JP2015085259A - アルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法及び該方法に用いる薬剤 - Google Patents

アルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法及び該方法に用いる薬剤 Download PDF

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直明 藤吉
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慎治 安池
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Abstract

【課題】簡便に低コストでしかも短時間でアルカリ飛灰中に含まれる重金属を不溶化して無害化する方法を提供する。【解決手段】カルシウム成分を含むアルカリ飛灰に対して、薬剤及び水を添加して該飛灰中の重金属を不溶化処理する方法であって、前記薬剤として二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体を含み、前記薬剤及び水を前記アルカリ飛灰に添加した後、50℃以上の温度で養生する、アルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。【選択図】なし

Description

本発明は、水溶性カルシウムを含有しかつアルカリ度の高い焼却飛灰や溶融飛灰などの集塵灰(以下、「アルカリ飛灰」という場合もある。)中に含まれる重金属を不溶化して無害化する方法、及び該方法に用いる薬剤に関する。
従来、有害物質である重金属を含む産業廃棄物を処分する際には、セメントが処理剤として用いられ、セメントと廃棄物を混合し、水を加えて混練した後、養生固化し、重金属の溶出を防ぎ安定化する方法が用いられている。
しかしながら、このように単にセメントで固化する従来の産業廃葉物の処理方法には種々の問題があった。例えば、都市ゴミの焼却炉等では、稼働中に発生する塩化水素ガス量を抑制する目的で、消石灰又は生石灰を吹き込んでおり、アルカリ雰囲気になっている。しかし、重金属の代表例である鉛(Pb)はアルカリ雰囲気下で溶出しやすいことから、セメント処理では充分にPb溶出を防止できず、処理後の二次公害の問題が噴出している。
そこで、上記問題を解決するための重金属の不溶化方法が提案されている。
特許文献1には、比表面積が150m2/g以上であり、pH7以上の領域での表面電位が−15mV以下の二酸化ケイ素等が重金属の不溶化剤として好適であることが記載されている。
特許文献2及び3には、アルカリ飛灰に二酸化ケイ素の粉末を混合して水蒸気雰囲気で加熱処理することにより、アルカリ飛灰中のカルシウム化合物を二酸化ケイ素と反応させてケイ酸カルシウムとして不溶化することが記載され、該ケイ酸カルシウムが重金属と複合化合物を形成すること、もしくは該ケイ酸カルシウムの水和物ゲルに重金属を吸着させることにより、重金属を不溶化する方法が記載されている。
特許文献4には、水ガラス水溶液に、添加剤A(酸、アルコール等)及び添加剤B(カルシウムイオンと反応して水に不溶もしくは難溶であるカルシウム化合物を生成する物質)の少なくとも一方を配合してなる処理剤が重金属の不溶化材として好適であることが記載されている。
特開平8−10739号公報 特開平8−173930号公報 特開平8−187480号公報 国際公開番号WO96/09902
しかし、特許文献1の不溶化処理剤のように比表面積が大きい材料は高価であり、ランニングコストがかかる。また、特許文献1の段落0057において処理期間が7日間になっているように、特許文献1の不溶化処理剤を単に用いるだけでは不溶化に時間がかかる。
また、特許文献2及び3の不溶化方法では、80〜300℃の水蒸気環境下での養生が必要であり、専用の設備が必要となってしまう。
また、特許文献4の不溶化方法は、一定の効果を有するものの効果としては不十分であり、実施例でも鉛の溶出基準値(0.3mg/L)を達成できた条件が乏しく、水ガラスとともに、添加剤A及び添加剤Bのうちのいかなる成分を用いれば実用的な不溶化処理の条件となるかを見出すことが困難である。
上記の通り、現在の通常行われているアルカリ飛灰の重金属の不溶化処理では、簡便に低コストでしかも短時間で処理できる手法は確立されていない。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、簡便に低コストでしかも短時間でアルカリ飛灰中に含まれる重金属を不溶化して無害化する方法、及び該方法に用いる薬剤を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[6]を提供するものである。
