従来、図4に示すように、低圧鋳造に用いられる鋳造用装置41として、鋳造用金型42と、鋳造用金型42の下方に設けられ、溶湯Mが加温保持される保持炉43とを備えるものが知られている。
鋳造用金型42は、上型44と下型45とを備え、上型44と下型45との間に鋳造品の外形に沿う形状のキャビティ46が形成される。ここで、上型44は可動ダイベース47に装着されて、図示しないアクチュエータ等により上下動自在とされており、下型45は保持炉43の上部開口部を閉蓋するダイベース48に固定されている。
下型45はキャビティ46に連通する湯口49を備えており、湯口49には湯口スリーブ50が着脱自在に装着されている。湯口スリーブ50はストーク51に接続されており、ストーク51はダイベース48を上下に貫通して備えられ、下部は保持炉43内に加温保持されている溶湯M内に挿入されている。湯口スリーブ50とストーク51との間には、図示しない中間ストークが介装されていてもよい。
鋳造用装置41によれば、図示しない圧入口から比較的低圧の圧縮空気等の気体を保持炉43内に供給し、溶湯Mの液面を加圧することにより、溶湯Mをストーク51内に上昇せしめ、湯口スリーブ50を介してキャビティ46内に圧入する。そして、前記圧縮空気等の気体による加圧状態を維持したまま、キャビティ46内の溶湯Mを冷却させて凝固させることにより、鋳造品を得ることができる。
キャビティ46内の溶湯Mが凝固した後、前記加圧を解除すると、湯口スリーブ50内の未凝固の溶湯Mはストーク51を介して保持炉43に戻される。また、前記鋳造品は、上型44を上方に移動させて鋳造用金型42を型開きすることにより取出される。
ところで、鋳造用金型42では、前記のようにして溶湯Mをキャビティ46内に圧入したときに、湯口49付近の溶湯Mが過早に冷却されて凝固しやすいという問題がある。湯口49付近の溶湯Mが過早に凝固すると、それ以上キャビティ46内に溶湯Mが供給されないので、得られた鋳造品に鋳巣が生じることがある。
前記問題を解決するために、例えば、湯口スリーブ50と湯口49との間に断熱材を配設した鋳造用金型42が知られている(例えば、特許文献1参照)。或いは、湯口スリーブ50を内筒と外筒とから構成し、内筒をセラミックスとし、外筒を金属とした鋳造用金型42が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、前記従来の鋳造用金型において、湯口スリーブと湯口との間に断熱材を配設すると、構造が複雑化してコスト増が避けられないという不都合がある。また、前記従来の鋳造用金型において、湯口スリーブをセラミック製の内筒と金属製の外筒とにより構成するときには、材料の相違による熱膨張の差により該湯口スリーブが破損しやすくなったり、溶湯の漏洩が生じることがあるという不都合がある。
本発明は、かかる不都合を解消して、安価で湯口スリーブの破損や溶湯の漏洩を生じることなく、湯口付近の溶湯が過早に冷却されることを防止することができる鋳造用金型を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために、本発明は、上型と、下型と、該上型と該下型との間に形成される鋳造品の外形に沿う形状のキャビティと、該下型に設けられ該キャビティに連通する湯口と、該湯口に着脱自在に装着される湯口スリーブと、該湯口スリーブに接続されて該湯口スリーブに溶湯を供給するストークとを備える鋳造用金型において、該湯口のキャビティ側開口部に内壁面から該湯口の軸方向に突出して形成され、該湯口スリーブのキャビティ側端部が当接されるフランジ部を備えることを特徴とする。
本発明の鋳造用金型では、前記湯口スリーブのキャビティ側端部が比較的高温である湯口のキャビティ側開口部に形成されたフランジ部に当接されている。従って、前記下型に奪われる熱量を減少させ、前記湯口スリーブを高温に保つことができる。
