本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他色々な形態が実施可能である。
図1(a)は、本発明における偽造防止形成体(以下、「形成体」という。)(S)を示す平面図であり、形成体(1)には、本発明の特徴点となる印刷領域が基材(1)上の少なくとも一部に形成されている。図1(b)は、その印刷領域(Z)の拡大図である。
本発明の形成体(S)は、例えば、紙幣、パスポート、身分証明書等の貴重印刷物及びキャッシュカード等のカード類であり、図1(a)は、例としてカードである。形成体(S)は、紙、プラスチックカード等の表面に印刷可能な媒体である基材(1)上における少なくとも一部に印刷領域(Z)を備え、印刷領域(Z)内に、第一の画像(A)、第一の背景画像(B)及び第二の画像(C)が重複して配置されている。形成体(S)は、観察角度の変化により、視認可能となる階調を有する潜像画像を有している。以下、詳細に構成を説明する。
図2(a)は、第一の画像(A)を説明する平面図である。第一の画像(A)は、基材(1)に対して正面から観察した際に視認可能となる図柄のことである。図2(a)においては、三つのダイヤの図形としているが、それに限らず文字、数字、模様等とすることが可能である。
図2(b)は、図2(a)における一部の領域(P)の拡大図である。第一の画像(A)は、第一の方向(X1)に規則的に第一のピッチ(D1)で複数配置された第1の画線(3)を有して成る。第一のピッチ(D1)は、印刷方法及び第1の画線(3)の画線幅(W1)を考慮し、第1の画線(3)の画線幅(W1)と、後述する第2の画線(4)の画線幅とを足した画線幅以上1000μm以下の範囲内で適宜設定される。
本実施形態の形成体(S)は、詳細な視認原理については後述するが、観察角度の変化により、第1の画線(3)が他の画線の陰となることで、視認可能となる画像が変化する。よって、第一のピッチ(D1)が、第1の画線(3)の画線幅(W1)と第2の画線(4)の画線幅とを足した幅未満である場合には、観察角度の変化により視認可能となる画像を明瞭に視認することができず、好ましくない。
反対に、第一のピッチ(D1)が、1000μmを超える場合には、第一の画像(A)を構成する複数の第1の画線(3)が一つずつ目視により区別して視認される。よって、印刷領域(Z)を構成する面積が狭い場合、正面から視認される第一の画像(A)のディテール(細部)を構成できず、意匠性が低下することから、好ましくない。
なお、図2(b)では、第一のピッチ(D1)を一定ピッチで図示しているが、前述したピッチの範囲内であれば、一部異なるピッチとすることも可能である。
図2(c)は、図2(b)におけるX−X’を切断した断面図である。第1の画線(3)の画線幅(W1)及び画線高さ(h1)は、第一のピッチ(D1)及び他の画線の画線幅を考慮し、画線幅(W1)25〜500μm、画線高さ(h1)30μm以下の範囲内で適宜設定される。
第1の画線(3)の画線幅(W1)を25μm未満とした場合、一般的な印刷方式では再現しづらく、また、正面から視認可能となる第一の画像(A)を識別しにくいことから、好ましくない。
反対に、第1の画線(3)の画線幅(W1)が500μmを超える場合と、第1の画線(3)の画線高さ(h1)が30μmを超える場合は、観察角度の変化により視認可能となる画像を形成する画線を、500μm以上の画線高さで形成しなくてはならず、画線が欠けて形成体(S)の耐久性が低下することから、好ましくない。
第1の画線(3)は、基材(1)に対して、公知の印刷方法、例えば平版印刷、凹版印刷、インクジェット・プリンタ等によって、各々の印刷方法に適した版面、インキ等を用いて印刷を行うことで形成する。
第1の画線(3)は、第一の色材により形成される。第一の色材については特に限定するものではないが、基材(1)の表面色と明確に区別のつく色が望ましい。例えば、基材(1)の表面色が白色、クリーム色等明度の高い色とし、第一の色材をイエローのように明度の高い色とした場合、基材(1)の表面色及び第一の色材は区別しづらいことから、好ましくない。
図3は、画線の一例を示す図である。画線とは、図3(a)、図3(b)、図3(c)及び図3(d)に示すような、直線、サイン波、三角波、鋸波、矩形波等公知の画線のことである。また、図3(e)、図3(f)、図3(g)、図3(h)、図3(i)及び図3(j)に示すような、円形状、多角形状、文字形状等の画素や、点を、線状に構成したものも、本発明における画線とする。なお、本実施形態については画線を、図3(a)に示す直線状の画線として説明する。