[1]カルシウム成分を含むアルカリ飛灰に対して、薬剤及び水を添加して該飛灰中の重金属を不溶化処理する方法であって、前記薬剤として二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体を含み、前記薬剤及び水を前記アルカリ飛灰に添加した後、50℃以上の温度で養生する、アルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
[2]前記アルカリ飛灰中のカルシウム成分と、水との反応による水和熱を利用して、50℃以上の温度を維持して前記養生を行う、上記[1]に記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
[3]前記アルカリ飛灰中の塩化カルシウムの質量割合を測定し、該測定結果が10質量%未満である場合、前記薬剤としてさらに、不足する塩化カルシウム成分に相当する水和熱量が得られる化合物を添加する、上記[1]又は[2]に記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
[4]不溶化処理後の飛灰のアルカリ度を0〜135mgCaCO3/gとする、上記[1]〜[3]の何れかに記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
[5]前記薬剤がさらに中和剤を含む、上記[1]〜[4]の何れかに記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
[6]二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体及び水和熱を発生する化合物を含む重金属不溶化用の薬剤。
本発明のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法及び該方法に用いる薬剤によれば、簡便に低コストでしかも短時間でアルカリ飛灰中に含まれる重金属を不溶化して無害化することができる。
粉体の二酸化ケイ素の溶解性と温度との関係を示す図 アルカリ飛灰100質量部に対して30質量部の水を添加した場合における、飛灰の重さと、24時間後の温度との関係をシミュレーションした図
本発明のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法は、カルシウム成分を含むアルカリ飛灰に対して、薬剤及び水を添加して該飛灰中の重金属を不溶化処理する方法であって、前記薬剤として二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体を含み、前記薬剤及び水を前記アルカリ飛灰に添加した後、50℃以上の温度で養生するものである。
また、本発明の重金属不溶化用の薬剤は、二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体及び水和熱を発生する化合物を含むものである。
以下、本発明のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法及び該方法に用いる薬剤の実施の形態を説明する。
[カルシウム成分を含むアルカリ飛灰]
カルシウム成分を含むアルカリ飛灰とは、塩化水素ガスの排出を抑制するために、消石灰(Ca(OH)2)や生石灰(CaO)等を添加する設備から発生する集塵灰のことをいう。
集塵灰とは、ごみ焼却炉、石炭ボイラ、バイオマスボイラ等の燃焼プロセスから排出される焼却灰、焼却や溶融プロセスから排出される煤塵のほか、高炉、転炉、電気炉等の鉄鋼プロセスから排出される煤塵、鉄鋼スラグ、製紙工場から排出されるペーパースラッジ焼却灰等のことをいう。このような集塵灰を生じるごみ焼却施設等において、酸性排ガスを処理する際に、消石灰や生石灰を添加する場合に、カルシウム成分を含むアルカリ飛灰が発生する。
このようなカルシウム成分を含むアルカリ飛灰は、消石灰や生石灰の反応残分の影響によりアルカリ雰囲気になっているため、鉛等の重金属成分が溶出しやすい環境となっている。このため、本発明の不溶化方法が有用である。
[薬剤(重金属不溶化用の薬剤)]
薬剤は、二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体を含むものを用いる。また、薬剤としては、さらに後述する中和剤や、水和熱を発生する化合物を含むことが好ましい。
