JP2015046516A - 希土類磁石の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】磁気特性に優れる希土類磁石を製造できる希土類磁石の製造方法を提供する。【解決手段】希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材に以下の脱水素処理を施す。脱水素処理は、水素雰囲気で昇温を開始して、所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、強磁場を印加せず減圧雰囲気で保持温度Tkに保持する保温工程とを備える。前記昇温工程は、水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する前期昇温工程と、温度Tlowの到達以降に3.5T以上の強磁場の印加を開始して、前記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする磁場印加工程と、前記所定の値P1に到達した以降に前記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、前記温度域から保持温度Tkまで昇温する後期昇温工程とを備える。【選択図】図1
Description
本発明は、永久磁石などに利用される希土類磁石を製造する希土類磁石の製造方法に関するものである。特に、保磁力といった磁気特性に優れる希土類磁石が得られる希土類磁石の製造方法に関する。
モータや発電機などに利用される永久磁石には、希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石は、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、硼素(B)を含む合金からなるネオジム磁石が代表的である。従来のネオジム磁石として、原料粉末を成形した後、粉末成形体を焼結した焼結磁石、原料粉末と樹脂とを混合して成形したボンド磁石がある。また、ボンド磁石では、Nd−Fe−B系合金よりも更に磁気特性に優れる材質として、Sm(サマリウム)−Fe−N(窒素)系合金が検討されている。
焼結磁石やボンド磁石以外の希土類磁石として、特許文献1では、Nd−Fe−B系合金粉末を水素化した水素化粉末を原料とし、この原料粉末を圧縮成形して得られた粉末成形体に脱水素処理を施した圧縮磁石(圧粉磁石)を開示している。特許文献2では、Sm−Fe系合金粉末を水素化した水素化粉末を原料とし、この原料粉末を圧縮成形して得られた粉末成形体に脱水素処理を施した後、窒化処理を施したSm−Fe−N系合金の圧縮磁石を開示している。また、特許文献1,2では、脱水素処理時や窒化処理時に強磁場を印加して結晶の配向性を高めることで、磁気特性に優れる希土類磁石が得られることを開示している。
希土類磁石の磁気特性の更なる向上が望まれている。
上述のように強磁場中で脱水素処理を行うことで、結晶の核生成や成長方向を制御することができ、磁気異方性によって優れた磁気特性を有することができる。また、脱水素処理時の保持温度を再結合温度(=脱水素反応の平衡温度。脱水素及び再結合反応が優先的に行われる下限温度)以上の温度であって高い温度とするほど、脱水素及び再結合反応を良好に行える。しかし、上記保持温度を高くすると、再結合反応によって生じた結晶が成長して粗大になり易い。例えば、平均結晶粒径が500nm以上、更にはマイクロオーダーといった粗大な結晶組織になり易い。このような粗大な結晶組織では、特に保磁力の低下を招く。
また、上記保持温度を高くすると、脱水素処理の対象の大きさによっては、結晶の大きさにばらつきが生じ得る。例えば、脱水素処理の対象が比較的小さいものや薄いものである場合、脱水素処理時の保持温度を高くしたとしても、結晶全体が粗大になる恐れがあるものの、結晶の大きさがばらつき難いと考えられる。しかし、脱水素処理の対象が大型のものであると、例えば、処理対象の任意の表面から内部に向かって厚さをとったとき、この厚さが5mm超である厚い部分を有する立体物であると、処理対象の表面領域を構成する結晶の成長状態と内部領域を構成する結晶の成長状態とが異なり易い。具体的には、高温に保持され易い上記処理対象の表面領域では上述のような粗大な組織となり易く、内部領域では表面領域に比較して微細な組織となり易い。結晶の大きさのばらつきによっても、磁気特性の低下を招く。特に、粗大な結晶を含有することで、保磁力の低下を招く。
従って、強磁場を印加しながら脱水素処理を行う場合に結晶の粗大化を抑制することができ、微細で、かつ均一的な大きさの結晶組織を有し、磁石特性(特に保磁力)に優れる希土類磁石が得られる希土類磁石の製造方法の開発が望まれる。
そこで、本発明の目的の一つは、磁気特性に優れる希土類磁石を製造可能な希土類磁石の製造方法を提供することにある。
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備える。
前記脱水素処理は、水素雰囲気で昇温を開始して、前記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、減圧雰囲気で前記保持温度Tkに保持する保温工程とを備える。
前記昇温工程は、以下の前期昇温工程と、磁場印加工程と、後期昇温工程とを備える。
前期昇温工程 水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する工程。
磁場印加工程 前記温度Tlowの到達以降に、3.5T以上の強磁場の印加を開始して、前記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気の減圧を開始し、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
後期昇温工程 前記水素圧が前記所定の値P1に到達した以降に前記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、前記温度域から前記保持温度Tkまで昇温する工程。
前記保温工程では、前記強磁場を印加しない。
前記脱水素処理は、水素雰囲気で昇温を開始して、前記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、減圧雰囲気で前記保持温度Tkに保持する保温工程とを備える。
前記昇温工程は、以下の前期昇温工程と、磁場印加工程と、後期昇温工程とを備える。
前期昇温工程 水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する工程。
磁場印加工程 前記温度Tlowの到達以降に、3.5T以上の強磁場の印加を開始して、前記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気の減圧を開始し、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
後期昇温工程 前記水素圧が前記所定の値P1に到達した以降に前記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、前記温度域から前記保持温度Tkまで昇温する工程。
前記保温工程では、前記強磁場を印加しない。
本発明の希土類磁石の製造方法は、保磁力といった磁気特性に優れる希土類磁石を製造することができる。
[本発明の実施の形態の説明]
