A.実施形態:
A−1.プラズマジェットプラグの全体構成:
以下、本発明の実施の態様を実施形態に基づいて説明する。図1は本実施形態のプラズマジェットプラグ100の全体を示す図である。図1の軸線COより右側には、プラズマジェットプラグ100の外観が図示され、軸線COの左側には、軸線COを含む面で切断した断面図が示されている。図2は、プラズマジェットプラグ100の中心電極20近傍の断面図である。図1、図2の一点破線は、プラズマジェットプラグ100の軸線COを示している。軸線COと平行な方向(図1、図2の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線COを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、軸線COを中心とする円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。図1、図2における下方向を先端方向D1と呼び、上方向を後端方向D2とも呼ぶ。図1、図2における下側をプラズマジェットプラグ100の先端側と呼び、図1、図2における上側をプラズマジェットプラグ100の後端側と呼ぶ。
プラズマジェットプラグ100は、絶縁体としての絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、を備える(図1)。
絶縁碍子10はアルミナ等を焼成して形成されている。絶縁碍子10は、軸線方向に沿って延び、絶縁碍子10を貫通する軸孔12を有する略円筒形状の部材(筒状体)である。絶縁碍子10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、段部14と、脚長部13とを備えている。後端側胴部18は、鍔部19より後端側に位置し、鍔部19の外径より小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19より先端側に位置し、後端側胴部18の外径より小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17より先端側に位置し、先端側胴部17の外径より小さな外径を有している。段部14は、絶縁碍子10の脚長部13と先端側胴部17との間に形成されている。
軸孔12のうち脚長部13の内周にあたる部分は、電極収容孔15として形成されている(図1、図2)。電極収容孔15は、軸孔12のうち、電極収容孔15より後端側の部分の内径より小さな内径を有している。
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成され、内燃機関のエンジンヘッド(図示省略)にプラズマジェットプラグ100を固定するための略円筒形状の部材(筒状体)である。主体金具50は、軸線COに沿って貫通する貫通孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の先端側の一部と、鍔部19と、先端側胴部17と、脚長部13との外周に配置される。すなわち、主体金具50の貫通孔59内に、絶縁碍子10が挿入・保持されている(図1)。
主体金具50は、スパークプラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関に取り付けるための取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、を備えている(図1)。例えば、取付ネジ部52の呼び径は、M8(8mm(ミリメートル))、M10、M12、M14、M18のいずれかとされている。
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌挿されている(図1)。ガスケット5は、プラズマジェットプラグ100が内燃機関に取り付けられた際に、プラズマジェットプラグ100と内燃機関(エンジンヘッド)との隙間を封止する。
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている(図1)。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁碍子10の後端側胴部18の外周面との間に形成される環状の領域には、環状のリング部材6、7が配置されている。当該領域における2つのリング部材6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。また、主体金具50の貫通孔59を形成する内周面は、取付ネジ部52の軸方向の中央部で後端側から先端側に向かって縮径しており、これによって内周面に段状の係止部56が形成されている(図2)。
加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁碍子10の外周面に固定されている。主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁碍子10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、リング部材6、7およびタルク9を介し、絶縁碍子10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。この結果、金属製の環状の板パッキン80(図2)を介して、主体金具50の内周面の係止部56に、絶縁碍子10の段部14が押圧される。この結果、絶縁碍子10の段部14と、主体金具50の係止部56との間は、板パッキン80を挟んで封止される。この結果、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁碍子10との隙間から外部に漏れることが、防止される。
中心電極20は、軸線COに沿って延びる棒状の部材であり、絶縁碍子10の軸孔12の内部に配置されている。中心電極20は、電極母材20Aと、電極母材20Aの内部に埋設された芯材20Bと、を含む構造を有する(図2)。電極母材20Aは、ニッケルまたはニッケルを主成分とする合金(インコネル(アルファベットのINCONELは登録商標)600等)で形成されている。芯材20Bは、電極母材20Aを形成する合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金で形成されている。
