以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、(Ba,Ca)(Ti,Zr、Sn)O3を主成分とし、高密度、高機械的品質係数であって、動作温度範囲に相転移がなく、圧電性と絶縁性の良好な非鉛圧電材料を提供するものである。なお、本発明の圧電材料は、誘電体としての特性を利用してメモリ、およびセンサ等のさまざまな用途に利用することができる。
本発明の圧電材料は、下記一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物を含む主成分と、Mnよりなる第1副成分と、Liよりなる第2副成分と、Biよりなる第3副成分とを有する圧電材料であって、前記Mnの含有量が前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.04重量部以上0.36重量部以下、前記Liの含有量αが前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.0013重量部以上0.0280重量部以下、前記Biの含有量βが前記金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.042重量部以上0.850重量部以下であり、前記αとβが0.5≦(α・MB)/(β・ML)≦1( MLはLiの原子量、MBはBiの原子量)の関係を有する。
一般式(1)(Ba1−xCax)a(Ti1−y−zZrySnz)O3 (1)
(式中0.09≦x≦0.30、0.025≦y≦0.074、0≦z≦0.02、0.986≦a≦1.02)
本発明において、ペロブスカイト型金属酸化物とは、岩波理化学辞典 第5版(岩波書店 1998年2月20日発行)に記載されているような、ペロブスカイト型構造(ペロフスカイト構造とも言う)を有する金属酸化物を指す。ペロブスカイト型構造を有する金属酸化物は一般にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。
本発明の圧電材料は、絶縁性の観点からペロブスカイト型金属酸化物を主相とする。ペロブスカイト型金属酸化物が主相であるかどうかは、例えば、エックス線回折において、ペロブスカイト型金属酸化物に由来する最大の回折強度が、不純物相に由来する最大の回折強度の100倍以上であるか否かで判断できる。ペロブスカイト型金属酸化物のみから構成されていると、絶縁性が最も高くなるため好ましい。「主相」とは、圧電材料の粉末X線回折を行った場合に、最も回折強度の強いピークがペロブスカイト型構造に起因したものである場合である。より好ましくは、ペロブスカイト型構造の結晶がほぼ全てを占める「単相」である。
前記一般式(1)で表わされる金属酸化物は、Aサイトに位置する金属元素がBa、Caであり、Bサイトに位置する金属元素がTi、ZrおよびSnであることを意味する。ただし、一部のBa、CaがBサイトに位置してもよい。同様に、一部のTiとZrがAサイトに位置してもよい。しかし、圧電特性が低下するという観点で、SnがAサイトに位置することは好ましくない。
前記一般式(1)における、Bサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比が若干ずれた場合(例えば、1.00対2.94〜1.00対3.06)でも、前記金属酸化物がペロブスカイト型構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
本発明に係る圧電材料の形態は限定されず、セラミックス、粉末、単結晶、膜、スラリーなどのいずれの形態でも構わないが、セラミックスであることが好ましい。本明細書中において「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。
本発明の圧電材料の母物質であるBaTiO3は室温で正方晶である。室温からBaTiO3を冷却すると、正方晶から斜方晶への相転移温度(以後Tto)で斜方晶へと相転移する。また、斜方晶であるBaTiO3を加熱すると、斜方晶から正方晶への相転移温度(以後Tot)で正方晶へ相転移する。
本発明の圧電材料は室温で正方晶であり、室温を含む温度範囲で使用される圧電デバイスに応用される。圧電デバイスの動作温度範囲における圧電性能の変動を抑制するためには、Ttoを圧電デバイスの動作温度範囲よりも低い温度に調整して、本発明の圧電材料が正方晶である温度範囲を拡大する。具体的にはTtoは−20℃以下であることが好ましく、−30℃以下であると応用可能な圧電デバイスが増えるため一層好ましい。
一般式(1)において、Ca量xの範囲は0.09≦x≦0.30である。Ca量xが0.09未満の場合、Zr量yが0.025以上であると正方晶から斜方晶への相転移温度(以後Tto)が−10℃よりも高くなる。LiおよびBi成分を添加することでTtoを低温化できるものの、より多くのLiとBiを加えなくてはならなくなるため好ましくない。
Zr量yおよびSn量zが増加すると、Ttoは高くなる。しかし、Ca量xが0.09以上であると、本発明範囲内のZr量y及びSn量zに関わらず、LiおよびBi成分を加えることでTtoを−20℃以下にシフトさせることができる。xが0.3よりも大きくなると、1400℃以下の焼成温度ではCaが固溶しない。不純物相であるCaTiO3が発生して圧電性能が低下する。よって、できるだけ少ないLiおよびBi成分の添加によってTtoを−20℃以下へシフトさせ、また圧電性を低下させるCaTiO3の発生を抑制するためには、xの範囲は0.09≦x≦0.30である。Ca量が0.12以上であると、LiおよびBi成分を加えることで、相転移温度を−40℃以下へシフトさせることができる。その結果、動作温度範囲内での圧電性の温度依存性を低減することができる。よってCa量xは0.12≦x≦0.30であることが好ましい。
Zr量yは0.025≦y≦0.074である。Zr量yが0.025未満の場合、圧電性が低下する。yが0.074よりも大きいと、キュリー温度(以後TC)が100℃未満となる場合がある。良好な圧電性能を得て、TCを100℃以上に設定するために、yの範囲は0.025≦y≦0.074である。
Zr量が0.04以上であると、室温での誘電率を増加させて圧電性を一層向上させることができる。よってZr量yの範囲は0.04≦y≦0.074であることが好ましい。
Sn量zはz≦0.02であることが好ましい。ZrとSnは圧電材料の比誘電率を増加させる目的で加えている。しかし、TiをZrもしくはSnで置換すると同時に本発明の圧電材料のTtoを高温化させる。Ttoが動作温度範囲内にあると、圧電性能の温度依存性が大きくなってしまい好ましくない。そのためZrやSnを加えてTtoが増加した分は、Ttoを低温化する効果のあるCaを加えて相殺しなければならない。ところが、SnでTiを置換した方が、ZrでTiを置換するよりもTtoの増加が少ない。BaTiO3のTiの1%をZrで置換すると、Ttoは12℃増加する。一方でTiをSnで1%置換するとTtoは5℃増加する。そのため、SnでTiを置換した方がCa量を低減することができる。Caが少ないと圧電材料の機械的品質係数が増加するため、z≦0.02であることが好ましい。z>0.02であるとZr量によってはTCが100℃未満となるため好ましくない。
BaとCaのモル数の和に対するZr、TiおよびSnのモル数の和{a=(Ba+Ca)/(Zr+Ti+Sn)}であるaの範囲は0.986≦a≦1.02である。aが0.986未満の場合、焼成時に異常粒成長が発生する。平均粒径が50ミクロン以上となり、材料の機械的強度と電気機械結合係数が低下する。aが1.02よりも大きい場合、高密度な圧電材料が得られない。圧電材料の密度が低いと、圧電性が低下する。本発明では、焼成が不十分な試料の密度は、焼成が十分な高密度試料よりも密度が5%以上小さい。高密度で機械的強度の高い圧電材料を得るために、aの範囲は0.986≦a≦1.02である。