本発明者らは磁気特性に優れる希土類磁石を製造するために種々検討した結果、以下の知見を得た。脱水素処理を、水素雰囲気で所定の温度(代表的には脱水素反応の平衡温度以上)にまで昇温し、所定の温度に到達したら、所定の強磁場を印加した状態とすると共に雰囲気中の水素を排出して減圧雰囲気とする、という条件で行うと、処理対象を水素飽和した状態で、かつ十分に高い温度になった状態から脱水素及び再結合反応を行える。そのため、反応斑を抑制できる。また、強磁場の印加によって高い配向性を有する状態で再結合できる上に、再結合反応によって生じた結晶を高い配向性を有する状態で結晶成長できる。一方、脱水素反応の平衡温度未満であっても、ある程度温度が高く(好ましくは500℃以上)、かつある程度の減圧雰囲気とすれば、脱水素及び再結合反応がある程度生じ、再結合合金の結晶核(初期結晶)を生成することができる。このときに強磁場を印加した状態とすれば、結晶核を配向させることができる。そして、配向した結晶核を成長させれば、結晶核の配向状態を維持した結晶を形成できる。つまり、結晶核の生成時に強磁場を印加すれば、磁気異方性を有する結晶組織が得られる。更に、生成した結晶核を元に結晶を成長させることで、結晶の大きさが揃い易く、結晶の大きさのばらつきを低減できる。その上、結晶核を生成していることから、結晶の成長のための温度をある程度低くすることができ、結晶の過度の成長を抑制できる。その結果、微細で、均一的な大きさの結晶組織を有し、かつ高い配向性を有することができ、磁気特性に優れる磁気異方性磁石が得られるといえる。これらの事項に基づいて、上述の特定の脱水素処理を行う希土類磁石の製造方法を規定する。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明者らは磁気特性に優れる希土類磁石を製造するために種々検討した結果、以下の知見を得た。脱水素処理を、水素雰囲気で所定の温度(代表的には脱水素反応の平衡温度以上)にまで昇温し、所定の温度に到達したら、所定の強磁場を印加した状態とすると共に雰囲気中の水素を排出して減圧雰囲気とする、という条件で行うと、処理対象を水素飽和した状態で、かつ十分に高い温度になった状態から脱水素及び再結合反応を行える。そのため、反応斑を抑制できる。また、強磁場の印加によって高い配向性を有する状態で再結合できる上に、再結合反応によって生じた結晶を高い配向性を有する状態で結晶成長できる。一方、脱水素反応の平衡温度未満であっても、ある程度温度が高く(好ましくは500℃以上)、かつある程度の減圧雰囲気とすれば、脱水素及び再結合反応がある程度生じ、再結合合金の結晶核(初期結晶)を生成することができる。このときに強磁場を印加した状態とすれば、結晶核を配向させることができる。そして、配向した結晶核を成長させれば、結晶核の配向状態を維持した結晶を形成できる。つまり、結晶核の生成時に強磁場を印加すれば、磁気異方性を有する結晶組織が得られる。更に、生成した結晶核を元に結晶を成長させることで、結晶の大きさが揃い易く、結晶の大きさのばらつきを低減できる。その上、結晶核を生成していることから、結晶の成長のための温度をある程度低くすることができ、結晶の過度の成長を抑制できる。その結果、微細で、均一的な大きさの結晶組織を有し、かつ高い配向性を有することができ、磁気特性に優れる磁気異方性磁石が得られるといえる。これらの事項に基づいて、上述の特定の脱水素処理を行う希土類磁石の製造方法を規定する。最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1) 実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、上記水素化材に脱水素処理を施して、上記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備える。
上記脱水素処理は、水素雰囲気で昇温を開始して、上記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、減圧雰囲気で上記保持温度Tkに保持する保温工程とを備える。
上記昇温工程は、以下の前期昇温工程と、磁場印加工程と、後期昇温工程とを備える。
前期昇温工程 水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する工程。
磁場印加工程 上記温度Tlowの到達以降に、3.5T以上の強磁場の印加を開始して、上記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気の減圧を開始し、上記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
後期昇温工程 上記水素圧が上記所定の値P1に到達した以降に上記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、上記温度域から上記保持温度Tkまで昇温する工程。
上記保温工程では、上記強磁場を印加しない。
上記脱水素処理は、水素雰囲気で昇温を開始して、上記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、減圧雰囲気で上記保持温度Tkに保持する保温工程とを備える。
上記昇温工程は、以下の前期昇温工程と、磁場印加工程と、後期昇温工程とを備える。
前期昇温工程 水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する工程。
磁場印加工程 上記温度Tlowの到達以降に、3.5T以上の強磁場の印加を開始して、上記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気の減圧を開始し、上記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする工程。
後期昇温工程 上記水素圧が上記所定の値P1に到達した以降に上記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、上記温度域から上記保持温度Tkまで昇温する工程。
上記保温工程では、上記強磁場を印加しない。
上記実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、以下の(A)〜(F)の点によって、平均結晶粒径が500nm以下といった微細な結晶組織を有し、かつ磁気異方性を有する希土類磁石を製造することができる。得られた希土類磁石は、上述の微細で、かつ配向性に優れる結晶組織を有することから、磁気特性に優れる。特に、高い保磁力を有する希土類磁石とすることができる。
(A) 500℃以上750℃以下という比較的低温であっても、この温度域で減圧を開始する(水素を排出し始める)ことで、脱水素及び再結合反応を生じさて、再結合合金の結晶核を良好に生成することができる。
(B) 結晶核の生成時に3.5T以上という強磁場を印加した状態とすることで、生成した結晶核を良好に配向させることができる。
(C) 温度Tlowよりも高温である保持温度Tkに保持する保温工程を別途備えることで、脱水素及び再結合反応に必要な時間を十分に確保でき、配向した結晶核を元にして、結晶を成長させることができる。
(D) 保温工程では、減圧雰囲気とし(好ましくは雰囲気中の水素圧が上記所定の値P1未満)、かつ強磁場の印加を行わないことで、保持温度Tkをある程度低くしても(例えば、850℃以下)、脱水素及び再結合反応を良好に行える。なお、本発明者らは、後述するように、強磁場を印加した場合、強磁場を印加しない場合と比較して、雰囲気中の水素圧が同じであってとしても、脱水素反応の平衡温度が高くなるとの知見を得ている(図2参照)。
(E) 結晶核を生成する工程(主として昇温工程の途中)と、結晶を成長させる工程(主として保温工程)とを分けることで、結晶が比較的高い温度に保持される時間を短くでき、結晶の過度な成長を抑制できる。
(F) 結晶核を生成する工程(主として昇温工程の途中)と、結晶を成長させる工程(主として保温工程)とを分けることで、各結晶の成長時間のばらつきを抑制し易く、均一的な大きさの結晶を得易い(結晶の整列度合いを高め易い)。
(B) 結晶核の生成時に3.5T以上という強磁場を印加した状態とすることで、生成した結晶核を良好に配向させることができる。
(C) 温度Tlowよりも高温である保持温度Tkに保持する保温工程を別途備えることで、脱水素及び再結合反応に必要な時間を十分に確保でき、配向した結晶核を元にして、結晶を成長させることができる。
(D) 保温工程では、減圧雰囲気とし(好ましくは雰囲気中の水素圧が上記所定の値P1未満)、かつ強磁場の印加を行わないことで、保持温度Tkをある程度低くしても(例えば、850℃以下)、脱水素及び再結合反応を良好に行える。なお、本発明者らは、後述するように、強磁場を印加した場合、強磁場を印加しない場合と比較して、雰囲気中の水素圧が同じであってとしても、脱水素反応の平衡温度が高くなるとの知見を得ている(図2参照)。
(E) 結晶核を生成する工程(主として昇温工程の途中)と、結晶を成長させる工程(主として保温工程)とを分けることで、結晶が比較的高い温度に保持される時間を短くでき、結晶の過度な成長を抑制できる。
(F) 結晶核を生成する工程(主として昇温工程の途中)と、結晶を成長させる工程(主として保温工程)とを分けることで、各結晶の成長時間のばらつきを抑制し易く、均一的な大きさの結晶を得易い(結晶の整列度合いを高め易い)。
