本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
(第一の実施の形態)
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。図1(a)に示すのは、潜像印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、潜像印刷物(1)のA―A´ラインにおける断面図である。潜像印刷物(1)は、基材(2)の上に、印刷画像領域(3)が形成されて成る。基材(2)は、印刷時にスクリーンインキが浸透する作用を有するものであれば材質は問わない。ただし、基材(2)の材質として最も望ましいのは、インキの浸透性が高く、印刷適性も高い紙である。この場合、紙であれば上質紙であってもコート紙であってもアート紙であってもよい。印刷画像領域(3)は、いかなる色彩でもよく、透明や半透明であっても問題ない。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
本発明の印刷画像領域(3)の構成の概要を図2に示す。印刷画像領域(3)は、少なくとも反射層(4)、蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)を備える。反射層(4)は、光を強く反射する特性を備え、基材(2)上に貼付され、基材(2)と密着している必要がある。蒲鉾状要素群(5)は、盛り上がりを有する要素の集合によって成り、主として印刷で形成される。潜像要素群(6)は、正反射光下で出現する潜像画像の元となる画像要素であり、主として蒲鉾状要素群(5)と同じく印刷で形成される。引き続き、反射層(4)、蒲鉾状要素群(5)、潜像要素群(6)について具体的に説明する。
まず、反射層(4)について説明する。反射層(4)の形状は、任意の形状を取り得る。第一の実施の形態では、説明を簡潔にするため、単純な菱形の形状を例として説明するが、より複雑な構成としたほうが、剥離時に破壊が生じやすい。例えば、図3(a)に示す星型のように、形状を複雑にすることが意匠の面でも剥離対策としても望ましい。また、図3(b)、(c)及び(d)に示すように、反射層(4)内部に複雑な切れ目を配すると、剥離時に切れ目に沿って分断されて反射層(4)が破壊され、再使用が一層難しくなるため、より望ましい。
反射層(4)は、正反射時に強く光を反射して明度が上がる、いわゆる明暗フリップフロップ性か、あるいは、正反射時に色相が変化する、いわゆるカラーフリップフロップ性の少なくともいずれか一方の光学特性を備える必要がある。
明暗フリップフロップ性は、金属箔、透明フィルム、金属フィルム、金属テープ、樹脂、プラスティック等が備える。一方のカラーフリップフロップ性を備えた材料としては、干渉フィルム、ホログラムフィルム等が存在する。例えば、干渉フィルムは、拡散反射光下で無色透明であるが、正反射光下で特定の干渉色を発する。このように、カラーフリップフロップ性を備えた反射層(4)は、正反射光下で色相自体が変化する。また、反射層(4)は、光を拡散することなく、入射した光の角度と逆方向の同じ角度近傍の極めて狭い角度範囲のみに光を反射する光学特性を有することが望ましい。
反射層(4)に要求される光学特性をより具体的に説明すると、反射層(4)の正反射時の最大明度及び/又は最大彩度は、400以上であれば、入射した光を十分に反射できるので望ましい。また、光の入射角を固定して受光角度を変化させた場合、反射層(4)の明度及び/又は彩度の半値幅(FWHM:full Width at half maximum)は、20°未満、より望ましくは、10°未満であれば、入射した光を反対側に角度を広げ過ぎずに反射できる。
続いて、蒲鉾状要素群(5)について説明する。蒲鉾状要素群(5)の形状も反射層(4)同様に任意の形状を取り得る。ただし、反射層(4)を基準に考えると、蒲鉾状要素群(5)の少なくとも一部は、反射層(4)の上に重なる重畳領域を有する必要があり、加えて、反射層(4)と基材(2)の境界を越えて反射層(4)の外側の基材(2)にまではみ出した非重畳領域も同時に有する必要がある。なお、反射層(4)と蒲鉾状要素群(5)のそれぞれの望ましい形状の具体的な関係については、後述する。
