JP2015117788A - 転がり軸受 - Google Patents

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英康 坪田
Hideyasu Tsubota
英康 坪田
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Abstract

【課題】 軸方向一方側の内輪外径面が軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となるシール付の転がり軸受において、軸受内の潤滑不足を抑制することができる転がり軸受を提供する。【解決手段】 シール部材5,6のシールリップ部14は、軸受を回転状態で使用することで、内輪1に接触する部分が摩耗する高摩耗材からなる。内輪大径側の内輪外径面1cに、軸方向の端部側が段付き形状からなる環状のシール溝20を形成し、シール溝20は、内輪外径面1bに繋がり軸方向に向く一側面と、一側面に繋がる底面とでなる。一方のシールリップ部14は、シール溝20の一側面にアキシアル接触するアキシアルリップと、シール溝20の底面にラジアル接触するラジアルリップとを有し、他方のシールリップ部14は、内輪小径側の内輪外径面1cに、ラジアル接触するラジアルリップを有する。【選択図】 図1

Description

この発明は、例えば、自動車向けのトランスミッションシャフト支持用に適用される転がり軸受に関する。
自動車のトランスミッションのシャフト支持軸受として、内輪とシールとの間に微小なすきまを自己形成する、いわゆる自己形成シール付の高スラスト玉軸受が提案されている。
トランスミッション用の軸受として、大きなラジアル荷重およびアキシアル荷重を受けるために、図9に示すように、深溝玉軸受の内輪50の軌道面肩部50aもしくは外輪51の軌道面肩部を片側のみ高くした玉軸受も提案されている(特許文献1)。
その他、「シールの設計変更」と「シール材質の見直し」により、シールリップが早期に摩耗する技術が提案されている(特許文献2)。この技術により、運転初期はシールリップと軸受内輪シールランドが接触しているが、軸受を回転すると直ぐにシールリップが摩耗し、軸受内輪シールランドとシールリップ間に微小なすきまを生じさせ、シールトルクを完全に無くしている。
特開2000−145795号公報 特開2013−036493号公報
自動車向けトランスミッションのシャフト支持用の高スラスト玉軸受は、内輪の外径寸法が左右で異なるため、軸受を回転させると油がポンプ作用で内輪の小径側から大径側に流れる。そのため、高スラスト玉軸受に自己形成シールを両側に装着したとき、内輪の小径側から流入する油量より内輪の大径側から流出する油量が多い場合、軸受内で潤滑不足が発生する。
この発明の目的は、軸方向一方側の内輪外径面が軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となるシール付の転がり軸受において、軸受内の潤滑不足を抑制することができる転がり軸受を提供することである。
この発明の転がり軸受は、内外輪と、この内外輪間の軌道面間に介在する複数の転動体と、前記内外輪間に形成される軸受空間の両端を密封する2つのシール部材とを備え、前記内輪における、前記軌道面よりも軸方向一方側の内輪外径面が、前記軌道面よりも軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となる転がり軸受において、
前記シール部材は、シール部材本体の基端が前記外輪に固定され、前記シール部材本体の先端に前記内輪に接触するシールリップ部を有し、このシールリップ部は、軸受を回転状態で使用することで、前記内輪に接触する部分が摩耗して非接触となるかまたは接触圧が零と見なせる程度の軽接触となる高摩耗材からなり、
前記内輪における大径側の内輪外径面に、軸方向の端部側が段付き形状からなる環状のシール溝を形成し、このシール溝は、前記内輪外径面に繋がり前記軸方向に向く一側面と、この一側面に繋がる底面とでなり、