また、中心電極20は、頭部21と、頭部21よりも先端側に位置し、頭部21より外径が小さい脚部22と、を備えている。中心電極20の脚部22は、絶縁碍子10の軸孔12のうちの電極収容孔15に収容され、中心電極20の頭部21は、軸孔12のうちの電極収容孔15より内径の大きな部分に収容されている。中心電極20は、脚部22の先端にギャップ形成部材26を備えている(図2)。ギャップ形成部材26は、例えば、レーザー溶接によって脚部22の先端に接合されている。
図2に示すように、接地電極30は、主体金具50の先端面57に形成された係合部57Aに係合されている。図2に示すように、接地電極30は中央に連通孔31を有する円盤形状(すなわち、円形の板状)を有している。接地電極30は、厚み方向を軸線CO方向とし、絶縁碍子10の先端面16に当接した状態、あるいは、先端面16と微小な隙間(例えば、0.05mm以下の隙間)を有する状態で、係合部57Aに係合され、レーザー溶接などによって主体金具50に接合されている。これにより、主体金具50と接地電極30は電気的に導通している。
中心電極20のギャップ形成部材26と、接地電極30とは、融点が摂氏1700度以上の金属材料によって形成されている。ギャップ形成部材26、および、接地電極30を形成する金属材料には、例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、タングステン(W)や、これらの金属を主成分とする合金、例えば、Ir−5Pt合金(5質量%の白金を含有したイリジウム合金)などが用いられる。このように、高融点の金属材料を用いて、ギャップ形成部材26および接地電極30を形成することによって、火花放電による中心電極20と接地電極30との消耗を抑制することができる。この結果、プラズマジェットプラグの耐消耗性をより向上することができる。なお、火花放電が生じる主たる部分である、中心電極20の先端面を含む部分と、接地電極30のうち連通孔31が形成されている部分と、が少なくとも上述した高融点の金属材料を用いて形成されていれば良い。
なお、詳細は後述するが、絶縁碍子10の電極収容孔15内であって、中心電極20より先端側で、かつ、接地電極30より後端側には、プラズマを生成するためのキャビティCVが形成されている。
端子金具40は、軸線COに沿って延びる棒状の部材である。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、その表面は、防食のための金属層(例えば、Ni層)がメッキなどによって形成されている。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42と、鍔部42より後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42より先端側の脚部43と、を備えている。端子金具40の後端を含むキャップ装着部41は、絶縁碍子10の後端側に露出している。端子金具40の先端を含む脚部43は、絶縁碍子10の軸孔12に挿入(圧入)されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示省略)が接続されたプラグキャップが装着され、火花を発生するための高電圧が印加される。
絶縁碍子10の軸孔12内において、端子金具40の脚部43の先端と中心電極20の後端との間の領域は、導電性シール4によって埋められている。これにより、端子金具40と中心電極20とは、電気的に導通している。導電性シール4は、例えば、金属粒子とガラスなどのセラミックス粒子を含む組成物で形成されている。
A−2.プラズマジェットプラグの動作:
図3は、点火装置120の概略構成を示すブロック図である。プラズマジェットプラグ100は、図3に一例を示す点火装置120に接続され、点火装置120から電力の供給を受けることにより、内燃機関の燃焼室内の混合気への点火を行う。
点火装置120は、例えば、自動車のECU(電子制御回路)からの指示に従ってプラズマジェットプラグ100に電力を供給する。点火装置120は、火花放電回路部140、プラズマ放電回路部160、制御回路部130、150、および逆流防止用の2つのダイオード145、165が設けられている。
火花放電回路部140は、プラズマジェットプラグ100の中心電極20と接地電極30の火花ギャップに、高電圧を印加することで絶縁破壊させて火花放電を生じさせる、いわゆるトリガー放電を行うための電源回路である。火花放電回路部140は、ECUに接続された制御回路部130によって制御される。火花放電回路部140は、ダイオード145を介し、電力供給先となるプラズマジェットプラグ100の中心電極20に電気的に接続されている。
また、プラズマ放電回路部160は、火花放電回路部140によって行われるトリガー放電により絶縁破壊が生じた火花ギャップに高エネルギーを供給するための電源回路である。プラズマ放電回路部160は、上記同様、ECUに接続された制御回路部150によって制御される。プラズマ放電回路部160も同様に、逆流防止用のダイオード165を介し、プラズマジェットプラグ100の中心電極20に接続されている。なお、プラズマジェットプラグ100の接地電極30は、主体金具50を介し、接地されている。
プラズマ放電回路部160は、電気エネルギーを蓄えておくコンデンサ162と、コンデンサ162を充電するための高電圧発生回路161と、を備えている。コンデンサ162は、一端が接地され、他端が、高電圧発生回路161と、上記ダイオード165を介して中心電極20に接続されている。ここで、1回のプラズマ噴出を行うため、火花ギャップに供給されるエネルギー量EG(単位は、mJ)は、トリガー放電によるエネルギーの供給量と、コンデンサ162からのエネルギーの供給量との和である。コンデンサ162の静電容量は、エネルギー量EGが、後述する規定量となるように調整されている。なお、プラズマジェットプラグ100は、例えば、プラズマ放電回路部160を備えていないタイプの点火装置、すなわち、トリガー放電によるエネルギーのみを供給するタイプの点火装置でも駆動することができるが、図3に示すような点火装置120を用いることによって、より高エネルギーのプラズマを生成することができる。
点火装置120によって高電圧が供給されることによって、プラズマジェットプラグ100の火花ギャップに火花放電が生じると、点火装置120から供給される火花放電のエネルギーによって、図2に示すキャビティCV内の気体が励起されて、キャビティCV内にプラズマが形成される。キャビティCV内に形成されたプラズマが膨張し、キャビティCV内の圧力が高まると、キャビティCV内のプラズマは、火柱状に、接地電極30に形成された連通孔31から噴出される。噴出された火柱状のプラズマをプラズマとも呼ぶ。噴出されたプラズマによって、内燃機関の燃焼室内の混合気が着火される。