二酸化ケイ素は、重金属を不溶化する主剤的役割を示す。中和剤は、二酸化ケイ素による重金属の不溶化を補助する助剤的役割を示す。水和熱を発生する化合物は、二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体の溶解性を向上させ、不溶化反応を促進する役割を有する。
なお、本発明でいう「比表面積」は、窒素吸着によるBET法により、窒素の吸着量からBET1点法により算出される比表面積を意味する。
<二酸化ケイ素による不溶化機構>
二酸化ケイ素による重金属の不溶化は、以下の2つの機構が考えられる。
まず、第1に、飛灰中のカルシウム成分と、二酸化ケイ素とが以下のように反応してケイ酸カルシウム鉱物を生成して、該鉱物の中に重金属を封じ込める機構が考えられる。
2SiO2+3Ca(OH)2 → 3CaO・2SiO2・3H2
また、第2に、二酸化ケイ素が直接重金属に作用して、難溶性の重金属ケイ酸塩を生成する機構が考えられる。難溶性の重金属ケイ素としては、二酸化ケイ素が鉛に直接作用して生成されるケイ酸鉛(PbSiO3)が挙げられる。
<二酸化ケイ素を含有する粉体>
本発明では薬剤として、二酸化ケイ素を含有する粉体を用い、その中でも比表面積150m2/g以下の粉体を用いる。
二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体(以下、「本発明の粉体」と称する場合がある)としては、シリカヒューム、シリカゲル、活性白土、ゼオライト等や、副産物として石炭火力発電所から排出される石炭灰や、下水汚泥焼却炉から排出される下水汚泥焼却飛灰等が挙げられる。粉体の比表面積は、大きいほど高い不溶化効果が期待できるが、本発明においては比表面積150m2/g以下の粉体を用い、コストと効果の観点からは、比表面積は0.1〜50m2/g程度が好適である。
二酸化ケイ素は、結晶質のものでも非晶質のものでもよいが、溶解性に優れる非晶質の二酸化ケイ素が好適である。
本発明の粉体は、二酸化ケイ素以外の成分を含有していてもよいが、重金属の不溶化の観点から、粉体中の二酸化ケイ素の割合は40質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
本発明の粉体の添加量は特に制限されないが、アルカリ飛灰100質量部に対して、二酸化ケイ素の有効成分が1〜50質量部となるように添加することが好ましく、5〜30質量部となるように添加することがより好ましい。有効成分とは粉体中に占める二酸化ケイ素の割合であり、例えば、粉体が二酸化ケイ素が他の材料との複合体であり、該複合体中の二酸化ケイ素の割合が50質量%であった場合、該複合体を50質量部添加した時の二酸化ケイ素の有効成分の添加量は25質量部である。
なお、アルカリ飛灰は、焼却物由来の二酸化ケイ素を含むことが多く、この二酸化ケイ素も同じく重金属の不溶化に寄与することができる。したがって、焼却物由来の二酸化ケイ素を考慮して、二酸化ケイ素の添加量を減らすことも可能である。具体的には、焼却物由来の二酸化ケイ素を考慮して、不溶化後の飛灰(以下、「処理灰」と称する場合もある。)中の二酸化ケイ素の割合が1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%となるような量で薬剤としての二酸化ケイ素を添加することにより、二酸化ケイ素の添加量を減らすことができる。
粉体の二酸化ケイ素による重金属の不溶化は、アルカリ飛灰に添加した粉体の二酸化ケイ素及び飛灰中の重金属、さらにはカルシウム成分が水に溶解した後、上記不溶化機構が生じることにより達成できると考えられる。そして、本発明者らは、この一連の不溶化の流れでは、二酸化ケイ素の水への溶解速度が最も律速となっていることを見出した。
粉体粒子の水への溶解は一般的に、比表面積が大きいほど早い。しかし、比表面積の大きい二酸化ケイ素は高価である。そこで、本発明者らは、比表面積150m2/g以下の二酸化ケイ素の溶解性を向上させる手段を見出した。
[二酸化ケイ素の溶解性向上手段]
<養生条件>
まず、粉体の二酸化ケイ素は温度が高いほど溶解しやすい。
図1は、粉体の二酸化ケイ素の溶解性と温度との関係を示す図である。なお、図1においては、粉体の二酸化ケイ素を純水に500mg/Lの濃度で懸濁させ、pHを12.5となるように水酸化ナトリウムで調整した後、ポリエチレン製密封容器に入れて所定の養生温度で3時間振とうした後、上澄みのイオン状の二酸化ケイ素の濃度を測定し、初期懸濁濃度との比により溶解度を算出している。