次に、第一の画像(A)上に重ねて形成する第一の背景画像(B)について説明する。図4(a)は、第一の背景画像(B)を説明する平面図である。第一の背景画像(B)とは、基材(1)を傾けて観察した際に、前述した第1の画線(3)を遮蔽する画像である。
図4(b)は、図4(a)における一部の領域(P)の拡大図である。第一の背景画像(B)は、第1の画線(3)を配置した方向と同じ第一の方向(X1)に、第二のピッチ(D2)で規則的に複数配置された、盛り上がりを有する第2の画線(4)を有して成る。
本実施形態の形成体(S)は、観察角度の変化により、第1の画線(3)が他の画線に遮蔽されることで、視認可能となる画像が変化する。よって、第1の画線(3)を第2の画線(4)で遮蔽するために、二つの画線(a1、b1)は、同じ方向に配置する。
複数の第2の画線(4)を配置する第二のピッチ(D2)は、印刷方法及び第2の画線(4)の画線幅(W2)を考慮し、第1の画線(3)の画線幅(W1)と第2の画線(4)の画線幅(W2)とを足した幅以上1000μm以下の範囲内で適宜設定される。
なお、第1の画線(3)と第2の画線(4)を異なるピッチで配置することは可能だが同じピッチとすることが、好ましい。同じピッチとすることで、観察角度の変化により視認可能となる画像を、鮮明に視認することが可能となる。以下、第一のピッチ(D1)及び第二のピッチ(D2)を、同じピッチとして説明する。
第一の画像(A)及び第一の背景画像(B)は、図1に示すように重複して配置されるが、第1の画線(3)及び第2の画線(4)は重ならない位置に配置される。よって、第1の画線(3)及び第2の画線(4)は、第一の方向(X1)に一つずつ交互に配置されることで、観察角度の変化により、第1の画線(3)が第2の画線(4)に遮蔽される。
図4(c)は、図4(b)におけるX−X’を切断した断面図である。第2の画線(4)の画線幅(W2)は、第二のピッチ(D2)と、第1の画線(3)及び後述する第3の画線(6)の画線幅を考慮し、50〜900μmの範囲内で適宜設定される。
第2の画線(4)の画線幅(W2)を50μm未満とした場合、用いるインキによっては十分、かつ、安定した画線高さ(h2)を形成しづらいことから、好ましくない。また、画線幅(W2)が900μmを超える場合、第2の画線(4)と重ならない位置に第1の画線(3)が配置できる範囲が狭くなり、第1の画線(3)の画線幅(W1)が狭くなる。よって、第一の画像(A)が視認しづらく、好ましくない。
盛り上がりを有する第2の画線(4)の画線高さ(h2)は、第二のピッチ(D2)及び第1の画線(3)及び後述する第3の画線(6)の画線幅及び画線高さを考慮し、画線高さ(h2)20〜120μmの範囲内で適宜設定される。
第2の画線(4)の画線高さ(h2)が20μm未満の場合、観察角度を変化させた際に第1の画線(3)を十分に遮蔽できず、好ましくない。また、画線高さ(h2)が120μmを超える場合、第一の画像(A)が視認しづらく、第2の画線(4)の形状を、安定して保持するのが難しいという理由から、好ましくない。
盛り上がりを有する第2の画線(4)は、基材(1)上に、発泡インキ等の盛り上げ材をインキとして用いて平版印刷及び凸版印刷を行うことで形成する。また、他の形成方法としては、凹版印刷及び孔版印刷、又は、盛り上がりを有するインキを印刷可能なインクジェット・プリンタにより形成する。
なお、第2の画線(4)に用いられる色材は特に限定されないが、基材(1)を傾けて観察して第1の画線(3)が第2の画線(4)の陰になった際に、第1の画線(3)を十分に遮蔽できるように、第1の画線(3)に用いた色材よりも明度が低く不透明度が高い色材であることが望ましい。
次に、第一の背景画像(B)の上に重ねて形成する第二の画像(C)について説明する。図5(a)は、第二の画像(C)を説明する平面図である。第二の画像(C)は、基材(1)に対して斜めから観察した際に視認可能となる画像のことであり、本発明の特徴点となる階調を有する画像となっている。なお、図5(a)においては、コンピュータグラフィックスを用いて作成した女性の画像としているが、それに限らず人物、風景、模様等、階調を有する画像とすることが可能である。
