以下、本発明に関する好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態において互いに共通する部材には同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態である振動子駆動回路3を備えた角速度センサ1の概略構成を示すブロック図である。この角速度センサ1は、例えばスマートフォンやタブレット端末などの情報処理端末に実装されるセンサであり、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)構造によって形成される振動子5を有するセンサ部2と、センサ部2に設けられる振動子5を所定の駆動軸方向(X軸方向)へ振動させる振動子駆動回路3と、センサ部2から出力される信号に基づいて角速度を検出して出力する角速度検出回路4とを備える。
センサ部2に設けられる振動子5は、バネ構造などによりシリコン基板などの基板上でX軸方向及びX軸方向と直交するY軸方向に変位可能なように支持されており、振動子駆動回路3から出力される所定周波数の駆動信号Vdp,VdnによってX軸方向に振動する。駆動信号Vdp,Vdnの周波数は、振動子5の共振周波数に一致するように予め設定されている。振動子5がX軸方向に振動している状態で外部からの角速度が作用すると、振動子5に対して振動方向(X軸方向)に直交するY軸方向のコリオリ力が働き、振動子5はそのコリオリ力によってY軸方向へ変位するようになる。角速度センサ1は、そのようなコリオリ力による振動子5のY軸方向への変位を検知することよって角速度を検出するように構成される。
また振動子5は、センサ部2の基板上に形成される複数の固定電極のそれぞれと対向する複数の可動電極を備えており、それら固定電極と可動電極とによって複数のコンデンサC1,C2,C3,C4,C5,C6を形成している。コンデンサC1,C2は、振動子5をX軸方向へ振動駆動させるためのコンデンサであり、コンデンサC3,C4は、振動子5のX軸方向への振動振幅を検知するためのコンデンサである。またコンデンサC5,C6は、振動子5がコリオリ力によってY軸方向へ変位したときの変位量を検知するためのコンデンサである。
振動子駆動回路3は、コンデンサC1,C2のそれぞれに対して駆動信号Vdp,Vdnを印加することにより、振動子5をX軸方向に駆動して振動させる。駆動信号Vdp,Vdnは、図2(a)に示すように所定の基準電圧Vrefを中心に振動する正弦波信号であり、互いに極性が反転する信号として生成される。一方、振動子5の電位は、図2(a)に示すように基準電圧Vrefとは異なる所定電位Vaで一定に保持される。所定電位Vaは、振動子5の外部(図示省略)から供給され、振動子5に印加される。そのため、コンデンサC1,C2に駆動信号Vdp,Vdnが印加されることにより、各コンデンサC1,C2の静電気力に差が生じ、その静電気力の差によって振動子5がX軸方向に振動する。そして振動子5がX軸方向に振動すると、コンデンサC3,C4の静電容量が変化するため、振動子駆動回路3は、それらコンデンサC3,C4の静電容量変化に応じてセンサ部2から出力される電荷信号Sip,Sinに基づいて振動子5の振動振幅を検知し、その振動振幅に基づいて駆動信号Vdp,Vdnのゲインを調整するように構成される。
角速度検出回路4は、振動子5がコリオリ力によってY軸方向に変位して起こるコンデンサC5,C6の静電容量変化に基づいて角速度を検出する。この角速度検出回路4は、CV変換回路16と、信号処理部17とを備えている。CV変換回路16は、コンデンサC5,C6の静電容量変化を電圧に変換する回路であり、コンデンサC5,C6の静電容量変化に応じてセンサ部2から出力される電荷信号S1,S2を入力し、コリオリ力による振動子5のY軸方向の変位量に相当する電圧V1,V2を出力する。つまり、CV変換回路16は、コリオリ力による振動子5のY軸方向への変位を検出するコリオリ力変位検出回路である。信号処理部17は、CV変換回路16から出力される電圧V1,V2から例えばクアドラチャーエラーなどの不要な信号成分を除去する回路であり、入力する電圧V1,V2に対して所定の信号処理を行うことにより、コリオリ力に応じた角速度信号Soutを生成して出力する。
