以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面における各部材の大きさや比率は説明の都合上誇張または簡略化されており、実際の大きさや比率とは異なる。
〔実施形態1〕
[全体構成]
図1は本実施形態に係る磁気冷暖房装置の外観図である。図に示すように、磁気冷暖房装置500は略円柱状の外形をしており、ハウジング50によって覆われている。
ハウジング50からは、内周冷媒通路41(詳細後述)に接続されていて内周冷媒の入口または出口となる内周冷媒出入口45と、外周冷媒通路42(詳細後述)に接続されていて外周冷媒の入口または出口となる外周冷媒出入口46が引き出されている。内周冷媒出入口45および外周冷媒出入口46は、直径方向の両端においてそれぞれが隣り合うように設けられている。
また、ハウジング50の中心部には、ハウジング50に対して回転自在となっている回転軸60が出ている。
図2は磁気冷暖房装置の内部構成を説明するための図であり、図1中A−A線に沿う部分断面図であって、略円柱状の磁気冷暖房装置における半径部分を示している。図3は磁性体の配置を説明するための平面図である。図4は磁石の配置を説明するための平面図である。
ハウジング50の内部には、磁気熱量効果を有する磁性体1と、熱を輸送するための熱スイッチ部30aおよび30bが交互に並べられた磁性体ブロックが入っている。この磁性体ブロックが熱輸送器となる。また、熱スイッチ部30aおよび30bは熱伝導部となる。
熱スイッチ部30aおよび30bは機能的には同じものであるが、熱伝達状態(オン状態)と断熱状態(オフ状態)が30aと30bで互いに逆となる。熱スイッチ部30aと30bのオン、オフの切り替えは、磁気印加ディスク(後述)の回転に合わせてどちらか一方の状態となるようにする。この熱スイッチ部30aと30bのオン、オフを切り替えることで複数の磁性体1の熱を半径方向に輸送している。すなわち、環状に接続された磁性体ブロックMBの円周方向と交差する方向に熱を輸送するのである。
図3を参照して磁性体ブロック(熱輸送器)を説明する。一つの磁性体ブロックMBは、複数の磁性体1と熱スイッチ部30aおよび30bが半径方向に交互に配置されている。そして、磁性体ブロックMBは環状に間隔をあけて並列に12個配置している。各磁性体ブロックMBの間(間隔の部分)は空気層または断熱材などにより断熱されている。この環状に並べた12個の磁性体ブロックMBにより中空状で円盤形状となった熱生成ディスク10が構成されている。
磁性体1については後に詳述するが、本実施形態では磁気熱量効果として磁気が印加されると発熱し磁気が除去されると吸熱する正の磁気熱量材料を用いている。そして、一つひとつの磁性体1は、それぞれが複数の磁気熱量材料によって構成されている。本実施形態では2つ磁気熱量材料により一つの磁性体1を構成している。
熱生成ディスク10の内周に沿って内周冷媒通路41が設けられている。内周冷媒通路41は内周端にある磁性体1と熱スイッチ部30aを介して隣接されている。この内周冷媒通路41は高温側熱交換器となるものである。
また、熱生成ディスク10の外周に沿って外周冷媒通路42が設けられている。外周冷媒通路42は外周端にある磁性体1と熱スイッチ部30aを介して隣接している。外周冷媒通路42は低温側熱交換器となるものである。
内周冷媒通路41(高温側熱交換器)に流す冷媒を内周冷媒、外周冷媒通路42(低温側熱交換器)に流す冷媒を外周冷媒と称する。
磁性体1、熱スイッチ部30aおよび30b、内周冷媒通路41、および外周冷媒通路42は、磁性体基板11上に固定されている(図2参照)。
このような内周冷媒通路41と外周冷媒通路42の配置とすることで、一つひとつの磁性体ブロックMBによって生成される熱による温度差が最も大きくなる磁性体ブロックの内周端と外周端に冷媒を流すことができるようになる。
熱生成ディスク10は、図2に示したように、磁性体基板11の内周端において内周冷媒通路41ごと回転軸60に対してボールベアリングなどの回転支持部材51を介して回転軸60の回転を妨げないように支持されている。一方、熱生成ディスク10の磁性体基板11外周端は外周冷媒通路42ごとハウジング50に固定されている。
熱生成ディスク10の上下には、図2に示したように、磁気印加ディスク20が配置されている。図4を参照して磁気印加ディスク20を説明する。磁気印加ディスク20上には、複数の磁石2が設けられている。各磁石2は、複数の磁性体1の半径方向一つおきに対峙するとともに、円周方向にも磁性体1に対して一つおきに対峙するように配置されている。このため磁気印加ディスク20が熱生成ディスク10に対して相対的に回転して30度進むごとに、磁気が印加される磁性体1が次々に切り替わって行くことになる。各磁石2は磁石基板21上に固定されている。
また、磁気印加ディスク20は、図2に示すように、磁性体1と磁石2の間に隙間がある。磁気印加ディスク20は中空状であり、その内周端は回転軸60に固定されている。一方、磁気印加ディスク20の外周端はハウジング50との間に隙間があり、熱生成ディスク10の外周部(おおむね外周冷媒通路42部分)において、ボールベアリングなどの回転支持部材52を介して回転自在に支持されている。これにより磁気印加ディスク20は回転軸60の回転によって、熱生成ディスク10に対して相対的に回転することができるようになっている。
熱生成ディスク10と、熱生成ディスク10に対して図示上下側に配置された磁気印加ディスク20が1セットとなって一つの層を形成している。このようなセット(層)が、図2に示したように、複数積層されている。積層方向中間部分にある磁気印加ディスク20は、図2に示したように、磁気印加ディスク20の一方側の磁性体1と対峙する磁石2を保持するとともに、他方の側の磁性体1と対峙する磁石2を保持している。そして、一方側の磁性体1に対峙する磁石2の位置と、他方の側の磁性体1に対峙する磁石2の位置が、磁気印加ディスク20の回転方向に30度ずれた配置となるようにしている。なお、積層方向の端にある磁気印加ディスク20は、図2に示したように、磁性体1と対峙する磁石2を保持している。
1セットとなった熱生成ディスク10と磁気印加ディスク20の積層数は任意であり、積層数を多くすることで、冷媒の流速が同じであれば、磁気冷暖房装置全体に流すことのできる冷媒の量を多くすることができる。
[熱交換器]
内周冷媒通路および外周冷媒通路について説明する。
内周冷媒通路41は高温側熱交換器となるものである。内周冷媒通路41は熱生成ディスク10のもっとも内周側に位置した磁性体1と熱スイッチ部30aを介して隣接している。内周冷媒通路41は、図3に示したように、熱生成ディスク10の内周に沿って2つの通路が設けられている。このために円周方向において2か所に仕切り板41aが設けられている。これにより2本の内周冷媒通路41内を流れる冷媒(流体)は互いに混じることなく、熱生成ディスク10の直径方向の一方端から入り、内周に沿って流れて半周したところで直径方向の他方端から出るように流れる。
外周冷媒通路42は低温側熱交換器となるものである。外周冷媒通路42は熱生成ディスク10のもっとも外周側に位置した磁性体1と熱スイッチ部30aを介して隣接している。外周冷媒通路42は、図3に示したように、熱生成ディスク10の内周に沿って2つの通路が設けられている。このために円周方向において2か所に仕切り板42aが設けられている。これにより2本の外周冷媒通路42内を流れる冷媒(流体)は互いに混じることなく、熱生成ディスク10の直径方向の一方端から入り、外周に沿って流れて半周したところで直径方向の他方端から出るように流れる。
2つの内周冷媒通路41を仕切る仕切り板41aと、2つの外周冷媒通路42を仕切る仕切り板42aとは、熱生成ディスク10の円周方向において同じ位置にある。これにより内周冷媒通路41の内周冷媒出入口45と、外周冷媒通路42の外周冷媒出入口46とがほぼ同じ位置で隣り合うように配置することができる。このような配置とすることで、後述するように、内周冷媒と外周冷媒が交差することなく流すことができる。そして、それらの流れを同じ方向とする平流方式と、互いに逆方向とする向流方式にすることができる。
図5は内周冷媒通路および外周冷媒通路に通じている冷媒出入口を説明するための図であり、図5Aは図3におけるA−A線に沿う切断部端面図であり、図5Bは図3におけるB−B線に沿う切断部端面図である。なお、図5においては一つの熱生成ディスク10のみ示したが、他の熱生成ディスク10も同様である。
図5Aに示すように、内周冷媒出入口45と外周冷媒出入口46は、熱生成ディスク10の外周端において隣り合うように設けられている。内周冷媒出入口45は、磁性体ブロックMBの間を通って内周冷媒通路41に接続されている(図3参照)。また、外周冷媒通路42は図5Bから分かるように外壁42bにより外周冷媒が取るための通路が形成されている。図示しないが内周冷媒通路41も同様に外壁により形成されている。
各冷媒出入口45、46はパイプ状(円筒)部材である。しかし、各冷媒出入口45、46はパイプ形状に限らず、矩形状などであってもよい。
このように磁性体ブロックMBの内周と外周にそれぞれ沿うように冷媒を流す内周冷媒通路41および外周冷媒通路42を設けたことで、複数の熱生成ディスク10を積層した場合に、各冷媒通路が層を跨がることがなくなる。このため層を跨る配管による余分な体積の増加がなく冷暖房装置全体としてコンパクトにすることができる。
ここで本実施形態1の磁気冷暖房装置500は、内周冷媒の出口温度は、外周冷媒の出口温度より高くなるように構成している。このため各磁性体ブロックMBにおいて内周側が高温、外周側が低温となるように熱輸送しているのである。ここでいう低温、高温とは、相対的に内周側が外周側よりも高温(逆にいうと外周側が内周側よりも低温)という意味である。
内周冷媒および外周冷媒を流す方向について説明する。図6および7は、内周冷媒および外周冷媒を流す方向について説明するための説明図である。図中の矢印が例場合の流れる方向である。なお、図6および7においては熱生成ディスク10のみを示した。また、図中「MB1」〜「MB6」は磁性体ブロックMBを識別するための符号であり、12個の磁性体ブロックMBにおいて図示左右対称となるように付した。
内周冷媒および外周冷媒を流す方向は、図6に示すように共に同じ方向に流す並流方式と、図7に示すように互いに逆方向に流す向流方式とがある。本実施形態1では、いずれの方式においても、内周冷媒通路41が高温側熱交換器、外周冷媒通路42が低温側熱交換器である。
並流方式は、図6に示すように、熱生成ディスク10の直径方向のA側(こちらを一端側とする)にある内周冷媒出入口45と外周冷媒出入口46からそれぞれの冷媒を入力する。そして直径方向のA側とは反対のB側(他端側)にある内周冷媒出入口45と外周冷媒出入口46からそれぞれの冷媒を出力するものである。したがって、平流方式においては、内周冷媒、外周冷媒共にA側からB側へ流すことになる。
このため内周冷媒はA側から入って磁性体ブロックMB1〜MB6の熱を奪って暖かくなってB側から放出される。外周冷媒はA側から入って磁性体ブロックMB1〜MB6により冷やされてB側から放出される。
向流方式は、図7に示すように、外周冷媒は、熱生成ディスク10の直径方向のA側((一端側)から入力してB側(他端側)から出力する。一方、内周冷媒は、B側(他端側)から入力してA側(一端側)から出力する。したがって、向流方式においては、外周冷媒はA側から入って磁性体ブロックMB1〜MB6により冷やされてB側から放出される。内周冷媒はB側から入って磁性体ブロックMB6〜MB1の熱を奪って暖かくなってA側から放出される。
図8は、内周冷媒通路が高温側熱交換器、外周冷媒通路が低温側熱交換器とした場合における内周冷媒と外周冷媒のそれぞれの温度変化の仕方を説明するためのグラフであり、図8Aは平流方式のときのグラフであり、図8Bは向流方式のときのグラフである。これらグラフにおいて横軸は図6および7におけるA側からB側までの位置を示し、縦軸は温度を示す。
各グラフにおいて、内周冷媒および外周冷媒は、入口での温度が同じであり、ここではTbであるとする。また、グラフ中のMB1〜MB6は各磁性体ブロック(図6および7参照)と温度の関係を示している。
並流方式は、図8Aに示すように、内周冷媒が入口温度Tbから出口温度Thにまで温度が上昇する。この温度変化を+ΔT(=Th−Tb)とする。この+ΔTはたとえば30Kである。一方、外周冷媒は入口温度Tbから出口温度Tcまで温度が下降する。この温度変化を−ΔT(=Tc−Tb)とする。この−ΔTはたとえば30Kである。これにより、内周冷媒通路41の出口における内周冷媒温度Thの方が外周冷媒通路42の出口における外周冷媒温度Tcより高い温度となる。
