JP2015047260A - 粒子線照射システムとその運転方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】出射ビームエネルギーの変更制御とともに運転周期の更新、ビームの出射を短時間で実現する粒子線照射システムを提供する。【解決手段】シンクロトロン13を構成する機器の制御データを、初期加速制御データと、複数の出射制御データと、複数の出射制御データ間を接続する複数のエネルギー変更制御データを組み合わせるとともに、出射制御データ内に複数の出射制御データに対応した出射条件設定データと出射条件解除データを有するものとする。【選択図】 図1

Description

本発明は、陽子や重イオンなどの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を利用した粒子線治療に好適な粒子線照射システムに関し、ビームエネルギーの変更制御と運転周期の更新を短時間で実現可能な粒子線照射システムとその運転方法に関する。
がんの放射線治療として、陽子または重イオン等のイオンビームを患者のがんの患部に照射して治療する粒子線治療が知られている。イオンビーム照射法として、非特許文献1に開示されているような、スキャニング照射法がある。
また、スキャニング照射法で要求されるビームエネルギーの変更制御をイオンビーム発生装置としてシンクロトロンを採用した場合に短時間で実現する制御法として、特許文献1、特許文献2および、非特許文献2に開示されているような、イオンシンクロトロンで一回の運転周期内で複数のエネルギーのイオンビームの照射を実現する多段出射制御運転がある。
特許第4873563号公報 特開2011−124149号公報
レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ 64巻8号(1993年8月)の第2084〜2090頁(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8 (AUGUST 1993) P2074-2093) ニュークリア インスツルメンツ アンド メソッズ イン フィジックス リサーチ A624号(2010年9月)の第33〜38頁(Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A624 (2010) 33-38)
スキャニング照射法において、患部の深さ方向の照射野(以下、レイヤーと記載)への照射制御は、照射するイオンビームのエネルギーを制御することで実現する。そのため、スキャニング照射法を適用した際の線量率を向上するためには、イオンビーム発生装置から供給するイオンビームのエネルギー変更は短時間で実現する必要がある。また、スキャニング照射法では、患部の大きさ(体表面からの深さ)に応じて照射するビームエネルギーを制御する必要があるため、照射する患者毎ないし照射する患部毎に、照射するビームのエネルギー組合せを制御する必要がある。
イオンビーム発生装置としてシンクロトロンを採用した場合、入射・加速・出射・減速といった一連の運転を一回の運転周期として制御する。スキャニング照射法のように、イオンビームのエネルギー変更制御を繰り返し実施する際には、シンクロトロンは運転周期の更新が必要なため、エネルギーの変更時間が掛かる課題があった。この対策として特許文献1および非特許文献2に示されるような一回の運転周期内で複数のエネルギーのビームを出射する多段出射運転が示されている。例えば、非特許文献2では、シンクロトロンで照射可能な全てのエネルギー範囲を一つに纏めた運転制御データを用意し、ビームを照射するエネルギーでのみフラットトップを延長してビームを出射することで、一回の運転制御で照射する全てのエネルギーのビームを患部に照射が可能となる。さらに、一回の運転制御で全てのエネルギーのビームが照射可能となるため、シンクロトロンは常に同じ運転制御データで照射が実現できるため、粒子線治療システムにおけるシンクロトロンの運転制御が簡素になる効果がある。
しかし、特許文献1および非特許文献2に示されている運転制御を効果的に実現するには、シンクロトロンの蓄積ビーム電荷量に対して、一回の運転周期で患部に照射する全てのエネルギーの照射に十分な電荷量が求められる。例えば、シンクロトロンの加速制御時に何らかの原因で治療照射に必要な蓄積ビーム電荷量が得られなかった場合、予め設定した照射エネルギー範囲の途中でシンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が枯渇してしまう。シンクロトロン内の蓄積ビーム電荷量が枯渇した場合には、イオンビームの照射を中断して出射制御から減速制御に遷移し、シンクロトロンの運転制御を更新する必要がある。シンクロトロンの運転制御データとして、シンクロトロンで照射可能な全てのエネルギー範囲を一つに纏めた運転制御データを適用した場合、設定値の連続性を担保するため当該出射エネルギーから減速制御に直接遷移できない。そのため、当該出射エネルギーから減速制御に至る間のエネルギー変更制御データの更新が必要となる。この当該出射エネルギーから減速制御へ遷移するための時間が、線量率を低下させ治療時間を短縮できない要因の一つに挙げられる。同様に、粒子線治療装置を構成する機器に異常が生じイオンビームの照射を中断した場合にも、当該出射エネルギーから減速制御に直接遷移できない課題があった。
また、シンクロトロンで照射可能な全てのエネルギー範囲を一つに纏めた運転制御データを適用した場合、患部の厚みに合わせた吸収線量範囲(拡大ブラックピーク(Spread−Out Bragg Peak)以下、SOBPと表記)が狭い照射条件では、ビームの照射時間に対して、ビーム照射に寄与しない無駄時間である、シンクロトロンの入射ビームエネルギーから照射開始エネルギーまでの制御時間および、照射終了エネルギーから減速終了エネルギーまでの制御時間の割合が多くなる傾向にあるため、所望のエネルギー範囲のビーム照射を短い運転周期で行うことができず、これも線量率を低下させ治療時間を短縮できない要因の一つに挙げられる。SOBPは照射する患者および患部毎に異なるため、シンクロトロンの運転制御データとして所定のSOBPを形成するために必要な照射エネルギーを選択し、この選択した照射エネルギーに対応した運転制御データの更新制御が必要となる。
特許文献2では、加速器の磁場コイルに励磁するコイル電流に関して、経過時間に応じた磁束密度情報を出力する磁場基準発生部と、磁束密度情報に応じた磁場を発生させるコイル電流を求める電流基準変換部とを備えた加速器の制御装置が示されている。そして、磁場基準発生部が出力する磁束密度情報を4種類のパターン(初期上げパターン、減少パターン、増加パターン、終了パターン)を組み合わせて出力することで、一回の運転周期内で複数エネルギーのビーム出射を実現する制御方法が示されている。特許文献2によると、4種類の磁束密度パターンを組み合わせ、一回の運転周期内で複数エネルギーのイオンビームの出射が可能である。この機能に基づき、所定のSOBPを形成するために必要な照射エネルギーを選択することができるが、一方で、4種類のパターンを選択し出力するタイミングは予めタイミング制御装置に書き込んでおくため、特許文献1および非特許文献2と同様に、イオンビームの照射を中断した場合に当該出射エネルギーから減速制御に直接遷移できず、当該出射エネルギーから減速制御に至る間のエネルギー変更制御データを更新しなければ減速制御(特許文献2でいう終了パターン)に遷移できない課題は解決されていない。
本発明の目的は、シンクロトロンの出射ビームエネルギーの変更制御を短時間で実現する多段出射制御運転において、イオンビームの照射を中断した場合に運転周期の更新を短時間で実現し、線量率を向上する粒子線照射システムおよびその運転方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、シンクロトロンの出射ビームエネルギーの変更制御を短時間で実現する多段出射制御運転において、所望のエネルギー範囲のビーム照射を短い運転周期で行い、線量率を向上する粒子線照射システムおよびその運転方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、シンクロトロンの出射ビームエネルギーの変更制御を短時間で実現する多段出射制御運転において、エネルギー変更期間中のビーム損失を抑制し、線量率を向上する粒子線照射システムおよびその運転方法を提供することである。
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、前記シンクロトロンを構成する機器の運転制御データを、1以上の初期加速制御データ、複数のエネルギーのイオンビームを出射する複数の出射制御データ、前記複数の出射制御データ間を接続する複数のエネルギー変更制御データ、前記複数の出射制御データに対応した複数の減速制御データで構成し、これらの制御データを組み合わせることで複数のエネルギーのビームの出射制御を行う制御装置とを備え、前記制御装置は、前記出射制御データとして、出射条件を設定する出射条件設定データと、出射条件を解除する出射条件解除データとを有することを特徴とする。
本発明によれば、所望の照射エネルギーのビームを短時間で照射できるため、治療時間が短縮でき、線量率を向上できる。
また、本発明によれば、ビーム出射期間以外でのビーム損失を抑制できるため、ビーム利用効率を高められる。そしてビーム利用効率の向上に伴い、治療時間が短縮され、線量率を向上できる。
