本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像領域(3)が形成されて成る。基材(2)は、印刷画像領域(3)が形成できれば、紙であってもプラスティックであっても、金属等であってもよく、その材質は問わない。印刷画像領域(3)は、如何なる色彩でも良く、透明や半透明であっても問題ない。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
本発明の印刷画像領域(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像領域(3)は、第一の画像(4)の上に第二の画像(5)が重ね合わさって成る。二つの画像の積層構造は、必ず第一の画像(4)の上に第二の画像(5)が重なる層構造とする必要がある。また、第二の画像(5)は、潜像画像を一つ有すればよいが、潜像画像を二つ以上有することがより好ましいため、本形態では、二つの潜像画像を例に説明する。なお、第一の実施の形態では、第二の画像(5)は、第一の潜像画像(5A)及び第二の潜像画像(5B)の二つの潜像画像を有する。第二の画像(5)の中に含まれる第一の潜像画像(5A)及び第二の潜像画像(5B)は、正反射光下で出現する潜像画像となる。
まず、第一の画像(4)について具体的に説明する。図3に示すのは、第一の画像(4)であり、第一の画像(4)は、盛りあがりを有する画素状の第一の要素(6)を所定の方向に、所定のピッチで複数配置されて成る。第一の実施の形態における第一の要素(6)は、断面が蒲鉾状、かつ、平面形状が四角形の形状を有しているが、この形状に限定されるわけではなく、第一の要素(6)の形状とは、立体的な曲面形状、すなわち盛り上がりを有する構造であって、かつ、少なくとも一つの特定の方向に対して左右対称な形状であれば如何なる形状であっても良い。後述する図10に示すような中心が盛りあがりを有する半球形状のみならず、半楕円球、蒲鉾形状等の一定の曲率を持った左右対称な形状、三角柱、五角柱、六角柱等の多角柱などの立体的な曲面形状を有し、平面形状が円形状や楕円状等の曲線を有する形状、三角形、五角形、六角形等の多角形等であっても良い。なお、第一の画像(4)を構成するすべての第一の要素(6)の三次元構造及び平面形状は、同じである必要がある。
第一の画像(4)は、第一の要素(6)が市松模様に準じた形状である「市松模様状に配列」して成る。本明細書中で言う「市松模様状に配列」とは、一般的な市松模様に似た構成の模様に配列された状態ではあるが、完全な市松模様で配列された状態とは異なる。「市松模様状に配列する」とは、具体的には「同じ形状の第一の要素(6)が市松模様のように所定のピッチで互い違いに配列され、特定の方向(実施の形態においては、第一の方向(S1))に隣り合う第一の要素(6)と第一の要素(6)の間の特定の方向の中間位置に、斜め上、斜め下に隣り合う第一の要素(6)の特定の方向の中心が位置する構成であって、かつ、それぞれの第一の要素のいずれの辺や端部も互いに接することがない構成で配列した状態」を指す。その他、第一の画像(4)を構成する第一の要素(6)の配列において、この他に満たさなければならない条件については後述する。なお、実施の形態における具体的な構成の説明では、特定の方向を第一の方向(水平方向:図中S1方向)とし、特定の方向と直交する方向を第二の方向(垂直方向:図中S2方向)とする。なお、本例では、第一の方向を水平方向、第二の方向を垂直方向としているが、第一の方向と第二の方向は、直交する関係であれば任意の方向でよい。
第一の画像(4)は、第一の方向(図中S1方向)の要素長さがW1で、第二の方向(図中S2方向)の要素の長さがHの大きさを有する四角形の第一の要素(6)が第一の方向(S1)に特定のピッチ(P1)で、第二の方向(S2)に特定のピッチ(P2)で市松模様状に配列されて成る。また、第一の画像(4)は、如何なる色彩であっても良く、透明や半透明であっても良い。ピッチ(P1)とピッチ(P2)は、同じ値で有っても良いし、異なる値であっても良い。なお、印刷での画線再現性や、潜像画像に要求される画像解像度等を考慮すると、第一の要素(6)の第一の方向における長さ及び各ピッチ(P1、P2)ともに、0.05mmから5mmの範囲で形成することが望ましい。