蒲鉾状要素群(5)は光透過性を有する必要がある。これは、入射光が蒲鉾状要素群(5)を透過して反射層(4)に達しなければならないからである。光透過性を有するなら特定の色彩で着色されていてもよい。ただし、反射層(4)に入射する光が最も強く、潜像の視認性が最も高くなるのは、蒲鉾状要素群(5)が透明な場合であるため、色彩デザインと効果のバランスを考えて設計する必要がある。
図4に蒲鉾状要素群(5)の構成の一例を示す。蒲鉾状要素群(5)は、盛り上がりを有した蒲鉾形状の第1の要素幅(W1)の蒲鉾状要素(7)が、所定のピッチ(P1)で第1の方向(S1)に規則的に配置されて成る。なお、本明細書において、「規則的に配置する」とは、要素を一定の方向である第1の方向(S1)に所定のピッチで連続して配置することをいう。第一の実施の形態における蒲鉾状要素(7)は、画線であって、断面が蒲鉾状の形状を有しているが、この形状に限定されるわけではない。蒲鉾状要素(7)の形状は、画線に限るものではなく、画素であってもよい。より具体的には、立体的な曲面形状、すなわち盛り上がりを有する構造であって、かつ、少なくとも第1の方向(S1)に対して左右対称な形状であれば、いかなる形状であってもよい。盛り上がりを有する円形の画素のみならず、半楕円球、蒲鉾形状等の一定の曲率を持った左右対称な形状、三角柱、五角柱、六角柱等の多角柱等の立体的な曲面形状を有し、平面形状が円形状、楕円状等の曲線を有する形状、三角形、五角形、六角形等の多角形等であってもよい。以下、蒲鉾状要素(5)を画線として形成した例で説明する。
以上のような構成の蒲鉾状要素群(5)を、盛り上がりを形成できる印刷方式によって形成する。正反射光下で出現する潜像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状要素(7)の盛り上がりの高さは、少なくとも3μm以上が必要であるため、スクリーン印刷、凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、IJP等であっても、この程度の画線の盛り上がりの高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適性等を考慮して1mm以下とする。以上が、蒲鉾状要素群(5)の説明である。
続いて、潜像要素群(6)について図5を用いて説明する。なお、図5に示す潜像要素群(12)は、特許第5200284号公報に記載の方法により作成される例について説明するが、本発明における潜像要素群(12)の構成は、図5に示す例に限定されるものではなく、他の潜像要素群(12)の構成については、後述する。
図5に潜像要素群(6)の一例の構成について示す。潜像要素群(6)は、一定の第2の要素幅(W2)の潜像要素(9)が第1の方向(S1)に所定のピッチ(P1)と同じ又は所定のピッチ(P1)と異なるピッチ(P2)で複数配置されて成る。なお、図5では所定のピッチ(P1)と同じピッチで形成した例となっている。第一の実施の形態における潜像要素群(6)は、潜像画像(12)として出現させたいと意図する基画像(8)を一定の幅で切り出して圧縮することで作製する。基画像(8)から潜像要素群(6)を作製する具体的な作製方法については、特許第5200284号公報に記載の方法を用いる。
それぞれの潜像要素(9)は、盛り上がりが必須ではなく、このため、いかなる印刷方式で形成してもよい。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も望ましい。正反射光下で潜像要素群(6)中の情報の一部を可視化するために、潜像要素(9)は、正反射時に反射層(4)との間に色差を生じる必要があり、少なくとも正反射時の色彩が前述の反射層(4)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。また、潜像画像(12)の視認性をより高めたい場合には、潜像要素(9)に高い光遮断性を付与してもよい。潜像要素(9)を印刷する印刷インキに二酸化チタンや酸化アルミのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。