図8Aのグラフからわかるように、並流方式では、磁性体ブロックMB1においては、内周冷媒と外周冷媒の温度差がほとんど少ないが、磁性体ブロックMB6に行くほどこの温度差が大きくなっている。したがって、磁性体ブロックMB1は冷却(または加熱)する温度は少なくてもよいが、磁性体ブロックMB6では2×ΔTに相当する温度を冷却(または加熱)しなければならないことになる。
向流方式は、図8Bに示すように、内周冷媒が入口温度Tbから出口温度Thにまで温度が上昇する。この温度変化を+ΔT(=Th−Tb)とする。この+ΔTはたとえば30Kである。一方、外周冷媒は入口温度Tbから出口温度Tcまで温度が下降する。この温度変化を−ΔT(=Tc−Tb)とする。この−ΔTはたとえば30Kである。これにより、内周冷媒通路41の出口における内周冷媒温度Thの方が外周冷媒通路42の出口における外周冷媒温度Tcより高い温度となる。
そして図8Bのグラフからわかるように、向流方式では、磁性体ブロックMB1〜MB6はいずれも内周冷媒と外周冷媒の温度差に相当する温度範囲を冷却(または加熱)することになる。しかも磁性体ブロックMB1〜MB6はそれぞれがΔTに相当する温度を冷却(または加熱)すればよいことになる。
ここで、冷房効率の指標となるカルノーサイクルにおける成績係数(COP)を求める。COP=(T低温)/((T高温)−(T低温))である。式中(T高温)−(T低温)は、内周冷媒と外周冷媒における磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれの内周側と外周側の温度差である。
並流方式では、((T高温)−(T低温))は、最大2×ΔTということになる(MB6の内周側と外周側の温度差に相当する)。このことから並流方式の成績係数は、COP=Tc/(2×ΔT)となる。
一方、向流方式では、((T高温)−(T低温))はどの磁性体ブロックにおいてもΔTということなる。このことから向流方式の成績係数は、COP=Tc/ΔTとなる。したがって、向流方式の方が並流方式より2倍冷却効率がよいことになる。
[磁性体]
磁性体について説明する。
磁性体1は、磁気の移動(印加、除去)により温度変化する磁気熱量材料を用いている。一つひとつの磁性体1は、少なくとも2つの磁気熱量材料によって構成されている。
磁気熱量材料は、磁気を移動させたときに変化する温度範囲が決まっている。この変化する温度範囲を作動温度という。作動温度は、磁気熱量材料が持つキュリー点に対応している。したがって、磁気熱量材料のキュリー点を、運転中にその磁性体が担う温度とすることで最も効率よく温度変化させることができる。
キュリー点は磁気熱量材料を構成する材料によって決まってくる。磁気熱量材料を構成する具体的な材料としては、たとえば、公知のLaFeSiHを用いることができる。LaFeSiHは、その組成中の水素の量の変化で、キュリー点を変えることができる(たとえば参考文献1“Large magnetocaloric effects and thermal transport properties of La(FeSi)13 and their hydrides” K. Fukamichiら Journal of Alloys and Compounds 408−412 (2006) p.307−312)。また、同様に、一般式:La(Fe1-xMx)13Hz(Mは、Si、Alからなるグループ中から選択された1種または2種以上の元素であり、xおよびzの値は、それぞれ、0.05≦x≦0.2;0.3≦z≦3;で規定される)であらわされる磁気熱量材料(特開2003−96547号公報)でも、前述したキュリー点を変えることができる。
本実施形態では、磁性体1の内部の温度分布に対応して、それぞれの磁性体を構成する各磁気熱量材料のキュリー点を変えている。
まず並流方式の場合について説明する。
図9は並流方式の場合の一つの磁性体ブロックにおける磁性体を説明するための説明図である。ここで図9Aは一つの磁性体ブロックMBの概略平面図であり、図9Bは図9A中の矢視Aから見た概略側面図である。なお、図9においては、一つの磁性体ブロックMBを構成する複数の磁性体のそれぞれを区別するために内周側から外周側方向へa〜l(小文字のエル)の符号を付した。そして、一つひとつの磁性体を構成する磁気熱量材料は、内周側を1、外周側を2とする添え字を付した。すなわち、内周側から順にa1およびa2、b1およびb2、…l1およびl2とした。
また、図10は、一つの磁性体ブロックMBにおける磁性体a〜lをそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点を示すグラフである。
図9に示すように、一つの磁性体ブロックMBを構成する磁性体a〜lは、それぞれが2つの磁気熱量材料a1およびa2、b1およびb2、…l1およびl2よりなる。
そして図10に示すように、それぞれの磁性体内の2つの磁気熱量材料のキュリー点は、それぞれ内周側である内周冷媒通路41(高温側熱交換器側、すなわち高温側)側に位置するa1、b1、…l1が低く、外周冷媒通路42(低温側熱交換器側、すなわち低温側)側に位置するa2、b2、…l2が高い。なお、ここで、高い低いとは、相対的なキュリー点の高低である。また、グラフのピークがキュリー点温度である。このキュリー点(ピーク)から広がる裾野の範囲がおおむね温度変化する作動温度範囲となるが、最も大きく温度変化する温度はキュリー点付近である。
一方、複数の磁性体a〜lを見れば、各磁性体a〜lを構成する2つの磁気熱量材料a1およびa2、b1およびb2、…l1およびl2のそれぞれのキュリー点の平均値が外周冷媒通路42(低温側熱交換器)から内周冷媒通路41(高温側熱交換器)へ高くなるようにしている。図中の点線が平均値を結ぶ線である。つまり、磁気熱量材料a1およびa2のキュリー点の平均値、b1およびb2のキュリー点の平均値、…、l1およびl2のキュリー点の平均値は、高温側に行くほど高いのである。
したがってこれらをまとめると、磁性体a〜lとしての作動温度は低温側から高温側へ高くなっていて、かつ、一つひとつの磁性体内ではそれぞれを構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点が高温側に位置するものの方が低いのである。
このようなキュリー点を持つ磁気熱量材料の配置としたことの作用を説明する。図11は、磁性体の温度分布を説明するための説明図であり、図11Aは2つの磁性体が接続されているモデル図、図11Bは、磁性体の温度分布を示す図である。
図11Aに示したモデルでは、磁性体AおよびBはいずれも単一の磁気熱量材料からなる。図中左側に低温熱交換器、右側に高温熱交換器側が接続されている。したがって、この図では左側ほど低温となる。また、このモデルでは、磁性体AおよびBの上下を挟むように磁石を配置して、この磁石の移動により磁性体AおよびBに対して、交互に磁気の印加(励磁)、除去(消磁)を行うものとしている。
このようなモデルにおいて、磁性体AおよびBをそれぞれ交互に磁気の印加(励磁)、除去(消磁)を行うと、それぞれに発熱と吸熱が起こる。それらの温度変化は、図11Bに示すように、磁性体Aの温度は励磁によりATLからATHに変化し、消磁によりATHからATLに変化する。同様に磁性体Bの温度は励磁によりBTLからBTHに変化し、消磁によりBTHからBTLに変化する。そして、磁性体AおよびBの平均温度は、相対的に高温側に位置する磁性体Bの方が高くなっている。
しかし個別の磁性体内の温度分布をみると、いずれも低温側の方が高温側より高くなっていることが分かったのである。
図11Aで示した2つの磁性体内部の温度変化をシミュレーションにより検討した。図12は、図11Aで示したモデルにおいて、2つの磁性体内部の温度変化を調べたシミュレーションによる温度グラフである。
このシミュレーションでは、はじめ磁性体A側に磁石があり、磁石を磁性体B側に移動させる。そしてこの磁石の移動に伴う各磁性体AおよびBそれぞれの左側、中央、右側の温度をシミュレーションにより検証した。なお、図11Aに示したモデルのとおり、2つの磁性体はいずれも単一の磁気熱量材料からなる。また、図11Aに示したとおり2つの磁性体のさらに左の方に低温熱交換器、右の方に高温熱交換器が配置されている。したがってこのモデルによる装置全体としては、低温熱交換器(低温側)のある左側が、高温熱交換器(高温側)のある右側より相対的に低温である。
図12に示したように、はじめのうち(サイクルタイム約1〜6(秒))、磁性体Aは磁気が印加されているため全体としての温度は、磁気が印加されていない磁性体Bよりも高くなる。このとき磁性体A内部の温度は左側が右側より高い。磁性体Bの内部温度も同様に左側が右側より高い。
続いて磁石が移動して磁性体B側へ移る(サイクルタイム約7〜12(秒))。そうすると、磁性体Aは磁気の印加がなくなるため温度が下がり、磁性体Bは磁気が印加されるため温度が上がる。このときも各磁性体AおよびBの内部温度は、いずれも左側が右側より高い。
つまり、磁石による磁気印加の有無にかかわらず、一つひとつの磁性体内部においては、装置全体の低温側(左側)に位置する側が、高温側(右側)に位置する側よりも、常に温度が高いのである(すなわち図11Bに示したとおりである)。すなわち、磁性体内部の温度分布の傾向は、装置全体の温度傾向と逆になっているのである。
このような磁性体内部の温度変化は、磁気エントロピーの変化によるものである。そしてこのシミュレーションでは、一つの磁性体(単一の磁気熱量材料)内部において、左側と右側で約2℃の違いがある。この2℃の違いは、磁気エントロピー変化量としては、50%以上変わることになる。
ここで磁性体のエントロピー変化量を見積もった。ここでは装置全体としての高温側に位置する右側の温度を、その磁性体における作動温度範囲の中央値とした。この場合、一つの磁性体内において、右側(高温側)は、そのエントロピー変化量は最大100%となる。しかし、右側よりも温度が2℃低い左側(低温側)ではエントロピー変化量は、最大の50%程度となってしまう。また、中央部分でのエントロピー変化量は最大の80%程度となる。したがってこの場合は、一つの磁性体としての平均エントロピー変化量は最大の77%となる。
これに対して、磁性体内部を2つ楼域、すなわち、左側と右側の領域に区切り、それぞれの側に適した作動温度範囲となる2つ磁気熱量材料を使用した場合のエントロピー変化量を見積もった。つまり各磁性体内の各部位ごとの平均温度に対応した作動温度範囲の磁気熱量材料を用いたのである。このようにした場合、左側も右側も常に最適な温度変化範囲となるため、それぞれの側で100%のエントロピー変化量を望むことができる。そうすると、磁性体内の一つの磁気熱量材料で構成した場合よりも磁気熱量効果によるエントロピー変化量が約30%も大きくなる。したがって、装置全体としても冷暖房能力を30%程度向上することできるようになる。
以上のことから、本実施形態は、一つの磁性体内を複数に分割して、分割部分ごとに適した温度変化が起こる磁気熱量材料を用いることしたのである。つまり、既に説明したように、一つひとつの磁性体を2つの磁気熱量材料により構成して、低温熱交換器側(低温側)の磁気熱量材料のキュリー点が高温熱交換機側(高温側)より高くなるようにしているのである。
そして、好ましくは、それぞれの磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値は、それぞれの磁性体が担う作動温度の中間温度と一致することである。これにより、一つひとつの磁性体を、磁気熱量効果を発現する1個の磁性体として見た場合でも、一つの磁性体が担う温度範囲を確実に2つの磁気熱量材料の組み合わせでもっとも効率的に作動させることができる。
なお、2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値と、それぞれの磁性体が担う作動温度の中間温度とはずれてもよい。これは、キュリー点として説明したグラフ(たとえば図10)のように、磁気熱量材料が作動する温度範囲はキュリー点となる温度を中心として幅がある(それぞれの山形の波形の裾野の範囲)。この幅の範囲内であれば、効率的に磁気熱量効果を発揮できる。したがって、2つの磁気熱量材料の組み合わせた波形の範囲に、その2つの磁気熱量材料により構成された磁性体が担う温度範囲が入っていれば、キュリー点の平均値と、磁性体が担う作動温度の中間温度とがずれてもよいのである。
このように一つひとつの磁性体内の温度分布に合わせてきめ細かくキュリー点を設定した複数の磁気熱量材料を用いることで、効率よく冷暖房を行うことができるようになる。
次に、熱生成ディスク全体における各磁性体の温度変化範囲について説明する。