本発明の好適な一実施例である粒子線照射システムの構成を示す図である。 本発明の一実施例であるスキャニング照射法による照射装置の構成を示す図である。 本発明の一実施例であるシンクロトロンを構成する複数の機器の制御データの構成を示す図である。 本発明の一実施例である多段出射運転を実現する制御システム(制御装置)の構成と各装置間の情報伝送を示す図である。 本発明の一実施例である多段出射運転を開始する前の照射準備フローを示す図である。 本発明の一実施例である多段出射運転時の制御フローを示す図である。 本発明の一実施例である、図3に示した制御データの組み合わせによる多段出射運転時の制御データの出力例を示す図である。 本発明の一実施例である、図3に示した制御データの組み合わせによる多段出射運転時の制御データの出力例を示す図である。 本発明の一実施例である、制御データの組み合わせによる多段出射運転時の制御データの四極電磁石における出力例を示す図である。 本発明の一実施例である、制御データの組み合わせによる多段出射運転時の制御データの六極電磁石における出力例を示す図である。 従来のシンクロトロンの運転シーケンスを示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の好適な一実施例である粒子線照射システムの構成を示す図である。
本実施例の粒子線照射システム1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置11、ビーム輸送装置14、照射野形成装置(荷電粒子ビームの照射装置、以下、照射装置という)30を備え、ビーム輸送装置14が、イオンビーム発生装置11と治療室内に配置される照射装置30を連絡する。
イオンビーム発生装置11は、イオン源(図示せず)、前段加速器12およびシンクロトロン13を備える。イオン源は前段加速器12に接続され、前段加速器12はシンクロトロン13に接続される。前段加速器12は、イオン源で発生したイオンビーム10をシンクロトロン13に入射可能なエネルギーまで加速する。前段加速器12で加速されたイオンビーム10aは、シンクロトロン13に入射される。
シンクロトロン13は、周回軌道に沿って周回するイオンビーム10bに高周波電圧を印加して目標のエネルギーまで加速する高周波加速装置(高周波加速空胴)17、周回しているイオンビーム10bのベータトロン振動振幅を増大させる出射用高周波電極20a、およびイオンビーム10bを周回軌道から取り出す出射用デフレクター20bを備える。
シンクロトロン13に入射されたイオンビーム10bは、高周波加速空胴17に印加した加速高周波電圧によりエネルギーを付与されることで、所望のエネルギーまで加速する。この際、シンクロトロン13内を周回するイオンビーム10bの周回軌道が一定となるように、イオンビーム10bの周回エネルギーの増加に合わせて偏向電磁石18、四極電磁石19、六極電磁石21等の磁場強度および、高周波加速空胴17に印加する高周波電圧の周波数を高める。
所望のエネルギーまで加速したイオンビーム10bは、出射条件設定制御により、四極電磁石19および六極電磁石21の励磁量を制御することで周回するイオンビーム10bが出射可能な条件(周回ビームの安定限界条件)を成立させる。出射条件設定制御が終了後、出射用高周波電極20aに出射高周波電圧を印加し、シンクロトロン13内を周回するイオンビーム10bのベータトロン振動振幅を増大させる。このベータトロン振動振幅の増大により、安定限界条件を超えた周回するイオンビーム10bはシンクロトロン13からビーム輸送装置14に出射され、照射装置30に輸送される。シンクロトロン13からのビーム出射制御は、出射用高周波電極20aに印加する高周波電圧のON/OFF制御することで高速に実現可能である。
シンクロトロン13からのビーム出射制御が終了後、出射条件解除制御により、四極電磁石19および六極電磁石21の励磁量を制御することで出射条件設定時に形成した周回するイオンビーム10bの安定限界条件を解除する。
出射条件解除制御が完了後、偏向電磁石18、四極電磁石19、六極電磁石21等の磁場強度および、加速空胴17に印加する高周波電圧の周波数を下げることで、シンクロトロン13内を周回するイオンビーム10bを減速し、次の運転周期に遷移する。
照射装置30は、上記ビーム輸送装置14にて導かれたイオンビーム10cを、患者36の体表面からの深さおよび患部形状に合わせて制御して、治療用ベッド上の患者36の患部37に照射する。
照射法としてスキャニング照射法(非特許文献1の2086頁、図45等参照)があり、照射装置30はスキャニング照射法によるものである。スキャニング照射法は、直接患部37にイオンビーム10dを照射するためイオンビーム10dの利用効率が高く、従来の散乱体照射法よりも患部形状に合致したイオンビーム10dの照射が可能といった特徴がある。
患部37の深さ方向へのビーム飛程調整は、イオンビーム10のエネルギーを変更することで所望の患部37への照射を実現する。特にスキャニング照射法では、シンクロトロン13内を周回するイオンビーム10bのエネルギーを調整した後で出射することで、イオンビーム10の飛程を患部37の深さに合わせるため、患者36への照射治療中に複数回のエネルギーの変更制御が要求される。また、患部平面方向へのビーム照射方法として、スポットスキャニング照射法、ラスタースキャニング照射法などがある。スポットスキャニング照射法は、患部37の照射平面上をスポットと呼ばれる線量管理領域に分割し、スポット毎に走査を停止して設定した照射線量311に到達するまでビームを照射した後にビームを停止し、次の照射スポット位置に移動する。このようにスポットスキャニング照射法は、照射開始位置をスポット毎に更新する照射法である。また、ラスタースキャニング照射法は、スポットスキャニング照射法と同様に線量管理領域を設定するが、スポット毎にビーム走査を停止せず、ビームを走査経路上を走査しながら照射する。そのため、一回当たりの照射線量を低くし、複数回繰り返し照射するリペイント照射を実施することで照射線量の一様度を向上する。このようにラスタースキャニング照射法は、照射開始位置を走査経路毎に更新する照射法である。なお、スポットスキャニング法においても、ラスタースキャニング法と同様に、一つのスポット位置に対する一度の照射で与える照射線量を低く設定し、照射平面を複数回走査することによって、最終的な照射線量に到達するように制御してもよい。
図2に照射装置30の構成を示す。照射装置30は走査電磁石32a,32bを有し、患部平面上を患部形状に合わせて走査電磁石32a,32bでビームを走査する。また、照射装置30は、患者36に照射するイオンビーム10dの照射線量311を計測する線量モニタ31やビーム形状モニタ(図示せず)を有し、これらで照射するイオンビーム10dの線量強度やビーム形状を逐次確認する。走査電磁石32で走査されたイオンビーム10dは、コリメータ34で患者36の患部37の形状に合わせて照射野を形成する。
図1に戻り、本実施例の粒子線照射システム1は制御システム(制御装置)100を備えている。制御装置100は、イオンビーム発生装置11およびビーム輸送装置14を制御する加速器制御装置40、粒子線照射システム1全体を統括して制御する統括制御装置41、患者36へのビーム照射条件を計画する治療計画装置43、治療計画装置43で計画した情報やイオンビーム発生装置であるシンクロトロン13およびビーム輸送装置14の制御情報等を記憶する記憶装置42、照射装置30を構成する機器と患部37に照射するイオンビーム10dの照射線量を制御する照射制御装置44、シンクロトロン13を構成する機器の同期制御を実現するタイミングシステム50、患者36の安全を担保するために統括制御装置41とは独立したインターロックシステム60、シンクロトロン13を構成する各機器の電源46を制御する電源制御装置45から構成される。記憶装置42は統括制御装置41の一部として統括制御装置41に備えられていてもよい。
電源46はシンクロトロン13を構成する複数の機器の電源の総称であり、図1には複数の機器の電源として偏向電磁石18の電源46B、四極電磁石19の電源46Q、六極電磁石21の電源46S、高周波加速空胴17の電源46Fが示されている。電源制御装置45も同様に複数の機器の電源に対応する複数の電源制御装置の総称であり、図1には電源46Bの制御装置45B、電源46Qの制御装置45Q、電源46Sの制御装置45S、電源46Fの制御装置45Fが示されている。
ここで、各文献の記載を用いながら本発明者等が検討した事項について説明する。従来のシンクロトロン13の運転シーケンスを図9に示す。
シンクロトロン13は、一回の運転周期で加速・出射・減速という一連の制御を実施する。出射制御の前後には、出射条件設定および出射条件解除といった、シンクロトロン13内のイオンビーム10bを出射するために必要な出射条件設定制御と、出射制御終了後の出射条件解除制御が必要である。
従来のシンクロトロン13の運転制御では、一連の制御に合わせた制御データをパターンデータとして電源制御装置45のメモリに用意しておき、電源制御装置45は、シンクロトロン13を構成する機器の制御タイミングを管理するタイミングシステム50から出力されるタイミング信号51に基づき、制御データを更新する。
図9に示したように、シンクロトロン13は一回の運転周期で、加速から減速までを制御しているため、出射するイオンビーム10cのエネルギーを変更するには、出射制御終了後に減速制御に遷移して残存ビームを減速した後、運転周期を更新する。そして運転周期を更新した後に再びイオンビーム10bを加速することで、所望のエネルギーへの変更制御を実現する。
そのため、従来のシンクロトロン13の運転制御ではイオンビーム10bのエネルギー変更時間には、ほぼ一回の運転周期と同じ時間が掛かるため、治療時間が長くなり、線量率を向上していく上での課題であった。
この対策として、上述した特許文献1、特許文献2および非特許文献2に示されるような、一回の運転周期内で複数のエネルギーのビームを出射する多段出射運転が示されている。
特許文献1には、一回の運転周期内で複数のエネルギーのイオンビーム10の出射を実現する、イオンシンクロトロンの多段出射制御運転について示されている。このような多段出射制御運転により、スキャニング照射法でのエネルギー変更時間の短縮が実現できる。
また、非特許文献2には、イオンシンクロトロンより出射する複数のエネルギーに対応して、エネルギー変更制御と出射制御からなる階段状の運転制御データ(非特許文献2の34頁、図2)を予め用意しておき、出射するイオンビームエネルギーに対応した出射制御部の運転制御データの平坦部を延長する運転(非特許文献2の35頁、図3)が示されている。