第一の画像(4)を構成する第一の要素(6)の配列において、市松模様状の配列以外に、満たさなければならない条件について具体的に説明する。まず、第一の要素(6)を市松模様状に配列するほかに、少なくとも一つの特定の方向に対して以下に述べる位置関係を満たさなくては成らない。第一の要素(6)の要素長さ(W1)と第一の方向(S1)における配置ピッチ(P1)が満たさなければならない位置関係について、図4を用いて具体的に説明する。図4(b)に市松模様状の配列における基本的な繰り返し構造である、互いに斜め方向に隣り合う三つの第一の要素(6A、6B、6C)を例として拡大して示す。第一の実施の形態における第一の画像(4)とは、図4(b)に示す基本的な構造が上下左右に繰り返されて配置されることで形成されると考えることができる。三つの第一の要素(6A、6B、6C)のうち、左端の第一の要素(6A)と右端の第一の要素(6C)とは、ピッチ(P1)×2(2倍)だけ第一の方向(S1)に位相をずらして配置され、第二の方向(S2)へのずれはない。この左端の第一の要素(6A)と右端の第一の要素(6C)の位置関係を、本明細書中において「第一の方向に隣り合う」位置関係と呼ぶ。一方、一番上に位置する第一の要素(6B)の第一の方向(S1)における中心は、左端の第一の要素(6A)の第一の方向(S1)における中心と右端の第一の要素(6C)の第一の方向(S1)における中心から等距離にある点を通って、第二の方向に伸びる直線の延長線上に位置する。すなわち、一番上に位置する第一の要素(6B)は、左端の第一の要素(6A)の中心を基準として、第一の方向(S1)にピッチ(P1)だけ要素の中心がずれ、第二の方向(S2)へは、ピッチ(P2)だけ位相をずれて配置されて成る。第一の要素(6B)と第一の要素(6A)の位置関係や、第一の要素(6B)と第一の要素(6C)の位置関係を、本明細書中において「斜めに隣り合う」位置関係と呼ぶ。
第一の画像(4)を構成するにあたっては、隣り合う三つの第一の要素(6A、6B、6C)の位置関係において少なくとも一つの方向(第一の実施の形態では、第一の方向(S1))に対して、隣り合う三つの第一の要素(6A、6B、6C)の第一の方向(S1)上のそれぞれの端部の位相が、完全に接するか、一部に重なる位置関係にあることが必須となる。具体的には、左端の第一の要素(6A)の右辺(6AR)の第一の方向(S1)の位相は、一番上に位置する第一の要素(6B)の左辺(6BL)と同じ位置か、あるいはより右側に存在し、上の第一の要素(6B)の右辺(6BR)の第一の方向(S1)の位相は、一番右に位置する第一の要素(6C)の左辺(6CL)と同じ位置か、あるいはより右側に存在する必要がある。完全に接する場合、6ARと6BL、6BRと6CLの第一の方向(S1)に対する位相は一致し、一例である図4(b)に示すように、一部に重なる位置関係の場合は、6BLが6ARよりも左側(6ARの辺を有する第一の要素(6A)のある方向)に位置することにより6BLと6ARのそれぞれ一部に重複する領域を有し、6CLは6BRよりも左側(6BRの辺を有する第一の要素(6B)のある方向)に位置することによって、6CLは6BRのそれぞれ一部に重複する領域を有する。なお、この位置関係を満たすためには、斜めに隣り合う第一の要素間(例えば、第一の要素(6A)と第一の要素(6B))の第一の方向(S1)における位相差(ピッチ(P1))が、第一の要素(6)の第一の方向(S1)における長さ(要素長さ(W1))以下である必要がある。これが第一の画像(4)を形成する第一の要素(4)の配置において、市松模様状に配列する以外に必須と成る条件である。更に、本発明における重複領域とは、一部が重なる領域のみならず、接する場合も含む意である。
以上をまとめると、第一の画像(4)における第一の要素(4)の配列における要件とは、第一の要素(6)が市松模様状に配列されること、すなわち、「同じ形状の第一の要素(6)が市松模様のように上下左右に互い違いに配列され、左右に隣り合う第一の要素(6)の間の特定の方向の中間の位相上に、斜め上、斜め下に隣り合う第一の要素(6)の中心が位置する構成であって、かつ、それぞれの第一の要素のいずれの辺や端部も互いに接することがない構成で配列した状態」であって、かつ「斜めに隣り合う第一の要素間の特定の方向における位相差(ピッチ(P1))が、第一の要素(6)の特定の方向における長さ(要素長さ(W1))以下である」という二つの条件を満たせばよい。