図13は並流方式の場合における各磁性体ブロックを構成する複数の磁性体において、それぞれの磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値を示すグラフであり、横軸は低温側温度Tcから高温側温度Thまでの温度であり、縦軸は各磁気熱量材料が変化する温度の平均値である。図13におけるa〜l(小文字のエル)は図9で各磁性体に付した符号に対応する(内周側がa、外周側がl(小文字のエル)である)。また、グラフ中の山形の複数の曲線のそれぞれのピークが、それぞれの磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値である。
図13に示したように、並流方式の場合は、片側6個の磁性体ブロックMB1〜MB6は全て、それぞれの磁性体a〜lを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値が外周側(l)から内周側(a)へ高くなるようにしている。これは、本実施形態においては内周冷媒が外周冷媒と比較して相対的に高温になるからである。磁性体a〜lを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値をこのようにすることで、熱生成ディスク10全体として最適な磁気熱量効果を得られるようになる。しかも並流方式の場合は、冷媒の入口側と出口側とで磁性体ブロックMBの内周側と外周側の温度差が異なるので、最も温度差が大きくなる出口における温度差2×ΔTに合わせて、各磁性体ブロックMBを構成する複数の磁気熱量材料のキュリー点を設定した。これにより熱生成ディスク10を構成する複数の磁性体ブロックMBは、磁性体a〜lが同じ構成となった磁性体ブロックを環状に12個並列に並べている。このため後述する向流方式と対比すれば熱生成ディスク10を製造する際のコストを低減することができる。
次に向流方式の場合について説明する。
向流方式の場合は、一つの磁性体ブロックMBにおいて内周側と外周側との温度差は、すべての磁性体ブロックMBで同じであり、既に説明したように(図8B)、ΔTに相当する温度差を得られればよい(ただし各磁性体ブロックが担う温度領域が異なる(後述))。そして、このΔTが最大温度差である。
ここで一つひとつの磁性体が担う温度差が並流方式と同じであると仮定する。並流方式では12個の磁性体を用いて一つの磁性体ブロックMBを構成して、2×ΔTの温度差となるようにしていた。これが向流方式の場合は磁性体ブロックの内周側と外周側でΔTの温度差が得られればよいのであるから、一つの磁性体ブロックを6個の磁性体で構成すればよいことになる。このことは先に説明したCOPが向流方式では並流方式の2倍あることからもわかる。
一つの磁性体ブロックにおける各磁性体の構成を説明する。図14は、向流方式の場合の一つの磁性体ブロックにおける磁性体を説明するための説明図である。ここで図14Aは一つの磁性体ブロックMBの概略平面図であり、図14Bは図14A中の矢視Aから見た概略側面図である。なお、図14においては、一つの磁性体ブロックMBを構成する複数の磁性体のそれぞれを区別するために内周側から外周側方向へa〜fの符号を付した。そして、一つひとつの磁性体をそれぞれ構成する磁気熱量材料は、内周側を1、外周側を2とする添え字を付した。すなわち、内周側から順に、a1およびa2、b1およびb2、…f1およびf2とした。
また、図15は、一つの磁性体ブロックにおける磁性体をそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点を示すグラフである。
向流方式においても、一つの磁性体ブロックMBを構成する一つひとつの磁性体a〜fは、図14に示すように、それぞれ2つの磁気熱量材料a1およびa2、b1およびb2、…f1およびf2によって構成されている。
そして、図15に示すように、それぞれ内周冷媒通路41(高温側熱交換器、すなわち高温側)側に位置するa1、b1、…f1が低く、外周冷媒通路42(低温側熱交換器、すなわち低温側)側に位置するa2、b2、…f2が高い。その理由は、並流方式において既に説明した通りである(特に図11および12参照)。また、磁気熱量材料a1およびa2のキュリー点の平均値、b1およびb2のキュリー点の平均値、…f1およびf2のキュリー点の平均値は、高温側に行くほど高くなるようにしている。
次に向流方式の場合の一つの熱生成ディスク全体の磁性体の並びを説明する。図16は向流方式の場合における各磁性体ブロックを構成する複数の磁性体をそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値を示すグラフであり、横軸は低温側温度Tcから高温側温度Thまでの温度であり、縦軸は各磁気熱量材料が変化する温度である。図16におけるa〜fは、図14で各磁気熱量材料に付した符号に対応する。また、グラフ中の山形の複数の曲線のそれぞれのピークがキュリー点の平均値である。
図16に示すように、向流方式の場合も並流方式と同様に、各磁性体ブロックMB1〜MB6を構成するそれぞれの複数の磁性体a〜fは、各磁性体を構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値が外周側(f)から内周側(a)へ高くなるようにしている。そして向流方式の場合はさらに片側6個の磁性体ブロックMB1〜6のそれぞれが冷媒の温度変化域に対応して、異なる温度領域を担うようになっている。つまり、図8Bに示したように磁性体ブロックMB1〜MB6の温度が異なることから、それに合わせて磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれが担う温度領域を変えているのである。このため向流方式では、一つひとつの磁性体ブロック中にある複数の磁性体を構成するそれぞれの磁気熱量材料のキュリー点の平均値が、磁性体ブロックMB1〜MB6方向に低くなるようにしている。つまり、各磁気ブロックMB1〜MB6を構成する磁性体を構成するすべての磁気熱量材料のキュリー点の平均値が、外周冷媒を基準としても、内周冷媒を基準としても、それらの入口から出口の方向に段階的に変化しているのである。
またこのことは、各磁気ブロックMB1〜MB6における外周側に位置する磁性体aを見れば、それを構成する磁気熱量材料a1およびa2のキュリー点の平均値は外周冷媒の入口側(A側、すなわちMB1側)が高く、出口側(B側、すなわちMB6側)が低くなるように配置されていることになる。また、内周側に位置する磁性体fを見れば、それを構成する磁気熱量材料f1およびf2のキュリー点は内周冷媒の入口側(B側、すなわちMB6側)が低く、出口側(A側、すなわちMB1側)が高くなるように配置されていることになる。
このように向流方向においては、各磁気ブロックMB1〜MB6を構成する磁性体a〜fは外周側(低温側)から内周側(高温側)へ、段階的に磁性体a〜fを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値が変化するようにしているのである。さらに、各磁気ブロックMB1〜MB6を構成する磁性体a〜f全体のキュリー点の平均値(すなわち磁性体a〜fに含まれるすべての磁気熱量材料のキュリー点の平均値)は、冷媒の入口から出口の方向に段階的に変化しているものとなっているのである。
これにより向流方式においては、磁気冷暖房装置500として必要な温度差を平流方式と比較して、より少ない数の磁気熱量材料で得ることができる。
もちろん、向流方式においても、一つひとつの磁性体ブロックMBを構成する磁性体1の数を12個としてもよい。その場合には、冷媒出口側における内周冷媒と外周冷媒の温度差を平流方式の約倍の温度差にすることができる。
なお、一つひとつの磁性体ブロックを構成する磁性体の数を6個とした場合の装置全体の構成については図示していないが、既に説明した12個とした場合と同じである。
[熱スイッチ部]
次に熱スイッチ部について説明する。
熱スイッチ部30aおよび30bは、一つの磁性体ブロックMB内において、内周冷媒通路41と磁性体1の間、隣接する磁性体1同士の間、磁性体1と外周冷媒通路42の間に配置されていて、これらの間の熱の伝達、遮断を行う熱伝達部である。この熱スイッチ部30aおよび30bについては、様々な形態がある。
<熱スイッチ部の形態1>
図17は熱スイッチ部の形態1を説明するための説明図である(図においては途中の磁性体1を省略した)。
熱スイッチ部の形態1は、熱スイッチ部30aおよび30bとして磁気の印加、除去によって絶縁体、金属に相転移する転移体を使用した例である。
熱スイッチ部の形態1は、図17に示すように、磁性体1の両面に熱スイッチ部30aと30bが配置されている。熱スイッチ部30a、30bは、磁性体1の対向する両面に接合または接着によって一体化する。熱スイッチ部30aの磁性体1がない存在しない側には内周冷媒通路41が接合または接着されることになる。熱スイッチ部30bは、その両側とも磁性体1が接合または接着されることになる。そして同様に磁性体1の数だけ熱スイッチ部30a、30bが設けられて、最後に外周冷媒通路42が熱スイッチ部30aに接合または接着される。
(熱スイッチ部30aの動作)
熱スイッチ部30aおよび30bとして用いた転移体は、たとえば9テスラ程度の磁気が印加されると、印加される前よりも熱伝導率が大きくなる。熱伝導率の大きさの変化は、100倍から3000倍の範囲である。したがって、熱スイッチ部30aおよび30bは、磁気が印加されなければ熱伝導率は極めて小さくなり、接続されている内周冷媒通路41と磁性体1の間、磁性体1同士の間、磁性体1と外周冷媒通路42の間でそれぞれ熱を伝導しない。一方、熱スイッチ部30aおよび30bに磁気が除去されると熱伝導率が極めて大きくなって、内周冷媒通路41と磁性体1の間、磁性体1同士の間、磁性体1と外周冷媒通路42の間でそれぞれ熱を伝導する。熱スイッチ部30aおよび30bへの磁気の印加、除去は、磁石2によって行えばよい。
転移体は、少なくとも1種類以上の電荷整列絶縁体を含む。したがって、転移体に磁気を印加すると金属に相転移して熱伝導率が相対的に大きくなる。また、転移体から磁気を除去すると絶縁体に相転移して熱伝導率が相対的に小さくなる。したがって、このような転移体を含む熱スイッチ部30aおよび30bに対して、一方に磁気を印加するとき、他方は磁気を印加しないようにすることで、互いに逆の状態、すなわち一方が熱伝導であれば他方は断熱状態にすることができる。
磁気を印加することで絶縁体から金属に相転移するメカニズムを解明する研究の結果によれば、次のような報告がなされた。
遷移金属の酸化物の中には、大量の電子が存在し電子間の相関が強い物質であるために、電子同士が反発し合い局在化した、電荷整列絶縁体という絶縁体が多く存在している。電荷整列絶縁体では、電子のスピンや軌道など、電荷以外の電子の持つ性質(自由度)に直接作用する外場が、電荷整列絶縁体という絶縁体を金属に相変化させる。特に、磁気が電子のスピンに作用すると、局在している大量の電子を雪崩のように動かし、絶縁体を金属に相変化させる。報告によると、ネオジウムストロンチウムマンガン酸化物を用いた場合、温度10K(−236℃)2.4テスラの磁気では電気抵抗率が500Ωmと高い絶縁体状態であったが、9テスラの磁気では電気抵抗率が0.2Ωmと4桁ほど減少したことが示された。本実施形態の熱スイッチ部30aはこの現象を積極的に利用して、磁気冷暖房装置500を構成している。なお、本実施形態では、磁気を印加すると金属化する電荷整列絶縁体として、Gd0.55Sr0.45MnO、Pr0.5Ca0.5MnO3を用いる。
このように、熱スイッチ部30aおよび30bを、電荷整列絶縁体を含む転移体で形成すると、磁気の印加、除去によって、熱伝導率の大きさを大きく変えることができ、熱スイッチ部30aおよび30bとして機能させることができる。このような熱伝導率が変化する熱スイッチ部30aおよび30bを用いることで、隣接する磁性体1への磁石2による磁気の印加、除去と同時に、これら熱スイッチ部30aおよび30bへも磁気の印加、除去を行うことができる。
<熱スイッチ部の形態2>
図18は熱スイッチ部の形態2を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態2に係る熱スイッチ部30aおよび30bは、電圧の印加、除去により金属状態と絶縁状態に変化する相転移体を使用した例である。
熱スイッチ部の形態2に係る熱スイッチ部30aおよび30bは同じ形態であり、電極31Aおよび31Bと、これら電極31Aおよび31Bの間に取り付ける金属/絶縁相転移体32とによって構成される。電極31Aの一方の面は磁性体1の一方の面に接合または接着によって取り付ける。電極31Bの一方の面は他の磁性体1の一方の面に接合または接着によって取り付ける。したがって、熱スイッチ部30aおよび30bは、複数の磁性体1と電極31Aおよび31Bと介して一体化されることになる。なお、内周冷媒通路41と磁性体1の間、および磁性体1と外周冷媒通路42と間においても同様に熱スイッチ部30aが接合または接着されて一体化される。
