JP2015000827A - セメント強化用繊維、その製造方法及びセメント硬化体 - Google Patents

セメント強化用繊維、その製造方法及びセメント硬化体 Download PDF

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Abstract

【課題】引張強度が大きく、かつコンクリートなどのセメント硬化体から抜けにくく、高い剥落防止効果を有するセメント強化用繊維、その製造方法及びセメント硬化体を提供する。【解決手段】本発明は、ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維であって、ポリオレフィン繊維は単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であり、繊維集束体において、隣り合う単繊維同士は少なくとも部分的に融着しており、繊維集束体の総繊度は1000dtex以上20000dtex以下であり、繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5以上70以下であるセメント強化用繊維に関する。本発明は、上記のセメント強化用繊維を含むセメント硬化体に関する。本発明は、ポリオレフィン繊維を複数本含む繊維集合体の少なくとも一方の表面を熱処理して低融点成分を溶融させることで製造することができる。【選択図】図2

Description

本発明は、コンクリートの剥落を防止するために、コンクリートに混入されるセメント強化用繊維、その製造方法及びセメント硬化体に関する。
従来からトンネル覆工コンクリートや橋梁床版コンクリートなどには、コンクリートの剥落を防止するために、コンクリート中に短繊維が混入されている。近年では、短繊維の断面形状を工夫して、短繊維をコンクリートから抜けにくくし、補強効果を増大させる検討が行われている。例えば、特許文献1には、ポリプロピレンからなり、繊維断面形状が4個の突起部を有する略四角形であり、繊度が約3000dtexの短繊維が記載されている。また、特許文献2には、複数のフィラメントからなる並列糸を一定間隔で連結させた異形繊維が記載されている。また、特許文献3には、複数の単繊維を集合してなる繊維集合体の少なくとも表面に存在する繊維同士を少なくとも部分的に接着させた断面形状が円形に近い集束繊維が記載されている。
特開2009−234796号公報 特開2000−027026号公報 特開平8−239253号公報
特許文献1及び特許文献2に記載された短繊維は、いずれもコンクリートからの抜けやすさの改善が不十分であり、満足できるコンクリートの剥落防止効果が得られるものではなかった。また、特許文献3に記載された集束繊維は、セメント材料との湿式混合時に単繊維に解離し、コンクリートでは単繊維の状態で存在するため、引張強度が小さく、満足できるコンクリートの剥落防止効果が得られるものではなかった。
本発明は、上記従来の問題を解決するため、引張強度が大きく、かつコンクリートなどのセメント硬化体から抜けにくく、高い剥落防止効果を有するセメント強化用繊維、その製造方法及びセメント硬化体を提供する。
本発明は、ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維であって、上記ポリオレフィン繊維は、単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であり、上記繊維集束体において、隣り合う単繊維同士は少なくとも部分的に融着しており、上記繊維集束体の総繊度は1000dtex以上20000dtex以下であり、上記繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5以上70以下であることを特徴とするセメント強化用繊維に関する。
本発明は、また、上記のセメント強化用繊維を含み、上記セメント強化用繊維は、単繊維が複数本集合した複数本の割繊体に割繊されていることを特徴とするセメント硬化体に関する。
本発明は、また、ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維の製造方法であって、単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であるポリオレフィン繊維を複数本含む繊維集合体の少なくとも一方の表面を、上記ポリオレフィン繊維の表面の少なくとも一部を占める低融点成分の融点以上の温度で熱処理し、上記低融点成分を溶融させて隣り合う単繊維同士を少なくとも部分的に融着させることで、総繊度が1000dtex以上20000dtex以下であり、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5〜70である繊維集束体を得ることを特徴とするセメント強化用繊維の製造方法に関する。
本発明のポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維は、ポリオレフィン繊維の単糸繊度を0.1dtex以上5dtex以下にし、隣り合うポリオレフィン繊維の単繊維同士を少なくとも部分的に融着させた総繊度が1000dtex以上20000dtex以下の繊維集束体にし、繊維集束体の断面において、幅Wと厚みTの比W/Tを5以上70以下にすることで、コンクリートなどのセメント硬化体から抜けにくく、高い剥落防止効果を有する。
