では、水蒸気と炭素の比S/Cは、2.56に設定される。
さらに、SR2工程を所定時間実行した後、発電工程に移行する。発電工程においては、燃料電池セルスタック14からインバータ54(図6)に電力が取り出され、発電が開始される。なお、発電工程では、改質部20bにおいて、専ら水蒸気改質により燃料が改質される。また、発電工程においては、燃料電池モジュール2に対して要求される出力電力に対応して、燃料供給量、発電用空気供給量、及び水供給量が変更される。
次に、図8乃至図10及び図17を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池システム1の停止について説明する。
まず、図17を参照して、従来の固体酸化物型燃料電池システムにおけるシャットダウン停止時の挙動を説明する。図17は、従来の固体酸化物型燃料電池システムの停止挙動の一例を模式的に時系列で表したタイムチャートである。
まず、図17の時刻t501において、発電運転されていた燃料電池のシャットダウン停止操作が行われている。これにより、燃料電池モジュール内の温度が低下するのを待つことなく、短時間で燃料供給量、改質用の水供給量、及び発電用の空気供給量がゼロにされ、燃料電池モジュールから取り出される電流(発電電流)もゼロにされる。即ち、燃料電池モジュールへの燃料、水、発電用の空気の供給が短時間で停止され、燃料電池モジュールからの電力の取り出しが停止される。また、災害等により、固体酸化物型燃料電池システムへの燃料及び電気の供給が喪失した場合も、停止挙動は図17と同様の状態になる。なお、図17における各供給量、電流、電圧のグラフは、単に変化傾向を示すものであり、具体的な値を表したものではない。
時刻t501において電力の取り出しが停止されたことにより、燃料電池セルスタックに生じる電圧値は上昇(ただし、電流はゼロ)する。また、時刻t501において、発電用の空気供給量がゼロにされているため、燃料電池モジュール内に空気が強制的に送り込まれることはなく、時刻t501以後、長時間に亘って燃料電池セルスタックは自然冷却される。
仮に、時刻t501の後も、燃料電池モジュール内に空気を供給し続けたとすれば、送り込まれた空気により燃料電池モジュール内の圧力は上昇する。一方、燃料の供給は既に停止されているので、燃料電池セルユニットの内部の圧力は低下し始める。このため、燃料電池モジュールの発電室内に送り込まれた空気が、上端から、燃料電池セルユニット内側の燃料極側に逆流すると考えられる。時刻t501においては、燃料電池セルスタックは高温状態にあるため、燃料極側に空気が逆流すると、燃料極が酸化して、燃料電池セルユニットは損傷されてしまう。これを避けるために、従来の燃料電池システムにおいては、図17に示すように、シャットダウン停止により燃料供給を停止した直後は、電源が喪失されていない場合であっても、発電用の空気も速やかに停止されていた。
さらに、シャットダウン停止の後、6乃至7時間程度経過し、燃料電池モジュール内の温度が燃料極の酸化下限温度未満に低下した後、再び燃料電池モジュール内へ空気を供給することも行われている(図示せず)。このような空気の供給は、滞留している燃料ガスを排出する目的で実行されものであるが、燃料電池セルスタックの温度が燃料極の酸化下限温度未満に低下している状態では、仮に燃料極に空気が逆流したとしても、燃料極が酸化されることはない。
しかしながら、本件発明者は、このような従来の燃料電池システムにおけるシャットダウン停止を行ったとしても、燃料極側に空気が逆流し、燃料極が酸化されるリスクがあることを見出した。
空気極側から燃料極側への空気の逆流は、燃料電池セルユニットの内側(燃料極側)と外側(空気極側)の圧力差に基づいて発生する。燃料ガス及び発電用空気が供給されているシャットダウン停止前の状態においては、燃料電池セルユニットの燃料極側には、改質された燃料が圧送されている。一方、燃料電池セルユニットの空気極側にも発電用空気が送り込まれている。この状態では、燃料電池セルユニットの燃料極側の圧力が、空気極側の圧力よりも高く、燃料電池セルユニットの燃料極側から空気極側へ燃料が噴出している。
次いで、シャットダウン停止により燃料ガス及び発電用空気の供給が停止されると、圧力が高い状態にあった燃料極側から、圧力の低い空気極側へ燃料が噴出する。また、燃料電池モジュール内の空気極側の圧力も、外気の圧力(大気圧)よりも高い状態にあるため、シャットダウン停止の後、燃料電池モジュール内の空気極側の空気(及び燃料極側から噴出した燃料ガス)は、排気通路を通って燃料電池モジュールの外部に排出される。このため、シャットダウン停止の後は、燃料電池セルユニットの燃料極側、空気極側とも圧力が低下し、最終的には大気圧に収斂する。従って、燃料極側及び空気極側において圧力が低下する挙動は、燃料電池セルユニットの燃料極側と空気極側の間の流路抵抗、燃料電池モジュール内の空気極側と外気との間の流路抵抗等の影響を受けることになる。なお、燃料極側と空気極側の圧力が等しい状態においては、拡散により、空気極側の空気が燃料極側へ侵入する。
しかしながら、実際には、燃料電池モジュールの内部は高温の状態にあるため、シャットダウン停止後における圧力の挙動は、燃料極側及び空気極側の温度変化にも影響を受ける。例えば、燃料電池セルユニットの燃料極側の温度が、空気極側よりも急激に低下した場合、燃料電池セルユニット内の燃料ガスの体積が収縮するため、燃料極側の圧力が低下して空気の逆流が発生する。このように、シャットダウン停止後における燃料極側及び空気極側の圧力は、燃料電池モジュール内各部の流路抵抗、燃料電池モジュール内の温度分布、蓄積されている熱量等の影響を受け、非常に複雑に変化する。