本発明の圧電材料は、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物ペロブスカイト型金属酸化物100重量部に対して、第一の副成分として金属換算で0.04重量部以上0.36重量部以下のMnが含まれる。前記範囲のMnが含まれると機械的品質係数が増加する。しかし、Mnの含有量が0.04重量部よりも小さいと、機械的品質係数を増加させる効果が得られない。一方でMnの含有量が0.36重量部よりも大きいと圧電材料の絶縁抵抗が低下する。絶縁抵抗が低い時、インピーダンスアナライザを用いて、周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定される室温での誘電正接が0.01を越える。もしくは抵抗率が1GΩcm以下となる。
MnはBサイトを占有することが好ましい。Mnの価数は一般に4+、2+、3+を取ることができる。結晶中に伝導電子が存在する場合(例えば結晶中に酸素欠陥が存在する場合や、Aサイトをドナー元素が占有した場合等)、Mnの価数が4+から3+または2+などへと低くなることで伝導電子をトラップし、絶縁抵抗を向上させることができるからである。
一方でMnの価数が2+など、4+よりも低い場合、Mnはアクセプタとなる。アクセプタとしてMnがペロブスカイト構造結晶中に存在すると、結晶中にホールが生成されるか、結晶中に酸素空孔が形成される。
加えた多数のMnの価数が2+や3+であると、酸素空孔の導入だけではホールが補償しきれなくなり、絶縁抵抗が低下する。よってMnの大部分は4+であることが好ましい。ただし、ごくわずかのMnは4+よりも低い価数となり、アクセプタとしてペロブスカイト構造のBサイトを占有し、酸素空孔を形成してもかまわない。価数が2+あるいは3+であるMnと酸素空孔が欠陥双極子を形成し、圧電材料の機械的品質係数を向上させることができるからである。仮に3価のBiがAサイトを占有すると、チャージバランスをとるためにMnは4+よりも低い価数を取り易くなる。
非磁性(反磁性)材料中に微量に添加されたMnの価数は、磁化率の温度依存性の測定によって評価できる。磁化率は超伝導量子干渉素子(SQUID)や振動試料磁束計(VSM)や磁気天秤により測定できる。測定で得られた磁化率χは一般的に式2で表わされるキュリーワイス則に従う。
(式2) χ = C/(T−θ) (C:キュリー定数、θ:常磁性キュリー温度)
一般的に非磁性材料中に微量に添加されたMnは、価数が2+ではスピンS=5/2、3+ではS=2、4+ではS=3/2を示す。よって単位Mn量あたりに換算したキュリー定数Cが、各Mnの価数でのスピンS値に対応した値となる。よって、磁化率χの温度依存性からキュリー定数Cを導出することで試料中のMnの平均的な価数を評価することができる。
キュリー定数Cを評価するためにはできるだけ低温からの磁化率の温度依存性を測定することが望ましい。なぜなら、Mn量が微量であるため、室温近傍などの比較的高温では磁化率の値も非常に小さくなり、測定が難しくなるからである。キュリー定数Cは、磁化率の逆数1/χを温度Tに対してプロットし直線近似した時の直線の傾きから導出することができる。
本発明の圧電材料は、一般式(1)で表わされるペロブスカイト型金属酸化物100重量部に対して、第二の副成分として金属換算で0.0013重量部以上0.0280重量部以下のLiと、第三の副成分として金属換算で0.042重量部以上0.850重量部以下のBiを含む。さらに、前記Liの含有量αが、前記Biの含有量βが式(1)の関係を有する。
式(1)0.5≦(α・MB)/(β・ML)≦1(MLはLiの原子量、MBはBiの原子量)
LiとBiの含有量がそれぞれ0.0013重量部、0.042重量部よりも少ないと、相転移温度を低温化し、機械的品質係数を向上させる効果が得られない。LiとBiの含有量がそれぞれ0.0280重量部、0.850重量部よりも多くなると、LiとBiを加えない場合と比較して電気機械結合係数が3割より多く低下する。LiとBiのモル比[(α・MB)/(β・ML)]が0.5未満であるとき、キュリー温度が低下するので好ましくない。LiとBiのモル比[(α・MB)/(β・ML)]が1よりも大きいとき、誘電正接が増加する。LiとBiが式(1)の割合で共存すると、キュリー温度を低下させず、絶縁抵抗を低下させずに、TtoおよびTotを低下させ、機械的品質係数を向上させることができる。
添加したLiとBiの一部は粒界にあってもかまわないし、(Ba,Ca)(Ti,Zr,Sn)O3のペロブスカイト型構造中に固溶していてもかまわない。LiとBiは、(Li0.5Bi0.5)2+という形でAサイトを占有することもできる。LiとBiはそれぞれアクセプタとして4価のBサイトを占有することもできる。
LiとBiが粒界に存在すると、粒子間の摩擦が低減され機械的品質係数が増加する。LiとBiがペロブスカイト構造の(Ba,Ca)(Ti,Zr,Sn)O3に固溶すると、Tot及びTtoを低温化し、さらに機械的品質係数を向上させることができる。
LiとBiが存在する場所は、例えば、エックス線回折、電子線回折、電子顕微鏡、レーザーアブレーションICP−MS等で評価することができる。
LiとBiがBサイトを占有すると、LiとBiのイオン半径がTiやZrよりも大きいため、ペロブスカイト構造の格子定数は増加する。
LiとBiがAサイトを占有すると、高密度なセラミックスを焼成するのに最適なa値は低くなる。BaOとTiO2の相図において、BaOとTiO2がモル比で1:1になる組成からTiO2リッチ側には高温で液相が存在する。そのためBaTiO3セラミックスを焼成する際、TiO2成分が化学量論比よりも多いと液相焼結により異常粒成長が起こる。一方でBaO成分が多いと焼結が進みにくく、セラミックスの密度が低下する。LiBiO2は焼結助剤として知られているが、LiとBi成分がAサイトを占有することでAサイト成分が過剰となり、むしろセラミックスの焼結が進みにくくなることがある。その結果セラミックスの密度が低下する。このような場合、a値を下げる工夫をすることで焼成が進み、高密度試料が得られる。
LiとBiの含有量及び比率は、例えばICP分析で評価することができる。
本発明の圧電材料の製造を容易にしたり、本発明の圧電材料の物性を調整したりする目的で、BaとCaの5mol%以下を2価の金属元素、例えばSrで置換しても構わない。同様にTi、ZrやSnの5mol%以下を4価の金属元素、例えばHfで置換しても構わない。
焼結体の密度は例えばアルキメデス法で測定することができる。本発明では、焼結体の組成と格子定数から求められる理論密度(ρcalc.)に対する測定密度(ρmeas.)の割合、つまり相対密度(100ρcalc./ρmeas.)が95以上であると圧電材料として十分に高いと言える。
キュリー温度TCとは、その温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度である。本明細書においては、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方体晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTCとする。誘電率は、例えばインピーダンスアナライザを用いて周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定される。
本発明の圧電材料は低温から温度が上昇するにつれて、菱面体晶、斜方晶、正方晶、立方晶、六方晶へと逐次相転移を起こす。本明細書で言及する相転移とは、専ら斜方晶から正方晶、もしくは正方晶から斜方晶へ相転移を指す。相転移温度はキュリー温度同様の測定方法で評価でき、誘電率が極大となる温度を相転移温度とする。結晶系はエックス線回折、電子線回折、またはラマン散乱などで評価することができる。
機械的品質係数を低下させる要因の一つはドメイン壁の振動である。一般にドメイン構造が複雑になるほどドメイン壁の密度が増加し、機械的品質係数が低下する。斜方晶もしくは正方晶ペロブスカイト構造の自発分極の結晶方位は、擬立方晶表記でそれぞれ<110>もしくは<100>である。つまり、自発分極の空間的自由度は、斜方晶構造よりも正方晶構造の方が低い。そのため正方晶構造の方が、ドメイン構造が単純になり、同一の組成であっても機械的品質係数が高くなる。よって本発明の圧電材料は動作温度範囲において、斜方晶構造よりも正方晶構造であること方が好ましい。