A−3. プラズマジェットプラグ100の先端近傍の構成:
上記で説明したプラズマジェットプラグ100の先端近傍の構成について、さらに、詳細に説明する。図4は、プラズマジェットプラグ100の先端近傍を、軸線COが含まれる面で切断した断面図である。なお、図4は、先端方向D1を上向きに、後端方向D2を下向きに図示されている。電極収容孔15の内径R2は、中心電極20の脚部22を収容している部分から絶縁碍子10の先端まで、変化しない。すなわち、図4の断面において、絶縁碍子10の脚長部13の電極収容孔15を形成する内周面は、脚部22を収容する部分から絶縁碍子10の先端まで、軸線COに並行な直線になっている。
中心電極20の脚部22は、外径R1の棒状の大径部23と、大径部23の先端側に配置された縮径部24と、縮径部24の先端側に配置された台座部25と、を備えている。大径部23は、電極収容孔15の先端側から後端側に伸び、脚部22の大部分を占めている。電極収容孔15の内径R2と、大径部23の外径R1と、の径差(R2−R1)は、0.1mm以下である。脚長部13(絶縁碍子10)と、大径部23を含む脚部22(中心電極20)とは、同軸上に配置されているので、大径部23の外周面と、電極収容孔15の内周面と、の間隔STは、(R2−R1)/2である。すなわち、大径部23の外周面と、電極収容孔15の内周面と、の間隔STは、0.05mm以下である。
縮径部24は、後端側から先端側に向かって外径が小さくなる円錐台の形状を有している。台座部25は、円柱形状を有しており、台座部25の先端側には、ギャップ形成部材26が、例えば、レーザー溶接によって溶接されている。ギャップ形成部材26は、本実施例では、外径Dを有する円柱状のチップである。ギャップ形成部材26の先端面は、中心電極20の先端面と言うこともできる。したがって、外径Dは、中心電極20の先端面の外径、すなわち、径方向の幅Dと言うこともできる。なお、上記の説明から解るように、縮径部24と台座部25とギャップ形成部材26とは、いずれも大径部23の外径R1より小さな外径を有している。縮径部24と台座部25とギャップ形成部材26との全体を、小径部27とも呼ぶ。小径部27は、大径部23よりも先端側に位置し、大径部23より小さな外径を有する部分である。
小径部27の表面(すなわち、縮径部24の外周面と、台座部25の外周面と、ギャップ形成部材26の外周面および先端面)と、絶縁碍子10の脚長部13の電極収容孔15を形成する内周面(すなわち、絶縁碍子10の軸孔12を形成する内周面)と、によって、プラズマを生成するためのキャビティCVが形成される。なお、上述したように、大径部23の外周面と、電極収容孔15の内周面と、の間隔STは、0.05mm以下とされているので、キャビティCV内に生成されたプラズマがキャビティCVより後端側に移動することを防止することができる。電極収容孔15の内径R2は、キャビティCVの内径とも言うことができるので、電極収容孔15の内径R2を、キャビティ径R2とも呼ぶ。
図4に示すように、接地電極30の連通孔31は、軸線CO上に開口している。連通孔31の内径Eは、図4の例では、ギャップ形成部材26の外径Dとほぼ同じ大きさである。連通孔31の内径Eは、連通孔31の径方向の幅Eと言うことができる。連通孔31の内径Eは、電極収容孔15の内径R2より小さい(E<R2)ので、連通孔31を形成する接地電極30の内縁部33は、電極収容孔15を形成する絶縁碍子10(脚長部13)の内周面より径方向の内側に径差Fの1/2だけ突出している。径差Fは、電極収容孔15の内径R2と連通孔31の内径Eとの径差である(F=(R2−E))。換言すれば、本実施形態では、E<R2であるので、接地電極30の連通孔31は、絶縁碍子10の内周面の先端より径方向の内側に形成されている。なお、電極収容孔15の内径R2と連通孔31の内径Eとが等しい場合には、突出長F/2は、0である。
ここで、中心電極20の先端面(すなわち、ギャップ形成部材26の先端面)から接地電極30までの軸線方向の距離をGとする。距離Gは、火花放電が行われる火花ギャップに相当する距離である。また、中心電極20の先端面(すなわち、ギャップ形成部材26の先端面)と、絶縁碍子10の内周面(すなわち、電極収容孔15を形成する内周面)と、の間の最短距離をAとする。距離Aは、本実施形態では、図4の断面における点P1から点P2までの距離である。点P1は、ギャップ形成部材26の先端面の縁上の点である。点P2は、軸線CO上の1点と点P1とを通り、軸線COと垂直な直線と、電極収容孔15を形成する内周面との交点である。
また、小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離をBとする。小径部27の後端P4は、縮径部24の後端あるいはキャビティCVの後端と言うこともでき、大径部23の先端と言うこともできる。
プラズマジェットプラグ100の中心電極20と接地電極30との間で生じる火花放電の放電経路には、気中経路と、沿面経路と、の2種類の経路が考えられる。気中経路は、中心電極20から接地電極30までの間の空間を通る放電経路である。例えば、図4の気中経路RA1は、キャビティCV内の空間を通り、中心電極20のギャップ形成部材26の先端面から接地電極30に至る軸線方向の経路である。また、気中経路RA2は、中心電極20のギャップ形成部材26の先端から絶縁碍子10の脚長部13の内周面(すなわち、電極収容孔15を形成する絶縁碍子10の内周面)に至る径方向の経路である。
沿面経路は、絶縁碍子10の内周面に沿った経路である。例えば、図4の沿面経路RS1は、絶縁碍子10の内周面に沿って、ギャップ形成部材26の先端面と軸線方向の位置が等しい位置から接地電極30に至る軸線方向の経路である。沿面経路RS2は、絶縁碍子10の内周面に沿って、小径部27の後端P4と径方向に対向する位置から接地電極30に至る軸線方向の経路である。
気中経路のみを通る火花放電を気中放電とも呼ぶ。沿面経路を含む経路を通る火花放電を沿面放電とも呼ぶ。気中経路RA1を気中放電の経路RA1とも呼ぶ。気中経路RA2と沿面経路RS1とを通る経路を沿面放電の第1の経路RT1とも呼び、沿面経路RS2を沿面放電の第2の経路RS2とも呼ぶ。
火花放電は、沿面放電よりも気中放電が好ましい。沿面放電が発生すると、火花のエネルギーによって、絶縁碍子10が損傷を受けるからである。例えば、絶縁碍子10に傷や、チャンネリングと呼ばれる溝状の削れなどが発生し得る。この結果、プラズマジェットプラグ100の耐久性能が低下し得る。
