JP2015051441A - 高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤ - Google Patents

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Abstract

【課題】 780MPa級高張力鋼のエレクトロスラグ溶接においても、母材と同等以上の強度と安定した優れた靭性の溶接金属が得られる高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤを提供する。
【解決手段】 ワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.1〜0.6%、Mn:1.50〜1.95%、Cu:0.15〜0.45%、Ni:2.5〜3.5%、Cr:0.35〜0.65%、Mo:0.15〜0.70%、Ti:0.02〜0.15%を含有し、Al:0.010%以下、P:0.020%以下、S:0.020%以下、N:0.0070%以下、O:0.010%以下に制限し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴する高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤ。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高張力鋼のエレクトロスラグ溶接に用いられるワイヤに関し、特に、780MPa級の高張力鋼板を用いる建築、橋梁、海洋構造物等の各種溶接構造物を建造する際のエレクトロスラグ溶接において、安定した良好な靭性を有する溶接金属が得られる高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤに関するものである。
エレクトロスラグ溶接は、大入熱で1パス溶接が可能なために他の溶接方法に比べて高能率な溶接が可能であり、建築、橋梁などの溶接構造物における鉄骨のダイヤフラムなどを立向溶接する場合に多く用いられている。
近年、構造物の大型化に伴う鋼材の高強度化および高靭性化が検討されており、780MPa級鋼材が用いられるようになり、そのため780MPa級鋼を高能率に溶接できるエレクトロスラグ溶接用材料の高強度化および高靭性化に関する要望が極めて大きい。
従来、高強度鋼のエレクトロスラグ溶接用材料は、例えば、特許文献1に開示されているように、Moと共にCuを添加することによって溶接金属における靭性のばらつきを抑制するという技術の記載がある。しかし、特許文献1に記載の技術は、高HAZ靭性鋼の600MPa級鋼を対象としたもので、さらに高強度の鋼板を溶接する場合、高靭性を得ることはできない。
また、特許文献2には、エレクトロスラグ溶接において、Mo−Ni−Ti−B系ワイヤの表面に無機物かK化合物を含む潤滑混合物を塗布してワイヤ送給性を維持すると共に620MPa以上の引張強度と0℃における靭性を確保する技術の開示がある。しかし、引用文献2に記載の技術は、ワイヤ送給性の維持は確保できるが、780MPa級高張力鋼に適用した場合、強度と靭性の確保が困難となる。
さらに、特許文献3には、Mo−Ni−Ti−B系のワイヤを用いて400〜740MPa級の厚板の高張力鋼を400kJ/cmを超える大入熱の溶接入熱でエレクトロスラグ溶接して、溶接金属中のBと酸素量を適切に規定することによって靭性を確保するという技術の開示がある。しかし、特許文献3に記載の溶接金属のBの靭性改善技術を780MPa級高張力鋼へ適用した場合には、その効果は得られない。
このように、780MPa級高張力鋼のエレクトロスラグ溶接においては、強度と靭性の両方を確保することは困難であるという問題があった。
特開2005−349466号公報 特開2004−58142号公報 特開2009−202213号公報
そこで、本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、780MPa級高張力鋼のエレクトロスラグ溶接においても、母材と同等以上の強度と安定した優れた靭性の溶接金属が得られる高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために、エレクトロスラグ溶接用ワイヤ成分について着目し、ワイヤ成分について種々試作して検討した。その結果、780MPa級高張力鋼をエレクトロスラグ溶接した際に、溶接金属に適正な強度と同時に安定した優れた靭性を同時に達成させるためには、C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびTi量のそれぞれの適正化が有効であることを知見した。
本発明は上記知見に基づいて完成したもので、その発明の要旨は、以下の通りである。
(1) ワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.02〜0.10%、
Si:0.1〜0.6%、
Mn:1.50〜1.95%、
Cu:0.15〜0.45%、
Ni:2.5〜3.5%、
Cr:0.35〜0.65%、
Mo:0.15〜0.70%、
Ti:0.02〜0.15%を含有し、
Al:0.010%以下、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
N:0.0070%以下、
O:0.010%以下に制限し、
残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴する高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤにある。
(2) また、さらに、VおよびNbの1種または2種:0.005〜0.05%を含有することも特徴とする高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤにある。