相転移温度付近では誘電率、電気機械結合係数が極大となり、ヤング率が極小となる。圧電定数はこれら三つのパラメータの関数であり、相転移温度付近で極大値もしくは変極点を示す。そのため、仮に相転移がデバイスの動作温度範囲に存在すると、デバイスの性能が温度によって極端に変動したり、共振周波数が温度によって変動してデバイスの制御が困難になったりする。したがって、圧電性能の変動の最大の要因である相転移は動作温度範囲にはないことが望ましい。相転移温度が動作温度範囲から遠ざかるほど、動作温度範囲での圧電性能の温度依存性は低下し、好ましい。
本発明の圧電材料は、SiまたはBの少なくとも一方を含む第4副成分を有していることが好ましい。第4副成分の含有量は、前記一般式(1)で表される金属酸化物100重量部に対して金属換算で0.001重量部以上4.000重量部以下であることが好ましい。第4副成分は本発明の圧電材料の焼成温度を低温化させる働きがある。圧電材料を積層圧電素子に用いる際、その製造工程において圧電材料は電極材料とともに焼結される。一般に電極材料の耐熱温度は圧電材料よりも低い。そのため圧電材料の焼成温度を低下することは、焼結に必要なエネルギーを低減し、さらに電極材料の選択肢が増えるという観点で好ましい。
第4副成分の含有量が0.001重量部未満の場合、焼成温度を低下させる効果が得られない。第4副成分の含有量が4.000重量部よりも大きい場合、第4副成分を含まない試料を最適条件(例えば空気中、1300〜1350℃での焼成)で焼成して得られる圧電性と比較して30%以上圧電性が低下する。第4副成分の含有量が0.001重量部以上で4.000重量部以下であるとき、圧電性の低下が30%未満に抑制しながら焼成温度を低下できる。特に0.05重量部以上であるときは、1250℃よりも低い焼成温度で高密度なセラミックスの焼成が可能となるので一層好ましい。さらに0.09重量部以上0.15重量部以下の時は、1200℃以下での焼成が可能となり、圧電性の低下も20%以下に抑制できるためさらに好ましい。
本発明の圧電材料は、前記α及びβが0.19<2.15α+1.11β<1の関係を満足することが好ましい。αとβがこの関係を満たさない場合と比較して、αとβがこの関係を満たす場合、圧電材料の機械的品質係数がより高くなる。
本発明の圧電材料は、前記一般式(1)において、y+z≦(11x/14)−0.037の関係を満足することが好ましい。x、y及びzがこの関係を満たす場合、Ttoが−20℃よりも低くなる。
本発明の圧電材料は−60℃以上から100℃以下において相転移温度を有さないことが好ましい。前記範囲に相転移温度を有さないことにより、動作温度による特性変動の少ない圧電材料となる。
本発明に係る圧電材料の製造方法は特に限定されない。
圧電セラミックスを製造する場合は、構成元素を含んだ酸化物、炭酸塩、硝酸塩、蓚酸塩などの固体粉末を常圧化で焼結する一般的な手法を採用することができる。原料としては、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Sn化合物、Mn化合物、Li化合物、Bi化合物といった金属化合物から構成される。
使用可能なBa化合物としては、酸化バリウム、炭酸バリウム、蓚酸バリウム、酢酸バリウム、硝酸バリウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムなどが挙げられる。
使用可能なCa化合物としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、蓚酸カルシウム、酢酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なTi化合物としては、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なZr化合物としては、酸化ジルコニウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なSn化合物としては、酸化すず、すず酸バリウム、すず酸カルシウムなどが挙げられる。
使用可能なMn化合物としては、炭酸マンガン、一酸化マンガン、二酸化マンガン、三酸化四マンガン、酢酸マンガンなどが挙げられる。
使用可能なLi化合物としては、炭酸リチウム、ビスマス酸リチウムなどが挙げられる。
使用可能なBi化合物としては、酸化ビスマス、ビスマス酸リチウムなどが挙げられる。
また、本発明に係る前記圧電セラミックスのAサイトにおけるBaとCaの存在量とBサイトにおけるTi、Zr及びSnのモル量の比を示すaを調整するための原料は特に限定されない。Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Sn化合物のいずれでも効果は同じである。
本発明に係る圧電セラミックスの原料粉を造粒する方法は特に限定されない。造粒する際に使用可能なバインダーの例としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、アクリル系樹脂が挙げられる。添加するバインダーの量は1重量部から10重量部が好ましく、成形体の密度が上がるという観点において2重量部から5重量部がより好ましい。Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Sn化合物およびMn化合物を機械的に混合した混合粉を造粒してもよいし、これらの化合物を800〜1300℃程度で仮焼した後に造粒してもよいし、Ba化合物、Ca化合物、Ti化合物、Zr化合物、Sn化合物、Li化合物およびBi化合物を仮焼したのちにMn化合物をバインダーと同時に添加させてもよい。造粒粉の粒径をより均一にできるという観点において、最も好ましい造粒方法はスプレードライ法である。
本発明に係る圧電セラミックスの成形体の作成方法は特に限定されない。成形体とは原料粉末、造粒粉、もしくはスラリーから作成される固形物である。成形体作成の手段としては、一軸加圧加工、冷間静水圧加工、温間静水圧加工、鋳込成形と押し出し成形などを用いることができる。
本発明に係る圧電セラミックスの焼結方法は特に限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、ガス炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、HIP(熱間等方圧プレス)などが挙げられる。電気炉およびガスによる焼結は、連続炉であってもバッチ炉であっても構わない。
前記焼結方法におけるセラミックスの焼結温度は特に限定されない。各化合物が反応し、充分に結晶成長する温度であることが好ましい。好ましい焼結温度としては、セラミックスの粒径を3μmから30μmの範囲にするという観点で、1100℃以上1550℃以下であり、より好ましくは1100℃以上1380℃以下である。上記温度範囲において焼結した圧電セラミックスは良好な圧電性能を示す。
焼結処理により得られる圧電セラミックスの特性を再現よく安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして2時間以上24時間以下の焼結処理を行うとよい。
二段階焼結法などの焼結方法を用いてもよいが、生産性を考慮すると急激な温度変化のない方法が好ましい。
前記圧電セラミックスを研磨加工した後に、1000℃以上の温度で熱処理することが好ましい。機械的に研磨加工されると、圧電セラミックスの内部には残留応力が発生するが、1000℃以上で熱処理することにより、残留応力が緩和し、圧電セラミックスの圧電特性がさらに良好になる。また、粒界部分に析出した炭酸バリウムなどの原料粉を排除する効果もある。熱処理の時間は特に限定されないが、1時間以上が好ましい。
本発明の圧電材料の結晶粒径が100μmを越える場合、切断加工及び研磨加工時の材料強度が不十分である恐れがある。また粒径が0.3μm未満であると圧電性が低下する。よって、好ましい粒径範囲は、平均で0.3μm以上100μm以下である。より好ましくは3μm以上30μm以下である。