また、潜像要素群(6)を拡散反射光下で不可視としたい場合には、下地の反射層(4)、若しくは基材(2)の色彩と同じ色彩とするか、又は無色透明若しくは半透明に形成すればよい。透明や半透明なインキで形成する場合、品質管理を容易にするために、僅かに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合してUVランプを用いて脱刷、印刷不良等の異常を管理することもできる。
潜像要素群(6)は、インキで形成するだけでなく、プリンターを用いて形成してもよい。また、潜像要素(9)に当たる画像は、蒲鉾状要素(7)を切削して付与することで形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状要素(7)は、多くの場合、明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、大きく低下するために、本発明で潜像要素(9)を構成するのに必要とする特性を付与することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与できるという特徴がある。以上が、潜像要素群(6)の説明である。
なお、本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、「異なる色彩」とは、色相、明度又は彩度のうちのどれかが異なるか、又はそれらの組合せが異なることをいう。また、本発明における色差とは、CIE1976L*a*b*表色系のΔEで定義するものとする。CIE1976L*a*b*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。色差は、ある2色の色空間中における距離のことであり、CIE1976L*a*b*表色系での色差は、2色のL*の差、a*の差、及びb*の差をそれぞれ2乗して加え、その平方根をとることで求めることができる。
また、本発明における蒲鉾状要素群(5)及び潜像要素群(6)の所定のピッチ(P1)は、0.05mm以上1.0mm以下で形成する。0.05mm以下のピッチ(P1)は、蒲鉾状要素(7)に3μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現することができる画線のピッチ(P1)としてはほぼ限界のピッチ(P1)であり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ、0.05mm以下のピッチ(P1)で画線を形成することができた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像画像(12)の視認性が極端に低くなるため適当ではない。また、逆に、1.0mm以上のピッチ(P1)で形成した場合には、潜像画像(12)として再現することができる画像の解像度が極端に低くなってしまうため、同様に適切ではない。
図6に潜像印刷物(1)を構成するそれぞれの層の重なり合いの位置関係について示す。図6(a)に示すのは、基材(2)に貼付された反射層(4)と基材(2)の上に蒲鉾状要素群(5)が重なり、更にその上に潜像要素群(6)が重なる形態である。図6(b)に示すのは、基材(2)に貼付された反射層(4)と基材(2)の上に潜像要素群(6)が重なり、更にその上に蒲鉾状要素群(5)が重なる形態である。図6(a)、図6(b)のいずれの層構造であっても本発明の潜像印刷物(1)は、構成可能である。
以上の構造を有する本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図7を用いて説明する。図7(a)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、印刷画像領域(3)内に潜像画像(12)は出現しない。印刷画像領域(3)全体が特定の色彩で視認されるか、又は不可視である。図7(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、ある特定の観察角度(第一の実施の形態においては、やや浅い観察角度)において、基画像(8)とほぼ同じ形状の桜の花びらの潜像画像(12)が印刷画像領域(3)内に出現する。図7(c)に示すように、正反射光下の、図7(b)の場合と異なる、特定の観察角度(第一の実施の形態においては、やや深い観察角度)において、図7(b)で出現した位置とは別の位置へと潜像画像(12)が印刷画像領域(3)内を移動する。図7(b)から図7(c)への潜像画像(12)の移動は、連続的な変化であり、傾ける角度に応じて印刷画像領域(3)内の潜像画像(12)の位置が変化する。
