図1〜16は本発明に係る自動車用パワーユニットの組立方法を実施するためのより具体的な形態を示し、ここでは自動車用パワーユニットとして、原動機であるエンジンにオートマチックトランスミッション(自動変速機)を組み合わせたATタイプのパワーユニットと、原動機である電動モータにインバータ等のモータ制御機器までも一体化された電動モータユニットにトランスミッションを組み合わせた電気自動車用の電動タイプのパワーユニットとをいわゆる混流生産方式にて組み立てる場合の例を示している。
なお、電気自動車用の電動タイプのパワーユニットにおけるトランスミッションは、減速機能のみを有していて本来は減速機と言うべきものであるが、ここでは上記オートマチックトランスミッションとの対比の意味で便宜上EVトランスミッションと称するものとする。また、上記ATタイプのパワーユニットとしては、オートマチックトランスミッションが無段変速機(CVT)タイプのものを想定しているが、必ずしも無段変速機(CVT)タイプのものだけには限定されない。
図1は上記ATタイプのパワーユニットと電動タイプのパワーユニットとをいわゆる混流生産方式にて組み立てる組立ラインの要部の概略的な平面図を示している。最初に図1に基づいて全体的な一連の作業の概略を説明する。
図1において、2はエンジンを、3はエンジン2と組み合わされるATタイプのトランスミッションをそれぞれ示し、1はそれらのエンジン2とトランスミッション3とが組み付けられて一体化されたATタイプのパワーユニットを示している。同様に、12は電動モータユニットを、13は電動モータユニット12と組み合わされるEVトランスミッションをそれぞれ示し、11はそれらの電動モータユニット12とEVトランスミッション13とが組み付けられて一体化された電気自動車用の電動タイプのパワーユニットを示している。
また、4はエンジン搬入のための搬入コンベヤ、5は組立完了後のパワーユニット1,11の搬出のための搬出コンベヤであり、さらに、6はエンジン2との組付前のATタイプのトランスミッション3や、電動モータユニット11との組付前のEVトランスミッション13がストレージされているストレージエリアを示す。
搬入コンベヤ4上には少なくとも組付工程としてのドッキング工程S1とその前段の前工程S2とが設定されている。また、ドッキング工程S1の周囲のコンベヤサイドには、組付ロボット7と締付ロボット8が配置されているほか、仮位相合わせ工程S12と位相合わせ工程S11が設定されていて、仮位相合わせ工程12には仮位相合わせ手段としての仮位相合わせ装置9が、位相合わせ工程S11には位相合わせ手段としての位相合わせ装置10がそれぞれ配置されている。なお、仮位相合わせ工程S12にある仮位相合わせ装置9は、後述するようにその後の位相合わせ工程S11にある位相合わせ装置10での位相合わせに先立ってあくまでラフな位相合わせを司っている。
搬入コンベヤ4は図2に示すように上位に生産指示装置14を有するコンベヤ制御盤15によってその駆動状態が制御され、同様に組付ロボット7および締付ロボット8は上位に生産指示装置14を有するロボット制御盤16によってそれぞれの駆動状態が制御される。さらに、仮位相合わせ装置9および位相合わせ装置10は上位の生産指示装置14からの直接的な指令によりその駆動状態が制御される。
したがって、ドッキング工程S1には、搬入コンベヤ4によりエンジン2と電動モータユニット12とが混在するかたちで、すなわち、オートマチックトランスミッション3と組み合わされるべきATタイプのパワーユニット用のエンジン2と、EVトランスミッション13と組み合わされるべき電動タイプのパワーユニット用の電動モータユニット12とが混在するかたちで予め定められた生産スケジュールに従った順番で順次搬入コンベヤ4側に投入されることになる。
他方、搬入コンベヤ4上を流れるエンジン2や電動モータユニット12と組み合わされるトランスミッション3およびEVトランスミッション13はストレージエリア6にストレージされていて、先に述べた生産スケジュールに従った順番、すなわち搬入コンベヤ4上に並んでいるエンジン2や電動モータユニット12の順番で、図示外の助力装置を用いた人手作業または自動化設備によりストレージエリア6から順次吊り上げられた上で、仮位相合わせ装置9の置き台17上に一旦移載される。
そして、図1のドッキング工程S1に搬入される原動機がエンジン2である場合には、それに合わせて仮位相合わせ装置9の置き台17上にはトランスミッション3が置かれていることから、その置き台17上に置かれたトランスミッション3を組付ロボット7のロボットハンド26で把持した上でドッキング工程S1に投入し、そのまま組付ロボット7の自由度を使って、ドッキング工程S1で待機しているエンジン2に対して組み付けることになる。なお、ロボットハンド26の詳細は後述する。その後に、締付ロボット8が起動してボルト締め作業を実行することにより、トランスミッション3はエンジン2に対してボルト締結をもって一体的に結合されることになる。これにより、組付ロボット7はトランスミッション3やEVトランスミッション13の支持手段として機能することになる。