(2) 実施形態の一つとして、上記水素圧の所定の値P1が101hPa(0.1気圧)である形態が挙げられる。
上記形態は、雰囲気中の水素圧が十分に低いことから、希土類元素の水素化合物の周辺では、局所的に共晶組成に近くなっており元素の拡散が活発になるため、500℃以上750℃以下といった比較的低温の温度域であっても、脱水素及び再結合反応が生じて、再結合合金の結晶核を良好に生成できる。
(3) 実施形態の一つとして、上記希土類元素がNd又はSmである形態が挙げられる。
上記形態は、磁気特性に優れるNd−Fe−B系磁石やNd−Fe−C系磁石、Sm−Fe−N系磁石といった希土類磁石を製造することができる。なお、Sm−Fe−N系磁石を製造する場合には、脱水素処理を施して得られた素材に窒化処理を施す。
(4) 実施形態の一つとして、上記再結合合金がNdと、Feと、B及びCの少なくとも一方の元素とを含む形態が挙げられる。
上記形態は、磁気特性に優れるNd−Fe−B系磁石やNd−Fe−C系磁石を製造することができる。
(5) 実施形態の一つとして、上記水素化材が希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化粉末を圧縮成形した粉末成形体である形態が挙げられる。
上記形態は、圧縮磁石を製造することができる。また、上記形態は、上記水素化材が成形されていない粉末である場合と比較して、水素化材を取り扱い易く、作業性に優れる。
上述の実施形態に係る希土類磁石の製造方法から製造された希土類磁石として、例えば、以下の構成を備えるものが挙げられる。希土類元素とFeとを含む合金を主体とする希土類磁石であって、上記合金の平均結晶粒径が500nm以下である。また、結晶粒径が200nm以上500nm以下である結晶の含有割合が60%以上である。
上記希土類磁石は、微細で、結晶の大きさが揃っている上に、配向性に優れる結晶組織を有することから、磁気特性に優れる。特に、上記希土類磁石は、保磁力が高い。
上記希土類磁石の一形態として、上記合金から構成される粉末が圧縮成形された圧縮磁石である形態が挙げられる。この形態は、結合剤が介在するボンド磁石と比較して上記合金の割合が高いことで磁気特性に優れる。また、この形態は、焼結磁石よりも微細な結晶組織を有することで、焼結磁石でないものの磁気特性に優れる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係る希土類磁石の製造方法、この製造方法によって得られる希土類磁石を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例1について組成、処理対象である水素化材の形状、大きさなどを適宜変更することができる。
以下、実施形態に係る希土類磁石の製造方法、この製造方法によって得られる希土類磁石を説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、後述する試験例1について組成、処理対象である水素化材の形状、大きさなどを適宜変更することができる。
(希土類磁石の製造方法)
実施形態の希土類磁石の製造方法は、処理対象として、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材を準備する準備工程と、この水素化材に特定の条件の脱水素処理を施す脱水素工程とを備える。脱水素工程後、材質によっては、窒化処理を行う。脱水素処理後、又は窒化処理後などに得られた磁石素材に着磁を行う。
実施形態の希土類磁石の製造方法は、処理対象として、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化材を準備する準備工程と、この水素化材に特定の条件の脱水素処理を施す脱水素工程とを備える。脱水素工程後、材質によっては、窒化処理を行う。脱水素処理後、又は窒化処理後などに得られた磁石素材に着磁を行う。
・準備工程
脱水素処理に供する水素化材は、脱水素処理を施すことで、脱水素及び再結合反応によって希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金を形成可能なものとする。上記希土類−鉄合金とは、希土類元素の水素化合物とFeとが独立した相として存在する水素化合金、換言すれば、水素不均化状態の組織を有する水素化合金が挙げられる。水素化材は、上記水素化合金からなる粉末や、この粉末を成形した粉末成形体などが挙げられる。
脱水素処理に供する水素化材は、脱水素処理を施すことで、脱水素及び再結合反応によって希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金を形成可能なものとする。上記希土類−鉄合金とは、希土類元素の水素化合物とFeとが独立した相として存在する水素化合金、換言すれば、水素不均化状態の組織を有する水素化合金が挙げられる。水素化材は、上記水素化合金からなる粉末や、この粉末を成形した粉末成形体などが挙げられる。
上記水素化合金中の希土類元素は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド、及びアクチノイドから選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、希土類元素として、Nd、Sm、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、及びYから選択される少なくとも1種の元素を含むと、磁気特性に優れる希土類磁石が得られて好ましい。とりわけ、Nd又はSmを含むと、磁気特性に優れる希土類磁石を製造できて好ましい。また、Ndを含む組成では、Ndの含有量を28質量%以上35質量%以下とすることが好ましい。Nd2Fe14Bなどの化学量論比である28質量%以上とすると、水素化前の合金を構成する結晶の境界(粒界)や、脱水素処理後の再結合合金10(図1参照)を構成する結晶11(図1参照)の境界12(図1参照)に、希土類元素のリッチ相を存在させられる。好ましくは希土類元素のリッチ相が均一的に分散した結晶組織とすることができる。このような結晶組織は、結晶粒子が希土類元素のリッチ相によって磁気的に孤立された組織といえ、磁気特性に優れて好ましい。Ndの含有量を35質量%以下とすると、希土類元素のリッチ相が結晶の境界に極薄く存在できる。
上記水素化合金中の希土類元素の水素化合物は、NdH2,SmH2などが挙げられる。上記水素化合金中の希土類元素及びFe以外の元素は、特にNdを含む組成では、硼素及び炭素(C)の少なくとも一方が挙げられる。BやCは、代表的には、Feとの化合物、即ち、鉄硼化物や鉄炭化物として上記水素化合金中に存在する。上記水素化合金中のその他の元素として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)及びニオブ(Nb)から選択される1種以上の元素が挙げられる。特に、Coを含有する場合、酸化による素材(磁石化合物)の不均化分解によって軟磁性材料のFeの析出を抑制できるという効果、Gaを含有する場合、結晶の境界の希土類元素のリッチ相を均質にするという効果などを期待できる。これらの効果によって、保磁力の更なる向上が望める。これらの添加元素は、Feなどに固溶して、又は適宜な化合物や単体元素の状態でFe中に析出して、又は水素と結合して水素化合物として、上記水素化合金中に存在する。上記水素化合金中の希土類元素の水素化合物の含有量は、10体積%以上40体積%以下が挙げられ、希土類元素の水素化合物を除く残部、即ち、Feや、Feを含む化合物などの合計含有量は60体積%以上が挙げられる。このような水素化合金は、希土類元素とFeとを含む希土類−鉄系合金、代表的にはNd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金に水素化処理を施すことで得られる。