電極31A、31Bは導電性の良好な、たとえばアルミニウムや銅などの金属(金属単体または合金でもよい)を用いる。磁性体1の間では電極31Aと31Bを介して熱が伝導するので、電極31Aと31Bは熱伝導率のより大きい金属を用いることが好ましい。
電極31A、31Bを磁性体1および金属/絶縁相転移体32に接着する接着剤は、熱伝導率の大きいものを用いる。たとえば、接着剤に金属粉を接着性が妨げられない程度に混ぜ込んだ熱伝導性を改善した接着剤を用いる。
金属/絶縁相転移体32は、電圧を印加すると絶縁体から金属に相転移し、熱伝導率が大きくなり、逆に、電圧を遮断すると金属から絶縁体に相転移し、熱伝導率が小さくなる性質を持つものである。金属と絶縁体の相互間の相転移を示す絶縁体は、無機酸化物モット絶縁体または有機モット絶縁体がある。無機酸化物モット絶縁体は少なくとも遷移金属元素を含む。モット絶縁体としては、LaTiO3、SrRuO4、BEDT−TTF(TCNQ)が知られている。金属と絶縁体の相互間の相転移が可能なデバイスとして現在知られているものは、ZnO単結晶薄膜電気二重層FET、TMTSF/TCNQ積層型FET素子がある。熱は、熱電子および格子結晶によって移送することができる。ZnO単結晶薄膜電気二重層FETおよびTMTSF/TCNQ積層型FET素子は、電圧を印加すると熱電子が活発に移動するようになる性質を利用する。ここでは、金属/絶縁相転移体32に、少なくとも遷移金属元素を含む無機酸化物モット絶縁体、有機モット絶縁体、ZnO単結晶薄膜電気二重層FET、TMTSF/TCNQ積層型FET素子など、電圧の印加除去によって熱伝導率が大きく変化するものを用いる。
図18に示すように、電極31Aと31Bとの間に直流電圧Vを印加すると、金属/絶縁相転移体32の熱伝導率が相対的に大きくなって、磁性体1と各冷媒通路41および42の間および磁性体1間で熱の移動が起こる。一方、電極31Aと31Bとの間の直流電圧Vを除去すると、金属/絶縁相転移体32の熱伝導率が相対的に小さくなって、磁性体1と各冷媒通路41および42の間および磁性体1間の熱の移動が阻止される。したがって、熱スイッチ部30aおよび30bは、電圧の印加、除去によって熱の移動を制御する熱スイッチ部となる。
このように熱スイッチ部30aおよび30bの熱伝導の断続は、電極31Aと31Bに電圧を印加、除去することによってできる。電極31Aと31Bを設けることで、金属/絶縁相転移体32に容易に電圧を印加することができる。また、金属/絶縁相転移体32に、少なくとも遷移金属元素を含む無機酸化物モット絶縁体、有機モット絶縁体、ZnO単結晶薄膜電気二重層FET、TMTSF/TCNQ積層型FET素子を用いると、熱伝導率の変化の応答性が良好になる。
この様な形態の熱スイッチ部30aおよび30bは磁性体1との並び方向にのみ熱を輸送できるため、熱的な損失が小さくできる。熱スイッチ部30aおよび30bは、電圧の印加、除去に応じて、磁性体1間をすべての接触面を使って接続できるので、熱輸送能力および熱輸送効率を向上させることができる。
<熱スイッチ部の形態3>
図19は熱スイッチ部の形態3を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態3に係る熱スイッチ部30aおよび30bは、熱スイッチ部の形態2で説明した熱スイッチ部30aおよび30bに、さらに補助電極33A、33Bを追加している。その他の構成および動作は熱スイッチ部の形態2と同様である。
補助電極33Aと33Bは、金属/絶縁相転移体32に接合または接着によって取り付ける。補助電極33Aと33Bは熱伝導性を考慮しなくてもよい。また補助電極33Aと33Bを金属/絶縁相転移体32に接着する接着剤も熱伝導性を考慮しなくてもよい。補助電極33Aと33Bと接着剤には、熱電子が通過しないからである。
補助電極33Aと33Bは、電極31Aと31Bに対して、直交方向に電圧を印加する。補助電極33Aと33Bとの間に直流電圧を印加すると、金属/絶縁相転移体32内の電子の分布が補助電極33Aと33Bの方向に偏る。このため、磁性体1との間を移動する熱電子の抵抗が減少し、熱電子が移動しやすくなる。つまり、補助電極33Aと33Bを設けることで、金属/絶縁相転移体32の熱伝導率をより大きくすることができる。
<熱スイッチ部の形態4>
図20は熱スイッチ部の形態4を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態4に係る熱スイッチ部30aおよび30bには、電極31Aと31Bを、金属/絶縁相転移体32と磁性体1との間には設けずに、金属/絶縁相転移体32内を移動する熱電子の移動方向に対して直交する方向から電圧が印加できるように設けている。その他の構成および動作は熱スイッチ部の形態2と同様である。
したがって、金属/絶縁相転移体32は、磁性体1および各冷媒通路41および42に直接取り付ける。金属/絶縁相転移体32と磁性体1とは、接合または接着剤で取り付ける。このときに用いる接着剤は、熱伝導性の大きいものを用いる。
電極31Aと31Bは、金属/絶縁相転移体32に接合または接着によって取り付ける。電極31Aと31Bは熱伝導性を考慮しなくてもよい。また電極31Aと31Bを金属/絶縁相転移体32に接着する接着剤も熱伝導性を考慮しなくてもよい。電極31Aと31Bと接着剤には、熱電子が通過しないからである。
電極31Aと31Bは、金属/絶縁相転移体32内を移動する熱電子の移動方向に対して、直交方向に電圧を印加する。電極31Aと31Bとの間に直流電圧を印加すると、金属/絶縁相転移体32内の電子の分布が電極31Aと31Bの方向に偏って相転移する。このため、磁性体1との間を移動する熱電子の抵抗が減少し、熱電子が移動しやすくなる。
熱スイッチ部の形態2、3の場合には、熱電子の通過方向に電極31A、31Bが存在するので、熱電子にとっては電極31A、31Bが障害物となる。このため、電極31A、31Bの存在は熱伝導率を小さくする方向に働く。熱スイッチ部の形態4の場合には、金属/絶縁相転移体32を磁性体1に直接取り付けるので、電極31A、31Bの存在は熱伝導率を下げる方向には働かない。したがって、本形態に係る熱スイッチ部30aおよび30bの熱伝導率は、熱スイッチ部の形態2、3の場合と比較して、大きくなる。
<熱スイッチ部の形態5>
図21は熱スイッチ部の形態5を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態5に係る熱スイッチ部30a、30bは、金属/絶縁相転移体32を磁性体1に直接取り付け、磁性体1に直流電圧を印加できるようにしたものである。金属/絶縁相転移体32と磁性体1とは接合または接着剤で取り付ける。接着剤は熱伝導率の大きいものを用いる。その他の構成および動作は熱スイッチ部の形態2と同様である。
磁性体1を電極の代わりに用いると、構造が単純化され、また、部品点数の減少と製造工程の簡略化が図れる。また、熱スイッチ部の形態4の場合と同様に、熱スイッチ部30aおよび30bの熱伝導率は、熱スイッチ部の形態2、3の場合と比較して、大きくなる。
<熱スイッチ部の形態6>
図22は熱スイッチ部の形態6を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態6は、熱スイッチ部30aおよび30bに絶縁体34を追加している。具体的には、図22に示すように、熱電子の移動を妨げる絶縁体34を電極31Aと金属/絶縁相転移体32との間に設けている。図22では、図18の構成に絶縁体34を追加しているが、図19〜17の構成に対して絶縁体34を追加してもよい。その他の構成および動作は熱スイッチ部の形態2と同様である。
絶縁体34は、熱電子以外の電子の移動を阻止するために設ける。電極31Aと31Bとの間に直流電圧を印加すると、電極31Aと31Bとの間に電流が流れるが、本来移動してほしい熱電子に加え、熱輸送に関与しない電子を過剰に移動させてしまう可能性がある。この熱輸送に関与しない電子の過剰の移動を防ぐために、絶縁体34を金属/絶縁相転移体32に取り付けることによって、金属/絶縁相転移体32の熱伝導率の低下を防止できる。
<熱スイッチ部の形態7>
図23は熱スイッチ部の形態7を説明するための説明図である。
熱スイッチ部の形態7は、熱スイッチ部の形態4に係る図20の熱スイッチ部30aおよび30bに分極体35を追加している。具体的には、電極31Aと金属/絶縁相転移体32との間に熱電子の移動を促す分極体35を配置する。分極体35は、誘電体およびイオン性液体のうちの少なくとも1種類以上から形成する。その他の構成および動作は熱スイッチ部の形態4と同様である。
分極体35は、金属/絶縁相転移体32内を移動する電子を取り出したり、金属/絶縁相転移体32内に電子を注入したりする。このため、金属/絶縁相転移体32内の電子の分布状態が変化して、熱電子が流れやすくなる。分極体35を配置することで、金属/絶縁相転移体32の熱伝導率をより大きくすることができる。
<熱スイッチ部の形態8>
図24は熱スイッチ部の形態8における熱スイッチ部の構成を説明するための熱スイッチ部分の断面図である。図25は熱スイッチ部の形態8における熱スイッチ部の構成を説明するための熱スイッチ部分の平面図(図24の矢視Aの図)である。
本形態の熱スイッチ部30は、電気濡れ(エレクトロウェッティング)効果を利用したものである。
ここでは、磁性体1とそれに隣接する磁性体1’の間に設けられた熱スイッチ部30を例に説明する。なお、熱スイッチ部30は、これまでに説明した熱スイッチ部30aおよび30bとなるものである。
熱スイッチ部30は、磁性体1に接する第1電極構造体71と、磁性体1’に接する第2電極構造体81と、第1電極構造体71および第2電極構造体81の間の隙間90と、この隙間90に出し入れされる液体金属95とを有する。また、隙間90の一端には、液体金属95を収容する液溜まり77を有する。なお、隙間90において、液溜まり77を設けた一端の反対側の端部は開放端92となっている。
第1電極構造体71と第2電極構造体81は、同じ構造を有していて、隙間90を中心線とする対称構造である。第1電極構造体71は、磁性体1側から順に、第1電極72、誘電体73、第2電極74、撥液コート層75を有する。第2電極構造体81も同様に、磁性体1’側から順に、第1電極72、誘電体73、第2電極74、および撥液コート層75を有する。つまり、隙間90を中心としてみれば、第1電極構造体71も第2電極構造体81も、隙間90側から順に撥液コート層75、第2電極74、誘電体73、第1電極72となるように配置されているのである。
磁性体全体の下部には、下部基板76を有する。この下部基板76内に、隙間90に連通した液溜まり77を有している。
第2電極74は、液溜まり77内部にまで入っていて、液体金属95と電気的に導通することができるようになっている。一方、第1電極72は液溜まり77からは絶縁されている。すなわち、第1電極72は液体金属95と絶縁されているのである。
これにより、第1電極72と第2電極74は、その間にある誘電体73を介したキャパシター構造となっていて、これがそのまま液体金属95と第1電極72のキャパシターとして作用することになる(詳細後述)。
第1電極構造体71と第2電極構造体81の上部には、それぞれ第1および第2電極72、74から導かれた配線が形成される上部基板100を有する。上部基板100は、第1電極構造体71側と第2電極構造体81側とで、隙間90の延長によって分離、絶縁され、第1電極構造体71および第2電極構造体81と同様に隙間90によって対称な同じ構造である。上部基板100は、それぞれ第1電極72からの第1配線111と、第2電極74からの第2配線112が絶縁層113によって絶縁されている。第1および第2配線111および112は、この熱スイッチ部30を制御するために、磁気冷暖房装置500の制御装置(不図示)に接続されている。そして制御装置が、磁気の移動に同期して、この熱スイッチ部30による熱伝達状態と断熱状態を切り替えている。
以下さらにこの熱スイッチ部30各部を詳細に説明する。
第1電極72および第2電極74は、たとえば、銅、アルミニウムなど、導電性のものであれば、特に限定されない。第1電極72および第2電極74の形状はともに同じであり、隙間90の大きさ(隙間の間隔を除く)と一致する電極板となっている。
誘電体73は、第1電極72と第2電極74の間にあって、たとえば、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜など、誘電体73であれば特に限定されない。誘電体73の形状は第1電極72および第2電極74と同じ大きさであり、第1電極72と第2電極74が短絡しない形状となっている。