次に振動子駆動回路3について詳しく説明する。振動子駆動回路3は、CV変換回路10と、位相変換回路11と、ゲイン調整回路12と、振幅検知回路13と、基準電圧生成回路14と、初期駆動信号発生回路15とを備えており、振動子5を介する閉ループを構成して振動子5のX軸方向の振動振幅が一定の状態に安定するように制御する。
CV変換回路10は、コンデンサC3,C4の静電容量変化を電圧に変換する回路であり、コンデンサC3,C4の静電容量変化に応じてセンサ部2から出力される電荷信号Sip,Sinを入力して振動子5のX軸方向の振動変位に相当する信号Vip,Vinを出力する。つまり、CV変換回路10は、振動子5のX軸方向の振動変位を検出する振動変位検出回路である。振動子5が駆動信号Vdp,VdnによってX軸方向に駆動されると、その振動波形は駆動信号Vdp,Vdnとは位相が90°ずれた波形となる。そのため、CV変換回路10から出力される信号Vip,Vinは、図2(b)に示すように駆動信号Vdp,Vdnに対して位相が90°遅延した正弦波信号となる。また信号Vip,Vinの振幅は、振動子5のX軸方向の振動振幅に応じて変化する。
位相変換回路11は、CV変換回路10から出力される信号Vip,Vinの位相を変換することにより、駆動信号Vdp,Vdnの位相に一致させる回路である。したがって、位相変換回路11から出力される信号Vsp,Vsnは、図2(c)に示すように駆動信号Vdp,Vdnと同位相の正弦波信号となる。そして位相変換回路11によって位相調整された信号Vsp,Vsnは、ゲイン調整回路12に入力する。
振幅検知回路13は、CV変換回路10から出力される信号Vip,Vinに基づき、振動子5のX軸方向の振動振幅を検知する回路である。この振幅検知回路13は、例えば図2(b)に示す信号Vip,Vinが最大振幅となるタイミングで信号Vip,Vinの電位差をサンプリングすることにより振動子5のX軸方向の振動振幅を検知する。そして振幅検知回路13は、振動子5のX軸方向の振動振幅を所定の目標値と比較し、振動振幅と目標値との差分に基づいて所定の基準電圧Vrepを基準とする制御信号Vcontを生成し、その制御信号Vcontをゲイン調整回路12に出力する。尚、本実施形態では、振幅検知回路13がCV変換回路10から出力される信号Vip,Vinに基づいて振動子5の振動振幅を検知する場合を例示するが、これに限られるものではなく、例えば位相変換回路11から出力される信号Vsp,Vsnに基づいて振動振幅を検知するものであっても構わない。
ゲイン調整回路12は、位相変換回路11から出力される信号Vsp,Vsnを増幅してコンデンサC1,C2に印加する駆動信号Vdp,Vdnを生成する回路である。このゲイン調整回路12は、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontに基づいて信号Vsp,Vsnを増幅する際のゲインを調整し、振動子5のX軸方向の振動振幅を目標値にするための駆動信号Vdp,Vdnを生成する。したがって、CV変換回路10、位相変換回路11、ゲイン調整回路12及び振幅検知回路13により振動子5を発振させるための正帰還が構成される。
基準電圧生成回路14は、振幅検知回路13において生成される制御信号Vcontの基準となる基準電圧Vrepを生成する回路であり、その基準電圧Vrepを振幅検知回路13へ出力する。
