本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品(「成形品」という場合がある)は、少なくともガラス繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む。また、本発明の成形品は、ガラス繊維(A)と、湾曲して存在する有機繊維(B)と、熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有する。
ガラス繊維(A)は、連続した強化繊維束であり、強化材として成形品に高い力学特性を付与するものである。有機繊維(B)も連続した強化繊維束であり、柔軟性を持つことが特徴である。有機繊維(B)は柔軟性を有することから、成形時に折れにくく、湾曲して長い繊維長を保ったまま成形品中に存在しやすい。そのため、剛直でもろく、絡まりにくく折れやすいガラス繊維(A)のみから構成される繊維束に比べて、有機繊維(B)を含む繊維束を用いることにより、強化材として成形品に高い衝撃強度、低温衝撃強度を付与することができる。熱可塑性樹脂(C)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形品においてガラス繊維(A)および有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。本発明の成形品は、熱可塑性樹脂(C)内に、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)が含まれており、ガラス繊維(A)が、繊維端部間距離が繊維長とほぼ同等となる状態で存在するのに対し、有機繊維(B)は、その繊維端部間距離が繊維長に対して短い状態で、すなわち、湾曲した状態で存在することを特徴とする。ここで、本発明において「繊維端部間距離」とは、ある単繊維において、片端部を始点とし、他方の片端部を終点とした時の、始点と終点を直線で結んだ時の直線距離のことをいう。剛直な繊維と柔軟な繊維では、成形品内における状態が異なる。本発明においては、繊維が湾曲した状態の指標として、繊維端部間距離に着目した。例えば、図1に、成形品中におけるガラス繊維(A)の繊維長および繊維端部間距離を示す。図1において、符号1はガラス繊維(A)、符号2はガラス繊維1の始点、符号3はガラス繊維1の終点、符号4はガラス繊維1の端部間の距離Dを示す。図2に、成形品中における有機繊維(B)の繊維長および繊維端部間距離を示す。図2において、符号5は有機繊維(B)、符号6は有機繊維5の始点、符号7は有機繊維5の終点、符号8は有機繊維5の端部間の距離Dを示す。図1に示すように、ガラス繊維(A)の繊維端部間距離は、一般的に繊維長と同等であるのに対し、図2に示すように、有機繊維(B)は、成形品内で湾曲しているため、繊維端部間距離と繊維長が異なることがある。
本発明の成形品は、−20℃における落錘衝撃強度(I−20℃)の23℃における落錘衝撃強度(I23℃)に対する強度比(I−20℃/I23℃)が0.8以上であることが好ましく、低温における落錘衝撃強度の低下をより抑制することができる。なお、落錘衝撃強度は、試験温度23℃、−20℃の各条件において、錘先端丸形状のタップを使用し、錘重量5.1356kg、落錘速度0.5m/秒の条件にて落錘衝撃試験を実施することにより求めることができる。
本発明の成形品は、破断時の有機繊維(B)の繊維端面が、繊維軸の垂直面に対して傾きを有することが好ましい。これにより、成形品破断時に有機繊維(B)が牽切して破断する形態をとるため、より多くのエネルギーを吸収することができ、結果として衝撃強度がより向上する。なお、成形品内において、有機繊維(B)同士、または、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)の絡み合いが少ない状態で有機繊維(B)を存在させることで、破断時に有機繊維(B)の繊維端面が、繊維軸の垂直面に対して傾きを有するようにすることができる。なお、一般的に、ガラス繊維(A)の繊維端は、繊維軸に対して垂直であって、繊維軸の垂直面に対して傾きを有さない。繊維破断面の形態を観察する方法としては、例えば、成形品中の有機繊維(B)における、繊維長手方向に対して垂直な断面を倍率2000倍に設定した電子走査型顕微鏡にて観察し、得られた顕微鏡像の画像処理を行い解析する手法が挙げられる。
本発明の成形品は、ガラス繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、ガラス繊維(A)を5〜45重量部含有する。ガラス繊維を含有することにより、成形品の剛性などの力学特性を向上させることができる。ガラス繊維(A)の含有量が5重量部未満であると、成形品の力学特性、特に曲げ特性および衝撃強度が低下する。ガラス繊維(A)の含有量は10重量部以上が好ましく、15重量部以上がより好ましい。また、ガラス繊維(A)の含有量が45重量部を超えると、成形品中のガラス繊維(A)の分散性が低下し、成形品の力学特性、特に衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。また、成形品の比重が増加する。ガラス繊維(A)の含有量は30重量部以下が好ましく、25重量部以下がより好ましい。
本発明で用いるガラス繊維(A)の種類として特に制限はなく、公知のガラス繊維を使用することが可能である。繊維径としては特に限定されないが、9〜15μmが好ましい。ガラス繊維(A)の具体例としては、日本電気硝子(株)製T−120、T−187、T−187Hなどが挙げられる。
一般的に、ガラス繊維には、使用時の毛羽や静電気の発生を抑えてハンドリング性を改善するためや、マトリックスである熱可塑性樹脂(C)との接着性を改善するために、種々のバインダーが付与されている。本発明においても、これらのバインダーが付与されたガラス繊維を用いることができる。バインダーの種類は、マトリックスである熱可塑性樹脂(C)の種類に応じて選択すればよい。また、バインダーのガラス繊維(A)への付与量は、バインダー付与後のガラス繊維(A)全体の質量を基準にして、固形分として0.1〜3.0質量%が好ましい。バインダー付与量が0.1質量%以上であれば、前記のハンドリング性および接着性を十分に改善することができる。一方、バインダー付与量が3.0質量%以下であれば、熱可塑性樹脂(C)のガラス繊維への含浸をより効果的に進めることができる。
バインダーとしては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン等のシラン系カップリング剤に代表されるカップリング剤、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等のポリマーまたはその変性物、ポリオレフィン系ワックスに代表されるワックス類等のオリゴマーを含むものが挙げられる。なお、上記のポリマーやオリゴマーは、界面活性剤による水分散化によって得られる水分散体、あるいは、ポリマーやオリゴマーの骨格中に存在するカルボキシル基やアミド基の中和や水和による水溶化によって得られる水溶液の形態で使用されることが一般的である。上記バインダーは、上記の成分に加えて、塩化リチウム、ヨウ化カリウム等の無機塩や、アンモニウムクロライド型やアンモニウムエトサルフェート型等の4級アンモニウム塩に代表される帯電防止剤、脂肪族エステル系、脂肪族エーテル系、芳香族エステル系、芳香族エーテル系の界面活性剤に代表される潤滑剤などを含んでいてもよい。