前記一方のシール部材の前記シールリップ部は、前記シール溝の前記一側面にアキシアル接触するアキシアルリップと、前記シール溝の前記底面にラジアル接触するラジアルリップとを有し、
前記他方のシール部材の前記シールリップ部は、前記内輪における小径側の内輪外径面に、ラジアル接触するラジアルリップを有することを特徴とする。
この構成によると、軸受を運転することで、シール部材のシールリップ部が内輪に接触して早期に摩耗して、シールリップ部と内輪との間に微小なラビリンスすきまが形成される。前記シール部材は、摩耗により必ずしも全周に連続したすきまを生じなくても良いが、非接触シールとして機能する微小なラビリンスすきまが形成され、この微小なラビリンスすきまが、潤滑油の通過は可能であるが、軸受寿命に影響するような粒径の大きい異物の侵入を防止できる隙間となる。
一方のシール部材におけるアキシアルリップを、シール溝の一側面にアキシアル接触させると共に、このシール部材におけるラジアルリップを前記シール溝の底面にラジアル接触させるため、両側のシール部材をそれぞれラジアル1箇所のみで接触させる従来品と比較して、ポンプ作用により内輪の大径側から軸受外へ流出する油量を抑制することが可能となる。一方のシール部材において、アキシアルリップとラジアルリップとを組合わせることで、軸受内の潤滑油の一部は、アキシアルリップとシール溝の一側面との間のラビリンスすきまを通過してもラジアルリップで堰止めることが可能となり、再び軸受内に潤滑に供される。また一方のシール部材でアキシアルリップとラジアルリップとを組合わせることで、潤滑油流出防止機構を別途設ける場合に比べて、構造を簡単化してコスト低減を図ることが可能となる。
また内輪の小径側は、従来通り、ラジアルリップが内輪外径面にラジアル接触する構造とすることで、内輪の小径側から軸受内に流入する油量は従来通りとなる。したがって、軸受内に流入する油量を従来通りとし、軸受外に流出する油量を抑制することで、軸受内で潤滑に必要な油量を確保し、油不足によって軸受が短寿命となることを防止することができる。
前記内輪における大径側の内輪外径面と前記一側面との角部、および、前記一側面と前記底面との角部をそれぞれ90°±5°としても良い。この場合、一方のシール部材におけるアキシアルリップを内輪のシール溝の一側面に点接触させ、且つ、この一方のシール部材におけるラジアルリップをシール溝の底面に点接触させることが可能となる。これにより、接触面圧を高くし、一方のシール部材におけるシールリップ部の摩耗を促進させることができる。
前記一方のシール部材における、前記アキシアルリップおよび前記ラジアルリップは、それぞれ先端に向かう程狭まり形状となる90°±5°としても良い。この場合、アキシアルリップおよびラジアルリップの各先端の接触面圧を高くし、摩耗を早期に促進させることができる。
前記底面を、前記小径側の内輪外径面よりも小径としても良い。この場合、内輪の小径側から軸受内に油が流入し、内輪の大径側から軸受外に排出する油路が長くなると共に、ラビリンス構造となり、軸受内に油を長く留めることが可能となる。
軸受形式を深溝玉軸受または円すいころ軸受としても良い。これらの軸受の場合、両側の内輪外径面が均一な一般的な深溝玉軸受に比べて、大きなアキシアル荷重を負荷し得るため、これらの軸受を使用する用途を拡大することができる。
軸受形式をアンギュラ玉軸受または4点接触玉軸受としても良い。
前記転がり軸受が、トランスミッション内の軸受として用いられるものとしても良い。この場合、2つのシール部材により、油の通過は許すがトランスミッション内におけるギヤの摩耗粉等の異物が、軸受内に侵入することを防止できる。シール部材のシールリップ部を早期に摩耗させてシールトルクの低減を図れるので、自動車の省燃費化を図ることが可能となる。また軸受内で潤滑に必要な油量を確保し、油不足によって軸受が短寿命となることを防止することができるため、トランスミッションのメンテナンス性を高めることが可能となる。