第一の画像(4)は、拡散反射光下においては特定の色彩を有するか、あるいは透明又は半透明であって、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有する必要がある。本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度のみが変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは光を強く反射しない拡散反射光下では暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下ではより淡い灰色か、あるいは白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度のみが変化する。
一方のカラーフリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
以上のような構成の第一の画像(4)を、印刷画線に盛りあがりを形成できる印刷方式によって形成する。出現する潜像画像に一定の視認性を確保するためには、第一の要素(6)の盛りあがり高さは3μm以上必要であるため、スクリーン印刷や凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、凸版印刷、IJP等であってもこの程度の画線の盛りあがり高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適正等を考慮して1mm以下とする。
続いて、第二の画像(5)について具体的に説明する。図5に示すのは、第二の画像(5)であり、第二の画像(5)は、第一の潜像画像(5A)と第二の潜像画像(5B)を有する。第一の潜像画像(5A)は、第一の方向(S1)に対して特定の要素長さ(W2)を有し、画線方向が第二の方向(S2)を成す第一の潜像画線(7A)が、第一の画像(4)と同じ特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配されて成り、第二の潜像画像(5B)は、第一の方向(S1)に対して特定の要素長さ(W3)を有し、画線方向が第二の方向(S2)を成す第二の潜像画線(7B)が、第一の画像(4)と同じ特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配されて成る。第一の潜像画像(5A)を構成する第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画像(5B)を構成する第二の潜像画線(7B)とは、重なり合うことはなく、第一の方向(S1)に位相がずれて第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)とが交互に配置されて第二の画像(5)を構成して成る。第一の潜像画線(7A)と第二の潜像画線(7B)の位相のずれの適正な値は、ピッチの約n分の1(nは潜像数)の値となる。
本発明の潜像印刷物(1)において、第一の画像(4)、第二の画像(5)のそれぞれの要素の配置ピッチ(P1)と配置方向(第一の方向(S1))は、同じである必要がある。すなわち、いずれの要素も全て同じピッチ(P1)で、かつ、全て同じ第一の方向(図中S1方向)に連続して配置される。なお、第一の要素(6)の第一の方向(S1)の要素長さ(W1)は、各潜像画線の第一の方向(S1)の要素長さ(W2及びW3)よりも大きい必要がある。また、各潜像画線の第一の方向(S1)の要素長さ(W2、W3)は同じであっても、異なっていても良い。なお、第一の要素(6)の長さ及びピッチとの関係から、潜像画線の画線幅、ピッチともに、0.01mmから5mmの範囲で形成することが好ましい。
それぞれの潜像画線(7)は、盛りあがりが必須ではなく、このため、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像画像を可視化するために、潜像画線(7)は、正反射時に第一の要素(6)との間に色差を生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が前述の第一の要素(6)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。また、潜像画線(7)は、第一の要素(6)の上に重ねて形成されるために、潜像画線(7)の下の第一の要素(6)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる第一の要素(6)の色彩変化を抑制する働きを成す。このため、潜像画線(7)が重なっているか否かによって、第一の要素(6)の正反射時の色彩に、より大きな違いが生じるため、潜像画像の視認性をより高めるためには、潜像画線(7)は高い光遮断性を備えていることが望ましい。