なお、トランスミッション3のドッキング工程S1への投入に先立って、仮位相合わせ装置9での仮位相合わせ処理および位相合わせ装置10での位相合わせ処理が実行されることになるが、これらについては後述する。
他方、図1のドッキング工程S1に搬入される原動機が電動モータユニット12である場合には、それに合わせて仮位相合わせ装置9の置き台17上にはEVトランスミッション13が置かれていることから、その置き台13上に置かれたEVトランスミッション13をトランスミッション3の場合と共通の組付ロボット7のロボットハンド26で把持した上でドッキング工程S1に投入し、そのまま組付ロボット7の自由度を使って、ドッキング工程S1で待機している電動モータユニット13に対して組み付けることになる。その後に、締付ロボット8が起動してボルト締め作業を実行することにより、EVトランスミッション13は電動モータユニット12に対してボルト締結をもって一体的に結合されることになる。
エンジン2は、図3に示すようにパレット18上に複数のスタンド19を介して安定的に位置決め支持されていて、後述するトランスミッション3との接合面側には回転体としてドライブプレート20が露出している。また、ドライブプレート20には複数の穴部として90度位相で合計4個のボルト受容穴21が形成されている。これらのボルト受容穴21はドライブプレート20の中心と同心状で且つ共通のサークル上に位置している。
他方、図5,6に示すように、エンジン2に組み付けられることになるトランスミッション3のうちエンジン2との接合面には回転体としてのトルクコンバータのコンバータハウジング22が露出していて、そのコンバータハウジング22には複数の突起部として90度位相で合計4個のボルト23が設けられている。これらのボルト23はコンバータハウジング22の中心と同心状で且つ共通のサークル上の位置している。
そして、上記ドライブプレート20側の複数のボルト受容穴21が位置しているサークルと、コンバータハウジング22側の複数のボルト23が位置しているサークルとは共に同径のものとなっていて、図3,6に示したエンジン2と同じく図6に示したトランスミッション3との組み付けに際しては、エンジン2側のドライブプレート20の回転位相とトランスミッション3側のコンバータハウジング22の回転位相、すなわちドライブプレート20側の4個のボルト受容穴21の位相位置と、コンバータハウジング22側の4本のボルト23の位相位置とを一致させながら凹凸嵌合させる必要があることになるが、このことについては後述する。
また、電動モータユニット12は、図4に示すようにエンジン2と同じ支持形態でパレット18上に安定的に位置決め支持されていて、EVトランスミッション13との接合面には出力軸である回転軸24の端部のスプライン軸部(雄スプライン)24aが突出している。他方、電動モータユニット12に組み付けられることになるEVトランスミッション13は、図7,8に示すように電動モータユニット12との接合面に入力軸25の端部のスプライン穴部(雌スプライン)25aが露出している。そして、電動モータユニット12に対しEVトランスミッション13を組み付けるには、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとの回転位相を一致させた上で両者をスプライン嵌合させる必要があるが、このことについては後述する。
次に、エンジン2に対するトランスミッション3の組み付けと、電動モータユニット12に対するEVトランスミッション13の組み付けとに共通して使用される組付ロボット7のロボットハンド26の詳細について説明する。
図5,6はロボットハンド26にてトランスミッション3を把持する場合の状態を、図7,8はロボットハンド26にてEVトランスミッション13を把持する場合の状態をそれぞれ示している。このロボットハンド26はブラケット27を介して図1に示した組付ロボット7のロボットアーム先端のリスト部に装着される。
ロボットハンド26は長いフレーム部材28aと短いフレーム部材28bとを平面視にて略T字状になるように結合したハンド本体28を母体としていて、長いフレーム部材28a側に、把持ピン29の位置切換機構と同じく把持ピン30(図7,8にのみ図示)の位置切換機構のほか一対のプッシャー31,32を一ユニット化したものをブラケット33を介して設けてある。さらに、短いフレーム部材28b側には、把持ピン34の位置切換機構と落下防止アーム35の駆動系とを一ユニット化したものをブラケット36を介して設けてある。なお、把持ピン30が図7,8のみに描かれていて図5,6に描かれていないのは、把持ピン30はEVトランスミッション13の把持のみに使用され、トランスミッション3を把持する際には後方に退避しているためである。