前記シール部材に、このシール部材が前記内輪に吸着することを防止する吸着防止手段を設けたものであっても良い。軸受内部圧力の低減により、シール部材が内輪に吸着してトルク増となることがある。シール部材は、例えば、シールリップ部の内輪に接触する部分が摩耗するまでは、一般の接触シールと同様に吸着作用が生じ得る。この構成によると、シール部材に吸着防止手段を設けたため、シールリップ部の内輪に接触する部分が摩耗するまでの間における吸着が防止され、トルク増が回避される。
軸受の潤滑をオイル潤滑としても良い。
前記2つのシール部材を互いに異なるシール色としても良い。複数の転がり軸受を組み合わせて組込むとき、左右のシール色を確認しつつ各軸受を組み合わせる方向を間違いなく組込むことができる。
この発明の転がり軸受は、内外輪と、この内外輪間の軌道面間に介在する複数の転動体と、前記内外輪間に形成される軸受空間の両端を密封する2つのシール部材とを備え、前記内輪における、前記軌道面よりも軸方向一方側の内輪外径面が、前記軌道面よりも軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となる転がり軸受において、前記シール部材は、シール部材本体の基端が前記外輪に固定され、前記シール部材本体の先端に前記内輪に接触するシールリップ部を有し、このシールリップ部は、軸受を回転状態で使用することで、前記内輪に接触する部分が摩耗して非接触となるかまたは接触圧が零と見なせる程度の軽接触となる高摩耗材からなり、前記内輪における大径側の内輪外径面に、軸方向の端部側が段付き形状からなる環状のシール溝を形成し、このシール溝は、前記内輪外径面に繋がり前記軸方向に向く一側面と、この一側面に繋がる底面とでなり、
前記一方のシール部材の前記シールリップ部は、前記シール溝の前記一側面にアキシアル接触するアキシアルリップと、前記シール溝の前記底面にラジアル接触するラジアルリップとを有し、前記他方のシール部材の前記シールリップ部は、前記内輪における小径側の内輪外径面に、ラジアル接触するラジアルリップを有するため、軸方向一方側の内輪外径面が軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となるシール付の転がり軸受において、軸受内の潤滑不足を抑制することができる。
この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。 (A)は、同転がり軸受の一方のシール部材等の要部の断面図、(B)は、同シール部材のシールリップ部付近の拡大断面図である。 同シールリップ部の拡大断面図である。 同転がり軸受の内輪におけるシール溝の角部の拡大断面図である。 同転がり軸受の他方のシール部材等の要部の断面図である。 (A)は、同シールリップ部が内輪に接する状態の要部の断面図、(B)は、シールリップ部を摩耗させた状態の要部の断面図である。 この発明の他の実施形態に係る転がり軸受のシール部材の平面図である。 いずれかの実施形態の転がり軸受をトランスミッションに用いた例を概略示す図である。 従来例の転がり軸受の断面図である。
この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受を図1ないし図6と共に説明する。
この実施形態に係る転がり軸受は、例えば、自動車のトランスミッションに用いられる。図1に示すように、この転がり軸受は、内外輪1,2と、この内外輪1,2の軌道面1a,2a間に介在する複数の転動体3と、これら転動体3を保持する保持器4と、内外輪1,2間に形成される軸受空間の両端を密封する2つのシール部材5,6とを備えている。この転がり軸受は、転動体3を玉とした深溝玉軸受である。
この転がり軸受は、ラジアル荷重と両方向のアキシアル荷重を負荷し得るが、内外輪1,2を次のように構成することで、一方向からのアキシアル荷重を高く負荷し得る。外輪2における、軌道面2aよりも同図左側の外輪内径面2bが、軌道面2aよりも同図右側の外輪内径面2cよりも小径に形成されている。また内輪1における、軌道面1aよりも軸方向一方側の内輪外径面1bが、軌道面1aよりも軸方向他方側の内輪外径面1cよりも大径に形成されている。