ここで、本発明の成形品における、ガラス繊維(A)の平均繊維長(LA)は、0.3〜1.5mmである。さらに、ガラス繊維(A)の平均繊維端部間距離(DA)が平均繊維長(LA)と次の式[1]の関係を満たす。
0.9×LA≦DA≦LA [1]
ガラス繊維(A)の平均繊維長(LA)が0.3mm未満である場合、成形品におけるガラス繊維(A)の補強効果が十分に発現せず、力学特性、特に曲げ強度、引張強度の低下が発生する。LAは0.7mm以上が好ましい。一方で、平均繊維長(LA)が1.5mmを超える場合、ガラス繊維(A)同士の単糸間での絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しないため、結果として、上記力学特性が低下する。LAは1.2mm以下が好ましい。さらに、平均繊維端部間距離(DA)が上記式[1]を満たさない場合、剛直であるガラス繊維(A)が破断寸前まで湾曲して成形品内に存在していることとなるため、結果として、力学特性、特に曲げ強度、引張強度、衝撃強度が低下する。ここで、本発明における「平均繊維長」および「平均繊維端部間距離」とは、重量平均分子量の算出方法を繊維長および繊維端部間距離の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長および繊維端部間距離の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長および平均繊維端部間距離を指す。ただし、下記の式は、ガラス繊維(A)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
平均繊維長=Σ(Mi2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miのガラス繊維の個数
平均繊維端部間距離=Σ(Mi’2×Ni’)/Σ(Mi’×Ni’)
Mi’:繊維端部間距離(mm)
Ni’:繊維端部間距離Mi’のガラス繊維の個数
上記平均繊維長および平均繊維端部間距離の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。ガラス繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1000本のガラス繊維(A)の繊維長と繊維端部間距離を計測して、上記式から平均繊維長(LA)および平均繊維端部間距離(DA)を算出する。
本発明の成形品は、前述したガラス繊維(A)に加えて有機繊維(B)を含有する。ガラス繊維(A)などの無機繊維は剛直で脆いため、絡まりにくく折れやすい。そのため、無機繊維だけからなる繊維束は、成形品の製造中に切れ易かったり、成形品から脱落しやすいという課題がある。そこで、柔軟で折れにくく、成形品中において湾曲して存在しやすい有機繊維(B)を含むことにより、成形品の衝撃強度、低温衝撃強度を大幅に向上させることができる。本発明において、成形材料中の有機繊維(B)の含有量は、ガラス繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、1〜45重量部である。有機繊維(B)の含有量が1重量部未満である場合、成形品の力学特性、特に衝撃特性、低温衝撃特性が低下する。有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。逆に、有機繊維(B)の含有量が45重量部を超える場合、繊維同士の絡み合いが増加し、成形品中における有機繊維(B)の分散性が低下し、成形品の衝撃強度の低下を引き起こすことが多い。有機繊維(B)の含有量は30重量部以下が好ましい。
本発明において用いられる有機繊維(B)の単繊維繊度は0.1〜10dtexが好ましく、より好ましくは0.5〜5dtexである。また、有機繊維(B)の引張破断伸度は、有機繊維の平均繊維長および平均繊維端部間距離を後述する式[2]を満たすように調整し、衝撃特性および低温衝撃特性をより向上させる観点から、10%以上が好ましく、20%以上がさらに好ましい。一方、繊維強度および成形品の剛性を向上させる観点から、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、次の方法により求めることができる。標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを測定し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入する。データn3の平均値を求め、本発明における引張破断伸度とする。
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)−250)/250]×100
有機繊維(B)は、成形品の力学特性を大きく低下させない範囲で適宜選択することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリアリーレンスルフィド、液晶ポリエステル等の樹脂を紡糸して得られる繊維を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの有機繊維(B)の中から、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂(C)との組み合わせにより適宜選択して用いることが好ましい。特に、熱可塑性樹脂(C)の成形温度(溶融温度)に対して、有機繊維(B)の溶融温度が30℃〜150℃高いことが好ましい。あるいは、熱可塑性樹脂(C)と非相溶性である樹脂を用いてなる有機繊維(B)は、成形品内に繊維状態を保ったまま存在するため、成形品の衝撃強度、低温衝撃強度をより向上できるため好ましい。溶融温度の高い有機繊維(B)として、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、フッ素樹脂繊維などが挙げられ、本発明においては、有機繊維(B)としてこれらからなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を用いることが好ましい。
ここで、本発明の成形品における、有機繊維(B)の平均繊維長(LB)は、1.5mm〜4mmである。さらに、有機繊維(B)の平均繊維端部間距離(DB)が平均繊維長(LB)と次の式[2]の関係を満たす。
0.1×LB≦DB≦0.9×LB [2]
有機繊維(B)の平均繊維長(LB)が1.5mm未満である場合、成形品における有機繊維(B)の補強効果が十分に発現せず、力学特性、特に衝撃強度が低下する。LBは1.9mm以上が好ましい。一方で、平均繊維長(LB)が4mmを超える場合、有機繊維(B)同士の単糸間での絡み合いが増加し、成形品内で均一分散しないため、結果として、上記力学特性が低下する。LBは3mm以下が好ましい。さらに、平均繊維端部間距離(DB)が上記式[2]を満たさない場合、有機繊維(B)が湾曲せずに、より直線的に成形品内に存在していることとなるため、成形品破断時の繊維補強効果が弱まり、結果として、力学特性、特に衝撃強度、落錘衝撃強度および低温落錘衝撃強度が低下する。ここで、本発明における有機繊維(B)の「平均繊維長」および「平均繊維端部間距離」とは、炭素繊維(A)と同様に、重量平均分子量の算出方法を繊維長および繊維端部間距離の算出に適用し、単純に数平均を取るのではなく、繊維長および繊維端部間距離の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長および平均繊維端部間距離を指す。ただし、下記の式は、有機繊維(B)の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