図5(b)は、図5(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、そのX−X’線における断面図が図5(c)である。さらに、図5(c)のY−Y’線における断面図が図5(d)となっている。なお、図5(b)、図5(c)及び図5(d)については、第2の画線(4)と第3の画線(6)の積層状態を示すために、第1の画線(3)及び第2の画線(4)を点線で図示する。
第二の画像(C)は、盛り上がりを有する第3の画線(6)が、第1の画線(3)及び第2の画線(4)を配置した方向と同じ第一の方向(X1)に第三のピッチ(D3)で規則的に複数配置されて成る。この第3の画線(6)が本発明の特徴点となり、基材(1)を傾けて観察できる第二の画像に階調を有するための構成となる。具体的には、第3の画線(6)は、更に複数の画線が積層されて、高さを異ならせている。
図5(c)及び(d)を用いて詳しく説明する。第3の画線(6)は、図5(c)に示すように、基材(1)に積層されている第2の画線(4)の更に上に第3の画線(6)が積層されることとなるが、第2の画線(4)側から順に積層されている画線を、第3−1の画線(6−1)、第3−2の画線(6−2)、・・・、第3−(n−1)の画線(6−(n−1))及び第3−nの画線(6−n)という(nは3以上の整数)。なお、それぞれの第3の画線(6−1〜6−n)の画線高さについては、同じでも異なっていても良い。
図5(c)における第1の画線(3)の画線幅(W1)を異ならせることで、第一の画像(A)に階調を付与することができるが、図5(d)における第二の画線(4)と第三の画線(6)の総合の画線高さ(Th)を異ならせることで、第二の画像(C)に階調を付与することが可能となる。この第3の画線(6)のどの位置を、どの程度の高さの画線を積層させるかは、形成したい第二の画像(C)の階調に対応して配置すれば良い。
本発明において「第三の画線(6)の積層数は、第二の画像(C)の階調に対応して配置」とは、形成する第二の画像(C)が階調を有しているため、画像内に濃度差が生じているが、その濃度差により第3の画線(6)をどの位置で、どの程度高さを異ならせるかが決定される。そこで、画像の濃度が濃い位置は、第3の画線(6)の積層数を多くして、総合の画線高さ(Th)を高くし、逆に第二の画像(C)の濃度が淡い位置は、第3の画線(6)の積層数を少なくして、総合の画線高さ(Th)を低くする。このように、形成する画像の濃度に合わせて第3の画線(6)の積層数を異ならせることを、「第二の画像(C)の階調に対応して配置」という。
前述のとおり本実施形態の形成体(S)は、観察角度の変化により、第1の画線(3)が他の画線に遮蔽されることで、視認可能となる画像が変化する。よって、第1の画線(3)を、第2の画線(4)及び第3の画線(6)で遮蔽するために、三つの画線(3、4、6)は、同じ方向に配置する。
第3の画線(6)を配置する第三のピッチ(D3)は、第2の画線(4)を配置する第二のピッチ(D2)と同様に、第1の画線(3)の画線幅(W1)と第2の画線(4)の画線幅(W2)を足した幅〜1000μmの範囲内で適宜設定される。以下、第三のピッチ(D3)は、第一のピッチ(D1)及び第二のピッチ(D2)と、同じピッチとして説明する。
第3の画線(6)の画線幅(W3)は、第三のピッチ(D3)及び第1の画線(3)及び第2の画線(4)の画線幅を考慮し、第2の画線(4)と同様に50〜900μmの範囲内で適宜設定するが、第2の画線(4)の画線幅(W2)以下とする。第3の画線(6)の画線幅(W3)が、下に配置する第2の画線(4)の画線幅(W2)を超える場合、観察角度の変化により視認可能となる画像が視認しづらくなり、好ましくない。なお、第3の画線(6)については、最下層に配置されている第3−1の画線(6−1)が第3の画線の中では最も画線幅(W3)が広く、その上に順次積層される第6−2の画線(6−2)から第6−nの画線(6−n)の画線の画線幅(W3)は、それぞれの画線の下層に配置される画線の画線幅以下となる。このように形成することで、積層して形成する画線が、第2の画線(4)上からはみ出すことなく積層可能であり、基材(1)に対して正面から観察した際に視認可能となる図柄である第一の画像(A)及び第一の背景画像(B)に影響を与えない。
盛り上がりを有する第3の画線(6−1〜6−n)のそれぞれの画線高さ(h3)は、第三のピッチ(D3)と、第1の画線(3)及び第2の画線(4)の画線幅及び画線高さを考慮し、第2の画線(4)と同様に、画線高さ(h3)5〜120μmの範囲内で適宜設定される。なお、盛り上がりを有する第3の画線(6)は、前述した第2の画線(4)と同様の形成方法により基材(1)上に付与することから、説明を省略する。