従って、本発明の鋳造用金型によれば、従来技術のような断熱材を配設する必要がないので安価であり、前記湯口スリーブが単一の部材により構成されるので該湯口スリーブの破損や溶湯の漏洩を生じることなく、湯口付近の溶湯が過早に冷却されることを防止することができる。
本発明の鋳造用金型は、前記湯口スリーブの外周面に形成され前記湯口の内壁面に当接して、該湯口スリーブの該湯口に対する当接位置を規定する位置決めリブを備えることが好ましい。前記湯口スリーブは、位置決めリブが前記湯口の内壁面に当接されることにより、前記フランジ部に対して正確に位置決めされ、キャビティ側端部を該フランジ部に確実に当接させることができる。この結果、前記湯口スリーブは、前記フランジ部に対する接触面積を小さくすることができ、該フランジ部から前記下型への伝熱量を減少させることができる。
また、本発明の鋳造用金型において、前記位置決めリブは、前記湯口スリーブの外周面の複数箇所に互いに独立に形成されていることが好ましい。前記湯口スリーブは、前記位置決めリブが前記湯口の内壁面に当接されることにより、該位置決めリブを介して前記下型に熱が奪われることになる。そこで、前記位置決めリブを互いに独立に複数設けることにより、前記湯口の内壁面に対する接触面積を低減し、前記下型への伝熱を抑制することができる。
また、本発明の鋳造用金型において、前記湯口スリーブは、該湯口スリーブより伝熱性の低い材料からなる接続部材を介して前記ストークに接続されていることが好ましい。前記湯口スリーブは、前記接続部材を介して前記ストークに接続されていることにより、該ストークへの伝熱を抑制することができる。
また、本発明の鋳造用金型において、前記湯口スリーブは、前記下型と同一の材料により形成されていることが好ましい。この結果、前記湯口スリーブは、前記下型との間で熱膨張の差を無くすことができ、該湯口スリーブの破損や溶湯の漏洩を確実に防止することができる。
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
図1に示す本実施形態の鋳造用装置1は、例えば内燃機関のシリンダヘッドの低圧鋳造に用いられる装置であり、鋳造用金型2と、鋳造用金型2の下方に設けられ、アルミニウム等の溶湯Mが加温保持される保持炉3とを備えている。
鋳造用金型2は、上型4と下型5とを備え、上型4と下型5との間に鋳造品としての前記シリンダヘッドの外形に沿う形状のキャビティ6が形成される。ここで、上型4は可動ダイベース7に装着されて、図示しないアクチュエータ等により上下動自在とされており、下型5は保持炉3の上部開口部を閉蓋するダイベース8に固定されている。
下型5はキャビティ6に連通する湯口9を備えており、湯口9には湯口スリーブ10が着脱自在に装着されている。鋳造用金型2では、湯口スリーブ10を湯口9に着脱自在とすることにより、湯口スリーブ10に損傷が生じた場合には、下型5全体を修理又は破棄することなく湯口スリーブ10のみを交換すればよいので好都合である。
本実施形態では下型5の2箇所に湯口9が備えられており、それぞれの湯口9に湯口スリーブ10が装着されている。ここで、湯口9のキャビティ6側の開口部には、内壁面から湯口9の軸方向に突出して形成されたフランジ部9aが備えられており、湯口スリーブ10はキャビティ6側の端部がフランジ部9aに当接されている。
また、湯口スリーブ10はその下端部が中間ストーク11に接続されており、ダイベース8を上下に貫通する中間ストーク11を介してストーク12に連通している。ストーク12はその下部が保持炉3に加温保持される溶湯M中に挿入されている。鋳造用金型2において、中間ストーク11はストーク12の一部を形成するものである。
鋳造用金型2において、上型4と下型5とは例えばSKD61等の鋼材により形成されており、湯口スリーブ10も上型4及び下型5と同一の材料により構成されている。また、中間ストーク11とストーク12とは、例えばFC250等の鋳鉄系材料により構成されている。