本発明における「粒径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明においては粒径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電材料の表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。対象となる粒子径により最適倍率が異なるため、光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。材料の表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
本発明の圧電材料を基板上に作成された膜として利用する際、前記圧電材料の厚みは200nm以上10μm以下、より好ましくは300nm以上3μm以下であることが望ましい。圧電材料の膜厚を200nm以上10μm以下とすることで圧電素子として十分な電気機械変換機能が得られるからである。
前記膜の成膜方法は特に制限されない。例えば、化学溶液堆積法(CSD法)、ゾルゲル法、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)、スパッタリング法、パルスレーザデポジション法(PLD法)、水熱合成法、エアロゾルデポジション法(AD法)などが挙げられる。このうち、最も好ましい積層方法は化学溶液堆積法またはスパッタリング法である。化学溶液堆積法またはスパッタリング法は、容易に成膜面積を大面積化できる。本発明の圧電材料に用いる基板は(001)面または(110)面で切断・研磨された単結晶基板であることが好ましい。特定の結晶面で切断・研磨された単結晶基板を用いることで、その基板表面に設けられた圧電材料膜も同一方位に強く配向させることができる。
(圧電素子)
次に、本発明の圧電素子について説明する。
図1は本発明の圧電素子の構成の一実施形態を示す概略図である。本発明に係る圧電素子は、第一の電極1、圧電材料部2および第二の電極3を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電材料部2を構成する圧電材料が本発明の圧電材料であることを特徴とする。
本発明に係る圧電材料は、少なくとも第一の電極と第二の電極を有する圧電素子にすることにより、その圧電特性を評価できる。前記第一の電極および第二の電極は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。
前記第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
前記第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタリング法、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
(分極)
前記圧電素子は一定方向に分極軸が揃っているものであると、より好ましい。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。
前記圧電素子の分極方法は特に限定されない。分極処理は大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極をする際の温度は60℃から150℃の温度が好ましいが、素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は多少異なる。分極処理をするために印加する電界は800V/mmから2.0kV/mmが好ましい。
(共振−反共振法)
前記圧電素子の圧電定数および機械的品質係数は、市販のインピーダンスアナライザーを用いて得られる共振周波数及び反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM−4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振−反共振法と呼ぶ。
(積層圧電素子)
次に、本発明の積層圧電素子について説明する。
本発明に係る積層圧電素子は、圧電セラミックス層と、内部電極を含む電極層とが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電セラミックス層が本発明の圧電セラミックスよりなることを特徴とする。
図2は本発明の積層圧電素子の構成の一実施形態を示す断面概略図である。本発明に係る積層圧電素子は、圧電セラミックス層54と、内部電極55を含む電極層とで構成されており、これらが交互に積層された積層圧電素子であって、前記圧電セラミックス層54が上記の圧電材料よりなることを特徴とする。電極層は、内部電極55以外に第一の電極51や第二の電極53といった外部電極を含んでいても良い。
図2(a)は2層の圧電セラミックス層54と1層の内部電極55が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極51と第二の電極53で狭持した本発明の積層圧電素子の構成を示しているが、図2(b)のように圧電セラミックス層と内部電極の数を増やしてもよく、その層数に限定はない。図2(b)の積層圧電素子は、9層の圧電セラミックス層504と8層の内部電極505(505aもしくは505b)が交互に積層され、その積層構造体を第一の電極501と第二の電極503で挟持した構成であり、交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506aおよび外部電極506bを有する。
内部電極55、505および外部電極506a、506bの大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、また複数に分割されていてもよい。
内部電極55、505、外部電極506a、506b、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、厚み5nmから10μm程度の導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの化合物を挙げることができる。内部電極55、505および外部電極506a、506bは、これらのうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
内部電極55、505はAgとPdを含み、前記Agの含有重量M1と前記Pdの含有重量M2との重量比M1/M2が0.25≦M1/M2≦4.0であることが好ましい。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。前記重量比M1/M2が0.25未満であると内部電極の焼結温度が高くなるので望ましくない。一方で、前記重量比M1/M2が4.0よりも大きくなると、内部電極が島状になるために面内で不均一になるので望ましくない。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。
電極材料が安価という観点において、内部電極55、505はNiおよびCuの少なくともいずれか1種を含むことが好ましい。内部電極55、505にNiおよびCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、本発明の積層圧電素子は還元雰囲気で焼成することが好ましい。
図2(b)に示すように、内部電極505を含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させても良い。例えば、内部電極505aと第一の電極501を外部電極506aで短絡させても良い。内部電極505bと第二の電極503を外部電極506bで短絡させても良い。内部電極505aと内部電極505bは交互に配置されていても良い。また電極どうしの短絡の形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極どうしを短絡させてもよい。
(液体吐出ヘッド)