上記水素化合金として、3.5T以上の強磁場が印加された状態であって、かつ雰囲気中の水素圧が203hPa(0.2気圧)以上大気圧未満である減圧雰囲気における脱水素反応の平衡温度が870℃超であるものが挙げられる。このような水素化合金は、3.5T以上の強磁場が印加された状態において雰囲気中の水素圧が203hPa程度であっても、870℃超の高温でなければ、脱水素反応が優先的に生じないものといえる。ここで、雰囲気中の水素圧と、水素化合金における脱水素反応の平衡温度との関係を、図2を参照して説明する。図2のグラフでは、横軸が雰囲気中の水素圧(気圧、1気圧≒1013hPa)を示し、縦軸が脱水素反応の平衡温度(℃)を示す。また、図2の太線グラフは、強磁場(ここでは5T)を印加した場合の水素圧と脱水素反応の平衡温度との関係(反応境界)を示し、細線グラフは、磁場を印加していない場合の水素圧と脱水素反応の平衡温度との関係(反応境界)を示す。ここでは、水素化合金として、Nd2Fe14Bに水素化処理を施して得られた、NdH2,Fe,Fe−B(例えば、Fe2B、Fe3B)を含むものを例に挙げる。図2の太線グラフに示すように、強磁場を印加して脱水素処理を行う場合、脱水素反応の平衡温度は、任意の水素圧について、同じ水素圧における無磁場の場合の脱水素反応の平衡温度に比較して高いこと(太線グラフが細線グラフよりも左上に位置すること)が分かる。
従って、上述のような水素化合金に強磁場を印加した状態で脱水素処理を行う場合、870℃超に加熱することが好ましいといえる。しかし、870℃超は、結晶が成長し易い温度域とされる。実施形態の希土類磁石の製造方法に規定する脱水素処理では、3.5T以上の強磁場の印加期間を主として結晶核の生成期間とし、成長を無磁場の減圧雰囲気で行う。無磁場であれば、図2の細線グラフに示すように例えば101hPa(0.1気圧)程度における脱水素反応の平衡温度が800℃未満と低く、更に10.1Pa(1×10−4気圧)程度になれば、上記平衡温度が700℃以下と予測される。そのため、このような水素化合金であっても、処理対象を870℃以上に加熱しなくても脱水素及び再結合反応を十分に行えて、配向性に優れると共に結晶粒のサイズが微細な結晶組織が得られる。また、870℃以上に加熱しないことで、結晶の粗大化を効果的に防止できることから、微細な結晶組織を有し、かつ配向性に優れる磁石素材を製造できる。このような水素化合金として、NdH2,Fe,Fe−Bを含む組成のもの、NdH2,Fe,Fe−Cを含む組成のもの、SmH2,Feを含む組成のものなどが挙げられる。即ち、Nd−Fe−B系合金やNd−Fe−C系合金、Sm−Fe系合金といった希土類−鉄系合金に水素化処理を施したものが挙げられる。
上記水素化材を上記水素化合金からなる粉末(水素化粉末)とする場合、上記希土類−鉄系合金の溶湯を用いて、ストリップキャスト法やアトマイズ法などの公知の手法を利用して作製した原料粉末に、水素化処理を施すことで製造できる。上記原料粉末、又は水素化処理後の粉末に適宜粉砕を行って、水素化粉末の大きさを調整することができる。水素化粉末の大きさは、例えば、圧縮磁石に用いる場合、平均粒径が100μm以上500μm以下程度、ボンド磁石などに用いる場合はより微細なもの、例えば、1μm以上50μm以下、好ましくは20μm以下が挙げられる。水素化処理の条件は、材質にもよるが、例えば、水素雰囲気、又は水素とアルゴンや窒素といった不活性ガスとの混合雰囲気、処理温度が水素不均化温度以上(例えば600℃以上、更に650℃以上)1100℃以下、好ましくは700℃以上(更に750℃以上)900℃以下、保持時間が0.5時間以上5時間以下、が挙げられる。特許文献1,2に記載される条件やその他の公知のHD(Hydrogenation Disproportionation)条件を利用することができる。
上記水素化材を粉末成形体とする場合、希土類元素の水素化合物とFeとを含む上記水素化粉末を所望の形状及び大きさの金型に充填し、圧縮成形することで製造できる。上記水素化粉末は、柔らかいFe成分を含むことで変形性に優れ、良好に成形できる。成形時の圧力は、例えば、588MPa(6ton/cm2)以上1960MPa=1.96GPa(20ton/cm2)以下が挙げられる。上記水素化粉末の表面に、酸素や湿気を透過し難い樹脂などから構成される被覆を設けると、大気雰囲気で成形した場合でも、粉末粒子の酸化を防止できる。この被覆は、脱水素処理時の昇温工程で除去する、又は脱水素処理前に別途熱処理を施して除去することができる。上記被覆を除去することで、脱水素処理時、水素化材から水素を十分に排出することができる。成形時の雰囲気を非酸化性雰囲気とすることもできる。また、成形時の潤滑性を高めるために、水素化粉末に潤滑剤を適宜混合したり、金型の内面に潤滑剤を塗布したりすることができる。
上記粉末成形体の形状、及び大きさは適宜選択することができる。特に、表面から内側に向かって厚さをとったとき、厚さが5mm以上である厚い部分を有する形状や大きさとすることができる。例えば、端面の直径が10mm超、高さが10mm超の円柱体、環の幅が10mm超、高さが10mm超の円環体、長さ及び幅並びに高さのいずれもが10mm超の直方の立体などが挙げられる。
・脱水素工程
実施形態の希土類磁石の製造方法では、上述の水素化材に施す脱水素処理を、水素雰囲気で昇温を開始して所定の保持温度まで昇温する途中に、雰囲気中の水素圧を低減した減圧雰囲気とすると共に、3.5T以上という強磁場を印加する工程を設ける、という条件で行う。即ち、脱水素反応の平衡温度よりも十分に高い温度に保持して減圧雰囲気とすると共に強磁場を印加して、脱水素及び再結合反応を行うのではなく、ある程度低い温度のときに減圧雰囲気とすると共に強磁場を印加して、脱水素及び再結合反応をある程度生じさせ、その後に温度をある程度高めて脱水素及び再結合反応を進行させる。このように減圧の開始及び強磁場の印加の開始を低温側に移行し、強磁場の印加を低温域のみとすることで、微細で、配向性に優れる結晶組織を形成する。以下、図1を適宜参照して、実施形態の希土類磁石の製造方法に備える昇温工程、保温工程を詳細に説明する。図1では、脱水素処理の各過程で生じ得る組織の模式図も例示する。
実施形態の希土類磁石の製造方法では、上述の水素化材に施す脱水素処理を、水素雰囲気で昇温を開始して所定の保持温度まで昇温する途中に、雰囲気中の水素圧を低減した減圧雰囲気とすると共に、3.5T以上という強磁場を印加する工程を設ける、という条件で行う。即ち、脱水素反応の平衡温度よりも十分に高い温度に保持して減圧雰囲気とすると共に強磁場を印加して、脱水素及び再結合反応を行うのではなく、ある程度低い温度のときに減圧雰囲気とすると共に強磁場を印加して、脱水素及び再結合反応をある程度生じさせ、その後に温度をある程度高めて脱水素及び再結合反応を進行させる。このように減圧の開始及び強磁場の印加の開始を低温側に移行し、強磁場の印加を低温域のみとすることで、微細で、配向性に優れる結晶組織を形成する。以下、図1を適宜参照して、実施形態の希土類磁石の製造方法に備える昇温工程、保温工程を詳細に説明する。図1では、脱水素処理の各過程で生じ得る組織の模式図も例示する。
<昇温工程>
≪前期昇温工程≫
昇圧工程は、前期昇温工程と、磁場印加工程と、後記昇温工程とを備える。前期昇温工程では、水素雰囲気で昇温のみを行う。つまり、昇温工程の開始時は、雰囲気形成ガスが水素(H2)である水素雰囲気とする。雰囲気の圧力(雰囲気中の水素圧)は、大気圧=1気圧≒1013hPaと同等とする。水素圧を大気圧と同等程度とすることで、圧力の調整を容易に行えて、作業性に優れる。水素雰囲気は、水素のフロー雰囲気とすると、水素化材に対して水素を十分に供給できるため、水素化材の水素吸蔵量を飽和させ易い。従って、水素化材における水素吸蔵量のばらつきを低減でき、ひいては脱水素反応のばらつきを抑制できる。
≪前期昇温工程≫
昇圧工程は、前期昇温工程と、磁場印加工程と、後記昇温工程とを備える。前期昇温工程では、水素雰囲気で昇温のみを行う。つまり、昇温工程の開始時は、雰囲気形成ガスが水素(H2)である水素雰囲気とする。雰囲気の圧力(雰囲気中の水素圧)は、大気圧=1気圧≒1013hPaと同等とする。水素圧を大気圧と同等程度とすることで、圧力の調整を容易に行えて、作業性に優れる。水素雰囲気は、水素のフロー雰囲気とすると、水素化材に対して水素を十分に供給できるため、水素化材の水素吸蔵量を飽和させ易い。従って、水素化材における水素吸蔵量のばらつきを低減でき、ひいては脱水素反応のばらつきを抑制できる。
この昇温は、500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowになるまで行う。温度Tlowは、500℃以上750℃以下の範囲であれば、適宜選択することができる。この温度Tlowは、後述する減圧の開始及び磁場の印加開始の温度にする。昇温速度は特に問わないが、例えば、1℃/min以上60℃/min以下が挙げられる。