平均繊維長=Σ(Mi2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの有機繊維の個数
平均繊維端部間距離=Σ(Mi’2×Ni’)/Σ(Mi’×Ni’)
Mi’:繊維端部間距離(mm)
Ni’:繊維端部間距離Mi’の有機繊維の個数
上記平均繊維長および平均繊維端部間距離の測定は、次の方法により行うことができる。成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させる。有機繊維が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1000本の有機繊維(B)の繊維長と繊維端部間距離を計測して、上記式から平均繊維長(LB)および平均繊維端部間距離(DB)を算出する。
なお、成形品中における有機繊維(B)の平均繊維端部間距離(DB)は、例えば、前述の有機繊維(B)の種類や、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。
本発明の成形品は、ガラス繊維(A)、有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部含む。
本発明において熱可塑性樹脂(C)は、成形温度(溶融温度)が200〜450℃であるものが好ましく、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂等が挙げられ、これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。これらを2種以上用いることもできる。
前記熱可塑性樹脂(C)の中でも、軽量、かつ、力学特性や成形性のバランスに優れるポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂がより好ましく、耐薬品性や吸湿性にも優れることから、ポリプロピレン樹脂がさらに好ましい。
ここで言うポリプロピレン樹脂とは、無変性のものも、変性されたものも含まれる。無変性のポリプロピレン樹脂は、具体的には、プロピレンの単独重合体またはプロピレンと少なくとも1種のα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンなどとの共重合体である。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等のプロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィンなどが挙げられる。共役ジエン、非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。無変性ポリプロピレン樹脂の骨格構造としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと前記その他の単量体のランダムあるいはブロック共重合体、またはプロピレンと他の熱可塑性単量体とのランダムあるいはブロック共重合体等を挙げることができる。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は成形品の剛性をより向上させる観点から好ましく、プロピレンと前記その他の単量体のランダムあるいはブロック共重合体は成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはその塩の基を有するポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は種々の方法で得ることができ、例えば、ポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステルを有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、これらのエステル化物などが挙げられる。さらに、オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する化合物なども挙げられる。
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示され、その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
エチレン系不飽和カルボン酸のエステル化物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
オレフィン以外の不飽和ビニル基を有する単量体としては、ビニルイソシアナート、イソプロペニルイソシアナート等のイソシアナート基含有ビニル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等の芳香族ビニル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等のアミド基含有ビニル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等が挙げられる。
これらを2種以上用いることもできる。また、これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸無水物類が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
ここで、成形品の力学特性、特に曲げ強度および引張強度を向上させるため、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましく、特に難燃性や力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5〜75/25となるように用いることが好ましい。より好ましくは95/5〜80/20、さらに好ましくは90/10〜80/20である。
また、ポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その主要原料の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
本発明においては、耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体的な例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ナイロン6、ナイロン66がより好ましい。
これらポリアミド樹脂の重合度には特に制限がなく、98%濃硫酸25mlにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液の25℃で測定した相対粘度が1.5〜5.0の範囲、特に2.0〜3.5の範囲のポリアミド樹脂が好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノールまたは2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。かかるポリカーボネート樹脂はそれ自体公知であり、例えば、特開2002−129027号公報に記載のポリカーボネート樹脂を使用できる。