また初期駆動信号発生回路15は、振動子5が振動していない停止状態から振動子5を振動させるときの初期駆動信号Vd1,Vd2をゲイン調整回路12へ出力する回路である。例えば初期駆動信号発生回路15は、角速度センサ1の起動時に動作し、振動子5が停止状態から所定の振動振幅で振動するまで初期駆動信号Vd1,Vd2をゲイン調整回路12へ出力する。このとき、位相変換回路11、振幅検知回路13及び基準電圧生成回路14は動作しない状態となる。そして振動子5が初期駆動信号Vd1,Vd2によって所定の振動振幅で振動し始めると、初期駆動信号発生回路15は、初期駆動信号Vd1,Vd2の出力を停止し、位相変換回路11、振幅検知回路13及び基準電圧生成回路14のそれぞれが動作し始める。このように振動子駆動回路3は、起動時において初期駆動信号発生回路15から出力される初期駆動信号Vd1,Vd2によって振動子5を初期振動させた後、正帰還ループを形成して振動子5の振動振幅を目標値に制御するための動作を開始する。
図3は、ゲイン調整回路12の一構成例を示す回路図である。ゲイン調整回路12は、図3に示すように、全差動オペアンプ20と、8つのNMOSトランジスタ(以下、単に「トランジスタ」という。)21〜28と、6つの抵抗R1,R1,R2,R2,R3,R3とを備えて構成される。全差動オペアンプ20の2つの帰還パスにはそれぞれ抵抗R1が接続される。位相変換回路11から出力される信号Vspは、抵抗R2と2つのトランジスタ21,22とを介して全差動オペアンプ20の反転入力端子に入力されると共に、抵抗R3と2つのトランジスタ25,27とから構成される第1のゲイン調整部29aを介して全差動オペアンプ20の非反転入力端子に入力される。また信号Vsnは、抵抗R2と2つのトランジスタ23,24を介して全差動オペアンプ20の非反転入力端子に入力されると共に、抵抗R3と2つのトランジスタ26,28とから構成される第2のゲイン調整部29bを介して全差動オペアンプ20の反転入力端子に入力される。
8つのトランジスタ21〜28は、同一の基板上に同一の製造プロセスで形成された同一サイズのトランジスタであり、特性の等しいトランジスタである。このうちトランジスタ21〜26のゲート端子には所定の電源電圧Vddが接続されている。この電源電圧Vddにより、各トランジスタ21〜26が完全にオンした状態となり、オン抵抗がほぼ0となる。これに対し、ゲイン調整部29a,29bに設けられる2つのトランジスタ27,28のゲート端子には、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontが入力される。この制御信号Vcontにより、各トランジスタ27,28のオン抵抗が変化し、ゲイン調整回路12に入力される信号Vsp,Vsnに付与されるゲインが調整されるようになる。つまり、ゲイン調整部29a,29bに設けられる2つのトランジスタ27,28は、ゲインを調整するために制御信号Vcontに応じてオン抵抗を変化させるトランジスタ(第1のトランジスタ)である。例えば、制御信号Vcontが小さく、トランジスタ27,28がオフしているときには、ゲイン調整部29a,29bの2つのパスが無効になるため、ゲイン調整回路12において信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、抵抗R1と抵抗R2の比で決まり、G=R1/R2となる。また制御信号Vcontが大きく、トランジスタ27,28が完全にオンしているときには、ゲイン調整部29a,29bの2つのパスが有効に動作し、且つ、各トランジスタ27,28のオン抵抗がほぼ0であるため、ゲイン調整回路12において信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、抵抗R1と抵抗R2と抵抗R3とで決まり、G=(R1/R2)−(R1/R3)となる。さらに、制御信号Vcontが各トランジスタ27,28を完全オフ状態と完全オン状態との中間状態で動作させる値であるとき、各トランジスタ27,28のオン抵抗は、制御信号Vcontに応じて変化する。このときもゲイン調整部29a,29bの2つのパスは有効に動作するため、ゲイン調整回路12において信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、抵抗R1と、抵抗R2と、抵抗R3と、各トランジスタ27,28のオン抵抗Ronとで決まり、G={(R1/R2)−(R1/(R3+Ron))}となる。