燃料電池セルユニットの燃料極側及び空気極側に存在する気体の成分は、電流を取りだしていない状態(出力電流=0)におけるセルスタックの出力電圧に基づいて推定することができる。図17の太い破線に示すように、時刻t501のシャットダウン停止の直後は、セルスタックの出力電圧は急激に上昇する(図17のA部)。これは、シャットダウン停止の直後は、燃料極側には多くの水素が存在し、空気極側には空気が存在すると共に、セルスタックから取り出される電流が0にされるためである。次いで、セルスタックの出力電圧は急激に低下するが(図17のB部)、これは、シャットダウン停止後に、各燃料電池セルユニットの燃料極側に存在していた水素が流出して燃料極側の水素の濃度が低下すると共に、流出した水素により、空気極側の空気の濃度が低下するためであると推定される。
次いで、セルスタックの出力電圧は時間の経過と共に低下し、燃料電池モジュール内の温度が酸化下限温度未満に低下した時点(図17のC部)では、出力電圧は大きく低下している。この状態においては、各燃料電池セルユニットの燃料極側には殆ど水素が残っていないものと推定され、従来の燃料電池においては、燃料極は酸化の危険に晒されている。実際に、従来の燃料電池においては、多くの場合に、燃料電池モジュール内の温度が酸化下限温度未満に低下する前に、燃料極側の圧力が空気極側の圧力よりも低下する現象が発生し、燃料電池セルユニットに悪影響が生じていると考えられる。
また、燃料電池モジュールの構造、シャットダウン停止前の運転条件によっては、シャットダウン停止の後、燃料供給が停止されているにも関わらず、燃料電池モジュール内上部の温度が上昇するという現象が発生する(図示せず)。即ち、燃料電池モジュール内の温度が、シャットダウン停止後の1時間程度、発電運転時よりも上昇する場合がある。このような温度上昇は、発電運転中に改質器内で発生していた吸熱反応である水蒸気改質反応が、燃料供給の停止により発生しなくなる一方、各燃料電池セルユニットの内部や、これらに燃料を分配するマニホールド内に残留している燃料が、燃料供給停止後も燃焼室内で燃焼し続けることが原因であると考えられる。
このように、燃料電池モジュール内の改質器付近の温度が上昇する一方、燃料電池セルスタックからの電流の取り出しは停止されているため、燃料電池セルスタックにおいては発電熱が発生しなくなる。これにより、燃料電池セルスタック上方の温度が上昇して圧力が上昇するのに対して、各燃料電池セルユニットの内部は、温度低下により圧力が低下する。このような燃料電池モジュール内の温度勾配に起因して、各燃料電池セルユニットの燃料極側の圧力が、空気極側の圧力よりも低くなる場合がある。このような場合には、燃料電池セルユニット外部の空気極側の空気が、内部の燃料極側に逆流し、燃料電池セルユニットが損傷される可能性が高い。
本発明の実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1においては、燃料電池モジュール内各部の流路抵抗を適切な値に設定すると共に、制御装置110に内蔵されているシャットダウン停止回路110a(図6)の制御により、燃料極の酸化のリスクを大幅に抑制している。なお、制御装置110に内蔵されたマイクロプロセッサ(図示せず)がプログラムに基づいて作動されることにより、シャットダウン停止回路110aとして機能する。
次に、図8乃至図10を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池システム1の停止について説明する。
図8は本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池システム1における停止挙動の一例を模式的に時系列で表したタイムチャートである。図9はシャットダウン停止直後を拡大して示すタイムチャートである。図10はシャットダウン停止が実行された場合における制御、燃料電池モジュール内の温度、圧力、及び燃料電池セルユニットの先端部の状態を時系列で説明するための図である。
ここでは、使用者により停止スイッチが操作された場合において、制御装置110に内蔵されたシャットダウン停止回路110aによって実行される停止モードを説明する。図8、図9に示すように、停止スイッチが操作された場合には、シャットダウン停止回路110aにより停止準備制御が実行される。この停止準備制御は、燃料電池セルスタック14からの電力の取り出しが完全に停止される前の停止前制御と、電力の取り出しが停止された後の排熱制御から構成されている。
図9に示すタイムチャートの例では、時刻t301において、使用者により停止スイッチが操作され、停止前制御が開始されている。停止前制御においては、まず、燃料電池モジュール2による発電電力のインバータ54への出力が停止される。これにより、図9に細い一点鎖線で示すように、燃料電池モジュール2から取り出される電流、電力が急速に低下する。なお、停止前制御においては、燃料電池モジュール2からインバータ54への電流出力は停止されるが、固体酸化物型燃料電池システム1の補機ユニット4を作動させるための一定の微弱な電流(1A程度)の取り出しは、所定期間に亘って継続される。このため、時刻t301において発電電流が大幅に低下した後も、停止前制御中においては燃料電池モジュール2から微弱な電流が取り出される。また、図9に破線で示すように、燃料電池モジュール2の出力電圧は、取り出される電流の低下と共に上昇する。このように、停止前制御中において、電力の取り出し量を制限し、微弱な電流を取り出しながら所定電力の発電を継続することにより、供給された燃料の一部が発電に使用されるため、発電に使用されずに残る余剰燃料の著しい増加が回避され、燃料電池モジュール2内の温度が低下される。