長いフレーム部材28a側の把持ピン29は、例えば電動シリンダその他の直動型アクチュエータ37の作動によりフレーム部材28aの長手方向での位置が任意に切換可能であり、且つその任意の位置で出没可能となっている。また、把持ピン30は図7,8に実線で示す水平位置と把持ピン30そのものが下向きとなる退避位置との間で図示しないアクチュエータの作動によりスイング可能であり、且つ少なくとも水平位置で出没可能となっている。
他方、短いフレーム部材28b側の把持ピン34は電動シリンダその他の直動型アクチュエータ38の作動によりフレーム部材28bの長手方向での位置が任意に切換可能であり、且つその任意の位置で出没可能となっている。また、落下防止アーム35は電動シリンダその他の直動型アクチュエータ39の作動によりフレーム部材28bの長手方向での位置が任意に切換可能であり、且つ図示しない回転型アクチュエータの作動により図6に示す水平位置と図7に示す退避位置との間でスイング可能となっている。
そして、このロボットハンド26は、三つの把持ピン29,30,34や落下防止アーム35の位置の選択切り換えやプッシャー31,32の選択的な併用によって、先に述べたトランスミッション3であるかEVトランスミッション13であるかにかかわず、それらを選択的に堅固に把持することができる構造となっている。
例えば、図5,6に示すように、トランスミッション3を把持する場合には、二本の把持ピン29,34の位置を調整した上で、それらの二本の把持ピン29,34をトランスミッションケース3aのうちエンジン2との接合面の反対側にある穴に挿入して把持するとともに、プッシャー31,32にてトランスミッション3の上部を押さえる。さらに、落下防止アーム35を図6のように水平位置に位置させた上で、これをエンジン2との接合面に当たるように引き込むことにより、トランスミッション3を安定的に支持することができる。
なお、落下防止アーム35は組付ロボット7の自律動作に基づく搬送中においてトランスミッション3の姿勢が変わってしまうのを防止するためのものであり、後述する仮位相合わせ装置9による仮位相合わせ作業や位相合わせ装置10による位相合わせ作業の際には退避位置まで退避させるものとする。また、後述するように、ロボットハンド26に把持されたトランスミッション3をエンジン2と対向させた上で両者を接近動作させる場合も同様とする。
その一方、ロボットハンド26にてEVトランスミッション13を把持する場合には、図7,8に示すように、把持ピン30を水平位置までスイングさせるとともに、把持ピン34の位置を調整した上で、それらの二本の把持ピン30,34をトランスミッションケース13aのうち電動モータユニット12との接合面の反対側にある穴に挿入して把持するとともに、落下防止アーム35を図8のように水平位置に位置させた上で、これを電動モータユニット12との接合面に当たるように引き込むことにより、EVトランスミッション13を安定的に支持することができる。なお、落下防止アーム35の機能はトランスミッション3を把持する場合と同様である。
ここで、図1,3のほか図6に示したエンジン2とトランスミッション3との組み付けに際しては、エンジン2側のドライブプレート20の回転位相とトランスミッション3側のコンバータハウジング22の回転位相、すなわちドライブプレート20側の4個のボルト受容穴21の位相位置と、コンバータハウジング22側の4本のボルト23の位相位置とを一致させる必要があることは先に述べたとおりである。そのために、図1,3に示すように、搬入コンベヤ4側の前工程S2には回転駆動装置40と視覚装置41が設けられているとともに、コンベヤサイドの仮位相合わせ工程S12には仮位相合わせ装置9が、位相合わせ工程S11には位相合わせ装置10がそれぞれに設けられている。なお、上記回転駆動装置40は前工程に投入されたエンジン2のクランクシャフトを強制回転させるものであり、また、視覚装置41としては例えばCCDカメラ等の撮像装置が用いられる。
そこで、搬入コンベヤ4上の前工程S2では、エンジン2側のドライブプレート20の少なくとも一部を視覚装置41にて撮像し、図9の(A)に示すように、その撮像エリアの許容領域Wにドライブプレート20に付帯している4個のボルト受容穴21のうちいずれか一つのボルト穴21が入って認識されるまで、回転駆動装置40によりエンジン2のクランクシャフトを低速にて強制回転させる。そして、先に認識したボルト受容穴21について、画像処理装置42での画像処理により、同図(B)に示すように予め設定してある基準位置Pからの上記一つのボルト穴21の位相ずれ量αを検出する。なお、この基準位置Pは、図11,15に基づいて後述するように、トランスミッション3側のコンバータハウジング22に付帯しているボルト23を割り出す基準位置と一致している。
そして、このドライブプレート20側のボルト受容穴21の位相ずれ量αに関する情報を位相合わせ装置10に送り、トランスミッション3側のコンバータハウジング22に付帯しているボルト23の位置について、仮位相合わせ装置9での仮位相合わせ処理のほか、位相合わせ装置10での位相合わせ処理を施すことにより、エンジン2側のドライブプレート20に付帯しているボルト受容穴21の位相とトランスミッション3側のコンバータハウジング22に付帯しているボルト23の位相とを一致させることができることになる。これにより、図1の前工程はエンジン2側におけるドライブプレート20の位相検出工程として機能することになる。