撥液コート層75は、液体金属95に対して撥液性を有する。また、撥液コート層75は、導電性であることが好ましい。このような撥液コート層75に用いる材料とは、たとえば、導電性酸化膜、導電性ガラス材、導電性セラミックス材、グラフェンなどが好ましい。
このように、撥液コート層75が液体金属95に対して撥液性となっていることで、電気を印加していない状態では、液体金属95が容易に液溜まり77内に収納されるようになる。また、導電性を有することで、第2電極74に流した電気を液体金属95に直接流すことができて効率がよい。また、第2電極74に電気を流して液体金属95を第1電極構造体71と第2電極構造体81の間の隙間90に充填する際に、液溜まり77内を空にできるので、液体金属95使用量を少なくすることができる。
なお、液溜まり77内に常に液体金属95の一部が残留して、第2電極74から液体金属95に電気を流すことができれば、撥液コート層75は撥液性を有するだけで、導電性のないものであってもよい。また、第2電極74の隙間90側の表面に極薄いシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁性の撥液性部材を形成してもよい。極薄いシリコン酸化膜やシリコン窒化膜であれば、これらが介在していても第2電極74に電気を流したときにトンネル効果によって、液体金属95に電気を流すことができる。
このような部材によって構成される撥液コート層75の形状は第2電極74を覆う大きさである。
さらに、第2電極74自体を導電性で、かつ、その表面が撥液性となる部材を用いてもよい。つまり第2電極74自体を導電性酸化膜、導電性ガラス材、導電性セラミックス材、グラフェンなどによって形成するのである。この場合、第2電極74の隙間側表面に、撥液コート層を設ける必要がなくなる。
下部基板76は、少なくとも第1および第2電極72、74との間で絶縁されているものであればよい。たとえば、全体が絶縁性を有する材料として、エポキシ基板、フェノール基板、ABS樹脂基板などが用いられる。そして、これら基板に液溜まり77を設ける。この場合、液体金属95を液溜まり77内に収納しやすいように、液溜まり内壁面を親液性にする。親液性を持たせるためには、液溜まり壁面に金属膜79(たとえば銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属膜)を形成することが好ましい。
また、下部基板76としては、たとえばシリコン基板を用いることもできる。シリコン基板を用いた場合、まず液溜まり77の形成後、液溜まり77内部の壁面表面を含めて、すべての表面をシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などにより絶縁層(不図示)を形成する。そして、液溜まり77内に親液性を持たせるために金属膜79(たとえば銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属膜、さらにシリコン基板とした場合は導電性を付与したポリシリコンなどでもよい)を形成することが好ましい。
液溜まり77内に形成した金属膜79は第2電極74と導通するようにしてもよい。
なお、液溜まり77内の金属膜79はなくてもよい。上述したとおり、液溜まり77内の金属膜79は、液溜まり77内壁面を親液性にすることで液体金属95が下がったときに、液体金属95が液溜まり77内に収納されやすくするためのものである。このため、液溜まり77の大きさが十分に大きく、液溜まり77内壁面が親液性でなくても液体金属95の収納がスムーズにゆく場合には金属膜79はなくてもよい。
さらに、下部基板76の液溜まり77には、液体金属95が漏れ出ない程度の空気穴93が設けられている(空気穴93の機能については後述)。
上部基板100は、第1電極構造体71側と第2電極構造体81側で同じ構成であり、第1電極72と電気的に接続された第1配線111と、第2電極74と電気的に接続された第2配線112と、これらを絶縁分離する絶縁層113を有する。また、すでに説明したように、第1電極構造体71側と第2電極構造体81側は隙間90によって絶縁、分離されているため、当然に上部基板100も第1電極構造体71側と第2電極構造体81側でそれぞれ分離して同じ構成となるように設けられている。また、各第2配線112の隙間90に面した部分は、撥液コート層75が形成されている。また、隙間90部分は、上から見ると、図25に示すように、撥液コート層75が隙間90を取り囲むように形成されており、隙間90の側面部分75aから液体金属95が漏れないようになっている。なお、隙間90の側面部分75aには、図示しないが、撥液コート層75の外側に、隙間の側面部分(または磁性体1の側面を含めた側面全体)を覆う構造体(不図示)があってもよい。このような構造体は、たとえば樹脂やセラミックなど非磁性、非導電性の部材が好ましい。
上部基板100で配線が対向した部分(図24中のまるで囲った部分)は、開放端92となっていて、液体金属95の移動によって隙間90内の圧力が上ったり下がったりしないようになっている。このため液体金属95は、スムーズに隙間90内を移動できる。
上部基板100に用いられる配線111、112は、第1および第2電極72および74と同じく、銅、アルミニウムなどである。一方、絶縁層113は、少なくとも誘電体73よりも誘電率の低い絶縁体(絶縁材)が好ましい。
配線111、112は、第1および第2電極72および74に対して電圧を印加するための配線である。このため配線が対向した部分(図24中のまるで囲った開放端92近傍部分)でも、第1および第2電極72および74と同じ電圧がかかる。そうすると、上部基板100の絶縁層113として誘電率の高い材料が用いられていると、この部分でも液体金属95と配線112との間がキャパシター構造となってしまう。そうすると液体金属95が上昇してきたときに、その勢いで、まるで囲んだ部分からさらに上にまで液体金属95が来て、吐出してしまう虞がある。これを防ぐために、この配線112同士が隙間90を介して向き合う部分では、誘電率が低い絶縁材を用いることで、液体金属95がこの配線112同士が対向する部分の隙間90に入ってくるのを防止している。具体的には、たとえば、半導体装置において使用されている、いわゆるLow−k材料を使用することができる。たとえばシリコン酸化物にフッ素や炭素を添加したもの、有機ポリマーなどがある。そのほか、第1および第2電極72、74の間に用いた誘電体73よりも誘電率が低い材料であればよい。これらLow−k材料であってもよい。これらのLow−k材料は、SiO2の比誘電率4.2〜4.0に対して、比誘電率3.0以下であることが知られている。
なお、絶縁体である絶縁層113を配置する開放端92近傍部分は、配線112および113が絶縁される厚みであるが、たとえば隙間上端から誘電体73の厚み程度の厚さ分もあれば、液体金属95が上がってきたときに上端から吐出することはない。
そして、液体金属95(導電性流体と称されることもある)は、少なくともこの磁気冷暖房装置500が使用される温度範囲において液体の金属である。たとえば、ガリウム、インジウム、スズの共晶合金であるガリンスタンを用いることができる。ガリンスタンは、常温で液体の金属であり、ガリウム、インジウム、スズの組成よって融点が異なる。たとえば、ガリウム68.5%、インジウム21.5%、スズ10%のガリンスタンは、融点:−19℃、沸点:1300℃以上、比重:6.44g/cm3、粘度:0.0024Pa・s(at20℃)、熱伝導率:16.5W/(m・K)である。そのほかにも、周知の様々な液体金属95を用いてもよく、熱伝達率が高いものが好ましい。
次に、このように構成された熱スイッチ部30の作用を説明する。
本形態の熱スイッチ部30においては、熱スイッチ部としての機能を隙間90と液溜まり77の間を行き来する液体金属95により行っている。そして、液体金属95を隙間90と液溜まり77の間を行き来させるためには、エレクトロウェッティングを用いている。エレクトロウェッティングによる液体金属95の移動自体には、公知であり、たとえば、特開2007−103363号公報などに開示されるので、ここでは本形態の理解のために必要な原理について説明する。
図26はエレクトロウェッティングの原理を説明するための説明図である。
エレクトロウェッティングは、電極板300上に設けられた誘電体301の表面に液体金属95(ここでは液滴として示した)を乗せ、電極板300と液体金属95の間に電圧を印加することで、誘電体表面における液体金属95との濡れ性を制御する技術である。
電極板300と液体金属95との間は誘電体301を介してキャパシターが形成されている。図26Aに示すように、電極板300と液体金属95との間に電圧を印加すると、このキャパシターの静電エネルギーが変化(増加)して、それに相当する液体金属95の表面エネルギーが減少し、液体金属95の表面張力が低下する。これにより液体金属95の表面に対する接触角度θが変化する。ここで接触角度θとは、液体金属95が乗っている誘電体301の表面における液体金属表面とのなす角をいう。この接触角度θは、液体金属95の表面張力に応じて0°〜180°の範囲で変化する。
ここで図26Aに示すように(電圧印加時)、接触角度θが、0°から90°までは、液体金属95に対する表面の濡れ性がよい状態、すなわち親液性のある状態である。一方、図26Bに示すように(電圧印加無しのとき)、接触角度θは、90°を超えて180°であり、これが濡れ性の悪い状態、すなわち撥液性の状態である。このように誘電体表面に置いた液体金属95の接触角度θを、電圧の印加によって変更できるのがエレクトロウェッティングである。
図27は隙間における液体金属の移動を説明するための説明図で、隙間における液体金属部分の拡大図である。
本形態では、液体金属95が移動する表面は、磁性体1と1’の間の隙間90に対向するように設けられた撥液コート層75である。この撥液コート層75は、すでに説明したとおり、液体金属95に対する撥液性を有する。このため、第1および第2電極72、74の間に電圧を印加しなければ、図27Aに示すように、液体金属95は、撥液コート層75の表面においてその接触角度は90°以上となって撥液性(疎液性ともいう)となっている。
このように液体の接触面(撥液コート層75の表面)と接触角度が90°以上となることで、図27Aに示したように、液体金属95の液面は、中央部分が凸となって、液体金属95の撥液コート層75表面との接触部分が下がった状態になる。このため液体金属95が撥液コート層75表面を伝って行く力が働かなくなり、液体金属95が毛細管現象によって上昇してしまうことはない。
この状態は、熱スイッチ部30全体としては図24に示した状態であり、液体金属95は、液溜まり77内にあって、隙間90は空気により満たされている。したがって、この空気で満たされた隙間90によって磁性体1と1’の間は断熱状態となる。
一方、磁性体1と1’のそれぞれにある第1電極72と第2電極74の間に電圧を印加すると、第1電極72と第2電極74の間にある誘電体73が分極して静電エネルギーが変化(増加)する。このとき第2電極74と液体金属95とは電気的導通がとられているため、結果的に、液体金属95と第1電極72とが誘電体73を介してキャパシター構造となっている。この構造はエレクトロウェッティングの原理を説明した図26の電極板300と誘電体301を介した液体金属95とによるキャパシター構造と同様の構造ということである。
このため、第1電極72と第2電極74の間に電圧を印加したことで、液体金属95の表面エネルギーが増加して、それに伴い撥液コート層75(誘電膜)表面における液体金属95の表面張力が減少し、濡れ性がよくなる。そうすると、図27Bに示すように、撥液コート層75表面に接している液体金属95表面の接触角度θが90°以下になる。これにより、液体金属95自体の表面張力は失われるものの、隙間90を登ってゆく張力が働くことになる。図27Bにおけるhがもとの液面に位置(図27A)からの上昇量である。なお、図27においてdは隙間の間隔である。
図28は、図24と同じ部分の断面図であり、液体金属95が隙間90を上がってきた状態、すなわち熱伝達状態を示している。
図示するように、液体金属95は隙間90の頂上である上部基板100の位置まで到達する。上部基板100の隙間部分ではすでに説明したように、上部基板100の第1配線111と第2配線112の間には誘電体が存在しない(または誘電率が低い)。このため、この部分での静電エネルギーはほとんど変化しないため、上昇した液体金属95の濡れ性はよくならないので、これ以上液体金属95が上昇することはない。