第3の画線(6)は、第三の色材により形成され、第三の色材は、第3の画線(6)の下に配置される第2の画線(4)を形成する第二の色材と等色とする。なお、階調を付与するために複数積層されている第3の画線(6−1〜6−n)は、全て等色とする。第二の色材と第三の色材を等色とすることで、正面から視認した際に、第2の画線(4)及び第3の画線(6)を区別して視認することができず、第二の画像(C)が識別不可能となる。なお、本発明における等色とは、二つの画線を自然光下で視認した際に区別できない又は区別することが困難な色相の差異を含むものである。
また、他の構成としては、第三の色材を半透明の色材とし、第二の色材を第三の色材よりも明度の低い色材とする。例えば、第2の画線(4)を黒色の色材により形成し、第3の画線(6)を、透過性を有するシアン色で形成した場合、透過性を有するシアン色は下に配置される黒色に透過吸収されて、正面からは黒色として視認される。
なお、本実施形態における透過吸収とは、半透明の色材の下に、半透明の色材よりも明度の低い色材を形成し、その二つの色材が積層された部分を正面から視認した際に、明度の低い色材により、半透明の色材が識別不可能又は困難な状態となることを言う。
よって、第三の色材を半透明の色材とし、第二の色材を第三の色材よりも明度の低い色材とすることで、前述した等色の色材とした場合と同様に、正面から視認した際に、第2の画線(4)及び第3の画線(6)を区別して視認することができず、第二の画像(C)が識別不可能(困難な状態)となる。以下、本実施形態は、第三の色材を半透明の色材とし、第二の色材を第三の色材よりも明度の低い色材として説明する。
図6(a)は、基材(1)に対する第一の画像(A)、第一の背景画像(B)及び第二の画像(C)の積層順を示す模式図である。図6(a)に示すように、基材(1)上における印刷領域(Z)内に、第一の画像(A)が形成され、第一の画像(A)の上に第一の背景画像(B)が重なって形成され、更に第一の背景画像(B)の上に第二の画像(C)が重なって形成される。
なお、第一の画像(A)、第一の背景画像(B)及び第二の画像(C)が重なるとは、あくまでも画像同士が重なるという意味であって、前述のとおり各画像を構成する画線同士が全て重なるという意味ではない。
図6(b)は、図6(a)における一部の領域(P)の拡大図を示す模式図であり、図6(c)は、図6(b)におけるX−X’を切断した断面図である。なお、図6(b)は、基材(1)上に全ての画像(A、B、C)が積層された状態を示す。
図6(b)及び図6(c)に示すように、第二の画像(C)を形成する第3の画線(6)は、第一の背景画像(B)を形成する第2の画線(4)の画線幅以下で第2の画線(4)上に積層して配置され、更に、その第3の画線(6)は第二の画像(C)に階調を付与するために第3−1の画線(6−1)から第3−nの画線(6−n)の複数の画線が形成する画像の階調に対応して配置されている。図においては、第3−1の画線(6−1)から第3−nの画線(6−n)は特に図示していないが、積層後の第3の画線(6)の状態を示している。また、第一の画像(A)を形成する第1の画線(3)は、積層して配置された第2の画線(4)及び第3の画線(6)と重ならない位置に配置される。
第1の画線(3)と、積層して配置された第2の画線(4)及び第3の画線(6)が重なる場合には、正面から視認される第一の画像(A)が不鮮明に視認され、好ましくない。また、潜像画像である第二の画像(C)の一部が正面から視認されてしまい、好ましくない。
なお、隣接する位置とは、隣り合う二つの画線の少なくとも一部が接していることを言い、近接する位置とは、隣り合う二つの画線が接してはいないが近くにあることを言う。本発明の近接する位置は、二つの画線が重なり合うことなく配置される距離であれば特に限定はない。
次に、以上の構成から成る形成体(S)の視認状態について説明する。図7(a)は、形成体(S)を、基材(1)に対して正面である第一の観察角度(E1)から観察した際の模式図であり、図7(b)は、図7(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図7(c)は、図7(b)におけるX−X’を切断した断面図である。