さらに、停止前制御においては、時刻t301の後、図9に点線で示す燃料供給量、及び細い実線で示す改質用の水の供給量が直線的に低下される。一方、太い一点鎖線で示す発電用の空気供給量は直線的に増加される。従って、停止前制御中においては、燃料電池モジュール2から取り出される電力に対応した量よりも多くの空気が供給される。このように、空気供給量を増加させることにより、改質器20から熱を奪い、燃料電池モジュール2内の温度上昇を抑制している。続いて、図9に示す例では、時刻t301から約20秒後の時刻t302において、燃料供給量及び水供給量が、燃料電池モジュール2から取り出されている微弱な電流に対応した供給量まで低下され、その後、低下された供給量が維持される。このように、停止前制御として、燃料供給量及び水供給量を低下させておくことにより、燃料供給の完全停止時に大流量の燃料が急激に停止されることによる燃料電池モジュール2内の気流の乱れや、燃料供給の完全停止後における大量の燃料の改質器20、マニホールド66内への残留を防止している。なお、時刻t301の後、燃料供給量を減少させ、空気供給量を増加させることにより、図9に太い実線で示す燃料電池モジュール2内の空気極側の空気の温度は低下される。しかしながら、燃料電池モジュール2を取り囲む断熱材7等には依然として大量の熱量が蓄積されている。また、停止前制御中においては、インバータ54への電流出力は停止されているものの、燃料及び水の供給が継続されているため、発電用の空気の供給を継続しても、各燃料電池セルユニット16内部の燃料極側へ空気が逆流することはない。従って、安全に空気の供給を継続することができる。
図9に示す例では、停止前制御が開始された時刻t301から約2分後の時刻t303において、燃料供給量及び改質用の水供給量がゼロにされ、燃料電池モジュール2からの取り出し電流もゼロにされ、シャットダウン停止されている。なお、図9に示す例では、時刻t303において、燃料電池モジュール2からの取り出し電流がゼロにされる直前に、水供給量が僅かに増加されている。この水供給量の増加は、シャットダウン停止の時点において、蒸発部20a内に適正な量の水が残るよう、水量を調整するものである。
図9に示す例では、時刻t303におけるシャットダウン停止後も、停止準備制御における排熱制御として、発電用空気の供給(ただし、発電は完全に停止されている)が継続されている。これにより、燃料電池モジュール2内(燃料電池セルスタック14の空気極側)の空気、残余燃料の燃焼ガス、及びシャットダウン停止後に燃料電池セルスタック14の燃料極側から流出した燃料が排出される。本実施形態においては、時刻t303において、燃料供給が完全に停止された後、時刻t304までの所定期間、大量の発電用空気の供給が継続されている。また、発電用の空気供給量は、停止前制御中に最大の空気供給量まで増加され、その後、最大値に維持される。図8に示すように、時刻t304において、発電用空気の供給が停止された後は自然放置される。
シャットダウン停止の後、排熱制御により、燃料電池セルユニット16の空気極側に空気が送り込まれる。これにより、図8のB部において、空気極側の温度が、自然放置された場合よりも急激に低下される。上述したように、燃料供給が完全に停止された後、燃料電池セルスタック14の温度が酸化抑制温度に低下するまでは、燃料極を酸化させ、損傷する危険があるため、空気の供給は必ず停止されていた。しかしながら、燃料供給を停止した直後でも、所定時間の間は安全に空気極側に発電用の空気を供給できることが、本件発明者により見出された。
なお、本明細書において、酸化抑制温度とは、燃料極が酸化されるリスクが十分に低下される温度を意味している。燃料極が酸化されるリスクは、温度の低下と共に少しずつ減少して、やがてゼロになる。このため、燃料極の酸化が発生し得る最低の温度である酸化下限温度よりも少し高い温度帯域の酸化抑制温度であっても、燃料極酸化のリスクを十分に低減することができる。一般的な燃料電池セルユニットにおいては、このような酸化抑制温度は350℃乃至400℃程度であり、酸化下限温度は250℃乃至350℃程度であると考えられる。
シャットダウン停止の直後においては、各燃料電池セルユニット16の燃料極側に十分に燃料ガスが残存しており、これが各燃料電池セルユニット16上端から噴出している状態であるため、空気極側に空気を送り込むことにより、燃料極側に空気が逆流することはない。即ち、この状態においては、排熱制御によって空気を送り込むことにより、空気極側の圧力が上昇するが、依然として燃料極側の圧力が空気極側の圧力よりも高い状態にある。なお、各燃料電池セルユニット16の上端に設けられた燃料ガス流路細管98は、流路断面積を狭くした絞り流路であり、これにより、各燃料電池セルユニット16から流出する燃料ガスの流速が高くなる。さらに、時刻t304において空気の供給が停止された後は、自然放置され、後述する機械的圧力保持手段によって燃料極側の圧力が空気極側の圧力よりも高い状態が所定期間維持される。しかしながら、排熱制御により、燃料電池モジュール2内に滞留していた高温の空気及び燃焼ガスが排出されるため、排熱制御を行わない場合よりも低い温度から自然放置が開始される。このため、燃料極の温度が酸化抑制温度に低下する前に空気の逆流が発生するリスクが低下される。このように、シャットダウン停止後において、燃料極側の圧力低下は、空気極側の圧力低下よりも緩やかになる。また、排熱制御により、燃料電池モジュール2内の温度が均一化されるため、燃料電池セルユニット16内側の燃料ガスが急激に収縮し、燃料極側に空気が引き込まれるリスクが低減される。