二価フェノールとしては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン(ビスフェノールAなど)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましく、耐衝撃特性により優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。一方、ビスフェノールAと他の二価フェノールを用いて得られる共重合体は、高耐熱性または低吸水率の点で優れている。
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが使用され、具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメートなどが挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体からポリカーボネート樹脂を製造するにあたっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化を防止する酸化防止剤などを使用してもよい。
また、本発明におけるポリカーボネート樹脂には、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂、並びにかかる二官能性カルボン酸および二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂を含む。これらのポリカーボネート樹脂も公知である。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
ポリカーボネート樹脂の分子量は特定されないが、粘度平均分子量が10,000〜50,000のものが好ましい。粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。15,000以上がより好ましく、18,000以上がさらに好ましい。一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、成形加工性が向上する。40,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂を2種以上用いる場合、少なくとも1種の粘度平均分子量が上記範囲にあることが好ましい。この場合、他のポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が50,000を超える、好ましくは80,000を超えるポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。かかるポリカーボネート樹脂は、エントロピー弾性が高く、ガスアシスト成形等を併用する場合に有利となる他、高いエントロピー弾性に由来する特性(ドリップ防止特性、ドローダウン特性、およびジェッティング改良などの溶融特性を改良する特性)を発揮する。
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4M0.83
c=0.7。
本発明の成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記(A)〜(C)に加えて他の成分を含有してもよい。他の成分の例としては、熱硬化性樹脂、ガラス繊維以外の無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、あるいは、カップリング剤などが挙げられる。
続いて、本発明の成形材料および成形品の製造方法について説明する。
本発明の成形品は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、ガラス繊維(A)のロービングおよび有機繊維(B)のロービングを繊維長手方向に対して並列に合糸し、ガラス繊維(A)と有機繊維(B)を有する繊維束(D)を作製する。次いで、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイに繊維束(D)を導き、熱可塑性樹脂(C)を繊維束(D)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法がある。熱可塑性樹脂(C)は、繊維束(D)の外側または、繊維束(D)中に含浸されていてもよい。
得られた成形材料を成形することにより、成形品を得ることができる。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば射出時間:0.5秒〜10秒、より好ましくは2秒〜10秒、背圧力:0.1MPa〜10MPa、より好ましくは2MPa〜8MPa、保圧力1MPa〜50MPa、より好ましくは1MPa〜30MPa、保圧時間:1秒〜20秒、より好ましくは5秒〜20秒、シリンダー温度:200℃〜320℃、金型温度:20℃〜100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧力および金型温度を適宜選択することにより、前述の式[1]や式[2]を満足するように、成形品中の強化繊維の繊維長や繊維端部間距離を容易に調整することができる。
次に、本発明の成形品を得るために適した、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(「成形材料」という場合がある)について説明する。
本発明の成形材料は、前述した製造方法に加え、ダイスを用いた公知の製造方法により製造することができる。例えば、特開平6−313050号公報の段落番号7、特開平6−114832号公報(繊維強化熱可塑性樹脂構造体およびその製造法)、特開平7−251437号公報(長繊維強化熱可塑性複合材料の製造方法および製造装置)等に記載の製造方法を適用することができる。
本発明においては、(1)ガラス繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、炭素繊維(A)を5〜45重量部、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、ガラス繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(D)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、繊維束(D)断面においてガラス繊維(A)と有機繊維(B)が偏在し、繊維束(D)の長さと繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じである成形材料(以下、「第一の態様の成形材料」という場合がある)や、(2)ガラス繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、ガラス繊維(A)を5〜45重量部、熱可塑性樹脂(C)を55〜95重量部含み、ガラス繊維(A)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含み、ガラス繊維(A)の長さとガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の長さが実質的に同じであるガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)と、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(E)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1〜45重量部、熱可塑性樹脂(G)を55〜99重量部含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)とを含む成形材料(以下、「第二の態様の成形材料」という場合がある)が、本発明の成形品を得るための成形材料として好適に用いることができる。