そして、液体金属95が上昇したことにより、隙間90は液体金属95で満たされて磁性体1と1’間の熱の伝達が起きて熱伝達状態になる。
このようにして本形態の熱スイッチ部30では、エレクトロウェッティングにより熱スイッチ部30に設けた隙間90に液体金属95が充填された熱伝達状態と、隙間90から液体金属95を排除した断熱状態を、電気的に制御することができるのである。
熱スイッチ部30を構成する各部の好ましいサイズは、ガリンスタンを液体金属95として用いた場合、隙間90の間隔が10μm〜50μmが好ましいものとなる。下限値を10としたのは、この程度の隙間90をあけることで、液体金属95が下がって隙間90内に空気が入ったときに十分な断熱性を有するようにするためである。一方、上限の50μmは、液体金属95が上がって隙間90を満たした場合の熱伝達性能を保つためである。
なお、図28に示したように、液体金属95が隙間90を上昇すると液溜まり77内から液体金属95が出てゆくことになる。このとき、仮に液溜まり77が密閉状態だと、液溜まり77内部が負圧(真空)になるため液体金属95が液溜まり77から隙間90に出て行きづらくなる。そこで、本形態では、液溜まり77の下部端に空気穴93を設けたのである。空気穴93の大きさは液体金属95が漏れ出ない程度でかつ空気の流入、流出が起こる程度の大きさとする。なお、空気穴93の位置は、液溜まり77の下部端以外であってもよく、液体金属95が液溜まり77から隙間90に出て行きやすくなるように配置されていればよい。
ここで、本形態においては、隙間90を介して対向する第1および第2電極構造体71および81は、それぞれ第1電極72と第2電極74を、誘電体73を介して平行に設けている。このうち、エレクトロウェッティングの作用しているのは、第1電極72、液体金属95、およびその間の誘電体73によって構成されるキャパシターである。このため、エレクトロウェッティングの原理としては、液体金属95に電圧を印加することができれば、第2電極74はなくてもよい。たとえば、下部基板を通して、液体金属と電気的に接続される電極を設けるなどである。この場合、第2電極は隙間内に存在しないので、隙間の対向する面は誘電体となり、液体金属に対して撥液性があるので、撥液コート層もなくてよい。
ただし、このようにした場合(第2電極を省略した場合)、キャパシター構造としては、第1電極72の対向電極となる液体金属95が移動するため、電極面積が増減することになる。このため、エレクトロウェッティング作用を起こさせる誘電体での静電エネルギーも増減してしまうことになる。したがって、同じ電圧を印加していても液体金属の上昇量によってエレクトロウェッティング作用により液体金属を移動させる力が変わって、液体金属の上昇速度が変化するおそれがある。
本形態では、第1電極72と第2電極74を、誘電体73を介して平行に設けているので、第1電極72と第2電極74によるキャパシターの大きさは、液体金属95の移動によって変化しない。したがって、同じ電圧の印加でも、液体金属の移動によって液体金属の移動速度が変化したりせず安定的に熱伝達と断熱を切り替えることができる。なお、第2電極を省略した場合でも、液体金属の移動速度が若干不安定になるおそれはあるものの、第2電極を設けた場合と同様に、熱伝達と断熱の切り替えは可能である。
<熱スイッチ部の形態9>
図29は熱スイッチ部の形態9における熱スイッチ部30の構成を説明するための平面図であって、図24中の矢視Aに相当する方向から見た図である。
本形態の熱スイッチ部30もまた、電気濡れ(エレクトロウェッティング)効果を利用したものである。したがって、熱スイッチ部の形態8の変形例となる。
熱スイッチ部の形態9は、熱スイッチ部30の隙間90に第1電極構造体71側と第2電極構造体81側のそれぞれの壁面、すなわち撥液コート層75の表面にブレード82を配置したものである。このブレード82は、下部基板76の液溜まり77から上部基板100方向に垂直に延びており、第1電極構造体71側のブレード82と第2電極構造体81側のブレード82は互い接触しない幅となっている。ブレード82自体は、たとえば撥液コート層75の材料をそのままブレード82の構造となるように形成するとよい。
そのほかの構成は、熱スイッチ部の形態8と同じであるので説明を省略する。
このようにすることで、液体金属95と第1電極構造体71の壁面および第2電極構造体81の壁面との接触表面積が大きくなって熱伝達効率が良くなる。また、第1電極構造体71側のブレード82と第2電極構造体81側のブレード82との間で隙間dBが形成されるため、このブレード82間の隙間dBでもブレード壁面に液体金属95の表面張力が働き、いっそう液体金属95が上昇しやすくなる(電圧印加時)。ブレード82間の隙間dBもすでに説明したとおり、10μm〜50μm程度が好ましい。
以上説明した熱スイッチ部の形態1〜9は、いずれも、熱スイッチ部自身を移動させて、各冷媒通路41および42と磁性体1の間、磁性体1同士の間を挿脱させる必要がなくなるため、熱スイッチ部30aおよび30b(または30)の耐久性が向上し、同時に信頼性も向上する。
本実施形態で好ましく適用し得る熱スイッチ部の形態を説明したが、本発明はこれらの熱スイッチ部の形態に限定されない。たとえば、従来技術のように各冷媒通路41および42と磁性体1の間、磁性体1同士の間を摺動する部材を設けてもよい。この場合、摺動部材が磁気印加ディスク20の回転に同期して各冷媒通路41および42と磁性体1の間、磁性体1同士の間を挿脱することで熱伝達および断熱を行うことになる。
[全体動作]
磁気冷暖房装置500の動作は、磁気印加ディスク20を回転させることで磁気印加ディスク20上の磁石2が、それに対峙する磁性体1に対して磁気を印加、除去することになる。
図30は第1の状態における磁気印加ディスク上の磁石の位置を示す概略平面図であり、図31はこの第1の状態のときの磁性体ブロックの概略断面図である。図32は第1の状態から30度回転した第2の状態における磁気印加ディスク上の磁石の位置を示す概略平面図であり、図33はこの第2の状態のときの磁性体ブロックの概略断面図である。なお、図31および図33の概略断面図においては1セット(層)分のみ示し、ハウジング50は省略した。また、各図において磁性体には説明のために内周側から順にa〜lの符号を付した。
磁気印加ディスク20が回転することで、磁石2の位置は第1の状態から第2の状態に移動することになる。まず、第1の状態(図30、図31)では、磁石2が磁性体b、d、f、h、j、lに対峙する位置となっている。このため磁性体b、d、f、h、j、lに磁気が印加される。本実施形態で用いている磁性体は磁気が印加(励磁)されると発熱し磁気が除去(消磁)されると吸熱する正の磁性体(2つの正の磁気熱量材料)である。したがって、磁気が印加された磁性体b、d、f、h、j、lは発熱する。一方第1の状態のときに磁気が印加されていない磁性体a、c、e、g、i、kは吸熱となる。
この第1の状態のとき、磁気が印加された磁性体b、d、f、h、j、lのそれぞれの内周側にある熱スイッチ30aおよび外周冷媒通路42の内周側の熱スイッチ30aは、磁気の印加と同時にオン(熱伝達状態)にする。このとき熱スイッチ30bはオフ(断熱状態)にする。これにより磁性体b、d、f、h、j、lおよび外周冷媒通路42と、それらの内周側にある部材が熱平衡になろうとする。すなわち、内周冷媒通路41と磁性体a、磁性体bと磁性体c、…、磁性体lと外周冷媒通路42がそれぞれ同じ温度になろうとして熱が伝達される。
そして、磁気印加ディスク20が回転して第2の状態(図32、図33)となれば、磁石2が磁性体a、c、e、g、i、kに対峙する位置となる。このため磁性体a、c、e、g、i、kに磁気が印加される。したがって、磁気が印加された磁性体a、c、e、g、i、kは発熱する。一方この第2の状態のときに磁気が印加されていない磁性体b、d、f、h、j、lは吸熱となる。
この第2の状態のとき、磁気が印加された磁性体a、c、e、g、i、kのそれぞれの内周側にある熱スイッチ30bを磁気の印加と同時にオンにする。このとき熱スイッチ30aはオフにする。これにより磁性体a、c、e、g、i、kと、それらの内周側にある部材は熱平衡になろうとする。すなわち、磁性体aとb、磁性体cと磁性体d、…、磁性体kとlがそれぞれ同じ温度になろうとして熱が伝達される。
このように磁気印加ディスク20を回転させることで、磁性体への磁気の印加と除去が行われ、同時に熱スイッチのオン/オフを繰り返すことで、各磁性体ブロックMBにおいて外周冷媒通路42から内周冷媒通路41方向へ熱が伝わって、外周冷媒通路42側が冷却され、内周冷媒通路41側が加熱されるようになるのである。
積層されている他の熱生成ディスク10および磁気印加ディスク20においても同じ動作となる。以上の動作によって、本実施形態の磁気冷暖房装置500では、外周冷媒通路42を通過した冷媒は温度が下降し、内周冷媒通路41を通過した冷媒は温度が上昇するのである。
ここでは(図30〜33)、一つの磁性体ブロックMBにおいて磁性体1が12個の場合を用いて説明したが、磁性体の数はいくつであっても同様の動作である。したがって、前述した向流方式を採用して一つの磁性体ブロックMBに磁性体が6個の場合も同じように動作することになる。
[冷暖房システム]
次に、本実施形態の磁気冷暖房装置500を、たとえば自動車などの冷暖房システム(いわゆるエアコンディショナー)として用いた例を説明する。
図34は冷暖房システムに係る磁気冷暖房装置500の冷媒の循環系統を示す図である。図に示すように、磁気冷暖房装置500には、低温側放熱器630、高温側放熱器730を接続する。低温側放熱器630は外周冷媒通路用ポンプ780を介して外周冷媒通路42の外周冷媒出入口46に接続する。高温側放熱器730は内周冷媒通路用ポンプ790を介して内周冷媒通路41の内周冷媒出入口45に接続する。ここで冷媒はたとえば空気である。なお、冷媒は空気に限らず、その他の気体や液体を使用してもよい。
外周冷媒通路用ポンプ780は外周冷媒通路42を流れる冷媒の流量を制御する。内周冷媒通路用ポンプ790は内周冷媒通路41を流れる冷媒の流量を制御する。
外周冷媒通路42で冷やされた冷媒は低温側放熱器630に供給され、低温側放熱器用ファン630Fによって強制的に送風された外部の空気と熱交換される。熱交換された後の冷媒は再び外周冷媒通路42に戻って冷却される。一方、内周冷媒通路41で温められた冷媒は高温側放熱器730に供給され、高温側放熱器用ファン730Fによって強制的に送風された外部の空気と熱交換される。熱交換された後の冷媒は再び内周冷媒通路41に戻って加熱される。このようにして低温側放熱器630は外部の空気を冷却し高温側放熱器730は外部の空気を加熱する。
ここで空調する空間が車室内などであれば、車室内を冷房する場合には、低温側放熱器630によって熱交換された冷風を車室内に供給する。一方、車室内を暖房する場合には、高温側放熱器730によって熱交換された温風を車室内に供給する。
図35は、冷暖房システムの制御系のブロック図である。また、図36は、図35の空調情報入力部のさらに具体的な制御系のブロック図である。
図35に示すように、冷暖房システムの制御系は、空調情報入力部1000、空調制御部(制御部)1100、モータ制御部1200、回転軸用モータ700、熱スイッチ制御部1300、ポンプ制御部1400、ファン制御部1500を備える。空調制御部1100およびモータ制御部1200は制御部を形成する。
空調情報入力部1000は空調に必要な情報を入力する。空調に必要な情報は、設定温度、外周流入冷媒温度、外周流出冷媒温度、内周流入冷媒温度、内周流出冷媒温度である。空調情報入力部1000の具体的な説明は、後述の図36に基づいて行う。
回転軸用モータ700は、磁気印加ディスク20を回転させるための回転軸60を回転させるモータである。
空調制御部1100は、本実施形態に係る磁気冷暖房装置500の動作を総括的に制御する。空調制御部1100の具体的な説明は、後述の図37のフローチャートに基づいて行う。
モータ制御部1200は、空調制御部1100の指令を受けて、回転軸用モータ700の回転速度を制御する。また、熱スイッチ制御部1300は、磁性体基板900A−900Fが有する磁性体1間に位置して設けられている熱スイッチのオン、オフを制御する。熱スイッチは磁性体1間の熱伝導を、磁気印加ディスク20の回転に同期させて制御するスイッチである。
ポンプ制御部1400は、図34に示した外周冷媒通路用ポンプ780と内周冷媒通路用ポンプ790の動作を制御する。ポンプ制御部1400は、より多くの冷房能力が要求されると外周冷媒通路用ポンプ780の冷媒流出量を増加させ、より多くの暖房能力が要求されると内周冷媒通路用ポンプ790の冷媒流出量を増加させる。