次に、本発明の液体吐出ヘッドについて説明する。
本発明に係る液体吐出ヘッドは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動部を備えた液室と、前記液室と連通する吐出口を少なくとも有することを特徴とする。
図3は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。図3(a)(b)に示すように、本発明の液体吐出ヘッドは、本発明の圧電素子101を有する液体吐出ヘッドである。圧電素子101は、第一の電極1011、圧電材料1012、第二の電極1013を少なくとも有する圧電素子である。圧電材料1012は、図3(b)の如く、必要に応じてパターニングされている。
図3(b)は液体吐出ヘッドの模式図である。液体吐出ヘッドは、吐出口105、個別液室102、個別液室102と吐出口105をつなぐ連通孔106、液室隔壁104、共通液室107、振動板103、圧電素子101を有する。図において圧電素子101は矩形状だが、その形状は、楕円形、円形、平行四辺形等の矩形以外でも良い。一般に、圧電材料1012は個別液室102の形状に沿った形状となる。
本発明の液体吐出ヘッドに含まれる圧電素子101の近傍を図3(a)で詳細に説明する。図3(a)は、図3(b)に示された圧電素子の幅方向での断面図である。圧電素子101の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。
図中では、第一の電極1011が下部電極、第二の電極1013が上部電極として使用されている。しかし、第一の電極1011と、第二の電極1013の配置はこの限りではない。例えば、第一の電極1011を下部電極として使用しても良いし、上部電極として使用しても良い。同じく、第二の電極1013を上部電極として使用しても良いし、下部電極として使用しても良い。また、振動板103と下部電極の間にバッファ層108が存在しても良い。なお、これらの名称の違いはデバイスの製造方法によるものであり、いずれの場合でも本発明の効果は得られる。
前記液体吐出ヘッドにおいては、振動板103が圧電材料1012の伸縮によって上下に変動し、個別液室102の液体に圧力を加える。その結果、吐出口105より液体が吐出される。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンタ用途や電子デバイスの製造に用いる事が出来る。
振動板103の厚みは、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。振動板のSiにホウ素やリンがドープされていても良い。また、振動板上のバッファ層、電極層が振動板の一部となっても良い。バッファ層108の厚みは、5nm以上300nm以下であり、好ましくは10nm以上200nm以下である。吐出口105の大きさは、円相当径で5μm以上40μm以下である。吐出口105の形状は、円形であっても良いし、星型や角型状、三角形状でも良い。
(液体吐出装置)
次に、本発明の液体吐出装置について説明する。本発明の液体吐出装置は、被転写体の載置部と前記液体吐出ヘッドを備えたことを特徴とする。
本発明の液体吐出装置の一例として、図4および図5に示すインクジェット記録装置を挙げることができる。図4に示す液体吐出装置(インクジェット記録装置)881の外装882〜885及び887を外した状態を図5に示す。インクジェット記録装置881は、被転写体としての記録紙を装置本体896内へ自動給送する自動給送部897を有する。更に、自動給送部897から送られる記録紙を所定の記録位置へ導き、記録位置から排出口898へ導く、被転写体の載置部である搬送部899と、記録位置に搬送された記録紙に記録を行う記録部891と、記録部891に対する回復処理を行う回復部890とを有する。記録部891には、本発明の液体吐出ヘッドを収納し、レール上を往復移送されるキャリッジ892が備えられる。
このようなインクジェット記録装置において、コンピュータから送出される電気信号によりキャリッジ892がレール上を移送され、圧電材料を挟持する電極に駆動電圧が印加されると圧電材料が変位する。この圧電材料の変位により、図3(b)に示す振動板103を介して個別液室102を加圧し、インクを吐出口105から吐出させて、印字を行う。
本発明の液体吐出装置においては、均一に高速度で液体を吐出させることができ、装置の小型化を図ることができる。
上記例は、プリンタとして例示したが、本発明の液体吐出装置は、ファクシミリや複合機、複写機などのインクジェット記録装置の他、産業用液体吐出装置として使用することができる。
加えてユーザーは用途に応じて所望の被転写体を選択することができる。なお載置部としてのステージに載置された被転写体に対して液体吐出ヘッドが相対的に移動する構成をとっても良い。
(超音波モータ)
次に、本発明の超音波モータについて説明する。本発明に係る超音波モータは、前記圧電素子または前記積層圧電素子を配した振動体と、前記振動体と接触する移動体とを少なくとも有することを特徴とする。
図6は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図6(a)に示す。超音波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
本発明の圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の超音波モータは、この原理を利用したものである。
次に、積層構造を有した圧電素子を含む超音波モータを図6(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料により構成される素子であり、積層外面に第一の電極と第二の電極、積層内面に内部電極を有する。金属弾性体2041はボルトによって締結され、積層圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
積層圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
(光学機器)
次に、本発明の光学機器について説明する。本発明の光学機器は、駆動部に前記超音波モータを備えたことを特徴とする。
図7は、本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要断面図である。また、図8は本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上記の関係で構成されている。
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、更にマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が超音波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されており、波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、超音波モータ725、更にはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724が固定筒712のマウント側端面712aを押し付け力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
従って、不図示の制御部により超音波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき超音波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
ここで本発明の光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ等、カメラの種類を問わず、駆動部に超音波モータを有する光学機器に適用することができる。
(振動装置および塵埃除去装置)
粒子、粉体、液体の搬送、除去等で利用される振動装置は、電子機器等で広く使用されている。以下、本発明の振動装置の一つの例として、本発明の圧電素子を用いた塵埃除去装置について説明する。
