本実施形態に係る硬貨識別装置では、温度変化に起因するレンズの屈折率変化等により、該レンズを利用して硬貨を撮像した画像に像倍率の変化や歪が生じた場合に、これを補正すると共に、撮像した画像から、硬貨全体の画像を含む所定の部分領域画像を切り出すことができる。以下に、添付図面を参照して、本発明に係る硬貨識別装置及び硬貨識別方法の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る硬貨識別装置の構成例を示す模式図である。図1に示すように、硬貨識別装置では、搬送路25上を矢印で示す方向へ搬送される硬貨100が、磁気センサ20を通過する際に仮金種判定がなされる。そして、搬送路25の上面側に設けられた画像センサ10Aと搬送路25の下面側に設けられた画像センサ10Bとを通過する際に、硬貨100の表面及び裏面の画像が取得される。磁気センサ20による仮金種判定の結果から、硬貨100の金種を絞り込んだ後、画像センサ10A、10Bによって取得された硬貨100の表面画像及び裏面画像を利用して、硬貨100の金種、真偽、正損等が決定される。画像センサ10Aと画像センサ10Bは同一の構造を有するため、以下では、画像センサ10として説明する。
画像センサ10は、搬送路25側に透明なガラス板等から成る測定窓14を有しており、硬貨100が搬送路25上の撮像位置に到達すると、光源13から硬貨100へ向けて光を照射する。硬貨100で反射された光は、測定窓14を経てレンズユニット12に入射する。そして、レンズユニット12で集光された光が撮像素子11上に結像され、撮像素子11により硬貨100の画像が取得される。
磁気センサ20は、硬貨100の材質や厚み、おおまかな外径といった硬貨の特徴を検出するためのセンサであり、検出した信号を、後述する制御部30の金種仮判定部31へ出力する(図3参照)。
次に、画像センサ10の詳細な構成について説明する。図2は、画像センサ10で撮像される画像と画像センサ10の構成を説明するための図である。図2下側に画像センサ10の断面模式図を示し、上側に画像センサ10により撮像される画像の一例を示している。
図2下図に示したように、画像センサ10は、光を遮断する樹脂製の上部ケース18及び下部ケース19の内部に、基板17上に配置されたCCD等の撮像素子11と、撮像素子11に画像を結像するためのレンズユニット12と、基板16上に配置された複数のLED等から成る光源13と、光源13からの光を反射して硬貨100へ向けて照射するミラー15とを有している。また、上部ケース18には、測定窓14が、測定窓上面とケース上面とが同一平面を成すように取り付けられている。
なお、図2下図には示していないが、撮像素子11が配置された基板17には、撮像素子11を駆動する駆動回路、硬貨100が撮像位置へ到達したことを検知して画像を取得するタイミングを決定するためのタイミングセンサ、光源13の制御回路、後述する制御部30(図3参照)と通信するためのインターフェイス等が実装されている。タイミングセンサによる検出結果は、撮像素子11による撮像タイミング等を制御するために用いられる。
図2下図に示したように、レンズユニット12は、複数のレンズを組み合わせて構成されている。このレンズユニット12を利用することにより、撮像素子11では、測定窓14と上部ケース18の一部領域とを含む範囲が撮像される(図中「画像撮像範囲」)。画像撮像範囲のうち、測定窓14に対応する領域(図中「硬貨通過領域」)で、硬貨100が撮像される。また、上部ケース18内には、硬貨通過領域の外側かつ画像撮像範囲の内側に、像倍率や輝度の補正に利用する基準部材として、2つの基準プレート51、52が固定されている。
この結果、図2上図に示したように、撮像素子11により画像撮像範囲を撮像して取得した画像60には、測定窓14に対応する硬貨通過領域70と、基準プレート51、52のそれぞれに対応する基準プレート画像151、152とが含まれることになる。上部ケース18に固定された2つの基準プレート51、52は、画像60上で、画像中央に対して対角かつ等距離となるように位置を調整して上部ケース18に固定されている。なお、基準プレート51、52の配置位置の調整は、測定窓14にゴミ等が付着した場合に、これを画像上でノイズとして除去する処理を行うためのもので、ノイズ除去処理を行わない場合には、画像中央に対して対称とする配置位置の調整を行う必要はない。ノイズ除去処理の詳細については後述する。
