JP2015055021A - 人工繊維布 - Google Patents
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Abstract
Description
人工繊維布の必要機能としては、欠損部を修復補正するための機械的な支持力、患部へのフィット性や固定性であり、必要性能としては、癒着防止性、体内に留置した人工繊維布由来の違和感や術後の異物反応(炎症反応、瘢痕組織形成等)、更には違和感や異物反応に由来した慢性的な痛みを引き起こさないこと等が挙げられる。
PP製の人工繊維布は、「強度や剛性が高く、手術時の取扱いに優れる」、また「繊維間空隙に生体組織が入り込みやすく、患部への固定性に優れる」等の特徴があるが、一方、「周辺組織に癒着しやすい」、「異物反応(炎症反応や瘢痕組織形成等)」が起きやすい等の問題がある。更にはPP製の人工繊維布は剛性の高い素材であるために、人工繊維布と生体組織との間に空孔部が生じやすい等、患部へのフィット性に欠ける。人工繊維布と生体組織との間に空孔部が生じると、例えば鼠径ヘルニア治療に用いられる場合、患部をメッシュで支持固定できないため再発が懸念され、創傷治癒目的の場合は回復の遅延に繋がり、治癒が遅れると炎症、化膿等のリスクが高まる等、さまざまな問題が起こる。また手術に際しては、できるだけ隙間が生じないように細心の注意を払って人工繊維布を患部に固定しなければならないので、外科医に過度の緊張を課すことになるし、細心の注意を払ったとしても結局は外科医のスキルに依存してしまう部分もあるので、患者の術後の経過及び外科医の負担軽減のためには人工繊維布自体が患部へのフィット性に優れていることが極めて重要である。
e−PTFE膜は、有孔性が低いために生体組織が内方成長しにくい構造となっており、生体組織との癒着が起きにくいという特徴を有するが、その反面患部への固定性に劣る。またe−PTFE膜は、柔軟性に欠けるので患部へのフィット性に欠け、体内留置後に違和感が残りやすい。
[1]単糸繊度が1dtex以下であり、かつ、総繊度が7dtex以上500dtex以下である極細繊維を20重量%以上含むことを特徴とする人工繊維布。
上記優れた性能を兼備する本発明の人工繊維布は、腹壁、隔膜、胸壁の解剖学的欠陥の修復、尿生殖器系の欠陥の補正、外傷によって痛んだ臓器(例えば、膵臓、肝臓、腎臓)の修復等の外科的治療のために有効に利用できる。
本発明においては、最終目的とする成分のみからなるポリマーを溶融紡糸し、引き続く延伸によって極細繊維を製造する、いわゆる直接溶融紡糸法を採用することが生体内での目的成分以外の物質の溶出等を抑制し、生物学的な安全性を維持するという観点から好ましい。例えば極細ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET)繊維を製造する場合、実質的にPETのみからなるポリマーを原料に用いる。溶融紡糸機は、乾燥機、押出機、紡糸頭を設けた公知の紡糸機を使用することができる。溶融されたポリマーは、紡糸頭に装着された紡口ノズルより吐出され、紡出直後に紡口表面下方に設けられた冷却風吹出し装置により冷却風を吹き付けて冷却固化され、マルチフィラメントとして紡糸される。ここで目的とする単糸繊度、総繊度範囲内に制御された極細ポリエステル繊維を紡糸するためには、冷却風吹出し装置を、吐出糸条を360°取り囲むように設置し、紡口ノズルから吐出される糸状ポリマー全てを均一に冷却することが重要である。
本発明の人工繊維布は、前記調製した極細繊維を20重量%以上の含有率で構成させることが必要であるが、その構造は適応される患部の位置や形状によって、織物や編物(立体編物を含む)、或いはその複合構造等任意に選択すれば足りる。したがって、その構造によって任意に加工機を選択し、従来既知の製織、製編技術に基づき適宜調整して設定することができる。例えば経て編地を生産する場合、ビームに必要な本数の繊維を一定張力で巻き取る製経工程後、ビームをトリコットたて編機やラッセルたて編機に設置して編地を編む。例えば、本発明の極細繊維と本発明の極細繊維以外の繊維(生体吸収性モノフィラメント等)と組み合わせる場合、人工繊維布の柔軟性と剛性、強度、ポアサイズ等バランスを考慮して編組織を調整する。製編後、編組織構造を固定するための熱セット工程を経るが、処理温度及び時間は極細繊維の熱特性によって決定すればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合、160℃〜190℃の温度範囲で5分間〜30分間の熱処理を行う。また製編後の最終工程として、オートクレーブ滅菌(115℃で5分間〜30分間)、乾熱滅菌(180〜190℃で5分間〜30分間)を行う。以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、物性の主な測定値は以下の方法で測定した。