なお、形成体(S)に対する第一の観察角度(E1)と、基材(1)に対する第一の観察角度(E1)は、同一であることから、以下、基材(1)は省略し、形成体(S)を第一の観察角度(E1)から観察したとし、他の観察角度も同様とする。
第1の画線(3)は、積層して配置した第2の画線(4)及び第3の画線(6)と重ならない位置に配置していることから、第一の観察角度(E1)から観察した場合視認可能となり第一の画像(A)が視認される。
積層して配置された、第2の画線(4)は低明度、高不透明度の第二の色材により形成され、第3の画線(6)は有色透過性の第三の色材により形成している。また、第2の画線(4)の画線幅は、第3の画線(6)の画線幅以上で形成される。
よって、下層に形成した第2の画線(4)で、上層に形成した第3の画線(6)の色材が透過吸収され、二つの画線(b1、c1)を肉眼で区別して視認することが不可能となり、下層に配置した複数の第2の画線(4)から成る第一の背景画像(B)が視認される。
以上、形成体(S)を第一の観察角度(E1)から観察した場合、図7(a)に示すように、第一の画像(A)及び第一の背景画像(B)が視認可能となるが、第一の画像(A)と第一の背景画像(B)の面積率の差及び/又は色相の差により第一の画像(A)が有意的に視認される。以下、本実施形態においては、所定の観察角度において、二つの画像(例えば、画像Aと画像B)が視認可能となる場合においても、面積率の差及び/又は色相の差により、一方の画像(例えば、画像A)が有意的に視認される場合、その所定の観察角度においては、一方の画像(例えば、画像A)が視認されるとして説明する。
なお、本発明でいう色相とは「赤みを帯びた色」又は「青みを帯びた色」等の画像全体の相対的な色みの違いを区別するものであって、「赤」又は「青」等の絶対的な色を指すものではない。
次に、形成体(S)を傾けて観察した場合について説明する。図8(a)は、形成体(S)を、基材(1)に対して斜めである第二の観察角度(E2)から観察した際の模式図であり、図8(b)は、図8(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図8(c)は、図8(b)におけるX−X’を切断した断面図であり、図8(d)は、図8(b)におけるY−Y’を切断した断面図である。なお、第二の観察角度(E2)とは、形成体(S)に対して第一の方向(X1)と同じ方向から観察した際の観察角度である。
図8(c)に示すように、形成体(S)を第二の観察角度(E2)から観察した場合、第1の画線(3)は、積層して配置された第2の画線(4)及び第3の画線(6)の死角(G1)となり遮蔽されることから視認できず、複数の第2の画線(4)から成る第一の背景画像(B)が視認される。
第3の画線(6)は、図6(d)に示すような、盛り上がりを有して第2の画線(4)上に複数積層して配置されることから、基材(1)の表面色の一部は、第3の画線(6)を形成する第三の色材により透過吸収されて、第3の画線(6)の色相で視認され、複数の第3の画線(6)から成る第二の画像(C)が視認される。
この第二の画像(C)は、前述のとおり、第三の画線(6)を形成する第二の画像(C)の階調に対応して配置しているため、第二の観察角度(E2)から観察すると、階調を有した第二の画像(C)が視認される。
よって、形成体(S)を第二の観察角度(E2)から観察した場合、図8(a)に示すように、第二の画像(C)及び第一の背景画像(B)が視認可能となるが、第二の画像(C)と第一の背景画像(B)の面積率の差及び/又は色相の差により階調を有した第二の画像(C)が視認される。
以上、本発明の形成体(S)は、盛りのある画線を多層構成とすることで、観察角度の変化により、第一の画像(A)と第二の画像(C)が変化して視認される。第一の画像(A)と第二の画像(C)は、多層構成とすることで、互いの異なる色及び形状とすることが可能となり、意匠性に優れている。よって、本発明の形成体(S)は、目視により、容易に、形成体(S)の真偽を判定することが可能となるだけではなく、従来よりも、意匠性に優れた潜像画像が付与された形成体(S)となる。
なお、前述した各画線(3、4、6)を形成する色材のうち、少なくとも一つの色材が、一つの機能性材料を含むことも可能である。機能性材料とは、蛍光顔料、燐光顔料、蓄光顔料、フォトクロミック顔料、赤外反射、蛍光発光、磁性、各種電子線による作用を備えた材料等の公知の機能性を有する材料のことである。機能性材料を含む場合、形成体(S)に対する、観察角度の変化による画像のチェンジ効果に加えて、各種の機能性を追加することができる。