上部ケース18は線膨張係数が小さくかつ加工しやすい樹脂等の材質を利用して形成され、基準プレート51、52は線膨張係数が小さくかつ光の反射率が高い材質を利用して形成される。例えば、基準プレート51、52は、上部ケース18よりも反射率が高い所定の反射率を有するグレーのシート状部材で、金属等を利用して形成される。硬貨識別装置1が利用される環境下で、レンズユニット12を形成する樹脂製レンズの屈折率や体積が変化した場合でも、上部ケース18及び基準プレート51、52の位置、大きさ及び形状は変化しないため、画像60に含まれる基準プレート51、52の画像に基づいて、像倍率の変化や画像の歪を検出して、これを補正することができる。また、例えば、衝撃や振動によってレンズユニット12内のレンズが位置ずれを起こして、画像60内で硬貨通過領域70の位置がずれた場合でも、画像60上での基準プレート画像151、152の位置に基づいてずれ量を算出して補正し、硬貨通過領域70の画像を正しく切り出すことができる。また、明瞭な硬貨画像を撮像できるように光源13を調整した後に画像60を取得して、基準プレート画像151、152の輝度値(画素値)を輝度基準値として記録しておけば、硬貨処理を行う際に、光源13の発光量を制御して、基準プレート画像151、152の輝度値が輝度基準値と一致するように補正することができる。各処理の詳細については後述する。
図3は、硬貨識別装置1の構成概略を示すブロック図である。図3に示したように、硬貨識別装置1は、図1及び図2に示した画像センサ10及び磁気センサ20の他に、制御部30と、記憶部40とを備えている。制御部30は、金種仮判定部31、画像取得部32、輝度算出部33、光源制御部34、画像切出部35、画像補正部36及び硬貨識別部37を有している。また、記憶部40には、像倍率や輝度等を補正するための情報である補正基準情報41と、硬貨100の金種や真偽を識別するためのテンプレート42とが保存されている。
金種仮判定部31は、磁気センサ20によって硬貨100を検出した際の検出信号を受けて硬貨100の金種の仮判定を行い、得られた仮判定結果を硬貨識別部37へ出力する機能を有する。
画像取得部32は、画像センサ10を制御して、硬貨100の表面画像及び裏面画像を取得する機能を有する。具体的には、搬送路25を通過する硬貨100に向けて光源13から光を照射すると共に、硬貨100が撮像位置に到達するタイミングを検出して、撮像素子11により硬貨100を撮像する。
輝度算出部33は、画像取得部32によって取得された画像に含まれる基準プレート51、52の画像の輝度値が、予め設定された輝度基準値と一致するように、輝度値を補正するための補正量を算出する機能を有する。具体的には、予め補正基準情報41として記憶部40に保存されている輝度基準値と、取得した画像上での基準プレート51、52の輝度値との比を光量比として算出する。算出した光量比に基づいて光源制御部34による光源13の制御が行われて画像の輝度値が調整される。すなわち、本実施形態では、画像処理により輝度値(画素値)を変更するのではなく、輝度算出部33及び光源制御部34の機能により、光源13の発光量を調整することによって、画像上での輝度値が補正される。
光源制御部34は、輝度算出部33によって算出された光量比に基づいて、光源13の発光量を調整する機能を有する。具体的には、光源制御部34が、初期値として設定された所定の発光量で光源13を発光させると、画像取得部32によって画像が取得される。取得した画像と輝度基準値とに基づいて輝度算出部33によって算出された光量比が光源制御部34に入力されると、光源制御部34は、画像取得部32によって取得される画像上で基準プレート51、52の画像の輝度値が輝度基準値と一致するように、光源13の発光量を調整する。輝度基準値は、予め、硬貨表面の模様が硬貨画像上に明瞭に表れるように設定されているので、輝度基準値に基づいて光源13を制御することにより、安定した輝度で、硬貨100の模様が明瞭に表れる硬貨画像を取得することができる。