より詳しくは、図1の仮位相合わせ工程S12に設置された仮位相合わせ装置9の詳細を図10,11に示している。図10は図1の仮位相合わせ装置9の置き台17と近接するように配置されて当該該置き台17とともに仮位相合わせ装置9を構成することになるスイング機構43単独での状態を示していて、さらに図11はスイング機構43による作動説明図を示している。
図10に示したスイング機構43は、ベース部44に対しヒンジピン45を介してスイングアーム46が回動可能に支持されていて、このスイングアーム46はトラニオン型のエアエアシリンダ47の伸縮作動に応じて90度だけ旋回するようになっている。スイングアーム46の先端には図示外のエアシリンダの伸縮作動に応じて出没可能な爪片48を設けてある。そして、仮位相合わせ装置9の置き台17にトランスミッション3がセットされてその置き台17がトランスミッション3を位置決め支持した場合に、トランスミッション3側のコンバータハウジング22(図6参照)の回転中心とスイングアーム46の旋回中心であるヒンジピン45とが一致するように予め設定してある。
ここで、トランスミッション3側のコンバータハウジング22には90度位相で合計4本のボルト23が突設されていることは先に述べたとおりであって、スイングアーム46の先端の爪片48の回転半径はコンバータハウジング22側の4本のボルト23が位置しているサークルの半径と同等の大きさに設定してある。
したがって、仮位相合わせ装置9の置き台17にトランスミッション3がセットされてトランスミッション3が位置決め支持されると、図11に示すようにスイングアーム46の先端の爪片48はコンバータハウジング22と正対するかたちとなるので、その状態で爪片48を突出させる(図11の(A),(B)の左側に示す状態)。さらに、その状態でスイングアーム46を90度回転させる。すると、コンバータハウジング22側のボルト23の位相は90度であるので、スイングアーム46が90度回転する過程において、そのスイングアーム46の先端の爪片48が必ずいずれか一つのボルト23に当接してコンバータハウジング22が連れ回りし、結果として爪片48の回転限界位置(爪片48が止まった位置)にいずれか一つのボルト23が割り出されたことになる(図11の(A),(B)の左側に示す状態)。
これにより、あくまでラフなコンバータハウジング22の位相合わせを目的とした仮位相合わせ装置9による仮位相合わせ処理が終了したことになる。なお、仮位相合わせ作業はあくまでコンバータハウジング22のラフな位相合わせであり、爪片48により回転限界位置に割り出されたいずれか一つのボルト23の位置に多少のばらつき(位置誤差)があっても許容される。
ここでは、コンバータハウジング22の直径方向において正対する二つのボルト23,23同士を結んだいずれか一方の線が鉛直方向を指向するようになる位置を基準位置として、当該基準位置にいずれか一つのボルト23を割り出している。その一方、図1および図9に示した視覚装置41によるエンジン2側のドライブプレート20の位相検出工程では、ドライブプレート20の直径方向において正対する二つのボルト受容穴21,21同士を結んだいずれか一方の線が水平方向を指向するようになる位置を基準位置として図9の位相ずれ量αを検出している。そして、コンバータハウジング22側のボルト23およびドライブプレート20側のボルト受容穴21共に90度位相のものであることから、双方の回転位相の基準位置は共に同じものであることになる。
こうして、仮位相合わせ装置9による仮位相合わせ処理が終了すると、爪片48およびスイングアーム46がそれぞれ初期位置に復帰するのを待って、置き台17上のトランスミッション3は組付ロボット7のロボットハンド26に把持された上で、図1の位相合わせ装置10に移載される。
また、エンジン2と組み合わされるべきATタイプのパワーユニット用のトランスミッション3に代えて、電動モータユニット12と組み合わされる電動タイプのパワーユニット用のEVトランスミッション13が図1のストレージエリア6からピッキングされた場合にも仮位相合わせ装置9の置き台17に一旦移載されることなるが、この場合には、仮位相合わせ装置9は電動タイプのパワーユニット用のEVトランスミッション13を組付ロボット7のロボットハンド26で把持すための仮置き台として機能するにすぎず、スイング機構43は何ら機能しない。
図12〜15は図1に示した位相合わせ装置10の詳細を示している。図12に示すように、この位相合わせ装置10は、共通のフレーム49上にセンタリング機構50とスライドチャック機構51とを近接配置したものであり、後述するようにセンタリング機構50のチャック爪53の直下にスライドチャック機構51側のチャック爪58,59が位置している。そして、図12のほか図13に示すように、位相合わせ装置10による位相合わせ作業に際しては、組付ロボット7の自律動作によって、ロボットハンド26に把持されたトランスミッション3のうちエンジン2との接合面がセンタリング機構50と正対するように位置決めされることになる。