このように内外輪1,2のいわゆる肩径に左右の差を設けていることで、転がり軸受が同図矢符A1に示す一方向からアキシアル荷重を受けても、アキシアル荷重を受ける負荷側の外輪内径面2bおよび内輪外径面1bに転動体3が肩乗り上げすることがなくなる。よって、一方向からのアキシアル荷重を高く負荷し得る。
保持器4は環状体7から成り、この環状体7の軸方向中間付近に、円周方向一定間隔おきに転動体3を保持するポケットPtが複数形成されている。環状体7は、左右の環状側部8,9と、これら左右の環状側部8,9を繋ぐ傾斜部10とを有する。右側の環状側部9は、一方のシール部材5に臨み、ボールPCDよりも大径に形成され、左側の環状側部8は、他方のシール部材6に臨み、ボールPCDよりも小径に形成される。傾斜部10は、右側の環状側部9に向かうに従って大径となるように傾斜する。右側の環状側部9のうち各ポケットPtを成す一部分は、軸方向内側に向かう程大径となるように傾斜する斜面状に形成されている。
一方のシール部材等について説明する。
図2(A)に示すように、外輪2の内周面には、環状のシール部材5を嵌合固定するシール取付溝2dが形成されている。シール部材5は、環状の芯金11と、この芯金11に一体に固着される弾性部材12とを有する。これら芯金11および弾性部材12の大部分により、シール部材本体13が構成され、弾性部材12の残余の部分、この例では弾性部材12の内周側部分によりシールリップ部14が構成される。弾性部材12は、芯金11の第2の立板部11cの内側面を除き芯金11の全体を覆うように設けられる。シール部材5は、例えば、ゴム材を加硫成形して形成され、この加硫成形時に金属製の芯金11が弾性部材12に接着される。
芯金11は、外径側から順次、第1の立板部11aと、略円筒部11bと、第2の立板部11cと、傾斜部11dとを有する。第2の立板部11cが内外輪1,2の端面よりも軸方向内側で同端面と略平行に配置される。この第2の立板部11cの基端に、略円筒部11bおよび第1の立板部11aが繋がる。略円筒部11bおよび第1の立板部11aと、これら略円筒部11b,第1の円筒部11aの外周面に設けられる外周部(弾性部材12の一部)とで成るシール部材本体13の基端が、外輪2のシール取付溝2dに嵌合固定される。
第2の立板部11cの先端には、内径側に向かうに従って軸方向内側に傾斜する傾斜部11dが繋がっている。芯金11における、第2の立板部11cの外表面は均一な薄肉の覆い部12aで覆われ、傾斜部11dの内外表面はそれぞれ覆い部12b,12cで覆われている。図2(B)に示すように、前記覆い部12b,12cの内径側先端が、シール部材本体13の先端となる。このシール部材本体13の先端に、シールリップ部14が設けられる。このシールリップ部14は、外径側から順次、リップ基端部15と、腰部16と、突起部分17とを有し、これらリップ基端部15、腰部16、および突起部分17は一体に形成されている。
シールリップ部14は、この軸受を回転状態で使用することで、内輪1に接触する部分となる腰部16および突起部分17が摩耗して非接触となるかまたは接触圧が零と見なせる程度の軽接触となる高摩耗材からなる。高摩耗材は、例えば、高摩耗ゴム材や樹脂材等からなる。この高摩耗材が適用される腰部16および突起部分17と、高摩耗材以外のゴム材が適用される弾性部材の他の部位とは、例えば、シール成形型(図示せず)により二色成形により成形される。
前記シール成形型において、シール部材5を成形するキャビティの外周側部分、内周側部分に隣接して、弾性部材12の材料を前記キャビティに注入する図示外のゲートが設けられている。前記シール成形型において、前記キャビティに芯金11を支持した状態で、例えば、前記キャビティの外周側部分に隣接するゲートからゴム材を注入し、一次側となる弾性部材12の前記他の部位を成形する。次に、前記キャビティの内周側部分に隣接するゲートから高摩耗ゴム材を流し込み、二次側となるシールリップ部14の突起部分17および腰部16を成形する。