この他、光量を調整する方法として、例えば、光源13を発光させるための発光電流を調整する方法、発光時間を調整する方法がある。また、それぞれが異なる波長で発光する複数のLEDによって光源13を構成し、硬貨の色や反射特性等に応じて、発光するLEDを変更して光源13の色周波数を変更することにより、光量を調整する方法もある。また、光源13の光量変更に代えて又は加えて、受光側の撮像素子11のゲインを調整する方法もある。また、撮像した基準プレート画像151、152の画素値から補正量(例えば、取得した画素値を輝度基準値に合わせるために必要な掛け算値)を算出して、硬貨100を撮像した画像を形成する各画素の画素値を補正してから硬貨識別処理を行うようにしてもよい。また、これらの技術を複数組み合わせて光量調整する態様であっても構わない。光源13の発光電流調整及び点灯時間調整は、硬貨識別処理を開始する前に行う。例えば、硬貨100の到来していない状態で撮像した画像上の基準プレート画像151、152の画素値と輝度基準値との光量比を算出した後、この光量比と発光電流及び点灯時間との関係を予め規定しておいたテーブルを参照したり、計算式により発光電流及び発光時間の補正量を求めたりしながら、複数回の撮像を行って、所望の条件を満たすように調整し、その後に、硬貨識別処理を開始する。ただし、硬貨識別処理を開始した後も、硬貨100を撮像した画像から基準プレート画像151、152の画素値を得ることができるので、搬送路25を流れてくる各硬貨100を撮像する毎に、光源13の光量を調整することも可能である。例えば、受光側のゲインを変更する場合は、各硬貨100の撮像時に、基準プレート画像151、152の画素値を取得して補正量を算出し、この補正量に基づいて、硬貨100を撮像した画像を補正して、識別用画像を作成するようにしてもよい。
画像切出部35は、図2に示したように、画像センサ10によって画像撮像範囲を撮像した画像60から、硬貨通過領域70の部分領域画像を切り出す機能を有する。例えば、レンズユニット12内のレンズが位置ずれを起こしたために、画像60上で硬貨通過領域70の位置がずれて撮像された場合でも、画像切出部35は、画像60に含まれる基準プレート画像151、152の基準位置に基づいてずれ量を算出して、このずれ量に基づいて位置ずれを補正してから硬貨通過領域70の部分領域画像を切り出す。
画像補正部36は、画像60に含まれる2つの基準プレート画像151、152の位置関係から、像倍率の変化や歪を算出して、これを画像処理によって補正する機能を有する。例えば、所定温度の環境下で取得された画像60上での2つの基準プレート画像151、152の間の距離を距離基準値とする。そして、硬貨識別処理を行う際に取得された画像60上で2つの基準プレート画像151、152の間の距離が、距離基準値に対して短くなったり長くなったりしていた場合に、画像補正部36は、変化した距離が距離基準値と一致するように画像を補正する。このとき、画像補正部36は、2つの基準プレート画像151、152の間のX軸方向の変化率とY軸方向の変化率とに基づいて、画像の歪を補正することもできる。また、本実施形態では2つの基準プレート51、52を示しているが、例えば、画像撮像範囲内に3つ以上の基準プレートを配置して、これらを撮像した画像上でのモーメント特徴を利用することにより画像の傾きを補正することもできる。
このように、画像補正部36は、画像の像倍率の変化、歪、傾き等を補正する機能を有するが、以下では、像倍率を補正する場合を例に説明することとし、詳細については後述する。
硬貨識別部37は、画像取得部32によって硬貨100を撮像した画像が画像補正部36及び画像切出部35によって処理された後、得られた硬貨画像を利用して、硬貨100の金種や真偽等を識別する機能を有する。
具体的には、輝度算出部33及び光源制御部34によって光源13の発光量が調整された後、搬送路25を搬送される硬貨100が、画像取得部32によって撮像される。そして、撮像された画像から、画像切出部35によって切り出された硬貨通過領域70の画像の像倍率が、画像補正部36によって補正される。硬貨識別部37は、こうして得られた画像を利用して、硬貨100の硬貨径を算出する。また、硬貨識別部37は、金種仮判定部31による仮判定結果に基づいて、記憶部40から、対応するテンプレート42を参照して、テンプレート42に含まれる硬貨径と画像から算出した硬貨径とを比較する。そして、硬貨100の径がテンプレート42に含まれる硬貨径と所定の誤差範囲内で一致した場合、すなわち硬貨100が仮判定結果による金種の硬貨であると判定した場合には、さらに、硬貨画像を利用して硬貨100の金種等を詳細に判定する処理を行う。例えば、硬貨画像とテンプレート42に含まれる硬貨画像とを比較して、画像マッチング技術により両画像の一致度を評価して、硬貨100の金種等を判定する。そして、硬貨径に基づく判定結果と、画像比較による判定結果とに基づいて、硬貨100の金種等の識別結果を最終決定する。