また、連通孔31から噴出されるプラズマの噴出量が低下すると、燃焼室内の混合気に着火するためのエネルギーが低下するために、プラズマジェットプラグ100の着火性能が低下する。プラズマの噴出量の低下は、例えば、キャビティCVの容積が過度に大きい場合に引き起こされる。また、プラズマの噴出量の低下は、沿面放電の発生によっても引き起こされる。すなわち、沿面放電の第1の経路RT1や沿面放電の第2の経路RS2の位置で火花放電が発生すると、キャビティCVの奥の部分、すなわち、連通孔31から遠い部分でプラズマが形成される。この結果、プラズマの連通孔31からの噴出量が低下する。
以下では、プラズマジェットプラグ100のサンプルを用いて行われた評価試験について説明する。
B:第1評価試験
第1評価試験では、表1に示すように、15種類のプラズマジェットプラグ100のサンプル1−1〜1−15を作成し、耐久性能の評価試験と、着火性能の評価試験を行った。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面の外径D:1.5mm
小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離B:2.5mm
中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
表1に示すように、径差Fが異なる3個のサンプルをそれぞれ含む5種類のサンプル群を作成した。5種類のサンプル群は、距離Aが互いに異なっている。距離Aは、キャビティ径R2を変更することによって、変更されている。また、キャビティ径R2に応じて、中心電極20の大径部23の外径R1も変更されている。例えば、サンプル1−1〜1−3を含むサンプル群は、距離Aが距離Gの0.33倍の値に設定されている。上述したように、G=1.0mmであるので、このサンプル群の距離Aは、0.33mmである。なお、表1におけるキャビティ径R2および径差Fの値の単位は、mmである。
そして、サンプル1−1〜1−3は、径差Fが、0mm、0.5mm、0.8mmにそれぞれ設定されて作成されている。径差Fは、接地電極30の連通孔31の内径Eを、キャビティ径R2に応じて変更することによって、変更されている(F=(R2−E))。
耐久性能の評価試験では、沿面放電によるチャンネリングの発生の有無を評価した。チャンネリングは、沿面放電によって絶縁碍子10の内周面に溝状の形状変化が発生する現象である。具体的には、各サンプルに対し、0.6MPaに加圧したチャンバー内で、1秒間に60回の火花放電を発生させる放電試験を100時間行った。放電時には、所定の電源装置(例えば、フルトランジスタ点火装置)を用いて、1回の火花放電ごとに50mJの放電エネルギーを供給した。
そして、点火試験後に各サンプルを解体し、先ず、沿面放電の痕跡の有無を拡大鏡を用いて、目視で確認した。沿面放電の痕跡(沿面放電の火花が絶縁碍子10の内周面を這うことで生じる黒色の汚れ)が確認された場合には、沿面放電の痕跡を三次元形状測定器(具体的には、X線CTスキャナー)を用いて測定して、チャンネリングの発生の有無を確認した。
表1のチャンネリングの評価欄において、「◎」は、沿面放電の痕跡が認められなかったことを示し、「○」は、沿面放電の痕跡が認められたが、チャンネリングの発生が認められなかったことを示し、「×」は、チャンネリングの発生が認められたことを示している。
表1に示す試験結果から、距離Aが、距離Gの0.5倍以上であるサンプル、すなわち、サンプル1−4〜1−15では、径差Fの値に拘わらずに、チャンネリングが発生していなかった。また、距離Aが、距離Gの0.5倍未満であるサンプル、すなわち、サンプル1−1〜1ー3では、径差Fの値に拘わらずに、チャンネリングが発生していた。
この理由は、以下のように推定される。火花放電は、放電経路が長いほど発生しにくく、放電経路が短いほど発生しやすい。気中放電の経路RA1は、距離Gが長いほど長くなる。沿面放電の第1の経路RT1は、距離Gと距離Aとの和とほぼ等しい。したがって、距離Gに対して距離Aを十分に長くすれば、気中放電の経路RA1に対して、沿面放電の第1の経路RT1を、十分に長くすることができると考えられる。第1評価試験の結果から、0.5G≦Aを満たすことによって、気中放電の経路RA1に対して、沿面放電の第1の経路RT1を、十分に長くすることができるために、沿面放電が抑制されると考えられる。
また、同じ経路長であっても、気中経路の抵抗は、沿面経路の抵抗より大きいことが知られている。そして、沿面経路の経路長を、気中経路の経路長の2倍以上確保すれば、同じ電圧が印加された場合に、確実に、気中経路で火花放電を発生させることができると、考えられている。したがって、沿面経路の経路長には、係数として(1/2)を乗じた値を用いて、沿面放電の第1の経路RT1が気中放電の経路RA1以上になるように、距離Aを決定すれば、気中放電の経路RA1で火花放電を確実に発生させることができると、考えられる。ここで、沿面放電の第1の経路RT1は、気中経路RA2(=距離A)+沿面経路RS1(=距離G)であり、気中放電の経路RA1は、距離Gとほぼ等しい。したがって、A+(1/2)G≧Gを満たすように、距離Aを設定すれば良いことになる。この式から、0.5G≦Aを満たすことが好ましいことになり、本評価試験の結果と一致していることが解る。
以上から、沿面放電を抑制して耐久性を向上するためには、0.5G≦Aを満たすこが好ましい。
さらに、表1の試験結果から、距離Aが、距離Gの0.5倍以上であるサンプルのうち、径差Fが0より大きいサンプル、すなわち、サンプル1−5、1−6、1−8、1−9、1−11、1−12、1−14、1−15では、沿面放電の痕跡が確認されなかった。これは、径差Fが0より大きい場合には、径差Fが0である場合と比較すると、気中放電の経路RA1が絶縁碍子10の内周面から離れるので、沿面放電がより効果的に抑制されるからであると考えられる。このように、沿面放電を抑制して耐久性を向上するためには、径差Fが0より大きいことがより好ましい。