高摩耗材は、この例では、腰部16および突起部分17のみに設けているが、この例に限定されるものではない。例えば、リップ基端部15、腰部16、および突起部分17にわたるシールリップ部全体が高摩耗材からなるものとしても良い。なお前記キャビティの内周側部分に隣接するゲートから高摩耗ゴム材を流し込んで突起部分17および腰部16を成形した後、前記キャビティの外周側部分に隣接するゲートからゴム材を注入して、前記他の部位を成形しても良い。
リップ基端部15は、芯金11の傾斜部11dの内周縁よりも内径側に所定距離延び、このシールリップ部14における径方向の基端部分となる。このリップ基端部15は、内径側先端つまり腰部16に向かうに従って薄肉となる断面形状を成す。またリップ基端部15における、軸受空間側の内側面および逆側の外側面は、それぞれ内径側先端に向かうに従って軸方向内側に至るように傾斜する断面形状に形成されている。
腰部16は、シールリップ部14における径方向の中間部分となり、リップ基端部15と突起部分17との間に位置する。シール部材5を軸受に組込んだ状態において、シールリップ部14は、軸受空間に対する外側の面に逃がし凹部18が生じるように、腰部16で屈曲し、突起部分17の半径方向縁から折り返し状に軸受外側へ傾斜して延びる部分を有する。この場合の逃がし凹部18は、腰部16の外側面と突起部分17の外側面とを合わせた面に生じる凹部である。
腰部16の軸受空間側の内側縁に、アキシアルリップ19が設けられている。このアキシアルリップ19は、内輪1のシール溝20の一側面(後述する)にアキシアル接触する。ここで図3は、このシールリップ部14の拡大断面図である。アキシアルリップ19は、軸受空間側である先端に向かう程狭まり形状となる90°±5°としている。これにより、アキシアルリップ19の先端を摩耗し得る面圧が腰部16に作用し易くなっている。
腰部16よりも先端側の部分である突起部分17は、先端に至るに従って狭まる先細り形状である。この突起部分17の内径側先端縁に、ラジアルリップ21が設けられている。このラジアルリップ21は、内輪1のシール溝20の底面(後述する)にラジアル接触する。ラジアルリップ21は、内径側先端に向かう程狭まり形状となる90°±5°としている。これにより、ラジアルリップ21の先端を摩耗し得る面圧が突起部分17に作用し易くなっている。
図2(A),(B)に示すように、内輪1における大径側の内輪外径面1bに、軸方向の端部側が段付き形状からなる環状のシール溝20が形成されている。内輪小径側の内輪外径面にシール溝は形成されていない。シール溝20は、前記内輪外径面1bに繋がり、前記軸方向に向く一側面20aと、この一側面20aに繋がる底面20bとでなる。このシール溝20の底面20bを、小径側の内輪外径面1c(図1)よりも小径としている。また図4に示すように、大径側の内輪外径面1bと前記一側面20aとの角部21、および、前記一側面20aと底面20bとの角部22をそれぞれ90°±5°としている。
図5は、他方のシール部材6等の要部の断面図である。図1および図5に示すように、他方のシール部材6は、一方のシール部材5よりも径方向寸法が短く形成されているものの基本構成は同一に構成されている。よって、他方のシール部材6につき、一方のシール部材5と同一の符号を付して詳細な説明は省略する。他方のシール部材6のシールリップ部14は、アキシアル接触せず、小径側の内輪外径面1cのみにラジアル接触する。
図6(A)は、このシールリップ部14が内輪1に接する状態の要部の断面図であり、図6(B)は、シールリップ部14を摩耗させた状態の要部の断面図である。図6(A)に示すように、両側のシールリップ部14は、それぞれ内輪1に接触する部分が摩耗可能なリップ接触面圧で押付けられる。図6(B)に示すように、内輪1が回転してシールリップ部14の摩耗が進行していきリップ接触面圧が「0」に近づくと、シールリップ部14の摩耗は完了し、微小なラビリンスすきまδ1,δ2が形成される。