硬貨画像を極座標変換して硬貨径を判定する処理や硬貨画像とテンプレート画像とを比較する処理については、例えば、特開2010−26992号公報に開示された従来技術を利用することができるので詳細な説明は省略する。以下では、本実施形態に係る特徴の1つである輝度算出部33、画像切出部35及び画像補正部36による処理内容について説明を続ける。
図4は、輝度算出部33及び光源制御部34による輝度補正、画像切出部35による画像切出及び画像補正部36による画像補正の処理内容を説明するための図である。図4(a)及び(b)は、基準温度の環境下で、記憶部40に保存する補正基準情報41を取得するために画像取得部32によって取得された基準画像61、62である。図4(c)は、硬貨識別装置1が設置された環境下で、硬貨識別処理を開始する際に、輝度、切出位置及び像倍率の補正量を算出するために、画像取得部32によって取得された補正用画像63である。図4(d)は、左側から、硬貨識別処理時に取得した画像64と、この画像64から位置ずれを補正して硬貨通過領域72を切り出した切出画像73と、この切出画像73の像倍率を補正した識別用画像74とを示している。
まず、基準温度の環境下で、図2に示す画像センサ10のレンズユニット12及び撮像素子11の設置位置が調整される。これにより、撮像素子11によって、基準プレート51、52を含む撮像範囲が、合焦した状態で撮像されるようになる。また、図4(a)に示すように、矩形の画像61上では、画像61の中央画素と硬貨通過領域71の中央画素とが一致し、画像61の四辺と対応する硬貨通過領域71の四辺とが平行になる。また、画像61に含まれる2つの基準プレート画像151、152は、画像61の中央画素に対して対角かつ等距離な位置関係となる。ただし、撮像画像内で硬貨通過領域70の位置ずれを補正する必要がない場合には、基準プレート画像151、152が対角かつ等距離である必要はなく、基準プレート画像151、152が撮像範囲内に含まれていればよい。
図2に示す画像センサ10の測定窓14に、所定の反射率を有するグレーカード等の治具を置いて撮像した画像が、図4(a)に示す基準画像61である。基準画像61は、グレーカードを利用して光源13の発光量を調整した後に撮像される。この基準画像61の左上端を原点、画素数を座標値として、硬貨通過領域71の位置を規定する左右のX座標(X1及びX2)を特定する。基準画像61から得られたこれらの情報は、補正基準情報41として記憶部40に保存される。
続いて、測定窓14の上面から治具を取り去った状態で撮像した画像が、図4(b)に示す基準画像62である。この基準画像62では、左上端を原点として、基準プレート画像151の左上端151a(a1,b1)及び右下端151b(a2,b2)と、基準プレート画像152の左上端152a(a3,b3)及び右下端152b(a4,b4)とを特定する。そして、特定した座標値を利用して、図4(b)に示す距離基準値L0を算出する。また、2つの基準プレート画像151、152のそれぞれの中央位置の輝度値を取得して、これらを輝度基準値C1、C2とする。基準画像62から得られたこれらの情報は、補正基準情報41として記憶部40に保存される。
図4(a)及び(b)に示す、基準画像61、62を利用して行う補正基準情報41の記憶部40への保存は、例えば、硬貨識別装置1の製造時に行われる。そして、硬貨識別装置1のユーザが、硬貨識別処理を行う際に、記憶部40に保存された補正基準情報41を利用した輝度、切出位置及び像倍率の補正が行われる。
図4(c)は、硬貨識別処理を開始してから硬貨100が搬送路25上を搬送されてくる前段階で撮像された補正用画像63である。補正用画像63は、図4(a)及び(b)に示す基準画像61、62を撮像した際の基準温度とは異なる温度で撮像された画像であるため、レンズユニット12の屈折率の変化等により、基準画像61、62とは異なる像倍率の画像となっている。また、レンズユニット12を構成するレンズの位置ずれ等があると、補正用画像63上で硬貨通過領域72の位置がずれて、補正用画像63上で中央画素と硬貨通過領域72の中央画素とが一致しない状態となる。
なお、図2下図に示す画像センサ10は、レンズユニット12の中心と、上部ケース18の画像撮像範囲の中心及び撮像素子11の中心とが一致する構成となっている。このため、温度変化によりレンズユニット12を構成するレンズの屈折率が変化した状態で得られた図4(c)の補正用画像63は、図4(a)に示す基準画像61の画像中心を基準として全体が拡大又は縮小された画像となる。
図4(c)では、説明を簡単にするため、補正用画像63内で、硬貨通過領域72がX軸方向にずれている場合の位置ずれの補正方法を説明する。すなわち、図4(c)は、同図(a)に示す切出基準X1、X2が、それぞれ同図(c)に示すX3、X4にずれた状態を示している。