非特許文献2に記載されているように、複数のエネルギーの出射が可能な運転制御データをパターンデータとして予め用意する制御を適用した場合、全ての照射を完了するために必要なイオンビーム量がシンクロトロンに蓄積されている場合には、一回の運転周期で全てのエネルギーの照射が完了できる効果があるが、全ての照射を完了するために必要なイオンビーム量がシンクロトロンに蓄積されていない場合には、イオンビーム量が枯渇した時点で減速制御を実施した後に、運転周期を更新してイオンビーム10bの入射と加速を再度実施する必要がある。この際、イオンビーム10が枯渇したエネルギーの出射制御から減速制御に遷移するには、運転制御データの連続性を考慮する必要があるため、イオンビーム10bが枯渇したエネルギーよりも後段に記憶されている全てのエネルギー変更制御の運転制御データを更新する必要があり、当該運転制御データから減速制御に直接遷移できない。そのため、シンクロトロン13の運転周期の更新には時間が掛かる課題がある。粒子線照射システム1を構成する機器に異常が生じた場合にも、同様に、当該運転制御データから減速制御に直接遷移できない課題があった。
特許文献2では、加速器の磁場コイルに励磁するコイル電流に関して、経過時間に応じた磁束密度情報を出力する磁場基準発生部と、磁束密度情報に応じた磁場を発生させるコイル電流を求める電流基準変換部とを備えた加速器の制御装置が示されており、このうち、磁場基準発生部が出力する磁束密度情報を4種類のパターン(初期上げパターン、減少パターン、増加パターン、終了パターン)を組み合わせて出力することで、一回の運転周期内で複数エネルギーのビーム出射を実現する制御方法が示されている。特許文献2によると、4種類の磁束密度パターンを組み合わせ、一回の運転周期内で複数エネルギーのイオンビーム10の出射が可能であるが、一方で、これら4種類のパターンの組合せ順序をシンクロトロンの運転制御データを選択し指令するタイミング信号を予めタイミング制御装置に書き込んでおくため、設定値の連続性を担保するため当該出射エネルギーから減速制御に直接遷移できない。このためビーム枯渇時および機器異常時に速やかに減速制御にできないため、シンクロトロンの運転周期の更新に時間が掛かる。また、電流基準変換器が逐次、偏向電磁石および四極電磁石の励磁電流を逐次演算しながら出力するため、パターンを変更する度に演算パラメータの変更が必要となり、機器構成および制御手段が複雑となる課題もある。
更に、非特許文献2では、シンクロトロンで照射可能な全てのエネルギー範囲を一つに纏めた運転制御データを用意し、ビームを照射するエネルギーでのみフラットトップを延長してビームを出射している。
このように、従来の多段出射運転方法では、初段の出射エネルギーまでの加速しビームを出射した後に、減速制御に遷移せずに次の照射エネルギーに変更する。そしてエネルギー変更後にビームを出射し、次の照射エネルギーに変更する。このような出射とエネルギー変更を繰り返し実施する。そのため、エネルギー変更の際にはビーム損失を生じないように運転する必要がある。
例えば、非特許文献2に示されているシンクロトロンでは、シンクロトロンで照射可能な全てのエネルギー範囲を一つに纏めた運転制御データを用意し、ビームを照射するエネルギーでのみフラットトップを延長してビームを出射している。そのため、エネルギー変更の際にビームの出射条件を形成する四極電磁石と六極電磁石の励磁パターンは、出射条件を解除せずに次の照射エネルギーに対応した励磁量となっており、加速制御パターンから連続したデータ構成となっている。
しかしながら、出射条件を解除せずにエネルギー変更制御を実施すると、エネルギー変更時にビーム損失を生じるおそれがある。そのため非特許文献2では、先に示した四極電磁石とは別に、出射条件を制御する四極電磁石(QDS)を設けている。その上で、この四極電磁石(QDS)の励磁量とシンクロトロンで安定にビームを加速し出射するための四極電磁石の励磁量を加算することで出射条件を設定している。そのため、四極電磁石(QDS)を励磁することで出射条件を設定し、四極電磁石(QDS)の励磁を停止することでビームの出射条件を解除している。
このように、四極電磁石(QDS)を用意することで多段出射制御時の出射条件の設定・解除が実施可能である。しかし、シンクロトロンの運転に必要な従来機能を実現する四極電磁石と別に四極電磁石(QDS)を設ける必要が有るため、シンクロトロンの大型化が避けられず、それに伴いコストが高くなるとの課題が挙げられる。本発明は、イオンシンクロトロンにおいて一回の運転周期内で複数エネルギーのイオンビーム10を出射可能とする多段出射制御運転に関するものであり、本発明により、ビームエネルギーの変更制御と運転周期の更新を短時間で実現可能なイオンシンクロトロンを提供できる。以下にその詳細を説明する。
まず、本実施例の特徴である、多段出射運転時の制御データ構造と、この制御データを用いた運転シーケンスについて、図3から図7Aおよび図7Bを用いながら説明する。
図3は、シンクロトロン13を構成する複数の機器の制御データ(運転制御データ)の構成を示す図であり、機器の制御データの代表例として、偏向電磁石18の励磁電流を示している。実際には、非特許文献2に示されているように、照射するビームのエネルギー数に対応した段数のデータが用意されているが、本実施例では3段で説明している。また、本実施例では低いエネルギーから高いエネルギーに順次ビームを照射するような運転制御データ70を示しているが、高いエネルギーから低いエネルギーに順次ビームを照射する場合でも同様の効果が得られる。
図4は、本実施例の特徴である多段出射運転を実現する制御システム(制御装置)100の構成と各装置間の情報伝送を示す図である。図5は、多段出射運転を開始する前の照射準備フローを示す図である。図6は、多段出射運転時の制御フローを示す図である。図7Aおよび図7Bは、図3に示した制御データの組み合わせによる多段出射運転時の制御データの出力例を示している。
図3に示すように、シンクロトロン13を構成する機器(図示の例では偏向電磁石18)の運転制御データ70は、初期加速制御データ701a(以下701で代表する)と、複数のエネルギー(図示の例では3種類のエネルギーEa、Eb、Ec)のイオンビーム10を出射するための複数の出射制御データ702a〜702c(以下702で代表する)と、複数の出射制御データ702間を接続する複数のエネルギー変更制御データ705ab,705bc(以下705で代表する)および、複数の出射制御データ702に対応した複数の減速制御データ706a〜706c(以下706で代表する)とで構成されている。出射制御データ702は、出射条件設定データ703a〜703c(以下703で代表する)と出射条件解除データ704a〜704c(以下704で代表する)から構成される。これらの制御データを組み合わせることで複数のエネルギーのビームの出射制御を行いかつ、複数の出射エネルギーに対応した減速制御データ706a、706b、706cを有することで、どの出射エネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能となっている。
また、初期加速制御データ701、複数の出射制御データ702間を接続する複数のエネルギー変更制御データ705から、速やかに目標エネルギーに到達可能となっている。
また、運転制御データ70を構成する複数の出射制御データ702に対応して、複数の減速制御データ706a、706b(以下適宜706で代表する)を設ける。これらの制御データ701、702、705、706は、それぞれ、対応する機器に直接与えられる制御量である電流/電圧の時系列データとして用意する。例えば、偏向電磁石18の制御データであれば、所定の偏向磁場強度を発生する際に必要な偏向電磁石18の電源46Bに設定する励磁電流と電圧(図示せず)の時系列データで構成される。
また、これらの制御データは記憶装置42に記憶されている。記憶装置42には、図3に示した制御データも含めて、想定されるあらゆる患者36の照射条件に対応した全てのエネルギーのビーム出射を可能とする制御データがモジュールデータとして記憶されている。例えば、想定される複数の患者36の照射条件に対応した出射エネルギー数が100であるとした場合、100個の初期加速制御データ701と、100個の出射制御データ702と、99個のエネルギー変更制御データ705と、100個の減速制御データ706がモジュールデータとして記憶装置42に記憶されている。照射準備に際して、特定の患者36の照射条件が与えられたとき、統括制御装置41は記憶装置42に記憶した制御データの中から該当するものを選択し、電源制御装置45に記憶させる。なお、全てのエネルギーのビーム出射を可能とするモジュールデータは統括制御装置41の内部記憶装置に記憶しておいてもよい。
また、記憶装置42に予め記憶される多段出射の運転制御データ70は、シンクロトロン13内の磁場強度の時系列データとして用意したものであってもよい。
この場合は、運転制御データ70が統括制御装置41及び加速器制御装置40を経由して電源制御装置45に記憶される過程で、統括制御装置41或いは加速器制御装置40において運転制御データ70が磁場強度の時系列データから励磁電流と電圧の時系列データに変換され、電源制御装置45に励磁電流と電圧の時系列データとして記憶される。電源制御装置45は時系列データに対応した電源制御指令値451を電源46に出力する。
運転制御データ70は、タイミングシステム50から出力されるタイミング信号51にそれぞれ関連付けられている。本実施例のタイミング信号51は、加速制御開始タイミング信号511、出射条件設定タイミング信号512、出射制御待機タイミング信号513、出射条件解除タイミング信号514、エネルギー変更制御タイミング信号515、減速制御開始タイミング信号516、減速制御終了タイミング信号517から構成されている。電源制御装置45にタイミング信号51が入力されると、電源制御装置45は、タイミング信号51に関連付けられた制御データ701〜706を選択し、選択した制御データ701〜706の初期アドレスからデータの更新制御を開始する。
タイミング信号51の入力に対する運転制御データ70の更新制御について、図3を用いて説明する。電源制御装置45は、加速制御タイミング信号511の入力により、入射エネルギー(Einj)から初段の出射エネルギー(Ea)までの初期加速制御データ701aを更新してビームを加速する。