まず、第一の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第一の態様の成形材料は、少なくともガラス繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)を含む。また、本発明の第一の態様の成形材料は、ガラス繊維(A)と有機繊維(B)を含む繊維束(D)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有する。
剛直でもろく、絡まりにくく折れやすいガラス繊維(A)のみから構成される繊維束に比べて、有機繊維(B)を含む繊維束(D)を用いることにより、強化材として成形品により高い衝撃強度、低温衝撃強度を付与することができる。熱可塑性樹脂(C)は、成形品においてガラス繊維(A)および有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。これらの効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。
本発明の第一の態様の成形材料は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束である炭素繊維(A)および有機繊維(B)の各単繊維間に熱可塑性樹脂(C)が満たされている形態を有する。上記形態は、熱可塑性樹脂(C)の海に、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)が島のように分散している状態である。
本発明の第一の態様の成形材料は、前記繊維束(D)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含む。成形材料の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)が繊維束(D)の周囲を被覆するように配置されているか、繊維束(D)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(D)断面においてガラス繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することが好ましい。ここで、繊維束(D)断面とは、繊維束(D)の繊維長手方向に対して垂直な断面を指す。繊維束(D)断面において、ガラス繊維(A)と有機繊維(B)が偏在することにより、成形時のガラス繊維(A)および有機繊維(B)の絡み合いを抑制し、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)が均一に分散した成形品を得ることができる。このため、成形品の力学特性、特に衝撃強度および低温衝撃強度を大幅に向上させることができる。ここで、本発明において「偏在」とは、繊維束(D)断面において、ガラス繊維(A)と有機繊維(B)がそれぞれ全ての領域において均等に存在するのではなく、部分的に偏って存在することを言う。例えば、図3に示すような、繊維束(D)断面において、ガラス繊維(A)が有機繊維(B)を内包している形態や、図4に示すような、有機繊維(B)がガラス繊維(A)を内包している形態などのいわゆる芯鞘型構造や、図5に示すような、繊維束(E)断面において、ガラス繊維(A)の束と有機繊維(B)の束がある境界部によって分けられた状態でそれぞれ存在している構造などが、本発明における「偏在」の態様として挙げられる。ここで、本発明において「内包」とは、ガラス繊維(A)を芯部、有機繊維(B)を鞘部に配する場合や、または、有機繊維(B)を芯部、ガラス繊維(A)を鞘部に存在することを言う。図5に示す態様の場合、繊維束(D)断面においてガラス繊維(A)と有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部がいずれも外層の熱可塑性樹脂(C)に接している。なお、本発明において、繊維束(D)中においてガラス繊維(A)、有機繊維(B)が偏在していることを確認する方法としては、例えば、成形材料の繊維長手方向に対して垂直な断面を倍率300倍に設定した光学顕微鏡にて観察し、得られた顕微鏡像の画像処理を行い解析する手法が挙げられる。
本発明の第一の態様の成形材料は、繊維束(D)の長さと成形材料の長さが実質的に同じであることが好ましい。繊維束(D)の長さが成形材料の長さと実質的に同じであることにより、成形品におけるガラス繊維(A)と有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、より優れた力学特性を得ることができる。なお、成形材料の長さとは、成形材料中の繊維束(D)配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で繊維束(D)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い繊維束(D)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短い繊維束(D)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さの繊維束(D)の含有量が、全繊維束(D)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましい。
第一の態様の成形材料の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。
第一の態様の成形材料の各構成要素(A)〜(C)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)〜(C)を用いることができる。また、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
第一の態様の成形材料は、ガラス繊維(A)、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、ガラス繊維(A)を5〜45重量部含有することが好ましい。成形品の力学特性、特に曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、ガラス繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中のガラス繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させる観点から、ガラス繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)〜(C)の合計100重量部に対して、有機繊維(B)を1〜45重量部含有することが好ましい。成形品の力学特性、特に衝撃特性、低温衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、前記(A)〜(C)の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂(C)を10〜94重量部含有することが好ましい。