そのため、潜像画線(7)、すなわち第二の画像(5)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。また、潜像画線(7)は、拡散反射光下では不可視であることが望ましいことから、無色透明か、半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合してUVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することもできる。
また、潜像画線(7)は、インキで形成するだけでなく、プリンターを用いて形成しても良い。また、潜像画線(7)にあたる画像を第一の要素(6)に切削して付与することで形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された第一の要素(6)は、多くの場合明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、大きく低下するために、本発明で潜像画線(7)に必要とする特性を付与することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。
以上の構成の第一画像(4)の上に、第二の画像(5)を重ね合わせて形成する。このときの二つの画像の重ね合わせの位置関係について図6を用いて説明する。好ましくは、第一の画像(4)と第二の画像(5)が第一の方向(S1)に平行に重なれば良い。このとき、第一の画像(4)と第二の画像(5)の間に角度ずれ(ヒネリ)が生じなければ、必ず第二の画像(5)に含まれた潜像画像が可視化される構造となっているため、第一の方向(S1)及び/又は第二の方向(S2)に位置ずれが生じても問題ない。それぞれの第一の要素(6)の表面の特定の角度の斜面に必ずそれぞれの第一の潜像画線(7A)が重なり、第一の潜像画線(7A)が重なった以外の角度の斜面に、第二の潜像画線(7B)が重なる構造となる。第一の画像(4)は、第一の要素(6)を市松模様状に配列して成ることから、図6の側面図に示すように、第一の要素(6)上に重ならず、基材(2)上に重なる潜像画線も一部に存在するものの、一本の潜像画線全体が第一の要素(6)に重ならない事態が発生しないために、第二の画像(5)中に含まれる潜像画像は、正反射光下のいずれかの観察角度において可視化される効果が担保される。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1)の効果について図7を用いて説明する。図7(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、第二の画像中に含まれる潜像画像は、いずれも不可視であって、印刷画像領域(3)全体が特定の色彩で観察されるか、あるいは、透明や半透明で観察できない。図7(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度(第一の実施の形態においてはやや浅い観察角度)において第一の潜像画像(5A)が表す潜像画像である、アルファベットの「Japan」の文字が出現する。図7(c)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、図7(b)の場合とは異なる、特定の観察角度(第一の実施の形態においてはやや深い観察角度)において第二の潜像画像(5B)が表す潜像画像である、「波の画像」が出現する。
この潜像画像は、正反射光下にあればいずれの角度からでも視認できるわけではなく、視認できる角度範囲は制限される。観察角度が特定の角度範囲から外れた場合には、潜像印刷物(1)から正反射光が生じる観察角度領域内で潜像印刷物(1)を観察したとしても印刷画像領域(3)中に潜像画像は出現しない。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下で第一の潜像画像(5A)及び第二の潜像画像(5B)が不可視となる効果が生じる原理について説明する。拡散反射光下において、第二の画像(5)に直接入射する光がなく、強い正反射光を発することがないことから、透明か、あるいは半透明である。よって、拡散反射光下で第一の潜像画像(5A)及び第二の潜像画像(5B)は完全に不可視か、ほぼ不可視である。