図1Aは、本発明の一実施形態のセメント強化用繊維(繊維集束体)を示す模式的平面図である。図1Bは、本発明の一実施形態のセメント強化用繊維(繊維集束体)を示す模式的断面図である。 図2は、割繊した後の本発明の一実施形態のセメント強化用繊維(繊維集束体)を示す模式的平面図である。 図3は、実施例1の繊維集束体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(50倍)である。 図4は、実施例1の繊維集束体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。 図5は、実施例1の繊維集束体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。 図6は、実施例2の繊維集束体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(300倍)である。 図7は、実施例2の繊維集束体の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(2000倍)である。 図8は、コンクリートの剥落防止効果確認試験に用いる供試体の模式的斜視図である。 図9は、剥落防止効果確認試験後のコンクリートの剥落した部分の表面を観察したデジタルカメラ写真(1倍)である。 図10は、剥落防止効果確認試験後のコンクリートの剥落した部分の表面における繊維集束体を観察した光学顕微鏡写真(60倍)である。
本発明者は、上記従来の問題を解決するため、鋭意検討した結果、ポリオレフィン繊維の単糸繊度を0.1dtex以上5dtex以下にし、隣り合うポリオレフィン繊維の単繊維同士を少なくとも部分的に融着させて総繊度が1000dtex以上20000dtex以下の繊維集束体にし、断面からみて、繊維集束体の幅Wと厚みTの比W/Tを5以上70以下にすることで、複数本のポリオレフィン繊維が束状に融着し、繊維集束体の厚み方向に並んでいる単繊維が少ないため、ミキサーなどによる外力が加わった場合、厚さ方向に割繊して(裂けて)、フィブリル化しやすく、これにより割繊部分がコンクリートなどのセメント硬化体内で引っ掛かりとなり、繊維集束体がコンクリートから抜けにくくなり、コンクリートなどのセメント硬化体の剥落を防止する効果が高いことを見出し、本発明に至った。
本発明のセメント強化用繊維は、ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなる。上記繊維集束体において、隣り合うポリオレフィン繊維の単繊維同士が少なくとも部分的に融着している。これにより、上記繊維集束体は、ミキサーなどによるある程度の外力が加えられるまでは、フィブリル化しないので、保管や輸送時に繊維集束体同士が絡まって、ダマになったり、ファイバーボールになったりすることがない。好ましくは、上記繊維集束体は、その表面において単繊維同士が融着しており、内部の方が表面より、単繊維同士の融着交点が小さい。
上記ポリオレフィン繊維は、単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であり、好ましくは0.4dtex以上4dtex以下であり、0.5dtex以上3dtex以下であることがより好ましい。上記ポリオレフィン繊維の単糸繊度が上記範囲内であることにより、単繊維同士が融着しやすい。また、繊維集束体は、ポリオレフィン繊維の繊度が小さい程、単糸あたりの引張強度を大きくすることができるので、繊維集束体及び後述する割繊体の引張強度が大きくなる。さらに、ポリオレフィン繊維の繊度が小さい程、繊維集束体中の割繊できる箇所が多くなり、繊維集束体から完全に分離されずに、その一部が繊維集束体と繋がった状態の割繊体を得やすい。
上記繊維集束体は、総繊度が1000dtex以上20000dtex以下であり、好ましくは2000dtex以上10000dtex以下であり、より好ましくは2500dtex以上5000dtex以下である。総繊度を上記範囲にすることで、保管や輸送時に繊維集束体同士が絡まって、ダマになったり、ファイバーボールになったりすることがない。また、作業性の観点から、上記繊維集束体において、ポリオレフィン繊維は200本以上200000本以下であることが好ましく、500本以上25000本以下であることがより好ましく、800本以上10000本以下であることがさらに好ましく、1000本以上5000本以下であることがとくに好ましい。
上記繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5以上70以下であり、好ましくは5以上50以下であり、より好ましくは6以上30以下である。このように繊維集束体が厚みの薄い横長扁平断面であると、厚み方向に割繊し、フィブリル化しやすく、コンクリートなどのセメント硬化体から抜けにくくなり、優れたコンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果を有する。幅Wと厚みTの比W/Tが5未満である場合は、ミキサーなどによる外力が加わってもフィブリル化しにくい。また、幅Wと厚みTの比W/Tが70を超える場合は、小さい外力を受けただけでも割繊されるため、例えば、保管や輸送時、又はセメント材料や水などとスラリー混合前に受ける外力によって、繊維集束体がフィブリル化され、繊維集束体同士が絡まって、ダマになったり、ファイバーボールになったりする場合がある。
上記繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tを5以上であると、セメント材料との混合時にミキサーなどにより外力が掛かった場合フィブリル化しやすい。その理由は、繊維集束体がセメント材料との混合時にミキサー、及び/又は、砂や砂利などから外力を受けたとき、外力が加わった点(力点)から繊維集束体の幅方向端部(支点)までの距離が、厚みTに対して大きくなるため、外力が加わった点に大きな力のモーメントが生じるので、厚み方向に割繊しやすく、フィブリル化しやすいと推察される。
上記繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5以上70以下の要件を満たしつつ、例えば、幅Wが1mm以上10mm以下であることが好ましく、1.5mm以上5mm以下であることがより好ましい。また、厚みTが50μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上300μm以下であることがより好ましい。
本発明において、繊維集束体の厚みTは、繊維集束体の断面を電子顕微鏡で50倍から500倍に拡大して観察し、任意の10点の厚みを測定し、その平均値を算出したものである。また、本発明において、繊維集束体の幅Wは、繊維集束体の長さ方向の両端及び中央部の3点について、繊維集束体の幅方向の長さをノギスで測定し、その平均値を算出したものである。図1Bは、本発明の一実施形態のセメント強化用繊維(繊維集束体)を示す模式的断面図である。例えば、図1Bにおいて、繊維集束体の厚みTは、2で示しており、繊維集束体の幅Wは、3で示している。