本発明に係る塵埃除去装置は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を振動板に配した振動体を少なくとも有することを特徴とする。
図9(a)および図9(b)は本発明の塵埃除去装置の一実施態様を示す概略図である。塵埃除去装置310は板状の圧電素子330と振動板320より構成される。圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であっても良い。振動板320の材質は限定されないが、塵埃除去装置310を光学デバイスに用いる場合には透光性材料や光反射性材料を振動板320として用いることができる。
図10は図9における圧電素子330の構成を示す概略図である。図10(a)と(c)は圧電素子330の表裏面の構成、図10(b)は側面の構成を示している。圧電素子330は図9(図10)に示すように圧電材料331と第1の電極332と第2の電極333より構成され、第1の電極332と第2の電極333は圧電材料331の板面に対向して配置されている。図9と同様に圧電素子330は、本発明の積層圧電素子であっても良い。その場合、圧電材料331は圧電材料層と内部電極の交互構造をとり、内部電極を交互に第一の電極332または第二の電極333と短絡させることにより、圧電材料の層ごとに位相の異なる駆動波形を与える事が出来る。図10(c)において圧電素子330の手前に出ている第1の電極332が設置された面を第1の電極面336、図10(a)において圧電素子330の手前に出ている第2の電極333が設置された面を第2の電極面337とする。
ここで、本発明における電極面とは電極が設置されている圧電素子の面を指しており、例えば図10に示すように第1の電極332が第2の電極面337に回りこんでいても良い。
圧電素子330と振動板320は、図9(a)(b)に示すように圧電素子330の第1の電極面336で振動板320の板面に固着される。そして圧電素子330の駆動により圧電素子330と振動板320との間に応力が発生し、振動板に面外振動を発生させる。本発明の塵埃除去装置310は、この振動板320の面外振動により振動板320の表面に付着した塵埃等の異物を除去する装置である。面外振動とは、振動板を光軸方向つまり振動板の厚さ方向に変位させる弾性振動を意味する。
図11は本発明の塵埃除去装置310の振動原理を示す模式図である。図11(a)は左右一対の圧電素子330に同位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。左右一対の圧電素子330を構成する圧電材料の分極方向は圧電素子330の厚さ方向と同一であり、塵埃除去装置310は7次の振動モードで駆動している。図11(b)は左右一対の圧電素子330に位相が180°反対である逆位相の交番電圧を印加して、振動板320に面外振動を発生させた状態を表している。塵埃除去装置310は6次の振動モードで駆動している。本発明の塵埃除去装置310は少なくとも2つの振動モードを使い分けることで振動板の表面に付着した塵埃を効果的に除去できる装置である。
(撮像装置)
次に、本発明の撮像装置について説明する。本発明の撮像装置は、前記塵埃除去装置と撮像素子ユニットとを少なくとも有する撮像装置であって、前記塵埃除去装置の振動板を前記撮像素子ユニットの受光面側に設けた事を特徴とする。図12および図13は本発明の撮像装置の好適な実施形態の一例であるデジタル一眼レフカメラを示す図である。
図12は、カメラ本体601を被写体側より見た正面側斜視図であって、撮影レンズユニットを外した状態を示す。図13は、本発明の塵埃除去装置と撮像ユニット400の周辺構造について説明するためのカメラ内部の概略構成を示す分解斜視図である。
カメラ本体601内には、撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス605が設けられており、ミラーボックス605内にメインミラー(クイックリターンミラー)606が配設されている。メインミラー606は、撮影光束をペンタダハミラー(不図示)の方向へ導くために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子(不図示)の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態とを取り得る。
カメラ本体の骨格となる本体シャーシ300の被写体側には、被写体側から順にミラーボックス605、シャッタユニット200が配設される。また、本体シャーシ300の撮影者側には、撮像ユニット400が配設される。撮像ユニット400は、撮影レンズユニットが取り付けられる基準となるマウント部602の取付面に撮像素子の撮像面が所定の距離を空けて、且つ平行になるように調整されて設置される。
ここで、本発明の撮像装置として、デジタル一眼レフカメラについて説明したが、例えばミラーボックス605を備えていないミラーレス型のデジタル一眼カメラのような撮影レンズユニット交換式カメラであってもよい。また、撮影レンズユニット交換式のビデオカメラや、複写機、ファクシミリ、スキャナ等の各種の撮像装置もしくは撮像装置を備える電子電気機器のうち、特に光学部品の表面に付着する塵埃の除去が必要な機器にも適用することができる。
(電子機器)
次に、本発明の電子機器について説明する。本発明の電子機器は、前記圧電素子または前記積層圧電素子を備えた圧電音響部品を配することを特徴とする。圧電音響部品にはスピーカ、ブザー、マイク、表面弾性波(SAW)素子が含まれる。
図14は本発明の電子機器の好適な実施形態の一例であるデジタルカメラの本体931の前方から見た全体斜視図である。本体931の前面には光学装置901、マイク914、ストロボ発光部909、補助光部916が配置されている。マイク914は本体内部に組み込まれているため、破線で示している。マイク914の前方には外部からの音を拾うための穴形状が設けられている。
本体931上面には電源ボタン933、スピーカ912、ズームレバー932、合焦動作を実行するためのレリーズボタン908が配置される。スピーカ912は本体931内部に組み込まれており、破線で示してある。スピーカ912の前方には音声を外部へ伝えるための穴形状が設けられている。
本発明の圧電音響部品は、マイク914、スピーカ912、また表面弾性波素子、の少なくとも一つに用いられる。
ここで、本発明の電子機器としてデジタルカメラについて説明したが、本発明の電子機器は、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有する電子機器にも適用することができる。
前述したように本発明の圧電素子および積層圧電素子は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置、超音波モータ、光学機器、振動装置、塵埃除去装置、撮像装置および電子機器に好適に用いられる。
本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上のノズル密度、および吐出速度を有する液体吐出ヘッドを提供することができる。
本発明の液体吐出ヘッドを用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の吐出速度および吐出精度を有する液体吐出装置を提供することができる。
本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の駆動力、および耐久性を有する超音波モータを提供することができる。
本発明の超音波モータを用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の耐久性および動作精度を有する光学機器を提供することができる。
本発明の圧電素子および積層圧電素子を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の振動能力、および耐久性を有する振動装置を提供することができる。
