JP2015045034A - マルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】マルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼を、質量%でC:0.10超〜0.35%未満,Si:0.10〜2.0%,Mn:0.80〜2.0%,P:0.005〜0.050%,S:0.10〜0.30%,Cr:10.0〜18.0%,Bi:0.01〜0.30%,Te:0.01〜0.10%,O:0.005〜0.030%,B:0.0005〜0.0100%,N:0.04%以下,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、下記式(1),式(2),式(3)
5×[C]+2×[S]+10×[Te]+3×[Bi]≦2.90・・式(1)
3.0≦[Mn]/[S]≦15.0・・式(2)
10≦[S]/[O]≦40・・式(3)
を満たし、且つ円相当径が2.0μm以上でアスペクト比が10以下である硫化物が総量として面積率で0.50〜10.0%存在するようにする。
【選択図】 なし
Description
快削元素としてはS,Pb,Te,Se,Ca等の種々の元素があり、従来これら元素を単独で又は組み合せて添加している。
これら元素のうちS,Pbは快削元素として主流をなすもので、従来からステンレス鋼に快削性を付与する成分として広く用いられている。
鋼に添加されたSは、鋼中でMnSを主体とする硫化物系介在物を生じ、切屑形成時にこの介在物に応力が集中することで鋼の被削性が高まる。
しかしながらPbよりも融点が低いBiはPbと比べて熱間加工性への悪影響が大きく、マルテンサイト系ステンレス鋼の製造性を悪化させる問題があり、Pbに置換する形でBiを快削元素として加えるに際しては、こうした問題を解決することが必須である。
この特許文献2に記載のものはSを必須元素として、またBi,Teを選択元素として添加するものであるが、Bi,Teを添加している実施例は3つしかない上に、それぞれを単独に添加しており、表1で示すようにS,Bi,Teをともに添加した実施例はなく、本発明とは異なる。
但しそこにはBiの添加例はあるものの、本発明において必須とするBiとTeとの複合添加の例は開示されておらず、本発明とは異なる。
しかしながら、これら特許文献の何れにおいてもBi,Teの何れか一方だけをSとともに添加している例のみで、Bi,Teを複合添加している例はなく、本発明とは異なっている。
5×[C]+2×[S]+10×[Te]+3×[Bi]≦2.90・・式(1)
を満たすとともに、下記式(2),式(3)
3.0≦[Mn]/[S]≦15.0・・式(2)
10≦[S]/[O]≦40・・式(3)
(式(1),式(2),式(3)中[ ]は各元素の含有質量%を示す)
を満たし、且つ円相当径が2.0μm以上で、アスペクト比が10以下である硫化物が総量として、面積率で0.50〜10.0%存在することを特徴とする。
2×[S]+8×[Te]+3×[Bi]≧1.00・・式(4)
(但し式(4)中[ ]は各元素の含有質量%を示す)
を満たすことを特徴とする。
Sは硫化物系介在物を形成し、切屑形成時に介在物を応力集中源として働かせることで被削性を高める。
またBiは、Pbと同様に切削時の熱で溶融して工具と切屑との間で潤滑効果を発揮し、被削性を高める。
Teもまた潤滑材として働き、被削性を改善する。Teはまた、鋼中で圧延方向に延びたMnS介在物の両端に存在して、MnS介在物が圧延方向に長く延び切らないように抑制し、介在物のアスペクト比を制御することで、鋼の機械的特性の異方性が大きくなるのを抑制する働きをなす。
本発明ではS,Bi,Teの上記の働きの相乗効果によって、マルテンサイト系ステンレス鋼の被削性を効果的に高める。
具体的には、式(1)を満足するようにS,Bi,Teの添加量をCの添加量とともに規制し、良好な熱間加工性を確保しつつ被削性を高める。
尚、左辺のCは鋼の硬さを硬くし変形抵抗を増大させることで熱間加工性を悪化させるもので、他の快削元素とは影響の仕方が異なる。
C:0.10超〜0.35%未満
Cは焼入れ時にマルテンサイト組織にするために必須の元素である。十分な硬さを得るために0.10%を超える量で添加する。
但しC添加量が過剰になると熱間加工時の変形抵抗が上昇し、製造性が悪化するため、0.35%未満とする。
Siは鋼の脱酸剤として作用する。その効果を得るために0.10%以上とする。好ましくは0.2%以上とする。
但し過剰に添加するとδフェライトの生成量が増加し、熱間加工性が低下するため、上限を2.0%とする。望ましくは1.5%未満とする。
MnはS,Teと共に存在することによりMnS,MnTeを形成する。これらの化合物は切削時に応力集中源となることで被削性を向上させる。この効果を得るために0.8%以上添加する。より好ましくは0.90%を超える量で添加する。
但し過剰に添加すると耐食性を劣化させるため、2.0%以下とする。
SはMnと共に存在することによりMnSを形成する。その化合物が切削時に応力集中源になることで被削性を向上させる。この効果を得るために0.10%以上添加する。好ましくは0.2%以上とする。
但し過剰に添加すると耐食性を劣化させ、また同時に熱間加工性も低下させるため、添加量を0.30%以下とする。
Crは耐食性を向上させる元素である。その効果を得るために10.0%以上添加する。好ましくは11.0%を超える量で、更に望ましくは11.5%以上の量で添加する。