例えば、第3の画線(6)に蛍光発光材料を加えた場合、第一の観察角度(E1)から第一の画像(A)が視認され、第二の観察角度(E2)から第二の画像(C)が視認され、紫外波長光を照射した際には、第一の背景画像(B)内に発光した第二の画像(C)が視認される。なお、第3の画線(6)は、第二の画像(C)の階調に対応して配置されているため、第二の画像(C)の形状を形成しているのは第3−1の画線(6−1)となることから、少なくとも第3−1の画線(6−1)に機能性材料を含む必要がある。
また、他の構成としては、第3の画線(6)を形成する第三の色材に磁性材料を加えた場合、観察角度の変化による真偽判別に加え、公知の磁気ヘッドを有する読取装置により磁気強度を読み取ることで、機械読取により形成体(S)の真偽判別を行うことが可能となる。
従来の偽造防止印刷物も、機能性材料を含む色材を用いることで、その機能性材料が有する機能性が付与された印刷物は存在するが、盛り上がりを有しない印刷画線は、画線内に機能性材料を多く含むことができず、機能性材料が有する機能性の効果を十分に発揮することができないという問題があった。
しかしながら、本発明の形成体(S)は、盛り上がりを有する画線から成る構成であることから、各画線(3、4、6)を形成する色材に、機能性材料を十分に含有させることが可能となる。よって、機能性材料が有する機能性に対応した、読取センサーを用いることにより真偽判別を行うことが可能となる。
さらに、本発明の形成体(S)は、積層構造であることから、各層を構成する色材に互いに異なる機能性材料を含むことも可能となり、より偽造防止効果が向上した形成体(S)となる。
(変形例)
次に、形成体(S)の変形例について説明する。図9(a)は、変形例における第二の画像(C)を説明する平面図であり、図9(b)は、図9(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図9(c)は、図9(b)におけるX−X’を切断した断面図である。なお、前述した形成体(S)と重複する箇所については、説明を一部省略する。
図9(a)に示すように、変形例においても第二の画像(C)を有し、人物で示す図柄を用いて説明する。本変形例では、第二の画像(C)に更に階調表現を付与するため、第3の画線(6)を階調に対応させて位相を異ならせて配置したものである。
図9(b)に示すように、第2の画像(C)は、第3の画線(6)が第2の画線(4)上に、第2の画線(4)を配置した方向と同じ第一の方向(X1)に、第2の画線(4)の画線幅W2の範囲内で位相を異ならせて規則的に複数配置されて成る。
前述の実施形態では、傾けた状態で観察できる階調を有する第2の画像(C)は、階調に対応した第3の画線(6)の画線の高低差による構成で視認できるものであったが、本変形例では、傾けた状態で観察できる階調を有する第2の画像(C)は、階調に対応した第3の画線(6)の位相差による構成で視認できるものである。
第3の画線(6)の位相差は、図9(b)に示すように、位相をずらしたすべての第3の画線(6)が、同一の第2の画線(4)上に配置される範囲内で、適宜設定する。
次に、変形例の構成から成る形成体(S)の視認状態について説明する。図10(a)は、変形例の形成体(S)を、第一の観察角度(E1)から観察した際の模式図であり、図10(b)は、図10(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図10(c)は、図10(b)におけるX−X’を切断した断面図である。
第1の画線(3)は、積層して配置した第2の画線(4)、第3の画線(6)と重ならない位置に配置していることから、第一の観察角度(E1)から観察した場合視認可能となり、第一の画像(A)が視認される。
積層して配置された、第2の画線(4)、第3の画線(6)は、下層に形成した第2の画線(4)により、上層に形成した第3の画線(6)の色材が透過吸収され、第2の画線(4)、第3の画線(6)を肉眼で区別して視認することが不可能となり、下層に配置した複数の第2の画線(4)から成る第一の背景画像(B)が視認される。
よって、形成体(S)を第一の観察角度(E1)から観察した場合、図10(a)に示すように、第一の画像(A)及び第一の背景画像(B)が視認可能となるが、第一の画像(A)と第一の背景画像(B)の面積率の差及び/又は色相の差により第一の画像(A)が視認される。