本実施形態の鋳造用装置1では、図示しない圧入口から比較的低圧の圧縮空気等の気体を保持炉3内に供給し、溶湯Mの液面を加圧することにより、溶湯Mをストーク12及び中間ストーク11内に上昇せしめ、湯口スリーブ10を介してキャビティ6内に圧入する。そして、前記圧縮空気等の気体による加圧状態を維持したまま、キャビティ6内の溶湯Mを冷却させて凝固させることにより、鋳造品としての前記シリンダヘッドを得ることができる。
キャビティ6内の溶湯Mが凝固した後、前記加圧を解除すると、湯口スリーブ10内の未凝固の溶湯Mは中間ストーク11及びストーク12を介して保持炉3に戻される。また、前記鋳造品は、上型4を上方に移動させて鋳造用金型2を型開きすることにより取出される。
本実施形態の鋳造用装置1によれば、前記のようにして溶湯Mをキャビティ6内に圧入し、キャビティ6内で冷却させて凝固させる際に、湯口スリーブ10がキャビティ6側の端部によりフランジ部9aに当接されている。湯口スリーブ10は溶湯Mと接しており、下型5に比較して高温である。
この結果、鋳造用金型2は、湯口9付近の溶湯Mが過早に冷却されて凝固することを防止することができ、鋳巣の無い優れた品質の鋳造品を得ることができる。
また、図2(a)に拡大して示すように、湯口スリーブ10は、キャビティ6側から中間ストーク11側に向かって次第に縮径する第1のテーパ部10aと、第1のテーパ部10aの下端部に連接してキャビティ6側から中間ストーク11側に向かって次第に拡径する第2のテーパ部10bとを備えている。そして、湯口スリーブ10は、第1のテーパ部10aの外周面に複数の位置決めリブ13を備えていることが好ましい。
また、図2(b)に示すように、複数の位置決めリブ13は、互いに独立に、第1のテーパ部10aの外周面に等間隔で備えられている。位置決めリブ13は、第1のテーパ部10aの外周面に例えば中心角120°毎に3箇所、或いは中心角90°毎に4箇所形成することができる。尚、図2(b)では、位置決めリブ13を、第1のテーパ部10aの外周面に中心角120°毎に3箇所設けた場合を示している。
位置決めリブ13によれば、湯口9の内壁面に当接されることにより、湯口スリーブ10のキャビティ6側の端部(第1のテーパ部10aの開口端部)のフランジ部9aに対する当接位置を規定して、該端部をフランジ部9aに確実に当接させることができる。
このとき、位置決めリブ13は、下型5内部に配設されている冷却管14から離間する位置に配置されることが好ましい。例えば、複数の位置決めリブ13を、互いに独立に、第1のテーパ部10aの外周面に等間隔で設ける場合には、各位置決めリブ13が湯口9の内壁面の冷却管14に最も近接する位置Aから離間する位置に配置されることが好ましい。このようにすることにより、位置決めリブ13が冷却管14により下型5を介して冷却されることを抑制することができる。
また、湯口スリーブ10は、図3に示すように、湯口スリーブ10よりも伝熱性の低い材料からなる接続部材15を介して中間ストーク11に接続されていることが好ましい。湯口スリーブ10がSKD61からなり、中間ストーク11がFC250等の鋳鉄系材料からなる場合、接続部材15は例えばFC250等の鋳鉄系材料により形成することができる。この結果、湯口スリーブ10は、中間ストーク11への伝熱を低減することができ、フランジ部9aへの伝熱量をさらに増大させることができる。
本実施形態の鋳造用金型2は、下型5の2箇所に湯口9を備えているが、下型5は1箇所のみに湯口9を備えていてもよく、3箇所以上に湯口9を備えていてもよい。
また、本実施形態の鋳造用金型2において、湯口スリーブ10は中間ストーク11を介してストーク12に接続されているが、中間ストーク11を介することなくストーク12に直接接続されていてもよい。
また、下型5、湯口スリーブ10、中間ストーク11、接続部材15のそれぞれは、低熱伝達部材を介して接合されていてもよい。