上記繊維集束体は、その表面において単繊維同士が融着しており、内部の方が表面より、単繊維同士の融着交点が小さいことが好ましい。本発明において繊維集束体の表面とは、繊維集束体を断面からみて、繊維集束体の表裏側の外周部から1/4の厚みまでの部分をいう。また、繊維集束体の内部とは、繊維集束体を断面からみて、表面を除く部分をいう。繊維集束体における単繊維同士の融着交点は、繊維集束体の断面を観察することで確認することができる。例えば、繊維集束体の断面において、単繊維同士の間の空隙が多い箇所は融着交点が小さく、空隙が少ない箇所は融着交点が大きい。上記繊維集束体において、内部の方が表面より融着交点が小さいと、セメント材料との混合時にミキサーなどによりある程度の外力が加えられた場合により割繊しやすい。
上記繊維集束体は、少なくとも一方の表面において、単繊維同士が熱融着した起伏のないフラットな表面を有することが好ましい。繊維集束体の表面が、単繊維同士が熱融着した起伏のないフラットな表面であると、小さな外力を受けても割繊しにくいため、保管や輸送時、又はセメント材料や水などとスラリー混合前に受ける外力によって、繊維集束体がフィブリル化して、繊維集束体同士が絡まることがない。また、ミキサーなどによる外力により繊維集束体が割繊された場合、繊維集束体が完全に分割されず、割繊体の一部が繊維集束体と繋がった状態、即ち割繊体の一部が互いに繋がった状態の繊維集束体となりやすい
上記繊維集束体は、少なくとも一方の表面において、溝状部を有することが好ましい。上記溝状部は、厚みの小さい箇所が長さ方向に連続して構成されている。溝状部を有すると、厚みの小さい箇所が割れやすく、よりフィブリル化しやすい。また、厚みの小さい割れやすい箇所と、厚みの大きい割れにくい箇所が存在することにより、後述する単繊維が複数本集合した割繊体を形成しやすい。溝状部の厚みDは、特に限定されないが、繊維集束体の厚みTの0.9倍以下であることが好ましく、より好ましくは0.8倍以下である。また、溝状部の厚みDの好ましい下限は、繊維集束体の厚みTの0.5倍である。
上記繊維集束体は、一方の表面は単繊維同士が熱融着した起伏のないフラットな表面を有し、他方の表面は厚みの小さい箇所が長さ方向に連続した溝状部を有していることがさらに好ましい。
上記繊維集束体は、ポリオレフィン繊維の単繊維が長さ方向へ実質的に平行に集束されていることが好ましい。ここで、実質的に平行とは、捲縮や撚りがないことを意味する。単繊維が実質的に平行に集束されていると、繊維集束体の端部に小さな裂け目が生じると、そこから長さ方向に裂けるように割繊するため、フィブリル化しやすい。また、捲縮や撚り癖がないため、単繊維同士が絡まりにくい。
上記繊維集束体は、単繊維が複数本集合した割繊体を複数本形成することが好ましい。例えば、上記繊維集束体は、セメント材料や水とのスラリー混合時に、単繊維が複数本集合した割繊体を複数本形成することが好ましい。上記割繊体の繊度は、10dtex以上1500dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、30dtex以上800dtex以下であり、さらに好ましくは50dtex以上300dtex以下である。また、上記割繊体は、単繊維が10本以上1500本以下集合した集合体であることが好ましい。なお、上記割繊体は、それぞれ繊度が異なる割繊体であってもよい。割繊体の繊度が上記範囲であることにより、割繊体の状態でも、コンクリートの剥落を防止できる引張強度を有することができる。また、セメント材料と混合する際、ミキサーなどにより外力が掛かっても、単繊維に分かれるのではなく、ある程度の太さを有する割繊体の状態でフィブリル化するので、フィブリル化した部分がダマになり、分散性が低下することがなく、高いコンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果を有する。
上記割繊体は、上記繊維集束体(セメント強化用繊維)を各種セメント材料と混合し、ミキサーで撹拌してセメント材料の混和物を得た後、セメント材料の混和物中から繊維集束体を取り出し、水洗し、繊維集束体を目視で観察することで確認することができる。具体的には、普通ポルトランドセメント(密度:3.15g/cm3)250質量部、陸砂(密度:2.60g/cm3、粗粒率:2.2)300質量部、砕砂(密度:2.67g/cm3、粗粒率:3.0)200質量部、砕石(密度:2.71g/cm3、最大寸法:20mm)700質量部、水110質量部、繊維集束体1質量部からなる混和物を、ミキサーを用いて回転速度100rpmで20分間攪拌し、得られたセメント材料の混和物中から繊維集束体を取り出し、水洗したのちに、繊維集束体を目視で観察することで、割繊体を確認することができる。
上記割繊体の繊度は、繊維集束体の断面を、電子顕微鏡を用いて50倍〜1000倍に拡大して観察し、割繊体の断面積を測定し、これと同じ面積の円として、割繊体の繊度を算出してよい。
上記繊維集束体が割繊体を発現すると、繊維集束体の表面積が増加することに起因して、繊維集束体とセメント構成成分との接触面積が増加し、セメント硬化体から繊維集束体が抜けにくくなり、優れたコンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果を得ることができる。
上記割繊体は、上記繊維集束体から完全に分離されずに、その一部が繊維集束体と繋がった状態で存在することが好ましい。上記割繊体は、繊維集束体が完全に分割されず、その一部が繊維集束体に繋がっていると、セメント硬化体から割繊体が抜けにくいため、優れたコンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果を得ることができる。
上記割繊体は、その一部が単繊維に分かれた状態であってもよい。このような構成であると、セメント硬化体から繊維集束体がさらに抜けにくくなる。