このような動画効果が生じる原理については、図6(a)に示した層構造で潜像印刷物(1)が構成されている場合については、特開第2016−203458号公報に記載のとおりであり、図6(b)に示した層構造で潜像印刷物(1)が構成されている場合については、特開第2016−55480号公報に記載のとおりである。以上が本発明の効果の説明である。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度とほぼ等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度とほぼ等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
ここで、反射層(4)と蒲鉾状要素群(5)のそれぞれの望ましい形状の具体的な関係について説明する。反射層(4)を基準に考えた具体的な例について図8に示す。反射層(4)と蒲鉾状要素群(5)は、それぞれの形状が図8(a)に示すように異なっていてもよいし、図8(b)に示すように同じであってもよい。ただし、蒲鉾状要素群(5)の少なくとも一部は、反射層(4)と基材(2)との境界をまたがって構成される必要がある。また、図8(c)に示すように、反射層(4)と基材(2)との境界に面積率の異なる文字や画像を配置し、より剥離が困難で、かつ、デザイン性に優れた構成を用いてもよい。また、図8(d)のように、蒲鉾状要素群(5)をより大きく構成して、反射層(4)が存在する領域にのみ潜像画像(12)を配置するのではなく、反射層(4)がない領域にも潜像画像(12)を配置することで、より剥離や偽造が困難な構成としてもよい。
また、第一の実施の形態において潜像画像(12)が動いて見える動画効果が生じる構成について説明したが、潜像画像(12)がある画像から全く別の画像へとチェンジする構成を用いてもよい。その場合には、図9に示すような分断画線の構成を用いる。例えば、「A」という文字と「B」という文字をチェンジさせる効果を得たい場合、「A」の文字と「B」の文字をそれぞれ所定のピッチ(P1)で第2の要素幅(W2)、第3の要素幅(W3)で分断した潜像要素(9A、9B)によって、それぞれの潜像要素群(6A、6B)を形成し、それを重なり合わないように配置して潜像要素群(6)を形成する。
この場合、図10に示すように、正反射光下の特定の観察角度においては、印刷画像領域(3)に現れる画像は、アルファベットの「A」であり、別の観察角度において印刷画像領域(3)に現れる画像は、アルファベットの「B」である効果が生じる。
前記の分断画線のより具体的な作製方法については、特許第4682283号公報に記載の方法を用いればよい。
また、モアレ拡大現象と呼ばれる現象を利用して動画効果を生じさせる潜像要素群(6)の構成と作製方法については、特許第4844894号公報や特許第5131789号公報記載の方法を用いればよい。また、蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を画線ではなく画素とした場合の構成については、特許第4660775号公報、特許第4682283号公報、特許第5200284号公報、特許第6075244号公報及び特許第6120082号公報に記載の構成を用いればよい。また、蒲鉾状要素(7)や潜像要素(9)を直線ではなく、曲線で形成する場合には、特許第6032423号公報及び特許第6112357号公報の構成を用いればよい。さらに、より特殊な効果を実現するのであれば、特開2016-203459号公報、特開2016-210149号公報、特開2016-221889号公報及び特開2017-56577号公報等を用いてもよい。以上のように、蒲鉾状要素群(5)や潜像要素群(6)の構成については、限定されるものではなく、従来の蒲鉾状要素群(5)の上に潜像要素群(6)を重ねて潜像画像(12)を発現させる技術で用いられていた構成をそのまま用いることができる。