ここで抵抗R1=900R、抵抗R2=9R、抵抗R3=10Rとした場合、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGの最大値Gmaxは、Gmax=900R/9R=100となり、信号Vsp,Vsnを100倍に増幅した駆動信号Vdp,Vdnを出力することができる。またゲインGの最小値Gminは、Gmin=(900R/9R)−(900R/10R)=10となり、信号Vsp,Vsnを10倍に増幅した駆動信号Vdp,Vdnを出力することができる。そしてトランジスタ27,28のオン抵抗Ronが制御信号Vcontに応じて変化することにより、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGは、最小値Gminと最大値Gmaxの範囲内で調整されるため、10倍〜100倍の範囲内で調整されるようになる。尚、オン抵抗Ronが、Ron=R3(=10R)となる場合、ゲインGは、G=55となり、最小値Gmin(=10)と最大値Gmax(=100)の中間値となる。
図4は、振幅検知回路13の一構成例を示す回路図である。この振幅検知回路13は、振動子5の振動振幅に応じた電荷を蓄積するサンプリング部31と、サンプリング部31に蓄積された電荷を転送していくことによって、振動子5の振動振幅と、その振動振幅の目標値とを比較し、それらの差分に基づいて所定の基準電圧Vrepを基準とする差分信号を生成する電荷転送部32と、その差分信号を増幅して出力する増幅部33とを備えている。サンプリング部31は、スイッチSW1,SW2とコンデンサC11とを備えて構成され、スイッチSW1,SW2を択一的にオン状態へと切り替えることにより、CV変換回路10から出力される信号Vip,Vinの電位差に応じた電荷をコンデンサC11に蓄積する。電荷転送部32は、スイッチSW3,SW4とコンデンサC12,C13とを備えて構成され、スイッチSW3,W4を順にオン状態へと切り替えることにより、コンデンサC11に蓄積された電荷を各コンデンサC12,C13へと順に転送し、その転送過程において振動子5の振動振幅を目標値と比較し、振動子5の振動振幅と目標値との差分信号を生成する。増幅部33は、オペアンプ34と抵抗Ra,Rbとを備えて構成され、抵抗Ra,Rbによって定められる増幅率で差分信号を増幅し、振動子5の振動振幅に応じた制御信号Vcontを出力する。
図5は、各スイッチSW1,SW2,SW3,SW4のオンオフ状態を示すタイミングチャートである。図5に示すように、信号Vip,Vinが、Vip>Vinであり、且つ、最大振幅を示すタイミングで、スイッチSW1がオンオフ動作し、信号Vip,Vinの電位差を入力信号Vxとし、その入力信号Vxに応じた電荷(振動子5のX軸方向の振動振幅に応じた電荷)をコンデンサC11に蓄積する。このとき、スイッチSW2,SW3,SW4はオフである。その後、スイッチSW3をオンにすると、コンデンサC11に蓄積された電荷がコンデンサC12へ転送される。このとき、2つのコンデンサC11,C12は直列に接続された状態となり、コンデンサC11の一端には基準電圧生成回路14で生成される基準電圧Vrepが印加され、コンデンサC12の一端には振動子5の振動振幅の目標値に相当する目標電圧Vdacが印加される。コンデンサC11からコンデンサC12への電荷転送が完了すると、スイッチSW3がオフとなり、次にスイッチSW4がオンになってコンデンサC12に蓄積された電荷が更にコンデンサC13へ転送される。このとき、2つのコンデンサC12,C13は直列に接続された状態となり、各コンデンサC12,C13の両端が接地された状態となる。そして2つのコンデンサC12,C13の間の共通電位Vyがオペアンプ34の非反転入力端子に入力される。オペアンプ34は、その電位Vyを増幅して制御信号Vcontを出力する。続いて、信号Vip,Vinが、Vin>Vipとなり、且つ、最大振幅を示すタイミングで、スイッチSW2がオンオフ動作し、信号Vin,Vipの電位差を入力信号Vxとし、その入力信号Vxに応じた電荷をコンデンサC11に蓄積する。これ以降は、上記と同様に、コンデンサC11に蓄積された電荷をコンデンサC12、C13へと順次転送し、オペアンプ34から振動子5の振動振幅に応じた制御信号Vcontを出力する。