さらに、シャットダウン停止後、排熱制御により空気極側に空気が送り込まれるため、燃料ガス流路細管98上端の炎は、より速やかに消失され、残存している燃料の消費が抑制される。また、シャットダウン停止直後は、燃料電池セルユニット16から噴出した多くの燃料ガスが、燃焼されることなく燃料電池セルユニット16の空気極側に流出する。排熱制御によれば、シャットダウン停止後、空気極側に空気が送り込まれ、噴出した燃料ガスが空気と共に排出されるので、燃料極から流出した燃料ガスが空気極に触れて空気極が部分的に還元されるリスクが回避される。
このように、本実施形態においては、シャットダウン停止前に停止前制御が実行され、シャットダウン停止後に排熱制御が実行されるので、図8のA部及びB部における温度低下が従来のシャットダウン停止よりも大きく、より低温、低圧の状態から自然放置が開始される。
ここで、本実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1おいては、燃料通路及び排気ガス通路は、自然放置開始後、燃料極の温度が酸化抑制温度に低下するまで、燃料電池モジュール2内の空気極側の圧力を大気圧よりも高く維持すると共に、燃料極側の圧力を空気極側の圧力よりも高く維持するように構成されている。従って、燃料通路及び排気ガス通路は、燃料極側の圧力が空気極側の圧力に近付くまでの時間を延長する機械的圧力保持手段として機能する。
一方、蒸発部20a内には水が残留しており、この水の蒸発は、温度分布等に依存して急激に発生することがある。このような場合には、蒸発部20a内の圧力が急上昇するので、高い圧力が下流側に伝搬し、燃料電池セルユニット16内の燃料ガスが、急激に空気極側へ噴出する虞がある。しかしながら、燃料ガス供給管64には、圧力変動抑制用流路抵抗部64c(図2)が設けられているため、改質器20内の急激な圧力上昇に基づく、燃料電池セルユニット16内の燃料ガスの急激な噴出が抑制される。また、各燃料電池セルユニット16の下端にも、燃料ガス流路細管98(図4)が設けられているため、この燃料ガス流路細管98の流路抵抗により、各燃料電池セルユニット16内部の急激な圧力上昇が抑制される。従って、各燃料電池セルユニット16下端の燃料ガス流路細管98及び圧力変動抑制用流路抵抗部64cは、燃料極側の圧力を高く維持する機械的圧力保持手段として機能する。
このように、機械的圧力保持手段により、各燃料電池セルユニット16の燃料極側の圧力低下は、自然放置開始後も長時間に亘って抑制される。シャットダウン停止後、5乃至6時間程度経過し、燃料電池モジュール2内の温度が酸化抑制温度まで低下する頃には、各燃料電池セルユニット16の燃料極側、空気極側ともほぼ大気圧まで低下し、空気極側の空気が燃料極側に拡散し始める。しかしながら、燃料ガス流路細管98、及び燃料電池セル84上端部の外側電極層92が形成されていない部分は、空気が侵入しても酸化されることはなく、この部分はバッファ部として機能する。特に、燃料ガス流路細管98は細長く構成されているため、バッファ部が長くなり、燃料電池セルユニット16の上端から空気が侵入した場合にも、燃料極の酸化が発生しにくい。また、酸化抑制温度近傍においては、燃料極の温度が低く、燃料極に空気が触れた場合にも発生する酸化は僅かである。さらに、燃料極の温度が酸化下限温度よりも低下した後は、各燃料電池セルユニット16の燃料極側に空気が充満しても燃料極が酸化されることはない。
図10はシャットダウン停止の動作を説明する図であり、上段には燃料極側及び空気極側の圧力変化を模式的に表すグラフを示し、中段には制御装置110による制御動作及び燃料電池モジュール2内の温度を時系列で示し、下段には各時点における燃料電池セルユニット16の上端部の状態を示している。
まず、図10中段における停止スイッチ操作前は、発電運転が行われており、停止スイッチ操作後は、停止前制御が実行される。停止前制御においては、燃料ガスの供給量が低下されるので、図10の下段(1)のように、発電運転中には大きかった各燃料電池セルユニット16上端の炎が、下段(2)に示すように小さくなる。このように、燃料ガスの供給量及び発電量が低下されるため、燃料電池モジュール2内の温度は、発電運転中よりも低下される。約2分間の停止前制御の後、シャットダウン停止が行われる。シャットダウン停止の後、排熱制御として、発電用空気流量調整ユニット45により発電用の空気が2分間供給される。排熱制御の後、発電用空気流量調整ユニット45が停止され、その後は自然放置される。
上述したように、シャットダウン停止の時点においては、各燃料電池セルユニット16の燃料極側の圧力は空気極側の圧力よりも高いため、燃料供給が停止された後も、燃料極側の燃料ガスが各燃料電池セルユニット16の上端から噴出する。なお、燃料ガスが燃焼される炎は、シャットダウン停止時に消失する。シャットダウン停止後において、各燃料電池セルユニット16の上端から噴出する燃料ガスは、シャットダウン停止直後が最も多く、その後次第に減少する。このシャットダウン停止直後に噴出される大量の燃料ガスは、排熱制御において供給される発電用の空気によって、燃料電池モジュール2の外へ排出される。また、排熱制御終了後にも、燃料ガスは各燃料電池セルユニット16の上端から噴出されるが、その燃料ガスの量は比較的少なくなっている。
このため、排熱制御終了後に噴出された燃料ガスである水素は、燃料電池モジュール2内の上部(燃料電池セルスタック14よりも上方)に滞留するが、噴出された燃料ガスは、各燃料電池セルユニット16の空気極には、実質的に接触しない。従って、燃料ガスが高温の空気極に接触することにより還元され、空気極が劣化されることはない。また、シャットダウン停止前の停止前制御においては、所定範囲の分量の適量の水が蒸発部20a内に貯留されるように水が供給されている。このため、シャットダウン停止後の排熱制御中において、蒸発部20a内で水が蒸発されることにより、各燃料電池セルユニット16の燃料極側の圧力が高められ、適量の燃料ガスが各燃料電池セルユニット16の上端から噴出される。排熱制御中に噴出された燃料ガスは速やかに燃料電池モジュール2内から排出される。排熱制御中において適量の燃料ガスが噴出されているため、排熱制御後において、過剰な量の燃料ガスが各燃料電池セルユニット16から噴出され、空気極を劣化させることはない。