次に、本発明の第二の態様の成形材料について説明する。前述した成形品を得るために用いられる、本発明の第二の態様の成形材料は、少なくともガラス繊維(A)および熱可塑性樹脂(C)を含むガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X)(「ガラス繊維強化成形材料」という場合がある)と、少なくとも有機繊維(B)および熱可塑性樹脂(E)を含む有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y)(「有機繊維強化成形材料」という場合がある)を含むことが好ましい。ガラス繊維強化成形材料(X)は、ガラス繊維(A)の外側に熱可塑性樹脂(C)を含む構成を有することが好ましい。また、有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)の外側に熱可塑性樹脂(E)を含む構成を有することが好ましい。
剛直でもろく、絡まりにくく折れやすいガラス繊維(A)を含むガラス繊維強化成形材料(X)と、有機繊維(B)を含む有機繊維強化成形材料(Y)を併用することにより、強化材として成形品により高い衝撃強度、低温衝撃強度を付与することができる。この効果は、本発明の成形品について先に説明したとおりである。また、熱可塑性樹脂(C)および熱可塑性樹脂(E)は比較的高粘度の、例えば靭性などの物性が高いマトリックス樹脂であり、成形時にガラス繊維(A)または有機繊維(B)に含浸され、成形品においてガラス繊維(A)または有機繊維(B)を強固に保持する役割をもつ。なお、熱可塑性樹脂(C)および熱可塑性樹脂(E)は同種であってもよい。
本発明における炭素繊維強化成形材料(X)は、熱可塑性樹脂(C)内に、連続繊維束であるガラス繊維(A)の各単繊維間に熱可塑性樹脂(C)が満たされていることが好ましい。また、有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、有機繊維(B)の各単繊維間に熱可塑性樹脂(E)が満たされていることが好ましい。
本発明の第二の態様の成形材料におけるガラス繊維強化成形材料(X)は、前記ガラス繊維(A)の外側に、熱可塑性樹脂(C)を含むことが好ましい。ガラス繊維強化成形材料(X)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(C)がガラス繊維(A)の周囲を被覆するように配置されているか、ガラス繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(C)である構成が望ましい。有機繊維強化成形材料(Y)も同様に、前記有機繊維(B)外側に、熱可塑性樹脂(E)を含むことが好ましい。有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向に対して垂直な断面において、熱可塑性樹脂(E)が有機繊維(B)の周囲を被覆するように配置されているか、有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(E)が層状に配置され、最外層が熱可塑性樹脂(E)である構成が望ましい。
本発明における有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)と熱可塑性樹脂(E)を含む構成であり、これらの溶融混練により得られるペレットであってもよい。溶融混練により得られる有機繊維強化成形材料(Y)は、前記有機繊維(B)の外側に、熱可塑性樹脂(E)を含む。このとき、有機繊維(B)は、熱可塑性樹脂(E)に均一に分散している状態であってもよい。
本発明の第二の態様の成形材料は、有機繊維強化成形材料(Y)における、有機繊維(B)の平均繊維長が0.1mm〜10mmの範囲であることが好ましい。有機繊維(B)の平均繊維長の長さが前記範囲であることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、成形品の衝撃強度および低温衝撃強度をより向上させることができる。1.5mm〜10mmの範囲がより好ましい。
また、炭素繊維強化成形材料(X)におけるガラス繊維(A)は、ガラス繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。ガラス繊維(A)の長さがガラス繊維強化成形材料(X)の長さと実質的に同じであることにより、成形品におけるガラス繊維(A)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、ガラス繊維強化成形材料(X)の長さとは、ガラス繊維強化成形材料中のガラス繊維(A)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部でガラス繊維(A)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短いガラス繊維(A)が実質的に含まれたりしないことである。特に、成形材料全長よりも短いガラス繊維(A)の量について限定するわけではないが、成形材料全長の50%以下の長さのガラス繊維(A)の含有量が、全ガラス繊維(A)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。ガラス繊維強化成形材料(X)の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。
また、有機繊維強化成形材料(Y)における有機繊維(B)は、有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じ長さであることが好ましい。有機繊維(B)の長さが有機繊維強化成形材料(Y)の長さと実質的に同じであることにより、成形品における有機繊維(B)の繊維長を長くすることができるため、優れた力学特性を得ることができる。なお、有機繊維強化成形材料(Y)の長さとは、有機繊維強化成形材料中の有機繊維(B)の配向方向の長さである。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で有機繊維(B)が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い有機繊維(B)が実質的に含まれたりしていないことである。より具体的には、有機繊維強化成形材料(Y)における有機繊維(B)の長手方向の端部間の距離が、有機繊維強化成形材料(Y)の長手方向の長さと同じことを指し、成形材料全長の50%以下の長さの有機繊維(B)の含有量が、全有機繊維(B)中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち連続であることが好ましいが、これに限定されるものではない。また、有機繊維強化成形材料(Y)の長さは、通常3mm〜15mmの範囲である。
ここで、本発明の成形材料における「平均繊維長」とは、成形品中の平均繊維長と同様に求めることができる。
第二の態様の成形材料の各構成要素(A)〜(C)としては、本発明の成形品について先に説明した(A)〜(C)を用いることができる。また、(E)としては、本発明の成形品について先に説明した(C)を用いることができる。さらに、本発明の成形品について他の成分として例示したものを含有することもできる。
第二の態様の成形材料において、ガラス繊維強化成形材料(X)は、ガラス繊維(A)、熱可塑性樹脂(C)の合計100重量部に対して、ガラス繊維(A)を5〜45重量部含有することが好ましい。成形品の力学特性、特に曲げ特性および衝撃強度をより向上させる観点から、ガラス繊維(A)の含有量は10重量部以上がより好ましい。一方、成形品中のガラス繊維(A)の分散性を向上させ、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させる観点から、ガラス繊維(A)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(C)を55〜95重量部含有することが好ましい。