ファン制御部1500は、図34に示した低温側放熱器用ファン630Fと高温側放熱器用ファン730Fの動作を制御する。ファン制御部1500は、より多くの冷房能力が要求されると低温側放熱器用ファン630Fの送風量を増加させ、より多くの暖房能力が要求されると高温側放熱器用ファン730Fの送風量を増加させる。
図36に示すように、空調情報入力部1000は、温度設定部1010、外周流入冷媒温度センサ1020、外周流出冷媒温度センサ1030、内周流入冷媒温度センサ1040、内周流出冷媒温度センサ1050、磁性体周囲温度センサ1060、冷媒通路温度センサ1070を備える。
温度設定部1010は、磁気冷暖房装置500が空調する空間(たとえば車室内)の温度を設定する。外周流入冷媒温度センサ1020は、外周冷媒通路42に流入する冷媒の温度を検出する。外周流出冷媒温度センサ1030は、外周冷媒通路42から流出する冷媒の温度を検出する。内周流入冷媒温度センサ1040は、内周冷媒通路41に流入する冷媒の温度を検出する。内周流出冷媒温度センサ1050は、内周冷媒通路41から流出する冷媒の温度を検出する。磁性体周囲温度センサ1060は、磁性体1の周囲の温度を検出する。磁性体1の周囲の温度を検出するのは、磁性体1の周囲温度が、磁性体1の熱生成量に影響を与えるからである。冷媒通路温度センサ1070は、外周冷媒通路42と内周冷媒通路41の温度を検出する。
温度設定部1010、磁性体周囲温度センサ1060、冷媒通路温度センサ1070を設けるのは、磁気冷暖房装置500でどの程度の熱量を発生させなければならないかを知るためである。外周流入冷媒温度センサ1020、外周流出冷媒温度センサ1030、内周流入冷媒温度センサ1040、内周流出冷媒温度センサ1050は、磁気冷暖房装置500が、安定した温度を保ち続ける高温源および低温源を形成するために必要となる。
ここで、車室内を冷房するときには、外周流入冷媒温度センサ1020が磁気冷暖房装置500に戻ってきて外周冷媒出入口46に入る冷媒の温度を監視する流入冷媒温度監視部となる。また、このとき外周流出冷媒温度センサ1030は外周冷媒出入口46から出て行く冷媒の温度を監視する流出冷媒温度監視部となる。
逆に車室内を暖房するときには、内周流入冷媒温度センサ1040が磁気冷暖房装置500に戻ってきて内周冷媒出入口45に入る冷媒の温度を監視する流入冷媒温度監視部となる。また、このとき内周流出冷媒温度センサ1050は内周冷媒出入口45から出て行く冷媒の温度を監視する流出冷媒温度監視部となる。
磁気冷暖房装置500が発生する熱量は、磁気印加ディスク20の回転速度(周波数)に比例する。必要熱力が大きくなると磁気印加ディスク20の回転速度を上昇させ、必要熱力が小さくなると磁気印加ディスク20の回転速度を低下させる。磁気印加ディスク20は回転軸用モータ700によって駆動されるので、磁気印加ディスク20の回転速度の制御は空調制御部1100およびモータ制御部1200が行う。つまり、空調制御部1100およびモータ制御部1200が回転軸用モータ700の回転速度を制御することで磁気冷暖房装置500が発生する熱量を調整する。
冷暖房システムに係る磁気冷暖房装置500の動作を、図37を参照しながら説明する。図37は磁気冷暖房装置の動作を制御する手順を示すフローチャートである。
まず、操作者は、温度設定部1010から車室内(空調する空間)の設定温度を入力する。設定温度が入力されると、空調制御部1100は、要求熱量と要求温度差を入力する(S10)。
空調制御部1100は、車室内の空間容量、現在の車室内の温度、車室内の設定温度を参照して、車室内を設定温度にするために必要な要求熱量を求める。また、外周冷媒通路42から流出する冷媒の温度と内周冷媒通路41から流出する冷媒の温度との差を求める。この求めた値を、要求熱量、要求温度差として入力する。
次に、空調制御部1100は、入力した要求熱量と要求温度差をあらかじめ記憶しているマップと照合して、回転軸用モータ700の回転速度、すなわち動作周波数fを入力する。また、磁性体周囲温度検出センサ1060が検出する温度から外周冷媒通路42に流入する冷媒の温度の基準となる冷媒温度、磁性体周囲温度検出センサ1060が検出する温度と要求温度差の半分の温度から外周冷媒通路42から流出する冷媒の温度、磁性体周囲温度検出センサ1060が検出する温度から内周冷媒通路41に流入する冷媒の温度の基準となる冷媒温度、磁性体周囲温度検出センサ1060が検出する温度と要求温度差の半分の温度から内周冷媒通路41から流出する冷媒の温度を入力する。また、外周冷媒通路42に対して冷媒を供給する外周冷媒通路用ポンプ780の冷媒流量と、内周冷媒通路41に対して冷媒を供給する内周冷媒通路用ポンプ790の冷媒流量も入力する。さらに、低温側放熱器用ファン630Fの風量と高温側放熱器用ファン730Fの風量も入力する(S20)。
空調制御部1100は磁気冷暖房装置500を運転する。具体的には、空調制御部1100は、入力した動作周波数fを実現するために、モータ制御部1200に回転数の指示を出す。動作周波数fは、1つの磁性体1に対して1秒間に何回磁気の印加除去をするかを示すものである。たとえば、動作周波数fが6Hzであったとすると、磁気印加ディスク20が1秒間に1回転すると一つの磁性体1に対して6回の磁気の印加除去が行われる(磁気の印加と除去で1回)。このため、回転軸用モータ700と磁気印加ディスク800Aが直結されていれば、回転軸用モータ700に要求される回転数は60rpmである。モータ制御部1100にはこの回転数を指示する。
空調制御部1100は、図示しない磁性体基板上の磁性体1の周囲温度を検出する磁性体周囲温度検出センサ1060により得られる磁性体1の周囲温度、外周冷媒通路42と内周冷媒通路41の温度を検出する冷媒通路温度センサ1070により得られる温度、動作周波数fの情報に基づき見積もられる磁気冷暖房装置500が生成した熱量が要求熱量に対して誤差範囲にあるか否かを判断する(S30)。誤差範囲はあらかじめ設定しておく。空調制御部1100は、生成した熱量が誤差範囲になければ(S30:NO)、誤差範囲内に収まるように、動作周波数fを変更する(S40)。具体的には、磁気冷暖房装置500が生成した熱量が要求熱量よりもかなり小さければ、生成する熱量を増加させるために、回転軸用モータ700の回転速度を増加する。逆に、磁気冷暖房装置500が生成した熱量が要求熱量よりも大きすぎれば、生成する熱量を減少させるために、回転軸用モータ700の回転速度を低下する。
空調制御部1100は、生成した熱量が誤差範囲内であれば(S30:YES)、外周流入冷媒温度センサ1020によって検出された外周冷媒通路42の流入口の冷媒の温度、および内周流入冷媒温度センサ1040によって検出された内周冷媒通路41の流入口の冷媒の温度が、各々、外周冷媒通路および内周冷媒通路41へ流入する冷媒の温度の基準となる冷媒温度と誤差内にありかつ外周流出冷媒温度センサ1030によって検出された外周冷媒通路42の流出口の冷媒の温度、および内周流出冷媒温度センサ1050によって検出された内周冷媒通路41の流出口の冷媒の温度が、各々、設定した外周冷媒通路および内周冷媒通路41から流出する冷媒の温度と誤差内にあるか否かを判断する(S50)。誤差範囲はあらかじめ設定しておく。空調制御部1100は、外周冷媒通路42および内周冷媒通路41の流入口および流出口の冷媒の温度が誤差内になければ(S50:NO)、誤差囲内に収まるように、ポンプ制御部1400とファン制御部1500に指令を出し、外周冷媒通路42に対して冷媒を流す外周冷媒通路用ポンプ780と内周冷媒通路41に対して冷媒を流す内周冷媒通路用ポンプ790の冷媒流量を変更するとともに、低温側放熱器用ファン630Fと高温側放熱器用ファン730Fの風量を変更する(S60)。
空調制御部1100は、外周冷媒通路および内周冷媒通路41へ流入する冷媒の温度、および外周冷媒通路および内周冷媒通路41から流出する冷媒の温度が誤差内であれば(S50:YES)処理を終了する。
このように、冷暖房システムに係る磁気冷暖房装置500によれば、回転軸用モータ700の回転速度を制御することと、外周冷媒通路用ポンプ780、内周冷媒通路用ポンプ790による空気流量を制御することと、低温側放熱器用ファン630F、高温側放熱器用ファン730Fの風量を制御することによって、空調に利用される空気の温度を容易に調整することができる。
〔実施形態2〕
上述した実施形態1では内周冷媒通路41が高温側熱交換器、外周冷媒通路42が低温側熱交換器となる形態を説明した。しかし本発明はこのような形態に限らず、内周冷媒通路41が低温側熱交換器、外周冷媒通路42が高温側熱交換器となる形態であってもよい。この形態を実施形態2とする。
本実施形態2では、内周冷媒の出口温度は外周冷媒の出口温度より低くなる。このため各磁性体ブロックMBにおいて内周側が低温、外周側が高温となるように熱輸送しているのである。ここでいう低温、高温とは、相対的に内周側が外周側よりも低温(逆にいうと外周側が内周側よりも高温)という意味である。
したがって、磁気冷暖房装置の外観構成および各部の構成は、上述した実施形態1と同じであるが、磁性体ブロックMB1〜MB6(各熱輸送器)および各磁性体ブロックを構成する磁性体a〜l(またはa〜f)が担う温度範囲が異なる。
このためここでは、磁気冷暖房装置の外観構成および各部の構成は上述した実施形態1と同じであるのでそれらの説明は省略し、本実施形態2における磁性体ブロックMB1〜MB6および各磁性体ブロックを構成する磁性体a〜l(またはa〜f)が担う温度について説明する。
なお、本実施形態2においても、内周側から順に磁性体a〜l(またはa〜f)とし、それぞれの磁性体を構成する磁気熱量材料は実施形態1と同じく1つの磁性体に2つである。並流方式においては図9と同様であり、向流方式においては図14と同様である。すなわち、磁気熱量材料は内周側から順に、a1、a2、b1、b2、…l1、l2と並んでいる。そして、高温側に位置する磁気熱量材料のキュリー点が低温側に位置する磁気熱量材料のキュリー点より低い。これは、機能としては実施形態1同様である。
図38は、実施形態2において、並流方式(図38A)と向流方式(図38B)のそれぞれについて、一つの磁性体ブロックにおける磁性体をそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点を示すグラフである。実施形態2では、図に向かって左側が内周側で低温側熱交換器(すなわち低温側)となっていて、右側が外周側で高温側熱交換器(すなわち高温側)となっている。
このため、一つひとつの磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点は低温側に位置するa2、b2、…、l2の方が高温側に位置するa1、b1、…l1の方より高くなっている。また、磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値(すなわちa1およびa2の平均値、b1およびb2の平均値、…、l1およびl2の平均値)は、内周側の低温側熱交換器(すなわち低温側)から外周側の高温側熱交換器(すなわち高温側)へ向かって高くなる。
次に熱生成ディスクの構成を説明する。
図39は、内周冷媒通路が低温側熱交換器、外周冷媒通路が高温側熱交換器とした場合における内周冷媒と外周冷媒のそれぞれの温度変化の仕方を説明するためのグラフであり、図39Aは平流方式のときのグラフであり、図39Bは向流方式のときのグラフである。ここでも各グラフにおいては、内周冷媒および外周冷媒は、入口での温度が同じであり、ここではTbであるとする。また、グラフ中のMB1〜MB6は各磁性体ブロック(図6および7参照)と温度の関係を示している。
まず、並流方式の場合を説明する。
並流方式の各冷媒の流れは、図6に示したものと同様であり、内周冷媒通路41、外周冷媒通路42ともに、各冷媒をA側から入れてB側から出す。
この場合は、図39Aに示すように、外周冷媒が入口温度Tbから出口温度Thにまで温度が上昇する。温度変化は、+ΔT(=Th−Tb)であり、+ΔTはたとえば30Kである。一方、内周冷媒は入口温度Tbから出口温度Tcまで温度が下降する。温度変化は−ΔT(=Tc−Tb)であり、−ΔTはたとえば30Kである。これにより、内周冷媒通路41の出口における内周冷媒温度Tcの方が外周冷媒通路42の出口における外周冷媒温度Thより低い温度となる。
図39Aのグラフからわかるように、並流方式では、磁性体ブロックMB1においては、内周冷媒と外周冷媒の温度差がほとんど少ないが、磁性体ブロックMB6に行くほどこの温度差が大きくなっている。したがって、磁性体ブロックMB1は冷却(または加熱)する温度は少なくてもよいが、磁性体ブロックMB6では2×ΔTに相当する温度を冷却(または加熱)しなければならないことになる。