まず、光源13の発光量を調整して行う画像の輝度補正について説明する。輝度算出部33が、図4(c)に示す補正用画像63上で、基準プレート画像251、252の中央画素の輝度値C11、C12を取得する。そして、輝度算出部33は、補正基準情報41に含まれる輝度基準値C1、C2との光量比K={(C1+C2)/(C11+C12)}を算出する。硬貨識別処理の処理対象となる硬貨100を撮像する際には、光源制御部34が、輝度算出部33から入力された光量比Kに基づいて、光源13の発光量を制御する。なお、輝度値C11、C12については、基準プレート画像251、252の中央画素及び/又は中央画素周辺の複数画素の輝度値の平均値を求めて利用する態様であってもよい。
次に、硬貨通過領域72の切出位置の補正について説明する。画像切出部35は、図4(b)に示す基準画像62上での距離基準値L0と、同図(c)に示す補正用画像63上での距離L1とに基づいて、像倍率S=L1/L0を算出する。続いて、画像切出部35は、図4(b)に示す基準画像62上での基準プレート画像151、152の座標151a、152bである基準位置と、同図(c)に示す補正用画像63上の対応する座標252a、252bとに基づいて、同図(a)に示す切出基準X1、X2と、同図(c)に示す切出基準X3、X4の間のずれ量Dxを算出する。X軸方向のずれ量Dxは、Dx={(a11+a14)−(a1+a4)}/2として算出される。また、画像切出部35は、図4(a)に示す切出基準X1、X2の間の距離Lxと、同図(c)に示す補正用画像63の中心線のX座標(Xc)とを取得する。そして、画像切出部35は、これらの値に基づいて、補正用画像63上での切出基準X3、X4の座標値を算出する。具体的には、図4(c)に示すように、位置ずれした後の切出基準X3、X4の座標値は、それぞれ、X3=Xc−(Lx/2)S+Dx、X4=Xc+(Lx/2)S+Dxとして算出される。
こうして、光量比K、像倍率S及びX軸方向のずれ量Dxを算出して、硬貨識別処理の処理対象となる硬貨100が搬送路25を搬送され始めると、輝度算出部33から入力された光量比Kに基づいて、光源制御部34によって光源13の発光量が制御される。そして、搬送路25を搬送される硬貨100が画像センサ10による撮像位置に達したタイミングで、画像取得部32によって、図4(d)に示すように、硬貨画像101が含まれる画像64が取得される。続いて、画像切出部35が、位置ずれを補正した切出基準X3、X4に基づいて、取得した画像64から、硬貨画像101が含まれる硬貨通過領域の部分領域画像、すなわち図4(c)の硬貨通過領域72に対応する部分領域画像を切り出す。図4(d)に示すように、こうして切り出された切出画像73は像倍率補正を行う前の状態であるため、同図(a)に示す硬貨通過領域71の横幅Lxとは、異なる横幅(Lx×S)を有している。続いて、画像補正部36が、画像切出部35によって切り出された切出画像73から、像倍率Sに基づいて拡大又は縮小した識別用画像74を生成する。これにより、識別用画像74は、その横幅が基準画像61の硬貨通過領域71の横幅と一致する画像となり、硬貨画像102も像倍率が補正された正確な画像となる。
画像補正部36による補正後の識別用画像74は、硬貨識別部37へ入力される。そして、硬貨識別部37では、この識別用画像74に含まれる硬貨画像102を利用して、硬貨径を判定する処理やテンプレート画像と比較する硬貨識別処理が行われる。
像倍率の補正は、予め記憶部40に保存されているテンプレート42のデータと比較可能な硬貨画像102を得るために行われる。これに対して、硬貨通過領域の切出位置の補正は、識別用画像からノイズ成分を除去するノイズ除去処理を目的として行われる。ノイズ成分を除去するために、切出位置の補正が必要であることを、図5を参照しながら説明する。
図5は、識別用画像で行われるノイズ成分の除去について説明する図である。なお、説明を簡単にするため、図5(a)には像倍率及び位置ずれを補正済みの画像65を示し、同図(b)及び(c)には像倍率の補正及びX軸方向の位置ずれの補正を行う前の画像66を示している。
図5(a)は、硬貨識別処理時に、硬貨100が無い状態で取得された画像65と、この画像65から硬貨通過領域75を切り出した背景画像75を示している。例えば、図2に示す画像センサ10の測定窓14上に、硬貨粉等のゴミが付着していると、図5(a)に示すように、取得した画像65では、測定窓14に対応する硬貨通過領域75内に、ゴミ80が写り込む。