≪磁場印加工程≫
磁場印加工程では、減圧を開始し、かつ3.5T以上の強磁場の印加を行う。上述の前期昇温工程に引き続き、昇温工程の途中から雰囲気中の水素の排出を開始し(減圧を開始し)、以降の過程を減圧雰囲気とする。具体的には、上述の温度Tlowに到達した以降に減圧の開始時Spを設ける。そして、この減圧は、雰囲気中の水素圧が101hPa(0.1気圧)以上大気圧未満の所定の値P1になるまで行う。このような減圧雰囲気とすることで、温度Tlowが比較的低い上記温度域であっても、脱水素及び再結合反応を生じさせることができる。例えば、処理対象である水素化合金50が、NdH2などの希土類元素の水素化合物51と、鉄52と、Fe−Bなどの鉄化合物53とを含む場合、温度Tlowを500℃以上とすることで、減圧の開始によって、希土類元素の水素化合物51から水素が除去されて、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との間で相互拡散が起こり、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との界面付近に希土類−鉄系合金の結晶核(初期結晶)31が生じる。
磁場印加工程では、減圧を開始し、かつ3.5T以上の強磁場の印加を行う。上述の前期昇温工程に引き続き、昇温工程の途中から雰囲気中の水素の排出を開始し(減圧を開始し)、以降の過程を減圧雰囲気とする。具体的には、上述の温度Tlowに到達した以降に減圧の開始時Spを設ける。そして、この減圧は、雰囲気中の水素圧が101hPa(0.1気圧)以上大気圧未満の所定の値P1になるまで行う。このような減圧雰囲気とすることで、温度Tlowが比較的低い上記温度域であっても、脱水素及び再結合反応を生じさせることができる。例えば、処理対象である水素化合金50が、NdH2などの希土類元素の水素化合物51と、鉄52と、Fe−Bなどの鉄化合物53とを含む場合、温度Tlowを500℃以上とすることで、減圧の開始によって、希土類元素の水素化合物51から水素が除去されて、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との間で相互拡散が起こり、水素化合物51と鉄52及び鉄化合物53との界面付近に希土類−鉄系合金の結晶核(初期結晶)31が生じる。
温度Tlowを750℃以下とすることで、結晶核31の過度の成長を防止できる。上記温度域の範囲内で温度が低いほど、生成された結晶核31の過度な成長を抑制して均一的な大きさの結晶組織を得易い。上記範囲内で温度が高いほど、結晶核31を生成し易く、製造時間の短縮を図ることができる。温度Tlowは、600℃以上、更に700℃以上とすると、結晶核31を良好に生成し易い。
特に、雰囲気中の水素圧が203hPa(0.2気圧)以下、更に101hPa(0.1気圧)になるまで、つまり、所定の値P1が101hPaになるまで、減圧することが好ましい。このような減圧雰囲気とすることで、上述のように比較的低い温度域であって、かつ後述の強磁場が印加された状態であっても、脱水素及び再結合反応をある程度生じさせることができる。但し、101hPa未満にまで減圧すると、結晶核の形成状態にばらつきが生じ易くなる。特に処理対象が上述のような大型のものなどであると、処理対象の表面領域に結晶核が多く形成されたり、結晶核が大きくなったりする。結晶核の形成状態にばらつきが生じることで、結晶の大きさにもばらつきが生じ易くなり、粗大な結晶が含有される恐れがある。従って、この工程における雰囲気中の水素圧は、101hPa以上で十分であると考えられる(所定の値P1の最小値が101hPa)。水素の排出には、真空引きに利用されるポンプなど、公知の排気装置を利用できる。
かつ、減圧の開始時Spには、処理対象に3.5T以上の強磁場を印加した状態とする(減圧の開始時Sp=強磁場の開始時Sm)。減圧の開始時Spに3.5T以上といった強磁場の印加状態とすることで、上述のように結晶核31が生成されると、結晶核31を磁場の印加方向に応じて配向させることができる(図1では磁場の印加方向を白抜き矢印で示す)。具体的には、結晶の磁化容易軸(代表的にはc軸)を磁場の印加方向に平行するように配向させることができる。印加磁場は大きいほど、配向性を高められるため、4T以上とすることができる。但し、(1)5T以上10T以下程度の範囲であれば磁場の大きさに起因する配向性の向上効果に格別大きな差が無いこと、(2)印加磁場を大きくすることで磁場の形成エネルギーが大きくなり製造コストが増大すること、を考慮すれば、10T以下程度が利用し易いと考えられる。このような強磁場の印加には、常電導コイルを備える常電導磁石を利用することができるが、高温超電導材などの超電導材を用いた超電導コイルを備える超電導磁石を好適に利用することができる。特に、高温超電導磁石は、強磁場を長時間にわたり安定して形成できる、励磁速度が速く磁場の変動を高速で行えて制御し易い、といった利点がある。
磁場の印加を開始してから3.5T以上の所望の磁場に到達するまでにある程度時間がかかる場合には、到達磁場までの所要時間を考慮して、磁場の印加開始時は、減圧の開始時Spよりも先にすることができる。減圧を開始するとき、即ち雰囲気中の水素圧を大気圧未満にし始めるときに、3.5T以上の強磁場になっていればよい。そして、3.5T以上の強磁場の印加期間は、上述の雰囲気中の水素圧が所定の値P1にある期間とする。従って、強磁場の終了時Eは、水素圧のP1到達時、又は水素圧が所定の値P1である状態を維持しておき、配向に必要な所定の時間経過後、とすることができる。また、上記強磁場の印加は、500℃以上750℃以下の比較的低い温度域でのみ行う。
上記強磁場の印加期間の終了Eを雰囲気中の水素圧の大きさに基づいて設定することで、上記強磁場の印加によって脱水素反応の平衡温度が高くなっていたとしても、減圧雰囲気となっていることで上述のように比較的低い温度域でも脱水素及び再結合反応を生じさせて結晶核31を良好に生成できる。かつ、この強磁場の印加によって、生成された結晶核31を配向させることができる。また、強磁場の印加を昇温工程の途中のみとし、後述する保温工程では配向作業を行わないことで、保温工程での磁場の制御を不要にできる、強磁場の印加に伴う製造コストの増大も招かない、といった利点も有する。
強磁場の印加時間は、処理対象の大きさなどを考慮して適宜選択することができる。例えば、10分以上10時間以下程度が挙げられる。強磁場の印加中は、上述のように雰囲気中の水素圧が所定の値P1に到達するまでは少なくとも水素の排出を行う。所定の値P1に到達した後は、一定の値(=P1)に保持することができる。強磁場の終了時Eに所定の値P1に到達するように、排気速度を調整することもできる。
上記強磁場の印加中は、500℃以上750℃以下の範囲であれば、温度を変化させることができる。即ち、上記強磁場の開始時Smから強磁場の終了時Eまでの間、温度TLowから750℃以下の任意の温度に段階的に又は連続的に昇温することができる。このような昇温を行うと、温度の上昇に伴って、脱水素及び再結合反応が行い易くなり、結晶核31をより良好に生成できる。上記強磁場の開始時Smから終了時Eまで一定の温度Tlowに保持すると(図1に示す場合であると)、温度制御が不要であり、作業性に優れる。
≪後期昇温工程≫
後期昇温工程では、雰囲気中の水素圧が所定の値P1に到達した以降に、上記の強磁場の印加をやめて昇温を再開し、保持温度Tkまで昇温する。昇温速度は特に問わないが、例えば、1℃/min以上60℃/min以下が挙げられる。昇温速度を遅くすると、結晶粒子の成長に伴って行われる、生成結晶核周辺の希土類元素の水素化合物からの水素の放出がゆっくり進行する。そのため、処理対象の温度が安定し易く、組織の均質性が高くなる。
後期昇温工程では、雰囲気中の水素圧が所定の値P1に到達した以降に、上記の強磁場の印加をやめて昇温を再開し、保持温度Tkまで昇温する。昇温速度は特に問わないが、例えば、1℃/min以上60℃/min以下が挙げられる。昇温速度を遅くすると、結晶粒子の成長に伴って行われる、生成結晶核周辺の希土類元素の水素化合物からの水素の放出がゆっくり進行する。そのため、処理対象の温度が安定し易く、組織の均質性が高くなる。
<保温工程>