上記繊維集束体は、その一部が繊維集束体と繋がった状態である単繊維を発現してもよい。一部が繊維集束体と繋がった状態の単繊維は、セメント硬化体から抜けにくいため、コンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果をより向上させる。
上記繊維集束体は、特に限定されないが、JIS L 1013に準じた引張強度が300MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがより好ましい。コンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止のためのセメント補強繊維として好適に用いることができる。
上記繊維集束体は、必要に応じて、任意の長さに切断して、セメント強化用繊維として用いる。本発明のセメント強化用繊維は、普通ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、アルミナセメントなどの補強に適用することができる。例えば、上記繊維集束体は、10mm以上50mm以下の長さに切断して用いることが好ましい。
本発明のセメント硬化体は、セメント硬化体100体積%に対し、上記繊維集束体からなるセメント強化用繊維を0.01体積%以上5体積%以下含むことが好ましく、0.05体積%以上3体積%以下含むことがより好ましい。セメント強化用繊維の含有量が0.01体積%以上であると、剥落防止効果に優れたコンクリートなどのセメント硬化体が得られる。
上記セメント硬化体において、上記繊維集束体は、単繊維が複数本集合した割繊体を複数本形成した状態で存在することが好ましい。上記セメント硬化体において、上記割繊体の繊度は10dtex以上1500dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、30dtex以上800dtex以下であり、さらに好ましくは50dtex以上300dtex以下である。また、上記割繊体は、単繊維が10本以上1500本以下集合した集合体であることが好ましい。なお、上記割繊体は、それぞれ繊度が異なる割繊体であってもよい。割繊体の繊度が上記範囲であることにより、割繊体の状態でも、コンクリートの剥落を防止できる引張強度を有することができ、高いコンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止効果を有する。上記割繊体は、その一部が単繊維に分かれた状態であってもよい。このような構成であると、セメント硬化体から繊維集束体がさらに抜けにくくなる。
なお、本発明の繊維集束体からなるセメント強化用繊維は、セメント硬化体から引き抜いた状態を観察すると、引き抜く時に受ける力により、繊維集束体及び/又は割繊体が割繊して単繊維を発現した状態として、観察される場合があることに留意すべきである。
本発明で用いるポリオレフィンは、特に限定されず、例えば、炭素数2〜20程度のα−オレフィンの単独重合体、2つ以上の炭素数2〜20程度のα−オレフィンからなる共重合体、炭素数2〜20程度のα−オレフィンと酢酸ビニルの共重合体、炭素数2〜20程度のα−オレフィンと(メタ)アクリル酸の共重合体、炭素数2〜20程度のα−オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体などのいずれであってもよい。上記炭素数2〜20程度のα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどが挙げられる。中でも、ポリオレフィンは、ポリプロピレンであることが好ましい。ポリプロピレンを用いると、安価に単繊維強度の大きいポリオレフィン繊維を得ることができる。上記ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンと他の炭素数2〜20程度のα−オレフィンとの共重合体であってもよい。
上記ポリオレフィン繊維は、低融点成分と高融点成分を含み、低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を占める複合繊維であることが好ましい。単繊維同士を繊維表面の低融点成分のみで融着させ、高融点成分は繊維形状を保つことで、繊維強度を高く維持することができる。
上記ポリオレフィン繊維は、芯成分が高融点成分であり、鞘成分が低融点成分である芯鞘型複合繊維であることが好ましく、芯成分がポリプロピレンであり、鞘成分がポリエチレンである芯鞘型複合繊維であることがより好ましい。上記ポリオレフィン繊維が芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘複合比(容積比)は、9/1〜4/6であることが好ましく、より好ましくは8/2〜5/5であり、さらに好ましくは7/3〜6/4である。
上記ポリオレフィン繊維は、繊維処理剤が付着していてもよい。セメント硬化体との親和性が高くなる。また、上記ポリオレフィン繊維は、フッ素ガス処理、プラズマ放電処理及びコロナ放電処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの親水化処理により親水化されていても良い。親水化されていると、セメント硬化体との親和性が高くなる。
本発明のセメント強化用繊維は、特に限定されないが、例えば、単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であるポリオレフィン繊維を複数本含む繊維集合体の少なくとも一方の表面を、上記ポリオレフィン繊維の表面の少なくとも一部を占める低融点成分の融点以上の温度で熱処理し、上記低融点成分を溶融させて隣り合う単繊維同士を少なくとも部分的に融着させることで、総繊度が1000dtex以上20000dtex以下であり、幅Wと厚みTの比W/Tが5〜70である繊維集束体を得ることで製造することができる。