図1の3種類の二酸化ケイ素は、比表面積が15m2/gのもの(副生シリカヒューム)、比表面積が200m2/gのもの(湿式シリカヒューム)、及び比表面積が500m2/gのもの(シリカゲル粉)である。図1から分かるように、比表面積が15m2/gの二酸化ケイ素(副生シリカヒューム)は、常温付近では殆ど水に溶解しないが、温度が50℃を超えると、カルシウム成分と反応可能なレベルまで溶解性が向上し、さらに70℃になると、比表面積の大きい二酸化ケイ素と同等の溶解性を有することが分かる。
上記知見から、本発明では、養生温度を50℃以上としている。このように、本発明では低温領域においても重金属の不溶化を達成できることから、特別な加熱手段を要さず、設備を簡素化することができる。
また、養生温度は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。また、費用対効果の観点から、養生温度は80℃未満とすることが好ましく、75℃以下とすることがより好ましい。
養生時間は長いほど不溶化反応が進行するためよいが、一般的な廃棄物処理施設では、排出灰の保管場所が限られて長く保管できないため養生時間は短いほどよい。通常、廃棄物焼却施設の飛灰は、発生後直ちに重金属不溶化をして数日以内には最終処分されるので、重金属の不溶化はできれば1日以内に完了したい。従って本発明においても処理時間を24時間以内とすることが好ましいが、飛灰中の重金属が低濃度であれば不溶化の時間は短くなるため、各条件を適宜検討して最適時間を決めればよい。
<平均粒子径>
また、平均粒子径が1〜100μmであることが好ましい。平均粒子径を1μm以上とすることにより、粒子が嵩高くなることによる添加時及び混合時のハンドリング性の悪化を抑制しやすくできる。また、平均粒子径を100μm以下とすることにより、アルカリ飛灰との混合時の分散性を良好なものとして、均一な処理を行うことができる。
なお、ここでいう平均粒子径は、レーザー回折法により測定したものである。
<不溶化後の飛灰のアルカリ度>
上述した二酸化ケイ素による重金属の不溶化機構は、イオン同士の反応であると考えられる。そのため、アルカリ度が高いと飛灰中のカルシウムは溶解性が低くなり、アルカリ度が低い酸性領域の場合には逆に二酸化ケイ素の溶解性が低くなり、二酸化ケイ素とカルシウム成分との反応性が悪くなり、不溶化速度が低下すると考えられる。
表1は、アルカリ飛灰に水及び二酸化ケイ素を含有する粉体(比表面積16m2/g)を添加して50℃で24時間養生して不溶化した後の、不溶化処理した飛灰(処理灰)のアルカリ度と、鉛の溶出濃度との関係を示すデータである。
この結果から、処理灰のアルカリ度が所定の範囲である場合に、鉛の溶出基準値(昭和48年2月17日総理府令第5号に規定された鉛の溶出基準値:0.3mg/L)を満たすことができることが分かる。具体的には、本発明では、処理灰のアルカリ度を0〜135mgCaCO3/gとすることが好ましく、0mgCaCO3/g〜125mgCaCO3/gとすることがより好ましく、10mgCaCO3/g〜60mgCaCO3/gとすることがさらに好ましい。
なお、「不溶化後」とは、不溶化が終了した時点、すなわち、アルカリ飛灰中に薬剤を添加し、混練した後、必要時間(24時間程度)の養生を行い、最終処分のための合否判定ができる段階のことである。
なお、本発明でいう「アルカリ度」は、飛灰中に含まれる可溶性アルカリ成分を全て炭酸カルシウムと擬制し、以下の手法により算出したものである。
<アルカリ度の算出>
水:飛灰を1000:1の質量比で混合して1時間振とう混合して得られた溶液をpH8.3になるまで中和するのに要する酸消費量を、JIS K0101に準拠して測定する。飛灰中に含まれる可溶性アルカリ成分を全て炭酸カルシウムと擬制し、測定した溶液中の酸消費量から飛灰中の炭酸カルシウム量を算出する。そして、飛灰1gあたりに炭酸カルシウムが何mg含まれているかを算出し、これをアルカリ度(単位「mgCaCO3/g」)とする。
以上のように、養生温度を50℃以上にすることにより、比表面積が150m2/g以下の二酸化ケイ素を用いても重金属の不溶化を行うことができ、また、二酸化ケイ素の平均粒子径、処理灰のアルカリ度を上述した範囲とすることにより、比表面積が150m2/g以下の二酸化ケイ素を用いた重金属の不溶化をより効率よく行うことができる。
[ 水 ]
アルカリ飛灰中に薬剤とともに添加される水は、(1)二酸化ケイ素や飛灰中のカルシウム成分を溶解させる役割、(2)アルカリ飛灰に薬剤を添加した後に、アルカリ飛灰中に薬剤を均一に行き渡らせるために行う混練作業を行いやすくする役割、及び(3)アルカリ飛灰中の塩化カルシウムや酸化カルシウムと反応して水和熱を発現する役割を有する。