このように並流方式では、外周冷媒と内周冷媒の温度変化が実施形態1(図8A)と入れ替わっているだけで、磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれが担う温度域は図8Aに示した場合と同じになる(ただし、磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれを構成する複数の磁性体のそれぞれが担う温度は異なる(詳細後述))。
次に向流方式における各冷媒の流れは、図7に示したものと同様であり、外周冷媒通路4ではA側から外周冷媒を入れてB側から出す。一方、内周冷媒通路41ではB側から内周冷媒を入れてA側から出す。
この場合は、図39Bに示すように、外周冷媒が入口温度Tbから出口温度Thにまで温度が上昇する。この温度変化を+ΔT(=Th−Tb)とする。この+ΔTはたとえば30Kである。一方、内周冷媒は入口温度Tbから出口温度Tcまで温度が下降する。この温度変化を−ΔT(=Tc−Tb)とする。この−ΔTはたとえば30Kである。これにより、内周冷媒通路41の出口における内周冷媒温度Tcの方が外周冷媒通路42の出口における外周冷媒温度Thより低い温度となる。
図39Bのグラフからわかるように、向流方式では、磁性体ブロックMB1〜MB6はいずれも内周冷媒と外周冷媒の温度差に相当する温度範囲を冷却(または加熱)することになる。しかも磁性体ブロックMB1〜MB6はそれぞれがΔTに相当する温度を冷却(または加熱)すればよいことになる。
そして向流方式においては、磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれが担う温度域は図39Bに示したように、磁性体ブロックMB1からMB6方向に高くなる。
また実施形態2においても、実施形態1同様に並流方式と向流方式を比べれば、カルノーサイクルにおける成績係数(COP)は、向流方式の方が並流方式より2倍冷却効率がよいことになる。
次に、本実施形態2における各磁性体ブロックを構成する各磁性体が担う温度について説明する。磁性体1は、実施形態1と同様に、磁気が印加されると発熱し磁気が除去されると吸熱する正の磁性体(磁気熱量材料)である。そして磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値を、その磁性体が担う温度範囲に合わせることで、効率よく温度変化させることができる。
まず、並流方式における各磁性体ブロックを構成する各磁性体が担う温度について説明する。図40は、内周冷媒通路が低温側熱交換器、外周冷媒通路が高温側熱交換器とした場合において、並流方式の場合における各磁性体ブロックでの各磁性体を構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値を示すグラフであり、横軸は低温側温度Tcから高温側温度Thまでの温度であり、縦軸は各磁性体が変化する温度である。ここで、図40における一つの磁性体ブロックMBを構成する複数の磁性体は、図9と同じであり内周側から外周側方向へa〜lとする。
図40に示すように、並流方式の場合の一つの磁性体ブロックにおける磁性体a〜lは、内周側(低温側)から外周側(高温側)方向(すなわちaからl方向)へ、それらを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値が高くなるように並べている。なお、並流方式の場合、各磁性体ブロックを構成する磁性体a〜lをそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値は同じである。
したがって、並流方式の場合は、本実施形態2においても磁性体a〜lが同じ構成となった磁性体ブロックMBを環状に12個並列に並べればよい。このため向流方式と対比すれば熱生成ディスク10を製造する際のコストを低減することができる。
次に、向流方式における各磁性体ブロックを構成する各磁性体が担う温度について説明する。図41は本実施形態2において、内周冷媒通路41が低温側熱交換器、外周冷媒通路42が高温側熱交換器とした場合において、向流方式の場合における各磁性体ブロックでの各磁性体を構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値を示すグラフであり、横軸は低温側温度Tcから高温側温度Thまでの温度であり、縦軸は各磁性体が変化する温度である。また、グラフ中の山形の複数の曲線のそれぞれのピークがキュリー点の平均値である。ここで、図41における一つの磁性体ブロックMBを構成する複数の磁性体は、図14と同じであり内周側から外周側方向へa〜fとする。
実施形態2において、向流方式の場合は、図41に示すように、各磁性体a〜fを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値は、内周側(低温側)から外周側(高温側)方向(すなわちaからf方向)へ高くなるように並べている。そして、各磁性体ブロックMB1〜MB6のそれぞれを構成する複数の磁性体a〜fのキュリー点の平均値は、各磁性体ブロックMB1〜MB6方向に高くなるようにしている。つまり、各磁気ブロックMB1〜MB6の磁性体a〜fをそれぞれ構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値が、外周冷媒を基準としても、内周冷媒を基準としても、それらの入口から出口の方向に段階的に変化しているのである。
このことは、各磁気ブロックMB1〜MB6における内周側に位置する磁性体aを見れば、そのキュリー点の平均値は内周冷媒の入口側(B側、すなわちMB6側)が高く、出口側(A側、すなわちMB1側)が低くなるように配置されていることになる。また、外周側に位置する磁性体fを見れば、そのキュリー点の平均値は外周冷媒の入口側(A側、すなわちMB1側)が低く、出口側(B側、すなわちMB6側)が高くなるように配置されていることになる。
したがって、本実施形態2も向流方向においては、各磁気ブロックMB1〜MB6を構成する磁性体a〜fは内周側から外周側へ、段階的にキュリー点(作動温度)が変化するようにキュリー点の平均値が異なる磁性体を構成する熱磁気材料を用いているのである。さらに、各磁気ブロックMB1〜MB6の磁性体a〜fを構成する磁気熱量材料のキュリー点の平均値は、冷媒の入口から出口の方向に段階的に変化しているものとなっているのである。
このように構成された向流方式では、本実施形態2においても、実施形態1と同様に、磁気冷暖房装置500として必要な温度差を、平流方式と比較してより少ない数の磁性体で得ることができる。
また、本実施形態2では、内周冷媒通路の出口における内周冷媒の温度が外周冷媒通路の出口における外周冷媒の温度より低くなるようにした。すなわち、内周冷媒通路を低温側熱交換器とし、外周冷媒通路を高温側熱交換器としたものである。
磁気冷凍システムにおける磁気熱量材料の伝熱特性としては、QH=QL+W(ここで、QHは発熱量、QLは吸熱量、Wは1冷暖房サイクルでの仕事量)となることが知られている(参考文献:「Main characteristics of a Brayton refrigeration cycle of paramagnetic salt」 (Journal of Applied Physics/ Volume 75 Issue 3, pp.1249−1253, 1 February 1994, American Institute of Physics)の特に図2)。
この伝熱特性を実施形態2にあてはめれば、低温側の吸熱量QL、高温側の発熱量QHとなる。このため高温側熱交換部に渡す熱量の方が、1冷暖房サイクルでの仕事量の分だけ、低温側熱交換部から受け取る熱量より大きくなる。このため高温側熱交換部が外周側にある場合は、内周側に比べて熱交換できる面積が大きくなるため、実施形態1と比較して、1サイクルで交換できる熱量を多くすることができる。
もちろん実施形態2においても、向流方式において一つひとつの磁性体ブロックMBを構成する磁性体1の数を12個としてもよい。その場合には、冷媒出口側における内周冷媒と外周冷媒の温度差を平流方式の約倍の温度差にすることができる。
なおここで説明した実施形態2の磁気冷暖房装置を冷暖房システム(図34参照)に用いた場合、外周冷媒と内周冷媒の作用が高温側と低温側とで逆になる。すなわち、低温側放熱器630は冷媒通路用ポンプ780を介して内外周冷媒通路41の内周冷媒出入口45に接続する。高温側放熱器730は冷媒通路用ポンプ790を介して外周冷媒通路42の内周冷媒出入口46に接続する。また、制御においては、外周冷媒と内周冷媒が逆になるだけであるので、説明は省略する。
以上説明した本発明を適用した実施形態の効果を説明する。
(1)実施形態によれば、複数の磁性体を間隔をあけて列状に並べ、その一端に低温側熱交換部、他端に高温側熱交換部を配置する。複数の磁性体の間、磁性体と低温側熱交換部との間、磁性体と高温側熱交換部の間に、磁性体の熱を輸送する熱スイッチ部と配置する。そして、各磁性体を少なくとも2つの磁気熱量材料に構成し、この少なくとも2つの磁気熱量材料のキュリー点を低温側熱交換部に近い方を高く、高温側熱交換部に近い方を低くした。
これにより、複数並べられた磁性体の一つひとつの内部温度分布と、その磁性体を構成する磁気熱量材料の作動温度を良く対応させることができる。このため、それぞれの磁性体は、内部温度の分布を考慮されて最も効率的に磁気熱量効果を発現できるようになって、磁気冷暖房装置としての効率が向上する。特に、磁気冷暖房装置としては、単に、磁性体の作動温度を装置全体の温度勾配に合わせた磁気熱量材料を用いただけの場合よりも、各段に効率が良くなる。
(2)実施形態では、複数の磁性体のそれぞれを構成する少なくとも2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値が、低温側熱交換部(すなわち低温側)から高温側熱交換部(すなわち高温側)方向に高くなるようにしている。これにより、磁性体が複数並べられた磁性体ブロック内のそれぞれの磁性体が効率的に温度変化することができるようになる。したがって、この磁性体ブロックを環状に配置した磁気冷暖房装置としての効率も向上する。
(3)実施形態では、好ましくは、それぞれの磁性体を構成する2つの磁気熱量材料のキュリー点の平均値は、それぞれの磁性体が担う作動温度の中間温度と一致することとした。これにより、一つひとつの磁性体を、磁気熱量効果を発現する1個の磁性体として見た場合でも、一つの磁性体が担う温度範囲を確実に2つの磁気熱量材料の組み合わせでもっとも効率的に作動させることができる。
(4)実施形態では、複数の磁性体のそれぞれを構成する少なくとも2つの磁気熱量材料を、すべて正の磁気熱量材料とした。これにより、たとえば、磁気熱量材料として公知のLaFeSiH、または一般式:La(Fe1-xMx)13Hz(Mは、Si、Alからなるグループ中から選択された1種または2種以上の元素であり、xおよびzの値は、それぞれ、0.05≦x≦0.2;0.3≦z≦3;で規定される)であらわされる磁気熱量材料を用いることができる。そしてこれらは、ベースとなる材料に、キュリー点の変化をつけるための物質の量を変えることで、様々な温度のキュリー点を作り出し、一つの磁性体内の温度分布に適した磁気熱量材料とすることができる。
以上本発明を適用した実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。特に、一つひとつの磁性体を構成する磁気熱量材料は、2つに限らず、3つ、4つなど、さらに多くてもよい。たとえば、3つの磁気熱量材料で一つの磁性体を構成する場合、低温側にその中で最もキュリー点の高い磁気熱量材料を配置し、高温側にその中で最もキュリー点の低い磁気熱量材料する。そして、それらの間に中間的なキュリー点の磁気熱量材料を配置することになる。同様に、4つの磁気熱量材料で一つの磁性体を構成する場合は、低温側から高温側へ順に、キュリー点が高くなるように配置することになる。それ以上の場合も同様である。なお、一つの磁性体を構成する磁気熱量材料の数は、特に限定されないが、一つひとつの磁気熱量材料が磁気熱量効果を十分に発現できる程度の沖さとなるようにする必要がある。
また、磁性体ブロックMBを構成する磁性体の数は、何個であってもよい。たとえば最低は、内周冷媒通路と外周冷媒通路の間に、少なくとも2つ磁気熱材料で構成された1個の磁性体があればよい。また、内周冷媒通路と外周冷媒通路の間に12個以上の磁性体を配置すれば、内周冷媒と外周冷媒のそれぞれの出口温度の差をより大きくすることができる。
そのほか、様々な変形形態が可能であり、本発明は、特許請求の範囲により規定した事項によって定められるものである。