なお、図5(a)に示す画像65は、像倍率及び位置ずれを補正済みであるため、基準画像上に、ノイズ80を示した図とみなすことができる。よって、画像65の左上端を原点とする基準プレート画像251、252の座標251a(5,5)、252b(250,250)から求めた値が、距離基準値L0=346.5画素となる。また、切出基準X10(20,0)、X11(220,0)のX座標は、硬貨通過領域75が中心線を境として左右100画素の幅を有することを示している。
硬貨識別処理時に、画像取得部32によって、識別処理の対象となる硬貨100が撮像された図5(b)に示す画像66では、温度変化に起因する像倍率の変化と、レンズユニット12を構成するレンズの位置ずれに起因する硬貨通過領域76の位置ずれが生じている。このため、画像切出部35及び画像補正部36により、これらを補正する処理が行われる。
具体的には、図5(b)に示すように、基準プレート画像251、252の座標251a(4,2)、252b(255,253)から求めた距離(355画素)と、距離基準値(346.5画素)とに基づいて、像倍率S=1.024(=355/346.5)が算出される。これは、基準画像では画像の中心線から左右100画素の範囲で画像が切り出される所、画像66では、この距離が102.4(=100×S)画素になっていることを示している。切出基準を両外側へ2.4画素移動させる必要があるが、画像の切り出しは1画素単位で行われるため、画像切出部35は、切出基準を両外側へ3画素ずつ拡大する。
このとき、位置ずれを考慮することなく像倍率のみを補正して画像を切り出すと、図5(b)に示すように、同図(a)の切出基準X10(20,0)、X11(220,0)を像倍率Sに基づいて左右に3画素ずつ拡大した切出基準X20(17,0)、X21(223,0)の間で、硬貨通過領域76の部分領域画像が切り出される。そして、画像補正部36により、像倍率Sに基づく補正が行われて、図5(b)に示す補正画像77が得られる。ところが、この補正画像77では、硬貨通過領域の位置ずれが考慮されていないため、この補正画像77に含まれるノイズ81の位置は、図5(a)に示す背景画像75に含まれるノイズ80の位置とずれてしまう。この結果、補正画像77から背景画像75を差し引いた差分画像を識別用画像78とした場合に、図5(b)に示したように、識別用画像78は、ノイズ81の一部が残った画像となる。このようにノイズ81が含まれた画像を識別用画像78として硬貨識別部37に入力しても、硬貨100を正しく識別できない可能性がある。
硬貨識別装置1では、画像切出部35が、基準画像の基準プレート画像251、252の座標251a(5,5)、252b(250,250)を基準位置として、この基準位置の座標と硬貨を撮像した画像66の基準プレート画像251、252の座標251a(4,2)、252b(255,253)から、位置ずれのずれ量Dxを算出する。この場合、ずれ量Dxは2画素(={(4+255)−(5+250)}/2)となる。このため、画像切出部35は、像倍率Sに基づいて補正した図5(b)の切出基準X20(17,0)、X21(223,0)から、さらにずれ量Dx=2画素を補正して、同図(c)に示すように、X軸正方向に2画素移動したX30(19,0)、X31(225,0)を切出基準とする。すなわち、切出基準を、図5(b)に示すように画像66の中心線Xcから左右均等に103画素に設定するのではなく、同図(c)に示すように中心線Xcから左へ101画素、右へ105画素の位置に設定する。
こうして、図5(c)に示すように、像倍率S及び位置ずれのずれ量Dxを補正した切出基準X30、X31の間で画像176を切り出して、像倍率Sの補正を行うことにより、補正画像177が得られる。この補正画像177では、像倍率に加えて位置ずれが考慮されているため、図5(a)に示す背景画像75に含まれるノイズ80の位置と、同図(c)に示す補正画像177のノイズ81の位置とが一致する。画像補正部36が補正画像177から背景画像75を差し引くことにより、補正画像177からノイズ81が除去されて、図5(c)に示す識別用画像178を得ることができる。こうして、ノイズ81を除去した画像を識別用画像178として硬貨識別部37に入力することにより、硬貨を正しく識別することが可能となる。