水の添加量は、アルカリ飛灰100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、10〜60質量部であることがより好ましい。10質量部以上とすることにより、前述した効果を発現しやすくなり、100質量部以下とすることにより、飛灰が泥状となったり重量の増加により取り扱い性が低下することを防止し、さらに、余水が水和熱を吸収することにより温度上昇が妨げられることを防止できる。
<中和剤>
アルカリ度を上記範囲にするためには、中和剤を用いることが好ましい。
中和剤としては、リン酸、硫酸、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸鉄、塩化鉄等が挙げられる。これらの中でも、コストと調整のし易さの観点から硫酸アルミニウムが好適である。
処理灰のアルカリ度を上記範囲にするためには、あらかじめ処理前のアルカリ飛灰のアルカリ度を測定し、それに応じて必要な中和剤の種類、量を決定することが好ましい。また、あらかじめ処理前のアルカリ飛灰のアルカリ度を測定し、二酸化ケイ素とカルシウム成分との反応によってアルカリ度が低下することを考慮した上で、処理灰のアルカリ度が上記範囲となるように、中和剤の種類、量を決定することがより好ましい。
中和剤の添加量は、アルカリ飛灰100質量部に対して、5〜50質量部程度である。
なお、二酸化ケイ素を多量に添加しても、アルカリ度を上記範囲にすることができる。すなわち、先に推定した不溶化機構によっても、未反応の消石灰分が消費されるためである。
しかし、二酸化ケイ素の使用量を削減する観点から、二酸化ケイ素と中和剤とを併用することが好ましい。具体的には、二酸化ケイ素と中和剤とを併用することにより、二酸化ケイ素の使用量を、アルカリ飛灰100質量部に対して10質量部以下としても、アルカリ度を上記範囲とすることができる。二酸化ケイ素は中和剤に比べて高価であることから、二酸化ケイ素の使用量を削減することにより、コストを削減することができる。一方、中和剤は安価であるが使用し過ぎると廃棄物量が増えることから、[中和剤の使用量]/[二酸化ケイ素(有効成分)の使用量]の比は5.0以下とすることが好ましく、4.0以下とすることがより好ましい。
<添加、混練>
本発明の不溶化方法では、アルカリ飛灰に対して、上述した各成分(二酸化ケイ素、水、必要に応じて用いる中和剤)を添加する。各成分の添加のタイミングは同時であってもよいが、中和剤を使用する場合には、二酸化ケイ素の溶解性を高めて二酸化ケイ素とカルシウム成分との反応性を良好にする観点から、二酸化ケイ素より先に中和剤を添加することが好ましい。
各成分をアルカリ飛灰に添加する方法は限定しないが、液体の状態の成分は、アルカリ飛灰の混練装置の加湿水供給手段の加湿水に混合して添加することが好ましい。また、粉体の状態の成分は、混練装置の飛灰投入口に粉体定量供給装置を設置して、アルカリ飛灰とともに投入する方法が挙げられる。また、排ガス処理に用いる水酸化カルシウムと同様に、集塵機の手前で添加しても良い。但し、集塵機の手前で添加する場合、集塵機からの漏れや目詰まりに注意が必要である。
また、上述した各成分(二酸化ケイ素、水、必要に応じて用いる中和剤)をあらかじめ混合した状態で添加してもよい。
アルカリ飛灰に上述した各成分を添加した後は、各成分がアルカリ飛灰中に均一に行き渡るように、混練することが好ましい。混練は、公知の混練装置を用いることができる。
[水和反応による発熱の利用]
カルシウム成分を含むアルカリ飛灰中には塩化カルシウムが多量に含まれる。これは、水酸化カルシウムと排ガス中の塩化水素が中和反応して生成し、飛灰とともに集塵されたものであり、アルカリ飛灰中には塩化カルシウムが10質量%以上含まれることが多い。このような塩化カルシウムは、水と反応して水和熱を発生する。
CaCl2 + 6H2O → CaCl2・6H2O + 22.63kcal/mol
アルカリ飛灰の比熱を0.24cal/g/℃として、飛灰100質量部(100質量部中に塩化カルシウムを10質量部含有)に対して水を30質量部添加すると、アルカリ飛灰の発熱量は0.0206kcal/gとなり、温度上昇量(断熱状態で計算)は49.5℃となる。すなわち、アルカリ飛灰中に塩化カルシウムが10質量%以上含まれていれば、水を添加することにより、49.5℃以上の発熱を得ることができ、発熱前の温度を考慮すれば、50℃以上の温度条件とすることができる。
アルカリ飛灰中の塩化カルシウムの含有率と、飛灰100質量部に対する水の添加量(質量部)とをファクターとした、飛灰1gあたりの発熱量と断熱状態での温度上昇値を計算した理論計算結果を表2に示す。