本発明のセメント強化用繊維の製造において、上記ポリオレフィン繊維を熱処理する前に、ポリオレフィン繊維を延伸することが好ましい。特に、ポリオレフィン繊維が低融点成分と高融点成分を含み、低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を占める複合繊維である場合、ポリオレフィン繊維をポリオレフィン繊維の低融点成分の融点以上かつ高融点成分の融点以下の温度で延伸した後に、ポリオレフィン繊維を熱処理することが好ましい。一般に芯鞘型複合繊維を延伸する場合には、延伸工程で鞘成分が溶融して隣り合う繊維と一体化しないようにするため、延伸温度は低融点成分の融点未満の温度で行われる。このため、芯成分を延伸配向するのに十分な温度で延伸できないため、芯成分が十分に延伸されずに引張強度が低い繊維となっていた。本発明では、鞘成分を後の工程で溶融させるので、延伸工程で鞘成分が溶融して隣り合う繊維と融着して一体化してもよいため、芯成分の融点に近い温度で延伸することができる。低融点成分の融点以上かつ高融点成分の融点以下の温度で延伸すると、芯成分の延伸配向を十分に行うことができるため、引張強度に優れたセメント強化用繊維を得ることができる。例えば、上記ポリオレフィン繊維として、芯成分がポリプロピレンであり、鞘成分がポリエチレンである芯鞘型複合繊維を用いる場合、ポリエチレンの融点以上かつポリプロピレンの融点以下の温度で延伸処理することが好ましく、130℃以上160℃以下で延伸処理することがより好ましい。延伸倍率は、特に限定されないが、2倍以上10倍以下であることが好ましく、3倍以上5倍以下であることがより好ましい。
上記のセメント強化用繊維の製造において、熱処理は、特に限定されないが、例えば、上記繊維集合体(繊維束)の一方の表面がロールに接するように所定の温度のロールに巻き付けることで行うことができる。上記熱処理は、上記ポリオレフィン繊維の低融点成分の融点以上高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましく、低融点成分の融点+10℃以上高融点成分の融点−5℃未満の温度で行うことがより好ましい。例えば、上記ポリオレフィン繊維として、芯成分がポリプロピレンであり、鞘成分がポリエチレンである芯鞘型複合繊維を用いる場合、ポリエチレンの融点以上ポリプロピレンの融点未満の温度で熱処理することが好ましく、130℃以上160℃以下で熱処理することがより好ましい。熱処理の時間は、特に限定されないが、20秒以上120秒以下であることが好ましい。上記熱処理において、ロールは、一般的に繊維や繊維集合体の熱処理に用いるものであればよく、特に限定されない。
上記のように少なくとも片面が熱処理された繊維束は、さらに、二つの所定の温度のロール間を所定の圧力下で通過させ、繊維束の両表面から加熱加圧処理してもよい。加熱加圧処理は、上記ポリオレフィン繊維の低融点成分の融点−20℃以上高融点成分の融点未満の温度で行うことが好ましい。例えば、上記ポリオレフィン繊維として、芯成分がポリプロピレンであり、鞘成分がポリエチレンである芯鞘型複合繊維を用いる場合、ポリエチレンの融点−20℃以上ポリプロピレンの融点未満の温度で加熱加圧処理することが好ましく、100℃以上120℃以下で加熱加圧処理することがより好ましい。また、加熱加圧処理において、線圧は、例えば、100N/cm以上であることが好ましく、300N/cm以上5000N/cm以下であることがより好ましく、500N/cm以上1500N/cm以下であることがさらに好ましい。上記加熱加圧処理において、ロールは、一般的に繊維や繊維集合体の熱処理に用いるものであればよく、特に限定されない。
以下、図面に基づいて本発明を説明する。なお、本発明は、下記の図面に示した実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明のセメント強化用繊維を示す模式的平面図であり、図2は、割繊した後の本発明のセメント強化用繊維を示す模式的平面図である。図1に示しているように、本発明のセメント強化用繊維10は、ポリオレフィン繊維1が複数本集束した繊維集束体からなる。また、図2に示しているように、一定の外力を加えた場合、セメント強化用繊維10は、単繊維が複数本集合した割繊体11を複数本形成する。
図3〜図5は、本発明の一実施形態の繊維集束体からなるセメント強化用繊維の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。図6〜図7は、本発明の他の一実施形態の繊維集束体からなるセメント強化用繊維の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。図3〜図7から分かるように、本発明の繊維集束体において、隣り合うポリオレフィン繊維の単繊維同士は少なくとも部分的に融着している。
図4〜図5に示されているように、該実施形態の繊維集束体は、その内部において、単繊維が鞘成分の形状を維持した状態で融着されており、単繊維同士の融着交点が少なく、単繊維同士の間に空隙が観察される。また、図3〜図4において、繊維集束体の一方の表面(上表面)は、厚みの小さい溝状部が観察され、繊維集束体の他方の表面(下表面)は、単繊維の鞘成分が完全に溶融して、フラットな表面を形成している様子が観察される。
図6〜図7に示されているように、該実施形態の繊維集束体は、その断面の全体にわたり、単繊維の鞘成分が完全に溶融して、元の形状を維持しておらず、鞘成分は、芯成分の隙間を埋めるように存在している様子が観察される。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<ポリオレフィン繊維の作製>
芯成分として融点が167℃のポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名「SA01A」)を用い、鞘成分として融点が133℃の高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、商品名「HE490」)を用いて、芯鞘比(容積比)が芯:鞘=6:4になるようにし、芯成分を紡糸温度300℃にて、鞘成分を紡糸温度270℃にて溶融紡糸し、引取速度1133m/minで引き取り、断面形状が円形の繊度2.2dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。次いで、得られた紡糸フィラメントを、延伸温度155℃、延伸倍率3.8倍にて乾式延伸して、単糸繊度が0.8dtexの延伸フィラメントを得た。なお、得られた延伸フィラメントは、構成繊維の一部が溶融した鞘成分によって融着していた。