昇温工程における到達温度=保温工程の保持温度Tkは、適宜選択することができるが、できるだけ低い温度とすると、結晶の過度な成長を抑制できて、微細な結晶組織を得易く好ましい。具体的には、870℃以下が好ましい。保温工程では、上述のように3.5T以上の強磁場を印加しない。かつ、保温工程では、昇温工程の途中から引き続いて減圧雰囲気とするため、脱水素反応の平衡温度が、上述のように上記強磁場を印加している状態と比較して低い(図2の細線グラフ参照)。従って、保持温度Tkを850℃以下、更に830℃以下としても、脱水素及び再結合反応を良好に進行でき、希土類−鉄系合金の結晶21や結晶11に成長させられる。そして、これら結晶21,11は、配向した結晶核31に基づいて成長することから、最終的に得られる再結合合金10は、結晶核31の配向性を維持した結晶11によって構成される。特に、保持温度Tkを800℃以上とすると、脱水素及び再結合反応を進行し易く、結晶11を十分に形成できて好ましい。
昇温工程における到達温度=保温工程の保持温度Tkは、適宜選択することができるが、できるだけ低い温度とすると、結晶の過度な成長を抑制できて、微細な結晶組織を得易く好ましい。具体的には、870℃以下が好ましい。保温工程では、上述のように3.5T以上の強磁場を印加しない。かつ、保温工程では、昇温工程の途中から引き続いて減圧雰囲気とするため、脱水素反応の平衡温度が、上述のように上記強磁場を印加している状態と比較して低い(図2の細線グラフ参照)。従って、保持温度Tkを850℃以下、更に830℃以下としても、脱水素及び再結合反応を良好に進行でき、希土類−鉄系合金の結晶21や結晶11に成長させられる。そして、これら結晶21,11は、配向した結晶核31に基づいて成長することから、最終的に得られる再結合合金10は、結晶核31の配向性を維持した結晶11によって構成される。特に、保持温度Tkを800℃以上とすると、脱水素及び再結合反応を進行し易く、結晶11を十分に形成できて好ましい。
保温工程における減圧雰囲気は、昇温工程における雰囲気中の水素圧(P1)よりも低くすることが好ましい。保持温度Tkに維持しながら、雰囲気中の水素を更に排出して減圧することで、水素圧の低下に伴って脱水素反応の平衡温度を低下できる。従って、保持温度Tkを保持することで、上記平衡温度を十分に上回った状態を維持できることから、脱水素及び再結合反応を十分に進行でき、未反応のものも完全に反応させられて、磁気異方性を有する結晶11を形成できる。特に、保温工程における減圧雰囲気は、101hPa(0.1気圧)未満、更に10.1Pa(1×10−4気圧)以下、特に1.01Pa(1×10−5気圧)以下とすることが好ましい。保温工程における保持時間は、処理対象の大きさなどを考慮して適宜選択することができる。例えば、10分以上10時間以下程度が挙げられる。
・その他の工程
上述の脱水素処理を施して得られた再結合合金が、例えば、Sm−Fe系合金である場合、更に窒化処理を施すことで、Sm−Fe−N系合金を形成することができる。窒化処理の条件は、窒素雰囲気や、アンモニア(NH3)といった窒素元素を含む雰囲気、処理温度が200℃以上(好ましくは300℃以上)550℃以下、保持時間が10分以上600分(10時間)以下、が挙げられる。公知の条件を利用することができる。また、窒化処理時に強磁場(特に3.5T以上)を印加することもできる。
上述の脱水素処理を施して得られた再結合合金が、例えば、Sm−Fe系合金である場合、更に窒化処理を施すことで、Sm−Fe−N系合金を形成することができる。窒化処理の条件は、窒素雰囲気や、アンモニア(NH3)といった窒素元素を含む雰囲気、処理温度が200℃以上(好ましくは300℃以上)550℃以下、保持時間が10分以上600分(10時間)以下、が挙げられる。公知の条件を利用することができる。また、窒化処理時に強磁場(特に3.5T以上)を印加することもできる。
処理対象に上述の粉末成形体を用いた場合、脱水素処理後の処理材に加圧熱処理を施すことができる。この加圧熱処理によって、より緻密な磁石素材(例えば、空隙率が5体積%以下)を製造することができる。
処理対象を成形していない水素化粉末のみとした場合、上述のように平均結晶粒径が小さく、微細な結晶組織を有し、配向性に優れる再結合合金からなる合金粉末を製造できる。また、大量の水素化粉末に上述の脱水素処理を施すことで、上記合金粉末を量産することも可能である。得られた合金粉末は、例えば、樹脂などの結合剤と混合して成形することで、ボンド磁石用素材が得られる。例えば、上記合金粉末を成形して焼結することで、焼結磁石用素材が得られる。ボンド磁石用素材の製造工程では、合金を構成する結晶の成長を促すような温度の加熱を行わないため、微細な結晶組織を維持でき、磁気特性に優れるボンド磁石を製造できる。
脱水素処理後、又は窒化処理後、又は加圧熱処理後、又は成形後や焼結後などに、得られた磁石素材(例えば、処理対象に上述の粉末成形体を用いた場合では圧縮物、ボンド磁石用素材では樹脂を含む成形体、焼結磁石用素材では焼結体)を着磁することで、希土類磁石(例えば、圧縮磁石、ボンド磁石、焼結磁石)が得られる。
(希土類磁石)
上述のようにして得られた磁石素材や希土類磁石は、上述したNdやSmなどの希土類元素と、Feとを含む希土類−鉄系合金を主体とする。例えば、磁石素材や希土類磁石が上記圧縮物である場合、空隙率が1体積%以上15体積%以下(更に10体積%以下、5体積%以下、3体積%以下)、残部が希土類−鉄系合金から構成される。希土類−鉄系合金の具体的な組成は、Nd−Fe−B(例えば、Nd2Fe14B)、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−C、Sm−Fe−N(例えば、Sm2Fe17N3)、Sm−Ti−Fe−N(例えば、Sm1Ti1Fe11N2)、Sm−Mn−Fe−N、Y−Fe−N、Y−Ti−Fe−N、Y−Mn−Fe−Nなどが挙げられる。
上述のようにして得られた磁石素材や希土類磁石は、上述したNdやSmなどの希土類元素と、Feとを含む希土類−鉄系合金を主体とする。例えば、磁石素材や希土類磁石が上記圧縮物である場合、空隙率が1体積%以上15体積%以下(更に10体積%以下、5体積%以下、3体積%以下)、残部が希土類−鉄系合金から構成される。希土類−鉄系合金の具体的な組成は、Nd−Fe−B(例えば、Nd2Fe14B)、Nd−Fe−Co−B、Nd−Fe−C、Nd−Fe−Co−C、Sm−Fe−N(例えば、Sm2Fe17N3)、Sm−Ti−Fe−N(例えば、Sm1Ti1Fe11N2)、Sm−Mn−Fe−N、Y−Fe−N、Y−Ti−Fe−N、Y−Mn−Fe−Nなどが挙げられる。
上記磁石素材や希土類磁石を構成する希土類−鉄系合金は、微細な結晶組織を有し、平均結晶粒径が小さい。具体的には、平均結晶粒径が500nm以下である形態が挙げられる。上述の脱水素処理の条件によっては、平均結晶粒径が450nm以下、更に400nm以下である形態とすることができる。平均結晶粒径の測定方法は後述する。また、上記希土類−鉄系合金を構成する結晶のばらつきが小さい形態が挙げられる。具体的には、結晶粒径が200nm以上500nm以下である結晶の含有割合が60%以上である形態が挙げられる。上記磁石素材や希土類磁石を構成する希土類−鉄系合金は、配向性にも優れる。
上述のように微細な結晶組織を有し、かつ配向性に優れることで、上記希土類磁石は、磁気特性に優れる。具体的には、保磁力が高い。例えば、Nd−Fe−B、Nd−Fe−Co−BなどのNdを含有する希土類−鉄系合金を主体とする圧縮磁石では、保磁力が1050kA/m以上、更に1130kA/m以上、特に1150kA/m以上を満たす形態が挙げられる。
[試験例1]
Ndを含有する希土類−鉄系合金の圧縮磁石を作製し、結晶の大きさ及び磁気特性を調べた。
Ndを含有する希土類−鉄系合金の圧縮磁石を作製し、結晶の大きさ及び磁気特性を調べた。
ここでは、水素化材として、水素化粉末の粉末成形体を用意し、この粉末成形体に表1に示す種々の条件で脱水素処理を施し、NdとFeとを含む再結合合金を主体とする圧縮物(磁石素材)を作製した。