表2の温度上昇値によると、塩化カルシウムの量が、飛灰中の10質量%強であれば、温度上昇値を50℃以上とすることができる。しかし、表2の温度上昇値は放熱を考慮していない。飛灰を立方体の形状で常温で保管するとした場合、温度上昇値を50℃以上とするためには、飛灰中の塩化カルシウムを20質量%以上とすることが好ましい。
アルカリ飛灰中の塩化カルシウムの量は、飛灰を水に懸濁させ、上澄み液中の塩素濃度を測定すれば推定することができる。したがって、測定した結果、塩化カルシウムの量が飛灰中の20質量%以下である場合には、不足する塩化カルシウム成分に相当する水和熱量が得られる化合物を追加して添加することが好ましい。
該化合物としては、塩化カルシウムを用いることができ、そのほか、例えば酸化カルシウムや鉄粉などの水和熱を発生する化合物を使用することもできる。
例えば、集じん機を直列に2機設けてなる焼却設備の場合、前段の集じん機で捕集した飛灰の塩化カルシウム濃度が不足している場合、後段の集じん機の前で消石灰を噴霧し、前段の集じん灰に後段の集じん灰を適当な量混合することでも、上記のような塩化カルシウムの不足を補う処理ができる。
また、飛灰混練時の温度モニタ結果(放射温度計等による)を基に、水和熱量が得られる化合物の投入量をその都度変化させてもよい。このような構成を採ることにより常に最適の温度を維持することができる。
なお、水和熱量が得られる化合物として塩化カルシウムを追加添加する場合、飛灰中の塩化カルシウムの量が30質量%を超えないように添加することが好ましい。
また、含有量を見積もることは難しいが、アルカリ飛灰中には、焼却物由来の酸化カルシウムも一部含まれる。酸化カルシウムの水和熱は塩化カルシウムの10倍以上と高い。上述の塩化カルシウムの量の測定結果に応じて、酸化カルシウムを追加して添加してもよい。
CaO + H2O → Ca(OH)2 + 273kcal/mol
アルカリ飛灰中の重金属を不溶化するために養生する際は、水和熱が冷めないよう保温するのが望ましいが、不溶化装置内に特別な保温容器等を設置するのは現実的ではない。本発明者らは、できるだけ多い量の飛灰を用いて養生を行うことにより、保温容器や、外的な加熱手段を用いることなく、水和熱の利用のみで、50℃24時間の養生条件を維持できることを見出した。
図2は、アルカリ飛灰の重量と、24時間後の温度との関係をシミュレーションした図である。シミュレーションは、塩化カルシウム10質量%の飛灰と、20質量%の飛灰の2種類で行った。なお、該シミュレーションでは、放熱による温度低下は、養生する飛灰を立方体と仮定し、外気温25℃、空気の伝熱係数を10kcal/m2/hr/℃(自然対流熱伝達)、温度差ΔTは簡単のため初期値で一定として行った。また、該シミュレーションでは、アルカリ飛灰100質量部に対して30質量部の水を添加している。
この結果から、塩化カルシウムの量が飛灰100質量部に対して10質量部以上20質量部未満である場合、24時間経過後の温度を50℃以上に保つためには、飛灰の重量を100kg以上として保管することが好ましいことが分かる。また、塩化カルシウムの量が飛灰100質量部に対して20質量部以上である場合、24時間経過後の温度を50℃以上に保つためには、飛灰の重量を10kg以上として保管することが好ましいことが分かる。
[重金属]
本発明の不溶化により不溶化できる重金属としては、鉛、カドミウム、銅、ニッケル、亜鉛、セレン及びウラン等が挙げられる。また、本発明の不溶化では、同時にフッ素も不溶化することができる。
<その他の薬剤>
本発明では、本発明の効果を阻害しない範囲で、リン酸塩、キレート剤、比表面積が150m2/gを超える二酸化ケイ素等のその他の薬剤を用いてもよい。
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
<評価方法>
なお、実施例及び比較例では、次の評価方法を実施した。
(1)鉛の溶出濃度
昭和48年2月17日環境庁告示13号「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」の溶出試験に準拠して、試料液イ(溶媒のpH:6.3)を調製し、JIS K0102:1998におけるフレーム原子吸光法によって鉛の溶出濃度を測定した。単位は[mg/L]。
(2)アルカリ度
飛灰中に含まれる可溶性アルカリ成分を炭酸カルシウムと擬制し、以下の手法により算出できる。単位は[mgCaCO3/g]。
飛灰を水に混合して得られた溶液をpH8.3になるまで中和するのに要する酸消費量を、JIS K0101に準拠して測定する。飛灰中に含まれる可溶性アルカリ成分を全て炭酸カルシウムと擬制し、測定した酸消費量から飛灰中の炭酸カルシウム量を算出する。そして、飛灰1gあたりに炭酸カルシウムが何mg含まれているかを算出する。