上記電荷転送が行われる過程において、電荷転送前でのオペアンプ34に入力されている電位をVy'とすると、電荷転送後にオペアンプ34に入力される電位Vyは、次の数1の式で表される。
ここで、スイッチSW1がはじめにオンになる前の初期状態のとき、コンデンサC12,C13に電荷が蓄積されておらず、オペアンプ34に入力している電位Vy'が0であるとすると、最初にコンデンサC12に蓄積された電荷がコンデンサC13へ転送されたときにオペアンプ34に入力する電位Vyは、上記数1における右辺の第1項で表され、振動子5の現在の振動振幅(入力信号Vx)と、その振動振幅の目標値である目標電圧Vdacとの差分を、基準電圧Vrepを基準として表した差分信号となる。そして電荷転送が繰り返し行われている過程においては、振動子5の現在の振動振幅と、その振動振幅の目標値である目標電圧Vdacとの差分信号に対し、上記数1に示す右辺第2項が加算された電位Vyがオペアンプ34に入力される。このような電位Vyは、振動子5の振動振幅が目標値に収束してくると、次第に基準電圧Vrepに一致するようになる。つまり、入力信号Vxが目標電圧Vdacに近づいていくと、オペアンプ34に入力される電位Vyは基準電圧Vrepに近づいていき、最終的に入力信号Vxが目標電圧Vdacに一致すると、電位Vyは基準電圧Vrepに一致する。これに対し、入力信号Vxが目標電圧Vdacに一致しないとき、オペアンプ34に入力される電位Vyは、基準電圧Vrepを基準に、入力信号Vxと目標電圧Vdacとの差分を表した差分信号となる。このような電位Vyが、オペアンプ34によって増幅され、制御信号Vcontが出力される。オペアンプ34から出力される制御信号Vcontは、次の数2の式で表される。
ここで、入力信号Vxが目標電圧Vdacに等しいときには、上述のように電位Vy=Vrepであるため、制御信号Vcontは、Vcont=Vrepとなる。また入力信号Vxが目標電圧Vdacに一致しないときには、オペアンプ34に入力される電位Vyが入力信号Vxと目標電圧Vdacとの差分信号となるため、制御信号Vcontは、その差分信号を抵抗Ra,Rbによる増幅率で増幅した信号として出力される。
したがって、振幅検知回路13は、振動子5の振動振幅が目標値に一致しているときには制御信号Vcontとして基準電圧Vrepを出力し、振動子5の振動振幅が目標値に一致していないときには制御信号Vcontとして振動子5の振動振幅と目標値との差分に応じた信号を出力する。例えば、振動子5の振動振幅が目標値よりも小さいときには、制御信号Vcontが基準電圧Vrepよりも小さくなり、振動子5の振動振幅が目標値よりも大きいときには、制御信号Vcontが基準電圧Vrepよりも大きくなる。
次に図6は、基準電圧生成回路14の一構成例を示す回路図である。この基準電圧生成回路14は、オペアンプ41と、ゲイン調整回路12のゲイン調整部29a,29bとほぼ等価なレプリカ回路42とを備えて構成される。レプリカ回路42には、ゲイン調整部29a,29bのそれぞれに設けられているトランジスタ25,27及び26,28と特性が等しい2つのトランジスタ43,44が設けられている。レプリカ回路42は、それら2つのトランジスタ43,44と抵抗R4とを直列に接続した構成である。すなわち、トランジスタ43は、ドレイン端子が所定電圧Vgに接続され、ソース端子がトランジスタ44のドレイン端子に接続されると共に、ゲート端子がオペアンプ41の出力に接続されている。このトランジスタ43は、ゲイン調整回路12においてゲインGを調整するためにオン抵抗を変化させる第1のトランジスタ27,28と同一特性の第2のトランジスタである。