有機繊維強化成形材料(Y)は、有機繊維(B)、熱可塑性樹脂(E)合計100重量部に対し、有機繊維(B)を1〜45重量部含有することが好ましい。成形品の力学特性、特に衝撃特性、低温衝撃特性をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は5重量部以上が好ましい。一方、成形品中の有機繊維(B)の分散性を向上させ、成形品の力学特性、特に衝撃強度をより向上させる観点から、有機繊維(B)の含有量は30重量部以下がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(E)を55〜99重量部含有することが好ましい。
本発明の第二の態様の成形材料における、ガラス繊維強化成形材料(X)は、例えば、次の方法により得ることができる。まず、ガラス繊維(A)のロービングを繊維長手方向にし、次いで、溶融した熱可塑性樹脂(C)で満たした含浸ダイにガラス繊維(A)を導き、熱可塑性樹脂(C)をガラス繊維(A)の外側に被覆させ、ノズルを通して引き抜く。冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。熱可塑性樹脂(C)は、ガラス繊維(A)の外側に含まれていれば、ガラス繊維束中に含浸されていてもよい。また、本発明の第二の成形材料における、有機繊維強化成形材料(Y)は、例えば、前述したガラス繊維強化成形材料(X)と同様の方法により製造されるが、その他の方法として、例えば次の方法により得ることができる。有機繊維(B)を熱可塑性樹脂(E)と共に単軸または二軸押出機内にて、溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後に所定の長さにペレタイズして、成形材料を得る方法である。
本発明の第二の態様の成形材料における、ガラス繊維強化成形材料(X)および有機繊維強化成形材料(Y)をドライブレンドにて混合し、成形することにより、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)の分散性に優れ、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。ガラス繊維強化成形材料(X)と有機繊維強化成形材料(Y)の配合比としては、ガラス繊維成形材料(X)と有機繊維成形材料(Y)の合計100重量部に対して、ガラス繊維成形材料(X)を50〜80重量部、有機繊維強化成形材料(Y)を20〜50重量部とすることが好ましい。さらに、溶融混練により製造した有機繊維強化成形材料(Y)を用いることで、より生産性よく繊維強化熱可塑性樹脂成形品を得ることができる。成形方法としては、金型を用いた成形方法が好ましく、射出成形、押出成形、プレス成形など、種々の公知の手法を用いることができる。特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。
本発明の成形品は、落錘衝撃強度、衝撃強度および低温衝撃強度に優れる繊維強化熱可塑性樹脂成形品であり、本発明の成形品の用途としては、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール等の自動車部品に好適である。また、電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク(登録商標)、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品も挙げられる。また、パーソナルコンピューター、携帯電話などに使用される筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持するキーボード支持体に代表される電気・電子機器用部材なども挙げられる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。まず、本実施例で用いる各種特性の評価方法について説明する。
(1)平均繊維長および平均繊維端部間距離の測定
成形品を300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で加熱し、フィルム状にして均一分散させた。ガラス繊維(A)または有機繊維(B)が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察した。無作為に選んだ1000本のガラス繊維(A)と、同様に無作為に選んだ1000本の有機繊維(B)について、それぞれ繊維長と繊維端部間距離を計測して、下記式から平均繊維長および平均繊維端部間距離を算出した。
平均繊維長=Σ(Mi2×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の個数
平均繊維端部間距離=Σ(Mi’2×Ni’)/Σ(Mi’×Ni’)
Mi’:繊維端部間距離(mm)
Ni’:繊維端部間距離Mi’の繊維の個数
(2)引張破断伸度測定
有機繊維(B)の引張破断伸度(%)は、標準状態(20℃,65%RH)の室内で、つかみ間隔250mm、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行い、繊維切断時の長さを算出し(ただし、チャック近傍で切断した場合はチャック切れとしてデータから除く)、次式により小数点2桁まで算出し、小数点2桁目を四捨五入した。各有機繊維(B)についてデータn3の平均値を求め、引張破断伸度とした。
引張破断伸度(%)=[(切断時の長さ(mm)−250)/250]×100
(3)成形品の曲げ強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片について、ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/分の試験条件にて曲げ強度を測定した。試験機として、“インストロン(登録商標)”万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
(4)成形品のシャルピー衝撃強度測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片の平行部を切り出し、株式会社東京試験機製C1−4−01型試験機を用い、ISO179に準拠してVノッチ付きシャルピー衝撃試験を実施し、衝撃強度(kJ/cm2)を算出した。
(5)成形品の落錘衝撃強度測定
各実施例および比較例により得られた80mm×80mm×2mm厚の落錘衝撃強度測定用試験片について、錘先端丸形状のタップを使用し、錘重量5.1356kg、落錘速度0.5m/秒、試験温度23℃の条件にて落錘衝撃試験を実施し、落錘衝撃強度(kJ/cm2)を測定した。また、同様に、試験温度−20℃の条件にて落錘衝撃試験を実施し、落錘衝撃強度(kJ/cm2)を測定した。
(6)成形品衝撃試験破断面の繊維断面評価
前記(4)に記載の方法によりシャルピー衝撃試験を実施後、破断試験片の断面を含む箇所を10mm×10mm×2mmに切り出し、日本電子株式会社製InTouchScope JSM−6010LAを用い、倍率2000倍に設定にて破断試験片の断面画像を撮影し、得られた顕微鏡像から画像処理を行い解析した。