本発明の振動装置を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の塵埃除去効率、および耐久性を有する塵埃除去装置を提供することができる。
本発明の塵埃除去装置を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の塵埃除去機能を有する撮像装置を提供することができる。
本発明の圧電素子または積層圧電素子を備えた圧電音響部品を用いることで、鉛を含む圧電素子を用いた場合と同等以上の発音性を有する電子機器を提供することができる。
本発明の圧電材料は、液体吐出ヘッド、モータなどに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ、強誘電メモリ等のデバイスに用いることができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
本発明の圧電セラミックスを作製した。
(実施例1から31、及び比較例1から15)
平均粒径100nmのチタン酸バリウム(BaTiO3、Ba/Ti=0.9985)、チタン酸カルシウム(CaTiO3、Ca/Ti=0.9978)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3、Ca/Zr=0.999)、すず酸カルシウム(CaSnO3、Ca/Sn=1.0137)を表1記載のモル比になるよう秤量した。また、BaとCaのモル数の和に対する、Ti、Zr、及びSnのモル数の和の比aを、蓚酸バリウム等を用いて表1記載の値になるよう調整した。本混合粉に対し、Li、Bi、及びMnの重量が金属換算でそれぞれ表1記載の値となるように、炭酸リチウム、酸化ビスマス、三酸化四マンガンを秤量して加えた。これらの秤量粉は、ボールミルを用いて24時間の乾式混合によって混合した。得られた混合粉を造粒するために、混合粉の3重量部のPVAバインダーを、それぞれスプレードライヤー装置を用いて、混合粉表面に付着させた。
次に、得られた造粒粉を金型に充填し、プレス成型機を用いて200MPaの成形圧をかけて円盤状の成形体を作製した。この成形体は冷間等方加圧成型機を用いて、更に加圧しても構わない。
得られた成形体を電気炉に入れ、1320から1360℃の最高温度で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結し、本発明の圧電材料よりなるセラミックスを得た。
そして、得られたセラミックスを構成する結晶粒の平均円相当径と相対密度を評価した。結果、平均円相当径は10から50μm、比較例7以外の試料では相対密度は95%以上であった。なお、結晶粒の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。この観察結果より平均円相当径を算出した。また、相対密度は、エックス線回折から求めた格子定数と秤量組成から計算される理論密度、アルキメデス法による実測密度を用いて評価した。
実施例10及び12の試料中のMnの価数を評価した。SQUIDを用いて2〜60Kでの磁化率の温度依存性を測定した。実施例10及び実施例12の磁化率の温度依存性からMnの平均的な価数を求めたところ、それぞれ+3.8および+3.9であった。Mnに対するBiのモル比が増加するにつれてMnの価数は低下する傾向にあった。同様な手法で、Biの含有量が少ない比較例2のMnの磁化率を評価したところ+4.0であった。
次に、得られたセラミックスを厚さ0.5mmになるように研磨し、X線回折により結晶構造を解析した。その結果、比較例1を除いてペロブスカイト構造に相当するピークのみが観察された。
前記円盤状のセラミックスの表裏両面にDCスパッタリング法により厚さ400nmの金電極を形成した。なお、電極とセラミックスの間には、密着層として30nmのチタンを成膜した。この電極付きのセラミックスを切断加工し、10mm×2.5mm×0.5mmの短冊状圧電素子を作製した。得られた圧電素子を、ホットプレートの表面を60℃から100℃になるように設定し、前記ホットプレート上で1kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。
以下では、本発明の圧電材料及び比較例に対応する圧電材料を有する圧電素子の静特性として、分極処理した圧電素子の圧電定数d31及び機械的品質係数Qmを共振反共振法により評価した。Tot、TtoおよびTCは試料の温度を変化させながら市販のインピーダンスアナライザで静電容量を測定して計算した。同時に誘電正接の温度依存性もインピーダンスアナライザで測定した。試料の温度は一旦室温から冷却した後にTC以上まで加熱した。Ttoは、結晶系が正方晶から斜方晶に変化する温度であり、試料を冷却しながら誘電率を測定し、誘電率を試料温度で微分した値が最大となる温度で定義する。Totは、結晶系が斜方晶から正方晶に変化する温度であり、試料を加熱しながら誘電率を測定し、誘電率を試料温度で微分した値が最大となる温度で定義する。
比較例1はCa量xが0.32と大きい。エックス線回折を測定したところCaTiO3相が検出された。Ca量が0.3である実施例1から3と比較して密度が低く、電気機械結合係数k31が0.01から最大で0.03低かった。
比較例15はCa量xが0.085と小さい。Ttoは0℃であった。
比較例11はZr量yが0.08と大きい。キュリー温度は96℃であり100℃未満であった。
比較例14はZr量yが0.02と小さい。同じCa量である実施例29(y=0.059)と比較して電気機械結合係数k31が0.06低かった。
比較例7はaが1.021と大きく、相対密度が90%と低かった。
比較例8はaが0.985と小さいため異常粒成長が観察された。粒子径は50μm以上であり、圧電定数d31は実施例20と比較して平均して4%低かった。
比較例9はLi成分のモル数はBi成分のモル数の半分未満であり、同じモル数のLi成分とBi成分を秤量した実施例20と比較してキュリー温度が2℃低かった。
比較例10は、Bi成分のモル数に対してLi成分のモル数が多く、同じモル数のLi成分とBi成分を秤量した実施例20と比較して室温での誘電正接が高かった。
表2には、表1中の比較例9及び10、実施例20から22のTCと室温での誘電正接をまとめた。
表3には、表1中の比較例6、12、13及び実施例20、23、25、26、29、30の相転移温度をまとめた。LiおよびBi成分を加えることで、圧電材料のTCを低下させずにTtoおよびTotが低下した。
次に圧電素子の耐久性を確認するため、表3記載の実施例及び比較例の試料を恒温槽に入れ温度サイクル試験を実施した。温度サイクルは25℃→−20℃→50℃→25℃を1サイクルとし、100サイクル繰り返した。サイクル試験前後の圧電定数d31を比較した。Ttoが−20℃以下の試料(実施例20、23、25、26、29、30)では圧電特性の変化率が5%以下であったのに対し、Ttoが−20℃よりも高い比較例12、13では圧電定数d31が5%より多く低下した。比較例6はTtoが−20℃以下であり、サイクル試験後の圧電定数d31の変化率は5%以内であったが、室温での機械的品質係数が実施例20よりも約200低かった。
Ttoが−20℃よりも高い試料は、温度サイクル試験中に正方晶と斜方晶の相転移を繰り返している。自発分極方向の異なる結晶系の間を何度も相転移することで脱分極が促進され、Ttoが−20℃よりも高い試料では圧電定数d31がより多く低下したと考えられる。すなわち、Ttoが−20℃よりも高い圧電セラミックスは、素子としての耐久性が低いといえる。
表4は、表1中の実施例9から16の圧電材料の機械的品質係数を示す。Zrに代わってSnを加えることで機械的品質係数が増加した。
図15から図18は、表1中の比較例2から5、実施例10、12、13、16の比誘電率、誘電正接、圧電定数d31、機械的品質係数の温度依存性を示す。図15より、LiおよびBi成分を加えることで、相転移温度が低温側にシフトし、測定温度範囲内での比誘電率の変化幅が減少していることがわかる。図16より、LiおよびBi成分を加えることで、−20℃以下での誘電正接が顕著に低減できていることがわかる。図17より、LiおよびBi成分を加えることで、測定温度範囲内での圧電定数d31の変化幅が減少していることがわかる。図18より、LiおよびBi成分を加えることで、測定温度範囲内での機械的品質係数が増加することがわかる。