出射条件設定タイミング信号512の入力により、出射条件設定データ703aを更新する。出射条件設定データ703aの更新が終わると、電源制御装置45は、出射制御待機タイミング信号513の入力により、出射条件設定データ703aの更新を停止し、加速器制御装置40が出射用高周波電極20aに出射用高周波電圧を印加することでビーム出射制御を実施する。照射制御装置44は、出射制御中の照射線量311を逐次計測し、計測結果に基づき線量満了信号442を出力し、出射用高周波電圧の印加を停止し出射制御を終了する。この後、出射条件解除タイミング信号514の入力により出射条件解除データ704aの更新を開始する。タイミングシステム50は、出射制御終了時の蓄積ビーム電荷量151と次の照射エネルギーの有無に応じて、エネルギー変更タイミング信号515を出力し、エネルギー変更制御に遷移するか(出射条件解除データ704aからエネルギー変更制御データ705abに遷移するか)、減速制御タイミング信号516を出力し、減速制御に遷移するか(出射条件解除データ704aから減速制御データ706aに遷移するか)を判断する。運転制御データ70を構成する各制御データは、出射条件解除データ704の終了値と次の照射エネルギーに遷移するエネルギー変更制御データ705の開始値(例えば、図3の704aの終了値と705abの開始値)および、出射条件解除データ704の終了値と入射エネルギーまで減速する減速制御データの開始値(例えば、図3の704aの終了値と706aの開始値)が連続的に接続できるように同じ値としておく。このようなタイミング信号51の入力に基づく運転制御を実現することで、タイミング信号51の入力に応じた運転制御データ70の変更と更新が容易に実現できる。
また、上記多段出射運転を実施する際は、インターロックシステム60は、加速器制御装置40から出力されるエネルギー判定信号402、照射制御装置44から出力されるエネルギー変更要求信号443、減速制御要求信号444、照射完了信号445および、電源制御装置45から出力される機器の健全性を示すステータス情報452に基づきインターロック信号61を出力する。このインターロック信号61にはエネルギー変更指令611、出射制御指令614、照射完了指令612および減速制御指令613が含まれる。タイミングシステム50は、インターロックシステム60から出力されるエネルギー変更指令611に基づきエネルギー変更タイミング信号515を出力し、インターロックシステム60から出力される出射制御指令614に基づき出射条件設定タイミング信号512を出力し、インターロックシステム60から出力される照射完了指令612に基づき出射条件解除タイミング信号514を出力し、減速制御指令613に基づき減速制御開始タイミング信号516を出力する。
図3に示したシンクロトロン13を構成する機器の制御データを用いて多段出射運転を実施する際の照射準備フローについて、図4および図5を併用しながら説明する。
まず、治療計画装置43は、患者36の治療に必要な照射条件等を含む治療計画情報431を記憶装置42に登録する。統括制御装置41は、照射条件の設定情報に基づき、記憶装置42から照射条件421を読み込む(ステップS801)。統括制御装置41は、照射条件から照射に必要なエネルギーと各照射線量と照射順序および制御データを記憶装置42から選択する(ステップS802)。記憶装置42には、前述したように、図3に示した初期加速制御データ701、出射制御データ702、出射条件設定データ703、出射条件解除データ704、エネルギー変更制御データ705、減速制御データ706を含めて、想定されるあらゆる患者36の照射条件に対応した全てのエネルギーのビーム出射を可能とする制御データがモジュールデータとして記憶されており、統括制御装置41は、照射条件421に基づいて制御データ701〜706を選択して読み込む。
統括制御装置41は、タイミングシステム50に対して、照射に必要なエネルギー情報と照射順序およびこのエネルギーに対応したタイミング制御データ411aを伝送する(ステップS803)。
タイミングシステム50は、統括制御装置41から伝送された照射に必要なエネルギー情報と照射順序およびこのエネルギーに対応したタイミング制御データ411aをメモリ内に記憶する(ステップS804)。統括制御装置41は同様に、加速器制御装置40および照射制御装置44に対して、照射に必要なエネルギー情報と照射順序およびこのエネルギーに対応した制御データ411b、411cを伝送する(ステップS805)。このうち、加速器制御装置40に伝送する制御データ411bには、各機器の運転制御データ(制御データ701〜706)と運転制御データに対応するタイミング信号(タイミング信号511〜517)が含まれ、照射制御装置44に伝送する制御データ411cには、各照射エネルギーの照射順序と目標照射線量が含まれる。
加速器制御装置40は、シンクロトロン13およびビーム輸送装置14を構成する機器の各電源制御装置45に対して、各機器の運転制御データ(制御データ701〜706)と運転制御データに対応するタイミング信号(タイミング信号511〜517)のデータである各機器の制御データ401を伝送し(ステップS806)、電源制御装置45は、各機器の運転制御データと運転制御データに対応するタイミング信号のデータ401をメモリ内に記憶する(ステップS807)。その後、照射制御装置44は、各照射エネルギーの照射順序と目標照射線量をメモリ内に記憶する(ステップS808)。
る。
次に、図3に示したシンクロトロン13を構成する機器の制御データを用いて多段出射運転を実施する際の照射フローについて、図4および図6を用いて説明する。
統括制御装置41に対してユーザから照射開始指令(図示せず)が入力されると、シンクロトロン13の運転制御を開始する。統括制御装置41はタイミングシステム50、加速器制御装置40、照射制御装置44に対して、シンクロトロン13の運転周期の開始を示す、制御開始指令412を出力する。タイミングシステム50、加速器制御装置40、照射制御装置44は、制御開始指令412に基づき、目標エネルギーを設定する(ステップS809)。設定された目標エネルギーに基づき、タイミングシステム50は、これから出射するビームの目標エネルギー情報を設定し、加速器制御装置40は、各電源制御装置に目標エネルギーを設定する。照射制御装置44は、目標エネルギーから、当該エネルギーの各線量管理領域の目標線量値を設定する。
タイミングシステム50は制御開始指令412に基づき、加速制御開始タイミング信号511を出力し、電源制御装置45は、初期加速制御データ701の更新を開始する(ステップS810)。
加速器制御装置40は、初期加速制御が終了した時点で、加速終了後の到達エネルギーを確認し(ステップS811)、加速終了後に確認した到達エネルギーが目標エネルギーと一致するか否かを判定する(ステップS812)。この判定は、後述する減速制御終了後に運転周期を更新した場合、初期加速制御終了時の到達エネルギーと次に出射する目標エネルギーが異なるため、後述するエネルギー変更制御を実施するか、このままビーム出射制御に遷移するかを判断するためのものである。
加速器制御装置40は、ステップS812におけるエネルギーの判定結果を示すエネルギー判定信号402をインターロックシステム60に出力する。インターロックシステム60は、加速終了後の到達エネルギーと目標エネルギーが一致しないと判定された場合は、タイミングシステム50にエネルギー変更指令611を出力し、タイミングシステム50は電源制御装置45にエネルギー変更制御タイミング信号515を出力し、電源制御装置45はエネルギー変更制御データ705の更新を実施する(ステップS824)。
これに対し、加速終了後の到達エネルギーと目標エネルギーが一致すると判定された場合、インターロックシステム60はタイミングシステム50に出射制御指令614を出力し、タイミングシステム50は電源制御装置45に出射条件設定タイミング信号512を出力し、電源制御装置45は出射条件設定データ703の更新を開始する(ステップS813)。
タイミングシステム50は、出射条件設定データ703の更新完了に合わせて出射制御待機タイミング信号513を出力し、電源制御装置45での出射条件設定データ703の更新を終了し最終更新値を保持する。インターロックシステム60は、各電源制御装置45から出力される機器の健全性やエネルギー確認情報といったステータス情報452、シンクロトロン13内の蓄積ビーム量検出手段15での蓄積ビーム電荷量151の計測値に基づき照射制御装置44から出力される出射制御許可信号441等により、ビームの出射制御が可能か否か判定する(ステップS814)。
ステップS814における判定結果が異常(NG)と判定された場合には、インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して減速制御指令613を出力し、タイミングシステム50から電源制御装置45に減速制御開始タイミング信号516が出力される。電源制御装置45は減速制御データ706を更新する(ステップS822)。
これに対し判定結果が正常(OK)と判定された場合には、インターロックシステム60は加速器制御装置40に対して出射許可指令615を出力し、加速器制御装置40は出射用高周波電極20aに出射用高周波電圧を印加することで、ビーム出射制御を実施する(ステップS815)。
ビーム出射制御中は、照射装置30に設置されている線量モニタ31にて照射ビームの照射線量311を逐次計測し、照射制御装置44は、各線量管理領域での積算線量を演算する。この際、照射制御装置44は当該エネルギーの当該線量管理領域での目標線量と積算線量を比較し、積算線量が目標線量へ到達(以下、線量が満了したという)したか否かを判断する(ステップS816)。
当該線量管理領域の積算線量が満了していないと判定された場合、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151を蓄積ビーム量検出手段15で計測し、照射制御装置44はビーム照射の継続に十分な蓄積ビーム電荷量151があるか否かを判定し(ステップS818)、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151がビーム照射の継続に十分な量であると判定された場合にはビーム出射制御を継続する。