<繊維集束体の作製>
上記で得られた延伸フィラメントを総繊度が2500dtexとなるように長さ方向へ実質的に平行に集束して繊維束(幅約3mm、厚み約125μm)とし、この繊維束を、繊維束の一方の表面が熱ロールに接するようにロール温度160℃の熱ロールに巻き付け(熱処理時間40秒)、鞘成分を溶融させて構成繊維同士を融着させた後、長さ30mmにカットした。得られた繊維集束体は、その断面からみて、幅Wが3mmであり、厚みTが125μmであり、W/Tは24であった。また、実施例1の繊維集束体は、熱ロールに接していた表面はフラットになっており、他方の表面は厚みが小さい溝状部を有していた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
(実施例2)
<ポリオレフィン繊維の作製>
実施例1と同様にして、単糸繊度が0.8dtexであり、構成繊維の一部が鞘成分によって融着しているポリオレフィン繊維(延伸フィラメント)を作製した。
<繊維集束体の作製>
上記で得られた延伸フィラメントを総繊度が50000dtexとなるように長さ方向へ実質的に平行に集束して集束して繊維束(幅約19mm、厚み約340μm)とし、この繊維束を、繊維束の一方の表面が熱ロールに接するようにロール温度160℃の熱ロールに巻き付け(熱処理時間40秒)、鞘成分を溶融させて、構成繊維同士を融着させた。次に、得られた片面熱ロール処理後の繊維束をロール温度110℃、線圧800N/cmの2つの熱ロール間を通過させ、繊維束の両表面から加熱加圧処理し、鞘成分を溶融させて構成繊維同士を融着させて、板状の熱融着された繊維束(幅約21mm、厚み約300μm)を得た。次いで、得られた板状の繊維束を断面から見て、幅Wが3mmとなるようにスリットし、その後、長さ30mmにカットして、実施例2の繊維集束体を得た。得られた実施例2の繊維集束体は、総繊度が4800dtexであり、その断面からみて、幅Wが3mmであり、厚みTが290μmであり、W/Tが10.3であった。また、実施例2の繊維集束体は、両方の表面がフラットになっていた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
実施例1及び実施例2の繊維集束体(セメント強化用繊維)の引張強度を下記のようにJIS L 1013に準じて測定した結果を下記表1に示した。
(引張強度)
JIS L 1013に準じ、引張試験機を用いて、試料のつかみ間隔を20mmとして取り付け、引張速度2mm/minで引っ張り、試料が切断したときの荷重(N)を測定し、試料が切断したときの荷重(N)を試料の断面積(mm2)で除して引張強度(MPa)を算出した。
(厚みの測定方法)
繊維集束体の厚みTは、繊維集束体の断面を電子顕微鏡で50倍に拡大して観察し、任意の10点の厚みを測定し、その平均値を算出した。
(幅の測定方法)
繊維集束体の幅Wは、繊維集束体の長さ方向の両端及び中央部の3点について、繊維集束体の断面の幅方向の長さをノギスで測定し、その平均値を算出した。
実施例1〜2の繊維集束体(セメント強化用繊維)の断面を走査型電子顕微鏡で観察し、その結果を図3〜7に示した。
実施例1の繊維集束体の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真である図4(300倍)及び図5(2000倍)から分かるように、実施例1の繊維集束体において、隣接する単繊維同士は、少なくとも部分的に融着していた。具体的には、実施例1の繊維集束体は、その表面において単繊維同士が密に融着しており、その内部において、単繊維が鞘成分の形状を維持した状態で融着されており、表面の方が内部より融着交点が大きかった。また、実施例1の繊維集束体の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真である図3(50倍)及び図4(300倍)から、繊維集束体の上表面では、厚みの小さい溝状部が観察され、繊維集束体の下表面では、単繊維の鞘成分が完全に溶融して、フラットな表面を形成している様子が観察された。
実施例2の繊維集束体の断面を観察した走査型電子顕微鏡写真である図6(300倍)及び図7(2000倍)から分かるように、実施例2の繊維集束体は、隣接する単繊維同士は、少なくとも部分的に融着していた。具体的には、実施例2の繊維集束体は、その断面の全体にわたり、単繊維の鞘成分が完全に溶融して、元の形状を維持しておらず、鞘成分は、芯成分の隙間を埋めるように存在していた。また、実施例1の繊維集束体の断面を示す図4〜図5と、実施例2の繊維集束体の断面を示す図6〜図7の対比から分かるように、実施例2の繊維集束体において、単繊維同士がより密に融着しており、融着交点が大きかった。また、図示はないが、実施例2の繊維集束体の上表面及び下表面は、フラットな表面を形成していた。
(実施例3〜4)
実施例1の繊維集束体からなるセメント強化繊維及び下記表2に示す材料を下記表3に示す配合量で混合して、後述する剥落防止効果確認試験に用いるサイズのセメント硬化体を作製した。
(比較例1)
実施例1の繊維集束体からなるセメント強化用繊維を含まない以外は、実施例3〜4と同様にして比較例1のセメント硬化体を作製した。
実施例3〜4及び比較例1のセメント硬化体について、下記のように剥落防止効果確認試験を行った。その結果を下記表4に示した。
<剥落防止効果確認試験>