(実施例32から39、及び比較例16から19)
平均粒径100nmのチタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、ジルコン酸カルシウム、炭酸リチウム、酸化ビスマス、及び三酸化四マンガン、SiとBを含むガラス助剤(SiO2を30〜50重量%、B2O3を21.1重量%含む)を表5に示すように秤量した。その後、表1記載の試料と同様な手法で成形体を作成した。得られた成形体を電気炉に入れ、1200℃で5時間保持し、合計24時間かけて大気雰囲気で焼結した。その後、表1記載の試料と同様の加工と評価を行った。
比較例17はMnを含まず、実施例33と比較して機械的品質係数Qmが少なくとも200低かった。
比較例18はMnを0.36重量部よりも多く含み誘電正接が0.01を越え、実施例33の誘電正接0.005よりも高かった。
表6にはLi成分とBi成分の添加量が変化した際の、室温で測定された電気機械結合係数k31、ヤング率Y11、圧電定数d31、機械的品質係数Qm、比誘電率εrをまとめる。Li成分とBi成分の添加量が増加するにつれて、室温でのk31、d31、比誘電率は徐々に減少することがわかる。これは正方晶と斜方晶との間の相転移温度(Tot及びTto)が低下することに起因している。一方でLiおよびBi成分が増加するにつれて機械的品質係数は増加したのちに低下した。
比較例16はLi成分とBi成分の添加量がそれぞれ0.0013重量部および0.028重量部未満であり機械的品質係数が最も低い。
比較例19のLi成分とBi成分の添加量がそれぞれ0.028重量部および0.858重量部より大きく、電気機械結合係数k31が比較例16の70%未満となっている。
(実施例40)
チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸カルシウム(CaTiO3)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)、炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)、三酸化四マンガン(Mn3O4)、SiとBを含むガラス助剤(SiO2を30〜50重量%、B2O3を21.1重量%含む)を、表5の実施例33記載の組成になるよう秤量した。秤量した原料粉末を混合し、ボールミルで一晩混合して混合粉を得た。
得られた混合粉にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。
上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Ag60%−Pd40%合金ペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を1200℃の条件で5時間焼成して焼結体を得た。前記焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、図2(b)のような積層圧電素子を作製した。
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるAg−Pdが圧電材料と交互に形成されていた。
圧電性の評価に先立って試料に分極処理を施した。具体的には、試料をオイルバス中で100℃に加熱し、第一の電極と第二の電極間に1kV/mmの電圧を30分間印加し、電圧を印加したままで室温まで冷却した。
得られた積層圧電素子の圧電性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例33の圧電材料と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
(実施例41)
実施例40と同様の手法で混合粉を作成した。得られた混合粉は回転させながら1000℃で大気中3時間仮焼を行い、仮焼粉を得た。ボールミルを用いて得られた仮焼粉を解砕した。得られた仮焼粉にPVBを加えて混合した後、ドクターブレード法によりシート形成して厚み50μmのグリーンシートを得た。上記グリーンシートに内部電極用の導電ペーストを印刷した。導電ペーストには、Niペーストを用いた。導電ペーストを塗布したグリーンシートを9枚積層して、その積層体を熱圧着した。
熱圧着した積層体を管状炉中で焼成した。焼成は300℃まで大気中で行い、脱バインダーを行った後、雰囲気を還元性雰囲気(H2:N2=2:98、酸素濃度2×10−6Pa)に切り替え、1200℃で5時間保持した。降温過程においては、1000℃以下から酸素濃度を30Paに切り替えて室温まで冷却した。
このようにして得られた焼結体を10mm×2.5mmの大きさに切断した後にその側面を研磨し、内部電極を交互に短絡させる一対の外部電極(第一の電極と第二の電極)をAuスパッタにより形成し、図2(b)のような積層圧電素子を作製した。
得られた積層圧電素子の内部電極を観察したところ、電極材であるNiが圧電材料層と交互に形成されていた。得られた積層圧電素子を、100℃に保持したオイルバス中で1kV/mmの電界を30分間印加し、分極処理した。 得られた積層圧電素子の圧電特性を評価したところ、十分な絶縁性を有し、実施例33の圧電素子と同等の良好な圧電特性を得ることができた。
(実施例42)
実施例15の圧電素子を用いて、図3に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
(実施例43)
実施例42の液体吐出ヘッドを用いて、図4に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が記録媒体上に確認された。
(実施例44)
実施例15の圧電素子を用いて、図6(a)に示される超音波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
(実施例45)
実施例44の超音波モータを用いて、図7に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
(実施例46)
実施例15の圧電素子を用いて、図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
(実施例47)
実施例46の塵埃除去装置を用いて、図12に示される撮像装置を作製した。動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥の無い画像が得られた。
(実施例48)
実施例40の積層圧電素子を用いて、図3に示される液体吐出ヘッドを作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。
(実施例49)
実施例48の液体吐出ヘッドを用いて、図4に示される液体吐出装置を作製した。入力した電気信号に追随したインクの吐出が記録媒体上に確認された。
(実施例50)
実施例40の積層圧電素子を用いて、図6(b)に示される超音波モータを作製した。交番電圧の印加に応じたモータの回転が確認された。
(実施例51)
実施例50の超音波モータを用いて、図7に示される光学機器を作製した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
(実施例52)
実施例40の積層圧電素子を用いて、図9に示される塵埃除去装置を作製した。プラスチック製ビーズを散布し、交番電圧を印加したところ、良好な塵埃除去率が確認された。
(実施例53)
実施例46の塵埃除去装置を用いて、図12に示される撮像装置を作製した。動作させたところ、撮像ユニットの表面の塵を良好に除去し、塵欠陥の無い画像が得られた。
(実施例54)
実施例40の積層圧電素子を用いて、図14に示される電子機器を作製した。交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。