次に、変形例の形成体(S)を傾けて観察した場合について説明する。図11(a)は、変形例の形成体(S)を、第二の観察角度(E2)から観察した際の模式図であり、図11(b)は、図11(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図11(c)は、図11(b)におけるX−X’を切断した断面図である。
図11(c)に示すように、形成体(S)を第二の観察角度(E2)から観察した場合、第1の画線(3)は、盛り上がりを有する第2の画線(4)の死角(G1)となり視認されない。
また、第3の画線(6)は、画線高さ(h4)で盛り上がりを有しかつ、階調に応じて位相がずれて第2の画線(4)上に積層して配置される。第3の画線(6)が第二の観察角度(E2)から見て後方(図11(c)左側、図11(b)X−X’のX側)に位相がずれているほど、第二の観察角度(E2)から観察した場合に、前方(図11(c)右側、図11(b)X−X’のX’側)に比べて死角(影)となる部分が多くなるため、濃度の高い階調の第二の画像(C)の一部を形成する。
第3の画線(6)は、盛り上がりを有して第2の画線(4)上に位相がずれて配置されることから、基材(1)の表面色の一部は、第3の画線(6)を形成する第三の色材により透過吸収されて、第3の画線(6)の色相で視認され、複数の第3の画線(6)から成る階調を有する第二の画像(C)が視認される。
第2の画線(4)上に第3の画線(6)が積層されている部分で、第二の観察角度(E2)から見て前方(図11(c)、右側)にある部分は、第2の画線(4)の画線幅(W3)に含まれて視認されることから、第3の画線(6)と第2の画線(4)は重なり合って視認されず、第2の画線(4)が、明度と色相を保った画線として視認される。
以上、形成体(S)を第二の観察角度(E2)から観察した場合、図11(a)に示すように、階調を有するポジの第二の画像(C)と、第一の背景画像(B)が視認可能となるが、第二の画像(C)と第一の背景画像(B)の面積率の差及び/又は色相の差により、第二の画像(C)が、階調を有するポジ画像として視認される。
次に、形成体(S)を第二の観察角度(E2)とは異なる方向に傾けて観察した場合について説明する。図12(a)は、変形例の形成体(S)を、第三の観察角度(E3)から観察した際の模式図であり、図12(b)は、図12(a)における一部の領域(P)の拡大図であり、図12(c)は、図12(b)におけるX−X’を切断した断面図である。
第三の観察角度(E3)とは、第一の方向(X1)と平行する方向であり、第二の観察角度(E2)とは基材(1)に対して逆の斜め方向のことである。
図12(c)に示すように、形成体(S)を第三の観察角度(E3)から観察した場合、第1の画線(3)は盛り上がりを有する第2の画線(4)の死角(G1)となり視認することができず、複数の第2の画線(4)から成る第一の背景画像(B)が視認される。
第3の画線(6)によって第二の画像(C)が観察される画像は、第二の観察角度(E2)から観察した場合と濃淡が反転して観察される。これは、観察角度が変わることにより、第3の画線(6)の位置関係が反転するからである。
第3の画線(6)が第三の観察角度(E3)から見て後方(図12(c)右側、図11(b)X−X’のX’側)に位相がずれているほど、第三の観察角度(E3)から観察した場合に、前方(図12(c)左側、図12(b)X−X’のX側)に比べて死角(影)となる部分が多くなるため、濃度の高い階調の第二の画像(C)の一部を形成する。
第3の画線(6)は、盛り上がりを有して第2の画線(4)上に位相がずれて配置されることから、基材(1)の表面色の一部は、第3の画線(6)を形成する第三の色材により透過吸収されて、第3の画線(6)の色相で視認され、複数の第3の画線(6)から成る階調を有する第二の画像(C)が視認される。
第2の画線(4)上に第3の画線(6)が積層されている部分で、第三の観察角度(E3)から見て前方(図12(c)、左側)にある部分は、第2の画線(4)の画線幅(W3)に含まれて視認されることから、第3の画線(6)と第2の画線(4)は重なり合って視認されず、第2の画線(4)が、明度と色相を保った画線として視認される。