着火性能の評価試験では、いわゆるシュリーレン撮影により、接地電極30の連通孔31から噴出されたプラズマ(フレーム)のサイズを測定した。具体的には、0.6MPaに加圧したチャンバー内で、所定の電源装置を用いて、128mJの放電エネルギーを供給して、火花放電を行った。そして、火花放電から100μs後に、接地電極30の連通孔31から噴出されたプラズマのシュリーレン画像を撮影した。そして、撮影されたシュリーレン画像を所定の閾値で二値化して、シュリーレン画像を構成する複数個の画素を、高密度部分を表す画素と、低密度部分を表す画素と、に分類した。そして、高密度部分を表す画素の個数を、噴出されたプラズマのサイズとして算出した。噴出されたプラズマのサイズは、プラズマの噴出量が大きいほど大きくなる。なお、サンプルごとに10回のシュリーレン撮影を実行し、10回の撮影により算出されたプラズマのサイズの平均値を、そのサンプルのプラズマのサイズとした。
表1のプラズマ噴出の評価欄において、「◎」は、算出されたプラズマのサイズが、1500画素以上であったことを示し、「○」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素以上1500画素未満であったことを示し、「×」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素未満であったことを示している。
なお、本評価試験で撮影されたシュリーレン画像の解像度では、プラズマのサイズが、1500画素以上であることは、着火限界が、空燃比で24以上であることに相当する。着火限界が空燃比で24であるとは、プラズマジェットプラグ100が、空燃比24までの混合気に着火可能な着火性能を有することを意味する。また、噴出されたプラズマのサイズが1200画素以上であることは、着火限界が、空燃比で22以上であることに相当する。
表1に示す試験結果から、距離Aが、距離Gの0.8倍以下であるサンプル、すなわち、サンプル1−1〜1−12では、径差Fの値に拘わらずに、噴出されるプラズマのサイズは、少なくとも1200画素以上であった。また、距離Aが、距離Gの0.8倍を超えるサンプル、すなわち、サンプル1−13〜1−15では、噴出されるプラズマのサイズは、径差Fの値に拘わらずに、1200画素未満であった。
この理由は、以下のように推定される。また、キャビティCVの容積が過度に大きい場合には、プラズマの噴出量が低下しやすい。上記の距離Aが長いほどキャビティ径R2が大きくなるために、キャビティCVの容積が大きくなる。このために、A≦0.8Gを満たすことによって、キャビティCVの容積が過度に大きくなることを抑制できる。この結果、プラズマの噴出量の低下を抑制して、プラズマジェットプラグ100の着火性能を向上することができると考えられる。
以上のように、第1評価試験の結果から、プラズマの噴出量を確保して着火性能を向上するためには、距離Aが、A≦0.8Gを満たすことが好ましい。
チャンネリングおよびプラズマの噴出の両方について良好な評価結果が得られた距離Aは、具体的には、0.5G、0.75G、0.8Gであり、これらの数値のうちの任意の2つの値を、距離Aの好ましい範囲の上限と下限として採用可能である。
さらに、表1の結果から、距離Aが、距離Gの0.8倍以下であるサンプルのうち、径差Fが0より大きいサンプル、すなわち、サンプル1−2、1−3、1−5、1−6、1−8、1−9、1−11、1−12では、噴出されるプラズマのサイズは、1500画素以上であった。
この理由は、以下のように推定される。沿面放電が発生すると、キャビティCVの奥、すなわち、接地電極30の連通孔31から離れた位置で、火花放電が発生する。この結果、キャビティCV内において、接地電極30の連通孔31から離れた位置でプラズマが生成されるので、プラズマの噴出量が低下する。上述したように、径差Fが0より大きい場合には、径差Fが0である場合と比較すると、沿面放電がより効果的に抑制される。この結果、径差Fが0より大きい場合には、沿面放電が抑制されることによって、プラズマの噴出量の低下が抑制される。
以上のように、プラズマの噴出量を確保して着火性能を向上するためには、特に、径差Fが0より大きいことがより好ましい。チャンネリングおよびプラズマの噴出について良好な評価結果が得られた径差Fは、具体的には、0.5mmと、0.8mmであり、これらの数値のうちの任意の値を、径差Fの好ましい範囲の下限として採用可能である。
C.第2評価試験
第2評価試験では、表2に示すように、5種類のプラズマジェットプラグ100のサンプル2−1〜2−5を作成し、上述したシュリーレン撮影により、接地電極30の連通孔31から噴出されたプラズマのサイズを測定した。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面の外径D:1.5mm
接地電極30の連通孔31の内径E:1.5mm(D=E)
中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
中心電極20の先端面と絶縁碍子10の内周面との最短距離A:0.75mm(0.75G)
なお、表2のプラズマ噴出の評価欄において、「○」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素以上であったことを示し、「×」は、算出されたプラズマのサイズが、1200画素未満であったことを示している。なお、第1評価試験とは異なり、第2評価試験では、「○」と「×」の2段階で評価が行われた。後述する第3〜第5評価試験におけるプラズマ噴出の評価についても同様である。
表2に示すように、5種類のサンプル2−1〜2−5は、距離Bが互いに異なっている。距離Bは、小径部27の縮径部24の軸線方向の長さを変更することによって、変更されている。例えば、サンプル番号2−1のサンプルの距離Bは、距離Gの1.5倍の長さである。上述したように、G=1.0mmであるので、サンプル番号2−1のサンプルの距離Bは、1.5mmである。
表2に示す試験結果から、距離Bが、距離Gの2倍以上であり、かつ、距離Gの3以下であるサンプル、すなわち、サンプル番号の数字が2−2〜2−4であるサンプルでは、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。そして、距離Bが、距離Gの1.5倍であるサンプル2−1、および、距離Bが、距離Gの3.5倍であるサンプル2−5では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素未満であった。
この理由は、以下のように推定される。上記距離Bが長いほどキャビティCVの容積が大きくなる。このために、距離Bが、距離Gの3倍を超えると、キャビティCVの容積が過度に大きくなり、この結果、プラズマの噴出量が低下したと考えられる。また、距離Bが、距離Gの2倍未満であると、気中放電の経路RA1に対して、沿面放電の第2の経路RS2が短くなるので、沿面放電の第2の経路RS2の位置で火花放電が発生すると考えられる。このために、キャビティCV内における連通孔31から遠い部分でプラズマが生成され、プラズマの噴出量が低下したと考えられる。上述したように、確実に、気中経路で火花放電を発生させるためには、沿面経路の経路長を、気中経路の経路長の2倍以上確保することが好ましい、と言う観点からも、距離Gの2.0倍未満である場合に、沿面放電が発生していると考えることが妥当である。