還元粘度(ηsp/c)は、以下のとおり計測する。
・1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)0.25デシリットルにポリエチレンテレフタレート(PET)試料0.35gを室温で溶解して希釈溶液を調製する。
・ウベローデ粘度管(管径:0.03)を用いて希釈溶液とHFIP溶媒の落下秒数を25℃で計測し比粘度(ηsp)を求める。
・比粘度(ηsp)をポリマー濃度C(g/dl)で除して還元粘度ηsp/cを算出する。
(a)繊維表面に付着残存した成分の含有率P1
繊維の場合1cm長にカットしたもの、また布帛の場合1cm角にカットし、それを繊維状にほぐしたものを95℃熱水で30分間精錬して紡糸油剤を除去した後、105℃で3時間乾燥させ重量(W0)を測定する。前記繊維状物を浴比100の3%水酸化ナトリウム水溶液で80℃×45分間処理し、純水によるろ過洗浄を3回繰り返し、105℃×3時間乾燥させ重量(W1)を測定し、下記式(1)により繊維表面に付着残存した成分の含有率を算出する。
P1(重量%)=(W0−W1)/W0×100 …式(1)
(a)で処理した繊維状物をd−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールに1〜2vol%で溶解し(室温)、1H−NMR(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCEII AV400M)を用いて測定した。NMRチャートからPET成分以外のシグナルの有無を確認すると共に、PET成分以外のシグナルが認められた場合、繊維表面付着成分及び/又は共重合成分の特定及び含有率(P2)をNMRチャートから算出する。
上記(a)及び(b)を加算してPET以外の成分含有率Pとする。
総繊度(dtex)は、繊維束を1周1mのかせに50回転巻き取り、その糸条の重量を計測し、それを200倍した値である。単糸繊度(dtex)は、前記方法で求めた総繊度を単糸数で除した値である。
引張強度及び引張伸度は、JIS−L−1013に準じて測定した。
熱収縮応力測定には、熱応力測定装置(カネボウエンジニアリング株式会社製KE−2S)を用いた。繊維サンプルを周長100mmの輪になるよう結び、50mmの間隔が空いている上部フックと下部フックにセットする。初期荷重が0.05cN/dtexになるようにフック間距離を微調整し、定長状態のまま、150℃/分の昇温速度で30℃から260℃まで昇温する。ここで、繊維サンプルにより発生する応力を記録し、横軸に温度、縦軸に応力をプロットし、温度―熱収縮応力曲線を描く。80℃から200℃の間の熱収縮応力の最大値を読み取り、熱収縮応力とした。
DSC(Perkin Elmer社製Pyris1)を用いて測定を行った。極細PET繊維試料約5mgをアルミニウム製試料容器に封じ、昇温速度20℃/分、窒素気流中でDSC曲線を測定した。標準物質としてはインジウムを用いた。下記式(2)で結晶化度を算出する。平衡融解熱量としては、140J/gを用いた。
結晶化度(%)=(融解熱量−冷結晶化熱量)/(平衡融解熱量)×100 …式(2)
繊維表層から0.1μmの領域の結晶化度を求めるために、以下に示す方法で繊維表層から0.1μmの領域のアルカリエッヂング処理を行い、アルカリエッヂング処理前後の結晶化度より繊維表層0.1μmの領域の結晶化度を算出した。
温度23℃、湿度50%に制御された恒温恒湿室で一昼夜以上風乾して調湿した極細PET繊維の重量を測定した(重量Y0とした)。加水分解促進剤として0.1wt%のセチルトリメチルアンモニウムブロミドを含有する1.9mol/lの水酸化カリウム水溶液に所定時間浸漬させ、アルカリエッヂング処理を行った。その後、試料を取り出し、0.1mol/lの塩酸水溶液と純水で十分に洗浄し、再び恒温恒湿室で一昼夜以上風乾して調湿して、アルカリエッヂング処理後の重量を測定した(重量Y1とした)。アルカリエッヂング処理前後の重量保持率はY1/Y0で表される。アルカリエッヂングによる重量保持率は、繊維の単糸繊度や浴比によって減量速度は異なるが、アルカリ溶液への浸漬時間を変えることで容易にコントロールできた。また、繊維表層から0.1μmの領域のアルカリ処理に対応する重量保持率は繊維の単糸繊度と重量保持率から計算することができた。
たとえば、単糸繊度0.13dtexの極細繊維の場合、繊維表層0.1μmの領域のアルカリエッヂング処理前後の重量保持率は89%である。
重量保持率Y1/Y0のアルカリエッヂング処理前後の結晶化度より表層から0.1μmの領域の結晶化度 Xsを下記式(3)より算出した。