以上、形成体(S)を第三の観察角度(E3)から観察した場合、図12(a)に示すように、階調を有するネガの第二の画像(C)と、第一の背景画像(B)が視認可能となるが、第二の画像(C)と第一の背景画像(B)の面積率の差及び/又は色相の差により、第二の画像(C)が、階調を有するネガ画像として視認される。
前述の実施形態と本変形例の効果の違いは、前述の実施形態は、第二の観察角度と第三の観察角度で第二の画像(C)の階調は反転しないが、変形例では、第二の観察角度と第三の観察角度で第二の画像(C)の階調が反転して観察される部分である。したがって、第二の画像(C)の性質(階調が反転することで情報としてふさわしいかどうか)によって使い分ければよい。
以下、実施例1を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明を限定するものではない。実施例1として、図1に示した二層構成の形成体(S)を作製した。基材(1)は、不透明度80%の白色プラスチックカードとした。
第1の画線(3)は、画線幅(W1)100μm、画線高さ(h1)10μmの直線状とし、第一のピッチ(D1)を400μmとして形成した。また、第一の色材はマゼンタ色とした。
盛り上がりを有する第2の画線(4)は、画線幅(W2)150m、画線高さ(h2)30μmの直線状とし、第二のピッチ(D2)を400μmとして形成した。また、第二の色材は深緑色とした。
盛り上がりを有する第3の画線(6)は、第二の画像(C)の階調に対応した第3−1の画線を画線幅(W31)100μm、第3−2の画線を画線幅(W32)90μm、第3−3の画線を画線幅(W33)80μm、第3−4の画線を画線幅(W34)70μmでそれぞれ画線高さ(h3)10μmの直線状とし、第三のピッチ(D3)を400μmとして形成した。また、第三の色材は透過性を有するシアン色とした。また、第三の色材には、紫外励起可視発光特性を有する顔料を含ませた。
第1の画線(3)、第2の画線(4)及び第3の画線(6)は、基材(1)上に、第一の色材、第二の色材及び第三の色材を用いてインクジェット・プリンタ(トライテック社製「Patternig JET」)により印刷することで形成した。なお、各色材においては、インクジェット・プリンタで出力可能となるように、あらかじめ調整を行った。
実施例1で作製した形成体(S)を、第一の観察角度(E1)から観察したところ、第一の画像(A)である三つのダイヤの図形がマゼンタ色で視認できた。次に、形成体(S)を傾けて観察したところ、第二の画像(C)である人物がシアン色と深緑色が混色したような状態で視認できた。さらに、形成体(S)を、紫外線光源下で観察したところ、第二の画像(C)である人物が発光して視認できた。
実施例2として、実施例1の第3の画線(6)の構成が、階調に応じた位相ずれを有している構成の形成体(S)を作製した。以下、実施例1と異なる部分についてのみ記載する。
第1の画線(3)は、画線幅(W1)100μm、画線高さ(h1)10μmの直線状とし、第一のピッチ(D1)を600μmとして形成した。また、第一の色材はマゼンタ色とした。
盛り上がりを有する第2の画線(4)は、画線幅(W2)250μm、画線高さ(h2)30μmの直線状とし、第二のピッチ(D2)を600μmとして形成した。また、第二の色材は深緑色とした。
盛り上がりを有する第3の画線(6)は、画線幅(W3)80μm、画線高さ(h3)30μmの直線状とし、第三のピッチ(D3)を600μmとし第二の画像(C)の階調に対応した位相のずれを生成した。第2の画線(4)の中心線を基準に最濃部は位相を+80μm、最淡部は位相を−80μmとして、間は均等に割り当てて形成した。また、第三の色材は透過性を有するシアン色とした。また、第三の色材には、紫外励起可視発光特性を有する顔料を含ませた。
実施例2で作製した形成体(S)を、第一の観察角度(E1)から観察したところ、第一の画像(A)である三つのダイヤの図形がマゼンタ色で視認できた。次に、形成体(S)を傾けて観察したところ、第二の画像(C)である人物がシアン色と深緑色が混色したような状態で視認できた。また、第二の観察角度と第三の観察角度で、人物の画像の濃淡と色見が反転した画像が観察できた。さらに、形成体(S)を、紫外線光源下で観察したところ、第二の画像(C)である人物が発光して視認できた。
以上、本発明に係る実施例に基づいて実施の形態を説明したが、上記実施例に限定されることなく特許請求の範囲記載の技術思想の範囲内で、更にいろいろな実施例があることは言うまでもない。