本発明の高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤによれば、780MPa級の引張強度を確保し、安定した優れた靭性および欠陥のない高品質な溶接金属が得られる高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤを提供することができる。
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤは、各成分組成それぞれの単独および共存による相乗効果によりなし得たものであるが、以下にそれぞれの各成分組成の添加理由および限定理由を述べる。なお、以下においては、溶接用ワイヤの化学成分をワイヤの全質量に対する割合である質量%で表わすものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して説明する。
[C:0.02〜0.10%]
Cは、固溶強化により溶接金属の強度を向上するために必要な元素である。しかし、Cが0.02%未満であるとこの効果が得られない。一方、Cが0.10%を超えると、溶接金属の靭性を低下させる。したがって、Cは0.02〜0.10%とする。
[Si:0.1〜0.6%]
Siは、溶接金属の脱酸のために添加する。Siが0.1%未満であると、溶接金属が脱酸不足となり靭性が低下する。一方、Siが0.6%を超えると、靭性に有害な島状マルテンサイトの増加を促進して溶接金属の靭性が低下する。したがって、Siは0.1〜0.6%とする。
[Mn:1.50〜1.95%]
Mnは、溶接金属の強度の向上およびSiと同様に主要な脱酸剤として添加する。Mnが1.50%未満であると、溶接金属の十分な脱酸作用が得られず酸素量が多くなって靭性が低下する。また、十分な強度が得られない。一方、Mnが1.95%を超えると、溶接金属が粗大なベイナイト組織となって靭性が安定して得られない。したがって、Mnは1.50〜1.95%とする。
[Cu:0.15〜0.45%]
Cuは、析出強化作用を有し、変態温度を低下させ組織を微細化して靭性を安定させる。Cuが0.15%未満であると、安定した靭性が得られない。一方、Cuが0.45%を超えると、析出脆化が生じて靭性が低下する。したがって、Cuは0.15〜0.45%とする。
なお、防錆のためにワイヤ表面にCuめっきが施されている場合、このCuめっき量も本発明におけるCu含有量に含まれる。
[Ni:2.5〜3.5%]
Niは、変態温度を低下させて組織を微細化すると共に、溶接金属中に固溶して靭性を低下させることなく強度を高める作用を有する。Niが2.5%未満であると、靭性の低下を防止する効果が十分に得られない。一方、Niが3.5%を超えると、粒界が脆化して靭性が低下する。したがって、Niは2.5〜3.5%とする。
[Cr:0.35〜0.65%]
Crは、変態温度を低下させ、組織を微細化して靭性を向上させる作用を有する。Crが0.35%未満であると、これらの効果が十分に得られない。一方、Crが0.65%を超えると、溶接金属の硬化が著しくなり靭性が低下する。したがって、Crは0.35〜0.65%とする。
[Mo:0.15〜0.70%]
Moは、NiおよびCrと同様に、変態温度を低下させ、組織を微細化して靭性を向上させる。Moが0.15%未満であると、これらの効果が十分に得られない。一方、Moが0.70%を超えると、靭性が安定して得られない。したがって、Moは0.15〜0.70%とする。
[Ti:0.02〜0.15%]
Tiは、脱酸剤として作用するとともに溶接金属中にTiの微細酸化物を生成し溶接金属の靭性を向上させる。Tiが0.02%未満であると、靭性が安定して得られない。一方、Tiが0.15%を超えると、固溶Tiが多くなって靭性が低下する。したがって、Tiは0.02〜0.15%とする。
なお、Alは、溶接金属中に非金属介在物を形成して靭性を低下させるので0.010%以下に制限する。PおよびSは、不純物として含有され溶接金属の靭性を低下させるため少ない方が好ましく、その含有量をそれぞれ0.020質量%以下に制限するのが好ましい。
Nは、不可避的不純物である。溶接金属の靭性を安定して向上させるには、溶接金属中の固溶Nを低下させることが必須となる。Nが0.0070%を超えると、溶接金属の靭性が低下するので、0.0070%以下に制限する。Oは、溶接金属中にSiまたはMn等との非金属介在物などを形成して靭性を低下させるので0.010%以下に制限する。
[VおよびNbの1種または2種:0.005〜0.05%]
VおよびNbは、共に溶接金属に含有させると溶接金属の組織を微細化して靭性を安定させるに有効な成分であり、必要に応じて添加することができる。VおよびNbの1種または2種の合計が0.005未満であると、靭性を安定にする効果は得られない。一方、VおよびNbの1種または2種の合計が0.05%を超えると、溶接金属の強度が過大となるとともに靭性を安定させる効果が低下する。したがって、VおよびNbの1種または2種を靭性の安定化のために添加する場合は、0.005〜0.05%とする。
また、上記に述べた有効成分の残部はFeおよび不可避不純物である。
なお、エレクトロスラグ溶接で本発明のワイヤと組み合わせるフラックスの成分は、SiO:25〜35%、CaO:6〜17%、MgO:10〜20%、MnO:6〜18%、Al:5〜18%、CaF:10〜20%、TiO:1〜6%で、残部は不可避不純物からなる溶融型フラックスで、粒度構成は850μm以下であることが好ましい。
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
表1に示す各種化学成分のワイヤ径1.6mmのワイヤを試作し、表2に示す成分の板厚25mmの780MPa級鋼板(新日鐵住金(株)規格 WEL−TEN780C相当鋼板)を、JIS Z 3353に準じてI型の開先形状とし、水冷銅当て金を使用して、非消耗電極式エレクトロスラグ溶接装置を用いて表3に示す溶接条件で溶接した。なお、非消耗電極式エレクトロスラグ溶接において、表1に示すワイヤと組み合わせたフラックス成分を表4に示す。




