センタリング機構50は、スライドチャック機構51による位相合わせ作業に先立って、図12,13に示したように、ロボットハンド26に把持されているトランスミッション3側のコンバータハウジング22のセンタリングを行うもので、パワー式スクロールチャックと同じ原理のものと理解することができ、本体部52はブラケット49に回転不能に固定されているとともに、図14,15に示すように三つのチャック爪(ジョー)53のそれぞれにローラ53aを設けてある。そして、ロボットハンド26に把持されたトランスミッション3のうちエンジン2との接合面をセンタリング機構50と対向させた上で、チャック爪53によりコンバータハウジング22の中心部の突起部55(図5,6参照)をチャッキングすることにより、そのコンバータハウジング22のセンタリングがなされたことになる。
センタリング機構50とともに位相合わせ装置10を形成しているスライドチャック機構51は、図14に示すように、電動シリンダその他の直動型アクチュエータ56の可動部の先端に、同じくエアシリンダその他の直動型アクチュエータであるクランプシリンダ57を直列に設けたものである。そして、クランプシリンダ57のシリンダチューブ側に平板状の一方のチャック爪58を設けるとともに、クランプシリンダ57のロッド側に平板状の他方のチャック爪59を設けたものであり、双方のチャック爪58,59同士は互いに接近離間可能となっている。
この位相合わせ装置10による位相合わせ作業に際しては、先に述べたように、ロボットハンド26に把持されたトランスミッション3のうちエンジン2との接合面をセンタリング機構50と対向させると、図15の(A)に示すようにセンタリング機構50のチャック爪53によるチャッキング動作によって、トランスミッション3側のコンバータハウジング22のセンタリングがなされることになる。このコンバータハウジング22のセンタリングがなされた状態では、スライドチャック機構51側のチャック爪58,59同士が図15の(A)のように互いに離間してアンチャッキング状態にあるので、先に仮位相合わせ装置9により仮位相合わせ処理が施されているコンバータハウジング22側のいずれか一つのボルト23が必ずチャック爪58,59同士の対向間隙内に位置することになる。
そこで、図15の(B)に示すように、エアシリンダ57の作動により双方のチャック爪58,59同士を接近させてチャッキング動作させると、コンバータハウジング22側のいずれか一つのボルト23がチャック爪58,59によってチャッキングされることになる。このチャッキング状態では、コンバータハウジング22側のいずれか一つのボルト23が先に述べた基準位置、すなわちコンバータハウジング22の直径方向において正対する二つのボルト23,23同士を結んだいずれか一方の線が鉛直方向を指向するようになる位置に割り出されるように予め設定してある。つまり、スライドチャック機構51の双方のチャック爪58,59同士によるチャッキングをもって、トランスミッション3側のコンバータハウジング22は正規の基準位置に割り出されたことになる。
こうして、トランスミッション3側のコンバータハウジング22が基準位置に割り出されるのを待って、スライドチャック機構51の直動型アクチュエータ56が伸縮作動する。この直動型アクチュエータ56は、図1のほか図9に示すように、図1の前工程S2にて検出したエンジン2側のドライブプレート20の位相ずれ量、すなわち図9のボルト受容穴21のずれ量αに関するデータを図2の画像処理装置42から受け取り、そのドライブプレート20側のボルト受容穴21のずれ量αに相当する分だけ、双方のチャック爪58,59同士がチャッキングしているボルト23の位置を補正する。つまり、双方のチャック爪58,59同士がチャッキングしているボルト23をコンバータハウジング22の円周方向に対する接線の方向に位置補正することでコンバータハウジング22が連れ回りする。
これにより、未だエンジン2とそれに対応するトランスミッション3との接合面同士を対向させてもいなければ接近させてもいないにもかかわらず、図3,6に示したエンジン2側のドライブプレート20の回転位相と図6に示したトランスミッション3側のコンバータハウジング22の回転位相、ひいてはドライブプレート20側の4個のボルト受容穴21の位相とコンバータハウジング22側の4本のボルト23との位相とが完全一致したことになる。
以上により、位相合わせ装置10によるトランスミッション3側のコンバータハウジング22の位相合わせが完了したことになり、この状態ではトランスミッション3はなおもロボットハンド26に把持されたままである。
そこで、位相合わせ装置10におけるセンタリング機構50のチャック爪53およびスライドチャック機構51のチャック爪58,59がそれぞれアンチャッキング動作するのを待って、組付ロボット7はその自律動作によりロボットハンド26が把持しているトランスミッション3を初めて図1のドッキング工程S1に投入することになる。