次に、正反射光下のある特定の観察角度において第一の潜像画像(5A)が出現し、また、異なる特定の観察角度において第二の潜像画像(5B)が出現する原理について以下に説明する。第一の画像(4)を構成する第一の要素(6)は、カラーフリップフロップ性か、明暗フリップフロップ性の少なくともいずれか一方の特性を有することから、印刷画像領域(3)に光が入射した場合、第一の要素(6)は、光を強く正反射する。なお、第一の要素(6)は、立体的な盛り上がりを有するため、光が入射した場合、入射した光と直交する画線表面のみが強く光を反射する。例えば、図中のA方向から光が入射した場合、それぞれの第一の要素(6)のA側の画線表面のみが光を反射し、図中のA´方向から光が入射した場合、それぞれの第一の要素(6)のA´側の画線表面のみが光を反射することとなる。このとき、それぞれの第一の要素(6)のA側の画線表面には第二の画像(5)を構成する二つの潜像画線のうちのいずれか一方のみの潜像画線のみが重なって成り、第一の要素(6)のA側の画線表面には第二の画像(5)を構成する二つの潜像画線のうちのもう一方の潜像画線のみが重なって成る。第二の画像(5)を構成する潜像画線は、第一の要素(6)とは異なり、光を強く反射する特性を有さないため、A側から第一の要素(6)に光が入射した場合、第一の要素(6)の上のA側の画線表面に重ねられた潜像画線(7)のみが反射光の強弱によって可視化され、A´側から第一の要素(6)に光が入射した場合、第一の要素(6)の上のA´側の画線表面に重ねられた潜像画線(7)のみが反射光の強弱によって可視化される。以上の原理によって、正反射光下のある特定の観察角度において第一の潜像画像(5A)が出現し、また、正反射光下の異なる特定の観察角度において第二の潜像画像(5B)が出現する。
第一の画像(4)における第一の要素(6)の配列構造とは、少なくとも一つの方向(第一の実施の形態においては、第二の方向(S2))に印刷画像領域(3)を完全に貫いてしまう非画線を形成させないことを目的とした構造である。このような配列で第一の画像(4)を構成した場合、第二の画像(5)が第一の方向(S1)にずれて重ねられた場合でも、潜像画線(7)全体が非画線部に重なってしまうことがなく、いずれの潜像画線(7)も必ずいずれかの第一の要素(6)の上に重なるため、第二の画像(5)の中に含まれる潜像画像が正反射下のいずれかの観察角度で出現する効果を担保することができる。
なお、本明細書中で言う正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
第一の画像(4)における、第一の要素(6)の配置形状の異なる一例について図8及び図9を用いて説明する。図8に示すのは、第一の実施の形態で示したのと同じ、四角形の形状を成す第一の要素(6’)を市松模様状に配列した第一の画像(4’)の例の一つである。図8に示す例では、第一の方向(S1)に隣り合う左側の第一の要素(6A’)と右側の第一の要素(6B’)の一部にそれぞれ重なる領域を有し、右側の第一の要素(6C’)と左側の第一の要素(6B’)の一部にそれぞれ重なる領域を有し、それぞれの第一の要素の位置関係が図4の例と比較して近い。図4の市松模様状の配列では、第一の要素(6)の第一の方向(S1)の要素長さ(W1)とピッチ(P1)は、近い大きさであり、図6のA−A´線上の断面図に示すように一つの第一の要素(6)に対して、各潜像画線(7A、7B)は、基本的にそれぞれ一本ずつしか重ならなかったのに対し、図8の構成では、第一の要素(6’)の第一の方向(S1)の要素長さ(W1)は、ピッチ(P1)の2倍に近い大きさであり、図9のA−A´線上の断面図に示すように第一の潜像画線(7A’)は、二本、第二の潜像画線(7B’)は、一本の、合計三本の潜像画線(7’)が重なる構成となる。このような構成の場合も、それぞれの第一の要素(6’)の特定の角度の画線表面に必ず同じ潜像画線が重なる関係が保てるため、正反射光下の特定の観察角度において第一の潜像画像(5A’)が出現し、また、正反射光下の異なる特定の観察角度において第二の潜像画像(5B’)が出現する効果を得ることができる。