以上のように、プラズマの噴出量の低下を抑制して着火性能を向上する観点から、2G≦B≦3Gが満たされることが好ましく、沿面放電を抑制して耐久性を向上する観点から、2G≦Bが満たされることが好ましい。プラズマの噴出について良好な評価結果が得られた距離Bは、具体的には、2G、2.5G、3Gであり、これらの数値のうちの2個の任意の値を、距離Bの好ましい範囲の上限と下限として採用可能である。
D.第3評価試験
第3評価試験では、表3に示すように、6種類のプラズマジェットプラグ100のサンプル3−1〜3−6を作成し、上述したシュリーレン撮影により、接地電極30の連通孔31から噴出されたプラズマのサイズを測定した。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
中心電極20の先端面と絶縁碍子10の内周面との最短距離A:0.6mm(0.6G)
小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離B:2.5mm
表3に示すように、6種類のサンプル3−1〜3−6は、中心電極20の先端面の外径Dが互いに異なっている。なお、外径Dの変更に応じて、距離Aを一定値(0.6mm)にするために、キャビティ径R2を変更している。なお、接地電極30の連通孔31の内径Eは、外径Dと等しい値とした(D=E)。なお、表3における外径Dとキャビティ径R2の値の単位は、mmである。
表3に示す試験結果から、外径Dが、2.2mm以下のサンプル3−1〜3−4では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。そして、外径Dが、2.2mmを超えるサンプル3−5、3−6では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素未満であった。
この理由は、以下のように推定される。上記外径Dが長いほど、キャビティ径R2が大きくなるので、キャビティCVの容積が大きくなる。このために、外径Dが、2.2mmを超えると、キャビティCVの容積が過度に大きくなり、この結果、プラズマの噴出量が低下したと考えられる。以上のように、プラズマの噴出量の低下を抑制して着火性能を向上する観点から、外径Dが2.2mm以下(D≦2.2mm)であることが好ましい。
さらに、第3評価試験では、サンプル3−1〜3−3について、中心電極20の耐消耗性の評価試験を行った。この試験では、各サンプルに対し、0.6MPaに加圧したチャンバー内で、1秒間に25回の火花放電を発生させる放電試験を行い、試験時間に対する中心電極20(ギャップ形成部材26)の消耗量(単位は、立方ミリメートル)を測定した。消耗量の測定は、三次元形状測定器を用いて行った。放電時には、所定の電源装置を用いて、1回の火花放電ごとに150mJの放電エネルギーを供給した。なお、これらのサンプル3−1〜3−3では、ギャップ形成部材26をタングステン(W)を用いて形成した。
図5は、第3評価試験における耐消耗性試験の結果を示すグラフである。この結果から解るように、外径Dが1.2mm以上であるサンプル3−2、3−3と比較して、外径Dが1.0mmであるサンプル3−1では、中心電極20の消耗量が大幅に増加した。この理由は、外径Dが1.2mm未満であると、中心電極20(ギャップ形成部材26)の先端面の面積が過度に小さくなり、火花放電が発生する位置が局所的になるためであると、推定される。以上のように、中心電極20の耐消耗性の観点から、外径Dは、1.2mm以上であることが好ましい。特に、高エネルギーの電源(例えば、1回の放電あたり150mJ)を用いる場合に中心電極20の耐消耗性が低下することを抑制することができる。
プラズマの噴出および耐消耗性の両方について、良好な評価結果が得られた外径Dは、具体的には、1.2mm、1.5mm、2.2mmであり、これらの数値のうちの任意の2つの値を、外径Dの好ましい範囲の上限と下限として採用可能である。
E:第4評価試験
第4評価試験では、表4に示すように、8種類のプラズマジェットプラグ100のサンプル4−1〜1−8を作成し、第1評価試験と同様に、耐久性能の評価試験としてチャネリングの有無を評価する試験と、着火性能の評価試験としてシュリーレン撮影により噴出されるプラズマのサイズを測定する試験と、を行った。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面の外径D:1.5mm
接地電極30の連通孔31の内径E:1.5mm(D=E)
小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離B:2.5mm
表4に示すように、距離Gが互いに異なる4種類のサンプル群を作成した。距離Gは、ギャップ形成部材26の軸線方向の長さを変更することによって変更した。各サンプル群は、距離Aが互いに異なる2種類のサンプル、すなわち、距離Aが距離Gの0.5倍に設定されたサンプルと、距離Aが距離Gの0.8倍に設定されたサンプルと、を含んでいる。距離Aは、キャビティ径R2を変更することによって、変更されている。また、キャビティ径R2に応じて、中心電極20の大径部23の外径R1も変更されている。例えば、サンプル4−1、4−2を含むサンプル群は、距離Gが0.4mmに設定されている。そして、サンプル4−1は、距離Aが0.2mm(=0.5G)に設定されており、サンプル4−2は、距離Aが0.32mm(=0.8G)に設定されている。なお、表4におけるキャビティ径R2、距離G、距離Aの単位は、mmである。
表4に示す試験結果から、距離Gが、1.2mm以下のサンプル4−1〜4−6では、距離Aに拘わらずに、チャンネリングが発生していなかった。また、距離Gが、1.5mmであるサンプル4−7、4−8では、距離Aに拘わらずに、チャンネリングが発生していた。
この理由は、距離Gが、1.2mmを超えると、気中放電の経路RA1の抵抗が過度に上昇するので、距離Aが、0.5G≦A≦0.8Gを満たしていても、沿面放電の第1の経路RT1にて沿面放電が発生するためであると考えられる。以上のように、沿面放電を抑制して耐久性を向上するためには、距離G(mm)が、G≦1.2を満たすことが好ましい。