一方、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151が枯渇したと判定された場合には、照射制御装置44はインターロックシステム60に対して減速制御要求信号444を出力する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して減速制御指令613を出力し、タイミングシステム50から電源制御装置45に減速制御開始タイミング信号516が出力される。電源制御装置45は減速制御データ706を更新する(ステップS822)。
一方、ステップS816において当該線量管理領域の積算線量が満了したと判定された場合、照射制御装置44は、当該エネルギーの照射領域つまり、当該エネルギーでの全ての線量管理領域で照射が完了しているか否か判定する(ステップS817)。
当該エネルギーでの全ての線量管理領域への照射が完了していないと判定された場合には、走査電磁石32でまだ照射が完了していないビーム照射領域つまり、照射が完了していない線量管理領域に照射位置を更新する(ステップS841)。その後、ステップS816で線量が満了していない場合と同様に、照射制御装置44はビーム照射の継続に十分な蓄積ビーム電荷量151があるか否か判定し(ステップS818)、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151がビーム照射の継続に十分な量である場合には、ビーム照射を実施する(ステップS815)。シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151が枯渇した場合には、照射制御装置44はインターロックシステム60に対して減速制御要求信号444を出力する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して減速制御指令613を出力し、タイミングシステム50から電源制御装置45に減速制御開始タイミング信号516が出力される。電源制御装置45は減速制御データ706を更新する(ステップS822)。
一方、ステップS817において当該エネルギーでの全ての線量管理領域への照射が完了したと判定された場合には、照射制御装置44は、照射完了信号445をインターロックシステム60に出力する。インターロックシステム60は、タイミングシステム50に対して、照射完了指令612を出力する。タイミングシステム50は、電源制御装置45に対して出射条件解除タイミング信号514を出力し、電源制御装置45は出射条件解除データ704の更新を開始する(ステップS819)。
出射条件解除データ704の更新制御が終了後、照射制御装置44は、次の目標エネルギーデータが存在するか否か判断する(ステップS820)。次の目標エネルギーが存在すると判定された場合には、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151を蓄積ビーム量検出手段15で計測し、照射制御装置44は次の目標エネルギーのビーム照射に十分な蓄積ビーム電荷量151があるか判定し(ステップS840)、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151がビーム照射に十分な量であると判定された場合には、照射制御装置44は、目標エネルギーデータを更新する(ステップS821)。一方、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151が枯渇したと判定された場合には、照射制御装置44はインターロックシステム60に対して減速制御要求信号444を出力する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して減速制御指令613を出力し、タイミングシステム50から電源制御装置45に減速制御開始タイミング信号516が出力される。電源制御装置45は減速制御データ706を更新する(ステップS822)。
なお、スポットスキャニング照射法のように線量を管理する照射領域が細かく指定されている場合には、ステップS840に記載した蓄積ビーム電荷量151の判定処理は省略し、ステップS818に示したように蓄積ビーム電荷量151を逐次判定することで適切に照射が可能である。
一方、ラスタースキャニング照射のように一様連続ビームでレイヤー内の照射を実施する際には、照射線量の一様度の担保を容易にしかつ、線量率を高めるため、照射途中にビーム枯渇が生じないように制御することが望ましい。そのため図6に示したように、次の目標エネルギーのビーム照射に十分な蓄積ビーム電荷量151があるか、ステップS840に示した判定処理を実施した上で目標エネルギーデータを更新する処理を設けている。
ステップS840においてシンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151がビーム照射に十分な量であると判定された場合、照射制御装置44は、目標エネルギーデータの更新(ステップS821)後、インターロックシステム60に対してエネルギー変更要求信号443を出力する。インターロックシステム60は、タイミングシステム50に対してエネルギー変更指令611を出力し、タイミングシステム50は、電源制御装置45に対してエネルギー変更制御タイミング信号515を出力する。電源制御装置45は、エネルギー変更制御タイミング信号515に基づき、エネルギー変更制御データ705を更新する(ステップS824)。
一方、ステップS820において次の目標エネルギーデータが存在しないと判定された場合、つまり、全てのエネルギーの照射が終了した場合、照射制御装置44はインターロックシステム60に対して減速制御要求信号444を出力する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して減速制御指令613を出力し、タイミングシステム50から電源制御装置45に減速制御開始タイミング信号516が出力される。電源制御装置45は減速制御データ706を更新する(ステップS822)。
タイミングシステム50は、減速制御データ706の更新完了に合わせて、減速制御終了タイミング信号517を出力する。インターロックシステム60は、減速制御終了タイミング信号517の入力に基づき、全てのエネルギーの照射を完了したか否か確認する(ステップS823)。全てのエネルギーの照射を完了した場合には、運転周期を終了する。
また、全てのエネルギーの照射を完了せずに、減速制御に遷移した場合(ステップS823)には、再び、運転周期の開始に戻り、再び初期加速制御を開始する。
運転周期の開始に戻り、再び初期加速制御を開始する場合、次の照射に必要な目標エネルギーと初期加速制御時の到達エネルギーは異なるため、到達エネルギーが目標エネルギーと一致するまで、エネルギー変更制御データの更新制御を実施する(図6のステップS812→ステップS824→ステップS811→ステップS812のフローを繰り返す)。到達エネルギーと目標エネルギーが一致したら、出射条件設定データ703の更新制御(ステップS813)に遷移する。
本実施例の特徴である、多段出射運転時の制御データの出力例を図7Aおよび図7Bに示す。図7Aおよび図7Bでは、図3に示した運転制御データ70を用いた出力例を示しており、一回の運転周期内で出射可能なエネルギー数はEa、Eb、Ecの3種類である。図7Aは、3種類(Ea、Eb、Ec)の全てのエネルギーのイオンビーム10を一回の運転周期で出射制御した場合の偏向電磁石18の励磁電流値の変化を示しており、図7Bは、はじめの運転周期で2種類(Ea,Eb)のエネルギーのイオンビーム10を出射した後、蓄積イオンビームが枯渇したため減速制御に遷移して運転周期を更新し、次の運転周期で3種類目(Ec)のイオンビーム10を出射する場合の偏向電磁石18の励磁電流値の変化を示している。一般に、偏向電磁石18の励磁電流値とビームエネルギーは概ね比例関係にあるため、図7Aおよび図7Bは多段出射運転時のビームエネルギー変化と読むこともできる。
図7Aおよび図7Bに共通するのは、各制御データ701〜706に対応した各タイミング信号511〜517が設定されており、各タイミング信号511〜517の入力に基づき、各制御データ701〜706が更新されている。
まず、図7Aを用いて多段出射制御の出力例について説明する。電源制御装置45は、タイミングシステム50から加速制御タイミング信号511が入力されると、初期加速データ701を選択し、励磁電流データ更新制御を開始する。初期加速制御が終了すると、タイミングシステム50から出射条件設定タイミング信号512が電源制御装置45に入力される。電源制御装置45は、初段の出射エネルギーEaに対応した出射条件設定データ703aを出力する。この後、出射制御待機タイミング信号513の入力により、電源制御装置45は最終更新値を保持し、出射制御が実施される。出射制御が完了すると、タイミングシステム50から出射条件解除タイミング信号514が電源制御装置45に出力され、電源制御装置45は出射条件解除データ704aの更新出力を開始する。
出射条件解除データ704aの更新制御の終了とともに、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151を計測する。蓄積ビーム電荷量151が次のエネルギーのビーム出射量を満足することを確認した上で、タイミングシステム50は、エネルギー変更制御タイミング信号515を出力する。電源制御装置45は、現在の出射エネルギーEaと次の出射エネルギーEbとを接続するエネルギー変更制御データ705abを選択し、制御データの更新出力を開始する。これ以降、最後のエネルギーEcの出射制御を終了するまで、上記した出射条件設定制御、出射制御、出射条件解除制御、エネルギー変更制御を繰り返す。