次に、上述した各処理の処理手順について図6〜図8のフローチャートを参照しながら説明する。図6は、硬貨識別装置1で、記憶部40に補正基準情報41として保存する情報を取得するための処理を説明するフローチャートである。図6(a)は図4(a)に示す切出基準X1、X2に関する情報を取得する処理を示し、図6(b)は図4(b)に示す輝度基準値C1、C2及び距離基準値L0に関する情報を取得する処理を示している。
まず、基準温度の環境下で、画像センサ10の測定窓14にグレーチャートから成る治具を置いて、画像取得部32により、図4(a)に示した基準画像61が取得される(ステップS1)。そして、この基準画像61を利用して、図4(a)を参照しながら説明したように、硬貨通過領域71の画像の切出基準X1、X2の位置を決定する(ステップS2)。切出基準X1、X2に関する情報は、補正基準情報41として、記憶部40に保存される。
また、基準温度の環境下で、測定窓14に治具が無い状態で、画像取得部32により、図4(b)に示した基準画像62が取得される(ステップS11)。そして、この基準画像62を利用して、図4(b)を参照しながら説明したように、基準プレート画像151、152の中央における輝度値を取得して、これを輝度基準値C1、C2とする(ステップS12)。また、基準プレート画像151、152の間の距離を取得して、これを距離基準値L0とする(ステップS13)。輝度基準値C1、C2及び距離基準値L0に関する情報は、補正基準情報41として記憶部40に保存される。
こうして、記憶部40に補正基準情報41を保存した状態で、硬貨識別処理が開始される。図7は、位置ずれや像倍率等を補正して行う硬貨識別処理を説明するためのフローチャートである。
まず、画像センサ10では、光源制御部34により、初期値として設定された発光量で光源13が点灯される。そして、硬貨100が無い状態で、画像取得部32により図4(c)に示した補正用画像63が取得される(ステップS21)。
取得した補正用画像63を利用して、図4(c)を参照しながら説明したように、輝度算出部33が、基準プレート画像251、252の中央画素の輝度値C11、C12を取得して(ステップS22)、これらの輝度値C11、C12と、輝度基準値C1、C2から光量比Kを算出する(ステップS23)。
次に、画像切出部35が、基準プレート画像251、252の間の距離L1を算出して(ステップS24)、この距離L1と距離基準値L0から像倍率Sを算出する(ステップS25)。また、画像切出部35は、基準画像61の切出基準X1、X2からのずれ量Dxを算出して(ステップS26)、補正用画像63から硬貨通過領域72の部分領域画像を切り出すための切出基準X3、X4の座標を決定する(ステップS27)。
次に、光源制御部34が、輝度算出部33から入力された光量比Kに基づいて、光源13の発光量を制御する(ステップS28)。そして、画像取得部32が、硬貨識別処理の処理対象となる硬貨100が搬送路25を搬送されてきたタイミングに合わせて、硬貨100を撮像して画像を取得する(ステップS29)。そして、図4(d)を参照しながら説明したように、画像切出部35が、取得した画像64から、ずれ量Dxに基づいて位置ずれを補正した切出基準X3、X4の間で、硬貨通過領域に対応する部分領域画像73を切り出す(ステップS30)。そして、画像補正部36が、算出した像倍率Sに基づいて、切り出した部分領域画像73の像倍率を補正する(ステップS31)。こうして、図4(d)に示す識別用画像74を得ることができる。
先にステップS21で取得した補正用画像に、硬貨粉によるゴミ等が写り込んだノイズが含まれている場合には、このノイズを除去する処理が行われる(ステップS32)。具体的には、図5を参照しながら説明したように、画像補正部36が、同図(a)に示すように基準画像上でノイズ80を示した背景画像75を、硬貨100を撮像して位置ずれ及び像倍率を補正した同図(c)に示す補正画像177から差し引いて、得られた画像を識別用画像178とする。
こうして得られた識別用画像が画像補正部36から硬貨識別部37に入力される。そして、硬貨識別部37が、入力された識別用画像を利用して、硬貨100の金種等を識別する識別処理を行う(ステップS33)。
硬貨識別処理の処理対象となる硬貨100が存在する間(ステップS34;No)、像倍率及び位置ずれを補正してノイズを除去した各硬貨100の画像を取得して、この画像に基づいて硬貨100の金種等を識別するステップS29〜S33の処理が繰り返される。そして、処理対象とする全ての硬貨100の処理が完了すると(ステップS34;Yes)、硬貨識別処理を完了する。