表4に示す試験結果から、距離Gが、0.5mm以上、かつ、1.2mm以下であるサンプル4−3〜4−6では、距離Aに拘わらずに、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。また、距離Gが、1.5mmであり、かつ、距離Aが、0.75mm(0.5G)であるサンプル4−7では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。
一方、距離Gが、0.4mmであるサンプル4−1〜4−2では、距離Aに拘わらずに、噴出されるプラズマのサイズが1200画素未満であった。また、距離Gが、1.5mmであり、かつ、距離Aが、1.2mm(0.8G)であるサンプル4−8では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素未満であった。
この理由は、以下のように推定される。距離Gが0.5mm未満であると、気中放電の経路RA1が過度に短くなるために、気中放電の経路RA1の抵抗が過度に低くなり、火花放電のエネルギーが低下する。このために、キャビティCV内で生成されるプラズマの量が低下して、プラズマの噴出量が低下すると考えられる。また、距離Gが1.2mmを超えると、上述したように、沿面放電が発生するので、キャビティCV内の接地電極30の連通孔31から離れた位置でプラズマが生成されやすくなる。このために、サンプル4−8では、プラズマの噴出量が低下していると考えられる。ただし、サンプル4−7は、距離Gが1.2mmを超えているが、サンプル4−8よりキャビティ径R2が小さい、すなわち、キャビティCVの容積が小さい。このために、サンプル4−7では、プラズマの噴出量が低下し難いので、プラズマの噴出量が低下していないと考えられる。以上のように、プラズマの噴出量を確保して着火性能を向上するためには、距離G(mm)が、0.5≦G≦1.2を満たすことが好ましい。
第4評価試験から、プラズマジェットプラグ100の耐久性能と着火性能とを両立するためには、中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離G(mm)が、0.5≦G≦1.2を満たすことが好ましい。
E.第5評価試験:
第5評価試験では、表5に示すように、5種類のプラズマジェットプラグ100のサンプル5−1〜5−5を作成し、上述したシュリーレン撮影により、接地電極30の連通孔31から噴出されたプラズマのサイズを測定した。第5評価試験では、チャンバー内の圧力Patを0.6MPaに加圧した場合と、1.0MPaに加圧した場合と、について、それぞれ、プラズマのサイズを測定した。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
中心電極20の先端面の外径D:1.5mm
中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離G:1.0mm
小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離B:2.5mm
中心電極20の先端面と絶縁碍子10の内周面との最短距離A:0.6mm(0.6G)
表5に示すように、5種類のサンプル5−1〜5−5は、接地電極30の連通孔31の内径Eが互いに異なっている。具体的には、内径Eは、中心電極20の先端面の外径Dに対して70%(0.7D)〜130%(1.3D)までの範囲で変更されている。
表5に示す試験結果から、チャンバー内の圧力Patが0.6MPである場合には、内径Eが、0.8D以上のサンプル5−2〜5−5では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。また、内径Eが、0.7Dであるサンプル5−1では、噴出されるプラズマのサイズは、1200画素未満であった。
この理由は、以下のように考えられる。図6は、比較形態のプラズマジェットプラグの先端部の近傍の構成を示す第1の図である。図6のプラズマジェットプラグの接地電極30Aの連通孔31Aの内径Eは、0.8D未満である。この場合には、気中放電の経路RA1の位置(すなわち、火花放電が発生する位置)が、連通孔31Aから離れた位置になりやすい。これは、火花放電は、気中放電の経路RA1が、中心電極20の先端面の縁に位置しやすいからである。この結果、キャビティCV内において、連通孔31Aから離れた位置にプラズマが生成されて、連通孔31Aからのプラズマの噴出量が低下すると考えられる。
表5に示す試験結果から、チャンバー内の圧力Patが1.0MPである場合には、内径Eが、0.8D以上、かつ、1.2D以下のサンプル5−2〜5−4では、噴出されるプラズマのサイズが1200画素以上であった。また、内径Eが、0.7Dであるサンプル5−1は、噴出されるプラズマのサイズは、チャンバー内の圧力Patが0.6MPである場合と同様に、1200画素未満であった。さらに、内径Eが、1.3Dであるサンプル5−5は、噴出されるプラズマのサイズは、チャンバー内の圧力Patが0.6MPである場合とは異なり、1200画素未満であった。
サンプル5−1のプラズマのサイズが、1200画素未満となる理由は、チャンバー内の圧力Patが0.6MPである場合と同様であると、考えられる。サンプル5−5のプラズマのサイズが、1200画素未満となる理由は、以下のように考えられる。図7は、内径E>1.2Dをであるプラズマジェットプラグの先端部の近傍の構成を示す第2の図である。図7に示すように、プラズマジェットプラグの接地電極30Bの連通孔31Bの内径Eが、1.2Dを超えている場合には、気中放電の経路RA1が、距離Gより長くなる。この結果、気中放電の経路RA1の抵抗が高くなることによって沿面放電の第1の経路RT1での沿面放電が起こりやすくなる。特に、高圧力下(例えば、Pat=1.0MP)では、沿面放電が発生しやすくなる。この結果、高圧力下(例えば、Pat=1.0MP)では、キャビティCV内において、連通孔31Bから離れた位置にプラズマが生成されて、連通孔31Bからのプラズマの噴出量が低下すると考えられる。
以上のように、接地電極30の連通孔31の内径Eは、0.8D以上であることが好ましい。さらに、接地電極30の連通孔31の内径Eは、1.2D以下であることが、さらに好ましい。圧力Pat=0.6MPaでのプラズマの噴出について、良好な評価結果が得られた内径Eは、具体的には、0.8D、1.0D、1.2D、1.3Dであり、これらの数値のうちの任意の2値を、内径Eの好ましい範囲の上限と下限として採用可能である。