但し過剰に添加するとδフェライトの生成量が増加し、熱間加工性が低下するため、添加量を18.0%以下とする。望ましくは16.0%未満とする。
Biは被削性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るために0.01%以上添加する。好ましくは0.05%以上とする。
但し過剰に添加すると熱間加工性を悪化させるため、添加量を0.30%以下とする。好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.15%以下とする。
Teは被削性を向上させるのに有効な元素である。また、圧延時に硫化物が伸長することで材料の異方性,機械的特性の異方性が大きくなるのを抑制する。その効果を得るために添加量を0.01%以上とする。好ましくは0.02%以上とする。
但し過剰に添加すると熱間加工性を悪化させるため、添加量を0.10%以下とする。好ましくは0.06%以下とする。
Oは、被削性を向上させるのに必要な硫化物の形成に関わる元素である。詳しくは、OはMnS等硫化物形成の核となる酸化物を介在物として分散生成する。MnS等硫化物はその核の存在の下に核を中心として生成し易い。従ってMnS介在物を上手く分散状態で良好に形成するために一定量のOを必要とする。そのため本発明ではOを0.005%以上とする。
但しOが過剰になると、被削性の向上に有効でない酸化物が生成し易くなるため、含有量を0.030%以下とする。
Bは熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るために0.0005%以上とする。但し過剰に含有させると熱間加工性を低下させる化合物を形成するため、0.0100%以下とする。
Pは不純物となるもので、粒界に偏析し、粒界腐食に対する感受性を高める。また熱間加工性の低下、靭性の低下を招く。このため含有量を0.050%以下に規制する。
但しPの含有量を必要以上に低減することは製造コストの上昇を招く。そのため製錬技術などを考慮し、規制の下限を0.005%とする。
Nは被削性の向上に有効でない窒化物を生成させるため0.04%以下とする。その含有量は極力低い方が良いが、製造コストとの兼ね合いになるが好ましくは0.03%以下とする。
S,Te,Biは何れも被削性を向上するために必要な元素であるが、過剰に添加すると熱間加工性を低下させる。またCは含有量が増えることにより熱間加工時の変形抵抗が高くなり、熱間加工性を低下させる。
そこで本発明では、各元素ごとの熱間加工性への影響の程度を考慮して、式(1)の左辺の値が2.90以下となるように各元素の含有量をバランスさせる。
式(1)中の左辺のより望ましい値は2.70以下である。
式(2)は次のような意味を有している。
鋼中に生成する硫化物系介在物はMnSを主体とするが、鋼にMnとCrとがSとともに含有されている場合、介在物にはMnSに加えてCrSが含まれる。
但しMnSの方がCrSよりも生成エネルギーが低いのでMnSが優先的に生成する。ここでMnSは被削性向上効果が大きいが、耐食性は低い。
一方CrSは被削性を良くする働きは有するものの、被削性向上効果はMnSに比べて小さい。一方で耐食性は高い。
鋼中に硫化物系介在物を生成させるに際して、これらMnSとCrSの生成をバランスさせることが、被削性及び耐食性の観点から必要である。
この場合において[Mn]/[S]が3.0未満であると、MnSの生成量が相対的に少なく、CrS生成量が適正バランスよりも多くなって、S添加量の割には十分な被削性向上効果が得られず、またCrSは熱間加工性に対する悪影響の度合がMnSに比べて大きいために熱間加工性が悪化する。
逆に[Mn]/[S]の比率が15.0を超えて高くなると、硫化物中のMn含有量が過剰となって硫化物中に必要なCr含有量を確保できない。即ちCrSの量がMnSの量に対し適正バランスを超えて過少となり、結果として硫化物介在物の耐食性が著しく劣化し、そのことが鋼の耐食性の劣化を招く。
そこで本発明では[Mn]/[S]を3.0〜15.0の範囲内とする。好ましくは3.0〜10.0の範囲内とする。
[S]/[O]が10未満の場合、割合としてSが低いと十分な被削性が得られず、また割合としてOが多いと、被削性に有効でない硬質な酸化物が多くなる。
逆に40を超えると、相対的にOに対してSが過剰又はSに対してOが過少となる。Sが過剰となると、熱間加工性を低下させ、一方Oが過少となると、被削性に有効な大きさの硫化物が得られにくくなり、被削性が低下する。
従って[S]/[O]は10〜40とする。好ましくは15〜40の範囲内とする。
硫化物の存在形態及び存在量を上記のようにすることで、鋼に優れた被削性を与えることができる。
上記面積率の上限は10.0%である。それを超えると耐食性,靭性,疲労強度等の異方性が大きくなるなど、特性が劣化する。
S,Te,Biは何れも被削性を向上する元素である。各元素の被削性への寄与率は異なっており、十分な切削性を発動させるためにS,Te,Bi複合快削ステンレス鋼においては、式(4)の左辺の値を1.00以上とする。このようにすることで鋼の良好な被削性を確保することができる。好ましくは1.20以上とする。
Moは耐食性を向上させることが可能な元素である。この効果を得るためには、Mo含有量の下限を0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上である。
但し、過剰に添加すると熱間加工性が低下する。また、製造コストが上昇する。そのため、Mo含有量の上限を2.0%とする。好ましくは1.0%以下である。