以上説明した転がり軸受によると、軸受を運転することで、シール部材5,6のシールリップ部14が内輪1に接触して早期に摩耗して、シールリップ部14と内輪1との間に微小なラビリンスすきまが形成される。シール部材5,6は、摩耗により必ずしも全周に連続したすきまを生じなくても良いが、非接触シールとして機能する微小なラビリンスすきまが形成され、この微小なラビリンスすきまが、潤滑油の通過は可能であるが、軸受寿命に影響するような粒径の大きい異物の侵入を防止できる隙間となる。
一方のシール部材5におけるアキシアルリップ19を、シール溝20の一側面20aにアキシアル接触させると共に、このシール部材5におけるラジアルリップ21をシール溝20の底面20bにラジアル接触させるため、両側のシール部材をそれぞれラジアル1箇所のみで接触させる従来品と比較して、内輪1の大径側から軸受外へ流出する油量を抑制することが可能となる。一方のシール部材5において、アキシアルリップ19とラジアルリップ21とを組合わせることで、軸受内の潤滑油の一部は、アキシアルリップ19とシール溝20の一側面20aとの間のラビリンスすきまδ1を通過してもラジアルリップ21で堰止めることが可能となり、再び軸受内に潤滑に供される。また一方のシール部材5でアキシアルリップ19とラジアルリップ21とを組合わせることで、例えば、潤滑油流出防止機構等を別途設ける場合に比べて、構造を簡単化してコスト低減を図ることが可能となる。
また内輪1の小径側は、従来通り、ラジアルリップ21が内輪外径面1cにラジアル接触する構造とすることで、内輪1の小径側から軸受内に流入する油量は従来通りとなる。したがって、軸受内に流入する油量を従来通りとし、軸受外に流出する油量を抑制することで、軸受内で潤滑に必要な油量を確保し、油不足によって軸受が短寿命となることを防止することができる。
内輪大径側の内輪外径面1bとシール溝20の一側面20aとの角部21、および、一側面20aと底面20bとの角部22をそれぞれ90°±5°としたため、一方のシール部材5におけるアキシアルリップ19をシール溝20の一側面20aに点接触させ、且つ、この一方のシール部材5におけるラジアルリップ19をシール溝20の底面20bに点接触させることが可能となる。これにより、接触面圧を高くし、一方のシール部材5におけるシールリップ部14の摩耗を促進させることができる。
一方のシール部材5における、アキシアルリップ19およびラジアルリップ21は、それぞれ先端に向かう程狭まり形状となる90°±5°としたため、アキシアルリップ19およびラジアルリップ21の各先端の接触面圧を高くし、摩耗を早期に促進させることができる。
シール溝20の底面20bを、内輪小径側の内輪外径面1cよりも小径としたため、内輪1の小径側から軸受内に油が流入し、内輪1の大径側から軸受外に排出する油路が長くなると共に、ラビリンス構造となり、軸受内に油を長く留めることが可能となる。
他の実施形態について説明する。
軸受に接触式のシール部材を設けた場合、軸受内部圧力の低減により、シール部材が内輪に吸着してトルク増となることがある。前記高摩耗材からなる部分が摩耗するまでは、一般の接触シールと同様に吸着作用が生じ得る。
そこで図7に示すように、シール部材5,6に、シール部材5,6が内輪1(図1)に吸着することを防止する吸着防止手段Kbを設ける。吸着防止手段Kbとして、シール部材5A,6Aにおける外周部の例えば円周方向一箇所に、軸受空間の内外方向に通気状態となる円弧孔状のスリットを設ける。前記外周部の円周方向複数箇所にスリットを設けても良い。このようにスリット等の吸着防止手段Kb設けることで、前記高摩耗材からなる部分が摩耗するまでの間に、シール部材5A,6Aが軸受内部圧力低減のために、内輪1に吸着することが防止され、吸着によるトルク増加が回避される。
転がり軸受の軸受形式を、深溝玉軸受ではなく円すいころ軸受としても良い。
1個の軸受に用いる2つのシール部材を互いに異なるシール色としても良い。複数の転がり軸受を組み合わせて組込むとき、左右のシール色を確認しつつ各軸受を組み合わせる方向を間違いなく組込むことができる。