以上説明した第1〜第5の評価試験の結果に基づいて、以下のことが解った。上述した中心電極20の先端面から接地電極30までの軸線方向の距離Gと、中心電極20の先端面と絶縁碍子10の内周面との最短距離Aと、小径部27の後端P4から接地電極30までの軸線方向の距離Bと、中心電極20の先端面の外径Dと、接地電極30の連通孔31の内径Eとは、以下の関係(1)を満たすことが好ましい。
0.5G≦A≦0.8G、かつ、2G≦B≦3G、かつ、0.5≦G≦1.2、かつ、D≦2.2、かつ、0.8D≦E ...(1)
なお、上記関係(1)における距離G、A、B、径D、Eの単位は、全てミリメートル(mm)である。上記関係(1)を満たすことによって、プラズマジェットプラグ100の耐久性能と着火性能とを両立することができる。
なお、図4から解るように、距離Gは、気中放電の経路RA1の経路長と略同一である。また、距離Aと距離Gとの和は、沿面放電の第1の経路RT1の経路長と略同一である。また、距離Bは、沿面放電の第2の経路RS2の経路長と略同一である。したがって、気中放電の経路RA1の経路長をLAとし、沿面放電の第1の経路RT1の経路長をLBとし、沿面放電の第2の経路RS2の経路長をLCとするとき、以下のことが言える。
0.5G≦A≦0.8Gを満たすことは、1.5LA≦LB≦1.8LAを満たすことと、略同一である。2G≦B≦3Gを満たすことは、2LA≦LC≦3LAを満たすことと略同一である。0.5≦G≦1.2を満たすことは、0.5≦LA≦1.2を満たすことと、略同一である。
また、第3評価試験から、中心電極20の先端面の外径D(mm)は、1.2≦Dを満たすことが、より好ましい(図5)。こうすれば、中心電極20の耐消耗性の低下を抑制することができる。こうすれば、中心電極20の耐消耗性の低下を抑制することができる。特に、高エネルギーの電源を用いる場合に中心電極20の耐消耗性が低下することを抑制することができる。
さらに、第5評価試験から、接地電極30の連通孔31の内径Eは、1.2D以下であることが、より好ましい(表5)。こうすれば、気中放電の経路RA1が過度に長くなることを抑制して、沿面放電の発生を抑制することができる。この結果、プラズマジェットプラグの耐久性能、および、プラズマの噴出量をより向上することができる。
また、第1評価試験から、接地電極30の連通孔31は、絶縁碍子10の脚長部13の内周面の先端より径方向の内側に形成されていることが、さらに、好ましい。すなわち、径差F(図3)が0より大きいことが好ましい(表1)。こうすれば、気中放電の経路RA1が、絶縁碍子10の内周面から離れるので、沿面放電の発生を抑制することができる。この結果、プラズマジェットプラグの耐久性能、および、プラズマの噴出量をより向上することができる。
F.変形例
(1)上記実施形態では、中心電極20のギャップ形成部材26は、円筒形状である。すなわち、中心電極20(ギャップ形成部材26)の先端面を軸線方向の先端側から見た形状は、円である。ギャップ形成部材26の形状は、これに限られない。
図8は、変形例におけるギャップ形成部材の形状の一例を示す図である。図8(A)、(B)には、軸線方向の先端側から見たギャップ形成部材26A、26Bの先端面の形状が図示されている。図8(A)のギャップ形成部材26Aは、四角柱の形状を有しており、軸線方向の先端側から見たギャップ形成部材26Aは、四角形である。図8(B)のギャップ形成部材26Bは、六角柱の形状を有しており、軸線方向の先端側から見たギャップ形成部材26Bは、六角形である。これら場合には、中心電極20の先端面の径方向の幅Dの値には、四角形、六角形に外接する外接円CA、CBの直径が用いられる。また、絶縁碍子10の内周面と、中心電極20の先端面と、の最短距離Aを規定する点P1は、外接円CA、CB上の点が用いられる(図8(A)、(B))。
(2)上記実施形態(図4)では、電極収容孔15の内径R2(キャビティ径R2)は、小径部27の後端P4より先端側の部分において一定となっている。図9は、変形例におけるプラズマジェットプラグの先端の部分の形状を示す図である。変形例のプラズマジェットプラグでは、絶縁碍子10Aの脚長部13Aは、先端に、内径R2より大きな内径R3を有する大径先端部131を有している。絶縁碍子の内周面と中心電極20の先端面とが近づくと、沿面放電の第1の経路RT1での沿面放電が発生しやすくなる。すなわち、中心電極20の先端面から絶縁碍子の内周面までの気中放電の後に絶縁体の内周面に沿って沿面放電が発生しやすくなる。しかし、このような大径先端部131を有していても、絶縁碍子の内周面と中心電極20の先端面とが近づくことはないので、沿面放電が発生しやすくなることはない。また、キャビティCVの容積の増加量も僅かであるので、実施形態と同様に、耐久性能と着火性能を両立することができる。換言すれば、電極収容孔15の内径のうち、小径部27の後端P4より先端側には、小径部27の後端P4より後端側の部分の内径R2より大きい径を有する部分131を有していても良い。一般的に言えば、電極収容孔15の内径のうち、小径部27の後端P4より先端側の部分の内径は、小径部27の後端P4より後端側の部分の内径R2以上であることが好ましい。こうすれば、絶縁碍子の内周面と中心電極20の先端面とが近づくことを抑制できるので、第1の経路RT1での沿面放電の発生を適切に抑制することができる。この結果、プラズマジェットプラグの耐久性能をより向上することができる。
(3)上記実施形態(図4)では、小径部27は、縮径部24と、台座部25と、ギャップ形成部材26と、を備えているが、例えば、台座部25は、省略されても良い。すなわち、図4の縮径部24より軸線方向の長さが長い縮径部に、ギャップ形成部材26が溶接されても良い。また、小径部27において、縮径部24が省略されても良い。例えば、図4の円柱状の台座部25より軸線方向の長さが長い円柱状の台座部が、大径部23の先端側に配置されても良い。また、上記実施形態では、ギャップ形成部材26のみが貴金属やタングステン(W)などの高融点材料で形成されているが、これに代えて、図4に示す縮径部24の先端側の一部分と、台座部25と、ギャップ形成部材26と、の全体が、高融点材料で形成されていても良い。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した本発明の実施形態、変形例は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。