本発明においてCuは不純物となる元素で、過剰に含有すると熱間加工性が低下するため、0.5%以下に含有量を規制する。
Niもまた不純物となる元素で、その含有量が多くなると焼入れ時に求める硬さが得られない。そのため、0.5%以下に含有量を規制する。
Mg:0.0001〜0.02%
REM:0.0001〜0.02%
Ca,Mg,REMは熱間加工性を向上させるのに有効な元素である。そのために必要に応じて含有させても良い。その効果を得るためCa,Mg,REM何れも0.0001%以上、好ましくは0.005%以上含有させる。
但し過剰に含有させると熱間加工性を低下させるため、何れも含有量を0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。
Wは耐食性や強度をより向上させる効果がある。そのため必要に応じて0.01%以上含有させる。
但し過剰に添加すると、熱間加工性を低下させる。また、製造コストが上昇する。そのために含有量を2.0%以下とする。好ましくは1.0%以下とする。
Ta:0.01〜0.50%
V:0.01〜0.50%
Nb,Ta,Vは炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、靭性を高める効果がある。その効果を得るために必要に応じて0.01%以上含有させることができる。
但し過剰に添加するとコスト上昇を招くため、含有量を0.50%以下とする。
表1に示す化学組成の鋼50kgを高周波誘導炉を用いて溶製した後、冷却して各インゴットを作製した。
次いで、各インゴットを1000〜1200℃に加熱し、熱間鍛造により直径60mmと直径20mmの丸棒、および、幅60mm、高さ30mmの角棒に加工した。
次いで、それら丸棒を更に860℃で1時間加熱した後、徐冷(焼きなまし処理)し、そして熱処理を行った試験片を用いて下記方法で各種特性調査を実施した。
硫化物特性調査として実施例および比較例のステンレス鋼中に存在する硫化物につき、面積率を測定した。
各ステンレス鋼につき、20mmの丸棒から直径20mm、高さ10mmの円柱形状の試験片を準備した。各試験片を1000℃に加熱し30分間保持した後、油冷して焼入れ処理した。その後、150℃に加熱し1時間保持した後、空冷して焼戻し処理し、その後、ロックウェル硬さ(Cスケール)にて硬さを測定した。
被削性評価は旋削試験とドリル穿孔試験とを実施することにより行った。
熱間加工性はインゴットから20mmの丸棒への熱間鍛造時の外観、および高温高速引張試験(グリーブル試験)の2つで評価した。
これらの結果が表2に示してある。
比較例1は、JISに規定されるSUS410であり、快削元素のひとつであるSが極めて少なく、快削ステンレス鋼ではない。そのため、硫化物がほとんど存在せず、熱間加工性に優れているが、被削性が極めて悪いことが分かる。
Claims (7)
- 質量%で
C:0.10超〜0.35%未満
Si:0.10〜2.0%
Mn:0.80〜2.0%
P:0.005〜0.050%
S:0.10〜0.30%
Cr:10.0〜18.0%
Bi:0.01〜0.30%
Te:0.01〜0.10%
O:0.005〜0.030%
B:0.0005〜0.0100%
N:0.04%以下
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、下記式(1)
5×[C]+2×[S]+10×[Te]+3×[Bi]≦2.90・・式(1)
を満たすとともに、下記式(2),式(3)
3.0≦[Mn]/[S]≦15.0・・式(2)
10≦[S]/[O]≦40・・式(3)
(式(1),式(2),式(3)中[ ]は各元素の含有質量%を示す)
を満たし、且つ円相当径が2.0μm以上で、アスペクト比が10以下である硫化物が総量として、面積率で0.50〜10.0%存在することを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1において、下記式(4)
2×[S]+8×[Te]+3×[Bi]≧1.00・・式(4)
(但し式(4)中[ ]は各元素の含有質量%を示す)
を満たすことを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
Mo:0.01〜2.0%
を更に含有していることを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1〜3の何れかにおいて、Cu,Niの何れか1種又は2種が、質量%で
Cu:0.5%以下
Ni:0.5%以下
の含有量であることを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
Ca:0.0001〜0.02%
Mg:0.0001〜0.02%
REM:0.0001〜0.02%
の1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
W:0.01〜2.0%
を更に含有していることを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。 - 請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で
Nb:0.01〜0.50%
Ta:0.01〜0.50%
V:0.01〜0.50%
の1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とするマルテンサイト系Bi快削ステンレス鋼。
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