Figure 2015051441
Figure 2015051441
Figure 2015051441

Figure 2015051441
溶接金属の機械的性能の調査は、溶接試験体の板厚1/2tを中心に引張試験片(JIS Z 22241 10号)および衝撃試験片(JIS Z 2242 Vノッチ試験片)を採取して機械試験を実施した。
引張強さの評価は、780MPa級高張力鋼の引張強さに相当する780〜920MPaを良好とした。また、靭性の評価は、−5℃におけるシャルピー衝撃試験を各5本実施し、吸収エネルギーが平均値70J以上、最低値50J以上を良好とした。そして、総合評価として、引張強さ及び吸収エネルギーの値が良好な場合を○、良好でない場合を×とした。これらの調査結果を表5にまとめて示す。































Figure 2015051441
表1および表5中ワイヤ記号W1〜W8が本発明例、ワイヤ記号W9〜W23は比較例である。本発明例であるワイヤ記号W1〜W8は、ワイヤのC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびTi量が適正であるので、溶接金属の引張強さ、吸収エネルギーの平均値および最低値ともに良好であり、極めて満足な結果であった。
なお、ワイヤ記号W1、W3、W5およびW6は、VおよびNbの1種又は2種の合計が適量であるので、吸収エネルギーのばらつきが非常に少ない結果であった。
比較例中ワイヤ記号W9は、Cが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。また、Tiが多いので、吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W10は、Cが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W11は、Siが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W12は、Siが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W13は、Mnが低いので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W14は、Mnが高いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W15は、Cuが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの最低値が低値であった。なお、Vの添加量が少ないので、溶接金属の吸収エネルギーを安定にする効果は得られなかった。
ワイヤ記号W16は、Cuが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W17は、Niが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W18は、Niが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W19は、Crが少なく、Nが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W20は、Crが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W21は、Moが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーの平均値および最低値ともに低値であった。
ワイヤ記号W22は、Moが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの最低値が低値であった。また、VとNbの合計の添加量が多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーを安定にする効果は得られなかった。
ワイヤ記号W23は、Tiが少なく、Nが多いので、溶接金属の吸収エネルギーの最低値が低値であった。
以上のように、本発明の高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤによれば、780MPa級の強度を確保し、優れた靭性を有する溶接金属が得られることが確認できた。

Claims (2)

  1. ワイヤ全質量に対する質量%で、
    C:0.02〜0.10%、
    Si:0.1〜0.6%、
    Mn:1.50〜1.95%、
    Cu:0.15〜0.45%、
    Ni:2.5〜3.5%、
    Cr:0.35〜0.65%、
    Mo:0.15〜0.70%、
    Ti:0.02〜0.15%を含有し、
    Al:0.010%以下、
    P:0.020%以下、
    S:0.020%以下、
    N:0.0070%以下、
    O:0.010%以下に制限し、
    残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴する高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤ。
  2. ワイヤ全質量に対する質量%で、さらに、VおよびNbの1種または2種:0.005〜0.05%を含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力鋼のエレクトロスラグ溶接用ワイヤ。
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