Xs(%)=(Xt−Y1/Y0×Xc)÷(1−Y1/Y0) …式(3)
{式中、Xsは表層から0.1μmの領域の結晶化度、Xtはアルカリエッジング前の結晶化度、Xcは重量保持率Y1/Y0のアルカリエッヂング処理後の結晶化度である。}
無作為に選定した実験者を使って、人工繊維布の風合いやフィット性から以下の評価基準(指標)に従って柔軟性を評価し、平均値を算出した。平均3点以上を合格とした。
・風合い、フィット性共に非常に良好 : ◎(5点)
・風合い、フィット性共に良好 : ○(3点)
・風合いが硬い、或いはフィット性が劣る : ×(1点)
JIS−L−1096に準じて測定した。
原料にポリエチレンテレフタレート(PET)を用いて、直接溶融紡糸法を採用し、かつ紡糸と延伸を連続して行うスピンドローテイクアップ法にて以下の表1に記載の極細繊維A〜C及び通常繊維を得た。ここで、極細繊維の紡糸条件は以下のとおりであった。
・紡糸温度 : 紡口表面温度を原料PETの重合度に応じて275〜303℃になるよう押出し温度、スピンヘッド温度をコントロールする。
・糸条の冷却 : 仰角37°の吹出し口を有する冷却風吹出し装置を用いた。
・紡糸速度 : 2000m/min
・延伸温度 : 93℃
・熱セット温度 : 150℃
・延伸倍率 : 2.95倍
(通常繊維は、冷却風吹出し装置を使わない以外は極細繊維の紡糸条件と同様の条件で得た。)
表1に記載した原糸を用い、ラッセルたて編機にて、以下の条件で人工繊維布を製造した。
(編組織)
・ゲージ数:18(Gauges/inch)
・G1:10 01 10 12 21 12
・G2:00 11 00 22 11 22
・G:ガイドバー
(精錬条件)
・98℃の炭酸ナトリウム水溶液(濃度:5g/l)中で1時間撹拌洗浄。
・98℃の超純水で30分の撹拌洗浄を3回繰り返す。
・室温で2軸方向に定長乾燥する。
(熱セット条件)
・180℃で20分間定長熱処理する。
(滅菌処理条件)
・185℃の恒温槽内で30分間フリー熱処理する。
通常繊維のみを用いた人工繊維布は、機械物性は満足するものの、柔軟性に劣るものであった。逆に重合度の低い極細繊維Bからなる人工繊維布は、柔軟性は優れているものの、布帛強度に劣るものであった。本発明の規定を超える総繊度の極細繊維を用いた人工繊維布は、柔軟性に劣っていた。
Claims (7)
- 単糸繊度が1dtex以下であり、かつ、総繊度が7dtex以上500dtex以下である極細繊維を20重量%以上含むことを特徴とする人工繊維布。
- 前記極細繊維の引張強度が3.5cN/dtex以上であり、かつ、引張伸度が25%以上である、請求項1に記載の人工繊維布。
- 前記極細繊維が、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、及びポリテトラフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の人工繊維布。
- 前記極細繊維がポリエステルであり、かつ、還元粘度(ηsp/c)が0.80dl/g以上である、請求項3に記載の人工繊維布。
- 前記極細繊維の98重量%以上がポリエチレンテレフタレート成分である、請求項4に記載の人工繊維布。
- 前記極細繊維の含有率が20重量%以上70重量%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の人工繊維布。
- 前記極細繊維に加え、ラクチド(d−体、l−体、及びメソ体のラクチドを含む)、グリコリド(グリコール酸を含む)、ε−カプロラクトン、p−ジオキサン(1,4−ジオキサン−2−オン)、トリメチレン・カーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)、トリメチレン・カーボネートのアルキル誘導体、α−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、1,4−ジオキセパン−2−オン(その二量体の1,5,8,12−テトラオキサシクロテトラデカン−7,14−ジオン)、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オンのホモポリマー及びこれらのコポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノフィラメントをさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の人工繊維布。
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