また、反射層(4)が薄膜干渉フィルムのように透明であって、光透過性を有する場合、図11に示すように、反射層(4)の下に可視画像(13)を形成し、拡散反射光下で特定の情報を視認できる構成としてもよい。この場合、可視画像(13)に一定の色彩制限を加えることによって、図12(a)に示すように拡散反射光下では、可視画像(13)のみが視認できるが、図12(b)及び図12(c)のような正反射光下では、目視上、可視画像(13)が消失して潜像画像(12)のみが視認できる、いわゆる画像のチェンジ効果を追加することができる。このような画像のチェンジ効果を付与するためには、可視画像(13)中の全ての領域の色差がΔEで50以下になる色彩制限が必要である。実際には、反射層(4)の反射特性によってこの色差の値は左右されるが、これ以上の色差を設けた場合には、反射層(4)がいかに優れた光学特性を有していたとしても、可視画像(13)が消失する効果は得られない。チェンジ効果が生じる具体的な構成については、特開第2017−144558号公報に記載の構成を用いればよい。
(第二の実施の形態)
ここで、第二の実施の形態として、剥離行為に対して抑止効果が高まると考えられる潜像要素群(6)の構成の一例について説明する。図13に示すのは、潜像要素群(6)を基材(2)と反射層(4)の境界にまたがって配置した潜像印刷物(1)である。なお、本例においては、二つの桜の潜像画像(12)が出現するように構成しているが、基材(2)と反射層(4)の境界にまたがって配置するのであれば、潜像画像(12)は、一つでも問題ない。配置した潜像要素群(6)のうち、左上に配置した潜像要素群(6A)は、図5で説明したのと同じ画像とし、右下に配置した潜像要素群(6B)は、図5の潜像要素群(6)の中の潜像要素(9)を、第1の方向(S1)に対して潜像要素(9)の中心線(第1の方向(S1)と直行する方向の線)を軸(垂直軸)として、ミラー反転した反転潜像要素(9B´)が集合した反転潜像要素群(6B)とする。反転潜像要素(9B´)の具体的な作製方法については、特許第5200284号公報に記載の方法を用いる。
通常の潜像要素(9A´)で構成された潜像要素群(6)から生み出された潜像画像(12A)と、潜像要素(9)をミラー反転した反転潜像要素(9B´)から生み出された潜像画像(12B)は、出現する潜像の形状自体が全く同じ桜の花びらであるものの、傾けて観察した場合、その画線構成の違いから同じ位相に配置した場合には、別々の方向に移動する特徴を持っている。
図13のように潜像要素群(6)を基材(2)と反射層(4)の境界にまたがって配置した場合、図14のような効果が生じる。図14(a)、図14(b)及び図14(c)のように正反射光下で潜像印刷物(1)を傾けながら観察すると、二つの潜像画像(12A、12B)が出現するものの、その形状が大きく変化する。すなわち、二つの潜像画像(12A、12B)が図14(a)のように左右に縮んで見えたり、図14(b)のように元の大きさに戻ったり、図14(c)のように左右に広がって見える。
この潜像画像(12)の拡大縮小作用は、反射層(4)内にある潜像画像(12)と反射層(4)外にある潜像画像(12)の移動方向が逆転することによって生じる。図14の左上の潜像画像(12A)で説明すると、反射層(4)内の潜像画像(12)は、一貫して右方向へと移動するが、反射層(4)の外の潜像画像(12)は、一貫して左方向へと移動する。結果として、観察者には、拡大縮小作用が生じているように見える。
反射層(4)と基材(2)の境界において、潜像画像(12)の移動方向が逆転する効果は、ユニークであって人目を引く上、単に反射層(4)と基材(2)の境界に潜像要素(9)を配置するだけで生じるため、製造者にとって製造が容易である。一方で、この効果を目にした偽造者が、予備知識なしで再現することは、困難であり、一定の偽造抵抗力を有する。