水素化粉末は、以下のように作製した。試料No.1−10を除く試料については、32質量%Nd−5質量%Co−0.5質量%Ga−1.0質量%B−残部Feという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって合金片を作製した。試料No.1−10については、32質量%Nd−1.0質量%B−残部Feという組成の溶湯を用いて、ストリップキャスト法によって合金片を作製した。得られた各組成の合金片にそれぞれ、水素のフロー雰囲気中、850℃×2時間の条件で水素化処理を施した。得られた水素化合金片を窒素雰囲気中(酸素濃度が体積割合で2000ppm以下)で粉砕した。粉砕には、市販の粉砕装置を用い、平均粒径が106μm以上355μm以下の粉末とし、この粉末を水素化粉末とした。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置により、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)を測定した。得られた水素化粉末を分析したところいずれも、Ndの水素化合物(NdH2)とFeとFe−B(Fe2B)とを含んでいた。組成の分析は、X線回折によって行った。粉末成形体はいずれも、作製した水素化粉末を金型に充填して、加圧圧力を1.2GPaとして圧縮成形し、直径がφ10mm、高さが10mmの円柱体とした。
・試料No.1−101
試料No.1−101は、脱水素処理中に磁場の印加を行っていない試料である。この試料No.1−101は、作製した水素化材(粉末成形体)を水素のフロー雰囲気中(雰囲気中の水素圧は大気圧と同じ)で830℃まで昇温し、830℃×1時間の条件で脱水素処理を施した。昇温速度は、8.5℃/minとした。また、830℃に到達してから、雰囲気中の水素を排出して減圧を開始し、雰囲気中の水素圧の最終到達値が10.1Pa(1×10−4気圧)以下となるまで減圧し、上記脱水素処理を減圧雰囲気で行った。
試料No.1−101は、脱水素処理中に磁場の印加を行っていない試料である。この試料No.1−101は、作製した水素化材(粉末成形体)を水素のフロー雰囲気中(雰囲気中の水素圧は大気圧と同じ)で830℃まで昇温し、830℃×1時間の条件で脱水素処理を施した。昇温速度は、8.5℃/minとした。また、830℃に到達してから、雰囲気中の水素を排出して減圧を開始し、雰囲気中の水素圧の最終到達値が10.1Pa(1×10−4気圧)以下となるまで減圧し、上記脱水素処理を減圧雰囲気で行った。
・試料No.1−1〜No.1−10,No.1−102〜No.1−107
試料No.1−101を除く各試料は、脱水素処理中に後述するように磁場の印加を行った試料である。これらの試料は、作製した水素化材(粉末成形体)を水素のフロー雰囲気中(雰囲気中の水素圧は大気圧と同じ)で表1に示す印加開始温度Tlow(℃)まで昇温する。このときの昇温速度は、8.5℃/minとした。また、これらの試料では、昇温途中、磁場の印加装置を駆動して、磁場を発生させた。ここでは、表1に示す印加開始温度Tlow(℃)に到達した時点において表1に示す大きさの印加磁場(T)が水素化材に印加されるように、駆動開始から所望の大きさの印加磁場になるまでの所要時間を考慮して、磁場の印加装置の駆動開始時を選択した。磁場の印加装置は、高温超電導磁石を備えるものを用いた。
試料No.1−101を除く各試料は、脱水素処理中に後述するように磁場の印加を行った試料である。これらの試料は、作製した水素化材(粉末成形体)を水素のフロー雰囲気中(雰囲気中の水素圧は大気圧と同じ)で表1に示す印加開始温度Tlow(℃)まで昇温する。このときの昇温速度は、8.5℃/minとした。また、これらの試料では、昇温途中、磁場の印加装置を駆動して、磁場を発生させた。ここでは、表1に示す印加開始温度Tlow(℃)に到達した時点において表1に示す大きさの印加磁場(T)が水素化材に印加されるように、駆動開始から所望の大きさの印加磁場になるまでの所要時間を考慮して、磁場の印加装置の駆動開始時を選択した。磁場の印加装置は、高温超電導磁石を備えるものを用いた。
そして、試料No.1−101を除く各試料では、表1に示す印加開始温度Tlow(℃)に到達したとき、雰囲気中の水素を排出して減圧を開始し、雰囲気中の水素圧が所定の値P1になるまで水素を排出し続ける。かつ、表1に示す印加開始温度Tlow(℃)に到達したとき、表1に示す印加磁場(T)が水素化材に印加された状態を開始する。試料No.1−10を除く各試料は、到達圧力P1を101hPa(0.1気圧)とし、試料No.1−10は、到達圧力P1を10.1Pa(1×10−4気圧)とした。また、磁場を印加している間は、試料No.1−7〜No.1−9を除いて、印加開始温度Tlow(℃)を保持したままとした。つまり、試料No.1−7〜No.1−9を除く各試料では、印加開始温度Tlow(℃)に到達した後、減圧操作及び磁場の印加を行った。試料No.1−7〜No.1−9は、印加開始温度Tlow(℃)に到達した後、表1に示す印加終了温度(℃)になるまで昇温を行った。つまり、試料No.1−7〜No.1−9は、印加開始温度Tlow(℃)に到達した後、減圧操作及び磁場の印加並びに昇温操作を行った。試料No.1−7〜No.1−9において印加開始温度Tlow(℃)から印加終了温度(℃)までの昇温操作の昇温速度は、10℃/minとした。磁場の印加時間はいずれの試料も、1時間とした。
上記磁場の印加時間を経過後、磁場の印加をやめて昇温を再開し、830℃まで昇温した。このときの昇温速度は、8.5℃/minとした。試料No.1−10を除く各試料は、この昇温時、雰囲気中の水素圧が10.1Pa(1×10−4気圧)以下となるまで減圧を行った。そして、試料No.1−10を除く各試料は、10.1Pa(1×10−4気圧)以下の減圧雰囲気で830℃に1時間保持した(保持温度Tk=830℃)。試料No.1−10は、10.1Pa(1×10−4気圧)以下の減圧雰囲気で830℃に2時間保持した(保持温度Tk=830℃)。いずれの試料も、保持温度Tk=830℃を保持している間は、磁場を印加せず、磁場がゼロの状態とした。1時間の保持後、又は2時間の保持後(試料No.1−10のみ)、室温(20℃程度)まで降温した。
上述の脱水素処理を施した後、得られた各試料(磁石素材)を4000kA/mのパルス磁場で着磁して、各試料(圧縮磁石)の磁気特性を調べた。その結果を表1に示す。ここでは、飽和磁束密度Bs(T)、飽和磁束密度Bsに対する残留磁束密度Brの比Br/Bs、固有保磁力iHc(kA/m)、磁束密度Bと減磁界の大きさHとの積の最大値、即ち最大エネルギー積(BH)max(kJ/m3)を調べた。測定には、BHトレーサ(理研電子株式会社製DCBHトレーサ)を用いた。測定の評価方向は、着磁後の各試料において、成形時にパンチが接していた加圧面(ここでは円柱の端面)に直交する方向とした。この評価方向は、ここでは圧縮成形時の加圧方向に平行な方向でもある。なお、得られた各試料を調べたところ、試料No.1−10以外の試料は、Nd−Fe−Co−Ga−B合金からなる粉末が圧縮成形された圧縮物となっていた(上記合金の含有割合が88体積%程度、空隙率が88体積%程度)。試料No.1−10は、Nd−Fe−B合金からなる粉末が圧縮成形された圧縮物となっていた(上記合金の含有割合が90体積%程度、空隙率が90体積%程度)。即ち、いずれの試料も、脱水素処理によって再結合合金を生成していることが確認できた。なお、組成の分析は、X線回折によって行った。また、上記分析は、試料の表面部が自然酸化されている恐れがあるため、各試料について、表面から2mm程度を研磨した面について評価した。
得られた各試料(磁石素材又は圧縮磁石)を切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、この観察像(2万倍)を用いて、以下のようにして平均結晶粒径を求めた。その結果を表1に示す。市販の画像処理ソフトを用いて上記観察像を画像処理し、視野内(200μm×200μm)の結晶粒子を全て抽出し、各結晶粒子の面積を求める。求めた面積と等価な面積を有する円の直径を各結晶粒子の結晶粒径とする。10個の視野をとり、10個の視野中に存在する全ての結晶について結晶粒径を求め、その平均を平均結晶粒径とする。