最後のエネルギーEcの出射条件解除データ704cの更新制御が終了後、タイミングシステム50は、減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、減速制御タイミング信号516の入力に伴い、直前の出射条件解除データ704cに対応した減速制御データ706cを選択し、減速制御データの更新出力を開始する。なお、本実施例の減速制御では、エネルギーを低い方から高い方にビームを出射する制御をしているため(Ea<Eb<Ec)、減速制御で最大エネルギー(Einit)まで初期化励磁している。
減速制御の終了に合わせて、タイミングシステム50は減速制御終了タイミング信号517を出力し、全てのエネルギーの出射制御が完了しているかを確認する。全てのエネルギーの出射制御が完了している場合、シンクロトロン13の運転周期を終了する。
次に、図7Bに示したように多段出射運転時に運転周期を更新した場合について説明する。ここでは、図中の符号は図7Aと同一であり、図7Bでは、2番目のエネルギーEbの出射制御終了以降について説明する。
2番目のエネルギーEbの出射制御が終了時点でシンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151を計測する。この計測結果が、ビームの枯渇等により次のビーム出射量を満足することができないと判定されたら、タイミングシステム50は、出射制御を終了したエネルギーに対応した減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、減速制御開始タイミング信号516の入力に基づき、直前の出射条件解除データ704bに連続して接続できる減速制御データ706bの更新制御を開始する。
減速制御終了タイミング信号517の入力に合わせて、全てのエネルギーの出射制御が完了しているかを確認する。全てのエネルギーの出射制御が完了していない場合は、引き続き、目標エネルギーをEbからEcに変更した上で、加速制御タイミング信号511を出力する。
加速制御タイミング信号511の入力により、初期加速制御データ701の更新を開始する。初期加速制御が終了後、到達エネルギーと目標エネルギーを比較する。この際、初期加速制御データ701の到達エネルギーはEaであり、目標エネルギーはEcであるため、エネルギー変更制御タイミング信号515を出力する。電源制御装置45は、エネルギー変更制御タイミング信号515に基づき、エネルギー変更制御データ705abの更新し、エネルギー変更制御を実施する。エネルギー変更制御終了後、再び到達エネルギーと目標エネルギーを比較する。エネルギー変更制御後の到達エネルギーはEbであり、目標エネルギーはEcであるため、引き続き、エネルギー変更制御タイミング信号515を出力し、エネルギー変更制御データ705bcを更新する。このような制御を繰り返すことで、到達エネルギーを目標エネルギーと同じEcまで加速する。その後は、上記に示した出射制御および減速制御と同じ制御を実施する。
以上のように本実施の形態では、シンクロトロン13の出射ビームエネルギーの変更制御を短時間で実現する多段出射制御運転において、制御データ701〜706が複数のエネルギーに対応した減速制御データ706を有し、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とすることで、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151が不足してイオンビーム10の照射を中断した場合に運転周期の更新を短時間で実現し、線量率を向上し治療時間を短縮することができる。
また、粒子線照射システムを構成する機器に異常が生じてイオンビーム10の照射を中断した場合にも、出射エネルギーから減速制御に直接遷移し、運転周期の更新を短時間でかつ安全に実現することができる。
また、ビームの枯渇等のビーム照射中断要因の発生による減速制御の終了後、ビーム未照射のエネルギーが存在し、運転周期を更新する場合において、初期加速制御が終了後或いはエネルギー変更制御終了後の到達エネルギーが次の目標エネルギーと一致しない場合は、出射制御データの更新制御(出射条件設定制御および出射条件解除制御)を行うことなく、直ちにエネルギー変更制御を実施して到達エネルギーを目標エネルギーまで加速するため、短時間でのエネルギー変更制御を実現し、線量率を向上し治療時間を短縮することが可能となる。
また、運転制御データ70を構成する制御データ701〜706を、シンクロトロン13を構成する機器に直接与えられる制御量である電流/電圧の時系列データによって構成したため、パラメータの変更演算が不要となり、機器構成および制御手段を単純化できる。
更に、記憶装置42に、想定されるあらゆる患者36の照射条件に対応した全てのエネルギーのビーム出射を可能とする制御データがモジュールデータとして記憶しておき、統括制御装置41は、照射条件421に基づいて制御データ701〜706を選択して電源制御装置45に記憶しておく。照射条件421に基づいて運転制御データ70を構成するため、ビーム照射に寄与しない無駄時間(シンクロトロン13の入射ビームエネルギーから照射開始エネルギーまでの制御時間および照射終了エネルギーから減速終了エネルギーまでの制御時間)が無くなるため、所望のエネルギー範囲のビーム照射を短い運転周期で行い、線量率を向上し治療時間を短縮することが可能となる。
次に、シンクロトロン13の四極電磁石19の多段出射運転時の制御データの出力例を図8Aに、六極電磁石21の多段出射運転時の制御データの出力例を図8Bに示す。なお、以下の実施例は、記憶装置42に記憶する運転制御データをシンクロトロン13内の磁場強度の時系列データとして用意した場合のものである。
四極電磁石19はシンクロトロン13周回中の粒子のベータトロン振動数を制御するため、六極電磁石21はシンクロトロン13から粒子を取り出すための安定限界を形成させるために設置している。
図8Aは、四極電磁石19における異なる出射エネルギーに対応した多段出射の運転制御パターンである。
ここで本実施例の粒子線照射システムは、磁場強度を変更することで、ベータトロン振動数を共鳴線に近付け、ビームを出射できる状態にする若しくはその状態を解除するために、その運転制御に用いる出射条件データ702を有している。さらに本実施例において、この出射条件データ702は、出射条件設定データ703と出射条件解除データ704という二つのデータモジュールに分割されている。 また、出射条件設定データ703の開始値と出射条件解除データ704の終了値、例えば図8Aの703aの開始値703aと704aの終了値704aとは、連続的に接続できるように同じ値(例えば図8Aの703aと704aとが同じ磁場強度B)にしておく。
また、出射条件設定データ703の終了値と出射条件解除データ704の開始値、例えば図8Aの703aの終了値703aと704aの開始値704aとは同じ値(例えば図8Aの703aと704aとが同じ磁場強度B)にしておき、その間は一定値にしておく。
このような制御を実現することで、出射制御を実施せずにエネルギー変更へ遷移する際、電流指令値が不連続になることを防ぐことができる。
なお、本実施例では、出射条件設定データ703と、出射条件解除データ704は、その内側において直線で磁場強度の変化を示しているが、その内側で磁場強度がなめらかに変化した場合でも、同様の効果が得られる。
このように、出射条件設定データ703の開始点と出射条件解除データ704の終了点とを一致させることによって、エネルギー変更(又は初期加速)後の制御が、ビーム出射制御の場合とエネルギー変更制御の場合のいずれであっても電流指令値の連続性を担保することができ、電流値の連続性を確保するための計算等を少なくでき、制御の効率化・簡単化を達成することができる。また、出射条件設定データ703の終了点と出射条件解除データの開始点704とを一致させることによって、ビーム出射可能な状態を形成する制御と解除する制御との切り換えにあたって、電流指令値の連続性が担保されるため、電流値の連続性を確保するための計算等を少なくでき、制御の効率化・簡単化を達成することができる。
加えて、エネルギー変更中は出射条件が設定されないため、ビーム損失を抑制することも可能である。
更に、出射条件設定/解除のみを目的とする四極電磁石(QDS)が必要でなく、シンクロトロンの大型化を抑制し、コストアップを抑えることもできる。
まず、タイミングシステム50から加速制御開始タイミング信号511が出力されると、電源制御装置45は、初期加速制御データ701aを選択し、励磁電流データの更新制御を開始する。
加速制御の終了後、加速器制御装置40は周回するイオンビーム10bのエネルギーを確認し、インターロックシステム60にエネルギー判定信号402を出力する。到達エネルギーが目標エネルギーと一致する場合(この場合、到達エネルギーと目標エネルギーはともにEa)、インターロックシステム60は、タイミングシステム50に出射制御指令614を出力する。
タイミングシステム50はインターロックシステム60からの出射制御指令614に基づき、出射条件設定タイミング信号512を出力する。電源制御装置45は、出射条件設定タイミング信号512に基づき、出射エネルギーEaに対応した出射制御データ702aを更新し、出射条件設定データ703a内において磁場強度を出射準備の状態Bから出射可能な状態Bに変化させる。これと並行して照射制御装置44が出射制御許可信号441を出力し、出射用高周波信号の印加処理が行われ、出射制御待機タイミング信号513の入力により、電源制御装置45は最終更新値を保持し、ビームの出射制御が実施される。
ビーム出射制御により患部37への照射線量が満了すると、照射制御装置44は、出射用制御許可信号441の出力を停止し、出射用高周波信号の印加処理を停止する。そして、電源制御装置45は出射条件解除タイミング信号514に基づき出射エネルギーEaに対応した出射条件解除データ704aを更新し、出射条件解除データ704a内において磁場強度を出射可能な状態Bから出射準備の状態Bに変化させる。
照射制御装置44は引き続き、次の照射エネルギーの有無とシンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151の計測結果に基づき、インターロックシステム60にエネルギー変更要求信号443を出力する。