ここで、本実施形態においては、停止前制御により、シャットダウン停止前の燃料ガスの供給量、水供給量等が所定の値に固定されている。これにより、発電運転中における運転状態に依存した、自然放置が開始される時点における圧力、温度分布等のバラツキが少なくなり、常に適正な状態から自然放置が開始される。このため、燃料極の温度が酸化抑制温度に低下する前に、燃料極側に空気が侵入するリスクは、極めて低いものになる。
次に、図11乃至図16を参照して、本発明の実施形態による固体酸化物型燃料電池システム1の再起動について説明する。
図11は、制御装置に内蔵された再起動回路による処理を示すフローチャートである。
図11に示すフローチャートは、制御装置110に内蔵された再起動回路110b(図6)により実行される再起動フローであり、このフローチャートによる処理は、所定の時間間隔で繰り返し実行される。この再起動回路110bはホット起動を実行する回路であり、ホット起動は、固体酸化物型燃料電池システム1がシャットダウン停止された後、燃料電池モジュール2内の温度が常温まで低下していない状態における起動である。なお、制御装置110に内蔵されたマイクロプロセッサ(図示せず)がプログラムに基づいて作動されることにより、再起動回路110bとして機能する。
まず、図11のステップS1においては、使用者により固体酸化物型燃料電池システム1の起動スイッチ(図示せず)が操作されたか否か、即ち、再起動指令があったか否かが判断される。起動スイッチ(図示せず)が操作されている場合には、ステップS2に進み、操作されていない場合には図11のフローチャートの1回の処理を終了する。
次いで、ステップS2においては、固体酸化物型燃料電池システム1が停止状態であるか否かが判断される。停止状態である場合にはステップS3に進み、停止状態でない場合にはステップS8に進む。ステップS8においては、固体酸化物型燃料電池システム1が運転中であるため、再起動の必要はなく、再起動指令はキャンセルされ、図11のフローチャートの1回の処理を終了する。
ステップS3においては、固体酸化物型燃料電池システム1が前回停止されたとき、停止前制御及び排熱制御が正常に実行されたか否かが判断される。正常に実行された場合にはステップS4に進み、正常に実行されていない場合にはステップS9に進む。ステップS9においては、起動スイッチ(図示せず)の操作に基づくホット起動は実行せず、燃料電池モジュール2内の温度が十分に低下した後、通常起動を実行する旨を、表示装置114(図6)に表示する。これは、前回の停止において停止前制御及び排熱制御が正常に実行されていない場合には、燃料電池モジュール2内の温度分布や、内部に滞留している気体の状態を正確に把握することができないことから、ホット起動を実行することによる不具合の発生を回避するためである。
一般に、常温よりも高い状態からの固体酸化物型燃料電池システムの起動は、燃料極の酸化、炭素析出、燃料電池モジュール内の過昇温等のトラブルを生じやすい。このため、高温からの起動を実行する場合には、起動時における燃料電池モジュール内の状態を正確に把握しておき、トラブルが生じる危険がない場合のみ、起動を実行する必要がある。一方、前回の停止において停止前制御及び排熱制御が正常に実行されている場合には、シャットダウン停止時点における燃料電池モジュール2の内部状態が、既知のほぼ一定の状態にされているため、発電室温度センサ142(図6)の検出温度に基づいて、ホット起動の可否を判断することが可能になる。
次に、ステップS4においては、燃料電池モジュール2内の温度が、ホット起動可能な温度であるか否かが判断される。ホット起動可能な温度以上である場合にはステップS10に進み、ホット起動可能な温度以上でない場合にはステップS5に進む。本実施形態においては、改質器20に内蔵されている触媒が燃料を十分に水蒸気改質可能な触媒活性温度である400℃以上であるか否かに基づいて、ホット起動の可否を判断している。この温度は、燃料電池モジュール、改質器等の構造、使用されている触媒の種類に基づいて適宜変更することができる。また、本実施形態においては、発電室温度センサ142の検出温度に基づいてホット起動の可否を判断している。しかしながら、燃料電池モジュール2内の温度は、シャットダウン停止後はほぼ一様な温度分布に収束していくため、燃料電池モジュール2内の他の部分の温度を測定するセンサの検出温度に基づいて可否を判断することも可能である。
ステップS10においては、再起動回路110bにより、ホット起動が実行される。このホット起動においては、図7のSR1工程における燃料供給量、発電用空気供給量、及び水供給量で起動工程が開始される。従って、ホット起動において、改質器20内では、水蒸気改質反応のみが発生する。なお、ホット起動が許可される400℃は、通常の起動工程(図7)においてはATR3が開始される温度である。しかしながら、燃料電池モジュール2のケースや断熱材は多量の熱を蓄積した状態にあるため、再起動の場合には、400℃からSR1工程を実行することができる。