続いて、第一の画像(4)における、第一の要素(6)の配置形状の異なる一例であって、第一の要素(6)が円の形状を有した場合の一例について図10及び図11を用いて説明する。第一の要素(6’’)の形状が円である場合でも、第一の方向(S1)における第一の要素(6’’)の長さ(W1)(真円の場合には直径にあたる)よりも、斜めに隣り合う第一の要素(6A’’)の位相と第一の要素(6B’’)間の第一の方向(S1)における位相差(ピッチ(P1))が小さければ本発明における第一の画像(4’’)を成すことができる。このような構成でも、左に位置する第一の要素(6AL’’)の右端(6AR’’)の位相は、斜めに隣り合う第一の要素(6B’’)の左端(6BL’’)の位相に対して第一の方向(S1)に対して同じ位相か、あるいはより右側に存在し、一方の第一の要素(6B’’)の右端(6BR’’)の位相は、斜めに隣り合う第一の要素(6C’’)の右端(6CL’’)の位相に対して第一の方向(S1)に対して同じ位相か、あるいはより右側に存在する構成となり、特定の方向(第二の方向(S2))に印刷画像領域(3’’)を完全に貫く非画線が存在しない。このように構成した第一の画像(4’’)でも、図11に示すように特定のピッチ(P1)で配置した第二の画像(5’’)を重ねることで本発明の潜像印刷物(1’’)を形成することができる。
また、第一の実施の形態に示す例においては、第二の方向(S2)に対しては斜めに隣り合う第一の要素(6)同士が接触しないように、隣り合う第一の要素(6)間の第二の方向(S2)の位相差を第二の方向(S2)の画線長さ(H)よりも大きな値であるピッチ(P2)に設定した。ただし、「斜めに隣り合う第一の要素間の特定の方向における位相差(ピッチ(P1))を第一の要素(6)の特定の方向における長さ(要素長さ(W1))以下とする」構成とは、一つの方向(第一の方向(S1))のみに限定されるものではなく、同時に第二の方向(S2)に対しても「斜めに隣り合う第一の要素間の特定の方向における位相差(ピッチ(P1))を第一の要素(6)の特定の方向における長さ(要素長さ(W1))以下とする」構成を用いても良い。例えば、図10に示した第一の画像(4)は、第一の方向(S1)と第二の方向(S2)の二つの方向に対してこの構成を用いている。このような例においては、第一の方向(S1)にピッチ(P1)で配列された潜像画線に対してだけでなく、第二の方向(S2)にピッチ(P2)で配列された潜像画線で形成した潜像画像に対しても、必ず画像が出現する効果を担保することが可能となる。また、第一の方向(S1)、第二の方向(S2)の二つの方向だけでなく、第三の方向、第四の方向に対しても同様な構成を用いても何ら問題ない。なお、複数の方向に対して斜めに隣り合う第一の要素間の特定の方向における位相差を第一の要素(6)の特定の方向における長さ以下とするためには、第一の要素(6)の形状を円や菱形、三角形や五角形、六角形、八角形等の多角形とすることが望ましい。
また、第一の実施の形態では、第二の画像(5)に含まれる潜像画像の数を二個としたが、潜像画像の数は二つに限定されるものではなく、ユーザーの希望に応じてn個の潜像画像を付与することができる。すなわちn個の潜像画像を付与するのであれば、第一の潜像画像(5A)を第一の潜像画線(7A)で構成し、第二の潜像画像(5B)を第二の潜像画線(7B)で構成し、第nの潜像画像を第nの潜像画線で構成し、それぞれの潜像画線が重なりあわないように第一の方向(S1)に位相をずらして配置して第二の画像(5)を形成すれば良い。以下に第二の実施の形態として、潜像画像数三個(n=3)の場合の潜像印刷物(1’’’)の例について説明する。
(第二の実施の形態)
図12に、本発明における潜像印刷物(1’’’)を示す。図12(a)に示すのは、潜像印刷物(1’’’)の正面図であり、図12(b)に示すのは、潜像印刷物(1’’’)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1’’’)は、基材(2’’’)の上に、印刷画像領域(3’’’)が形成されて成る。
本発明の印刷画像領域(3’’’)の構成の概要を図13に示す。印刷画像領域(3’’’)は、第一の実施の形態同様に立体的な曲面構造を有した第一の画像(4’’’)の上に第二の画像(5’’’)が重ね合わさって成る。第二の実施の形態において、第二の画像(5’’’)は三つの潜像画像を有し、第一の潜像画像(5A’’’)、第二の潜像画像(5B’’’)及び第三の潜像画像(5C’’’)を有する。第二の画像(5’’’)の中に含まれる第一の潜像画像(5A’’’)、第二の潜像画像(5B’’’)及び第三の潜像画像(5C’’’)は、正反射光下で出現する潜像画像となる。