この現象は、反射層(4)の有無によって潜像画像(12)の出現の原理が異なるために生じる。具体的には、反射層(4)の有無によって、サンプリングされる潜像要素(9)の位置と、サンプリングされる方向が変化するために生じる。まず、反射層(4)の有無によって、サンプリングされる潜像要素(9)の位置が変化する原理について、図15を用いて以下に説明する。
蒲鉾状要素(7)の下に反射層(4)がない場合、図15(a)に示すように、光源(10)から入射した光(14)は、蒲鉾状要素(7)表面で反射され、蒲鉾状要素(7)上にある左側の潜像要素(9L)の情報をサンプリングした反射光(15)となって観察者(11)に視認される。この形態においては、蒲鉾状要素(7)の内部に侵入した光は、基材(2)によって吸収され、観察者(11)に届くことはない。よって、観察者(11)が視認するのは、左側の潜像要素(9L)の情報となる。
一方、蒲鉾状要素(7)の下に反射層(4)がある場合、図15(b)に示すように、光源(10)から入射した光(14)は、蒲鉾状要素(7)表面で反射される反射光(15)と、内部に侵入した光は、反射層(4)で反射される反射光(16)に分かれる。反射層(4)から生じた反射光(16)は、蒲鉾状要素(7)から生じた反射光(15)と比較して相対的に著しく強いため、観察者(11)は、二つの反射光のうち、反射層(4)から生じた反射光(16)を支配的に視認する。ここで、反射層(4)から生じた反射光(16)は、蒲鉾状要素(7)上にある右側の潜像要素(9R)の情報をサンプリングしているため、観察者(11)が視認するのは、右側の潜像要素(9R)の情報となる。
以上のように、反射層(4)の有無によってサンプリングされる潜像要素(9)の位置が蒲鉾状要素(7)の中心を挟んで反転した位置へと変化する。次に、反射層(4)の有無によってサンプリングされる方向が変化する原理について、図16を用いて以下に説明する。
図16に示すように、光源(10)の位置が左方向へと移動した場合について考える。なお、この状態は、光源に対して潜像印刷物(1)の傾きを変えた場合と同義である。まず、蒲鉾状要素(7)の下に反射層(4)がない場合、図16(a)に示すように、光源(10)から入射した光(14)は、蒲鉾状要素(7)画線表面で反射されるため、蒲鉾状要素(7)表面上の潜像要素(9L)をサンプリングする反射光(15)は、右から左側へと移動する。このため、光源(10)の位置が左方向へと移動した場合、観察者(11)に届く情報は、蒲鉾状要素(7)上の潜像要素(9L)を右から左側へと移動する。
次に、蒲鉾状要素(7)の下に反射層(4)がある場合、図16(b)に示すように、光源(10)から入射した光(14)は、蒲鉾状要素(7)内部に侵入して反射層(4)で反射されるため、蒲鉾状要素(7)表面の潜像要素(9R)をサンプリングする反射光(16)は、左から右側へと移動する。このため、光源(10)の位置が左方向へと移動した場合、観察者(11)に届く情報は、蒲鉾状要素(7)上の潜像要素(9R)を左から右側へと移動する。
このように、反射層(4)の有無によって蒲鉾状要素(7)表面の潜像要素(9)をサンプリングする反射光(16)は、そのサンプリング方向が逆転する。以上の原理によって、反射層(4)の有無によって、サンプリングされる潜像要素(9)の位置と、サンプリングされる方向が反転する。
このように、反射層(4)の有無によって、サンプリングされる潜像要素(9)の位置と、サンプリングされる方向が反転する。この現象が、図14に示したように、反射層(4)と基材(2)の境界において、潜像画像(12)の移動方向が逆転し、潜像画像(12)の拡大縮小効果が生じる原理である。
第二の実施の形態において、潜像要素群(6)の構成は、動画効果を生じさせる構成で例示したが、これに限定するものではない。これまで潜像要素群(6)の構成として紹介したいずれの構成を用いてもよい。例えば、図9に示した分断画線の構成を用いた場合、潜像画像(12)の拡大縮小が生じないが、印刷画像領域(3)の中に反射層(4)の有無によってアルファベットの「A」が出現する領域と、アルファベットの「B」が出現する領域が同時に現れる効果が生じる。
(第三の実施の形態)