一方、ステップS4において、燃料電池モジュール2内の温度が400℃以上でないと判断された場合にはステップS5に進むが、ステップS5以下の処理において、ホット起動が許可されることはない。従来、シャットダウン停止を行った後、燃料電池モジュール内の温度が常温に低下する前に行われるホット起動は、温度が低いほどトラブルが発生しにくく、温度が高い状態ほど困難であると考えられていた。このような技術常識に反し、本件発明者は、上述した停止準備制御(図10)を実行して、燃料電池モジュール内の温度状態及び内部に残留する気体の状態を所定の状態に整えておくことにより、高温度帯域における再起動が可能であることを見出した。加えて、本件発明者は、再起動を行う場合、高温度帯域よりも常温に近い、中低温度帯域における再起動によりトラブルが発生するため、この温度帯域では再起動を禁止すべきであることを新たに見出した。このトラブルの発生メカニズムについては後述する。
次に、ステップS5においては、燃料電池モジュール2内の温度が、酸化下限温度以下であるか否かが判断される。酸化下限温度よりも高い場合にはステップS12に進み、酸化下限温度以下である場合にはステップS6に進む。なお、本実施形態では、ステップS5において、燃料電池モジュール2内の温度が300℃以下であるか否かが判断される。ステップS12においては、起動スイッチ(図示せず)の操作に基づくホット起動は実行せず、燃料電池モジュール2内の温度が十分に低下した後、通常起動を実行する旨を、表示装置114(図6)に表示して、図11のフローチャートの1回の処理を終了する。
一方、ステップS6において、シャットダウン停止回路110aは、発電用空気流量調整ユニット45に信号を送り、燃料電池モジュール2内の空気極側に冷却用の空気を流入させる。シャットダウン停止回路110aは、燃料電池モジュール2内の温度が、再起動が禁止される中低温度帯域内の、酸化下限温度以下の領域に低下すると、空気を供給することにより燃料電池モジュール2内を冷却する。これにより、各燃料電池セルユニット16の燃料極が酸化するリスクがなくなった温度帯域において空気が供給され、再起動が禁止される温度帯域よりも低い温度まで、早急に燃料電池モジュール2内の温度が低下される。
次いで、ステップS7においては、燃料電池モジュール2内の温度が90℃以下に低下したか否かが判断される。90℃以下に低下した場合にはステップS11に進み、低下していない場合にはステップS12に進む。ステップS11においては、固体酸化物型燃料電池システム1の通常起動が許可され、通常起動が開始される。即ち、燃料電池モジュール2内の温度が90℃以下に低下した状態においては、通常起動を実行しても上記のトラブルは発生しないため、通常起動が許可される。一方、燃料電池モジュール2内の温度が90℃以下に低下していない場合には、依然として上記のトラブルのリスクがあるため、再起動は実行されず、その旨、表示される。
図12は、シャットダウン停止後における燃料電池モジュール2内の温度低下の一例を示すグラフである。
図12に示すように、シャットダウン停止時において、燃料電池モジュール2内の温度は600℃以上である。この温度が、シャットダウン停止後、約6時間で約400℃まで低下する。この400℃以上の高温度帯域においては再起動が許可され(図11のステップS10)、再起動操作に基づいてホット起動が実行される。
次いで、燃料電池モジュール2内の温度が400℃よりも低くなると再起動が禁止される(図11のステップS5以下)。この再起動の禁止は、燃料電池モジュール2内の温度が90℃以下に低下するまで継続され、90℃以下に低下した後は、起動操作に基づいて通常起動が実行される(図11のステップS11)。この再起動が禁止される400℃〜90℃の中低温度帯域にある時間を短縮するため、シャットダウン停止回路110aは、各燃料電池セルユニット16が酸化されるリスクのない温度まで低下されたとき(図12における約11時間後)、燃料電池モジュール2への空気の供給が開始され、温度低下が促進される。次いで、シャットダウン停止から約24時間後に、燃料電池モジュール2内の温度が90℃以下に低下すると、通常起動による再起動が許可される。
次に、中低温度帯域において、ホット起動を実行した場合において、トラブルが発生するメカニズムを説明する。
図13は、通常起動時及び再起動時における燃料電池モジュール内の温度状態を模式的に示すグラフである。
図13においては、通常起動時における改質器20の温度を太い実線に、燃料電池セルスタック14の温度(発電室温度)を太い破線に示し、再起動時における改質器20の温度を細い実線に、燃料電池セルスタック14の温度(発電室温度)を細い破線に示している。まず、図7により説明した通常起動時においては、常温の状態から、改質器20の温度が先行して上昇し、燃料電池セルスタック14(発電室温度)は、これに追随するように緩やかに温度上昇する。これは、改質器20は、各燃料電池セルユニット16の上端から流出する燃料の燃焼熱によって直接加熱されるため、常温から急速に温度が上昇するのに対して、燃料電池セルスタック14は、燃焼熱等による燃料電池モジュール2内の温度上昇と共に、緩やかに温度が上昇するためである。従って、図13の太い実線及び破線に示すように、通常起動時においては、燃料電池セルスタック14の温度が約200℃の時点では、改質器20の温度は約600℃に上昇しており、その後、夫々所定の温度まで温度上昇される。
一方、図13の細い実線及び破線に示すように、シャットダウン停止後、燃料電池セルスタック14の温度約200℃まで低下した状態で再起動を実行する場合においては、燃料電池セルスタック14の温度約200℃に対して、改質器20の温度も約200℃となっている。即ち、固体酸化物型燃料電池システム1の発電運転中においては、燃料電池モジュール2内の温度は、ほぼ一様に約600〜700℃程度であり、改質器20と燃料電池セルスタック14の温度差は比較的小さくなっている。加えて、シャットダウン停止が実行された後は、各燃料電池セルユニット16における発電熱、残余燃料の燃焼熱、改質器20内の水蒸気改質反応による吸熱がなくなるため、燃料電池モジュール2内の各部の温度は一様な温度分布に収束していく。このような理由から、シャットダウン停止後において、燃料電池セルスタック14の温度が約200℃まで低下した状態においては、改質器20の温度も約200℃に低下している。このように、通常起動により常温から温度上昇している状態と、シャットダウン停止後に温度が低下している状態では、燃料電池セルスタック14の温度が同じであったとしても、燃料電池モジュール2内の温度状態は異なるものとなっている。