ここで、位相合わせ装置10は、先に述べた仮位相合わせ装置9と同様に、エンジン2に組み付けられることになるトランスミッション3の位相合わせ作業のみに使用され、EVトランスミッション13には使用されない。
上記のように位相合わせ装置10での位相合わせ作業が終了したトランスミッション3がドッキング工程S1に投入されると、組付ロボット7の自律動作によりトランスミッション3側の接合面とエンジン2側の接合面とを対向させた上で、トランスミッション3側の移動に基づいて両者を接近動作させて、すなわちトランスミッション3をエンジン2側に押し付けて両者を接合する。
この場合において、先に述べたようにエンジン2側のドライブプレート20の回転位相とトランスミッション3側のコンバータハウジング22の回転位相とは既に一致しているので、エンジン2側のドライブプレート20に付帯している4個のボルト受容穴21とトランスミッション3側のコンバータハウジング22に付帯している4本のボルト23とが相互に凹凸嵌合し、その上でエンジン2側の接合面とトランスミッション3側の接合面とが相互に密着して接合される。
この後、図1の締付ロボット8が起動してエンジン2とトランスミッション3との接合部近傍に接近してくる。締付ロボット8のロボットアームの先端には公知のボルト締付手段として図示しないナットランナーが装着されていて、しかもそのナットランナーはエンジン2とトランスミッション3とのボルト締結に必要なボルトが給送されてこれを保持しているので、エンジン2とトランスミッション3との接合部の周囲の複数箇所に対してボルト締め作業を実行する。これにより、トランスミッション3はエンジン2に対してボルト締結をもって一体的に結合されて、ATタイプのパワーユニット1として組み立てられたことになる。
こうして、エンジン2に対するトランスミッション3の組み付けをもってATタイプのパワーユニット1が組み立てられたならば、最初に締付ロボット8が退避するとともに、続いて組付ロボット7のロボットハンド26が組付後のトランスミッション3を解放して退避する。これらの双方のロボット7,8が退避するのを待って、図1に示すように組立完了後のATタイプのパワーユニット1はドッキング工程S1から後工程に向けて搬出コンベヤ5により搬出されることになる。
なお、上記ドッキング工程S1での締付ロボット8によるボルト締め作業は、エンジン2とトランスミッション3との一体化が損なわれない程度の必要最小限のボルト本数のものであり、後工程において必要数のボルト締め作業が実行される。
次に、図1のドッキング工程S1において電動モータユニット12に対してEVトランスミッション13を組み付ける場合について説明する。
図4に示した電動モータユニット12が図1のドッキング工程S1に投入される場合には、それに合わせて図1のストレージエリア6から図7,8に示したEVトランスミッション13がピッキングされて、仮位相合わせ装置9の置き台17上に仮置きされる。さらに、その置き台17上に仮置きされたEVトランスミッション13は先のエンジン2用のトランスミッション3とに共用化された組付ロボット7のロボットハンド26にて把持されて、ドッキング工程S1に投入される。
ここで、電動モータユニット12は図4に示すようにEVトランスミッション13との接合面にはスプライン軸部(雄スプライン)24aを有する回転軸24が突出していている一方、電動モータユニット12に組み付けられることになる図7,8のEVトランスミッション13は、電動モータユニット12との接合面にスプライン穴部(雌スプライン)25aを有する入力軸25が露出していて、電動モータユニット12に対しEVトランスミッション13を組み付けるには、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとの回転位相を一致させた上で両者をスプライン嵌合させる必要があることは先に述べたとおりである。そして、両者が正しくスプライン嵌合しないかぎり電動モータ12側におけるモータメース12aの接合面とEVトランスミッション13側におけるミッションケース13aの接合面とが密着しない。
そこで、ドッキング工程S1では、ロボットハンド26にてEVトランスミッション13を把持している組付ロボット7の自律動作により、EVトランスミッション13側の接合面と電動モータユニット12側の接合面とを対向させた上で、EVトランスミッション13側の移動に基づいて両者を接近動作させて、すなわちEVトランスミッション13を電動モータユニット12側に押し付けて、両者を接合することになるのであるが、その際に図2に示したスプライン嵌合確認手段としてのスプライン嵌合確認センサ60を用いて両者の接合状態を監視するものとする。同時に、図1のドッキング工程S1にはEVトランスミッショ13のための押付装置61を設けてあるので、この押付装置61を併用しながら電動モータユニット12に対してEVトランスミッション13を接合するものとする。