一方、トランジスタ44は、ソース端子が抵抗R4の一端に接続されており、ゲート端子には所定の電源電圧Vddが接続されている。そして抵抗R4の他端は、接地されている。ここで、抵抗R4は、ゲイン調整回路12のゲイン調整部29a,29bに設けられている抵抗R3と抵抗値が等しいものである。また抵抗R4は、抵抗R3と同一の材料で構成され、電気的特性が抵抗R3と揃っていることがより好ましい。一方、オペアンプ41は、反転入力端子に2つのトランジスタ43,44の間のノードN1が接続されており、非反転入力端子に所定電圧Vgの1/2の電圧Vg/2が入力される。
上記構成では、トランジスタ44が常に完全にオンした状態となるため、トランジスタ44のオン抵抗がほぼ0となる。そしてオペアンプ41は、仮想短絡によってノードN1の電位がVg/2となるようにトランジスタ43を駆動するため、トランジスタ43のオン抵抗が常に抵抗R4の抵抗値と等しくなるような電圧を出力する。これにより、トランジスタ43は、オン抵抗が抵抗R4の抵抗値と常に等しくなるように動作する。このような動作は、環境温度が変化した場合であっても同様である。すなわち、温度変化が生じてトランジスタ43のオン抵抗が変動しようとすると、オペアンプ41はそれに応じて出力電圧を変動させることにより、温度変化後においてもトランジスタ43のオン抵抗が抵抗R4の抵抗値と等しくなるように制御する。そして基準電圧生成回路14は、オペアンプ41から出力される駆動電圧を、基準電圧Vrepとして振幅検知回路13へ出力する。したがって、基準電圧生成回路14から出力される基準電圧Vrepは、温度変化に応じて変動する電圧であって、トランジスタ43のオン抵抗を常に抵抗R4の抵抗値と等しい状態に保持することができる電圧として出力される。例えば、上述したように抵抗R3が10Rであれば、抵抗R4も10Rであるため、基準電圧Vrepは、トランジスタ43のオン抵抗を常に10Rに保持するための電圧となる。
振幅検知回路13は、その基準電圧Vrepを基準にして、振動子5の振動振幅と目標値との差分に応じた制御信号Vcontをゲイン調整回路12へ出力する。そしてゲイン調整回路12は、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontに基づいてゲイン調整部29a,29bに設けられたトランジスタ27,28を駆動することにより、信号Vsp,Vsnに付与するゲインを調整する。それらのトランジスタ27,28は、基準電圧生成回路14のレプリカ回路42に設けられたトランジスタ43と特性が同じであるため、温度変化によってオン抵抗が変化するときにはレプリカ回路42のトランジスタ43と同様に変化する。
図7は、ゲイン調整回路12のゲイン調整部29a,29bに設けられたトランジスタ27,28のオン抵抗の特性曲線TCを示す図である。振動子5のX軸方向の振動振幅が目標値に一致しているとき、制御信号Vcontは基準電圧Vrepとなるため、トランジスタ27,28のオン抵抗Ronは、抵抗R3の抵抗値と等しくなる。このとき、例えば上述したようにゲイン調整回路12が抵抗R1=900R、抵抗R2=9R、抵抗R3=10Rとして構成されていれば、信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、G=55となり、ゲイン調整範囲の中間値を保持する。また振動子5のX軸方向の振動振幅が目標値よりも小さいとき、制御信号Vcontは基準電圧Vrepよりも小さくなるため、トランジスタ27,28のオン抵抗Ronは、抵抗R3の抵抗値よりも大きくなる。そのため、信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、ゲイン調整範囲の中間値よりも大きくなり、駆動信号Vdp,Vdnの振幅を大きくして振動子5のX軸方向の振動振幅を増大させることができるようになる。さらに振動子5のX軸方向の振動振幅が目標値よりも大きい場合、制御信号Vcontは基準電圧Vrepよりも大きくなるため、トランジスタ27,28のオン抵抗Ronは、抵抗R3の抵抗値よりも小さくなる。そのため、信号Vsp,Vsnに付与されるゲインGは、ゲイン調整範囲の中間値よりも小さくなり、駆動信号Vdp,Vdnの振幅を低減して振動子5のX軸方向の振動振幅を減少させることができるようになる。