図13に示すように、燃料電池セルスタック14の温度約200℃の状態から再起動が実行されると、改質器20は、各燃料電池セルユニット16の上端から流出する燃料の燃焼熱により急速に温度が上昇し、約10分で約400℃まで温度上昇し、その後、約700℃以上まで温度上昇する。本件発明者は、このような再起動が実行されると、各燃料電池セルユニット16の燃料極に微量の炭素析出(コーキング)が発生することを見出した。従来、燃料電池の技術分野において問題とされていた炭素析出は、例えば700℃以上の高温領域で発生するものであり、200℃程度の中低温度帯域において炭素析出が問題となることは知られていなかった。また、このような中低温度帯域における炭素析出は、燃料中に含まれる微量の炭素成分と、燃料極中の金属成分が反応することにより発生することが、本件発明者により見出された。
即ち、固体酸化物型燃料電池システム1の再起動が実行されると、炭素析出に起因して、燃料電池セルユニット16の電解質層94が損傷される場合があることが、本件発明者により見出された。燃料極に炭素が析出すると、燃料電池セルユニット16の温度上昇に伴って析出した炭素が膨張することにより燃料極も膨張され、燃料極(内側電極層90)の外側に設けられた電解質層94に多数のマイクロクラックが発生する。1回の再起動により発生するマイクロクラックは極僅かであり、電解質層94の機能に影響を与えるものではないが、中低温度帯域からの再起動が多数回繰り返されると、電解質層94に大きなクラックが発生してしまう。また、燃料極に析出した炭素は高温の水蒸気雰囲気に晒されることにより除去されるが、多孔質の燃料極の深部(電解質層94に近い部分)に析出した炭素は十分に除去されず、再起動時の温度上昇に伴い燃料極を膨張させてしまう。
次に、図14を参照して、中低温度帯域から再起動を実行した場合に、炭素析出が発生する原因を説明する。
図14は、燃料極に炭素析出が発生する危険がある温度領域を模式的に示すグラフである。
図14において、横軸は燃料電池セルユニット16の燃料極の温度(発電室温度)を示し、縦軸は改質器20内の改質触媒の温度(改質器温度)を示している。一般に、燃料極は、温度が高いほど燃料中の炭素成分と反応しやすく、改質器は、温度が高いほど改質効率が高くなり、未改質の燃料が流出しにくくなる。
図14に示すように、燃料電池セルユニット16の燃料極の温度が約180℃よりも低い場合には、燃料中の未改質のメタン、エタン等が燃料極に供給された場合であっても、燃料極中の金属と未改質ガスの反応は発生せず、炭素析出は発生しない。また、改質器20は、約400℃以上になると、十分な水蒸気改質を行うことができ、約400℃以上の温度帯域においては、改質器20から未改質のまま流出されるメタン、エタン等は極めて少なくなる。
従って、燃料電池セルユニット16の燃料極に炭素析出が発生するリスクのある温度状態は、図14において斜線を施した領域である。ここで、図11のステップS10において実行されるホット起動は、改質器20、各燃料電池セルユニット16とも約400℃以上の状態から開始されるため、例えば、図14における点Aを基点とする起動に相当する。点Aを基点として再起動された場合、その後、改質器20、各燃料電池セルユニット16とも温度は上昇するので、再起動中に炭素析出発生領域を通過することはなく、炭素析出が発生するリスクはない。一方、本実施形態においては禁止されている燃料電池モジュール2内温度200℃(改質器20、各燃料電池セルユニット16とも200℃)を基点(図14の点B)として再起動を行った場合、炭素析出発生領域内から再起動が開始されるため、炭素析出が発生するリスクが高くなる。
また、図11のステップS11において実行される通常起動は、改質器20、各燃料電池セルユニット16とも約90℃以下の状態から開始されるため、例えば、図14における点Cを基点とする起動に相当する。点Cを基点として起動された場合には、上述したように、改質器20の温度上昇が急速であるのに対し、各燃料電池セルユニット16の温度上昇は緩やかであるため、各燃料電池セルユニット16の温度が炭素析出を発生し得る温度に到達する前に、改質器20の温度が十分な水蒸気改質を行うことができる温度まで上昇する。従って、点Cを基点とする起動において、炭素析出発生領域を通過することはなく、炭素析出が発生するリスクはない。また、常温から実行される通常起動においても、炭素析出発生領域を通過することはない(図7)。
図15は、起動工程中における燃料電池セルスタック14(各燃料電池セルユニット16)の温度と、改質器20から各燃料電池セルユニット16の燃料極に供給される燃料中の炭素成分濃度の関係の一例を示すグラフである。
図15において、横軸は燃料電池セルスタック14の温度を示し、縦軸は炭素成分濃度を示している。また、図15においては、炭素析出発生領域は、燃料電池セルスタック14の温度が所定温度よりも高く、且つ燃料中の炭素成分濃度が所定の濃度よりも高い、斜線の領域となる。