剥落防止効果確認試験は、JIS A 1123に準じて行った。具体的には、図8に示したように、長さ111が600mm、幅112が150mm、高さ113が150mmの梁状のセメント硬化体100に、下面101からの高さ114が20mmの位置(かぶり位置)に直径20mmの膨張材充填穴102を幅方向に中心間隔115が60mmになるように5箇所設けた供試体110を用いて剥落模擬試験を行った。すなわち、鉄筋の腐食膨張圧によるコンクリートの剥落を模擬するため、供試体110に対し、所定の材齢(材齢7日)が経過してから各膨張材充填穴102に、膨張材(デンカ株式会社製、商品名「CSA20」)をペースト状にして充填した。その際、膨張材は水を加えてよく練り混ぜてペースト状[ペーストの水粉体容積比(W/P)は30重量%]にした。膨張材充填後14日において、該膨張材によって供試体110にひび割れが発生した状態で、重さ1.4kg程度のハンマーで打撃を加えて剥落を生じさせた。打撃は、ハンマーの自重によるもののみとした。打撃箇所は膨張材間の下側の4箇所とし、左から順番にこの部分を叩き、剥落するまでこれを繰り返した。測定項目は、打撃試験にてコンクリートが剥落したときの打撃回数を測定した。打撃回数が多いほど、剥落防止の効果が大きいことを意味する。
上記表4から、実施例1の繊維集束体からなるセメント強化用繊維を含むコンクリートは、剥落防止効果に優れていることが確認できた。具体的には、実施例1の繊維集束体からなるセメント強化用繊維を含まない比較例1のコンクリートは、コンクリートの剥落までの打撃回数が46回であるのに対し、実施例1の繊維集束体からなるセメント強化用繊維を含む実施例3のコンクリートは、10倍以上の474回であり、実施例4のコンクリートは480回打撃しても剥落しなった。また、実施例3及び実施例4の対比から、コンクリートにおける繊維集束体の含有量が多いほど、より剥落防止効果に優れていることが確認できた。
実施例3のコンクリートにおいて、剥落した部分をデジタルカメラ(キヤノン社製、品名「IXY 410F」)で観察した写真(1倍)を図9に示した。また、実施例3のコンクリートにおいて、剥落した部分を光学顕微鏡(スリー・アールシステム社製、品名「Anyty」)で観察した写真(60倍)を図10に示した。
図9から分かるように、実施例3のコンクリートの剥落した部分の表面において、繊維集束体(○で囲んでいる部分)は割繊して複数本の割繊体を形成していた。該繊維集束体を拡大観察した図10から分かるように、繊維集束体が割繊して形成した複数本の割繊体は、さらにフィブリル化していた。本発明の繊維集束体からなるセメント強化用繊維は、コンクリートにおいて、厚さ方向に裂けて割繊体を形成し、さらにフィブリル化し、割繊部分がコンクリートなどのセメント硬化体内で引っ掛かりとなり、繊維集束体がコンクリートから抜けにくくなり、コンクリートなどのセメント硬化体の剥落を防止していることが確認できた。
(実施例5)
<ポリオレフィン繊維の作製>
実施例1と同様にして、単糸繊度が0.8dtexであり、構成繊維の一部が鞘成分によって融着しているポリオレフィン繊維(延伸フィラメント)を作製した。
<繊維集束体の作製>
上記で得られた延伸フィラメントを用いて、延伸フィラメントを総繊度が56000dtexとなるように長さ方向へ実質的に平行に集束して繊維束(幅約40mm、厚み約210μm)とし、この繊維束を、繊維束の表面が交互に熱ロールに接するようにロール温度155℃の熱ロールに巻き付け(熱処理時間20秒)、鞘成分を溶融させて構成繊維同士を融着させた。次いで、得られた繊維束を断面から見て、幅が2mmとなるようにスリットし、その後、長さ30mmにカットして、実施例5の繊維集束体を得た。得られた実施例5の繊維集束体は、総繊度が2800dtexであり、その断面からみて、幅が2mmであり、厚みが210μmであり、W/Tは9.5であった。また、実施例5の繊維集束体は、両方の表面がフラットになっていた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
(実施例6)
<ポリオレフィン繊維の作製>
実施例1と同様にして、単糸繊度が0.8dtexであり、構成繊維の一部が鞘成分によって融着しているポリオレフィン繊維(延伸フィラメント)を作製した。
<繊維集束体の作製>
上記で得られた延伸フィラメントを用いて、延伸フィラメントを総繊度が34000dtexとなるように長さ方向へ実質的に平行に集束して繊維束(幅約40mm、厚み約125μm)とし、この繊維束を、繊維束の一方の表面が熱ロールに接するようにロール温度155℃の熱ロールに巻き付け(熱処理時間20秒)、鞘成分を溶融させて構成繊維同士を融着させた。次いで、得られた繊維束を断面から見て、幅が5mmとなるようにスリットし、その後、長さ30mmにカットして、実施例6の繊維集束体を得た。得られた実施例6の繊維集束体は、総繊度が4300dtexであり、その断面からみて、幅が5mmであり、厚みが125μmであり、W/Tは40であった。また、実施例6の繊維集束体は、熱ロールに接していた表面はフラットになっており、他方の表面は厚みが小さい溝状部を有していた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
(比較例2)
<ポリオレフィン繊維の作製>
実施例1と同様にして、単糸繊度が0.8dtexであり、構成繊維の一部が鞘成分によって融着しているポリオレフィン繊維(延伸フィラメント)を作製した。
<繊維集束体の作製>
実施例5と同様にして、構成繊維同士を融着させた繊維束を得て、幅が1mmとなるようにスリットし、その後、長さ30mmにカットして、比較例2の繊維集束体を得た。得られた比較例2の繊維集束体は、総繊度が1400dtexであり、その断面からみて、幅が1mmであり、厚みが210μmであり、W/Tは4.8であった。また、比較例2の繊維集束体は、両方の表面がフラットになっていた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
(比較例3)
<ポリオレフィン繊維の作製>
実施例1と同様にして、単糸繊度が0.8dtexであり、構成繊維の一部が鞘成分によって融着しているポリオレフィン繊維(延伸フィラメント)を作製した。
<繊維集束体の作製>
実施例6と同様にして、構成繊維同士を融着させた繊維束を得て、幅が10mmとなるようにスリットし、その後、長さ30mmにカットして、比較例3の繊維集束体を得た。得られた比較例3の繊維集束体は、総繊度が8500dtexであり、その断面からみて、幅が10mmであり、厚みが125μmであり、W/Tは4.8であった。また、比較例3の繊維集束体は、熱ロールに接していた表面はフラットになっており、他方の表面は厚みが小さい溝状部を有していた。なお、繊維集束体の幅Wと、厚みTは、後述したとおりに測定した。