そして角速度センサ1の温度環境が変化した場合、図7に示す特性曲線TCはその変化に応じて左右方向へシフトする。このとき、基準電圧生成回路14は、特性曲線TCのシフト量に応じて基準電圧Vrepを変動させる。そのため、温度変化が生じた場合であっても、振動子5のX軸方向の振動振幅が目標値に一致しているときには、トランジスタ27,28のゲート端子に印加される制御信号Vcontがその温度変化に応じて変動するので、トランジスタ27,28のオン抵抗Ronを常に抵抗R3の抵抗値と等しい状態で保持することができる。また振動子5のX軸方向の振動振幅が目標値に一致していない状態で温度変化が生じた場合も同様であり、制御信号Vcontがその温度変化に応じて変動することにより、温度変化によってオン抵抗Ronが変化してしまうことを防止できるので、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGを安定させることができる。
図8は、振動子駆動回路3における動作を説明するための信号波形図である。タイミングT1で振動子5の振動を開始すると、初期駆動信号発生回路15で生成される初期駆動信号Vd1,Vd2に基づいてゲイン調整回路12が駆動信号Vdp,Vdnを振動子5に印加する。これにより、振動子5は次第にX軸方向へ振動し始めるため、CV変換回路10は、その振動変位に応じた信号Vip,Vinを出力する。そしてタイミングT2で振動子5の振動振幅が所定値以上になると、初期駆動信号発生回路15が初期駆動信号Vd1,Vd2の出力を停止し、位相変換回路11、振幅検知回路13及び基準電圧生成回路14による振幅制御動作に切り替わる。このとき、振動子5の振動振幅は目標値よりも著しく小さいため、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontはほぼ最小値となり、トランジスタ27,28はオフの状態のままである。そのため、ゲイン調整回路12は、位相変換回路11から入力する信号Vsp,Vsnに対してゲインの最大値Gmaxを付与した駆動信号Vdp,Vdnを生成して出力する。そしてタイミングT3になると、振動子5の振動振幅が大きくなるのに従って、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontが上昇し始め、次第に基準電圧Vrepへと近づいていく。そしてタイミングT4になると、制御信号Vcontが基準電圧Vrepと一致する。このとき、既に振動子5の振動振幅が目標値よりも大きくなっているため、振幅検知回路13は、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGを下げるべく、制御信号Vcontを基準電圧Vrepよりも更に上昇させる。これにより、振動子5の振動振幅は次第に小さくなり、目標値へと近づいていく。そしてタイミングT5で振動子5の振動振幅が目標値に一致し、制御信号Vcontが基準電圧Vrepに一致した状態で安定する。このとき、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGは、例えばゲイン調整範囲の中間値に保持される。
その後、例えば温度変化が生じて基準電圧Vrepが図中破線L1に示すように変化したとしても、振幅検知回路13から出力される制御信号Vcontは、その基準電圧Vrepに追従して変化する。そのため、ゲイン調整回路12において付与されるゲインGを一定の状態に保持することができ、振動子5の振動振幅を一定の状態に安定させておくことができる。これにより、角速度センサ1における測定感度が温度変化によって変動してしまうことを良好に防止することができるようになる。