まず、図15に破線で示す常温起動においては、起動初期には、改質器20の温度も低いため供給される燃料中の炭素成分濃度も高いが、燃料電池セルスタック14の温度上昇と共に改質器20の温度も上昇するため、炭素成分の濃度も低下する。続いて、燃料電池セルスタック14(燃料極)の温度が、炭素析出が発生し得る温度に上昇した時点においては、炭素成分の濃度も十分に低下しているため、常温起動において炭素析出発生領域を通過することはない。また、図15に一点鎖線で示す90℃起動においても、90℃からの燃料電池セルスタック14の温度上昇に伴い炭素成分の濃度も低下し、炭素析出発生領域を迂回して燃料電池セルスタック14の温度は600℃まで上昇する。このため、90℃起動においても炭素析出発生領域を通過することはない。
一方、図15に二点鎖線で示す200℃起動においては、燃料電池セルスタック14温度200℃の起動時点における燃料中の炭素成分濃度が高いため、炭素析出発生領域から起動が開始され、温度上昇と共に炭素成分濃度が十分に低下するまでの間、炭素析出が発生する虞がある。また、図15に実線で示す400℃起動においては、起動初期から燃料中の炭素成分濃度が測定限界以下であり、炭素析出発生領域を通過することはない。さらに、燃料電池セルスタック14温度が400℃以上の状態においては、燃料極に未改質の燃料が供給された場合、燃料極上で水蒸気改質反応が発生するため、炭素析出が発生するリスクは更に小さくなる。
図16は、再起動の繰り返し回数と、燃料電池セルユニット16の電解質層94の残留応力の関係を示すグラフである。
図16において、横軸は再起動の回数を表し、縦軸は燃料電池セルユニット16の電解質層94の円周方向の残留応力を表している。なお、残留応力は、X線回折残留応力測定(XRD)により測定された。また、図中の正方形のプロットは、シャットダウン停止後、150℃〜200℃まで温度低下した状態からの再起動を繰り返した場合の実験データを示し、円形のプロットは、90℃からの再起動を繰り返した場合の実験データを示している。
まず、再起動を行っていない(再起動0回)燃料電池セルユニット16の電解質層94には、負の残留応力、即ち、圧縮応力が作用している。このような燃料電池セルユニット16に対し、150℃〜200℃からの起動、シャットダウン停止を繰り返すと、繰り返し回数の増加と共に残留圧縮応力が減少する。これは、150℃〜200℃起動を繰り返す度に燃料極への炭素析出に伴い電解質層94にマイクロクラックが発生し、このマイクロクラックが初期の圧縮応力を減少させているものと考えられる。発生したマイクロクラックの増加により残留圧縮応力が次第に減少し、電解質層94に大きなクラックが発生すると圧縮応力が0になる。
これに対して、円形のプロットで示す90℃起動を繰り返した場合には、150℃〜200℃起動において大きなクラックが発生した繰り返し回数の3倍程度の回数起動を繰り返した後も、電解質層94の残留応力は、初期状態とほぼ同程度であった。これは、90℃起動によれば、再起動時に炭素析出発生領域を通過することがなく、電解質層94にマイクロクラックが殆ど発生しないためと考えられる。
本発明の実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1によれば、所定の中低温度帯域からのホット起動が禁止される(図12)ので、燃料電池セルユニット16の燃料極(内側電極層90)への炭素析出を抑制することができ、電解質層94の損傷を回避することができる。一方、本実施形態によれば、所定の高温度帯域からのホット起動が実行される(図11のステップS10)ので、例えば、メンテナンス等の目的で固体酸化物型燃料電池システム1を停止させた後、燃料電池モジュール2内が所定の高温度帯域内にある場合(図11のステップS4→S10)には、温度低下を待つことなく再起動を実行することができる。特に、本実施形態の燃料電池システム1は、燃料電池モジュール2の断熱性を高めた高効率のシステムであるため、シャットダウン停止後、燃料電池モジュール2内が常温に低下するまでの時間が極めて長く、高温度帯域にある時間も長くなっている。このため、高温度帯域にある時間内にメンテナンスを終了することにより、終了直後に再起動を行うことが可能になるので、燃料電池システムの停止時間が大幅に短縮され、メンテナンス性を高めることができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1によれば、停止準備制御(図10)を実行することにより、シャットダウン停止後の燃料電池モジュール2内が予め定められた所定の状態にされているので、停止後の燃料電池モジュール2内の状態が停止直前の運転状態の影響を受けることがない。このため、高温度帯域において、安全にホット起動を実行することができる。また、前回の停止において停止準備制御が実行されていない場合には、ホット起動が実行されない(図11のステップS3→S9)ので、燃料電池モジュール2内の温度状態が特定できない状態からのホット起動を回避することができ、炭素析出発生のリスクを極めて小さくすることができる。
さらに、本実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1によれば、シャットダウン停止回路110aにより、排熱制御及び停止前制御(図10)が実行されるので、シャットダウン停止後における燃料電池モジュール2内の温度状態、又は残留する燃料及び改質用の水の量を規定された状態にすることができ、安全にホット起動を実行することができる。
また、本実施形態の固体酸化物型燃料電池システム1によれば、高温度帯域にある間は、燃料流量調整ユニット38、水流量調整ユニット28、及び発電用空気流量調整ユニット45が停止される(図8)ので、燃料極の酸化を回避しながら、ホット起動可能な状態を維持することができる。また、燃料電池モジュール2内の温度が中低温度帯域まで低下した後、発電用空気流量調整ユニット45が作動される(図12)ので、燃料電池モジュール2内の温度低下が促進され、ホット起動が禁止される期間を短縮することができる。