インターロックシステム60は、タイミングシステム50に対してエネルギー変更指令611を出力し、タイミングシステム50は蓄積ビームを次のエネルギーに加速するため、エネルギー変更制御タイミング信号515を出力する。電源制御装置45は、このエネルギー変更制御タイミング信号515に基づき、出射エネルギーEbに対応したエネルギー変更制御データ705abの更新制御を開始する。
エネルギー変更制御データ705abによるビーム加速が終了した後、加速器制御装置40は初段の出射エネルギーEaのビーム出射制御と同様に、到達エネルギーと目標エネルギーの一致を確認する。そして、電源制御装置45は出射エネルギーEbに対応した出射制御データ702bを用いて、出射条件設定データ703b内において磁場強度を出射準備の状態Bから出射可能な状態Bに変更して、ビームを出射する。ビーム停止後は出射条件解除データ704bを用いて出射条件解除データ704b内において磁場強度を出射可能な状態Bから出射準備の状態Bに変化させる。
二段目の出射エネルギーEbの出射制御が終了した時点で、照射制御装置44は次の照射データがあることを確認(図6におけるステップS820)した後、シンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151を計測する。この計測結果が、次のビーム出射量を満足することができないと判定されると、照射制御装置44は、減速制御要求信号444をインターロックシステム60に伝送する。
インターロックシステム60は、減速制御要求信号444に基づき、タイミングシステム50に対して、減速制御指令613を伝送する。タイミングシステム50は、減速制御指令613の入力に基づき、減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、減速制御開始タイミング信号516により、直前の出射エネルギーEbに対応した減速制御データ706bを選択し、減速制御データ706bの更新制御を開始し、初期化エネルギー(Einit)に対応した磁場強度BEinitから入射エネルギー(Einj)に対応した磁場強度BEinjに変化させる。
タイミングシステム50は、減速制御データ706bの更新の終了と合わせて減速終了タイミング信号517を出力した後、次の照射データがあるため、目標エネルギーをEbからEcに変更した上で、運転周期を更新し、加速制御開始タイミング信号511を出力する。
電源制御装置45は、加速制御開始タイミング信号511の入力により、初期加速制御データ701aの更新制御を開始する。
加速制御終了後、加速器制御装置40は到達エネルギーと目標エネルギーとを比較する。この際、初期加速制御データ701aでの到達エネルギーはEaである一方、目標エネルギーはEcである。このため、出射エネルギーが一致しない(Ea≠Ec)。
そこで、照射制御装置44は到達エネルギーと目標エネルギーが一致するまで、出射制御許可信号441を出力せず、出射用高周波信号は印加しない。一方、タイミングシステム50は、エネルギー変更制御タイミング信号515を目標エネルギーに到達するまで繰り返し出力する。電源制御装置45は、タイミングシステム50からのタイミング信号に基づき、エネルギー変更制御データ705ab、エネルギー変更制御データ705bcを順次更新制御する。
到達エネルギーが目標エネルギーEcに一致するまでビームを加速した後、電源制御装置45は、出射条件設定タイミング信号512に基づき、出射エネルギーEcに対応した出射条件設定データ703cを更新し、磁場強度を出射準備の状態Bから出射可能な状態Bに変化させる。これと並行して照射制御装置44は出射制御許可信号441を出力し、出射用高周波信号の印加処理が行われ、出射制御待機タイミング信号513の入力により、電源制御装置45は最終更新値を保持し、ビームが出射される。
ビーム出射制御の終了後、電源制御装置45は、出射条件解除タイミング信号514に基づき出射エネルギーEcに対応した出射条件解除データ704cを更新し、磁場強度を出射可能な状態Bから出射条件を解除した状態Bに変化させるとともに、照射制御装置44は次の照射データを確認する。本出力例では、次の照射エネルギーはない(Ecが最終エネルギー)ため、照射制御装置44は照射完了信号445をインターロックシステム60に伝送する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して、次の運転周期の制御が無いことを示す照射完了指令612を伝送する。タイミングシステム50は、減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、この減速制御開始タイミング信号516に基づき、減速制御に遷移する。
減速制御では、直前の出射エネルギーEcに対応した減速制御データ706cを選択し、減速制御データ706cの更新制御を開始する。減速制御データ706cは、運転周期毎の磁場履歴を一定に保つため、初期化エネルギー(Einit)に対応した磁場強度BEinitまで高めた後に入射エネルギー(Einj)に対応したBEinjまで減速制御を実施する。タイミングシステム50は、減速制御データ706cの更新の終了と合わせて減速制御終了タイミング信号517を出力し、照射完了指令612に基づき、照射を完了する。
図8Bは、六極電磁石21における異なる出射エネルギーに対応した多段出射の運転制御パターンである。
六極電磁石21においても、出射制御データ702は、出射条件設定データ703と出射条件解除データ704とに分割されている。
その上で、出射条件設定データ703の開始値と出射条件解除データ704の終了値、例えば図8Bの703aの開始値703aと704aの終了値704aとを、連続的に接続できるように同じ値(例えば図8Bの703aと704aとが同じ磁場強度BEinj)にしておく。 また、出射条件設定データ703の終了値と出射条件解除データ704の開始値、例えば図8Bの703aの終了値703aと704aの開始値704aとは同じ値(例えば図8Bの703aと704aとが同じ磁場強度BE)にしておき、その間は一定値にしておく。
このような制御を実現することで、出射制御を省略しエネルギー変更をする際、電流指令値が不連続になることによるビームの損失が削減可能となる。
なお、本実施例では、出射条件設定データ703と、出射条件解除データ704は、その内側において直線で磁場強度の変化を示しているが、その内側で磁場強度がなめらかに変化した場合でも、同様の効果が得られる。
このように、出射条件設定データ703の開始点と出射条件解除データ704の終了点とを一致させることによって、エネルギー変更(又は初期加速)後の制御が、ビーム出射制御の場合とエネルギー変更制御の場合のいずれであっても電流指令値の連続性を担保することができ、電流値の連続性を確保するための計算等を少なくでき、制御の効率化・簡単化を達成することができる。また、出射条件設定データ703の終了点と出射条件解除データの開始点704とを一致させることによって、ビーム出射可能な状態を形成する制御と解除する制御との切り換えにあたって、電流指令値の連続性が担保されるため、電流値の連続性を確保するための計算等を少なくでき、制御の効率化・簡単化を達成することができる。
加えて、エネルギー変更中は出射条件が設定されないため、ビーム損失を抑制することも可能である。
まず、タイミングシステム50から加速制御開始タイミング信号511が出力されると、電源制御装置45は、初期加速制御データ701aを選択し、励磁電流データの更新制御を開始する。
加速制御の終了後、加速器制御装置40は周回するイオンビーム10bのエネルギーを確認し、インターロックシステム60にエネルギー判定信号402を出力する。到達エネルギーが目標エネルギーと一致する場合(この場合、到達エネルギーと目標エネルギーはともにEa)、インターロックシステム60は、タイミングシステム50に出射制御指令614を出力する。
タイミングシステム50はインターロックシステム60からの出射制御指令614に基づき、出射条件設定タイミング信号512を出力する。電源制御装置45は、出射条件設定タイミング信号512に基づき、出射エネルギーEaに対応した出射制御データ702aを更新し、出射条件設定データ703a内において磁場強度を出射準備の状態BEinjから出射可能な状態BEに変化させる。これと並行して照射制御装置44が出射制御許可信号441を出力し、出射用高周波信号の印加処理が行われ、出射制御待機タイミング信号513の入力により、電源制御装置45は最終更新値を保持し、ビームの出射制御が実施される。
ビーム出射制御により患部37への照射線量が満了すると、照射制御装置44は、出射用制御許可信号441の出力を停止し、出射用高周波信号の印加処理を停止する。そして、電源制御装置45は出射条件解除タイミング信号514に基づき出射エネルギーEaに対応した出射条件解除データ704aを更新し、出射条件解除データ704a内において磁場強度を出射可能な状態BEから出射準備の状態BEinjに変化させる。
照射制御装置44は引き続き、次の照射エネルギーの有無とシンクロトロン13内の蓄積ビーム電荷量151の計測結果に基づき、インターロックシステム60にエネルギー変更要求信号443を出力する。
インターロックシステム60は、タイミングシステム50に対してエネルギー変更指令611を出力し、タイミングシステム50は蓄積ビームを次のエネルギーに加速するため、エネルギー変更制御タイミング信号515を出力する。電源制御装置45は、このエネルギー変更制御タイミング信号515に基づき、出射エネルギーEbに対応したエネルギー変更制御データ705abの更新制御を開始する。
エネルギー変更制御データ705abによるビーム加速の終了後、加速器制御装置40は初段の出射エネルギーEaのビーム出射制御と同様に、到達エネルギーと目標エネルギーの一致を確認し、電源制御装置45は出射エネルギーEbに対応した出射制御データ702bを用いて、出射条件設定データ703b内において磁場強度を出射準備の状態BEinjから出射可能な状態BEに変化させてビームを出射する。ビーム停止後は出射条件解除データ704bを用いて、出射条件解除データ704b内において磁場強度を出射可能な状態BEから出射準備の状態BEinjに変化させる。