以上のように本実施形態の振動子駆動回路3は、駆動信号Vdp,Vdnに付与するゲインGを調整するためのゲイン調整回路12と、振動子5のX軸方向の振動振幅を検知する振幅検知回路13と、基準電圧Vrepを生成する基準電圧生成回路14とを備えている。振幅検知回路13は、振動子5のX軸方向の振動振幅を検知して所定の目標値(Vdac)と比較し、振動子5のX軸方向の振動振幅と目標値との差分に応じて基準電圧Vrepを基準とする制御信号Vcontを出力する。ゲイン調整回路12は、その制御信号Vcontに基づいてオン抵抗を変化させる第1のトランジスタ27,28を有し、そのトランジスタ27,28のオン抵抗に応じて駆動信号Vdp,Vdnに付与するゲインGを調整する。そして基準電圧生成回路14は、第1のトランジスタ27,28と同一特性の第2のトランジスタ43を有し、第2のトランジスタ43のオン抵抗が所定値となるように第2のトランジスタ43を駆動し、その第2のトランジスタ43の駆動電圧を基準電圧Vrepとして振幅検知回路13に出力する構成である。このような振動子駆動回路3によれば、ゲインGを調整するための第1のトランジスタ27,28のオン抵抗が温度に応じて変化する場合であっても、制御信号Vcontの基準となる基準電圧Vrepがその温度変化によるオン抵抗の変化を抑制するように変動するため、温度変化の影響を受けることなく、振動子5の振動振幅を安定させることができるという利点ある。
また本実施形態における基準電圧生成回路14は、第2のトランジスタ43のオン抵抗が、ゲイン調整回路12におけるゲイン調整範囲内の中間値となるときの第1のトランジスタ27,28のオン抵抗と等価となるように第2のトランジスタ43を駆動し、その駆動電圧を基準電圧Vrepとして振幅検知回路13に出力する。そのため、ゲイン調整回路12は、ゲイン調整範囲の中心を安定点としてゲイン調整を行うことができる構成となっている。
また本実施形態における振幅検知回路13は、上述のように、振動子5のX軸方向の振動振幅に応じた電荷を蓄積し、その蓄積電荷を順次転送していくことにより、その電荷転送過程で振動子5の振動振幅と目標値とを比較してそれらの差分に応じた差分信号を生成し、更にその差分信号を増幅して出力する構成である。一方、振動子5のX軸方向の振動振幅に応じた電荷を蓄積した後、積分アンプを用いて振動振幅を目標値と比較する構成を採用することも考えられる。しかし、積分アンプを用いた積分方式では、積分動作を伴うためX軸方向の振動振幅が目標値よりも高くなるとき、又は、低くなるときの出力電圧の応答速度が遅いため、例えば図8に示した制御信号Vcontが基準電圧Vrepを越えてオーバーシュートするときの上昇幅が大きくなり、振動子5のX軸方向の振動振幅が安定するまでに時間がかかるという問題がある。これに対し、本実施形態の振幅検知回路13のように、振動子5のX軸方向の振動振幅に応じた電荷を順次転送していく過程において振動子5のX軸方向の振動振幅と目標値とを比較し、それらの差分に応じた差分信号を増幅して出力する構成の場合には、振動振幅の変化に伴う出力電圧の応答速度を速くすることができるため、図8に示す制御信号Vcontが基準電圧Vrepを越えてオーバーシュートするときの上昇幅を積分方式よりも小さくすることが可能であり、振動子5のX軸方向の振動振幅を短時間で目標値に安定させることができるという利点がある。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述したものに限定されるものではなく、種々の変形例が適用可能である。
例えば上記実施形態では、全差動オペアンプ20を用いてゲイン調整回路12を構成する場合について説明したが、これに限られるものではない。ただし、全差動オペアンプ20を用いれば回路構成が簡単になるため、例えばスマートフォンやタブレット端末などのような比較的小型の情報処理端末に実装される場合には、上述したように全差動オペアンプ20を用いてゲイン調整回路12を構成することが好ましい。