最後に第三の実施の形態として、反射層(4)と基材(2)の境界で潜像画像(12)の動きが反転することを利用して、更に偽造抵抗力を向上させた形態について説明する。この形態においては、第二の実施の形態と同様に、反射層(4)と基材(2)の境界に潜像画像(12)を形成するものの、第二の実施の形態とは反対に、傾きを変えて観察した場合に反射層(4)と基材(2)の境界でも潜像画像(12)の動きが反転せず、動きが完全に同期することを特徴とする。
図17に示すのは、第三の実施の形態において用いる潜像要素群(6´)である。この潜像要素群(6´)は、図5で示した潜像要素群(6)と異なり、所定のピッチ(P1)の中に通常の潜像要素(9A´)と、通常の潜像要素(9A´)を垂直軸でミラー反転した反転潜像要素(9B´)が組み合わさった組合せ要素(9’)から成る。この潜像要素群(6´)の構成と作製方法は、特開2016-203459号公報に記載の方法を用いる。
以上の構成の潜像要素群(6´)を反射層(4)と蒲鉾状要素群(5)の上に重ね合わせて形成する。反射層(4)と蒲鉾状要素群(5)の構成については、第一の実施の形態や第二の実施の形態と同様である。
ここで、本実施の形態においては、蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6´)の重ね合わせの位置関係について制約がある。具体的には、それぞれの蒲鉾状要素(7)の第1の方向(S1)の要素幅の中心の垂直軸に、それぞれの組合せ要素(9´)の第1の方向(S1)の要素幅の中心の垂直軸が重なるように位置合わせする必要がある。以上のような位置関係で蒲鉾状要素群(5)と潜像要素群(6´)を重ね合わせることで、潜像印刷物(1)が完成する。
図18に潜像印刷物(1)の効果について説明する。図18(a)、図18(b)、図18(c)のように正反射光下で潜像印刷物(1)を傾けながら観察すると、二つの潜像画像(12A、12B)が出現するものの、第二の実施の形態とは異なり、その形状は変化せず、それぞれの潜像画像(12A、12B)は、反射層(4)と基材(2)の境界においても同期して動くことを特徴とする。
第二の実施の形態では、反射層(4)と基材(2)の境界に潜像要素(6)を配置することで拡大縮小効果を得ることを目的としたが、この第三の実施の形態では、反射層(4)と基材(2)の境界においても形状を変化させず、同期して動くことを目的としている。
反射層(4)と基材(2)の境界においても形状を変化させず、同期して動く効果が生じる原理について説明する。図17で示した潜像要素群(6´)は、二種類の異なった潜像要素(9A´、9B´)の組合せから成る。通常の潜像要素(9A´)は、潜像画像(12)が連続的に右へ移動する効果を生じさせる構成を有し、反転潜像要素(9B´)は、潜像画像(12)が連続的に左へ移動する効果を生じさせる構成を有する。すなわち、所定のピッチ(P1)の中に右へ動く要素と、左へ動く要素がそれぞれ半分ずつ交互に配置されて成る。
以上のような構成の潜像要素群(6´)を用いて、それぞれの蒲鉾状要素(7)の第1の方向(S1)の要素幅の中心に、それぞれの組合せ要素(9´)の第1の方向(S1)の要素幅の中心が重なるように位置合わせした場合、反射層(4)の有無によってサンプリング位置とサンプリング方向が反転するために、反射層(4)がある部分では、蒲鉾状要素(7)表面の左側の潜像要素(9A´)がサンプリングされた場合、反射層(4)がない部分では、蒲鉾状要素(7)表面の右側の潜像要素(9B´)がサンプリングされる。そして、傾きを変えた場合、反射層(4)がある部分では、蒲鉾状要素(7)表面の情報が左から右へとサンプリングされて、潜像画像(12)が右へと動く。一方、反射層(4)がない部分では、蒲鉾状要素(7)表面の情報が右から左へ(逆方向)にサンプリングされるため、本来左へと動く構成の反転潜像要素(9B´)が逆に右へと動くことになる。結果として、反射層(4)の有無にかかわらず、出現した潜像画像(12)が右へと同期して動く効果が生じるものである。
ユニークな効果が目に留まりやすい第二の実施の形態の効果と異なり、第三の実施の形態のように、反射層(4)と基材(2)の境界において潜像画像(12)の動きが反転せず、一体となって同期して動く効果は、予備知識のない一般人にとって特に印象に残るものではない。ただし、この効果を再現するためには、前述のような特殊な構成が必要であって、特に、一から潜像印刷物(1)を作り出して偽造品として再現しようとする偽造犯にとっては、非常に偽造の難しい構成となる。第三の実施の形態の潜像印刷物(1)は、偽造抵抗力に特化した形態であるといえる。