図14及び図15に示す第一の画像(4’’’)は第一の実施の形態の第一の画像(4’’’)と同じであって、第一の画像(4’’’)は、第一の要素(6’’’)が市松模様状に配列して成る。具体的な構成は、第一の実施の形態の第一の画像(4)と同じであることから説明を省略する。
続いて、第二の画像(5’’’)について具体的に説明する。図16に示すのは第二の画像(5’’’)であり、第二の画像(5’’’)は、第一の潜像画像(5A’’’)、第二の潜像画像(5B’’’)及び第三の潜像画像(5C’’’)を有する。第一の潜像画像(5A’’’)は、特定の要素長さ(W2)の第一の潜像画線(7A’’’)が、第一の画像(4’’’)と同じ特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配されて成り、第二の潜像画像(5B’’’)は、特定の要素長さ(W3)の第二の潜像画線(7B’’’)が、第一の画像(4’’’)と同じ特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配されて成り、第三の潜像画像(5C’’’)は、特定の要素長さ(W4)の第二の潜像画線(7C’’’)が、第一の画像(4’’’)と同じ特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して配されて成る。第一の潜像画像(5A’’’)を構成する第一の潜像画線(7A’’’)、第二の潜像画像(5B’’’)を構成する第二の潜像画線(7B’’’)、第三の潜像画像(5C’’’)を構成する第三の潜像画線(7C’’’)とは、重なり合うことはなく、それぞれ第一の方向(S1)に位相がずれて、第一の潜像画線(7A’’’)、第二の潜像画線(7B’’’)、第三の潜像画線(7C’’’)とが交互に配置されて第二の画像(5’’’)を構成して成る。その他の第二の画像(5’’’)及び潜像画線(7’’’)に必要とされる特性は第一の実施の形態と同様であるため省略する。
以上の構成の第一画像(4’’’)の上に、第二の画像(5’’’)を重ね合わせて形成する。このときの二つの画像の重ね合わせの位置関係について図17に示す通りであり、第一画像(4’’’)の上に、第二の画像(5’’’)が重なる構成となる。第一の実施の形態と同様に、第一画像(4’’’)と第二の画像(5’’’)の間に角度ずれ(ヒネリ)が生じなければ、必ず第二の画像(5’’’)に含まれた潜像画像が可視化される構造となっているため、第一の方向(S1)及び第二の方向(S2)に位置ずれが生じても問題ない。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1’’’)の効果について図18を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1’’’)を拡散反射光下で観察した場合、第二の画像中に含まれる潜像画像はいずれも不可視であって、印刷画像領域(3’)全体が特定の色彩で観察されるか、あるいは透明や半透明で観察できない(図示せず)。図18(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1’’’)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度(第二の実施の形態においてはやや浅い観察角度)において第一の潜像画像(5A’’’)が表す潜像画像である、桜の画像が出現する。図18(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1’’’)を正反射光下で観察した場合、図18(a)の場合とは異なる、特定の観察角度(第二の実施の形態においてはやや深い観察角度)において第二の潜像画像(5B’’’)が表す潜像画像である「JAPAN」の文字が出現する。図18(c)に示すように、本発明の潜像印刷物(1’’’)を正反射光下で観察した場合、図18(a)及び図18(b)の場合とは異なる、特定の観察角度(第二の実施の形態においてはより深い観察角度)において第三の潜像画像(5C’’’)が表す潜像画像である「日本」の文字が出現する。以上のように、潜像数が三個の場合であっても、正反射光下の特定の観察角度において第一の潜像画像(5A’’’)が出現し、正反射光下で観察角度を変えることで第二の潜像画像(5B’’’)が出現し、正反射光下で更に観察角度を変えることで第三の潜像画像(5C’’’)が出現する効果を得ることができる。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