表1に示すように、水素雰囲気で昇温を始め、昇温途中の500℃以上750℃以下の温度のときに減圧を開始して減圧雰囲気とすると共に3.5T以上の強磁場を印加した状態とし、その後、磁場を印加しない状態で保温する、という特定の条件で脱水素処理を行った試料No.1−1〜No.1−10はいずれも、平均結晶粒径が小さく、微細な組織を有することが分かる。具体的には、試料No.1−1〜No.1−10はいずれも、平均結晶粒径が500nm以下、更に400nm以下である。条件によっては、平均結晶粒径が350nm以下、更には300nm程度の試料もある。即ち、この試験では、平均結晶粒径が300nm〜400nm程度であるものが得られている。そして、このように非常に微細な組織を有する試料No.1−1〜No.1−10はいずれも、磁気特性にも優れる。特に、保磁力が高く、固有保磁力iHcが1050kA/m以上、更に1130kA/m以上である。また、試料No.1−1〜No.1−10はいずれも、飽和磁束密度Bsが1.15T以上、Br/Bsが0.70以上(多くの試料は0.80以上)、固有保磁力iHcが1050kA/m以上、更に1130kA/m以上、最大エネルギー積(BH)maxが110kJ/m3以上(多くの試料は135kJ/m3以上)である。
このことから、3.5T以上といった強磁場を印加して脱水素処理を行う場合、ある程度低い温度のときに強磁場を印加すると共に、減圧雰囲気とすることで、脱水素及び再結合反応を良好に行えながら、微細な結晶組織とすることができ、かつ、配向性を高められるといえる。
磁場を印加していない試料No.1−101では、脱水素反応の平衡温度を低くできるため、平均結晶粒径がある程度小さいものの、他の試料に比較して磁気特性に劣ることが分かる。この理由は、磁場を印加していないことで、磁気異方性を有することができなかったため、と考えられる。
表1の試料No.1−1〜No.1−4、No.1−102〜No.1−105に着目すると、3.5T以上の強磁場の開始温度Tlowが低過ぎると、平均結晶粒径が小さいものの、磁気特性に劣ることが分かる。この理由は、強磁場を印加しているときに再結合合金の結晶核を十分に生成できず、結晶核を十分に配向できなかったため、と考えられる。逆に、上記開始温度Tlowが高過ぎると、平均結晶粒径が大きくなって(ここでは550nm以上)、磁気特性に劣ることが分かる。
表1の試料No.1−2,No.1−5,No.1−6、No.1−106,No.1−107に着目すると、印加磁場が3.5T以上であれば、保磁力iHcが高く、Br/Bsも高いものが得られることが分かる。印加磁場が小さ過ぎると、配向性を十分に高められず、特にBr/Bsが低くなる。
表1の試料No.1−7〜No.1−9に着目すると、500℃以上750℃以下の範囲であれば、強磁場を印加中に昇温を行っても、平均結晶粒径が小さく、微細な結晶組織を有するものが得られることが分かる。
この試験例1で得られた試料No.1−1〜No.1−10の圧縮物(着磁後)は、磁気特性に優れることから、永久磁石などに利用される希土類磁石(圧縮磁石)に好適に利用できるといえる。
(付記)
磁場を印加しないで脱水素処理を行う場合も、上述の強磁場を印加する場合と同様に、昇温途中で減圧を開始し、所定の圧力になってから昇温を開始して、その後に保温する、という条件とすることができる。具体的には、以下の希土類磁石の製造方法が挙げられる。
希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、
前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
水素雰囲気で昇温を開始して、前記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、
減圧雰囲気で前記保持温度Tkに保持する保温工程とを備え、
前記昇温工程は、
水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する前期昇温工程と、
前記温度Tlowの到達以降に、雰囲気の減圧を開始し、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする減圧工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1に到達した以降に昇温を再開し、前記温度域から前記保持温度Tkまで昇温する後期昇温工程とを備える希土類磁石の製造方法。
磁場を印加しないで脱水素処理を行う場合も、上述の強磁場を印加する場合と同様に、昇温途中で減圧を開始し、所定の圧力になってから昇温を開始して、その後に保温する、という条件とすることができる。具体的には、以下の希土類磁石の製造方法が挙げられる。
希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、
前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
水素雰囲気で昇温を開始して、前記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、
減圧雰囲気で前記保持温度Tkに保持する保温工程とを備え、
前記昇温工程は、
水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する前期昇温工程と、
前記温度Tlowの到達以降に、雰囲気の減圧を開始し、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする減圧工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1に到達した以降に昇温を再開し、前記温度域から前記保持温度Tkまで昇温する後期昇温工程とを備える希土類磁石の製造方法。
上述の希土類磁石の製造方法によれば、平均結晶粒径が500nm以下である微細な組織を有する希土類磁石を製造することができる。この希土類磁石は、高い保磁力を有する。
本発明の希土類磁石の製造方法は、希土類磁石の製造に利用することができる。得られた希土類磁石は、永久磁石、例えば、各種のモータ、特に、ハイブリッド自動車やハードディスクドライブなどに具備される高速モータに用いられる永久磁石に好適に利用することができる。
10 再結合合金
11,21 希土類−鉄系合金の結晶 12 結晶の境界
31 希土類−鉄系合金の結晶核
50 水素化合金 51 希土類元素の水素化合物 52 鉄
53 鉄化合物
11,21 希土類−鉄系合金の結晶 12 結晶の境界
31 希土類−鉄系合金の結晶核
50 水素化合金 51 希土類元素の水素化合物 52 鉄
53 鉄化合物
Claims (5)
- 希土類元素の水素化合物と、Feとを含む水素化材を準備する準備工程と、
前記水素化材に脱水素処理を施して、前記希土類元素とFeとを含む再結合合金を形成する脱水素工程とを備え、
前記脱水素処理は、
水素雰囲気で昇温を開始して、前記水素化材を所定の保持温度Tkにまで昇温する昇温工程と、
減圧雰囲気で前記保持温度Tkに保持する保温工程とを備え、
前記昇温工程は、
水素雰囲気で500℃以上750℃以下の温度域から選択した温度Tlowまで昇温する前期昇温工程と、
前記温度Tlowの到達以降に、3.5T以上の強磁場の印加を開始して、前記強磁場が印加された状態とすると共に、雰囲気の減圧を開始し、前記雰囲気中の水素圧が101hPa以上大気圧未満の所定の値P1になるまで水素を排出して減圧雰囲気とする磁場印加工程と、
前記水素圧が前記所定の値P1に到達した以降に前記強磁場の印加をやめて昇温を再開し、前記温度域から前記保持温度Tkまで昇温する後期昇温工程とを備え、
前記保温工程では、前記強磁場を印加しない希土類磁石の製造方法。 - 前記水素圧の所定の値P1は、101hPaである請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記希土類元素は、Nd又はSmである請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記再結合合金は、Ndと、Feと、B及びCの少なくとも一方の元素とを含む請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記水素化材は、希土類元素の水素化合物とFeとを含む水素化粉末を圧縮成形した粉末成形体である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN106548844A (zh) * | 2016-12-06 | 2017-03-29 | 中国科学院宁波材料技术与工程研究所 | 一种热变形稀土永磁材料及其制备方法 |
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2013
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