第三の実施の形態において、潜像要素群(6)の構成は、動画効果を生じさせる構成で例示したが、これに限定するものではない。これまで潜像要素群(6)の要素の構成として紹介したいずれの構成を用いてもよい。例えば、図10に示したような分断画線によるチェンジ効果を実現したい場合、図9に示した潜像要素群(6)の要素の構成において、反射層(4)の有無によってアルファベットの「A」の潜像要素(9A)を配置する領域とアルファベットの「B」の潜像要素(9B)を配置する領域を反転させればよい。そうすることで、反射層(4)の有無に関わらず、アルファベットの「A」とアルファベットの「B」が混ざり合って現れることなく、必ずそれぞれの文字が完全な形で単独で出現する。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した潜像印刷物(1)の実施例について、図1から図7までを用いて詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
図1に潜像印刷物(1)を示す。基材(2)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙(株)製)を用いた。基材(2)の上に反射層(4)として、無色透明の薄膜干渉フィルム(MLF テイジン製)を貼付した。この透明な薄膜干渉フィルムは、拡散反射光下で透明であるが、正反射光下で極めて強い反射光を放ち、明度と色相の両方が大きく変化する、優れた明暗フリップフロップ性及びカラーフリップフロップ性の両方の光学特性を有している。
図19に実施例1における反射層(4)の明度(L*)及び彩度(C*ab)を示す。反射層(4)の明度は、変角分光光度計(GCMS―4、(株)村上色彩技術研究所製)を使用して測定した。測定条件は、D65光源、10度視野、入射光の入射角45°で固定して、受光角を0°〜80°の範囲として可視光領域の分光反射率を測定し、測定した分光反射率からL*a*b*表色系に基づき、正反射の明度(L*)及び彩度(C*ab)を算出した。受光角度45°の正反射の明度(L*)は、800以上、彩度(C*ab)は、700以上の極めて高い値を示し、半値幅は、約15°であった。
図4に示す蒲鉾状要素群(5)は、蒲鉾状要素(7)を画線で形成し、画線高さ15μm、画線幅0.3mmの蒲鉾状要素(7)をピッチ0.4mmで垂直方向に連続して配置した。この蒲鉾状要素(7)は、UVスクリーン印刷方式により、透明UVスクリーンインキ(UVA9117、(株)セイコーアドバンス製)を用いて、基材(2)上に貼付した反射層(4)上に形成した。
図5に示す潜像要素群(6)も、潜像要素(9)を画線で形成し、画線幅0.4mmの潜像要素(9)をピッチ0.4mmで第1の方向(S1)に連続して配置した。潜像要素群(6)は、灰色のUVオフセットインキ(BEST CURE UV L 特練マットグレー、T&K TOKA(株)製)に酸化チタンを含有したUV白インキを10%程度混ぜた混合インキを使用して、UVオフセット印刷で蒲鉾状要素群(6)の上に重ねて形成し、実施例1の潜像印刷物(1)を得た。
以上の構成で形成した、本発明の潜像印刷物(1)の効果について、図7を用いて説明する。本発明の潜像印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、図7(a)に示すように、潜像画像(12)は不可視であり、印刷画像領域(3)全体が紙地の色彩である灰色で視認された。図7(b)に示すように、本発明の潜像印刷物(1)を正反射光下の特定の角度で観察した場合、桜の花びらが潜像画像(12)として出現した。潜像画像(12)は、黒色であり、その他の印刷画像領域(3)は、薄膜干渉フィルムの干渉色である桃色から緑色で視認された。続いて、図7(c)に示すように、正反射光下において本発明の潜像印刷物(1)を異なる角度で観察した場合、潜像画像(12)の位置が連続的に変化する動画的効果が確認できた。