二段目の出射エネルギーEbの出射制御が終了した時点で、照射制御装置44は次の照射データがあることを確認(図6におけるステップS820)した後、シンクロトロン内の蓄積ビーム量151を計測する。この計測結果が、次のビーム出射量を満足することができないと判定されると、照射制御装置44は、減速制御要求信号444をインターロックシステム60に伝送する。
インターロックシステム60は、減速制御要求信号444に基づき、タイミングシステム50に対して、減速制御指令613を伝送する。タイミングシステム50は、減速制御指令613の入力に基づき、減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、減速制御開始タイミング信号516により、直前の出射エネルギーEbに対応した減速制御データ706bを選択し、減速制御データ706bの更新制御を開始する。
タイミングシステム50は、減速制御データ706bの更新の終了と合わせて減速終了タイミング信号517を出力した後、次の照射データがあるため、目標エネルギーをEbからEcに変更した上で、運転周期を更新し、加速制御開始タイミング信号511を出力する。
電源制御装置45は、加速制御開始タイミング信号511の入力により、加速制御データ701aの更新制御を開始する。
加速制御終了後、加速器制御装置40は到達エネルギーと目標エネルギーを比較する。この際、初期加速制御データ701aでの到達エネルギーはEaである一方、目標エネルギーはEcであるため、出射エネルギーが一致しない(Ea≠Ec)。
そこで、照射制御装置44は到達エネルギーと目標エネルギーが一致するまで、出射制御許可信号441を出力せず、出射用高周波信号は印加しない。一方、タイミングシステム50は、エネルギー変更制御タイミング信号515を目標エネルギーに到達するまで繰り返し出力する。電源制御装置45は、タイミングシステム50からのタイミング信号に基づき、エネルギー変更制御データ705ab、エネルギー変更制御データ705bcを順次更新制御する。
到達エネルギーが目標エネルギーEcに一致するまでビームを加速した後、照射制御装置44は出射制御許可信号441を出力し、電源制御装置45は出射条件設定タイミング信号512に基づき、出射エネルギーEcに対応した出射制御データ702cを更新し、出射条件設定データ703c内において磁場強度を出射準備の状態BEinjから出射可能な状態BEに変化させることで出射用高周波信号の印加処理が行われ、出射制御待機タイミング信号513の入力により、電源制御装置45は最終更新値を保持し、ビームが出射される。ビーム出射制御が終了した後は、電源制御装置45は、出射条件解除タイミング信号514に基づき出射エネルギーEcに対応した出射条件解除データ704cを更新し、磁場強度を出射可能な状態BEから出射条件を解除した状態BEinjに変化させるとともに、照射制御装置44は次の照射データを確認する。本出力例では、次の照射エネルギーはない(Ecが最終エネルギー)ため、照射制御装置44は照射完了信号445をインターロックシステム60に伝送する。インターロックシステム60はタイミングシステム50に対して、次の運転周期の制御が無いことを示す照射完了指令612を伝送する。タイミングシステム50は、減速制御開始タイミング信号516を出力する。電源制御装置45は、この減速制御開始タイミング信号516に基づき、減速制御に遷移する。
減速制御では、直前の出射エネルギーEcに対応した減速制御データ706cを選択し、減速制御データ706cの更新制御を開始する。タイミングシステム50は、減速制御データ706cの更新の終了と合わせて減速制御終了タイミング信号517を出力し、照射完了指令612に基づき、照射を完了する。
上述したように、本実施例では、シンクロトロンを構成する機器の運転制御データを、初期加速制御データと、シンクロトロンから出射する複数のエネルギーに対応して設けた複数の出射制御データと、複数の出射制御データ間を接続する複数のエネルギー変更制御データおよび、複数の出射制御データに対応した複数の減速制御データで構成するとともに。複数の出射制御データは、磁場強度をビームの加減速に適した状態から、ビーム出射に適した状態にする出射条件設定データと、ビーム出射に適した状態からビームの加減速に適した状態に戻す出射条件解除データとを含むように構成する。
更に、これら出射条件設定データの始点と出射条件解除データの終点および、出射条件設定データの終点と出射条件解除データの始点はそれぞれ同一値とする。
そして、これらの制御データを組み合わせ、複数のエネルギーのビームの出射制御を行うことで、所望のエネルギーまでの到達を短縮するとともに、エネルギー変更期間中のビーム損失を抑制し、線量率を向上して治療時間を短縮することができる。
以上のように、ビームエネルギーの変更制御と運転周期の更新を短時間で実現可能となる。
また、これらの運転制御データの組み合わせにおいて、初期加速制御を含むエネルギー変更制御の後、所望の出射エネルギーとエネルギー変更制御で到達したエネルギーが異なる場合は、所望の出射エネルギーに到達するまでエネルギー変更制御データを接続する。
これにより、所望の出射エネルギーまで短時間で到達でき、線量率を向上し、治療時間を短縮することができる。
また、本発明によれば、多段出射制御時の出射条件の設定・解除が実施する四極電磁石(QDS)が不要なため、シンクロトロンの大型化を抑え、電磁石および電源を適用するためコストの発生を抑制できる。
なお、本発明は上記の実施形態に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
1 粒子線照射システム
100 制御システム(制御装置)
10 イオンビーム
11 イオンビーム発生装置
12 前段加速器
13 シンクロトロン
14 ビーム輸送装置
15 蓄積ビーム量検出手段
151 蓄積ビーム電荷量
17 高周波加速装置(高周波加速空胴)
18 偏向電磁石
19 四極電磁石
20a 出射用高周波電極
20b 出射用デフレクター
21 六極電磁石
30 照射野形成装置(照射装置)
31 線量モニタ
311 照射線量
32 走査電磁石
34 コリメータ
36 患者
37 患部
40 加速器制御装置
401 各機器の制御データ
402 エネルギー判定信号
41 統括制御装置
411 タイミング制御データ
412 制御開始指令
42 記憶装置
421 照射条件
43 治療計画装置
431 治療計画情報
44 照射制御装置
441 出射制御許可信号
442 線量満了信号
443 エネルギー変更要求信号
444 減速制御要求信号
445 照射完了信号
45 電源制御装置
451 電源制御指令値
452 ステータス情報
46 電源
50 タイミングシステム
51 タイミング信号
511 加速制御開始タイミング信号
512 出射条件設定タイミング信号
513 出射制御待機タイミング信号
514 出射条件解除タイミング信号
515 エネルギー変更制御タイミング信号
516 減速制御開始タイミング信号
517 減速制御終了タイミング信号
60 インターロックシステム
61 インターロック信号
611 エネルギー変更指令
612 照射完了指令
613 減速制御指令
614 出射制御指令
615 出射許可指令
70 運転制御データ
701 初期加速制御データ
702 出射制御データ
703 出射条件設定データ
704 出射条件解除データ
705 エネルギー変更制御データ
706 減速制御データ

Claims (4)

  1. イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
    前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置と、
    前記シンクロトロンを構成する機器の運転制御データを、1以上の初期加速制御データ、複数のエネルギーのイオンビームを出射する複数の出射制御データ、前記複数の出射制御データ間を接続する複数のエネルギー変更制御データ、前記複数の出射制御データに対応した複数の減速制御データで構成し、これらの制御データを組み合わせることで複数のエネルギーのビームの出射制御を行う制御装置とを備え、
    前記制御装置は、前記出射制御データとして、出射条件を設定する出射条件設定データと、出射条件を解除する出射条件解除データとを有する
    ことを特徴とする粒子線照射システム。
  2. 請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
    前記出射制御データは、前記出射条件設定データの初期値と前記出射条件解除データの最終値とを一致させるとともに、前記出射条件設定データの最終値と前記出射条件解除データの初期値とを一致させた
    ことを特徴とする粒子線照射システム。
  3. 請求項1記載の粒子線照射システムにおいて、
    前記出射制御データの前記出射条件設定データおよび前記出射条件解除データは、前記シンクロトロン内に配置された四極電磁石、六極電磁石の制御に用いる
    ことを特徴とする粒子線照射システム。
  4. イオンビームを加速して出射するシンクロトロンと、
    前記シンクロトロンから出射された前記イオンビームを照射する照射装置とを備えた粒子線照射システムの運転方法であって、
    前記シンクロトロンを構成する機器の運転制御データを、初期加速制御データと、複数のエネルギーのイオンビームを出射する複数の出射制御データと、前記複数の出射制御データ間を接続する複数のエネルギー変更制御データおよび、前記複数の出射制御データに対応した複数の減速制御データで構成し、これらの制御データを組み合わせることで複数のエネルギーのビームの出射制御を行い、かつ前記複数のエネルギーに対応した減速制御データを有することで、どのエネルギーからも速やかに減速制御へ遷移可能とするとともに、前記出射制御データとして出射条件を設定する出射条件設定データおよび出射条件を解除する出射条件解除データを用いる
    ことを特徴とする粒子線照射システムの運転方法。
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