スプライン嵌合確認センサ60は、上記スプライン軸部24aとスプライン穴部25aとのスプライン嵌合に基づく両者の軸方向変位を確認・検出(検知)する例えばストロークセンサタイプのものであり、ロボットハンド26の一部または後述する押付装置61に設けてある。
また、押付装置61は、図16に概略的に示すように、EVトランスミッション13側の接合面と電動モータユニット12側の接合面とを対向させた上で、EVトランスミッション13を電動モータユニット12に押し付けることにより両者を接近動作させて接合する際に、ロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13のうち電動モータユニット12との接合面とは反対側の面から電動モータユニット12側に向けてEVトランスミッション13を押し付ける機能を有するもので、例えばエアシリンダタイプのものが使用される。
なお、この押付装置61は、電動モータユニット12とEVトランスミッション13との組み付けに際してのみ使用され、先に述べたエンジン2とトランスミッション3との組み付けの際には使用されないので、その場合には組付作業に支障のない待機位置まで退避している。また、スプライン嵌合確認センサ60および押付装置61は、図2に示すように、インターロック盤62を介して、組付ロボット7および締付ロボット8の制御を司っているびロボット制御盤16との間で必要な信号の授受が行われる。
EVトランスミッション13側の接合面と、図1のドッキング工程S1で待機している電動モータユニット12側の接合面とを対向させた上で、EVトランスミッション13側の移動に基づいて両者を接近動作させたならば、押付装置61を起動させてEVトランスミッション13を電動モータユニット12側に向けて押し付ける。
そして、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとが正しくスプライン嵌合したことがスプライン嵌合確認センサ60によって確認・検出されたならば、組付ロボット7のロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13をロボットハンド26ごとさらに前進させる。これにより、電動モータユニット12側とEVトランスミッション13側の接合面同士が密着して、両者が接合される。
ここで、ロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13を押付装置61で電動モータユニット12側に押し付けたとしても、先に述べたようにEVトランスミッション13は二本の把持ピン29,30(図7,8参照)で把持されているだけであるから、押付装置61による押付力はロボットハンド26側の把持ピン29,30からEVトランスミッション13が抜け出る方向の力にほかならず、ロボットハンド26そのものの挙動に悪影響を与えることはない。
また、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとが正しくスプライン嵌合しない場合には、このことがスプライン嵌合確認センサ60によって確認・検出されることから、押付装置61により押付力を一旦解除する。その上で、組付ロボット7のロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13を、ロボットアームのリスト部での回転自由度を使ってロボットハンド26ごとわずかに回転させて、ロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13の姿勢を傾ける。ここでの回転角度は例えばスプライン軸部24aおよびスプライン穴部25aの一山分の角度とする。そして、再度、押付装置61を起動させてEVトランスミッション13を電動モータユニット12側に向けて押し付ける。
このような動作を何回か繰り返すことで、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとの位相が一致して両者が正しくスプライン嵌合することになる。こうすることにより、スプライン軸部24aやスプライン穴部25aの山部等を破損してしまうことがない。
こうして両者がスプライン嵌合したならば、先にロボットアームのリスト部での回転自由度を使ってEVトランスミッション13をロボットハンド26ごと回転させて分だけロボットハンド26を逆方向に回転させて、ロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13の姿勢を元に戻す。
この場合において、電動モータユニット12における回転軸24のスプライン軸部24aとEVトランスミッション13における入力軸25のスプライン穴部25aとがスプライン嵌合したままであり、また電動モータユニット12は電動モータに通電しないかぎり回転不能であるので、ロボットハンド26を逆方向に回転させることは、そのロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13のミッションケース13aと入力軸25とを強制的に相対回転させることを意味する。これにより、電動モータユニット12とEVトランスミッション13の双方の接合面同士が再び正対するかたちとなる。