(7)成形材料の生産性評価
有機繊維強化成形材料(Y)の時間当たりにおける製造量について計量を行った。10kg/時間以上をA、それ未満をBとした。
参考例1.ガラス繊維(A)
ガラス繊維ロービング(旭ファイバー社製、“ER2220”、繊維径:16μm、アミノシランカップリング剤、オレフィン系エマルジョン使用、フィラメント数:約4000本)を使用した。
参考例2.有機繊維(B)
ポリエステル繊維(東レ(株)製、「“テトロン”(登録商標)2200T−480−705M」、単糸繊度:4.6dtex(融点:260℃))を用いた。該繊維の破断伸度を上記(3)に記載した方法により測定した結果、30%であった。
参考例3.熱可塑性樹脂(C)および(E)
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、「“プライムポリプロ”(登録商標)J137」)とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、「“アドマー”(登録商標)QE840」)を重量比85/15でペレットブレンドしたものを用いた。200℃における溶融粘度を、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定した結果、50Pa・sであった。
製造例1.ガラス繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(X−1)
熱可塑性樹脂(C)を、加工温度220℃に設定した、長繊維強化樹脂組成物製造装置(商品名「KOSLFP−212」、(株)神戸製鋼所製)の含浸ダイに供給し充填した。次いで、ガラス繊維(A)ロービングを、溶融した熱可塑性樹脂(C)を充填した含浸ダイに導入した。含浸ダイ内で熱可塑性樹脂(C)が含浸したガラス繊維(A)を、紡口部材の貫通孔内に、その内壁に接触させながら通過させた後、連続的に貫通孔から引き抜き1本の樹脂ストランドを形成した。その樹脂ストランドを、15℃の冷却水を貯留した冷却水槽(水冷バス)中で冷却した後、ペレタイザーで長さ7mmに切断して、ガラス繊維(A)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(X−1)とした。この時、(A)および(C)の合計100重量部に対し、ガラス繊維(A)が30重量部となるように、ガラス繊維(A)束の引取速度を調整した。
製造例2.有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−1)
ガラス繊維(A)を有機繊維(B)に変更したこと以外は前述した製造例1と同様にして、有機繊維(B)束の長さと成形材料の長さが実質的に同じである長繊維ペレット(Y−1)を得た。この時、(B)および(E)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
製造例3.有機繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(Y−2)
上記に示した有機繊維(B)束を、日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)内で溶融させた熱可塑性樹脂(E)と共に、スクリュー回転速度を200rpmに設定し、220℃に設定したシリンダー内で溶融混練し、ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後、カッターでペレット長7mmに切断しペレット(Y−2)を作製した。この時、(B)および(E)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が30重量部となるように、有機繊維(B)束の引取速度を調整した。
(実施例1)
(株)日本製鋼所製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイを設置した長繊維強化樹脂ペレット製造装置を使用し、押出機シリンダー温度を220℃に設定し、上記に示した熱可塑性樹脂(C)をメインホッパーから供給し、スクリュー回転数200rpmで溶融混練した。溶融した熱可塑性樹脂(C)を吐出するダイス口(直径3mm)へ供給して、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)からなる繊維束(D)の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時の繊維束(D)内部断面は、ガラス繊維(A)および有機繊維(B)が偏在していた。偏在状態は、ガラス繊維(A)、有機繊維(B)のそれぞれ少なくとも一部が、熱可塑性樹脂(C)に接していた。得られたストランドを冷却後、カッターでペレット長7mmに切断し、長繊維ペレットとした。この時、(A)〜(C)の合計100重量部に対し、ガラス繊維(A)が20重量部、有機繊維(B)が10重量部となるように、引取速度を調整した。
こうして得られた長繊維ペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製J110AD)を用いて、射出時間:5秒、背圧:5MPa、保圧力:20MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:230℃、金型温度:60℃の条件で射出成形することにより、成形品としてのISO型ダンベル試験片および80mm×80mm×2mm厚の落錘衝撃強度測定用試験片を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置後に特性評価に供した。前述の方法により評価した評価結果をまとめて表1に示した。
(実施例2)
製造例1により得られた長繊維ペレット(X−1)と製造例2により得られた長繊維ペレット(Y−1)を、(X−1)および(Y−1)の合計100重量部に対して、(X−1)が67重量部、(Y−1)が33重量部となるようにドライブレンドして成形材料を作製した。得られた成形材料を用いて、実施例1と同様に試験片を作製し、前述の方法により評価した評価結果をまとめて表1に示した。
(実施例3)
長繊維ペレット(Y−1)にかえて、製造例3により得られたペレット(Y−2)を用いた以外は、実施例2と同様にして成形材料を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表1に示した。
(比較例1)
(A)〜(C)の合計100重量部に対し、有機繊維(B)が0重量部、熱可塑性樹脂(C)が80重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表1に示した。
(比較例2)
前記に記載した成形条件から、射出時間を0.5秒とし、背圧力を11MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果はまとめて表1に示した。
実施例1〜3いずれの材料も、有機繊維(B)が湾曲した状態で成形品内に存在しており、高い衝撃強度(シャルピー衝撃強度、落錘衝撃強度)、低温衝撃強度(低温落錘衝撃強度)を示した。
一方、比較例1では、有機繊維(B)を含まなかったため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度および低温衝撃強度が低い結果となった。また、比較例2では、ガラス繊維(A)、または有機繊維(B)の平均繊維長が短いため、繊維補強効果が弱く、衝撃強度および低温衝撃強度が低い結果となった。