実施例1、実施例5、実施例6、比較例2及び比較例3の繊維集束体について割繊性を評価した。評価結果を下記表5に示した。なお、下記表5には、実施例1、実施例5、実施例6、比較例2及び比較例3の繊維集束体の総繊度、幅W、厚みT、及び、幅Wと厚みTの比W/Tも併せて示した。
(割繊性)
普通ポルトランドセメント(密度:3.15g/cm3)250質量部、陸砂(密度:2.60g/cm3、粗粒率:2.2)300質量部、砕砂(密度:2.67g/cm3、粗粒率:3.0)200質量部、砕石(密度:2.71g/cm3、最大寸法:20mm)700質量部、水110質量部、繊維集束体1質量部からなる混和物を、ミキサーを用いて回転速度100rpmで20分間攪拌し、得られたセメント材料の混和物中から繊維集束体を取り出し、水洗したのちに、繊維集束体を目視で観察し、下記の3段階の基準で割繊性を評価した。
A:繊維集束体と部分的に繋がった状態の割繊体が観察された
B:繊維集束体から完全に独立した割繊体が観察された
C:ほとんど割繊していなかった
実施例1、実施例5、及び実施例6のセメント強化繊維(繊維集束体)においては、繊維集束体と部分的に繋がった状態の割繊体が観察された。これは、実施例1、実施例5、及び実施例6のセメント強化繊維のW/Tが5〜70であることにより、セメント材料の混和物中で繊維集束体と部分的に繋がった状態の割繊体を形成しやすいことを示している。そのため、実施例のセメント強化繊維は、コンクリートなどのセメント硬化体に混入すると、引張強度が大きく、かつコンクリートなどのセメント硬化体から抜けにくく、高い剥落防止効果を有する。比較例2のセメント強化繊維は、ほとんど割繊していなかった。この結果は、W/Tが5未満のセメント強化繊維が、セメント材料の混和物中で割繊しにくいことを示している。そのため、比較例2のセメント強化繊維は、セメント硬化体に混入すると、コンクリートなどのセメント硬化体から抜けやすく、剥落防止効果が低くなると推測される。比較例3のセメント強化繊維は、繊維集束体から完全に独立した割繊体が観察された。また、比較例3のセメント強化繊維は、セメント材料と混合する前の状態において、セメント強化繊維の長さ方向に山部を形成するように折りたたまれたり、セメント強化繊維の一部が割繊したりしていた。この結果は、W/Tが70を超えるセメント強化繊維は、セメント材料の混和物中で割繊しすぎることを示している。そのため、比較例3のセメント強化繊維は、セメント硬化体に混入すると、引張強度が小さくなるとともに、コンクリートなどのセメント硬化体から抜けやすく、剥落防止効果が低くなると推測される。
本発明の繊維集束体からなるセメント強化用繊維は、トンネル覆工コンクリートや橋梁床版コンクリートなどのセメント硬化体に含ませることにより、コンクリートなどのセメント硬化体の剥落防止を図ることができる。
1 ポリオレフィン繊維
2 セメント強化用繊維(繊維集束体)の厚みT
3 セメント強化用繊維(繊維集束体)の幅W
10 セメント強化用繊維(繊維集束体)
11 割繊体
100 セメント硬化体
110 剥落防止効果確認試験用供試体
101 セメント硬化体の下面
102 膨張材充填穴

Claims (9)

  1. ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維であって、
    前記ポリオレフィン繊維は、単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であり、
    前記繊維集束体において、隣り合う単繊維同士は少なくとも部分的に融着しており、前記繊維集束体の総繊度は1000dtex以上20000dtex以下であり、
    前記繊維集束体は、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5以上70以下であることを特徴とするセメント強化用繊維。
  2. 前記繊維集束体は、その表面で単繊維同士が融着しており、内部の方が表面より、単繊維同士の融着交点が小さい請求項1に記載のセメント強化用繊維。
  3. 前記繊維集束体は、少なくとも一方の表面において、単繊維同士が熱融着した起伏のないフラットな表面を有する請求項1又は2に記載のセメント強化用繊維。
  4. 前記繊維集束体は、単繊維が複数本集合した複数本の割繊体に分けられ、前記割繊体の繊度は10dtex以上1500dtex以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント強化用繊維。
  5. 前記割繊体は、その一部が繊維集束体と繋がった状態で存在する請求項4に記載のセメント強化繊維。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のセメント強化用繊維を含み、前記セメント強化用繊維は、単繊維が複数本集合した複数本の割繊体に割繊されていることを特徴とするセメント硬化体。
  7. 前記割繊体の繊度は10dtex以上1500dtex以下である請求項6に記載のセメント硬化体。
  8. ポリオレフィン繊維が複数本集束した繊維集束体からなるセメント強化用繊維の製造方法であって、
    単糸繊度が0.1dtex以上5dtex以下であるポリオレフィン繊維を複数本含む繊維集合体の少なくとも一方の表面を、前記ポリオレフィン繊維の表面の少なくとも一部を占める低融点成分の融点以上の温度で熱処理し、前記低融点成分を溶融させて隣り合う単繊維同士を少なくとも部分的に融着させることで、総繊度が1000dtex以上20000dtex以下であり、断面において、幅Wと厚みTの比W/Tが5〜70である繊維集束体を得ることを特徴とするセメント強化用繊維の製造方法。
  9. 前記ポリオレフィン繊維は、低融点成分と高融点成分を含み、低融点成分が繊維表面の少なくとも一部を占める複合繊維であり、前記ポリオレフィン繊維を低融点成分の融点以上かつ高融点成分の融点以下の温度で延伸した後に、熱処理する請求項8に記載のセメント強化用繊維の製造方法。
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