図7では、位置ずれ及び像倍率の補正量を先に求めてから(ステップS24〜S27)、その後に、これらの補正量を利用して、処理対象とする複数の硬貨100の識別処理を行う態様を示したが、処理順序がこれに限定されるものではない。例えば、処理対象とするそれぞれの硬貨100で位置ずれ及び像倍率の補正量を求める態様であっても構わない。図8は、処理対象とするそれぞれの硬貨100で位置ずれ及び像倍率の補正量を求めて行う硬貨識別処理を説明するためのフローチャートである。
なお、図8に示すフローチャートでは、図7との差違を示すため、対応するステップに図7と同じステップ番号を付しているが、各ステップはフローチャートに矢印で示した順で行われる。また、図8に示す各ステップの処理内容は図7で示した内容と同様であるため詳細な説明は省略する。
図8に示す硬貨識別処理では、処理開始後に、硬貨100が無い状態で画像を取得して(ステップS21)、この画像から輝度値C11、C12を取得して(ステップS22)、光量比Kを算出し(ステップS23)、算出した光量比Kに基づいて光源13を制御する(ステップS28)。そして、各硬貨100の画像を取得して(ステップS29)、位置ずれDx及び像倍率Sを求める処理を行い(ステップS24〜27)、求めた補正量に基づいて、位置ずれを補正した画像の切出処理(ステップS30)及び像倍率の補正処理(ステップS31)を行う。
また、画像にノイズが含まれている場合には、これを除去する処理が行われ(ステップS32)、得られた画像を利用して硬貨100の金種等を識別する処理が行われる(ステップS33)。そして、処理対象となる硬貨100が存在する間(ステップS34;No)、これらの処理(ステップS29、S24〜S27、S30〜33)が繰り返される。そして、処理対象とする全ての硬貨100の処理が完了すると(ステップS34;Yes)、硬貨識別処理を完了する。
図7に示す処理では位置ずれ及び像倍率の補正量を先に求めてから各硬貨100の識別処理を行うのに対して、図8に示す処理では各硬貨100の識別処理時に位置ずれ及び像倍率の補正量を求めるため、処理中に位置ずれや像倍率の変化が生じた場合でも、これを補正することができる。
なお、硬貨識別装置1が図7に示す処理及び図8に示す処理のいずれか一方の処理順でのみ処理を行う態様に限らず、両方の処理順からいずれか一方を選択して実行する態様であっても構わない。また、図7及び図8では、光源13の発光量を調整して画像上の輝度を補正する処理、撮像した画像上での部分領域画像の位置ずれを補正する処理、像倍率の変化を補正する処理及びノイズを除去する処理の全ての処理を示しているが、それぞれの処理は必要とされる場合にのみ実行されることは言うまでもない。
また、本実施形態では、X軸方向の位置ずれを補正する例を示したが、硬貨識別装置1では、同様の方法により、Y軸方向等、他の方向の位置ずれについても補正することができる。また、本実施形態では、位置ずれを補正して切り出した画像で像倍率を補正する例を示したが、像倍率を補正した後に、位置ずれを補正する態様であっても構わない。また、基準プレート51、52の形状は三角形や五角形等の多角形や円形であっても構わないし、基準プレート51、52の数についても3つ以上であっても構わない。上述した距離基準値及び輝度基準値の算出、これらの値を利用した像倍率や位置ずれの補正を上述した内容で実行可能であれば、基準プレート51、52が、本実施形態に示した例に限定されるものではない。
また、本実施形態では、距離基準値、輝度基準値等を基準画像上で求める方法を説明したが、これらの値については、例えば、製造時に、全て又は一部の硬貨識別装置1で基準温度等の所定条件下で実際に基準画像を撮像して求めた値を用いてもよいし、設計値、理論値等を用いてもよい。
上述してきたように、本実施形態によれば、温度変化に起因するレンズユニット12の屈折率の変化により像倍率が変化した場合や、レンズユニット12又は該レンズユニットを構成する個々のレンズが衝撃や振動によって位置ずれを起こした場合でも、硬貨100を撮像した画像を、補正基準情報41を利用して補正して、予め準備されたテンプレート42と比較可能な画像を取得することができる。このため、温度変化、衝撃、振動等による影響を受けることなく、硬貨100の金種等を正確に識別することができる。
また、像倍率や位置ずれの補正は、基準プレート51、52を撮像した画像を利用して行うため、画像補正用の基準媒体を準備したり、画像センサ10内に温度センサを設けたりする必要がない。また、計測温度に基づいて補正量を決定するために、事前に、温度と補正量の関係を示すデータを準備する必要がない。