図8は、いずれかの実施形態に係る転がり軸受を、自動車のトランスミッションに組み込んだ一例を示す概略図である。同図はオートマチックトランスミッションの例である。この例では、同図左側の転がり軸受BR1を、内輪大径側の内輪外径面およびシール溝が同軸受の右側に位置するように配置し、同図右側の転がり軸受BR1を、内輪大径側の内輪外径面およびシール溝が同軸受の左側に位置するように配置した。
ケース23の軸方向両端に転がり軸受BR1,BR1の各外輪が嵌合され、これら軸受BR1,BR1の内輪に、メインシャフト24の両端がそれぞれ回転自在に支持されている。ケース23に、カウンターシャフト25がメインシャフト24と平行に設けられている。カウンターシャフト25は、メインシャフト24のギヤに噛み合うギヤを有し、ケース23に軸受を介して回転自在に支持されている。
このように転がり軸受BR1,BR1がトランスミッション内の軸受として用いられる場合、各軸受における2つのシール部材により、油の通過は許すがトランスミッション内におけるギヤの摩耗粉等の異物が、軸受内に侵入することを防止できる。シール部材のシールリップ部を早期に摩耗させてシールトルクの低減を図れるので、自動車の省燃費化を図ることが可能となる。また軸受内で潤滑に必要な油量を確保し、油不足によって軸受が短寿命となることを防止することができるため、トランスミッションのメンテナンス性を高めることが可能となる。
1…内輪
1b,1c…内輪外径面
2…外輪
1a,2a…軌道面
3…転動体
5,6…シール部材
13…シール部材本体
14…シールリップ部
19…アキシアルリップ
20…シール溝
20a…一側面
20b…底面
21…ラジアルリップ

Claims (6)

  1. 内外輪と、この内外輪間の軌道面間に介在する複数の転動体と、前記内外輪間に形成される軸受空間の両端を密封する2つのシール部材とを備え、前記内輪における、前記軌道面よりも軸方向一方側の内輪外径面が、前記軌道面よりも軸方向他方側の内輪外径面よりも大径となる転がり軸受において、
    前記シール部材は、シール部材本体の基端が前記外輪に固定され、前記シール部材本体の先端に前記内輪に接触するシールリップ部を有し、このシールリップ部は、軸受を回転状態で使用することで、前記内輪に接触する部分が摩耗して非接触となるかまたは接触圧が零と見なせる程度の軽接触となる高摩耗材からなり、
    前記内輪における大径側の内輪外径面に、軸方向の端部側が段付き形状からなる環状のシール溝を形成し、このシール溝は、前記内輪外径面に繋がり前記軸方向に向く一側面と、この一側面に繋がる底面とでなり、
    前記一方のシール部材の前記シールリップ部は、前記シール溝の前記一側面にアキシアル接触するアキシアルリップと、前記シール溝の前記底面にラジアル接触するラジアルリップとを有し、
    前記他方のシール部材の前記シールリップ部は、前記内輪における小径側の内輪外径面に、ラジアル接触するラジアルリップを有することを特徴とする転がり軸受。
  2. 請求項1記載の転がり軸受において、前記内輪における大径側の内輪外径面と前記一側面との角部、および、前記一側面と前記底面との角部をそれぞれ90°±5°とした転がり軸受。
  3. 請求項1または請求項2記載の転がり軸受において、前記一方のシール部材における、前記アキシアルリップおよび前記ラジアルリップは、それぞれ先端に向かう程狭まり形状となる90°±5°とした転がり軸受。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記底面を、前記小径側の内輪外径面よりも小径とした転がり軸受。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受において、軸受形式を深溝玉軸受または円すいころ軸受とした転がり軸受。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受において、前記転がり軸受が、トランスミッション内の軸受として用いられる転がり軸受。
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