図19に潜像印刷物(1’’’’)を示す。図19(a)に示すのは、潜像印刷物(1’’’’)の正面図であり、図19(b)に示すのは、潜像印刷物(1’’’’)のAA´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1’’’’)は、基材(2’’’’)の上に、印刷画像領域(3’’’’)が形成されて成る。基材(2’’’’)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の印刷画像領域(3’’’’)の構成の概要を図20に示す。印刷画像領域(3’’’’)は、第一の画像(4’’’’)、第二の画像(5’’’’)が重ね合わさって成る。第二の画像(5’’’’)の中には、第一の潜像画像(5A’’’’)と第二の潜像画像(5B’’’’)が含まれる。
図21に示すのは、第一の画像(4’’’’)である。第一の画像(4’’’’)は、第一の方向(図中S1方向)における要素長さが0.2mm、第二の方向(図中S2方向)の要素長さが0.2mmの正方形である第一の要素(6’’’’)を、斜めに隣り合う第一の要素(6’’’’)に対して第一の方向(S1)にピッチ0.2mmで、同じく斜めに隣り合う第一の要素(6’’’’)に対して第二の方向(S2)にピッチ0.25mmで配置して市松模様状に配列して成る。
図22に示すのは、第二の画像(5’’’’)であり、画線長さ0.08mmの第一の潜像画線(7A’’’’)をピッチ0.2mmで第一の方向(S1)に連続して配置して構成された第一の潜像画像(5A’’’’)と、画線長さ0.08mmの第二の潜像画線(7B’’’’)をピッチ0.2mmで第一の方向(S1)に連続して配置して構成された第二の潜像画像(5B’’’’)とを有する。第一の潜像画像(5A’’’’)と第二の潜像画線(7B’’’’)は、第一の方向(S1)に位相が0.1mmずれて交互に配置されて成る。
以上の構成の二つの画像を、まず、基材(2’’’’)上に第一の画像(4’’’’)を表1に示すスクリーンインキを用いてUV乾燥方式のスクリーン印刷によって印刷した。続いて、第二の画像(5’’’’)をウェットオフセット印刷によって印刷した。第二の画像(5’’’’)は、マットな透明インキ(マットメジウム T&K TOKA製)を用いた。表1に示すUVスクリーンインキは、カラーフリップフロップ性を有するインキであり、拡散反射光下では黒色であり、正反射光下では金色の干渉色を発する。本実施例における第一の要素(6’’’’)の盛り上がり高さは、約10μmであった。
以上の構成で形成した本発明の潜像印刷物(1’’’’)の効果について図24を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1’’’’)を拡散反射光下で観察した場合、図24(a)に示すように、二つの潜像画像(5A’’’’,5B’’’’)は、不可視であり、印刷画像領域(3’’’’)全体が黒色で視認された。図24(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1’’’’)を正反射光下の特定の角度で観察した場合、第一の潜像画像(5A’’’’)である「Japan」の文字が黒色で、その他の印刷画像領域(3’’’’)は、金色で視認された。続いて、図24(c)に示すように、正反射光下において本発明の潜像印刷物(1’’’’)を、図24(b)の観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、第二の潜像画像(5B’’’’)である「波の画像」が黒色で、その他の印刷画像領域(3’’’’)は、金色で視認された。
以上のように、拡散反射光下では、二つの潜像画像(5A’’’’、5B’’’’)は、不可視であり、正反射光下の特定の観察角度において第一の画像(4’’’’)及び第二の潜像画像(5B’’’’)がそれぞれ単独で出現する効果を得られることが確認できた。