<カルシウム成分を含有するアルカリ飛灰>
水酸化カルシウムによって酸性排ガス処理を実施している廃棄物焼却炉から採取した飛灰を用いた。上記評価方法による鉛の溶出濃度は34mg/Lであり、アルカリ度は200mgCaCO3/gであった。
<粉体の二酸化ケイ素>
以下の二酸化ケイ素A〜Cを用いた。
二酸化ケイ素A:副生シリカヒューム(比表面積15m2/g)
二酸化ケイ素B:湿式シリカヒューム(比表面積200m2/g)
二酸化ケイ素C:シリカゲル粉末(比表面積500m2/g)
<実施例1>
アルカリ飛灰50gをポリエチレン製ビーカーにとり、アルカリ飛灰100質量部に対して、二酸化ケイ素Aを10質量部、水を30質量部添加し、スパーテルで混練した。混練後、ポリエチレン製密閉容器に入れ、50℃の恒温槽内で24時間養生し、重金属の不溶化処理を行った。
養生後のアルカリ飛灰(処理灰)を、[純水]/[処理灰]の質量比が1000となるようにして純水に混合し、1時間攪拌した後、上澄み液を採取し、上記手法によりアルカリ度を測定した。また、処理灰の鉛溶出濃度を、上記手法により測定した。アルカリ度及び鉛溶出濃度の測定結果を表3に示す。
<実施例2、比較例1、2及び参考例1〜6>
二酸化ケイ素及び養生温度を表3のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2、比較例1、2及び参考例1〜6の不溶化処理を行った。比較例2は、二酸化ケイ素を添加していないものである。アルカリ度及び鉛溶出濃度の測定結果を表3に示す。
実施例1、2より、養生温度を50℃以上とすることにより、比表面積が150m2/g以下の二酸化ケイ素を用いても、重金属の不溶化を達成できていることが分かる。
また、養生温度を70℃とすることにより、比表面積が150m2/g以下の二酸化ケイ素と、比表面積が150m2/gを超える二酸化ケイ素との重金属の不溶化のレベルに殆ど差がなくなることが分かる。
一方、養生温度が50℃を下回る比較例1のものや、二酸化ケイ素を用いない比較例2のものは、不溶化処理が不十分なものであった。
また、二酸化ケイ素A〜Cのそれぞれについて、温度ごとの溶解度を測定した。溶解度は、純水に二酸化ケイ素を500mg/Lの濃度で懸濁させ、pHを12.5となるように水酸化ナトリウムで調整した後、ポリエチレン製密封容器に入れて所定の養生温度で3時間振とうした後、上澄みのイオン状の二酸化ケイ素の濃度を測定し、初期懸濁濃度との比により算出した。結果を図1に示す。
図1の溶解度の結果は、上記表3の鉛溶出試験の結果と相関している。この結果から、二酸化ケイ素の溶解性が、重金属の不溶化に影響していることを裏付けることができる。

Claims (6)

  1. カルシウム成分を含むアルカリ飛灰に対して、薬剤及び水を添加して該飛灰中の重金属を不溶化処理する方法であって、前記薬剤として二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体を含み、前記薬剤及び水を前記アルカリ飛灰に添加した後、50℃以上の温度で養生する、アルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
  2. 前記アルカリ飛灰中のカルシウム成分と、水との反応による水和熱を利用して、50℃以上の温度を維持して前記養生を行う、請求項1に記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
  3. 前記アルカリ飛灰中の塩化カルシウムの質量割合を測定し、該測定結果が10質量%未満である場合、前記薬剤としてさらに、不足する塩化カルシウム成分に相当する水和熱量が得られる化合物を添加する、請求項1又は2に記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
  4. 不溶化処理後のアルカリ飛灰のアルカリ度を0〜135mgCaCO3/gとする、請求項1〜3の何れかに記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
  5. 前記薬剤がさらに中和剤を含む、請求項1〜4の何れかに記載のアルカリ飛灰中の重金属の不溶化方法。
  6. 二酸化ケイ素を含有する比表面積150m2/g以下の粉体及び水和熱を発生する化合物を含む重金属不溶化用の薬剤。
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