以降は上記と同様に、組付ロボット7のロボットハンド26に把持されているEVトランスミッション13をさらに前進させることにより、電動モータユニット12側とEVトランスミッション13側の接合面同士が密着して、両者が接合されることになる。
なお、上記スプライン軸部24aおよびスプライン穴部25aの一山分の角度ごとの回転をn回、例えば5回程度繰り返してもなおもスプライン軸部24aとスプライン穴部25aとが正しくスプライン嵌合しない場合には「スプライン嵌合不可」とみなしてアラームを発する。そして、以降の作業を中止し、例えば作業者によるバックアップを待つことになる。
この後、電動モータユニット12とEVトランスミッション13との接合が完了すると、図1の締付ロボット8が起動して電動モータユニット12とEVトランスミッション13との接合部近傍に接近してくる。締付ロボット7のロボットアームの先端には公知のボルト締付手段として図示しないナットランナーが装着されていて、しかもそのナットランナーは電動モータユニット12とEVトランスミッション13とのボルト締結に必要なボルトが給送されてこれを保持しているので、電動モータユニット12とEVトランスミッション13との接合部の周囲の複数箇所に対してボルト締め作業を実行する。これにより、EVトランスミッション13は電動モータユニット12に対してボルト締結をもって一体的に結合されて、電動タイプのパワーユニット11として組み立てられたことになる。
こうして、電動モータユニット12に対するEVトランスミッション13の組み付けをもって電動タイプのパワーユニット11が組み立てられたならば、締付ロボット8が退避するとともに、ボルト締結後のEVトランスミッション13をロボットハンド26が解放して組付ロボット7も退避する。これらの双方のロボット7,8の退避を待って、図1に示すように組立完了後の電動タイプのパワーユニット11はドッキング工程S11から後工程に向けて搬出コンベヤ5により搬出されることになる。
ここで、本実施の形態では、先に述べたように、自動車用パワーユニットとして、ATタイプのパワーユニット1と、電気自動車用の電動タイプのパワーユニット11とをいわゆる混流生産方式にて組み立てる場合の例を示しているが、さらに原動機であるエンジンにマニュアルトランスミッション(手動変速機)を組み合わせたMTタイプのパワーユニットを含めたかたちで混流生産方式にて組み立てることも可能である。
この場合において、ロボットハンド26を共用化することができることはもちろんのこと、エンジン側の出力軸部とマニュアルトランスミッション側の入力軸部とを、上記電動モータユニット12とEVトランスミッション13との結合の場合と同様にスプライン嵌合させることになるので、エンジンとマニュアルトランスミッションとの接合の際には、先に述べた押し付け装置61を併用するものとする。さらに、マニュアルトランスミッションのクランクシャフトをモータその他の回転駆動手段により強制回転させ、結果としてマニュアルトランスミッション側の入力軸部とスプライン嵌合されることになるエンジン側の出力軸部を回転させることで、両者をスムーズにスプライン嵌合させることができる。なお、エンジンとトランスミッションとの組み付けに際してクランクシャフトを回転させることは、例えば特開昭63−265789号公報に記載されている。
このように本実施の形態によれば、少なくともエンジン2とトランスミッション3との組み付けと、電動モータユニット12とEVトランスミッション13との組み付けとを、共通の組付ロボット7と締付ロボット8とを用いていわゆる混流生産形態で組み立てる方式であるため、組立ラインとしての柔軟性が高く、混流生産形態でありながらもサイクルタイムを短縮化して、生産性の向上に貢献できる。
また、少なくともドッキング工程S1でのATタイプのパワーユニット1の組み立てに際しては、それ以前の工程において回転体であるエンジン2側のドライブプレート20とトランスミッション3側のコンバータハウジング22との位相合わせが完了していることになる。そのため、ドッキング工程S1ではエンジン2とトランスミッション3の双方の接合面同士を対向させた上で両者を接近動作させるだけで直ちに両者を組み付けることができ、これによってもまたサイクルタイムを短縮化することができる。
さらに、エンジン2側のドライブプレート20とトランスミッション3側のコンバータハウジング22との位相合わせに際しては、ドライブプレート20側の回転位相を基準にこれにコンバータハウジング22側の回転位相を一致させる方式であり、しかもコンバータハウジング22の位相合わせは仮位相合わせ工程S12と位相合わせ工程S11の二工程に分けて、それぞれに機械的手段により突起部であるボルト23を掴んでコンバータハウジング22を強制回転させる方式としている。そのため、位相合わせ精度の信頼性が高く、これよってもまたサイクルタイムの短縮化に一段と寄与することができる。